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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050117
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】ポンプ及びスライド層を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20230403BHJP
   F04B 37/16 20060101ALI20230403BHJP
   F04C 25/02 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
F04C18/02 311T
F04C18/02 311S
F04B37/16 F
F04C25/02 N
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022139319
(22)【出願日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】21199962
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】520415627
【氏名又は名称】プファイファー・ヴァキューム・テクノロジー・アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ベルント・コーチ
(72)【発明者】
【氏名】ヨーナス・ベッカー
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン・ラッタ
【テーマコード(参考)】
3H039
3H076
3H129
【Fターム(参考)】
3H039AA03
3H039AA09
3H039AA12
3H039BB04
3H039CC02
3H039CC03
3H039CC08
3H039CC31
3H039CC35
3H039CC36
3H076AA02
3H076AA21
3H076BB26
3H076CC30
3H076CC34
3H129AA02
3H129AA15
3H129AB02
3H129AB06
3H129BB16
3H129BB44
3H129CC04
3H129CC05
3H129CC19
3H129CC38
(57)【要約】
【課題】スライド層(152)を備え、スライド層(152)は、特に、酸を含む電解液中での陽極酸化によって形成された酸化物層と、特にフッ素含有ポリマーをベースとする、ポリマーベースの封止部とを有しポンプ、特に真空ポンプにおいて、欠点を克服する又は公知の手段に対して少なくとも改善されたポンプを提供する。
【解決手段】酸化物層は少なくとも部分的に封止部によって覆われている、及び/又は酸化物層に封止部が含浸されている。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ、特に真空ポンプにおいて、
スライド層(152)を備え、
スライド層(152)は、特に、酸を含む電解液中での陽極酸化によって形成された酸化物層と、特にフッ素含有ポリマーをベースとする、ポリマーベースの封止部とを有し、
酸化物層は少なくとも部分的に封止部によって覆われている、及び/又は酸化物層に封止部が含浸されている、ポンプ。
【請求項2】
ポンプは、スクロール要素として構成された圧送要素(24、30)を備えるスパイラルポンプ又はスクロールポンプ(20)、特にスパイラル真空ポンプ又はスクロール真空ポンプであり、
スライド層(152)は、少なくとも部分的に、スクロール要素として構成された圧送要素(24、30)の少なくとも1つに被着されている、請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
ポンプは、シリンダ内壁とシリンダ内で可動のピストンとを有する少なくとも1つのシリンダを備えるピストンポンプ、特にピストン真空ポンプであり、
スライド層は、少なくとも部分的にシリンダ内壁及び/又はピストンに被着されている、請求項1に記載のポンプポンプ。
【請求項4】
酸化物層は多孔質であり、封止部は、酸化物層の細孔(160)及び/又は亀裂(158)及び/又は欠損箇所(158)を少なくとも部分的に閉じる、請求項1から3の少なくともいずれか一項に記載のポンプ。
【請求項5】
封止部は、パーフルオロセグメントを有するポリウレタンから形成されたポリウレタン層である、及び/又は
封止部は、フルオロアルキルシロキサンを含む、
請求項1から4の少なくともいずれか一項に記載のポンプ。
【請求項6】
封止部は、ポリエーテルセグメントを有するポリウレタンから形成されている、及び/又は
封止部は、パーフルオロポリエーテルセグメントを有するポリウレタンから形成されている、
請求項1から5の少なくともいずれか一項に記載のポンプ。
【請求項7】
封止部は、10μm以下、特に0.5μmから5μmの厚さを有する、請求項1から6の少なくともいずれか一項に記載のポンプ。
【請求項8】
封止部は、5μmから25μm又は25μmから35μmの厚さを有する、請求項1から7の少なくともいずれか一項に記載のポンプ。
【請求項9】
封止部は、酸化物層を、実質的に完全に又は完全に覆う、請求項1から8の少なくともいずれか一項に記載のポンプ。
【請求項10】
付着促進剤が、封止部に設けられている、及び/又は
付着促進剤が、プライマとして酸化物層上に設けられている、
請求項1から9の少なくともいずれか一項に記載のポンプ。
【請求項11】
圧送要素は、ベース材料を有し、ベース材料は、少なくとも部分的にアルミニウム又はアルミニウム合金から形成されていて、ベース材料上にスライド層(152)が被着されている、請求項1から10の少なくともいずれか一項に記載のポンプ。
【請求項12】
スライド層(152)を製造する方法であって、
以下のステップ
a)好ましくは酸を含む電解液中での特に陽極酸化によって酸化物層を形成する、ステップと、
b)酸化物層に封止部を被覆する、ステップと、
を有する、方法。
【請求項13】
封止部を、水性分散液の形態で被着する又は溶媒ベースの分散液の形態で被着する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
溶媒ベースの分散液中の溶媒が、C~Cアルコール、特にC~Cアルコール、例えばCアルコールである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
方法は、請求項1から11の少なくともいずれか一項に記載のポンプに用いられる製造方法である、請求項12から14の少なくともいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば互いに対して可動の少なくとも2つの圧送要素と、2つの圧送要素の1つに配置された少なくとも1つのシールとを備えるポンプ、特に真空ポンプに関する。本発明によれば、少なくとも部分的に、特に圧送要素の少なくとも1つに被着されたスライド層が設けられている。さらに本発明は、ポンプ、特に真空ポンプを製造するための、スライド層が設けられた部品と少なくとも1つのシールとの使用、及びスライド層を製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ、特に真空ポンプの圧送空間をシールするために、一般的に、油脂又は油等の流体を使用できる。ピストンポンプは、例えば、基本的に、圧送空間とピストンとの間に隙間を有する。この隙間は、流体シール式又は流体潤滑式の構成では、ポンプの運転中、大抵は油又は油脂である流体によって充填され、その際、流体は、ピストンと圧送空間との間のシールとして作用する。さらに、表面構造における欠損箇所(亀裂、穴、細孔等)が隙間のように作用し得る。特に、幾つかの被覆(塗料、アルマイト層等)が、欠損箇所を有する。この種のポンプの欠点によれば、ポンプによって圧送される、気体又は蒸気等の媒体が、シールとして使用される流体と反応し得、これにより、特にシール効果が低下し得る。別の問題は、特に真空ポンプの場合、使用される流体による真空容器の汚染にある。
【0003】
このような理由から、とりわけ真空ポンプに対して、圧送される媒体が流体に接触しないいわゆる乾式の手段が好適である。この場合、基本的に、化学耐性のある材料、通常はプラスチックからなる、スライドシール又は接触シールが使用される。例えばピストンポンプでは、この種のシールは、通常、ピストンに配置される。運転中、シールは、シリンダの内壁に擦過し、これにより、生じる圧送空間ができるだけ緊密にシールされる。通常は同様に乾式の、つまり流体の潤滑剤なく運転されるポンプの他の例は、スクロールポンプ又はスパイラルポンプである。スクロールポンプは、三日月状の吸込室を有し、吸込室は、横断面で渦巻き状のロータによって、同種の渦巻き状のステータに係合した状態で形成され、この場合、ロータは、偏心駆動装置によって軌道運動させられる。圧送空間をシールするために、スクロール端面に、それぞれシールが設けられていて、この場合、ロータの端面側のシールは、ステータに擦過し、またその逆も然りである。
【0004】
この種のスライドシール又は接触シールの欠点によれば、シールは、通常、常時生じる滑り摩擦に起因して、極めて強い摩耗にさらされていて、多くの場合限られた耐用期間しか有しない。特に、吸込室内で、所定の運転時間が経過すると、粉塵の形でシールの損耗が生じ得る。摩耗の増加とともに、接触シールのシール効果は低下し、これにより、達成可能な最終圧力が不良になる。
【0005】
摩耗を減らすために、例えば欧州特許出願公開第3153706号明細書に記載されているように、スライド層又は保護層が設けられてよい。この種のスライド層は、酸を含む、特にしゅう酸、硫酸又はこれらの混合物を含む電解液中での陽極酸化によって、形成される酸化物層を有してよい。これらのスライド層/保護層は、さらに、基材の耐食性及び摩耗耐性を向上させる。三日月状の吸込室間には、極めて狭い隙間(百分の数mm)がある。吸込室を形成する2つの部品同士の接触のとき又は固体が入り込むと、硬質のスライド層及び保護層によって、基材の耐用期間の延長がもたらされる。しかし、この種の酸化物層は、その多孔質構造に基づいて、要求される最終圧力及び気密性を達成できない、又はより長い運転時間(いわゆる慣らし運転時間)の後でようやく達成できることが分かっている。試験によって、特に新しく被覆された部品では、被覆された部品の加熱プロセスによって慣らし運転時間の短縮又は最終圧力の改善を達成できることが示されているが、しかし、達成可能な最終圧力及び慣らし運転時間の短縮に関して、依然として改善の必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3153706号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、前述の欠点を克服する又は公知の手段に対して少なくとも改善されたポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、独立請求項に記載のポンプ及び方法によって解決される。
【0009】
本発明に係るポンプは、好ましくは真空ポンプである。ポンプは、スライド層を備え、スライド層は、酸化物層と、フッ素含有ポリマーから形成された封止部とを有し、酸化物層は少なくとも部分的に封止部によって覆われている、及び/又は酸化物層に封止部が含浸されている。
【0010】
本明細書で言及されるように、スライド層は、複数の特性を満たすことができる。特にスクロールポンプ、例えばスクロール真空ポンプに使用するとき、スライド層は、2つの機能、つまり1)スライド層、つまりトライボロジーシステムの最適化と、2)保護層、つまり損傷、摩耗及び腐食からの基材の保護とを満たす。試験によって、スクロールポンプに硬質の表面被覆が施されないと、ごく短時間のうちに基材が損傷し得ることが示されている。
【0011】
酸化物層は、好ましくは、特に酸を含む電解液中での陽極酸化によって形成されている。好ましくは、電解液は、しゅう酸及び/又は硫酸を含み、この場合、硫酸がなお一層好ましい。酸化物層は、好ましくは、アルミニウムの電解酸化によって形成されたアルマイトである。酸化物層は、スライド効果及び保護効果に関して前述の多機能特性を有することができる。
【0012】
例えばポリウレタン層又はポリウレタン含浸物の形態の酸化物層と封止部とを有するスライド層を備える本発明に係るポンプは、例えば欧州特許出願公開第3153706号明細書に記載されているようなスライド層よりも低い最終圧力を可能にすることが分かっている。摩耗から保護するために被着された硬質の酸化物層は、細孔と欠損箇所と熱に起因する亀裂とを有する。細孔は、層に対して主に垂直に配置されていて、この場合、層内に、層に対して水平に配置された、垂直の細孔を互いに繋ぐ幾つかの枝部も存在する。細孔の他に、この種の硬質の酸化物層は、例えば介在物の形態の別の欠損箇所と亀裂とを有する。欠損箇所及び細孔は、気体が流れ得る微細な通路を形成する。さらに、これらの箇所から、物質、例えば水のガス放出が生じ得る。これにより、気密性が低下し、このことは、達成可能な最終圧力に不都合に作用する。その意味するところによれば、要求される最終圧力及び気密性が達成不能である、又はより長い運転時間後にようやく達成可能である。いわゆる慣らし運転プロセス中、細孔又は欠損箇所は、主に、関係する箇所において、シールの摩耗によって閉じられる。さらに、混在した媒体、例えば被覆残物のガス放出が生じ得る。封止部によって、必要とされる最終圧力が極めて迅速に到達でき、その際、同時に摩耗に対する高い防護が維持されることが分かっている。このことは、おそらく、本発明に係るポンプでは、酸化物層に含まれる細孔が封止部によって閉じられていて、スライド層内の気体の流れ又はスライド層からのガス放出が阻止されている又は少なくとも減じられていることによって説明できる。
【0013】
好ましくは、ポンプ、特に真空ポンプは、さらに、互いに対して可動の少なくとも2つの圧送要素を有し、両方の圧送要素の1つに配置された少なくとも1つのシールを更に有し、これらの圧送要素は、少なくとも1つの圧送空間を形成しつつ、シール作用をもって相互作用する。この場合、スライド層は、少なくとも部分的に、圧送要素の少なくとも1つに被着されていて、各々のシールと相互作用する。
【0014】
本発明の別の好適な一形態によれば、ポンプは、スパイラルポンプ又はスクロールポンプ、特にスパイラル真空ポンプ又はスクロール真空ポンプであり、スライド層が、少なくとも部分的に、圧送要素の少なくとも1つに被着されている。
【0015】
スパイラルポンプ又はスクロールポンプ、特にスパイラル真空ポンプ又はスクロール真空ポンプは、好ましくは、ポンプであって、圧送要素が、互いに対して可動の2つのスクロール要素であり、スクロール要素は、それぞれ支持体上で、自由端面を具備する、軸線周りに渦巻き状に延在する壁を有するとともに、壁が、圧送空間を形成しつつシール作用をもって互いに内外に係合するように配置されていて、この場合、シールは、壁の自由端面に配置されている、ポンプである。
【0016】
本発明の更に別の一形態によれば、ポンプは、シリンダ内壁とシリンダ内で可動のピストンとを有する少なくとも1つのシリンダを備えるピストンポンプ、特にピストン真空ポンプである。この場合、圧送要素は、シリンダ及びシリンダ内で可動のピストンであり、この場合、シールが、ピストン及び/又はシリンダ内壁に配置されている。この形態では、スライド層は、少なくとも部分的にシリンダ内壁及び/又はピストン上に被着されている。
【0017】
好ましくは、本発明に係るポンプでは、封止部に含まれるフッ素含有ポリマーは、完全にフッ素化されたポリマー、つまりパーフルオロポリマー、又はパーフルオロセグメントを有するポリマーである。フッ素含有ポリウレタン、特にパーフルオロセグメントを有するポリウレタンを含む封止部が特に適していることが証明されている。パーフルオロセグメントを有するこの種のポリウレタンによって、低い最終圧力が、短い慣らし運転時間と同時に可能であり、この場合、同時に、高い摩耗耐性が維持されることが分かっている。本発明によれば、封止部が、ポリエーテルセグメントを有するポリウレタンから形成されていることも同様に好適である。ポリエーテルセグメントを有するポリウレタンも、低い最終圧力と短い慣らし運転時間と高い摩耗耐性とに関して特に適していることが証明されている。したがって、その上更に好適には、ポリウレタン層は、パーフルオロポリエーテルセグメントを有するポリウレタンから形成されている。パーフルオロポリエーテルセグメントによって、特に低い最終圧力及び短い慣らし運転時間が得られると同時に極めて良好な摩耗耐性が得られる。パーフルオロポリエーテルセグメントは、分散液中に、封止部を作製するために、ポリオールプレポリマーとして又はジイソシアネートプレポリマーとして提供されてよい。パーフルオロポリエーテルセグメントは、例えばパーフルオロポリエチレングリコール又はパーフルオロポリプロピレングリコールをベースとする、好ましくはパーフルオロポリエチレングリコールをベースとするセグメントであってよい。本発明に係るポンプのスライド層は、好ましくは、PTFEとは異なる少なくとも1つのフッ素化ポリマーを有する。PTFEは、その粒径及びこれに関連する比較的高い気体透過性に基づいて、多孔質の酸化物層を封止するのに理想的ではない。したがって、PTFEが含まれてよいが、ただしこの場合、PTFEとは異なる少なくとも1つの他のポリマーが含まれるべきである。
【0018】
本発明に係るポンプのスライド層では、例えばポリウレタン層の形態の封止部は、分散液、例えばポリウレタン分散液を酸化物層に塗布することによって得られる。封止部は、水性分散液の形態で被着されてよい、又は溶媒ベースの分散液の形態で被着されてもよい。溶媒ベースの分散液のとき、溶媒は、好ましくはC~Cアルコール、特にC~Cアルコール、例えばCアルコールである。好ましくは、封止部は、水性ポリウレタン分散液、特に水性イオン性ポリウレタン分散液、好適にはアニオン性ポリウレタン分散液の塗布によって得られる。パーフルオロポリエーテル(PFPE)骨格をベースとするアニオン性ポリウレタンの分散液が特に有利であることが分かっている。例えば、適切なアニオン性ポリウレタン分散液は、Solvay社の商品名フルオロリンクで入手可能である。
【0019】
分散液の塗布は、スプレー、ディッピング、ブレードコーティング又はスピンコーティング(英語spin coating)を用いて実施可能である。スプレー又はディッピングによる塗布は、容易な実施可能性に関して有利であることが証明されていて、この場合、スプレーは、均一性と特に薄い層の形成とに関して特に有利である。ブレードコーティング又はスピンコーティングによる塗布によっても同様に極めて均一に薄い被覆を作製できる。好適な実施形態によれば、分散液は、選択的に、特にシール作用をもった面に塗布される。
【0020】
本発明によれば、例えばポリウレタン層の形態の封止部の厚さは、特定の厚さに限定されない。しかし、0.1μmから35μmの厚さを有する封止部が、一方では低い最終圧力と短い慣らし運転時間とのバランスに関して、他方では高い摩耗耐性に関して有利であることが証明されている。好適には、封止部の厚さは、0.5μmから25μmであり、さらに好適には0.8μmから20μmであり、その上さらに好適には1.0μmから15μmであり、極めて好適には1.5μmから10μmである。最も好適には、封止部の層厚は、5μm以下である。封止部は、酸化物層の細孔に含浸可能であり、その際、フッ素含有ポリマーかならる識別可能な連続層が酸化物層を覆わない。含浸によって、酸化物層の細孔を繋ぐ欠損箇所を充填でき、したがって、気密性を向上できる。本発明に係るポンプでは、好適には、例えばポリウレタン層の形態の封止部が、酸化物層を、実質的に完全に又は完全に覆う。完全に又は実質的に完全に覆うことによって、酸化物層に含まれる細孔が閉じられるので、スライド層を通る圧送媒体のバイパスが阻止される。したがって、短い慣らし運転時間で特に低い最終圧力を達成できる。
【0021】
摩耗耐性を改善するために、好適には、本発明に係るポンプでは、スライド層に付着促進剤が含まれている。付着促進剤は、通常、酸化物層への好ましくはポリウレタン層の形態の封止部の接合を改善する反応性化合物である。当業者には、この種の付着促進剤は知られている。例えばエポキシ化合物、シロキサン化合物、アジリジン由来の化合物、メラミン化合物又はブロックされたイソシアネート化合物であってよい。エポキシシラン及びポリアジリジンが特に適切な付着促進剤であることが証明されている。この種の付着促進剤は、例えばポリウレタン層を形成するために用いられるポリウレタン分散液に添加することによって、ポリウレタン層及び/又はポリウレタン含浸物として構成される封止部に含まれてよい。代替的に又は付加的に、付着促進剤を封止部の被着前に酸化物層に塗布することも可能である。この場合、付着促進剤は、酸化物層上のプライマとして作用する。
【0022】
好ましくは、本発明に係るポンプは、少なくとも部分的にアルミニウム又はアルミニウム合金から形成されていて、その上にスライド層が被着されているベース材料からなる圧送要素を有する。好ましくは、圧送要素は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる。特に好ましくは、ベース材料は、AlMgSi系のアルミニウム合金である。AlMgSiMn、AlMgSiPb又はAlZnMg系のアルミニウム合金が更に有利である。アルミニウム及びアルミニウム合金は、酸を含む電解液中で陽極酸化にさらされ、本発明によるスライド層を形成するのに特に適していることが分かっている。この場合、電解液は、好ましくはしゅう酸、硫酸又はこれらの混合物を含む。更に好ましくは、電解液は、硫酸を含む。
【0023】
さらに、本発明は、スライド層を製造する方法であって、以下のステップ
a)好ましくは酸を含む電解液中での特に陽極酸化によって酸化物層を形成する、ステップと、
b)酸化物層に封止部を被覆する、ステップと、
を有する、方法に関する。
【0024】
当然ながら、酸化物層は、ステップa)で、前述のように、基材上に、例えばポンプの圧送要素上に形成される。
【0025】
好ましくは、ステップb)で、酸化物層に含まれる細孔及び欠損箇所が、封止部によって閉じられる。これにより、スライド層が生じ、スライド層では、酸化物層の細孔間の横方向接続部及び欠損箇所がブロックされていて、これにより、気密性が向上する。本発明に係る方法で使用される封止部は、特に、本発明に係るポンプに関連して前述したような封止部である。
【0026】
本発明に係る方法は、ここで説明するように、好ましくは、ポンプ、特に真空ポンプの製造の一部である。
【0027】
当然ながら、本発明の個々の観点は、具体的には以下に図面に基づいて説明する観点も、それぞれ互いに有利に組合わせ可能である。
【0028】
本発明を、以下、単なる例として概略図及び例に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】スクロールポンプを断面図で示す。
図2】スクロールポンプのエレクトロニクスハウジングを示す。
図3】スクロールポンプを斜視図で示し、選択された要素は露出している。
図4】ポンプに組み込まれた圧力センサを示す。
図5】ポンプの可動のスクロール部材を示す。
図6図5で視認可能な側とは反対の別の側のスクロール部材を示す。
図7】スクロール部材用のクランプ装置を示す。
図8】異なるスクロールポンプのバランスウェイトを有する偏心シャフトを示す。
図9】異なるスクロールポンプのバランスウェイトを有する偏心シャフトを示す。
図10】操作グリップを有するガスバラストバルブを斜視図で示す。
図11図10のバルブを断面図で示す。
図12図5及び図6のスクロール部材の部分領域を示す。
図13】外側の端部領域でスクロール壁を通るスクロール部材の断面図を示す。
図14図1のスクロールポンプのエアガイドフードを斜視図で示す。
図15】引離し用ねじ山を断面図で示す。
図16図1によるスパイラルポンプ又はスクロールポンプの詳細図である。
図17】酸化物層の電気顕微鏡による断面図を示す。
図18図16の酸化物層の電子顕微鏡による著しく拡大された断面図を示す。
図19図16及び図17の酸化物層の電子顕微鏡による平面図を示す。
図20】様々に被覆された又は被覆されない圧送要素を有するスクロールポンプの使用時の真空の発生を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明が、スクロールポンプ20に限定されていない場合でも、そのために極めて適切であることが分かっている。原則として、本発明に係るポンプは、ピストンポンプであってもよい(図示されていない)。一般的に述べられた構成部材のシール(例えば酸化物層における静的なシール、例えばOリングシール)についても、封止部は、ここで述べられるように、好適である。図1は、スクロールポンプ20として構成された真空ポンプを示す。この真空ポンプは、第1のハウジング要素22と第2のハウジング要素24とを有し、この場合、第2のハウジング要素24は、ポンプ作用を奏する構造、つまりスクロール壁26を有する。したがって、第2のハウジング要素24は、スクロールポンプ20の固定のスクロール部材を形成する。スクロール壁26は、可動のスクロール部材30のスクロール壁28と相互作用し、この場合、可動のスクロール部材30は、ポンプ作用を発生させるために、偏心シャフト32を介して偏心的に励起される。この場合、ポンピングされるべき気体は、第1のハウジング要素22に設定された入口31から、第2のハウジング要素24に設定された出口33へ圧送される。
【0031】
偏心シャフト32は、モータ34によって駆動されていて、そして2つの転がり軸受36によって軸支されている。偏心シャフト32は、偏心シャフト32の回転軸線に対して偏心的に配置された偏心ジャーナル38を有し、偏心ジャーナル38は、別の転がり軸受40を介して、偏心ジャーナル38の偏心的な揺動を可動のスクロール部材30へ伝達する。可動のスクロール部材30には、シールを目的として、さらに、波形ベローズ42の、図1において左側の端部が取り付けられていて、その右側の端部は、第1のハウジング要素22に取り付けられている。波形ベローズ42の左側の端部は、可動のスクロール部材30の揺動に追従する。
【0032】
スクロールポンプ20は、冷却空気流を発生させるためのファン44を有する。この冷却空気流に対して、エアガイドフード46が設けられている。エアガイドフード46には、ファン44も取り付けられている。エアガイドフード46及びハウジング要素22、24は、冷却空気流が大体においてポンプハウジング全体の周りを流過し、したがって良好な冷却性能が達成されるように成形されている。
【0033】
スクロールポンプ20は、さらにエレクトロニクスハウジング48を有し、エレクトロニクスハウジング48内に、制御装置と、モータ34を駆動するためのパワーエレクトロニクスコンポーネントとが配置されている。エレクトロニクスハウジング48は、さらにポンプ20のスタンド脚部を形成する。エレクトロニクスハウジング48と第1のハウジング要素22との間に通路50が視認可能である。通路50を通って、ファン44によって発生させられる空気流が第1のハウジング要素22に沿って、そしてエレクトロニクスハウジング48にも沿ってガイドされるので、これら両方は、効果的に冷却される。
【0034】
エレクトロニクスハウジング48は、図2に、具体的に詳しく示されている。エレクトロニクスハウジング48は、複数の個別のチャンバ52を有する。これらのチャンバ52において、エレクトロニクスコンポーネントを封入でき、したがって有利には、遮蔽されている。好適には、エレクトロニクスコンポーネントを封入するとき、使用される封入材料をできるだけ少量にできる。例えば、封入材料を、まずはチャンバ52内に導入し、これに続いてエレクトロニクスコンポーネントを押し込んでよい。好ましくは、チャンバ52は、様々な形態のエレクトロニクスコンポーネント、特に様々な実装形態の基板を、エレクトロニクスハウジング48内に配置及び/又は封入できるように構成されてよい。この場合、特定の形態において、個々のチャンバ52は、空所のままにしてもよい、つまりエレクトロニクスコンポーネントを有しなくてもよい。ゆえに、いわゆるモジュールシステムを様々なポンプタイプに対して容易に実現できる。封入材料は、特に熱伝導性に及び/又は電気絶縁性に構成されてよい。
【0035】
エレクトロニクスハウジング48の、図2に関して後側に、複数の壁又はフィン54が形成されていて、壁又はフィン54は、冷却空気流を導くための複数の通路50を画定する。チャンバ52は、さらに、チャンバ52内に配置されたエレクトロニクスコンポーネントから、特に熱伝導性の封入材料と相俟って、フィン54への特に良好な放熱を可能にする。したがって、エレクトロニクスコンポーネントを特に効果的に冷却でき、その耐用期間が改善される。
【0036】
図3には、スクロールポンプ20の全体が斜視図で示されているが、図3では、エアガイドフード46が省かれているので、特に固定のスクロール部材24及びファン44が視認可能である。固定のスクロール部材24には、放射状に配置された複数の凹部56が設けられていて、凹部56は、それぞれ凹部56の間に配置されたフィン58を画定する。ファン44によって発生させられる冷却空気流は、凹部56を、そしてフィン58の傍を通ってガイドされ、ゆえに固定のスクロール部材24を特に効果的に冷却する。その際、冷却空気流は、まずは固定のスクロール部材24の周りを流過し、これに続いてようやく第1のハウジング要素22又はエレクトロニクスハウジング48の周りを流過する。この配置は、ポンプ20のポンプ作用を奏する領域が、運転時の圧縮に基づいて、高い発熱量を有し、したがってそこが優先的に冷却されるので、特に有利である。
【0037】
ポンプ20は、ポンプ20に組み込まれた圧力センサ60を有する。この圧力センサ60は、エアガイドフード46内に配置されていて、固定のスクロール部材24にねじ込まれている。圧力センサ60は、部分的にしか図示されていないケーブル接続部を介して、エレクトロニクスハウジング48と、その中に配置された制御装置とに接続されている。この場合、圧力センサ60は、スクロールポンプ20の制御部に組み込まれている。例えば、図1において視認可能なモータ34は、圧力センサ60によって測定された圧力に応じて制御できる。例えばポンプ20が高真空ポンプ用の補助ポンプとして真空システムに使用されると、例えば、高真空ポンプは、圧力センサ60が十分に低い圧力を測定するときにのみオンに切替え可能である。したがって、高真空ポンプは、損傷から防護できる。
【0038】
図4は、圧力センサ60と、固定のスクロール部材24における圧力センサ60の配置とを断面図で示す。圧力センサ60に対して通路62が設けられていて、通路62は、ここでは固定のスクロール部材24のスクロール壁26と可動のスクロール部材30のスクロール壁28との間のポンプ作用を奏しない外側領域に開口する。したがって、圧力センサは、ポンプの吸込圧力を測定する。代替的に又は付加的に、例えばスクロール壁26とスクロール壁28との間の圧力を、ポンプ作用を奏する領域で測定してもよい。したがって、圧力センサ60又は通路62の位置に応じて、例えば中間圧力の測定もできる。
【0039】
圧力センサ60は、例えば圧縮の特定を介して、特に、ポンプ作用を奏するコンポーネント、特にチップシールとも称されるシール要素64の摩耗状態の認識を可能にする。さらに、測定された吸込圧力は、ポンプ(特にポンプ回転数)の制御に使用してもよい。ゆえに、例えば吸込圧力をソフトウェア側で予め設定し、そしてポンプ回転数の変化によって吸込圧力を調整できる。測定された圧力に応じて、摩耗に起因する圧力上昇を、回転数増加によって補整できることも考えられる。したがって、チップシール交換の延期又はより長い交換間隔の実現が可能である。要するに、圧力センサ60のデータは、概して、例えば摩耗特定に、ポンプの状況に応じた制御に、プロセス管理等に利用できる。
【0040】
圧力センサ60は、例えば、任意選択的に設けてよい。圧力センサ60の代わりに、例えば通路62を閉じる盲栓を設けてよい。この場合、圧力センサ60は、例えば必要に応じて後付けできる。特に後付けに関して、しかも一般的に有利には、圧力センサ60がポンプ20の制御装置に接続されると自動的に認識されることが想定され得る。
【0041】
圧力センサ60は、ファン44の冷却空気流内に配置されている。これにより、圧力センサ60も有利に冷却される。さらにその結果、圧力センサ60の耐熱性を高めるための特別な手段を講じなくてよく、したがって低コストのセンサを使用できる。
【0042】
さらに、圧力センサ60は、特に、圧力センサ60によってポンプ20の外寸が拡大されていない、したがってポンプ20がコンパクトに保たれるように配置されている。
【0043】
図5及び図6には、可動のスクロール部材30が、様々な観察方向で示されている。図5では、スクロール壁28の渦巻き状の構造が特に良好に視認可能である。スクロール壁28の他に、スクロール部材30は、ベースプレート66を有し、ベースプレート66から、スクロール壁28が延在する。
【0044】
図6には、ベースプレート66の、スクロール壁28とは反対の側が視認可能である。この側では、ベースプレートは、とりわけ、例えば図1において視認可能な軸受40及び波形ベローズ42を取り付けるための複数の取付用空所を有する。
【0045】
ベースプレート66の外側に、ベースプレート66の周にわたって間隔を置いて、そして周にわたって均一に分配された3つの保持突出部68が設けられている。この場合、保持突出部68は、半径方向外方へ延在する。保持突出部68は、特に全てが同一の径方向の高さを有する。
【0046】
2つの保持突出部68の間には、ベースプレート66の周の第1の中間部分70が延在する。この第1の中間部分70は、第2の中間部分72及び第3の中間部分74よりも大きな径方向の高さを有する。第1の中間部分70は、スクロール壁28の最も外側の120°の部分に対向して配置されている。
【0047】
可動のスクロール部材30を製作するとき、好適には、ベースプレート66とスクロール壁28とは、1つの内実の材料から一緒に切削によって製作され、つまり、スクロール壁28とベースプレート66とは一体に形成されている。
【0048】
例えば仕上加工に際して、スクロール部材30は、保持突出部68で直接にクランプされてよい。同一の1回のクランプの範囲内で、例えば、ベースプレート66の、図6に示された側も加工でき、特に、取付用空所を加工できる。基本的に、このクランプの範囲内で、内実の材料からのスクロール壁28の切削による製作も行える。
【0049】
この目的のために、スクロール部材30は、図7に示されているように、例えばクランプ装置76を用いてクランプされてよい。クランプ装置76は、3つの保持突出部68に直接に当接する液圧式の3爪チャック78を有する。さらに、クランプ装置76は、貫通する空所80を有し、空所80によって、スクロール部材30への、特にスクロール部材30の、図6に示された側への工具アクセスが可能である。したがって、クランプ中に両側から複数の加工動作を、特にスクロール壁28の少なくとも1つの仕上加工と取付用空所の加工とを行える。
【0050】
保持突出部68の輪郭及びクランプ装置76のクランプ圧は、好適には、スクロール部材30の臨界的な変形が起こらないように選択されている。3つの保持突出部68は、好適には、外寸、つまりスクロール部材30の最大直径が拡大されないように選択されている。したがって、一方では材料を、そして他方では切削加工量を節約できる。保持突出部68は、特に、波形ベローズ42のねじ締結部へのアクセスが与えられているように構成されている及び/又はそのような角度位置に配置されている。波形ベローズ42のねじ締結箇所の数は、好適には、可動のスクロール部材30における保持突出部68の数に等しくない。
【0051】
図1の偏心シャフト32には、励起されたシステムのアンバランスを補整するための2つのバランスウェイト82が取り付けられている。図8には、図1において右側のバランスウェイト82の領域が拡大して示されている。バランスウェイト82は、偏心シャフト32にねじ固定されている。
【0052】
図9には、好適には図1のポンプ20と同一のシリーズに属する別のスクロールポンプにおける同様の部分図が示されている。図9に基づくポンプは、特に別の寸法を有し、したがって、別のバランスウェイト82を要する。
【0053】
偏心シャフト32、バランスウェイト82及びハウジング要素22は、それぞれ図示された取付位置で、図示された2つのタイプのバランスウェイト82のうちの特定の1つのタイプだけが、偏心シャフト32に組付け可能であるように寸法設定されている。
【0054】
バランスウェイト82は、図8及び図9において、バランスウェイト82に対して設定された構造空間の特定の寸法と共に寸法記入されていて、これにより、図9のバランスウェイト82が偏心シャフト32に組付け不能であり、その逆も然りであることが明らかである。もちろん、記入された寸法は、単に例示的に挙げられたものである。
【0055】
ゆえに、図8では、取付穴84とシャフト段部86との間の距離は、9.7mmである。図8のバランスウェイト82は、対応する方向により短く、つまり9mmの長さに形成されていて、したがって問題なく組付けできる。図9のバランスウェイト82は、それぞれ取付穴から測定して11mmの延在長さを有する。したがって、図9のバランスウェイト82は、図8の偏心シャフト32に組付け不能である。というのも、シャフト段部86が、組み付けようと試みるとバランスウェイト82と衝突するからである、又はしたがって、図9のバランスウェイト82は、図8の偏心シャフト82に完全に当接できないからである。図9のバランスウェイト82は、寸法記入された両方の寸法が、図8の取付穴84とシャフト段部86との距離よりも大きいことによって、逆向きの組付けも阻止されている。さらに、図8のバランスウェイト82の21.3mmの寸法は、通常は正しいバランスウェイト82の、逆向きの、したがって間違った組付けの方向付けを妨げる。
【0056】
図9において、取付穴84とハウジング肩部88との間の長手方向の距離は、17.5mmである。21.3mmの延在部を有する、図8のバランスウェイト82は、図9の偏心シャフト32に挿入しようとすると、ハウジング肩部88と衝突するはずであるので、完全な組付けは不可能である。間違った組付けは、さしあたり可能であるが、確実に認識される。図9の偏心シャフト32に、図8のバランスウェイト82を、取付穴84の軸線を中心に回動させて組み付けると、21.3mmの延在部が、取付穴84から13.7mmの距離だけ離れて配置されたシャフト肩部86と衝突するはずである。
【0057】
バランスウェイト82、特にモータ側のバランスウェイト82は、概して、組付け及び/又は保守のとき、バランスウェイトと他の構造サイズを有するバランスウェイトとの取り違えが回避されるように構成されている。バランスウェイトは、好適には、貫通ねじを用いて取り付けられる。様々なポンプサイズの同様のバランスウェイトは、特に、シャフト上の隣り合う段部と、バランスウェイトのねじ山及び貫通孔の位置と、ハウジング内の段部の位置とに基づいて、間違ったバランスウェイトの組付けが防止されるように構成されている。
【0058】
図10及び図11には、スクロールポンプ20のガスバラストバルブ90が示されている。ガスバラストバルブ90は、図3におけるポンプ20の全体図でも視認可能であり、固定のスクロール部材24に配置されている。
【0059】
ガスバラストバルブ90は、操作グリップ92を有する。操作グリップ92は、プラスチックボディ94とベース要素96とを有し、ベース要素96は、好適には特殊鋼から製作されている。ベース要素96は、貫通する孔98を有し、孔98は、一方ではバラストガスを接続及び導入するために設けられていて、他方では逆止弁100を包囲する。孔98は、さらに、図面において、栓102によって閉じられている。栓102の代わりに、例えば、フィルタが設けられてもよく、この場合、バラストガスは、好適には空気であってよく、そしてフィルタを介して、特に直接にバルブ90に進入する。
【0060】
操作グリップ92は、3つの取付ねじ104によって、バルブ90の回動可能な要素106に取り付けられている。取付ねじ104は、各々の孔108内に配置されていて、図11の選択された断面図では、そのうちの1つだけが視認可能である。回動可能な要素106は、図示されていない、孔110を通って延在する取付ねじによって、第2のハウジング要素24に回動可能に取り付けられている。
【0061】
バルブ90を操作するために、手動で操作グリップ92に加えられる回転モーメントが、回動可能な要素106に伝達され、したがって、回動可能な要素106が回動させられる。これにより、孔98が、ハウジングの内部に連通する。この場合、バルブ90には、3つの切替位置が設けられていて、すなわち、図10に示された、遮断位置である切替位置、そしてそれぞれ右に回動させられた位置及び左に回動させられた位置であり、左右に回動させられた位置では、孔98が、ハウジングの内部のそれぞれ異なる領域に連通する。
【0062】
孔108、110は、蓋112によって閉じられている。ガスバラストバルブ90のシール作用は、軸方向にプレスされたOリングによるものである。バルブ90が操作されると、相対移動がOリングに及ぼされる。例えば粒子等の汚れがOリングの表面に達すると、早期に故障するおそれが生じる。蓋112は、グリップ92のねじに汚れ等が侵入するのを阻止する。
【0063】
この蓋112は、3つのセンタリング要素のしまりばめを介して取り付けられる。具体的には、蓋112は、各孔108に対して、図示されていない挿入ピンを有し、挿入ピンによって、蓋112は、孔108に保持されている。したがって、孔108、110及びその中に配置された取付ねじは、汚れから防護されている。特に、回動運動を可能にする、孔110に配置された図示されていない取付ねじでは、バルブ機構への汚れの侵入を効果的に最小限に抑え、ゆえに、バルブの耐用期間を改善できる。
【0064】
特殊鋼のベース部分の周りに射出成形されたプラスチックグリップは、良好な耐食性と、これと同時に低い製造コストをもたらす。さらに、熱伝導性が抑えられていることに基づいて、グリップのプラスチックが比較的低温に維持され、これにより、良好に操作できる。
【0065】
ファン44には、例えば図1及び図3において視認可能であるように、好適には、回転数制御部が設けられている。ファンは、例えばエレクトロニクスハウジング48内に収容されたパワーモジュールの消費電力及び温度に応じて、PWMによって制御される。回転数は、消費電力に対応して調整される。ただし、制御は、50℃のモジュール温度からようやく可能になる。ポンプが、起こり得るディレーティング(温度に起因する出力低下)の温度範囲になると、自動的に、最大のファン回転数に制御される。この制御によって、低温のポンプでは、最小の騒音レベルが達成され、最終圧力又は低負荷時に低い騒音レベル(ポンプ騒音に相当する)が作用し、低い騒音レベルと同時にポンプの最適な冷却が達成され、そして温度に起因する出力低下の前に最大の冷却出力が確保されることが可能になる。
【0066】
最大のファン回転数は、特に状況に応じて適合可能であってよい。例えば、最大のファン回転を低下させることが、高い水蒸気適合性にとって効果的であり得る。
【0067】
図12には、可動のスクロール部材30が、部分的に、そして図5に比べて拡大して示されている。図12に示されたA-A線に沿ったスクロール部材30の断面図が、図13に、縮尺通りではないが、概略的に示されている。
【0068】
スクロール壁28は、ベースプレート66とは反対の側で、そしてここには図示されていない固定のスクロール部材24のベースプレートに向いた端部に、ここでは同様に図示されていないシール要素64、つまりいわゆるチップシールを挿入するための溝114を有する。運転状態での配置は、例えば図4において良好に視認可能である。本発明によるポンプの有利な形態によれば、チップシールが設けられていて、チップシールは、スライド層にスライド接触している。
【0069】
溝114は、外側及び内側で、対向する2つの側壁、つまり内側の側壁116と外側の側壁118とによって画定されている。第1のスクロール部分120では、外側の側壁118は、第1のスクロール部分120における内側の側壁116よりも厚く構成されていて、そして別の第2のスクロール部分122における両方の側壁116、118よりも厚く構成されている。
【0070】
第1のスクロール部分120は、例えば図5にも示されているように、図12に示された箇所からスクロール壁28の外側の端部にまで延在する。第1のスクロール部分120は、ここでは、例えば163°にわたって延在する。
【0071】
第1のスクロール部分120は、スクロール壁28の外側の端部部分を形成する。この場合、第1のスクロール部分120は、少なくとも部分的に、特に完全に、スクロール壁28の、ポンプ作用を奏しない領域に配置されている。特に、第1のスクロール部分120は、スクロール壁28の、ポンプ作用を奏しない領域を、少なくともほぼ完全に占めてよい。
【0072】
図5において視認可能であるように、好適には、他の中間部分72、74よりも大きな半径方向の高さを有する第1の中間部分70は、2つの保持突出部68の間で、第1のスクロール部分120に対向して配置されてよい。したがって、より厚い側壁118によってもたらされるアンバランスは、第1の中間部分70のより大きな重量によって補整できる。
【0073】
軸受及び他の構成部材のシステム負荷を低くするために、可動のスクロール部材は、概して好適には、小さな自重を有するべきである。したがって、スクロール壁は、通常、極めて薄く構成される。さらに、壁が薄くなるにつれ、ポンプ寸法(有効外径)がより小さくなる。その結果、チップシール溝の側壁は、特に薄くなっている。総スクロール壁厚さに対するチップシール肉厚の比は、例えば最大で0.17である。しかし、チップシール溝に基づいて、スクロール壁先端は、例えば組付け時又はチップシールの交換時等の取扱いに際して衝突に対して極めて敏感である。例えば輸送時でも僅かな衝突によって、溝の側壁は、内向きに押圧され得、その結果、チップシールはもはや組付け不能である。この問題を解決するために、溝は、非対称な肉厚を有し、特にスクロール壁の、外向きの局所的な増厚部を有する。この領域は、好適には、ポンプ作用を奏さず、したがってより大きな公差をもって製作してよい。特に最後の半分の巻状における片側の増厚によって、損傷が大幅に低減される。構成部材の残りの箇所では、好適には、スクロール壁の増厚は不要である。というのも、壁が、構成部材の突出する要素によって防護されているからである。
【0074】
図1に示されたエアガイドフード46は、破線の矢印124によって示唆されているように、空気流を規定する。ファン44は、エアガイドフード46を通って延在する図示されていないケーブルと差込接続部とを介して、エレクトロハウジング48内に設けられた制御装置に接続されている。差込接続部は、ソケット126とプラグ128とを有する。ソケット126は、エレクトロニクスハウジング48に支持されている、及び/又はエレクトロニクスハウジング48内に配置された基板に取り付けられている。ソケット126は、例えば図2及び図3においても視認可能である。プラグ128は、図示されていないケーブルを介してファン44に接続されている。
【0075】
差込接続部126、128は、仕切壁130によって、空気流124から分離されている。空気流124は、例えば塵埃又は同様の汚れを含み得、したがって、差込接続部126、128から隔離される。したがって、一方では、差込接続部126、128自体が防護され、他方では、汚れが、ソケット126のために設けられた、エレクトロニクスハウジング48内の開口を通って、エレクトロニクスハウジング48内に侵入し、制御装置及び/又はパワーエレクトロニクスに至ることが阻止される。
【0076】
図14には、エアガイドフード46が、個別に斜視図で示されている。とりわけ、仕切壁130が、仕切壁130の後方に設定された、プラグ128のために設けられた空間と共に視認可能である。仕切壁130は、プラグ128からファン44へ向けてケーブルを導通するための、ここではV字形の切込みとして構成された凹部132を有する。
【0077】
例えばコスト削減のために、シールを有しない低コストの差込コネクタ(例えばIP保護コードを有しない)を使用できる。というのも、仕切壁130によって、吸い込まれた空気が差込コネクタ126、128の貫通部を介してエレクトロニクスに至らないようになるからである。ファンのケーブルは、V字形の切込み132によって、側方で仕切板130を通ってガイドされる。切込み132は、差込コネクタ126、128に対して側方のずれを有し、これにより、ラビリンス効果が達成され、したがって、差込コネクタ126、128への冷却空気の漏れのさらなる低減が達成される。エアガイドフード46内の仕切壁130によって、さらに、エレクトロニクスハウジング48とポンプハウジング22との間の通路50内への空気ガイドが改善される。比較的僅かなファン44の乱流及び背圧しか生じない。
【0078】
図15は、第1のハウジング要素22と第2のハウジング要素又は固定のスクロール部材24との間の当接領域を概略断面図で示す。第2のハウジング要素24は、中間ばめ部134でもって、部分的に第1のハウジング要素22に挿入されている。この場合、Oリング136を用いたシールが設けられている。中間ばめ部134は、例えば第1のハウジング要素22に対して第2のハウジング要素24をセンタリングするのにも役立つ。
【0079】
保守目的で、例えばシール要素64を交換するには、第2のハウジング要素24を、例えば取り外さなければならない。その際、第2のハウジング要素24が十分な程度に真っ直ぐに引き抜かれないとき、中間ばめ部134又はOリング136が挟み込まれることが起こり得る。この問題を解決するために、引離し用ねじ山138が設けられている。好適には、少なくともほぼ径方向に反対の側に位置する第2の引離し用ねじ山が設けられてもよい。第2のハウジング要素24を可能な限り真っ直ぐにガイドして外すために、ねじが引離し用ねじ山138から外へ突出し、第1のハウジング要素22に当接するまで、ねじを引離し用ねじ山138にねじ込むことができる。さらなるねじ込みによって、ハウジング要素22、24は、互いに対して離される。
【0080】
引き離すために、例えば図1及び図3に示されたように、例えば第2のハウジング要素24を第1のハウジング要素22に取り付けるために設けられた取付ねじ142を用いることができる。この目的のために、引離し用ねじ山138は、好適には、取付ねじ142のために設けられた取付ねじ山と同一のねじ山タイプを有する。
【0081】
第2のハウジング要素22には、引離し用ねじ山138に対応付けられた凹み140が設けられている。ねじが引離し用ねじ山138にねじ込まれるときに摩耗粒子が運ばれると、摩耗粒子は、凹み140に集まる。したがって、この種の摩耗粒子が例えばハウジング要素22、24同士の完全な当接を妨げることが阻止される。
【0082】
固定のスクロール部材24を組み付けるとき、ねじを再びねじ外さなければならない。というのも、そうしないと第1のハウジング要素22における固定のスクロール部材24の完全なねじ締結(ハウジングの平面上での正しい嵌込み)が場合によっては阻止されるからである。結果として、漏れ、傾斜姿勢及びポンプ性能の低下が起こり得る。この組付けエラーを回避するために、エアガイドフード46は、特に付加的な、図14に示された少なくとも1つのドーム144を有し、このドーム144は、引き離すために用いられるねじ、特に取付ねじ142が再び取り外されたときにだけ、エアガイドフード46の組付けを可能にする。ドーム144を有するエアガイドフード46は、これが、場合によっては引離し用ねじ山138にねじ込まれた引離し用ねじのねじ頭と衝突するように構成されているので、エアガイドフード46が完全には組付け可能ではない。特に、エアガイドフード46は、引離し用ねじが完全に取り外されたときにしか組付けできない。
【0083】
図16は、シール150が、ベースプレート66の形態の、スライド層152が設けられた支持体154に接触する領域で、先行の図面に示されたスパイラルポンプ又はスクロールポンプ20の詳細図を模式的に示す。特に、スクロール要素26、28の配置は、シール150がベースプレート66の形態の支持体154に押し付けられるように行われる。ベースプレートへのシールの押付けは、スクロール要素26、28の両側の間の圧力差を介して行われる。シール150は、境界面151を介して、スクロール要素26、28に接合されている。スライド層152の酸化物層及び封止部は、封止部が酸化物層の細孔及び欠損箇所に進入し、それらを閉じるので、個別には示されていない。付加的な層の構築は、必ずしも行われるわけではない。好ましくはフルオロポリマーを含む封止部は、スライド層152の乾式潤滑特性を促進し、付加的にその摩耗を低減するだけでなく、スライド層152の気密性も改善し、これにより、達成可能な最終圧力の改善及び慣らし運転時間の短縮が生じる。
【0084】
ベースプレート66の形態の支持体154及び渦巻き状の壁26、28は、それぞれ一体に構成されていて、AlMgSi系のアルミニウム合金からなる。スライド層152の酸化物層は、硫酸電解液中での陽極酸化によって形成されるアルミニウム酸化物層である。スライド層152は、特に、圧送空間に面する、スクロール部材24、30の全ての面に被着されている。図6に示されたシール150(チップシール)は、例えばポリイミド粒子を含み、熱間圧縮成形とこれに続く焼結とによって作製されたポリテトラフルオロエチレンである。ポリイミド粒子の平均粒径は、25μmである。
【0085】
封止部は、好ましくは、水性アニオン性ポリウレタン分散液として被着される封止部であり、この場合、ポリウレタンは、パーフルオロポリエーテルセグメントを含む。パーフルオロポリエーテルセグメントは、ポリオールプレポリマー又はジイソシアネートプレポリマーとして提供されてよい。パーフルオロポリエーテルセグメントは、例えばパーフルオロポリエチレングリコール又はパーフルオロポリプロピレングリコールをベースとする、好ましくはパーフルオロポリエチレングリコールをベースとするセグメントであってよい。酸化物層への封止部の接合を改善するために、ポリウレタン分散液に付着促進剤が添加された。例えば、エポキシシラン又はポリアジリジンが添加された。代替的に又は付加的に、メラミン又はブロックされたイソシアネート等の他の付着促進剤を加えてもよい。封止部は、アクリレートベース又はゾルゲルベースであってもよく、この場合、前述のように、アクリレートをベースとする又はゾルゲルをベースとする封止部では、付着促進剤の使用も同様に有利である。
【0086】
本発明に係るポンプは、図1から図16を参照して前述した1つ又は複数の特徴を有してよく、この場合、本発明に係るポンプでは、これらの特徴の任意の組合せを実現できる。
【0087】
図17には、ベースプレート66上に被着された39.08μmの厚さを有する酸化物層156を示す、横断面の電子顕微鏡撮像を示す。図17の縮尺は、10μmの長さを示している。酸化物層156は、気密性を損なう亀裂158と欠損箇所158とを有する。その上更に拡大された図が、図18に示されていて、図18では、細孔構造のみならず細孔を互いに繋ぐ欠損箇所も視認可能である。図18の縮尺は、200nmの長さを示している。酸化物層156の多孔質構造は、図19に基づいても認められる。図19は、図17及び図18の酸化物層を電子顕微鏡による平面図で示し、この場合、細孔160は、暗く鉛直に延在するスジとして現れ、極めて小さな欠損箇所158も、隣り合う細孔160を互いに繋ぐ暗い模様として視認可能である。図18の縮尺は、200nmの長さを示している。極めて小さな細孔160のみならずより大きな細孔160、亀裂158及びそれらの枝部が視認可能である。図17から図19には、それぞれ細孔及び欠損箇所の幾つかだけに符号が付されている。
【0088】
本発明に係るポンプのスライド層の効果は、図20に示されたグラフに基づいて看取される。横軸(X軸)に時間が時間の単位で記入されていて、縦軸に圧力がhPaの単位で記入されている。それぞれ同一の条件で、スクロール真空ポンプを用いて負圧を発生させ、その際、その都度の負圧の発生を時間にわたって記録した。
【0089】
AからDまでの全ての線でそれぞれHiScroll型のポンプが使用された。線Aでは圧送要素が被覆を有しない点についてのみポンプの違いがある。線Bでは、圧送要素は、欧州特許出願公開第3153706号明細書に記載されたような被覆を有し、この場合、酸化物層を作製するために硫酸電解液が使用された、つまり陽極形成された酸化物層を有する。線Cは、線Bのときと同様のHiScroll型のポンプであるが、真空発生前に所定時間被覆が加熱された。線Dは、本発明に係る真空ポンプを用いた真空の発生を示し、ここでは、酸化物層に付加的に封止部が設けられている。
【0090】
線Aから看取されるように、被覆されていない圧送要素で極めて迅速に低い最終圧力が得られるが、この最終圧力は、圧送要素の摩耗に基づいて安定していない。圧送要素が陽極被覆を有するとき、安定した、しかし長い慣らし運転段階後であっても比較的高い最終圧力が得られる。このことは、線Bから明確になる。線Bのポンプでは、短い運転時間後に試験が中断され、酸化物層に封止部が被着された。試験を続けると、圧力が極めて迅速に降下し、著しく低い最終圧力が達成されることに気付かされる。線Cは、線Bのとき試験の中断まで導入されたような圧送要素の加熱によって、より低い最終圧力を達成できることを示すが、しかし、加熱によっても酸化物層に含まれる欠損箇所を除去できないので、図17から図19から看取されるように、亀裂によって、圧送媒体のある程度の逆流が起こり得る。しかし、達成可能な最終圧力は、圧送要素が加熱されないときよりも良好である。ただし、ここにも改善の必要性がある。線Dのとき使用された封止された圧送要素は、線B(試験の中断まで)及び線Cのときよりも著しく低い最終圧力を可能にし、この場合、得られる真空は、線Aのときとは異なり安定している。線B及び線Cの場合、より低い最終圧力に達するまでに著しく長い慣らし運転時間が予測される。したがって、本発明による封止部によって、達成可能な最終圧力が改善される傾向にあるだけでなく、慣らし運転時間も大幅に短縮される。このことは、短い慣らし運転時間と低い最終圧力と高い摩耗耐性とに関して、酸化物層の細孔構造の封止部に基づいて得られる著しい効果を顕著にする。
【符号の説明】
【0091】
20 スクロールポンプ
22 第1のハウジング要素
24 第2のハウジング要素/固定のスクロール部材
26 スクロール壁
28 スクロール壁
30 可動のスクロール部材
32 偏心シャフト
34 モータ
36 転がり軸受
38 偏心ピン
40 転がり軸受
42 波形ベローズ
44 ファン
46 エアガイドフード
48 エレクトロニクスハウジング
50 通路
52 チャンバ
54 フィン
56 凹部
58 フィン
60 圧力センサ
62 通路
64 シール要素
66 ベースプレート
68 保持突出部
70 第1の中間部分
72 第2の中間部分
74 第3の中間部分
76 クランプ装置
78 3爪チャック
80 空所
82 バランスウェイト
84 取付穴
86 シャフト段部
88 ハウジング肩部
90 ガスバラストバルブ
92 操作グリップ
94 プラスチックボディ
96 ベース要素
98 孔
100 逆止弁
102 栓
104 取付ねじ
106 回動可能な要素
108 孔
110 孔
112 蓋
114 溝
116 内側の側壁
118 外側の側壁
120 第1のスクロール部分
122 第2のスクロール部分
124 空気流
126 ソケット
128 プラグ
130 仕切壁
132 凹部
134 中間ばめ部
136 Oリング
138 引離し用ねじ山
140 凹み
142 取付ねじ
144 ドーム
150 シール
152 スライド層
154 支持体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【手続補正書】
【提出日】2022-10-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ、特に真空ポンプにおいて、
スライド層(152)を備え、
スライド層(152)は、特に、酸を含む電解液中での陽極酸化によって形成された酸化物層と、特にフッ素含有ポリマーをベースとする、ポリマーベースの封止部とを有し、
酸化物層は少なくとも部分的に封止部によって覆われている、及び/又は酸化物層に封止部が含浸されている、ポンプ。
【請求項2】
ポンプは、スクロール要素として構成された圧送要素(24、30)を備えるスパイラルポンプ又はスクロールポンプ(20)、特にスパイラル真空ポンプ又はスクロール真空ポンプであり、
スライド層(152)は、少なくとも部分的に、スクロール要素として構成された圧送要素(24、30)の少なくとも1つに被着されている、請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
ポンプは、シリンダ内壁とシリンダ内で可動のピストンとを有する少なくとも1つのシリンダを備えるピストンポンプ、特にピストン真空ポンプであり、
スライド層は、少なくとも部分的にシリンダ内壁及び/又はピストンに被着されている、請求項1に記載のポンプポンプ。
【請求項4】
酸化物層は多孔質であり、封止部は、酸化物層の細孔(160)及び/又は亀裂(158)及び/又は欠損箇所(158)を少なくとも部分的に閉じる、請求項1に記載のポンプ。
【請求項5】
封止部は、パーフルオロセグメントを有するポリウレタンから形成されたポリウレタン層である、及び/又は
封止部は、フルオロアルキルシロキサンを含む、
請求項1に記載のポンプ。
【請求項6】
封止部は、ポリエーテルセグメントを有するポリウレタンから形成されている、及び/又は
封止部は、パーフルオロポリエーテルセグメントを有するポリウレタンから形成されている、
請求項1に記載のポンプ。
【請求項7】
封止部は、10μm以下、特に0.5μmから5μmの厚さを有する、請求項1に記載のポンプ。
【請求項8】
封止部は、5μmから25μm又は25μmから35μmの厚さを有する、請求項1に記載のポンプ。
【請求項9】
封止部は、酸化物層を、実質的に完全に又は完全に覆う、請求項1に記載のポンプ。
【請求項10】
付着促進剤が、封止部に設けられている、及び/又は
付着促進剤が、プライマとして酸化物層上に設けられている、
請求項1に記載のポンプ。
【請求項11】
圧送要素は、ベース材料を有し、ベース材料は、少なくとも部分的にアルミニウム又はアルミニウム合金から形成されていて、ベース材料上にスライド層(152)が被着されている、請求項に記載のポンプ。
【請求項12】
スライド層(152)を製造する方法であって、
以下のステップ
a)好ましくは酸を含む電解液中での特に陽極酸化によって酸化物層を形成する、ステップと、
b)酸化物層に封止部を被覆する、ステップと、
を有する、方法。
【請求項13】
封止部を、水性分散液の形態で被着する又は溶媒ベースの分散液の形態で被着する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
溶媒ベースの分散液中の溶媒が、C~Cアルコール、特にC~Cアルコール、例えばCアルコールである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
方法は、請求項1から11のいずれか一項に記載のポンプに用いられる製造方法である、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0090
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0090】
線Aから看取されるように、被覆されていない圧送要素で極めて迅速に低い最終圧力が得られるが、この最終圧力は、圧送要素の摩耗に基づいて安定していない。圧送要素が陽極被覆を有するとき、安定した、しかし長い慣らし運転段階後であっても比較的高い最終圧力が得られる。このことは、線Bから明確になる。線Bのポンプでは、短い運転時間後に試験が中断され、酸化物層に封止部が被着された。試験を続けると、圧力が極めて迅速に降下し、著しく低い最終圧力が達成されることに気付かされる。線Cは、線Bのとき試験の中断まで導入されたような圧送要素の加熱によって、より低い最終圧力を達成できることを示すが、しかし、加熱によっても酸化物層に含まれる欠損箇所を除去できないので、図17から図19から看取されるように、亀裂によって、圧送媒体のある程度の逆流が起こり得る。しかし、達成可能な最終圧力は、圧送要素が加熱されないときよりも良好である。ただし、ここにも改善の必要性がある。線Dのとき使用された封止された圧送要素は、線B(試験の中断まで)及び線Cのときよりも著しく低い最終圧力を可能にし、この場合、得られる真空は、線Aのときとは異なり安定している。線B及び線Cの場合、より低い最終圧力に達するまでに著しく長い慣らし運転時間が予測される。したがって、本発明による封止部によって、達成可能な最終圧力が改善される傾向にあるだけでなく、慣らし運転時間も大幅に短縮される。このことは、短い慣らし運転時間と低い最終圧力と高い摩耗耐性とに関して、酸化物層の細孔構造の封止部に基づいて得られる著しい効果を顕著にする。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下を含む。
1.
ポンプ、特に真空ポンプにおいて、
スライド層(152)を備え、
スライド層(152)は、特に、酸を含む電解液中での陽極酸化によって形成された酸化物層と、特にフッ素含有ポリマーをベースとする、ポリマーベースの封止部とを有し、
酸化物層は少なくとも部分的に封止部によって覆われている、及び/又は酸化物層に封止部が含浸されている、ポンプ。
2.
ポンプは、スクロール要素として構成された圧送要素(24、30)を備えるスパイラルポンプ又はスクロールポンプ(20)、特にスパイラル真空ポンプ又はスクロール真空ポンプであり、
スライド層(152)は、少なくとも部分的に、スクロール要素として構成された圧送要素(24、30)の少なくとも1つに被着されている、上記1に記載のポンプ。
3.
ポンプは、シリンダ内壁とシリンダ内で可動のピストンとを有する少なくとも1つのシリンダを備えるピストンポンプ、特にピストン真空ポンプであり、
スライド層は、少なくとも部分的にシリンダ内壁及び/又はピストンに被着されている、上記1に記載のポンプポンプ。
4.
酸化物層は多孔質であり、封止部は、酸化物層の細孔(160)及び/又は亀裂(158)及び/又は欠損箇所(158)を少なくとも部分的に閉じる、上記1から3の少なくともいずれか一つに記載のポンプ。
5.
封止部は、パーフルオロセグメントを有するポリウレタンから形成されたポリウレタン層である、及び/又は
封止部は、フルオロアルキルシロキサンを含む、
上記1から4の少なくともいずれか一つに記載のポンプ。
6.
封止部は、ポリエーテルセグメントを有するポリウレタンから形成されている、及び/又は
封止部は、パーフルオロポリエーテルセグメントを有するポリウレタンから形成されている、
上記1から5の少なくともいずれか一つに記載のポンプ。
7.
封止部は、10μm以下、特に0.5μmから5μmの厚さを有する、上記1から6の少なくともいずれか一つに記載のポンプ。
8.
封止部は、5μmから25μm又は25μmから35μmの厚さを有する、上記1から7の少なくともいずれか一つに記載のポンプ。
9.
封止部は、酸化物層を、実質的に完全に又は完全に覆う、上記1から8の少なくともいずれか一つに記載のポンプ。
10.
付着促進剤が、封止部に設けられている、及び/又は
付着促進剤が、プライマとして酸化物層上に設けられている、
上記1から9の少なくともいずれか一つに記載のポンプ。
11.
圧送要素は、ベース材料を有し、ベース材料は、少なくとも部分的にアルミニウム又はアルミニウム合金から形成されていて、ベース材料上にスライド層(152)が被着されている、上記1から10の少なくともいずれか一つに記載のポンプ。
12.
スライド層(152)を製造する方法であって、
以下のステップ
a)好ましくは酸を含む電解液中での特に陽極酸化によって酸化物層を形成する、ステップと、
b)酸化物層に封止部を被覆する、ステップと、
を有する、方法。
13.
封止部を、水性分散液の形態で被着する又は溶媒ベースの分散液の形態で被着する、上記12に記載の方法。
14.
溶媒ベースの分散液中の溶媒が、C ~C アルコール、特にC ~C アルコール、例えばC アルコールである、上記13に記載の方法。
15.
方法は、上記1から11の少なくともいずれか一つに記載のポンプに用いられる製造方法である、上記12から14の少なくともいずれか一つに記載の方法。
【外国語明細書】