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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049811
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】鼻洗浄組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/32 20060101AFI20230403BHJP
   C11D 7/16 20060101ALI20230403BHJP
   C11D 7/10 20060101ALI20230403BHJP
   C11D 7/12 20060101ALI20230403BHJP
   C11D 7/22 20060101ALI20230403BHJP
   C11D 3/48 20060101ALI20230403BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20230403BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20230403BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230403BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230403BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230403BHJP
   A61K 31/4166 20060101ALI20230403BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20230403BHJP
   A61K 31/195 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
A61K47/32
C11D7/16
C11D7/10
C11D7/12
C11D7/22
C11D3/48
C11D7/26
A61P11/02
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/10
A61K31/4166
A61K31/19
A61K31/195
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159787
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】服部 莉奈
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊輔
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
4H003
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB25
4C076CC04
4C076CC10
4C076DD23
4C076DD24
4C076DD25
4C076DD26
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD51
4C076DD60
4C076DD70
4C076EE13
4C076EE48
4C076FF11
4C076FF57
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA59
4C086NA05
4C086NA20
4C086ZA34
4C086ZB11
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA14
4C206FA01
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA37
4C206MA79
4C206NA05
4C206NA20
4C206ZA34
4C206ZB11
4H003BA12
4H003DA02
4H003EA08
4H003EA12
4H003EA16
4H003EA19
4H003EB04
4H003EB05
4H003EB28
4H003ED02
4H003FA04
4H003FA21
4H003FA34
(57)【要約】
【課題】鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性及び液切れ性に優れる鼻洗浄組成物を提供すること。
【解決手段】(a)ナトリウム、及びカリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属の、塩化物塩、硫酸塩、リン酸塩、もしくは炭酸塩を0.01~5.0w/v%、(b)重量平均分子量が50,000~1,000,000であり、式(1)で表される2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン70~90モル%とブチルメタクリレート30~10モル%の共重合体を0.0001~5.0w/v%、(c)アラントイン、トラネキサム酸、グリチルリチン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の抗炎症剤を0.0001~0.1w/v%、(d)炭素数2~4、かつ2~4価の多価アルコールの少なくとも1種を0.01~5.0w/v%を含有する鼻洗浄組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ナトリウム、及びカリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属の、塩化物塩、硫酸塩、リン酸塩、もしくは炭酸塩を0.01~5.0w/v%、
(b)重量平均分子量が50,000~1,000,000であり、式(1)で表される2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン70~90モル%とブチルメタクリレート30~10モル%の共重合体を0.0001~5.0w/v%、
(c)アラントイン、トラネキサム酸、グリチルリチン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の抗炎症剤を0.0001~0.1w/v%、
(d)炭素数2~4、かつ2~4価の多価アルコールの少なくとも1種を0.01~5.0w/v%を含有する鼻洗浄組成物。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鼻腔内の微粒子洗浄効果、保湿性、及び使用感に優れる鼻洗浄組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、新型コロナウイルスを代表とする感染症の拡大が社会問題化している。一般に、ウイルス等の病原体は粘膜等を介して人間の体内に侵入し、感染する。特に、呼吸により外気にさらされる鼻腔粘膜は、主な感染経路の一つとなっている。また、花粉等のアレルゲンが鼻腔粘膜に付着し、最終的に肥満細胞からケミカルメディエーターが放出されることによりアレルギー性鼻炎の症状が生じる。感染症及びアレルギー疾患の予防、あるいは症状緩和を目的とし、鼻腔用の洗浄液(以下、鼻洗浄液)を用いて鼻腔粘膜に付着した微粒子を洗浄等で取り除く方法が従来から適応されてきた。例えば、ワセリンと2種以上の非イオン界面活性剤を配合することでより簡便かつ効率的に花粉等を除去できる組成物(特許文献1)が開示されている。
【0003】
特許文献1のように、効果的にウイルスや花粉等を除去するために界面活性剤がよく用いられるが、界面活性剤で洗浄することで粘膜上の保湿成分が洗い流され、鼻腔粘膜の乾燥が誘発される可能性がある。鼻腔粘膜が乾燥すると粘液線毛輸送機能が低下する(非特許文献1)ため、ウイルスや花粉等の微粒子が鼻腔外へ排除されずに体内へ侵入してしまう可能性がある。また、鼻腔粘膜が乾燥すると鼻腔粘膜のバリア機能低下が生じる場合がある(非特許文献2)。さらに、鼻腔粘膜のバリア機能低下により基底細胞層が露出すると、鼻腔粘膜細胞自体にウイルスが感染(非特許文献3)し、種々の感染症を引き起こす可能性がある。したがって、ウイルスや花粉等の微粒子の体内侵入を防止し、感染やアレルギー疾患を予防するためには、鼻腔粘膜が保湿されていることが重要である。
また、特に鼻洗浄液においては、組成によっては使用後に鼻腔内に液が残存することがあり、その場合、効率的に鼻腔内の微粒子を洗い出すことができない。さらに、鼻腔内に液が残存すること、あるいは一定時間経過後に鼻から液が垂れてくることは、使用者に不快感を与え得る。したがって、鼻洗浄液は優れた液切れ性を有し、使用後に液が残存しないことが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-172532号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Quinlan MF, Salman SD, Swift DL, et al. Measurement of mucociliary function in man. Am Rev Respir Dis 1969; 99: 13-23.
【非特許文献2】三輪 正人、3.鼻腔粘膜上皮バリア機能と免疫・アレルギー、アレルギー、67(6), 725-733, 2018.
【非特許文献3】Yicen Yan, Hui Chen, Liuqing Chen, et al. Consensus of Chinese experts on protection of skin and mucous membrane barrier for health-care workers fighting against coronavirus disease 2019. Dermatologic Therapy 2020; 33: e13310.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、洗浄力に加え保湿性を有していることでウイルスや花粉等の微粒子の体内侵入を防止し、使用後に液が残存しないことで効率的に洗浄でき使用感に優れる、鼻洗浄組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、(a)ナトリウム、及びカリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属の、塩化物塩、硫酸塩、リン酸塩、もしくは炭酸塩、(b)重量平均分子量が50,000~1,000,000であり、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン70~90モル%とブチルメタクリレート30~10モル%の共重合体、(c)アラントイン、トラネキサム酸、グリチルリチン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の抗炎症剤、(d)炭素数2~4、かつ2~4価の多価アルコールの少なくとも1種をそれぞれ特定量含有する鼻洗浄組成物を用いることで、上記の課題を解決できるとの知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(a)ナトリウム、及びカリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属の、塩化物塩、硫酸塩、リン酸塩、もしくは炭酸塩を0.01~5.0w/v%、(b)重量平均分子量が50,000~1,000,000であり、式(1)で表される2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン70~90モル%とブチルメタクリレート30~10モル%の共重合体を0.0001~5.0w/v%、(c)アラントイン、トラネキサム酸、グリチルリチン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の抗炎症剤を0.0001~0.1w/v%、(d)炭素数2~4、かつ2~4価の多価アルコールの少なくとも1種を0.01~5.0w/v%を含有する鼻洗浄組成物。
【化1】
【発明の効果】
【0008】
本発明の鼻洗浄組成物は、洗浄力に加え保湿性を有していることでウイルスや花粉等の微粒子の体内侵入を防止し、使用後に液が残存しないことで効率的に洗浄でき使用感に優れるため、効率的な鼻腔内洗浄に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
なお、本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量など)を段階的に記載した場合、各下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~100、より好ましくは20~90」という記載において、「好ましい下限値:10」と「より好ましい上限値:90」とを組み合わせて、「10~90」とすることができる。
【0010】
本発明の鼻洗浄組成物は、(a)ナトリウム、及びカリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属の、塩化物塩、硫酸塩、リン酸塩、もしくは炭酸塩を0.01~5.0w/v%、(b)重量平均分子量が50,000~1,000,000であり、式(1)で表される2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン70~90モル%とブチルメタクリレート30~10モル%の共重合体を0.0001~5.0w/v%、(c)アラントイン、トラネキサム酸、グリチルリチン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の抗炎症剤を0.0001~0.1w/v%、(d)炭素数2~4、かつ2~4価の多価アルコールの少なくとも1種を0.01~5.0w/v%を含有する。
【0011】
<(a)無機塩類>
本発明の鼻洗浄組成物は、以下に説明する(a)無機塩類を少なくとも1種含有する。
本発明の鼻洗浄組成物に含まれる(a)成分は、ナトリウム、及びカリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属の、塩化物塩、硫酸塩、リン酸塩、もしくは炭酸塩である。
(a)成分としては、具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1種である。(a)成分の中でも、鼻洗浄組成物の鼻腔内微粒子洗浄効果を向上させる観点から、塩化ナトリウムもしくは塩化カリウムが好ましく、中でも塩化ナトリウムを用いることが特に好ましい。(a)成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の鼻洗浄組成物における(a)成分の含有量は、0.01~5.0w/v%である。(a)成分の含有量が0.01w/v%未満の場合は、効果的に鼻腔内の微粒子を洗浄することができない可能性がある。また、5.0w/v%より多い場合は、高張液となり使用感の観点から好ましくない。
本発明の(a)成分の含有量は、0.01~5.0w/v%であり、鼻腔内微粒子洗浄効果の観点から、好ましくは0.5~1.5w/v%であり、更に好ましくは、0.7~1.0w/v%である。なお、(a)成分の含有量は、(a)成分を2種以上併用する場合は、その合計量を意味することとする。
【0012】
<(b)2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとブチルメタクリレートの共重合体>
本発明の鼻洗浄組成物に含まれる(b)成分は、重量平均分子量が50,000~1,000,000の共重合体あり、式(1)で示される2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン70~90モル%とブチルメタクリレート30~10モル%の共重合体である。ブチルメタクリレートは、以下の式(2)で示される化合物である。
【化2】

【化3】
【0013】
本発明の(b)成分の重量平均分子量は50,000~1,000,000である。重量平均分子量が50,000未満の場合は、効果的に鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性、及び液切れ性を発揮することができない可能性がある。また、重量平均分子量が1,000,000より多い場合は、鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性、及び液切れ性の3つの効果のバランスが崩れる可能性があり、好ましくない。
本発明の(b)成分の重量平均分子量は、50,000~1,000,000であり、鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性、及び液切れ性の3つの効果をバランスよく向上させる観点から、好ましくは100,000~1,000,000であり、より好ましくは300,000~1,000,000、更に好ましくは400,000~1,000,000である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリエチレングリコール(PEG)換算で求めることができる。
【0014】
(b)成分における2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの含有量は70~90モル%である。2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの含有量が70モル%未満の場合、あるいは90モル%超の場合は、効果的に鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性、及び液切れ性を発揮することができない可能性がある。
(b)成分における2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの含有量は70~90モル%であり、鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性、及び液切れ性の3つの効果をバランス良く向上させる観点から、好ましくは75~85モル%である。なお(b)成分における2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの含有量とは、詳細には共重合体である(b)成分における2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに由来する構成単位の量(モル%)を意味する。
【0015】
(b)成分におけるブチルメタクリレートの含有量は30~10モル%である。ブチルメタクリレートの含有量が30モル%超の場合、あるいは10モル%未満の場合は、効果的に鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性、及び液切れ性を発揮することができない可能性がある。
(b)成分におけるブチルメタクリレートの含有量は30~10モル%であり、鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性、及び液切れ性の3つの効果をバランス良く向上させる観点から、好ましくは25~15モル%である。なお(b)成分におけるブチルメタクリレートの含有量とは、詳細には共重合体である(b)成分におけるブチルメタクリレートに由来する構成単位の量(モル%)を意味する。
なお(b)成分は1種のみを用いてもよいし、重量平均分子量や各モノマーの含有量が異なる2種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明の鼻洗浄組成物における(b)成分の含有量は、0.0001~5.0w/v%である。(b)成分の含有量が0.0001w/v%未満の場合は、効果的に鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性、及び液切れ性を発揮することができない可能性がある。また、5.0w/v%より多い場合は、鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性、及び液切れ性の3つの効果のバランスが崩れる可能性があり、好ましくない。
本発明の(b)成分の含有量は、0.0001~5.0w/v%であり、鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性、及び液切れ性の3つの効果をバランス良く向上させる観点から、好ましくは0.001~4.0w/v%であり、更に好ましくは0.005~3.0w/v%である。なお、(b)成分の含有量は、(b)成分を2種以上併用する場合は、その合計量を意味することとする。
【0017】
<(c)抗炎症剤>
本発明の鼻洗浄組成物は、(c)少なくとも1種の抗炎症剤を含有する。
本発明の鼻洗浄組成物に含まれる(c)成分は、アラントイン、トラネキサム酸、グリチルリチン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種である。その塩とは、グリチルリチン酸の塩であり、例えば、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウムなどが挙げられる。(c)成分としては、上記した中でも、アラントイン、トラネキサム酸、及びグリチルリチン酸ジカリウムからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
(c)成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性、及び液切れ性の3つの効果をバランス良く向上させる観点から2種以上を併用することが好ましい。
本発明の(c)成分の含有量は、0.0001~0.1w/v%である。(c)成分の含有量が0.0001w/v%未満の場合は、使用感における液の残存感を低減させることができない可能性がある。また、0.1w/v%より多い場合は、使用感における液の残存感の低減が頭打ちとなり、費用対効果の観点から好ましくない。
本発明の(c)成分の含有量は、0.0001~0.1w/v%であり、使用感における液の残存感を低減させる観点から、好ましくは0.001~0.07w/v%であり、更に好ましくは、0.005~0.05w/v%である。なお、(c)成分の含有量は、(c)成分を2種以上併用する場合は、その合計量を意味することとする。
【0018】
<(d)多価アルコール>
本発明の鼻洗浄組成物は、以下に説明する(d)少なくとも1種の多価アルコールを含有する。
本発明の鼻洗浄組成物に含まれる(d)成分は、炭素数2~4、かつ2~4価の多価アルコールの少なくとも1種を含有する。なお、これら炭素数2~4、かつ2~4価の多価アルコールはD体、L体、DL体のいずれであってもよい。
(d)成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン等が挙げられ、中でもプロピレングリコール、グリセリンが好ましい。(d)成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の(d)成分の含有量は、0.01~5.0w/v%である。(d)成分の含有量が0.01w/v%未満の場合は、使用感におけるしっとり感を向上させることができない可能性がある。また、5.0w/v%より多い場合は、使用感におけるしっとり感の向上が頭打ちとなり、費用対効果の観点から好ましくない。
本発明の(d)成分の含有量は、0.01~5.0w/v%であり、使用感におけるしっとり感を向上させる観点から、好ましくは0.05~3.0w/v%であり、更に好ましくは、0.1~1.0w/v%である。なお、(d)成分の含有量は、(d)成分を2種以上併用する場合は、その合計量を意味することとする。
【0019】
<水>
本発明の鼻洗浄組成物において、上記した(a)~(d)成分、及び後述する必要に応じて配合されるその他の成分以外の残部は水である。水としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、精製水などを使用することができる。水の含有量は、鼻洗浄組成物において、好ましくは80質量%~99.5質量%であり、より好ましくは90~99質量%である。
【0020】
本発明の鼻洗浄組成物は、本発明の効果を阻害しない限り、上記説明した成分以外に、必要に応じて一般に鼻洗浄組成物に使用できる保湿剤、エモリエント剤、殺菌剤、pH調整剤、及び香料等のその他の成分を含有してもよい。
【0021】
保湿剤としては、例えば、乳酸ナトリウム、ヒアルロン酸及びその塩、ソルビトール、ピロリドンカルボン酸及びその塩、N-ココイル-L-アルギニンエチルエステルDL-ピロリドンカルボン酸塩、ならびに尿素等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。
【0022】
エモリエント剤としては、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソプロピル、オレイン酸イソブチル、およびマレイン酸イソブチル等の脂肪酸エステル等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。
【0023】
殺菌剤としては、例えば、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩、パラオキシ安息香酸エチル、フェノキシエタノール等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。
【0024】
pH調製剤としては、例えば、塩酸、グルコン酸、第一級アミン、第二級アミン、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウム等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。
【0025】
鼻洗浄組成物の使用方法は特に限定されないが、例えば、適当なボトルに充填し、吐出して使用することができる。このようにして鼻洗浄組成物を使用することにより、鼻腔内の微粒子を洗浄し、保湿性及び液切れ性を付与することができる。
上記説明した鼻洗浄組成物は、上記例示した使用方法で使用することにより、鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性、及び液切れ性を発揮することができる。
【実施例0026】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、実施例及び比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
【0027】
[鼻洗浄組成物の各成分]
<成分(a)>
塩化ナトリウム(日医工株式会社製)
塩化カリウム(日医工株式会社製)
【0028】
<成分(b)>
ポリマーC:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・ブチルメタクリレート共重合体[共重合体比(モル比)80/20、重量平均分子量:600,000]である。
ポリマーD:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・ブチルメタクリレート共重合体[共重合体比(モル比)80/20、重量平均分子量:100,000]である。
【0029】
<成分(b)以外の重合体>
ポリマーE:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・ブチルメタクリレート共重合体[共重合体比(モル比)30/70、重量平均分子量:200,000]である。
ポリマーF:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの重合体[重量平均分子量:200,000]である。
ポリマーG:ブチルメタクリレートの重合体[重量平均分子量:180,000]である。
【0030】
<成分(c)>
アラントイン(株式会社パーマケム・アジア製)
トラネキサム酸(日本精化株式会社製)
グリチルリチン酸ジカリウム(丸善製薬株式会社製)
【0031】
<成分(d)>
濃グリセリン(日油株式会社製)
プロピレングリコール(丸石製薬株式会社製)
【0032】
(重量平均分子量の測定)
上記したポリマーC~Gの重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件により測定した。
GPCシステム:EcoSECシステム(東ソー株式会社製)
カラム:Shodex OHpak SB-802.5HQ(昭和電工株式会社製)、およびSB-806HQ(昭和電工株式会社製)を直列に接続
展開溶媒:20mMりん酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)
検出器:示差屈折率検出器
分子量標準:EasiVial PEG/PEO(Agilent Technologies社製)
流速:0.5mL/分
カラム温度:40℃
サンプル:得られたポリマーC~Gを終濃度0.1重量%になるように展開溶媒で希釈
注入量:100μL
【0033】
(実施例1)
精製水に塩化ナトリウム(成分(a))、ポリマーC(成分(b))、アラントイン(成分(c))、及び濃グリセリン(成分(d))を加え、本発明の鼻洗浄組成物を得た。なお各成分の配合量は、表1にまとめた。なお、表に示す各成分の数値の単位「g/100mL」は、「w/v%」と等価である。
【0034】
(実施例2~16、比較例1~6)
各成分の配合を表1のとおりに変更した以外は実施例1と同様に鼻洗浄組成物を得た。なお各成分の配合量は、表1にまとめた。
【0035】
実施例1~実施例16、及び比較例1~比較例6について、以下の通り鼻腔内微粒子洗浄効果の評価、保湿性評価、液切れ性評価、及び使用感評価を行った。その結果を下記表1に示す。
各評価は以下のように実施した。
【0036】
1.鼻腔内微粒子洗浄効果の評価
<鼻腔内微粒子洗浄効果の試験方法>
鼻腔内微粒子洗浄効果の試験方法は、特開2020-172532号公報記載の花粉洗浄試験を参考に以下のように規定し、評価した。
(1)24ウェルプレート(コラーゲンコート処理)にヒト鼻腔上皮細胞(HNEpC)(PromoCell社製)を播種し、37℃、5%COの条件下でセミコンフルエントになるまで培養した。培養培地はAirway Epithelial Cell Growth Medium SupplementMix(PromoCell社製)を用いた。
(2)各ウェルから培養培地を吸引除去し、日本スギ花粉(ビオスタ製)を2.0mg/mLとなるよう懸濁させた培養培地1.5mLを各ウェルに添加した。その後、37℃、5%COの条件下で3時間インキュベートし、花粉を細胞に吸着させた。
(3)各ウェルから上清を吸引除去し、表1に示す組成にて作製した各鼻洗浄組成物をそれぞれ1.5mLずつウェルに添加し、1分間振盪した。
(4)各鼻洗浄組成物を除去した後、顕微鏡を用いて細胞に吸着した花粉を計測した。
【0037】
<鼻腔内微粒子洗浄効果の評価方法>
鼻腔内微粒子洗浄効果については、以下の式により花粉吸着量減少率(%)を計算し、その結果に基づいて、以下の基準で評価した。なお表1には鼻腔内微粒子洗浄効果として、花粉吸着量減少率(%)を記載している。
(花粉吸着量減少率)={1-((各実施例もしくは各比較例の花粉吸着量)/(比較例1の花粉吸着量))}×100
花粉吸着量減少率について、下記のように判断した。
70%以上 :鼻腔内微粒子洗浄効果が極めて優れている
50%以上70%未満 :鼻腔内微粒子洗浄効果が優れている
30%以上50%未満 :鼻腔内微粒子洗浄効果を有している
30%未満 :鼻腔内微粒子洗浄効果を有していない
【0038】
2.保湿性評価
<保湿性の試験方法>
鼻腔内における保湿性と皮膚における保湿性を相関のあるものとして、試験方法を以下の通り規定し、評価した。
前腕内側の任意の箇所において角層水分量を測定し、この時の測定値を初期値とする。一辺1.5cmに切ったろ紙に作製した各鼻洗浄組成物を0.1mL浸漬させ、初期値測定箇所に5分間貼付する。ろ紙を除去後、15分後の角層水分量(μS)を測定する。角層水分量は20℃、40%RHの恒温恒湿室にて、SKICON-200EX(IBS社製)を用いて測定した。
【0039】
<保湿性の評価方法>
保湿性については、以下の式により角層水分量変化率を計算し、以下の基準で評価した。なお表1には保湿性評価として、角層水分量変化率を記載している。
(角層水分量変化率)=(15分後の角層水分量)/(初期値)×100
角層水分量変化率について、下記のように判断した。
150%以上 :保湿性に極めて優れている
120%以上150%未満:保湿性に優れている
100%以上120%未満:保湿性を有している
100%未満 :保湿性を有していない
【0040】
3.液切れ性評価
<液切れ性の試験方法>
鼻腔から液が切れる時間と皮膚透過性試験用メンブレンから液が切れる時間を相関のあるものとして、試験方法を以下の通りに規定し、評価した。
作製した各鼻洗浄組成物に皮膚透過性試験用メンブレン(メルク株式会社、Start-M、カタログ番号:SKBM02560)を2秒間浸漬させ、ピンセットで引きあげた時点から液だれが生じなくなるまでの時間を測定した。なお、表1には液切れ性評価として液だれが生じなくなるまでの時間を記載しており、液切れに要する時間が短い程液切れ性が良い。
<液切れ性の評価方法>
上記の方法で測定した液切れに要する時間について、下記のように判断した。
5秒未満 :液切れ性に極めて優れている
5秒以上かつ10秒未満 :液切れ性に優れている
10秒以上かつ15秒未満 :液切れ性を有している
15秒以上 :液切れ性を有していない
【0041】
4.使用感評価
<使用感の試験方法>
官能評価により鼻腔内における保湿性(しっとり感)、及び液切れ性(液の残存感)の使用感を評価できるものとして、試験方法を以下の通りに規定し、評価した。
各鼻洗浄組成物を作製し、鼻洗浄容器に充填した。鼻腔粘膜が健常な被験者10名に各鼻洗浄液組成物を用いて鼻腔内を洗浄させ、保湿性(しっとり感)、及び液切れ性(液の残存感)について評価した。
<使用感の評価方法>
下記評価基準に基づき評価し、平均点を評価結果とした。
(1)保湿性(しっとり感)評価基準
5点:非常にしっとりしている
4点:しっとりしている
3点:ややしっとりしている
2点:ほとんどしっとりしていない
1点:乾燥している
(2)液切れ性(液の残存感)評価基準
5点:全く残存感がなくすっきりしている
4点:すっきりしている
3点:ややすっきりしている
2点:ほとんどすっきりしていない
1点:残存感がある
【0042】
【表1】
【0043】
以上の結果、各実施例で用いた本発明の鼻洗浄組成物は、鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性及び液切れ性に優れることが分かった。
これに対して、成分(b)、(c)、及び(d)のいずれかを含有していないか、又は含有していてもその含有量が少ない比較例に示す鼻洗浄組成物は、鼻腔内微粒子洗浄効果、保湿性及び液切れ性が劣る結果となった。