(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005010
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】スピネル材料粉体、インターコネクタ保護膜およびスピネル材料粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 51/00 20060101AFI20230111BHJP
C04B 35/01 20060101ALI20230111BHJP
H01M 8/0204 20160101ALI20230111BHJP
H01M 8/0215 20160101ALI20230111BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20230111BHJP
H01M 8/0228 20160101ALN20230111BHJP
【FI】
C01G51/00 A
C04B35/01 600
H01M8/0204
H01M8/0215
H01M8/12 101
H01M8/0228
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106669
(22)【出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】平田 宜寛
(72)【発明者】
【氏名】米田 稔
【テーマコード(参考)】
4G048
5H126
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC04
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
4G048AE08
5H126AA14
5H126BB06
5H126FF04
5H126GG13
5H126HH01
5H126HH06
5H126HH08
5H126JJ01
5H126JJ02
(57)【要約】
【課題】焼結体としたときに緻密かつ導電性に優れた保護膜を形成することができる固体酸化物形燃料電池のインターコネクタの保護膜形成材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1);
MnxCoyO4 (1)
(式中、x、yは0<x、y≦3であり、かつ、x+y=3の数を示す。)で表されるスピネル型単相の結晶構造を有し、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.3~0.6μmであり、比表面積換算粒子径に対する結晶子径の比(結晶子径/比表面積換算粒子径)が0.19以上であることを特徴とするスピネル材料粉体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1);
MnxCoyO4 (1)
(式中、x、yは0<x、y≦3であり、かつ、x+y=3の数を示す。)で表されるスピネル型単相の結晶構造を有し、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.3~0.6μmであり、比表面積換算粒子径に対する結晶子径の比(結晶子径/比表面積換算粒子径)が0.19以上であることを特徴とするスピネル材料粉体。
【請求項2】
請求項1に記載のスピネル材料粉体を用いて作成されることを特徴とする電気化学デバイスのインターコネクタ保護膜。
【請求項3】
マンガン原料と、比表面積が30m2/g以上、150m2/g以下のコバルト原料とを湿式混合して、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.5~1.5μmの混合物を得る第一工程と、
該混合物を800~1000℃で焼成してスピネル型単相の結晶構造の焼成物を得る第二工程と、
該焼成物を粉砕する第三工程とを含む
ことを特徴とするスピネル材料粉体の製造方法。
【請求項4】
前記第三工程は、第二工程で得られた焼成物を湿式粉砕して、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.3~0.6μmであって、かつ比表面積換算粒子径に対する結晶子径の比(結晶子径/比表面積換算粒子径)が0.19以上である粉砕物を得る工程であることを特徴とする請求項3に記載のスピネル材料粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池等のインターコネクタ保護膜の材料として好適なスピネル材料粉体、インターコネクタ保護膜およびスピネル材料粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)は、発電効率が高く、低公害であり、しかも燃料の多様化が可能な、高温(600~1000℃)で動作するセラミックスを使った燃料電池であり、大規模発電用から家庭用、移動体用まで様々な分野での実用化が期待されている。
SOFCの単セルは、イオン伝導性を有する緻密質の電解質層を、電子伝導性を有する多孔質の空気極(cathode)および燃料極(anode)で挟み込んだ構造を有している。空気極側に供給された酸素は空気極を透過して電解質との界面に至り、電子による酸素の還元反応によって生成した酸素イオンが電解質を介して燃料極に移動する。一方、燃料極側に供給された水素は燃料極を透過して電解質との界面に至り、水素と酸素イオンが反応することにより、電子と水が生成する。これがSOFCの作動原理である。
単セル1枚あたりの出力は小さいため、商用化の際には複数のセルを積み重ねたセルスタックとすることで、用途に応じた出力を得ることができる。セルスタックにおいて、セル間を電気的に接続する部材は、セル間接続部材またはインターコネクタと呼ばれ、合金等が用いられている。合金にはCrが含まれており、SOFCの作動環境は高温であるため、作動中に合金の表面にCrの酸化皮膜が形成されて電気抵抗が増大したり、Crが蒸発することにより、空気極を被毒して発電性能の低下を招くことがある。このため、合金の表面に耐熱性に優れた金属酸化物材料をコーティングすることにより、酸化皮膜の形成やCrの蒸発を抑制する検討が行われている。
【0003】
特許文献1には、Si、Al及びTiを含むステンレス鋼を用いて構成される金属基材の表面に、MnとCoとを含有するスピネル型金属酸化物を主材料とする保護膜材料層を湿式成膜する成膜工程と、成膜工程によって保護膜材料層が成膜された金属基材に対して1000℃よりも高い温度で大気雰囲気下で熱処理を施すことで、保護膜材料層を焼結させて金属基材に保護膜を形成する焼結工程を有する固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法が提案されており、これにより、保護膜の熱膨張率と金属基材や空気極の熱膨張率との不一致を小さくでき、SOFC用セルの耐久性を高めることができるとされている。
また特許文献2には、SO4濃度が500ppm以下であるZn(CoXMn1-X)2O4(式中、Xは0超1未満の数を示す。)粉末が提案されており、これをインターコネクタとして使用されるステンレスの表面に施すことで、ステンレスからのクロムの拡散を抑制しつつ、ステンレスの腐食を効果的に防止することができるとされている。また、このような粉末を、高価な化学合成二酸化マンガンを用いなくても容易に且つ安価に製造することができる製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-10871号公報
【特許文献2】特開2017-202959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、発電性能の高い固体酸化物形燃料電池用セルのインターコネクタやその製造方法について、様々な検討がなされているが、必ずしも十分な検討がなされているとはいえず、特にインターコネクタを製造するために用いる金属酸化物材料粉体そのものについての検討は十分とはいえない。例えば、上記特許文献1のインターコネクタ保護膜形成用スピネル材料は、合金等の基材に塗膜を湿式成膜し、熱処理を施し、微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成するが、このとき、塗膜が十分に緻密化しないことで基材表面を保護膜で覆うことができず、Crの蒸発を抑制しきれず特性が低下することが課題となっている。また、インターコネクタ保護膜には導電性に優れることも求められるため、焼結体としたときに緻密かつ導電性に優れた保護膜を形成することができる材料が求められている。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、焼結体としたときに緻密かつ導電性に優れた保護膜を形成することができる固体酸化物形燃料電池のインターコネクタの保護膜形成材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、焼結体としたときに緻密かつ導電性に優れた保護膜を形成することができる固体酸化物形燃料電池のインターコネクタの保護膜の材料について種々検討し、MnとCoを構成元素とするスピネル型単相の結晶構造を有し、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.3~0.6μmであり、比表面積換算粒子径に対する結晶子径の比が所定の範囲にあるスピネル材料粉末が、インターコネクタの保護膜として緻密かつ導電性に優れた保護膜を形成することができる材料であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、下記式(1);
MnxCoyO4 (1)
(式中、x、yは0<x、y≦3であり、かつ、x+y=3の数を示す。)で表されるスピネル型単相の結晶構造を有し、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.3~0.6μmであり、比表面積換算粒子径に対する結晶子径の比(結晶子径/比表面積換算粒子径)が0.19以上であることを特徴とするスピネル材料粉体である。
【0009】
本発明はまた、本発明のスピネル材料粉体を用いて作成されることを特徴とする電気化学デバイスのインターコネクタ保護膜でもある。
【0010】
本発明はまた、マンガン原料と、比表面積が30m2/g以上、150m2/g以下のコバルト原料とを湿式混合して、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.5~1.5μmの混合物を得る第一工程と、該混合物を800~1000℃で焼成してスピネル型単相の結晶構造の焼成物を得る第二工程と、該焼成物を粉砕する第三工程とを含むことを特徴とするスピネル材料粉体の製造方法でもある。
【0011】
上記第三工程は、第二工程で得られた焼成物を湿式粉砕して、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.3~0.6μmであって、かつ比表面積換算粒子径に対する結晶子径の比(結晶子径/比表面積換算粒子径)が0.19以上である粉砕物を得る工程であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスピネル材料粉体は、固体酸化物形燃料電池のインターコネクタに緻密かつ導電性に優れた保護膜を形成することができる有用な材料である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0014】
1.スピネル材料粉体
本発明のスピネル材料粉体は、下記式(1);
MnxCoyO4 (1)
(式中、x、yは0<x、y≦3であり、かつ、x+y=3の数を示す。)で表されるスピネル型単相の結晶構造を有し、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.3~0.6μmであり、比表面積換算粒子径に対する結晶子径の比(結晶子径/比表面積換算粒子径)が0.19以上であることを特徴とする。
本発明のスピネル材料粉体は、平均粒子径が0.3~0.6μmの粒径の小さな粒子でありながら、結晶子径/比表面積換算粒子径が0.19以上であるような結晶子径の大きな粉体である。このような粉体をインターコネクタの保護膜を形成する材料として用いると、インターコネクタの表面に緻密かつ導電性に優れた保護膜を形成することができる。
【0015】
本発明のスピネル材料粉体のレーザー回折散乱法に基づく平均粒子径は、0.3~0.6μmである。平均粒子径が0.3μm未満であると、ペーストや塗膜作成時の作業性が悪くなる虞がある。一方、平均粒子径が0.6μmを超えると、十分に緻密化した膜が得られず、導電性が劣る虞がある。好ましくは、0.35~0.5μmであり、より好ましくは、0.4~0.5μmである。
また、比表面積換算粒子径に対する結晶子径の比(結晶子径/比表面積換算粒子径)は0.19以上である。比表面積換算粒子径に対する結晶子径の比が0.19未満であると、単相であっても結晶性が低く、十分に緻密化した膜が得られず、導電性が劣る虞がある。好ましくは、0.195以上であり、より好ましくは、0.20以上である。
スピネル材料粉体の比表面積換算粒子径、及び、結晶子径は後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0016】
2.スピネル材料粉体の製造方法
本発明はまた、マンガン原料と、比表面積が30m2/g以上、150m2/g以下のコバルト原料とを湿式混合して、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.5~1.2μmの混合物を得る第一工程と、該混合物を800~1000℃で焼成してスピネル型単相の結晶構造の焼成物を得る第二工程と、該焼成物を粉砕する第三工程とを含むことを特徴とするスピネル材料粉体の製造方法でもある。
このような製造方法でスピネル材料粉体を製造すると、粒径の小さな粒子でありながら結晶子径が大きく、インターコネクタの保護膜を形成する材料として好適なスピネル材料粉体を得ることができ、上述した本発明のスピネル材料粉体を製造する方法として好適である。
【0017】
上記第一工程において用いるマンガン原料、コバルト原料はこれらの元素の単体又は化合物であればよく、化合物としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩酸塩、硫酸塩の1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
上記第一工程において用いるコバルト原料は、比表面積が30m2/g以上、150m2/g以下のものである。比表面積が30m2/g未満であると、混合物の組成均一性が不十分となり、スピネル型単相の結晶構造が得られなくなる虞がある。比表面積が150m2/gを超えると、湿式混合時のスラリー粘度が高くなり、作業性が悪くなる虞がある。好ましくは、比表面積が30m2/g以上、130m2/g以下のものであり、より好ましくは、35m2/g以上、130m2/g以下のものであり、更に好ましくは、80m2/g以上、120m2/g以下のものである。
コバルト原料の比表面積は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0019】
上記第一工程において、目的物の収率向上と経済性とを考慮すると、マンガン原料とコバルト原料との混合割合は、コバルト原料が含むコバルト元素1molに対して、マンガン原料が含むマンガン元素が0.1~2.5molとなる割合であることが好ましい。より好ましくは、0.1~1.5molとなる割合であり、更に好ましくは、0.25~1.25molとなる割合である。
【0020】
上記第一工程では、マンガン原料とコバルト原料とが湿式混合される限り、混合に用いる機械等は特に制限されず、遊星ボールミル、ビーズミル、振動ミル、メディアレス粉砕機等を用いることができる。
遊星ボールミル、ビーズミル、振動ミルのいずれかを用いる場合に使用するメディアとしては、ガラスビーズ、アルミナビーズ、ジルコニアビーズ、チタニアビーズ、窒化珪素ビーズ等が挙げられる。
使用するメディアは、直径0.1~3mmのものが好ましい。メディアの直径がこの範囲外であると、粉砕効率の低下や、平均粒子径と比表面積のバランスが崩れる場合がある。
【0021】
上記第一工程において湿式混合に用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールの1種又は2種以上を用いることができる。好ましくは、水である。
溶媒の使用量は、固形分濃度が20~60質量%となるように設定することが好ましい。
なお、本明細書における固形分とは、湿式混合に供する全成分から溶媒を除した成分をいい、固形分濃度とは、湿式混合に供する全成分に対する固形分の質量の割合をいう。
【0022】
上記第一工程の混合は、必要に応じて分散剤を添加して行ってもよい。分散剤としては、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリカルボン酸ナトリウム、ポリリン酸アミンのアルコール中和品、縮合ナフタレンスルホン酸アンモニウム、非イオン系界面活性剤、ポリカルボン酸アルキルアミン塩などが挙げられる。
分散剤の使用量は、混合する原料成分の合計質量に対して、0.1~5質量%であることが好ましい。
【0023】
本発明のスピネル材料粉体の製造方法では、第一工程で湿式混合を行った後、第二工程の前に原料混合物から溶媒を除去することが好ましい。溶媒を除去する方法は特に制限されないが、溶媒を十分に除去することができる点で加熱する方法が好ましい。
加熱する場合の温度は、80~200℃が好ましい。より好ましくは、100~150℃である。
【0024】
上記第一工程は、平均粒子径が0.5~1.2μmの原料混合物を得る工程である。第一工程で得られる原料混合物がこのような平均粒子径のものであることで、スピネル型単相の結晶構造を得ることができる。
原料混合物の平均粒子径は0.55~1.2μmであることが好ましい。より好ましくは、0.55~1.0μmであり、更に好ましくは、0.55~0.8μmである。
原料混合物の平均粒子径は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
本発明のスピネル材料粉体の製造方法の第二工程は、第一工程で得られた混合物を800~1000℃で焼成してスピネル型単相の結晶構造の焼成物を得る工程である。
焼成温度が800℃未満であると、元素拡散不足により、スピネル型単相の結晶構造が得られなくなる虞がある。一方、焼成温度が1000℃を超えると粒子成長が著しくなり、第三工程における粉砕効率の低下により、結晶性が低くなり、導電性が低下する虞がある。焼成温度は、825~975℃であることが好ましい。より好ましくは、850~950℃である。
また混合物を焼成する時間は、0.5~24時間であることが好ましい。より好ましくは、1~12時間である。
焼成雰囲気は特に制限されず、大気、酸素等から適宜選択することができる。
【0026】
上記第三工程は、第二工程で得られる焼成物を粉砕して、粉体を得る工程である。焼成物を粉砕する方法は特に制限されず、乾式粉砕、湿式粉砕のいずれであってもよいが、湿式粉砕が好ましい。
また粉砕には、遊星ボールミル、ビーズミル、振動ミル、メディアレス粉砕機等を用いることができる。遊星ボールミル、ビーズミル、振動ミルのいずれかを用いる場合に使用するメディアとしては、ガラスビーズ、アルミナビーズ、ジルコニアビーズ、チタニアビーズ、窒化珪素ビーズ等が挙げられる。
使用するメディアは、直径0.1~3mmのものが好ましい。メディアの直径がこの範囲外であると、粉砕効率の低下や、平均粒子径と比表面積のバランスが崩れる場合がある。
【0027】
上記第三工程において湿式粉砕を行う場合、溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールの1種又は2種以上を用いることができる。好ましくは、水である。
溶媒の使用量は、固形分濃度が20~60質量%となるように設定することが好ましい。
【0028】
上記第三工程において湿式粉砕を行う場合、粉砕後の粉体から溶媒を除去する工程を行うことが好ましい。溶媒を除去する方法は特に制限されないが、溶媒を十分に除去することができる点で加熱する方法が好ましい。
加熱する場合の温度は、80~200℃が好ましい。より好ましくは、100~150℃である。
【0029】
本発明のスピネル材料粉体の製造方法は、上述した本発明のスピネル材料粉体を製造するための好適な方法であり、製造されるスピネル材料粉体は、上述した本発明のスピネル材料粉体の要件を満たすものであることが好ましい。
すなわち、上記第三工程は、第二工程で得られた焼成物を湿式粉砕して、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.3~0.6μmであって、かつ比表面積換算粒子径に対する結晶子径の比(結晶子径/比表面積換算粒子径)が0.19以上である粉砕物を得る工程であることが好ましい。
第三工程で得られる粉砕物のレーザー回折散乱法に基づく平均粒子径や、比表面積換算粒子径に対する結晶子径の比の好ましい値は、上述した本発明のスピネル材料粉体のレーザー回折散乱法に基づく平均粒子径や、比表面積換算粒子径に対する結晶子径の比の好ましい値と同様である。
【0030】
上記第三工程で得られる粉体は、BET比表面積が5~20m2/gであることが好ましい。より好ましくは、8~18m2/gであり、更に好ましくは、10~15m2/gである。
粉体のBET比表面積は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0031】
本発明の製造方法は、上記第一から第三工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、上述した第一工程での湿式混合や第三工程での湿式粉砕の後に溶媒を除去する加熱工程の他、第一工程で得られた原料混合物や第三工程で得られた粉体を解砕する工程等が挙げられる。
【0032】
本発明のスピネル材料粉体は、平均粒子径が小さな粒子でありながら、結晶子径の大きな粉体であり、固体酸化物形燃料電池や固体酸化物形電気分解セル等の電気化学デバイスのインターコネクタの保護膜を形成する材料として用いると、緻密かつ導電性に優れた保護膜を形成することができる。このような本発明のスピネル材料粉体を用いて作成されることを特徴とする電気化学デバイスのインターコネクタ保護膜もまた、本発明の1つである。
【実施例0033】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0034】
(a)比表面積(SSA)
比表面積測定装置((株)マウンテック製、Macsorb HM-1220)を用いて、BET流動法により測定した。純窒素ガス気流下にて、230℃で30分間保持することにより脱気し、吸着ガスとして窒素30%とヘリウム70%の混合気体を用いて測定した。
【0035】
(b)比表面積換算粒子径(SSA換算粒子径)
(a)で測定された比表面積から、次の換算式を用いて比表面積換算粒子径を算出した。ρ(試料粉体の密度)は、MnCo2O4で表される金属複合酸化物の理論密度(6.02g/cm3)とした。
S=6/(ρ×d)
ただし、S=比表面積、ρ=試料粉体の密度、d=比表面積換算粒子径である。
【0036】
(c)平均粒子径(D50)
レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製、MT-3300EXII)を用いて、下記条件で測定した。
計測モード:MT-3300
粒子屈折率:2.40
溶媒屈折率:1.333
【0037】
(d)結晶子径
(1)X線回折装置((株)リガク製、RINT TTRIII、線源CuKα、モノクロメータ使用、管電圧50kV、電流300mA、長尺スリットPSA200(全長200mm、設計開口角度0.057度))を用いて、下記条件で回折パターンを取得した。
測定方法:平行法(連続)
スキャンスピード:2.5度/分
サンプリング幅:0.04度
2θ:10~70度
(2)上記(1)の取得された回折パターンにおけるスピネル相の(311)面に対応する回折線の半値幅から、下記のシェラーの式を用いて、結晶子径を算出した。
結晶子径=K×λ/βcosθ
ただし、K=シェラー定数(=1)、λ=X線の波長(Cu-Kα線 1.5418Å)、β=半値幅(ラジアン単位)、θ=ブラッグ(Bragg)角(回折角2θの1/2)
【0038】
実施例1
炭酸マンガン(II)n水和物(MnCO3・nH2O、富士フイルム和光純薬(株)製)76.4g、水酸化コバルト(Co(OH)2、富士フイルム和光純薬(株)製)123.58gを、500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ((株)ニッカトー製、YTZ-1)150mL、イオン交換水250mL、およびポリアクリル酸アンモニウム溶液 70~110(富士フイルム和光純薬(株)製)4.0gを加え、遊星ボールミル(フリッチュ(株)製、P-5)を用いて、180rpmで125分間、湿式混合した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱して水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、原料混合物を得た。上記原料混合物をレーザー回折散乱法により粒度分布を測定したところ、平均粒子径は0.70μmであった。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、850℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。焼成物の結晶子径は54nmであった。
上記焼成物100gを500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ150mL、およびイオン交換水200mLを加え、遊星ボールミルを用いて、180rpmで145分間、湿式粉砕した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱し、水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、粉砕物を得た。上記粉砕物のBET比表面積は12.0m2/gであり、レーザー回折散乱法による平均粒子径は0.44μmであった。上記粉砕物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。粉砕物の結晶子径は17nmであった。
【0039】
実施例2
実施例1と同様にして原料混合物を得た。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、950℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。焼成物の結晶子径は75nmであった。
上記焼成物100gを500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ150mL、およびイオン交換水200mLを加え、遊星ボールミルを用いて、180rpmで155分間、湿式粉砕した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱し、水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、粉砕物を得た。上記粉砕物のBET比表面積は11.5m2/gであり、レーザー回折散乱法による平均粒子径は0.46μmであった。上記粉砕物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。粉砕物の結晶子径は18nmであった。
【0040】
実施例3
炭酸マンガン(II)n水和物(MnCO3・nH2O、富士フイルム和光純薬(株)製)76.4g、水酸化コバルト(Co(OH)2、富士フイルム和光純薬(株)製)123.58gを、500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ((株)ニッカトー製、YTZ-1)150mL、イオン交換水250mL、およびポリアクリル酸アンモニウム溶液 70~110(富士フイルム和光純薬(株)製)4.0gを加え、遊星ボールミル(フリッチュ(株)製、P-5)を用いて、180rpmで30分間、湿式混合した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱して水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、原料混合物を得た。上記原料混合物をレーザー回折散乱法により粒度分布を測定したところ、平均粒子径は0.90μmであった。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、850℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。焼成物の結晶子径は62nmであった。
上記焼成物100gを500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ150mL、およびイオン交換水200mLを加え、遊星ボールミルを用いて、180rpmで170分間、湿式粉砕した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱し、水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、粉砕物を得た。上記粉砕物のBET比表面積は11.8m2/gであり、レーザー回折散乱法による平均粒子径は0.40μmであった。上記粉砕物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型構造型単相の結晶構造を有することを確認した。粉砕物の結晶子径は19nmであった。
【0041】
実施例4
実施例3と同様にして原料混合物を得た。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、950℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。焼成物の結晶子径は78nmであった。
上記焼成物100gを500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ150mL、およびイオン交換水200mLを加え、遊星ボールミルを用いて、180rpmで175分間、湿式粉砕した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱し、水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、粉砕物を得た。上記粉砕物のBET比表面積は12.2m2/gであり、レーザー回折散乱法による平均粒子径は0.43μmであった。上記粉砕物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型構造型単相の結晶構造を有することを確認した。粉砕物の結晶子径は17nmであった。
【0042】
実施例5
炭酸マンガン(II)n水和物(MnCO3・nH2O、富士フイルム和光純薬(株)製)76.4g、水酸化コバルト(Co(OH)2、富士フイルム和光純薬(株)製)123.58gを、500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ((株)ニッカトー製、YTZ-1)150mL、イオン交換水250mL、およびポリアクリル酸アンモニウム溶液 70~110(富士フイルム和光純薬(株)製)4.0gを加え、遊星ボールミル(フリッチュ(株)製、P-5)を用いて、180rpmで15分間、湿式混合した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱して水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、原料混合物を得た。上記原料混合物をレーザー回折散乱法により粒度分布を測定したところ、平均粒子径は1.14μmであった。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、850℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。焼成物の結晶子径は63nmであった。
上記焼成物100gを500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ150mL、およびイオン交換水200mLを加え、遊星ボールミルを用いて、180rpmで175分間、湿式粉砕した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱し、水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、粉砕物を得た。上記粉砕物のBET比表面積は12.2m2/gであり、レーザー回折散乱法による平均粒子径は0.39μmであった。上記粉砕物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。粉砕物の結晶子径は26nmであった。
【0043】
実施例6
実施例5と同様にして原料混合物を得た。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、950℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。焼成物の結晶子径は61nmであった。
上記焼成物100gを500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ150mL、およびイオン交換水200mLを加え、遊星ボールミルを用いて、180rpmで160分間、湿式粉砕した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱し、水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、粉砕物を得た。上記粉砕物のBET比表面積は11.1m2/gであり、レーザー回折散乱法による平均粒子径は0.46μmであった。上記粉砕物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型構造を有するスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。粉砕物の結晶子径は19nmであった。
【0044】
実施例7
炭酸マンガン(II)n水和物(MnCO3・nH2O、富士フイルム和光純薬(株)製)83.5g、比表面積が40.3m2/gである酸化コバルト(II,III)(Co3O4)116.55gを、500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ((株)ニッカトー製、YTZ-1)150mL、イオン交換水250mL、およびポリアクリル酸アンモニウム溶液 70~110(富士フイルム和光純薬(株)製)4.0gを加え、遊星ボールミル(フリッチュ(株)製、P-5)を用いて、180rpmで38分間、湿式混合した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱して水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、原料混合物を得た。上記原料混合物をレーザー回折散乱法により粒度分布を測定したところ、平均粒子径は0.74μmであった。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、850℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。焼成物の結晶子径は61nmであった。
上記焼成物100gを500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ150mL、およびイオン交換水200mLを加え、遊星ボールミルを用いて、180rpmで160分間、湿式粉砕した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱し、水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、粉砕物を得た。上記粉砕物のBET比表面積は12.2m2/gであり、レーザー回折散乱法による平均粒子径は0.40μmであった。上記粉砕物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。粉砕物の結晶子径は17nmであった。
【0045】
実施例8
実施例7と同様にして原料混合物を得た。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、950℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。焼成物の結晶子径は69nmであった。
上記焼成物100gを500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ150mL、およびイオン交換水200mLを加え、遊星ボールミルを用いて、180rpmで165分間、湿式粉砕した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱し、水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、粉砕物を得た。上記粉砕物のBET比表面積は12.2m2/gであり、レーザー回折散乱法による平均粒子径は0.39μmであった。上記粉砕物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型構造を有するスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。粉砕物の結晶子径は18nmであった。
【0046】
比較例1
実施例1と同様にして原料混合物を得た。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、750℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型の結晶構造に加え、Mn2O3、Co3O4を不純物(異相)として有することを確認した。
【0047】
比較例2
実施例1と同様にして原料混合物を得た。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、1050℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記粉砕物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。焼成物の結晶子径は87nmであった。
上記焼成物100gを500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ150mL、およびイオン交換水200mLを加え、遊星ボールミルを用いて、180rpmで155分間、湿式粉砕した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱し、水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、粉砕物を得た。上記粉砕物のBET比表面積は13.1m2/gであり、レーザー回折散乱法による平均粒子径は0.44μmであった。上記粉砕物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型構造を有するスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。粉砕物の結晶子径は14nmであった。
【0048】
比較例3
炭酸マンガン(II)n水和物(MnCO3・nH2O、富士フイルム和光純薬(株)製)83.5g、比表面積が15.7m2/gである酸化コバルト(II,III)(Co3O4)116.55gを、500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ((株)ニッカトー製、YTZ-1)150mL、イオン交換水250mL、およびポリアクリル酸アンモニウム溶液 70~110(富士フイルム和光純薬(株)製)4.0gを加え、遊星ボールミル(フリッチュ(株)製、P-5)を用いて、180rpmで32分間、湿式混合した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱して水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、原料混合物を得た。上記原料混合物をレーザー回折散乱法により粒度分布を測定したところ、平均粒子径は0.65μmであった。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、850℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。焼成物の結晶子径は20nmであった。
上記焼成物100gを500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ150mL、およびイオン交換水200mLを加え、遊星ボールミルを用いて、180rpmで155分間、湿式粉砕した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱し、水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、粉砕物を得た。上記粉砕物のBET比表面積は11.5m2/gであり、レーザー回折散乱法による平均粒子径は0.41μmであった。上記粉砕物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。粉砕物の結晶子径は11nmであった。
【0049】
比較例4
比較例3と同様にして原料混合物を得た。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、950℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。焼成物の結晶子径は36nmであった。
上記焼成物100gを500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ150mL、およびイオン交換水200mLを加え、遊星ボールミルを用いて、180rpmで165分間、湿式粉砕した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱し、水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、粉砕物を得た。上記粉砕物のBET比表面積は11.3m2/gであり、レーザー回折散乱法による平均粒子径は0.45μmであった。上記粉砕物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型構造を有するスピネル型単相の結晶構造を有することを確認した。粉砕物の結晶子径は13nmであった。
【0050】
比較例5
炭酸マンガン(II)n水和物(MnCO3・nH2O、富士フイルム和光純薬(株)製)83.5g、比表面積が21.8m2/gである酸化コバルト(II,III)(Co3O4)116.55gを、500mL容量の樹脂製ポットに秤量し、直径1mmのジルコニアビーズ((株)ニッカトー製、YTZ-1)150mL、イオン交換水250mL、およびポリアクリル酸アンモニウム溶液 70~110(富士フイルム和光純薬(株)製)4.0gを加え、遊星ボールミル(フリッチュ(株)製、P-5)を用いて、180rpmで10分間、湿式混合した。次いで、ビーズを除去し、150℃で加熱して水分を除去後、メノウ乳鉢で解砕することにより、原料混合物を得た。上記原料混合物をレーザー回折散乱法により粒度分布を測定したところ、平均粒子径は0.32μmであった。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、850℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型の結晶構造に加え、Mn2O3、Co3O4を不純物(異相)として有することを確認した。
【0051】
比較例6
比較例5と同様にして原料混合物を得た。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、950℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型の結晶構造に加え、Mn2O3、Co3O4を不純物(異相)として有することを確認した。
【0052】
比較例7
炭酸マンガン(II)n水和物(MnCO3・nH2O、富士フイルム和光純薬(株)製)48.5g、水酸化コバルト(Co(OH)2、富士フイルム和光純薬(株)製)78.5gを、秤量し、小型粉砕機サンプルミル(協立理工(株)製、SK-M10)を用いて、14000rpmで30秒間、乾式混合することにより、原料混合物を得た。上記原料混合物をレーザー回折散乱法により粒度分布を測定したところ、平均粒子径は5.71μmであった。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、850℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型の結晶構造に加え、Mn2O3、Co3O4を不純物(異相)として有することを確認した。
【0053】
比較例8
比較例7と同様にして原料混合物を得た。
上記原料混合物を酸化アルミニウム製の坩堝に入れ、この坩堝を電気炉内に置き、950℃で2時間加熱した後、メノウ乳鉢で解砕することにより焼成物を得た。上記焼成物をX線回折装置を用いて分析したところ、組成式:MnCo2O4で表されるスピネル型の結晶構造に加え、Mn2O3、Co3O4を不純物(異相)として有することを確認した。
【0054】
[焼結体の作製]
スピネル型単相の結晶構造を有する実施例1~8、比較例2~4で得られた生成物の粉砕物10gおよびポリビニルアルコール水溶液(濃度:10質量%)0.2gを秤量して、乳鉢で混合した。続いて、箱型乾燥機にて110℃で1時間静置して水分を蒸発させ、目開き150μmの篩に通して造粒粉体を得た。得られた造粒粉体を、6mm×45mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型し、幅6mm×高さ6mm×長さ45mmの成型体を得た。得られた成型体をジルコニア板の上に置き、電気炉にて、大気中、1000℃で2時間焼成することで、焼結体を得た。得られた焼結体に対して以下の方法で開気孔率、導電率の測定を行った。結果を表1、2に示す。
比較例1、5~8については結晶構造がスピネル型単相とならず、Mn2O3、Co3O4などの不導体が残存し、導電率が著しく低下することが予想されることから測定を行わなかった。
(e)開気孔率測定
焼結体の開気孔率(P)を、JIS R 1634に準じて測定した。具体的には、焼結体の乾燥重量、水中重量、飽水重量をJIS R 1634に記された方法により測定し、下記式を用いて開気孔率を算出した。
P=(W3-W1)/(W3-W2)×100
ただし、P:開気孔率(%)、W1:乾燥重量(g)、W2:水中重量(g)、W3:飽水重量(g)である。
(f)導電率測定
上記と同様にして得られた焼結体の800℃における導電率(S1)を、JIS R 1661に準じて、四端子法により測定した。
具体的には、白金ペースト(田中貴金属(株)製、TR-7907)を、焼結体の幅方向に沿って、長さ方向を2分する中心線に対して対称に塗布し、2つの電圧端子を作製した。塗布幅は2mmであり、電圧端子同士の離間距離は20mmとした。次に、上記と同じ白金ペーストを、電圧端子から5mm離れた位置から、長さ方向の端部にかけてそれぞれ塗布して、2つの電流端子を作製した。さらに、各端子に直径0.3mmの白金線を巻き付けて、取り出し電極を作製した。各端子が形成された焼結試料を加熱試料ホルダ(ノーレックス社製、プロボスタット)にセットし、電気炉内で800℃で2時間加熱した。これにより、白金ペーストを焼結体に焼き付けて、四端子セルを得た。得られた四端子セルを用いて、電気化学測定システム(ソーラートロン社製、ModuLab XM)により、800℃における導電率(S1)を測定した。
開気孔率(P)と800℃おいて測定された上記導電率(S1)を用いて、下記の式により、焼結体の導電率(S)を算出した。
S=S1/{(100-P)×100}
ただし、S:導電率、S1:800℃おいて測定された導電率、P:開気孔率(%)である。
【0055】
【0056】
【0057】
表1に示すとおり、実施例1~8で得られた粉体は、結晶子サイズを比表面積換算粒子径で除した値が高く、結晶性が高い結果となった。また、これらを焼結体としたときに開気孔率が低く抑えられ、高い導電率を示した。
表2に示すとおり、比較例1~2は焼成温度を変化させている。750℃で焼成した比較例1では酸化コバルト(Co3O4)や酸化マンガン(Mn2O3)などの不導体が残存することから導電率が著しく低下することが予想されたため、測定を行わなかった。1050℃で焼成した比較例2では粒子成長が著しくなり、後の粉砕工程で微粒と粗粒が発生し分布の広い粒度となったことから、実施例1~8に比べ焼結体の開気孔率が高くなり、導電率が低くなったと考えられる。比較例3~4はコバルト原料の比表面積を15.7m2/gに調製したが、結晶子サイズを比表面積換算粒子径で除した値が低く、実施例1~8に比べ焼結体の開気孔率が高く、導電率が低い結果となった。比較例5~6はコバルト原料の比表面積を21.8m2/gに調製したが、焼成後に酸化コバルトや酸化マンガンなどの不導体が残存した。比較例7~8は混合方法を乾式に変更したが、焼成後に酸化コバルトや酸化マンガンなどの不導体が残存した。不導体が存在すると導電率が著しく低下することが予想されたため、比較例5~8は測定を行わなかった。導電率が低い材料は本用途での使用は困難である。
また、実施例1~8の焼結体は開気孔率が比較例2~4に比べ小さく緻密化しており、保護膜に使用した場合、Crの蒸発抑制が期待できる。
以上より、本発明のスピネル材料粉体は電気化学デバイスのインターコネクタに緻密かつ導電性に優れた保護膜を形成することができる材料であること、及び、本発明のスピネル材料粉体の製造方法は、そのようなスピネル材料粉体の好適な製造方法であることが確認された。