(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050110
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】創傷治癒剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/729 20060101AFI20230403BHJP
A61K 33/42 20060101ALI20230403BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230403BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20230403BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20230403BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
A61K31/729
A61K33/42
A61P17/02
A61L27/12
A61L27/20
A61L27/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136254
(22)【出願日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2021159071
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521426176
【氏名又は名称】株式会社キュア薬品
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】田畑 雅士
(72)【発明者】
【氏名】田畑 博章
【テーマコード(参考)】
4C081
4C086
【Fターム(参考)】
4C081AB19
4C081BA17
4C081BC04
4C081CD01
4C081CF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086HA19
4C086MA02
4C086MA04
4C086ZA89
(57)【要約】
【課題】臨床において、より確実に止血を行い、ひいては創傷治癒を行い得る創傷治癒剤を得ること、さらに癌患者や皮膚癌にかかったことがある人に対して、使用できる創傷治癒剤を得ること、より費用が安く投与の頻度を削減できて、治療の手間を軽くすること。
【解決手段】アガロースゲル1.0重量部に対し、単針晶及び/又は球状結晶のCa(HPO4)(H2O)2を0.50~3.00重量部の割合で含有する創傷治癒剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アガロースゲル1.0重量部に対し、単針晶及び/又は球状結晶のCa(HPO4)(H2O)2を0.50~3.00重量部の割合で含有する創傷治癒剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は創傷治癒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、アガロースゲルを担体としたヒドロキシアパタイトとの複合体を人工骨や人工歯根の形成材料とすることは知られている。
また特許文献2、3に記載のように、ポリリン酸カルシウム等の塩の結晶は止血剤とされることも知られている。
これらの文献に記載の、人工骨や人工歯根の形成材料や止血剤は、臨床においては、場合により治癒が悪くなる可能性や、生体との間で異物反応が起きる可能性があった。
また、このような治癒を目的に薬剤としてフィブラストスプレーが使用されるが、フィブラストスプレーは癌患者や、皮膚癌にかかったことがある人に対して使用することは認められていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/061001号
【特許文献2】特表2016-535041号公報
【特許文献3】特表2008-531692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒドロキシアパタイトとアガロースの複合材料を臨床において使用すると、場合により治癒が悪くなったり、生体との間で異物反応が生じたりした。また、フィブラストスプレーは製造費用が高いこと、及び創傷治癒に使用する際には、頻繁に投与することが必要であり、かつ炎症反応が強いため、治療にかかる手間が大きいものであった。加えてタンパク質製剤であるため、創傷部位に炎症性細胞が多いときには、副作用として、投与後の刺激感、疼痛、発赤などを発生させやすい。
本発明は臨床において、より確実に止血を行い、ひいてはより確実に創傷治癒を行い得る創傷治癒剤を得ること、さらに癌患者や皮膚癌にかかったことがある人に対して、使用できる創傷治癒剤を得ること、より費用が安く投与の頻度を削減できて、治療の手間を軽くすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記の課題を解決するための発明であり、そのための下記の構成を採用する。
アガロースゲル1.0重量部に対し、単針晶及び/又は球状結晶のCa(HPO4)(H2O)2を0.50~3.00重量部の割合で含有する創傷治癒剤。
【発明の効果】
【0006】
創傷治癒剤として、単針晶の及び/又は球状結晶Ca(HPO4)(H2O)2及びアガロースゲルを含有させ、その止血用組成物を、生体の創傷部に対して塗布や被覆等することにより、速やかにかつ確実に創傷治癒することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】リン酸カルシウムアガロースゲル2(単針晶のCa(HPO4)(H2O)2を有する)の走査型電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の創傷治癒剤について以下に説明をする。
本発明の創傷治癒剤は、専ら創傷部の出血部に適用して、創傷治癒を行うための組成物である。単針晶のCa(HPO4)(H2O)2を0.50~3.00重量部に対し、アガロースゲルを1.0重量部の割合で含有するものである。
【0009】
<単針晶及び/又は球状結晶のCa(HPO4)(H2O)2>
本発明ではリン酸カルシウムとして、Ca(HPO4)(H2O)2を採用する。
このようなCa(HPO4)(H2O)2を得る手段は特に限定されず、Ca(HPO4)(H2O)2の中でも単針晶及び/又は球状結晶である。そして単針晶の部分と球状結晶の部分を共に有するCa(HPO4)(H2O)2を使用しても良い。
本発明における単針晶のCa(HPO4)(H2O)2は、例えば、20℃のpH7.4の100~1000mMの塩化カルシウム溶液と、20℃のpH7.4の30~500mMのリン水素酸ナトリウム(リン酸水素二ナトリウム・12水和物等)溶液を用意する。そして、20℃のpH7.4の100~1000mMの塩化カルシウム溶液への2時間の浸漬と、純水での洗浄、次いで、20℃のpH7.4の30~500mMリン酸水素ナトリウム溶液に2時間浸漬と、純水での洗浄を、1サイクルとして行い、これを合計で5~20サイクル行って得られる。
本発明中の創傷治癒剤に含有されるリン酸カルシウム中、単針晶及び球状結晶のCa(HPO4)(H2O)2を100質量%含有することが好ましいが、本発明による効果を毀損しない範囲において他のリン酸カルシウム類も含有してもよい。その結果、リン酸カルシウム中の単針晶のCa(HPO4)(H2O)2の含有比率は95質量%以上でも良く、90質量%以上でも良い。この比率が高いほど創傷治癒の効果に優れる。
なお、他のリン酸カルシウムとして、例えば非結晶、単斜晶、六方晶や直方晶のリン酸カルシウム、非結晶のポリリン酸カルシウム、及び単針晶以外のポリリン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)等が挙げられる。
【0010】
本発明の単針晶及び球状結晶のCa(HPO4)(H2O)2の、個々の粒子の平均粒径は1.00μm以上が好ましく、2.00μm以上がより好ましく3.00μm以上が更に好ましい。また、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、30.0μm以下が更に好ましく、10.0μm以下が最も好ましい。
乾燥状態の創傷治癒剤の全重量中の単針晶及び球状結晶のCa(HPO4)(H2O)2の含有比率は、乾燥重量で、アガロースゲルの重量を1重量部としたときの、単針晶及び球状結晶のCa(HPO4)(H2O)2の重量は0.50~3.00重量部である。そして、0.70重量部以上が好ましく、0.80重量部以上がより好ましく、0.90重量部以上が更に好ましく、1.00重量部以上が最も好ましい。また、2.50重量部以下が好ましく、2.00重量部以下がより好ましく、1.70重量部以下が更に好ましく、1.50重量部以下が最も好ましい。質量測定は全体の質量を測定し、ICP質量分析法によりカルシウムの質量を測定し、そこから化学式を基にしてリン酸カルシウムの質量を測定し、全体の質量からそれを引いたのがアガロースの質量とし、重量の比を算定した。 ここでいう単針晶とは、リン酸カルシウム粒子をX線解析(XRD分析 全自動多目的X線解析装置 Rigaku製を使用)し、その結果として、単針晶を示すピークの分布等により、結晶を確認できたものである。球状結晶についても同様に確認できる。
また平均粒径とは粒度分布測定装置により求めた個数基準の算術平均径である。
【0011】
<アガロースゲル>
本発明におけるアガロースゲルは多糖類の一種であるアガロースをヒドロゲル化してなる公知のものである。
なかでもアガロースゲルとしては部分的に架橋されたものが好ましく、アガロースゲル顆粒(Pharmacia Biotech社)およびバイオゲル(商標)A(Bio Rad Laboratories)、Lonza社等の公知のものを使用できる。
【0012】
<その他のヒドロゲル形成性ポリマー>
本発明における効果を阻害しない範囲にて、アガロースゲルと共にヒドロゲル形成性ポリマーを併用しても良い。そのヒドロゲル形成性ポリマーとしては、部分的に物理的・化学的な架橋がされていてもよく、1)アルギン酸、プルラン、ペクチン、デンプン、α化デンプン、ヒアルロン酸、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、マンナン、キトサン、キチン、キトサン-キチン共重合体、デキストランおよびデキストラン硫酸からなる群より選ばれる多糖類、または2)ポリアスパラテート、コラーゲン、ゼラチン、ポリγ-グルタミン酸、ポリリジンおよびカゼインからなる群より選ばれるポリペプチド、または3)ポリ乳酸、ポリグリコール酸およびポリ乳酸-グリコール酸共重合体からなる群より選ばれるその他の生分解性ポリマー、または4)リグニン、ポリオルニチン、ポリロタキサン、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンおよびポリ(ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる生体適合性ポリマーである。
【0013】
<創傷治癒剤の形態>
本発明の創傷治癒剤は、本発明による効果を毀損しない範囲において、Ca8(H2PO4)6・5(H2O)等を含有しても良い。
創傷治癒剤の形態としては、水分等を含有した湿潤状態及び乾燥させた状態のいずれでも良い。さらに、それぞれの状態において、シート状、粒子状、フレーク状、粉末状等の任意の形態を採用できる。
創傷部への付着性向上のために、創傷治癒剤を公知の溶媒に浸漬した剤、公知の媒体に分散させてなるクリーム剤や軟膏剤、公知のシート剤と一体化させてなる貼付用シート剤等の任意の形態にて、創傷部に付着し固定させることが必要である。
【0014】
<単針晶及び球状結晶のCa(HPO4)(H2O)2、及びアガロースゲルの含有形態>
上記の他に、個別に準備した単針晶及び/又は球状結晶のCa(HPO4)(H2O)2とアガロースゲルを、溶媒中で又は溶媒中ではない状態で、単に混合し、場合によりさらに成形して、得た混合物や成形品を創傷治癒剤としても良い。
図4にリン酸カルシウムアガロースゲル2(単針晶のCa(HPO4)(H2O)2を有する)の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図4の左上の写真の中央部の一部を拡大した写真が右上の写真であり、右上の写真の中央部をさらに拡大して最も倍率が高い写真がその下の写真である。最も倍率が高い写真の白色部分はCa(HPO4)(H2O)2である。
【0015】
別の含有形態としては、カルシウムを含有する第1の水溶液(pH7.4の400mM・塩化カルシウム溶液)と、カルシウムを含有しないリン酸イオンを含有する第2の水溶液(pH7.4の120mM・リン酸水素ナトリウム溶液(リン酸水素二ナトリウム・12水和物))を用意し、これら2種の水溶液に対して、ディスク等のシート状や棒状のヒドロゲル状のアガロース(アガロースゲル)を交互に浸漬して、アガロースゲル表面及び/又は内部に、単針晶のCa(HPO4)(H2O)2を形成し、担持させることができる。この交互の浸漬工程を目的に応じて数回から数十回行うこと(交互浸漬法)により、所望の粒径の単針晶のCa(HPO4)(H2O)2の粒子をアガロースゲル中に担持させればよい。
ここで、交互に浸漬する工程においては、アガロースゲルを支持等してアガロースゲルと共に浸漬されるようなステンレス等の金属製の支持部材を使用しないことが、単針晶のCa(HPO4)(H2O)2を形成させる点において好ましい。
【0016】
そのため、単針晶及び/又は球状結晶のCa(HPO4)(H2O)2をアガロースゲルに担持させるには、例えばアガロースゲルの端部のみを直に把持して、把持部材を上記水溶液中に浸漬させずに、アガロースゲルのみを浸漬させるようにして、上記のような交互浸漬法を行って処理することが好ましい。仮に金属製や樹脂製の支持部材もアガロースゲルと共に上記第1の水溶液と第2の水溶液に浸漬させる場合には、生成するリン酸カルシウム粒子が単針晶及び/又は球状結晶のCa(HPO4)(H2O)2ではない可能性がある。
また、アガロースゲルを直に把持することに代えて、支持部材として、ガラス、石英、セラミック、薬剤耐性の熱可塑性ポリウレタン等を採用できる。この場合には、予めガラス、石英、セラミックスや薬剤耐性の熱可塑性ポリウレタンのプレート、皿状物や容器状の支持部材の上に、アガロースゲルのシートを載置し、これを支持部材ごと、上記の第1の水溶液と第2の水溶液に交互に浸漬させる。これにより、リン酸カルシウムをアガロースゲルのシートの上面から浸透させて、Ca(HPO4)(H2O)2をアガロースゲルのシート内に形成により単針晶として結晶化させることができる。
【0017】
本発明の創傷治癒剤は、施用または埋植の目的(例えば、止血と同時に、骨再生や組織再成を促進したり、または止血作用を促進したりする)または部位に応じて、各種細胞の増殖因子(例えば、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子等)、血液凝固因子(例えば、トロンビン、第VIII因子等)、または抗菌剤(抗生物質)等の剤を含むことができる。これらの他の剤は、例えば上記交互浸漬法における浸漬工程に用いるいずれかの水溶液中に存在させておくか、アガロースゲル形成時又は形成後にアガロースゲルのマトリックス中に混合・封入しておくことによって、アガロースゲルのマトリックス中またはCa(HPO4)(H2O)2上に担持させることができる。
【0018】
こうして得られる本発明の創傷治癒剤は、哺乳動物、特にヒトにおける開放創、例えば、擦過傷等の開放創、抜歯窩、歯周ポケット、閉鎖創、例えば、のう胞や骨欠損における出血部位へ、適量(通常、窩全体に充填されるように)施用または埋植することにより、速やかに止血できるか、あるいは止血もしくは血液凝固時間を大幅に短縮できる。さらに、血餅保持を通じて、組織治癒を促進する。
特に、歯科領域では歯周病治療、インプラント手術、抜歯後止血、骨髄炎治療、整形外科領域でも骨折や外傷時の止血や創傷保護、擦過傷、褥瘡などの組織治癒に使用できる。
本発明の複合材料は骨欠損に密に充填等することで失われた骨を再生し、骨の形態を保持することができる。また、本発明の複合材料を、適当な支持体、例えば、シート部材や包帯等に支持した状態で使用してもよい。また、公知の適当な基材と混ぜることで軟膏にもできる。
【実施例0019】
以下、本発明を、特定の例を挙げて、具体的に説明するが、これらの例に本発明を限定することを意図するものでない。
<擦過傷モデルの作製>
ヘアレスラットの背部皮膚の発毛状態を確認し,必要に応じて電気バリカン及び電気シェーバーを用いて除毛した。
イソフルラン吸入麻酔下で,臨床用皮膚部分欠損作製ナイフを用いて、背部に約20×25mm,深さ400~500μm程度の真皮に及ぶ剥離創を作製した。
【0020】
<創面径の測定,動物の選択及び群分け>
擦過傷モデル作製日に群分けを実施した。ノギスにより創面径(長径及び短径)を測定し、算出した創面積(長径×短径(mm2))を指標にして、層別連続無作為化法により表1に従い群分けを行った。A群の6匹については何ら措置をせず、B群、C群及びD群の各6匹に対して、表1に示すように、リン酸カルシウムアガロースゲル1及び2、フィ
ブラストスプレー500(科研製薬社)のいずれかを投与した。なお、群分け時において、
創面の状態が不良な動物を予め除外した。A群、B群、C群及びD群の各6匹のヘアレスラットにそれぞれに動物番号を付与した。
【0021】
【0022】
<創傷治癒剤の調製>
被験物質であるリン酸カルシウムアガロースゲル1及び2(粉末)は下記の方法により得たものを使用した。
別の被験物質であるフィブラストスプレー500は凍結乾燥品の粉末を添付溶解液5mLで溶解して冷蔵保存し(使用期限は2週間),投与当日に必要量分取した。
【0023】
<創面径の測定>
イソフルラン吸入麻酔下でテープ類を剥がした。その際,創面に付着しているガーゼは、生理食塩液で十分に湿らせてから、ゆっくりと創面から剥がし除去した。創面を生理食塩液で軽く洗い流し、脱脂綿で押えて水分を除去した後、創面径(長径及び短径)をノギスで測定した.測定期間はA及びD群は群分け翌日(投与1日目)から投与14日目まで、B及びC群は投与3、6~14日目とし、測定頻度は1日1回とした。
【0024】
<被験物質の投与>
各被験物質の投与について、B及びC群は投与0及び3日目、6日目以降は出血や湿潤状態の場合に1日1回、D群は投与0日目から1日1回、いずれも投与期間は14日間とし、創面径の測定後にイソフルラン吸入麻酔下で実施した。
B及びC群は、それぞれ粉末の被験物質を創面全体に散布し、3×3cmのガーゼ2枚
を重ねて被せ、木製へらで軽く圧迫後、その上に4×4cmの防水フィルムを貼付した。さらにその上から粘着性伸縮包帯5×5cmを貼付し、7.5×7.5cmのベンコットで覆った後、粘着性伸縮包帯を胴体に巻き固定した(投与0及び3日目に固定、その後6日目以降は毎日交換)。
D群は液剤100μLを創面全体に塗布し、ガーゼ、防水フィルム、粘着性伸縮包帯、ベンコットを用いて、B及びC群と同様に固定した(毎日交換)。
A群は被験物質を投与しないことを除き,被験物質群と同様の処置をした(毎日交換)
【0025】
<皮膚の採取>
全群全例について,投与14日目に後大静脈からの全採血後に放血致死させ,正常部位を含む創面皮膚を摘出し、10%中性緩衝ホルマリンで固定した。
【0026】
<治癒率>
創面径より創面積(長径×短径)mm2を算出し、更に次式により治癒率(%)及び治癒
率総和(AUC0-14、%・日)を算出した。
治癒率(%)=
(投与開始日の創面積-測定時の創面積)÷(投与開始日の創面積)×100
(なおここでいう「投与開始日」とは初回投与日のことである。)
<治癒率総和(AUC0-14、%・日,A及びD群)>
治癒率総和=
(投与0日目の治癒率+投与1日目の治癒率)×1/2
+(投与1日目の治癒率+投与2日目の治癒率)×1/2
+(投与2日目の治癒率+投与3日目の治癒率)×1/2
+(投与3日目の治癒率+投与4日目の治癒率)×1/2
+(投与4日目の治癒率+投与5日目の治癒率)×1/2
+(投与5日目の治癒率+投与6日目の治癒率)×1/2
+(投与6日目の治癒率+投与7日目の治癒率)×1/2
+(投与7日目の治癒率+投与8日目の治癒率)×1/2
+(投与8日目の治癒率+投与9日目の治癒率)×1/2
+(投与9日目の治癒率+投与10日目の治癒率)×1/2
+(投与10日目の治癒率+投与11日目の治癒率)×1/2
+(投与11日目の治癒率+投与12日目の治癒率)×1/2
+(投与12日目の治癒率+投与13日目の治癒率)×1/2
+(投与13日目の治癒率+投与14日目の治癒率)×1/2
【0027】
<治癒率総和(AUC0-14、%・日,B及びC群)>
治癒率総和=
(投与0日目の治癒率+投与3日目の治癒率)×3/2
+(投与3日目の治癒率+投与6日目の治癒率)×3/2
+(投与6日目の治癒率+投与7日目の治癒率)×1/2
+(投与7日目の治癒率+投与8日目の治癒率)×1/2
+(投与8日目の治癒率+投与9日目の治癒率)×1/2
+(投与9日目の治癒率+投与10日目の治癒率)×1/2
+(投与10日目の治癒率+投与11日目の治癒率)×1/2
+(投与11日目の治癒率+投与12日目の治癒率)×1/2
+(投与12日目の治癒率+投与13日目の治癒率)×1/2
+(投与13日目の治癒率+投与14日目の治癒率)×1/2
【0028】
<治癒促進率>
治癒促進率(%)=(各個体の治癒率総和-対照の治癒率総和の平均値)÷対照の治癒率総和の平均値×100
【0029】
<統計処理>
各群別に、得られた数値(体重、治癒率、治癒率総和)、それらの平均値及び標準誤差を算出した。各群間の有意差は、Bartlett法により等分散性の検定を行い、すべて等分散であったため一元配置分散分析を行った。Bartlett法及び一元配置分散分析については有意水準を危険率5%、Tukey法については有意水準を危険率5%及び1%とした。すべての統計学的解析は、SPSS14.0J(日本アイ・ビー・エム(株))、Microsoft Excel2013(Microsoft Corp.)及びOS(Windows 10)を用いて実施した。
【0030】
(a)リン酸カルシウムアガロースゲル1(比較例)
アガロース(Lonza社製)の0.45gを熱水(15ml)で溶解させた後、冷却しゲル化させシート状(厚さ、約1mm)のアガロースゲルを調製した。調製したシート状のアガロースゲルを直径10mmに打ち抜きディスク状に成形し以下の交互浸漬法に用いた。
Ca(ClO)2・Ca3(PO4)とアガロースゲルの複合物を得るにあたり、4℃の200mMの塩化カルシウム溶液と、4℃のpH7.4の120mMのリン酸水素ナトリウム溶液(リン酸水素二ナトリウム・12水和物)溶液を用意する。上記の直径10mmのシート状のアガロースゲルを、4℃の200mMの塩化カルシウム溶液への2時間浸漬、純水での洗浄、次いで4℃のpH7.4の120mMリン酸水素ナトリウム溶液(リン酸水素二ナトリウム・12水和物)溶液への2時間浸漬と、純水での洗浄の、計2回の浸漬と洗浄を1サイクルとして行い、これを合計で12サイクル行った。なお、浸漬時にはアガロースゲルを支持等してアガロースゲルと共に浸漬されるステンレス等の金属製又は樹脂製等の支持部材を使用しなかった。ディスク状のアガロースゲルの端部を把持して、把持部が浸漬されないように、アガロースゲルの部分のみを浸漬するようにして交互浸漬法により処理した。
得られたCa(ClO)2・Ca3(PO4)の粒子径は6.2μm±1.8μmであった。そしてアガロース1重量部に対してCa(ClO)2・Ca3(PO4)を0.67重量部含有していた。
【0031】
(b)リン酸カルシウムアガロースゲル2(実施例)
アガロース(Lonza社製)の0.45gを熱水(15ml)で溶解させた後、冷却しゲル化させシート状(厚さ、約1mm)のアガロースゲルを調製した。調製したシート状のアガロースゲルを直径10mmに打ち抜きディスク状に成形し以下の交互浸漬法に用いた。
単針晶のCa(HPO4)(H2O)2とアガロースゲルの複合物を得るにあたり、20℃のpH7.4の400mMの塩化カルシウム溶液と、20℃のpH7.4の120mMのリン酸水素ナトリウム溶液(リン酸水素二ナトリウム・12水和物)溶液を用意する。上記の直径10mmのシート状のアガロースゲルを、20℃のpH7.4の400mMの塩化カルシウム溶液への2時間浸漬、純水での洗浄、次いで20℃のpH7.4の120mMリン酸水素ナトリウム溶液(リン酸水素二ナトリウム・12水和物)溶液への2時間浸漬と、純水での洗浄の、計2回の浸漬と洗浄を1サイクルとして行い、これを合計で12サイクル行った。
なお、浸漬時にはアガロースゲルを支持等してアガロースゲルと共に浸漬されるステンレス等の金属製又は樹脂製等の支持部材を使用しなかった。ディスク状のアガロースゲルの端部を把持して、把持部が浸漬されないように、アガロースゲルの部分のみを浸漬するようにして交互浸漬法により処理した。
得られたCa(HPO4)(H2O)2の粒子径は4.05μm±1.36μmであった。乾燥重量で、アガロース1重量部に対してCa(HPO4)(H2O)2を1.13重量部含有していた。
【0032】
<試験方法>
上記リン酸カルシウムアガロースゲル1及びリン酸カルシウムアガロースゲル2、さらに、フィブラストスプレー500を用いて、ラットの擦過傷部を処置し、14日間の経過を観察した。14日後であってもフィブラストスプレー500により処置をした場合には、止血できず、炎症反応が発生したため、炎症性細胞の湿潤が豊富に認められた。それに対してゲル2により処置をした場合には炎症性細胞は認められなかった。
【0033】
(投与量)
B群(リン酸カルシウムアガロースゲル1)及びC群(リン酸カルシウムアガロースゲル2)の投与量について、1日の使用量を使用匹数で除して算出した概算は次表の通りで
あった.投与量はリン酸カルシウムアガロース ゲルの重量を基に求めた。
【0034】
【0035】
表2中の追加投与量は、1匹あたりの、初回投与後に出血や湿潤により追加で投与した量である。
合計投与量は、1匹あたりの、初回投与を含む投与期間中(14日間)の合計投与量である。
B群及びC群共に、合計投与量は初回投与量の約1.4回分であり、投与期間中の追加投与回数は1回又は2回であった。
なお、上記単針晶のCa(HPO4)(H2O)2に代えて、球状結晶のCa(HPO4)(H2O)2を採用した場合も、上記単針晶の場合の効果と同様の効果を発揮する。
【0036】
D群のフィブラストスプレー500は14日間にわたり毎日投与が必須であった。その主
成分であるトラフェルミンとしての投与量は、1匹の投与液量100μL/日あたり10μg/日であり、投与期間中(14日間)の合計は、その14倍の140μg/匹であった。
A群(対照)には、何ら投与しなかった。
【0037】
<治癒率及び治癒率総和>
治癒率を
図1、治癒率総和を
図2にそれぞれ示した。
A群:対照であるA群には何ら投与しなかった。その治癒率は日数の経過と共に徐々に
上昇し、投与14日目における治癒率は62.3±2.5%、治癒率総和は446.3±26.5%・日であった。
B群:(リン酸カルシウムアガロースゲル1(Ca(ClO)2・Ca3(PO4)))を投与したB群の治癒率は,投与日数の経過と共に徐々に上昇し,投与14日目における治癒率は68.9±1.4%,治癒率総和は490.9±13.8%・日であった。
C群:(リン酸カルシウムアガロースゲル2(単針晶のCa(HPO4)(H2O)2))を投与したC群の治癒率は,投与日数の経過と共に徐々に上昇し,投与14日目における治癒率は75.8±2.5%、治癒率総和は560.7±18.2%・日であった。
D群:(フィブラストスプレー500)を投与したD群の治癒率は、投与日数の経過と共
に徐々に上昇し、投与14日目における治癒率は70.6±1.9%,治癒率総和は552.0±17.6%・日であった。
B群の投与6日目以降、C群の投与3日目以降、D群の投与1日目以降の治癒率は、A
群と比較して高い治癒率であった。また、C群の投与7~14日目の治癒率及び治癒率総和、及び、D群の投与6~11日目の治癒率及び治癒率総和の間では、有意差がみられた。
【0038】
C群の投与7~14日目の治癒率および治癒率総和と、D群の投与6~11日目の治癒率および治癒率総和は、A群及びB群と比較して有意な高値がみられた。また、A群の治癒率総和を100%として算出した治癒促進率より、B群で10.0%、C群で25.6%、
D群で23.7%の治癒の促進がみられた。
以上のことから、本試験条件下においては、C群とD群でラットの擦過傷モデルに被験物質を経皮投与することにより、創傷治癒を促進することが確認され、C群はすでに市販されているD群と同等程度の作用であることが示唆された。但し、D群は毎日の投与を要したが、C群は出血や湿潤により、数回の投与を要したに過ぎなかった。この経緯を考慮すると、一見C群とD群は同じ効果を発揮するが、投与回数の違いにより、C群の本発明の創傷治癒剤がより使用性に優れることが理解できる。さらに、D群では投与期間中に創傷部位に強い炎症が発生したが、B群及びC群では、何ら投与しないA群と同程度の弱い炎症を生じたに過ぎなかった。
また、B群についても、D群より弱いものの、治癒を促進する傾向がみられたが、C群の方がB群よりも明らかに治癒が進展した。
このような結果によれば、本発明の創傷治癒剤は、タンパク質製剤ではないため、比較安価に製造でき、かつ投与の頻度を少なくできるので、毎日投与を要するフィブラストスプレーよりも治療の負担を軽減できる。