(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049686
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】ラチェット回転工具
(51)【国際特許分類】
B25B 13/46 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
B25B13/46 Z
B25B13/46 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159579
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000232597
【氏名又は名称】株式会社ベッセル工業
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田口 二郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 章裕
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 秀二
(57)【要約】
【課題】回転方向を限定する切り替えを行うための作業効率を向上したラチェット回転工具を提供する。
【解決手段】回転させられることにより締結作用をなす回転締結具に回転力を与えることのできる出力部21を有するヘッド部と、前記ヘッド部に連続して設けられており、前記回転締結具を回転させる作業を行う際にユーザーが持つハンドル部と、を備え、前記ヘッド部は、前記出力部21の回転締結具に対して及ぼす前記回転力の方向を限定するラチェット機構22を有し、前記ハンドル部は、前記ラチェット機構22の切り替え操作を行うための切替操作部31を有し、前記切替操作部31と前記ヘッド部とが、切替伝達機構5により前記切り替えのための変位を伝達可能に連結されている、ラチェット回転工具1である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転させられることにより締結作用をなす回転締結具に回転力を与えることのできる出力部を有するヘッド部と、
前記ヘッド部に連続して設けられており、前記回転締結具を回転させる作業を行う際にユーザーが持つハンドル部と、を備え、
前記ヘッド部は、前記出力部の回転締結具に対して及ぼす前記回転力の方向を限定するラチェット機構を有し、
前記ハンドル部は、前記ラチェット機構の切り替え操作を行うための切替操作部を有し、
前記切替操作部と前記ヘッド部とが、切替伝達機構により前記切り替えのための変位を伝達可能に連結されている、ラチェット回転工具。
【請求項2】
前記切替伝達機構は、前記ハンドル部から前記ヘッド部にわたって延びる長尺部を有し、
前記切替操作部が操作されたことにより生じた前記切り替えのための変位が、前記長尺部を介し、長手方向への変位または周方向への変位として前記出力部に伝達される、請求項1に記載のラチェット回転工具。
【請求項3】
前記ハンドル部は、前記出力部を回転させるための回転力を入力する回転操作部を有し、
前記ハンドル部から前記ヘッド部にわたって設けられ、前記回転操作部に与えられた回転力を前記出力部に伝達する回転力伝達機構を備え、
前記切替伝達機構の前記長尺部と前記回転力伝達機構とが並列に配置されている、請求項2に記載のラチェット回転工具。
【請求項4】
前記ハンドル部から前記ヘッド部にわたって延びる、管状部と当該管状部の内部空間を通された棒状部との組み合わせを備え、
前記管状部と前記棒状部のうち一方が前記切替伝達機構に属し、他方が前記回転力伝達機構に属する、請求項3に記載のラチェット回転工具。
【請求項5】
前記ハンドル部は、前記出力部を回転させるための回転力を入力する回転操作部を有し、
前記ハンドル部から前記ヘッド部にわたって設けられ、前記回転操作部に与えられた回転力を前記出力部に伝達する回転力伝達機構を備える、請求項1に記載のラチェット回転工具。
【請求項6】
前記回転操作部が、前記ハンドル部に複数設けられている、請求項5に記載のラチェット回転工具。
【請求項7】
前記回転操作部は前記ハンドル部に対して着脱可能であって、
前記回転力伝達機構は、前記回転操作部が前記ハンドル部から外された状態で、他の動力源が有する回転駆動部材を接続可能である、請求項5または6に記載のラチェット回転工具。
【請求項8】
前記ハンドル部は長尺状であって、前記回転操作部と前記切替操作部とが、前記ハンドル部の周方向で異なる位置に設けられている、請求項5~7のいずれかに記載のラチェット回転工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラチェット回転工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、ラチェット機構を備えるラチェット回転工具としてのラチェットレンチが記載されている。このラチェットレンチによると、回転締結具(ボルト、ナット等)に係合する部分である係合部を、締め方向または緩め方向のうち一方の回転方向で回転締結具に回転力を与えるようにでき、逆方向では空転により係合部が回転しないように切り替えられる。
【0003】
特許文献1に記載のラチェットレンチでは、係合部が回転締結具に回転力を与える方向をラチェット機構で一方向に限定し、他方向については空転させるための切り替えレバーが設けられている。切り替えレバーの向きを変更することによって、係合部が回転締結具に回転力を与える方向を締め方向または緩め方向に限定することができる。
【0004】
従来、この切り替えレバーは係合部の近くに設けられていた。このため、回転方向を限定する切り替えを行うために、ユーザーはハンドルを握る手を持ち替えたり、ハンドルを握る手とは逆の手で操作したりする必要があって、その手間がかかる分、回転方向に関する切り替えのための作業効率が良くなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-13181号公報(
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、回転方向を限定する切り替えを行うための作業効率を向上したラチェット回転工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、回転させられることにより締結作用をなす回転締結具に回転力を与えることのできる出力部を有するヘッド部と、前記ヘッド部に連続して設けられており、前記回転締結具を回転させる作業を行う際にユーザーが持つハンドル部と、を備え、前記ヘッド部は、前記出力部の回転締結具に対して及ぼす前記回転力の方向を限定するラチェット機構を有し、前記ハンドル部は、前記ラチェット機構の切り替え操作を行うための切替操作部を有し、前記切替操作部と前記ヘッド部とが、切替伝達機構により前記切り替えのための変位を伝達可能に連結されている、ラチェット回転工具である。
【0008】
この構成によると、切替操作部がハンドル部に設けられたことにより、ラチェット機構の切り替え操作のためにユーザーがハンドル部を持ち替える必要がない。
【0009】
また、前記切替伝達機構は、前記ハンドル部から前記ヘッド部にわたって延びる長尺部を有し、前記切替操作部が操作されたことにより生じた前記切り替えのための変位が、前記長尺部を介し、長手方向への変位または周方向への変位として前記出力部に伝達されるものとできる。
【0010】
この構成によると、長尺部で変位を伝達できるので、切替伝達機構の構成を簡単にできる。
【0011】
また、前記ハンドル部は、前記出力部を回転させるための回転力を入力する回転操作部を有し、前記ハンドル部から前記ヘッド部にわたって設けられ、前記回転操作部に与えられた回転力を前記出力部に伝達する回転力伝達機構を備え、前記切替伝達機構の前記長尺部と前記回転力伝達機構とが並列に配置されているものとできる。
【0012】
この構成によると、並列配置とされたことで、コンパクトに配置できる。
【0013】
また、前記ハンドル部から前記ヘッド部にわたって延びる、管状部と当該管状部の内部空間を通された棒状部との組み合わせを備え、前記管状部と前記棒状部のうち一方が前記切替伝達機構に属し、他方が前記回転力伝達機構に属するものとできる。
【0014】
この構成によると、管状部に棒状部が内蔵されるので、よりコンパクトにできる。
【0015】
ここで、特許文献1に記載のラチェットレンチは手動式であって、締め付けトルクのかからない時期(締め付けの場合では初期、緩めの場合では後期)において回転締結具の回転速度を上げて、作業時間を短縮させるための早回し機構が設けられている。この早回し機構は、ハンドルを回すことなしに係合部を直接回すことができる、ダイアル状の回転入力部を有する。この回転入力部は係合部に隣接して設けられている。このため、早回しを行うために、ユーザーはハンドルを握る手を持ち替えたり、ハンドルを握る手とは逆の手で操作したりする必要があって、その手間がかかる分、早回しのための作業効率が良くなかった。
【0016】
前記事情に対し、本発明は、前記ラチェット回転工具において、前記ハンドル部は、前記出力部を回転させるための回転力を入力する回転操作部を有し、前記ハンドル部から前記ヘッド部にわたって設けられ、前記回転操作部に与えられた回転力を前記出力部に伝達する回転力伝達機構を備えるラチェット回転工具である。
【0017】
この構成によると、回転操作部により回転締結具を早回しすることが可能であって、早回しを行う際の回転操作部の操作のためにユーザーが手を大きく移動させる必要がない。
【0018】
また、前記回転操作部が、前記ハンドル部に複数設けられているものとできる。
【0019】
この構成によると、複数のハンドル部から状況に応じて使い勝手の良いものを選択して使用できる。
【0020】
また、前記回転操作部は前記ハンドル部に対して着脱可能であって、前記回転力伝達機構は、前記回転操作部が前記ハンドル部から外された状態で、他の動力源が有する回転駆動部材を接続可能であるものとできる。
【0021】
この構成によると、駆動力の入力を選択可能である。
【0022】
また、前記ハンドル部は長尺状であって、前記回転操作部と前記切替操作部とが、前記ハンドル部の周方向で異なる位置に設けられているものとできる。
【0023】
この構成によると、両方の操作がしやすい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、切替操作部がハンドル部に設けられたことにより、ラチェット機構の切り替え操作のためにユーザーがハンドル部を持ち替える必要がない。このため、回転方向を限定する切り替えを行うための作業効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係るラチェットハンドルの、出力部の側(使用時にユーザーから見た裏側)から見た斜視図である。
【
図2】前記ラチェットハンドルの、出力部とは反対側(使用時にユーザーから見た表側)から見た斜視図である。
【
図3】
図2の状態で外装を除去した状態を示した斜視図である。
【
図4】ハンドル部の軸心に沿って切断した状態を示す縦断面図である。
【
図5】ラチェットクロー周辺の構成部材を取り出して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に本発明につき、一実施形態として手動式のラチェット回転工具であるラチェットハンドル1を取り上げて説明を行う。このラチェットハンドル1は、従来のものと同じく、回転させられることにより締結作用をなす、図示しない回転締結具(ボルト、ナット等)の締め付け作業または緩め作業に用いられる。
【0027】
本実施形態のラチェットハンドル1につき、出力部21の側(使用時における裏側)から見た斜視図を
図1に示し、反対側(使用時における表側)から見た斜視図を
図2に示す。また、
図2の状態で外装を除去して内部構成を示した斜視図を
図3に示す。このラチェットハンドル1は、主に、ヘッド部2、ハンドル部3、連結部4を有する。本実施形態では、ヘッド部2、ハンドル部3、連結部4は直線方向に並んでいる。ラチェットハンドル1の前後方向は、ヘッド部2の側を前側とし、ハンドル部3の側を後側として説明する。
【0028】
ヘッド部2は、回転締結具に軸心まわりの回転力を与えることのできる出力部21を有する。出力部21はヘッド部2の基部(出力部21における基部21aが埋め込まれた部分)から例えば一方向(
図1における上方向)に突出している。出力部21は、後述のラチェット機構22により、ヘッド部2において軸心まわりで回転可能な状態と回転不能な状態とが切り替えられ、回転方向が限定される。出力部21には図示しないソケットが着脱可能とされている。このソケットは、回転締結具の被係合部(ボルト頭部等)の形状に対応したものである。ソケットを回転締結具に係合させた状態とし、ユーザーがハンドル部3を持って、出力部21の軸心を中心に回すことで、出力部21からソケットを介して、ユーザーが発生させた回転力を回転締結具に加えることができる。この時、ヘッド部2において出力部21は回転不能な状態とされている。
【0029】
ヘッド部2は、出力部21の回転締結具に対して及ぼす回転力の方向を限定するラチェット機構22を有する。ラチェット機構22の動作と作用は従来と同じである。本実施形態では、
図3に示すように、出力部21の外周に一体に設けられたラチェット歯部211に対し、ハンドル部3と出力部21の回転中心を結ぶ仮想線を挟むように位置する一対のラチェットクロー221を有する。ラチェットクロー221は、
図5に示すようにヘッド部2の内部で回動支持部2213を中心として所定範囲を回動する(矢印で図示)爪状の部材である。ラチェットクロー221は、先端にクロー側歯部2212を有する。ラチェットクロー221は、根元側に前記仮想線側に突出する被係合突起2211を有し、この被係合突起2211が後述の切替伝達機構5の前端部に設けられたカム部52の段差(または山)521に押されることで前記回動に係る移動をさせることができる。ラチェットクロー221には復帰ばね222が取り付けられていて、カム部52に押されない時には、復帰ばね222のばね力により元の位置に復帰する。カム部52は、一対のラチェットクロー221のうち一方または他方の被係合突起2211だけを押圧する。一対のうち一方のラチェットクロー221におけるクロー側歯部2212が出力部21のラチェット歯部211に噛み合うことで、出力部21の一方向への回転を阻止すると共に、クロー側歯部2212が出力部21のラチェット歯部211を乗り越えることで、他方向への回転を許容する。例えば、
図3において左下に図示されたラチェットクロー221では、出力部21の反時計回りの回転を阻止すると共に、時計回りの回転を許容する。
図3において右上に図示されたラチェットクロー221では、出力部21の時計回りの回転を阻止すると共に、反時計回りの回転を許容する。これにより、ヘッド部2において出力部21が前記一方向には回転しないように固定され、その状態のハンドル部3をユーザーが持って、出力部21の軸心を中心として回すことで、回転力を出力部21から回転締結具に伝えることができる。一方、ハンドル部3を逆方向に回した場合は、前述のようにクロー側歯部2212が出力部21のラチェット歯部211を乗り越えることにより、ヘッド部2において出力部21が回転(空回り)するから、回転力は出力部21から回転締結具に伝わらない。
【0030】
ハンドル部3は、ヘッド部2に間接的または直接的に連続して設けられており、前記回転締結具を回転させる作業を行う際にユーザーが持つ、長尺状の部分である。本実施形態では、ヘッド部2とハンドル部3との間に筒状の連結部4が介在している。連結部4は、ヘッド部2及びハンドル部3に対して径寸法が絞られた部分であって、
図4に示すように、長尺の切替伝達機構5及び回転力伝達機構6が内蔵されている。ハンドル部3は、ユーザーによりラチェット機構22の回転方向を限定する切り替え操作を行うための切替操作部31を有する。従来のラチェットハンドルでは切替操作部31がヘッド部2に設けられていたが、本実施形態ではハンドル部3に設けられている。切替操作部31の操作方向は、ハンドル部3の軸心基準で周方向であり、周方向へのスライド移動により切り替えを行う。切替操作部31の操作方向と同じ方向に、切替伝達機構5の前端部に設けられたカム部52を回転させることができる。切替操作部31がハンドル部3に設けられたことにより、ユーザーはハンドル部3を持ったまま(具体的には、親指以外の4本の指でハンドル部3を握ったまま)で、親指を使って切替操作部31を操作できる。このため、ラチェット機構22の切り替え操作のためにユーザーがハンドル部3を持ち替える必要がないので有利である。ハンドル部3は筒状体とされており、内部に
図3に示す機構が収納されている。ハンドル部3は、軸線方向が出力部21の回転中心軸に対して直交し、当該回転中心軸を基準とした径方向(直線方向)に延びている。
【0031】
切替操作部31がヘッド部2から離れたハンドル部3に設けられたことに伴い、切替操作部31とヘッド部2とが切替伝達機構5により連結されている。この切替伝達機構5は、ラチェット機構22の切り替えのための変位を伝達可能である。この切替伝達機構5は、ハンドル部3から連結部4を通り、ヘッド部2にわたって延びる管状の回転軸である長尺部51を有している。切替操作部31が操作されたことにより生じた切り替えのための変位が、この長尺部51を介し、周方向への変位として出力部21に伝達される。このように長尺部51で変位を伝達できるので、ラチェットハンドル1の構成を簡単にできる。
【0032】
長尺部51の後端部には切替操作部31が固定されている。一方、前端部にはカム部52が固定されている。このため、切替操作部31が周方向に操作された角度分、カム部52を周方向に移動させることができ、これに応じて一対のラチェットクロー221のうち、切替操作部31の操作に応じた一方を移動させられる。
【0033】
本実施形態のハンドル部3は、出力部21を回転させるための回転力を入力する回転操作部32を有する。この回転操作部32は、ハンドル部3を回す動作を行うことなく、回転力を入力できる部分である。この回転操作部32により回転締結具を、ユーザーがハンドル部3を、出力部21を中心に回すことに比べ、ハンドルの回転径に比べて回転操作部32の径寸法が小さい分、早回しすることが可能である。よって、回転締結具に締め付けトルクのかからない時期(締め付けの場合では初期、緩めの場合では後期)において回転締結具の回転速度を上げた早回しを行い、作業時間を短縮させることができる。なお、締め付けトルクをかける際は、早回しを行わず、ハンドル部3を回すことで回転締結具を回転させる。
【0034】
ここで従来から回転操作部32を設けて早回しできるラチェットレンチが存在していた(特許文献1参照)。しかしこの従来の回転入力部は、回転締結具に係合する部分である係合部に隣接して設けられていた。このため、早回しを行うために、ユーザーはハンドルを握る手を持ち替えたり、ハンドルを握る手とは逆の手で操作したりする必要があって、その手間がかかる分、早回しのための作業効率が良くなかった。これに対して本実施形態では、ハンドル部3が回転操作部32を有することから、早回しを行う際の回転操作部32の操作のためにユーザーが手を大きく移動させる必要がないので有利である。
【0035】
回転操作部32は、ハンドル部3に複数設けられている。この構成により、複数のハンドル部3から状況に応じて使い勝手の良いものを選択して使用できる。本実施形態の回転操作部32は、ハンドル部3に2個設けられていて、一方の回転操作部32である側方操作部32aがハンドル部3の側方部前寄りに設けられており、他方の回転操作部32である後方操作部32bがハンドル部3の後端部に設けられている。回転操作部32を1個とし、ハンドル部3への付け替えによって、側方操作部32aと後方操作部32bを兼ねるよう構成してもよい。個々の回転操作部32は円板状とされていて、外周面に、滑り止めのための図示した溝加工やローレット加工を施すことができる。また、回転操作部32はハンドル部3に対して着脱可能である。具体的には、側方操作部32aは、かさ歯車63を有する側方回転部材65の、ハンドル部3の側方に突出した部分に対して着脱可能とされており、後方操作部32bは、伝達軸61の後端に接続された後方回転部材66の後部に形成され、ハンドル部3の内部に位置する凹部に対して着脱可能とされている。回転操作部32のハンドル部3に対する装着は、嵌合によりなされる。この構成により、回転操作部32をハンドル部3から取り外した上、電動工具等の他の動力源が有する回転駆動部材である駆動軸を回転力伝達機構6に接続し、回転駆動軸を回転させることにより、早回しを行うこともできる。
【0036】
ここで、回転操作部32の切替操作部31との位置関係について説明する。切替操作部31と回転操作部32とは、ハンドル部3の長手方向で同じ位置、かつ、周方向で異なる位置に設けられている。このような位置関係にあることにより、両方の操作がしやすい。なお、切替操作部31と回転操作部32とが、ハンドル部3の長手方向で同じ位置であることで、外観を整ったものとできるメリットがあるが、この位置関係は必須ではなく、長手方向で異なる位置であってもよい。また、ヘッド部2を基準とした出力部21の回転締結具への回転力の伝達を行う位置の方向(ヘッド部2における出力部21の突出方向)に対し、回転操作部32は同方向に位置し、切替操作部31は反対方向に位置する。このような位置関係にあることにより、回転締結具の回転操作との関係で操作性が良い。
【0037】
回転操作部32がハンドル部3に設けられたことに伴い、本実施形態では、ハンドル部3から連結部4を通り、ヘッド部2にわたって設けられ、回転操作部32に与えられた回転力を出力部21に伝達する回転力伝達機構6を備える。本実施形態の回転力伝達機構6は、ハンドル部3における後部からヘッド部2の出力部21に至るように直線状に延びる伝達軸61を有する。なお、ハンドル部3の後側に位置する伝達軸61については、後方操作部32bのために設けられていることから、後方操作部32bを設けない場合には、この部分の伝達軸61は設けなくてよい。伝達軸61は一定の軸心まわりに回転するように外装部分に支持されている。後方操作部32bは伝達軸61に対し、歯車を介さずに接続されている。ただし、伝達軸61(詳しくは後方回転部材66)に対して後方操作部32bは着脱可能とされている。
【0038】
伝達軸61に対し、側方操作部32aは、直交する関係で噛み合っている一対のかさ歯車62,63を介して接続されている。このため、伝達軸61には1枚のかさ歯車62が設けられている。このかさ歯車62は切替操作部31よりも後方に隣接して設けられている。このため、切替操作部31と回転操作部32とを、ハンドル部3の長手方向で同じ位置に配置できる。もう1枚のかさ歯車63は側方操作部32aと連動する。なお、側方操作部32aは前記かさ歯車63を有する側方回転部材65に対して着脱可能とされている。
【0039】
伝達軸61の前端部にもかさ歯車64が設けられている(
図5では図示を省略している)。このかさ歯車64は、出力部21に一体に設けられ、出力部21のヘッド部2からの突出方向を向いている早回し用歯部212に対して噛み合っている。かさ歯車64と早回し用歯部212との歯車比(すなわち、早回し機構の減速比)は任意に設定できる。以上のように構成された回転力伝達機構6により、側方操作部32aまたは後方操作部32bに与えられた回転力を、伝達軸61を介して出力部21に伝達できる。
【0040】
本実施形態では、切替伝達機構5の長尺部51と回転力伝達機構6とが並列に配置されている。並列配置とされたことで、切替伝達機構5をコンパクトに配置できる。
【0041】
前記並列配置につき、本実施形態の切替伝達機構5(長尺部51)と回転力伝達機構6は、ハンドル部3からヘッド部2にわたって延びる、管状部7oと当該管状部7oの内部空間を一部が通された棒状部7iとの組み合わせである複合伝達体7として構成されている。つまり、本実施形態では、径方向の外部(管状部7o)と内部(棒状部7i)とでの並列配置である。管状部7oと棒状部7iは密着しておらず、別個に動作(回転)できるように径方向で距離が保たれている。管状部7oと棒状部7iの軸心は一致しており、管状部7oは内部において棒状部7iにガイドされつつ、周方向に移動する。
図3に示すように、切替伝達機構5(長尺部51)と回転力伝達機構6の組み合わせが一本にまとまった形態となっている。管状部7oに棒状部7iが内蔵される形態であるので、前記組み合わせをよりコンパクトにできる。
【0042】
管状部7oと棒状部7iのうち一方が切替伝達機構5に属し、他方が回転力伝達機構6に属する。本実施形態では、径外側の管状部7oが切替伝達機構5に属し(長尺部51に該当)、径内側の棒状部7iが回転力伝達機構6に属している(伝達軸61に該当)。
【0043】
また、本実施形態では、回転操作部32の回転中心軸の軸線方向が、管状体と棒状体との組み合わせ(複合伝達体7)の軸線方向に対して直交している。この構成により、回転操作部32を回転させる際の操作性が良いことから有利である。
【0044】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0045】
例えば、前記実施形態のラチェット回転工具(ラチェットハンドル1)は手動式であったが、モータと伝導機構を内蔵した電動式とすることもできる。電動式の場合、ハンドル部3は、回転締結具に締め付けトルクをかける際にユーザーによって回されるが、それ以外の場面ではモータの駆動力が出力部21に伝達されるため、ハンドル部3にはユーザーの手が添えられるだけでよい。
【0046】
また、出力部21は、ヘッド部2において突出するよう構成されていたが、ヘッド部2において凹んでいたり、貫通孔として形成されたりしていてもよい。また、ソケット着脱式ではなく、出力部21を直接回転締結具に係合するように構成してもよい。
【0047】
また、長尺部51を介して出力部21に伝達される変位は周方向への変位であった。しかし、長手方向への変位であってもよい。このため、長尺部51は引張により変位を伝達するワイヤーであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 ラチェット回転工具(ラチェットハンドル)
2 ヘッド部
21 出力部
22 ラチェット機構
3 ハンドル部
31 切替操作部
32 回転操作部
32a 側方操作部
32b 後方操作部
4 連結部
5 切替伝達機構
51 長尺部
6 回転力伝達機構
7 複合伝達体
7o 管状部
7i 棒状部