(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050035
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】焼結鉱の粒度分布の調整方法及び融着開始時還元率Rs*の変化量ΔRs*の推定方法
(51)【国際特許分類】
C21B 5/00 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
C21B5/00 302
C21B5/00 324
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160186
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】安田 尚人
(72)【発明者】
【氏名】西岡 浩樹
(57)【要約】
【課題】還元材比を低減することが可能な、焼結鉱の粒度分布の調整方法を提供する。
【解決手段】鉱石層の形成に用いる装入用焼結鉱の粒度分布の調整方法であって、装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが基準値Sに近づくように装入用焼結鉱の粒度分布を調整することを含み、基準値Sを定めるための検討用焼結鉱からなる検討用焼結鉱充填層の圧力損失が所定値に達したときの検討用焼結鉱充填層の融着開始時還元率Rs
*と、融着開始時還元率Rs
*の取得に用いた検討用焼結鉱の調和平均粒径Dpと、の関係を示すRs
*-Dp曲線において、融着開始時還元率Rs
*が最大値となる調和平均粒径Dpとして、基準値Sが定められることを特徴とする、焼結鉱の粒度分布の調整方法。
【選択図】
図6c
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱石層の形成に用いる装入用焼結鉱の粒度分布の調整方法であって、
前記装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが基準値Sに近づくように前記装入用焼結鉱の粒度分布を調整することを含み、
前記基準値Sを定めるための検討用焼結鉱からなる検討用焼結鉱充填層の圧力損失が所定値に達したときの前記検討用焼結鉱充填層の融着開始時還元率Rs*と、前記融着開始時還元率Rs*の取得に用いた前記検討用焼結鉱の調和平均粒径Dpと、の関係を示すRs*-Dp曲線において、前記融着開始時還元率Rs*が最大値となる調和平均粒径Dpとして、前記基準値Sが定められることを特徴とする、焼結鉱の粒度分布の調整方法。
【請求項2】
前記装入用焼結鉱からなる装入用焼結鉱充填層の初期空隙率ε0が、粒度分布調整前よりも粒度分布調整後の方が高くなるように、前記装入用焼結鉱の前記粒度分布を調整することを特徴とする、請求項1に記載の焼結鉱の粒度分布の調整方法。
【請求項3】
前記融着開始時還元率Rs*の最大値が極大値であることを特徴とする請求項2に記載の焼結鉱の粒度分布の調整方法。
【請求項4】
粒度分布調整前の前記装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが前記基準値Sを超えている場合、粒度分布調整後の前記装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpaが前記基準値S以上となるように、前記装入用焼結鉱の前記粒度分布を調整すること特徴とする請求項3に記載の焼結鉱の粒度分布の調整方法。
【請求項5】
所定粒径を超える粗粒焼結鉱の割合を減少させて前記装入用焼結鉱の前記粒度分布を調整することを特徴とする、請求項4に記載の焼結鉱の粒度分布の調整方法。
【請求項6】
粒度分布調整前の前記装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが前記基準値S未満である場合、粒度分布調整後の前記装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpaが前記基準値S以下となるように、前記装入用焼結鉱の前記粒度分布を調整すること特徴とする請求項3に記載の焼結鉱の粒度分布の調整方法。
【請求項7】
所定粒径未満の細粒焼結鉱の割合を減少させて前記装入用焼結鉱の前記粒度分布を調整することを特徴とする、請求項6に記載の焼結鉱の粒度分布の調整方法。
【請求項8】
粒度分布調整後の前記装入用焼結鉱の調和平均粒径Dp
aが下記式(1)を満足するように、前記装入用焼結鉱の前記粒度分布を調整することを特徴とする請求項3から7の何れか一項に記載の焼結鉱の粒度分布の調整方法。
【数1】
上記式(1)において、Sは、基準値[mm]を示し、Dp
aは、粒度分布を調整した後の前記装入用焼結鉱の調和平均粒径[mm]を示す。
【請求項9】
前記基準値Sが12mmであることを特徴とする請求項1から8の何れか一項に記載の焼結鉱の粒度分布の調整方法。
【請求項10】
前記検討用焼結鉱からなる前記検討用焼結鉱充填層の前記融着開始時還元率Rs*は、前記装入用焼結鉱が装入される高炉における、(a)前記装入用焼結鉱からなる装入用焼結鉱充填層の充填状態、(b)前記装入用焼結鉱充填層の温度、(c)前記装入用焼結鉱充填層に流れる還元ガスの組成及び流量、並びに(d)前記装入用焼結鉱充填層にかかる荷重、のうちの一つ以上を用いて取得されることを特徴とする、請求項1から9の何れか一項に記載の焼結鉱の粒度分布の調整方法。
【請求項11】
請求項4に記載の調整方法で粒度分布が調整される前記装入用焼結鉱に関する前記融着開始時還元率Rs
*の変化量ΔRs
*を、下記式(2)に基づいて推定することを特徴とする、変化量ΔRs
*の推定方法。
【数2】
上記式(2)において、ΔRs
*は、粒度分布の調整前後における前記装入用焼結鉱に関する前記融着開始時還元率Rs
*の変化量[%]を示し、C
1は、前記検討用焼結鉱の前記調和平均粒径Dpが前記基準値S以上の範囲内における、前記検討用焼結鉱の前記調和平均粒径Dpに対する前記検討用焼結鉱の前記融着開始時還元率Rs
*の変化率[%/mm]を示し、ΔDpは、粒度分布の調整前後における前記装入用焼結鉱の前記調和平均粒径Dpの変化量[mm]を示し、D
1は、前記検討用焼結鉱の初期空隙率ε
0に対する前記検討用焼結鉱の前記融着開始時還元率Rs
*の変化率[%/-]を示し、Δε
0は、粒度分布の調整前後における前記装入用焼結鉱に関する前記初期空隙率ε
0の変化量[-]を示す。
【請求項12】
前記基準値Sが12であり、
前記C1が-1.2であり、
前記D1が150である、
ことを特徴とする請求項11に記載の変化量ΔRs*の推定方法。
【請求項13】
請求項6に記載の調整方法で粒度分布が調整される前記装入用焼結鉱に関する前記融着開始時還元率Rs
*の変化量ΔRs
*を、下記式(3)に基づいて推定することを特徴とする、変化量ΔRs
*の推定方法。
【数3】
上記式(3)において、ΔRs
*は、粒度分布の調整前後における前記装入用焼結鉱に関する前記融着開始時還元率Rs
*の変化量[%]を示し、C
2は、前記検討用焼結鉱の前記調和平均粒径Dpが前記基準値S以下の範囲内における、前記検討用焼結鉱の前記調和平均粒径Dpに対する前記検討用焼結鉱の前記融着開始時還元率Rs
*の変化率[%/mm]を示し、ΔDpは、粒度分布の調整前後における前記装入用焼結鉱の前記調和平均粒径Dpの変化量[mm]を示し、D
2は、前記検討用焼結鉱の初期空隙率ε
0に対する前記検討用焼結鉱の前記融着開始時還元率Rs
*の変化率[%/-]を示し、Δε
0は、粒度分布の調整前後における前記装入用焼結鉱に関する前記初期空隙率ε
0の変化量[-]を示す。
【請求項14】
前記基準値Sが12であり、
前記C2が1.2であり、
前記D2が150である、
ことを特徴とする請求項13に記載の変化量ΔRs*の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結鉱の粒度分布を調整する方法、及び粒度分布の調整前後における焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*の変化量ΔRs*を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉には、炉頂部から鉄含有原料としての鉱石原料(焼結鉱、ペレット、塊鉱石など)と、還元材および燃料としてのコークスが交互に装入され、炉下部の羽口から熱風が送風されるとともに、微粉炭などの補助燃料が吹き込まれる。炉頂部から装入された鉱石原料およびコークス(以下、総称して「装入物」ともいう)は、それぞれ交互に積層する鉱石層およびコークス層を形成する。鉱石原料およびコークスは、高炉内での荷下がりにしたがって、徐々に高炉内を炉下部に向かって降下しながら、炉下部から上昇するガスにより加熱され、昇温される。
【0003】
高炉内で加熱、還元されながら降下する鉱石原料は、炉下部に到達すると軟化、融着を開始し、鉱石融着層を形成する。鉱石融着層では、鉱石原料間の空隙が減少し、ガスの通気性が悪化する。このため、ガスは、鉱石融着層間のコークス層を通過して、炉頂に向かい上昇する。従って、融着帯の形状は、高炉の通気性に与える影響が極めて大きい。なお、融着帯とは、高炉内で鉱石融着層が存在する領域(鉱石融着層間のコークス層を含む)をいう。
【0004】
鉱石原料の高温性状は、融着帯の形状を決定する重要な要因のひとつである。そこで、従来は、荷重軟化試験により求められる、融着開始時還元率(Rs)や、融着開始温度(Ts)や、滴下開始温度(Td)、あるいはその差(ΔT=Td-Ts)等の指標によって鉱石原料の高温性状を評価してきた(非特許文献1)。
【0005】
その他にも、鉱石原料の高温性状を評価する指標(以下、「高温性状評価指標」ともいう)として、S値(焼結鉱を加熱還元して得られる時間-圧損曲線において、圧損が200mmH2O以上である部分の面積)が知られている。特許文献1では、焼結鉱を高温性状(S値)により2種類に分け、高温性状の劣る焼結鉱を下部層として装入し、その上部に高温性状の優れた焼結鉱を上部層として装入することで、鉱石層全体の被還元性を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】鉄と鋼 第83巻(1997年) 第97~102頁
【非特許文献2】鉄と鋼 第77巻(1991年) 第1561~1568頁
【非特許文献3】鉄と鋼 第80巻(1994年) 第431~439頁
【非特許文献4】鉄と鋼 第98巻(2012年) 第431~439頁
【非特許文献5】鉄と鋼 第66巻(1980年) 第1908~1917頁
【非特許文献6】鉄と鋼 第100巻(2014年) 第270~276頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、還元材比を低減することが可能な、焼結鉱の粒度分布の調整方法を提供することを目的とする。また、本発明は、粒度分布の調整前後における焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*の変化量ΔRs*を推定する方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る鉱石層の形成に用いる装入用焼結鉱の粒度分布の調整方法は、(1)前記装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが基準値Sに近づくように前記装入用焼結鉱の粒度分布を調整することを含み、前記基準値Sを定めるための検討用焼結鉱からなる検討用焼結鉱充填層の圧力損失が所定値に達したときの前記検討用焼結鉱充填層の融着開始時還元率Rs*と、前記融着開始時還元率Rs*の取得に用いた前記検討用焼結鉱の調和平均粒径Dpと、の関係を示すRs*-Dp曲線において、前記融着開始時還元率Rs*が最大値となる調和平均粒径Dpとして、前記基準値Sが定められることを特徴とする。
【0010】
(2)前記装入用焼結鉱からなる装入用焼結鉱充填層の初期空隙率ε0が、粒度分布調整前よりも粒度分布調整後の方が高くなるように、前記装入用焼結鉱の前記粒度分布を調整することを特徴とする(1)に記載の粒度分布の調整方法。
【0011】
(3)前記融着開始時還元率Rs*の最大値が極大値であることを特徴とする(2)に記載の粒度分布の調整方法。
【0012】
(4)粒度分布調整前の前記装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが前記基準値Sを超えている場合、粒度分布調整後の前記装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpaが前記基準値S以上となるように、前記装入用焼結鉱の前記粒度分布を調整すること特徴とする(3)に記載の粒度分布の調整方法。
【0013】
(5)所定粒径を超える粗粒焼結鉱の割合を減少させて前記装入用焼結鉱の前記粒度分布を調整することを特徴とする、(4)に記載の粒度分布の調整方法。
【0014】
(6)粒度分布調整前の前記装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが前記基準値S未満である場合、粒度分布調整後の前記装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpaが前記基準値S以下となるように、前記装入用焼結鉱の前記粒度分布を調整すること特徴とする(3)に記載の粒度分布の調整方法。
【0015】
(7)所定粒径未満の細粒焼結鉱の割合を減少させて前記装入用焼結鉱の前記粒度分布を調整することを特徴とする、(6)に記載の粒度分布の調整方法。
【0016】
(8)粒度分布調整後の前記装入用焼結鉱の調和平均粒径Dp
aが下記式(1)を満足するように、前記装入用焼結鉱の前記粒度分布を調整することを特徴とする(3)から(7)の何れか一つに記載の粒度分布の調整方法。
【数1】
上記式(1)において、Sは、基準値[mm]を示し、Dp
aは、粒度分布を調整した後の前記装入用焼結鉱の調和平均粒径[mm]を示す。
【0017】
(9)前記基準値Sが12mmであることを特徴とする(1)から(8)の何れか一つに記載の粒度分布の調整方法。
【0018】
(10)前記検討用焼結鉱からなる前記検討用焼結鉱充填層の前記融着開始時還元率Rs*は、前記装入用焼結鉱が装入される高炉における、(a)前記装入用焼結鉱からなる装入用焼結鉱充填層の充填状態、(b)前記装入用焼結鉱充填層の温度、(c)前記装入用焼結鉱充填層に流れる還元ガスの組成及び流量、並びに(d)前記装入用焼結鉱充填層にかかる荷重、のうちの一つ以上を用いて取得されることを特徴とする、(1)から(9)の何れか一項に記載の粒度分布の調整方法。
【0019】
(11)(4)に記載の調整方法で粒度分布が調整される前記装入用焼結鉱に関する前記融着開始時還元率Rs
*の変化量ΔRs
*を、下記式(2)に基づいて推定することを特徴とする、変化量ΔRs
*の推定方法。
【数2】
上記式(2)において、ΔRs
*は、粒度分布の調整前後における前記装入用焼結鉱に関する前記融着開始時還元率Rs
*の変化量[%]を示し、C
1は、前記検討用焼結鉱の前記調和平均粒径Dpが前記基準値S以上の範囲内における、前記検討用焼結鉱の前記調和平均粒径Dpに対する前記検討用焼結鉱の前記融着開始時還元率Rs
*の変化率[%/mm]を示し、ΔDpは、粒度分布の調整前後における前記装入用焼結鉱の前記調和平均粒径Dpの変化量[mm]を示し、D
1は、前記検討用焼結鉱の初期空隙率ε
0に対する前記検討用焼結鉱の前記融着開始時還元率Rs
*の変化率[%/-]を示し、Δε
0は、粒度分布の調整前後における前記装入用焼結鉱に関する前記初期空隙率ε
0の変化量[-]を示す。
【0020】
(12)前記基準値Sが12であり、前記C1が-1.2であり、前記D1が150である、ことを特徴とする(11)に記載の変化量ΔRs*の推定方法。
【0021】
(13)(6)に記載の調整方法で粒度分布が調整される前記装入用焼結鉱に関する前記融着開始時還元率Rs
*の変化量ΔRs
*を、下記式(3)に基づいて推定することを特徴とする、変化量ΔRs
*の推定方法。
【数3】
上記式(3)において、ΔRs
*は、粒度分布の調整前後における前記装入用焼結鉱に関する前記融着開始時還元率Rs
*の変化量[%]を示し、C
2は、前記検討用焼結鉱の前記調和平均粒径Dpが前記基準値S以下の範囲内における、前記検討用焼結鉱の前記調和平均粒径Dpに対する前記検討用焼結鉱の前記融着開始時還元率Rs
*の変化率[%/mm]を示し、ΔDpは、粒度分布の調整前後における前記装入用焼結鉱の前記調和平均粒径Dpの変化量[mm]を示し、D
2は、前記検討用焼結鉱の初期空隙率ε
0に対する前記検討用焼結鉱の前記融着開始時還元率Rs
*の変化率[%/-]を示し、Δε
0は、粒度分布の調整前後における前記装入用焼結鉱に関する前記初期空隙率ε
0の変化量[-]を示す。
【0022】
(14)前記基準値Sが12であり、前記C2が1.2であり、前記D2が150である、ことを特徴とする(13)に記載の変化量ΔRs*の推定方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、還元材比を低減することが可能な、焼結鉱の粒度分布の調整方法を提供することができる。また、本発明によれば、粒度分布の調整前後における焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*の変化量ΔRs*を推定する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】Rs
*推定モデルの概要を説明する図である。
【
図2a】焼結鉱充填層の温度変化を示すグラフである。
【
図2b】焼結鉱充填層にかかる荷重の変化を示すグラフである。
【
図2c】焼結鉱充填層を流れる還元ガスの流量変化を示すグラフである。
【
図2d】焼結鉱充填層を流れる還元ガスの組成変化を示すグラフである。
【
図2e】焼結鉱充填層を流れる還元ガスの組成変化を示すグラフである。
【
図2f】焼結鉱充填層に流れる還元ガスの圧力変化を示すグラフである。
【
図3】融着開始時還元率Rs
*を推定する手順を示すフローチャートである。
【
図4】X線CT画像を用いた解析方法を説明する図である。
【
図5a】焼結鉱充填層の温度変化を示すグラフである。
【
図5b】焼結鉱充填層を流れる還元ガスの組成変化を示すグラフである。
【
図5c】焼結鉱充填層にかかる荷重の変化を示すグラフである。
【
図6a】融着開始温度Ts
*と調和平均粒径Dpとの関係を示すグラフである。
【
図6b】還元率R
1200と調和平均粒径Dpとの関係を示すグラフである。
【
図6c】融着開始時還元率Rs
*と調和平均粒径Dpとの関係を示すグラフである。
【
図7a】焼結+25mm割合と初期空隙率ε
0との関係、及び焼結+25mm割合と調和平均粒径Dpとの関係を示すグラフである。
【
図7b】還元材比と還元材比の算出時に使用された焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs
*との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、本発明を完成するに至った経緯を説明する。
【0026】
従来、鉱石原料の高温性状を評価する指標(高温性状評価指標)には、融着開始温度Tsや融着開始時還元率Rsなどが用いられてきた。融着開始温度Tsと融着開始時還元率Rsは、それぞれ、鉱石層で生じる圧力損失が所定値を示した際の温度(鉱石層の温度)と還元率(鉱石層の還元率)と定義され、非特許文献1に示す試験条件下において、高温性状試験装置を用いて鉱石原料を還元することで求められる。なお、所定値は、鉱石融着層が形成されたときの圧力損失を表す。
【0027】
一方、高炉では、(a)鉱石層の充填状態(粒径(調和平均粒径)、空隙率、装入層厚、多種原料の混合装入など)、(b)鉱石層の温度、(c)鉱石層を流れる還元ガスの組成及び流量、並びに(d)鉱石層にかかる荷重が、高炉操業条件によって異なり、これらに含まれる条件(以下、「高温性状関連条件」ともいう)は、鉱石原料の高温性状に影響を及ぼす。このため、鉱石原料の高温性状評価指標には、評価対象の鉱石原料が装入される高炉の高温性状関連条件のうちのひとつ、あるいは複数の影響が反映されることが好ましい。しかしながら、非特許文献1に記載される方法で求められる融着開始温度Tsと融着開始時還元率Rsは、これらの影響が反映されにくい。例えば、非特許文献1では、融着開始時還元率Rsは、10~15mmに整粒した焼結鉱について測定される。
【0028】
本発明者等は、この知見に基づいて検討を行った。その結果、新たな高温性状評価指標である鉱石層の融着開始温度(以下、「融着開始温度Ts*」ともいう)及び鉱石層の融着開始時還元率(以下、「融着開始時還元率Rs*」ともいう)を見出した。融着開始温度Ts*は、鉱石層の圧力損失が所定値に達したときの温度(鉱石層の温度)であって、高温性状関連条件を用いて求められる温度である。また、融着開始時還元率Rs*は、鉱石層の圧力損失が所定値に達したときの鉱石層の還元率であって、高温性状関連条件を用いて求められる還元率である。
【0029】
なお、融着開始温度Ts*および融着開始時還元率Rs*は、鉱石原料についてではなく、鉱石層について求められる高温性状評価指標である。融着開始温度Ts*と融着開始時還元率Rs*を求めるために用いられる所定値は、鉱石融着層が形成されたときの圧力損失(またはその勾配)であり、例えば、200×9.8Paや50kPa/mとすることができる。融着開始温度Ts*及び融着開始時還元率Rs*の詳細は後述する。
【0030】
本発明者等は、融着開始温度Ts*及び融着開始時還元率Rs*についてさらに検討を進め、上述した(a)鉱石層の充填状態(粒径(調和平均粒径)、空隙率、装入層厚、多種原料の混合装入など)のうちの粒径に着目した。鉱石原料の粒径を小さくすると、還元ガスとの接触面積が増加するため、鉱石原料の還元速度は上昇する。これは融着開始時還元率Rs*の上昇に寄与する。一方で、還元ガスとの接触面積が増加すると鉱石層の圧力損失が上昇する。このため、接触面積の増加が進むと、融着開始温度Ts*が低下し始める。融着開始温度Ts*の低下は、融着開始時還元率Rs*を低下させる要因となりうる。すなわち、粒径の変化に対して還元性と通気性はトレードオフの関係で変化する。本発明者等は、この知見に基づき、鉱石原料の一つである焼結鉱について、高温性状の観点から、高炉の操業において適切な粒度分布を明らかにすることを考えた。
【0031】
そこで、本発明者等は、後述する通り、焼結鉱のみにより形成した鉱石層(以下、「焼結鉱充填層」ともいう)を用いて、融着開始時還元率Rs*と焼結鉱の調和平均粒径Dpの関係について検討を行った。その結果、焼結鉱の調和平均粒径Dpが後述する基準値Sに近づくように、焼結鉱の粒度分布を調整することで、その焼結鉱を用いて形成した鉱石層の融着開始時還元率Rs*が上昇し、還元材比を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。以下、基準値Sを定めるための焼結鉱を「検討用焼結鉱」という場合がある。
【0032】
なお、本明細書において、鉱石層は、高炉内に形成された粒子充填層のうち、鉱石原料を含む層を指し、鉱石原料は、鉄分を50質量%以上含有する原料を指す。具体的な鉱石原料としては、例えば、焼結鉱、ペレット及び塊鉱石を挙げることができる。また、本明細書において、鉱石融着層は、鉱石原料が軟化及び/又は融着している鉱石層を指し、融着帯とは、高炉内で鉱石融着層が存在する領域(鉱石融着層間のコークス層を含む)を指す。
【0033】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0034】
本実施形態の調整方法は、焼結鉱の粒度分布を調整する方法である。本実施形態の調整方法で粒度分布が調整された焼結鉱は、鉱石層の形成に用いられる。以下、粒度分布が調整され、鉱石層を形成する焼結鉱を「装入用焼結鉱」という場合がある。
【0035】
なお、鉱石層は、本実施形態の調整方法で粒度分布を調整した装入用焼結鉱のみにより形成されている必要は無く、装入用焼結鉱の他に、焼結鉱以外の鉱石原料や、コークスや、フェロコークスや、副原料などの他の原料を含んで形成されてもよい。
【0036】
本実施形態の調整方法は、以下に示す第1の条件を満足するように装入用焼結鉱の粒度分布を調整する。
【0037】
第1の条件は、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱(つまり、粒度分布調整前の装入用焼結鉱)の調和平均粒径Dpが、装入用焼結鉱の粒度分布を調整することで基準値Sに近づくという条件である。
【0038】
本実施形態において、装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpは、下記式(4)で定義される。
【数4】
上記式(4)において、Dpは、調和平均粒径[mm]を示し、nは、篩い分けに用いた篩の数[-]を示し、W
iは、粒径範囲iの装入用焼結鉱の質量比率[-]を示し、D
iは、粒径範囲iの代表径[mm]を示す。代表径D
iは、各篩の篩目の間隔を考慮して決定される値であり、例えば、篩目の間隔の中間粒径を用いることができる。
【0039】
ここで、調和平均粒径Dpが基準値Sに近づくとは、調和平均粒径Dpと基準値Sの差の絶対値が小さくなることを意味し、この絶対値が小さくなれば、基準値Sを超える調和平均粒径Dpが、粒度分布の調整により基準値S未満になってもよく、基準値S未満である調和平均粒径Dpが、粒度分布の調整により基準値Sを超えてもよい。
【0040】
本実施形態の調整方法において、粒度分布の調整は、粒径範囲iの装入用焼結鉱の割合(質量比率)を変化させることで行うことができる。例えば、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが基準値Sを超える場合、所定粒径を超える粗粒焼結鉱の割合を減少していくことで、第1の条件を満足する粒度分布の調整を行うことができる。なお、前述した所定粒径は、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpを超える粒径であり、一例としては、50mmである。また、例えば、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが基準値S未満である場合、所定粒径未満の細粒焼結鉱の割合を減少していくことで、第1の条件を満足する粒度分布の調整を行うことができる。なお、前述した所定粒径は、調和平均粒径Dp未満の粒径であり、一例としては、5mmである。
【0041】
次に、調和平均粒径Dpを近づける対象である基準値Sについて具体的に説明する。
【0042】
基準値Sは、検討用焼結鉱からなる検討用焼結鉱充填層の圧力損失が所定値に達したときの検討用焼結鉱充填層の還元率Rs*(融着開始時還元率Rs*)と、その融着開始時還元率Rs*の取得に用いた検討用焼結鉱の調和平均粒径Dpとの関係を示す曲線(以下、「Rs*-Dp曲線」ともいう)において、融着開始時還元率Rs*が最大値となる調和平均粒径Dpである。
【0043】
基準値Sは、後述する荷重軟化試験の試験条件やRs*推定モデルの入力条件によって異なることがあり一義的に定めることはできないが、例えば、12[mm]とすることができる。なお、Rs*-Dp曲線は直線として取得されてもよい。
【0044】
Rs*-Dp曲線の取得には、荷重軟化試験による測定値か、あるいは数学モデルによる計算が用いられる。計算方法としては、例えば、高温性状関連条件である(a)焼結鉱充填層の充填状態、(b)焼結鉱充填層の温度、(c)焼結鉱充填層を流れる還元ガスの組成及び流量、並びに(d)焼結鉱充填層にかかる荷重を入力条件として使用して焼結鉱充填層の融着開始時還元率Rs*を算出するモデル(以下、「Rs*推定モデル」ともいう)が用いられる。より具体的には、検討用焼結鉱の調和平均粒径Dpのみ異なる複数種類の入力条件をRs*推定モデルにそれぞれ入力し、入力条件毎に検討用焼結鉱充填層の融着開始時還元率Rs*を算出し、算出された融着開始時還元率Rs*と、その融着開始時還元率Rs*の算出に用いた検討用焼結鉱の調和平均粒径Dpをグラフにプロットしていくことで取得できる。
【0045】
高温性状関連条件(a)焼結鉱充填層の充填状態について、装入用焼結鉱と検討用焼結鉱とは、空隙率その他の性状が必ずしも同程度である必要は無く、検討用焼結鉱として一般的な性状を有する焼結鉱を用いてもよい。本発明者等の検討によれば、空隙率その他の性状が異なる焼結鉱であっても、調和平均粒径Dpの変化に対する融着開始時還元率Rs*の応答は同様とみなせ、装入用焼結鉱と検討用焼結鉱とで性状を統一しなくても感度解析ができるためである。また、粒度分布の調整前後における装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*の変化量ΔRs*を求めるための、調和平均粒径Dpに対する融着開始時還元率Rs*の変化率C1及びC2(後述)、並びに、初期空隙率ε0に対する融着開始時還元率Rs*の変化率D1及びD2(後述)は、装入用焼結鉱と検討用焼結鉱とで性状を統一しなくても、十分な信頼性をもって求められる。
【0046】
装入用焼結鉱と検討用焼結鉱とは、上記(a)の各条件(空隙率その他の性状)が近くなるものほど好ましく、上記(a)の各条件が同一になるものであることが最も好ましい。言い換えれば、入力条件として用いる上記(a)には、(a)装入用焼結鉱からなる装入用焼結鉱充填層の充填状態を用いることが最も好ましい。装入用焼結鉱と検討用焼結鉱との間において、上記(a)の各条件が近付くほど、Rs*推定モデルにより算出される融着開始時還元率Rs*には、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱が装入される高炉(以下、「対象高炉」ともいう)の高温性状関連条件の影響がより反映される。従って、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱の対象高炉内における高温性状をより反映した融着開始時還元率Rs*を得ることができる。
【0047】
以下、Rs*推定モデルについて具体的に説明する。
【0048】
(Rs*推定モデルの概要)
Rs*推定モデルでは、まず、検討用焼結鉱が高炉に装入された直後の一層分の検討用焼結鉱充填層を、層高方向に並ぶ複数の領域(後述する計算格子で区画された領域(以下、「計算セル」ともいう))に区画する。次に、計算セル毎に、検討用焼結鉱の還元率、検討用焼結鉱充填層の収縮率、及び検討用焼結鉱充填層で生じる圧力損失を推定する。還元率、収縮率及び圧力損失の推定には、(a)検討用焼結鉱充填層の充填状態、(b)検討用焼結鉱充填層の温度、(c)検討用焼結鉱充填層を流れる還元ガスの組成及び流量、並びに(d)検討用焼結鉱充填層にかかる荷重を、入力条件として用いる。
【0049】
上述した通り、入力条件として用いられる(a)には、(a)装入用焼結鉱充填層の充填状態を用いることが最も好ましいが、入力条件として用いられる(a)のうちの一部の条件のみが、(a)装入用焼結鉱充填層の充填状態と同一であっても、対象高炉の高温性状関連条件の影響を融着開始時還元率Rs*に反映することができる。例えば、入力条件として用いられる(a)のうちの調和平均粒径として、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱の粒度分布から求められる調和平均径を用いたり、入力条件として用いられる(a)のうちの空隙率として、装入用焼結鉱の粒度分布から求められる空隙率を用いたりすることで、対象高炉の高温性状関連条件の影響を融着開始時還元率Rs*に反映することができる。
【0050】
そして、これらの入力条件を用いて推定した還元率、収縮率及び圧力損失に基づき、検討用焼結鉱充填層の融着開始時還元率Rs*を推定する。具体的な推定方法としては、基準時からの所定時間t(演算周期Δtに推定回数を乗じた時間)が経過したときの各計算セルについて、還元率、収縮率、及び圧力損失を推定するとともに、検討用焼結鉱充填層における圧力損失が所定値に到達するまで、その推定を繰り返す。そして、推定した圧力損失が所定値に達した時の検討用焼結鉱充填層の平均還元率を、融着開始時還元率Rs*として推定する。基準時は、検討用焼結鉱充填層が高炉内に形成されたとき(言い換えれば、焼結鉱が装入された直後)や、還元が始まる温度帯まで検討用焼結鉱充填層が降下したときとすることができる。還元が始まる温度は例えば500℃とすることができる。
【0051】
(入力条件)
還元率、収縮率及び圧力損失の推定に用いられる入力条件は、還元率、収縮率及び圧力損失を推定するために使用される条件であり、これらの推定式に直接入力される条件と、推定式に入力する条件を得るための条件の両方を含む概念である。
【0052】
図1に具体的な入力条件を示す。まず、
図1に示す入力条件のうち、(a)焼結鉱充填層の充填状態について説明する。充填状態は、検討用焼結鉱充填層に含まれる検討用焼結鉱の初期充填状態(つまり、検討用焼結鉱充填層を構成する検討用焼結鉱が高炉に装入された直後の充填状態)を示すものであり、具体的には、検討用焼結鉱の見かけ密度,検討用焼結鉱の調和平均粒径,検討用焼結鉱の形状係数,検討用焼結鉱の化学組成,軟化収縮パラメータ,検討用焼結鉱の体積比率を示す初期配合比(つまり、100%),検討用焼結鉱充填層の初期空隙率、検討用焼結鉱充填層の初期層高が挙げられる。なお、本明細書において軟化収縮パラメータとは、後述する推定式で用いられる、定数η
0、係数c
1~c
6、係数α、係数β、定数γをいう。
【0053】
上記(a)の各条件には、検討用焼結鉱充填層を試験装置に形成して得られる結果や、公知の数学モデルに基づいて求められる検討用焼結鉱充填層の充填状態を用いることができる。例えば、検討用焼結鉱充填層の初期空隙率は、非特許文献2に記載の後述する式(22)を用いることで、粒度分布(粒径等)から取得することができる。
【0054】
次に、
図1に示す入力条件うち、(b)焼結鉱充填層の温度、(c)焼結鉱充填層を流れる還元ガスの組成及び流量、(d)焼結鉱充填層にかかる荷重、並びに(e)還元ガスの圧力について説明する。ここで、焼結鉱充填層の温度とは、還元率,収縮率及び圧力損失を推定する対象の検討用焼結鉱充填層(以下、「推定対象の焼結鉱充填層」ともいう)の温度を示す。還元ガスの組成とは、推定対象の焼結鉱充填層に流れる還元ガスの組成を示す。還元ガスの流量とは、推定対象の焼結鉱充填層に流れる還元ガスの流量を示す。焼結鉱充填層にかかる荷重とは、推定対象の焼結鉱充填層にかかる荷重を示す。還元ガスの圧力とは、推定対象の焼結鉱充填層に流れる還元ガスの圧力を示す。
【0055】
これらの入力条件は、焼結鉱充填層が高炉内を降下する過程で変化することのある条件である。このため、検討用焼結鉱充填層が高炉内を降下する過程における、これらの入力条件の変化を表す情報を予め用意しておくことが好ましい。還元率、収縮率及び圧力損失を推定する際は、これらの情報の中から、基準時から所定時間tが経過したとき(以下、単に「所定時間tが経過したとき」ともいう)の値を選択して入力条件として用いる。
【0056】
具体的な情報としては、経過時間に応じた検討用焼結鉱充填層の温度変化を示す昇温パターンや、検討用焼結鉱充填層の温度変化に応じた荷重の変化を示す荷重パターンや、検討用焼結鉱充填層の温度変化に応じたガス流量の変化を示す流量パターンや、検討用焼結鉱充填層の温度変化に応じた還元ガス組成の変化を示す組成パターンや、経過時間に応じた還元ガスの圧力変化を示す圧力パターンが挙げられる。
【0057】
これらの情報には、過去の操業実績から得られた情報や、公知の情報を用いることができる。一例としては、昇温パターンには、
図2aに示す昇温パターン、荷重パターンには、
図2bに示す荷重パターン、流量パターンには、
図2cに示す流量パターン、組成パターンには、
図2dや
図2eに示す組成パターン、圧力パターンには、
図2fに示す圧力パターンを用いることができる。
【0058】
図1に示す入力条件のうち、上記(b)~(d)には、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱が装入される高炉(対象高炉)とは異なる一般的な高炉の条件が用いられてもよいが、対象高炉の条件が用いられることが好ましい。つまり、本実施形態の調整方法では、入力条件として用いる上記(b)~(d)として、(b)装入用焼結鉱充填層の温度、(c)装入用焼結鉱充填層に流れる還元ガスの組成及び流量、並びに、(d)装入用焼結鉱充填層にかかる荷重、のうちの一つ以上の条件を用いて融着開始時還元率Rs
*を算出することが好ましい。上記(b)~(d)の少なくとも一つに対象高炉内における装入用焼結鉱充填層の条件が用いられることにより、Rs
*推定モデルにより算出される融着開始時還元率Rs
*には、対象高炉の高温性状関連条件の影響が反映される。このため、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱の対象高炉内における高温性状をより正確に評価した融着開始時還元率Rs
*を得ることができる。
【0059】
次に、上述した入力条件を用いて、還元率、収縮率及び圧力損失を推定する方法を、
図3を用いて説明する。
図3は、融着開始時還元率Rs
*を推定する手順を示すフローチャートである。
【0060】
(計算格子の設定)
ステップS101(計算格子設定ステップ)の処理では、高炉内の1層分の検討用焼結鉱充填層を、層高方向に並ぶ任意の数の領域に区画する計算格子を設定する。計算格子により区画される領域(計算セル)は、還元率,収縮率及び圧力損失の推定対象となる領域であり、計算セル毎に入力条件として充填状態が設定され、還元率,収縮率及び圧力損失が出力される。
【0061】
(鉱石の還元挙動)
ステップS102(還元率計算ステップ)の処理では、所定時間tが経過したときの検討用焼結鉱充填層に含まれる検討用焼結鉱の還元率を計算セル毎に求める。
【0062】
所定時間tが経過したときの計算セルにおける還元率は、例えば、非特許文献3に記載の3界面未反応核モデルに基づいて求めることができ、下記式(5)を用いて推定することができる。
【0063】
【数5】
上記式(5)において、Fは所定時間tが経過したときのi番目(i=1~区画数)の計算セルの検討用焼結鉱の還元率[%]を示し、ρ
o
(s)はs相の被還元酸素の見掛けモル濃度[molO/m
3]を示し、ρ
o
(t)はt相の被還元酸素の見掛けモル濃度[molO/m
3]を示し、ρ
o
(h)はh相の被還元酸素の見掛けモル濃度[molO/m
3]を示し、r
0は検討用焼結鉱(擬似球体)の中心から表面までの半径[m]を示し、r
(s/t)は検討用焼結鉱(擬似球体)の中心からs/t界面までの半径[m]を示す。ここで、s相及びt相の関係としては、h相(ヘマタイト)及びm相(マグネタイト)と、m相(マグネタイト)及びw相(ウスタイト)と、w相(ウスタイト)と全鉄(Fe)相との関係がある。以下、同様である。
【0064】
上記式(5)における、s/t界面までの半径r(s/t)は、下記式(6)により求めることができる。
【0065】
【数6】
上記式(6)において、r
(s/t)は検討用焼結鉱(擬似球体)の中心からs/t界面までの半径[m]を示し、k
c
(s/t)はs/t界面の化学反応速度定数[m/s]を示し、ρ
o
(s)はs相の被還元酸素の見掛けモル濃度[molO/m
3]を示し、ρ
o
(t)はt相の被還元酸素の見掛けモル濃度[molO/m
3]を示し、K
(s/t)はs/t界面の平衡定数を示し、C
H2i
(s/t)は界面における水素ガス濃度[molH
2/m
3]を示し、C
H2e
(s/t)は界面における平衡水素ガス濃度[molH
2/m
3]を示す。
【0066】
ここで、還元ガスは、焼結鉱充填層を通過する間にその組成が変化することがある。このため、還元ガスの流れの上流側に位置する焼結鉱充填層の領域と、還元ガスの流れの下流側に位置する焼結鉱充填層の領域で、異なる組成の還元ガスが通過することがある。従って、検討用焼結鉱充填層について還元率を推定する場合には、還元ガスの流れの上流側に位置する計算セルで、還元率とともに還元ガスの組成変化を推定し、還元ガスの流れの下流側に位置する計算セルでは、組成変化後の還元ガスの組成を用いて還元率を推定してもよい。
【0067】
還元ガスの組成変化を考慮して還元率を推定するには、例えば、非特許文献3を用いることができる。還元ガスの組成変化を考慮して還元率を求める好ましい方法としては、一次元の非定常反応速度解析を挙げることができる。一次元の非定常反応速度解析は、例えば、非特許文献4に記載されている。
【0068】
なお、検討用焼結鉱充填層内における還元ガスの組成変化を推定して検討用焼結鉱充填層の還元率を求める方法は、一次元の非定常反応速度解析に限定されない。他の還元反応速度解析の方法としては、例えば、2次元、3次元の非定常反応速度解析を実施しても良い。また、検討用焼結鉱の還元反応速度を求めて各計算セルの還元率を推定する方法も、3界面未反応核モデルに限定されない。他の還元反応モデルとしては、多段反応帯モデルやグレインモデル等が適用できる。さらにまた、一次元の非定常反応速度解析や3界面未反応核モデルを用いる場合であっても、適用できる化学反応速度式は上述のものに限らず、公知の文献に開示される化学反応速度式を適宜用いればよい。
【0069】
(焼結鉱充填層の収縮挙動)
ステップS103(収縮率計算ステップ)の処理では、所定時間tが経過したときの検討用焼結鉱充填層の収縮率を、計算セル毎に求める。所定時間tが経過したときの各計算セルの収縮率は、各計算セルの収縮速度の時間積分として表すことができる。このため、検討用焼結鉱充填層が高炉内に形成されたときから所定時間tが経過したときまでの収縮速度を求めれば、所定時間tが経過したときの各計算セルの収縮率を推定できる。なお、焼結鉱の還元が開始されるまでの温度領域では焼結鉱充填層は収縮しないため、収縮率は、焼結鉱の還元が始まったときから所定時間tが経過したときまでの収縮速度を時間積分して求めてもよい。
【0070】
焼結鉱充填層の収縮挙動は、2つの温度領域(領域I及び領域II)で支配因子が異なる。このため、収縮速度の推定式は、これらの温度領域毎に別々に定めることができる。検討用焼結鉱充填層の温度が領域Iの範囲内である場合、各計算セルの収縮速度の推定式は、後述する式(7)~式(8)で表すことができる。検討用焼結鉱充填層の温度が領域IIの範囲内である場合、各計算セルの収縮速度の推定式は、後述する式(9)~式(13)で表すことができる。領域I及び領域IIを分ける境界温度は、検討用焼結鉱充填層の収縮速度が最大値を示すときの温度であって、境界温度よりも低い温度領域が領域Iとされ、境界温度よりも高い温度領域が領域IIとされる。
【0071】
領域Iでは、各計算セルの収縮速度は、下記式(7)により求めることができる。下記式(7)に示すように、領域Iにおいて、計算セルの収縮速度は焼結鉱充填層にかかる荷重に比例し、見かけの軟化粘度(装入物の収縮抵抗)に反比例する。
【0072】
【数7】
上記式(7)において、dSr
i/dtは所定時間tが経過するまでのi番目の計算セルの収縮速度[s
-1]を示し、Sr
iは所定時間tが経過したときのi番目の計算セル全体の平均収縮率[-]を示し、Wは、所定時間tが経過したときの検討用焼結鉱充填層にかかる荷重[Pa]を示し、ηは所定時間tが経過したときの検討用焼結鉱充填層に含まれる検討用焼結鉱の見かけの軟化粘度[Pa・s]を示す。
【0073】
上記式(7)における、見かけの軟化粘度ηは、下記式(8)により求めることができる。
【0074】
【数8】
上記式(8)において、ηは所定時間tが経過したときの検討用焼結鉱充填層に含まれる検討用焼結鉱の見かけの軟化粘度[Pa・s]を示し、η
0は定数[Pa・s]を示し、c
1は係数[K]を示し、Tは所定時間tが経過したときの検討用焼結鉱充填層の温度[K]を示す。
【0075】
式(8)において、定数η0及び係数c1は、例えば、荷重軟化試験により求められる見かけの軟化粘度ηを用いて、式(8)に基づき予め求めておくことができる。なお、荷重軟化試験は、高炉内における焼結鉱充填層の昇温還元挙動をシミュレートするものであり、非特許文献1に記載の荷重軟化試験を用いることができる。
【0076】
領域IIでは、各計算セルの収縮速度は、下記式(9)により求めることができる。下記式(9)に示すように、領域IIにおいて、収縮速度は融液の生成速度に比例する。また、下記式(11)に示すように、係数βは検討用焼結鉱充填層に占める金属鉄の体積割合の増加に伴い、減少する。この点から理解できるように、領域IIでは、融液生成挙動及び生成した金属鉄による骨材効果(焼結鉱の還元によって生成された金属鉄が焼結鉱充填層の収縮を阻害する効果)が、収縮速度を決める主な支配因子である。
【0077】
【数9】
上記式(9)において、dSr
i/dtは所定時間tが経過するまでのi番目の計算セルの収縮速度[s
-1]を示し、Sr
iは、所定時間tが経過したときのi番目の計算セル全体の平均収縮率[-]を示し、βは係数[-]を示し、M
SPはi番目の計算セルの検討用焼結鉱の初期質量[kg]を示し、V
0.SPはi番目の計算セルの初期体積[m
3]を示し、V
liqは、所定時間tが経過するまでのi番目の計算セルにおける検討用焼結鉱1kg当たりの融液の生成量[m
3/kg]を示す。
【0078】
上記式(9)において、初期体積V0.SPは、各計算セルの収縮前の初期体積である。また、検討用焼結鉱の初期質量MSPは、i番目の計算セルの初期体積V0.SPと、i番目の計算セルの検討用焼結鉱の体積比率(1-ε0i)と見かけ密度から求めることができる。
【0079】
上記式(9)における、融液の生成量Vliqは、下記式(10)により求めることができる。
【0080】
【数10】
上記式(10)において、V
liqは、所定時間tが経過したときのi番目の計算セルにおける検討用焼結鉱1kg当たりの融液の生成量[m
3/kg]を示し、c
2は、係数[m
3/(kg・K)]を示し、c
3は、係数[m
3/kg]を示し、c
4は、係数[m
3/kg]を示し、Tは、所定時間tが経過したときの検討用焼結鉱充填層の温度[K]を示し、R
iは、所定時間tが経過したときのi番目のセルの還元率[-]を示す。
【0081】
上記式(10)において、係数c2,c3及びc4は、熱力学平衡計算(例えば、熱力学平衡計算ソフトFactsageによる)によって予め求めておくことができる。具体的には、検討用焼結鉱を用いた際の温度T及び還元率Riを変化させたときの生成量Vliqを用いて、熱力学平衡計算すれば、温度T、還元率Ri及び生成量Vliqの関係が得られる。この関係と上記式(10)が一致するように、定数c2,c3,c4を決めることができる。
【0082】
上記式(9)における、係数βは、下記式(11)により求めることができる。
【0083】
【数11】
上記式(11)において、βは、係数[-]を示し、c
5及びc
6は、係数[-]を示し、X
Feは、所定時間tが経過したときのi番目の計算セルの金属鉄の体積割合[-]を示す。上記式(11)において、係数c
5及びc
6は、高温性状試験(例えば、非特許文献1記載の高温性状試験)を行い、予め求めておくことができる。
【0084】
上記式(11)における、金属鉄の体積割合XFeは、下記式(12)により求めることができる。
【0085】
【数12】
上記式(12)において、X
Feは、所定時間tが経過したときのi番目の計算セルの金属鉄の体積割合[-]を示し、V
Feは、所定時間tが経過したときのi番目の計算セルの金属鉄の体積[m
3]を示し、V
0.SPは、i番目の計算セルの初期体積[m
3]を示し、Sr
iは、所定時間tが経過したときのi番目の計算セルの全体の平均収縮率Sr
i[-]を示す。
【0086】
上記式(12)における、金属鉄の体積VFeは、下記式(13)により求めることができる。
【0087】
【数13】
上記式(13)において、V
Feは、所定時間tが経過したときのi番目の計算セルの金属鉄の体積[m
3]を示し、M
SPは、i番目の計算セルの検討用焼結鉱の初期質量[kg]を示し、ρ
Feは、金属鉄の密度[kg/m
3]を示し、R
iは、所定時間tが経過したときのi番目の計算セルの検討用焼結鉱の還元率[-]を示し、T.Feは、検討用焼結鉱中の総鉄量の初期割合[重量%]を示す。ここでは、軟化溶融時の検討用焼結鉱充填層における鉄の存在形態がFe及びFeOだけであると仮定し、上記式(13)を規定している。
【0088】
上記式(13)において、総鉄量の初期割合T.Feは予め求めておくことができる。
【0089】
上記式(8)、式(10)、式(11)で用いられるη0及びc1~c6は、検討用焼結鉱の組成や気孔構造等の性状に応じて決定することができる。これらの係数は、検討用焼結鉱の種類が変更されない限り変化せず、検討用焼結鉱の充填状態や還元ガスに係る条件の変更によっては変化しない。
【0090】
η0及びc1~c6は、例えば、以下の範囲から選択することができる。
η0=6.0×10-17~3.0×103
c1=1.5×104~9.0×104
c2=5.0×10-8~1.5×10-6
c3=0.0~1.5×10-4
c4=-1.0×10-3~-6.0×10-5
c5=-40~0.0
c6=0.1~10
【0091】
上述したように、各計算セルの収縮率は、上記式(7)や上記式(9)により推定される収縮速度の時間積分として表される。このため、上記式(7)や上記式(9)により推定される収縮速度を時間積分した値が、各計算セルの収縮率となる。
【0092】
(層収縮に伴う圧力損失の上昇挙動)
ステップS104(圧力損失計算ステップ)の処理では、所定時間tが経過したときの検討用焼結鉱充填層における圧力損失を、計算セル毎に求める。ステップS104で求める圧力損失は、各計算セルで生じる圧力損失[Pa]そのものであってもよいが、単位長さあたりの圧力損失[Pa/m]であってもよい。単位長さあたりの圧力損失は、Ergun式としての下記式(14)に基づき求めることができる。
【0093】
【数14】
上記式(14)において、ΔP/ΔLは各計算セルで生じる単位長さあたりの圧力損失(圧力損失の勾配)[Pa/m]を示し、εは所定時間tが経過したときのi番目の計算セルの空隙率[-]を示し、dは所定時間tが経過したときのi番目の計算セルに含まれる検討用焼結鉱の調和平均粒径[m]を示し、φはi番目の計算セルに含まれる検討用焼結鉱の形状係数を示し、形状係数φと調和平均粒径dを乗算したφdは所定時間tが経過したときの検討用焼結鉱の有効径[m]を示し、U[m/s]、μ[Pa・s]及びρ[kg/m
3]のそれぞれは、所定時間tが経過したときの還元ガスの空塔流速、粘度及び密度を示す。
【0094】
上記式(14)において、所定時間tが経過したときの検討用焼結鉱の有効径φdは、後述する式(20)から求めることができる。また、空塔速度Uは、所定時間tが経過したときの還元ガスの流量を、還元ガスが流れる方向に対し垂直な面の計算セルの断面積で除することで求めることができ、例えば、前述した流量パターンを用いることができる。また、還元ガスの粘度μと密度ρは、所定時間tが経過したときの温度と還元ガス組成とにより規定される公知の関数から求めることができ、例えば、前述した昇温パターンと組成パターンを用いることができる。
【0095】
上記式(14)における、空隙率εは、下記式(15)により求めることができる。
【0096】
【数15】
上記式(15)において、εは所定時間tが経過したときのi番目の計算セルの空隙率[-]を示し、αは係数[-]を示し、ε
0iはi番目の計算セルの初期空隙率[-]を示し、Sr
iは、所定時間tが経過したときのi番目の計算セル全体の平均収縮率[-]を示す。ここで、αSr
i及びε
0iは、式(15)の括弧内の関係が成り立つ。
【0097】
式(15)において、係数αは、層収縮時の全体積減少量に対する空隙体積の減少量の比率を示し、検討用焼結鉱の閉気孔量や軟化溶融性に依存する。係数αの求め方は特に限定されないが、X線CT画像の解析方法を用いて求める例を以下に説明する。
【0098】
図4にX線CT画像の解析方法の概要を示す。るつぼには検討用焼結鉱が充填されており、還元ガスを流通しながら検討用焼結鉱を還元している。X線CT撮影により得られたるつぼ水平方向の断面画像より、検討用焼結鉱のみが存在している領域を特定する。この領域について、高さ方向に対し等間隔に所定の枚数の画像を抽出し、各画像を用いて、空隙率及び見かけの粒径を求める。具体的には、X線CT撮影により得られた元の画像を2値化し、マスキング処理により、焼結鉱粒子のみを抽出した画像(
図4中の(a)に示す画像)及び黒鉛るつぼ内部を白く塗りつぶした画像(
図4中の(b)に示す画像)を作成する。両画像について、黒色部の画素数、白色部の画素数及び白色部周囲の画素数をカウントし、式(16)~(19)により、検討用焼結鉱充填層の空隙率及び検討用焼結鉱の見かけの粒径を求める。なお、水平断面画像より求められる粒径は、粒子が球形であると仮定すると実際のπ/4倍となることから、これを補正することができる。
【0099】
【数16】
上記式(16)~(19)において、S´
Solidは固体領域画素数[pixel]を示し、S
Voidは空隙領域画素数[pixel]を示し、L´
Solidは固体周囲画素数[pixel]を示し、S
Aはるつぼ外領域画素数[pixel]を示し、S
Bはるつぼ内領域画素数[pixel]を示し、L
0はるつぼ周囲画素数[pixel]を示し、Dはるつぼ内径[m]を示す。
【0100】
上述した画像解析を収縮率が異なる複数の検討用焼結鉱充填層に対して実施し、各収縮率における検討用焼結鉱充填層の空隙率及び検討用焼結鉱の見かけの粒径を求める(これを以下では、「実測値」と称する)。また、検討用焼結鉱が軟化収縮する前のX線CT画像を用いて、検討用焼結鉱充填層の空隙率及び検討用焼結鉱の見かけの粒径の初期値(これを以下では、「初期値」と称する)を求める。X線CT画像の解析結果に基づいて求めた検討用焼結鉱充填層の空隙率の各実測値について、X線CT画像の解析結果に基づいて求めた検討用焼結鉱充填層の空隙率の初期値を用いて、上記式(15)を満たすαの値を求め、αを収縮率Srの一次式で近似する。
【0101】
上述した方法では、αを収縮率の関数としているが、簡易的な解析では、検討用焼結鉱の銘柄に応じた固定値としてもよい。係数αは、例えば、以下の範囲から選択できる。
α=0~1
【0102】
同様に、X線CT画像の解析結果に基づいて求めた見かけの粒径の各実測値について、収縮率Srの関数として近似することが好ましい。収縮率Srの関数として近似した見かけの粒径は、上記式(14)における検討用焼結鉱の有効径φdとして用いることができる。上記式(14)における有効径φdは、下記式(20)で示すことができる。なお、簡易的な解析では、層収縮に伴う見かけの粒径変化は考慮しなくともよい。つまり、簡易的な解析では、上記式(14)における検討用焼結鉱の有効径φdを、検討用焼結鉱の初期有効径(φd)0と見做してもよい。
【0103】
【数17】
上記式(20)において、(φd)は所定時間tが経過したときの検討用焼結鉱の有効径[m]を示し、(φd)
0は検討用焼結鉱の初期有効径[m]を示し、Sr
iは、所定時間tが経過したときのi番目の計算セル全体の平均収縮率[-]を示し、γは定数[-]を示す。上記式(20)における(φd)
0は、検討用焼結鉱の形状係数φに、検討用焼結鉱の初期調和平均粒径d
0[m]を乗じることで求めることができる。
【0104】
上記式(20)では、X線CT画像の解析結果に基づいて求めた検討用焼結鉱充填層の見かけの粒径の各実測値について、上記式(20)を満たす定数γの値を予め求めておくことができる。定数γの値を予め求めておく場合には、上記式(20)における有効径(φd)と平均収縮率Sriとして、それぞれ、X線CT画像の解析結果に基づいて求めた検討用焼結鉱充填層の見かけの粒径の実測値と、その実測値を得た時の収縮率を用いることができ、上記式(20)における初期有効径(φd)0としては、見かけの粒径の初期値を用いることができる。
【0105】
なお、圧力損失を求める方法は、上記Ergun式(14)を用いる方法に限定されない。例えば、非特許文献5に開示されるErgun式中の慣性項の係数を収縮率の関数として補正する方法や、非特許文献6に開示されるオリフィスモデルに基づく推定式のような、他の充填層の圧力損失推定式も適用できる。また、各計算セルで生じる圧力損失(Pa)は、上記式(14)に基づいて求められる単位長さあたりの圧力損失(Pa/m)に、その計算セルの層高方向における長さを乗じることで得ることができる。
【0106】
(高温性状の推定)
ステップS105の処理では、ステップS104で求めた圧力損失が所定値に達したか否か判別する。圧力損失の所定値は、鉱石融着層が形成されたときの圧力損失、あるいは圧力損失の勾配であり、例えば、200×9.8Paや50kPa/mとすることができる。ステップS105における判別は、検討用焼結鉱充填層全体の圧力損失か、あるいは検討用焼結鉱充填層の圧力損失の勾配の平均値が所定値に達したか否かで行う。圧力損失が所定値に達した場合には、後述するステップS106の処理を行う。圧力損失が所定値に達していない場合には、ステップS102の処理に戻り、ステップS102~S104の処理を繰り返す。繰り返されるステップS102~S104の処理では、さらに演算周期Δtが経過したときの各計算セルについて、還元率・収縮率・圧力損失を推定する。
【0107】
ステップS106(高温性状推定ステップ)では、融着開始時還元率Rs*を求める。
【0108】
Rs*は、焼結鉱充填層(鉱石層)で生じる圧力損失が所定値まで上昇したときの検討用焼結鉱充填層(鉱石層)の還元率を示す。ゆえに、ステップS104の処理で求めた圧力損失が所定値を示した時の各計算セルの還元率(つまり、ステップS102で求めた還元率)の平均値が融着開始時還元率Rs*として求められる。なお、融着開始温度Ts*は、焼結鉱充填層の圧力損失が所定値まで上昇したときの焼結鉱充填層の到達温度であるため、ステップS104の処理で求めた圧力損失が所定値を示した時の焼結鉱充填層の各計算セルの温度(入力条件)の平均値が融着開始温度Ts*として求められる。
【0109】
上述したRs*推定モデルにより、検討用焼結鉱充填層の融着開始時還元率Rs*を求めることができる。なお、調和平均粒径Dpは、上記検討用焼結鉱の初期粒径d0に対応する。
【0110】
Rs*-Dp曲線は、上述した通り、Rs*推定モデルに対し、調和平均粒径Dpのみ異なる複数種類の入力条件を入力して入力条件毎に検討用焼結鉱充填層の融着開始時還元率Rs*を算出し、算出された融着開始時還元率Rs*と、その融着開始時還元率Rs*の算出に用いた調和平均粒径Dpをグラフにプロットしていくことで求めることができる。
【0111】
Rs
*-Dp曲線において、融着開始時還元率Rs
*は調和平均粒径Dpの一次式または二次式に近似されることができる。Rs
*-Dp曲線は、後に詳述する通り、例えば
図6cの通り取得される。
図6cは、初期空隙率ε
0が0.38又は0.40である2種類のRs
*-Dp曲線を示しており、初期空隙率ε
0=0.40を基準として下記式(21)により表すことができる。
【0112】
【数18】
上記式(21)において、Rs
*は検討用焼結鉱充填層の融着開始時還元率[%]を示し、Dpは検討用焼結鉱の初期調和平均粒径[mm]を示し、ε
0は検討用焼結鉱充填層の初期空隙率[-]を示す。
【0113】
Rs
*-Dp曲線を取得する調和平均粒径Dpの範囲、すなわち、融着開始時還元率Rs
*を算出又は測定する調和平均粒径Dpの範囲は、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpを含む範囲であればよく、実操業で採用し得る範囲等に基づき、必要な範囲で適宜設定することができる。調和平均粒径Dpの範囲によっては、
図6cに例示するように、ある調和平均粒径Dpにおいて融着開始時還元率Rs
*が極大値を示すRs
*-Dp曲線が取得される場合もあるが、これに限定されず、単純増加又は単調減少のRs
*-Dp曲線が取得されてもよい。
【0114】
上述した通り、装入用焼結鉱と検討用焼結鉱との間において、空隙率その他の性状が異なっていたとしても、調和平均粒径Dpの変化に対する融着開始時還元率Rs*の応答は同様とみなせる。このため、Rs*-Dp曲線を用いることにより、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*の変化量ΔRs*(粒度分布調整後の装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*と粒度分布調整前の装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*の差)を推定することができる。なお、本明細書において、焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*とは、その焼結鉱からなる焼結鉱充填層の融着開始時還元率Rs*を指す。
【0115】
本実施形態の調整方法において、基準値Sは、Rs*-Dp曲線における融着開始時還元率Rs*が最大値となる調和平均粒径Dpである。最大値は、取得したRs*-Dp曲線における融着開始時還元率Rs*の最大の値であればよく、必ずしも極大値である必要はない。粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*をさらに上昇できる観点からは、最大値は、極大値であることが好ましい。
【0116】
ここで、装入用焼結鉱と検討用焼結鉱との間において、調和平均粒径Dpの変化に対する融着開始時還元率Rs*の応答は同様とみなせ、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpを近づける対象は、Rs*-Dp曲線における融着開始時還元率Rs*が最大値となる調和平均粒径Dp(つまり、基準値S)である。このため、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpを基準値Sに近づけるほど、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*を上昇することができる。鉱石層に含まれる装入用焼結鉱の配合割合に変化が無ければ、装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*が上昇するほど、装入用焼結鉱を用いて形成した鉱石層の融着開始時還元率Rs*は上昇する。従って、第1の条件を満足するように装入用焼結鉱の粒度分布を調整する本実施形態によれば、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*を上昇することができる。その結果、その焼結鉱を用いて形成する鉱石層の融着開始時還元率Rs*を上昇することができる。
【0117】
なお、鉱石層の融着開始時還元率Rs*は、鉱石層を形成する鉱石原料の種類毎に、充填層(1種類の鉱石原料からなる鉱石層)の融着開始時還元率Rs*を求め、求めた充填層の融着開始時還元率Rs*を、その充填層を形成する鉱石原料の鉱石層中の配合比率[質量%]に応じて加重平均することにより求めることができる。ここで、鉱石層を形成する鉱石原料の種類毎に、充填層の融着開始時還元率Rs*を求めるには、上述したRs*推定モデルを用いることができる。具体的には、入力条件として用いる上記(a)の各条件として、充填層の充填状態と同一又は近似する条件を用いることで、各充填層の融着開始時還元率Rs*を求めることができる。
【0118】
また、融着開始時還元率Rs*は、上述した通り、鉱石融着層が形成されたときの還元率を表すため、融着開始時還元率Rs*が上昇することは、鉱石原料が軟化(及び融着)して鉱石融着層を形成したときの還元率が上昇することを意味する。すなわち、鉱石融着層が形成されるまでの間接還元(発熱反応)による還元率が上昇し、炉下部における直接還元(吸熱反応)による還元率が低下することを意味する。このため、鉱石層の融着開始時還元率Rs*が上昇すれば、炉下部における吸熱量が低下(吸熱反応量が低下)し、溶銑の滴下が促進される。その結果、融着帯の領域が縮小し、炉内ガス(還元ガス)が鉱石融着層の間を通り抜けやすくなる。従って、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*を上昇できる本実施形態の調整方法によれば、その焼結鉱を用いて形成する鉱石層の融着開始時還元率Rs*が上昇するため、炉内の還元効率及び通気性を改善することができ、還元材比を低減することができる。加えて、コークス比を低減させたり、出銑比を増加させたりすることもできる。
【0119】
以上説明した本実施形態の調整方法は、第1の条件を満足するように装入用焼結鉱の粒度分布を調整すればよく、その他の条件については特に限定されるものでない。
【0120】
本実施形態の調整方法では、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*をさらに上昇できる観点から、第1の条件に加えて、以下に示す第2の条件を満足するように粒度分布を調整することが好ましい。
【0121】
第2の条件は、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱により装入用焼結鉱充填層を形成したときに比べて、装入用焼結鉱充填層の初期空隙率ε0が、粒度分布を調整することにより上昇するという条件である。言い換えれば、第2の条件は、粒度分布調整前の装入用焼結鉱よりも、粒度分布調整後の装入用焼結鉱により装入用焼結鉱充填層を形成したときの方が、装入用焼結鉱充填層の初期空隙率ε0が高くなるという条件である。なお、初期空隙率ε0は、焼結鉱充填層の形成直後の空隙率(装入用焼結鉱が高炉に装入された直後の焼結鉱充填層の空隙率)を指す。
【0122】
ここで、初期空隙率ε0が高いとは、高炉や高炉を模した実験装置(例えば、非特許文献1に示す高温性状試験装置)に実際に形成した装入用焼結鉱充填層の初期空隙率ε0が高くなることのみを意味するものでなく、装入用焼結鉱の粒度分布から予測される装入用焼結鉱充填層の初期空隙率ε0が高くなることを含む概念である。装入用焼結鉱の粒度分布から装入用焼結鉱充填層の初期空隙率ε0を予測する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、非特許文献2に記載される下記式(22)に基づいて予測する方法を用いることができる。
【0123】
【数19】
上記式(22)において、ε
jは装入用焼結鉱充填層の初期空隙率ε
0[-]を示し、β
jは、比例定数を示し[-]、mは、装入用焼結鉱充填層に含まれる異なる粒径の粒子の種類の数[-]を示し、S
kは、接触粒子kの体積基準の混合分率S
akを考慮した指数[-]を示し、ε(j,k)は、部分的な空間率[-]を示す。mは例えば、装入用焼結鉱の粒度分布を複数の粒径範囲に区切ったときの粒径範囲の個数である。
【0124】
本実施形態の調整方法において、第1の条件及び第2の条件を満足するように粒度分布を調整するには、例えば、第1の条件及び第2の条件を満足する粒度分布を設計し、設計したその粒度分布に、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱の粒度分布を一致させる方法を用いることができる。
【0125】
第1の条件及び第2の条件を満足する粒度分布の設計には、例えば、上記式(22)を用いることができる。具体的には、まず、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱により装入用焼結鉱充填層を形成したときの初期空隙率ε0(以下、「調整前初期空隙率ε0」ともいう)を上記式(22)に基づいて求める。次に、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが基準値Sに近づくような粒度分布を仮設計し、仮設計した粒度分布の装入用焼結鉱により装入用焼結鉱充填層を形成したときの初期空隙率ε0(以下、「仮設計初期空隙率ε0」ともいう)を、上記式(22)に基づいて求める。最後に、仮設計した粒度分布の中から、調整前初期空隙率ε0よりも仮設計初期空隙率ε0が高くなる粒度分布を特定し、特定した粒度分布(仮設計の粒度分布)を、第1の条件及び第2の条件を満足する粒度分布として決定(設計)する。
【0126】
なお、上述した粒度分布の設計では、粒度分布の仮設計を行っているが、仮設計は必ずしも行われなくても良い。装入用焼結鉱充填層の初期空隙率ε0は、所定粒径(例えば、50mm)を超える粗粒焼結鉱の割合を減少させたり、所定粒径(例えば、5mm)未満の細粒焼結鉱の割合を減少させたりすることで上昇させることができる。このような初期空隙率ε0を上昇できる手段を予め特定しておき、その手段を用いて、装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが基準値Sに近づく粒度分布の設計を行えば、設計される粒度分布は、調和平均粒径Dpが基準値Sに近づくとともに、初期空隙率ε0が上昇する。つまり、粒度分布の仮設計を行うことなく、第1の条件及び第2の条件を満足する粒度分布を設計できる。
【0127】
第1の条件及び第2の条件を満足するように装入用焼結鉱の粒度分布を調整する方法は、上述した方法に限定されるものではなく、粒度分布の設計を行うことなく装入用焼結鉱の粒度分布を調整してもよい。例えば、初期空隙率ε0を上昇できる手段を用いて、装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが基準値Sに近づく粒度分布の調整を行えば、その粒度分布の調整は、第1の条件及び第2の条件を満足する。
【0128】
装入用焼結鉱充填層の融着開始時還元率Rs*は、装入用焼結鉱充填層の初期空隙率ε0が高くなるほど上昇する。このため、第1の条件及び第2の条件を満足するように装入用焼結鉱の粒度分布を調整する本実施形態によれば、第1の条件のみを満足するように粒度分布を調整する場合と比較して、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*をさらに上昇することができる。
【0129】
また、本実施形態の調整方法において、Rs*-Dp曲線における融着開始時還元率Rs*が極大値となる調和平均粒径Dpを基準値Sとする場合、第1の条件及び第2の条件に加えて、以下に示す第3の条件又は第4の条件を満足するように粒度分布を調整することが好ましい。
【0130】
第3の条件は、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが基準値Sを超えている場合に、粒度分布を調整した後の装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpaを基準値S以上にするという条件である。また、第4の条件は、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが基準値S未満である場合に、粒度分布を調整した後の装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpaを基準値S以下にするという条件である。
【0131】
本実施形態の調整方法において、第1の条件及び第2の条件に加えて、第3の条件や第4の条件を満足するように粒度分布を調整する場合、後述する式(2)や式(3)に基づいて、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*の変化量ΔRs*(粒度分布調整後の装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*と粒度分布調整前の装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*の差)を推定することができる。
【0132】
第1の条件及び第2の条件に加えて、第3の条件を満足するように粒度分布を調整する場合、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*の変化量ΔRs*(粒度分布の調整前後における変化量ΔRs*)は、下記式(2)により推定できる。
【0133】
【数20】
上記式(2)において、ΔRs
*は、粒度分布の調整前後における装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs
*の変化量[%]を示し、C
1は、検討用焼結鉱の調和平均粒径Dpが基準値S以上の範囲内における、検討用焼結鉱の調和平均粒径Dpに対する検討用焼結鉱の融着開始時還元率Rs
*の変化率[%/mm]を示し、ΔDpは、粒度分布の調整前後における装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpの変化量[mm]を示し、D
1は、検討用焼結鉱の初期空隙率ε
0に対する検討用焼結鉱の融着開始時還元率Rs
*の変化率[%/-]を示し、Δε
0は、粒度分布の調整前後における装入用焼結鉱に関する初期空隙率ε
0の変化量[-]を示す。なお、本明細書において、焼結鉱に関する初期空隙率ε
0とは、その焼結鉱からなる焼結鉱充填層の初期空隙率ε
0を指す。
【0134】
上記式(2)における変化率C1は、調和平均粒径Dpが基準値S以上の範囲における融着開始時還元率Rs*の変化量を、調和平均粒径Dpの変化量で除すことで求められる値であり、Rs*-Dp曲線の傾きのうち、調和平均粒径Dpが基準値S以上の範囲における傾きに対応する。このため、変化率C1には、Rs*-Dp曲線の傾き(調和平均粒径Dpが基準値S以上の範囲の傾き)を用いることができる。なお、調和平均粒径Dpが基準値S以上の範囲において、Rs*-Dp曲線の傾きが変化する場合、変化率C1には、傾きの平均値を用いてもよい。
【0135】
ここで、変化率C1には、一つのRs*-Dp曲線の傾きを用いてもよいが、異なる初期空隙率ε0を用いて取得した2つ以上のRs*-Dp曲線の傾きの平均値を用いることが好ましく、粒度分布調整前後における装入用焼結鉱に関する異なる2つの初期空隙率ε0を用いて取得した2つのRs*-Dp曲線の傾きの平均値を用いることがより好ましい。Rs*推定モデルに入力する初期空隙率ε0が異なる場合、取得されるRs*-Dp曲線の傾きは互いに異なることがある。このため、変化率C1として、異なる初期空隙率ε0を入力して取得した2つ以上のRs*-Dp曲線の傾きの平均値を用いることで、変化量ΔRs*をより正確に予測できる。
【0136】
上記式(2)における変化率D1は、融着開始時還元率Rs*の変化量を初期空隙率ε0の変化量で除すことで求められる値であり、例えば、異なる初期空隙率ε0を用いて取得した2つのRs*-Dp曲線を用いて求めることができる。なお、2つのRs*-Dp曲線には、粒度分布調整前後における装入用焼結鉱に関する異なる2つの初期空隙率ε0を用いて取得した2つのRs*-Dp曲線を用いることが好ましい。具体的には、2つのRs*-Dp曲線の取得に用いたそれぞれの初期空隙率ε0の差(以下、「初期空隙率ε0差」ともいう)と、2つのRs*-Dp曲線における融着開始時還元率Rs*の差(以下、「Rs*差」ともいう)を求め、求めたRs*差を初期空隙率ε0差で除すことで求めることができる。ここで、Rs*差は、任意の調和平均粒径Dpに対応するRs*の差であり、2つ以上の調和粒径Dpに対応する2つ以上のRs*の差の平均値が用いられても良い。
【0137】
なお、上記式(2)における変化率D1は、上述したように複数のRs*-Dp曲線から求めても良いが、Rs*-ε0曲線の傾きとしてもよい。ここで、Rs*-ε0曲線は、初期空隙率ε0のみ異なる複数種類の入力条件を上述したRs*推定モデルにそれぞれ入力していき、算出される融着開始時還元率Rs*と、その融着開始時還元率Rs*の算出に用いた初期空隙率ε0をグラフにプロットしていくことで取得される曲線である。なお、Rs*-ε0曲線の傾きが変化する場合、変化率D1には、傾きの平均値が用いられてもよい。また、変化率D1には、一つのRs*-ε0曲線の傾きを用いてもよく、異なる調和平均粒径Dpを入力して取得した2つ以上のRs*-ε0曲線の傾きの平均値を用いてもよい。
【0138】
上記式(2)における変化率C1及び変化率D1は、Rs*推定モデルの入力条件や基準値Sによって異なることがあり一義的に定めることはできないが、例えば、基準値Sが12mm、C1を-1.2、D1を150にすることができる。
【0139】
一方、第1の条件及び第2の条件に加えて、第4の条件を満足するように粒度分布を調整する場合、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*の変化量ΔRs*(粒度分布の調整前後における変化量ΔRs*)は、下記式(3)により求めることができる。
【0140】
【数21】
上記式(3)において、ΔRs
*は、粒度分布の調整前後における装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs
*の変化量[%]を示し、C
2は、検討用焼結鉱の調和平均粒径Dpが基準値S以下の範囲内における、検討用焼結鉱の調和平均粒径Dpに対する検討用焼結鉱の融着開始時還元率Rs
*の変化率[%/mm]を示し、ΔDpは、粒度分布の調整前後における装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpの変化量[mm]を示し、D
2は、検討用焼結鉱の初期空隙率ε
0に対する検討用焼結鉱の融着開始時還元率Rs
*の変化率[%/-]を示し、Δε
0は、粒度分布の調整前後における装入用焼結鉱に関する初期空隙率ε
0の変化量[-]を示す。
【0141】
上記式(3)における変化率C2は、調和平均粒径Dpが基準値S以下の範囲内における融着開始時還元率Rs*の変化量を、調和平均粒径Dpの変化量で除すことで求められる値であり、Rs*-Dp曲線の傾きのうち、調和平均粒径Dpが基準値S以下の範囲内における傾きに対応する。このため、変化率C2には、Rs*-Dp曲線の傾き(調和平均粒径Dpが基準値S以下の範囲内の傾き)を用いることができる。なお、調和平均粒径Dpが基準値S以下の範囲内において、Rs*-Dp曲線の傾きが変化する場合、変化率C2には、傾きの平均値を用いてもよい。
【0142】
変化率C2には、一つのRs*-Dp曲線の傾きを用いてもよいが、変化量ΔRs*をより正確に予測できる観点からは、異なる初期空隙率ε0を用いて取得した2つ以上のRs*-Dp曲線の傾きの平均値を用いることが好ましく、粒度分布調整前後における装入用焼結鉱に関する異なる2つの初期空隙率ε0を用いて取得した2つのRs*-Dp曲線の傾きの平均値を用いることがより好ましい。
【0143】
上記式(3)における変化率D2は、上記式(2)における変化率D1と同義であり、その求め方も変化率D1と同じである。このため、変化率D2の説明は省略する。
【0144】
上記式(3)における変化率C2及び変化率D2は、Rs*推定モデルの入力条件や基準値Sによって異なることがあり一義的に定めることはできないが、例えば、基準値Sが12mm、C2を1.2、D2を150にすることができる。
【0145】
以上説明した通り、式(2)及び(3)を用いて変化量ΔRs*を考慮する実施形態では、第3の条件や第4の条件を満足する必要がある。しかしながら、式(2)及び(3)を用いて変化量ΔRs*を考慮しなければ、第3の条件や第4の条件を必ずしも満足する必要は無く、基準値Sを超える調和平均粒径Dpが、粒度分布の調整により基準値S未満となったり、基準値S未満の調和平均粒径Dpが、粒度分布の調整により基準値Sを超えたりしてもよい。なお、基準値Sを超える調和平均粒径Dpが粒度分布の調整により基準値S未満となったり、基準値S未満の調和平均粒径Dpが粒度分布の調整により基準値Sを超えたりする場合には、例えば、先述した式(21)の二次式を用いることにより、変化量ΔRs*を考慮することが可能である。
【0146】
また、本実施形態の調整方法において、Rs*-Dp曲線における融着開始時還元率Rs*が極大値となる調和平均粒径Dpを基準値Sとする場合、第1の条件を満足することに加え、粒度分布を調整した後の装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpaが下記式(1)を満たすという条件(第5の条件)を満足するように粒度分布を調整することが好ましい。
【0147】
【数22】
上記式(1)において、Sは、基準値[mm]を示し、Dp
aは、粒度分布を調整した後の装入用焼結鉱の調和平均粒径[mm]を示す。
【0148】
上述したRs*-Dp曲線において、融着開始時還元率Rs*が極大値となる調和平均粒径Dpに対して±2[mm]の範囲内は、当該範囲外である場合と比較して、融着開始時還元率Rs*がより高い値を示しやすい。このため、Rs*-Dp曲線における融着開始時還元率Rs*が極大値となる調和平均粒径Dpを基準値Sとする場合において、粒度分布を調整した後の装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpaが上記式(1)を満たす場合には、粒度分布の調整対象である装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*をさらに上昇することができ、還元材比がさらに低減されやすい。
【実施例0149】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0150】
評価1(融着開始時還元率Rs*に対する調和平均粒径Dpと初期空隙率ε0の影響)
以下に示す解析条件で、Rs*推定モデルによる解析を行い、融着開始時還元率Rs*に対する調和平均粒径Dpと初期空隙率ε0の影響を評価した。
【0151】
本解析では、検討用焼結鉱充填層の見かけ密度を3485kg/m
3に設定した。検討用焼結鉱充填層は、全て同じ粒径の検討用焼結鉱で形成されているものとし、検討用焼結鉱の粒径(調和平均粒径Dp)は、10、12、14、16、18、20、22、24又は26mmに設定した。検討用焼結鉱充填層の初期空隙率は、後述する評価2の粒度分布(ベース条件I及びベース条件II)を考慮して0.38又は0.40に設定した。昇温、荷重パターン、および還元ガス組成には、
図5aに示す昇温パターン、
図5bに示す組成パターン(CO/(CO+CO
2))、
図5cに示す荷重パターンを使用した。還元ガスの流量には、過去の操業実績から得たボッシュガス流量を設定し、還元ガスの流速には、そのボッシュガス流量を得た高炉の炉腹断面積でボッシュガス流量を除した値(0.82Nm/s)を設定した。炉内圧力は2.7atm(0.27MPa)一定を仮定した。形状係数は、非特許文献2に基づき、検討用焼結鉱の粒径(調和平均粒径)から求めた。軟化収縮パラメータ(η
0,c
1~c
6,α)は、上述した範囲から選択して設定した。層高は、300mmに設定した。
【0152】
1層分の検討用焼結鉱充填層を層高方向に並ぶ複数の計算セルに区画した。計算セルは、層高方向に1mmとした。演算周期Δtを5秒とし、検討用焼結鉱充填層全体の圧力損失の勾配が50kPa/mに達するまで、上述した方法で還元率、収縮率及び圧力損失の推定を繰り返した。圧力損失が50kPa/mに達したときの各計算セルの還元率(焼結鉱の還元率)を加算平均し、融着開始時還元率Rs*を得た。なお、本解析では、圧力損失の勾配が50kPa/mに達したときの各計算セルの温度についても求め、これらの温度を加算平均して融着開始温度Ts*として取得した。また、検討用焼結鉱充填層の温度が1200℃になったときの各計算セルの還元率(検討用焼結鉱の還元率)についても求め、これらの還元率を加算平均して還元率R1200として取得した。
【0153】
【0154】
図6aは、融着開始温度Ts
*と調和平均粒径Dpとの関係を示すグラフであり、初期空隙率ε
0が0.38又は0.40である2種類の曲線を示している。
図6aに示すように、検討用焼結鉱の調和平均粒径Dpが22~26mmの範囲では、調和平均粒径Dpの低下に伴う圧力損失の上昇と、還元の促進による層収縮の抑制が相殺し、融着開始温度Ts
*はほとんど増減しなかった。一方、調和平均粒径Dpが22mmよりも低下すると、圧力損失上昇の影響が大きくなり、融着開始温度Ts
*は低下した。また、初期空隙率ε
0が0.02低下すると、Ts
*は8~15℃低下した。
【0155】
図6bは、還元率R
1200と調和平均粒径Dpとの関係を示すグラフであり、初期空隙率ε
0が0.38又は0.40である2種類の曲線を示している。
図6bに示すように、還元率R
1200は、調和平均粒径Dpの低下に伴い、ほぼ直線的に上昇した。一方、初期空隙率ε
0が0.02低下しても、還元率R
1200はほとんど変化しなかった。
【0156】
図6cは、融着開始時還元率Rs
*と調和平均粒径Dpとの関係を示すグラフであり、初期空隙率ε
0が0.38又は0.40である2種類の曲線(Rs
*-Dp曲線)を示している。
図6cに示すように、調和平均粒径Dpが12~26mmの範囲では、調和平均粒径Dpの低下に伴い融着開始時還元率Rs
*は上昇したが、調和平均粒径Dpが12mmで最大値をとり、10mmでやや低下に転じた。この結果から、調和平均粒径Dpが12mmより大きい焼結鉱では、調和平均粒径Dpの低下による還元促進の影響が大きく、調和平均粒径Dpが12mmよりも小さい焼結鉱では、調和平均粒径Dpの低下による圧力損失上昇の影響が大きいことが明らかとなった。すなわち、調和平均粒径Dpが12mmに近づくように装入用焼結鉱の粒度分布を調整すれば、融着開始時還元率Rs
*が上昇できることが明らかとなった。
【0157】
また、
図6cに示すように、初期空隙率ε
0が0.02低下すると、融着開始時還元率Rs
*は1.5~4.2%低下した。この結果から、初期空隙率ε
0が上昇するように装入用焼結鉱の粒度分布を調整すれば、融着開始時還元率Rs
*を上昇できることが明らかとなった。
【0158】
また、
図6cに示すRs
*-Dp曲線から、融着開始時還元率Rs
*の変化量ΔRs
*は、調和平均粒径Dpの変化量ΔDpと初期空隙率ε
0の変化量Δε
0を用いて、下記式(23)及び下記式(24)で表せることが明らかとなった。なお、下記式(23)における変化量ΔRs
*は、調和平均粒径Dpが12mmを超える装入用焼結鉱の粒度分布を、粒度分布調整後の調和平均粒径Dpaが12mm以上となるように調整したときの変化量を示し、下記式(24)における変化量ΔRs
*は、調和平均粒径Dpが12mm未満の装入用焼結鉱の粒度分布を、粒度分布調整後の調和平均粒径Dpaが12mm以下となるように調整したときの変化量を示す。
【0159】
【数23】
上記式(23)及び上記式(24)において、ΔRs
*は、粒度分布の調整前後における装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs
*の変化量[%]を示し、ΔDpは、粒度分布の調整前後における装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpの変化量[mm]を示し、Δε
0は、粒度分布の調整前後における装入用焼結鉱に関する初期空隙率ε
0の変化量[-]を示す。
【0160】
なお、上記式(23)において、変化量ΔDpに乗じた係数-1.2[%/mm]は、調和平均粒径Dpが12mm以上の範囲における、2種類のRs*-Dp曲線の傾きの平均値である。また、上記式(24)において、変化量ΔDpに乗じた係数+1.2[%/mm]は、調和平均粒径Dpが12mm以下の範囲における、2種類のRs*-Dp曲線の傾きの平均値である。また、上記式(23)及び(24)において、変化量Δε0に乗じた係数150[%/-]は、2つのRs*-Dp曲線のRs*差(1.5~4.2%)の平均値を、2種類のRs*-Dp曲線の取得に用いた初期空隙率ε0差(0.02)で除すことで求めた値である。
【0161】
評価2(粒度分布の調整による融着開始時還元率Rs*の変化)
下記表1に示すベース条件I及びベース条件IIの粒度分布をもつ装入用焼結鉱のそれぞれについて、装入用焼結鉱充填層を形成したときの初期空隙率ε0を上記式(22)から求めるとともに、調和平均粒径Dpを上記式(4)から求めた。
【0162】
【0163】
ベース条件Iの装入用焼結鉱については、調和平均粒径Dpが12mmよりも大きいことから、粗粒を排除することで、調和平均粒径Dpが12mmに近づくとともに初期空隙率ε0が上昇することが期待できた。そこで、粗粒を排除したベース条件Iの装入用焼結鉱(表1に示す粗粒排除)について、上記式(22)及び(4)に基づき、焼結鉱充填層を形成したときの初期空隙率ε0を求めるとともに調和平均粒径Dpを求めた。表1に示すように、粒径が40mmを超える粗粒を排除するとともに、粒径が25mm超40mm以下の粗粒をおおよそ半減することで、調和平均粒径Dpは1.28mm低下し、初期空隙率ε0は0.0045上昇した。また、調和平均粒径Dpの変化量ΔDp(-1.28mm)と初期空隙率ε0の変化量Δε0(0.0045)を上記式(23)に代入したところ、融着開始時還元率Rs*が2.20%上昇することが推定できた。
【0164】
ベース条件IIの装入用焼結鉱については、調和平均粒径Dpが12mmを下回っていることから、細粒を排除することで、調和平均粒径Dpが12mmに近づくとともに初期空隙率ε0が上昇することが期待できた。そこで、細粒を排除したベース条件IIの装入用焼結鉱(表1に示す細粒排除)について、上記式(22)及び(4)に基づき、装入用焼結鉱充填層を形成したときの初期空隙率ε0を求めるとともに調和平均粒径Dpを求めた。表1に示すように、粒径が5mm以下の細粒を排除することにより、調和平均粒径Dpは0.84mm上昇し、初期空隙率ε0は0.0043上昇した。また、調和平均粒径Dpの変化量ΔDp(0.84mm)と初期空隙率ε0の変化量Δε0(0.0043)を上記式(24)に代入したところ、融着開始時還元率Rs*が1.65%上昇することが推定できた。
【0165】
評価3(還元材比に対する融着開始時還元率Rs*の影響)
5000m3級の大型高炉を対象として、還元材比に対する融着開始時還元率Rs*の影響を評価した。なお、還元材比(以下、「RAR」ともいう)は、銑鉄1tを生産するために必要な還元材量[kg/pt]を指す。
【0166】
表1に示すベース条件Iに類似する粒度分布(調和平均粒径Dpが12mmを超える粒度分布)の装入用焼結鉱を用意した。この装入用焼結鉱を用いて鉱石層を形成し、所定期間、対象高炉の操業を行った。なお、鉱石層には、鉱石原料として、装入用焼結鉱のほかペレットおよび塊鉱石が含まれていた。所定期間経過後、粒径が25mmを超える装入用焼結鉱の割合(以下、「焼結+25mm割合」ともいう)を変化することで、対象高炉で使用する装入用焼結鉱の粒度分布を調整した。粒度分布調整前の装入用焼結鉱にかえて、粒度分布を調整した装入用焼結鉱(粒度分布調整前と同量)を用いて鉱石層を形成し、さらに所定期間、対象高炉の操業を行った。この操作を複数回繰り返し行い、各所定期間において、対象高炉のRARを求めた。
【0167】
対象高炉で使用した装入用焼結鉱(焼結+25mm割合の異なる焼結鉱)それぞれについて、装入用焼結鉱充填層を形成したときの初期空隙率ε
0を上記式(22)から求めるとともに、調和平均粒径Dpを上記式(4)から求めた。
図7aに、焼結+25mm割合と初期空隙率ε
0の関係、及び焼結+25mm割合と調和平均粒径Dpとの関係を示す。
図7aに示すように、焼結+25mm割合が低下するほど、調和平均粒径Dpが低下し、初期空隙率ε
0が上昇した。この結果から、調和平均粒径Dpが12mmを超えている場合には、焼結+25mm割合を減少することで、調和平均粒径Dpが12mmに近づくとともに、初期空隙率ε
0が上昇することが理解できた。
【0168】
また、対象高炉のRARと、そのRAR算出時に使用された鉱石原料で形成された鉱石層の融着開始時還元率Rs
*との関係を
図7bに示す。
図7bに示すように、鉱石層の融着開始時還元率Rs
*の上昇に伴い、RARは低下する傾向を示した。
【0169】
なお、鉱石層の融着開始時還元率Rs*は、鉱石層を形成する鉱石原料の種類毎に、充填層(1種類の鉱石原料からなる鉱石層)の融着開始時還元率Rs*を求め、求めた充填層の融着開始時還元率Rs*を、その充填層を形成する鉱石原料の鉱石層中の配合比率[質量%]に応じて加重平均することにより求めた。また、充填層(1種類の鉱石原料からなる鉱石層)の融着開始時還元率Rs*は、上述したRs*推定モデルに基づいて求め、上記(a)の各条件には、各充填層(1種類の鉱石原料からなる鉱石層)の充填状態と同一又は近似する条件を用い、上記(b)~(d)の各条件には、鉱石層を形成した高炉と同一又は近似する条件を用いた。
【0170】
以上説明した評価1~3の結果から、装入用焼結鉱充填層の初期空隙率ε0が上昇するとともに、装入用焼結鉱の調和平均粒径Dpが基準値S(12mm)に近づくように、装入用焼結鉱の粒度分布を調整することで、粒度分布の調整対象の装入用焼結鉱に関する融着開始時還元率Rs*を上昇できることが推定される。また、鉱石層の融着開始時還元率Rs*が上昇することで、RARを低減できることが理解される。