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特開2023-49570エピタキシャル成長用基板の製造方法及びエピタキシャル成長用基板
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  • 特開-エピタキシャル成長用基板の製造方法及びエピタキシャル成長用基板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049570
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】エピタキシャル成長用基板の製造方法及びエピタキシャル成長用基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/22 20060101AFI20230403BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
C30B29/22
C30B25/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159375
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】503098724
【氏名又は名称】株式会社オキサイド
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 猛
(72)【発明者】
【氏名】安齋 裕
(72)【発明者】
【氏名】田村 登
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BB10
4G077BC15
4G077BE11
4G077BE13
4G077BE15
4G077CF10
4G077FG02
4G077FG14
4G077FH05
4G077GA06
4G077HA12
(57)【要約】
【課題】単結晶のエピタキシャル成長により適したエピタキシャル成長用基板の製造方法を提供すること。
【解決手段】一般式RAMOで表される単結晶体を劈開させて、劈開面をエピタキシャル成長面として有する基板を得る工程と、劈開面にエネルギーを有する荷電粒子を衝突させて、劈開面に周期性を有するステップ・テラス構造(ステップ間の間隔であるテラスの幅が0.2~100μmである)を形成する工程と、を備える、エピタキシャル成長用基板の製造方法。一般式中、Rは、Sc、In、Y及びランタノイド元素からなる群より選択される少なくとも一種の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga及びAlからなる群より選択される少なくとも一種の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn及びCdからなる群より選択される少なくとも一種の二価の元素を表す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式RAMOで表される単結晶体を劈開させて、劈開面をエピタキシャル成長面として有する基板を得る工程と、
前記劈開面にエネルギーを有する荷電粒子を衝突させて、前記劈開面に周期性を有するステップ・テラス構造を形成する工程と、
を備え、
前記ステップ間の間隔である前記テラスの幅が0.2~100μmである、
エピタキシャル成長用基板の製造方法。
[一般式中、Rは、Sc、In、Y及びランタノイド元素からなる群より選択される少なくとも一種の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga及びAlからなる群より選択される少なくとも一種の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn及びCdからなる群より選択される少なくとも一種の二価の元素を表す。]
【請求項2】
前記劈開面への前記荷電粒子の衝突が、前記劈開面にイオンビームを照射することにより行われ、
前記イオンビームがArイオンビームであり、
前記イオンビームを、下記条件の少なくとも一つを満たすように照射する、請求項1に記載の製造方法。
Arイオンの粒子衝突数が10/cm以下。
Arイオンの粒子エネルギーが1KeV以下。
Arイオンのビーム電流値が0.05μA以下。
【請求項3】
一般式RAMOで表される単結晶体の劈開面をエピタキシャル成長面として有し、
前記劈開面が、周期性を有するステップ・テラス構造を有し、
前記ステップ間の間隔である前記テラスの幅が0.2~100μmである、エピタキシャル成長用基板。
[一般式中、Rは、Sc、In、Y及びランタノイド元素からなる群より選択される少なくとも一種の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga及びAlからなる群より選択される少なくとも一種の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn及びCdからなる群より選択される少なくとも一種の二価の元素を表す。]
【請求項4】
前記ステップの高さが、前記単結晶体の単位格子長の整数倍である、請求項3に記載の基板。
【請求項5】
前記テラスの幅が0.3~30μmである、請求項3又は4に記載の基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル成長用基板の製造方法及びエピタキシャル成長用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式RAMOで表される単結晶体(一般式において、Rは、Sc、In、Y及びランタノイド元素からなる群より選択される少なくとも一種の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga及びAlからなる群より選択される少なくとも一種の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn及びCdからなる群より選択される少なくとも一種の二価の元素を表す。)が知られている。例えばScAlMgO基板は、GaN等の窒化物半導体のエピタキシャル成長用の基板として用いられている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】岩渕拓也、“劈開ScAlMgO4基板上InGaNベースLEDの作製とその特性向上に関する研究”、東北大学機関リポジトリー、http://hdl.handle.net/10097/00127477
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載されるように、ScAlMgOの研磨基板にはステップが多く、c面の平坦なテラスが、単位格子内に存在する三つの劈開面に対応して3種類混在する。そのため、例えばGaN等の単結晶を研磨基板上にてエピタキシャル成長させる場合、種類の異なるテラス間の境界部から多くの貫通転位が生じる。一方、ScAlMgOの劈開基板にはステップが極めて少ないため、同様にGaN等の単結晶をエピタキシャル成長させる場合、結晶の成長核が不足してアイランド状で凸凹の結晶が成長する。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、単結晶のエピタキシャル成長により適したエピタキシャル成長用基板の製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、単結晶のエピタキシャル成長により適したエピタキシャル成長用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る、エピタキシャル成長用基板の製造方法は、一般式RAMOで表される単結晶体を劈開させて、劈開面をエピタキシャル成長面として有する基板を得る工程と、劈開面にエネルギーを有する荷電粒子を衝突させて、劈開面に周期性を有するステップ・テラス構造を形成する工程と、を備える。ステップ間の間隔であるテラスの幅は0.2~100μmである。
なお、一般式中、Rは、Sc、In、Y及びランタノイド元素からなる群より選択される少なくとも一種の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga及びAlからなる群より選択される少なくとも一種の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn及びCdからなる群より選択される少なくとも一種の二価の元素を表す。
【0007】
上記製造方法の一態様において、劈開面への荷電粒子の衝突が、劈開面にイオンビームを照射することにより行われてよい。その際、イオンビームがArイオンビームであることが好ましく、また当該イオンビームを、下記条件の少なくとも一つを満たすように照射することが好ましい。
Arイオンの粒子衝突数が10/cm以下。
Arイオンの粒子エネルギーが1KeV以下。
Arイオンのビーム電流値が0.05μA以下。
【0008】
本発明の一側面に係る、エピタキシャル成長用基板は、一般式RAMOで表される単結晶体の劈開面をエピタキシャル成長面として有し、劈開面が、周期性を有するステップ・テラス構造を有し、ステップ間の間隔であるテラスの幅が0.2~100μmである。
【0009】
上記基板の一態様において、ステップの高さが、単結晶体の単位格子長の整数倍であることが好ましい。
【0010】
上記基板の一態様において、テラスの幅が0.3~30μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、単結晶のエピタキシャル成長により適したエピタキシャル成長用基板の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、単結晶のエピタキシャル成長により適したエピタキシャル成長用基板を提供することができる。エピタキシャル成長用基板は、上記製造方法により得ることができる。本発明によれば、例えばGaN等の単結晶をエピタキシャル成長させる場合に、貫通転位の発生を抑制しかつアイランド状に単結晶が成長することを抑制することができる、優れたエピタキシャル成長用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、エピタキシャル成長用基板を用いたステップフロー成長を示す図である。
図2図2は、劈開面のテラス部分のAFM像である。
図3図3は、劈開面のステップ部分のAFM像である。
図4図4は、劈開面における、イオンビーム照射により形成されたステップ・テラス構造のAFM像である。
図5図5は、劈開面における、イオンビーム照射により形成されたステップ・テラス構造のAFM像の断面図である。
図6図6は、研磨面における、ステップ・テラス構造のAFM像の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、場合により図面を参照しつつ本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<エピタキシャル成長用基板の製造方法>
エピタキシャル成長用基板の製造方法は、一般式RAMOで表される単結晶体を劈開させて、劈開面をエピタキシャル成長面として有する基板を得る工程(劈開工程)と、劈開面にエネルギーを有する荷電粒子を衝突させて、劈開面に周期性を有するステップ・テラス構造を形成する工程(ステップ・テラス形成工程)と、を備える。
【0015】
(劈開工程)
一般式RAMOで表される単結晶体(一般式中、Rは、Sc、In、Y及びランタノイド元素からなる群より選択される少なくとも一種の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga及びAlからなる群より選択される少なくとも一種の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn及びCdからなる群より選択される少なくとも一種の二価の元素を表す。)としては、ScAlMgO、LuGaMgO、InGaMgO、YFeFeO、YFeMnO等が挙げられる。成長させたい結晶との格子定数整合性の観点から、単結晶体の種類を選択すればよい。
【0016】
ScAlMgOを例としてRAMOの一般的な構造を説明すると、ScAlMgOは、岩塩型構造であるScO層と、六方晶系グラファイト構造(h-BN)であるAlMgO層とが交互に積層した構造を有している。単位格子内に三か所存在するAlMgO層間の結合力が弱いため、ScAlMgO単結晶はAlMgO層間においてc軸に垂直に劈開することができる。ScAlMgOの単位格子長は25.160Åである。
【0017】
劈開面をエピタキシャル成長面として有する基板は、例えば引き上げ法等の公知の方法により得られる、小傾角粒界がない良質なRAMO単結晶体をブロック形状に切断加工した後に、ブロックの角にc面に平行に刃を当てて圧力を加えて劈開させることにより得ることができる。
【0018】
(ステップ・テラス形成工程)
劈開工程にて得られた基板の劈開面にエネルギーを有する荷電粒子を均一に衝突させることにより、劈開面表面の結晶構造を再構築することができる。機械的な力により得られる劈開面には、不安定で原子スケールで平坦な表面状態のテラスが発生している。このテラスに適切な条件でエネルギーを有する荷電粒子を衝突させることにより、熱的に安定なステップを形成することができる。荷電粒子を衝突させる目的は、劈開面表面の温度を上げ、平坦な劈開面表面にステップとなる凸凹を形成することである。エネルギーを有する荷電粒子が結晶の表面に当たると、一般に表面の原子は弾き飛ばされたり、周りの原子にエネルギーを与え高温になることによって原子が移動したりする。荷電粒子を衝突させる際に、劈開面表面を加熱するため、プラズマやレーザー光照射を併用してもよい。
【0019】
なお、基板表面を改質する方法としては、荷電粒子を用いる方法の他に、単に基板を空気中で加熱する方法や、熱リン酸を用いて基板をケミカルエッチングする方法が挙げられる。ただし、前者の方法では1400℃で結晶は白濁し、またこれ以下の温度ではステップを増やすことが難しい。また、後者の方法では転位とステップのみが深くエッチングされ、均一な成長核を形成することが難しい。
【0020】
荷電粒子は、ステップ同士の間隔であるテラスの幅が0.2~100μmとなるように劈開面に衝突させる。これにより、劈開面上に適度な密度でステップが形成されることになり、貫通転位の発生を抑制しかつアイランド状に単結晶が成長することを抑制することができる。この観点から、テラスの幅は0.3~30μmであることがより好ましい。テラスの幅は、衝突させる荷電粒子のエネルギー強度、衝突数等により調整することができる。なお、ステップが極めて少ない劈開基板の劈開面が有するテラスの幅は、概ね100μm超である。ステップが極めて多い研磨基板の研磨面が有するテラスの幅は、概ね0.15μm以下である。
【0021】
荷電粒子は、ステップの高さが単位格子長の整数倍になるように劈開面に衝突させることが好ましい。基板上にて結晶をエピタキシャル成長させる際に、結晶はステップを結晶成長の成長核としてそこからテラスに対して平行に成長し、その後テラスを覆うと垂直方向に成長が進行する(ステップフロー成長)。垂直方向に成長するときに隣のテラスで成長した結晶層とぶつかるが、その際にテラスとテラスの境界部のステップの高さが単位格子長の整数倍であることにより、格子不整合を小さくすることができ貫通転位の発生を抑制することができる。ステップの高さは、荷電粒子のエネルギー強度を変えることで調節可能である。
【0022】
図1は、エピタキシャル成長用基板を用いたステップフロー成長を示す図である。同図において、Hはステップの高さ、Wはテラスの幅、矢印のGpはテラス上の結晶の成長方向、矢印のGvはテラスを覆った後の結晶の成長方向をそれぞれ意味する。
【0023】
エネルギーを有する荷電粒子は、劈開面に元々存在する、単位格子長の1/3倍の長さの整数倍の3種類のステップを減少させ、単位格子長の整数倍のステップを増加させるように照射することが好ましい。元々存在する3種類のステップの総数を最小限に抑えることで、貫通転位の発生をさらに抑制することができる。劈開面に元々存在するステップの総数は、荷電粒子のエネルギー強度を変えることで調整可能である。
【0024】
劈開面にエネルギーを有する荷電粒子を衝突させる方法としては、例えば、劈開面にイオンビームを照射する方法や、劈開面をプラズマで処理する方法(ただし、プラズマ中のイオン等の荷電粒子を上記イオンビーム照射における荷電粒子と同等の条件(エネルギー強度、衝突数等)に調整する)などが挙げられる。いずれの方法においても、非常に弱い条件にて劈開面表面を処理することで、所望のステップ・テラス構造を形成することができる。
【0025】
基板と化学反応しなければ、イオンビームに用いられるイオン種は特に制限されない。イオン種としてはAr、N、He、O等が挙げられる。原子レベルで平坦な面に均一密度で格子定数の整数倍のステップを形成する目的を達成するうえで必要な表面加熱と粒子の衝突による表面の破壊ができるのであれば、粒子の種類は問わない。
【0026】
イオンビームに含まれるイオンは、均一な密度でイオンビームが照射できるのであれば特に制限されず、単一イオンでもクラスターイオン(ガスクラスターイオンビーム)でもよい。照射イオンのイオン種、イオンビームのエネルギー、照射イオンの粒子数、照射密度等を適宜調節することにより、所望の密度の均質な単一種類ステップと、所望の幅を有するテラスとを劈開面上に形成することができる。
【0027】
イオンビームとしては、イオンが不活性であり、ある程度の質量があるとの観点からArイオンビームを用いることができる。また、イオンビームを、下記条件の少なくとも一つを満たすように照射することが好ましい。
Arイオンの粒子衝突数が10/cm以下。
Arイオンの粒子エネルギーが1KeV以下。
Arイオンのビーム電流値が0.05μA以下。
いずれの条件も、非常に弱い条件のイオンビームにて劈開面表面を処理することを意味している。ステップの高さの調整や、劈開面に元々存在するステップを減少させるには、上記範囲にて各種条件を調整すればよい。
【0028】
なお、ステップを形成できるのであれば特に制限されないが、イオンビームの照射条件は例えば以下のように設定することができる。
Arイオンの粒子衝突数が10/cm以上。
Arイオンの粒子エネルギーが10eV以上。
Arイオンのビーム電流値が1pA以上。
【0029】
本開示では、劈開面にエネルギーを有する荷電粒子を衝突させることで、平坦な劈開面表面にステップとなる凸凹を形成する方法を採用しているが、その他ケミカルエッチング、サーマルエッチング、あるいはレーザーアブレーション等の、原子レベルで平坦な面を荒らすことができる方法により、劈開面表面を処理してもよい。
【0030】
<エピタキシャル成長用基板>
エピタキシャル成長用基板は、一般式RAMOで表される単結晶体の劈開面をエピタキシャル成長面として有し、劈開面が、周期性を有するステップ・テラス構造を有し、ステップ間の間隔である前記テラスの幅が0.2~100μmである。
【0031】
上記エピタキシャル成長用基板は、上述したエピタキシャル成長用基板の製造方法により得ることができる。
【0032】
エピタキシャル成長用基板上にはIII-V族半導体、II-VI族半導体、その他の化合物半導体の結晶を成長させることができる。III-V族半導体としては、AlN、GaN、InN及びこれらの固溶体が挙げられ、II-VI族半導体としてはZnO、ZnS等が挙げられ、その他の化合物半導体としてはGa等が挙げられる。
【0033】
例えばScAlMgOを加工して得られるエピタキシャル成長用基板は、格子整合性の観点からGaNの結晶成長に特に好適に用いることができる。ScAlMgOは、サファイヤに比べてGaNとの格子不整合率が10倍小さく、貫通転位密度を大幅に低減することができる。
【0034】
例えばGaNの結晶成長には、非特許文献1に記載されるようにMOVPE法を採用することができる。MOVPE法では、気体である有機金属(Ga)とアンモニア(NH)が、高温に加熱された基板表面近傍で反応しGaNが基板に吸着する。原子状のGaNは基板表面を移動しながらステップに堆積し、テラスに沿って基板に平行な横方向にエピタキシャル成長することになる。
【実施例0035】
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
(ScAlMgO単結晶の育成)
原料として酸化スカンジウムSc、酸化マグネシムMgO、及び酸化アルミニウムAl粉末を秤量混合し、混合粉末を得た。
得られた混合粉末をアルミナ製るつぼ内に入れて1400℃で焼成して冷却した後、焼成粉末を単結晶育成炉内のIr製るつぼ内に入れた。
高周波加熱によりIr製るつぼを加熱して、酸素を微量に含む窒素中で焼成粉末を溶融し、融液の上からシードを接触させて固化することにより単結晶を引き上げた。成長した単結晶を融液から切り離して冷却した後、炉から取り出した。
以上のようにして、ScAlMgO単結晶を得た。
【0037】
(ScAlMgO単結晶の劈開基板作製)
上記のとおり得られたScAlMgO単結晶をブロック形状に切断加工した。そして、ブロックの角にc面に平行に刃を当て、圧力を加えることで、ScAlMgO単結晶の劈開基板を得た。当該劈開基板の劈開面には、肉眼で観察できる段差は認められなかった。
【0038】
劈開基板の劈開面のAFM像を図2及び図3に示す。
【0039】
図2は、劈開面のテラス部分のAFM像である。同図に示されるように、劈開面には原子レベルで平坦なテラスが存在することが分かる。
【0040】
図3は、劈開面のステップ部分のAFM像である。劈開面の大部分はテラスで構成されているが、その一部にはステップが存在する。ステップの高さは約8Å(0.8nm)であり、同図では数段整然と並ぶテラス間の段差を構成している。ステップの高さは単位格子のおよそ1/3に当たり、これは単位格子中に3箇所結合が弱い面(劈開面)があると指摘されている事実と合致している。
【0041】
(劈開基板へのイオンビーム照射)
上記のとおり得られた劈開基板の劈開面に、株式会社昭和真空製の照射装置を用いてArイオンビームを照射した。同装置では、高周波電界によってイオン化された低圧のArガスを直流の電界によってイオンビームとする。本実施例では、そのビーム径をアパーチャーにより絞った後に劈開面に照射した。イオンビームの照射により、劈開面に周期性を有するステップ・テラス構造を形成することができた。所望のステップが形成された部分では、Arイオンの粒子衝突数は10/cm以下であった。その際のArイオンの粒子エネルギーは1KeV以下であり、Arイオンのビーム電流値は0.05μA以下であった。
【0042】
図4は、劈開基板の劈開面における、イオンビーム照射により形成されたステップ・テラス構造のAFM像である。また、図5は、劈開基板の劈開面における、イオンビーム照射により形成されたステップ・テラス構造のAFM像の断面図である。形成されたステップ・テラス構造におけるステップの高さは、約25Åの整数倍であった。また、約8Å(単位格子c軸の1/3)の高さのステップは見つからなかった。テラスの幅は10μmであった。
【0043】
比較として、ScAlMgO単結晶のエピレディー研磨基板を例示する。図6は、研磨基板の研磨面における、ステップ・テラス構造のAFM像の断面図である。ステップ・テラス構造におけるステップの高さは、約8Å(単位格子c軸の1/3)であった。テラスの幅は約0.14μmであった。
【0044】
上記のとおり得られた基板は、GaN等の単結晶のエピタキシャル成長に適したエピタキシャル成長用基板であるということができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本開示に係るエピタキシャル成長用基板は、エピレディー研磨基板よりも少なく、かつ単なる劈開基板よりも多い、適度なステップを有する。そのため、本開示に係るエピタキシャル成長用基板を用いることで、単結晶をエピタキシャル成長させる際に、アイランド状に単結晶が成長することを抑制しつつ貫通転移を低減させることができる。これにより、欠陥密度の小さいGaN等の窒化物半導体を得ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6