IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東海メディカルプロダクツの特許一覧

<>
  • 特開-カテーテル 図1
  • 特開-カテーテル 図2
  • 特開-カテーテル 図3
  • 特開-カテーテル 図4
  • 特開-カテーテル 図5
  • 特開-カテーテル 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049725
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】カテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
A61M25/00 500
A61M25/00 600
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159647
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】591245624
【氏名又は名称】株式会社東海メディカルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】100129676
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼荒 新一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宏成
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA05
4C267BB10
4C267BB11
4C267BB15
4C267BB16
4C267BB31
4C267BB40
4C267CC09
4C267EE01
4C267FF01
4C267GG21
4C267HH04
4C267HH08
(57)【要約】
【課題】
断面が平板状のばね鋼を螺旋状に成形した平コイルからなる部材を使用することによって、より効果的に塑性変形による性能低下が抑制されたカテーテルを提供する。
【解決手段】
本発明にかかるカテーテル100は、内部に1つ以上のルーメンを有し、少なくとも平板状のばね鋼を隙間なく又は隙間が0.1mm以下となるようにコイル形状に冷間成形された後、熱処理されてなるコイルチューブ35をシャフト部30に有することを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に1つ以上のルーメンを有し、少なくとも平板状のばね鋼を隙間なく又は隙間が0.1mm以下となるようにコイル形状に冷間成形された後、熱処理されてなるコイルチューブをシャフト部に有することを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記コイルチューブは、平コイルの断面の比は、厚さt、幅wとした場合t:w=1:6~1:15であり、かつ、平コイルの厚さtは前記コイルチューブの内径Φに対して1/5以下であり、幅wは前記コイルチューブの外径Φに対して1.5倍以下であることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記シャフト部は、前記コイルチューブの外径の17.9倍の曲率半径で90度に曲げて1分間保った状態の後、開放した場合、前記シャフト部に発生する曲がり角度が0°以内であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカテーテル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
塞栓部をガイドワイヤとともに貫通させる貫通カテーテルの場合、先端を塞栓部に突き刺して塞栓を推し進める操作を必要とする。しかしながら、カテーテルのシャフトに曲がり癖があると、押し込む際に曲がり癖がある部分で力が逃げて、シャフトにまっすぐ力が加わらなくなるという問題がある。
【0003】
この曲がり癖は主として、(1)カテーテルを身体に挿入する際に癖つくものがある。例えば、カテーテルを身体内挿入する際には、皮膚に対して斜めに挿入した後、血管に沿って挿入されるので、血管に沿わせる際に発生する湾曲によって曲がり癖が発生したり、カテーテルを押し込む際に、手元側で強く握った場合に発生したりする曲がり癖等がある。
【0004】
また、(2)梱包、包装で癖つくものがある。例えば、カテーテルは、硬い樹脂チューブ内に収容された状態で巻回されて梱包されることが多い。こうした場合には全体的に湾曲した曲がり癖がつく場合がある。これは、特に滅菌工程で熱を加えるため、発生しやすくなると考えられる。また、術中でこの梱包からカテーテルを取り出す際に、取り出し口で曲げてしまう場合もある。
【0005】
以上のようにして、曲げ癖がつくと、血管内に押し込んだ場合、曲げ癖の箇所で力が逃げてしまってカテーテルを押し込むことができない。
【0006】
こうした曲げ癖を防止したカテーテルとしては、内部に一つ以上のルーメンを有し、少なくとも一部に金属製のチューブ状部材を有している医療用カテーテルであって、該金属製チューブ状部材をその外径の50倍の曲率半径で90度に曲げて1分間保った後放した場合、該金属製チューブ状部材に発生する曲がり角度が15度以内であることを特徴とする医療用カテーテルが提案されている(特許文献1)。
【0007】
かかる発明は、内部の金属製チューブ部材の材料となる金属を、固溶化熱処理、焼き入れ、焼き戻しにより性質を制御し、特に固溶化熱処理、焼き戻しの条件により、強度、硬さ、クリープ特性をコントロールし、ある特定の性質を有した金属製チューブ状部材とすることで、塑性変形による性能低下が抑制された医療用カテーテルを提供するものである。
【0008】
しかしながら、上記文献による医療用カテーテルは、固溶化熱処理、焼き戻しの条件に沿った金属材料を使用しなければならないため、かかる条件の金属製のチューブ状部材を入手したり、加工したりするのが困難であるという問題があった。さらに、上記文献による医療用カテーテルでは、塑性変形による性能低下の抑制がまだ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-271208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、断面が平板状のばね鋼を螺旋状に成形した平コイルからなる部材を使用することによって、より効果的に塑性変形による性能低下が抑制されたカテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0012】
本発明にかかるカテーテルは、
内部に1つ以上のルーメンを有し、少なくとも平板状のばね鋼を隙間なく又は隙間が0.1mm以下となるようにコイル形状に冷間成形された後、熱処理されてなるコイルチューブをシャフト部に有することを特徴とする。
【0013】
本発明にかかるカテーテルは、内部に平板状のばね鋼を隙間なく又は隙間が0.1mm以下となるようにコイル状に形成されたコイルチューブが挿入されているため、長手方向にコイルが縮むことがなくプッシュ性能の向上を図ることができるとともに、湾曲させた場合に直線状に戻ろうとする直線復帰性能が高いシャフト部を有するカテーテルとすることができる。
【0014】
さらに、本発明にかかるカテーテルにおいて、
前記コイルチューブは、平コイルの断面の比は、厚さt、幅wとした場合t:w=1:6~1:15であり、かつ、平コイルの厚さtは前記コイルチューブの内径Φに対して1/5以下であり、幅wは前記コイルチューブの外径Φに対して1.5倍以下であることを特徴とするものであってもよい。
【0015】
かかる構成を採用することによって、直線復帰性能の高いコイルチューブとすることができる。
【0016】
さらに、本発明にかかるカテーテルにおいて、
前記シャフト部は、コイルチューブの外径の17.9倍の曲率半径で90度に曲げて1分間保った状態の後、開放した場合、シャフト部に発生する曲がり角度が0°以内であることを特徴とするものであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかるカテーテルによれば、より効果的に塑性変形による性能低下が抑制されたカテーテルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施形態にかかるカテーテル100の側面図である。
図2図2は、実施形態にかかるカテーテル100のA-A拡大断面図である。
図3図3は、実施形態にかかるカテーテル100のコイルチューブを示す斜視図である。
図4図4は、本発明に係るカテーテル100を評価する方法を示す模式図である。
図5図5は、本発明に係るカテーテル100を評価する方法を示す模式図である。
図6図6は、本発明に係るカテーテル100の実施例及び比較例の試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明にかかるカテーテル100の実施形態について、図を参照しつつ詳細に説明する。図1は、実施形態にかかるカテーテル100の側面図である。図2は、実施形態にかかるカテーテル100のA-A拡大断面図である。なお、視認性のため、断面線は省略されている。なお、以下に説明する実施の形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。なお、説明の便宜のため、特許請求の範囲及び明細書において、「基端側」及び「先端側」とは、カテーテル100に対して、図1に示す手元側(カテーテルハブ部側)を「基端側」といい、遠位端側を「先端側」という。
【0020】
(第1実施形態)
第1実施形態にかかるカテーテル100は、図1に示すように、主として、先端部10と、シャフト部30と、カテーテルハブ部50と、を備えている。
【0021】
先端部10は、図2に示すように、使用の目的に応じて、様々な材料、形態を選択することができる。本実施形態においては、血栓を貫通させるために先端が細くなるような円錐形に作製されたものを使用している。使用される材料は、金属、樹脂等特に限定するものではない。
【0022】
シャフト部30は、図2に示すように、内層から、樹脂製チューブ31、編組体33、コイルチューブ35及び樹脂被覆体37を備えている。
【0023】
樹脂製チューブ31は、内部に挿通されるガイドワイヤや、ステント及びバルーンカテーテル等の医療機器が通過するためのインナールーメンを形成するチューブであり、その外周に配置される編組体33やコイルチューブ35により、ガイドワイヤや医療機器が引っかかることを防止し摺動性を高めたり、編組体33が解けたりすることを防止したり、血栓の付着を防止したりするために、配置されるものである。樹脂としては特に限定するものではないが、好ましくは、高い人体適合性、優れた摺動性及び形状復帰性能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)等を使用するとよい。
【0024】
編組体33は、金属素線又は樹脂線を編み組みしたものであり、後述するコイルチューブ35に加えて、キンク性能の向上やシャフトの押込機能の向上に資するものである。さらに、シャフト部30が湾曲した際に、後述する螺旋状に密着して巻回されたコイルチューブ35が離れ過ぎたりすることを防止する機能をも有する。
【0025】
コイルチューブ35は、断面が平板状のばね鋼を螺旋状に成形した平板コイルからなる。使用されるばね鋼としては、限定するものではないが、SUS301、SUS304、SUS316等を使用するとよい。平板コイルに使用される平板の断面の比は、図3に示すように、厚さt、幅wとした場合t:w=1:6~1:15であり、より好ましくは、1:9~1:12である。また、コイルチューブ35の内径Φに対して、厚さtは1/5以下であることが好ましい。例えば、内径Φ=0.6mmであれば、t≦0.12mmとすることが好ましい。さらに、幅wは、外径Φに対して1.5倍以下とすることが好ましい。例えば、外径Φ=0.72mmであれば、幅w≦1.08mmとすることが好ましい。螺旋に成形する際には、いわゆる密着コイルばねのように隣り合う螺旋に対して隙間なく、又は0.1mm以下の隙間となるように成形される。このように平板状の部材によって、螺旋の隙間なく又は隙間を限りなく狭くすることによって、シャフト部30の剛性が高まり、湾曲させた場合に直線状へ復帰させる性能を向上させることができる。螺旋状に成形するに際しては、まず、冷間成形により螺旋状に形成する。この際に、樹脂製チューブ31に直接巻きつけると、巻きつけ時のばね鋼の張力によって樹脂製チューブ31が変形してしまうため直接巻くことはできない。そのため、予め、コイルチューブ状に平コイルのみで成形する。そして、成形後、残留応力を除去するために焼入れ焼戻し、又は低温焼なまし等の熱処理を行う。製品外径に対し線径が太くなると、弾性力は高くなるが、繰り返しの復元性(へたり)に関しては応力が掛かりやすいので、へたり易くなっていく。本発明にかかるコイルチューブ35は、平コイルで作製するため、外径に対して線径は太く形成されるため、加工上でも応力が強くかかり、湾曲率の大きい部分を通過させる場合等には、応力が強くかかるため、もとに戻らず、曲がりやすい状態になる。そこで、熱処理を行って応力除去をしている。
【0026】
樹脂被覆体37は、シャフト部30の最外層であり、コイルチューブ35が直接、血管等の身体に接触することを防止するとともに、シャフト部30が湾曲した際に、コイルの位置を所定の位置に保持する機能を有する。
【0027】
カテーテルハブ部50は、特に限定するものではなく、既知のカテーテルハブを適宜使用するこができる。
【0028】
以上のように構成されたカテーテル100は、以下のようにして作製される。まず、前述したように、平板コイルをコイルチューブ状に成形し、残留応力を除去するために焼入れ焼戻し、又は低温焼なまし等の熱処理を行い、コイルチューブ35を得る、熱処理が完了したコイルチューブ35の内部に、編組体33が巻かれた樹脂製チューブ31を端部から挿入し、樹脂で被覆する。そして、先端に先端部を接合する。先端部を接合する際には図2に示すように、X線不透過マーカー60等を任意に取り付けても良い。一方、基端側にはカテーテルハブ部50を取り付けてカテーテルが完成する。
【0029】
こうして作製されたカテーテルのシャフト部は、コイルチューブ35の外径の20倍の曲率半径で90度に曲げて1分間保った状態の後、開放した場合、シャフト部に発生する曲がり角度を0度以内とすることができ、曲がり癖がなく、直線復帰性能の高いカテーテルとすることができる。
【0030】
(実施例)
以下、シャフト部30のコイルチューブとして、厚みt=0.09mm、幅w=1.0mmの平コイルを使用し、コイル外径0.84mmのコイルチューブを用意し、実施例1として焼きなましなしのコイルチューブ、実施例2として、380℃で20分の焼きなましを行ったコイルチューブ、及び実施例3として、実施例2のコイルチューブを使用してコイルチューブ35の内部に、編組体33が巻かれた樹脂製チューブ31を端部から挿入し、樹脂で被覆したカテーテルを用意した。比較例として、焼きなまし処理なしの0.03Φの丸線からなるコイルを組み込んだカテーテル(比較例1)及び焼きなまし処理なしのステンレスチューブ(SUS304)をレザーカットして、厚みt=0.06mm、幅w=5.0mm、ピッチ約5mm、コイルの隙間0.03mmの平板からなるコイルを組み込んだカテーテル(比較例2)を用意した。
【0031】
これらをコイルチューブの外径の11.9倍(半径5mm)、17.9倍(半径7.5mm)、23.8倍(半径10mm)、29.8倍(半径12.5mm)、35.7倍(半径15mm)、41.7倍(半径17.5mm)、47.6倍(半径20mm)、59.5倍(半径25mm)の曲率半径で90度に曲げて1分間保った状態の後、開放した場合、シャフト部に発生する曲がり角度を測定した。なお、金属製チューブ状部材をその外径(A)の50倍(50A)の曲率半径で90度に曲げる、とは図4に表されるような方法を示す。すなわち、一端を固定したコイルチューブ35を、その50倍の半径を有した円柱の円周方向に沿って、円柱両端の曲げられていない部分の延長線角が90度になるように曲げる方法である。曲がり角度は、図5に示されるように曲がった部材の直線部分の延長線の交点の角度αである。測定結果を図6に示す。
【0032】
測定結果を表す図6によると、焼きなましなしのコイルチューブ(実施例1)の場合は、コイルチューブ35の直径(外径)の23.8倍以上においては、曲がり癖がなく、直線復帰性の高いカテーテルとすることができた。焼きなましありのコイルチューブ(実施例2)及びこのコイルチューブを使用したカテーテル(実施例3)においては、コイルチューブ35の直径(外径)の17.9倍以上においては、曲がり癖がなく、直線復帰性の高いカテーテルとすることができた。これに対し、比較例1では、すべての直径倍率で曲がり癖が残り、比較例2に関しては、直径倍率が11.9倍から35.7倍においては、キンク(折れ)が発生し、測定不能となった。このことから平板コイルであればよいのではなく直径に対して幅(w)が広すぎると、きつい曲率の場合にキンクしてしまうことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
上述した実施の形態で示すように、ガイドワイヤやカテーテルによる手術における補助具として利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
10…先端部、30…シャフト部、31…樹脂製チューブ、33…編組体、35…コイルチューブ、37…樹脂被覆体、50…カテーテルハブ部、60…X線不透過マーカー、100…カテーテル
図1
図2
図3
図4
図5
図6