(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049521
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】固体電解質層を有する多孔質樹脂シート
(51)【国際特許分類】
H01M 50/451 20210101AFI20230403BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20230403BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20230403BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20230403BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20230403BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230403BHJP
H01M 10/056 20100101ALI20230403BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/414
H01M50/446
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M10/052
H01M10/056
B32B27/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159304
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】515090628
【氏名又は名称】株式会社スリーダムアライアンス
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】上田 浩視
(72)【発明者】
【氏名】金村 聖志
【テーマコード(参考)】
4F100
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
4F100AA33A
4F100AK49B
4F100AK54A
4F100BA02
4F100DE01A
4F100DJ00B
4F100EH46A
4F100EJ05A
4F100GB41
4F100GB56
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE22
5H021HH01
5H021HH03
5H021HH10
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL12
5H029AM09
5H029AM12
5H029CJ08
5H029DJ04
5H029DJ12
5H029DJ13
5H029DJ16
5H029EJ05
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ04
(57)【要約】
【課題】リチウム二次電池のセパレータとして用いた際に電池の性能を向上させることができる多孔質樹脂シートを提供する。
【解決手段】芳香族ポリイミドからなる多孔質樹脂シートの少なくとも片面上に、Li、La、及びZrを少なくとも含む複合金属酸化物粒子と、前記複合金属酸化物粒子を結着するバインダーとを含む固体電解質層を設ける。バインダーは、直鎖状エーテル骨格を主鎖とし、部分的にエーテル骨格が分岐した構造を有する架橋重合体である。固体電解質層は、前記複合金属酸化物粒子と、前記重合体と、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、トルエン、及びメチルシクロヘキサンから選択される少なくとも1種類の溶媒とを含む、スラリー組成物を用いて形成することが好ましい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層を少なくとも片面上に有する多孔質樹脂シートであって、
前記固体電解質層が、Li、La、及びZrを少なくとも含む複合金属酸化物粒子と、前記複合金属酸化物粒子を結着するバインダーとを含み、
前記バインダーが、直鎖状エーテル骨格を主鎖とし、部分的にエーテル骨格が分岐した構造を有する架橋重合体を含み、
前記樹脂が、芳香族ポリイミドである、上記多孔質樹脂シート。
【請求項2】
前記複合金属酸化物粒子が、Al及び/又はTaをさらに含む、請求項1に記載の多孔質樹脂シート。
【請求項3】
前記複合金属酸化物粒子と前記バインダーとの混合比率が、質量比で90:10~99:1の範囲である、請求項1または2に記載の多孔質樹脂シート。
【請求項4】
前記固体電解質層の厚さが2μm以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の多孔質樹脂シート。
【請求項5】
正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に配置される請求項1から4のいずれか一項に記載の多孔質樹脂シートを有するリチウム二次電池。
【請求項6】
前記負極における負極活物質がリチウム金属であり、前記多孔質樹脂シートの前記負極に対向する面に前記固体電解質層が少なくとも設けられている、請求項5に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
Li,La、及びZrを少なくとも含む複合金属酸化物粒子、
直鎖状エーテル骨格を主鎖とし、部分的にエーテル骨格が分岐した構造を有する架橋重合体、及び
シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、トルエン、及びメチルシクロヘキサンから選択される少なくとも1種類の溶媒
を含む、スラリー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質層を少なくとも片面上に有する多孔質樹脂シート及び当該多孔質樹脂シートを有するリチウム二次電池に関する。また、多孔質樹脂シート上に固体電解質層を形成するためのスラリー組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の一種であるリチウムイオン電池は、電解液に浸された正極と負極との間にセパレータが配置され、セパレータによって正極と負極との間の直接の電気的接触を防ぐ構造となっている。正極にはリチウム遷移金属酸化物が用いられ、負極には例えばリチウムやカーボン(グラファイト)等が用いられる。充電時には、リチウムイオンが正極からセパレータを通過して負極へ移動し、放電時には、リチウムイオンが負極からセパレータを通過して正極へ移動する。このようなセパレータとして、近年、例えば、耐熱性が高く安全性の高い多孔性のポリイミド膜からなるセパレータを用いることが検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるような多孔性の樹脂膜からなるセパレータは、リチウム二次電池で使用するのに適しているが、このようなセパレータを用いた際の電池の性能をさらに向上させることができる技術を開発することは望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記のような多孔質樹脂膜をリチウム二次電池のセパレータとして用いた際の電池の性能について調査した。その結果、膜を構成する樹脂が例えば芳香族ポリイミドのように芳香環を有する樹脂である場合、充放電を繰り返すにしたがい、リチウムイオンがセパレータの樹脂に吸着することを発見した。リチウムイオンがセパレータの樹脂に吸着すると、電池の容量低下の原因となり得る。本発明者らは、芳香環を有する樹脂で作製され、かつリチウムイオンの吸着が抑制されたセパレータについてさらに研究を行った結果、芳香環を有する樹脂で作製された多孔質樹脂シートをリチウム二次電池のセパレータとして用いる場合、多孔質樹脂シートの少なくとも片面上、特に負極に面する側に、特定の固体電解質層を設けることにより、セパレータである多孔質樹脂シートへのリチウムイオンの吸着を低減させることができることを見出した。また、この固体電解質層を有する多孔質樹脂シートをリチウム二次電池の正極と負極との間に配置するセパレータとして用いることにより、リチウム二次電池の容量の低下を抑制することができることを見出した。また、多孔質樹脂シート上に固体電解質層を形成する際に好適に使用することができるスラリーの組成も見出した。本発明は以下の態様を含む。
[1]固体電解質層を少なくとも片面上に有する多孔質樹脂シートであって、
前記固体電解質層が、Li、La、及びZrを少なくとも含む複合金属酸化物粒子と、前記複合金属酸化物粒子を結着するバインダーとを含み、
前記バインダーが、直鎖状エーテル骨格を主鎖とし、部分的にエーテル骨格が分岐した構造を有する架橋重合体を含み、
前記樹脂が、芳香族ポリイミドである、上記多孔質樹脂シート。
[2]前記複合金属酸化物粒子が、Al及び/又はTaをさらに含む、[1]に記載の多孔質樹脂シート。
[3]前記複合金属酸化物粒子と前記バインダーとの混合比率が、質量比で90:10~99:1の範囲である、[1]または[2]に記載の多孔質樹脂シート。
[4]前記固体電解質層の厚さが2μm以上である、[1]から[3]のいずれか一項に記載の多孔質樹脂シート。
[5]正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に配置される[1]から[4]のいずれか一項に記載の多孔質樹脂シートを有するリチウム二次電池。
[6]前記負極における負極活物質がリチウム金属であり、前記多孔質樹脂シートの前記負極に対向する面に前記固体電解質層が少なくとも設けられている、[5]に記載のリチウム二次電池。
[7]Li,La、及びZrを少なくとも含む複合金属酸化物粒子、
直鎖状エーテル骨格を主鎖とし、部分的にエーテル骨格が分岐した構造を有する架橋重合体、及び
シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、トルエン、及びメチルシクロヘキサンから選択される少なくとも1種類の溶媒
を含む、スラリー組成物。
【発明の効果】
【0006】
芳香環を有する樹脂を用いた多孔質樹脂シートの少なくとも片面上に、Li、La、及びZrを少なくとも含む複合金属酸化物粒子とエーテル骨格を有する重合体であるバインダーとを含む固体電解質層を設けることにより、多孔質樹脂シートをリチウム二次電池のセパレータとして用いた際の、セパレータへのリチウムの吸着を低減させることができる。これにより、リチウム二次電池の容量の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例の試験2において、4.3Vフロート試験を行う前の手順2における0.05C充放電曲線である。グラフ中に実線で表される「3DOMセパ」は試験2における比較例1に相当し、点線で表される「3DOM+Ta-LLZセパ」は実施例2に相当し、破線で表される「3DOM+Al-LLZセパ」は実施例1に相当する。
【
図2】実施例の試験2において、4.3Vフロート試験を4回繰り返した後の手順6の4回目の0.05C充放電曲線である。グラフ中に実線で表される「3DOMセパ」は試験2における比較例1に相当し、点線で表される「3DOM+Ta-LLZセパ」は実施例2に相当し、破線で表される「3DOM+Al-LLZセパ」は実施例1に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の多孔質樹脂シートは、樹脂が芳香族ポリイミドであり、Li、La、及びZrを少なくとも含む複合金属酸化物粒子とバインダーとを含む固体電解質層がシートの少なくとも片面上に設けられている。バインダーは、直鎖状エーテル骨格を主鎖とし、部分的にエーテル骨格が分岐した構造を有する架橋重合体である。これにより、多孔質樹脂シートをリチウム二次電池のセパレータとして用いた際に、セパレータへのリチウムイオンの吸着を低減させることができ、電池容量の低下を抑制することができる。
【0009】
(樹脂)
本発明の多孔質樹脂シートに用いられる樹脂は、芳香族ポリイミドである。本発明者らは、芳香環を有する樹脂をリチウム二次電池のセパレータ用の多孔質樹脂シートに用いた場合に、リチウムイオンが樹脂に吸着しやすいことを見出した。リチウムイオンが樹脂に吸着するメカニズムは明らかではないが、リチウムイオンが芳香族ポリイミドの芳香環部分に結合ないし配位するのではないかと推測している。本発明は、多孔質樹脂シートの少なくとも片面上、特に電池に組み立てた場合に負極に面する側に、特定の固体電解質の層を設けることにより、リチウムイオンが吸着しやすい芳香環を有する芳香族ポリイミドを多孔質樹脂シートの材料として用いた場合でも、リチウムイオンの吸着を抑制することができる。
【0010】
芳香族ポリイミドは、耐熱性が高い点から、リチウム二次電池用の多孔質樹脂シートに用いるのに適している。
(多孔質樹脂シート)
上記の樹脂からなる多孔質のシートは、市販品を用いてもよいし、公知の方法を用いて製造したものを用いてもよい。多孔質樹脂シートの製造方法としては、例えば、孔の鋳型となる微粒子を分散してなる樹脂のスラリーまたは樹脂の前駆体のスラリーを準備し、この微粒子と樹脂を含むスラリーを用いて膜を形成した後、微粒子を除去することによって、多孔質の樹脂膜を形成させる方法や、孔の鋳型となる微粒子をフィルター上に堆積させるなどして予め多孔質の孔を形成するための鋳型を形成しておき、ここに樹脂又は樹脂の前駆体のスラリーを注ぎ入れ、樹脂を硬化させた後に鋳型を除去することによって、多孔質の樹脂膜を形成させる方法、などを挙げることができる。
【0011】
芳香族ポリイミドの多孔質シートを製造する場合、孔の鋳型となる微粒子を均一に分散してなる芳香族ポリイミド前駆体スラリーを任意の基体の表面に塗布し、次いでポリイミド化反応を行って微粒子と芳香族ポリイミドを含有する複合膜を形成し、複合膜から微粒子を除去することによって、多孔質芳香族ポリイミドシートを製造することができる。また、上述した特許文献1に記載されるように、シリカ粒子などの微粒子をフィルター上に堆積させた後に焼結して孔の鋳型を形成し、この孔の鋳型の空隙に芳香族ポリイミド又は芳香族ポリイミド前駆体を充填し、次いで、鋳型であるシリカ粒子を除去することによって、多孔質芳香族ポリイミドシートを製造してもよい。
【0012】
芳香族ポリイミド前駆体スラリーは、酸無水物である芳香族テトラカルボン酸成分と、ジアミン成分である芳香族ジアミン成分とからなるポリアミド酸の溶液であることが好ましい。ポリイミド化反応としては、熱イミド化または化学イミド化のいずれを用いてもよい。
【0013】
孔の鋳型として用いられる微粒子の材質は、樹脂又は樹脂前駆体のスラリーに使用される溶媒に不溶であり、かつ、成膜後に選択的に除去可能なものであればよい。例えば、無機材料としては、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al2O3)等の金属酸化物、有機材料としては、高分子量オレフィン(ポリプロピレン,ポリエチレン等)、ポリスチレン、アクリル系樹脂(メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等)、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル等の有機高分子の微粒子が挙げられる。
【0014】
複合膜からの微粒子の除去方法としては、例えば、微粒子としてシリカを使用した場合、複合膜に低濃度のフッ化水素水(HF)等を適用してシリカを溶解除去する方法を挙げることができる。また、微粒子が有機高分子の微粒子の場合は、有機高分子微粒子の熱分解温度以上、かつ、複合膜に用いた樹脂の熱分解温度未満の温度に加熱し、微粒子を分解させる方法を挙げることができる。複合膜から、微粒子を適切な方法を選択して除去することにより、多孔質樹脂シートを製造することができる。複合膜において微粒子が互いに接触していた部分は、微粒子が除去された後、複数の孔が連通している連通孔となる。
【0015】
多孔質樹脂シートの空孔率は、55~85%が好ましく、62~80%がさらに好ましい。空孔率は、例えば、樹脂又は樹脂前駆体と、孔の鋳型となる微粒子との混合比を調整することにより、調整することができる。
【0016】
多孔質樹脂シートにおける各孔のサイズは、50~2500nm程度であることが好ましく、100~2000nmがより好ましく、150~1500nmがさらに好ましい。孔のサイズは、孔の鋳型となる微粒子の種類や大きさを調整することにより、調整することができる。孔のサイズは、走査型電子顕微鏡像から画像解析を用いて測定することができる。
多孔質樹脂シートにおける各孔は、孔径のばらつきが少なく、また、分布もより均一であることが好ましい。そのようなシートは、例えば、孔の鋳型となる微粒子として真球度が高く、かつ孔径のばらつきが少ない微粒子を用い、また、樹脂又は樹脂前駆体と微粒子とを含むスラリーの粘度をスラリーの固形分量を調整するなどして均一な塗布が可能な程度に調整するなどにより製造することができる。
【0017】
多孔質樹脂シートの厚みは、1μm以上が好ましく、5~500μmがより好ましく、10~100μmがさらに好ましい。シートの厚みは、例えば、マイクロメータ等で複数個所の厚さを測定し平均値を算出することにより求めることができる。
【0018】
(固体電解質)
本発明の多孔質樹脂シートは、シートの少なくとも片面上に、固体電解質層を有する。固体電解質層における固体電解質は、Li、La、及びZrを少なくとも含む複合金属酸化物粒子である。この複合金属酸化物粒子は、バインダーにより結着されて、固体電解質層を形成している。
【0019】
本発明において固体電解質層の固体電解質として用いられる複合金属酸化物粒子は、金属として少なくともLi、La、及びZrを含む、ガーネット型又はガーネット型類似の構造を有する複合金属酸化物の粒子である(以下、Li、La、及びZrを少なくとも含む複合金属酸化物粒子を「LLZ粒子」と呼ぶ)。LLZ粒子の化学式は好ましくは:
Li7-3bLa3-cAcZr2-aMaAlbO12(式中、aは0≦a<2の範囲の数値であり、bは0≦b≦2.3の範囲の数値であり、cは0≦c<3の範囲の数値であり、AはY、Nd、Sm、Gdからなる群から選択されるいずれか1種の金属であり、MはNb又はTaである)
で表され、例えば、これらに限定されないが、a=0かつc=0であるLi7-3bLa3Zr2AlbO12、b=0かつc=0でありMがTaであるLi7La3Zr2-aTaaO12、b=0かつc=0でありMがNbであるLi7La3Zr2-aNbaO12等が挙げられる。このような組成のLLZ粒子としては、市販のものを用いてもよいし、焼成により各成分に転化する材料、例えば、これらに限定されないが、Li2O、LiOH、Li2CO3、La2O3、La(OH)3、ZrO2などの各金属元素を含有する酸化物、複合酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、及びリン酸塩等の粉末を混合して焼成する公知の方法を用いて製造してもよい。LLZ粒子は、リチウム金属に対して安定であるので、正極又は負極にリチウム成分が含まれている場合に、固体電解質の酸化劣化及び還元劣化を抑制することができる。また、この複合金属酸化物粒子は、高いリチウムイオン伝導性を有するので、電池の容量及び出力の向上に寄与することができる。
【0020】
LLZ粒子のメディアン径(D50)は、好ましくは1.0μm以上10.0μm以下であり、さらに好ましくは1.0μm以上5.0μm以下であり、さらに好ましくは1.0μm以上3.0μm以下である。このようなメディアン径を有する粒子としては、市販のものを用いてもよいし、市販のものや製造したものを所望のメディアン径となるように公知の方法で粉砕して用いてもよい。
【0021】
なお、本明細書において、メディアン径は、体積基準のメディアン径(D50)を意味し、メディアン径は、以下の方法で測定することができる:
分散媒としてエタノールを用い、超音波を用いて粒子をエタノールに分散させて測定用試料とし、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(MicrotracBEL株式会社製MT3300EXII)により粒度分布を測定し、体積基準のメディアン径(D50)を算出する、
あるいは、走査電子顕微鏡JCM-6000(JEOL日本電子株式会社製)、倍率1000倍または3000倍を用いて固体電解質層を観察し、観察ソフト(JCM-6000)の[測長]機能にて各粒子の直径を計測する。粒子の判別は、付属のEDX装置とEPMA元素分析を用いることによって行うことができる。
【0022】
本発明の固体電解質層における固体電解質は、上記のLLZ粒子以外の固体電解質粒子を含まないことが好ましい。すなわち、LiとSを少なくとも含む硫化物系の無機固体電解質や、上記LLZ粒子以外の酸化物系無機固体電解質を含まないことが好ましい。
【0023】
(バインダー)
固体電解質層には、上記の固体電解質に加え、バインダーが含有されている。固体電解質層におけるバインダーは、層内のLLZ粒子を結着する役割を果たす。
【0024】
本発明において、固体電解質層内のバインダーとしては、直鎖状エーテル骨格を主鎖とし、部分的にエーテル骨格が分岐した構造を有する架橋された重合体を用いる。このような構造を有する重合体は、LLZ粒子と混合した際に、過度な増粘やゲル化を引き起こさず、良好に塗工可能なスラリーを形成できることを本発明者らは見出した。エーテル骨格としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシドなどが挙げられるがこれらに限定されない。分岐度は0.2~0.8が好ましい。重合体の重量平均分子量は、100~5,000,000程度が好ましく、10,000~3,000,000程度がさらに好ましく、1,000,000~3,000,000程度がさらに好ましい。
【0025】
固体電解質層におけるバインダーは、上記の重合体が互いに架橋された構造を有している架橋重合体である。バインダーの重合体を架橋させることにより、固体電解質層の強度を向上させることができる。重合体の架橋は、任意の方法で行うことができ、例えば、アゾ化合物やペルオキシド、トリエチルボランなどのラジカル重合開始剤を加えるなどにより、架橋を促進させることができる。
【0026】
(固体電解質層)
固体電解質層は、溶媒中で上記のLLZ粒子を上記のバインダーと混合してスラリー組成物を調製し、このスラリー組成物を上記の多孔質樹脂シートの少なくとも片面上に塗布して乾燥させることにより、形成することができる。
【0027】
固体電解質を形成するためのスラリー組成物に用いる溶媒としては、LLZ粒子及びバインダーと反応せず、また、乾燥により除去しやすいものであればよく、特に限定されない。例えば、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、トルエン、メチルシクロヘキサン、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、n-ヘキサン、ニトロメタン、テトラヒドロフラン(THF)、トリメタノールアミンなどが挙げられる。エーテル骨格を有する重合体を良好に溶解する観点から、上記の中では、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、トルエン、及びメチルシクロヘキサンの1種または2種以上を混合して用いることが好ましい。
【0028】
スラリー組成物におけるバインダーの混合比率は、LLZ粒子を十分に結着できる量で含まれていればよく、特に限定されないが、LLZ粒子:バインダーの質量比で、90:10~99:1程度が好ましく、92:8~97:3程度がさらに好ましい。
【0029】
スラリー組成物における溶媒の割合は、スラリー組成物の多孔質樹脂シートへの塗布が可能となるように、スラリーに適度な流動性を与えるような量であればよく、特に限定されない。溶媒を過度に多量に用いると、後の乾燥の際に時間がかかるので、適宜量を調整することが好ましい。例えば、スラリー組成物の質量に対する、LLZ粒子とバインダーの合計質量の割合(固形分濃度)は、10~50質量%が好ましく、20~40質量%がさらに好ましい。
【0030】
スラリー組成物の調製に際し、LLZ粒子及びバインダーを溶媒中で混合するが、混合手段は特に限定されず、公知の混合・分散手段を用いればよい。例えば、ジルコニアボールを用いた分散処理などを用いればよい。
【0031】
スラリー組成物を多孔質樹脂シートの少なくとも片面上に塗布して乾燥させ、多孔質樹脂シート上に固体電解質層を形成させる。塗布の方法は特に限定されず、所望の厚みの層を形成できる方法であればよい。例えば、スクリーン印刷、スプレー印刷などの手段が挙げられる。
【0032】
多孔質樹脂シート上にスラリー組成物を塗布した後、乾燥させ、溶媒を除去する。乾燥の条件は特に限定されない。例えば、70~130℃で0.5~5時間真空乾燥を行えばよい。
【0033】
固体電解質層の厚みは、LLZ粒子のメディアン径にもよるが、2μm未満の場合にはLLZ粒子が形成されずセパレータがむき出しになる部分が生じる可能性がある為、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。上限は、特に限定されないが、50μm以下が好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
【0034】
(リチウム二次電池)
上記の固体電解質層を有する多孔質樹脂シートをセパレータとして用い、リチウム二次電池を製造することができる。上記のセパレータは、リチウム二次電池の正極と負極との間に配置される。また、リチウム二次電池は、正極、負極、及びセパレータの空隙を満たす電解液を含む。
【0035】
正極における正極用活物質の種類は、特に限定されず、リチウム二次電池に通常用いられるものを用いればよい。例えば、コバルト酸リチウム(LCO)、マンガン酸リチウム(LMO)、ニッケル・コバルト・マンガンの三元系活物質(NCM)、ニッケル・コバルト・アルミニウムの三元系活物質(NCA)、リン酸鉄リチウム(LFP)などが挙げられる。このような正極用活物質と、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等の導電助剤と、ポリフッ化ビニリデン等の結着材(バインダー)とを、N-メチル-2-ピロリドン等の溶媒下で十分に混錬して正極スラリーとした後、アルミニウム箔等の集電体上に塗布し、乾燥し、ロールプレス等で圧縮することにより、正極を製造することができる。
【0036】
負極の種類としては、チタン酸リチウム(LTO)、グラファイト、カーボン材料、リチウム金属などが挙げられるが、リチウム金属を負極として用いることが好ましい。
正極とセパレータ(固体電解質層を有する多孔質樹脂シート)には、電解液を含浸する。電解液は、正極とセパレータにおける空隙に充填されている。電解液としては、イオン液体を電解質として用いることが好ましく、また、イオン液体である電解質が公知の手段でゲル化されたものを用いてもよい。イオン液体である電解質としては、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)またはリチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)などのリチウム塩を、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(EMIFSI)、N,N-メチルプロピルピロリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(MPPyFSI)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)またはトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)と等モル量で混合して得られる溶媒和イオン液体を用いることが好ましい。イオン液体をゲル化する場合のゲル化の方法は特に限定されず、例えば、イオン液体電解液にゲル化剤を混合し、昇温溶解させた後に降温する方法によりゲル化させることができる。
【0037】
電解液の含浸は、例えば、正極及びセパレータを、電解液中に浸漬し、減圧処理することにより行うことができる。また、電解液としてイオン液体電解質のゲルを用いる場合には、例えば、ゲル化剤を混合した加温状態のイオン液体電解液に各部材を浸漬し、減圧処理及び降温することにより各部材への含浸とイオン液体のゲル化とを行うことができる。
【0038】
電解液が含浸された正極、電解液が含浸されたセパレータ(固体電解質層を有する多孔質樹脂シート)、及び負極を、この順で積層し、リチウム二次電池を形成する。セパレータの負極に対向する面に固体電解質層が配置されるように、積層することが好ましい。セパレータ(固体電解質層を有する多孔質樹脂シート)の固体電解質層を、少なくともセパレータの負極側に存在させることにより、リチウム二次電池の充放電によるリチウムイオンの多孔質樹脂シートへの吸着を低減させることができる。
【0039】
リチウム二次電池の形状は、特に限定されず、コイン型、円筒型、角型等の種々の形状を有していてもよいし、また、ラミネート外装体に封入されたものであってもよい。
【実施例0040】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
(試験1:スラリーの評価)
(製造例1)
固体電解質粒子としてAlをドープしたLLZ粒子(Li6.25La3Zr2Al0.25O12、メディアン径(D50):1.6μm)(Al-doped LLZ)を用い、バインダーとして直鎖状エーテル骨格を主鎖とし、部分的にエーテル骨格が分岐した構造を有する重合体(分岐型PEO、分子量100~300万)を用い、溶媒としてシクロヘキサノンを用いた。溶媒中に、固体電解質粒子と分岐型PEOとを質量比95:5で混合した。混合物中の固形分濃度(混合物質量に対する固体電解質粒子と分岐型PEOの合計質量の割合)は、30質量%である。混合物に直径5mmのZrO2ボールを添加し、分散解砕処理を実施した。更に、アゾ重合開始剤(V-40、和光純薬株式会社製)を加えて、固体電解質スラリーを調製した。得られたスラリーについて、下記の評価方法により、スラリー状態を評価した。結果を表1に示す。
【0041】
(スラリー状態の評価方法)
(バインダー溶解性)
用いた溶媒中にバインダーが溶解するか否かを目視で評価した。溶解する場合を「〇」、溶解しない場合を「×」とした。
【0042】
(スラリー変色耐性)
得られたスラリーの色を目視で評価した。塗工前のスラリーが増粘、ゲル化すると、基材への良好な塗工が行えなくなるため、好ましくない。スラリーは白色から黄色、茶色への変色過程を経てゲル化に至る為、白色の場合を「〇」、黄色の場合を「△」、茶色の場合を「×」とした。
【0043】
(スラリーゲル化耐性)
得られたスラリーの増粘やゲル化の有無を評価した。増粘やゲル化が生じていないものを「〇」、増粘やゲル化がみられるが基材への塗工が可能であるものを「△」、増粘やゲル化の程度が強くて塗工不可能である場合は「×」とした。
【0044】
(製造例2)
溶媒としてシクロヘキサノンの代わりにアセトンを使用したこと以外、製造例1と同様にして、固体電解質スラリーを調製し、スラリー状態を評価した(表1参照)。
【0045】
(製造例3)
溶媒としてシクロヘキサノンの代わりにメチルエチルケトン(MEK)を使用したこと以外、製造例1と同様にして、固体電解質スラリーを調製し、スラリー状態を評価した(表1参照)。
【0046】
(製造例4)
溶媒としてシクロヘキサノンの代わりに質量比70:30のアセトン/トルエン混合溶媒を使用したこと以外、製造例1と同様にして、固体電解質スラリーを調製し、スラリー状態を評価した(表1参照)。
【0047】
(製造例5)
溶媒としてシクロヘキサノンの代わりに質量比70:30のアセトン/シクロヘキサノン混合溶媒を使用したこと以外、製造例1と同様にして、固体電解質スラリーを調製し、スラリー状態を評価した(表1参照)。
【0048】
(製造例6)
溶媒としてシクロヘキサノンの代わりに質量比70:30のメチルエチルケトン/トルエン混合溶媒を使用したこと以外、製造例1と同様にして、固体電解質スラリーを調製し、スラリー状態を評価した(表1参照)。
【0049】
(製造例7)
溶媒としてシクロヘキサノンの代わりに質量比70:30のメチルエチルケトン/メチルシクロヘキサノン混合溶媒を使用したこと以外、製造例と同様にして、固体電解質スラリーを調製し、スラリー状態を評価した(表1参照)。
【0050】
(製造例8)
溶媒としシクロヘキサノンの代わりに質量比70:30のシクロヘキサノン/トルエン混合溶媒を使用したこと以外、製造例1と同様にして、固体電解質スラリーを調製し、スラリー状態を評価した(表1参照)。
【0051】
(製造例9)
溶媒としてシクロヘキサノンの代わりに質量比70:30のシクロヘキサノン/メチルシクロヘキサノン混合溶媒を使用したこと以外、製造例1と同様にして、固体電解質スラリーを調製し、スラリー状態を評価した(表1参照)。
【0052】
(製造例10)
固体電解質としてAl-doped LLZの代わりにTaをドープしたLLZ(Li7La3Zr1.75Ta0.25O12、メディアン径(D50):1.0μm)(Ta-doped LLZ)を使用したこと以外、製造例1と同様にして、固体電解質スラリーを調製し、スラリー状態を評価した(表1参照)。
【0053】
(比較製造例1)
バインダーとして分岐型ポリエチレンオキシドの代わりにフッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)を使用したこと以外、製造例1と同様にして、固体電解質スラリーを調製し、スラリー状態を評価した(表1参照)。
【0054】
(比較製造例2)
溶媒としてシクロヘキサノンの代わりにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を使用したこと以外、比較製造例1と同様にして、固体電解質スラリーを調製し、スラリー状態を評価した(表1参照)。
【0055】
(比較製造例3)
溶媒としてシクロヘキサノンの代わりにアセトンを使用したこと以外、比較製造例1と同様にして、固体電解質スラリーを調製し、スラリー状態を評価した(表1参照)。
【0056】
(比較製造例4)
溶媒としてシクロヘキサノンの代わりにメチルエチルケトン(MEK)を使用したこと以外、比較製造例1と同様にして、固体電解質スラリーを調製し、スラリー状態を評価した(表1参照)。
【0057】
(比較製造例5)
溶媒としてシクロヘキサノンの代わりにトルエンを使用したこと以外、比較製造例1と同様にして固体電解質スラリーを調製しようとしたが、バインダーが溶媒になじまず、スラリーが調製できなかった(表1参照)。
【0058】
(比較製造例6)
溶媒としてシクロヘキサノンの代わりにメチルシクロヘキサンを使用したこと以外、比較製造例1と同様にして固体電解質スラリーを調製しようとしたが、スラリーが調製できなかった(表1参照)。
【0059】
【0060】
表1から分かる通り、比較製造例5及び6は、バインダーが溶媒に溶解しなかった。比較製造例1~4では、バインダーが溶媒に溶解したが、固体電解質を混合した固体電解質スラリーとした場合に、いずれもスラリーの増粘ないしゲル化が確認された。また、スラリーの変色も見られた。一方、バインダーとして直鎖状エーテル骨格を主鎖とし、部分的にエーテル骨格が分岐した構造を有する分岐型PEOを架橋した架橋重合体を用いた製造例1~10では、いずれも、増粘及びゲル化が確認されず、白色の良好なスラリーが得られた。
【0061】
(試験2:リチウム二次電池の性能評価)
次に、製造例1及び10の固体電解質スラリーを使用して多孔質樹脂シートの片面上に固体電解質層を形成し、得られた固体電解質層を有する多孔質樹脂シートをセパレータとして用いてリチウム二次電池を作製し、電池の性能評価を行った。
【0062】
(固体電解質層の形成)
膜厚約25μm、空孔率約80%の多孔質芳香族ポリイミドシートの片面上に、上記の固体電解質スラリーを塗工した。塗工後に120℃で3時間の真空乾燥を行い、固体電解質層の膜厚が約5μmである、固体電解質層を有する多孔質芳香族ポリイミドシートを得た。
【0063】
(電池の作製)
LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2 99質量部、カーボンナノチューブ0.4質量部、ポリフッ化ビニリデン0.6質量部を、NMPに添加し、分散処理し、正極スラリーを調製した。この正極スラリーをアルミ箔集電体上に塗布し、乾燥した。乾燥後にプレスし、膜厚約54μmの正極を得た。また、リチウム金属の層を銅箔集電体上に設けた負極を用意した。
【0064】
正極を直径14mmに、製造例1及び10の固体電解質層を有する多孔質芳香族ポリイミドシートを直径19mmに、負極を直径16mmに打ち抜いた。
リチウムビスフルオロスルホニルイミド(キシダ化学製、LiFSI)と1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(キシダ化学製、EMI-FSI)とを混合し、3M LiFSI/EMI-FSIのイオン液体電解質を得た。
【0065】
打ち抜いた正極と、固体電解質層を有する多孔質芳香族ポリイミドシートに、上記イオン液体電解質を含浸させた。
イオン液体電解質を含浸した正極、固体電解質層を有する多孔質芳香族ポリイミドシート、及び負極を、この順で、かつ、固体電解質層が負極側にくるように積層し、ラミネート材の中に封入し、ラミネート型セルとした(実施例1及び2)。
【0066】
また、比較用として、固体電解質スラリーを塗工しない多孔質芳香族ポリイミドシートをセパレータとして使用したラミネート型セルを作製した(比較例1)。
(電池性能評価方法)
作製したラミネート型セルの充放電試験を実施した。以下の手順1及び2の初期充放電を行った後、手順3~6の4.3Vフロート試験を4回繰り返した。
電圧条件:充電4.3V/放電2.5V
初期充放電条件:
手順1 0.033C定電流・定電圧充電(0.01Cカットオフ)→ 0.033C定電流放電
手順2 0.05C定電流・定電圧充電(0.01Cカットオフ)→ 0.05C定電流放電
4.3V試験条件:
手順3 0.05C定電流充電(0.01Cカットオフ)
手順4 0.05C定電圧充電(168時間)
手順5 0.05C定電流放電
手順6 0.05C定電流・定電圧充電(0.01Cカットオフ)→0.05C定電流放電
4.3Vフロート試験における、手順3、4の積算充電容量、手順5の積算放電容量、これらの差である積算不可逆容量、及び積算充電容量に対する積算放電容量の割合を示す充放電効率の結果を表2に示す。
【0067】
【0068】
表2の結果より、固体電解質層を有しない多孔質芳香族ポリイミドシートをセパレータとして用いた比較例1に比べて、実施例1及び2では積算充電容量と積算放電容量の差が小さく、不可逆容量が低下したことがわかる。
【0069】
次に、実施例1、実施例2、及び比較例1について、4.3Vフロート試験前の0.05C充放電曲線(手順2)を
図1に、4.3Vフロート試験を4回繰り返した後の0.05C充放電曲線(手順6の4回目)を
図2に示す。
図1及び2において、破線で表される「3DOM+Al-LLZセパ」は実施例1に相当し、点線で表される「3DOM+Ta-LLZセパ」は実施例2に相当し、実線で表される「3DOMセパ」は比較例1に相当する。また、4.3Vフロート試験前後の0.05C放電容量を表3に示す。
【0070】
【0071】
図1に示す4.3Vフロート試験前の0.05C充放電曲線において、実施例1、実施例2、及び比較例1でほとんど差異は見られないが、
図2に示す4.3Vフロート試験を4回繰り返した後の0.05C充放電曲線において、固体電解質層を有する多孔質芳香族ポリイミドシートをセパレータとして用いた実施例1及び2の方が、固体電解質層を有しない多孔質芳香族ポリイミドシートをセパレータとして用いた比較例1に比べて、高い放電容量を示すことがわかる。
【0072】
また、表3の結果より、4.3Vフロート試験前後の0.05C放電容量値から、初期放電容量は実施例1、実施例2、及び比較例1に大きな違いは無いが、フロート試験後では実施例1及び2の方が高い放電容量を示すことがわかる。
【0073】
次に、実施例1、実施例2、及び比較例1のラミネート型セルについて、全ての充放電試験が終了した後に解体し、多孔質芳香族ポリイミドシートの負極面側を目視で観察した。その結果、比較例1では、シート上に緑色から黒色を呈している箇所が存在した。一方、実施例1及び2では着色箇所は存在しなかった。比較例1で観察された多孔質芳香族ポリイミドシート上の緑色から黒色の着色は、シートを水に浸漬すると退色することから、リチウムイオンの吸着によるものであることがわかる。
【0074】
以上の結果より、実施例1及び2の固体電解質層を有する多孔質芳香族ポリイミドシートをセパレータとして用いたリチウム二次電池では、比較例1の固体電解質層を有しない多孔質芳香族ポリイミドシートをセパレータとして用いた場合に比べて、芳香族ポリイミドへのリチウムイオンの吸着が抑制されたこと、また、それによりリチウムの損失が抑制され、電池の容量低下を抑制することができたことがわかる。実施例1及び2の固体電解質層を有する多孔質芳香族ポリイミドシートをセパレータとして用いたリチウム二次電池では、固体電解質層が存在することにより、多孔質芳香族ポリイミドシートとリチウム金属の負極との直接の接触や、多孔質芳香族ポリイミドシートと充電時に負極上に析出したリチウム層との直接の接触が抑制されたと推測される。