(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050169
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】固形描画材およびそれを用いた固形筆記体
(51)【国際特許分類】
C09D 13/00 20060101AFI20230403BHJP
B43K 19/00 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
C09D13/00
B43K19/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154364
(22)【出願日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2021158925
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 英二
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB12
4J039BA04
4J039BB01
4J039BC13
4J039BC19
4J039BC20
4J039BC57
4J039BE16
4J039CA09
4J039EA29
4J039EA36
4J039EA48
4J039GA30
4J039GA32
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、滑らかな書き味(筆感)が得られ、画線も密となる濃い画線とし、強度が十分で折れにくい固形描画材およびそれを用いた固形描画具を得ることである。
【解決手段】着色剤、水添ひまし油脂肪酸、ポリアルキレングリコール、ワックスを含んでなる固形描画材であって、前記水添ひまし油脂肪酸の固形描画材全量に対する含有量をA、前記ポリアルキレングリコールの固形描画材全量に対する含有量をBとした場合、0.7≦A/B≦3の関係であることを特徴とする固形描画材およびそれを用いた固形筆記体とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、水添ひまし油脂肪酸、ポリアルキレングリコール、ワックスを含んでなる固形描画材であって、前記水添ひまし油脂肪酸の固形描画材全量に対する含有量をA、前記ポリアルキレングリコールの固形描画材全量に対する含有量をBとした場合、0.7≦A/B≦3の関係であることを特徴とする固形描画材。
【請求項2】
前記ワックスが、グリセリドを含んでなることを特徴とする請求項1に記載の固形描画材。
【請求項3】
前記ワックスが、脂肪酸を含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載の固形描画材。
【請求項4】
前記ワックスが、融点30以上60℃未満のワックスと、融点60℃以上120℃以下のワックスを含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載の固形描画材。
【請求項5】
前記融点30以上60℃未満のワックスの含有量をX、融点60℃以上120℃以下のワックスの含有量をYとした場合、0.01≦Y/X≦1の関係であることを特徴とする請求項4に記載の固形描画材。
【請求項6】
請求項1または2に記載の固形描画材を軸筒に収容した固形筆記体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固形描画材およびそれを用いた固形筆記体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、固形描画材としては一般的にクレヨンが知られており、その成分として着色材の他にワックスを主材として用いているため、経時変化は極めて良好である。しかしその書き味は、ワックス特有のねばつくような重い書き味であり、しかも画線が粗く、塗りむらが生じて下地が見えてしまうという問題がある。このため、書き味が滑らかで画線が密となる、液体筆記具の筆感に近い固形描画材が種々検討されており、例えばゲル化剤を使用した固形描画材が知られている。このゲル化剤として、代表的には脂肪族カルボン酸塩などが挙げられ、これを主成分として着色材や水などを添加して得られた固形描画材は、従来のクレヨンと比べ、液体筆記具に近い極めて滑らかな書き味を有すると共に、画線も密となり、描画材としてばかりでなく、例えばラインマーカーのような用途にも十分適用できるものとなる(特許文献1参照)。また、この他に、油性のゲル化剤を用いることも知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-302269号公報
【特許文献2】特開平8-245916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水性のゲル化剤を用いた場合、水が含有されているので水分蒸発の問題が生じる。このため、蒸発しないような気密容器が必要となるが、使用中に外気にさらす状態も多く、どうしても経時変化は避けられない。水が蒸発すると、径が収縮して容器から抜け落ちたり、初期の滑らかな書き味が失われ、ワックス系のクレヨンに近い書き味となってしまう。これを防ぐ方法として、グリコール系溶剤を保湿剤として添加したり、さらに非イオン性界面活性剤を添加する方法が検討されているが、これも添加しないよりは効果があるものの、書き味が十分ではなく、さらに固形描画材自体の強度が十分ではなく、描画時(筆記時)に折れてしまい、改善の余地があった。
【0005】
本発明の目的は、液体筆記具に近い極めて滑らかな書き味(筆感)が得られ、画線も密となる濃い画線とすることで、塗りつぶし性が良く、描画後(筆記後)の描線に触れても汚れることなく(擦過性)、強度が十分で折れにくい固形描画材およびそれを用いた固形筆記体を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために
「1.着色剤、水添ひまし油脂肪酸、ポリアルキレングリコール、ワックスを含んでなる固形描画材であって、前記水添ひまし油脂肪酸の固形描画材全量に対する含有量をA、前記ポリアルキレングリコールの固形描画材全量に対する含有量をBとした場合、0.7≦A/B≦3の関係であることを特徴とする固形描画材。
2.前記ワックスが、グリセリドを含んでなることを特徴とする第1項に記載の固形描画材。
3.前記ワックスが、脂肪酸を含んでなることを特徴とする第1項または第2項に記載の固形描画材。
4.前記ワックスが、融点30以上60℃未満のワックスと、融点60℃以上120℃以下のワックスを含んでなることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の固形描画材。
5.前記融点30以上60℃未満のワックスの含有量をX、融点60℃以上120℃以下のワックスの含有量をYとした場合、0.01≦Y/X≦1の関係であることを特徴とする第4項に記載の固形描画材。
6.第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の固形描画材を軸筒に収容した固形筆記体。」とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、滑らかな書き味(筆感)が得られ、濃い画線となり、塗りつぶし性が良く、描画後(筆記後)の描線に触れても汚れることなく(擦過性)、強度が十分で折れにくい固形描画材およびそれを用いた固形筆記体を得ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の特徴は、着色剤、水添ひまし油脂肪酸、ポリアルキレングリコール、ワックスを含んでなる固形描画材であって、前記水添ひまし油脂肪酸の固形描画材全量に対する含有量をA、前記ポリアルキレングリコールの固形描画材全量に対する含有量をBとした場合、0.7≦A/B≦3の関係とすることで、滑らかな書き味(筆感)で、濃い画線になり、塗りつぶし性が良く、描画後の擦過性が良好で、さらに折れにくい固形描画材とすることが可能となる。
【0009】
(水添ひまし油脂肪酸)
本発明で用いる水添ひまし油脂肪酸については、ゲル化剤として用いるものである。水添ひまし油脂肪酸は、溶媒(ポリアルキレングリコール)を前記した特定比率で含有することで安定したネットワーク構造を形成し、ゲル構造を安定形成することができ、固形描画材として用いる場合、強度を強くし、折れにくくすることが可能である。また、描画時(筆記時)に衝撃により、一時的にゲル構造が解けることで、固形描画材先端部が柔らかくなり、滑らかな書き味とし、濃い画線となり、塗りつぶし性が良好で、さらに折れにくい固形描画材とすることが可能となる。
さらに、着色剤として、顔料を用いた場合は、ゲル構造により、顔料分散性を保ちやすいため、色調が良好となり、より好適に用いることができ、好ましい。
水添ひまし油脂肪酸は、ひまし油脂肪酸を水素添加したものであり、12-ヒドロキシステアリン酸(融点75℃)が挙げられ、12-ヒドロキシステアリン酸は、べたつきが少なく広い温度範囲にわたって硬度の変化が少ない化合物であるため、好ましい。
【0010】
本発明では、前記水添ひまし油脂肪酸の固形描画材全量に対する含有量をA、前記ポリアルキレングリコールの固形描画材全量に対する含有量をBとした場合の含有比率については、滑らかな書き味(筆感)、濃い画線となり、塗りつぶし性が良好で、擦過性を良好とし、強度を得るために、0.7≦A/B≦3の範囲にすることで、よりバランス良く滑らかな書き味(筆感)、濃い画線となり、塗りつぶし性が良好で、擦過性を良好で、強度を得られやすくするには、0.7≦A/B≦2.5の範囲が好ましく、より書き味(筆感)、塗りつぶし性を考慮すれば、0.8≦A/B≦2.3の範囲が好ましく、0.8≦A/B≦1.8の範囲が好ましい。
【0011】
水添ひまし油脂肪酸の含有量は、固形描画材の全質量に対して10~70質量%の範囲が好ましい。10質量%未満だと、ゲル化による成形性に影響しやすく、強度も低くなり、60質量%を越えると、ゲル化剤が多くなって書き味、塗りつぶし性、擦過性に影響しやすい。より書き味、塗りつぶし性、擦過性、強度をバランス良く考慮すれば、20~60質量%が好ましく、さらに25~45質量%が好ましい。
【0012】
(ポリアルキレングリコール)
本発明で用いる溶媒は、ポリアルキレングリコールを用いる。これは、水添ひまし油脂肪酸とポリアルキレングリコールを前記した特定比率で含有することで、安定したネットワーク構造を形成し、ゲル構造を安定形成することができるためである。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体を用いることが好ましい。その中でも、水添ひまし油脂肪酸とポリアルキレングリコールとの安定したネットワーク構造を形成し、本発明の効果を得られやすくすることを考慮すれば、ポリプロピレングリコールを用いることが好ましい。
【0013】
また、ポリアルキレングリコールについては、水添ひまし油脂肪酸とポリアルキレングリコールとの安定したネットワーク構造を形成し、本発明の効果を得られやすくすることを考慮すれば、数平均分子量は200~4000の範囲が好ましく、数平均分子量は500~2000の範囲が好ましく、より考慮すれば、数平均分子量は700~1500の範囲が好ましい。
【0014】
ポリアルキレングリコールの含有量は、固形描画材の全質量に対して10~50質量%の範囲が好ましい。10質量%未満ではネットワーク構造が十分ではなくゲル化に影響しやすく、50質量%を越えると、均一なゲルが形成しにくくなり、本発明の効果に影響が生じやすくなる。より本発明の効果を得られやすくして、書き味、塗りつぶし性、擦過性、強度をバランス良く考慮すれば、20~45質量%が好ましく、さらに25~40質量%が好ましい。
【0015】
(着色剤)
本発明に用いる着色剤としては、従来公知の顔料、染料であればいずれも用いることができ、例えば無機顔料、有機顔料、白色顔料、パール顔料、金属顔料、蛍光顔料などが挙げられ、単独もしくは組み合わせて用いる。具体的には、無機顔料としてカーボンブラック、鉄黒、群青、紺青、弁柄などが、また有機顔料としてはアゾ系顔料、インジゴ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、チオインジゴ系顔料などが挙げられ、白色顔料としては酸化チタン、酸化亜鉛、亜鉛華などが挙げられる。また染料としては、油溶性染料も用いることができ、例えばフタロシアニン系染料、ピラゾロン系染料、ニグロシン系染料、アントラキノン系染料、アゾ系染料など公知のものが挙げられる。また、顔料として、金属箔顔料やガラスフレーク顔料などを添加してもよい。
着色剤の中でも、発色性、堅牢性を考慮すれば、顔料が好ましい。さらに、顔料は、比重が高く、顔料分散性に影響が生じやすいが、本発明のように水添ひまし油脂肪酸とポリアルキレングリコールとの安定したネットワーク構造を形成しているため、分散安定しており、色調が良好であり「、顔料は効果的に用いることができるため、好ましい。特に、アルミニウム粉、ステンレス鋼粉、酸化チタンなどのような金属を含んだ金属顔料は、より比重が高くても、分散性が良好であり、より効果的であり、好ましい。これらは単独または2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0016】
着色剤の含有量は、発色性、顔料の分散安定性を考慮すれば、固形描画材の全質量に対して1~20質量%の範囲が好ましく、より考慮すれば、3~15質量%の範囲が好ましい。
【0017】
また、顔料を用いる場合は、前記顔料の固形描画材に対する含有量をCとした場合、前記水添ひまし油脂肪酸の固形描画材全量に対する含有量をAとの関係は、、塗りつぶし性、発色性、顔料分散性を考慮すれば、0.01≦C/A≦1の範囲であることが好ましく、0.03≦C/A≦0.5の範囲であることが好ましく、より考慮すれば、0.05≦C/A≦0.3の範囲であることが好ましい。
【0018】
(ワックス)
本発明で用いるワックスについては、固形描画材の構成成分のうち一般的にワックスとして分類されるものをいう。固形描画材の成分としてのワックスは、非使用時には形状保持に寄与するが、力が加えられると速やかに崩壊して描画時(筆記時)の潤滑性を付与し、書き味を良好に保ち、描画面(筆記面)への定着性を付与し、塗りつぶし性、擦過性を良好とする。具体的には、パラフィンワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、マイクロクリスタリンワックス、ウルシロウ、ミツロウ、カルナバワックス、ポリエチレンワックス、モンタンワックス、硬化ヒマシ油、パーム硬化油グリセリン脂肪酸エステル、グリセリド、脂肪酸などが挙げられる。強度を保って折れにくくする(曲げ強度)ことを考慮すれば、キャンデリラワックス、ライスワックス、マイクロクリスタリンワックスの中から少なくとも選択することが好ましく、より考慮すれば、キャンデリラワックス、ライスワックスの中から少なくとも選択することが好ましく、さらにキャンデリラワックスを少なくとも用いることが好ましい。
これらは単独または2種以上組み合わせて使用しても良いが、2種類のワックスを用いることが好ましく、さらに異なる融点のワックスを2種類用いることが好ましい。
【0019】
また、ワックスの中でも、滑らかな書き味(筆感)とし、塗りつぶし性を良好とし、強度を保って折れにくくすることを考慮すれば、グリセリドを含んでなるワックスとすることが好ましい。グリセリドとしては、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドが挙げられるが、書き味(筆感)、塗りつぶし性、強度を考慮すればトリグリセリドを含んでなることが好ましい。水添ひまし油脂肪酸、ポリアルキレングリコールとの安定性を考慮すれば、トリグリセリドを含んでなることが好ましい。また、水添ひまし油脂肪酸、ポリアルキレングリコールとの安定性を考慮すれば、グリセリドをワックスの主成分(ワックス全体全量に対するグリセリドの含有量50%以上)とすることが好ましく、より考慮すれば、ワックス全体全量に対するグリセリドの含有量70%以上とすることが好ましい。
【0020】
また、ワックスの中でも、滑らかな書き味(筆感)とし、強度を保って折れにくくすることを考慮すれば、脂肪酸を含んでなるワックスとするが好ましい。脂肪酸については、脂肪酸のアルキル基の炭素数が1~20のものが挙げられるが、書き味(筆感)、強度を考慮すれば、前記炭素数が5~15が好ましく、より考慮すれば、前記炭素数が8~12が好ましく、前記炭素数が8~10が最も好ましい。また、ワックス自体の安定性を考慮して本発明の効果を得られやすくするには、グリセリドと脂肪酸を含んだワックスとすることが好ましい。
【0021】
また、ワックスの融点については、強度や生産性を考慮すれば、融点30~120℃が好ましく、より考慮すれば、融点40~80℃が好ましく、融点40~60℃が好ましい。12-ヒドロキシステアリン酸(融点75℃)との相溶安定性、強度、滑らかな書き味(筆感)を考慮すれば、融点30~100℃が好ましく、融点40~90℃が好ましく、融点45~85℃が好ましい。
【0022】
さらに、ワックスの中でも、より強度、滑らかな書き味(筆感)、生産性を考慮すれば、異なる融点のワックスを2種類以上用いることが好ましい。さらに、より強度、滑らかな書き味(筆感)とすることを考慮すれば、融点30以上60℃未満のワックス(低融点ワックス)と融点60℃以上120℃以下のワックス(高融点ワックス)を併用することが好ましく、より考慮すれば、融点40以上55℃以下のワックス(低融点ワックス)と融点60℃以上100℃以下のワックス(高融点ワックス)を併用することが好ましく、さらに、融点45以上55℃以下のワックス(低融点ワックス)と融点65℃以上90℃以下のワックス(高融点ワックス)を併用することが好ましい。これらの融点のワックスは、12-ヒドロキシステアリン酸(融点75℃)との相溶安定性にも優れており、好ましい。
さらに、異なる融点のワックス融点については、強度を考慮すれば、ワックス融点の温度差が5℃以上50℃以下であることが好ましく、より強度、相溶安定性を考慮すれば、10℃以上40℃以下であることが好ましく、さらに考慮すれば、10℃以上35℃以下であることが好ましい。
【0023】
ワックスの含有量は、固形描画材全量に対し5~60重量%が好ましい。5重量%未満であると強度的に弱く、折れやすくなり、定着しにくく、60重量%を超えると書き味がべとつきやすいためで、より考慮すれば、固形描画材の全質量に対して10~50質量%の範囲が好ましく、より考慮すれば、10~45質量%の範囲が好ましい。
【0024】
また、異なる融点のワックスを2種類以上用いる場合は、融点30以上60℃未満のワックス(低融点ワックス)の含有量をX、融点60℃以上120℃以下のワックス(高融点ワックス)の含有量をYとした場合の含有比率については、より滑らかな書き味(筆感)とし、より強度を保って折れにくくすることを考慮すれば、0.01≦Y/X≦1の範囲であることが好ましく、0.02≦Y/X≦0.7の範囲であることが好ましく、より考慮すれば、0.03≦Y/X≦0.5の範囲であることが好ましく、0.05≦Y/X≦0.3の範囲であることが好ましく、
【0025】
本発明の固形描画材には、必要に応じて体質材、界面活性剤、消泡剤、樹脂、保湿剤、防腐剤、防黴剤等の、各種添加剤を用いててもよい。これらは単独または2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0026】
固形描画材は、消泡剤を含んでなることが好ましい。これは、本発明のように固形描画材は、製造時に気泡を巻き込こんでしまった場合には、生産性に影響しやすく、気泡が残るとピンホールのようになり、強度が下がることで、折れやすくなるためである。消泡剤としては、シリコーン系、ポリエーテル系、アセチレングリコール系、アクリル系重合物系などが挙げられるが、優れた消泡効果を発揮しやすく、さらに離型効果があり成形しやすくなることを考慮すれば、シリコーン系の消泡剤を含んでなることが好ましい。
【0027】
また、消泡剤の含有量は、消泡効果を考慮して、固形描画材の全質量に対して、0.1~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましく、0.3~2質量%であることがさらに好ましい。消泡剤の含有量が上記数値範囲内であれば、製造時に気泡を巻き込んでしまった場合でも、消泡効果が効果的に働やすく、生産性に有利であり、固形描画材の強度を保ちやすくなり、さらに成形性に有利になりやすい。
【0028】
次に、本発明の製造方法としては上記成分を混合し、加熱溶解してゾル状とし、このゾルを所定の型内に充填、冷却してゲル化させ、型内より取り出して固形描画材とする。次に、本発明の実施例を述べる。
【0029】
(実施例1)
顔料(ピグメントブラック) 6.0質量%
水添ひまし油脂肪酸 40.0質量%
ポリプロピレングリコール(分子量1000) 23.5質量%
ワックス(融点50℃) 30.0質量%
(ワックス成分:グリセリド 27質量%、脂肪酸(炭素数:9) 3質量%))
シリコーン系消泡剤 0.5質量%
上記成分を95℃に加熱混合し、得られたゾル状の液状物を内径8mmの型内に流し込み、冷却・固化させて、黒色の固形描画材とした。得られた固形描画材を棒状部材操出装置の軸筒に収容し、固形筆記体とした。
描画(筆記)試験用紙として筆記用紙JIS P3201の白色紙、長門屋商店製の黒色紙それぞれの色に合わせて用いて、以下の試験および評価を行った。
【0030】
(実施例2~17、比較例1~5)
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表に示した通りに変更した以外は、実施例1と同じ方法で、実施例2~17、比較例1~5の固形描画材および固形筆記体を得た。
【0031】
【0032】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0033】
塗りつぶし試験:2cm×2cm正方形の範囲で、手書きで描画(筆記)して塗りつぶしをして、塗りつぶし状態を評価した。
濃く塗りつぶせたもの ・・・◎
塗りつぶし可能で、実用上問題ないもの ・・・○
塗りつぶしが十分でなく、薄いもの ・・・×
【0034】
擦過性試験(画線汚れ):手書きで描画(筆記)して、1分後にティッシュペーパーで擦って、画線を観察した。
画線の転写汚れがほとんどないもの ・・・◎
画線の転写汚れが見られるが、実用上問題ないレベルの濃さであるもの ・・・○
画線の転写汚れが多いもの ・・・×
【0035】
強度(折れ曲がり)試験:手書きで描画(筆記)して、固形描画材の強度を評価した。
実施例1よりも強度があり、かつ、折れないもの ・・・◎◎
折れないもの ・・・◎
若干崩れがあるが、実用上問題ないもの ・・・○
折れたり、つぶれが発生して、強度が十分ではないもの ・・・×
【0036】
実施例1~17では、書き味、塗りつぶし試験、擦過性試験(画線汚れ)、描画(筆記)試験ともに良好な性能が得られた。実施例1~6において、書き味、塗りつぶし性を比較すると、0.8≦A/B≦1.8の範囲である実施例1、2、5の方が、実施例3、4、6よりも優れていた。
また、実施例1~17で、固形描画材の顔料を、顕微鏡で見たところ、顔料分散性が良好であり、色調も良好であった。
【0037】
黒色の固形描画材である実施例1、実施例10、実施例13、実施例14の曲げ強度を35℃で測定したところ、実施例1:320gf、実施例10(キャンデリラワックス使用):420gf、実施例13(ライスワックス使用):380gf、実施例14(マイクロクリスタリンワックス):370gfとなり、曲げ強度が大きい順番としては、実施例10>実施例13>実施例14>実施例1の結果となった。
そのため、融点30以上60℃未満のワックス(低融点ワックス)と融点60℃以上120℃以下のワックス(高融点ワックス)を併用する方が、強度が強くなる結果となった。高融点ワックスの中でも、キャンデリラワックス、ライスワックス、マイクロクリスタリンワックスの順の曲げ強度となった。
白色の固形描画材である実施例8、実施例15、実施例17の曲げ強度を35℃で測定したところ、実施例8:220gf、実施例15(キャンデリラワックス使用):350gf、実施例17(ライスワックス使用):350gfとなり、融点30以上60℃未満のワックス(低融点ワックス)とキャンデリラワックス、ライスワックスを併用した方が、強度が強くなる結果となった。
【0038】
比較例1、2、5では、0.7>A/Bであったため、固形描画材が脆弱で強度が十分ではなく、擦過性試験で画線汚れが多くなってしまった。
比較例3、4では、A/B>3であったため、書き味が劣るものがあり、比較例4では、塗りつぶし試験において、塗りつぶしが十分ではなく、薄かった。
【0039】
本発明では、固形描画材を軸筒に収容することで、固形描画材を保護して強度を高めることができ、描画(筆記)もしやすくなるため好ましい。さらに、回転操出式、ノック式、スライド式などの出没式操出装置に収容することで、固形描画材の出没する長さを適宜調整できることで、書き心地、書き味を良好に保ち、強度を保つことが可能となるため、好ましく、より考慮すれば、棒状部材操出装置に収容することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、固形筆記体として利用でき、さらに詳細としては、クレヨン、色芯、鉛筆芯、シャープペンシル芯タイプの固形描画材や、それを用いた固形筆記体として広く利用することができる。