(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049464
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】陶器素地材料
(51)【国際特許分類】
C04B 33/13 20060101AFI20230403BHJP
C04B 33/24 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
C04B33/13 A
C04B33/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159212
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】笠原 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】新崎 朝規
(72)【発明者】
【氏名】小宮 源之介
(57)【要約】
【課題】 生産性と品質とを兼ね備えた陶器をその目的または用途に応じ、高い自由度で製造可能な陶器素地材料の提供。
【解決手段】 第1の素地材料と、第2の素地材料とを含む陶器素地材料であって、前記第1の素地材料および前記第2の素地材料はいずれも、化学成分種として、SiO2、Al2O3、およびK2OとNa2Oの両方またはいずれか一方を含み、前記第2の素地材料の平均粒子径(D2)は、前記第1の素地材料の平均粒子径(D1)より小さい、陶器素地材料。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の素地材料と、第2の素地材料とを含む陶器素地材料であって、
前記第1の素地材料および前記第2の素地材料はいずれも、化学成分種として、SiO2、Al2O3、およびK2OとNa2Oの両方またはいずれか一方を含み、
前記第2の素地材料の平均粒子径(D2)は、前記第1の素地材料の平均粒子径(D1)より小さい、陶器素地材料。
【請求項2】
前記第1の素地材料は、骨格材料として陶石に由来する材料を含み、前記第2の素地材料は、骨格材料として珪石およびα―アルミナに由来する材料を含む、請求項1に記載の陶器素地材料。
【請求項3】
前記第1の素地材料は、石系原料に由来する材料を主成分として含み、前記第2の素地材料は、粉体原料に由来する材料を主成分として含む、請求項1または2に記載の陶器素地材料。
【請求項4】
前記第1の素地材料は、第1の素地原料の粉砕混合物を含むものであり、前記第2の素地材料は、第2の素地原料の攪拌混合物を含むものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の陶器素地材料。
【請求項5】
前記第1の素地原料が、陶石、粘土(粉体)および長石を主成分として含み、前記第2の素地原料が、珪石(粉体)、α―アルミナ(粉体)、粘土(粉体)および長石(粉体)を主成分として含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
焼成変形量が4mm~13mmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の陶器素地材料。
【請求項7】
焼成収縮率が2.5~7.0%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の陶器素地材料。
【請求項8】
吸水率が4~10%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の陶器素地材料。
【請求項9】
陶器素地材料を製造する方法であって、
第1の素地原料を混合し、第1の平均粒子径(D10)を有する第1の素地材料を作製する工程と、
第2の素地原料を混合し、第2の平均粒子径(D20)を有する第2の素地材料を作製する工程と、
前記第1の素地材料と前記第2の素地材料を混合する工程と
を含み、
前記第1の素地原料および前記第2の素地原料はいずれも、化学成分種としてSiO2、Al2O3、およびK2OとNa2Oの両方またはいずれか一方を含み、
前記第1の素地材料と前記第2の素地材料を混合した後の、前記第2の素地材料の平均粒子径(D2)は、前記第1の素地材料の平均粒子径(D1)より小さい
ことを特徴とする、方法。
【請求項10】
前記第1の素地原料は陶石を含み、前記第2の素地原料は珪石およびα-アルミナを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の素地原料は石系原料を主成分として含み、前記第2の素地原料は粉体原料を主成分として含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の素地原料が、陶石、粘土(粉体)および長石を主成分として含み、前記第2の素地原料が、珪石(粉体)、α―アルミナ(粉体)、粘土(粉体)および長石(粉体)を主成分として含む、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の素地原料を粉砕混合方式で混合し、前記第1の素地材料を作製し、前記第2の素地原料を攪拌混合方式で混合し、前記第2の素地材料を作製する、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は陶器素地材料に関し、さらに詳しくは、良好な生産性と品質を兼ね備えた陶器をその目的または用途に応じ、高い自由度で製造可能な陶器素地材料に関する。
【背景技術】
【0002】
衛生陶器などの陶器製品を製造するための素地原料として、例えば、陶器の骨格となる陶石や珪石等の石系原料、成形時に可塑性を与える粘土類、および焼成時に熔剤として作用する長石類などを用いることが知られている(特開平6-056516号公報(特許文献1)、特開2001-287981号公報(特許文献2)、特開2011-116568号公報(特許文献3))。これら陶器素地原料は混合され陶器素地材料へと加工される。素地原料の混合方法としては、原料の種類に応じて、ボールミル等の粉砕手段を用いる粉砕混合方式、粉砕を伴わない攪拌混合方式が用いられる。例えば、日本国内、中国、台湾、インドネシア等の地域では、石系原料を主体とする素地原料が用いられる傾向があり、これら素地原料は粉砕混合方式で素地材料とされ、他方、アメリカ、メキシコ、タイ、インド等の地域では、粉体原料を主体とする素地原料が用いられる傾向があり、これら素地原料は攪拌混合方式で素地材料とされている。
【0003】
攪拌混合方式は、一般に、各原料の特性をそのまま活かした(加成性が成り立ちやすい)緻密な素地設計を行いやすく、その結果、例えば低変形、高強度などの性質を備えた特殊な素地を作製し易いが、成形時の着肉性(生産性)が低くなりやすい傾向がある。一方、粉砕混合方式は、原料の粉砕を伴うため、一般に、各原料の特性をそのまま活かした緻密な素地設計は困難であるが、原料として石系原料を使用できるため、相対的に着肉性の高い素地を作製し易い傾向がある。
【0004】
素地材料は、複数の原料を一括して粉砕混合または攪拌混合して作製されることが多く、例えば、特許文献1には、粉砕工程なしに、全素地原料を混合・攪拌する泥漿製造方法(A)や、全素地原料をポットミルに投入し、所定の平均粒径になるまで粉砕する泥漿製造方法(B)が記載されている(段落0055)。また、特許文献2には、素地原料をポットミル中で湿式粉砕して素地材料を作製したことが記載され(段落0019)、特開2011-116568号公報(特許文献3)には、素地原料をボールミルで粉砕混合して素地材料を作製したことが記載されている(段落0044)。
【0005】
上記のように、全素地原料を粉砕混合または攪拌混合のいずれかにより素地材料を作製する方法以外に、例えば石系原料を用いる場合には、石系原料だけを別途粉砕し、粉砕された石系原料と残りの原料とを粉砕混合して素地材料が作製されることもある。さらに、原料の一部を粉砕混合し、残りの原料を攪拌混合し、これらを混ぜ合わせて素地材料を作製する例として、CN112094100A公報(特許文献4)には、複数の素地原料を各原料の特性を考慮して異なる2つのグループに分け、一方を粉砕混合し、他方を攪拌混合し、得られた材料種の異なる2つの素地スラリーを混ぜ合わせてセラミック素地スラリーを得ることが記載されている。
【0006】
具体的には、特許文献4では、硬質瘠性原料と、半瘠性半可塑性原料に属する入球原料Aと、軟質可塑性原料に属する入球原料Cとを含む原料グループを球磨加工(ボールミル粉砕混合)して得られたスラリーと、半瘠性半可塑性原料に属する化漿原料Bと、軟質可塑性原料に由来する化漿原料Dとを含む原料グループを化漿加工(攪拌混合)して得られたスラリーとを混ぜ合わせることにより、セラミック素地スラリーを高効率に製造できることが提案されている(
図1、要約)。この特許文献4によれば、一方のスラリーのみに含まれる硬質瘠性原料は、長石、珪石、石英、ドロマイト等を含み(請求項7)、入球原料A、Bが属する半瘠性半可塑性原料は、カオリン、チャイナクレー等の粘土を含み(請求項8)、入球原料C、Dが属する軟質可塑性原料は、ボールクレー、チャイナクレー等の粘土を含む(請求項9)ものと理解される。
【0007】
特許文献4に記載されるセラミック素地スラリーの製造方法は、複数の素地原料を2つのグループに分け、それぞれを異なる混合方法で調合し、得られた2種類のスラリーを混ぜ合わせて最終的に1種類の素地スラリーを得るものであるため、製造工程がやや複雑である。また、粉砕混合される原料グループが硬質瘠性原料を含むのに対し、攪拌混合される原料グループが硬質瘠性原料を含まない点で両者は相違するため、一方の原料グループを粉砕混合して得られたスラリーに含まれる材料種と、他方の原料グループを攪拌混合して得られたスラリーに含まれる材料種は異なり、その結果、これら2つのスラリーを混ぜ合わせて得られる素地スラリーは成形時にムラが生じる可能性がある。
【0008】
他方、焼成後の化学組成に着目した場合、陶器素地材料は、通常、SiO2およびAl2O3を主成分として含んでおり、使用する素地原料(の種類や量)、焼成条件等に応じて、これら成分の比率は変化する。上記特許文献1~3には、Al2O3に比べてSiO2を多く含み、その範囲内でSiO2、Al2O3の組成比が調節された素地材料が記載されている。
【0009】
近年、衛生陶器のデザイン性、品質の向上に対する要望が高まっており、この要望に叶う高意匠および高品質(例えば、高強度、軽量化)な陶器製品が求められている。また、求められるデザイン、品質のバリエーションに柔軟に対応するため、生産性または歩留まりに優れた衛生陶器が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6-56516号公報
【特許文献2】特開2001-287981号公報
【特許文献3】特開2011-116568号公報
【特許文献4】CN111393188A号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、今般、各々が単独で陶器を製造可能であり、各素地材料の平均粒子径が異なる複数種の素地材料を混合して用いることにより、生産性と品質とを兼ね備えた陶器を製造することができることを確認した。とりわけ、各々が単独で陶器を製造可能な複数種の陶器素地材料を混合して用いることにより、製造工程が簡便であり、良好な生産性を有するとともに、製造される陶器の目的または用途に応じ、適宜混合比を決定することができ、高い自由度で陶器を製造することができることを確認した。さらに、混合して用いられる陶器素地材料ごとに主たる化学成分種(SiO2、Al2O3、K2OとNa2Oの両方またはいずれか一方)が同一でありながら、素地材料を実際に構成する物質(粒子)の平均粒子径が異なるため、様々な混合割合で混合してもムラが少なく、高い性能を有する陶器を製造することができることを確認した。本発明は斯かる知見に基づくものである。
【0012】
したがって、本発明は、生産性と品質とを兼ね備えた陶器をその目的または用途に応じ、高い自由度で製造可能な陶器素地材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そして、本発明による陶器素地材料は、
第1の素地材料と、第2の素地材料とを含む陶器素地材料であって、
前記第1の素地材料および前記第2の素地材料はいずれも、化学成分種として、SiO2、Al2O3、およびK2OとNa2Oの両方またはいずれか一方を含み、
前記第2の素地材料の平均粒子径(D2)は、前記第1の素地材料の平均粒子径(D1)より小さいことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生産性と品質とを兼ね備えた陶器をその目的または用途に応じ、高い自由度で製造可能な陶器素地材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による陶器素地材料は、第1の素地材料と、第2の素地材料とを含む。第1の素地材料および第2の素地材料はいずれも、焼成時の化学成分種として、SiO2、Al2O3、およびK2OとNa2Oの両方またはいずれか一方を少なくとも含む。焼成時にこれらの化学成分種を必須成分として含む、つまり焼成によりこれらの化学成分種を生成可能であることにより、第1の素地材料および第2の素地材料は各々単独で陶器を製造することができる。本発明による陶器素地材料は、各々が単独で陶器を製造可能な複数種の素地材料の混合物(ブレンド)であるため、製造工程が簡便であり、高い生産性を有する。さらに、製造しようとする陶器の目的または用途に応じ、適宜第1の素地材料および第2の素地材料のブレンド比を決定することができ、高い自由度で陶器を製造することができる。製造の自由度が高いことで、歩留まりが向上する。
【0016】
本発明による陶器素地材料は、第1の素地材料と、第2の素地材料とを含むものであればよく、第1の素地材料と第2の素地材料との含有比、つまり第1の素地材料と第2の素地材料との混合比は特に制限されず、任意に決定されてよい。各々単独で陶器を製造することが可能な第1の素地材料と第2の素地材料との混合比を、製造しようとする陶器の目的または用途に応じ、適宜決定することができるため、製造の自由度が高くなり、第1の素地材料の性能と第2の素地材料の性能を選択的に取り入れることが可能となり、その結果、所望の性能を備えた陶器素地材料を得ることができる。本発明による陶器素地材料の性能(特性)については後述する。
【0017】
なお、本発明において、「単独で陶器を製造することが可能な素地材料」とは、当該素地材料のみを用いて、すなわち当該素地材料に他の材料をさらに添加したり、製造過程において何か特別な処理を施す等の必要なく、公知の方法により、通常求められる性能を備えた陶器を製造することができることを意味する。換言すると、当該素地材料のみを用いて公知の成形方法にて成形体を作製することができ、さらに当該成形体から公知の焼成方法にて焼成体を作製することができ、さらに当該焼成体の冷却を経て陶器を製造することができることを意味する。
【0018】
加えて、本発明による陶器素地材料は、第1の素地材料の平均粒子径(D1)と第2の素地材料の平均粒子径(D2)が異なり、D2はD1より小さい。つまり、混合して用いられる素地材料ごとに主たる化学成分種(SiO2、Al2O3、およびK2OとNa2Oの両方またはいずれか一方)が同一でありながら、素地材料を実際に構成する物質(粒子)の平均粒子径が異なる(D2<D1)ため、様々な混合割合で混合しても成形時および焼成時にムラが少なく、高い性能を有する陶器を製造することができる。
【0019】
第1の素地材料
原料
第1の素地材料は、原料として陶石を用いて作製されることが好ましい。陶石を構成する石英、セリサイト、カオリンなどの鉱物は、第1の素地材料の成形体に着肉性を付与し、また成形体の主骨格となる。着肉性の向上は生産性を向上させる。陶石として、例えば、セリサイト陶石、カオリン陶石などを用いることができる。
【0020】
第1の素地材料は、主として石系原料を用いて作製されることが好ましい。石系原料としては、陶石、長石、ドロマイトなどが挙げられる。長石、ドロマイトは第1の素地材料の焼成体に焼締りを付与する。また、ドロマイトは焼成温度を下げることができるため、エネルギー費が低減され陶器製品を経済的に生産することができ、また工業的生産(量産)に適している。
【0021】
長石類としては、カリ長石、ソーダ長石、灰長石の様な長石質鉱物やネフェライト、及び天然ガラス、フリット等をあげることができる。これらの原料は各種の長石質原料やネフェリンサイアナイト、コーニッシューストーン、さば、ガラス質火山岩、及び各種陶石中に豊富に含まれており、又、粘土質原料中にも一部含まれている。これらの長石類としては特にアルカリ成分としてK2O及びNa2Oを豊富に含むものが好ましく、その例としてはカリ長石、ソーダ長石、及びネフェライトが好ましい。また、素地原料中の石英の量をなるべく減らしたい場合には、その組成中に石英を実質的に全く含んでいないネフェリンサイアナイトを用いるのが好ましい。これらの長石類の鉱物は焼成中に熔融してガラス相を形成するものであるが、一部未熔融のまま結晶として残存してもかまわない。
【0022】
本発明の好ましい態様によれば、第1の素地材料を作製するための原料は、陶石、粘土(粉体)および長石を主成分として含むことが好ましい。
【0023】
粘土類としては、カオリナイト、ハロイサイト、メタハロイサイト、ディッカイト、パイロフィライト等の粘土質鉱物と、セリサイト、イライト等の粘土状雲母等を挙げることができる。これらの鉱物は、蛙目粘土、木節粘土、カオリン、ボールクレー、チャイナクレー等の粘土質原料や各種陶石中に豊富に含まれており、又、長石質原料中にも一部含まれている。これらの粘土類としては、カオリナイト、ハロイサイトが特に成形時の可塑性を向上させるのに優れており、セリサイトは素地の焼成温度を低下させることに効果が大きい。これらの粘土類の鉱物は焼成中に熔融してガラス相を形成するものであるが、一部未熔融のまま結晶として残存してもかまわない。
【0024】
本発明において、第1の素地材料を作製するための原料は、α-アルミナを含んでいてもよい。例えば、α-アルミナは別途粉砕したものを上記した素地原料に添加し、これらを粉砕混合して素地材料とすることができる。また、第1の素地材料を作製するための原料は、α-アルミナを含んでいなくともよい。
【0025】
作製方法
本発明において、第1の素地材料は、上記した原料(「第1の素地原料」ともいう)を粉砕混合して作製することが好ましい。第1の素地原料は石系原料を主成分として含むため、これら原料を粉砕混合することで所望の平均粒子径を有する素地材料を得ることができる。第1の素地材料の平均粒子径(D1)は、3μm~15μmであることが好ましく、5μm~12μmであることがより好ましく、後述する第2の素地材料の平均粒子径D2よりも大きい。特に、第1の素地原料が陶石を構成する石英またはα-アルミナを含む場合、D1を上記範囲内とすることで、良好な強度、耐熱衝撃性が得られる。素地材料の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計(例えば、Malvern社製マスターサイザー3000や、日機装(株)製マイクロトラックMT-3000など)で測定することができ、累積体積50%の粒径(D50)として示すことができる。
【0026】
粉砕混合方法
第1の素地原料の粉砕混合方法としては、ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル等を用いた公知の方法を使用することができる。また、粉砕後、必要に応じて、篩等の分級機を用いて粗粒部分を除去してもよい。分級の方法としては、振動篩、音波篩、各種スクリーナー、遠心分離機等を用いた公知の方法を使用することができる。
【0027】
組成
本発明において、第1の素地材料は、焼成時の全体の化学組成として、SiO2 50~75wt%、Al2O3 17~40wt%、K2O+Na2O 1~10wt%を含むことが好ましい。第1の素地材料は、ガラス相25~70wt%、結晶相75~30wt%であることが好ましい。ガラス相を構成する主成分の化学組成は、ガラス相全体を100%として、SiO2 50~80wt%、Al2O3 10~40wt%、K2O+Na2O 4~12wt%であることが好ましい。結晶相を構成する主成分の鉱物組成は、素地全体を100%としてα-アルミナ0~60wt%、石英0~20wt%、ムライト2~20wt%であることが好ましい。本発明の一つの態様によれば、第1の素地材料は、結晶相を構成する主成分の鉱物組成としてα-アルミナを含まない素地材料(例えば、熔化質素地)であってよい。本発明の一つの態様によれば、第1の素地材料に含まれるSiO2の量が第2の素地材料に含まれるSiO2の量より多く、第1の素地材料に含まれるAl2O3の量が第2の素地材料に含まれるAl2O3の量より少ないことが好ましい。本発明の一つの態様によれば、第1の素地材料におけるSiO2/Al2O3比が1より大きいことが好ましい。本発明の一つの態様によれば、第1の素地材料におけるSiO2/Al2O3比が第2の素地材料におけるSiO2/Al2O3比より大きいことが好ましい。
【0028】
第1の素地材料の焼成時の全体組成は、例えば下記表1に示される組成であってよい。
【0029】
【0030】
第2の素地材料
原料
第2の素地材料は、原料として珪石およびα―アルミナを用いて作製されることが好ましい。珪石を構成する石英及びα―アルミナは、第2の素地材料の成形体の主骨格となるため、低変形と強度が期待できる。
【0031】
第2の素地材料は、主として粉体原料を用いて作製されることが好ましい。粉体原料としては、珪石、α―アルミナ、長石、チャイナクレー、ボールクレーなどの粉体が挙げられる。長石の粉体は第2の素地材料の焼成体に焼締りを付与する。なお、長石類については、第1の素地材料の原料として既に説明したとおりである。
【0032】
本発明の好ましい態様によれば、第2の素地材料を作製するための原料は、珪石(粉体)、α―アルミナ(粉体)、粘土(粉体)および長石(粉体)を主成分として含むことが好ましい。なお、粘土類については、第1の素地材料の原料として既に説明したとおりである。
【0033】
作製方法
本発明において、第2の素地材料は、上記した原料(「第2の素地原料」ともいう)を攪拌混合して作製することが好ましい。第2の素地原料は粉体原料を主成分として含むため、これら粉体原料が所望の平均粒子径を有している場合は攪拌混合するだけで素地材料を得ることができる。攪拌混合方法は各原料の粒径分布を独立してコントロールできるため、最も簡便な方法である。粉体原料が所望の平均粒子径を有していない場合は、ボールミル等を用いた原料の粉砕工程を設ける等適宜調整すればよい。第2の素地材料の平均粒子径(D2)は、1μm~13μmであることが好ましく、3μm~10μmであることがより好ましく、第1の素地材料の平均粒子径D1よりも小さい。特に、第2の素地原料が珪石を構成する石英またはα-アルミナを含む場合、D2を上記範囲内とすることで、良好な強度、耐熱衝撃性が得られる。
【0034】
攪拌混合方法
第2の素地原料の攪拌混合方法としては、公知の方法を使用することができ、例えばアイリッヒ インテンシブ ミキサー(マシーネンファブリーク グスタフ アイリッヒ社)を用いて攪拌混合することができる。また、攪拌後、必要に応じて、篩等の分級機を用いて粗粒部分を除去してもよい。
【0035】
組成
本発明において、第2の素地材料は、焼成時の全体の化学組成として、SiO2 20~45wt%、Al2O3 50~75wt%、K2O+Na2O 1~10wt%を含むことが好ましい。第2の素地材料は、ガラス相25~70wt%、結晶相75~30wt%であることが好ましい。ガラス相を構成する主成分の化学組成は、ガラス相全体を100%として、SiO2 50~80wt%、Al2O3 10~40wt%、K2O+Na2O 4~12wt%であることが好ましい。結晶相を構成する主成分の鉱物組成は、素地全体を100%としてα-アルミナ10~60wt%、石英0~20wt%、ムライト2~20wt%であることが好ましい。本発明の一つの態様によれば、第2の素地材料に含まれるSiO2の量が第1の素地材料に含まれるSiO2の量より少なく、第2の素地材料に含まれるAl2O3の量が第1の素地材料に含まれるAl2O3の量より多いことが好ましい。本発明の一つの態様によれば、第2の素地材料におけるAl2O3/SiO2比が1より大きいことが好ましい。本発明の一つの態様によれば、第2の素地材料におけるAl2O3/SiO2比が第1の素地材料におけるAl2O3/SiO2比より大きいことが好ましい。
【0036】
第2の素地材料の焼成時の全体組成は、例えば下記表2、表3に示される組成であってよい。
【0037】
【0038】
【0039】
本発明による陶器素地材料
本発明による陶器素地材料は、第1の素地材料および第2の素地材料を任意の混合比で作製することができる。つまり、製造しようとする陶器の目的または用途に応じ、適宜混合比を決定することができ、第1の素地材料の性能と第2の素地材料の性能を選択的に取り入れ、所望の性能を備えた陶器素地材料とすることができる。
本発明の一つの態様において、本発明による陶器素地材料の製造方法が提供され、当該製造方法は、
(a)第1の素地原料を混合し、第1の平均粒子径(D10)を有する第1の素地材料を作製する工程と、
(b)第2の素地原料を混合し、第2の平均粒子径(D20)を有する第2の素地材料を作製する工程と、
(c)前記第1の素地材料と前記第2の素地材料を混合する工程と
を含み、
前記第1の素地原料および前記第2の素地原料はいずれも、化学成分種としてSiO2、Al2O3、K2OおよびNa2Oを含み、
前記第1の素地材料と前記第2の素地材料を混合した後の(工程(c)後の)、前記第2の素地材料の平均粒子径(D2)は、前記第1の素地材料の平均粒子径(D1)より小さいことを特徴とする。
第1の素地材料と第2の素地材料の混合は、粉砕混合方式または攪拌混合方式のいずれで行なってもよい。また、混合は、第1の素地材料の平均粒子径(D10)および第2の素地材料の平均粒子径(D20)が大きく変化しない範囲内で行うことが好ましい。
【0040】
成形
本発明による陶器素地材料の成形方法としては、鋳込成形、押出成形、ろくろ成形、プレス成形等公知の方法を用いることができ、衛生陶器等の大型・複雑形状品においては、鋳込成形が好ましく用いられる。
【0041】
焼成
本発明による陶器素地材料の成形体は、ガス炉又は電気炉により焼成することができる。焼成温度、焼成時間は適宜決定されてよい。
【0042】
組成
本発明による陶器素地材料は、第1の素地材料および第2の素地材料の混合比を自由に変更して所望の組成とすることができる。例えば、焼成時の全体の化学組成、ガラス相、結晶相、ガラス相を構成する主成分の化学組成、結晶相を構成する主成分の鉱物組成について、それぞれを、上述した第1の素地材料の各値と、第2の素地材料の各値との間の範囲内の値に自在に制御することが可能である。本発明による陶器素地材料は、上記のように組成を自在に制御することができるため、後述する諸性能を発揮することができる。
【0043】
性能(特性)
本発明による陶器素地材料は、上述した組成を有することで、以下の各種性能を備えることが可能となる。
【0044】
吸水率
本発明による陶器素地材料は、4%~10%の広範な吸水率を有する陶器をその目的・用途に応じて高い自由度で製造することができる。
吸水率は、JIS A1509-3に則して測定した値である。素地材料の焼成体サンプルを110℃で24hr乾燥させ、冷却した後、質量W1を測定する。次に、サンプルをデシケータ内で水中に浸漬し、真空状態で1hr保持することで、強制的に開気孔を水で飽和させ、このときの質量W2を測定する。吸水率を下記式にて求める。
吸水率=(W2-W1)/W1×100(%)
【0045】
焼成変形量
本発明による陶器素地材料は、実用的に許容され得る4mm~13mmの広い範囲内で焼成変形量を自由に制御可能な陶器を製造することができる。
焼成変形量は、幅30mm、厚み15mm、長さ260mmの未焼成の試験片を焼成時にスパン200mmで支持しておき、焼成後のたわみ量と試験片の厚みを測定して求める。たわみ量は焼成後の試験片の厚みの二乗に反比例するので、下記式で、厚みが10mmの時に換算したたわみ量を焼成変形量とする。
焼成変形量=たわみ量測定値×(焼成後の試験片の厚み)2/102
【0046】
焼成収縮率
本発明による陶器素地材料は、実用的に許容され得る2.5%~7.0%の広い範囲内で焼成収縮率を自由に制御可能な陶器を製造することができる。
焼成収縮率は、素地材料の、幅25mm、厚み5mm、長さ230mmの焼成体テストピースを1000℃まで4時間で昇温し、さらに1200℃まで2時間で昇温し、1200℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却したときの焼成体テストピースの長手方向の収縮率とする。
【0047】
本発明による陶器素地材料により製造される陶器は、実用的に許容され得る広い範囲で焼成変形量および焼成収縮率を自由に制御可能とされるため、デザイン性に優れ、またデザインのバリエーションに柔軟に対応することができる。例えば、第1の素地材料の焼成時変形量、焼成収縮率は相対的に高いことを特徴とするが、第1の素地材料と第2の素地材料の混合比率を、前者を少なく、後者を多くすることで、陶器素地材料の焼成変形量および焼成収縮率を、第2の素地材料の焼成変形量および焼成収縮率に近づく方向、すなわち低焼成変形量および低焼成収縮率に制御することができる。また、例えば、第2の素地材料の吸水率は相対的に高いことを特徴とするが、第1の素地材料と第2の素地材料の混合比率を、前者を多く、後者を少なくすることで、陶器素地材料の吸水率を、第1の素地材料の吸水率に近づく方向、すなわち低吸水率に制御することができる。
【0048】
強度
本発明による陶器素地材料は、80MPa~120MPaの広い範囲内の良好な強度を備えた陶器を製造することができる。
強度は、φ13×130mmのテストピースを作製し、オートグラフによりスパン100mm、クロスヘッドスピード2.5mm/minの条件で3点曲げ試験を実施し測定する。
【0049】
耐熱衝撃性(耐急冷性)
本発明による陶器素地材料は、好ましくは120℃から150℃程度、より好ましくは130℃から150℃程度の耐熱衝撃性を有する陶器を製造することができる。
耐熱衝撃性は、幅25×厚み10×長さ110mmの焼成体テストピースを、所定温度で30分以上保持した後、水中に投入して急冷し、クラック発生の有無をチェックし評価する。10℃ずつ急冷温度を上げていき、クラックが生じない最大温度差を耐熱衝撃性として評価する。
【0050】
熱膨張性
本発明による陶器素地材料は、70×10-7/℃程度の熱膨張係数を有する陶器を製造することができる。
熱膨張性は、直径5mm、長さ20mmの焼成体テストピースを用い、示差膨張計によって、圧縮荷重法また測定温度範囲50~600℃にて線熱膨張係数を測定し評価する。
【0051】
耐貫入性
本発明による陶器素地材料は、耐貫入性を有する陶器を製造することができる。非熔化質素地材料単独では、十分な耐貫入性が得られないことを本発明者らは確認しているが、第1の素地材料と第2の素地材料とを含む本発明による陶器素地材料は良好な耐貫入性を得ることができる。
耐貫入性は、素地材料に、一般的に衛生陶器に使用されるブリストル釉をスプレー法により施釉後、焼成したものをサンプルとする。次に、JIS A 5207に準拠したオートクレーブを使用した貫入試験を実施し、試験体を赤インキに浸して、貫入の発生を目視で評価する。
【0052】
本発明による陶器素地材料により製造される陶器は、良好な強度、耐熱衝撃性、耐貫入性を備えているため、品質に優れている。
【実施例0053】
本発明を以下の実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
第1の素地材料の作製
原料として、骨格形成材料であるセリサイト陶石およびカオリン陶石を約48重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を約35重量%、主焼結助剤である長石を約15重量%、およびドロマイトを約2重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダを適量添加したものを一括してボールミルに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が58%、50%平均粒径(D50)が8.0μm程度になるまで湿式粉砕し、第1の素地材料を得た。
【0055】
第2の素地材料の作製
原料として、骨格形成材料である珪石およびα-アルミナを約64重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を約32重量%、および焼結助剤である長石を約4重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダを適量添加したものを一括してアイリッヒ インテンシブ ミキサー(マシーネンファブリーク グスタフ アイリッヒ社)に入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた攪拌混合の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が75%、50%平均粒径(D50)が5.0μm程度になる第2の素地材料を得た。
【0056】
陶器素地材料の作製
第1の素地材料および第2の素地材料を表4に記載の混合比で混合し、4種類の陶器素地材料を得た。混合は攪拌混合を用いて行った。
【0057】
成形体の作製
得られた各陶器素地材料を、石膏型を用いた泥漿鋳込み成形法により成形し、成形体を得た。
【0058】
焼成体の作製
得られた各成形体を、電気炉により焼成し、焼成体を得た。ヒートカーブの最高温度は約1200℃とした。得られた焼成体に対し後述する各種評価を行った。
【0059】
各陶器素地材料の焼成後の全体化学組成、結晶相およびガラス相の化学組成は表4に示すとおりであった。
【0060】
評価
4種類の陶器素地材料の特性を以下のとおり測定し、結果を表4に示した。
【0061】
吸水率
吸水率は、JIS A1509-3に則して測定した。素地材料の焼成体サンプルを110℃で24hr乾燥させ、冷却した後、質量W1を測定した。次に、サンプルをデシケータ内で水中に浸漬し、真空状態で1hr保持することで、強制的に開気孔を水で飽和させ、このときの質量W2を測定した。吸水率を下記式にて求めた。
吸水率=(W2-W1)/W1×100(%)
【0062】
焼成変形量
焼成変形量は、幅30mm、厚み15mm、長さ260mmの未焼成の試験片を焼成時にスパン200mmで支持しておき、焼成後のたわみ量と試験片の厚みを測定して求めた。たわみ量は焼成後の試験片の厚みの二乗に反比例するので、下記式で、厚みが10mmの時に換算したたわみ量を焼成変形量とした。
焼成変形量=たわみ量測定値×(焼成後の試験片の厚み)2/102
【0063】
焼成収縮率
焼成収縮率は、素地材料の、幅25mm、厚み5mm、長さ230mmの焼成体テストピースを1000℃まで4時間で昇温し、さらに1200℃まで2時間で昇温し、1200℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却したときの焼成体テストピースの長手方向の収縮率とした。
【0064】
強度
強度は、素地材料の、φ13×130mmの焼成体テストピースを作製し、オートグラフによりスパン100mm、クロスヘッドスピード2.5mm/minの条件で3点曲げ測定を行った。
【0065】
耐熱衝撃性(耐急冷性)
耐熱衝撃性は、幅25×厚み10×長さ110mmの焼成体テストピースを、所定温度で30分以上保持した後、水中に投入して急冷し、クラック発生の有無をチェックし評価した。10℃ずつ急冷温度を上げていき、クラックが生じない最大温度差を耐熱衝撃性として示した。
【0066】
熱膨張性
熱膨張性は、直径5mm、長さ20mmの焼成体テストピースを用い、示差膨張計によって、圧縮荷重法また測定温度範囲50~600℃にて線熱膨張係数を測定し評価した。
【0067】
耐貫入性
耐貫入性は、素地材料に、一般的に衛生陶器に使用されるブリストル釉をスプレー法により施釉後、焼成したものをサンプルとした。次に、JIS A 5207に準拠したオートクレーブを使用した貫入試験を実施し、焼成体サンプルを赤インキに浸して、貫入の発生を目視で評価した。
【0068】