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特開2023-50036高炉の操業方法及び高炉用鉱石原料の配合設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050036
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】高炉の操業方法及び高炉用鉱石原料の配合設計方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
C21B5/00 324
C21B5/00 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160187
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】安田 尚人
(72)【発明者】
【氏名】中野 薫
【テーマコード(参考)】
4K012
【Fターム(参考)】
4K012BA01
(57)【要約】
【課題】 鉱石原料の配合を変更するとき、熱保存帯温度を調整することにより、配合変更後における鉱石層の高温性状(還元率)を配合変更前における鉱石層の高温性状(還元率)と同等以上にする。
【解決手段】 高炉の操業方法では、複数種類の単味原料からなる高炉用の鉱石原料の配合を変更するとき、所定条件を満たす熱保存帯温度の調整量に基づいて、熱保存帯温度を調整する調整手段を実施する。所定条件は、熱保存帯温度の低下に応じて単味原料の融着開始時の還元率Rsが上昇する相関関係によって規定される条件であって、鉱石原料の配合変更後の還元率Rsが鉱石原料の配合変更前の還元率Rs以上となる条件である。還元率Rsは、鉱石原料によって形成された鉱石層の融着開始時の還元率である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の単味原料からなる高炉用の鉱石原料の配合を変更するとき、所定条件を満たす熱保存帯温度の調整量に基づいて、熱保存帯温度を調整する調整手段を実施し、
前記所定条件は、熱保存帯温度の低下に応じて単味原料の融着開始時の還元率Rsが上昇する相関関係によって規定される条件であって、前記鉱石原料によって形成された鉱石層の融着開始時の還元率Rsについて、前記鉱石原料の配合変更後の前記還元率Rsが前記鉱石原料の配合変更前の前記還元率Rs以上となる条件であることを特徴とする高炉の操業方法。
【請求項2】
前記還元率Rsは、各単味原料の前記還元率Rsを各単味原料の配合比率xで重み付けした加重平均値であることを特徴とする請求項1に記載の高炉の操業方法。
【請求項3】
前記熱保存帯温度及び前記還元率Rsの前記相関関係が一次関数で表され、前記調整量は、下記式(I)で表されることを特徴とする請求項2に記載の高炉の操業方法。
【数1】
上記式(I)において、ΔTtrzは前記調整量[℃]、添字iは配合比率が変更される単味原料の種類、xは配合変更前の各単味原料の配合比率[-](0≦x≦1)、Δxは配合変更に伴う各単味原料の配合比率の変化量[-]、Ttrzは配合変更前の熱保存帯温度[℃]、a及びbは、単味原料毎に定められる、前記相関関係を規定する係数[-]である。
【請求項4】
前記鉱石原料の配合変更において、配合比率を減少させる単味原料が焼結鉱であり、配合比率を増加させる単味原料がペレットであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の高炉の操業方法。
【請求項5】
前記鉱石原料の配合変更において、配合比率を減少させる単味原料が塩基性ペレットであり、配合比率を増加させる単味原料が酸性ペレットであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の高炉の操業方法。
【請求項6】
前記調整手段は、水素含有ガスの吹込み量を調整する手段、高反応性コークス又は含炭塊成鉱の使用量を調整する手段のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の高炉の操業方法。
【請求項7】
複数種類の単味原料からなる高炉用の鉱石原料の配合を変更することにより、前記鉱石原料の配合を設計する方法であって、
熱保存帯温度が所定の調整量で調整されるとき、所定条件を満たすように、配合比率を変更する単味原料と配合比率の変化量を決定し、
前記所定条件は、熱保存帯温度の低下に応じて単味原料の融着開始時の還元率Rsが上昇する相関関係によって規定される条件であって、前記鉱石原料によって形成された鉱石層の融着開始時の還元率Rsについて、前記鉱石原料の配合変更後の前記還元率Rsが前記鉱石原料の配合変更前の前記還元率Rs以上となる条件であることを特徴とする高炉用鉱石原料の配合設計方法。
【請求項8】
前記還元率Rsは、各単味原料の前記還元率Rsを各単味原料の配合比率xで重み付けした加重平均値であることを特徴とする請求項7に記載の高炉用鉱石原料の配合設計方法。
【請求項9】
前記熱保存帯温度及び前記還元率Rsの前記相関関係が一次関数で表され、前記調整量は、下記式(II)で表されることを特徴とする請求項7又は8に記載の高炉用鉱石原料の配合設計方法。
【数2】
上記式(II)において、ΔTtrzは前記調整量[℃]、添字iは配合比率が変更される単味原料の種類、xは配合変更前の各単味原料の配合比率[-](0≦x≦1)、Δxは配合変更に伴う各単味原料の配合比率の変化量[-]、Ttrzは配合変更前の熱保存帯温度[℃]、a及びbは、単味原料毎に定められる、前記相関関係を規定する係数[-]である。
【請求項10】
前記鉱石原料の配合変更において、単味原料である焼結鉱の配合比率を減少させるとともに、単味原料であるペレットの配合比率を増加させることを特徴とする請求項7から9のいずれか1つに記載の高炉用鉱石原料の配合設計方法。
【請求項11】
前記鉱石原料の配合変更において、単味原料である塩基性ペレットの配合比率を減少させるとともに、単味原料である酸性ペレットの配合比率を増加させることを特徴とする請求項7から9のいずれか1つに記載の高炉用鉱石原料の配合設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱石原料の配合を変更するとき、鉱石層の高温性状を少なくとも維持できる高炉の操業方法と、高炉用鉱石原料の配合設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉内の融着帯の形状は、高炉内の通気性に大きな影響を与え、鉱石層の高温性状は、融着帯の形状を決める重要な要因になる。鉱石層の高温性状としては、鉱石層の融着開始時の還元率Rsが挙げられる。鉱石層を形成する鉱石原料は、複数種類の単味原料を配合したものであるが、鉱石原料の配合を変更したときには、配合変更後における鉱石層の還元率Rsが配合変更前における鉱石層の還元率Rsよりも低くなってしまうおそれがある。還元率Rsが低下すると、高炉内の通気性が悪化したり、還元材比(RAR)が上昇したりしてしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】鉄と鋼, Vol.83(1997)p.97-102
【非特許文献2】鉄と鋼, Vol.80(1994)p.431-439
【非特許文献3】鉄と鋼, Vol.75(1989)p.594-601
【非特許文献4】鉄と鋼, Vol.66(1980)p.1908-1917
【非特許文献5】鉄と鋼, Vol.100(2014)p.270-276
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、高炉の熱保存帯温度に着目したところ、鉱石原料の配合を変更しても、熱保存帯温度を調整することにより、配合変更後における鉱石層の高温性状(還元率)を配合変更前における鉱石層の高温性状(還元率)と同等以上にできることが分かり、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明である高炉の操業方法では、複数種類の単味原料からなる高炉用の鉱石原料の配合を変更するとき、所定条件を満たす熱保存帯温度の調整量に基づいて、熱保存帯温度を調整する調整手段を実施する。所定条件は、熱保存帯温度の低下に応じて単味原料の融着開始時の還元率Rsが上昇する相関関係によって規定される条件であって、鉱石原料の配合変更後の還元率Rsが鉱石原料の配合変更前の還元率Rs以上となる条件である。還元率Rsは、鉱石原料によって形成された鉱石層の融着開始時の還元率である。
【0006】
本発明は、複数種類の単味原料からなる高炉用の鉱石原料の配合を変更することにより、鉱石原料の配合を設計する方法であって、熱保存帯温度が所定の調整量で調整されるとき、所定条件を満たすように、配合比率を変更する単味原料と配合比率の変化量を決定する。所定条件は、熱保存帯温度の低下に応じて単味原料の融着開始時の還元率Rsが上昇する相関関係によって規定される条件であって、鉱石原料の配合変更後の還元率Rsが鉱石原料の配合変更前の還元率Rs以上となる条件である。還元率Rsは、鉱石原料によって形成された鉱石層の融着開始時の還元率である。
【0007】
還元率Rsとしては、各単味原料の還元率Rsを各単味原料の配合比率xで重み付けした加重平均値とすることができる。
【0008】
熱保存帯温度及び還元率Rsの相関関係は、一次関数で表すことができ、調整量は、下記式(I)で表すことができる。
【0009】
【数1】
【0010】
上記式(I)において、ΔTtrzは調整量[℃]、添字iは配合比率が変更される単味原料の種類、xは配合変更前の各単味原料の配合比率[-](0≦x≦1)、Δxは配合変更に伴う各単味原料の配合比率の変化量[-]、Ttrzは配合変更前の熱保存帯温度[℃]、a及びbは、単味原料毎に定められる、前記相関関係を規定する係数[-]である。
【0011】
鉱石原料の配合変更において、配合比率を減少させる単味原料として焼結鉱を用い、配合比率を増加させる単味原料としてペレットを用いることができる。一方、配合比率を減少させる単味原料として塩基性ペレットを用い、配合比率を増加させる単味原料として酸性ペレットを用いることもできる。調整手段としては、水素含有ガスの吹込み量を調整する手段、高反応性コークス又は含炭塊成鉱の使用量を調整する手段のうちの少なくとも1つがある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鉱石原料の配合を変更するとき、熱保存帯温度を調整することにより、配合変更後における鉱石原料の還元率Rsを配合変更前における鉱石原料の還元率Rs以上とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】熱保存帯温度の調整に関する高炉の操業方法を説明するフローチャートである。
図2】鉱石原料の配合設計方法を説明するフローチャートである。
図3】単味原料の還元率Rsを推定する方法を示すフローチャートである。
図4】単味原料のX線CT画像の解析方法を説明する図である。
図5】2つの熱保存帯温度における昇温パターンを示すグラフである。
図6】単味原料層(焼結鉱、塩基性ペレット及び酸性ペレット)の収縮率の挙動を示すグラフである。
図7】単味原料層(焼結鉱、塩基性ペレット及び酸性ペレット)の圧力損失の挙動を示すグラフである。
図8】単味原料層(焼結鉱、塩基性ペレット及び酸性ペレット)の収縮速度の挙動を示すグラフである。
図9】2つの熱保存帯温度(900,1000℃)における各単味原料の還元率Rsを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態において、鉱石原料は、複数種類の単味原料を所望の配合比率で配合したものであり、高炉の操業において鉄源として用いられる。高炉の操業では、高炉の炉頂部から鉱石原料及びコークスが交互に装入される。単味原料としては、例えば、焼結鉱、ペレット、塊鉱石が挙げられ、ペレットは、塩基性ペレットFP及び酸性ペレットAPに分類できる。塩基性ペレットFPは、塩基性物質(副原料)を含むペレットであり、酸性ペレットAPは、塩基性物質(副原料)を含まないペレットである。ペレット中のCaO(質量%)とSiO(質量%)の比(CaO/SiO)は、例えば塩基性ペレットFPでは0.5超、酸性ペレットAPでは0.5以下である。
【0015】
本実施形態では、高炉に装入される鉱石原料の配合を変更するとき、熱保存帯温度を所定の調整量だけ調整(変更)することにより、配合変更後における鉱石層の還元率Rsを、配合変更前における鉱石層の還元率Rs以上とすることができる。配合変更後の鉱石層の還元率Rsを配合変更前の鉱石層の還元率Rs以上とすることにより、高炉内の通気性を維持あるいは改善したり、還元材比(RAR)を維持あるいは低減できる。
【0016】
鉱石層は、鉱石原料を高炉に装入したときに形成される層である。配合比率は、鉱石原料の質量に占める各単味原料の質量の割合(0~1)である。還元率Rsは、鉱石層の高温性状を評価する指標であり、還元率Rsの詳細については後述する。
【0017】
熱保存帯とは、炉下部から供給されるのガス温度と、炉上部から降下してくる原燃料の温度との差が小さく熱交換速度が著しく低下することによって、高炉内で温度がほぼ一定となる領域であり、熱保存帯温度は900℃~1100℃の範囲内である。このため、上述した熱保存帯温度の調整は、900℃~1100℃の範囲内で行う。熱保存帯温度の調整量は、配合変更後の鉱石層の還元率Rsが配合変更前の鉱石層の還元率Rs以上となる条件に基づいて決められる。調整量の求め方や、熱保存帯温度を調整する手段については、後述する。
【0018】
なお、熱保存帯温度は高炉内の炉高方向において必ずしも一定値ではないが、本明細書においては、熱保存帯(領域)の温度範囲の平均値を熱保存帯温度と呼ぶ場合がある。例えば、以下で説明する図5に示す二つの昇温条件では、熱保存帯の温度範囲が950~1050℃である場合を熱保存帯温度Ttrzが1000℃であるとし、熱保存帯の温度範囲が850~950℃である場合を熱保存帯温度Ttrzが900℃であるとすることができる。
【0019】
鉱石原料の配合を変更することとは、配合変更前の鉱石原料に含まれる少なくとも1種類(任意)の単味原料の配合比率を減少させるとともに、他の種類(1種類又は複数種類)の単味原料の配合比率を増加させることである。他の種類の単味原料は、配合変更前の鉱石原料に含まれる単味原料であってもよいし、配合変更前の鉱石原料に含まれていない単味原料であってもよい。
【0020】
例えば、配合変更後の鉱石原料に、焼結鉱及びペレットが単味原料として含まれている場合、焼結鉱の配合比率を減少させるとともに、ペレットの配合比率を増加させることができる。ここで、ペレットは、配合変更前の鉱石原料に含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。一方、配合変更後の鉱石原料に、塩基性ペレットFP及び酸性ペレットAPが単味原料として含まれている場合、塩基性ペレットFPの配合比率を減少させるとともに、酸性ペレットAPの配合比率を増加させることができる。ここで、酸性ペレットAPは、配合変更前の鉱石原料に含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0021】
ここで、配合比率を減少させる減少量と、配合比率を増加させる増加量とは、絶対値として同じである。複数種類の単味原料の配合比率を減少させる場合、上述した減少量は、各単味原料の配合比率の減少量を合計した量である。複数種類の単味原料の配合比率を増加させる場合、上述した増加量は、各単味原料の配合比率の増加量を合計した量である。
【0022】
なお、鉱石原料には、配合比率を変更しない単味原料が含まれていてもよい。
【0023】
(熱保存帯温度の調整量)
熱保存帯温度を調整するとき、この調整量が下記式(1)の条件を満たせば、配合変更後の鉱石層の還元率Rsが配合変更前の鉱石層の還元率Rs以上になる。
【0024】
【数2】
【0025】
上記式(1)において、ΔTtrzは熱保存帯温度の調整量[℃]、添字iは、配合比率が変更(増加又は減少)される単味原料の種類、xは配合変更前の各単味原料の配合比率[-](0≦x≦1)、Δxは各単味原料の配合比率の変化量(増加量や減少量)[-]、Ttrzは配合変更前の熱保存帯温度[℃]、a及びbは単味原料毎に定められた係数[-]である。
【0026】
上記式(1)によれば、配合変更前の熱保存帯温度Ttrzを特定(推定)するとともに、配合比率が変更(増加又は減少)される単味原料及びその変化量Δxを特定することにより、上記式(1)の右辺の値を求めることができる。ここで、熱保存帯温度Ttrzを推定する方法としては、公知の方法(例えば、特開2018-48376号公報)を適宜採用することができる。
【0027】
また、上記式(1)によれば、調整量ΔTtrzの最小量ΔTtrz Minが規定されるため、配合変更前の熱保存帯温度Ttrzに対して、少なくとも最小量ΔTtrz Minだけ熱保存帯温度Ttrzを調整(低下)すれば、配合変更後の鉱石層の還元率Rsが配合変更前の鉱石層の還元率Rs以上になる。
【0028】
以下、上記式(1)の意味について説明する。
【0029】
本実施形態において、熱保存帯温度Ttrzが900~1100℃の温度域にあるとき、各単味原料の融着開始時の還元率Rs及び熱保存帯温度Ttrzの間には負の相関関係が認められ、下記式(2)に示すように一次関数(線形近似)として表すことができる。
【0030】
【数3】
【0031】
上記式(2)において、添字iは単味原料の種類を示し、Rsは単味原料の融着開始時の還元率[%]、Ttrzは熱保存帯温度[℃]、aは単味原料毎に定められる係数[%/℃]、bは単味原料毎に定められる係数[%]である。係数a,bは、還元率Rs及び熱保存帯温度Ttrzの相関関係を規定する係数である。各単味原料について、還元率Rs及び熱保存帯温度Ttrzの関係を予め求めておけば、係数a,bを決めることができる。上記式(2)によれば、熱保存帯温度Ttrzの低下に応じて還元率Rsが上昇する。すなわち、係数aは負の値である。
【0032】
還元率Rsは、単味原料の層の圧力損失が所定値に到達したときの単味原料の還元率[%]である。この所定値としては、例えば、50[kPa/m]とすることができる。各単味原料の還元率Rsは、後述するように測定又は推定することができる。
【0033】
本実施形態において、鉱石層の還元率Rsは、下記式(3)に示すように、鉱石原料に含まれる各単味原料の還元率Rsを各単味原料の配合比率x(0≦x≦1)で重み付けした値(加重平均値)とする。
【0034】
【数4】
【0035】
上記式(2),(3)によれば、鉱石層の還元率Rsは、下記式(4)で表される。下記式(4)に示すように、還元率Rsは、配合比率x、熱保存帯温度Ttrz及び各単味原料の係数a,bに依存する。
【0036】
【数5】
【0037】
上記式(4)より、配合比率xの変化量に対する還元率Rsの変化量の比率は、下記式(5)で表される。
【0038】
【数6】
【0039】
また、上記式(4)より、熱保存帯温度Ttrzの変化量に対する還元率Rsの変化量の比率は、下記式(6)で表される。
【0040】
【数7】
【0041】
単味原料の配合比率xを変更するとき、配合比率xの変化量Δxに伴う還元率Rsの変化量をdRsとする。上記式(4)で説明したように、還元率Rsは、配合比率x及び熱保存帯温度Ttrzに依存するため、変化量dRsは、下記式(7)に示すように、配合比率xの変化量Δx及び熱保存帯温度Ttrzの変化量ΔTtrzの関数として表すことができる。
【0042】
【数8】
【0043】
上記式(7)において、還元率Rsの変化量dRsは、配合変更後の還元率Rsから配合変更前の還元率Rsを減算した量であり、熱保存帯温度Ttrzの変化量ΔTtrzは、配合変更後の熱保存帯温度Ttrzから配合変更前の熱保存帯温度Ttrzを減算した量である。上記式(7)に示す変化量dRsが0以上の値になれば、単味原料の配合比率xを変更したとき、配合変更後の還元率Rsが配合変更前の還元率Rs以上になる。
【0044】
上記式(7)の右辺に上記式(5),(6)を代入し、変化量dRs(言い換えれば、上記式(7)の右辺)が0以上である条件を考慮すると、下記式(8)に示す条件が導かれる。下記式(8)を変形すると、上記式(1)となる。
【0045】
【数9】
【0046】
(熱保存帯温度の調整手段)
熱保存帯温度Ttrzは、吸熱反応を利用することによって低下させることができ、熱保存帯温度Ttrzを低下させる手段としては、公知の手段を適宜採用することができる。例えば、高炉に吹き込まれる水素含有ガス(天然ガス等)の吹込み量を調整したり、高反応性コークスや含炭塊成鉱の使用量を調整したりすることにより、熱保存帯温度Ttrzを低下させることができる。熱保存帯温度を低下させるためには、水素含有ガスの吹込み量を調整する手段及び高反応性コークスや含炭塊成鉱の使用量を調整する手段のうちの少なくとも1つの手段を実施すればよい。
【0047】
水素含有ガスの吹込み量を増やせば、水素による酸化鉄の還元反応(吸熱反応)を促進させることにより、熱保存帯温度Ttrzを低下させることができる。水素含有ガスの吹込み量を調整する場合には、単位吹込み量当たりの熱保存帯温度Ttrzの変化量ΔTtrz_H2[℃/(kg/t-pig)]を予め把握しておけば、上述した最小量ΔTtrz Minだけ熱保存帯温度Ttrzを調整するための吹込み量(増加量)[kg/t-pig]を求めることができる。すなわち、最小量ΔTtrz Minを変化量ΔTtrz_H2で除算した値が、水素含有ガスの吹込み量(増加量)[kg/t-pig]になる。なお、ここでは、熱保存帯温度Ttrzの調整量ΔTtrzを最小量ΔTtrz Minとしたが、上述したように最小量ΔTtrz Minよりも大きな調整量ΔTtrzであってもよい。
【0048】
高反応性コークスの使用量を増やせば、炭素のガス化反応(吸熱反応)を促進させることにより、熱保存帯温度Ttrzを低下させることができる。高反応性コークスを使用する場合には、高反応性コークスの単位使用量当たりの熱保存帯温度Ttrzの変化量ΔTtrz_C[℃/(kg/t-pig)]を予め把握しておけば、上述した最小量ΔTtrz Minだけ熱保存帯温度Ttrzを低下させるための高反応性コークスの使用量(増加量)[kg/t-pig]を求めることができる。すなわち、最小量ΔTtrz Minを変化量ΔTtrz_Cで除算した値が、高反応性コークスの使用量(増加量)[kg/t-pig]になる。なお、ここでは、熱保存帯温度Ttrzの調整量ΔTtrzを最小量ΔTtrz Minとしたが、上述したように最小量ΔTtrz Minよりも大きな調整量ΔTtrzであってもよい。
【0049】
含炭塊成鉱の使用量を増やせば、炭素のガス化反応(吸熱反応)を促進させることにより、熱保存帯温度Ttrzを低下させることができる。含炭塊成鉱を使用する場合には、含炭塊成鉱の単位使用量当たりの熱保存帯温度Ttrzの変化量ΔTtrz_RCA[℃/(kg/t-pig)]を予め把握しておけば、上述した最小量ΔTtrz Minだけ熱保存帯温度Ttrzを低下させるための含炭塊成鉱の使用量(増加量)[kg/t-pig]を求めることができる。すなわち、最小量ΔTtrz Minを変化量ΔTtrz_RCAで除算した値が、含炭塊成鉱の使用量(増加量)[kg/t-pig]になる。なお、ここでは、熱保存帯温度Ttrzの調整量ΔTtrzを最小量ΔTtrz Minとしたが、上述したように最小量ΔTtrz Minよりも大きな調整量ΔTtrzであってもよい。
【0050】
上述したように、本実施形態である高炉の操業方法では、図1に示す処理が行われる。ステップS101では、配合比率xが変更(増加又は減少)される単味原料と、配合比率xの変化量Δxを決定する。ステップS102では、ステップS101で決定された条件と上記式(1)に基づいて、最小量ΔTtrz Minを求める。ステップS103では、熱保存帯温度Ttrzの調整量ΔTtrzを決定する。上述したように、調整量ΔTtrzは、ステップS102で求めた最小量ΔTtrz Minであってもよいし、この最小量ΔTtrz Minよりも多くてもよい。ステップS104では、ステップS103で決定された調整量ΔTtrzに基づいて、熱保存帯温度Ttrzを調整するための手段を実施する。
【0051】
(鉱石原料の配合設計方法)
上述した説明では、鉱石原料の配合比率xを変更することを前提として、上記式(1)から最小量ΔTtrz Minを求め、少なくとも最小量ΔTtrz Minだけ熱保存帯温度Ttrzを調整している。一方、調整量ΔTtrzだけ熱保存帯温度Ttrzを調整することを前提とし、上記式(1)に示す条件を満たすように、鉱石原料の配合を設計すれば、配合変更後の還元率Rsを配合変更前の還元率Rs以上にすることができる。このとき、上記式(1)は下記式(1’)のようにも変形できる。
【0052】
【数9】
【0053】
調整量ΔTtrzを予め決めれば、上記式(1’)に基づいて、配合比率xを変更(増加又は減少)する単味原料を特定して、配合比率xの変化量Δxを決定することができる。ここで、配合比率xを変更する単味原料を特定すれば、上記式(1’)に示す係数a,bが決定される。なお、上記式(1’)に示す熱保存帯温度(配合変更前)Ttrzは、予め推定しておくことができる。
【0054】
配合比率xを減少させる単味原料について、変更後の配合比率xは、変更前の配合比率xから変化量Δxを減算した値となる。また、配合比率xを増加させる単味原料について、変更後の配合比率xは、変更前の配合比率xに変化量Δxを加算した値となる。上述したように、配合比率xを減少させる単味原料は、1種類に限らず、2種類以上であってもよい。また、配合比率xを増加させる単味原料は、1種類に限らず、2種類以上であってもよい。
【0055】
配合比率xを変更(増加又は減少)する単味原料を特定して、配合比率xの変化量Δxを求めれば、鉱石原料の配合を設計することができる。配合変更後の鉱石原料を高炉に装入するときには、調整量ΔTtrzだけ熱保存帯温度Ttrzが調整されるように、上述した熱保存帯温度Ttrzを調整する手段を実施すればよい。
【0056】
以上の通り、熱保存帯温度Ttrzが所定の調整量ΔTtrzで調整されるとき、例えば、何らかの要因により熱保存帯温度Ttrzが上昇してしまったか、熱保存帯温度Ttrzを上昇させる操業アクションが必要となったとき、本実施形態である鉱石原料の配合設計方法によれば、配合変更後の還元率Rsを配合変更前の還元率Rs以上にすることができる。例えば、熱保存帯温度Ttrzの上昇に対応して、ペレットの配合比率xを減少させるとともに、焼結鉱の配合比率xを増加させることができる。また例えば、熱保存帯温度Ttrzの上昇に対応して、酸性ペレットAPの配合比率xを減少させるとともに、塩基性ペレットFPの配合比率xを増加させることができる。
【0057】
上述したように、本実施形態である鉱石原料の配合設計方法では、図2に示す処理が行われる。ステップS201では、熱保存帯温度Ttrzの調整量ΔTtrzを決定する。ステップS202では、ステップS201で決定した調整量ΔTtrzと上記式(1’)に基づいて、配合比率xを変更する単味原料と配合比率xの変化量Δxを決定する。ステップS203では、ステップS202での決定事項に基づいて、鉱石原料を配合する。このように配合された鉱石原料を用いて高炉の操業を行うときには、ステップS201で決定された調整量ΔTtrzだけ熱保存帯温度が調整されるように、熱保存帯温度Ttrzを調整するための手段を実施することができる。
【0058】
(単味原料の還元率Rsの測定)
上記式(2)に示す各単味原料の還元率Rsは、例えば、荷重軟化試験(非特許文献1参照)によって測定することができる。荷重軟化試験では、まず、坩堝に単味原料及びコークスを装入し、単味原料の層の上下にコークスの層を形成する。そして、電気炉などを用いて坩堝内の単味原料を加熱するとともに、所定の組成及び流量に調整された還元ガスを予熱した後に坩堝に供給する。単味原料が昇温及び還元される過程において、荷重付与装置を用いて単味原料に所定の荷重を与えることにより、実炉での荷重条件を模擬する。坩堝から排出された排出ガスの成分を分析し、また圧力損失を測定すれば、この分析結果から単味原料の還元率Rsを算出できる。
【0059】
(単味原料の還元率Rsの推定)
上記式(2)に示す還元率Rsを推定するためには、単味原料の還元挙動、単味原料層の収縮挙動、単味原料層の収縮に伴う圧力損失の上昇を予測する必要がある。ここでは、単味原料層一層に着目し、単味原料層が高炉内を降下する過程の温度の経時変化、還元ガスの圧力、組成及び流量の経時変化、単味原料層にかかる荷重(鉛直応力)の経時変化を入力条件とし、単味原料の還元率、単味原料層の収縮率及び単味原料層で生じる圧力損失を算出する。
【0060】
具体的な計算手法としては、図3に示す通り、初期条件を設定し(S301)、所定時間Δt(例えば5秒)が経過(S302)した後の条件(S303)に基づいて、単味原料層の還元率、収縮率及び圧力損失を計算する(S304~S306)。ここで、単味原料層の圧力損失が所定値に到達するまで(S307のYes)、上述した処理(S302~S306)を繰り返す。単味原料層は時間の経過とともに炉内を降下するため、所定時間Δtが経過する毎に、ステップS303の処理では、単味原料層が炉内で降下した高さに応じた条件(温度、還元ガス(圧力、組成及び流量)及び荷重)を設定する。
【0061】
上述した初期条件としては、例えば、上述した荷重軟化試験(非特許文献1参照)に開示された試験条件とすることができる。非特許文献1によれば、下部炉については、昇温速度を10[℃/分]とし、温度が1700℃に到達したときには、この温度に維持する。また、上部炉については、温度が1000℃に到達するまでは、昇温速度を10[℃/分]とし、温度が100℃以上では、昇温速度を5[℃/分]としている。一方、温度が800℃に到達するまではNガスを導入し、温度が800℃以上であるときには、還元ガス(29.4[vol%]のCOガス、3.6[vol%]のHガス及び67.0[vol%]のNガス)を導入している。ガス流量は34[Nl/min]で一定とし、標準空塔速度を10[cm/s]としている。荷重としては、温度が800℃以上であるときに、0.098[MPa]の荷重を与えている。なお、試験条件は非特許文献1に開示された試験条件に限定されず、対象とする高炉の操業条件等に応じて適宜設定すればよい。
【0062】
上述した繰り返し計算においては、例えば、下記式(9)で定義される炉内滞留時間を考慮することができる。
【0063】
【数10】
【0064】
上記式(9)において、tsは炉内滞留時間[h]、Vは炉内容積[m]、ORは鉱石比[kg/t-pig]、CRはコークス比[kg/t-pig]、Pは出銑量[t/d]である。ボッシュガス原単位(銑鉄の単位量当たりのボッシュガス供給量)が一定であると仮定して、炉内滞留時間tsに応じて昇温速度及びガス流速を変化させることができる。具体的には、炉内滞留時間tsが長いほど、昇温速度及びガス流速を減少させる。言い換えれば、炉内滞留時間tsが短いほど、昇温速度及びガス流速を増加させる。
【0065】
単味原料の還元率は、非特許文献2に記載の反応モデルを用いて求めることができ、非特許文献2に記載の還元率Fに相当する。反応モデル式では、反応モデルで用いられる単味原料と化学組成が同様である単味原料について還元試験を行い、この試験結果を再現できるように反応モデル式の各種パラメータを調整する。なお、単味原料の還元率を求める方法は、これに限るものではない。
【0066】
コークスのガス化反応における反応率は、非特許文献3に記載の反応モデルを用いて求めることができる。この反応モデル式では、反応モデルで用いられるコークスと化学組成が同様であるコークスについてガス化反応試験を行い、この試験の結果を再現できるように反応モデル式の各種パラメータを調整する。なお、コークスの反応率を求める方法は、これに限るものではない。
【0067】
単味原料層の高さ方向において、単味原料層を所定数の計算セル(例えば、高さ1mm毎)に分割し、計算セル毎の各単味原料の体積割合及び粒度を設定する。初期空隙率については、計算セル毎に設定する。下部から流通される還元ガスは、各単味原料の体積割合に応じた流量で流通すると仮定して、還元反応及びガス化反応によるガス濃度の変化を求める。上述した反応モデルにおいて、単味原料層の昇温条件や、還元ガス(混合ガス)の圧力、組成及び流量の温度依存性は、実際の高炉操業時の条件を模擬して、すなわち、単味原料層が高炉内を降下する経路に沿った分布になるように適宜設定すればよい。
【0068】
次に、単味原料の圧力損失を推定する方法について説明する。単味原料の圧力損失を推定するためには、まず、単味原料層の収縮率を推定する。
【0069】
単味原料層の収縮挙動は、2つの温度領域のそれぞれで異なるため、2つの温度領域I,IIに分けて、単味原料層の収縮速度を推定する。収縮速度を時間で積分した値が収縮率となる。ここで、2つの温度領域I,IIを分ける境界温度は、単味原料層の収縮速度が最大値を示すときの温度である。本実施形態では、境界温度よりも低い温度領域を温度領域Iとし、境界温度よりも高い温度領域を温度領域IIとする。
【0070】
温度領域Iでは、単味原料層の収縮速度の推定式として、下記式(10),(11)を適用する。
【0071】
【数11】
【0072】
上記式(10)において、左辺はi番目の計算セルの収縮速度[s-1]、Srはi番目の計算セル全体の平均収縮率[-]、Wは単味原料層にかかる荷重[Pa]、ηは単味原料の見かけの軟化粘度[Pa・s]である。温度領域Iにおける収縮速度は、荷重Wに比例し、軟化粘度η(単味原料層の収縮抵抗)に反比例する。軟化粘度ηは、上記式(11)に示すように、定数η[Pa・s]、係数c[K]及び単味原料層の温度T[K]から求められる。定数η及び係数cは、上述した荷重軟化試験によって軟化粘度ηを求め、上記式(11)を満たすように決定される。
【0073】
温度領域IIでは、単味原料層の収縮速度の推定式として、下記式(12)~(15)を適用する。
【0074】
【数12】
【0075】
上記式(12)において、左辺はi番目の計算セルの収縮速度[s-1]、Srはi番目の計算セル全体の平均収縮率[-]、βは係数[-]、MSPは単味原料の重量[kg]、V0.SPは収縮前の単味原料層の体積[m]、Vliqは単味原料1kg当たりの融液の体積[m/kg]である。温度領域IIにおける収縮速度は、融液の生成速度に比例する。温度領域IIでは、融液の生成挙動及び生成した金属鉄による骨材効果が、収縮速度を決める主な支配因子となる。
【0076】
体積Vliqは、上記式(13)に示す通り、係数c[m/(kg・K)]、係数c[m/kg]、係数c[m/kg]、鉱石層の温度T[K]及びi番目の計算セルの還元率Ri[-]から求められる。係数βは、上記式(14)に示す通り、係数c[-]、係数c[-]及び単味原料層に占める金属鉄の体積割合XFe[-]から求められ、体積割合XFeの増加に伴って減少する。体積割合XFeは、上記式(15)に示す通り、金属鉄の体積VFe[m]、体積V0.SP及びi番目の計算セル全体の平均収縮率Sr[-]から求められる。
【0077】
なお、上記式(13)に示す係数c,c,cは、単味原料の種類毎に、熱力学平衡計算ソフト(例えば、FactSage)を用いて予め求めておくことができ、上記式(14)に示す係数c,cは、高温性状試験によって予め求めておくことができる。定数η及び係数c~cは、単味原料の組成や気孔構造等の性状に対して決定される。定数η及び係数c~cは、単味原料の種類が変更されない限り変化せず、単味原料の充填条件や還元ガス条件の変更によっては変化しない。
【0078】
単味原料層全体の平均収縮率Srは、下記式(16)に示す通り、単味原料層の初期層厚L[m]及びi番目の計算セルの初期層厚Li[m]から求められる。初期層厚Liは、下記式(17)に示す通り、i番目の計算セルの層厚L0,i[m]及びi番目の計算セル全体の平均収縮率Sr[-]から求められる。
【0079】
【数13】
【0080】
次に、単味原料層の圧力損失は、下記式(18)で表されるErgun式を用いて推定できる。
【0081】
【数14】
【0082】
上記式(18)において、ΔP/ΔLは単味原料層の圧力損失[Pa/m]、εは単味原料層の空隙率[-]、dは単味原料の粒径[m]、φは単味原料の形状係数[-]である。粒径d及び形状係数φを乗算した値(φd)は、単味原料の有効径を示す。Uは還元ガスの空塔流速[m/s]、μは還元ガスの粘度[Pa・s]、ρは還元ガスの密度[kg/m]を示す。
【0083】
上記式(18)に示す空隙率εは、下記式(19)に示すように、収縮率Srの関数として表すことができる。したがって、収縮率Srを推定すれば、下記式(19)及び上記式(18)から単味原料層の圧力損失を求めることができる。
【0084】
【数15】
【0085】
上記式(19)において、εは初期空隙率[-]である。係数αは、単味原料層の収縮に伴う単味原料層の全体積の減少量に対する空隙体積の減少量を示す値であり、鉱石原料の閉気孔量や軟化溶融性に依存する。なお、ここでの空隙とは、ガスが流通して単味原料層の通気抵抗に直接寄与する空隙である。例えば、単味原料を対象としたX線CT画像の解析結果に基づいて、係数αを求めることができる。以下、係数αの求め方について説明する。以下の説明において、係数αは、収縮率Srの一次関数として規定する。
【0086】
図4には、X線CT画像を用いた画像解析方法の概要を示す。坩堝100には、単味原料101が充填されており、単味原料の上方及び下方のそれぞれには、混合層102及びコークス層103が積層されている。X線CT撮影を行うことにより坩堝100の水平方向の断面画像104aが得られるが、この断面画像104aを取得する領域は、単味原料101だけが存在する領域(解析対象領域という)AAとする。
【0087】
解析対象領域AAにおいて、坩堝100の高さ方向における等間隔の位置で所定枚数の断面画像104aを抽出し、各断面画像104aを用いて、空隙率及び見かけの粒子径を求める。まずは、断面画像104aを二値化することにより二値化画像104bを生成し、二値化画像104bに対してマスキング処理を行うことにより、2つの抽出画像104c,104dを生成する。抽出画像104cは、二値化画像104bから単味原料の粒子のみを抽出した画像であり、抽出画像104dは、二値化画像104bから坩堝100の内部空間を抽出した画像である。
【0088】
抽出画像104c,104dについて、黒色部の画素数、白色部の画素数及び白色部の周囲の画素数をカウントし、下記式(20)に基づいて、単味原料層の空隙率を求める。
【0089】
【数16】
【0090】
上記式(20)において、εは空隙率[-]、SVoidは空隙領域の画素数[pixel]、Sは坩堝100の外部に位置する領域の画素数[pixel]、Sは坩堝100の内部に位置する領域の画素数[pixel]である。
【0091】
収縮率Srが異なる複数の単味原料層に対して上述した画像解析を行うことにより、各単味原料層について空隙率εを求め、この空隙率εに基づいて上記式(19)を満たす係数αを求める。これにより、係数α及び収縮率Srの関係(一次関数)を規定することができる。上述したように収縮率Srを推定すれば、係数α及び収縮率Srの関係(一次関数)に基づいて、係数αを求めることができる。なお、簡易的に空隙率εを求める場合には、係数αを単味原料の種類に応じた固定値としてもよい。
【0092】
上述した説明では、上記式(18)に示す空隙率εを収縮率Srの関数(上記式(19))として規定したが、これに加えて、上記式(18)に示す粒子径dを収縮率Srの関数として規定することもできる。この場合には、上述した画像解析を行うことにより、収縮率Srが異なる複数の単味原料層について、粒子の見かけの粒子径dcをそれぞれ求める。これにより、収縮率Sr及び粒子径dcの相関関係が求められるため、この相関関係を用いれば、上述したように推定した収縮率Srに基づいて、上記式(18)に示す粒子径dを求めることができる。
【0093】
なお、粒子径dcは、下記式(21)~(23)に基づいて算出することができる。
【0094】
【数17】
【0095】
上記式(21)~(23)において、dcは見かけの粒子径[m]、SSolidは、粒子が存在する領域の面積[m]、LSolidは粒子の周囲の長さ[m]である。Dは坩堝100の内径[m]、S’Solidは、粒子が存在する領域の画素数[pixel]、Sは上記式(20)で説明した画素数[pixel]である。L’Solidは粒子の周囲を構成する画素数[pixel]、Lは坩堝100の周囲を構成する画素数[pixel]である。
【0096】
なお、圧力損失を求める方法は、上述した方法に限るものではない。例えば、非特許文献4に開示された圧力損失の計算式において、慣性項の係数を収縮率の関数として規定し、収縮率に基づいて圧力損失を求めることができる。また、非特許文献5に開示された圧力損失の計算式(収縮率Srを含む)を用いて、圧力損失を求めることができる。
【0097】
上述したように還元率及び圧力損失を推定すれば、還元率及び圧力損失に基づいて単味原料の還元率Rsを推定することができる。上述したように還元率Rsは、単味原料層の圧力損失が所定値に到達したときの還元率であるため、上述したように圧力損失を推定し、推定した圧力損失が所定値であるときの還元率が還元率Rsとなる。
【実施例0098】
(熱保存帯温度Ttrzが還元率Rsに及ぼす影響)
熱保存帯温度Ttrzが還元率Rsに及ぼす影響について、以下に考察する。
【0099】
まず、2つの熱保存帯温度Ttrzを設定し、各熱保存帯温度Ttrzにおける収縮率及び圧力損失の挙動を推定した。単味原料としては、焼結鉱、塩基性ペレットFP及び酸性ペレットAPをそれぞれ用いた。図5に示す昇温条件を設定することにより、熱保存帯温度Ttrzが950~1050℃である場合(以下、1000℃の熱保存帯温度という)と、熱保存帯温度Ttrzが850~950℃である場合(以下、900℃の熱保存帯温度という)とを設定した。
【0100】
下記表1には、上述した各単味原料(焼結鉱、塩基性ペレットFP及び酸性ペレットAP)の化学組成を示す。
【0101】
【表1】
【0102】
収縮率及び圧力損失は、上述した推定方法によって推定した。ここで、初期条件としては、下記表2,3に示す条件を設定した。
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
また、1チャージ分のコークス層及び単味原料層を計算領域とし、計算セルの初期高さが1[mm]となるように、計算領域を複数の計算セルに分割した。熱保存帯温度が900℃であるときの条件は、40[kg/t-pig]レベルの天然ガスの吹込みを想定している。単味原料層にかかる荷重は、いずれの条件でも一定の98[kPa]とした。
【0106】
図6には、図5に示す昇温条件(熱保存帯温度Ttrz:900,1000[℃])における各単味原料層(焼結鉱、塩基性ペレットFP、酸性ペレットAP)の収縮率(推定値)の挙動を示す。図6において、縦軸は収縮率[-]であり、横軸は温度[℃]である。図7には、図5に示す昇温条件(熱保存帯温度Ttrz:900,1000[℃])における各単味原料層(焼結鉱、塩基性ペレットFP、酸性ペレットAP)の圧力損失(推定値)の挙動を示す。図7において、縦軸は圧力損失[kPa/m]であり、横軸は温度[℃]である。
【0107】
図6,7によれば、焼結鉱については、熱保存帯温度Ttrzの低下(1000℃→900℃)による収縮率の変化や、熱保存帯温度Ttrzの低下による圧力損失の変化がほとんど確認できなかった。一方、塩基性ペレットFP及び酸性ペレットAPについては、熱保存帯温度Ttrzの低下(1000℃→900℃)により収縮率及び圧力損失が大きく低下した。特に、酸性ペレットAPについては、熱保存帯温度Ttrzの低下(1000℃→900℃)に伴う収縮率及び圧力損失の低下が顕著であった。この理由は、図8に示すように、熱保存帯温度Ttrzを含む温度領域Iにおいては、焼結鉱、塩基性ペレットFP及び酸性ペレットAPの順に収縮速度が高くて収縮しやすい傾向を示し、熱保存帯温度Ttrzの低下に伴う収縮率の抑制効果が高いことを示すためである。なお、図8に示す収縮速度から図6に示す収縮率が算出される。
【0108】
下記表4には、各熱保存帯温度Ttrzにおける各単味原料の還元率Rsを示す。各単味原料の還元率Rsは、上述した推定方法によって推定した。ここで、還元率Rsは、単味原料層の圧力損失が50[kPa/m]に到達したときの単味原料の還元率とした。
【0109】
【表4】
【0110】
図9(上記表4に相当する)には、各単味原料(焼結鉱、塩基性ペレットFP、酸性ペレットAP)において、熱保存帯温度Ttrzが還元率Rsに及ぼす影響を示す。図9から分かるように、塩基性ペレットFP及び酸性ペレットAPでは、焼結鉱に比べて、熱保存帯温度Ttrzの低下(1000℃→900℃)に伴う還元率Rsの上昇量が顕著であった。また、熱保存帯温度Ttrzが900℃であるとき、塩基性ペレットFPの還元率Rsは焼結鉱の還元率Rsよりも高くなった。
【0111】
この結果によれば、配合変更前の熱保存帯温度が1000℃であるときにおいて、焼結鉱の一部をペレット(塩基性ペレットFPや酸性ペレットAP)に変更したり、塩基性ペレットFPを酸性ペレットAPに変更したりするときには、鉱石原料の還元率Rsを維持又は向上させる上で、熱保存帯温度Ttrzを低下させることが有効であることが分かる。
【0112】
(鉱石原料の配合変更に伴う熱保存帯温度Ttrzの調整方法)
以下、3つのケース1~3のそれぞれについて、熱保存帯温度Ttrzを調整する方法について説明する。ここで、配合変更前の単味原料としては、焼結鉱、塩基性ペレットFP及び塊鉱石を用い、各単味原料の配合比率は下記表5に示す値とした。配合変更前の熱保存帯温度Ttrzを1000℃とする。
【0113】
【表5】
【0114】
上記表4に示す熱保存帯温度Ttrz及び還元率Rsの関係によれば、各単味原料について、上記式(2)に示す係数a,bは下記表6に示す値となる。下記表6に示す係数a,bは、上記式(1)から特定される最小量ΔTtrz Minの算出に用いられる。
【0115】
【表6】
【0116】
(ケース1)
ケース1では、焼結鉱の一部を塩基性ペレットFPに変更し、配合比率xの変化量Δxを±0.01[―]とする。すなわち、焼結鉱の配合比率を0.01[―]だけ減少させるとともに、塩基性ペレットFPの配合比率を0.01[―]だけ増加させた。上記式(1)に基づいて、最小量ΔTtrz Minを算出した。ここで、焼結鉱については、上記式(1)に示す添字iを1とし、塩基性ペレットFPについては、上記式(1)に示す添字iを2とする。具体的には、最小量ΔTtrz Minは、下記式(24)から算出される。下記式(24)は、焼結鉱及び塩基性ペレットFPについて、上記式(1)を展開したものである。
【0117】
【数18】
【0118】
(ケース2)
ケース2では、焼結鉱の一部を酸性ペレットAPに変更し、配合比率xの変化量Δxを±0.01[―]とする。すなわち、焼結鉱の配合比率を0.01[―]だけ減少させるとともに、配合比率が0.01[―]となるように酸性ペレットAPを追加した。上記式(1)に基づいて、最小量ΔTtrz Minを算出した。ここで、焼結鉱については、上記式(1)に示す添字iを1とし、酸性ペレットAPについては、上記式(1)に示す添字iを2とする。具体的には、最小量ΔTtrz Minは、上記式(24)から算出される。
【0119】
(ケース3)
ケース3では、塩基性ペレットFPの一部を酸性ペレットAPに変更し、配合比率xの変化量Δxを±0.01[―]とする。すなわち、塩基性ペレットFPの配合比率を0.01[―]だけ減少させるとともに、配合比率が0.01[―]となるように酸性ペレットAPを追加した。上記式(1)に基づいて、最小量ΔTtrz Minを算出した。ここで、塩基性ペレットFPについては、上記式(1)に示す添字iを1とし、酸性ペレットAPについては、上記式(1)に示す添字iを2とする。具体的には、最小量ΔTtrz Minは、上記式(24)から算出される。
【0120】
下記表7には、ケース1~3のそれぞれについて、最小量ΔTtrz Minの計算結果と、この計算に用いられる各パラメータを示す。
【0121】
【表7】
【0122】
下記表8には、水素含有ガスの吹込みに伴う熱保存帯温度Ttrzの変化量ΔTtrz_H2[℃/(kg/t-pig)]と、高反応性コークスの使用に伴う熱保存帯温度Ttrzの変化量ΔTtrz_C[℃/(kg/t-pig)]と、含炭塊成鉱の使用に伴う熱保存帯温度Ttrzの変化量ΔTtrz_RCA[℃/(kg/t-pig)]とを示す。変化量ΔTtrz_H2,ΔTtrz_C,ΔTtrz_RCAは予め求めておくことができる。
【0123】
【表8】
【0124】
ケース1では、最小量ΔTtrz Minが-2.28[℃]であったため、上記表8を考慮すると、最小量ΔTtrz Minだけ熱保存帯温度Ttrzを低下させるためには、例えば高反応性コークス又は含炭塊成鉱を使用すればよいことが分かる。ここで、高反応性コークスだけを使用する場合には、高反応性コークスの使用量を現在の使用量に対して7.6[kg/t-pig]だけ増加すればよい。また、含炭塊成鉱だけを使用する場合には、含炭塊成鉱の使用量を現在の使用量に対して22.8[kg/t-pig]だけ増加すればよい。
【0125】
ケース2では、最小量ΔTtrz Minが-18.1[℃]であったため、上記表8を考慮すると、水素含有ガスの吹込み、高反応性コークスの使用及び含炭塊成鉱の使用のいずれであっても、最小量ΔTtrz Minだけ熱保存帯温度Ttrzを低下させることができる。ここで、上記表8から分かるように、水素含有ガスの吹込みを行うことにより、熱保存帯温度Ttrzを効率良く低下させることができる。水素含有ガスの吹込みだけを行う場合には、水素含有ガスの吹込み量を現在の使用量に対して7.3[kg/t-pig]だけ増加すればよい。
【0126】
ケース3では、最小量ΔTtrz Minが-14.1[℃]であったため、上記表8を考慮すると、水素含有ガスの吹込み、高反応性コークスの使用及び含炭塊成鉱の使用のいずれであっても、最小量ΔTtrz Minだけ熱保存帯温度Ttrzを低下させることができる。ここで、上記表8から分かるように、水素含有ガスの吹込みを行うことにより、熱保存帯温度Ttrzを効率良く低下させることができる。水素含有ガスの吹込みだけを行う場合には、水素含有ガスの吹込み量を現在の使用量に対して5.6[kg/t-pig]だけ増加すればよい。
【0127】
なお、上述した説明では、水素含有ガスの吹込み、高反応性コークスの使用及び含炭塊成鉱の使用のうちのいずれか1つの手段によって、熱保存帯温度Ttrzを低下させているが、水素含有ガスの吹込み、高反応性コークスの使用及び含炭塊成鉱の使用のうちの2つ以上の手段を組み合わせることにより、熱保存帯温度Ttrzを低下させることもできる。この場合には、2つ以上の手段による熱保存帯温度Ttrzの変化量の合計が、最小量ΔTtrz Minとなればよい。
【符号の説明】
【0128】
100:坩堝、101:単味原料、102:混合層、103:コークス層、
104a:断面画像、104b:二値化画像、104c,104d:抽出画像、
AA:解析対象領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9