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特開2023-50194固体触媒粒子と光触媒粒子からなる一体化物(コンポジット)触媒を用いたアンモニアの合成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050194
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】固体触媒粒子と光触媒粒子からなる一体化物(コンポジット)触媒を用いたアンモニアの合成方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/745 20060101AFI20230403BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230403BHJP
   C01C 1/04 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
B01J23/745 M
B01J35/02 J
C01C1/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】書面
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2022172765
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】505393614
【氏名又は名称】森屋 市郎
(72)【発明者】
【氏名】森屋 市郎
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169CB82
4G169DA05
4G169FB07
4G169FB37
4G169HA01
4G169HB01
4G169HB06
4G169HC01
4G169HE20
4G169HF02
4G169HF03
(57)【要約】
【課題】 大気中の窒素分子と水蒸気から温和な条件でアンモニアを合成する。また、合成反応において二酸化炭素を発生させない。
【解決手段】 固体触媒である四三酸化鉄粒子と光触媒である微粒子二酸化チタンを一体化物(コンポジット)とし、両者の界面を形成させ、マイナス10℃以下の温度に冷却した後、一体化物表面を水の薄膜で覆い、紫外光を含む波長350~2000nmの光線または白熱灯を照射する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
四三酸化鉄粒子と微粒子二酸化チタンを一体化した後、
一体化物表面に水の薄膜を形成し、大気中で、
波長365nmの紫外線と波長400~2000nmの全部または一部を照射波長とする光線
または、波長400~2000nmの全部または一部を照射波長とする光線
を照射し、
大気中の窒素分子をアンモニアに還元することを特徴とするアンモニアの合成方法。
【請求項2】
一体化物が四三酸化鉄粒子と微粒子二酸化チタンを加圧しつつ混合することを特徴とする請求項1に記載のアンモニアの合成方法。
【請求項3】
一体化物の形成後、その表面に水の薄膜を形成させる前に、一体化物をマイナス10℃以下に冷却することを特徴とする請求項1に記載のアンモニアの合成方法
【請求項4】
紫外線および光線の光源が、太陽光である請求項1に記載のアンモニアの合成方法。
【請求項5】
紫外線の光源が、365nmLEDライトである請求項1に記載のアンモニアの合成方法
【請求項6】
光線の光源が、白熱灯である請求項1に記載のアンモニアの合成方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学反応による化合物の生成のために不均一系触媒を利用する分野に関し、固体触媒粒子と微粒子光触媒の一体化物(コンポジット)を利用する分野に関する。
詳しくは、大気中の窒素分子などの非常に安定な分子を還元してアンモニアなどの有用な化合物に変換する技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、固体触媒と光触媒の一体化物(コンポジット)の表面に結露によって凝結した水の薄膜に太陽光のような紫外線を含む光線を照射することによる二酸化炭素の還元方法を提案して来た。
【0003】
その中で、雰囲気の温度、湿度条件により最適膜厚の水の凝結膜が出来た時に生成物である低分子量の有機化合物が有意な収量で生成したことを報告した。
【0004】
さらに、結露という自然現象によって最適膜厚の水の薄膜が生成し、その凝結膜内に反応物が溶解し、溶解した反応物が解離して光触媒反応、または触媒反応によって生成物が得られ、さらに、その生成物が揮発することにより反応が促進されることを発見し、特許出願(特開2017-66122および特開2017-178915)した。
【0005】
さらに、固体触媒粒子と光触媒粒子の界面の重要性を発見(参考文献1)し、界面を触媒反応サイトとして利用することを特徴とする特許を出願(特開2019-72706)し審査請求したが非常に不可解なことに拒絶された。
触媒粒子と光触媒粒子の界面を反応サイトとして利用する本出願人の方法は、当時新規な発想であり現在でも非常に有効な手段であるが、今や公知の技術である。
【0006】
本出願は、大気中の窒素分子のような安定な分子を温和な条件で還元してアンモニアなどの有用な化合物に変換する方法を提案するものである。
【0007】
窒素分子と水素分子からアンモニアを合成する方法としては、20世紀初頭に実用化されたハーバー・ボッシュ法があり、100年以上に渡って他の方法に代替されることなく支配的な地位を保っている。
【0008】
しかし、ハーバー・ボッシュ法においては、反応物として高純度の窒素ガスおよび水素ガスが求められ、反応条件が極めて過酷(350~525℃、100~300気圧)であり、また、反応物である水素分子を生成する際にメタンガスなどの有用な資源を大量に消費し大量の二酸化炭素を排出する。
【0009】
ハーバー・ボッシュ法に替わるアンモニアの合成方法は、近年活発に研究され、次世代型の候補も現れてきた。
【0010】
しかし、現在研究室にて研究中の段階であり、有望ではあるが装置として実用化されるには時間を要する。
【0011】
また電気エネルギーを加える必要があったり、触媒として高価で希少な貴金属(ルテニウム等)を用いる必要があったり、特別な還元剤が必要であったり、反応容器が耐熱性や耐久性を要したりして、合成装置を実現する上で解決すべき課題が残されている。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、ハーバー・ボッシュ法を代替する方法の一つとして提案するものであり、電気エネルギーを加える必要が無く、比較的安価な触媒を用い、特別な還元剤を使用せず、合成装置も現在利用可能な材料と技術で制作可能な方法である。
【0013】
本発明においては、空気中の窒素と水蒸気からアンモニアを合成する際の触媒として四三酸化鉄/二酸化チタン(Fe/TiO)コンポジットを提案するが、Fe/TiOコンポジットは、廃液中の染料などの有機物成分をTiOの光触媒作用で酸化分解し、さらに、コンポジットをFe成分の磁性を利用して回収、再利用するために提案されている(参考文献2)。
【0014】
上記の方法においては、二酸化チタンは光触媒酸化反応のみが利用されている。また、Fe(四三酸化鉄)成分の触媒作用を利用していない。
【0015】
しかし本発明においては、二酸化チタンの光触媒作用として、酸化作用(正孔の生成)による水の分解作用と還元作用(電子の生成)による窒素分子からのアンモニアの生成という二つの重要な作用を用いる。
【0016】
さらに四三酸化鉄(磁性酸化鉄、マグネタイト)は、本発明においてアンモニア合成触媒として使用しているが、ハーバー・ボッシュ法ですでに100年以上に渡って使用されているように、窒素分子からアンモニアを合成するための触媒として十分な実績を持っているが、本発明においても四三酸化鉄の触媒作用を利用している。
【0017】
本発明は、広い意味では各種化学反応に応用可能な新規な化学反応方法であり、気体中で固体触媒と光触媒の一体化物(コンポジット)の表面に生成させた薄い液膜を有効利用して、高効率な化学反応を実現する新規な化学反応の方法であり、一体化物の構成成分である固体触媒や光触媒表面への反応物の吸着現象を利用することに加えて、固体触媒粒子と光触媒粒子の界面を形成し、その界面で触媒作用(触媒が寄与する化学反応)が進み、さらに、光触媒による光触媒効果が加わって触媒反応が促進され、従来にない高効率で反応生成物を得ることを特徴とする新規な化学反応の方法である。
【0018】
本発明者は、固体触媒粒子と光触媒粒子の一体化物(コンポジット)に太陽光を照射して、大気中の二酸化炭素(CO)を低分子量の有用な有機化合物に変換させようと実験を続けて来て、太陽光やブラックライトなどの低エネルギーの紫外光の照射のもとで従来にない高効率の実験結果を得た。そこで、いくつかの特許出願をなした。
【0019】
今回、固体触媒である四三酸化鉄(マグネタイト)粒子と光触媒である微粒子二酸化チタンの一体化物(コンポジット)に太陽光や人工光源を照射して大気中の窒素分子をアンモニアに変換する実験を通して、太陽光や人工光源の照射のもとで有意な収量のアンモニアの生成を確認した。
【0020】
さらに、一体化物(コンポジット)表面への窒素分子の吸着が重要な要素となっていることに気づいた。
【0021】
あわせて、固体触媒粒子である四三酸化鉄粒子と光触媒粒子である微粒子二酸化チタンの界面が触媒反応サイトとなり、光触媒粒子の光触媒効果が触媒反応をさらに促進して、大幅な触媒活性の増大、つまり、反応生成物量の増大を実現させていることを確認して本発明を完成させたものである。
【0022】
界面の重要性は、触媒反応の分野で報告されている(技術文献3,4)が、光触媒反応を含む系においては本発明者による報告(技術文献1)以外には報告されていない。
【0023】
一般に化学反応の活性化エネルギーは触媒によって大幅に小さい状態となって化学反応は進みやすくなる。このために、ほとんどの工業化学反応は触媒なくしては成り立たない。あるいは、生体内では常温常圧のもとで、固体触媒粒子ではないが、酵素の触媒反応によって非常に複雑な化学反応がたえず行われている。これらは、光が関係しない反応である。
【0024】
一方、光触媒は、その物質特有のバンドギャップエネルギーに相当する波長よりも短波長(高エネルギー)の光を受けると、価電子帯の電子が伝導帯へ励起され還元能を有する電子が生成し、価電子帯には高い酸化能を有する正孔が生じる。光照射で生成する電子と正孔は通常は大部分が再結合して熱として失活するが、一部は拡散し表面に達し、酸化反応や還元反応を起こす。代表的な光触媒としては、二酸化チタン、酸化亜鉛等が知られている。特に、二酸化チタンは、太陽光に含まれる紫外光によって、光触媒効果が発現する。
【0025】
従来、触媒と光触媒は、別々の分野で取り扱われてきた。
【0026】
今回、本発明者は触媒反応が基本となる反応の場合に、そこに光触媒効果が加わって化学反応の活性(反応生成物の生成量)が著しく増大することを発見し、本発明を完成させた。
【0027】
また本発明で用いる一体化物の表面を薄い水層で覆う考案は、白金を担持させた光触媒二酸化チタン粉末に紫外線を照射して光触媒反応によって生成した水素分子と酸素分子を取り出す際に水素分子と酸素分子の再結合を防ぐ目的で、佐藤等によって提案されているが(技術文献5~7)、本発明の場合はアンモニアを触媒反応によって液膜内、または、水薄膜下の一体化物表面に生成させるのが目的であるから目的と用途が異なり、また、基質も異なっている。(佐藤らの基質は白金を担持させた二酸化チタンであるが、本発明の場合は、四三酸化鉄と微粒子二酸化チタンとの一体化物(コンポジット)である。)
【0028】
さらに水薄膜の厚みを制御するために佐藤らは、水の薄膜の厚みを調整するために水酸化ナトリウムを用いているが、本発明においては、好ましい温度と湿度の大気を結露させることによって自然に制御できる方法を用いている。
【0029】
さらに、一体化物上の水薄膜は冷却後に冷蔵庫やフリーザーから取り出されたときに、すばやく一体化物表面に一様に形成されるので、冷却中に一体化物表面に吸着した窒素分子が脱離するのを防ぐ効果も持っている。
【0030】
加えて、二酸化チタンは表面の水膜が失われると、還元作用から酸化作用が優勢となって、アンモニアが生成しないか、生成したアンモニアが酸化分解されてしまう。したがって、水の薄膜は光触媒の還元作用を維持してアンモニアの生成を持続させるための必須の要素である。
【0031】
また、本発明においては一体化物表面への窒素分子の吸着現象も有効に利用している。一体化物表面に吸着した窒素分子は界面近傍の四三酸化鉄の触媒作用によってアンモニアに還元される。
【先行技術文献】
【技術文献】
【0032】
【文献1】
Moriya,I.Converting of CO2 into low-weight organic compounds with the TiO2/ZrO2 composites under solar irradiation Scientific Reports volume 7,Article
number:14446(2017).
【文献2】
Beydoum,D.,Amal,R.,Low,G.& McEvoy,S. Occurrence and prevention of photodissolution at the phase junction of magnetite and titanium dioxide.Journal of Molecular Catalysis A:Chemical 180,193-200(2002).
【文献3】
Graeme J.Millar and Colin H. Rochester,Evidence for the adsorption of molecules at special sites located at Copper/Zink oxide interfaces
Part2.-A fourier-transform inrared sectroscopy study of methanol adsorption on reduced and oxidised Cu/ZnO/SiO catalysts. J.Chem.Soc.Faraday Trans.
88(15)2257-2261(1992)
【文献4】
Graeme J.Millar and Colin H.Rochester,A combined temperature-programmed reaction spectroscopy and fourier-transform infrared spectroscopy study of CO-H and CO-CO-H interactions with model ZnO/SiO,Cu/SiO and Cu/ZnO/SiO
Methanol-synthesis catalysts,J.Chrm.Soc.Faraday Trans.88(14)2085-2093(1992)
【文献5】
Sinri,Sato,J.M.White,Photodecomposition of water over Pt/TiOcatalysis.
Chem,Phys.Lett.,72,83,(1980).
【文献6】
Sinri,Sato and J.M.White,Photocatalytic water decomposition and water-gas shift reactions over NaOH-Coated,Platinized TiO
J.catal.,69,128-139,(1981).
【文献7】
佐藤しんり著 光触媒とはなにか 株式会社講談社刊 第1刷 154~159ページ
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
本発明が解決しようとする課題は、空気中または単一成分の窒素ガス中の窒素分子を還元する際に温和な条件下で多量の生成物を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0034】
固体触媒粒子である四三酸化鉄と光触媒粒子である微粒子二酸化チタンを一体化してこれらの粒子の界面を形成し、一体化物をマイナス10℃以下に冷却して表面に窒素分子を吸着させた後、界面を含む一体化物の表面を薄い水の膜で覆い波長350~2000nmの全部または一部を波長領域とする電磁波を照射して、一体化物の温度を50~90℃に上昇させて触媒的反応を活性化し、さらに光触媒効果によって生成した電子の還元力によって触媒活性(生成物の生成量)を増大させる。
【0035】
固体触媒粒子である四三酸化鉄粒子と光触媒粒子である微粒子二酸化チタンの界面は、固体触媒粒子や光触媒粒子の表面と違い、特殊な構造を持っている。その構造の違いが、触媒反応サイトとなり触媒活性に好ましい影響を及ぼすと思われる。
【0036】
さらに光源として紫外光を含む光線を利用する場合は、窒素分子が一体化物表面に吸着し、吸着した窒素分子が四三酸化鉄粒子と微粒子二酸化チタン粒子の界面に移動した際に、二酸化チタン粒子の光触媒効果によって二酸化チタン表面に生成した電子(e-)も界面に移動して、電子の還元力でアンモニアのような還元生成物の生成を促進する。なぜなら、光触媒効果によって生成した電子は紫外光によって生成しているので大きなエネルギーを持っている。従って、その還元促進効果も大きいからである。
【0037】
光源として白熱灯のみの場合も多量のアンモニアが生成するが、触媒的アンモニア合成反応が活性化される50~90℃の温度であっても光線を遮断するとアンモニア生成量は大きく減少するので、光線の照射が有効である。
【0038】
つまり、本発明は、上記の手段を基に、一般化して、以下の内容をその要旨とするものである。
(1)四三酸化鉄と微粒子二酸化チタンを一体化した後、
一体化物表面に水の薄膜を形成し、大気中で、
波長365nmの紫外線と波長400~2000nmの全部または一部を照射波長と する光線
または、波長400~2000nmの全部または一部を照射波長とする光線
を照射し、
大気中の窒素分子をアンモニアに還元することを特徴とするアンモニアの合成方法
(2)一体化物が四三酸化鉄粒子と微粒子二酸化チタン粒子を加圧しつつ混合するこ とを特徴とする請求項1に記載のアンモニアの合成方法。
(3)一体化物の形成後、その表面に水の薄膜を形成させる前に、一体化物をマイナス10℃以下に冷却することを特徴とする請求項1に記載のアンモニアの合成方法
(4)紫外線および光線の光源が、太陽光である請求項1に記載のアンモニアの合成 方法。
(5)紫外線の光源が、365nmLEDライトである請求項1に記載のアンモニアの合成方法
(6)光線の光源が、白熱灯である請求項1に記載のアンモニアの合成方法
【発明の効果】
【0039】
本発明によって、触媒反応によるアンモニアの生成量が大幅に増大する。あるいは、触媒の効率が大幅に増大するので、触媒の使用量を減じることが出来る。
【0040】
従来、高温高圧を必要としていた反応条件が50~90℃の温度と低圧力(常圧)で反応を行うことが可能になる。
【0041】
さらに従来はメタンガスなどから多量の二酸化炭素の生成を伴いながら反応物である高純度の水素ガスを生成させる必要があったが、光触媒作用を利用することで一体化物表面に凝結した水の分解による水素を利用できるので設備を小規模に出来、二酸化炭素の発生も無いので大気中の二酸化炭素の削減につながる。
【0042】
高温高圧仕様の設備が必要ないので小規模低コストで製造設備が構築できる。また小規模生産にも適するので、アンモニアを消費する場所に設備を作りアンモニアを必要量作り消費する形態が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
固体触媒粒子である四三酸化鉄は、試薬でも良いし産業用の製品でも良い。粒径が小さいものが好ましいので、電子コピーのトナー用の微粒子四三酸化鉄も利用できる。
【0044】
光触媒である微粒子二酸化チタンとしては、アナターゼ型微粒子製品を利用できる。粒径は50nm以下が好ましく10nm以下がさらに好ましい。
【0045】
そして、一体化物の調製の際に界面ができるような調製法を用いる必要がある。方法は特に限定しないが、実施例で用いた物理的な方法(固体触媒粒子と微粒子光触媒を単に押し付けながら混合する)が好ましい。工業スケールで実施する場合にはボールミル等が利用できる。
【0046】
一体化物は銅などの導電性金属板上に散布すると生成物の生成量が増大する。(これは、本発明者が特願2009-077467(特開2009-275033)以来提案し続けている有効な方法である。)
【0047】
一体化物を触媒として実際に使用する際には、まず、静電気除去器などで表面の静電気を除去して主に電気的に一体化物表面に付着している微粒子や分子等を取り除くことが重要である。調整後の一体化物をそのまま使用すると反応生成物が全く得られない時がある。(これは、本発明者が特願2015-182264(特開2017-047406)以来提案している有効な方法である。)
【0048】
また一体化物調整後、静電気除去しても初回の実験では収量は小さく、数回の使用後に安定した収量が得られた。一度高い収量が得られれば以降は安定して高い収量が得られた。
【0049】
続けて、一体化物表面に水の薄膜を形成させるために一体化物を冷却する。冷却には冷蔵庫(1~5℃)を用いても良いが、より低温(マイナス10℃以下)に冷却するのが良い。フリーザーなどでマイナス10℃以下に保持すると一体化物表面に多量の窒素分子が吸着する。これは低温ほど粒子の吸着が増大するという一般則による。
【0050】
例えばBET法による固体粒子の表面積測定においては、液体窒素温度(マイナス196℃)に冷却した窒素雰囲気中にサンプルを保持することにより、その表面に窒素分子の最大の単分子層吸着が得られる性質を利用している。
【0051】
低コストで容易に実現できる方法として、フリーザー中(マイナス15~25℃)に一体化物を保持する方法が好ましい。この場合には一体化物の調整後、低温低湿度(1~5℃、約30%)の冷蔵庫内に数日置いてからフリーザーにて冷却した場合に比較的高収量のアンモニアが得られる傾向があった。
【0052】
比較的安価に実現する方法は、ドライアイス(マイナス79℃)で雰囲気温度を下げ、その中に空気または窒素ガスを満たし、その中に一体化物を置く方法でも良い。
【0053】
さらに、液体窒素温度に冷却した雰囲気中に一体化物を置けば窒素分子の吸着速度が上がるし、一体化物表面に最大の窒素分子の吸着が得られる。
【0054】
収量は冷却時間と正相関した。つまり冷却時間に比例して増大した。冷却のために家庭用冷蔵庫に付属のフリーザーを用いた場合には、冷却時間が71~238時間の間は時間とともに増大した。
【0055】
次に、一体化物表面に水の薄膜を形成させることが必要である。
水の薄膜の形成方法は、一定量の水を一体化物に噴霧しても良いし、滴下しても良いが、均一な液膜を触媒の全表面に形成させるには、冷却した一体化物表面に大気中の水蒸気を結露等によって凝結させる方法が好ましい。
【0056】
一体化物表面の水の薄膜は、光触媒反応によってそれ自身が分解して反応物である水素イオンを生成することと、光触媒の還元反応を維持してアンモニア収量を増大させる働きをするので、生成物の量が最大となる液膜の作成条件(主に大気の温度と湿度)を実験によって求める必要がある。
【0057】
一体化物表面の水膜は、市販の温度計を用いた時一体化物近傍の温度が50~60℃に昇温すると短時間(5分程度)で蒸発して消失する。触媒反応は温度が高いほど活性が増大するが、水膜を維持するためには光線の照射時間は長くても5分~10分間であった。また一体化物近傍の温度は紫外光を併用する場合に70℃(一体化物表面温度では90℃)が上限であった。
【0058】
放射温度計で測定した一体化物表面の温度は、市販の温度計で測定した一体化物近傍温度より約20℃高かった。これは一体化物が黒色であり光線を効率よく吸収して発熱するからである。
【0059】
さらに調整して未使用の一体化物の表面積は、43m/gであり、46回実験に使用した一体化物も42m/gで差は無かった。また同じ一体化物を複数回使用して実験してもアンモニア収量は減少しなかった。
つまり本発明の一体化物は繰り返し使用が可能であって、[冷却→光の照射]を繰り返す事によって連続的な操業が可能である。
【0060】
水膜を大気中の水蒸気の凝結によって得る場合には、大気中の水蒸気量が多いほど厚い水膜が得られるので好ましく、高温(28℃以上)高湿度(70~90%)の大気が好ましく30℃以上で75~90%の大気がさらに好ましい。
【0061】
さらに一体化物表面に形成された水の膜は、その前段階で一体化物表面に吸着した窒素分子の脱離を防ぎ、水膜下の一体化物表面(主に界面)での窒素分子の解離吸着を経て還元反応によるアンモニアの収量を増大させる。
一体化物表面の水の膜が存在しないと、触媒表面に吸着した反応物分子は室温への昇温中あるいは光線照射による昇温中に容易に脱離してしまい還元反応生成物の収量が大幅に減少するか、得られない。
【0062】
本発明においては、一体化物表面に365nmの紫外線と波長400~2000nmの光線または、400~2000nmの光線を照射することが必要である。なお、本発明においては、波長365nm付近の電磁波を紫外線、波長400~2000nmの電磁波を光線と呼ぶ。
【0063】
本発明においては、光源としては、350-2000nmの波長領域を有する電磁波が好ましく、太陽光や、365nmLEDライトと白熱灯(タングステンライト)の組み合わせ、または、365nmLEDライトと可視光領域の一般のLEDライトと赤外線領域のライトの組み合わせが好適であるが白熱灯(タングステンライト)のみでも有効である。また400nm以上のLEDライトのみでも有効な場合がある。紫外線光源としてブラックライトを用いても良い。
【0064】
一体化物の触媒作用は、温度に対して正に依存するので、一体化物の温度を上げるために可視~赤外領域の光線の照射が必要であり、また一体化物表面の水膜が十分に厚い場合には、光触媒成分による光触媒効果を利用するために紫外~可視光領域の電磁波の照射が有効である。
【0065】
太陽光は紫外線成分と可視・赤外線成分すべてを有するので波長領域は本発明に適しているが、照度の変化が大きく、昼の時間帯しか有効に利用できない。それに対して人工光源は常時安定した照度を得られるので最適である。
【0066】
近年、LEDライトなどの人工照明体の実用化が急速に進んでいるので、[0063]に挙げた光源以外でも波長350-2000nmの安価な高効率人工光源が実用化されればその利用を積極的に考えるのが有効である。
【0067】
ここで一体化物とは、2種類以上の粒子が圧着し接合した状態の粉体を言う。つまり、2種類以上の固体粒子が機械的な力でこすり合わされて、圧着、接合し一体になったものである。なお、一体化という文言は広辞苑にも記載のある一般語である。
【0068】
従来、複合体あるいは複合化物という名称が一般的に用いられているが、複合とは2種類以上の物質が付着した状態にあるのか、または、不均一に混合された状態にあるのか、または、均一に混合された状態にあるのかが、あるいは化学反応した状態で存在しているのかが不明確である。
本発明の一体化物は、2種類以上の物質が単にこすり合わされた状態、つまり、互いに界面を維持したまま、圧着、接合して一体になったものを言う。
【0069】
次に実施例により、大気中の窒素分子の還元の例を説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。また、実施例中の「%」および「部」は特に別途注記しない限り重量基準である。
【実施例0070】
1.1 一体化物(A)の調製
乳鉢に関東化学株式会社製試薬1級の四三酸化鉄(粉末、純度95%以上)の0.5gと関東化学株式会社より購入のアナターゼ型の結晶構造を有する白色の微粒子二酸化チタン粉末(NO-0058-HP-0025 粒径10-30nm 99.5%)の0.5gを取り均一にかきまぜた後強く擦りながらかき混ぜて一体化物(A1)(四三酸化鉄/二酸化チタン=1/1)を調製した。
【0071】
1.2 大気中の窒素分子の還元実験
内径55mmと62mmのガラス製シャーレを2重にして底部に銅板を敷いたものに1.1で得られた一体化物(A1)0.2g(実験のための使用回数7回目のもの)を銅版上に一様に散布し、(以降、シャーレ内に銅板と一体化物を配置させたものを試験体と呼ぶ。)静電気除去器(春日電機製KD-150W)を用いて試験体にイオン化空気を当てて(一体化物の上方に静電気除去器を置き一体化物と静電気除去器の間隔を約15cmとした。)一体化物表面の電荷を除去した後、試験体を家庭用冷蔵庫に付属のフリーザー中で冷却した。冷却後取り出し(取り出し時のフリーザー内温度はマイナス22.0℃)、ガスバリア袋(大倉工業株式会社製、OE-4)に入れ、藤田電機製の温度計(WATCH LOGGER KT-255U)も入れて入り口を熱シールする。ガスバリア袋に1cm角のウレタンテープを貼り袋内の空気が約1000mlになるように注射器で空気を注入し、紫外光を含む真夏の太陽光下に5分間静置した。実験日は2022年9月6日(天候晴れ)、実験場所は千葉県船橋市 北緯35.70°東経140.02°である。太陽光照射中の365nm紫外線平均照度は1.04mW/cmであった。(紫外線照度はウシオ電機製UNIMETER UIT-201にUVD-365PDセンサーをつけて測定した。)
太陽光照射後、試験体の入ったバリア袋を保冷剤の上に置き袋内の気体温度が35℃に降下した時点で、袋内のアンモニアガス濃度を株式会社ガステック製検知管No.3La(検出範囲:2.5~220ppm)を用いて測定し、光触媒1gで1時間照射あたりのアンモニアガスのμmol数を算出(ガス濃度(ppm)×温度補正係数(0.93)×残存空気容積(ml)/{照射時間(Hr)×光触媒重量(0.2g)×22400})した。注入した空気(室内空気と同じ)の温湿度と実験条件および実験結果は表1の通りであった。
なお、ブラックライト照射後にバリア袋内に残った気体はガス検知管の測定で吸引した吸引量を含め1000mlであった。
【実施例0072】
2. 大気中の窒素分子の還元実験
実施例1で調整した一体化物(A1)の0.2g(実験のための使用回数9回目のもので,実施例1で使用したサンプルとは別のもの)を用い、光源を365nmLEDライトと300W白熱灯の両方を用いて、実施例1の大気中の窒素分子の還元実験と同様に実験した。
試験体をフリーザー内に保存冷却後取り出し(取り出し時のフリーザー内温度は、マイナス21.2℃)、365nmLEDライトの直下約30cmに置き、試験体内の一体化物付近の365nm紫外線照度が1.5mW/cmの照度になるようにLEDの光量を調節し、また試験体が300W白熱灯の斜め下約30cmになるようにして白熱灯の光を照射した。
365nmLEDライトと白熱灯を同時に5分間照射後、袋内の気体温度が35℃に降下した時点で、袋内のアンモニアガス濃度を株式会社ガステック製検知管No.3La(検出範囲:2.5~220ppm)を用いて測定し、光触媒1gで1時間照射あたりのアンモニアガスのμmol数を算出した。実験条件および実験結果は表1の通りであった。
なお、ブラックライト照射後にバリア袋内に残った気体はガス検知管の測定で吸引した吸引量を含め1000mlであった。
【実施例0073】
3. 大気中の窒素分子の還元実験
実施例1で調整した一体化物(A1)の0.2g(実験のための使用回数8回目のもので、実施例1で使用したサンプルと同じもの)を用い、光源を365nmLEDライトと300W白熱灯の両方を用いて、実施例2の大気中の窒素分子の還元実験と同様に実験した。
試験体をフリーザー内に保存冷却後取り出し(取り出し時のフリーザー内温度は、マイナス23.1℃)、365nmLEDライトの直下約30cmに置き、試験体内の一体化物付近の365nm紫外線照度が1.5mW/cmの照度になるようにLEDの光量を調節し、また試験体が300W白熱灯の斜め下約30cmになるようにして白熱灯の光を照射した。
365nmLEDライトと白熱灯を同時に5分間照射後、袋内の気体温度が35℃に降下した時点で、袋内のアンモニアガス濃度を株式会社ガステック製検知管No.3La(検出範囲:2.5~220ppm)を用いて測定し、光触媒1gで1時間照射あたりのアンモニアガスのμmol数を算出した。実験条件および実験結果は表1の通りであった。
なお、ブラックライト照射後にバリア袋内に残った気体はガス検知管の測定で吸引した吸引量を含め1000mlであった。
【実施例0074】
3. 大気中の窒素分子の還元実験
実施例1と同様に調整した一体化物(A2)の0.2g(実験のための使用回数9回目のもの)を用い、光源を300W白色灯のみで、実施例1の大気中の窒素分子の還元実験と同様に実験した。
試験体をフリーザー内に保存冷却後取り出し(取り出し時のフリーザー内温度はマイナス25.0℃)、試験体が300W白熱灯の斜め下約30cmになるようにして白熱灯の光を5分間照射した。
白熱灯照射後、袋内の気体温度が35℃に降下した時点で、袋内のアンモニアガス濃度を株式会社ガステック製検知管No.3La(検出範囲:2.5~220ppm)を用いて測定し、光触媒1gで1時間照射あたりのアンモニアガスのμmol数を算出した。実験条件および実験結果は表1の通りであった。
なお、ブラックライト照射後にバリア袋内に残った気体はガス検知管の測定で吸引した吸引量を含め1000mlであった。
【実施例0075】
3. 大気中の窒素分子の還元実験
実施例1で調整した一体化物(A1)の0.2g(実験のための使用回数6回目のもので、実施例1~4で使用したサンプルとは別のもの)を用い、光源を300W白熱灯のみで、実施例4の大気中の窒素分子の還元実験と同様に実験した。
試験体をフリーザー内に保存冷却後取り出し(取り出し時のフリーザー内温度はマイナス22.9℃)、試験体が300W白熱灯の斜め下約30cmになるようにして白熱灯の光を5分間照射した。
白熱灯照射後、袋内の気体温度が35℃に降下した時点で、袋内のアンモニアガス濃度を株式会社ガステック製検知管No.3La(検出範囲:2.5~220ppm)を用いて測定し、光触媒1gで1時間照射あたりのアンモニアガスのμmol数を算出した。実験条件および実験結果は表1の通りであった。
なお、ブラックライト照射後にバリア袋内に残った気体はガス検知管の測定で吸引した吸引量を含め1000mlであった。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例1~5により、本発明の一体化物は太陽光、365nmLEDライトと白熱灯、および白熱灯の短時間の照射で、多量のアンモニアを生成した。
【0078】
実施例5(300W白熱灯のみ照射)で最大のアンモニア収量が得られたが、これはフリーザー内に10日間保存した場合であった。
実施例2,3(365nmLEDライトと300W白熱灯の同時照射)でも多量のアンモニア収量が得られたが、照射時間が5分以上の実験では収量が低下した。
5分間照射でも室内温度が低いと収量は低くなり、バラツキが大きかった。室内大気の温度と湿度が小さいと、水の膜厚が薄く光線の照射による昇温で水の膜が蒸発消失して光触媒作用が還元作用から酸化作用に変化してしまい、生成していたアンモニアを分解してしまったと思われる。室内温湿度の最適条件(温度30℃以上、湿度75~90%)は、2022年夏の実験では得られず、最適条件よりもやや低い温湿度では、300W白熱灯のみの照射の方が安定して高い収量が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
大気中の窒素分子を温和な条件でアンモニアに変換でき、従来法におけるメタンガスからの高純度水素ガス精製プラントも省略できるので、製造設備の大幅コストダウンが可能になる。小規模生産にも適するので、アンモニアの消費地近傍での生産にも適している。さらにアンモニア合成以外に、安定な分子を還元したい場合にも応用が可能である。