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特開2023-495保温性繊維構造物並びに該繊維構造物を含有する防寒用品及び災害備蓄用毛布
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  • 特開-保温性繊維構造物並びに該繊維構造物を含有する防寒用品及び災害備蓄用毛布 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000495
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】保温性繊維構造物並びに該繊維構造物を含有する防寒用品及び災害備蓄用毛布
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/83 20060101AFI20221222BHJP
   D06M 17/00 20060101ALI20221222BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20221222BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20221222BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20221222BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20221222BHJP
   A47G 9/06 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
D06M11/83
D06M17/00 H
D03D15/00 A
D03D1/00 Z
D04B1/16
D04B21/16
A47G9/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101355
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】津山 憲
(72)【発明者】
【氏名】小野 宏
(72)【発明者】
【氏名】清水 治貴
【テーマコード(参考)】
4L002
4L031
4L032
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA04
4L002AA05
4L002AA08
4L002AB01
4L002AB02
4L002AC00
4L002BA00
4L002CA00
4L002EA00
4L002EA03
4L002FA00
4L031AA02
4L031AA16
4L031AB01
4L031AB31
4L031BA04
4L032AA03
4L032AA05
4L032AB01
4L032AC01
4L032DA01
4L048AA07
4L048AA13
4L048AA16
4L048AA42
4L048AA53
4L048AA54
4L048AB01
4L048AB06
4L048AC00
4L048AC14
4L048AC15
4L048CA00
4L048CA06
4L048CA07
4L048DA13
(57)【要約】
【課題】従来、衣服や寝具などの繊維製品に対しより効果的な保温性を付与する試みがなされており、編織物に吸湿発熱性を有する繊維を用いる、不織布の片面に金属層を形成し、人の身体表面から常に放射されている赤外線を反射することで保温効果を生み出すなど、様々な方策が提案されている。しかし、十分な保温性が得られない、発熱の持続性に焦点が当てられていないなど、従来品にはまだ達成すべき課題があり、改良の余地がある。本発明の目的は、高い保温性を持続できる保温性繊維構造物および該繊維構造物を活用した防寒用品や災害備蓄用毛布を提供することにある。
【解決手段】高吸湿速度を有する繊維および吸湿発熱持続性繊維を含有する編物、織物又は不織布と、少なくとも一部が金属で被覆された編物、織物又は不織布を積層してなる保温性繊維構造物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速吸湿度を有する繊維および吸湿発熱持続性繊維を含有する編物、織物又は不織布と、少なくとも一部が金属で被覆された編物、織物又は不織布を積層してなる保温性繊維構造物。
【請求項2】
高吸湿速度を有する繊維が、アクリレート系繊維および/またはセルロース系繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載の保温性繊維構造物。
【請求項3】
セルロース系繊維が、難燃レーヨンを含むことを特徴とする請求項2に記載の保温性繊維構造物。
【請求項4】
吸湿発熱持続性繊維が、Mgおよび/またはCa塩型カルボキシ基を有するアクリレート系繊維を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の保温性繊維構造物。
【請求項5】
被覆に用いる金属がアルミニウムを含むことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の保温性繊維構造物。
【請求項6】
厚みが6mm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の保温性繊維構造物。
【請求項7】
目付が500g/m以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の保温性繊維構造物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の保温性繊維構造物を含有する防寒用品又は災害備蓄用毛布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保温性繊維構造物並びに該繊維構造物を含有する防寒用用品及び災害備蓄用毛布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣服や寝具などの繊維製品に対し、より効果的な保温性を付与する試みがなされてきた。例えば特許文献1では、水分を吸収したときに発熱する繊維、いわゆる吸湿発熱繊維を用いた編織物が報告されている。
【0003】
また特許文献2で報告されている不織布は、該不織布の片面に金属層を形成することで人の身体表面から常に放射されている赤外線を反射し、保温効果を生み出している。
【0004】
さらに特許文献3では、吸湿発熱繊維と金属層を併用することでさらなる保温効果を狙った防寒衣料品も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-31796号公報
【特許文献2】特開2012-241292号公報
【特許文献3】特開2012-192547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2では得られる保温性が十分とは言えず、特許文献3は発熱の持続性については考えられていないため、改良の余地がある。本発明の目的は、高い保温性を持続できる保温性繊維構造物および該繊維構造物を活用した防寒用品や災害備蓄用毛布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、高吸湿速度を有する繊維と吸湿発熱持続性繊維を併用することで、即効かつ持続的な吸湿発熱性を実現し、これら2種類の吸湿発熱繊維を含有する繊維構造物に金属で被覆された繊維構造物を積層することでさらなる保温効果をもたらすことに成功した。
【0008】
即ち、本発明は以下の手段により達成される。
(1)高吸湿速度を有する繊維および吸湿発熱持続性繊維を含有する編物、織物又は不織布と、少なくとも一部が金属で被覆された編物、織物又は不織布を積層してなる保温性繊維構造物。
(2)高吸湿速度を有する繊維が、アクリレート系繊維および/またはセルロース系繊維を含むことを特徴とする(1)に記載の保温性繊維構造物。
(3)セルロース系繊維が、難燃レーヨンを含むことを特徴とする(2)に記載の保温性繊維構造物。
(4)吸湿発熱持続性繊維が、Mgおよび/またはCa塩型カルボキシ基を有するアクリレート系繊維を含むことを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の保温性繊維構造物。
(5)被覆に用いる金属がアルミニウムを含むことを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の保温性繊維構造物。
(6)厚みが6mm以下であることを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の保温性繊維構造物。
(7)目付が500g/m以下であることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の保温性繊維構造物。
(8)(1)~(7)のいずれかに記載の保温性繊維構造物を含有する防寒用品又は災害備蓄用毛布。
【発明の効果】
【0009】
本発明の保温性繊維構造物は、優れた保温効果を即効かつ持続的にもたらすものである。かかる性能を有する本発明の保温性繊維構造物は、例えば衣料や寝具に用いることで効果的な保温性を有する防寒用品とすることができる。さらに、該保温性繊維構造物を用いた毛布は、薄く、軽量でも保温性を十分発揮できるため、平時では大量に備蓄され、災害避難時に避難所などで用いられる簡易毛布(防災毛布)として好適に選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】各実施例、比較例の繊維構造物の吸湿発熱性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明における高吸湿速度を有する繊維(以下、「繊維A」ともいう。)とは、吸湿初期の吸湿量が大きく、これに伴い吸湿初期の発熱量も大きい繊維であって、具体的には、後述する測定方法における吸湿開始5分後の温度が22.0℃以上、好ましくは22.5℃以上の吸湿発熱繊維である。前記温度が22.0℃以上の場合、本発明の保温効果の即効性を得ることができる。かかる繊維Aとしては、セルロース系繊維(例えば、綿、レーヨンなど)、合成繊維(例えばアクリレート系繊維など)、動物繊維(例えば羊毛など)が例として挙げられる。なかでも架橋構造とカルボキシ基を有するアクリレート系繊維は、飽和吸湿量が多いことから好ましく、とりわけナトリウムまたはカリウム塩型カルボキシ基を有するアクリレート系繊維は吸湿速度が高いことから特に好ましい。また、セルロース系繊維である難燃レーヨンは、本発明の保温性繊維構造物を防火性が求められる用途に展開する場合、好適に用いることができる。なお、繊維Aとしては、必要に応じてこれらの繊維を併用してもよい。
【0012】
かかるアクリレート系繊維としては、例えば、特開2000-314082号公報に開示されている、アクリロニトリル含有率が85~95重量%であるアクリロニトリル系繊維に対するヒドラジン系化合物による架橋処理によって導入される窒素含有量の増加が、1.0~5.0重量%である架橋アクリロニトリル系繊維であって、残存ニトリル基の一部が加水分解処理により3.0~6.0mmol/gのアルカリ金属塩型カルボキシ基に変換されており、しかも20℃×50%RH条件と20℃×95%RH条件との吸湿率差が50重量%以上150重量%以下であるいる吸放湿性繊維を挙げることができる。
【0013】
また、このほか、架橋構造とカルボキシ基を有するアクリレート系繊維としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、東洋紡(株)製のエクス(登録商標)、ディスメル(登録商標)、モイスファイン(登録商標)、モイスケア(登録商標)、帝人フロンティア(株)製のサンバーナー(登録商標)などを挙げることができる。
【0014】
本発明における吸湿発熱持続性繊維(以下、「繊維B」ともいう。)とは、長時間にわたり吸湿し続け、発熱が持続する繊維であって、後述する測定方法における吸湿開始後5分時点の温度に対する60分時点の温度低下率が40%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である吸湿発熱繊維である。このため、繊維Aと繊維Bを併用する本発明の保温性繊維構造物においては、発熱即効性と発熱持続性を両立した優れた保温性を得られる。
【0015】
かかる繊維Bとしては、カルボキシ基の対イオンがマグネシウムイオン又はカルシウムイオンであるMg塩型又はCa塩型アクリレート系繊維が例示できる。なかでもMg塩型アクリレート系繊維は難燃性が高いため、本発明の保温性繊維構造物を防火性が求められる用途などに展開する際、該繊維を好適に採用できる。
【0016】
かかるMg塩型又はCa塩型アクリレート系繊維としては、上述した公知または市販品のアクリレート系繊維の有するカルボキシ基の対イオンをマグネシウムイオンやカルシウムイオンに変換したものを挙げることができる。変換の方法としては、これらの公知または市販品のアクリレート系繊維をマグネシウムやカルシウムの硫酸塩、硝酸塩などの水溶液に浸漬してイオン交換する方法が挙げられる。また、特開2000-314082号公報のような製法であれば、加水分解処理においてアルカリ性のマグネシウム化合物やカルシウム化合物を用いる方法も採用しうる。
【0017】
また、かかるMg塩型又はCa塩型アクリレート系繊維の含有する塩型カルボキシ基量としては、上述した温度低下率を実現できる量であればよく、好ましくは2.0~10.0mmol/g、より好ましくは2.5~8.0mmol/g、さらに好ましくは3.0~7.0mmol/gである。
【0018】
本発明における高吸湿速度を有する繊維及び吸湿発熱持続性繊維を含有する編物、織物又は不織布(以下、「吸湿発熱層」ともいう)は、上述した発熱即効性と発熱持続性を両立した優れた保温性を得る観点から、前記繊維Aを好ましくは30~70重量%、より好ましくは35~65重量%、前記繊維Bを好ましくは10~50重量%、より好ましくは15~45重量%含むものである。また、かかる吸湿発熱層においては、これら2種の繊維の他にも、目的に応じて、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などの別の種類の繊維を用いてもよい。
【0019】
また、吸湿発熱層は混紡、精紡交撚、コアヤーン、均一混合複合紡績、合撚、混繊などで得られた糸を用いた製編、製織やニードルパンチ、スパンレース、ステッチボンド、サーマルボンドなどの不織布製造法などの従来公知の方法で製造することができる。
【0020】
なお、上記糸については、繊維Aと繊維Bを混合した糸であってもよいし、繊維Aを含む糸と繊維Bを含む糸を別々に作製してもよい。後者の場合、交編や交織により、一つの編物や織物としたり、それぞれの糸から別々の編物、織物を作製し、これらを積層したりしてもよい。また、上記不織布製造法においても、繊維Aと繊維Bの両者を混綿してから不織布としてもよいし、繊維Aを含む不織布と繊維Bを含む不織布を積層して一つの不織布としてもよい。
【0021】
吸湿発熱層の目付は、特に限定されないが、上述の保温性を実用上十分に得ながら、軽量化する観点から、下限としては好ましくは30g/m以上、より好ましくは50g/m以上、上限としては好ましくは400g/m以下、より好ましくは300g/m以下である。
【0022】
本発明における少なくとも一部が金属で被覆された編物、織物又は不織布(以下、「赤外反射層」ともいう)は上述した吸湿発熱層や人体から発せられた熱を反射することにより、熱の外部への放散を抑制して保温性を高める機能を有している。かかる赤外反射層としては、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン、金、銀、銅、スズ、プラチナ、クロム、ニッケル或はこれらの合金などといった赤外線を反射する金属を用い、蒸着やスパッタリングなどの方法によって、編物、織物又は不織布の片面において少なくとも一部に金属層形成させたものが例示できる。中でも、金属はコスト面からアルミニウムまたはアルミニウムとその他金属の合金が好ましく、被覆方法は生産効率の観点から真空蒸着法やイオンビーム蒸着法などが好ましい。
【0023】
形成する金属膜の厚みは、下限としては好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上であり、上限としては好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下である。厚みが薄くなり過ぎると、赤外線反射および遮蔽による保温効果、実使用における耐久性が不十分になる場合がある。また、厚みが厚くなり過ぎると、基材の風合いや通気度の悪化につながり、なおかつ金属の変色等の現象も起こりやすくなる。
【0024】
金属で被覆される編物、織物又は不織布については特に限定されるものではなく、通気性や風合い、伸縮性など求められる性能に応じて選択できる。織物や、丸編みや経編みの様な編物、上述した従来公知の不織布製造法で得られた不織布などを使用することができる。また、編物、織物の組織についても特に限定しないが、表面が凸凹ではなく、平滑なものが金属膜の耐久性の点から好適である。平滑な組織とは、例えば、編物の場合は天竺やスムース等であり、織物の場合は平織やリップ組織、朱子織等が挙げられる。
【0025】
前記編物、織物又は不織布を構成する繊維としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維、ポリイミド繊維などの合成繊維を挙げることができる。前記繊維は、単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用しても良い。これらの中でも、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維が、吸湿性が低いため特に好ましい。一方、天然繊維や再生繊維、半合成繊維の場合、素材の持つ吸湿性により物理蒸着工程時に必要となる真空化が難しく、その結果、蒸着が出来なかったり、金属薄膜の接着性が不十分になったりする。しかし真空化を大きく阻害しない程度の混用は可能である。混用方法としては、例えば天然繊維に綿を使用する場合、ポリエステル短繊維と綿を混紡したものを織物に交織したり、編物に交編したりしても良い。また綿100%の紡績糸を用いて、織物の経緯糸の一部に配列しても良い。
【0026】
前記編物、織物又は不織布の目付は、特に限定されないが、下限としては、好ましくは15g/m以上、より好ましくは20g/m以上、上限としては、好ましくは300g/m以下、より好ましくは250g/m以下である。かかる目付の範囲にすることにより、一般的な衣料品や寝具などの肌に接する用途に好適に使用することができる。
【0027】
前記編物、編物又は不織布を製造する方法として、特に限定されず、上述した従来公知の方法により製造することができ、一般的な精練、漂白、染色、乾燥、熱セットなどの工程を施した後に、十分に乾燥しておくことが好ましい態様である。乾燥しておくことにより、物理蒸着工程に必要となる真空化が阻害されない。
【0028】
また、片面に金属アルミニウムが蒸着された不織布として、東洋紡(株)製のメタルギア(登録商標)が市販されており、本発明の赤外反射層として好適に用いることができる。
【0029】
本発明の保温性繊維構造物は、上記の吸湿発熱層と赤外反射層を積層していることを特徴とする。該保温性繊維構造物における吸湿発熱層と赤外反射層の含有率はそれぞれ好ましくは60~90重量%、10~40重量%であり、より好ましくは65~85重量%、15~35重量%である。
【0030】
また、本発明の保温性繊維構造物としては、吸湿発熱層と赤外反射層を1層ずつ積層した2層構造のもののほか、本発明の目的を阻害しない限り、吸湿発熱層の両面に赤外反射層を積層した3層構造のもの、赤外反射層の両面に吸湿発熱層を積層した3層構造のものや上記2層に加え新たな層を設けたものでもよい。
【0031】
本発明の保温性繊維構造物の厚さについては、風合いや機能を損なわない範囲内であれば特に制限はないが、該繊維構造物を大量に保管される災害備蓄用毛布など収納性(軽さ、折りたたみやすさなど)が重視される製品に用いる場合、厚さは好ましくは6mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは4mm以下である。
【0032】
本発明における保温性繊維構造物の目付については、厚さと同様に機能や風合いを損なわない限り特に制限はないが、取り扱い性や収納性を考慮した場合、該繊維構造物の目付は好ましくは500g/m以下、より好ましくは450g/m以下、さらに好ましくは400g/m以下である。
【0033】
また本発明の保温性繊維構造物に対し、毛羽立ちによる風合いや外観の劣化を防止するために表面樹脂加工を施してもよい。このとき、該保温性繊維構造物の難燃性の低下を防ぐため、使用する樹脂としては難燃性を有する樹脂であることが望ましい。
【0034】
本発明の保温性繊維構造物の製造方法としては、特に制限はなく、上記の吸湿発熱層と赤外反射層を含む各層間を、熱融着樹脂による接着、縫製、ニードルパンチなどの従来公知の方法によって積層一体化する方法が適用できる。
【0035】
本発明の保温性繊維構造物は、衣料や寝具に用いることで効果的な保温性を有する防寒用品とすることができる。また、上記の吸湿発熱層においてアクリレート系繊維を採用した場合には、保温性のみならず、アクリレート系繊維由来の諸機能、例えば、消臭性、抗菌性なども付加でき、不快な汗臭や雑菌繁殖を抑制できる。さらに、該保温性繊維構造物を用いた毛布は薄く、軽量でも保温性を十分発揮できる。このため、本発明の保温性繊維構造物は、災害避難時に避難所などで用いられる簡易毛布(防災毛布)として好適に用いることができ、避難所の衛生環境の向上や防寒対策などに有効なものである。
【実施例0036】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の評価に用いた測定方法は、以下の通りである。
【0037】
(1)塩型カルボキシ基量
十分乾燥した試料約1gを精秤し(X[g])、これに200mlの水を加えた後、50℃に加温しながら1mol/l塩酸水溶液を添加してpH2にし、次いで0.1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求める。該滴定曲線からカルボキシ基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(Y[ml])を求め、次式によってカルボキシ基量を算出した。
カルボキシ基量[mmol/g]=0.1Y/X
別途、上述のカルボキシ基量測定操作中の1mol/l塩酸水溶液の添加によるpH2への調整をすることなく同様に滴定曲線を求めH型カルボキシ基量を求める。これらの結果から次式により塩型カルボキシ基量を算出した。
塩型カルボキシ基量[mmol/g]=(カルボキシ基量)-(H型カルボキシ基量)
【0038】
(2)吸湿発熱性
試料(原料綿の場合はカードウェブとしたもの)を105℃熱風乾燥器で16時間以上乾燥した後、試料7.0gを精秤し、20℃、40%RH条件の恒温恒湿機に24時間以上放置する。その後、該試料を20℃、90%RH条件の恒温恒湿機内部の吸湿発熱測定センサーに設置し、吸湿発熱測定器で吸湿発熱温度を経時的に測定し、吸湿開始後0分、5分、60分の試料温度(それぞれT0[℃]、T5[℃]、T60[℃])を求めた。また、かかる測定の結果から、下記式により、温度低下率を求めた。
温度低下率[%]={(T5-T60)/(T5-T0)}×100
なお、上記の「RH」は相対湿度の意味であり、「40%RH」とは相対湿度が40%であることを示す。
【0039】
実施例1
(1)Mg塩型アクリレート系繊維の準備
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%のアクリロニトリル系重合体を48%のロダンソーダ水溶液で溶解した紡糸原液を作成し,常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理をして、0.9(dtex)×70(mm)の原料繊維を得た。この原料繊維1kgに30重量%の水加ヒドラジン5kgを加え、98℃で3時間架橋処理した。該架橋繊維を水洗後、更に3重量%の水酸化ナトリウム水溶液9kgを加え、92℃で5時間加水分解した。次いで、1mol/l硝酸水溶液で処理して、カルボキシ基をH型に変換し、水洗後、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整,水洗し,ナトリウム塩型アクリレート系繊維を得た。そののち、さらに10%硝酸マグネシウム水溶液8kgを添加し、60℃で2時間Mg塩型への変換処理を行ない,十分水洗した後、脱水及び乾燥を行い目的のMg塩型アクリレート系繊維を得た。このアクリレート系繊維のMg塩型カルボキシ基量は5.2mmol/gであった。また、吸湿発熱性測定の結果、温度低下率は-5.3%であった。
【0040】
(2)保温性繊維構造物の作製
ダイワボウレーヨン(株)製の難燃性レーヨンであるDFG(登録商標)-1.7T51(上記吸湿発熱性の測定による吸湿開始5分後の温度は23.1℃)、上記方法により得たMg塩型アクリレート繊維および日本エクスラン工業(株)製のアクリル繊維であるK8-1.7T51を50:30:20の重量比として均一に混合して吸湿発熱層となる目付110g/mのカードウェブを作製した。次に、該カードウェブに、赤外反射層として、金属アルミニウムが蒸着された不織布である東洋紡(株)製のメタルギア(登録商標、目付30g/m)を蒸着面が内側となるように積層させたのち、ニードルパンチ加工を施して一体化させることで不織布を得た。その後、得られた不織布の両面に難燃性樹脂として日信化学工業(株)製の塩化ビニルエマルション(ビニブラン(登録商標)278)を約10g/mとなるようにコーティングし、実施例1の繊維構造物(厚さ3mm、目付149g/m)を得た。また、該繊維構造物の45°メセナミン法による防炎試験結果は最大炭化長3.9cm、平均炭化長3.7cmであり、日本防炎協会設置の防炎製品認定委員会の定めた防炎性能基準(毛布類)に合格するものであった。
【0041】
比較例1
実施例1において、吸湿発熱層の組成を、実施例1記載のMg塩型アクリレート系繊維と東レ(株)製のポリフェニレンサルファイド繊維であるトルコン(登録商標)を30:70の重量比とするほかは実施例1と同様に加工することで、比較例1の繊維構造物(厚さ3mm、目付136g/m)を得た。
【0042】
比較例2
市販の難燃ポリエステル毛布(厚さ6mm、目付517g/m)を比較例2として用いた。
【0043】
比較例3
市販のアクリル系毛布を比較例3として用いた。
【0044】
実施例1、比較例1~3で得た繊維構造物について、前述の方法で吸湿発熱性測定を行い、測定結果を図1のグラフに示した。
【0045】
図1のグラフから、実施例1の繊維構造物は初期発熱速度が大きく、また温度低下しにくいものであることがわかる。この結果は、実施例1の繊維構造物が発熱即効性、発熱持続性ともに優れていることを示している。これに対して、比較例1の繊維構造物は繊維Aを含有していないため、発熱即効性に劣るものであった。また、従来例である比較例2および3の繊維構造物は、吸湿発熱層および赤外反射層を有しておらず、発熱即効性、発熱持続性ともに劣るものであった。
図1