(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050038
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】和牛の遺伝資源の管理システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20120101AFI20230403BHJP
【FI】
G06Q50/02
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160189
(22)【出願日】2021-09-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.「KUSARI」の紹介として、令和2年12月11日~令和3年2月25日において、複数の相手先に公開
(71)【出願人】
【識別番号】521427689
【氏名又は名称】株式会社アンクス
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】森 有希
(72)【発明者】
【氏名】和田 小春
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】和牛の精液等の遺伝資源の流通過程におけるトレーサビリティを確保した和牛の遺伝資源の管理システムを提供する。
【解決手段】管理システム1において、和牛の精液、卵子及び受精卵から選択される遺伝資源に関する情報と、遺伝資源が充填された容器に付された識別IDとを紐付けて管理する管理装置2と、遺伝資源の流通過程で介在する獣医や繁殖農家などのユーザが操作するユーザ端末装置3とを備える。管理装置2は、ユーザ端末装置3から、識別IDと紐付いた遺伝資源の流通過程における報告を受信することで、遺伝資源のその報告に係る情報を更新する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
和牛の精液、卵子及び受精卵といった遺伝資源に関する情報と、前記遺伝資源が充填された容器に付された識別IDとを紐付けて管理する管理装置と、前記遺伝資源の流通過程で介在するユーザが操作するユーザ端末装置とを備え、
前記管理装置は、前記ユーザ端末装置から、前記識別IDと紐付いた前記遺伝資源の流通過程における報告を受信することで、前記遺伝資源のその報告に係る情報を更新することを特徴とする管理システム。
【請求項2】
前記管理装置は、前記報告として、前記遺伝資源の流通過程におけるステータスに応じた報告を受信して、前記遺伝資源のステータスを更新することを特徴とする請求項1記載の管理システム。
【請求項3】
前記ステータスは、製造、販売、使用及び出産の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項2記載の管理システム。
【請求項4】
前記精液又は前記受精卵の使用時においてユーザが操作する前記ユーザ端末装置は、撮影機能を備えた端末と、該端末に通信可能に接続され、前記容器が収納されたボックスとを有し、
前記ボックスは、収納された前記容器に付された前記識別IDを認識する機能を有しており、
前記ユーザ端末装置は、前記端末の撮影機能によって、前記精液又は前記受精卵が使用される雌牛の耳標を認識した後、前記ボックスから前記容器が取り出されることで、前記管理装置に自動的に前記容器の使用を報告し、
前記管理装置は、その報告を受信することで、前記精液又は前記受精卵のステータスを使用に更新することを特徴とする請求項2又は請求項3記載の管理システム。
【請求項5】
前記管理装置は、さらに、前記遺伝資源から生まれた牛に関する家畜情報を受信することで、その家畜情報と、前記遺伝資源に関する情報とを紐付けて管理することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の管理システム。
【請求項6】
前記管理システムは、ブロックチェーンネットワークを備え、前記管理装置は、各情報が記録されたブロックをブロックチェーンに追加することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、和牛の精液、卵子及び受精卵(以下、まとめてこれらを「精液等」という)の流通過程におけるトレーサビリティを確保した管理システムのうち、特にブロックチェーンを用いた管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な日本食ブームを受けて、日本産食材が注目されている。特に、和牛は、肉質の高さから高級ブランド品として海外でも人気が高まっている。例えば、松阪牛、神戸ビーフ、近江牛、米沢牛などのブランド和牛は、日本のみならず、海外での知名度も高い。
【0003】
和牛は日本固有の品種であり、黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種の4品種とそれら品種間のハイブリッドである。黒毛和種は、和牛全体の90%以上を占め、日本全国で飼育されており、肉質は特に脂肪交雑の面で優れるといわれている。ここで、日本国内で和牛と表示して販売するためには、国内で生まれ育った牛であること、品種の条件を満たすことが証明できること、及び牛トレーサビリティ制度による10桁の個体識別番号でも確認できることが求められている。
【0004】
一方、国産牛は品種と関係なく日本国内で飼育された牛を指し、例えば、外国で生まれた牛であっても日本での飼育期間の方が長ければ国産牛として扱われる。国産牛には、ホルスタイン種やジャージー種などの乳用種、和牛以外の肉専用種、肉専用種と乳用種の交雑種などが含まれる。この定義からすると、和牛も国産牛に含まれるが市場では区別されて流通するのが一般的である。
【0005】
和牛は、国産牛に比べると、希少であり一般的に価格が高い。そのため、国産牛を和牛と偽って表示する偽装行為が後を絶たない。偽装行為への対策として、日本では牛肉トレーサビリティ業務事業などが行われている。この事業では、小売店などで販売される調査用サンプルの牛肉と、照合用サンプル(肉片)とをDNA鑑定して同一性を分析することで、牛の個体識別番号の伝達・表示が適正に行われていることを確認している。
【0006】
また、偽装行為の問題を背景に、トレーサビリティシステムを利用して消費者に開示して安全安心な食品を提供するシステムが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来では、個体識別番号を用いた牛トレーサビリティ制度が利用されている。しかしながら、個体識別番号は、あくまで出生後の牛をトレースするためのものであり、出生前の段階、つまり和牛の精液や卵子、受精卵といった遺伝資源の段階でトレースできるシステムは知られていない。
【0009】
一般に、和牛の精液等は、製造元である家畜人工授精所から流通した後、その後の過程において複数の事業者(繁殖農家、獣医師など)が介在しており、互いに情報の共有化ができていないのが現状である。また、和牛の精液等の流通管理は、帳簿などを用いたアナログ管理が一般的であり、情報管理性は十分とはいえない。
【0010】
また、優良な雄牛の精液は極めて高額で取り引きされており、その雄牛を父とする牛も高額で取引される。そのため、従来の運用では、例えば、一般的な雄牛の精液を、優良な雄牛の精液と偽装されるおそれがある。優良な雌牛の卵子又は、優良な精液及び卵子より得られる受精卵についても偽装のおそれがある。さらに、精液等の取り違えなどの人為的ミスも考えられ、このような場合、和牛の品質低下を招き、ひいては和牛ブランドの低下に繋がるおそれがある。
【0011】
近年、輸出が禁止されている和牛の受精卵が中国に持ち出され、流出しかけるといった事例が発生しており、日本における和牛の精液等の適正な流通管理の徹底が求められている。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、和牛の精液等の遺伝資源の流通過程におけるトレーサビリティを確保した管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の管理システムは、(1)和牛の精液、卵子及び受精卵といった遺伝資源に関する情報及び上記精液等が充填された容器等に付された識別IDを紐付けて管理する管理装置、並びに(2)上記精液等の流通過程で介在するユーザが操作するユーザ端末装置を備える。上記管理装置は、上記ユーザ端末装置から上記識別IDと紐付いた上記精液等の流通過程における報告を受信することで、上記精液等のその報告に係る情報を更新することを特徴とする。
【0014】
上記管理装置は、上記報告として、上記精液等の流通過程におけるステータスに応じた報告を受信して、上記精液等のステータスを更新することを特徴とする。
【0015】
上記ステータスは、「製造」「販売」「使用」及び「出産」の少なくともいずれかを含むことを特徴とする。
【0016】
上記精液等のうち精液又は受精卵の使用時において、ユーザが操作する上記ユーザ端末装置は、(1)撮影機能を備えた端末及び(2)該端末に通信可能に接続され上記容器が収納されたボックスを有する。さらに、上記ボックスは収納された上記容器に付された上記識別IDを認識する機能を有している。上記ユーザ端末装置は、上記端末の撮影機能によって、上記精液又は上記受精卵が使用される雌牛の耳標を認識した後、上記ボックスから上記容器が取り出されることで、上記管理装置に自動的に上記容器の使用を報告する。卵子は、体外受精卵製造のため採取され、現在その保存は困難とされているため一般に流通することはない。このため、上記ユーザ端末装置の撮影機能によって採卵する雌牛の耳標を認識し、それによって卵子の上記識別IDを生成する。例えば、卵子の上記識別IDをバーコードとして印字し、当該卵子を収納したシャーレ等の容器に貼付してもよい。体外受精時に上記バーコードに印字された上記識別IDを読み取ることで、その使用を報告する。上記管理装置は、それらの報告を受信することで、上記精液又は上記受精卵のステータスを使用に更新することを特徴とする。
【0017】
上記管理装置は、さらに、上記遺伝資源から生まれた牛に関する家畜情報を受信することで、その家畜情報と、上記遺伝資源に関する情報とを紐付けて管理することを特徴とする。
【0018】
上記管理システムは、ブロックチェーンネットワークを備え、上記管理装置は、各情報が記録されたブロックをブロックチェーンに追加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の管理システムは、(1)和牛の精液等に関する情報及びその精液等が充填された容器に付された識別IDを紐付けて管理する管理装置、並びに(2)ユーザ端末装置を備える。上記管理装置は、上記ユーザ端末装置から、上記識別IDと紐付いた精液等の流通過程における報告(例えばステータスに応じた報告)を受信することで、当該精液等のその報告に係る情報(例えばステータス)を更新する。このため、固有の識別IDに紐付けられた精液等の流通過程に生じる履歴情報をリアルタイムに監視することができる。これにより、和牛の精液等の流通過程におけるトレーサビリティを確保することができ、和牛の精液等の流通管理の徹底に寄与することができる。
【0020】
精液又は受精卵の使用時においてユーザが操作する上記ユーザ端末装置は、端末と容器が収納されたボックスとを有する。上記ユーザ端末装置は、上記端末の撮影機能によって、精液又は受精卵が使用される雌牛の耳標を認識した後、ボックスから容器が取り出されることで、管理装置に自動的に容器の使用を報告する。管理装置は、その報告を受信することで、精液又は受精卵のステータスを「使用」に更新する。なお、精液が使用された場合、当該雌牛の耳標にある個体識別情報は、管理装置に母牛として送信される。受精卵が使用すなわち移植された場合は、代理母牛として送信されるだけである。これによって、所定の雌牛に対して対象とする精液又は受精卵を使用したことの確実性を向上することができ、偽装や人為的ミスの抑制に一層繋がる。
【0021】
上記管理装置は、さらに、精液等から生まれた牛に関する家畜情報を受信することで、その家畜情報と、精液等に関する情報とを紐付けて管理するので、出生前から出生後の段階までの当該牛に関する情報を一元管理することができ、包括的なトレーサビリティを実現することができる。
【0022】
上記管理システムは、ブロックチェーンネットワークを備え、上記管理装置は、各情報が記録されたブロックをブロックチェーンに追加するので、和牛の精液等の製造や流通などに関する情報の信頼性を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】本発明の管理システムの一例を示す概要図である。
【
図4】和牛の精液等の販売時において実行される処理の一例を示す説明図である。
【
図5】和牛の精液等の使用時において実行される処理の一例を示す説明図である。
【
図6】出産時において実行される処理の一例を示す説明図である。
【
図7】管理システムにより生成されるブロックチェーンの一例を示す概略図である。
【
図8】本発明の管理システムの応用例の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1を用いて、まず和牛の繁殖方法について説明する。和牛の繁殖方法は、主に、人工授精による方法(
図1(a))と、体内受精卵移植による方法(
図1(b))と、体外受精卵移植による方法(
図1(c))とに大別される。和牛の精液、卵子、受精卵は、各方法の流通過程において、複数の事業者が介在することで流通する。
【0025】
例えば、
図1(a)の場合、まず、家畜人工授精所で飼養されている雄牛から精液が採取された後、複数のストローに充填されて凍結処理される。凍結処理(製造)された精液は、家畜人工授精所から流通して、直接又は他の業者を介して、繁殖農家に販売される。販売された精液は、獣医師や家畜人工授精師によって、当該繁殖農家で飼養されている雌牛に注入(使用)される。その雌牛は、当該繁殖農家で飼育されて、その後出産を迎える。生まれた子牛には10桁の個体識別番号が付けられる。
【0026】
図1(b)の場合、上記の精液が、獣医師や家畜人工授精師によって、雌牛に注入(使用)されて体内授精させる。その後、受精卵は雌牛から回収され、家畜人工授精所などにおいて、ストローに充填されて凍結処理される。凍結処理(製造)された受精卵は、精液と同様に流通し、獣医師や家畜人工授精師等によって、繁殖農家等で飼養されている代理母牛に移植される。
【0027】
図1(c)の場合、上記の精液と卵子とを体外授精させる。当該卵子は、和牛雌牛から直接採取、又は基本登録された和牛雌牛の卵巣割拠により当該卵巣から採取することによって得られる。これと精液とを牛の体外で掛け合わせることによって受精卵を製造する。製造された受精卵は、ストローに充填され凍結処理(製造)されたものが流通する。そして、獣医師や家畜人工授精師によって、繁殖農家等で飼養されている代理母牛に移植される。
【0028】
このように、和牛の精液や、卵子及び受精卵といった遺伝資源の流通は、細かく分業化されていることから、情報の共有化や管理は十分とはいえず、また偽装が入り込む余地も考えられる。これに対して、本発明の管理システムは、和牛の精液等が充填された各容器に固有の識別IDを付与して、各ユーザ端末装置から報告を受けることで、流通過程に生じる履歴情報をリアルタイムに一元管理している。更に、流通過程における取引の内容などはブロックとしてブロックチェーンに追加されるため、情報の事後的な改ざんを防止でき、信頼性に優れる。以下に、本発明の管理システムについて詳細に説明する。
【0029】
図2は、本発明の管理システムの一例を示す概要図である。
図2に示すように、管理システム1は、管理装置2と、複数のユーザ端末装置3と、ブロックチェーンネットワーク4とを備える。これらはネットワークNを介して通信可能に接続されている。ネットワークNは、インターネット回線などの電気通信回線で構成される。例えば、管理装置2は、ストローに充填された精液等を製造する家畜人工授精所に備えられる。なお、管理装置2は、家畜人工授精所とは異なる第三者機関に備えられてもよい。
【0030】
本発明において、ユーザとは、精液等の流通過程に介在する事業者を指し、例えば、繁殖農家、獣医、家畜人工授精師などを含む。ユーザ端末装置3は、これらのユーザに備えられる。ユーザ端末装置3は、スマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピュータなどのユーザが操作する端末が含まれる。ユーザ端末装置3は通信部を備え、この通信部によって管理装置2と通信を行うことができる。ユーザ端末装置3には、管理装置2が提供するユーザ向けサイトにアクセスするためのアプリケーションがインストールされている。管理者は、予め又はその都度、ユーザにアクセス権限を与え、ユーザは暗号情報などを入力することでユーザ向けサイトにアクセス可能となる。
【0031】
ブロックチェーンネットワーク4は、複数のノードを備えている。ノードは、所定のコンセンサスアルゴリズムに従う処理を実行可能なブロックチェーン端末である。各々のノードは、各種情報が格納されたブロックの系列を表すブロックチェーンを保持している。
【0032】
続いて、管理装置について、
図3を用いて説明する。
図3(a)は管理装置の一例を示すブロック図である。管理装置2は、周知のCPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。
図3(a)において、管理装置2は、情報取得部2aと、識別ID生成部2bと、保存部2cと、通信部2dと、更新部2eと、登録部2fとを有する。
【0033】
また、
図3(a)において、家畜人工授精所に備えられた管理装置2は、生成した識別IDをストローに印字するプリンタ5に接続されており、精液又は受精卵が充填されたストローを製造するストロー製造装置としての役割も担っている。通常、一回の射精で採取された精液は、50個~100個程度のストローに充填され、この場合、ストロー毎に識別可能な識別IDが付される。体内受精又は体外受精によって製造された受精卵は、1本のストローに1個ずつ充填される。卵子に関して、当該管理装置は、生成した識別IDを例えばバーコードとして印字し、卵子を収納した容器に貼付してもよい。
【0034】
情報取得部2aは、対象とする和牛の精液、卵子及び受精卵から選択される遺伝資源に関する情報を取得する。例えば、「和牛の精液に関する情報」には、当該精液が採取された種牛の情報(牛名や個体識別番号など)が含まれる。更に、この情報には、当該種牛の家系情報(父牛名、母牛名、祖父牛名、祖母牛名、及びこれらの個体識別番号など)が含まれていてもよい。「和牛の卵子に関する情報」には、当該卵子が採取された雌牛の情報(牛名や個体識別番号など)が含まれる。更に、この情報には、当該雌牛の家系情報(父牛名、母牛名、祖父牛名、祖母牛名、及びこれらの個体識別番号など)が含まれていてもよい。また、「和牛の受精卵に関する情報」には、その精子が採取された種牛の情報(牛名や個体識別番号など)、及びその卵子が採取された雌牛の情報(牛名や個体識別番号など)が含まれる。更に、これらの情報には、当該種牛及び雌牛の家系情報(父牛名、母牛名、祖父牛名、祖母牛名、及びこれらの個体識別番号など)が含まれていてもよい。
【0035】
識別ID生成部2bは、精液又は受精卵が充填されたストロー毎に固有の識別IDを生成する。生成された識別IDは、プリンタ5によってストローに印字される。なお、ストローに付される識別IDの形態は、特に限定されず、例えば、バーコード、QRコード(登録商標)、ICタグ、識別番号などである。卵子に関しては、既述のとおり採卵時に識別IDを生成し、その後採卵した卵子を収納した容器に当該識別IDを貼付する。
【0036】
保存部2cは、精液等に関する情報と、生成された識別IDと、当該識別IDが付されたストロー等の流通過程において取得される情報とを関連付けて保存する。なお、保存部2cに保存される情報は、特定の種牛や雌牛などを検索する際の検索項目として使用されてもよい。
【0037】
通信部2dは、ユーザ端末装置との間で情報の送受信を行う。具体的には、通信部2dは暗号情報などをユーザ端末装置に送信したり、流通過程における報告をユーザ端末装置から受信する。
【0038】
更新部2eは、ユーザ端末装置からの報告に基づいて、精液等のその報告に係る情報を更新する。具体的には、更新部2eは、精液等の流通過程におけるステータスに応じた報告に基づいて、精液等のステータスを更新する。例えば、更新したステータスは、
図3(b)に示すように表示される。
【0039】
図3(b)には、管理装置2の表示画面の一例として、識別ID毎(精液又は受精卵の場合はストロー毎)のステータスを示している。精液等の流通過程は、例えば、「製造」「販売」「使用」「出産」の各ステータスに分けることができる。後述するように、ユーザ端末装置からステータスに応じた報告を受信することで、ストロー毎のステータスをリアルタイムに監視することができる。つまり、
図3(b)に示すように、各ストローが現在どのステータスであるかを容易に把握できる。さらに、各ストローのステータスに係る取引明細を確認できるようにしてもよい。なお、識別IDが付された容器は、必ずしも出産まで進行するわけでもなく、場合によっては出産まで至らないケースもある。このように出産に至らなかった容器の数などを把握することで、例えば、特定の雄牛の精液の受精率などを算出することができる。このような情報を「和牛の精液に関する情報」に含めることも可能である。
【0040】
なお、
図3(b)に示すようなステータス情報を、ユーザ端末装置を操作するユーザが閲覧できるようにしてもよい。
【0041】
図3(a)において、登録部2fは、ブロックチェーンネットワークによって記憶されるブロックチェーンに、ユーザ端末装置からの報告に係る情報が記録されたブロックを追加する。具体的には、登録部2fは、例えば、更新したステータスに係る取引明細が記録されたトランザクションデータを登録して、ブロックチェーンネットワークに対して、取引明細が記録されたブロックの追加要求を行うなどの所定の追加処理を行うことで、当該ブロックをブロックチェーンに追加する。なお、トランザクションデータには、後述の
図7に示すように、取引日時や、取引者名、その他取引内容を示す取引情報などが含まれる。また、各ブロックには、管理装置2などによって生成されたハッシュ値が格納されてもよい(
図7参照)。
【0042】
以下、
図4~
図6を用いて、和牛の遺伝資源を精液及び繁殖方法を人工授精とした場合の「販売」「使用」「出産」の各ステータスにおける管理システムの処理の流れを説明する。なお、精液の「製造」時には、例えば管理装置において、精液に関する情報が関連付けられた識別ID毎に、製造日時、製造者などが記録されたトランザクションデータが登録される。
【0043】
図4には、「販売」時の管理システムの処理の流れを示す。まず、ステップS11において、販売対象となるストローの識別ID及び販売先(例えば、繁殖農家名など)を登録する。そして、販売先の繁殖農家のユーザ端末装置3に、アクセス権が付与され、ユーザ向けサイトにアクセス可能となる。繁殖農家は、予め又はその都度送信されるログインIDなどを用いてユーザ向けサイトにログインする(ステップS12)。そして、識別IDを入力することで、管理装置2に対して、販売が完了したことの報告がなされる(ステップS13)。なお、ユーザ端末装置3が撮影機能を有する場合には、当該ユーザ端末装置3でストローに付された識別IDを撮影することなどによって、販売の完了を報告するようにしてもよい。
【0044】
管理装置2は、ユーザ端末装置3から「販売」に応じた報告を受信した後、保存部に保存されている当該識別IDのステータスを更新する(ステップS14)。この場合、ステータスを「製造」から「販売」に上書き保存する。そして、「販売」に係る取引明細をトランザクションデータとして登録する(ステップS15)。取引明細としては、例えば、取引ID、販売日時、販売先などを登録する。なお、このトランザクションデータには、和牛の精液に関する情報などが含まれてもよい。そして、管理装置2は、トランザクションデータを、ブロックチェーンネットワーク4(具体的にはノード)に送信することにより、トランザクションデータがブロックに追加される(ステップS16)。このように、精液の「販売」時において、管理装置2は、新たな取引明細を記録したブロックをノードを介してブロックチェーンに追加する。
【0045】
なお、ブロックチェーンネットワーク4におけるブロックの追加は、2台以上のノードが参加する任意のコンセンサスアルゴリズムに従った処理を経て行われる。
【0046】
次に、
図5には、人工授精又は体内受精における精液の「使用」時の管理システムの処理の流れを示す。家畜の改良増殖などを促進する家畜改良増殖法では、主に獣医師又は家畜人工授精師によって、雌牛への精液の注入や受精卵の移植が行われる。
【0047】
図5において、精液の「使用」時に用いられるユーザ端末装置3は、端末3aとストローが収納されたボックス3bと有している。端末3a及びボックス3bは、Bluetooth(登録商標)などによって互いに通信可能に接続される。端末3aは、撮影機能を有することが好ましい。ボックス3bは、ストローを所定温度(例えば37℃程度)で保温する保温機能や、収納されたストローに付された識別IDを認識する認識機能(読み取り機能など)を有することが好ましい。
【0048】
図5において、獣医又は家畜人工授精師は、精液の「使用」時に、まず端末3aを操作してユーザ向けサイトにログインした後(ステップS21)、Bluetooth(登録商標)などによってボックス3bと接続する(ステップS22)。そして、端末3aの画面上に表示された保温中のストローの中から使用するストローを選択する(ステップS23)。その後、精液の注入を受ける雌牛の耳標を、端末3aの撮影機能などによって認識した後、ボックス3bからストローを取り出して使用する(ステップS25)。このストローが取り出されることで、端末3aを介して自動的に管理装置2にストローの使用が報告される。具体的には、雌牛の情報(個体識別番号や牛名)と紐付けて、ストローの使用が報告される。このように、ボックス3bの読み取り機能を用いることで使用したストローを正確に報告することができる。なお、体外受精においては、雌牛の代わりに卵子を収納した容器に貼付された識別IDを端末3aの撮影機能などによって認識してから精液を使用する。
【0049】
管理装置2は、ユーザ端末装置3から、「使用」に応じた報告を受信した後、保存部に保存されている当該識別IDのステータスを更新する(ステップS26)。この場合、ステータスを「販売」から「使用」に上書き保存する。そして、「使用」に係る取引明細をトランザクションデータとして登録する(ステップS27)。取引明細としては、例えば、取引ID、使用日時、使用者、使用場所、雌牛の個体識別番号などを登録する。なお、このトランザクションデータには、和牛の精液に関する情報などが含まれてもよい。そして、管理装置2は、トランザクションデータを、ブロックチェーンネットワーク4(具体的にはノード)に送信することにより、トランザクションデータがブロックに追加される(ステップS28)。
【0050】
図5の処理において、ステップS25のストローの取り出しは、例えば雌牛の耳標を認識しないと、ボックス3bのロックが解除されないようにしてもよい。また、雌牛の耳標を認識してからストローの取り出しまでに制限時間などを設けてもよい。これらにより、対象とする精液がその雌牛に対して使用されたことの確実性を一層向上でき、偽装などが入り込む可能性を一層低減できる。なお、耳標の認識に代えて、母牛の個体識別番号を認識するようにしてもよい。その他、端末3aやボックス3bにGPS機能を設け、ストローの取り出しに伴う報告時に、GPSによる位置情報も併せて管理装置2に報告するようにしてもよい。
【0051】
続いて、
図6には、人工授精によって精液を使用した場合における「出産」時の管理システムの処理の流れを示す。
図6に示す「出産」時に用いられるユーザ端末装置3は、例えば繁殖農家によって操作される。
【0052】
図6において、繁殖農家は、人工授精によって精液を使用した場合における「出産」時に、まずユーザ端末装置3を操作してユーザ向けサイトにログインする(ステップS31)。そして、ユーザ端末装置3の画面上に表示された母牛の中から出産した母牛を選択して、出産登録、基本情報を登録することで(ステップS32~S34)、管理装置2に対して、出産が完了したことの報告がなされる。基本情報としては、例えば、子牛の個体識別番号、牛名、性別などが登録される。
【0053】
管理装置2は、ユーザ端末装置3から、「出産」に応じた報告を受信した後、保存部に保存されている当該識別IDのステータスを更新する(ステップS35)。この場合、ステータスを「使用」から「出産」に上書き保存する。そして、「出産」に係る取引明細をトランザクションデータとして登録する(ステップS36)。取引明細としては、例えば、取引ID、出産日時、出産場所、子牛の個体識別番号などを登録する。そして、管理装置2は、トランザクションデータを、ブロックチェーンネットワーク4(具体的にはノード)に送信することにより、トランザクションデータがブロックに追加される(ステップS37)。
【0054】
図7には、本発明の管理システムによって生成されるブロックチェーンの一例を示す。ここで、ブロックチェーンとは分散型ネットワークであり、ブロックと呼ばれるデータの単位を生成し、鎖のように連結していくことによりデータを保管するデータベースである。
図7に示すブロックチェーンでは、「製造」「販売」「使用」「出産」の各ステータスに係る取引明細がブロックを形成して連結されている。また、各ブロックには、取引明細以外に、1つ前のブロックの情報を暗号化したハッシュ値が含まれている。このハッシュ値がブロック間の整合性を保つ役割を担っている。
【0055】
上記
図4~
図7では、人工授精による繁殖の際の和牛の精液の流通過程における管理システムの処理の流れを説明した。体内受精及び体外受精の場合は、人工授精における上記精液のステータス「出産」が受精卵の「製造」に取って代わる。製造された受精卵の1個ずつに対して、新たに識別IDが付与される。体内受精卵又は体外受精卵は、人工授精における精液と同様、「製造」「販売」「使用」「出産」の各ステータスにおいて、精液と同様の処理の流れを採用することができる。例えば、体内受精卵の「製造」時には、人工授精による精液の「使用」時と同様に、当該精液の使用及び体内受精した雌牛に関するデータが登録されるようにする。受精卵の「使用」時すなわち受精卵移植時においては、代理母牛の耳標によってその情報も登録されるようにする。体外受精の場合は、卵子に関する「製造」情報も登録される。卵子は、精液と異なり凍結による保存がきかないため、流通することは予定されていない。したがって、卵子に関しては精液や受精卵と異なり「販売」ステータスを用いなくてもよい。最終的に、人工授精における精液の「出産」に代わり、「製造」された受精卵として1個ずつ識別IDが付与されるのは、体内受精におけるのと同様である。
【0056】
つまり、体内受精卵又は体外受精卵の移植による繁殖の場合(
図1(b)参照)、本発明の管理システムを用いて、精液の流通管理と受精卵の流通管理とが組み合わせて行なわれることとなる。精液の製造から精液の使用(注入)までは、精液の流通管理がなされ、当該精液を使用して受精卵を製造した後は、当該受精卵の流通管理を行うことができる。この場合、「和牛の精液に関する情報」は、「和牛の受精卵に関する情報」に引き継がれてもよい。同様に、体外受精卵移植の場合(
図1(c)参照)には、本発明の管理システムを用いて、当初は精液の流通管理及び卵子の流通管理が並行してなされ、受精卵製造後は、受精卵の流通管理に引き継ぐことができる。
【0057】
なお、精液等の流通過程におけるステータスは、「製造」「販売」「使用」「出産」に限らない。また、これらの各ステータスを更に細分化し、その細分化されたステータスに係る取引明細が個々のブロックを形成してもよい。
【0058】
上記
図1~
図7では、本発明の管理システムを出生前の段階のトレーサビリティを確保するために用いているが、更に、出生後の段階もトレースできるようにしてもよい。
【0059】
図8には、本発明の管理システムにおいて、対象とする牛に関する情報が出生前の段階から出生後の段階まで一元管理されている例を示している。繁殖農家で生まれた牛は、しばらくの間は繁殖農家で育成され、その後肥育農家へ出荷され、そこで肥育された後、屠場で処理されて、卸売(食肉卸売市場や食肉センターなど)、小売(スーパーなど)を経て、精肉として消費者の手にわたる。このように、生まれてから最終的に消費者に至るまでの間も複数の事業者による取引を経ている。
【0060】
例えば、
図8の構成では、管理装置は、出生後の段階において、生まれた牛に関する家畜情報を受信することで、その家畜情報と、出生前の段階の情報(上述した精液等に関する情報や精液等の流通過程で取得される情報)とを紐付けて管理する。出生後の家畜情報は、例えば、出生後の取引に介在する事業体の端末装置や各種センサなどから取得される。
図8には、出生前の段階の情報や出生後の段階の情報が含まれるブロックが、ブロックチェーンで連結されている。
【0061】
上記の家畜情報には、対象とする牛の取引に係る取引情報や、当該牛の発育に関する発育情報が含まれる。取引情報には、例えば、各事業体間の取引に係る取引明細や、日本食肉格付協会によって格付される等級(A5など)などが含まれる。また、発育情報には、例えば、体重、餌の種類と摂取量、水の摂取量、体調、病歴、毛並みの状態などが含まれる。発育情報は日毎のデータとして取得されてもよく、所定期間毎のデータとして取得されてもよい。また、牛にセンサを取り付けるなどして、その牛の活動状況、例えば、採食、飲水、反芻、動態、起立、横臥、静止などをリアルタイムで受信して、発育情報に蓄積してもよい。
【0062】
図8の構成によれば、精液等の状態から最終的な食肉となるまでの取引履歴を一元管理でき、包括的なトレーサビリティを実現できる。
【0063】
また、市場では、例えばA5ランクなどの等級が高い食肉は高額で取引されている。一方、従来では、等級の情報は、精液等に関する情報とは結び付けられていない。そのため、和牛の流通過程の上流に位置する人工授精所は、そこで製造した精液等から生まれた牛が最終的に等級の高い食肉になったとしても、収益の分配などを受けることができなかった。これに対して、
図8の構成では、等級の情報と、精液等に関する情報とが結び付けられることから、人工授精所に対してフィードバック可能となり、例えば、等級に応じて収益の分配などを行うことができる。このように、本発明の管理システムによれば、良質な食肉の生産に寄与した者や貢献した者に対して、適正な利益分配を行うことができる。
【0064】
なお、従来より、個体識別番号を用いたトレーサビリティシステム自体は確立されていることから、例えば、出生前の段階の情報と個体識別番号とを紐付けて、個体識別番号の検索により、精液等に関する情報や精液等の流通過程で取得される情報を確認できるようにしてもよい。
【0065】
本発明の管理システムの構成は、上記
図1~
図8の構成に限定されるものではない。例えば、上記では、管理システムはブロックチェーンネットワーク4を備える構成としたが、ブロックチェーンネットワーク4を省略してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の管理システムは、和牛の精液や、卵子及び受精卵の遺伝資源の流通過程におけるトレーサビリティを確保したシステム、すなわち、和牛の遺伝情報を可視化した初めてのシステムであるといえ、消費者に対してより安全安心な和牛を提供できるとともに、我が国における和牛の品質保持及びブランド保護に寄与することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 管理システム
2 管理装置
2a 情報取得部
2b 識別ID生成部
2c 保存部
2d 通信部
2e 更新部
2f 登録部
3 ユーザ端末装置
3a 端末
3b ボックス
4 ブロックチェーンネットワーク