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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049708
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】プレキャスト腰壁パネル設置構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/56 20060101AFI20230403BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20230403BHJP
   E04B 1/98 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
E04B2/56 622W
E04B2/56 603E
E04B2/56 622C
E04B2/56 643A
E04B1/58 601E
E04B1/98 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159617
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105843
【弁理士】
【氏名又は名称】神保 泰三
(72)【発明者】
【氏名】岡田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】藤咲 雅巳
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 啓一
【テーマコード(参考)】
2E001
2E002
2E125
【Fターム(参考)】
2E001DH39
2E001FA04
2E001FA71
2E001GA12
2E001HB03
2E002EA01
2E002EC06
2E002FB02
2E002HA03
2E002HB02
2E002HB14
2E002JA03
2E002JB02
2E002MA12
2E125AA03
2E125AA53
2E125AB16
2E125AC15
2E125AC16
2E125AE02
2E125AG13
2E125BB11
2E125BB12
2E125BB22
2E125BD01
2E125BE08
2E125BF03
2E125CA05
(57)【要約】
【課題】地震によるプレキャスト腰壁パネルの破損およびプレキャスト腰壁パネル間の目地の止水材の破損を抑制できるプレキャスト腰壁パネルの設置構造を提供する。
【解決手段】プレキャスト腰壁パネル1の下部側は、下側固定部2によって、当該プレキャスト腰壁パネル1の面外方向および面内方向のいずれについても、基礎6に固定されており、プレキャスト腰壁パネル1の上部側は、上側固定部3によって、上記面外方向および上記面内の鉛直方向について柱7に固定される一方、当該上側固定部3は、上記面内の水平方向について層間変形時の柱7の変位を許容する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャスト腰壁パネルを基礎上で柱の屋外側に配置したプレキャスト腰壁パネル設置構造であって、
上記プレキャスト腰壁パネルの下部側は、下側固定部によって、当該プレキャスト腰壁パネルの面外方向および面内方向のいずれについても、上記基礎に固定されており、
上記プレキャスト腰壁パネルの上部側は、上側固定部によって、上記面外方向および上記面内の鉛直方向について上記柱に固定される一方、
上記上側固定部は、上記面内の水平方向について、上記柱の層間変形時の変位が上記プレキャスト腰壁パネルへ伝達されるのを、当該プレキャスト腰壁パネル側に対する滑りにより抑制することを特徴とするプレキャスト腰壁パネル設置構造。
【請求項2】
請求項1に記載のプレキャスト腰壁パネル設置構造において、上記上側固定部は、上記柱に固定された柱側固定具と、上記プレキャスト腰壁パネルの屋内側面の上部側に取り付けられた上インサート締結部と、上記柱側固定具と上記上インサート締結部とを締結する上締結部材と、を備えており、
上記柱側固定具は、上記上締結部材が挿通されるルーズ孔を有しており、このルーズ孔が上記上締結部材の外形よりも大きいことで、上記面内の水平方向について当該柱側固定具の変位が許容されることを特徴とするプレキャスト腰壁パネル設置構造。
【請求項3】
請求項2に記載のプレキャスト腰壁パネル設置構造において、上記面内の水平方向について上記柱側固定具の変位を許容する一方で上記面内の鉛直方向の移動を規制する長孔が形成された長孔付き板が、上記柱側固定具に重ねられて、当該柱側固定具に溶接により固定されることを特徴とするプレキャスト腰壁パネル設置構造。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のプレキャスト腰壁パネル設置構造において、上記柱側固定具と上記プレキャスト腰壁パネルの屋内側面との間の隙間を埋める隙間プレートを備えることを特徴とするプレキャスト腰壁パネル設置構造。
【請求項5】
請求項4に記載のプレキャスト腰壁パネル設置構造において、上記隙間プレートと上記プレキャスト腰壁パネルの屋内側面との間、または上記柱側固定具と上記隙間プレートとの間に、摩擦を軽減する滑り板材を備えることを特徴とするプレキャスト腰壁パネル設置構造。
【請求項6】
請求項2または請求項3に記載のプレキャスト腰壁パネル設置構造において、上記柱側固定具は、当該柱側固定具と上記プレキャスト腰壁パネルの屋内側面との間の隙間に突出して上記屋内側面に接触する出入り調整部材を備えており、上記プレキャスト腰壁パネルの上記屋内側面には、上記出入り調整部材が滑り可能に接触する滑り板部が備えられていることを特徴とするプレキャスト腰壁パネル設置構造。
【請求項7】
請求項2~請求項6のいずれか1項に記載のプレキャスト腰壁パネル設置構造において、上記上締結部材の頭部側と上記柱側固定具側との間の摩擦を軽減する滑り板材を備えることを特徴とするプレキャスト腰壁パネル設置構造。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載に記載のプレキャスト腰壁パネル設置構造において、上記下側固定部は、上記基礎の上部に埋設されたアンカー部に固定されて基礎天端に位置する基礎側固定具と、上記プレキャスト腰壁パネルの屋内側面の下部側に取り付けられた下インサート締結部と、上記基礎側固定具と上記下インサート締結部とを締結する下締結部材と、を備えることを特徴とするプレキャスト腰壁パネル設置構造。
【請求項9】
請求項8に記載のプレキャスト腰壁パネル設置構造において、上記基礎側固定具は、上記アンカー部の上部に溶接により固定されることを特徴とするプレキャスト腰壁パネル設置構造。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のプレキャスト腰壁パネル設置構造において、上記基礎の上部フカシ部上に上記プレキャスト腰壁パネルが配置され、当該プレキャスト腰壁パネルの平坦な下面が上記柱のベースプレートの上方に位置することを特徴とするプレキャスト腰壁パネル設置構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プレキャスト腰壁パネルを基礎上で柱の屋外側に配置させたプレキャスト腰壁パネル設置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プレキャスト腰壁(PCa腰壁)の取付け方法が開示されている。この方法では、基礎の上面であって支柱の外側に位置して嵌合溝を支柱の配列方向に形成する。プレキャスト腰壁の下端に前記嵌合溝に嵌合する嵌合突部を形成する。プレキャスト腰壁の下部の内側面にフックを突設する。プレキャスト腰壁を支柱の外側において、その嵌合突部を前記嵌合溝に嵌合して立設し、プレキャスト腰壁の上部をボルト接合手段により支柱に仮保持する。次に、プレキャスト腰壁のフックにバールを掛けて、このバールによりプレキャスト腰壁の位置調整を行う。この調整後、プレキャスト腰壁の上部のボルト接合手段を本締めしてPCa腰壁を支柱に取付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-240243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のプレキャスト腰壁構造では、地震によって柱がプレキャスト腰壁パネルの面内の水平方向に変位すると、この柱の変位にプレキャスト腰壁パネルが引っ張られてプレキャスト腰壁パネルが破損するおそれがある。同様に、プレキャスト腰壁パネル間の隙間(目地)が変形すると、当該隙間に配置された止水材が破損するおそれもある。
【0005】
この発明は、上記の事情に鑑み、地震によるプレキャスト腰壁パネルの破損およびプレキャスト腰壁パネル間の目地の止水材の破損を抑制できるプレキャスト腰壁パネルの設置構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のプレキャスト腰壁設置構造は、プレキャスト腰壁パネルを基礎上で柱の屋外側に配置したプレキャスト腰壁パネル設置構造であって、
上記プレキャスト腰壁パネルの下部側は、下側固定部によって、当該プレキャスト腰壁パネルの面外方向および面内方向のいずれについても、上記基礎に固定されており、
上記プレキャスト腰壁パネルの上部側は、上側固定部によって、上記面外方向および上記面内の鉛直方向について上記柱に固定される一方、
上記上側固定部は、上記面内の水平方向について、上記柱の層間変形時の変位が上記プレキャスト腰壁パネルへ伝達されるのを、上記プレキャスト腰壁パネル側に対する滑りにより抑制することを特徴とする。
【0007】
上記の構成であれば、上記上側固定部は、上記面内の水平方向について、上記柱の層間変形時の変位が上記プレキャスト腰壁パネルへ伝達されるのを、上記プレキャスト腰壁パネル側に対する滑りにより抑制するので、上記柱の変位によってプレキャスト腰壁パネルが破損するのを抑制できる。同様に、プレキャスト腰壁パネル間の隙間の変形も抑制されるので、当該隙間に配置された止水材の破損も抑制することができる。
【0008】
上記上側固定部は、上記柱に固定された柱側固定具と、上記プレキャスト腰壁パネルの屋内側面の上部側に取り付けられた上インサート締結部と、上記柱側固定具と上記上インサート締結部とを締結する上締結部材と、を備えており、
上記柱側固定具は、上記上締結部材が挿通されるルーズ孔を有しており、このルーズ孔が上記上締結部材の外形よりも大きいことで、上記面内の水平方向について当該柱側固定具の変位が許容されてもよい。
【0009】
上記面内の水平方向について上記柱側固定具の変位が許容される一方で上記面内の鉛直方向の移動を規制する長孔が形成された長孔付き板が、上記柱側固定具に重ねられて、当該柱側固定具に溶接により固定されてもよい。この溶接固定は、プレキャスト腰壁パネルの設置現場で行えばよいので、プレキャスト腰壁設置構造において生じる誤差を現場で容易に解消することができる。
【0010】
上記のプレキャスト腰壁パネル設置構造において、上記柱側固定具と上記プレキャスト腰壁パネルの屋内側面との間の隙間を埋める隙間プレートが備えられてもよい。これによれば、上記柱側固定具と上記プレキャスト腰壁パネルの屋内側面との間の隙間の寸法誤差を上記隙間プレートで解消することができる。
【0011】
上記隙間プレートと上記プレキャスト腰壁パネルの屋内側面との間、または上記柱側固定具と上記隙間プレートとの間に、摩擦を軽減する滑り板材を備えてもよい。これによれば、上記隙間プレートと上記プレキャスト腰壁パネルの屋内側面との間、または上記柱側固定具と上記隙間プレートとの間の摩擦が軽減されるので、層間変形時において、上記プレキャスト腰壁パネル側に対する上記柱側固定具の移動が円滑に行われる。
【0012】
或いは、上記柱側固定具は、当該柱側固定具と上記プレキャスト腰壁パネルの屋内側面との間の隙間に突出して上記屋内側面に接触する出入り調整部材を備えており、上記プレキャスト腰壁パネルの上記屋内側面には、上記出入り調整部材が滑り可能に接触する滑り板部が備えられてもよい。これによれば、上記プレキャスト腰壁パネルの出入り量の誤差を上記出入り調整部材で解消することができる。また、上記出入り調整部材が上記屋内側面の滑り板部に接触するので、上記隙間プレートと上記滑り板材との組み合わせに比べ、プレキャスト腰壁パネルに対する層間変形時の柱(柱側固定具)の変位(移動)の滑らかさが向上する。
【0013】
上記上締結部材の頭部側と上記柱側固定具側との間の摩擦を軽減する滑り板材を備えてもよい。これによれば、層間変形時において、上記プレキャスト腰壁パネル側に対する上記柱側固定具の移動が円滑に行われる。
【0014】
上記下側固定部は、上記基礎の上部に埋設されたアンカー部に固定されて基礎天端に位置する基礎側固定具と、上記プレキャスト腰壁パネルの屋内側面の下部側に取り付けられた下インサート締結部と、上記基礎側固定具と上記下インサート締結部とを締結する下締結部材と、を備えてもよい。
【0015】
上記基礎側固定具は、上記アンカー部の上部に溶接により固定されてもよい。この溶接固定は、プレキャスト腰壁パネルの設置現場で行えばよいので、プレキャスト腰壁設置構造において生じる誤差を現場で容易に解消することができる。
【0016】
これらプレキャスト腰壁パネル設置構造において、上記基礎の上部フカシ部上に上記プレキャスト腰壁パネルが配置され、当該プレキャスト腰壁パネルの平坦な下面が上記柱のベースプレートの上方に位置してもよい。これによれば、プレキャスト腰壁パネルの下面に段差加工をする必要がなく、施工性が向上する。
【発明の効果】
【0017】
本発明であれば、地震によるプレキャスト腰壁パネルの破損およびプレキャスト腰壁パネル間の目地の止水材の破損を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態のプレキャスト腰壁設置構造を示した概略の正面図である。
図2図1に示すプレキャスト腰壁設置構造の概略の縦断面図である。
図3図1に示すプレキャスト腰壁設置構造の下側固定部を示した概略の正面図である。
図4図1に示すプレキャスト腰壁設置構造の上側固定部を示した図であって、同図(A)は概略の平面図、同図(B)は概略の正面図である。
図5図4に示す上側固定部の柱側固定具を構成する部材を示した説明図である。
図6】他の実施形態のプレキャスト腰壁設置構造の上側固定部を示した図であって、同図(A)は概略の平面図、同図(B)は概略の正面図である。
図7】他の実施形態のプレキャスト腰壁設置構造の上側固定部を示した図であって、同図(A)は概略の平面図、同図(B)は概略の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1および図2に示すように、この実施の形態におけるプレキャスト腰壁設置構造では、複数のプレキャスト腰壁パネル1が、コンクリート製の基礎6上において鉄骨製の柱7の屋外側に配置される。各プレキャスト腰壁パネル1の下部側は、下側固定部2によって、上記基礎6に連結されており、プレキャスト腰壁パネル1の上部側は、上側固定部3によって、上記柱7に連結されている。
【0020】
また、この実施形態では、基礎6は基礎本体とこの基礎本体上に設けられた上部フカシ部6aとからなる。プレキャスト腰壁パネル1は、上部フカシ部6a上に配置されており、当該プレキャスト腰壁パネル1の平坦な下面が柱7のベースプレート7aの上方に位置している。ベースプレート7aは、基礎6とともに作製されるコンクリート製の柱脚部61上に固定されている。
【0021】
隣り合う2枚のプレキャスト腰壁パネル1間の目地には、止水材8が装着されている。また、プレキャスト腰壁パネル1の下部と基礎6の天端との間には、止水材9が配置されている。これら止水材8,9は、プレキャスト腰壁パネル1内に組み込まれたシーリング材、ガスケットの他、プレキャスト腰壁パネル1とは別途配置されたポリエチレンフォーム等からなる。なお、プレキャスト腰壁パネル1は、図2に示すように、コンクリート板でガスケット1Gが挟まれた構造を有しており、上記ガスケット1Gの下部側には、屋内側に略T字状に分岐する部分が形成されており、この分岐部分の先端は、土間コンクリート50側で露出している。この露出部位により、屋外から土間コンクリート50側への水の浸入が抑制されるようになっている。上記ガスケット1Gは、上記のような構造に限らない。例えば、プレキャスト腰壁パネル1の屋内側の面にガスケット1Gが貼付され、このガスケット1Gの下部側が屋外側に向かって傾斜状に折り曲げられた構造でもよい。上記折り曲げ部位により、屋外から土間コンクリート50側への水の浸入が抑制される。
【0022】
上記下側固定部2は、プレキャスト腰壁パネル1を、当該プレキャスト腰壁パネル1の面外方向および面内方向のいずれについても基礎6に固定する。この下側固定部2は、例えば、基礎6の上部に埋設されたアンカー部20に固定されて基礎天端に位置する基礎側固定具21と、プレキャスト腰壁パネル1の屋内側面の下部側に取り付けられた下インサート締結部(インサートナット等)22と、基礎側固定具21と下インサート締結部22とを締結するワッシャ付きボルト等の下締結部材23と、を備えている。
【0023】
上記アンカー部20は、基礎6の上部フカシ部6aに埋設された埋設部20aと、この埋設部20aの上部に溶接固定された水平板部20bとからなり、防錆のためのメッキ処理が施されている。上記水平板部20bの上面は、上部フカシ部6a上に露出されている。上記アンカー部20は、上部フカシ部6aがコンクリートによって作製される以前にセットされ、当該コンクリートの固化によって固定される。
【0024】
上記基礎側固定具21は、例えば、等しい長さの二辺を有する等辺アングルからなる。この等辺アングルの一辺である下板部21aは、図3にも示すように、上記水平板部20bの上面に置かれ、等辺アングルにおける他の辺である立上板部21bは、プレキャスト腰壁パネル1の屋内側面に対面している。立上板部21bの中央側には、鉛直方向に長い長孔211が形成されている。
【0025】
上記基礎側固定具21の立上板部21bの屋内側には、固定プレート24が縦配置で設けられている。この固定プレート24の中央部には、下締結部材23の螺子部が挿通できる大きさの円形の貫通孔が形成されている。また、下締結部材23の螺子部は、上記円形の貫通孔および長孔211に挿通され、この長孔211の高さの範囲において、下インサート締結部22に螺着されるので、下締結部材23における鉛直方向の締結位置の多少の誤差が許容される。この位置誤差が許容されて下インサート締結部22に下締結部材23が螺着された状態で、固定プレート24は、基礎側固定具21の立上板部21bに、溶接個所W1によって固定される。また、下板部21aは、アンカー部20の上記水平板部20bの上面上に溶接個所W2によって固定される。この溶接作業は、下締結部材23の上記螺着によって、基礎側固定具21の水平位置が決まった状態で行われる。
【0026】
上側固定部3は、図4(A)および図4(B)に示すように、柱7の側面に固定された柱側固定具31と、プレキャスト腰壁パネル1の屋内側面の上部側に取り付けられた上インサート締結部(インサートナット等)32と、柱側固定具31と上インサート締結部32とを締結するワッシャ付きボルト等の上締結部材33と、を備えている。
【0027】
プレキャスト腰壁パネル1の上部側は、上側固定部3によって、プレキャスト腰壁パネル1の面外方向および上記面内の鉛直方向について柱7に固定される。一方、上側固定部3は、上記面内の水平方向について、柱7の層間変形時の変位がプレキャスト腰壁パネル1へ伝達されるのを、当該プレキャスト腰壁パネル1に対する滑りにより抑制する。
【0028】
柱側固定具31は、例えば、等しい長さの二辺を有する等辺アングルからなる。この等辺アングルにおける一方側板部31aは、柱7の側面に予め溶接により固定されている。また、上記等辺アングルにおける他方側板部31bは、プレキャスト腰壁パネル1の屋内側面に対面する。また、他方側板部31bの中央側には、図5にも示すように、上締結部材33が位置するルーズ孔311が形成されている。このルーズ孔311は、上締結部材33の外形よりも大きくされており、プレキャスト腰壁パネル1の面内の水平方向について柱側固定具31(柱7)の変位が許容されるとともに、上締結部材33等の取り付けにおいて生じる誤差も許容される。ルーズ孔311における横直線部分の長さは、例えば、53mm程度とされ、縦直線部分の長さは例えば、20mm程度とされる。
【0029】
上側固定部3は、柱側固定具31の他方側板部31bとプレキャスト腰壁パネル1の屋内側面との間の隙間を埋める隙間プレート35,35を備える。この例では、厚みが異なる複数種類の隙間プレート35から2枚の隙間プレート35,35が選択されて装着されている。各隙間プレート35の下部側には、切欠き351が形成されている。切欠き351は、上締結部材33が通されて位置する箇所であるとともに、当該上締結部材33に対して隙間プレート35の上記面内の水平方向の移動を許容する。
【0030】
また、上側固定部3は、隙間プレート35とプレキャスト腰壁パネル1の屋内側面との間にステンレス板34を備える。このステンレス板34には、上締結部材33の螺子部が通される円形貫通孔34aが形成されている。ステンレス板34は、プレキャスト腰壁パネル1に対して隙間プレート35が滑る際の摩擦を軽減する滑り板材として機能する。
【0031】
また、上側固定部3は、柱側固定具31の屋内側面上に重ねられた長孔付き板36を有する。長孔付き板36は、上締結部材33が通される長孔361を有している。長孔361は水平方向に長くされており、柱側固定具31が上締結部材33に対してプレキャスト腰壁パネル1の面内の水平方向に移動するのを許容する一方で、プレキャスト腰壁パネル1が上締結部材33に対して上記面内の鉛直方向に移動するのを規制する。長孔361における直線縁部分の長さは、例えば、32mm程度とされる。
【0032】
長孔付き板36の屋内側面上には、当該屋内側面に接するステンレス板37を備える。このステンレス板37には、上締結部材33の螺子部が通される円形貫通孔37aが形成されている。ステンレス板37は、上締結部材33の頭部側である押え板38と他方側板部31b側の上記長孔付き板36との間の摩擦を軽減する滑り板材である。
【0033】
押え板38は、ステンレス板37と上締結部材33の頭部との間に備えられている。この押え板38には、上締結部材33の螺子部が通される円形貫通孔38aが形成されている。
【0034】
長孔付き板36は、他方側板部31bに溶接個所W3によって固定される。この溶接作業は、上締結部材33の螺着状態で行われる。また、隙間プレート35は、他方側板部31bの上縁に溶接個所W4によって固定される。この溶接作業は、上締結部材33の螺着状態で行われる。
【0035】
上記の構成であれば、上側固定部3は、プレキャスト腰壁パネル1の面内の水平方向について、柱7の層間変形時の変位がプレキャスト腰壁パネル1へ伝達されるのを、当該プレキャスト腰壁パネル1に対する滑りにより抑制するので、柱7の変位によってプレキャスト腰壁パネル1が破損するのを抑制できる。同様に、プレキャスト腰壁パネル1間の隙間の変形も抑制されるので、当該隙間に配置された止水材8の破損も抑制することができる。
【0036】
基礎側固定具21は、この実施形態では、アンカー部20の上部に溶接により固定される。この溶接固定は、プレキャスト腰壁パネル1の設置現場で行えばよいので、プレキャスト腰壁設置構造において生じる誤差を現場で容易に解消することができる。
【0037】
長孔付き板36は、この実施形態では、柱側固定具31に重ねられて、当該柱側固定具31に溶接により固定される。この溶接固定は、プレキャスト腰壁パネル1の設置現場で行えばよいので、プレキャスト腰壁設置構造において生じる誤差を現場で容易に解消することができる。
【0038】
柱側固定具31とプレキャスト腰壁パネル1の屋内側面との間の隙間を埋める隙間プレート35が備えられる構成であれば、柱側固定具31とプレキャスト腰壁パネル1の屋内側面との間の隙間に誤差が生じても、隙間プレート35で解消することができる。
【0039】
隙間プレート35とプレキャスト腰壁パネル1の屋内側面との間の摩擦を軽減する滑り板材(ステンレス板34)を備えると、層間変形時において、プレキャスト腰壁パネル1に対する柱側固定具31の移動が円滑に行われる。
【0040】
次に、プレキャスト腰壁設置構造の施工工程を簡単に説明する。建設敷地内に型枠を作製し、コンクリートを打設して、基礎6および柱設置用の柱脚部61を作製する。この施工例では、基礎6の基礎本体側の天端は柱脚部61の天端よりも低いが、基礎6の上部をなす上部フカシ部6a上に、プレキャスト腰壁パネル1が配置されており、当該プレキャスト腰壁パネル1の平坦な下面が柱7のベースプレート7aの上方に位置できる。このため、プレキャスト腰壁パネル1の下面に段差加工をする必要がなく、施工効率が向上する。
【0041】
基礎6等の作製・養生後、基礎6周りに足場を組んで、屋内側に入れた揚重機で柱7を建てていく。また、基礎6上には、止水材9の一部を構成する別途の止水材を設けておく。上記揚重機を用いて、プレキャスト腰壁パネル1を基礎6上に載せて、柱側固定具31を用い、プレキャスト腰壁パネル1を、柱7に締結部材33で仮固定する。止水材8をプレキャスト腰壁パネル1の小口に配置する。隙間プレート35或いは後述する出入り調整部材30でプレキャスト腰壁パネル1の平面的な位置調整を行い、また、プレキャスト腰壁パネル1のレベルを調整する。締結部材33を本締めする。プレキャスト腰壁パネル1の下部側に下側固定部2を取り付ける。柱側固定具31および下側固定部2において現場溶接を行う。この現場溶接部を錆止め塗料またはメッキ用補修塗料でタッチアップする。プレキャスト腰壁パネル1の土間コンクリート50と接する面に、これらの接続を切る緩衝部材51を配置する。プレキャスト腰壁パネル1を型枠代わりに用いてコンクリートを打設し、土間側コンクリート50を作製する。
【0042】
なお、プレキャスト腰壁パネル1を柱7に固定する際の上締結部材33の締め付けトルクは、ステンレス板34、37と他の板部材との接触圧に関係し、層間変形時における柱7の変位がプレキャスト腰壁パネル1に伝達される力(摩擦力)に影響を与えるので、異なる締め付けトルクによる締結状態で幾つかの層間変形追従試験(層間変形角R=1/120rad、R=1/60rad等)を行い、適切なトルクを求める。この試験では、締結部材33のスプリングワッシャが潰れる程度以上の締め付けトルクでも、プレキャスト腰壁パネル1に対する滑りを発生させて、プレキャスト腰壁パネル1の破損等を回避することができた。
【0043】
図4に示した上側固定部3に代えて、図6に示す上側固定部3Aを用いてもよい。上側固定部3に対する上側固定部3Aの相違点を述べる。上側固定部3Aは、他方側板部31bの屋外側面に、ステンレス板34を備える。そして、このステンレス板34とプレキャスト腰壁パネル1の屋内側面との間の隙間を埋める隙間プレート35,35を備える。上側固定部3Aにおいては、溶接個所W4は不要である。このような構造でも、プレキャスト腰壁パネル1を柱7に固定する際の上締結部材33の締め付けトルクは、ステンレス板34、37と他の板部材との接触圧に関係し、層間変形時における柱7の変位がプレキャスト腰壁パネル1に伝達される力(摩擦力)に影響を与えるので、異なる締め付けトルクによる締結状態で幾つかの層間変形追従試験を行って適切なトルクを求める。
【0044】
或いは、図7に示す上側固定部3Bを用いてもよい。上側固定部3に対する上側固定部3Bの相違点を述べる。上側固定部3Bは、隙間プレート35に代わってプレキャスト腰壁パネル1の出入りを調整する出入り調整機能と滑り機能を有する出入り調整部材30を備える。出入り調整部材30は、他方側板部31bのねじ孔に螺合された頭部付きボルトからなる。出入り調整部材30のボルト先端部301は、柱側固定具31の他方側板部31bの屋外側面とプレキャスト腰壁パネル1の屋内側面との間の隙間に突出している。
【0045】
ボルト先端部301は、接触偏りや楔作用が生じないように球面形状に研削されている。一方、プレキャスト腰壁パネル1の屋内側面には、ボルト先端部301に接触して滑りを生じさせる金属製の滑り板部11が貼り付けられている。プレキャスト腰壁パネル1の屋内側面はコンクリートからなっており、上記滑り板部11は上記コンクリート内に埋設された状態で上記ボルト先端部301との接触面を露呈させている。なお、上インサート締結部32は、滑り板部11の配置域内で当該滑り板部11を貫通して設けられていてもよい。このような構造でも、プレキャスト腰壁パネル1を柱7に固定する際の上締結部材33の締め付けトルクは、滑り板部11に対するボルト先端部301の接触圧に関係し、層間変形時における柱7の変位がプレキャスト腰壁パネル1に伝達される力(摩擦力)に影響を与えるので、異なる締め付けトルクによる締結状態で幾つかの層間変形追従試験を行って適切なトルクを求める。
【0046】
なお、上側固定部3、3Aは、隙間プレート35とステンレス板34との接触箇所で層間変形時の滑りが生じるのに対し、上側固定部3Bは、出入り調整部材30のボルト先端部301と滑り板部11との箇所で層間変形時の滑りが生じる。上側固定部3、3A、3Bをそれぞれ用いた層間変形追従試験(層間変形角R=1/120rad、R=1/60rad等)では、層間変形時のプレキャスト腰壁パネル1に対する柱7(柱側固定具31)の変位(移動)の滑らかさは、上側固定部3Bの方が上側固定部3、3Aよりも良好であった。なお、この試験で用いた締結部材33は、球面形状のボルト先端部301を有するものであった。
【0047】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 :プレキャスト腰壁パネル
2 :下側固定部
3 :上側固定部
3A :上側固定部
3B :上側固定部
6 :基礎
6a :上部フカシ部
7 :柱
7a :ベースプレート
8 :止水材
9 :止水材
11 :滑り板部
20 :アンカー部
20a :埋設部
20b :水平板部
21 :基礎側固定具
21a :下板部
21b :立上板部
22 :下インサート締結部
23 :下締結部材
24 :固定プレート
30 :出入り調整部材
31 :柱側固定具
31a :一方側板部
31b :他方側板部
32 :上インサート締結部
33 :上締結部材
34 :ステンレス板(滑り板材)
34a :円形貫通孔
35 :隙間プレート
36 :長孔付き板
37 :ステンレス板(滑り板材)
37a :円形貫通孔
38 :押え板
38a :円形貫通孔
61 :柱脚部
7a :ベースプレート
211 :長孔
301 :ボルト先端部
311 :ルーズ孔
351 :切欠き
361 :長孔
W1 :溶接個所
W2 :溶接個所
W3 :溶接個所
W4 :溶接個所
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7