(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049679
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】電動式ラチェット回転工具
(51)【国際特許分類】
B25B 21/00 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
B25B21/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159560
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000232597
【氏名又は名称】株式会社ベッセル工業
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田口 二郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 章裕
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 秀二
(57)【要約】
【課題】回転方向を限定する切り替えを行うための作業効率を向上すると共に、モータの駆動、特にモータ回転方向に関する操作を簡単にした電動式ラチェット回転工具を提供する。
【解決手段】回転させられることにより締結作用をなす回転締結具に回転力を与えることのできる出力部21を有するヘッド部と、前記ヘッド部に連続して設けられており、前記回転締結具を回転させる作業を行う際にユーザーが持つハンドル部であって、前記回転力を発生するモータ81を有するハンドル部と、を備え、前記ヘッド部は、前記出力部21の回転締結具に対して及ぼす前記回転力の方向を限定するラチェット機構22を有し、前記ラチェット機構22の切り替え操作が行われる切替操作部31を有し、当該切替操作部31が、前記モータの回転方向を指示する方向操作部を兼ねた一括操作部を構成している、電動式ラチェット回転工具である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転させられることにより締結作用をなす回転締結具に回転力を与えることのできる出力部を有するヘッド部と、
前記ヘッド部に連続して設けられており、前記回転締結具を回転させる作業を行う際にユーザーが持つハンドル部であって、前記回転力を発生するモータを有するハンドル部と、を備え、
前記ヘッド部は、前記出力部の前記回転締結具に対して及ぼす前記回転力の方向を限定するラチェット機構を有し、
前記ラチェット機構の切り替え操作が行われる切替操作部を有し、当該切替操作部が、前記モータの回転方向を指示する方向操作部を兼ねた一括操作部を構成している、電動式ラチェット回転工具。
【請求項2】
前記一括操作部が、前記モータをオンオフさせる駆動操作部を兼ねる、請求項1に記載の電動式ラチェット回転工具。
【請求項3】
前記一括操作部の操作範囲のうち、全範囲が前記切替操作部として機能し、両端寄りの範囲が前記方向操作部として機能する、請求項1または2に記載の電動式ラチェット回転工具。
【請求項4】
前記一括操作部が、前記モータをオンオフさせる駆動操作部を兼ねており、
前記一括操作部が復帰ばねを有し、前記一括操作部においてユーザーに操作される操作入力片が、ユーザーの手が離れた場合に前記復帰ばねのばね力により前記操作範囲における中央寄りの位置に移動させられる、請求項3に記載の電動式ラチェット回転工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動式ラチェット回転工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、ラチェット機構を備える電動式ラチェット回転工具としての電動式ラチェットレンチが記載されている。この電動式ラチェットレンチによると、回転締結具(ボルト、ナット等)に係合する部分である係合部を、締め方向または緩め方向のうち一方の回転方向で回転締結具に、モータの駆動力を回転力として与えるようにでき、逆方向では空転により係合部が回転しないように切り替えられる。
【0003】
特許文献1に記載のラチェットレンチでは、ラチェット機構で回転方向を一方向に限定し、他方向については空転させるための切り替えレバーが設けられている。切り替えレバーの向きを変更することによって、係合部が回転締結具に回転力を与える方向を締め方向または緩め方向に限定することができる。
【0004】
この切り替えレバーは係合部の近くに設けられている。このため、回転方向を限定するための切り替えを行うために、ユーザーはハンドルを握る手を持ち替えたり、ハンドルを握る手とは逆の手で操作したりする必要があって、その手間がかかる分、回転方向に関する切り替えのための作業効率が良くなかった。
【0005】
さらに、特許文献1に記載のラチェットレンチでは、モータの駆動操作部が切り替えレバーとは別に設けられていたため、切り替えレバーの操作と駆動操作部の操作とで、ユーザーに別の位置での操作が要求されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-130820号公報(
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、回転方向を限定する切り替えを行うための作業効率を向上すると共に、モータの駆動、特にモータ回転方向に関する操作を簡単にした電動式ラチェット回転工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、回転させられることにより締結作用をなす回転締結具に回転力を与えることのできる出力部を有するヘッド部と、前記ヘッド部に連続して設けられており、前記回転締結具を回転させる作業を行う際にユーザーが持つハンドル部であって、前記回転力を発生するモータを有するハンドル部と、を備え、前記ヘッド部は、前記出力部の前記回転締結具に対して及ぼす前記回転力の方向を限定するラチェット機構を有し、前記ラチェット機構の切り替え操作が行われる切替操作部を有し、当該切替操作部が、前記モータの回転方向を指示する方向操作部を兼ねた一括操作部を構成している、電動式ラチェット回転工具である。
【0009】
この構成によると、切替操作部がモータの方向操作部を兼ねているので、ラチェット機構の切り替え操作、モータ回転方向の指示操作の各々のためにユーザーがハンドル部を持ち替える必要がない。
【0010】
また、前記一括操作部が、前記モータをオンオフさせる駆動操作部を兼ねるものとできる。
【0011】
この構成によると、モータに関する操作部をまとめることができる。
【0012】
また、前記一括操作部の操作範囲のうち、全範囲が前記切替操作部として機能し、両端寄りの範囲が前記方向操作部として機能するものとできる。
【0013】
この構成によると、スイッチの機能する範囲を分けることで、ユーザーが感覚的に操作できる。
【0014】
また、前記一括操作部が、前記モータをオンオフさせる駆動操作部を兼ねており、前記一括操作部が復帰ばねを有し、前記一括操作部においてユーザーに操作される操作入力片が、ユーザーの手が離れた場合に前記復帰ばねのばね力により前記操作範囲における中央寄りの位置に移動させられるものとできる。
【0015】
この構成によると、ユーザーが操作入力片から手を離すとモータが停止するように構成可能であるため安全である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、切替操作部がモータの方向操作部を兼ねているので、ラチェット機構の切り替え操作、モータ回転方向の指示操作の各々のためにユーザーがハンドル部を持ち替える必要がない。このため、回転方向を限定する切り替えを行うための作業効率を向上すると共に、モータの駆動、特にモータ回転方向に関する操作を簡単にできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るラチェットハンドルの斜視図である。
【
図2】
図1の状態で外装を除去した状態を示した斜視図である。
【
図3】ハンドル部の軸心に沿って切断した状態を示す縦断面図である。
【
図4】ラチェットクロー周辺の構成部材を取り出して示した斜視図である。
【
図7】本発明の他の実施形態に係るラチェットハンドルの斜視図である。
【
図8】前記他の実施形態に係るラチェットハンドルにおいて、切替伝達機構を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明につき、一実施形態として電動式ラチェット回転工具であるラチェットハンドル1を取り上げて説明を行う。このラチェットハンドル1は、従来のものと同じく、回転させられることにより締結作用をなす、図示しない回転締結具(ボルト、ナット等)の締め付け作業または緩め作業に用いられるものであって、トルクのかからない時期(締め付けの場合では初期、緩めの場合では後期)において、モータ駆動により回転を行うことができる。
【0019】
本実施形態のラチェットハンドル1は、主に、ヘッド部2、ハンドル部3、連結部4を有する。本実施形態では、ヘッド部2、ハンドル部3、連結部4は直線方向に並んでいる。ラチェットハンドル1の前後方向は、ヘッド部2の側を前側とし、ハンドル部3の側を後側として説明する。
【0020】
ヘッド部2は、回転締結具に軸心まわりの回転力を与えることのできる出力部21を有する。出力部21はヘッド部2に埋め込まれた形状とされていて、回転締結具の被係合部(ボルト頭部等)の形状に対応した貫通穴を有している。本実施形態では六角穴とされている。出力部21は、後述のラチェット機構22により、ヘッド部2において軸心まわりで回転可能な状態と回転不能な状態とが切り替えられる。この出力部21には、回転締結具の被係合部(ボルト頭部等)の形状に対応したソケットを着脱可能に取り付けることもできる。出力部21(出力部21にソケットを装着した場合にはソケット)を回転締結具に係合させた状態とし、ユーザーがハンドル部3を持って、出力部21の軸心を中心に回すことで、出力部21からソケットを介して、ユーザーが発生させた回転力を回転締結具に加えることができる。この時、ヘッド部2において出力部21は回転不能な状態とされている。
【0021】
ヘッド部2は、出力部21の回転締結具に対して及ぼす回転力の方向を限定するラチェット機構22を有する。ラチェット機構22の動作と作用は従来と同じである。このラチェット機構22は、手動で使用する際、電動で使用する際の両方で機能する。本実施形態では、
図2に示すように、出力部21の外周に一体に設けられたラチェット歯部211に対し、ハンドル部3と出力部21の回転中心を結ぶ仮想線を挟むように位置する一対のラチェットクロー221を有する。ラチェットクロー221は、
図4に示すようにヘッド部2の内部で回動支持部2213を中心として所定範囲を回動する(矢印で図示)爪状の部材である。ラチェットクロー221は、先端にクロー側歯部2212を有する。ラチェットクロー221は、根元側に前記仮想線側に突出する被係合突起2211を有し、この被係合突起2211が後述の切替伝達機構5の前端部に設けられたカム部52の段差(または山)521に押されることで前記回動に係る移動をさせることができる。ラチェットクロー221には図示しない復帰ばねが取り付けられていて、カム部52に押されない時には、復帰ばねのばね力により元の位置に復帰する。カム部52は、一対のラチェットクロー221のうち一方または他方の被係合突起2211だけを押圧する。一対のうち一方のラチェットクロー221におけるクロー側歯部2212が出力部21のラチェット歯部211に噛み合うことで、出力部21の一方向への回転を阻止すると共に、クロー側歯部2212が出力部21のラチェット歯部211を乗り越えることで、他方向への回転を許容する。例えば、
図2において左下に図示されたラチェットクロー221では、出力部21の反時計回りの回転を阻止すると共に、時計回りの回転を許容する。
図2において右上に図示されたラチェットクロー221では、出力部21の時計回りの回転を阻止すると共に、反時計回りの回転を許容する。これにより、ヘッド部2において出力部21が前記一方向には回転しないように固定され、その状態のハンドル部3をユーザーが持って、出力部21の軸心を中心として回すことで、回転力を出力部21から回転締結具に伝えることができる。一方、ハンドル部3を逆方向に回した場合は、前述のようにクロー側歯部2212が出力部21のラチェット歯部211を乗り越えることにより、ヘッド部2において出力部21が回転(空回り)するから、回転力は出力部21から回転締結具に伝わらない。
【0022】
ハンドル部3は、ヘッド部2に間接的または直接的に連続して設けられており、前記回転締結具を回転させる作業を行う際にユーザーが持つ、長尺状の部分である。本実施形態では、ヘッド部2とハンドル部3との間に筒状の連結部4が介在している。連結部4は、ヘッド部2及びハンドル部3に対して径寸法が絞られた部分であって、
図3に示すように、長尺の切替伝達機構5及び回転力伝達機構6が内蔵されている。
【0023】
ハンドル部3には、モータ81、クラッチ82、減速機構83、バッテリー84が内蔵されている。本実施形態では、駆動力(回転力)の伝達がモータ81、クラッチ82、減速機構83の順で構成されており、減速機構83から伝達軸61に駆動力が伝達されるが、クラッチ82と減速機構83とは前記と逆に配置してもよい。本実施形態の減速機構83には遊星歯車機構が用いられていて減速を行うよう構成されているが、これに限定されず、種々の構成を採用できる。
【0024】
また、本実施形態のクラッチ82は遠心クラッチとされている。このクラッチ82(遠心クラッチ)は、
図3に示す駆動側のクラッチシュー821と、クラッチシュー821の径外側を覆うように設けられた、従動側のクラッチベル822とを有している。クラッチベル822の前端部には、減速機構83の遊星歯車に噛み合う歯車が設けられている。モータ81の非駆動時には、クラッチシュー821とクラッチベル822とは、図示のように離れている。モータ81の駆動力がかかった場合には、クラッチシュー821に高速回転による遠心力が働いて径外方向に移動し、クラッチベル822の内周面に当接することで、クラッチシュー821からクラッチベル822に駆動力が伝達される。従って、モータ81の駆動力がクラッチ82を介して減速機構83に伝達される。一方、高速回転ではない場合は、モータ81と減速機構83との間で駆動力が伝達されない。従って、ラチェットハンドル1を手回し操作する際に出力部21が回転しても、その回転力はクラッチ82で切断され、モータ81に至らない。クラッチ82は遠心クラッチに限定されず、種々の構成を採用できる。
【0025】
また、バッテリー84にはリチウムイオン電池等の充電式電池が用いられている。
図2に充電の際に用いる充電端子841が現れている。充電端子には例えばUSB端子を用いることができ、ここにケーブルを接続してバッテリー84の充電を行うことができる。
【0026】
また、ハンドル部3は、ユーザーによりラチェット機構22の切り替え操作を行うための切替操作部31を有する。切替操作部31のうち、ユーザーに操作されるレバーである操作入力片311が、ハンドル部3の側面に露出している。なお、切替操作部31はモータ81の回転方向を含む操作を行うための駆動操作部を兼ねている。詳しくは後述する。従来のラチェットハンドルでは切替操作部31がヘッド部2に設けられていたが、本実施形態ではハンドル部3に設けられている。切替操作部31の操作方向は、ハンドル部3の軸心基準で周方向であり、この周方向へのスライド移動により切替操作部31の切り替えを行う。切替操作部31の操作方向と同じ方向に、切替伝達機構5の前端部に設けられたカム部52を回転させることができる。切替操作部31がハンドル部3に設けられたことにより、ユーザーはハンドル部3を持ったまま(具体的には、親指以外の4本の指でハンドル部3を握ったまま)で、親指を使って切替操作部31を操作できる。このため、ラチェット機構22の切り替え操作のためにユーザーがハンドル部3を持ち替える必要がないので有利である。ハンドル部3は筒状体とされており、内部に
図2に示す機構が収納されている。ハンドル部3は、軸線方向が出力部21の回転中心軸に対して直交し、当該回転中心軸を基準とした径方向(直線方向)に延びている。
【0027】
切替操作部31がヘッド部2から離れたハンドル部3に設けられたことに伴い、切替操作部31とヘッド部2とが切替伝達機構5により連結されている。この切替伝達機構5は、ラチェット機構22の切り替えのための変位を伝達可能である。この切替伝達機構5は、ハンドル部3から連結部4を通り、ヘッド部2にわたって延びる管状の回転軸である長尺部51を有している。切替操作部31が操作されたことにより生じた切り替えのための変位が、この長尺部51を介し、周方向への変位として出力部21に伝達される。このように長尺部51で変位を伝達できるので、ラチェットハンドル1の構成を簡単にできる。
【0028】
長尺部51の後端部には切替操作部31が固定されている。一方、前端部にはカム部52が固定されている。このため、切替操作部31が周方向に操作された角度分、カム部52を周方向に移動させることができ、これに応じて一対のラチェットクロー221のうち、切替操作部31の操作に応じた一方を移動させられる。
【0029】
本実施形態のハンドル部3は、モータ81及び減速機構83を有する。なお場合によっては、減速機構83は設けないこともできる。モータ81を駆動させることにより回転締結具を早回しすることが可能である。よって、回転締結具に締め付けトルクのかからない時期(締め付けの場合では初期、緩めの場合では後期)において回転締結具の回転速度を上げた早回しを行い、作業時間を短縮させることができる。なお、締め付けトルクをかける際は、モータ81による早回しを行わず、ハンドル部3を回すことで回転締結具を回転させる。
【0030】
切替操作部31は、モータ81への通電に関し、モータ81の駆動(オンオフ)を指示する駆動操作部及びモータ81の回転方向を指示する方向操作部を兼ねた、一体(一まとめ)とされた一括操作部を構成している。前述のように、切替操作部31の操作方向は、ハンドル部3の軸心基準で周方向であり、この周方向へのスライド移動により切替操作部31の切り替えを行う。一括操作部の操作範囲のうち、全範囲が切替操作部31として機能し、両端寄りの範囲が方向操作部として機能する。つまり、一括操作部の操作範囲の中央を基準として一方寄り(例えばユーザーから見て右寄り)に一括操作部をスライドさせると、ラチェット機構22が一方側に切り替えられる。そして更に操作範囲の端部まで一括操作部をスライドさせると、模式図である
図5に示すように、切替操作部31と一体に移動する接点押圧部312によって電気接点91,92のいずれかが通電状態となり、前記切り替えられたラチェット機構22が許容する方向の回転をするようにモータ81が駆動する。逆に、一括操作部の操作範囲の中央を基準として他方寄り(例えばユーザーから見て左寄り)に一括操作部をスライドさせると、ラチェット機構22が他方側に切り替えられる。そして更に操作範囲の端部まで一括操作部をスライドさせると、前記切り替えられたラチェット機構22が許容する方向の回転をするようにモータ81が駆動する。なお、
図5は説明用の模式図であるため、
図2に示された切替操作部31の形態とは整合していないところがある。
【0031】
また、一括操作部は、
図3及び模式図である
図6に示す一対の復帰ばね314を有している。復帰ばね314には、例えばコイルばねが用いられる。ただしこれに限定されず、板ばねやぜんまいばね等、種々の形態のばねを用いることができる。復帰ばね314は、切替操作部31の前記スライド移動に係る周方向の両端に設けられたばね支持部313と、ハンドル部3の外装内面とによって、伸縮可能に支持されている。復帰ばね314の変形(伸縮)により生じるばね力は、切替操作部31に対して前記スライド移動の方向に作用する。特に本実施形態では、復帰ばね314が伸長する際のばね力が切替操作部31に作用する。このため、一括操作部においてユーザーに操作される操作入力片311が、ユーザーの手が離れた場合に一対の復帰ばね314のうち一つが発する前記伸長に係るばね力により、操作範囲における中央寄りの位置に移動させられる。操作入力片311が復帰ばね314のばね力により中央寄りの位置に移動させられると、モータ81は停止する。つまり、ユーザーが操作入力片311に操作範囲の端部方向への力を加えているときに限ってモータ81が駆動する。ユーザーが一括操作部の操作入力片311から手を離すとモータ81が停止するため安全である。図示はしていないが、ノッチ機構等を用いることにより、操作入力片311をラチェット機構22の切り替えがなされた状態(
図6に示す左右中央の状態ではなく、右方又は左方に片寄った状態)にとどめることができる。なお、
図6は説明用の模式図であるため、
図2に示された切替操作部31の形態とは整合していないところがある。
【0032】
以上のように、切替操作部31が、モータ81の駆動操作部(及び方向操作部)を兼ねた一括操作部を構成していることから、ラチェット機構22の切り替え操作、モータ81のオンオフ(回転方向指示も含む)の各々の操作のためにユーザーがハンドル部3を持ち替える必要がないので有利である。
【0033】
モータ81の駆動力を出力部21に伝達するため、ハンドル部3から連結部4を通り、ヘッド部2にわたって設けられ、回転操作部32に与えられた回転力を出力部21に伝達する回転力伝達機構6を備える。本実施形態の回転力伝達機構6は、減速機構83からヘッド部2の出力部21に至るように直線状に延びる伝達軸61を有する。伝達軸61は一定の軸心まわりに回転するように外装部分に支持されている。
【0034】
伝達軸61の前端部にはかさ歯車64が設けられている(
図4ではカム部52の反対側に隠れている)。このかさ歯車64は、出力部21に一体に設けられ、出力部21のヘッド部2からの突出方向を向いている電動用歯部212に対して噛み合っている。かさ歯車64と電動用歯部212との歯車比は任意に設定できる。以上のように構成された回転力伝達機構6により、モータ81が生じた回転力を、伝達軸61を介して出力部21に伝達できる。
【0035】
本実施形態では、切替伝達機構5の長尺部51と回転力伝達機構6とが並列に配置されている。並列配置とされたことで、切替伝達機構5をコンパクトに配置できる。
【0036】
前記並列配置につき、本実施形態の切替伝達機構5(長尺部51)と回転力伝達機構6は、ハンドル部3からヘッド部2にわたって延びる、管状部7oと当該管状部7oの内部空間を一部が通された棒状部7iとの組み合わせである複合伝達体7として構成されている。つまり、本実施形態では、径方向の外部(管状部7o)と内部(棒状部7i)とでの並列配置である。管状部7oと棒状部7iは密着しておらず、別個に動作(回転)できるように径方向で距離が保たれている。管状部7oと棒状部7iの軸心は一致しており、管状部7oは内部において棒状部7iにガイドされつつ、周方向に移動する。
図2に示すように、切替伝達機構5(長尺部51)と回転力伝達機構6の組み合わせが一本にまとまった形態となっている。管状部7oに棒状部7iが内蔵される形態であるので、前記組み合わせをよりコンパクトにできる。
【0037】
管状部7oと棒状部7iのうち一方が切替伝達機構5に属し、他方が回転力伝達機構6に属する。本実施形態では、径外側の管状部7oが切替伝達機構5に属し(長尺部51に該当)、径内側の棒状部7iが回転力伝達機構6に属している(伝達軸61に該当)。
【0038】
また、本実施形態では、回転操作部32の回転中心軸の軸線方向が、管状体と棒状体との組み合わせ(複合伝達体7)の軸線方向に対して直交している。この構成により、回転操作部32を回転させる際の操作性が良いことから有利である。
【0039】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0040】
例えば、前記実施形態では、切替操作部31が、モータ81の駆動を指示する駆動操作部及びモータ81の回転方向を指示する方向操作部を兼ねた一括操作部を構成していたが、モータ81の回転方向を指示する方向操作部のみを兼ねた一括操作部を構成し、駆動操作部を方向操作部とは別に設けてもよい。
【0041】
また、長尺部51を介して出力部21に伝達される変位は周方向への変位であった。しかし、長手方向への変位であってもよい。このため、長尺部51は引張により変位を伝達するワイヤーであってもよい。
【0042】
また、別の実施形態として、ラチェットハンドル1が、
図7、
図8に示すように、切替操作部31の基端部に設けられていて長尺部51(管状部7o)に固定された軸部315と、周方向に不動とされた外管部316において長手方向に向かいつつ途中で湾曲するように形成され、軸部315が貫通する誘導長孔317との組み合わせを備えていてもよい。この構成によれば、切替操作部31が長手方向に操作されると、軸部315が誘導長孔317に誘導されることで、長尺部51(管状部7o)が周方向に移動し、その結果、前記実施形態と同じく、長尺部51の前端部のカム部52を周方向に移動させることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 電動式ラチェット回転工具(ラチェットハンドル)
2 ヘッド部
21 出力部
22 ラチェット機構
3 ハンドル部
31 切替操作部、一括操作部(方向操作部、駆動操作部)
311 操作入力片
314 復帰ばね
4 連結部
5 切替伝達機構
6 回転力伝達機構
7 複合伝達体
81 モータ