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特開2023-5015交通状況予測装置、および、交通状況予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005015
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】交通状況予測装置、および、交通状況予測方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20230111BHJP
   G08G 1/01 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
G08G1/00 C
G08G1/01 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106676
(22)【出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 泰浩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美彦
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 浩輔
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB05
5H181BB13
5H181BB20
5H181CC27
5H181DD04
5H181EE02
5H181EE03
5H181EE12
5H181MC04
5H181MC12
5H181MC13
5H181MC14
5H181MC27
(57)【要約】
【課題】道路の複数の区間の将来の交通状況を簡潔な処理で予測する。
【解決手段】実施形態の交通状況予測装置は、車両が走行する道路を分割した複数の区間を交通状況データの類似性に基づいて群化した群ごとに、過去の所定時点より前の過去交通状況データを入力データとし、前記所定時点より後の過去交通状況データを出力データとする教師データに基づいて機械学習を行うことによって予測モデルを生成する学習処理部と、前記区間ごとに、道路情報収集端末によって収集された現在交通状況データを取得する取得部と、前記区間ごとに、前記現在交通状況データを入力データとし、当該区間が属する群に対応付けられた前記予測モデルに基づいて、出力データとして、将来の交通状況データを取得する予測処理部と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行する道路を分割した複数の区間を交通状況データの類似性に基づいて群化した群ごとに、過去の所定時点より前の過去交通状況データを入力データとし、前記所定時点より後の過去交通状況データを出力データとする教師データに基づいて機械学習を行うことによって予測モデルを生成する学習処理部と、
前記区間ごとに、道路情報収集端末によって収集された現在交通状況データを取得する取得部と、
前記区間ごとに、前記現在交通状況データを入力データとし、当該区間が属する群に対応付けられた前記予測モデルに基づいて、出力データとして、将来の交通状況データを取得する予測処理部と、を備える交通状況予測装置。
【請求項2】
前記区間ごとに前記将来の交通状況データに基づいて渋滞の長さを算出し、複数の前記区間にまたがって渋滞がつながっている場合は、前記区間ごとの渋滞の長さを加算することで渋滞の全体の長さを算出する算出部を、さらに備える、請求項1に記載の交通状況予測装置。
【請求項3】
前記区間ごとに前記将来の交通状況データに基づいて渋滞の損失時間を算出し、複数の前記区間にまたがって渋滞がつながっている場合は、前記区間ごとの渋滞の損失時間を加算することで渋滞の全体の損失時間を算出する算出部を、さらに備える、請求項1に記載の交通状況予測装置。
【請求項4】
車両が走行する道路を分割した複数の区間を交通状況データの類似性に基づいて群化した群ごとに、過去の所定時点より前の過去交通状況データを入力データとし、前記所定時点より後の過去交通状況データを出力データとする教師データに基づいて機械学習を行うことによって予測モデルを生成する学習処理ステップと、
前記区間ごとに、道路情報収集端末によって収集された現在交通状況データを取得する取得ステップと、
前記区間ごとに、前記現在交通状況データを入力データとし、当該区間が属する群に対応付けられた前記予測モデルに基づいて、出力データとして、将来の交通状況データを取得する予測処理ステップと、を含む交通状況予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、交通状況予測装置、および、交通状況予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、道路を走行する車両の運転者は、走行予定の経路の交通状況を知りたいと考えている。そこで、例えば、交通管制センタ等において、過去交通状況データを教師データとして機械学習を行って予測モデルを生成し、その予測モデルを用いて将来の交通状況を予測する技術がある。この技術によれば、将来の交通状況(例えば、車両速度、渋滞度、渋滞長、所要時間、渋滞損失時間など)を予測することができる。また、将来の交通状況を予測することで、交通状況を良好に保つために適切な施策を実行することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/033443号
【特許文献2】特許第3240505号公報
【特許文献3】特許第4115373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来技術では、将来の交通状況を予測する場合に、一般に、道路の区間ごとに別々の予測モデルを独立に生成して予測を行っている。しかしながら、この手法では、交通状況の予測範囲を広域に拡大する場合など、多くの区間の将来の交通状況を予測する場合に、大規模な計算が必要となってしまい、学習や予測を実現するための物理コストや時間コストが大きくなってしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本実施形態の課題は、道路の複数の区間の将来の交通状況を簡潔な処理で予測することができる交通状況予測装置、および、交通状況予測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の交通状況予測装置は、車両が走行する道路を分割した複数の区間を交通状況データの類似性に基づいて群化した群ごとに、過去の所定時点より前の過去交通状況データを入力データとし、前記所定時点より後の過去交通状況データを出力データとする教師データに基づいて機械学習を行うことによって予測モデルを生成する学習処理部と、前記区間ごとに、道路情報収集端末によって収集された現在交通状況データを取得する取得部と、前記区間ごとに、前記現在交通状況データを入力データとし、当該区間が属する群に対応付けられた前記予測モデルに基づいて、出力データとして、将来の交通状況データを取得する予測処理部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態における道路を模式的に示す図である。
図2図2は、実施形態の交通状況予測システムの全体構成図である。
図3図3は、実施形態の交通状況予測装置の機能構成図である。
図4図4は、実施形態における合流のある道路を模式的に示す図である。
図5図5は、実施形態における道路の区間ごとの速度の経時変化の例を示すグラフである。
図6図6は、実施形態における区間の群化処理の例を模式的に示す図である。
図7図7は、実施形態の交通状況予測装置による学習処理の概要を模式的に示す図である。
図8図8は、実施形態において、複数経路の各区間の群化の例を模式的に示す図である。
図9図9は、実施形態における現時点と将来の複数時点の道路の渋滞長の表示例を模式的に示す図である。
図10図10は、実施形態における将来の複数時点の道路の渋滞度等の表示例を模式的に示す図である。
図11図11は、実施形態における交通状況予測装置による学習処理を示すフローチャート等である。
図12図12は、実施形態における交通状況予測装置による予測処理を示すフローチャート等である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本発明の交通状況予測装置、および、交通状況予測方法の実施形態について説明する。
【0009】
まず、図1を参照して、実施形態における道路Rについて説明する。
図1は、実施形態における道路Rを模式的に示す図である。車両Cが走行する道路Rは、例えば、高速道路である。道路Rは、管理単位として、区間#1,#2,#3,・・・に分割されている。また、区間ごとに、車両感知器2(詳細は後述)が設置されている。なお、以下では、道路Rの符号を省略して「道路」と表記する場合がある。
【0010】
次に、図2を参照して、実施形態の交通状況予測システムSの全体構成について説明する。
図2は、実施形態の交通状況予測システムSの全体構成図である。交通状況予測システムSは、交通状況予測装置1と、車両感知器2(道路情報収集端末)と、道路交通管制システム3と、気象データ管理装置4と、イベントデータ管理装置5と、を備える。
【0011】
車両感知器2(図1参照)は、高速道路の区間ごとに路側に設置され、交通量[台/h(hour)]、平均速度[km/h]、車両密度[台/km]、占有率(オキュパンシー)[%]などの情報(交通状況データ)を収集する感知器である。車両感知器2は、収集した交通状況データを道路交通管制システム3に送信する。
【0012】
なお、交通状況データを収集する装置は、ほかに、道路を走行する車両の乗員により携帯される携帯端末(スマートフォン等)や、車両の車載装置などであってもよい。
【0013】
道路交通管制システム3は、管制対象の道路の実際の交通状況の監視や管理を総合的に行うコンピュータシステムであり、車両感知器2から受信した交通状況データを交通状況予測装置1に送信する。また、道路交通管制システム3は、交通状況予測装置1に、将来の交通状況の予測の指示を与える(詳細は後述)。
【0014】
気象データ管理装置4は、各種センサ等によって収集した気象データ(例えば、気温データ、湿度データ、晴れ/曇り/雨/雪等のデータ)を管理するコンピュータシステムであり、気象データを交通状況予測装置1に送信する。
【0015】
イベントデータ管理装置5は、道路の交通状況に影響するイベント(例えば、展覧会、コンサート等)データを管理するコンピュータシステムであり、イベントデータを交通状況予測装置1に送信する。
【0016】
次に、図3を参照して、実施形態の交通状況予測装置1の機能構成について説明する。
図3は、実施形態の交通状況予測装置1の機能構成図である。交通状況予測装置1は、コンピュータ装置であり、処理部11と、記憶部12と、入力部13と、表示部14と、通信部15と、を備える。
【0017】
なお、本実施形態では、交通状況予測装置1について、説明を簡潔にするために、1台のコンピュータ装置によって構成されているものとして説明するが、これに限定されない。交通状況予測装置1は、例えば、複数のコンピュータ装置によって実現されてもよいし、あるいは、クラウドサーバによって実現されてもよい。
【0018】
記憶部12は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの記憶装置であり、各種情報を記憶する。記憶部12は、例えば、道路データ121と、交通状況データ122と、気象データ123と、イベントデータ124と、教師データ125と、予測モデル126と、予測結果127と、を記憶する。
【0019】
道路データ121は、道路に関する情報であり、例えば、区間の識別情報や長さ(区間長)や最大収容車両数等、車線数、インターチェンジ、パーキングエリアの場所等の情報である。
【0020】
交通状況データ122は、道路交通管制システム3から取得した、車両感知器2によって収集された交通量[台/h]、平均速度[km/h]、車両密度[台/km]、占有率(オキュパンシー)[%]などの情報である。なお、以下では、予測モデル126の生成に使用する過去の交通状況データを過去交通状況データと称し、交通状況の予測に使用する現在(直近を含む。)の交通状況データを現在交通状況データと称する。
【0021】
気象データ123は、気象データ管理装置4から取得した気象データである。
【0022】
イベントデータ124は、イベントデータ管理装置5から取得したイベントデータである。
【0023】
教師データ125は、予測モデル126を生成するための入力データと出力データの正解データ(実績値)である。例えば、入力データが過去の所定時点より前の過去交通状況データで、出力データが前記所定時点より後の過去交通状況データである。
【0024】
予測モデル126は、学習処理部112によって生成されるモデルである。予測モデル126は、複数の区間を交通状況データの類似性に基づいて群化(グループ化)した群(グループ)ごとに生成される。予測モデル126の詳細については後述する。
【0025】
予測結果127は、予測処理部113による交通状況の予測の結果である。
【0026】
処理部11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、を備える。CPUは、交通状況予測装置1の動作を統括的に制御する。ROMは、各種プログラムやデータを記憶する記憶媒体である。RAMは、各種プログラムを一時的に記憶したり、各種データを書き換えたりするための記憶媒体である。そして、CPUは、RAMをワークエリア(作業領域)としてROM、記憶部12等に格納されたプログラムを実行する。
【0027】
処理部11は、機能構成として、取得部111と、学習処理部112と、予測処理部113と、算出部114と、表示制御部115と、送信制御部116と、を備える。
【0028】
取得部111は、外部装置から各種情報を取得する。例えば、取得部111は、道路交通管制システム3から、区間ごとに、車両感知器2によって収集された現在交通状況データを取得する。また、取得部111は、気象データ管理装置4から、現在の気象データを取得する。また、取得部111は、イベントデータ管理装置5から、イベントデータを取得する。
【0029】
学習処理部112は、複数の道路の複数の区間を、交通状況データの類似性に基づいて群化し、例えば、区間と群とを対応付けた対応テーブルで群化に関する情報を管理する。また、学習処理部112は、群ごとに、過去の所定時点より前の過去交通状況データを入力データとし、所定時点より後の過去交通状況データを出力データとする教師データに基づいて機械学習を行うことによって予測モデル126を生成する。また、学習処理部112は、予測モデル126を生成する際に、さらに過去気象データや過去イベントデータを用いてもよい。
【0030】
予測処理部113は、区間ごとに、現在交通状況データを入力データとし、当該区間が属する群に対応付けられた予測モデル126に基づいて、出力データとして、将来の交通状況データを取得する。
【0031】
算出部114は、例えば、区間ごとに将来の交通状況データに基づいて渋滞の長さ(以下、「渋滞長」ともいう。)を算出し、複数の区間にまたがって渋滞がつながっている場合は、区間ごとの渋滞の長さを加算することで渋滞の全体の長さを算出する。なお、予測対象時刻は、現在でもよいし、ほかに、例えば、30分先、60分先、120分先などであってもよい。また、この算出は、例えば、5分ごとに行う。
【0032】
また、算出部114は、例えば、区間ごとに将来の交通状況データに基づいて渋滞の損失時間を算出し、複数の区間にまたがって渋滞がつながっている場合は、区間ごとの渋滞の損失時間を加算することで渋滞の全体の損失時間を算出する。
【0033】
また、算出部114は、例えば、区間ごとに将来の交通状況データに基づいて区間長を速度データの値で除算することで当該区間の走行時間を算出し、所定の起点から所定の終点までのすべての区間についての走行時間を加算することで、起点から終点までの走行時間を算出する。
【0034】
また、算出部114は、例えば、区間ごとに将来の交通状況データに基づいて渋滞量(例えば、渋滞長×渋滞時間÷2)を算出し、複数の区間にまたがって渋滞がつながっている場合は、区間ごとの渋滞量を加算することで全体の渋滞量を算出する。
【0035】
表示制御部115は、各種情報を表示部14に表示させる。
【0036】
送信制御部116は、各種情報を外部装置に送信する。例えば、送信制御部116は、予測処理部113による予測結果127を道路交通管制システム3や道路を走行中の車両や道路の路側に設置されている情報板等に送信して表示させる。
【0037】
入力部13は、交通状況予測装置1に対するユーザの操作を受け付ける入力装置であり、例えば、キーボード、マウス等である。
【0038】
表示部14は、液晶表示装置(LCD(Liquid Crystal Display))、有機EL(Electro-Luminescence)表示装置等により実現される。
【0039】
通信部15は、外部装置との通信を行うための通信インタフェースである。
【0040】
各装置の構成の説明を以上で終了し、以下、交通状況予測装置1による処理等について説明する。まず、図4を参照して、予測モデル126に関する学習や予測のより好適な方法について説明する。
図4は、実施形態における合流のある道路を模式的に示す図である。学習と予測は区間ごとに行うことができるが、その際、その区間だけでなくその上流区間や下流区間のデータも併せて使うことが好ましい。特に、例えば、合流区間についてはそのようにして学習と予測を行うことが精度向上の点で好ましい。
【0041】
図4に示すように、区間#11~#14のうち、区間#12には区間#15からの車両が合流する。この場合、区間#12は、渋滞が発生しやすい、いわゆるボトルネック区間となる。つまり、区間#12では、車両数が最大収容車両数に近づきやすく、ある程度近づくと渋滞が発生し、区間#12に収まらない車両が隣接する上流区間である区間#13にはみ出ることで、渋滞が上流に伝搬する。なお、ボトルネック区間となるのは、合流区間のほかに、一般道との出入口を含む区間や織込み区間などがある。
【0042】
次に、図5を参照して、区間の群化について説明する。
図5は、実施形態における道路の区間ごとの速度の経時変化の例を示すグラフである。図5において、(a)~(d)は、それぞれ、別々の区間に関する速度の経時変化を示すグラフである。
【0043】
(a)のグラフと(b)のグラフは概形が類似している。また、(c)のグラフと(d)のグラフは概形が類似している。したがって、(a)の区間と(b)の区間を同一の群とし、(c)の区間と(d)の区間を同一の群とする。
【0044】
そして、同一の群に属する区間の交通状況データは互いに類似しているため、共通の予測モデル126を学習によって作成し、予測のときに用いる。これにより、区間ごとに別々の予測モデルを用いる従来技術と比べて、処理量を大幅に削減することができる。この効果は、予測対象の区間数が多くなればなるほど顕著になる。
【0045】
次に、図6を参照して、区間の群化処理の例について説明する。
図6は、実施形態における区間の群化処理の例を模式的に示す図である。ここでは、群化処理の手法として、PCA(Principal Component Analysis:主成分分析)を例にとって説明する。
【0046】
例えば、各区間について、5分単位で24時間分の交通状況データとして速度、交通量、オキュパンシなどの情報を取得する。図6(a)は、それらの情報を実データ空間上にマッピングした様子を示す。図6(a)の各軸は、速度、交通量、オキュパンシなどである。以下では、実データ空間上の区間に対応する情報を「区間点」とも称する。
【0047】
そして、PCAでは、例えば、(a)に示す実データ空間に基づいて固有値・固有ベクトルを計算し、矢印PC1、PC2に示すような軸を用いて、各区間点を、(b)に示す特徴空間上にマッピングする。次に、(b)に示す特徴空間に基づいて、区間点間の距離を求め、距離がある一定以下のものを同一の群とする。図6(b)では、すべての区間点が群1~群4のいずれかに分類されている。このようにして、複数の区間の群化を行うことができる。
【0048】
次に、図7を参照して、学習処理の概要について説明する。
図7は、実施形態の交通状況予測装置1による学習処理の概要を模式的に示す図である。図7に示す予測モデル126は各群ごとに学習して生成される。予測モデル126は、例えば、時系列データを扱うニューラルネットワークの一種であるLSTM(Long Short-Term Memory)のネットワークである。
【0049】
対象の複数の区間が群1~群Nに分類されているとき、予測モデル126として、群1用予測モデル~群N用予測モデルが設けられる。ここでは、例えば、着目区間と上流区間は群2に分類され、下流区間は群1に分類されている。そして、着目区間と上流区間の学習には群2用予測モデルが用いられ、下流区間の学習には群1用予測モデルが用いられる。
【0050】
ここでは、例えば、基準時刻をtとし、5分単位で5分後(t)から2時間後(t24)までの速度と渋滞度を予測することを考える。その場合、着目区間、上流区間、下流区間について、基準時刻より前の2時間分(t-23~t-1)の交通状況データ(交通量、速度、占有率)を用意する。そして、各予測モデルにおいて、所定の損失関数を用いて学習を行う。
【0051】
なお、従来技術では、例えば、30の区間があれば、予測モデルも30あった。一方、本実施形態では、例えば、30の区間を4、5程度の群に分類すれば、予測モデル126も4、5程度になって処理が軽くなり、かつ、1つあたりの予測モデル126に対する学習データが多くなるというメリットもある。
【0052】
なお、1つの群に属する複数の区間に関して、予測モデル126は共通のものを用いるが、区間ごとの学習や予測を行う際に、その区間に固有の情報を反映するための調整器(調整用ソフトウェア)を併せて用いてもよい。
【0053】
次に、図8を参照して、複数経路の各区間の群化の例について説明する。
図8は、実施形態において、複数経路の各区間の群化の例を模式的に示す図である。一組の出発地と目的地に対して、経路1と経路2がある。そして、経路1と経路2のそれぞれについて、各区間を交通状況データの類似性に基づいて群1~群4に分類することができる。なお、このように、異なる経路の区間同士が同じ群に属することもある。
【0054】
次に、図9を参照して、道路の渋滞長の表示例について説明する。図9は、実施形態における現時点と将来の複数時点の道路の渋滞長の表示例を模式的に示す図である。この例では、現時点から、30分先、60分先、120分先と時間が進むうちに、渋滞と混雑の区間が増えてから減っていることを表示している。このように、現時点から120分先までの複数時点の道路の渋滞長を予測し、表示することができる。
【0055】
また、このような予測と表示を、複数の経路について行うことができる。従来技術では、経路数が増えることによって区間数が多くなると、大規模な計算が必要となってしまい、学習や予測を実現するための物理コストや時間コストが大きくなってしまうという問題があった。一方、本実施形態の手法によれば、区間数が多くても、区間を群化することで、学習や予測の精度を従来技術と同等に維持しつつ、物理コストや時間コストを有意に小さくすることができる。
【0056】
次に、図10を参照して、交通状況予測装置1によって予測される渋滞度、所要時間、速度の情報の活用例について説明する。
図10は、実施形態における将来の複数時点の渋滞度等の例を示す模式図である。渋滞度を表示させる場合は、例えば、道路Rに対して渋滞区間表示Mを重複表示させればよい。また、所要時間を表示させる場合は、例えば、道路Rに対して経路Tを重複表示するとともに、その経路Tの所要時間を数字で表示させればよい。また、速度を表示させる場合は、例えば、横軸が時間、縦軸が速度のグラフで表示させればよい。
【0057】
そして、例えば、30分先、60分先、120分先の渋滞度、所要時間、速度の情報を、走行中の車両や道路の路側に設置されている情報板等に送信して表示させることで、運転者はこれらの情報を見て運転計画等に有効に活用することができる。
【0058】
次に、図11を参照して、交通状況予測装置1による学習処理について説明する。
図11は、実施形態における交通状況予測装置1による学習処理を示すフローチャート等である。
まず、ステップS11において、学習処理部112は、ユーザによる入力部13を用いた指示等に基づいて、学習対象の道路を選択する。
【0059】
次に、ステップS12において、学習処理部112は、学習対象の道路における複数の区間ごとの交通状況データを、交通状況データの類似性に基づいて群化する(図5)。
【0060】
次に、ステップS13において、学習処理部112は、群ごとの予測モデル126を学習する。つまり、学習処理部112は、群ごとに、過去の所定時点より前の過去交通状況データを入力データとし、所定時点より後の過去交通状況データを出力データとする教師データに基づいて機械学習を行うことによって、予測モデル126を生成する。このようにして、群ごとの予測モデル126を生成することができる。
【0061】
次に、図12を参照して、交通状況予測装置1による予測処理について説明する。
図12は、実施形態における交通状況予測装置1による予測処理を示すフローチャート等である。
まず、ステップS21において、予測処理部113は、ユーザによる入力部13を用いた指示等に基づいて、予測対象の道路を選択する。
【0062】
次に、ステップS22~S24において、予測処理部113は、区間ごとの処理を行う。
ステップS23において、予測処理部113は、対象の区間について、現在交通状況データを入力データとし、当該区間が属する群に対応付けられた予測モデル126に基づいて、出力データとして、将来の交通状況データを取得する。
【0063】
ステップS22~S24の後、ステップS25において、算出部114は、予測対象道路の指標値を算出し、出力(例えば道路交通管制システム3に送信)する。例えば、算出部114は、区間ごとに将来の交通状況データに基づいて渋滞長(指標値)を算出し、複数の区間にまたがって渋滞がつながっている場合は、区間ごとの渋滞長を加算することで全体の渋滞長を算出し、出力する。
【0064】
また、例えば、算出部114は、区間ごとに将来の交通状況データに基づいて渋滞の損失時間(指標値)を算出し、複数の区間にまたがって渋滞がつながっている場合は、区間ごとの渋滞の損失時間を加算することで渋滞の全体の損失時間を算出し、出力する。
【0065】
また、例えば、算出部114は、区間ごとに将来の交通状況データに基づいて区間長を速度データの値で除算することで当該区間の走行時間(指標値)を算出し、所定の起点から所定の終点までのすべての区間についての走行時間を加算することで、起点から終点までの走行時間を算出し、出力する。
【0066】
また、例えば、算出部114は、区間ごとに将来の交通状況データに基づいて渋滞量(例えば、渋滞長×渋滞時間÷2)(指標値)を算出し、複数の区間にまたがって渋滞がつながっている場合は、区間ごとの渋滞量を加算することで全体の渋滞量を算出し、出力する。
【0067】
このように、本実施形態の交通状況予測装置1によれば、道路の複数の区間を群化しておき、群ごとに予測モデル126を対応させて学習し、各区間について、属する群に対応する予測モデル126を用いて将来の交通状況を予測する。これにより、道路の複数の区間の将来の交通状況を簡潔な処理で予測することができる。
【0068】
また、例えば、区間ごとに将来の交通状況データに基づいて渋滞長を算出し、複数の区間にまたがって渋滞がつながっている場合は、区間ごとの渋滞長を加算することで全体の渋滞長を算出することができる。
【0069】
また、例えば、区間ごとに将来の交通状況データに基づいて渋滞の損失時間を算出し、複数の区間にまたがって渋滞がつながっている場合は、区間ごとの渋滞の損失時間を加算することで渋滞の全体の損失時間を算出することができる。
【0070】
本実施形態の交通状況予測装置1のCPUで実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよい。
【0071】
さらに、当該プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、本実施形態で実行される当該プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。
【0072】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態はあくまで例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0073】
例えば、対象となる道路は、高速道路に限定されず、一般道等の他の道路であってもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…交通状況予測装置、2…車両感知器、3…道路交通管制システム、4…気象データ管理装置、5…イベントデータ管理装置、11…処理部、12…記憶部、13…入力部、14…表示部、15…通信部、111…取得部、112…学習処理部、113…予測処理部、114…算出部、115…表示制御部、116…送信制御部、121…道路データ、122…交通状況データ、123…気象データ、124…イベントデータ、125…教師データ、126…予測モデル、127…予測結果、S…交通状況予測システム
図1
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