(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049341
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】細穴放電加工・レーザ加工複合加工機
(51)【国際特許分類】
B23H 5/00 20060101AFI20230403BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20230403BHJP
B23K 26/351 20140101ALI20230403BHJP
【FI】
B23H5/00 Z
B23K26/03
B23K26/351
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159020
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000128429
【氏名又は名称】株式会社エレニックス
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】横道 茂治
(72)【発明者】
【氏名】石綿 朋茂
【テーマコード(参考)】
3C059
4E168
【Fターム(参考)】
3C059AA01
3C059GC03
3C059HA13
3C059HA14
4E168AD03
4E168CA13
4E168CA15
4E168CB04
4E168CB07
4E168CB15
4E168CB18
4E168EA15
(57)【要約】
【課題】細穴放電加工及びレーザ加工を効率よく行うことのできる細穴放電加工・レーザ加工複合加工機を提供する。
【解決手段】 細穴放電加工・レーザ加工複合加工機1は、ワークWを取り付ける加工テーブル26と、加工テーブル26に取り付けられたワークWに向けて棒状の電極10aを当該電極10aの軸方向Zに移動可能に有する放電加工ユニット8と、加工テーブル26に取り付けられたワークWに向けてレーザ光を射出するレーザ加工ヘッド9Hを有するレーザ加工ユニット9と、を備えている。放電加工ユニット8は、加工テーブル26に対して上記軸方向Zに垂直な面方向X,Yに相対移動可能である。レーザ加工ユニット9も、加工テーブル26に対して面方向X,Yに相対移動可能である。レーザ加工ユニット9は、ワークWとの距離を測定する測距センサ25を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに細穴放電加工及びレーザ加工を行う細穴放電加工・レーザ加工複合加工機であって、
前記ワークを取り付ける加工テーブルと、
前記加工テーブルに取り付けられた前記ワークに向けて棒状の電極を当該電極の軸方向に移動可能に有し、かつ、前記加工テーブルに対して前記軸方向に垂直な面方向に相対移動可能な放電加工ユニットと、
前記加工テーブルに取り付けられた前記ワークに向けてレーザ光を射出するレーザ加工ヘッドを有し、かつ、前記加工テーブルに対して前記面方向に相対移動可能なレーザ加工ユニットと、を備えており、
前記レーザ加工ユニットが、前記ワークとの距離を測定する測距センサを備えている、細穴放電加工・レーザ加工複合加工機。
【請求項2】
前記放電加工ユニット及び前記レーザ加工ユニットが、前記加工テーブルに対して前記面方向に移動可能なメインキャリッジに、前記軸方向に移動可能に設けられている、請求項1に記載の細穴放電加工・レーザ加工複合加工機。
【請求項3】
前記加工テーブルが、前記放電加工ユニット及び前記レーザ加工ユニットに対して前記面方向に移動可能に設けられている、請求項1に記載の細穴放電加工・レーザ加工複合加工機。
【請求項4】
前記加工テーブルが、水平な第一回転軸に対して回転可能で、さらに、取り付けられた前記ワークを前記第一回転軸に対して垂直な第二回転軸回りに回転可能に構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の細穴放電加工・レーザ加工複合加工機。
【請求項5】
放電加工中に前記軸方向に移動される前記電極にたわみが生じているか否かを検出するたわみ検出器をさらに備えている、請求項1~4の何れか一項に記載の細穴放電加工・レーザ加工複合加工機。
【請求項6】
放電加工中に前記たわみ検出器によって前記電極にたわみが生じていることが検出された際に、当該放電加工を中止する制御部をさらに備えている、請求項5に記載の細穴放電加工・レーザ加工複合加工機。
【請求項7】
前記電極と前記ワークとの間にかけられる放電加工用電圧を監視する電圧検出器と、前記電圧検出器によって測定された前記放電加工用電圧に基づいて放電加工不良を検出する制御部と、をさらに備えており、
前記制御部が前記放電加工不良を検出した際に当該放電加工を中止する、請求項1~6の何れか一項に記載の細穴放電加工・レーザ加工複合加工機。
【請求項8】
放電加工時に前記電極と前記ワークとの間を通って流れる放電電流を監視する電流検出器と、前記電流検出器によって測定された前記放電電流に基づいて放電加工不良を検出する制御部と、をさらに備えており、
前記制御部が前記放電加工不良を検出した際に当該放電加工を中止する、請求項1~7の何れか一項に記載の細穴放電加工・レーザ加工複合加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細穴放電加工・レーザ加工複合加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
ワーク(加工対象物)の一部に、レーザ加工を行った後に細穴放電加工を行いたいという要望がある。例えば、表面にセラミック層が形成された金属製ワークの金属部分に細穴放電加工を行いたい場合、セラミック層は絶縁層であるので放電加工を行えない。このような場合、レーザ加工でセラミック層を除去して金属部分を露出させた後に細穴放電加工を行いたい。
【0003】
ここで、レーザ加工機でワークをレーザ加工した後にレーザ加工機からワークを取り外し、その後、ワークを細穴放電加工機に取り付けて細穴放電加工を行うことが考えられる。ワークに多数の細穴を加工する必要がある場合は、一つの穴ごとにレーザ加工機と細穴放電加工機とを交互に用いて加工するのは現実的でない。従って、レーザ加工機でワークのすべての穴についてのレーザ加工を終わらせた後に、ワークを細穴放電加工機に取り付けて放電加工を行うのが現実的である。
【0004】
しかし、加工機へのワークのセッティングを二回行わなければならなくなる。また、レーザ加工中の加工熱によってワークにわずかな変形が生じる可能性もあり、細穴放電加工へのワークのセッティングが難しくなると共に、放電加工自体も難しくなることも考えられる。ここで、下記特許文献1~3に示されるように、レーザ加工機能と放電加工機能との両方を備えた複合加工機も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-197947号公報
【特許文献2】特開平2-251323号公報
【特許文献3】特開2018-83224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された複合加工機は、レーザ加工中に放電加工を併用することで金属加工の精度及び効率を向上させること目的とするものである。従って、複合加工機ではあるが上述したようにレーザ加工後に細穴放電加工を行う加工に用いることは意図されていない。
【0007】
特許文献2に開示された複合加工機は、レーザ加工で荒加工を行った後に、放電加工で仕上げ加工を行うものであり、特に細穴放電加工ではなく型彫放電加工(又は放電ワイヤカット)を意図している。従って、上述したようにレーザ加工後に細穴放電加工を行う加工に用いることは意図されていない。
【0008】
特許文献3に開示された複合加工機は、レーザ加工機能としてウォータジェットレーザ加工を用いるものである。この複合加工機のウォータジェットレーザ加工では、細穴放電加工のための中空電極から噴出させた水柱の内部でレーザ光が導光される。このため、ウォータージェットを形成するための機構が必要であり、細穴放電加工の電極にもウォータージェット形成を考慮した構造が必要になる。また、細穴放電加工の電極の内部にウォータージェットを形成させるので、電極の外径を小さくするには限界がある。レーザ加工後に外径の小さな電極に交換することも可能ではあると思われるが、交換工程が必要になるし、加工位置の位置決めも難しくなるので加工工程は複雑になってしまう。
【0009】
本発明の目的は、ウォータジェットレーザのような特殊な構造を用いることなく、レーザ加工と細穴放電加工とを効率よく行うことのできる細穴放電加工・レーザ加工複合加工機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る細穴放電加工・レーザ加工複合加工機は、ワークに細穴放電加工及びレーザ加工を行う。複合加工機は、ワークを取り付ける加工テーブルと、加工テーブルに取り付けられたワークに向けて棒状の電極を当該電極の軸方向に移動可能に有し、かつ、加工テーブルに対して上記軸方向に垂直な面方向に相対移動可能な放電加工ユニットと、加工テーブルに取り付けられたワークに向けてレーザ光を射出するレーザ加工ヘッドを有し、かつ、加工テーブルに対して上記面方向に相対移動可能なレーザ加工ユニットと、を備えている。レーザ加工ユニットが、ワークとの距離を測定する測距センサを備えている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第一実施形態に係る細穴放電加工・レーザ加工複合加工機の正面図である。
【
図3】前記複合加工機の放電加工ヘッドの拡大正面図である。
【
図4】前記放電加工ヘッドのたわみ検出アームの平面図である。
【
図6】ワークの一例としてのタービンブレードの斜視図である。
【
図8】前記複合加工機のレーザ加工ユニットの焦点キャリブレーションを説明する平面図である。
【
図9】前記レーザ加工ユニットの水平オフセットキャリブレーションを説明する平面図である。
【
図10】前記複合加工機の細穴放電加工ユニットの水平オフセットキャリブレーションを説明する平面図である。
【
図11】第二実施形態に係る細穴放電加工・レーザ加工複合加工機の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照しつつ、実施形態に係る細穴放電加工・レーザ加工複合加工機1(以下、単に複合加工機1と呼ぶ)について説明する。
【0013】
まず、
図1~
図10を参照しつつ、第一実施形態に係る複合加工機1について説明する。
図1及び
図2に示されるように、複合加工機1は、メインユニット2、制御ユニット3(
図1のみに図示)及び加工液循環ユニット4(
図2のみに図示)を備えている。加工液循環ユニット4は、メインユニット2の背後に配置されており、
図1には示されていない。また、
図2には、制御ユニット3は示されていない。なお、
図1及び
図2では、各ユニットを繋ぐ配線や配管の図示は省略されている。
【0014】
メインユニット2は、メインキャリッジ5、Y軸キャリッジ6a及びX軸キャリッジ7aを備えている。メインキャリッジ5はY軸キャリッジ6aに固定されている。Y軸キャリッジ6a(及びメインキャリッジ5)は、Y軸レール6bに沿ってY軸方向(
図2中の左右方向)に移動可能である。Y軸レール6bに対するY軸キャリッジ6aのY軸方向の移動は電動サーボモータ等のY軸モータ6c(
図5参照)によって行われ、Y軸モータ6cは後述するNC制御ユニット28によって制御される。NCとはNumerical Control(数値制御)の略である。Y軸レール6bはX軸キャリッジ7a上に固定されている。
【0015】
X軸キャリッジ7aは、X軸レール7bに沿ってY軸方向に直角なX軸方向(
図1中の左右方向)に移動可能である。X軸レール7bに対するX軸キャリッジ7aのX軸方向の移動は電動サーボモータ等のX軸モータ7c(
図5参照)によって行われ、X軸モータ7cも後述するNC制御ユニット28によって制御される。X軸レール7bはメインユニット2の筐体フレームに固定されている。即ち、メインキャリッジ5は、X軸方向及びY軸方向に移動可能である。X軸方向及びY軸方向は、本実施形態では水平方向である。本実施形態では、この水平方向は、後述する放電加工ユニット8の電極10aの軸方向に垂直な面方向である。
【0016】
メインキャリッジ5の前面には、メインキャリッジ5に対してそれぞれ垂直移動可能な放電加工ユニット8及びレーザ加工ユニット9が取り付けられている。放電加工ユニット8は、W1軸(
図1中の参照符号W1参照)に沿って垂直移動可能である。放電加工ユニット8のW1軸方向の移動は電動サーボモータ等のW1軸モータ8c(
図5参照)によって行われ、W1軸モータ8cも後述するNC制御ユニット28によって制御される。
【0017】
一方、レーザ加工ユニット9は、W2軸(
図1中の参照符号W2参照)に沿って垂直移動可能である。レーザ加工ユニット9のW2軸方向の移動は電動サーボモータ等のW2軸モータ9c(
図5参照)によって行われ、W2軸モータ9cも後述するNC制御ユニット28によって制御される。なお、
図1及び
図2では、レーザ加工ユニット9は、その最上位位置に位置している。一方、放電加工ユニット8は、その最上位位置から少し下げられた位置に位置している。従って、
図2では、放電加工ユニット8は、その下部に位置する電極ホルダ10b及び電極ガイド11(これらについては次に説明する)のみがレーザ加工ユニット9の奥側に示されている。
【0018】
放電加工ユニット8について、
図1及び
図2に加えて
図3及び
図4も参照しつつ、更に詳しく説明する。放電加工ユニット8の下部には、中空又は中実の棒状の電極10aを取り付ける電極ホルダ10bが設けられている。電極ホルダ10bは、放電加工ユニット8に対してさらにZ軸(
図1中の参照符号Z参照)に沿って垂直方向に移動可能である(前方から見るとZ軸とW1軸とは重なって見えている)。Z軸は、電極ホルダ10bに取り付けられる棒状の電極10aの軸方向であり、本実施形態では垂直方向である。また、Z軸は、上述したW1軸及びW2軸と平行である。即ち、上述したXYZ軸は直交座標系を構成し、かつ、W1軸及びW2軸はZ軸に平行である。
【0019】
電極10aの先端とワークWとの間で放電を起こしてワークWに穴を形成するが、穴の深さが増すにつれて電極10aを下方にストロークさせる必要がある。また、電極10aの先端は放電に伴って消耗し、電極10aの長さは次第に短くなる。この消耗分も含めて電極ホルダ10b(即ち、電極10a)をストロークさせる必要がある。このため、放電加工中には、電極10aは放電加工ユニット8に対してZ軸に沿って移動される。放電加工ユニット8に対する電極10a(電極ホルダ10b)のZ軸方向の移動は電動サーボモータ等のZ軸モータ10c(
図5参照)によって行われ、Z軸モータ10cも後述するNC制御ユニット28によって制御される。
【0020】
電極ホルダ10bのさらに下方には、電極ガイド11が設けられている。電極ガイド11は基本的には放電加工ユニット8に固定されており、放電加工ユニット8のW1軸方向の移動に伴って垂直方向に移動する。ただし、放電加工ユニット8に対する電極ホルダ10bの鉛直位置は調節可能である。電極10aは細く長いため、その先端は水平方向に振れやすい。このため、電極10aの先端部近傍が電極ガイド11の貫通孔に挿通され、電極10aの先端部が電極ガイド11によってガイドされる。
【0021】
放電加工ユニット8には、電極10aのたわみを検出するたわみ検出機構を有している。上述したように放電加工中に電極10aは下方に移動されるが、細穴の形成が正常に行われない場合は、電極10aの先端はワークWに突き当たってたわむことになる。たわみ検出機構はこのような電極10aのたわみを検出する。
図3及び
図4に示されるように、たわみ検出機構は、その検出部として検出プレート12aを有している。検出プレート12aは、導電性部材、具体的には金属で形成されており、電極ホルダ10bと電極ガイド11との間に配されている。検出プレート12aには電極10aが挿通される挿通孔12bが形成されており、検出プレート12aの先端には挿通孔12bの内部に電極10aを入れるためのスリットも形成されている。
【0022】
検出プレート12aは、絶縁プレート12cを介して鉛直ブラケット12dに固定されている。鉛直ブラケット12dは放電加工ユニット8に固定されている。ただし、放電加工ユニット8に対する検出プレート12a及び絶縁プレート12cの鉛直位置は調節可能である。たわみ検出機構は、たわみ検出器12eも備えている。たわみ検出器12eは、電極10aがたわんで検出プレート12aと接触すると、この接触を検出する。放電加工中には、電極ホルダ10b(即ち、電極10a)と検出プレート12aとの間には検出用電圧がかけられており、電極10aがたわんで検出プレート12aと接触すると閉回路が形成されて電圧が低下する。たわみ検出器12eはこの電圧を検出して電極10aのたわみを検出する。たわみ検出器12eは後述するNC制御ユニット28に接続されている。
【0023】
放電加工ユニット8は、放電加工が正常に行われているか否かを監視するために、
図3に示されるように、電圧検出器13又は電流検出器14も備えている。なお、放電加工ユニット8は、電圧検出器13及び電流検出器14の両方を備えていてもよい。電圧検出器13は、放電加工用電源29によって電極10aとワークWとの間にかけられる電圧を検出しており、この電圧の変化に基づいて、放電加工が正常に行われているか否かを監視する。電流検出器14は、放電加工用電源29によって供給される放電加工用電力の電流を検出しており、この電流の変化に基づいて、放電加工が正常に行われているか否かを監視する。なお、
図3中の符号15は放電加工用電力をパルス出力させるための半導体スイッチを示し、符号16は放電開始まで電力を蓄えておく放電用コンデンサを示している。
【0024】
次に、レーザ加工ユニット9について、
図1及び
図2に加えて
図5も参照しつつ、更に詳しく説明する。レーザ加工ユニット9は、その下部にレーザ加工ヘッド9H(
図5参照)を備えている。なお、
図5では、レーザ加工ヘッド9Hの構成を取り出して図中下部に示してある。レーザ加工ヘッド9Hは、レーザ加工ユニット9に固定されている。レーザ加工ヘッド9Hは、レーザ射出部17、二つのガルバノミラー18、ガルバノミラー18を駆動する二つのミラーモータ19、及び、集光レンズ20などを有している。なお、レーザ加工ヘッド9Hの構成は、通常のレーザ加工ヘッドと同様である。
【0025】
なお、
図5に示されるように、複合加工機1は、レーザ加工ヘッド9Hに付随して、レーザコントローラ21、レーザ発振器22、ガルバノミラーコントローラ23、モータドライバ24を備えている。これらは、レーザ加工ユニット9又はメインユニット2の内部に設けられている。上述したレーザ射出部17は、レーザ発振器22と光ファイバで接続されている。レーザ射出部17は、レーザコントローラ21及びガルバノミラーコントローラ23を介して後述するNC制御ユニット28に接続されている。また、ミラーモータ19は、モータドライバ24を介してガルバノミラーコントローラ23に接続され、ガルバノミラーコントローラ23はNC制御ユニット28に接続されている。レーザ光の射出はこれらのコントローラによって制御される。
【0026】
レーザ加工ユニット9は、ワークWとの距離を測定する測距センサ25もさらに備えている。本実施形態の測距センサ25は、具体的にはレーザ変位センサであり、測定時には測定位置を分かりやすくするためのターゲットレーザ光も射出する。測距センサ25は、レーザ加工ユニット9に固定されている。上述したようにレーザ加工ヘッド9Hもレーザ加工ユニット9に固定されているおり、レーザ加工ユニット9における測距センサ25とレーザ加工ヘッド9Hとの位置関係は変わらない。従って、測距センサ25によってレーザ加工ヘッド9HとワークWとの距離を測定できる。なお、測距センサ25による測定は、レーザ加工ユニット9をX軸方向及びY軸方向に移動して測定位置(例えば、ワークW上の特定箇所)の真上に測距センサ25を位置させて行う。
【0027】
メインユニット2は、上述した放電加工ユニット8及びレーザ加工ユニット9の下方に、ワークWを取り付ける加工テーブル26も備えている。放電加工中はワークWを加工液(本実施形態では純水を使用)中に沈め、かつ、電極10aが中空の場合はその先端からも内部を通して加工液を供給する。このため、加工テーブル26は加工槽27の内部に位置されている。加工テーブル26は、ワークWの取付面に垂直なA軸(第二回転軸:
図1及び
図2中の参照符号A参照)を中心に回転可能である。A軸方向は、上述したZ軸方向(並びにW1軸方向及びW2軸方向)に平行である。加工テーブル26のA軸周りの回転は電動サーボモータ等のA軸モータ26a(
図5参照)によって行われ、A軸モータ26aも後述するNC制御ユニット28によって制御される。
【0028】
加工テーブル26は、A軸に直角なB軸(第一回転軸:
図2中の参照符号B参照)を中心に回転可能でもある。A軸方向は、上述したZ軸方向(並びにW1軸方向及びW2軸方向)に平行である。加工テーブル26のB軸周りの回転は電動サーボモータ等のB軸モータ26b(
図5参照)によって行われ、B軸モータ26bも後述するNC制御ユニット28によって制御される。
図3及び
図5に示されるように、本実施形態では、加工テーブル26は放電加工用電源29に陽極として接続され、放電加工ユニット8側(電極ホルダ10bや電極10a)が放電加工用電源29に陰極として接続されている。
【0029】
図1に示される制御ユニット3の内部には、放電加工ユニット8及びレーザ加工ユニット9等をNC制御して加工を行うNC制御ユニット28(
図5参照)と、放電加工用電源29(
図5参照)とが内蔵されている。
図5に示されるように、NC制御ユニット28(制御部)は、NC制御のための上述したモータ等を制御する。なお、放電加工ユニット8及びレーザ加工ユニット9等のNC制御のためのモータは、モータドライバ30を介してNC制御ユニット28に接続されている。なお、本実施形態では、上述したたわみ検出器12e、電圧検出器13及び電流検出器14も制御ユニット3と接続されており、それらの検出値に基づいて、NC制御ユニット28等によって複合加工機1の動作が制御される。
【0030】
制御ユニット3(制御部)は、その上部に操作パネル31を有している。操作パネル31を通して、加工の各種設定を行うことができる。また、操作パネル31を通して、加工を手動制御することも可能である。操作パネル31には、有線コントローラ32も保持されており、作業者は、有線コントローラ32を操作パネル31から取り外して作業状況を目視しながら設定や制御を行うこともできる。
【0031】
図2に示される加工液循環ユニット4は、加工液タンク40(
図5参照)、加工液ポンプ41及び加工液フィルタ42を備えている。加工液ポンプ41は、NC制御ユニット28と接続されており(
図5参照)、その動作はNC制御ユニット28によって制御される。加工液フィルタ42は、加工槽27から回収した加工液を再度メインユニット2に供給する前に、加工液から加工屑を除去する。NC制御ユニット28は、加工液ポンプ41や図示されないバルブ類を制御して、放電加工中に中空の電極10aの内部を通した加工液の供給と加工槽27内の加工液の液面レベルを制御する。なお、ワークWの加工位置は、レーザ加工時には加工液から露出され、放電加工時には加工液中に浸される。従って、レーザ加工と放電加工時とを切り替えて行う場合は、加工槽27内の加工液の液面レベルがNC制御ユニット28によって制御される。
【0032】
次に、上述した複合加工機1によるワークWの加工について説明するが、まず、本実施形態で加工するワークWについて、
図6及び
図7を参照しつつ説明する。本実施形態で加工するワークWは、鋳造製の火力発電用タービン動翼である。このようなタービンブレードには高い耐熱性が要求されるので、タービンブレードは耐熱合金で鋳造される。この鋳造方法も通常の方法から柱状結晶法や単結晶法などの特殊な鋳造法へと進化している。また、タービンブレードの内部からタービンブレード表面に形成された多数のフィルム冷却孔100(又はスリット)を通して流体(空気)を噴出させてタービンブレードの表面に流体による断熱層を形成する、いわゆるフィルム冷却が行われる。さらに、タービンブレードの表面には、耐熱性を高めるためにTBC(Thermal Barrier Coating)と呼ばれる低熱伝導セラミック製の耐熱コーティングも施される。
【0033】
フィルム冷却孔100をタービンブレードの鋳造時に形成するのは困難である。また、タービンブレードの鋳造後にフィルム冷却孔100をドリル加工や放電加工で形成してからTBCを形成しようとすると、形成したフィルム冷却孔100がTBCによって塞がれたり、孔形状が変化して流体の断熱層の形成に支障が生じたりする。従って、[背景技術]で説明したように、レーザ加工でTBCを除去して耐熱金属部分を露出させてから、細穴放電加工でフィルム冷却孔100を形成することになる。本実施形態の複合加工機1によれば、加工テーブル26に取り付けたワークWに対してレーザ加工を行った後に放電加工を容易に行うことができる。
【0034】
なお、鋳造品の寸法精度はあまり高くなく、図面形状に対して鋳造後の実際の形状には僅ではあるが寸法誤差が生じ得る。ここで、
図7に示されるように、本実施形態のワークW、即ち、鋳造品であるタービンブレードの表面にフィルム冷却孔100を形成することを考慮する。この場合、加工方向(
図7中の点線矢印参照)に対してかなり傾斜した複雑な三次曲面上にフィルム冷却孔100を形成することとなる。このため、加工位置が水平方向に少しずれただけでワークW上のフィルム冷却孔100の位置は大きくずれてしまうので、加工位置の位置決めは重要である。特にレーザ加工を考慮すると加工位置でレーザ光を収束させる必要があり、ワークWに対するレーザ加工ヘッド9Hの水平位置が少しずれただけでレーザ光の収束位置(焦点)が垂直方向にずれてしまうので、やはり加工位置の位置決めは重要である。本実施形態では、上述した測距センサ25を利用してこのような問題を解決する。
【0035】
[ワークWの加工]
(加工前のキャリブレーション)
以下に説明するキャリブレーションは、一つのフィルム冷却孔100を加工するごとに行う必要はなく、一週間に一回や一日一回行うことにしたり、所定回数の加工ごとに行うことにしたりすればよい。
【0036】
<レーザ加工ユニット9のレーザ光焦点の垂直方向キャリブレーション>
まず、キャリブレーション用の金属平板101(
図8参照)を加工テーブル26に水平にセットする。次いで、レーザ加工ヘッド9HをW2軸方向(垂直方向)に段階的に移動させつつ、金属平板101にスリット102を加工する。なお、各スリット102の加工中は、レーザ加工ヘッド9Hはそれぞれの垂直位置でY軸方向に移動させつつスリット102がY方向に形成される。また、各スリット102の加工位置はX軸方向にずらされるが、これは、レーザ加工ヘッド9HをX軸方向に移動することで行われる。
【0037】
図8は、スリット102加工後の金属平板101の平面図を示しており、
図8の場合は中央のスリット幅が最も狭く、このスリット102形成時にレーザ光の焦点が最適値であると判断できる。従って、次に、このときのレーザ加工ヘッド9Hと金属平板101との距離を測距センサ25によって測定する。具体的には、この中央のスリット102加工時のレーザ加工ヘッド9Hの垂直位置にレーザ加工ヘッド9Hを再度合わせる。この状態で、中央のスリット102のすぐ横の図中の点Cに測距センサ25の測定位置が合うように作業員が目視しつつレーザ加工ユニット9を水平方向(X軸方向及びY軸方向)に移動させてから距離が測定される。この測定された距離が、ワークWの加工位置とレーザ加工ヘッド9H(即ち、レーザ加工ユニット9)との間の最適距離としてキャリブレーションされる。
【0038】
このように、点Cを用いて後から最適距離を測定するのは、測距センサ25が測定する距離はその垂直下方の測定位置との間の距離であるからである。レーザ加工ヘッド9Hのレーザ加工位置(レーザ光軸位置)と測距センサ25の測定位置とは、水平方向にオフセットしている。このため、レーザ加工ヘッド9Hでのレーザ加工中には、その加工位置とレーザ加工ヘッド9Hとの間の正確な距離を測定できない。従って、このように後から点Cを用いてキャリブレーションを正確に行う。
【0039】
<レーザ加工位置と測距センサ25との水平方向オフセットのキャリブレーション>
次に、上述したレーザ加工位置と測距センサ25との水平方向のオフセットを測定する。具体的には、まず、新たな金属平板103を(
図9参照)を加工テーブル26に水平にセットする。そして、
図9に示されるように、金属平板103に正方形(又は長方形)の孔104をレーザ加工で形成する。このとき、レーザ加工ヘッド9Hは、X軸方向及びY軸方向に移動され、孔104の各辺はX軸方向又はY軸方向と平行となる。このときの、「レーザ加工に関しての孔104の中心O」の座標が算出できる。
【0040】
次いで、
図9中の点線矢印に示されるように測距センサ25をX軸方向又はY軸方向に移動させて、孔104の各辺を検出する。測距センサ25の検出時には測定される距離が孔104の各辺の縁を境に変化するため、測距センサ25で各辺を算出できる。この結果、上述したように各辺がX軸方向又はY軸方向と平行であることは既知であるため、「測距センサ25に関しての孔104の中心O」の座標も算出できる。
【0041】
そして、「レーザ加工に関しての孔104の中心O」の座標と「測距センサ25に関しての孔104の中心O」の座標とを比較することで、レーザ加工位置と測距センサ25との水平方向のオフセットを算出(測定)できる。これにより、レーザ加工位置(レーザ照射部の垂直下方のレーザ焦点位置)との距離を測距センサ25で測定すべくレーザ加工ヘッド9Hを正確に水平方向(X軸方向及びY軸方向)に移動させることができる。
【0042】
<放電加工の電極10aとレーザ加工位置との水平方向オフセットのキャリブレーション>
上述したキャリブレーションによって、レーザ加工位置と測距センサ25との水平方向オフセットのキャリブレーションは終了したので、次は、放電加工の電極10aとレーザ加工位置との水平方向オフセットのキャリブレーションを行う。具体的には、まず、上述した孔104の内部に電極10aを挿入する。このとき、孔104の形成された金属平板103は加工テーブル26から取り外さずにそのまま利用する。
【0043】
次いで、
図10中の点線矢印に示されるように放電加工ユニット8、即ち、電極10aをX軸方向又はY軸方向に移動させて、孔104の各辺を検出する。このような機能は、従来の細穴放電加工機も備えている。電極10aが金属平板103と接触することで、電極10a及び金属平板103を含む閉回路が成立して流れる電流を電流計で検出したり、電極10a及び金属平板103が同電位となることを電圧計で検出したりすることで、孔104の各辺を検出できる。この結果、上述したように各辺がX軸方向又はY軸方向と平行であることは既知であるため、「電極10aに関しての孔104の中心O」の座標も算出できる。
【0044】
そして、「電極10aに関しての孔104の中心O」の座標と「測距センサ25に関しての孔104の中心O」の座標とを比較することで、電極10aと測距センサ25との水平方向のオフセットを算出(測定)できる。上述したように、「レーザ加工に関しての孔104の中心O」の座標と「測距センサ25に関しての孔104の中心O」の座標との水平オフセットは既にキャリブレーション済みである。このため、「電極10aに関しての孔104の中心O」の座標と「レーザ加工に関しての孔104の中心O」の座標とのオフセットも算出(測定)できる。即ち、放電加工位置とレーザ加工位置との水平方向のオフセットも算出(測定)できる。
【0045】
これにより、レーザ加工後にそのレーザ加工位置に電極10aを速やかに移動して放電加工に移行すべく、放電加工ユニット8を水平方向(X軸方向及びY軸方向)に移動させることができる。また、その逆に、放電加工後にその放電加工位置にレーザ加工ヘッド9Hを速やかに移動してレーザ加工に移行すべく、レーザ加工ユニット9を水平方向(X軸方向及びY軸方向)に移動させることができる。さらに、放電加工位置(電極10aの垂直下方位置)との距離を測距センサ25で測定すべく放電加工ヘッド(放電加工ユニット8)を正確に水平方向(X軸方向及びY軸方向)に移動させることもできる。
【0046】
このようにして、キャリブレーションが終了する。なお、上述したように、キャリブレーションは所定の時期に行えばよいが、電極10aの交換時に電極10aに関するキャリブレーションだけは再度行うようにしてもよい。
【0047】
(レーザ加工)
上述したキャリブレーションにより、放電加工及びレーザ加工を正確にNC制御する準備が整ったので、次に、ワークW(本実施形態では上述した絶縁層であるTBCが形成されたタービンブレード)へのレーザ加工について説明する。まず、ワークWが加工テーブル26にセットされる。加工テーブル26がA軸及びB軸回りに回転され、ワークWの加工位置が加工に適した方向に向けられる。放電加工に先立ってレーザ加工が行われるので加工槽27内に加工液は充填されていない、あるいは、加工液が加工槽27内に充填されていたとしてもレーザ加工位置が液面よりも上になるように液面がNC制御ユニット28によって制御される。なお、加工槽27内の加工液の液面位置の制御のほか、以下で説明する各ユニットの移動、放電加工ユニット8による放電加工、及び、レーザ加工ユニット9によるレーザ加工なども、NC制御ユニット28によって制御される。
【0048】
次に、加工プログラムに従って、測距センサ25の測定位置がワークWの表面上の加工位置と一致するようにレーザ加工ユニット9がX軸方向及びY軸方向に移動される。これと並行して、又は、レーザ加工ユニット9の水平移動完了後に、測距センサ25で距離を測定しつつレーザ加工ヘッド9HとワークWの表面上の加工位置との距離が上述した最適距離(焦点距離)となるように、レーザ加工ヘッド9HがW2軸方向に移動される。上述したように、本実施形態のワークWは鋳造品であるので寸法精度はあまり高くない。そこで、レーザ加工ヘッド9HのW2軸方向の位置は、プログラム上の図面形状に基づいてセットされるのではなく、測距センサ25で計測しながら実際の形状に基づいてセットされる。
【0049】
なお、このときの、レーザ加工ヘッド9HのW2軸方向の垂直位置は記憶される。この記憶された位置をプログラム上の図面形状に反映させてプログラム内の形状データを修正することで、次の加工位置(フィルム冷却孔100)でのレーザ加工精度を向上させることができる。あるいは、この記憶を加工するすべてのフィルム冷却孔100について行なって、すべての記憶されたフィルム冷却孔100の位置をプログラムに反映してもよい。このような補正処理は、当該単一のワークWのみに関する補正処理のみならず、同一仕様(ロット)の他のワークWに対する補正処理にも反映可能である。
【0050】
その後、レーザ加工位置がワークWの表面上の加工位置となるようにレーザ加工ユニット9をX軸方向及びY軸方向に移動した後にレーザ加工が行われる。レーザ加工ユニット9のレーザ加工位置への水平移動は、上述したようにレーザ加工位置と測距センサ25との水平方向のオフセットがキャリブレーションされているため、問題なく行われる。レーザ加工により、ワークW表面の絶縁層が除去される。なお、形成するフィルム冷却孔100の大きさに合わせたレーザ光のスキャンは、ガルバノスキャナユニットでレーザ光をスキャンして行う。レーザ加工の焦点位置が正しくセットされるので、焦点ズレによる絶縁層の除去不足などを回避できる。
【0051】
なお、レーザ加工は、例えば、一列の複数のフィルム冷却孔100ごとに行われる。一列の複数のフィルム冷却孔100をレーザ加工する間に、レーザ加工に伴う発熱でワークWに僅かな熱変形が生じることも考えられる。しかし、そのような場合でも、上述した測距センサ25の測定結果に基づく補正処理が行われるので、レーザ加工ヘッド9Hを最適距離にセットでき、レーザ加工不良を回避することができる。
【0052】
(放電加工)
レーザ加工に次いで放電加工が行われるが、まず、放電加工位置が加工液の液面より下方となるように加工槽27に加工液が充填される。次いで、レーザ加工が終了しているワークW上の加工位置に対して順に細穴放電加工が行われる。このとき、放電加工ユニット8、即ち、電極10aのX軸方向及びY軸方向の移動は、レーザ加工時の測距センサ25(又はレーザ加工ヘッド9H)との水平方向オフセットに基づいて行うことができる。上述したように、電極10a、測距センサ25及びレーザ加工ヘッド9Hの水平オフセットについては既にキャリブレーションされているため、放電加工もレーザ加工に合わせて水平方向の加工位置を一致させることができる。
【0053】
また、複合加工機1における放電加工ユニット8のW1軸方向の基準位置とレーザ加工ユニット9のW2軸方向の基準位置との間の関係は固定的である。従って、電極10aの先端の垂直方向の初期位置は、放電加工ユニット8のW1軸方向の初期位置を介して、レーザ加工において各フィルム冷却孔100について記憶したレーザ加工ヘッド9HのW2軸方向の位置に基づいて設定できる。このように電極10aの垂直方向の位置、即ち、放電加工ユニット8のW1軸方向の位置が設定された後、放電加工によりフィルム冷却孔100が形成される。放電加工中の電極10aの移動は、Z軸方向に移動される。
【0054】
このとき、予めレーザ加工により絶縁層が除去されているため、電極10aは確実に金属部分にフィルム冷却孔100を形成することができる。放電加工は、例えば、すでに形成されている一列の複数のフィルム冷却孔100について行われる。その後、同様に、加工槽27内の加工液の液面が下げられて他の列のフィルム冷却孔100についてのレーザ加工が行われてから、加工槽27内の加工液の液面が上げられて当該他の列のフィルム冷却孔100の細穴放電加工が行われる。
【0055】
なお、フィルム冷却孔100の開口端をディフューザ形状とするような場合は、レーザ加工時にディフューザ形状が形成される範囲の絶縁層を除去しておく。このようなレーザ加工に際しては、ガルバノスキャナを用いてレーザ光の照射位置を変えたり、レーザ加工ヘッド9H(レーザ加工ユニット9)を水平方向に移動させたりしてレーザ加工する。必要に応じて、レーザ加工ヘッド9HをW2軸方向に移動させることで、レーザ加工位置の垂直方向の変化にも対応できる。そして、ディフューザ形状をワークWの表面に放電加工で形成する。このような放電加工に際しても、電極10a(放電加工ユニット8)を水平方向に移動して放電加工する。必要に応じて、電極10aをZ軸方向に移動させることで、ディフューザ形状の深さ方向の変化にも対応できる。
【0056】
<放電加工不良の検出>
本実施形態では、
図3に示した、たわみ検出器12e、電圧検出器13、及び/又は、電流検出器14を用いて、放電加工中に放電加工不良を検出することができる。これらの検出器を用いる三つの方法は、どれか単独で用いてもよいし、それらの二つ又は三つを併用してもよい。
【0057】
まず、たわみ検出器12eを用いる場合について説明する。上述したレーザ加工による絶縁層の除去が不完全だった場合、放電不良となって加工不良が生じてフィルム冷却孔100が正常に形成されない。この場合、電極10aがZ軸に沿って下方に移動されると、電極10aはワークWに当接してたわむこととなる。電極10aがたわんで検出プレート12aの挿通孔12bの内周縁と接触すると、たわみ検出器12eによって電極10aがたわんでいることが検出される。これにより、放電加工不良を検出することができる。
【0058】
次に、電圧検出器13を用いる場合について説明する。上述したように、放電加工用電源29によって電極10a(本実施形態では陽極)とワークW(同陰極)との間には放電用電圧がかけられている。電圧検出器13は、この電圧を監視している。電圧は放電加工に必要な所定値まで上げられた後に放電により下がり、これを高周期で繰り返している。放電不良が生じていると、電極10aを下方に所定距離移動させても放電が生じないので電圧が下がらなく、電極10aとワークWとの間の電圧は所定値よりも高くなる。従って、電極10aを下方に所定距離移動させたても電圧が所定値よりも高い場合には放電加工不良が生じていると検出される。
【0059】
最後に、電流検出器14を用いる場合について説明する。上述したように、放電時には電極10aとワークWとの間に電流が所定値だけ流れる。電流検出器14は、この電流を監視している。電流は放電加工が行わなければ流れず、放電加工が不十分であれば所定値よりも小さくなる。従って、電極10aを下方に所定距離移動させても電流が所定値よりも低い場合には、放電加工不良が生じていると検出される。
【0060】
このようにして放電加工不良が検出された場合は、当該フィルム冷却孔100についての放電加工を中止して次のフィルム冷却孔100の放電加工に移る。放電加工されなかったフィルム冷却孔100については、追って複合加工機1を手動操作してフィルム冷却孔100を形成し直すなどする。例えば、手動でレーザ加工を行って絶縁層を完全に除去した後、細穴放電加工を行ってフィルム冷却孔100を形成する。以上説明したようにして、複合加工機1によってレーザ加工及び細穴放電加工が行われる。
【0061】
本実施形態によれば、複合加工機1は、放電加工ユニット8と、レーザ加工ユニット9と、加工テーブル26と、を備えている。放電加工ユニット8は、加工テーブル26に向けて棒状の電極10aをその軸方向(Z軸方向)に移動できる。放電加工ユニット8は、加工テーブル26に対して軸方向に垂直な面方向(X軸方向及びY軸方向)に相対移動可能である。レーザ加工ユニット9は、加工テーブル26(に取り付けられたワークW)に向けてレーザ光を射出するレーザ加工ヘッド9Hを有している。レーザ加工ユニット9は、加工テーブル26に対して面方向(X軸方向及びY軸方向)に相対移動可能である。そして、レーザ加工ユニット9は、ワークWとの距離を測定する測距センサ25を備えている。
【0062】
複合加工機1は、放電加工ユニット8及びレーザ加工ユニット9の両方を備えると共に、レーザ加工ユニット9が測距センサ25を備えているので、測距センサ25を用いてレーザ加工ユニット9の焦点位置を正確に設定することができる。また、測距センサ25によってワークW上の実際の加工位置との距離を測定しつつ、加工位置にレーザ加工ユニット9の焦点位置を合わせることができる。さらに、ワークWを加工テーブル26から取り外すことなく、レーザ加工ユニット9によるレーザ加工と放電加工ユニット8による細穴放電加工とを連続して行うことができるため、レーザ加工及び細穴放電加工の複合加工を連続して高精度に行うことができる。一つの複合加工機1が、放電加工ユニット8及びレーザ加工ユニット9を備えているため、レーザ加工ユニット9に備えられた測距センサ25による検出結果を放電加工ユニット8による放電加工にも利用でき、レーザ加工と放電加工との間の加工精度も向上できる。これらの結果、レーザ加工と細穴放電加工とを効率よく行うことができる。
【0063】
また、本実施形態によれば、放電加工ユニット8及びレーザ加工ユニット9は、面方向(水平方向:X軸方向、Y軸方向)に移動可能なメインキャリッジ5に電極10aの軸方向(垂直方向:Z軸方向、W1軸方向、W2軸方向)に移動可能に設けられている。即ち、放電加工ユニット8(電極10a)の加工テーブル26に対する面方向(水平方向)への相対移動は、メインキャリッジ5によって放電加工ユニット8を面方向に移動することで行われる。同様に、レーザ加工ユニット9(レーザ加工ヘッド9H)の加工テーブル26に対する面方向(水平方向)への相対移動も、メインキャリッジ5によってレーザ加工ユニット9を面方向に移動することで行われる。このため、放電加工ユニット8の面方向の移動機構とレーザ加工ユニット9の加工テーブル26に対する面方向の相対移動機構とを一つにまとめることができ、複合加工機1の構成を簡潔化できる。
【0064】
具体的には、本実施形態における放電加工ユニット8及びレーザ加工ユニット9の面方向の移動機構は、キャリッジ6a,7a、レール6b,7b、モータ6c,7c、及び、NC制御ユニット28などで構成されている。なお、二つのユニットの相対移動機構をメインキャリッジ5の単一の移動機構として構築することで、放電加工ユニット8の面方向移動とレーザ加工ユニット9の面方向移動との間に関連する加工整合性(例えば、面方向の位置決め)を向上させることができる。この結果、放電加工とレーザ加工との間での加工精度も向上できる。
【0065】
また、本実施形態によれば、加工テーブル26が、水平な第一回転軸(B軸)に対して回転可能で、さらに、取り付けられたワークWを第一回転軸(B軸)に対して垂直な第二回転軸(A軸)回りに回転可能に構成されている。このため、レーザ加工ユニット9のレーザ光軸(W2軸方向)や放電加工ユニット8の電極10aの延在方向(W1軸方向,Z軸方向)に対してワークWの向きの設定自由度が向上する。加工ヘッドの向きを変えるのではなくワークWの向きを変えることで、レーザ加工及び放電加工の加工基準方向を垂直方向(W1,W2,Z軸方向)の一方向とすることで、それぞれの加工精度を向上させることができる。また、レーザ加工の加工基準方向と放電加工の加工基準方向とが同じ垂直方向(W1,W2,Z軸方向)であるため、レーザ加工と放電加工との間の加工精度も向上できる。
【0066】
また、本実施形態の複合加工機1は、放電加工中にその軸方向に沿って垂直下方に移動される電極10aにたわみが生じているか否かを検出するたわみ検出器12eをさらに備えている。このため、放電加工不良、特に、電極10aのZ軸方向の移動が正常に行われずに生じる放電加工不良をすぐに発見することができる。
【0067】
ここでさらに、放電加工中にたわみ検出器12eによって電極10aにたわみが生じていることが検出された際に、当該放電加工を中止する制御部(制御ユニット3,NC制御ユニット28)をさらに備えている。このため、電極10aのZ軸方向の移動が正常に行われずに生じる放電加工不良時に、さらに電極10aのZ軸方向に移動させることによる複合加工機1の損傷を防止できる。また、放電加工不良が生じている際に当該放電加工を中止することで、ワークWの加工不良がそれ以上続行されてしまうのを防止でき、当該ワークWの再加工や加工修正を行いやすくできる。
【0068】
また、本実施形態の複合加工機1は、電極10aとワークWとの間にかけられる放電加工用電圧を監視する電圧検出器13を備えている。また、複合加工機1は、電圧検出器13によって測定された放電加工用電圧に基づいて放電加工不良を検出する制御部(制御ユニット3,NC制御ユニット28)も備えている。そして、制御部はこのような放電加工不良を検出した際に当該放電加工を中止する。従って、放電加工不良が生じている際に当該放電加工を中止することで、ワークWの加工不良がそれ以上続行されてしまうのを防止でき、当該ワークWの再加工や加工修正を行いやすくできる。
【0069】
また、本実施形態の複合加工機1は、放電加工時に電極10aとワークWとの間を通って流れる放電電流を監視する電流検出器14を備えている。また、複合加工機1は、電流検出器14によって測定された放電電流に基づいて放電加工不良を検出する制御部(制御ユニット3,NC制御ユニット28)も備えている。そして、制御部は、放電加工不良を検出した際に当該放電加工を中止する。従って、放電加工不良が生じている際に当該放電加工を中止することで、ワークWの加工不良がそれ以上続行されてしまうのを防止でき、当該ワークWの再加工や加工修正を行いやすくできる。
【0070】
次に、
図11及び
図12を参照しつつ、第二実施形態に係る複合加工機1について説明する。上記第一実施形態では、放電加工ユニット8及びレーザ加工ユニット9を加工テーブル26に対して水平方向(電極10aの軸方向に垂直な面方向)に相対移動させるのに、放電加工ユニット8及びレーザ加工ユニット9を水平移動させた。本実施形態では、放電加工ユニット8及びレーザ加工ユニット9を加工テーブル26に対して水平方向(面方向)に相対移動させるのに、加工テーブル26を水平移動させる。この相対移動機構以外の構成に関しては、上述した第一実施形態の構成と同一又は同等である。なお、上述した第一実施形態の構成と同一又は同等の構成については、同一の符号を付して、それらの詳しい説明は省略する。
【0071】
本実施形態のメインキャリッジ5は、メインユニット2に固定されている。放電加工ユニット8は、このメインキャリッジ5に対してW1軸方向に移動可能に構成されている。レーザ加工ユニット9も、このメインキャリッジ5に対してW2軸方向に移動可能に構成されている。一方、本実施形態では、A軸及びB軸回りに回転可能な加工テーブル26Xが、水平方向(面方向)、即ち、X軸方向及びY軸方向に移動可能な加工テーブルユニット26XUに取り付けられている。加工テーブルユニット26XUはX軸キャリッジ7Xa上に固定されており、X軸キャリッジ7Xa上には加工槽27も固定されている。即ち、加工槽27も加工テーブル26Xと共に水平方向に移動可能である。
【0072】
X軸キャリッジ7Xaは、X軸レール7Xbに沿ってX軸方向(
図11中の左右方向)に移動可能である。X軸レール7Xbに対するX軸キャリッジ7XaのX軸方向の移動は電動サーボモータ等のX軸モータ7cによって行われ、X軸モータ7cはNC制御ユニット28によって制御される。X軸レール7XbはY軸キャリッジ6Xaに固定されている。Y軸キャリッジ6Xa(及びX軸レール7Xb)は、Y軸レール6Xbに沿ってY軸方向(
図1中の左右方向)に移動可能である。Y軸レール6Xbに対するY軸キャリッジ6XaのY軸方向の移動は電動サーボモータ等のY軸モータ6cによって行われ、Y軸モータ6cはNC制御ユニット28によって制御される。Y軸レール6Xbはメインユニット2の筐体フレームに固定されている。
【0073】
本実施形態においても、加工テーブル26(即ち、ワークW)に対する放電加工ユニット8及びレーザ加工ユニット9の水平方向(面方向)の相対移動の機構は異なるが、キャリブレーションや複合加工は上述した第一実施形態と同様の行うことができる。また、第一実施形態によってもたらされる上述した効果は、本実施形態によってももたらされる。
【0074】
また、本実施形態によれば、加工テーブル26Xは、面方向(水平方向:X軸方向及びY軸方向)に移動可能に設けられている。即ち、放電加工ユニット8(電極10a)の加工テーブル26Xに対する面方向(水平方向)への相対移動は、加工テーブル26Xを面方向に移動することで行われる。同様に、レーザ加工ユニット9(レーザ加工ヘッド9H)の加工テーブル26Xに対する面方向(水平方向)への相対移動も、加工テーブル26Xを面方向に移動することで行われる。このため、放電加工ユニット8の面方向の移動機構とレーザ加工ユニット9の加工テーブル26に対する面方向の相対移動機構とを一つにまとめることができ、複合加工機1の構成を簡潔化できる。
【0075】
具体的には、本実施形態における加工テーブル26の面方向の移動機構、即ち、放電加工ユニット8及びレーザ加工ユニット9の加工テーブル26に対する面方向の相対移動機構は、キャリッジ6Xa,7Xa、レール6Xb,7Xb、モータ6c,7c、及び、NC制御ユニット28などで構成されている。なお、二つのユニットの相対移動機構を加工テーブル26の単一の移動機構として構築することで、放電加工ユニット8の面方向移動とレーザ加工ユニット9の面方向移動との間に関連する加工整合性(例えば、面方向の位置決め)を向上させることができる。この結果、放電加工とレーザ加工との間での加工精度も向上できる。
【0076】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、上記実施形態では、表面にTBC(絶縁層)が形成された複雑な形状を有するタービンブレードがワークWであり、このワークWを複合加工機1でレーザ加工した後に放電加工した。上述したように、本発明の複合加工機はこのようなワークWの複合加工に適しているが、様々なワークを加工することができる。また、本発明の複合加工機は、細穴放電加工機としての機能のみを利用することも可能であるし、レーザ加工機としての機能のみを利用することも可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 [細穴放電加工・レーザ加工]複合加工機
3 制御ユニット(制御部)
5 メインキャリッジ
8 放電加工ユニット
9 レーザ加工ユニット
9H レーザ加工ヘッド
10a 電極
12e たわみ検出器
13 電圧検出器
14 電流検出器
25 測距センサ
26 加工テーブル
28 NC制御ユニット(制御部)
A A軸(第二回転軸)
B B軸(第一回転軸)
X X軸方向(面方向:水平方向)
Y Y軸方向(面方向:水平方向)
Z Z軸方向(電極10aの軸方向:垂直方向)
W1 W1軸方向(軸方向:垂直方向)
W2 W2軸方向(軸方向:垂直方向)