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特開2023-49897メタン発酵設備の操業状態推定方法、ガス発生量予測方法、制御方法及び装置並びにコンピュータプログラム
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  • 特開-メタン発酵設備の操業状態推定方法、ガス発生量予測方法、制御方法及び装置並びにコンピュータプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049897
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】メタン発酵設備の操業状態推定方法、ガス発生量予測方法、制御方法及び装置並びにコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/04 20120101AFI20230403BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20230403BHJP
   B09B 3/65 20220101ALI20230403BHJP
【FI】
G06Q50/04
G06Q50/06
B09B3/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159914
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517349027
【氏名又は名称】株式会社Jバイオフードリサイクル
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸村 啓二
(72)【発明者】
【氏名】功刀 亮
(72)【発明者】
【氏名】河野 敬行
(72)【発明者】
【氏名】▲蔭▼山 佳秀
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 悟
(72)【発明者】
【氏名】海老澤 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 涼
(72)【発明者】
【氏名】小長谷 耕平
【テーマコード(参考)】
4D004
5L049
【Fターム(参考)】
4D004AA01
4D004CA18
4D004DA02
4D004DA06
4D004DA10
4D004DA12
4D004DA16
5L049CC03
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】メタン発酵設備で、操業状態を高精度に推定可能として、オペレータが希望する操業状態を実現可能とする。
【解決手段】メタン発酵モデルの少なくとも一部の変数を状態変数としてメタン発酵モデルを状態空間モデルで表現する工程と、発酵槽140を含むメタン発酵設備(100)にて観測値を得る工程と、前記観測値を用いて前記状態空間モデルに対して逐次推定用フィルタを適用することで前記状態変数を逐次推定する工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン発酵モデルの少なくとも一部の変数を状態変数としてメタン発酵モデルを状態空間モデルで表現する工程と、
発酵槽を含むメタン発酵設備にて観測値を得る工程と、
前記観測値を用いて前記状態空間モデルに対して逐次推定用フィルタを適用することで前記状態変数を逐次推定する工程と、を含む
ことを特徴とするメタン発酵設備の操業状態推定方法。
【請求項2】
前記状態変数が、少なくとも前記発酵槽内の生物分解性有機物、前記発酵槽内の有機酸、前記発酵槽内の酸生成菌、前記発酵槽内のメタン生成菌の濃度のうち一部あるいは全部であり、
前記観測値が前記発酵槽からのメタンガス発生量、前記発酵槽の有機酸濃度のうち一部あるいは全部である
ことを特徴とする請求項1に記載のメタン発酵設備の操業状態推定方法。
【請求項3】
前記状態変数が、少なくとも前記発酵槽内の複数の原料種類毎の生物分解性有機物、前記発酵槽内の有機酸、前記発酵槽内の酸生成菌、前記発酵槽内のメタン生成菌の濃度のうち一部あるいは全部であり、
前記観測値が前記発酵槽への投入原料流量、投入原料中の複数の原料種別毎の生物分解性有機物濃度、投入原料中の複数の原料種別毎の有機酸濃度、前記発酵槽からのメタンガス発生量、前記発酵槽からの発酵液排出流量、前記発酵槽温度、前記発酵槽内発酵液量のうち一部あるいは全部である
ことを特徴とする請求項1に記載のメタン発酵設備の操業状態推定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のメタン発酵設備の操業状態推定方法により、ある時点の前記発酵槽の生物分解性有機物濃度、前記発酵槽の有機酸濃度、前記発酵槽の酸生成菌濃度、前記発酵槽のメタン生成菌濃度のうち一部あるいは全部の推定値を求め、
前記推定値を状態空間モデルに反映し、
少なくともある時点以降の前記発酵槽への投入原料流量、投入原料中の複数の原料種別毎の生物分解性有機物濃度、投入原料中の複数の原料種別毎の有機酸濃度のうち一部または全部を、前記状態空間モデルに適用することによってある時点以降のメタンガス発生量を予測することを特徴とするメタン発酵設備のガス発生量予測方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載のメタン発酵設備の操業状態推定方法による推定結果又は請求項4に記載のメタン発酵設備のガス発生量予測方法による予測結果を用いて、将来のメタンガス発生量が目標値となるようにメタン発酵設備を制御することを特徴とするメタン発酵設備の制御方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項7】
メタン発酵モデルを用いてメタン発酵設備の操業状態を予測するための装置であって、
前記メタン発酵モデルの少なくとも一部の変数を状態変数としてメタン発酵モデルを状態空間モデルで表現する手段と、
発酵槽を含むメタン発酵設備にて観測値を得る手段と、
前記観測値を用いて前記状態空間モデルに対して逐次推定用フィルタを適用することで前記状態変数を逐次推定する手段と、を含むことを特徴とするメタン発酵設備の操業状態推定装置。
【請求項8】
前記推定を、非線形カルマンフィルタを適用することにより行う手段を備えることを特徴とする請求項7に記載のメタン発酵設備の操業状態推定装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のメタン発酵設備の操業状態推定装置による推定結果を用いて、ある時点以降のガス発生量を予測する手段を備えることを特徴とするメタン発酵設備のガス発生量予測装置。
【請求項10】
請求項7又は8に記載のメタン発酵設備の操業状態推定装置による予測結果又は請求項9に記載のメタン発酵設備のガス発生量予測装置による予測結果を用いて、将来のガス発生量が目標値となるようにメタン発酵設備を制御する手段を備えることを特徴とするメタン発酵設備の制御装置。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれかに記載の装置をコンピュータに実現させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン発酵設備の操業状態推定方法、ガス発生量予測方法、制御方法及び装置並びにコンピュータプログラムに係り、特に、メタン発酵プラントに用いるのに好適な、操業状態を高精度に推定することが可能なメタン発酵設備の操業状態推定方法、該操業状態推定方法による推定結果を用いたガス発生量予測方法、制御方法及び装置並びに、前記方法や装置をコンピュータに実行又は実現させるためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
メタン発酵は、有機性の廃棄物等を嫌気性下でメタン菌によって発酵処理することにより、メタンを含むバイオガスと水に分解するプロセスである。投入される有機物を大幅に減量できるほか、生成するメタンガスをエネルギーとして回収することができるメリットがある。しかし、メタンガスを合成するメタン菌は種類によって活動できる温度、pH等の条件が限られており、アンモニアや水素濃度が高くなると活性が低下するなど、条件を適切に管理しながら運用する必要がある。そのための技術がいくつか提案されている(特許文献1、2)。
【0003】
メタンガス発生量の予測に関しては、特許文献3に、メタン発酵モデルを使って、メタン発酵プロセス(嫌気性消化)のメタンガス発生量を予測する技術が記載されている。また、非特許文献1にはメタン発酵モデルの例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4218486号公報
【特許文献2】特許第6697201号公報
【特許文献3】特開2005-111338号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Anaerobic Digestion Model No. 1, Scientic and Technical Report 15. IWA Publising, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、メタン発酵モデルを使っても、メタンガス発生量を十分な精度で予測することは難しかった。なぜなら、メタン発酵モデルを用いたとしても実際のメタン発酵槽内の状態を正しく把握することができないためである。
【0007】
特に、メタン発酵槽内の、生物分解性有機物(蛋白質、炭水化物、脂質等)、有機酸、酸生成菌、メタン生成菌の量あるいは濃度を正確に把握することができないため、正確な予測が難しいという問題点があった。
【0008】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、発酵槽内の生物分解性有機物(蛋白質、炭水化物、脂質等)、有機酸、酸生成菌、メタン生成菌の濃度を含むメタン発酵設備の操業状態を正確に推定し、更にメタンガス発生量の高精度な予測を可能として、適切な制御を行えるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、メタン発酵モデルの少なくとも一部の変数を状態変数としてメタン発酵モデルを状態空間モデルで表現する工程と、発酵槽を含むメタン発酵設備にて観測値を得る工程と、前記観測値を用いて前記状態空間モデルに対して逐次推定用フィルタ(逐次ベイズフィルタ)を適用することで前記状態変数を逐次推定する工程と、を含むことを特徴とするメタン発酵設備の操業状態推定方法により、前記課題を解決するものである。
【0010】
ここで、前記状態変数を、少なくとも前記発酵槽内の生物分解性有機物、前記発酵槽内の有機酸、前記発酵槽内の酸生成菌、前記発酵槽内のメタン生成菌の濃度のうち一部あるいは全部とし、前記観測値を前記発酵槽からのメタンガス発生量、前記発酵槽の有機酸濃度のうち一部あるいは全部とすることができる。
【0011】
又、前記状態変数を、少なくとも前記発酵槽内の複数の原料種類毎の生物分解性有機物、前記発酵槽内の有機酸、前記発酵槽内の酸生成菌、前記発酵槽内のメタン生成菌の濃度のうち一部あるいは全部とし、前記観測値を前記発酵槽への投入原料流量、投入原料中の複数の原料種別毎の生物分解性有機物濃度、投入原料中の複数の原料種別毎の有機酸濃度、前記発酵槽からのメタンガス発生量、前記発酵槽からの発酵液排出流量、前記発酵槽温度、前記発酵槽内発酵液量のうち一部あるいは全部とすることができる。
【0012】
本発明は、又、前記メタン発酵設備の操業状態推定方法により、ある時点の前記発酵槽の生物分解性有機物濃度、前記発酵槽の有機酸濃度、前記発酵槽の酸生成菌濃度、前記発酵槽のメタン生成菌濃度のうち一部あるいは全部の推定値を求め、前記推定値を状態空間モデルに反映し、少なくともある時点以降の前記発酵槽への投入原料流量、投入原料中の複数の原料種別毎の生物分解性有機物濃度、投入原料中の複数の原料種別毎の有機酸濃度のうち一部または全部を、前記状態空間モデルに適用することによってある時点以降のメタンガス発生量を予測することにより、同様に前記課題を解決するものである。
【0013】
本発明は、又、前記メタン発酵設備の操業状態推定方法による推定結果又は前記メタン発酵設備のガス発生量予測方法による予測結果を用いて、将来のメタンガス発生量が目標値となるようにメタン発酵設備を制御することにより、同様に前記課題を解決するものである。
【0014】
本発明は、又、前記いずれかの方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムを提供するものである。
【0015】
本発明は、又、メタン発酵モデルを用いてメタン発酵設備の操業状態を予測するための装置であって、前記メタン発酵モデルの少なくとも一部の変数を状態変数としてメタン発酵モデルを状態空間モデルで表現する手段と、発酵槽を含むメタン発酵設備にて観測値を得る手段と、前記観測値を用いて前記状態空間モデルに対して逐次推定用フィルタを適用することで前記状態変数を逐次推定する手段と、を含むことを特徴とするメタン発酵設備の操業状態推定装置を提供するものである。
【0016】
ここで、前記推定を、非線形カルマンフィルタを適用することにより行う手段を備えることができる。
【0017】
本発明は、又、前記メタン発酵設備の操業状態推定装置による推定結果を用いて、ある時点以降のガス発生量を予測する手段を備えることを特徴とするメタン発酵設備のガス発生量予測装置を提供するものである。
【0018】
本発明は、又、前記メタン発酵設備の操業状態推定装置による予測結果又は前記メタン発酵設備のガス発生量予測装置による予測結果を用いて、将来のガス発生量が目標値となるようにメタン発酵設備を制御する手段を備えることを特徴とするメタン発酵設備の制御装置を提供するものである。
【0019】
本発明は、又、前記いずれかの装置をコンピュータに実現させるためのコンピュータプログラムを提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、メタン発酵モデルを活用するだけでなく、少なくとも発酵槽内の生物分解性有機物、有機酸、酸生成菌、メタン生成菌の濃度のうち一部あるいは全部を状態変数とした状態空間モデルを構築し、プラントで観測される観測値によりこれらを逐次推定してメタン発酵槽内の状態を正しく把握するようにしたので、メタンガスの発生量などを高精度に予測可能となる。したがって、投入原料が多種多様で発酵制御が難しいメタン発酵プラントにおいても適切な制御を行うことが可能となる。更に、原料投入計画に応じた将来のメタンガス発生量予測が可能になり、計画的にメタンガス発生量を精度よくコントロールすることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の処理手順を示す流れ図
図2】メタン発酵プラントに適用した本発明の実施形態を示す全体構成図
図3】メタン発酵モデルの概要の例を示す図
図4】メタン発酵モデルを構成する式の例を示す図
図5】カルマンフィルタによる逐次状態推定のイメージを示す図
図6】前記実施形態によるメタンガス発生量の予測例を示す図
図7】同じくメタンガス流量の予測値に応じてプラントを操業した例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0023】
本発明の基本的な処理手順を図1に示す。
【0024】
まず、ステップ1000でメタン発酵モデルの一部の変数(発酵槽内の生物分解性有機物、発酵槽内の有機酸、発酵槽内の酸生成菌、発酵槽内のメタン生成菌の濃度のうち一部あるいは全部)を状態変数としてメタン発酵モデルを状態空間モデルで表現する。
【0025】
次いでステップ1100で、メタン発酵設備にて得られた観測値を用いて、前記状態空間モデルに対して逐次推定用フィルタ(例えばカルマンフィルタ)を適用することで前記状態変数を逐次推定する。
【0026】
次いでステップ1200で、逐次推定された前記状態変数を反映した状態空間モデルを用いて、メタン発酵槽からのメタンガス発生量等を予測し、操業を計画的に制御する。
【0027】
<全体構成>
メタン発酵プラントに適用した本発明の実施形態の全体構成を図2に示す。
【0028】
このメタン発酵プラント(実プラント又は現実プラントとも称する)100は、装入(例えば投入)された原料を破砕して不適物を除去するための破砕機120と、水を混合して原料を調整する混合槽130と、混合槽130から送られてくる原料を嫌気性下で発酵処理してメタンを含むバイオガスを発生する発酵槽140と、前記メタン発酵プラント100の操業データや分析値を入力して記憶する観測データ記憶部200と、操業条件や目標を入力する操業計画部210と、前記観測データ記憶部200及び、操業計画部210から入力される情報に従って、状態空間モデル230を用いて、演算・予測・制御を行う演算・予測・制御部220とを備えている。
【0029】
前記発酵槽140においては、投入される原料は酸生成菌により有機酸に変換され、その有機酸はメタン菌によりメタンガスに変換される。
【0030】
投入される原料は多種多様である。原料の種類によって発酵槽内での変換速度が異なるため、複数の原料種類が供給されるモデルとすることで高い精度が実現できる。例えば、原料を、蛋白質主体の食品廃棄物(食廃と略す)、脂質主体の食廃、炭水化物主体の食廃に分けることができるし、特性に応じてさらに多種に分けても良い。
【0031】
<メタン発酵プラントのモデル>
前記実施形態で用いる、原料を複数(実施形態では5つ)化したメタン発酵モデルの概要を図3に示す。
【0032】
このメタン発酵モデルは、混合槽130から発酵槽140に流入する原料の関数として、
発酵槽流入液流量Ffeed[L/d]、
各原料1~5の流入生物分解性有機物濃度Sbvsin1~5[g/L]、
その合計としての発酵槽流入生物分解性有機物濃度Sbvsin[g/L]、
各原料1~5の流入有機酸濃度Svfain1~5[g/L]、
その合計としての発酵槽流入有機酸濃度Svfain[g/L]があり、
発酵槽140の関数として、
発酵槽液量V[L]、
発酵槽温度Treac[℃]、
各原料1~5の発酵槽生物分解性有機物濃度Sbvs1~5[g/L]、
その合計としての発酵槽生物分解性有機物濃度Sbvs[g/L]、
発酵槽有機酸濃度Svfa[g/L]、
酸生成菌濃度Xacid[g/L]、
メタン菌濃度Xmeth[g/L]があり、
発酵槽140からの流出物の関数として、
メタンガス発生量を表すメタンガス流量Fmeth[L/d]、
発酵槽流出液流量Fout[L/d]がある。
【0033】
前記メタン発酵モデルを構成する式の具体例を図4に示す。
【0034】
図4中の符号は、次のとおりである。
μ1~5:各原料1~5に対応する酸生成菌比増殖速度 [1/d]
μm:酸生成菌最大比増殖速度 [1/d]
Kd:酸生成菌死滅速度 [1/d]
μc:メタン菌比増殖速度 [1/d]
μmc:メタン菌最大比増殖速度 [1/d]
Kdc:メタン菌死滅速度 [1/d]
Ks:酸生成菌半飽和定数 [g BVS/L]
Ksc:メタン菌半飽和定数 [g VFA/L]
k1:酸生成菌のBVS収率 [g BVS/(g acidogens/L)]
k2:酸生成菌のVFA収率 [g VFA/(g acidogens/L)]
k3:メタン菌のVFA収率 [g VFA/(g methanogens/L)]
k5:メタン菌のメタンガス収率 [L/(g methanogens/L)]
α:原料の反応速度比 [-]
b:SRT/HRT比 [d/d]
ここで、BVSは生物分解性有機物、VFAは有機酸、SRTは汚泥滞留時間、HRTは水理学的滞留時間を表す。
【0035】
以上、メタン発酵モデルの一例について説明したが、発酵槽140への原料投入、発酵槽140内の有機物濃度、発酵槽140からのメタンガス発生量等を含むメタン発酵モデルであれば、本発明に適用可能である。例えば、国際水協会(IWA)の嫌気性消化モデル(ADM1)も、本発明に適用可能である。
【0036】
<状態空間モデルの構築>
前記メタン発酵モデルは非線形であるため、状態空間モデルの構築においては、次記数式(10)、(11)で表される離散時間非線形システムとして表す。
【数1】
【0037】
ただし、xkは状態ベクトル、ykは観測ベクトル、f(xk)およびh(xk)はそれぞれ上記状態方程式(10)および観測方程式(11)を構成する非線形関数である。また、wkおよびvkはそれぞれシステムノイズ、および観測ノイズである。
【0038】
状態ベクトルxkおよび観測ベクトルykについて、
状態ベクトルxkは発酵槽の生物分解性有機物濃度Sbvs_1~5、発酵槽の有機酸濃度Svfa、発酵槽の酸生成菌濃度Xacid、発酵槽のメタン菌濃度Xmethを用いて、
観測ベクトルykは、メタンガス発生量Fmeth、および発酵槽の有機酸濃度Svfaを用いて、次記式(12)、(13)のように表される。
xk
= (Sbvs_1_k, Sbvs_2_k, Sbvs_3_k, Sbvs_4_k, Sbvs_5_k, Svfa_k, Xacid_k, Xmeth_k) …(12)
yk = (Fmeth_k, Svfa_k) …(13)
【0039】
メタン発酵モデルにおける非線形関数f(xk) は、発酵槽の生物分解性有機物濃度、発酵槽の有機酸濃度、発酵槽の酸生成菌濃度、発酵槽のメタン菌濃度の時間発展を記述し、各マスバランス式を用いて、次記式(14)として表される。
【数2】
【0040】
また、観測方程式(11)を構成する非線形関数h(xk+1)は、状態方程式(10)により計算された時刻k+1での発酵槽のメタン菌濃度Xmeth_k+1、および発酵槽の有機酸濃度Svfa_k+1を用い、次記式(15)として表される。
【数3】
【0041】
以上、状態空間モデルについて説明したが、状態ベクトルは、発酵槽の生物分解性有機物濃度Sbvs_1~5、発酵槽の有機酸濃度Svfa、発酵槽の酸生成菌濃度Xacid、発酵槽のメタン菌濃度Xmethの一部または全部の関数とすることができ、観測ベクトルは、メタンガス発生量Fmeth、および発酵槽の有機酸濃度Svfaの一部または全部の関数とすることができる。
【0042】
<カルマンフィルタによる状態推定>
上記のようにして構築された状態空間モデルにおいて、モデルの状態変数を逐次的に推定する手法として、本実施形態では非線形カルマンフィルタの一手法であるUnscented Kalman Filterを適用する。
【0043】
具体的には、時刻kにおける状態変数xk(発酵槽の生物分解性有機物濃度、発酵槽の有機酸濃度、発酵槽の酸生成菌濃度、発酵槽のメタン菌濃度)に対するメタンガス発生量と発酵槽の有機酸濃度の推定値ykと、メタンガス発生量と発酵槽の有機酸濃度の観測値の誤差を修正するように、各状態変数の値をカルマンフィルタにより推定する。
【0044】
カルマンフィルタによる逐次状態推定のイメージを図5に示す。観測によって、逐次状態変数の推定値が真値に近づいていく。
【0045】
このカルマンフィルタによる状態推定は、過去からある時点まで逐次実施する推定期間において、推定を繰り返す中で推定精度が向上する。推定期間は、好ましくは1か月以上、更に好ましくは2か月以上である。
【0046】
以上により、高い精度でメタン発酵設備の操業状態を推定することができる。
【0047】
なお、上記状態空間モデルにおける状態変数Sbvs_i、Svfa、Xmethの推定は、Unscented Kalman Filterを用いたが、非線形モデルに対する逐次推定用フィルタ(逐次ベイズフィルタ)として一般的に用いられている各種手法を用いて行われてよい。
【0048】
また、前記状態変数xkは、発酵槽の生物分解性有機物濃度、発酵槽の有機酸濃度、発酵槽の酸生成菌濃度、発酵槽のメタン菌濃度の一部または全部とすることができ、
推定値ykと観測値の誤差を修正するのは、メタンガス発生量と発酵槽の有機酸濃度の一部または全部とすることができる。
【0049】
<メタンガス発生量の予測>
前記のようにカルマンフィルタにより推定されたある時点のメタン発酵設備の操業状態を、状態空間モデルに反映し、ある時点以降の原料投入条件を設定することで、ある時点以降のメタンガス発生量を高い精度で予測することができる。
【0050】
具体的には、ある時点以降の原料投入計画を操業条件として作成し、それに基づき、混合槽130から発酵槽140に流入する次の値を参照する。
Sbvsin1~5、Svfain1~5、Ffeed、Sbvsin、Svfain
【0051】
そして、ある時点以降の発酵槽140に流入する物質量(Sbvsin1~5、Svfain1~5、Ffeed、Sbvsin、Svfain)と、カルマンフィルタによりメタン発酵設備の操業状態が推定されたある時点の状態空間モデル230を用いて、ある時点以降のメタンガス流量(即ち発生量)を予測する。
【0052】
ある時点を現時刻とすれば、現時刻以降の将来のメタンガス流量を予測することになる。
【0053】
本実施形態によるメタンガス発生量の予測例を図6に示す。
【0054】
メタンガス発生量の制御に際しては、ある時刻以降のメタンガス流量の予測技術を用い、目標とするメタンガス流量となるように原料投入量や投入原料の種類を制御する。具体的には、目標とするメタンガス流量となるように、ある時刻以降の原料投入量や投入原料の種類を決定する。ある時刻を現時刻とすれば、将来における目標メタンガス流量となるように、原料投入量や投入原料の種類を決定することができる。
【0055】
メタンガス発生量を制御する期間は、例えば3日間~14日間程度とすることができる。又、原料投入量の決定は、毎日~7日間に1回程度とすることができる。
【0056】
以下、メタンガス発生量の予測、及びメタン発酵プラントの制御についての実施例を説明する。
【0057】
[実施例1]
<メタンガス発生量の予測>
図2に示した商業規模のメタン発酵プラントにおいて、図3および図4に示したメタン発酵モデルを適用し、発酵槽の生物分解性有機物濃度Sbvs_1~5、発酵槽の有機酸濃度Svfa、発酵槽の酸生成菌濃度Xacid、発酵槽のメタン菌濃度Xmethを状態変数として状態空間モデルを構築した。
【0058】
ここで、状態ベクトルは発酵槽の生物分解性有機物濃度Sbvs_1~5、発酵槽の有機酸濃度Svfa、発酵槽の酸生成菌濃度Xacid、発酵槽のメタン菌濃度Xmethを用い、観測ベクトルはメタンガス発生量Fmethを用いた。
【0059】
2か月前から現時刻までの2か月間、4時間毎にカルマンフィルタにより状態変数を逐次推定し、現時刻のメタン発酵槽の状態(発酵槽の生物分解性有機物濃度Sbvs_1~5、発酵槽の有機酸濃度Svfa、発酵槽の酸生成菌濃度Xacid、発酵槽のメタン菌濃度Xmeth)を導き出した。
【0060】
その結果、現時刻における発酵槽140の状態は表1のように算出された。
【0061】
【表1】
【0062】
なお、その他の発酵槽140の状態は表2の如くであった。
【0063】
【表2】
【0064】
次いで、現時刻の翌日から1週間のメタンガス流量を予測した。予測期間中の投入原料の種類と量を表3に示す。原料1は生ごみ類、原料2は蛋白質主体食廃、原料3は脂質主体食廃、原料4は炭水化物主体食廃、原料5は水主体食廃である。
【0065】
【表3】
【0066】
現時刻において予測したメタンガス流量と、現時刻以降1週間で実際に観測されたメタンガス実測流量の比較を表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
メタンガス予測流量とメタンガス実測流量の誤差は最大で7%、平均誤差は3%であり、極めて良い一致を示すことが確認できた。
ただし、誤差は下記の式(16)で求めた。
(誤差)=|(メタンガス予測流量-メタンガス実測流量)/(メタンガス実測流量)|
…(16)
【0069】
[実施例2]
<メタンガス発生量の予測>
図2に示した商業規模のメタン発酵プラントにおいて、図3および図4に示したメタン発酵モデルを適用し、発酵槽の生物分解性有機物濃度Sbvs_1~5、発酵槽の有機酸濃度Svfa、発酵槽の酸生成菌濃度Xacid、発酵槽のメタン菌濃度Xmethを状態変数として状態空間モデルを構築した。
【0070】
ここで、状態ベクトルは発酵槽の生物分解性有機物濃度Sbvs_1~5、発酵槽の有機酸濃度Svfa、発酵槽の酸生成菌濃度Xacid、発酵槽のメタン菌濃度Xmethを用い、観測ベクトルはメタンガス発生量Fmethを用いた。
【0071】
2か月前から現時刻までの2か月間、4時間毎にカルマンフィルタにより状態変数を逐次推定し、現時刻のメタン発酵槽の状態(発酵槽の生物分解性有機物濃度Sbvs_1~5、発酵槽の有機酸濃度Svfa、発酵槽の酸生成菌濃度Xacid、発酵槽のメタン菌濃度Xmeth)を導き出した。その結果、現時刻における発酵槽140の状態は表5のように算出された。
【0072】
【表5】
【0073】
なお、その他の発酵槽140の状態は表6の如くであった。
【0074】
【表6】
【0075】
次いで、現時刻の翌日から1週間のメタンガス流量を予測した。予測期間中の投入原料の種類と量は表7のとおりである。原料1~5の種類は実施例1と同じである。
【0076】
【表7】
【0077】
現時刻において予測したメタンガス流量と、現時刻以降1週間で実際に観測されたメタンガス実測流量の比較を表8に示す。
【0078】
【表8】
【0079】
メタンガス予測流量とメタンガス実測流量の誤差は最大7%、平均誤差は4%であり、極めて良い一致を示すことが確認できた。
【0080】
[実施例3]
<メタンガス発生量の制御>
将来のメタンガス流量の予測技術を用い、目標とするメタンガス流量となるように原料投入量を制御した。
【0081】
図7は、メタンガス流量が8000Nm3/dとなるようにプラントを操業した例である。
【0082】
1日目から149日目までは、メタンガス流量の予測技術を用いない操業であった。
【0083】
150日目から210日目まではメタンガス流量の予測技術を用い、8000Nm3/dとなるように原料の投入量と原料種類を決定した操業であった。具体的には、3日間に1回、その時点以降の7日間のメタンガス発生量の予測を実施し、7日間ともに8000Nm3/dとなるように原料の投入量と原料種類を決定した。
【0084】
結果として、1日目から149日目までの目標値(8000Nm3/d)からの誤差平均は9%であり、150日目から210日目までの目標値(8000Nm3/d)からの誤差平均は3%であった。メタンガス流量の予測技術を用い、目的とするメタンガス流量となるように原料の投入量と原料種類を制御することは極めて効果的であることが確認できた。
【0085】
本実施形態では、図3および図4に示すようなメタン発酵モデルを用い、逐次推定用フィルタ(逐次ベイズフィルタ)としてUnscented Kalman Filterを用いて状態空間モデルの状態変数を推定したが、メタン発酵モデルや状態推定方法は、これらに限定されない。例えば、メタン発酵モデルとしては嫌気性消化モデル(ADM)、状態推定方法としては、Extended Kalman Filter(拡張カルマンフィルタ)、Ensemble Kalman Filter(アンサンブルカルマンフィルタ)、Particle Filter(粒子フィルタ)等を用いることができる。
【符号の説明】
【0086】
100…メタン発酵プラント(実プラント又は現実プラント)
120…破砕機
130…混合槽
140…発酵槽
200…観測データ記憶部
210…操業計画部
220…演算・予測・制御部
230…状態空間モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7