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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049919
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】撮像レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/02 20060101AFI20230403BHJP
   G02B 13/00 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
G02B13/02
G02B13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159942
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】柴田 裕輝
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA01
2H087KA02
2H087LA01
2H087LA02
2H087PA06
2H087PA07
2H087PA18
2H087PA19
2H087PB07
2H087PB08
2H087QA02
2H087QA06
2H087QA07
2H087QA12
2H087QA21
2H087QA25
2H087QA37
2H087QA39
2H087QA41
2H087QA46
2H087RA32
(57)【要約】
【課題】 デジタルスチルカメラの交換レンズ等として用いる撮像レンズにおいて、十分な光学性能を確保しつつ、全体のコストダウン,コンパクト化及び軽量化を実現する。
【解決手段】 前レンズ群101を、物体OBJ側から像IMG側へ順に、三枚の凸レンズL1,L2,L3及び二枚の凹レンズL4,L5を配して構成し、少なくとも二枚の凸レンズL2,L3が、「nd<1.54:[条件式1]」及び「νd>76:[条件式2]」(ただし、nd:d線における屈折率,νd:アッベ数)を満たし、かつ前レンズ群101の全体を正の屈折力に設定するとともに、後レンズ群102を、物体OBJ側から像IMG側へ順に、凸レンズL6及び凹レンズL7を配して構成し、f1を前レンズ群101の焦点距離及びfを全系100の焦点距離としたき、「1.5<〔f1/f〕<3.5:[条件式3]」を満たすように構成する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側へ順に、前レンズ群,開口絞り,後レンズ群を配し、少なくとも前記前レンズ群を物体側の正レンズと像側の負レンズにより構成し、かつ少なくとも正の屈折力に設定した全系を備える撮像レンズであって、前記前レンズ群を、物体側から像側へ順に、三枚の凸レンズ及び二枚の凹レンズを配して構成し、少なくとも二枚の凸レンズが[条件式1]及び[条件式2]を満たし、かつ前記前レンズ群の全体を正の屈折力に設定するとともに、前記後レンズ群を、物体側から像側へ順に、凸レンズ及び凹レンズを配して構成し、前記全系及び前記前レンズ群が[条件式3]を満たすように構成したことを特徴とする撮像レンズ。
[条件式1] nd<1.54
[条件式2] νd>76
[条件式3] 1.5<〔f1/f〕<3.5
ただし、nd:d線における屈折率,νd:アッベ数,f1:前レンズ群の焦点距離、f:全系の焦点距離
【請求項2】
前記全系の最も物体側に位置する前記凸レンズにおける物体側の面から像までの距離をTTLとし、前記全系の焦点距離をf1としたとき、[条件式4]を満たすように構成したことを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
[条件式4] 〔TTL/f〕<1.2
【請求項3】
前記前レンズ群は、最も像側の凹レンズを単レンズにより構成することを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項4】
前記前レンズ群は、最も像側の凹レンズを凸レンズと凹レンズを接合した接合レンズにより構成することを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項5】
前記後レンズ群は、単レンズを用いた物体側の凸レンズと単レンズを用いた像側の凹レンズにより構成することを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項6】
前記後レンズ群は、物体側の凸レンズと像側の凹レンズを接合した接合レンズにより構成することを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体側から像側へ順に、前レンズ群,開口絞り,後レンズ群を配した交換レンズ等に用いて好適な撮像レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、デジタルスチルカメラ等に用いる交換レンズであって、特に、半画角が13.5゜程度の画角を有し、FナンバーがF2.8程度の撮像レンズでは、色収差が目立ち始める焦点距離域であり、レンズ全長を短くした場合には、色収差が大きくなるのみならず、他の諸収差にも影響を及ぼし、光学性能が低下する問題がある。このため、この種の撮像レンズでは、光学性能を高める場合、レンズ全長が長くなる傾向があり、十分な光学性能を確保しつつレンズのコンパクト化を図るには限界があった。
【0003】
従来、この課題に対処したレンズとしては、特許文献1に開示される大口径レンズ及び特許文献2に開示される光学系が知られている。同文献1の大口径レンズは、各種諸収差を総合的に改善して大口径レンズの光学性能を高めるとともに、全長を短縮してコンパクト化、更には軽量化及び低価格化を図る大口径中望遠レンズの提供を目的としたものであり、具体的には、前レンズ群を3枚の正レンズにより構成した少なくとも2枚の正レンズにおける、アッベ数νdが、νd>75の光学条件を満たし,かつ屈折率nd1が、nd1<1.57の光学条件を満たすとともに、最も物体側のレンズの物体側の面から像までの距離をTT,全系の焦点距離をfとしたときに、(TT/f)<1.3の光学条件を満たすように設定したものである。
【0004】
また、同文献2の光学系は、色収差を始めとする諸収差を良好に補正することかできる光学系を得ることを目的としたものであり、具体的には、物体側から像側ヘ順に、正の屈折力の前群、開口絞り、後群から構成され、前群は正の屈折力の第1レンズ群より成り、後群は該開口絞りに隣接し合焦の際に移動する第2レンズ群を有し、第1レンズ群はn個の正レンズと1以上の負レンズを有する光学系において、材料の異常部分分散性をΔθgFとするとき、第1レンズ群に含まれる正レンズのうち少なくとも2つの正レンズの材料は、0.0100<ΔθgFなる条件式を満足し、そのうち1以上の正レンズの材料は、0.0272<ΔθgFなる条件を満足し、第1レンズ群の最も像側の屈折面は凹形状でその曲率半径、第2レンズ群の最も物体側の屈折面は凹形状でその曲率半径、全系の焦点距離を各々適切に設定するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-122918号公報
【特許文献2】特開2013-114133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1及び2に開示される撮像レンズは、次のような解決すべき課題も存在した。
【0007】
第一に、開口絞りに対してレンズ(レンズ群)を対称的に配置することにより低次の収差補正を行っているため、射出瞳位置及びバックフォーカスが長くなりやすく、焦点距離に対するレンズ全長が長くなる傾向にある。加えて、高次のコマ収差を十分に補正できないため、開口絞りを開放した際の解像度が低下する問題がある。結局、この種の撮像レンズにおいて、十分な光学性能を確保しつつ、レンズ全体のコンパクト化及び軽量化を図る観点からは更なる改善の余地があった。
【0008】
第二に、レンズ全系には球面レンズに対して非球面レンズを組合わせることにより、諸収差の改善(補正)を図っていたため、少なくとも一枚又は複数の非球面レンズが必要になり、レンズ自身のハイコスト化を招くとともに、大口径化を実現する観点からは必ずしも容易でない難点があった。
【0009】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した撮像レンズの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するため、物体OBJ側から像IMG側へ順に、前レンズ群101,開口絞りSTO,後レンズ群102を配し、少なくとも前レンズ群101を物体OBJ側の正レンズL1…と像IMG側の負レンズL4…により構成し、かつ少なくとも正の屈折力に設定した全系100を備える撮像レンズ1を構成するに際して、前レンズ群101を、物体OBJ側から像IMG側へ順に、三枚の凸レンズL1,L2,L3及び二枚の凹レンズL4,L5を配して構成し、少なくとも二枚の凸レンズL2,L3が、「nd<1.54:[条件式1]」及び「νd>76:[条件式2]」(ただし、nd:d線における屈折率,νd:アッベ数)を満たし、かつ前レンズ群101の全体を正の屈折力に設定するとともに、後レンズ群102を、物体OBJ側から像IMG側へ順に、凸レンズL6及び凹レンズL7を配して構成し、f1を前レンズ群101の焦点距離及びfを全系100の焦点距離としたき、「1.5<〔f1/f〕<3.5:[条件式3]」を満たすように構成してなることを特徴とする。
【0011】
この場合、発明の好適な態様により、全系100の最も物体OBJ側に位置する凸レンズL1における物体OBJ側の面(i=1)から像までの距離をTTLとし、全系100の焦点距離をf1としたとき、「〔TTL/f〕<1.2:[条件式4]」を満たすように構成することができる。また、前レンズ群101を構成するに際し、最も像IMG側の凹レンズL5は単レンズにより構成してもよいし、凸レンズLp5と凹レンズLn5を接合した接合レンズJ5により構成してもよい。さらに、後レンズ群102を構成するに際し、単レンズを用いた物体OBJ側の凸レンズL6と単レンズを用いた像IMG側の凹レンズL7により構成してもよいし、物体OBJ側の凸レンズLp6と像IMG側の凹レンズLn7を接合した接合レンズJ6により構成してもよい。
【発明の効果】
【0012】
このような構成を有する本発明に係る撮像レンズ1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) 前レンズ群101を、物体OBJ側から像IMG側へ順に、三枚の凸レンズL1,L2,L3及び二枚の凹レンズL4,L5を配して構成し、少なくとも二枚の凸レンズL2,L3が、「nd<1.54:[条件式1]」及び「νd>76:[条件式2]」(ただし、nd:d線における屈折率,νd:アッベ数)を満たし、かつ前レンズ群101の全体を正の屈折力に設定するとともに、後レンズ群102を、物体OBJ側から像IMG側へ順に、凸レンズL6及び凹レンズL7を配して構成し、f1を前レンズ群101の焦点距離及びfを全系100の焦点距離としたき、「1.5<〔f1/f〕<3.5:[条件式3]」を満たすように構成したため、非球面レンズを使用することなく諸収差の良好な特性を確保しつつ全体のレンズ枚数を7-8枚の比較的少ない枚数により撮像レンズ1を構築することができる。これにより、デジタルスチルカメラの交換レンズ等として用いる撮像レンズ1において、十分な光学性能を確保しつつ、全体のコストダウン,コンパクト化及び軽量化を実現できる。
【0014】
(2) 好適な態様により、全系100の最も物体OBJ側に位置する凸レンズL1における物体OBJ側の面(i=1)から像までの距離をTTLとし、全系100の焦点距離をf1としたとき、「〔TTL/f〕<1.2:[条件式4]」を満たすように構成すれば、撮像レンズ1における必要かつ十分な光学性能(諸収差)を確保しつつ、レンズ全長の短縮化、更には必要とする撮影画角及び明るさを確保することができる。
【0015】
(3) 好適な態様により、前レンズ群101を構成するに際し、最も像IMG側の凹レンズL5を単レンズにより構成すれば、一枚の単レンズを用意すれば足りるため、部品面のコストメリットを享受することができる。
【0016】
(4) 好適な態様により、前レンズ群101を構成するに際し、最も像IMG側の凹レンズL5を、凸レンズLp5と凹レンズLn5を接合した接合レンズJ5により構成すれば、色収差を効果的に補正できるため、設計自由度を高め、かつ光学特性の向上に寄与することができる。
【0017】
(5) 好適な態様により、後レンズ群102を構成するに際し、単レンズを用いた物体OBJ側の凸レンズL6と単レンズを用いた像IMG側の凹レンズL7により構成すれば、二枚の単レンズの組合わせにより後レンズ群102を構築できるため、部品面の観点からコストメリットを享受することができる。
【0018】
(6) 好適な態様により、後レンズ群102を構成するに際し、物体OBJ側の凸レンズLp6と像IMG側の凹レンズLn7を接合した接合レンズJ6により構成すれば、一枚の接合レンズJ6により後レンズ群102を構築できるため、光軸方向における全長を短縮できるため、撮像レンズ1全体の更なる小型コンパクト化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の好適実施形態の実施例1に係る撮像レンズの全系における断面構成図、
図2】同実施例1-実施例3の各条件式等に対応する数値一覧表、
図3】同実施例1に係る撮像レンズの全系における無限遠時の縦収差図、
図4】同実施例2に係る撮像レンズの全系を示す断面構成図、
図5】同実施例2に係る撮像レンズの全系における無限遠時の縦収差図、
図6】同実施例3に係る撮像レンズの全系を示す断面構成図、
図7】同実施例3に係る撮像レンズの全系における無限遠時の縦収差図、
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
まず、本実施形態に係る撮像レンズ1の構成について、図1(及び図4図6)を参照して説明する。
【0022】
本実施形態に係る撮像レンズ1は、図1図4及び図6に示すように、撮影画角が±13-16〔°〕,Fナンバーが2.8-2.9の光学性能を対象としたものである。図1は、撮像レンズ1の全系100を示したものであり、図1を参照して基本的な主要構成について説明する。なお、図1の撮像レンズ1は実施例1を兼ねている。全系100は、大別して、物体(被写体)OBJ側から像(撮像素子)IMG側へ順に配した、前レンズ群101,開口絞りSTO,後レンズ群102を備える。
【0023】
前レンズ群101は、基本構成として、物体OBJ側に配する三枚の正レンズL1,L2,L3と像IMG側に配する負レンズL4,L5により構成し、前レンズ群101の全体を正の屈折力に設定する。また、後レンズ群102は、基本構成として、物体OBJ側に配する凸レンズL6と像IMG側に配する凹レンズL7により構成する。
【0024】
この場合、前レンズ群101を構成するに際しては、三枚の正レンズL1,L2,L3により構成した少なくとも二枚の正レンズ、例示は、正レンズL2,L3における屈折率ndが、
nd<1.54 … [条件式1]
の条件を満たすとともに、アッベ数νdが、
νd>76 … [条件式2]
の条件を満たすようにレンズ特性を設定する。
【0025】
これらの[条件式1]及び[条件式2]を満たすことにより、前レンズ群101の光軸方向の長さを維持しつつ、軸上色収差の補正を行えるとともに、バックフォーカスを短くすることができる。このように、各レンズの曲率半径を大きくできる三枚の正レンズL1,L2,L3により、光軸方向の長さを短縮し、かつバックフォーカスを短くできるため、このレンズ構成と併せた球面収差及び非点収差の補正により、諸収差の全体の改善(補正)を容易に行うことができる。
【0026】
さらに、前レンズ群101における最も像IMG側の凹レンズL5は図1に示す第一実施例のように単レンズにより構成してもよいし、後述する図4及び図6に示す第二実施例及び第三実施例のように、凸レンズLp5と凹レンズLn5を接合した接合レンズJ5により構成してもよい。このように、前レンズ群101における最も像IMG側の凹レンズL5を単レンズにより構成すれば、一枚の単レンズを用意すれば足りるため、部品面のコストメリットを享受することができるとともに、凹レンズL5を凸レンズLp5と凹レンズLn5を接合した接合レンズJ5により構成すれば、色収差を効果的に補正できるため、設計自由度を高め、かつ光学特性の向上に寄与できる。
【0027】
他方、後レンズ群102を構成するに際しては、図1に示す第一実施例及び図4に示す第二実施例のように、単レンズを用いた物体OBJ側の凸レンズL6と単レンズを用いた像IMG側の凹レンズL7により構成してもよいし、後述する図6に示す第三実施例のように、物体OBJ側の凸レンズLp6と像IMG側の凹レンズLn7を接合した接合レンズJ6により構成してもよい。このように、単レンズを用いた凸レンズL6と凹レンズL7により構成すれば、二枚の単レンズの組合わせにより後レンズ群102を構築できるため、部品面の観点からコストメリットを享受することができるとともに、凸レンズLp6と凹レンズLn7を接合した接合レンズJ6により構成すれば、一枚の接合レンズJ6により後レンズ群102を構築できるため、光軸方向における全長を短縮できるため、撮像レンズ1全体の更なる小型コンパクト化に寄与できる利点がある。
【0028】
一方、前レンズ群101と全系100を構成するに際しては、f1を前レンズ群101の焦点距離とし、fを全系100の焦点距離としたき、
1.5<〔f1/f〕<3.5 … [条件式3]
を満たすように設定する。これにより、前レンズ群101の焦点距離と全系100の焦点距離の比率、特に、バックフォーカス長を適切に制御できる。
【0029】
また、全系100の最も物体OBJ側に位置する凸レンズL1における物体OBJ側の面(i=1)から像までの距離をTTL(図1参照)とし、全系100の焦点距離をf1としたとき、
〔TTL/f〕<1.2 … [条件式4]
を満たすように構成する。このように構成すれば、撮像レンズ1における必要かつ十分な光学性能(諸収差)を確保しつつ、レンズ全長の短縮化、更には必要とする撮影画角及び明るさを確保することができる。
【0030】
以上の構成が、本実施形態に係る撮像レンズ1の基本構成となる。このように、撮像レンズ1の基本構成として、前レンズ群101を、物体OBJ側から像IMG側へ順に、三枚の凸レンズL1,L2,L3及び二枚の凹レンズL4,L5を配して構成し、少なくとも二枚の凸レンズL2,L3が、「nd<1.54:[条件式1]」及び「νd>76:[条件式2]」(ただし、nd:d線における屈折率,νd:アッベ数)を満たし、かつ前レンズ群101の全体を正の屈折力に設定するとともに、後レンズ群102を、物体OBJ側から像IMG側へ順に、凸レンズL6及び凹レンズL7を配して構成し、f1を前レンズ群101の焦点距離及びfを全系100の焦点距離としたき、「1.5<〔f1/f〕<3.5:[条件式3]」を満たすように構成したため、非球面レンズを使用することなく諸収差の良好な特性を確保しつつ全体のレンズ枚数を7-8枚の比較的少ない枚数により撮像レンズ1を構築することができる。これにより、デジタルスチルカメラの交換レンズ等として用いる撮像レンズ1において、十分な光学性能を確保しつつ、全体のコストダウン,コンパクト化及び軽量化を実現できる。
【0031】
次に、本実施形態に係る撮像レンズ1の具体的な実施例(実施例1-実施例3)について、図1図7を参照して説明する。
【実施例0032】
まず、実施例1に係る撮像レンズ1について、図1図3を参照して具体的に説明する。実施例1に係る撮像レンズ1は、図1に示すように、前レンズ群101は、物体OBJ側から像IMG側へ順に、正メニスカスレンズL1,正メニスカスレンズL2,正メニスカスレンズL3と像IMG側に配する負メニスカスレンズL4,負メニスカスレンズL5により構成し、前レンズ群101の全体を正の屈折力に設定する。
【0033】
また、前レンズ群101は、全てのレンズL1,L2,L3,L4,L5の面(i=1,2,3,4,5,6,7,8,9,10)を、レンズ中心側がレンズ周辺側に対して、物体OBJ側に膨出する湾曲面により形成する。なお、iは物体OBJ側から数えた面番号をそれぞれ示す。
【0034】
このように、前レンズ群101を構成するに際し、全てのレンズL1…の面(i=1,2,3…10)を、中心側が周辺側に対して、物体OBJ側に膨出する湾曲面により形成すれば、全てのレンズL1…の中心側が一方向にオフセットする形状になるため、光軸方向における各レンズL1…間の間隔(隙間空間)を最小化できる。これにより、前レンズ群101、更には撮像レンズ1における光軸方向の長さを短縮できる利点がある。
【0035】
特に、前レンズ群101における三枚の正レンズL1,L2,L3は、物体OBJ側の面(i=1,3,5)の曲率半径を、物体OBJ側から順に、L1Ri,L2Ri,L3Riとしたとき、L1Ri>L2Ri>L3Riの条件を満たすように設定する。このように設定すれば、基本的に、光軸方向における各レンズL1…間の間隔(隙間空間)を、接触しない距離でゼロに近づけることができるため、前レンズ群101、更には撮像レンズ1における光軸方向の長さに対する更なる短縮化を図ることができる。
【0036】
さらに、前述したように、前レンズ群101における最も像IMG側の凹レンズL5は、図1に示すように単レンズにより構成する。このように、凹レンズL5を単レンズにより構成すれば、一枚の単レンズを用意すれば足りるため、部品面のコストメリットを享受することができる。
【0037】
一方、後レンズ群102は、単レンズを用いた物体OBJ側に配する凸レンズL6と単レンズを用いた像IMG側に配する像IMG側に膨出する湾曲面により形成した凹メニスカスレンズL7により構成する。このように、後レンズ群102を構成するに際し、単レンズを用いた物体OBJ側の凸レンズL6と単レンズを用いた像IMG側の凹レンズL7により構成すれば、二枚の単レンズの組合わせにより後レンズ群102を構築できるため、部品面の観点からコストメリットを享受することができる。
【0038】
表1は、図1に示した実施例1に係る撮像レンズ100における全系のレンズデータを示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1において、fは全系の焦点距離、FnoはFナンバー、ωは半画角を示す。さらに、物体OBJ側から数えたレンズ面の面番号をiとし、この面番号は、図1に示した符号(数字)に一致する。これに対応して、レンズ面の曲率半径R(i)、軸上面間隔D(i)、レンズの屈折率nd(i)、レンズのアッベ数νd(i)、各レンズの焦点距離fp(i)をそれぞれ示す。nd(i)及びνd(i)はd線(587.6nm)に対する数値である。軸上面間隔D(i)は相対向する面と面間のレンズ厚或いは空気空間を示す。なお、曲率半径R(i)と面間隔D(i)の単位は〔mm〕である。面番号のOBJは物体、STOは開口絞り、IMGは像の位置を示す。曲率半径R(i)のInfinityは平面である。また、屈折率nd(i)とアッベ数νd(i)の空欄は空気であることを示す。
【0041】
なお、最後部に位置するレンズの最後面から像IMGの間に、フィスプレート(保護ガラス)、色選択フィルタ(赤外域フィルタ)、ローパスフィルタ(高周波数カットフィルタ)などの平行平面板を配する場合もあるが、これらは本実施形態に係る撮像レンズ1の構成に影響を与えるものではない。
【0042】
また、図2には、実施例1に係る撮像レンズ1の全系100における縦収差図を示す。この縦収差図は、左側から、(a)球面収差図(656.3nm,587.6nm,435.8nm)、(b)非点収差図(587.6nm)、(c)歪曲収差図(587.6nm)である。なお、各スケールは、±0.15mm,±0.15mm,±1.5%である。このように、いずれも良好な収差を得ていることを確認できる。
【0043】
さらに、図3には、各条件式1-4に対応する数値を一覧表で示す。図3に示すように、実施例1では、凸レンズL2の屈折率ndは「1.437」、凸レンズL3の屈折率ndも「1.437」となり、二枚の凸レンズL2,L3が[条件式1]となる「nd<1.54」の条件を満たすとともに、凸レンズL2のアッベ数νdは「95.10」、凸レンズL3のアッベ数νdも「95.10」となり、二枚の凸レンズL2,L3が[条件式2]となる「νd>76」の条件を満たす。また、前レンズ群101の焦点距離f1〔mm〕は「228.25」、全系100の焦点距離f〔mm〕は「87.30」となり、〔f1/f〕は「2.61」となるため、[条件式3]となる「1.5<〔f1/f〕<3.5」の条件を満たすとともに、距離TTL〔mm〕は「85.83」となり、〔TTL/f〕は「0.98」となるため、[条件式4]となる「〔TTL/f〕<1.2」を満たす。
【0044】
このように、実施例1の撮像レンズ1は、条件式1-条件式4の全ての条件を満たしており、撮像レンズ1における十分な光学性能(諸収差)を確保しつつ、全体のコストダウン,コンパクト化及び軽量化を実現するとともに、レンズ全長の短縮化、更には必要とする撮影画角及び明るさを確保するという目的を達成することができる。
【実施例0045】
次に、実施例2に係る撮像レンズ1について、図4図5及び図3を参照して具体的に説明する。
【0046】
実施例2に係る撮像レンズ1と実施例1に係る撮像レンズ1の相違点は、前レンズ群101における最も像IMG側の凹レンズL5を構成するに際し、実施例1では、単レンズによる負メニスカスレンズを用いた場合を示したが、実施例2では、凹レンズL5を構成するに際し、凸レンズLp5と凹レンズLn5を接合した接合レンズJ5により構成する場合を示す。
【0047】
このように、前レンズ群101における最も像IMG側の凹レンズL5を、凸レンズLp5と凹レンズLn5を接合した接合レンズJ5により構成すれば、レンズの光学特性を容易に設定できるため、設計自由度を高め、かつ光学特性の向上に寄与できる。
【0048】
実施例2と実施例1における基本的な相違点は、以下に示す表2と前述した表1における細部のレンズレータを除き、以上の点のみであり、実施例2と実施例1の他の基本的な全系100のレンズ構成は同じになる。
【0049】
表2は、図4に示した実施例2に係る撮像レンズ1の全系のレンズデータを示す。
【0050】
【表2】
【0051】
また、図5には、実施例2に係る撮像レンズ1の全系100における縦収差図を示す。図5(a)-(c)に示すように、いずれも良好な収差を得ていることを確認できる。
【0052】
さらに、図3に示すように、実施例2では、凸レンズL2の屈折率ndは「1.497」、凸レンズL3の屈折率ndも「1.437」となり、二枚の凸レンズL2,L3が[条件式1]となる「nd<1.54」の条件を満たすとともに、凸レンズL2のアッベ数νdは「81.61」、凸レンズL3のアッベ数νdも「95.10」となり、二枚の凸レンズL2,L3が[条件式2]となる「νd>76」の条件を満たす。また、前レンズ群101の焦点距離f1〔mm〕は「186.14」、全系100の焦点距離f〔mm〕は「88.50」となり、〔f1/f〕は「2.10」となるため、[条件式3]となる「1.5<〔f1/f〕<3.5」の条件を満たすとともに、距離TTL〔mm〕は「85.83」となり、〔TTL/f〕は「0.97」となるため、[条件式4]となる「〔TTL/f〕<1.2」を満たす。
【0053】
このように、実施例2の撮像レンズ1も、条件式1-条件式4の全ての条件を満たしており、実施例2においても、撮像レンズ1における十分な光学性能(諸収差)を確保しつつ、全体のコストダウン,コンパクト化及び軽量化を実現するとともに、レンズ全長の短縮化、更には必要とする撮影画角及び明るさを確保するという目的を達成することができる。
【実施例0054】
次に、実施例3に係る撮像レンズ1について、図6図7及び図3を参照して具体的に説明する。
【0055】
実施例3に係る撮像レンズ1と実施例1に係る撮像レンズ1の相違点は、前レンズ群101における最も像IMG側の凹レンズL5を構成するに際し、実施例1では、単レンズによる負メニスカスレンズを用いた場合を示したが、実施例3では、凹レンズL5を構成するに際し、凸レンズLp5と凹レンズLn5を接合した接合レンズJ5により構成した場合を示すとともに、後レンズ群102を構成するに際し、実施例1では、単レンズを用いた物体OBJ側の凸レンズL6と単レンズを用いた像IMG側に配する像IMG側に膨出する湾曲面により形成した凹メニスカスレンズL7により構成した場合を示したが、実施例3では、物体OBJ側の凸レンズLp6と像IMG側の凹レンズLn7を接合した接合レンズJ6により構成した場合を示す。
【0056】
このように、凸レンズLp6と凹レンズLn7を接合した接合レンズJ6により構成すれば、一枚の接合レンズJ6により後レンズ群102を構築できるため、光軸方向における全長を短縮できるため、撮像レンズ1全体の更なる小型コンパクト化に寄与できる利点がある。
【0057】
実施例3と実施例1における基本的な相違点は、以下に示す表3と前述した表1における細部のレンズレータを除き、以上の点のみであり、実施例2と実施例1の他の基本的な全系100のレンズ構成は同じになる。
【0058】
表3は、図6に示した実施例3に係る撮像レンズ1の全系のレンズデータを示す。
【0059】
【表3】
【0060】
また、図7には、実施例3に係る撮像レンズ1の全系100における縦収差図を示す。図7(a)-(c)に示すように、いずれも良好な収差を得ていることを確認できる。
【0061】
さらに、図3に示すように、実施例3では、凸レンズL2の屈折率ndは「1.437」、凸レンズL3の屈折率ndも「1.437」となり、二枚の凸レンズL2,L3が[条件式1]となる「nd<1.54」の条件を満たすとともに、凸レンズL2のアッベ数νdは「95.10」、凸レンズL3のアッベ数νdも「95.10」となり、二枚の凸レンズL2,L3が[条件式2]となる「νd>76」の条件を満たす。また、前レンズ群101の焦点距離f1〔mm〕は「135.71」、全系100の焦点距離f〔mm〕は「75.00」となり、〔f1/f〕は「1.81」となるため、[条件式3]となる「1.5<〔f1/f〕<3.5」の条件を満たすとともに、距離TTL〔mm〕は「74.73」となり、〔TTL/f〕は「1.00」となるため、[条件式4]となる「〔TTL/f〕<1.2」を満たす。
【0062】
このように、実施例3の撮像レンズ1も、条件式1-条件式4の全ての条件を満たしており、実施例3においても、撮像レンズ1における十分な光学性能(諸収差)を確保しつつ、全体のコストダウン,コンパクト化及び軽量化を実現するとともに、レンズ全長の短縮化、更には必要とする撮影画角及び明るさを確保するという目的を達成することができる。
【0063】
以上、実施例1,実施例2及び実施例3を含む好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0064】
例えば、〔TTL/f〕<1.2の[条件式4]は、満たすことが望ましいが、本発明における必須の構成要件となるものではない。また、前レンズ群101を構成するに際し、最も像IMG側の凹レンズL5を単レンズにより構成し、又は凸レンズLp5と凹レンズLn5を接合した接合レンズJ5により構成した場合を例示したが、負レンズとしての機能を有するものであれば、他の各種レンズにより置換可能である。同様に、後レンズ群102を構成するに際し、単レンズを用いた物体OBJ側の凸レンズL6と単レンズを用いた像IMG側の凹レンズL7により構成し、又は物体OBJ側の凸レンズLp6と像IMG側の凹レンズLn7を接合した接合レンズJ6により構成した場合を例示したが、物体OBJ側から像IMG側へ順に、凸レンズL6及び凹レンズL7を配する構成であれば、例えば、接合レンズを用いた凸レンズL6及び接合レンズを用いた凹レンズL7であってもよく、他の同様のレンズ構成により置換可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る撮像レンズは、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等の各種光学機器における専用レンズ或いは交換レンズとして利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1:撮像レンズ,100:全系,101:前レンズ群,102:後レンズ群,OBJ:物体,IMG:像,STO:開口絞り,L1:凸レンズ(正レンズ),L2:凸レンズ(正レンズ),L3:凸レンズ(正レンズ),L4:凹レンズ(負レンズ),L5:凹レンズ(負レンズ),Lp5:両凸レンズ,Ln5:両凹レンズ,L6:凸レンズ,Lp6:両凸レンズ,L7:凹レンズ,Ln7:凹レンズ,J5:接合レンズ,J6:接合レンズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7