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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049613
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】印刷物
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/06 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
G06K19/06 140
G06K19/06 037
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159452
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000186566
【氏名又は名称】小林クリエイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】山内 望由季
(72)【発明者】
【氏名】垣ヶ原 円美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 まり
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 一広
(57)【要約】
【課題】マトリクス型シンボルの読取りが赤外光の反射率では容易となり、可視光の反射率では困難となり、かつ低廉に製造可能な印刷物を提供する。
【解決手段】基材2の表面に、明色と暗色とからなる迷彩パターン8を赤外光非吸収材によって形成し、さらに、迷彩パターン8の上に重なるように、赤外光を吸収しない明色セルと、赤外光を吸収する暗色セルとからなるマトリクス型シンボル7を赤外光吸収材によって形成する。そして、迷彩パターン8とマトリクス型シンボル7のパターンが重なる部分において、迷彩パターン8に、ドットパターン又はチェッカーパターンが含まれるよう構成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に形成された迷彩パターンの上に重なるように、シンボルが形成された印刷物であって、
前記シンボルは、赤外光吸収材によって形成された、赤外光を吸収しない明色セルと、赤外光を吸収する暗色セルとからなるマトリクス型シンボルであり、
前記迷彩パターンは、赤外光非吸収材によって形成された、明色部と暗色部とからなる迷彩パターンであり、
前記迷彩パターンと前記シンボルが重なる部分において、前記迷彩パターンに、ドットパターン及び/又はチェッカーパターンが含まれていることを特徴とする印刷物。
【請求項2】
前記迷彩パターンと前記シンボルが重なる部分において、前記迷彩パターンに、暗色の塗り潰しパターンが含まれていることを特徴とする請求項1に記載の印刷物。
【請求項3】
少なくとも前記シンボル及び前記迷彩パターンの形成部位が、赤外光を透過する透明なラミネートフィルムによって表面被覆されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷物。
【請求項4】
前記迷彩パターンの明色部に、明色又は透明の赤外光非吸収材からなる層が形成され、
前記迷彩パターンの暗色部に、暗色の赤外光非吸収材からなる層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の印刷物。
【請求項5】
前記迷彩パターンは、透明な赤外光非吸収材からなる透明被覆層によって覆われており、
前記シンボルの全体が、前記透明被覆層の上に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の印刷物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンボルが形成された印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
バーコードやQRコード(登録商標)などのシンボルは、様々な印刷物に印刷されている。一般的なシンボルは、読取プログラムが広く流通しており、読取プログラムをインストールした携帯端末を用いれば、シンボルの記録情報を読み取ることができる。これに対して、シンボルの秘匿性を高めるために、赤外光吸収材で形成したシンボルを、赤外光非吸収材で形成した黒塗りパターン(黒色の塗り潰しパターン)で隠蔽した印刷物が提案されている(例えば、特許文献1,2)。これらの印刷物では、黒塗りパターンによってシンボル全体が黒色を呈するため、可視光の反射強度に基づいてシンボルを識別する携帯端末のシンボル読取プログラムでは、シンボルを読み取りづらくなる。一方で、赤外光の反射強度に基づいてシンボルを識別する専用装置であれば、黒塗りパターンに阻害されることなく、シンボルの記録情報を確実に読み取ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平04-026922号公報
【特許文献2】特開2013-001077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の印刷物では、可視光の反射強度に基づくマトリクス型シンボルの読取りを十分に防止できないという問題がある。具体的には、特許文献1の印刷物では、赤外光吸収材からなるシンボルが、赤外光非吸収材からなる黒塗りパターンの上に形成されるため、シンボルの明色部と暗色部は、同じ黒色でも、材質の違いによって、色味や光沢がわずかに相違している。このため、上記特許文献1の印刷物では、携帯端末などによって、可視光の反射強度に基づいてシンボルの読取りを試みた場合に、色味や光沢度のわずかな違いから生じる反射強度の差に基づいて、シンボルの明暗パターンが識別される場合がある。このような場合、マトリクス型シンボルでは、誤り訂正機能を具備しているため、シンボルの明暗パターンが完全に識別されていなくても、シンボルの記録情報の読取りに成功することがある。
【0005】
一方、上記特許文献2の印刷物は、特許文献1の印刷物に比べて製造コストが高くなりがちである。具体的には、シンボルの記録情報が一枚ずつ相違する印刷物の場合、上記特許文献1の構成では、黒塗りパターンを印刷機で形成した後に、シンボルのみをプリンタで個別に形成できるが、上記特許文献2の構成は、基本的にシンボルをプリントした後に黒塗りパターンを形成しなくてはならないため、黒塗りパターンを印刷機で形成しづらいためである。黒塗りパターンの下に感熱発色層を配設して、黒塗りパターンの形成後に、感熱発色層にシンボルをサーマルプリントできるようにすれば、黒塗りパターンを印刷機で形成可能となるが、かかる構成では、感熱発色層の分だけ用紙が高額となる。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、可視光の反射強度に基づくマトリクス型シンボルの読取りを確実に防止でき、かつ低廉に製造可能な印刷物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基材の表面に形成された迷彩パターンの上に重なるように、シンボルが形成された印刷物であって、前記シンボルは、赤外光吸収材によって形成された、赤外光を吸収しない明色セルと、赤外光を吸収する暗色セルとからなるマトリクス型シンボルであり、前記迷彩パターンは、赤外光非吸収材によって形成された、明色部と暗色部とからなる迷彩パターンであり、前記迷彩パターンと前記シンボルが重なる部分において、前記迷彩パターンに、ドットパターン及び/又はチェッカーパターンが含まれていることを特徴とする印刷物である。
【0008】
発明者の研究によれば、かかる構成とすれば、携帯端末などによる、可視光の反射強度に基づくシンボルの読取りを、上記特許文献1の構成よりも確実に防止できる。これは、本発明では、シンボルの明色部と迷彩パターンの明色部が重なる部分が明色を呈し、シンボルの暗色部と迷彩パターンの暗色部は暗色を呈するため、シンボルの可視光の反射強度を測定したときに、明色を呈する部分と暗色を呈する部分との反射光のコントラストが高くなり、シンボルの暗色部と迷彩パターンの暗色部の反射光の微差が軽視されて、シンボルの暗色部と迷彩パターンの暗色部が区別されなくなるためと考えられる。また、本発明のように、迷彩パターンがドットパターンやチェッカーパターンであれば、シンボルの明色部全体が黒色を呈していなくても、マトリクス型シンボルの誤り訂正能力を上回るエラーを容易に発生させることができる。
また、本発明の印刷物は、シンボルが迷彩パターンの上に形成されるため、迷彩パターンを印刷機で形成した後に、プリンタを用いてシンボルを迷彩パターンの上に形成する方法により製造できる。このため、本発明は、上記特許文献2の構成に比べて、低廉に製造できるという利点もある。
【0009】
本発明に係る迷彩パターンの明色部と暗色部は、シンボルの暗色セルと重ならない部分において、夫々明色と暗色を呈するものであれば足りる。ただし、明色部と暗色部のコントラストが高くなる色にすることが望ましい。このため、本発明に係る明色部は、白色または白色の近似色であることが望ましく、暗色部は、黒色または黒色の近似色であることが望ましい。また、本発明に係る赤外光吸収材と赤外光非吸収材は、赤外光の特定帯域において吸収特性と非吸収特性を具備するものであれば足り、赤外領域全般に亘る吸収特性と非吸収特性を具備するものでなくても構わない。
【0010】
本発明において、迷彩パターンを構成するチェッカーパターンの正方形や、ドットパターンのドットは、マトリクス型シンボルを構成するセルと同じ大きさでなくても構わない。発明者は、少なくとも前記正方形や前記ドットの面積が、シンボルのセルの1/2倍~6倍の範囲の迷彩パターンにおいて、可視光の反射強度に基づくマトリクス型シンボルの読取りを、黒塗りパターンよりも確実に防止できることを確認している。
【0011】
本発明に係る迷彩パターンにおける明色部と暗色部の面積比は特に限定されるものではない。発明者は、少なくとも暗色部の面積率が20~80%の範囲の迷彩パターンにおいて、可視光の反射強度に基づくマトリクス型シンボルの読取りを、黒塗りパターンよりも確実に防止できることを確認している。
【0012】
本発明にあって、前記迷彩パターンと前記シンボルが重なる部分において、前記迷彩パターンに、暗色の塗り潰しパターンが含まれていることが提案される。
【0013】
かかる構成にあっては、ドットパターン及び/又はチェッカーパターンに加えて、暗色の塗り潰しパターンを迷彩パターンに含めることにより、シンボル形成部位における可視光の反射強度の分布が不均一となるため、可視光の反射強度に基づくシンボルの読取りを、より確実に防止可能となる。
【0014】
また、本発明にあって、少なくとも前記シンボル及び前記迷彩パターンの形成部位が、赤外光を透過する透明なラミネートフィルムによって表面被覆されていることが提案される。
【0015】
かかる構成にあっては、シンボルと迷彩パターンを覆うラミネートフィルムの光沢によって、シンボルの暗色部と迷彩パターンの暗色部の光沢の違いが目立たなくなるため、シンボルの暗色部と迷彩パターンの暗色部を、可視光の反射強度に基づいて一層区別しづらくなる。
【0016】
また、本発明にあって、前記迷彩パターンの明色部に、明色又は透明の赤外光非吸収材からなる層が形成され、前記迷彩パターンの暗色部に、暗色の赤外光非吸収材からなる層が形成されていることが提案される。
【0017】
かかる構成のように、迷彩パターンの明色部と暗色部の双方に、赤外光非吸収材からなる層を形成すれば、迷彩パターンの表面の凹凸が小さくなるため、迷彩パターンの上にシンボルを形成し易くなり、シンボル形成時にかすれや欠損が発生し難くなる。
【0018】
また、本発明にあって、前記迷彩パターンは、透明な赤外光非吸収材からなる透明被覆層によって覆われており、前記シンボルの全体が、前記透明被覆層の上に形成されていることが提案される。ここで、透明被覆層は、無色透明に限らず、色味を帯びたものも含む。
【0019】
かかる構成にあっては、均質な透明被覆層の上にシンボル全体を形成するため、不均質な迷彩パターンの上にシンボルを直接形成する場合に比べて、シンボルを安定に形成可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、可視光の反射強度に基づくマトリクス型シンボルの読取りを確実に防止できる印刷物を、低廉に製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1の印刷物1の平面図である。
図2】QRコード7の形成態様を示す説明図である。
図3】(A)は、印刷物1に形成されたQRコード7を示す説明図である。(B)、は印刷物1に形成された迷彩パターン8を示す説明図である。(C)は、QRコード7と迷彩パターン8を重ね合わせた状態を示す説明図である。
図4】(A)は、実施例2に係るQRコード7を示す説明図である。(B)は、実施例2に係る迷彩パターン8aを示す説明図である。(C)は、QRコード7と迷彩パターン8aを重ね合わせた状態を示す説明図である。
図5】(A)は、実施例3に係る迷彩パターン8bを示す説明図である。(B)は、実施例4に係る迷彩パターン8bを示す説明図である。(C)は、変形例の迷彩パターン8cを示す説明図である。
図6】(A)は、実施例1に係る印刷物1の断面構造を示す説明図である。(B)は、実施例5に係る印刷物1aの断面構造を示す説明図である。(C)は、実施例6に係る印刷物1bの断面構造を示す説明図である。(D)は、実施例7に係る印刷物1cの断面構造を示す説明図である。
図7】試験1の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明にかかる実施形態を、以下の実施例に従って説明する。
なお、以下の実施例において、QRコード7が、本発明に係るシンボルに相当する。また、黒色の赤外光吸収インキが、本発明に係る赤外光吸収材に相当し、黒色の赤外光透過インキが、本発明に係る赤外光非吸収材に相当する。
【実施例0023】
図1に示すように、本実施例の印刷物1は、博物館の入場券である。印刷物1には、上質紙からなる白色の基材2の表面に、人間が視認するための文字情報4,5が形成される。文字情報のうち「xxx博物館」は、全ての入場券で共通する固定文字情報4であり、「有効期限……」は、入場券によって相違し得る可変文字情報5である。また、印刷物1の表面には、QRコード7が形成される。図2に示すように、QRコード7は、迷彩パターン8の上に重なるように形成される。QRコード7には、入場券一枚一枚に個別に割り当てられた固有番号が記録される。すなわち、印刷物1には、一枚一枚に異なるQRコード7が形成されている。かかる印刷物1は、例えば、入場時にQRコード7を入場管理システムに読み取らせて、入場管理システムが、当該QRコード7に記録された固有番号を有効なものと判定した場合に、入場を許可するといった用途で用いられ得る。
【0024】
QRコード7は、図3(A)に示すように、正方形状のセルを縦横に配列してなるものである。セルは、明色セルと暗色セルとからなり、明色セルと暗色セルのパターンによって、情報が記録されている。また、QRコード7の三方の隅には、QRコード7の位置を検出するための正方形状のファインダーパターン10が形成される。また、QRコード7の周囲には、一定範囲の空白部11(クワイエットゾーン)が設けられる。なお、かかるQRコード7は、本文で言及しない点については、既存の規格(JIS X 0510)に則って作成されている。
【0025】
かかるQRコード7は、黒色の赤外光吸収インキによって形成される。具体的には、QRコード7は、暗色セルの部分にのみ、黒色の赤外光吸収インキをベタ印刷することによって形成される。すなわち、かかるQRコード7を、基材2の表面に直接形成した場合、黒色の赤外光吸収インキがベタ印刷された暗色セルの部分が黒色を呈し、赤外光吸収インキが印刷されない明色セルの部分が基材2の地色により白色を呈して、図3(A)に示すように視認される。ただし、本実施例では、QRコード7が、迷彩パターン8の上に重ねて形成されるため、可視光照明下において、QRコード7の視認性が阻害される。
【0026】
迷彩パターン8は、図3(B)に示すように、白色の正方形(明色部)と黒色の正方形(暗色部)とが交互に配置されたチェッカーパターンである。迷彩パターン8を構成する白色の正方形と黒色の正方形の大きさは、QRコード7のセルと同じ大きさである。迷彩パターン8は、QRコード7よりも一回り大きい正方形状の領域に形成される。具体的には、迷彩パターン8は、QRコード7と、その周囲の空白部11がちょうど収まる大きさで形成される。迷彩パターン8は、黒色の赤外光透過インキによって形成される。具体的には、暗色部(黒色の正方形部分)に、黒色の赤外光透過インキがベタ印刷され、迷彩パターン8の明色部(白色の正方形部分)には、赤外光透過インキが印刷されず、白色の基材2の表面が露出している。
【0027】
図3(C)に示すように、QRコード7は、QRコード7と空白部11の全てが、迷彩パターン8と重なり合うように、迷彩パターン8の中央部に形成される。なお、迷彩パターン8の暗色部は、図3(B)に示すように、黒色を呈しているが、図3(C)では、QRコード7の暗色セルを識別し易いように、便宜上、迷彩パターン8の暗色部のうち、暗色セルと重ならない部分を灰色で示している(実際には、図1のように視認される。)。このように、本実施例では、QRコード7が迷彩パターン8の上に重なることにより、QRコード7の明色部分(明色セルや空白部11)についても、迷彩パターン8の暗色部と重なる部分(図3(C)中の灰色部分)は、黒色を呈している。ここで、迷彩パターン8を構成するチェッカーパターンは、明色部と暗色部の面積が等しいため、本実施例では、QRコード7の明色部分の約50%が迷彩パターン8の暗色部と重なって黒色を呈し、残りの約50%は迷彩パターン8の明色部と重なって白色を呈することとなる。
【0028】
本実施例の印刷物1では、可視光の反射強度に基づいてQRコード7の記録情報を読取り困難となっている。これは、上述のように、本実施例では、QRコード7の暗色セルだけでなく、QRコード7の明色部分の約50%が黒色を呈しているためと考えられる。具体的には、QRコード7の記録情報の読取りには、ファインダーパターン10などを検出して、QRコード7の位置を検出する位置検出処理と、QRコード7の個々のセルが明色セルと暗色セルのいずれであるかを判定する明暗判定処理とが必要となるが、明色セルと空白部11の半分が黒色、残り半分が白色を呈する状態では、位置検出処理を正常に完了させるのは困難である。また、明暗判定処理においても、QRコード7の明色セルの約半分は暗色セルと誤判定されため、仮に位置検出処理が正常に完了したとしても、QRコード7の記録情報の復号は困難である。なお、QRコード7は、セルの明暗の誤判定が生じても、誤り訂正機能の訂正可能範囲内であれば記録情報を復号できるが、迷彩パターン8によって広範囲で散発的に生じる誤判定は、QRコード7の訂正可能範囲に収まり得るものではない。
【0029】
本実施例の印刷物1では、専用装置を用いて赤外光の反射強度を測定すれば、QRコード7の明暗パターンを正確に識別して、QRコード7の記録情報を読み取ることができる。赤外光透過インキで形成される迷彩パターン8の明暗は、赤外光の反射強度の高低に反映されず、赤外光吸収インキで形成されたQRコード7の明暗のみが、赤外光の反射強度の高低に反映されるためである。具体的には、QRコード7の形成部位の赤外光の反射強度を測定した場合、図3(C)の白色部分では、赤外光が基材2の表面で直接反射し、また、図3(C)の灰色部分では、赤外光が、迷彩パターン8を形成する赤外光透過インキを透過して、基材2の表面で直接反射するため、図3(C)の白色部分と灰色部分では、赤外光の反射率は高くなる。一方、図3(C)の黒色部分では、赤外光がQRコード7の暗色セルを形成する赤外光吸収インキで吸収されるため、赤外光の反射強度は低くなる。このように、本実施例では、QRコード7の暗色セルにおいてのみ、赤外光の反射強度が低くなるため、赤外光の反射強度を測定すれば、QRコード7の明暗パターンを正確に識別して、QRコード7の記録情報を読み取ることができる。
【0030】
上述のように、本実施例1の印刷物1は、赤外光の反射強度に基づいてQRコード7の記録情報を読取可能であるが、本実施例1の印刷物1の複写物では、赤外光の反射強度に基づいてQRコード7の記録情報を読み取ることはできない。これは、通常の複写機では、複写時に赤外光の反射特性は考慮されないため、複写物では、原本における赤外光の反射特性が複製されないためである。すなわち、本実施例の印刷物1では、複写機による複製を防止することができる。
【0031】
本実施例の印刷物1(入場券)の効率的な製造方法としては、全ての入場券で共通する共通印刷(固定文字情報4や迷彩パターン8)のみを、印刷会社等において印刷機で基材2に印刷し、その後、入場券によって相違する固有印刷(可変文字情報5やQRコード7)を、チケット発行所においてプリンタで一枚ずつ印刷することが挙げられる。このように、予め共通印刷を印刷機で印刷し、固有印刷をプリンタで追加印刷すれば、印刷物1の発行コストを抑えることができる。本実施例では、固有印刷であるQRコード7が、共通印刷である迷彩パターン8の上に形成されるため、このような低コストでの製造方法を採用できる。なお、図1,3では、QRコード7のセルと、迷彩パターン8のチェッカーパターンの正方形状が、完全に重なり合うようにQRコード7が配置されているが、本実施例の印刷物1は、QRコード7のセルと、迷彩パターン8の正方形状の重なりにずれが生じている場合であっても、同様の効果を奏することができる。すなわち、本実施例の印刷物1の製造工程において、QRコード7と迷彩パターン8の正確な位置合わせは不要である。
【0032】
以上のように、本実施例の印刷物1では、赤外光の反射強度に基づいて読取容易で、可視光の反射強度に基づいて読取困難なQRコード7を、低廉な方法で製造できる。
【0033】
以下に、実施例2~7について説明する。実施例2~7は、上記実施例1の構成を一部変更した変形例である。このため、実施例1と同様の構成については、本文中及び図中で同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
【実施例0034】
本実施例は、実施例1から迷彩パターンの形状を変更したものである。具体的には、実施例1では、迷彩パターン8の全体がチェッカーパターンで構成されるのに対して(図3(B)参照)、本実施例では、図4(B)に示すように、迷彩パターン8aが、チェッカーパターン14と黒塗りパターン(黒色の塗り潰しパターン)15で構成される。黒塗りパターン15は、正方形状の迷彩パターン8aの外周部に形成される矩形枠状をなしており、チェッカーパターン14は、黒塗りパターン15の内側に形成される。チェッカーパターン14を構成する白色と黒色の正方形の大きさは、実施例1と同様である。図4(A)に示すように、QRコード7は実施例1と同じものであり、チェッカーパターン14は、QRコード7よりも一回り小さい正方形状をなしている。そして、本実施例では、図4(C)に示すように、QRコード7は、QRコード7の外周部及び空白部11が、黒塗りパターン15と重なるように迷彩パターン8aの上に形成される。
【0035】
本実施例のように、本発明に係る迷彩パターンは、チェッカーパターン14がQRコード7の全体と重ならないものであってもよい。また、本実施例にあっては、QRコード7がチェッカーパターン14と重なる部分と、QRコード7が黒塗りパターン15と重なる部分とで、可視光の反射強度の分布が相違するため、可視光の反射強度に基づくQRコード7の読取りが一層困難となる。また、本実施例では、迷彩パターン8aの外周部が黒塗りパターン15となっているため、QRコード7が迷彩パターン8aの中心からずれた位置に形成されていても、形成位置のずれが目立ち難く、美観を保ち易いという利点がある。
【実施例0036】
本実施例は、実施例1から迷彩パターンの形状を変更したものである。具体的には、実施例1では、迷彩パターン8が白色と黒色の正方形からなるチェッカーパターンで構成されるのに対して(図3(B)参照)、本実施例では、図5(A)に示すように、迷彩パターン8bが、白色と黒色の縦長長方形からなるチェッカーパターンで構成される。このように、迷彩パターンのチェッカーパターンを構成する四角形は、QRコード7を構成するセルと大きさや形状が相違するものであってもよい。
【実施例0037】
本実施例は、実施例1から迷彩パターンの形状を変更したものである。具体的には、実施例1では、迷彩パターン8がチェッカーパターンで構成されるのに対して(図3(B)参照)、本実施例では、図5(B)に示すように、迷彩パターン8cが、白色背景に黒色ドットのドットパターンで構成される。ドットは円形状をなしており、その直径はQRコード7のセルの一辺の長さとなっている。
【0038】
このように、本発明に係る迷彩パターンがドットパターンである場合でも、可視光の反射強度に基づくQRコード7の読取りが困難となる。なお、ドットの大きさは、上記実施例のサイズから、適宜変更可能であり、ドットの形状も円形に限らず、多角形や星形などであってもよい。また、明色の背景に暗色のドットからなるドットパターンに限らず、図5(C)に示す迷彩パターン8dのように、暗色の背景に明色のドットが配置されるドットパターンであってもよい。また、ドットパターンを構成する個々のドットの大きさ、形状は、不均一であってもよいし、ドットの配置も等間隔のものに限定されず、ドットが不規則に配置されるものであってもよい。
【実施例0039】
本実施例は、実施例1の印刷物をラミネートフィルムによって被覆したものである。詳述すると、実施例1の印刷物1は、図6(A)に示すように、赤外光透過インキ20で形成した迷彩パターン8の上に、赤外光吸収インキ21でQRコード7を形成しただけのものである。これに対して、本実施例の印刷物1aは、図6(B)に示すように、実施例1の印刷物1の表裏に透明なラミネートフィルム18を貼り合わせて、パウチ加工したものである。実施例1の印刷物1では、図6(A)に示すように、迷彩パターン8を形成する赤外光透過インキ20と、QRコード7を形成する赤外光吸収インキ21とが、印刷物1の表面に露出しているため、赤外光透過インキ20と赤外光吸収インキ21の光沢の差が、可視光の反射強度に比較的強めに反映される。これに対して、本実施例のように、印刷物1aがラミネートフィルム18で被覆されたものであれば、ラミネートフィルム18の光沢によって、赤外光透過インキ20と赤外光吸収インキ21の光沢の差が、可視光の反射強度に殆ど反映されなくなるため、可視光の反射強度に基づいて、QRコード7と迷彩パターン8を一層区別しづらくなる。
【実施例0040】
本実施例は、実施例1から迷彩パターンの構成を変更したものである。具体的には、本実施例の迷彩パターン8eは、実施例1の迷彩パターン8と同様のチェッカーパターンで構成される(図3(B)参照)。ここで、実施例1の印刷物1では、迷彩パターン8の明色部(チェッカーパターンの黒色部分)にはインキを印刷せず、基材2の白色地を露出させるのに対して(図6(A)参照)、本実施例の印刷物1bでは、図6(C)に示すように、迷彩パターン8eの明色部に白色の赤外光透過インキ22を形成する。かかる構成にあっては、明色部の赤外光透過インキ22を、暗色部の赤外光透過インキ20と同様の厚みで形成すれば、迷彩パターン8eの表面の凹凸が小さくなるため、QRコード7を迷彩パターン8eの上に比較的容易に形成可能となり、比較的性能の低いプリンタでも、かすれや欠損等の印刷不良を発生させることなくQRコード7を印刷可能となる。なお、本実施例では、迷彩パターン8eの明色部に、白色の赤外光透過インキ22を形成しているが、白色のインキに替えて、白色以外の明色インキや透明インキを形成するようにしてもよい。
【実施例0041】
本実施例は、実施例1の構成を一部変更したものである。具体的には、実施例1では、赤外光透過インキ20で形成された迷彩パターン8の上に、QRコード7が直接形成されるのに対して(図6(A)参照)、本実施例では、図6(D)に示すように、迷彩パターン8の全体を覆うように、透明な赤外光透過インキからなる透明被覆層25が形成され、透明被覆層25の上に、黒色の赤外光吸収インキ21でQRコード7が形成される。迷彩パターン8は、黒色の赤外光透過インキ20が形成された暗色部と、基材2が露出する明色部とで構成され、表面が不均質であるため、実施例1のように、迷彩パターン8の上にQRコード7を直接形成すると、迷彩パターン8の明色部と暗色部とで、赤外光吸収インキ21の定着が不安定となるが、本実施例では、かかる構成では、QRコード7の全体が、透明被覆層25の上に形成されるため、赤外光吸収インキ21の定着を安定させることができる。
【0042】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は、上記実施例の構成に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述の実施例1~7の構成は、適宜組み合わせて実施することが可能である。また、上記実施例の構成は、以下のように変更することができる。
【0043】
上記実施例は、QRコードが形成された印刷物であるが、本発明に係るシンボルは、QRコードに限られず、マイクロQRコード、DataMatrix(登録商標)、MaxiCodeなどのマトリクス型シンボルであってもよい。
【0044】
上記実施例では、赤外光吸収インキと赤外光透過インキが、本発明に係る赤外光吸収材と赤外光非吸収材に相当するが、本発明に係る赤外光吸収材と赤外光非吸収材は、インキに限られずトナーなどであってもよい。また、上記実施例では、QRコード7や迷彩パターン8を形成するインキが、ベタ印刷で形成されているが、QRコード7や迷彩パターン8は、インキの網点印刷で形成されるものであってもよい。
【0045】
上記実施例では、QRコード7の明色部(明色セル及び空白部11)が白色で、QRコード7の暗色部(暗色セル)が黒色で形成されているが、QRコード7の明色部を白色以外の明色で、QRコード7の暗色部を黒色以外の暗色で形成してもよい。同様に、上記実施例では、迷彩パターン8の明色部が白色で、迷彩パターン8の暗色部が黒色で形成されているが、迷彩パターン8の明色部を白色以外の明色で、迷彩パターン8の暗色部を黒色以外の暗色で形成してもよい。また、QRコード7と迷彩パターン8の明色部の色は、同一の又は近似する明色とすることが望ましいが、相違していても構わない。同様に、QRコード7と迷彩パターン8の暗色部の色は、同一の又は近似する暗色とすることが望ましいが、相違していても構わない。また、本発明に係る基材の表面の色についても、白色に限らず別の色を採用してもよい。
【0046】
また、上記実施例では、迷彩パターン8のチェッカーパターンの四角形の配列方向と、QRコード7のセルの配列方向が一致するように配置されていたが、チェッカーパターンの配列方向と、QRコード7の配列方向とが傾くように両者を重ねても構わない。同様に、迷彩パターン8がドットパターンである場合には、迷彩パターン8のドットの配列方向と、QRコード7の配列方向が傾くように両者を重ねても構わない。
【0047】
また、上記実施例では、迷彩パターン8がQRコード7の全体と重なるよう形成されているが、本発明は、迷彩パターン8がシンボルの一部のみと重なる構成であってもよい。なお、迷彩パターン8をシンボルの一部とのみ重ねる場合には、可視光の反射強度に基づくシンボルの読取りを確実に防止できるように、シンボルの誤り訂正率を上回る面積割合に、迷彩パターン8を重なることが望ましい。
【0048】
<試験品1>
上記実施例1の構成に則って作製した印刷物を試験品1とした。ここで、試験品1では、迷彩パターンのチェッカーパターンを構成する正方形のサイズを、一辺0.42mmとした。また、QRコードは、バージョン4、誤り訂正レベルM、セルを一辺0.42mmの正方形とした。
【0049】
<試験品2~4>
試験品1の迷彩パターンを、チェッカーパターンから、白色背景に黒色ドットのドットパターンに替えたものを試験品2~4とした。黒色ドットは一辺0.42mmの正方形状とした。また、試験品2~4について、黒色ドットの間隔を適宜設定することにより、夫々の暗色部の面積率が、20%(試験品2)、30%(試験品3)、40%(試験品4)となるようにした。
【0050】
<試験品5~7>
試験品1の迷彩パターンをチェッカーパターンから、黒色背景に白色ドットのドットパターンに替えたものを試験品5~7とした。白色ドットは一辺0.42mmの正方形状とした。また、試験品5~7について、白色ドットの間隔を適宜設定することにより、夫々の暗色部の面積率が、60%(試験品5)、70%(試験品6)、80%(試験品7)となるようにした。
【0051】
<試験品8~12>
試験品1のQRコードのセルのサイズを変更したものを試験品5~7とした。具体的には、正方形状のセルの一辺の長さを、試験品8では0.17mm、試験品9では0.25mm、試験品10では0.33mm、試験品11では0.51mm、試験品12では0.6mmとした。
【0052】
<比較品1,2>
試験品1の迷彩パターンを、チェッカーパターンから、黒塗りパターンに変更したものを比較品1とした。また、上記試験品1から迷彩パターンを除去したものを比較品2とした。
【0053】
<試験1>
携帯端末(スマートフォン)にQRコードの読取プログラムを複数種類インストールし、各読取プログラムで、試験品1~12及び比較品1,2のQRコードの読取りを試みて、可視光の反射強度に基づいて、QRコードの記録情報の読取りに成功するか否かを調べた。結果を図7に示す。
【0054】
図7に示されるように、試験品1では全ての読取プログラムでQRコードの読取りに失敗したのに対して、比較品1では、一部の読取プログラムでQRコードの読取りに成功した。このことは、チェッカーパターンからなる迷彩パターンは、黒塗りパターンと重ねた構成よりも可視光の反射強度に基づくQRコードの読取りを確実に防止できることを示している。
【0055】
また、図7に示されるように、試験品2~7についても、全ての読取プログラムでQRコードの読取りに失敗した。このことは、ドットパターンからなる迷彩パターンは、黒塗りパターンと重ねた構成よりも可視光の反射強度に基づくQRコードの読取りを確実に防止できることを示している。
【0056】
また、図7に示されるように、試験品8~12についても、全ての読取プログラムでQRコードの読取りに失敗した。このことは、迷彩パターンを構成する正方形のサイズと、QRコードのセルのサイズと一致していなくても、黒塗りパターンと重ねた構成よりも可視光の反射強度に基づくQRコードの読取りを確実に防止できることを示している。
【0057】
<試験2>
試験品1~12及び比較品1,2について、専用の読取装置を用いて、赤外光の反射強度に基づいてQRコードの読取りを試みた。その結果、試験品1~12及び比較品1,2の全てについて、QRコードに記録された情報を読み取ることができた。この結果は、チェッカーパターンやドットパターンからなる迷彩パターンは、赤外光の反射強度に基づくQRコードの読取りを阻害しないことを示している。
【0058】
<試験3>
試験品1~12及び比較品1,2について、一般的な複写機を用いて複写し、夫々の複写物について、上記試験1と同様にして、QRコードを複写した部分から、QRコードの記録情報の読取りを試みた。その結果、試験品1~12及び比較品1の複写物では、QRコードの記録情報を一度も読み取ることができなかった。一方、迷彩パターンが形成されていない比較品2の複写物では、全ての読取プログラムで、QRコードの読取りに成功した。この結果は、チェッカーパターンやドットパターンからなる迷彩パターンについても、黒塗りパターンと同様に、QRコードの複写を防止できることを示している。
【符号の説明】
【0059】
1 印刷物
2 基材
4 固定文字情報
5 可変文字情報
7 QRコード(シンボル)
8 迷彩パターン
10 ファインダーパターン
11 空白部
14 チェッカーパターン
15 黒塗りパターン
18 ラミネートフィルム
20 赤外光吸収インキ(赤外光吸収材)
21 赤外光透過インキ(赤外光非吸収材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7