(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049706
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】燃焼室用断熱材、給湯器及びボイラー
(51)【国際特許分類】
F23M 5/00 20060101AFI20230403BHJP
F24H 9/00 20220101ALI20230403BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20230403BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
F23M5/00 D
F24H9/00 P
F23M5/00 E
B32B5/02 B
F27D1/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159613
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岡部 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 寛明
(72)【発明者】
【氏名】谷口 凌佑
【テーマコード(参考)】
3L036
4F100
4K051
【Fターム(参考)】
3L036AE17
4F100AA01A
4F100AA01B
4F100AA19B
4F100AA20B
4F100AA33B
4F100AG00B
4F100BA02
4F100DG01A
4F100DG01B
4F100DG12B
4F100DG15B
4F100JJ02
4F100YY00B
4K051AA03
4K051BC01
4K051BC04
(57)【要約】
【課題】複燃焼室内において燃焼ガスによる風食、及び、水滴による侵食が生じにくい燃焼室用断熱材を提供すること。
【解決手段】第1の無機繊維を含む板状成形体と、上記第1の無機繊維よりも平均繊維長が長い第2の無機繊維を含む布状体と、を含み、上記板状成形体に上記布状体が固定されていることを特徴とする燃焼室用断熱材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の無機繊維を含む板状成形体と、
前記第1の無機繊維よりも平均繊維長が長い第2の無機繊維を含む布状体と、を含み、
前記板状成形体に前記布状体が固定されていることを特徴とする、燃焼室用断熱材。
【請求項2】
前記布状体は、織布、又はニードリング加工された不織布である請求項1に記載の燃焼室用断熱材。
【請求項3】
前記織布は、前記第2の無機繊維が束状になった縦糸及び横糸を備え、開口寸法が3.0mm以下、かつ、織布の厚みが0.1~3.5mmである請求項2に記載の燃焼室用断熱材。
【請求項4】
前記織布に含まれる前記第2の無機繊維は、アルミナ繊維、アルミノシリケート繊維、シリカ繊維及びガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種である請求項2又は3に記載の燃焼室用断熱材。
【請求項5】
前記不織布は、厚さ1.5~12mm、かつ、嵩密度0.05~0.2g/cm3である請求項2に記載の燃焼室用断熱材。
【請求項6】
前記不織布に含まれる前記第2の無機繊維は、アルミナ繊維、アルミノシリケート繊維、シリカ繊維、ガラス繊維及び生体溶解性繊維からなる群から選択される少なくとも1種である請求項2又は5に記載の燃焼室用断熱材。
【請求項7】
前記板状成形体は第1の主面及び第2の主面を備え、
前記布状体が前記板状成形体の前記第1の主面に固定されている請求項1~6のいずれか1項に記載の燃焼室用断熱材。
【請求項8】
前記板状成形体は第1の主面及び第2の主面、並びに前記第1の主面と前記第2の主面を連結する側面を備え、
前記布状体が前記板状成形体の前記第1の主面及び前記側面にわたって固定されている請求項1~6のいずれか1項に記載の燃焼室用断熱材。
【請求項9】
前記板状成形体は第1の主面及び第2の主面を備え、
前記布状体が前記板状成形体の内部で、前記板状成形体の厚さ方向において前記第1の主面に近い側で固定されている請求項1~6のいずれか1項に記載の燃焼室用断熱材。
【請求項10】
前記布状体が、前記第1の主面、又は前記板状成形体の内部で前記第1の主面に近い側において、複数枚配置されている請求項7~9のいずれか1項に記載の燃焼室用断熱材。
【請求項11】
前記板状成形体と、前記布状体は無機バインダにより固定されている請求項1~10のいずれか1項に記載の燃焼室用断熱材。
【請求項12】
前記布状体が有する隙間に、前記第1の無機繊維と同じ仕様の無機繊維である第3の無機繊維が入り込んで、前記第3の無機繊維と前記第2の無機繊維が絡まることにより前記板状成形体と前記布状体が固定されている請求項1~11のいずれか1項に記載の燃焼室用断熱材。
【請求項13】
燃焼室と、
前記燃焼室内に設置された熱交換器と、
前記燃焼室の底部に設置された、請求項1~12のいずれか1項に記載の燃焼室用断熱材とを備え、
前記燃焼室用断熱材の厚さ方向において、前記布状体が前記熱交換器に近い側に位置するように、前記燃焼室用断熱材が配置されることを特徴とする給湯器。
【請求項14】
燃焼室と、
燃焼室の底部及び/又は天井部に設置された請求項1~12のいずれか1項に記載の燃焼室用断熱材とを備えることを特徴とするボイラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室用断熱材、給湯器及びボイラーに関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラーや石油給湯器においては、燃料を燃焼室で燃焼させ、燃焼により生じた燃焼ガスは、水管や熱交換器の間を通って排ガスとして煙道へ排出される。この間、燃焼ガスが、各水管内、熱交換器内の水と熱交換し、各水管内の水が加熱される。加熱された水を得ることにより、給湯器として使用することができる。
【0003】
燃焼室の内部は高温となるため、周囲の機器への熱害防止及びエネルギーロス低減を目的として、燃焼室の内部に耐火物や断熱材が配置される。
この断熱材として、無機繊維とバインダで成形された板状の断熱材が使用される場合がある。無機繊維脱落防止のため、特許文献1には、無機繊維成形体表面に無機繊維クロスを配置し、さらに、無機繊維クロスの表面に無機質被覆層を配置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ボイラーの燃焼室の内部に配置する断熱材に対して、燃焼ガスが吹き付けられることで、断熱材を構成する繊維が脱落して風食が進行することがある。
また、給湯器の燃焼室においては、燃焼ガスが熱交換器で冷却されて凝縮水を生成し、燃焼室底面に水滴が落下する際の衝撃で断熱材表面の無機繊維が脱落し、侵食が進行する場合がある。
特許文献1には、成形体表面からの無機繊維脱落防止のための、無機繊維クロス、及び被覆層の配置が記載されているが、この構成では無機繊維脱落防止の対策として不十分な場合がある。
燃焼室における燃焼ガスの流れは複雑なため、無機繊維クロスがめくれたりすることがある。また、無機繊維クロスの繊維束の密度が低く、開口寸法が大きい場合には、凝縮水がクロスの開口を通過して、長期間にわたって水滴による侵食が進む。
また、特許文献1に記載の無機質被覆層は、硬く脆い層であり、長期間にわたる凝縮水の水滴が無機質被覆層を破損、脱落させることがある。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされた発明であり、燃焼室内において燃焼ガスによる風食、及び、水滴による侵食が生じにくい燃焼室用断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の燃焼室用断熱材は、第1の無機繊維を含む板状成形体と、上記第1の無機繊維よりも平均繊維長が長い第2の無機繊維を含む布状体と、を含み、上記板状成形体に上記布状体が固定されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の燃焼室用断熱材は、平均繊維長が長い第2の無機繊維を含む布状体を備える。繊維長の長い無機繊維は、燃焼ガスが吹き付けられた場合に、繊維長の短い無機繊維と比べて飛散しにくい。そのため、燃焼ガスによる風食を防止することができる。
また、繊維長の長い無機繊維は、水滴が衝突した場合に、繊維長の短い無機繊維と比べて破損しにくい。そのため、水滴による侵食を防止することができる。
すなわち、本発明の燃焼室用断熱材では、布状体により板状成形体が保護されて、燃焼ガスによる風食、及び、水滴による侵食が生じにくい燃焼室用断熱材となる。
【0009】
本発明の燃焼室用断熱材において、上記布状体は、織布、又はニードリング加工された不織布であることが好ましい。
【0010】
本発明の燃焼室用断熱材において、上記織布は、上記第2の無機繊維が束状になった縦糸及び横糸を備え、開口寸法が3.0mm以下、かつ、織布の厚みが0.1~3.5mmであることが好ましい。より好ましくは、開口寸法が2.5mm以下、かつ、織布の厚みが0.2~2.0mmであることが好ましい。
第2の無機繊維が束状になっていることで縦糸及び横糸の強度が向上し、織布が燃焼ガス又は水滴によって破損することがより防止される。
開口寸法が3.0mm以下であると、水滴が織布を通過しにくく、水滴が板状成形体に到達しにくくなる。
織布の厚みが0.1mm未満の場合、束状になっている繊維の本数が少なく、強度が不足し、織布が燃焼ガス又は水滴によって破損することがある。また織布の厚みが3.5mmを超えた場合、特に開口寸法が小さいほど成形加工時のスラリーの濾水性が悪化し、生産性の低下を招くことがある。
【0011】
本発明の燃焼室用断熱材において、上記織布に含まれる上記第2の無機繊維は、アルミナ繊維、アルミノシリケート繊維、シリカ繊維及びガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
織布に含まれる第2の無機繊維がこれらの繊維であると、織布の耐熱性が高く、耐水性も高いので好ましい。
【0012】
本発明の燃焼室用断熱材において、上記不織布は、厚さ1.5~12mm、かつ、嵩密度0.05~0.2g/cm3であることが好ましい。また、より好ましい厚みは2~7mmが好ましい。
不織布が上記のような厚さ及び嵩密度を有していると、水滴が不織布を通過し難い。また、板状成形体の主面の形状、側面の形状に合わせて不織布を曲げて固定される場合でも無機繊維の交絡が解け難く、水滴の衝撃や、風食に対しても侵食を抑制できる。
【0013】
本発明の燃焼室用断熱材において、上記不織布に含まれる上記第2の無機繊維は、アルミナ繊維、アルミノシリケート繊維、シリカ繊維、ガラス繊維及び生体溶解性繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
不織布に含まれる第2の無機繊維がこれらの繊維であると、不織布の耐熱性が高く、耐水性も高いので好ましい。
【0014】
本発明の燃焼室用断熱材において、上記板状成形体は第1の主面及び第2の主面を備え、上記布状体が上記板状成形体の上記第1の主面に固定されていることが好ましい。
布状体を板状成形体の第1の主面に固定して、第1の主面を燃焼ガスが接触する側、又は熱交換器に近く、水滴が接触する側に配置することにより、布状体による保護の効果が好適に発揮される。
【0015】
本発明の燃焼室用断熱材において、上記板状成形体は第1の主面及び第2の主面、並びに上記第1の主面と上記第2の主面を連結する側面を備え、上記布状体が上記板状成形体の上記第1の主面及び上記側面にわたって固定されていることが好ましい。
布状体を板状成形体の側面にも固定することにより、板状成形体の側面が風食を受けることが防止される。また、布状体が燃焼ガスによってめくれ上がることも防止することができる。
【0016】
本発明の燃焼室用断熱材において、上記板状成形体は第1の主面及び第2の主面を備え、上記布状体が上記板状成形体の内部で、上記板状成形体の厚さ方向において上記第1の主面に近い側で固定されていることが好ましい。
布状体が板状成形体の内部に設けられている場合、板状成形体の表面が風食や侵食を受けたとしても、風食や侵食が布状体にまで到達したあとには、それ以上の風食や侵食が進むことを防止することができる。この効果を好適に発揮させるためには、布状体が第1の主面に近い側で固定され、第1の主面を燃焼ガスが接触する側、又は熱交換器に近く、水滴が接触する側に配置することが好ましい。
【0017】
本発明の燃焼室用断熱材において、上記布状体が、上記第1の主面、又は上記板状成形体の内部で上記第1の主面に近い側において、複数枚配置されていることが好ましい。
布状体を複数枚配置することによって、風食や侵食が進むことを防止する効果がより好適に発揮される。燃焼ガスと接触しやすい部位、水滴が当たりやすい部位において、布状体を複数枚配置することが好ましい。
【0018】
本発明の燃焼室用断熱材においては、上記板状成形体と、上記布状体は無機バインダにより固定されていることが好ましい。
また、本発明の燃焼室用断熱材においては、上記布状体が有する隙間に、上記第1の無機繊維と同じ仕様の無機繊維である第3の無機繊維が入り込んで、上記第3の無機繊維と上記第2の無機繊維が絡まることにより上記板状成形体と上記布状体が固定されていることが好ましい。
板状成形体と布状体を重ねて、無機バインダと第3の無機繊維を含むスラリーを流し、吸引することで抄造成形することによって、板状成形体と布状体を無機バインダ及び/又は無機繊維により固定した上記のような構造とすることができる。
【0019】
本発明の給湯器は、燃焼室と、上記燃焼室内に設置された熱交換器と、上記燃焼室の底部に設置された、本発明の燃焼室用断熱材とを備え、上記燃焼室用断熱材の厚さ方向において、上記布状体が上記熱交換器に近い側に位置するように、上記燃焼室用断熱材が配置されることを特徴とする。
【0020】
本発明の給湯器は、本発明の燃焼室用断熱材を備え、布状体が熱交換器に近い側に位置するので、熱交換器から落ちる水滴による侵食が進むことを布状体により防止することができる。また、燃焼ガスの接触により風食が進むことも防止することができる。
【0021】
本発明のボイラーは、燃焼室と、燃焼室の底部及び/又は天井部に設置された本発明の燃焼室用断熱材とを備えることを特徴とする。
【0022】
本発明の燃焼室用断熱材は、燃焼ガスの接触による風食が生じにくいので、ボイラー内で燃焼ガスの接触により燃焼室用断熱材風食が進むことが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、燃焼室用断熱材の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す燃焼室用断熱材の分解斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す燃焼室用断熱材のA-A線断面図である。
【
図4】
図4Aは、織布である布状体の一例を示す斜視図であり、
図4Bは
図4Aに示す織布の一部を拡大して示す拡大図である。
【
図5】
図5は、本発明の燃焼室用断熱材が配置された給湯器の一例を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、燃焼室用断熱材の別の形態の一例を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7A及び
図7Bは、
図6に示す燃焼室用断熱材を構成する布状体の一例を模式的に示す上面図である。
【
図8】
図8A及び
図8Bは、
図6に示す燃焼室用断熱材を金属容器内に配置する工程の一例を模式的に示す工程図である。
【
図9】
図9は、燃焼室用断熱材の別の形態の一例を模式的に示す断面図である。
【
図10】
図10は、燃焼室用断熱材の別の形態の一例を模式的に示す断面図である。
【0024】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明の燃焼室用断熱材及び給湯器について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0025】
本発明の燃焼室用断熱材は、第1の無機繊維を含む板状成形体と、第1の無機繊維よりも平均繊維長が長い第2の無機繊維を含む布状体と、を含み、板状成形体に布状体が固定されていることを特徴とする。
【0026】
図1は、燃焼室用断熱材の一例を模式的に示す斜視図であり、
図2は、
図1に示す燃焼室用断熱材の分解斜視図である。
図3は、
図1に示す燃焼室用断熱材のA-A線断面図である。
図1に示す燃焼室用断熱材1は、板状成形体10に布状体20が固定されてなる。
布状体20は板状成形体10の上面(第1の主面11)に固定されている。
図2には、板状成形体10と布状体20を分離して示している。
【0027】
板状成形体の形状は、板状であればよい。板状とは相対的に面積が広い対向する2つの主面を有し、2つの主面を連結する側面を有する形状である。
図1、
図2及び
図3に示す板状成形体10は、第1の主面11と第2の主面12を有し、第1の主面11と第2の主面12を連結する側面13を有する。
板状成形体10では、第2の主面12の面積が第1の主面11の面積に比べて相対的に広い形状である。
また、第1の主面11と第2の主面12は実質的に平行な面である。
第1の主面11と第2の主面12の上面形状はいずれも円形であるが、この形状は円形に限定されるものではない。また、第1の主面と第2の主面の面積の関係は、第1の主面のほうが大きくてもよく、第1の主面と第2の主面の面積が同じであってもよい。
板状成形体10は、全体としては円すいの上部を底面に平行な平面で切断した形状となっている。
図3に示すように板状成形体10の断面形状は略台形である。
例えば、第1の主面の円形の直径を150~500mm、第2の主面の円形の直径を180~530mm程度とすることができる。
【0028】
板状成形体の厚さは、15~60mmであることが好ましい。板状成形体の厚さが15mm以上であると断熱性を充分に確保することができる。また、板状成形体の厚さが60mmを超えて大きいと燃焼室の容積に対して大きくなりすぎ、燃焼室用断熱材が重くなるため好ましくない。
【0029】
板状成形体は、第1の無機繊維を含む成形体である。板状成形体としては、第1の無機繊維を含むスラリーを成形型に流し込み、吸引脱水する抄造成形及び乾燥により得られた成形体、第1の無機繊維を含む不定形品を固めて成形、乾燥した成形体を使用することができる。
板状成形体としては、第1の無機繊維を吸引脱水して抄造成形し、乾燥することにより得られた成形体であることが好ましく、その嵩密度は、0.3~0.6g/cm3であることが好ましい。
第1の無機繊維としては、生体溶解性繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、及びガラス繊維からなる群から選択された少なくとも1種の繊維を使用することができる。
生体溶解性繊維としてはアルカリアースシリケート繊維を使用することができる。
【0030】
第1の無機繊維はその平均繊維長が0.05~3.0mmであることが好ましく、0.5~1.5mmであることがより好ましい。また、第1の無機繊維の平均繊維長は、後述する第2の無機繊維の平均繊維長よりも短い。
【0031】
布状体は、第2の無機繊維を含む。第2の無機繊維はその平均繊維長が第1の無機繊維の平均繊維長よりも長い。第2の無機繊維はその平均繊維長が1~150mmであることが好ましく、10~80mmであることがより好ましい。
繊維長の長い無機繊維は、燃焼ガスが吹き付けられた場合に、繊維長の短い無機繊維と比べて飛散しにくい。繊維長の長い無機繊維を含む布状体を設けることにより、燃焼ガスによる風食を防止することができる。
また、繊維長の長い無機繊維は、水滴が衝突した場合に、繊維長の短い無機繊維と比べて破損しにくい。そのため、繊維長の長い無機繊維を含む布状体を設けることにより、水滴による侵食を防止することができる。
すなわち、本発明の燃焼室用断熱材は、布状体により板状成形体が保護されて、燃焼ガスによる風食、及び、水滴による侵食が生じにくい燃焼室用断熱材となる。
【0032】
第2の無機繊維としては、アルミナ繊維、アルミノシリケート繊維、シリカ繊維、ガラス繊維、生体溶解性繊維及びロックウールからなる群から選択された少なくとも1種の繊維を使用することができる。
生体溶解性繊維としてはアルカリアースシリケート繊維を使用することができる。
【0033】
布状体は、織布、又はニードリング加工された不織布であることが好ましい。
図1、
図2及び
図3に示す布状体20はニードリング加工された不織布である。
ニードリング加工された不織布とは、比較的長い繊維長を有する無機繊維同士がニードリング加工されることにより絡み合ってその形状を維持している不織布である。
不織布は、厚さ1.5~12mm、かつ、嵩密度0.05~0.2g/cm
3であることが好ましい。
不織布が上記のような厚さ及び嵩密度を有していると、水滴が不織布を通過し難い。また、板状成形体の主面の形状、側面の形状に合わせて不織布を曲げて固定される場合でも無機繊維の交絡が解け難く、水滴の衝撃や、風食に対しても侵食を抑制できる。
【0034】
また、不織布に含まれる第2の無機繊維は、アルミナ繊維、アルミノシリケート繊維、シリカ繊維、ガラス繊維及び生体溶解性繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
不織布に含まれる第2の無機繊維がこれらの繊維であると、不織布の耐熱性が高く、耐水性も高いので好ましい。
【0035】
図4Aは、織布である布状体の一例を示す斜視図であり、
図4Bは
図4Aに示す織布の一部を拡大して示す拡大図である。
図4に示す布状体30は、第2の無機繊維が束状になった縦糸及び横糸を備える織布である。
第2の無機繊維が束状になっていることで縦糸及び横糸の強度が向上し、織布が燃焼ガス又は水滴によって破損することがより防止される。
【0036】
織布は、開口寸法が3.0mm以下、かつ、厚みが0.1~3.5mmであることが好ましい。織布の開口径は
図4Bに両矢印Bで示す長さを意味する。
開口寸法が3.0mm以下であると、水滴が織布を通過しにくく、水滴が板状成形体に到達しにくくなる。
なお、布状体が開口を有する場合は、開口寸法は0mmを超えることは明らかであるので、開口寸法は0mmを超えて3.0mm以下であることが好ましい。
織布の厚みが0.1mm未満の場合、束状になっている繊維の本数が少なく、強度が不足し、織布が燃焼ガス又は水滴によって破損することがある。また織布の厚みが3.5mmを超えた場合、特に開口寸法が小さいほど、布状体を板状成形体に固定する加工時のスラリーの濾水性が悪化し、生産性の低下を招くことがある。
また、織布の開口寸法は0.1mm以上であることが好ましい。より好ましくは0.2mm以上である。
また、縦糸及び横糸の繊維束の太さが0.5~2.0mmφであることが好ましく、1.0~1.5mmφであることがより好ましい。
織布は、織り方は特に限定されないが、平織り、綾織り、朱子織り等の織り方で得られる。
【0037】
織布に含まれる第2の無機繊維は、アルミナ繊維、アルミノシリケート繊維、シリカ繊維及びガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
織布に含まれる第2の無機繊維がこれらの繊維であると、織布の耐熱性が高く、耐水性も高いので好ましい。
【0038】
本発明の燃焼室用断熱材では、布状体が板状成形体に固定されている。布状体が板状成形体に固定されている位置は限定されるものではないが、
図1、
図2及び
図3に示す布状体20は板状成形体10の第1の主面11に固定されている。
布状体を板状成形体の第1の主面に固定して、第1の主面を燃焼ガスが接触する側、又は熱交換器に近く、水滴が接触する側に配置することにより、布状体による保護の効果が好適に発揮される。
【0039】
布状体は、板状成形体の第1の主面の面積のうち35%以上の面積を覆っていることが好ましい。布状体が板状成形体の第1の主面の60%以上の面積を覆っていると、布状体による保護の効果がより好適に発揮される。また、布状体は板状成形体の第1の主面をすべて覆っている(布状体が板状成形体の第1の主面の面積の100%を覆っている)ことが好ましい。
【0040】
また、板状成形体と布状体は無機バインダにより固定されていることが好ましい。
無機バインダは耐熱性が高いので燃焼室内において好適に使用することができる。
また、布状体が有する隙間に、第1の無機繊維と同じ仕様の無機繊維である第3の無機繊維が入り込んで、第3の無機繊維と第2の無機繊維が絡まることにより板状成形体と布状体が固定されていることが好ましい。
【0041】
本発明の燃焼室用断熱材は、例えば、第1の無機繊維を吸引して抄造成形し、乾燥することにより得られた板状成形体に、布状体を重ねて、布状体の上から無機バインダと第3の無機繊維を含むスラリーを流し、板状成形体側(板状成形体の、布状体が重ねられていない側の面)から吸引して抄造成形、乾燥することによって得ることができる。
抄造成形に使用する第3の無機繊維として、板状成形体を構成する第1の無機繊維と同じ仕様の無機繊維(同じ種類、同じ繊維長の無機繊維)を使用することが好ましい。
無機バインダとしてはシリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル等を使用することができる。
この手順により、布状体が有する隙間に、第1の無機繊維と同じ仕様の無機繊維である第3の無機繊維が入り込んで、第3の無機繊維と第2の無機繊維が絡まることにより板状成形体と布状体が固定されている燃焼室用断熱材が得られる。
この場合、板状成形体と布状体は無機バインダによっても固定されている。
あるいは、板状成形体を作製する型に、あらかじめ布状体を敷き、布状体の上から第1の無機繊維と無機バインダーを含むスラリー液を流し、吸引して抄造成形、乾燥することで板状成形体と布状体が固定されている燃焼室用断熱材が得られる。
【0042】
また、抄造成形を行うことなく、板状成形体に無機バインダを含む接着剤を塗布し、布状体を重ねて無機バインダを固化させることにより板状成形体と布状体を接着させて燃焼室用断熱材を得ることもできる。
【0043】
本発明の燃焼室用断熱材は、燃焼室を有する装置の燃焼室内に配置して使用することができる。
燃焼室を有する装置としては、蒸気を供給するためのボイラー、湯を供給するための給湯器等が挙げられる。
本発明の燃焼室用断熱材が配置された給湯器が、本発明の給湯器である。
本発明の給湯器は、燃焼室と、燃焼室内に設置された熱交換器と、燃焼室の底部に設置された、本発明の燃焼室用断熱材とを備え、燃焼室用断熱材の厚さ方向において、布状体が熱交換器に近い側に位置するように、燃焼室用断熱材が配置されることを特徴とする。
【0044】
図5は、本発明の燃焼室用断熱材が配置された給湯器の一例を模式的に示す断面図である。
給湯器100は、燃焼室110と、燃焼室110に設置された熱交換器120を有する。
熱交換器120内には水が流れており、燃焼室110で熱交換器120内の水が加熱されて湯となり、給湯器100の外に湯が供給される。
【0045】
燃焼室用断熱材1は、燃焼室110の底部に、布状体20が熱交換器120に近い側に位置するように配置される。
燃焼室内においては、燃焼ガスが熱交換器で冷却されることにより凝縮水が生成し、燃焼室の底部に落下することがある。
図5には熱交換器120から燃焼室110の底部に落下する水滴130を示している。
【0046】
布状体20が、水滴130が落下する位置に対応して設けられていると、熱交換器から落下する水滴による侵食が進むことを布状体により防止することができる。また、燃焼ガスの接触により風食が進むことも防止することができる。
【0047】
本発明の燃焼室用断熱材が配置されたボイラーが、本発明のボイラーである。
本発明のボイラーは、燃焼室と、燃焼室の底部及び/又は天井部に設置された本発明の燃焼室用断熱材とを備えることを特徴とする。
ボイラーは、燃焼室用断熱材に水滴が落下する構造ではないが、燃焼ガスの接触による風食が生じにくいので、ボイラー内で燃焼ガスの接触により燃焼室用断熱材風食が進むことが防止される。水滴の落下は考慮しないことから、燃焼室の天井部に燃焼室用断熱材を備えることもある。
【0048】
以下に、本発明の燃焼室用断熱材の別の形態について説明する。
燃焼室用断熱材では、布状体が板状成形体の第1の主面及び側面にわたって固定されていてもよい。
図6は、燃焼室用断熱材の別の形態の一例を模式的に示す断面図である。
図7A及び
図7Bは、
図6に示す燃焼室用断熱材を構成する布状体の一例を模式的に示す上面図である。
図8A及び
図8Bは、
図6に示す燃焼室用断熱材を金属容器内に配置する工程の一例を模式的に示す工程図である。
【0049】
図6に示す燃焼室用断熱材2では、布状体31が、板状成形体10の第1の主面11と側面13にわたって固定されている。
板状成形体の側面にも布状体が固定されている燃焼室用断熱材は、
図7Aに示す上面形状の布状体31や
図7Bに示す上面形状の布状体32を用いて製造することができる。
図7A及び
図7Bには、織布としての布状体を例示しているが、布状体は不織布であってもよい。
【0050】
図7A及び
図7Bに示す布状体では、布状体の上面視において、布状体を折り曲げた際に板状成形体の側面にあたる部分に切込みが入っている。このように布状体の一部に切込みが入っている形状であると、板状成形体に布状体を固定した際に布状体にしわが生じることを防止できるため好ましい。
【0051】
図7Aに示す布状体31を使用した場合、板状成形体10の側面13の全体を布状体31で覆うこととなり、
図7Bに示す布状体32を使用した場合、板状成形体10の側面13の一部(半分程度)を布状体32で覆うこととなる。
【0052】
布状体を板状成形体の側面にも固定することにより、板状成形体の側面が風食を受けることが防止される。また、布状体が燃焼ガスによってめくれ上がることも防止することができる。
【0053】
布状体が、板状成形体の第1の主面と側面にわたって固定されている場合、
図8A及び
図8Bに示すように、金属容器140に燃焼室用断熱材2を圧入して収容することができる。
金属容器140は、燃焼室の壁面を構成する。
このようにすると、金属容器140と燃焼室用断熱材2の間に隙間がほとんどない状態になるので、燃焼室内の断熱性を高めることができる。
【0054】
燃焼室用断熱材では、布状体が板状成形体の内部で、板状成形体の厚さ方向において第1の主面に近い側で固定されていてもよい。
図9は、燃焼室用断熱材の別の形態の一例を模式的に示す断面図である。
図9に示す燃焼室用断熱材3では、布状体30が、板状成形体10の内部に固定されている。板状成形体の厚さ方向において、布状体30の位置は第1の主面11に近い側となっている。
【0055】
燃焼室用断熱材は、燃焼室の内部に、第1の主面が燃焼ガスが接触する側、又は熱交換器に近い側に配置される。
布状体が板状成形体の内部に設けられている場合、板状成形体の表面が風食や侵食を受けたとしても、風食や侵食が布状体にまで到達したあとには、それ以上の風食や侵食が進むことを防止することができる。この効果を好適に発揮させるためには、布状体が第1の主面に近い側で固定されることが好ましい。
【0056】
板状成形体の厚さ方向において第1の主面に近い側、とは、板状成形体の厚さ方向における中心線より第1の主面に近い側、を意味する。また、板状成形体の厚さ方向において、板状成形体の全体の厚さを100%として、第1の主面に近い側の35%以内の領域に布状体が設けられていることがより好ましい。
【0057】
布状体が板状成形体の内部で固定されている燃焼室用断熱材は、例えば以下のようにして製造することができる。
第1の無機繊維を抄造することにより得られた成形体を準備する。
布状体を準備し、上記成形体の上に重ねる。
布状体の表面に、第1の無機繊維と同じ無機繊維と、無機バインダを含む抄造用スラリーを付与し、吸引して抄造を行う。この処理により、第1の無機繊維を抄造して得られた成形体により布状体が挟まれることになる。最後に余計な水分を除去するための乾燥を行う。
この手順により、布状体が板状成形体の内部で固定されている燃焼室用断熱材を得ることができる。
【0058】
燃焼室用断熱材では、布状体が、第1の主面、又は板状成形体の内部で第1の主面に近い側において、複数枚配置されていてもよい。
図10は、燃焼室用断熱材の別の形態の一例を模式的に示す断面図である。
図10に示す燃焼室用断熱材4では、板状成形体10の第1の主面11上に、第1の布状体33及び第2の布状体34が固定されている。
【0059】
第1の布状体33は、板状成形体10の第1の主面11上に位置し、また、第1の主面11の中央を覆っている。
第2の布状体34は、第1の布状体33よりも大きく、第1の布状体33の全面を覆うとともに、板状成形体10の第1の主面11が第1の布状体33で覆われていない部分(第1の主面の周囲部分)において、板状成形体10の第1の主面11上に位置している。
【0060】
布状体を複数枚配置することによって、風食や侵食が進むことを防止する効果がより好適に発揮される。燃焼ガスと接触しやすい部位、水滴が当たりやすい部位において、布状体を複数枚配置することが好ましい。
図10に示す燃焼室用断熱材4では、板状成形体10の第1の主面11の中央において複数枚の布状体(第1の布状体33及び第2の布状体34)が配置されている。
仮に、
図5に示すような給湯器内に燃焼室用断熱材を配置した場合に、
図5で示すような位置に水滴が当たりやすいとすると、板状成形体の第1の主面の中央に複数枚の布状体を配置することが特に有効である。
【0061】
布状体を複数枚配置する場合に、布状体を複数枚配置する位置は、第1の主面の中央に限定されるものではない。また、第1の主面の全体に布状体を複数枚配置してもよい。
さらに、複数枚の布状体として、2枚に限定されるものではなく、3枚以上の布状体を配置してもよい。
複数枚の布状体の仕様は同一でなくてもよく、織布と不織布を併用したり、厚さの異なる布状体を併用してもよい。例えば、第1の布状体としてニードリング加工された不織布を用い、第1の布状体を覆う第2の布状体として織布を用いてもよい。
【0062】
布状体を複数枚配置する際に、その配置位置は
図9に示したような、板状成形体の内部であってもよい。また、板状成形体の内部と板状成形体の主面(第1の主面)にそれぞれ布状体を配置してもよい。
【0063】
また、布状体を、第1の主面に配置し、さらに第2の主面に配置してもよい。
さらに、
図6に示したように布状体を側面に配置してもよい。
第1の主面、第2の主面及び側面に布状体を配置した場合、板状成形体の全体が布状体で覆われることになるが、このような形態も本発明の燃焼室用断熱材の一形態である。
【符号の説明】
【0064】
1、2、3、4 燃焼室用断熱材
10 板状成形体
11 第1の主面
12 第2の主面
13 側面
20 布状体(不織布)
30、31、32 布状体(織布)
33 第1の布状体
34 第2の布状体
100 給湯器
110 燃焼室
120 熱交換器
130 水滴
140 金属容器