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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004980
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20230110BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20230110BHJP
   F16C 33/24 20060101ALI20230110BHJP
   C10M 125/22 20060101ALN20230110BHJP
   C10M 125/02 20060101ALN20230110BHJP
   C10M 147/02 20060101ALN20230110BHJP
   C10M 147/04 20060101ALN20230110BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20230110BHJP
   C10N 50/08 20060101ALN20230110BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230110BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230110BHJP
【FI】
C23C26/00 A
F16C33/12 A
F16C33/24 Z
C10M125/22
C10M125/02
C10M147/02
C10M147/04
C10N10:12
C10N50:08
C10N30:06
C10N40:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101966
(22)【出願日】2022-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2021105614
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000111834
【氏名又は名称】パーカー加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100098523
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 滋
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 和亮
(72)【発明者】
【氏名】入倉 幸祐
【テーマコード(参考)】
3J011
4H104
4K044
【Fターム(参考)】
3J011DA01
3J011MA02
3J011QA04
3J011SB04
3J011SB20
3J011SC04
3J011SE02
4H104AA04C
4H104AA19C
4H104CD01C
4H104CD04C
4H104FA06
4H104LA03
4H104PA41
4H104QA13
4K044AA02
4K044AA06
4K044AB10
4K044BA11
4K044BA19
4K044BA21
4K044BC01
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】簡便な方法により、耐摩耗性、耐久性等に優れた新規の組み合わせ摺動部材を提供することを目的とする。
【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1摺動部品と、鋼材からなる第2摺動部品とを備えた組み合わせ摺動部材であって、
第1摺動部品における第1の面と摺動する第2摺動部品の第2の面が、有機バインダーと、硬化剤と、二硫化モリブデンとを含む焼成膜を有し、
焼成膜の断面に対するモリブデンの面積率が5.3~29.5%未満であり、
第1の面の表面粗さRaが1.9μm以下である組み合わせ摺動部材である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1摺動部品と、鋼材からなる第2摺動部品とを備えた組み合わせ摺動部材であって、
前記第1摺動部品における第1の面と摺動する前記第2摺動部品の第2の面が、有機バインダーと、硬化剤と、二硫化モリブデンとを含む焼成膜を有し、
前記焼成膜の断面に対するモリブデンの面積率が5.3~29.5%未満であり、
前記第1の面の表面粗さRaが1.9μm以下であることを特徴とする、組み合わせ摺動部材。
【請求項2】
前記焼成膜が、更にグラファイトを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組み合わせ摺動部材。
【請求項3】
前記焼成膜が、スクラッチ試験における2.7N以上の皮膜強度を有する、請求項1に記載の組み合わせ摺動部材。
【請求項4】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1摺動部品と、鋼材からなる第2摺動部品とを備えた組み合わせ摺動部材であって、
前記第1摺動部品における第1の面と摺動する前記第2摺動部品の第2の面が、有機バインダーと、硬化剤と、フッ素系潤滑剤および/またはグラファイトを含む焼成膜を有する、組み合わせ摺動部材。
【請求項5】
前記焼成膜におけるフッ素系潤滑剤に由来するフッ素の含有量の蛍光X線分析のFP方法による測定値が、前記焼成膜における炭素及びフッ素の合計質量を基準として1.0質量%以上49質量%以下である、請求項4に記載の組み合わせ摺動部材。
【請求項6】
前記第1の面の表面粗さRaが1.9μm以下である、請求項4に記載の組み合わせ摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材に関するものであり、特に、互いに摺動する複数の摺動部品を含む組み合わせ摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、バルブとバルブボディ、ロッカーアームとロッカーシャフト等のように、硬度の異なる材料で形成された部材を含む組み合わせ摺動部材が利用されている。このような組み合わせ摺動部材として、たとえば、摺動面にアルマイト層が形成されていてもよいアルミニウム合金からなる第1摺動部材と、該第1摺動部材の摺動面に摺動し、所定の高分子樹脂に、所定の強化繊維および所定の固体潤滑剤を分散した材料からなる第2摺動部材とを備えた組み合わせ摺動部材(特許文献1)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-114075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の摺動部材において、強化繊維、潤滑剤等を分散させつつ鋼材部材の摺動面に膜形成する加工、摺動面にアルマイト処理を施す加工などは煩雑であるため、効率的な組み合わせ摺動部材の製造の妨げとなり得る。本発明は、簡便な方法により、耐摩耗性、耐久性等に優れた新規の組み合わせ摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明により上述の課題は解決された。本発明は、以下に記載のものを含む。
[1]アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1摺動部品と、鋼材からなる第2摺動部品とを備えた組み合わせ摺動部材であって、
前記第1摺動部品における第1の面と摺動する前記第2摺動部品の第2の面が、有機バインダーと、硬化剤と、二硫化モリブデンとを含む焼成膜を有し、
前記焼成膜の断面に対するモリブデンの面積率が5.3~29.5%未満であり、
前記第1の面の表面粗さRaが1.9μm以下であることを特徴とする、組み合わせ摺動部材。
[2]前記焼成膜が、更にグラファイトを含むことを特徴とする、上記[1]に記載の組み合わせ摺動部材。
[3]前記焼成膜が、スクラッチ試験における2.7N以上の皮膜強度を有する、上記[1]又は[2]に記載の組み合わせ摺動部材。
[4]アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1摺動部品と、鋼材からなる第2摺動部品とを備えた組み合わせ摺動部材であって、
前記第1摺動部品における第1の面と摺動する前記第2摺動部品の第2の面が、有機バインダーと、硬化剤と、フッ素系潤滑剤および/またはグラファイトを含む焼成膜を有する、
組み合わせ摺動部材。
[5]前記焼成膜におけるフッ素系潤滑剤に由来するフッ素の含有量の蛍光X線分析のFP方法による測定値が、前記焼成膜における炭素及びフッ素の合計質量を基準として1.0質量%以上49質量%以下である、上記[4]に記載の組み合わせ摺動部材。
[6]前記第1の面の表面粗さRaが1.9μm以下である、上記[4]に記載の組み合わせ摺動部材。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、簡便な製造方法により、耐摩耗性、耐久性等に優れた新規の組み合わせ摺動部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例及び比較例における、摺動性能試験(耐久性能)の結果を示す図である。
図2】実施例及び比較例における、スクラッチ性と試験片の摩耗量(μm)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0009】
[1.摺動部材]
本発明の組み合わせ摺動部材は、少なくとも第1摺動部品と第2摺動部品とを含み、第1摺動部品と第2摺動部品とは、互いの面が接して摺動するように構成されている。以下、各部品について説明する。
【0010】
(1-1.第1摺動部品)
1-1a.第1摺動部品の材質
第1摺動部品は、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる。アルミニウム合金としては、アルミニウムを最も多く含む合金であれば特に制限されるものではない。アルミニウム及びアルミニウム合金の具体例として、JIS H4000:2014にて定められている以下の合金記号のものが挙げられる。
すなわち、1085,1080,1070,1060,1050,1100,1200,1N00,1N30,1230,2014,2017,2219,2024,2124,3003,3103,3203,3004,3104,3005,3105,3003,5005,5052,5110,5021,5042,5050,5052,5154,5254,5454,5754,5456,5082,5182,5083,5086,5N01,6101,6061,6082,7204,7N01,7204,7010,7050,7075,7072,7475,7178,8011,8021,8079等の合金記号で表されるものである。
また、アルミニウム及びアルミニウム合金の具体例には、JIS H5302:2006におけるJIS記号のうち、AC1B、AC1C、AC2A、AC2B、AC3A、AC4A、AC4B、AC4C、AC4CH、AC4D、AC5A、AC7A、AC8A、AC8B、AC8C、AC9A、AC9B、ADC1,ADC3,ADC5,ADC6,ADC10,ADC10Z,ADC12,ADC12Z,ADC14で表されるものが含まれる。
【0011】
なお、第1摺動部品には、アルマイト処理等の表面処理が施されていてもよいが、当該表面処理が施されていなくてもよい。
【0012】
1-1b.第1の面
第1摺動部品は、第2摺動部品と摺動する面(第1の面)を有する。第1の面においては、表面粗さが調整されている。
すなわち、第1の面における、JIS B 0601:2001に準拠した算術平均粗さRaの値は、1.9μm以下である。また、第1の面におけるRaの値は、好ましくは1.8μm以下であり、より好ましくは1.6μm以下であり、さらに好ましくは1.5μm以下であり、特に好ましくは1.4μm以下、1.3μm以下、1.2μm以下、1.1μm以下、あるいは1.0μm以下である。
【0013】
第1の面における表面粗さは小さいことが好ましいため、Ra値の下限値は特に重要ではないものの、第1の面におけるRaの値は、例えば、0.1μm以上、0.2μm以上、0.3μm以上、あるいは0.4μm以上である。
なお、算術平均粗さRaの値の測定方法については後述する。
【0014】
(1-2.第2摺動部品)
1-2a.第2摺動部品の材質
第2摺動部品は、鋼材からなる。鋼材の具体例として、JIS G4805:2008にて定められている鉄鋼基材料記号SUJ2,SUJ3,SUJ4,SUJ5,SCr420,SCR420,SCM420,SUS440,SUS403,SUS410,SUS410J1,SUS410F2,SUS416,SUS420J1,SUS420J2,SUS420F,SUS420F2,SUS431,SUS440A,SUS440B,SUS440C,SUS440F,SUS405,SUS410L,SUS430,SUS430F,SUS434,SUS447J1,SUSXM27,SUS329J1,SUS329J3L,SUS329J4L,SUS201,SUS202,SUS301,SUS302,SUS303,SUS303Se,SUS303Cu,SUS304,SUS304L,SUS304N1,SUS304N2,SUS304LN,SUS304J3,SUS305,SUS309S,SUS310S,SUS316,SUS316L,SUS316N,SUS316LN,SUS316Ti,SUS316J1,SUS316J1L,SUS316F,SUS317,SUS317L,SUS317LN,SUS317J1,SUS836L,SUS890L,SUS321,SUS347,SUSXM7,SUSXM15J1,SUS631等で表されるもの、上記JIS規格に対応するAISI等の他の規格で規定されるもの(例えば、上記SUJ2に相当するAISI4620)などが挙げられる。
また、鋼材においては、所定の熱処理、例えば、焼入れ及び焼戻し処理、浸炭又は浸炭窒化処理と焼入れ及び焼戻し処理等が施されていてもよい。
【0015】
1-2b.焼成膜
第2摺動部品においては、第1摺動部品と摺動する面(第2の面)が設けられている。第2の面においては焼成膜が形成されている。焼成膜は、上述の第1の面と接するように、第2の面に配置されている。
【0016】
本発明の好ましい第一の態様において、焼成膜は、少なくとも、有機バインダー、硬化剤及び二硫化モリブデンを含む塗工液を焼成することにより形成される。焼成膜は、以下のようにして第2の面に形成される。より具体的には、溶媒、有機バインダー、硬化剤、二硫化モリブデンを混合した塗工液を、ディッピング、スプレー等の方法で第2の摺動部品に塗布する。溶媒としては、例えば、ヘキサンやヘプタン等の脂肪族炭化水素、トルエンやキシレン等の芳香族炭化水素、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、γ‐ブチロラクトン等のエステル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド類等を用いることができる。
焼成の温度は、塗工液の成分等に応じて適宜、設定される。例えば、焼成の工程における温度は、100℃~230℃の範囲内で調整される。焼成温度は、具体的には、120~230℃の範囲内であるが、120~180℃の範囲内であることが好ましく、120~150℃の範囲内であることがより好ましい。また、焼成温度は、100~180℃の範囲内であってもよく、100~150℃、100~120℃の範囲内であってもよい。
【0017】
有機バインダーとしては、例えば、エポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、イソシアネート樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アミノ樹脂、フラン樹脂、ウレア樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エラストマー樹脂等が用いられる。なお、これらの樹脂は、1種単独で用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0018】
硬化剤としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート樹脂等が用いられる。エポキシ樹脂の種類について特に制限はないが、例えば、ビフェニル型、クレゾールノボラック型、ビスフェノールA型等のエポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等を挙げることができる。なお、エポキシ樹脂を用いる場合には、エポキシ樹脂硬化剤をさらに用いてもよい。エポキシ樹脂硬化剤としては、特に制限はなく、例えば、芳香族あるいは脂肪族ポリアミン、ポリアミノアミド、酸無水物、ポリメルカプタン類、ジシアンジアミド等を挙げることができる。尚、エポキシ樹脂硬化剤の反応性を高めるために硬化促進剤を併用することもできる。硬化促進剤としては、例えば、三級アミン、三級アミン塩、イミダゾール、ホスフィン、ホスホニウム塩、スルホニウム塩等を用いることができる。
【0019】
焼成膜に含まれるモリブデン化合物は、固体潤滑剤として機能する。焼成膜においては、モリブデン化合物等の固体潤滑剤が分散された状態で含まれている。
【0020】
焼成膜の断面に対するモリブデンの面積率(%)は、SEM-EDSにより、当該断面におけるモリブデン(Mo)粒子を特定し、断面の面積に対するモリブデンが占める総面積の割合を算出することにより求めることができる。当該面積率は、5.3~29.5%未満、例えば、5.3%以上、29.4%以下あるいは29.0%以下であり、5.5~25.0%であることが好ましく、より好ましくは6.0~20.0%であり、さらに好ましくは7.0~17.0%である。
【0021】
焼成膜においては、固体潤滑剤の他に摺動補助剤が含まれていてもよい。摺動補助剤の具体例として、アルキルカルボン酸とその誘導体、長鎖アルキルリン酸とその誘導体、長鎖アルキルアミン,アミド,イミドおよびその誘導体、ニッケル、タルク、すず、銅、酸化アンチモン、亜鉛、マイカ、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸マグネシウムカリウム,チタン酸リチウムカリウム等が挙げられる。
これらの摺動補助剤の添加により、焼成膜の耐摩耗性、耐久性等のさらなる摺動性能の向上が期待できるが、焼成膜において上述の摺動補助剤が添加されていなくてもよい。
【0022】
焼成膜には、上述の成分以外に、グラファイト(黒鉛)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の後述するフッ素系潤滑剤、二硫化タングステン等の成分のうち1または2種以上をさらに含ませてもよい。さらに、焼成膜には、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモンを含ませてもよい。ただし、酸化アンチモン等のように、人体への安全上の観点による規制の強化が検討されている添加剤については、焼成膜に含めなくてもよい。
【0023】
本発明の好ましい第二の態様において、焼成膜には、例えば上述のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に例示されるフッ素系潤滑剤が含まれる。第二の態様の焼成膜においては、固体潤滑剤としての二硫化モリブデンが含まれていなくてもよい。また、フッ素系潤滑剤としては、フッ素を含む潤滑剤であれば特に限定なしに用いられ得るものの、好ましい具体例として、PTFEの他にも、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、フルオロシリコーン、テトラフルオロエチレン(TFE)、TFE/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体(FEP)、エチレン(Et)/TFE/HFP共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)/TFE共重合体、Et/CTFE共重合体及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。
【0024】
第二の態様の焼成膜においては、フッ素系潤滑剤に由来するフッ素の含有量が、炭素とフッ素の合計質量を基準とし、後述のXRF測定により得られる値として、1.0質量%以上49質量%以下のフッ素系潤滑剤が含まれることが好ましい。XRF測定に基づくフッ素系潤滑剤の含有量は、好ましくは、焼成膜における炭素とフッ素の合計質量に対して1.5質量%以上45質量%以下あるいは2.0質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは3.0質量%以上20質量%以下であり、さらに好ましくは5.0質量%以上10質量%以下である。
また、第二の態様の焼成膜にて、有機バインダー、硬化剤及びフッ素系潤滑剤の合計質量が焼成膜の全体の質量に占める割合は、45質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
【0025】
固体潤滑剤として、同一の焼成膜において、フッ素系潤滑剤及びグラファイトのいずれもが含まれていてもよく、いずれか一方のみが含まれていてもよい。
第二の態様の焼成膜にて、有機バインダー、硬化剤、フッ素系潤滑剤及びグラファイトの合計質量が焼成膜の全体の質量に占める割合は、45質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
また、固体潤滑剤として、上述の二硫化タングステンが焼成膜に含まれていてもよい。
【0026】
第一及び第二の態様における焼成膜の厚さは、摺動部材の用途等によって適宜、調整されるが、例えば3μm以上200μmである。焼成膜の厚さは、好ましくは、5μm以上であり、より好ましくは、7μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上である。また、焼成膜の厚さは、好ましくは、150μm以下であり、より好ましくは、100μm以下であり、さらに好ましくは30μm以下である。
焼成膜の厚さは、例えば7μm以上あるいは10μm以上であってもよい。また、焼成膜の厚さは、10μm以上あるいは30μm以上であることが好ましい。
【0027】
第一及び第二の態様の焼成膜は、詳細を後述するスクラッチ試験において、2.7N以上、あるいは3.0N以上、好ましくは3.1N以上の皮膜強度を有することが好ましい。
焼成膜は、詳細を後述する摺動性能試験(基本性能)において、摩耗深さが、10.0μm以下であることが好ましく、7.5μm以下であることがより好ましく、5.0μm以下であることがさらに好ましい。
また、焼成膜は、詳細を後述する摺動性能試験(耐久性能)において、摩耗深さが、25.0μm以下であることが好ましく、15.0μm以下であることがより好ましく、10.0μm以下であることがさらに好ましく、5.0μm以下であることが特に好ましい。
【0028】
第二の態様の焼成膜の製造方法としては、第一の態様と成分の異なる塗工液を用いる他、第一の態様についての上述の製法が適用できる。
【0029】
[2.摺動部品の製造方法]
第1及び第2摺動部品は、いずれも、公知の方法に基づいて製造可能である。
第1摺動部品においては、第1の面の表面粗さRaが上述の範囲内であればよく、例えば、旋削加工、旋盤加工等の公知の方法によって調整することができる。なお、第1の面の表面粗さRaは、後述する方法で測定することができる。
また、第2摺動部品においては、必要に応じて下地処理を施した後、例えば上述の手法により、焼成膜を形成してもよい。
下地処理の具体例として、りん酸塩を用いた処理が挙げられる。りん酸塩を用いた処理によって、第2摺動部品の表面にりん酸塩皮膜を形成させて第2摺動部品と焼成膜との密着性を向上させることができる。りん酸塩としては、例えば、りん酸マンガン、りん酸鉄、りん酸亜鉛、りん酸亜鉛カルシウム等を用いることができるが、りん酸マンガンを用いることが好ましい。また、下地処理の前に、エッチング加工、ブラスト加工等の方法により、第2摺動部品の表面を粗化させてもよい。
このようにして第1及び第2の摺動部品を製造した後、それらの摺動面、すなわち第1の面と第2の面とが互いに接するように配置することにより、組み合わせ摺動部材を得ることができる。
【0030】
[3.組み合わせ摺動部材の用途]
上述の組み合わせ摺動部材は様々な用途で用いられ、幅広く活用することができる。
例えば、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第1の摺動部品/鋼材からなる第2の摺動部品が用いられ得る摺動部材としては、例えば、バルブ/バルブボディ、ロッカーアーム/ロッカーシャフト、ピストン/ピストンリング、ピストン/ピストンピン、ハウジング/軸受材(例えば、転がり軸受、すべり軸受等)等の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例0031】
以下、実施例について説明するが、本発明は、各実施例に限定されるものではない。
【0032】
<含二硫化モリブデン焼成膜の摺動部材>
[摺動部材の準備]
N-メチル-2-ピロリドンを含む溶媒に、有機バインダーとしてのポリアミドイミドと、硬化剤としてのエポキシ樹脂とを所定割合で混合し、混合液を調製した。この混合液と二硫化モリブデン(MoS)との配合割合を適宜調整し、実施例1~3及び比較例2の組み合わせ摺動部材における鋼材に使用する各種塗工液を調製した。また、上記混合液に、二硫化モリブデン(MoS)とグラファイトとの配合割合を変えてそれらを混合することにより、実施例4~8並びに比較例3、4及び6の組み合わせ摺動部材における鋼材で使用する各種塗工液も調製した。さらに、上記混合液にグラファイトを所定量配合することにより、比較例5の組み合わせ摺動部材における鋼材で使用する塗工液を調製した。
【0033】
鋼材としては、リング状のAISI 4620からなるリング状鋼材(第2の摺動部品;表面硬度がHRC60;ヌープ硬度(HK)=744.8;外径φ=35mm)を使用した。この鋼材の外周面上に、りん酸マンガンの化成被膜を形成した後、化成被膜の上に上述の各種塗工液を塗布した。続いて、塗布した鋼材を120℃で焼成させて焼成膜を形成し、各種焼成膜を有するリング状鋼材(実施例1~8及び比較例2~6で用いるリング状鋼材)を得た。各種焼成膜の膜厚は15μmであった。また、比較例1で用いるリング状鋼材として、化成被膜も焼成膜も形成していない、AISI 4620からなるリング状鋼材を準備した。
【0034】
また、各種リング状鋼材の外周面と摺動させるアルミ合金ADC12のブロック材(第1の摺動部品;ヌープ硬度(HK)=123.9)として、リング状鋼材の外周面と接するブロック材の表面粗さRaが0.4μm、0.8μm、1.2μm、1.6μm又は2.0μmであるものを用意した。なお、ブロック材の摺動面の表面粗さRaは、以下の条件で測定した。
測定器:株式会社 東京精密製 サーフコム1400G-12
スタイラス:円すい形60℃かつ先端径2μm
規格;JIS B 0601:2001
測定種別;粗さ測定
評価長さ:4.000mm
基準長さ:0.8mm
λsフィルタ:あり
λsカットオフ波長:2.5μm
カットオフ種別:ガウシアン
カットオフ波長(λc):0.8mm
形状除去:最小二乗直線
【0035】
[実施例1~8及び比較例1~6の組み合わせ摺動部材]
表1に示す各種摺動部材を組み合わせ、各種リング状鋼材の外周面とアルミ合金ADC12のブロック材の一部の表面を摺動させるように配置させ、以下の評価を行った。
【0036】
なお、各種焼成膜を有するリング状鋼材に対して、SEM-EDSを用いて、リング状鋼材に形成した各種焼成膜の断面におけるモリブデン粒子を解析し、断面積に対するモリブデン粒子の面積割合(Mo面積率:%)を計測した。
すなわち、モリブデンの面積率値は、焼成膜のいくつかの断面を拡大観察し、SEM-EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)の粒子解析ソフトを用いて、以下の条件にて算出した。
モリブデン面積率:SEM-EDSの測定条件
測定機:日本電子株式会社製 JSM-IT500HR/LA
SEM-EDS(エネルギー分散形X線分析装置)
粒子解析ソフト:粒子解析ソフトウェア 3(日本電子製)
倍率:5000倍
加速電圧:15kV
抽出手順:上記条件にて拡大観察したSEM像から、予め設定したモリブデン粒子の抽出条件により二値化操作を行い、断面ごとの面積率を算出し、平均値(n=3)を求めた(表1参照)。
モリブデン粒子抽出条件
・元素:Mo及びS
・1μm以上の粒子
・補正:ZAF
・換算:金属
【0037】
【表1】
【0038】
[i:摺動性能(基本性能)]
実施例4、比較例1、2及び5の組み合わせ摺動部材に対し、以下の試験条件により摺動性能(基本性能)試験を実施した。試験結果を表2に示す。なお、試験結果において、摩耗深さの値が10(μm)よりも小さい場合、試験結果を良好と評価し、摩耗深さの値が10(μm)以上である場合、試験結果を不良と評価した。
なお、基本性能における摩耗深さは、後述する[ii:摩耗量(LFW-1試験後の摩耗深さ測定)]の欄の手法に準じて測定した。
(試験条件)
試験装置:ファレックス社製 ブロックオンリング試験機(LFW-1)
試験条件:雰囲気:ATフルードDW-1(オートマティック・トランスミッションフルード)
荷重 :65lbs
回転数:55rpm
試験時間:30分
【表2】
【0039】
本試験結果から、焼成膜を有していない鋼材を用いた比較例1では、アルミ摩耗が進行したのに対して、焼成膜を有する鋼材を用いた実施例4並びに比較例2及び5においては、アルミ摩耗の抑制効果が認められた。
【0040】
[ii:摺動性能(耐久性能)]
実施例1~5及び比較例2~5の組み合わせ摺動部材に対し、以下の試験条件を変更する以外は摺動性能(基本性能)試験と同様に、摺動性能(耐久性能)試験を実施した。試験結果を表3及び図1に示す。試験結果において、摩耗深さの値が15(μm)以下の場合、試験結果を良好と評価し、摩耗深さの値が15(μm)より大きく140(μm)未満の試験結果をやや不良と評価し、摩耗深さの値が140(μm)以上である場合、試験結果を不良と評価した。
なお、耐久性能の試験結果における摩耗深さは、後述する[ii:摩耗量(LFW-1試験後の摩耗深さ測定)]の欄の手法に準じて測定した。
(試験条件)
荷重 :100lbs
回転数:55rpm
試験時間:24時間
【表3】
【0041】
(iii:スクラッチ性)
以下の測定条件にて、実施例3~5、11、比較例4及び5の摺動部材について、焼成膜における塗膜強度を評価するためのスクラッチ試験を行った。
試験装置:Nanovea Micro Scratch Tester
測定条件:Approach Speed:0.2mm/min
:Contact Load:300mN
:初期荷重:0.3N
:最終荷重:5.0N
:スクラッチ長さ=5mm
:スクラッチ速さ=5mm/sec
:圧子:Rockwell 200μm
この試験の結果を表4及び図2に示す。
【表4】
【0042】
固体潤滑皮膜の耐久性は、一般的に皮膜強度に起因するものと考えられるため、耐久性の評価のために皮膜強度をスクラッチ試験にて測定した。この結果、実施例3~5及び11において、皮膜強度であるスクラッチ性が3.0N以上であり、アルミ摩耗量が抑えられたという結果が示され、優れた皮膜強度、耐久性を示すことが確認された。一方、スクラッチ性が2.6N程度以下である比較例4及び5では、アルミ摩耗量が実施例に比べて大幅に大きい結果が認められた。
なお、図2に示されるように、スクラッチ性とアルミ摩耗量との間には相関関係が認められ、スクラッチ性の値が2.6N以下の場合、アルミ摩耗量が非常に大きかったのに対し、スクラッチ性の値が2.7N以上であればアルミ摩耗量の抑制が可能と考えられる。
【0043】
(iv:摺動性能(表面粗さによる影響)LFW-1試験)
以下の測定条件にて、実施例4、6~8、及び比較例6の摺動部材について、耐摩耗性の評価するためのブロックオンリング試験を行った。
試験装置:ファレックス社製 ブロックオンリング試験機(LFW-1)
試験片 :リング(材質:AISI 4620;表面硬度:HRC60;外径φ=35mm)
:ブロック(材質:ADC12;粗さ:Ra=0.4μm,0.8μm,1.0μm,1.6μm及び2.0μm)
試験条件:雰囲気:ATフルードDW-1
荷重 :100lbs
回転数:55rpm
試験時間:24時間
この試験の結果を下記表5に示す。
【表5】
【0044】
本試験結果から、優れた摺動性能(耐久性能)を得るために、鋼材に形成させる焼成膜において、モリブデンの面積率が所定の範囲となるように調整させることの有用性が確認された。
また、ブロック材の摺動面の表面粗さRaが2.0μmの場合(比較例6)、アルミ摩耗量が著しく増加していたが、Raの値が2.0μmよりも低い場合、特に、Raの値が1.6μm以下である場合(実施例4及び6~8)には、アルミ摩耗の抑制効果が特に優れていることが確認できた。
【0045】
<含フッ素系潤滑剤の摺動部材>
[摺動部材の準備]
N-メチル-2-ピロリドンを含む溶媒に、有機バインダーとしてのポリイミドアミド及び硬化剤としてのエポキシ樹脂を所定割合で混合し、混合液を調製した。この混合液とフッ素系潤滑剤(PTFE)との配合割合を適宜調整し、実施例9~12、比較例7、参考例1及び2の組み合わせ摺動部材における鋼材に使用する各種塗工液を調製した。
【0046】
実施例9~12、比較例7、参考例1及び2のリング状鋼材としては、含二硫化モリブデン焼成膜の摺動部材についての実施例1と同様のものを用いた。
また、各種リング状鋼材の外周面と摺動させるアルミ合金ADC12のブロック材(第1の摺動部品;ヌープ硬度(HK)=123.9)として、リング状鋼材の外周面と接するブロック材の表面粗さRaが0.4μm、1.6μm又は2.0μmであるものを用意した。なお、ブロック材の摺動面の表面粗さRaは、含二硫化モリブデン焼成膜の摺動部材についての実施例1と同じ条件で測定した。
【0047】
[実施例9~12、比較例7及び参考例の組み合わせ摺動部材]
上述の塗工液を用いて、実施例1と同様の手法により、表6に示す組成を有する焼成膜をリング状鋼材の摺動面上に形成した。そして各種摺動部材を組み合わせ、各種リング状鋼材の外周面とアルミ合金ADC12のブロック材の一部の表面を摺動させるように配置させ、以下の評価を行った。
【0048】
なお、各種焼成膜を有するリング状鋼材に対して、XRF測定の手法を用い、焼成膜における炭素量及びフッ素量(いずれも質量%)を計測した。
すなわち、蛍光X線分析(XRF)により焼成膜の試料中の炭素およびフッ素のX線強度を検出し、FP法を用いて検出したX線強度から炭素およびフッ素の全質量におけるそれぞれの含有率を質量百分率で算出した。炭素及びフッ素の焼成膜における含有率の測定条件及び測定結果は、以下の通りである。
XRF(蛍光X線分析)装置:株式会社 リガク社 製ZSX primusIV
定量分析方法:ファンダメンタル・パラメーター(FP法)
雰囲気:真空
X線管
ターゲット材料:Rh
測定径:30 mm(直径)
管電圧:30 kV
管電流:100 mA
測定の対象元素:炭素、フッ素 測定項目(炭素;フッ素の順)
波高分析範囲(PHA)
下限値 :80;100
上限値 :350;250
ピーク角度 :33.530 deg;75.730 deg
測定開始角度:24.530 deg;71.500 deg
測定終了角度:42.530 deg;78.500 deg
測定速度 :1.5 deg/min;1.0 deg/min
【0049】
【表6】
【0050】
[i:摺動性能(耐久性能)]
実施例1~8及び比較例2~6の組み合わせ摺動部材と同じ条件下で、LFW-1試験(摺動性能(耐久性能))を実施した。
【0051】
[ii:摩耗量(LFW-1試験後の摩耗深さ測定)]
上述のLFW-1試験(摺動性能(耐久性能))の結果として、試験片であるアルミブロックの摩耗量を以下の条件で測定した。
試験機 : 株式会社 東京精密 製 サーフコム(SURFCOM)1400G
算出規格 : JIS- B 0601-2001規格
測定条件 : 測定種別 断面測定
測定速度 0.3mm/s
測定長さ 10.0mm
スタイラス形状 φ1.6 ルビー
形状除去 最小二乗直線
【0052】
摺動性能(摩耗量)の測定結果等を表7に示す。表7では、LFW-1試験における摩耗量の摩耗量(摩耗深さ)が15μm以下の場合、試験結果を良好と評価し、摩耗深さの値が15(μm)より大きく140(μm)未満の試験結果をやや不良と評価し、摩耗深さの値が140(μm)以上である場合、試験結果を不良と評価した。
【表7】
【0053】
上記試験結果から、フッ素系潤滑剤などを含む焼成膜を表面に設けた鋼材において、優れた耐摩耗性、摺動性能(耐久性能)が実現されることが確認された。
また、焼成膜におけるフッ素の含有量、ブロック材の摺動面の表面粗さをそれぞれ所定の範囲に調整すると、上述の効果がさらに向上することも確認できた。
図1
図2