(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050205
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物及び熱伝導性部材
(51)【国際特許分類】
H01M 10/653 20140101AFI20230403BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20230403BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20230403BHJP
【FI】
H01M10/653
H01M10/613
H01M10/647
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015352
(22)【出願日】2023-02-03
(62)【分割の表示】P 2022574662の分割
【原出願日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2021160135
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】北田 学
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031AA09
5H031EE02
5H031EE04
5H031HH03
5H031HH06
(57)【要約】
【課題】低粘度であることにより作業性が良好であり、耐熱性に優れ、低分子シロキサンが発生し難い熱伝導性組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】オルガノポリシロキサンと、熱伝導性充填材と、炭素数が12~28の範囲であるエステル化合物とを含む熱伝導性組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサン、熱伝導性充填材、及び炭素数12~28のエステル化合物を含み、25℃で液状である熱伝導性組成物。
【請求項2】
前記エステル化合物が、25℃で液状のモノエステルである請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
前記エステル化合物が、下記式(1)で表される化合物である請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
【化1】
(式(1)において、R
1及びR
2はアルキル基であり、R
1及びR
2の少なくともいずれかは炭素数10以上のアルキル基である。)
【請求項4】
前記オルガノポリシロキサンが反応性基を有するオルガノポリシロキサンである、請求項1~3のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
前記反応性基を有するオルガノポリシロキサンが、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサンとを含む付加反応硬化型シリコーンである、請求項4に記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
粘度が1~500Pa・sである請求項1~5のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
シリコーンマトリクス、熱伝導性充填材、及び炭素数12~28のエステル化合物を含む熱伝導性部材。
【請求項8】
請求項7に記載の熱伝導性部材からなる間隙材と、複数のバッテリセルと、前記複数のバッテリセルを格納するモジュール筐体とを備え、前記間隙材がモジュール筐体の内部に配置されるバッテリモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性組成物及び熱伝導性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性組成物を、発熱体と放熱体の間に充填し、その後、硬化することで形成される硬化物は、発熱体が発する熱を放熱体に伝える熱伝導性部材として使用されている。熱伝導性組成物は、流動性があるため、発熱体と放熱体の間の任意の隙間を埋めることができる。そのため、形成される熱伝導性部材は、発熱体と放熱体の隙間が一定でなくても確実にその隙間を埋めることができ、熱伝導性の間隙材として利用されている。
例えば、特許文献1に開示されるように、熱伝導性部材を間隙材としてバッテリモジュールに使用されることが知られている。熱伝導性部材は、発熱体であるバッテリセルと放熱体であるモジュール筐体の間に配置されて、バッテリセルの熱を外部に放熱する役割を果たす。また、バッテリセルとバッテリセルの間に配置されこれらを固定して、離間状態を保持することにも利用されている。
【0003】
熱伝導性部材を形成するための熱伝導性組成物としては、オルガノポリシロキサンと熱伝導性充填材を含むものが多く用いられている。一般に、放熱性を高めるためには、熱伝導性充填材の含有量を多くする必要があるが、熱伝導性充填材の含有量を多くしてしまうと、熱伝導性組成物の粘度が高くなるため、取り扱い性が悪化する。そのため、熱伝導性組成物の粘度を低減する検討が種々なされている。
熱伝導性組成物を低粘度化するためには、低粘度のオルガノポリシロキサンや、ジメチルシリコーンオイルなどの可塑剤を使用する方法、粘度低減効果のある分散剤を配合する方法、熱伝導性充填材の表面処理や熱伝導性充填材の形状や粒径の組合せなどを工夫する方法などが挙げられる。
例えば、特許文献2には、オルガノポリシロキサンからなるマトリクスと、熱伝導性充填材と、アルコキシシラン化合物及びアルコキシシロキサン化合物から選ばれるケイ素化合物とを含有する熱伝導性シートに関する発明が記載され、このようなケイ素化合物を分散剤として使用することで、熱伝導性組成物の粘度が低減されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/173860号
【特許文献2】国際公開第2019/004150号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、低粘度のジメチルシリコーンオイルなどの可塑剤を多く使用する場合は、加熱により低分子シロキサンが発生しやすくなるため、電気的な不具合が生じることが懸念される。また、アルコキシシラン化合物などの分散剤を多く使用する場合は、揮発しやすいため、耐熱性を十分に保てない場合もある。
そこで本発明の課題は、オルガノポリシロキサンと熱伝導性充填材を含む熱伝導性組成物において、低粘度であることにより作業性が良好であり、耐熱性に優れ、低分子シロキサンが発生し難い熱伝導性組成物、およびその硬化物である熱伝導性部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、オルガノポリシロキサン、熱伝導性充填材、及び炭素数が12~28のエステル化合物を含む25℃で液状の熱伝導性組成物により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]を提供する。
【0007】
[1]オルガノポリシロキサン、熱伝導性充填材、及び炭素数12~28のエステル化合物を含み、25℃で液状である熱伝導性組成物。
[2]前記エステル化合物が、25℃で液状のモノエステルである上記[1]に記載の熱伝導性組成物。
[3]前記エステル化合物が、下記式(1)で表される化合物である上記[1]又は[2]に記載の熱伝導性組成物。
【化1】
(式(1)において、R
1及びR
2はアルキル基であり、R
1及びR
2の少なくともいずれかは炭素数10以上のアルキル基である。)
[4]前記オルガノポリシロキサンが反応性基を有するオルガノポリシロキサンである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
[5]前記反応性基を有するオルガノポリシロキサンが、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサンとを含む付加反応硬化型シリコーンである、上記[4]に記載の熱伝導性組成物。
[6]粘度が1~500Pa・sである上記[1]~[5]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
[7]シリコーンマトリクス、熱伝導性充填材、及び炭素数12~28のエステル化合物を含む熱伝導性部材。
[8]上記[7]に記載の熱伝導性部材からなる間隙材と、複数のバッテリセルと、前記複数のバッテリセルを格納するモジュール筐体とを備え、前記間隙材がモジュール筐体の内部に配置されるバッテリモジュール。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低粘度であることにより作業性が良好であり、耐熱性に優れ、低分子シロキサンが発生し難い熱伝導性組成物およびその硬化物である熱伝導性部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】バッテリモジュールの代表的構成を示す斜視図である。
【
図2】バッテリモジュールが有するバッテリセルの代表的構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[熱伝導性組成物]
以下、本発明の熱伝導性組成物について詳しく説明する。
本発明の熱伝導性組成物は、オルガノポリシロキサン、熱伝導性充填材、及び炭素数12~28の範囲であるエステル化合物を含み、25℃で液状の組成物である。
なお、25℃で液状とは、25℃で流動性を有することを意味し、ペースト状のものも含まれる。
【0011】
<エステル化合物>
本発明の熱伝導性組成物は、炭素数12~28のエステル化合物を含む。該エステル化合物を含むことにより、熱伝導性組成物の粘度が低下し、塗布性などの取り扱い性が良好になる。熱伝導性組成物の粘度が低下する理由は定かではないが、炭素数12~28のエステル化合物は、オルガノポリシロキサンとの相溶性に優れ、その結果、粘度が低下すると考えられる。また、配合されるエステル化合物は、一定の炭素数を備えており、熱伝導性組成物の耐熱性を低下させることがないため、熱伝導性組成物の耐熱性を良好にすることができる。
さらに、ジメチルシリコーンオイルなどの可塑剤を多く使用して粘度を低下させる方法とは異なり、本発明におけるエステル化合物を用いても低分子シロキサンの発生量を増加させることはない。
なお、本明細書において、「~」で示す範囲は、「~」の前後に記載されている所定の数値以上から所定の数値以下までの範囲であることを意味する。
【0012】
本発明におけるエステル化合物の炭素数は12~28である。エステル化合物の炭素数が12未満であると、熱伝導性組成物の耐熱性が低下し易くなる。またエステル化合物の炭素数が28超であると、オルガノポリシロキサンとの相溶性が低下し、熱伝導性組成物の粘度が低下し難くなる。熱伝導性組成物の耐熱性向上の観点、及びオルガノポリシロキサンとの相溶性を高めて熱伝導性組成物の粘度を低下させる観点から、エステル化合物の炭素数は、好ましくは13以上であり、より好ましくは17以上であり、そして好ましくは26以下であり、より好ましくは24以下であり、さらに好ましくは22以下である。また、エステル化合物の炭素数は、好ましくは13~26であり、より好ましくは17~24であり、さらに好ましくは13~22である。
【0013】
また、熱伝導性組成物の耐熱性向上の観点、及びオルガノポリシロキサンとの相溶性を高めて熱伝導性組成物の粘度を低下させる観点から、エステル化合物の分子量は、好ましくは200以上、より好ましくは210以上、さらに好ましくは270以上であり、そして好ましくは430以下であり、より好ましくは400以下であり、さらに好ましくは370以下であり、よりさらに好ましくは340以下である。また、エステル化合物の分子量は、好ましくは200~430であり、より好ましくは210~400であり、さらに好ましくは270~370であり、よりさらに好ましくは270~340である。
【0014】
上記エステル化合物は、エステル基を有する化合物であり、エステル基を1つ有するモノエステルであってもよいし、ジエステルなどエステル基を2以上有するものであってもよいが、熱伝導性組成物の粘度を低下させる観点、及び耐熱性向上の観点から、モノエステルであることが好ましく、25℃で液状のモノエステルであることがより好ましい。
中でも、熱伝導性組成物の粘度を低下させる観点、及び耐熱性向上の観点から、エステル化合物は下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】
(式(1)において、R
1及びR
2はアルキル基であり、R
1及びR
2の少なくともいずれかは炭素数10以上のアルキル基である。)
【0015】
式(1)において、R1及びR2はアルキル基であり、R1及びR2の少なくともいずれかは炭素数10以上のアルキル基である。本発明のエステル化合物は炭素数が12~28であるため、式(1)におけるR1及びR2の合計の炭素数は11~27となる。
式(1)においてR1及びR2は、それぞれアルキル基であり、直鎖状のアルキル基であってよいし、分岐状のアルキル基であってもよい。
R1及びR2の少なくともいずれかは炭素数10以上のアルキル基であり、R1及びR2のいずれか一方のみが炭素数10以上のアルキル基であることが好ましい。これにより、エステル基の極性の影響が小さくなり、オルガノポリシロキサンと相溶しやすくなる。なお、R1及びR2のいずれか一方のみが炭素数10以上のアルキル基であるとき、いずれか他方の炭素数は9以下であることが好ましい。
また、エステル化合物のオルガノポリシロキサンとの相溶性向上の観点から、R1及びR2はいずれも炭素数18以下のアルキル基であることが好ましい。また、R1及びR2の少なくともいずれかは炭素数10~18のアルキル基であることが好ましい。また、R1及びR2の少なくともいずれか一方のみが炭素数10~18のアルキル基であることが好ましく、いずれか他方は炭素数1~9であることが好ましい。
【0016】
R1は、好ましくは炭素数10以上のアルキル基であり、より好ましくは炭素数11以上のアルキル基であり、そして好ましくは炭素数15以下のアルキル基である。また、R1は、好ましくは炭素数10~15のアルキル基であり、より好ましくは炭素数11~15のアルキル基である。
R2は、好ましくは炭素数2以上のアルキル基であり、より好ましくは炭素数3以上のアルキル基であり、そして好ましくは炭素数16以下のアルキル基であり、より好ましくは炭素数12以下のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数8以下のアルキル基である。また、R2は、好ましくは炭素数2~16のアルキル基であり、より好ましくは炭素数3~12のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数3~8のアルキル基である。
R1及びR2がこのような炭素数のアルキル基であると、熱伝導性組成物の粘度を低下させつつ、耐熱性を向上させやすくなる。
【0017】
本発明におけるエステル化合物は、上記説明した化合物を特に制限なく使用できるが、具体的に例示すると、例えば、2-エチルヘキサン酸ミリスチル、2-エチルヘキサン酸セチル、2-エチルヘキサン酸ステアリル、デカン酸オクチル、デカン酸デシル、デカン酸ラウリル、デカン酸ミリスチル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸プロピル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ブチル、ラウリン酸イソブチル、ラウリン酸ペンチル、ラウリン酸ヘキシル、ラウリン酸ヘプチル、ラウリン酸オクチル、ラウリン酸1-メチルヘプチル、ラウリン酸2-エチルヘキシル、ラウリン酸ノニル、ラウリン酸デシル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸プロピル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ブチル、ミリスチン酸イソブチル、ミリスチン酸ペンチル、ミリスチン酸ヘキシル、ミリスチン酸ヘプチル、ミリスチン酸オクチル、ミリスチン酸1-メチルヘプチル、ミリスチン酸2-エチルヘキシル、ミリスチン酸ノニル、ミリスチン酸デシル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸プロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ブチル、パルミチン酸イソブチル、パルミチン酸ペンチル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸ヘプチル、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸1-メチルヘプチル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、パルミチン酸ノニル、パルミチン酸デシル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸プロピル、ステアリン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸イソブチル、ステアリン酸ペンチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸ヘプチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸1-メチルヘプチル、ステアリン酸2-エチルヘキシル、ステアリン酸ノニル、ステアリン酸デシル、イソステアリン酸メチル、イソステアリン酸エチル、イソステアリン酸プロピル、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸ブチル、イソステアリン酸イソブチル、イソステアリン酸ペンチル、イソステアリン酸ヘキシル、イソステアリン酸ヘプチル、イソステアリン酸オクチル、イソステアリン酸1-メチルヘプチル、イソステアリン酸2-エチルヘキシル、イソステアリン酸ノニル、イソステアリン酸デシルなどが挙げられる。
これらの中でも、エステル化合物としては、ラウリン酸オクチル、ラウリン酸1-メチルヘプチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸1-メチルヘプチル、パルミチン酸イソプロピルなどが好ましい。
【0018】
本発明の熱伝導性組成物におけるエステル化合物の含有量は、特に限定されないが、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、好ましくは5~80質量部、より好ましくは10~60質量部、さらに好ましくは20~40質量部である。エステル化合物の含有量がこれら下限値以上であると、熱伝導性組成物の粘度が低下しやすくなる。エステル化合物の含有量がこれら上限値以下であると、熱伝導性組成物の耐熱性が高まり、かつ硬化が阻害され難く、所望の物性の硬化物を得やすくなる。
【0019】
<オルガノポリシロキサン>
本発明の熱伝導性組成物に含まれるオルガノポリシロキサンは、熱伝導性充填材を分散する25℃で液状の基材である。また、オルガノポリシロキサンは、例えば、反応性基を有するオルガノポリシロキサンであってもよいし、反応性基を有しないオルガノポリシロキサンであってもよいが、反応性基を有するオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0020】
反応性基を有するオルガノポリシロキサンは、架橋構造の形成が可能な反応性基を有するオルガノポリシロキサンであり、例えば、付加反応硬化型シリコーン、ラジカル反応硬化型シリコーン、縮合反応硬化型シリコーン、紫外線又は電子線硬化型シリコーン、及び湿気硬化型シリコーンなどが挙げられる。これらの中でも、反応性基を有するオルガノポリシロキサンは、付加反応硬化型シリコーンが好ましい。
【0021】
付加反応硬化型シリコーンとしては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)とを含むものがより好ましい。
上記アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、1分子中にアルケニル基を少なくとも2つ有するオルガノポリシロキサンであることが好ましい。アルケニル基としては、特に限定されないが、例えば炭素数2~8のものが挙げられ、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基などが挙げられる。アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記ハイドロジェンオルガノポリシロキサンは、1分子中にヒドロシリル基を少なくとも2つ有するハイドロジェンオルガノポリシロキサンであることが好ましい。ヒドロシリル基とはケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を意味する。ハイドロジェンオルガノポリシロキサンは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
付加反応硬化型シリコーンは、付加反応により反応し硬化して、シリコーンゴムからなるシリコーンマトリクスを形成する。シリコーンゴムは圧縮変形が容易であるため、本発明の熱伝導性組成物から形成される硬化物は、発熱体と放熱体の間に組み付けやすくなる。
【0022】
本発明におけるオルガノポリシロキサンは、25℃における粘度は50~2000csであることが好ましく、100~1000csであることが好ましい。オルガノポリシロキサンの粘度がこれら下限値以上であると、低分子シロキサンの発生を抑制しやすくなる。オルガノポリシロキサンの粘度がこれら上限値以下であると、熱伝導性組成物を塗布する際などの作業性が向上しやすくなる。
なお、オルガノポリシロキサンの粘度は、アントンパール社製のレオメーターMCR-302eを用いて、サンプルの温度をペルチェプレートにて25℃に調整し、φ50mmで1°角度のコーンプレートを用い、せん断速度10(1/sec)の条件で測定される。
【0023】
<熱伝導性充填材>
本発明の熱伝導性組成物は、熱伝導性充填材を含有する。熱伝導性充填材を含有することにより、熱伝導性組成物及び該熱伝導性組成物から得られる熱伝導性部材の熱伝導性が向上する。
熱伝導性充填材としては、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。また、熱伝導性充填材の形状は、球状、不定形の粉末などが挙げられる。
熱伝導性充填材において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、アルミナに代表される酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛など、金属窒化物としては窒化アルミニウムなどを例示することができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛、ダイヤモンドなどが挙げられる。金属以外の酸化物、窒化物、炭化物としては、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。これらの中でも、熱伝導性充填材としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムが好ましく、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムを併用することが好ましい。
【0024】
熱伝導性充填材の平均粒径の平均粒径は0.1~200μmであることが好ましく、0.3~100μmであることがより好ましく、0.5~70μmであることがさらに好ましい。
熱伝導性充填材は、平均粒径が0.1μm以上5μm以下の小粒径熱伝導性充填材と、平均粒径が5μm超200μm以下の大粒径熱伝導性充填材を併用することが好ましい。平均粒径の異なる熱伝導性充填材を使用することにより、充填率を高めることができる。
なお、熱伝導性充填材の平均粒径は、電子顕微鏡等で観察して測定できる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の熱伝導性充填材50個の粒径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。
【0025】
熱伝導性充填材の含有量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、好ましくは150~3000質量部、より好ましくは300~2000質量部、さらに好ましくは600~1200質量部である。
熱伝導性充填材の含有量を上記下限値以上とすることで、一定の熱伝導性を熱伝導性組成物および熱伝導性部材に付与できる。熱伝導性充填材の含有量を上記上限値以下とすることで、熱伝導性充填材を適切に分散できる。また、熱伝導性組成物の粘度が必要以上に高くなったりすることも防止できる。
【0026】
<ケイ素化合物>
本発明の熱伝導性組成物は、アルコキシシラン化合物及びアルコキシシロキサン化合物からなる群から選択される少なくとも一種のケイ素化合物を含んでもよい。このようなケイ素化合物を含有することで、熱伝導性組成物の粘度が低下しやすくなる。
【0027】
アルコキシシラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ジ-n-プロピルジメトキシシラン、ジ-n-プロピルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、メチルシクロヘキシルジメトキシシラン、メチルシクロヘキシルジエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、n-デシルトリエトキシシランなどが挙げられる。これらの中でも、熱伝導性組成物の粘度低減の観点から、n-デシルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシランが好ましく、n-デシルトリメトキシシランがより好ましい。
【0028】
アルコキシシロキサン化合物としては、例えば、メチルメトキシシロキサンオリゴマー、メチルフェニルメトキシシロキサンオリゴマー、メチルエポキシメトキシシロキサンオリゴマー、メチルメルカプトメトキシシロキサンオリゴマー、及びメチルアクリロイルメトキシシロキサンオリゴマーなどが挙げられる。
【0029】
ケイ素化合物は、一種類又は二種類以上を使用することができる。
熱伝導性組成物にケイ素化合物を使用する場合、ケイ素化合物の含有量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、そして好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。また、ケイ素化合物の含有量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部であり、より好ましくは0.5~5質量部であり、さらに好ましくは0.5~2質量部である。ケイ素化合物の含有量はこれら下限値以上であると、熱伝導性組成物の粘度が低下しやすくなる。一方、ケイ素化合物の含有量がこれら上限値以下であると、熱伝導性組成物の耐熱性の低下を抑制できる。
なお、本発明の熱伝導性組成物は、上記したように特定のエステル化合物を配合することにより、粘度を低下させることができるため、ケイ素化合物を使用する場合は、耐熱性を良好にする観点から、その含有量を少量にすることが好ましい。
【0030】
<シリコーンオイル>
本発明の熱伝導性組成物は、粘度を低下させる観点からシリコーンオイルを含有してもよい。シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイルが挙げられる。
なお、低粘度のシリコーンオイルは多量に配合すると低分子シロキサンが発生しやすくなるため、シリコーンオイルの配合量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2質量部以下、さらに好ましくは0質量部である。ここで、低粘度のシリコーンオイルとは、例えば25℃における粘度が50cs以下のシリコーンオイル、25℃における粘度が30cs以下のシリコーンオイル、又は25℃における粘度が20cs以下のシリコーンオイルである。
特に、25℃における粘度が20cs以下のシリコーンオイルは、含有しないことが好ましい。これにより、低分子シロキサンの発生を抑制しやすくなる。なお、シリコーンオイルの粘度は、アントンパール社製のレオメーターMCR-302eを用いて、サンプルの温度をペルチェプレートにて25℃に調整し、φ50mmで1°角度のコーンプレートを用い、せん断速度10(1/sec)の条件で測定される。
【0031】
本発明の熱伝導性組成物中には、種々の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、触媒、難燃剤、酸化防止剤、着色剤などが挙げられる。
【0032】
<粘度>
熱伝導性組成物の粘度は、例えば1000Pa・s以下とすることができる。また好ましくは1~500Pa・sであり、より好ましくは10~200Pa・sであり、特に好ましくは50~150Pa・sである。本発明の熱伝導性組成物は、特定のエステル化合物を配合しているため、熱伝導性組成物の粘度を上記した範囲に調整しやすく、これにより塗布性などの作業性が向上する。
なお、熱伝導性組成物の粘度は、回転粘度計により、回転数10rpm、25℃の条件で測定される。
【0033】
本発明の熱伝導性組成物の形態は、1液型でもよいし、第1剤と第2剤を組み合わせてなる2液型でもよいが、保存安定性の観点から、2液型が好ましい。
2液型の熱伝導性組成物において、第1剤と第2剤の質量比(第2剤/第1剤)は、1又は1に近い値であることが好ましく、具体的には0.9~1.1が好ましく、0.95~1.05がより好ましい。このように、第1剤と第2剤の質量比を1又は1に近い値とすることで、熱伝導性組成物の調製が容易になる。また、2液型の熱伝導性組成物において、第1剤と第2剤の粘度比(第2剤/第1剤)も、1又は1に近い値であることが好ましく、具体的には0.5~2.0が好ましく、0.8~1.2がより好ましい。このように、第1剤と第2剤の粘度比を1又は1に近い値とすることで、熱伝導性組成物を均一に混合しやすくなる。なお、質量比や粘度比を調整する方法は後述する。
【0034】
上記したアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)とを含む付加反応硬化型シリコーンを用いる場合は、2液型の熱伝導性組成物は、より具体的には、第1剤がアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)を含み、第2剤がハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)を含むものである。
付加反応触媒は第1剤に含有され、第2剤には含有されないことが好ましい。そうすることで、第1剤と第2剤とは混合前は保存安定性に優れ、混合後には反応が促進され、速やかに硬化するものとすることができ、硬化により得られる熱伝導性部材の各種物性を良好にできる。その要因は定かではないが、白金触媒などの付加反応触媒が、主剤の付加反応部位である、アルケニル基に配位した状態となり、硬化が進行しやすいためと推定される。
【0035】
熱伝導性充填材は、第1剤及び第2剤の少なくともいずれか一方に含有されるとよいが、好ましくは第1剤及び第2剤の両方に含有させる。熱伝導性充填材を第1剤及び第2剤の両方に含有させると、第1剤と第2剤を混合しやすくなる。また、熱伝導性組成物を作製する際の第1剤に対する第2剤の質量比および粘度比を1又は1に近い値にできるため、2液型として使用しやすくなる。
また、第2剤は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含有することが好ましい。第2剤が硬化剤であるハイドロジェンオルガノポリシロキサンに加えて主剤であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンも含有することで、熱伝導性組成物を作製する際の第1剤に対する第2剤の質量比および粘度比を1又は1に近い値に調整しやすくなる。一方で、第1剤には、硬化剤であるハイドロジェンオルガノポリシロキサンが含有されないとよい。
【0036】
[熱伝導性部材]
本発明は、シリコーンマトリクス、熱伝導性充填材、及び炭素数12~28のエステル化合物を含む熱伝導性部材も提供することができる。該熱伝導性部材に含まれる熱伝導性充填材及び炭素数12~28のエステル化合物は上記した通りであり、シリコーンマトリクスは、上記したオルガノポリシロキサンから形成されるものである。
該熱伝導性部材は、固形であり、上記した熱伝導性組成物により得られるものであり、オルガノポリシロキサンとして反応性基を有するオルガノポリシロキサンを用いた場合は、熱伝導性組成物を硬化することで得られる。本発明の熱伝導性組成物は、粘度が低くいため熱伝導性部材を得る際の作業性に優れる。また、狭い隙間にも充填しやすく、ギャップフィル性に優れる。さらに、本発明の熱伝導性組成物から得られる熱伝導性部材は、耐熱性に優れ、低分子シロキサンの発生が抑制されたものとなる。
【0037】
熱伝導性部材の熱伝導率は、1.0W/m・K以上であることが好ましく、1.5W/m・K以上であることがより好ましく、2.0W/m・K以上であることがさらに好ましい。これら下限値以上とすることで、熱伝導性が良好となる。そのため、例えばバッテリセルモジュールの間隙材として使用する場合には、バッテリセルから発生する熱を、間隙材を経由して、モジュール筐体に効率的に伝えることができ、バッテリセルの温度の過度の上昇を抑えることができる。熱伝導性部材の熱伝導率は、高ければ高いほどよいが、実用的には、例えば15W/m・K以下である。なお熱伝導率はASTM D5470に準拠して測定される。
【0038】
[バッテリモジュール]
本発明の熱伝導性部材の用途は特に限定されないが、以下のようにバッテリモジュールにおける間隙材として使用することができる。
本発明に係るバッテリモジュールは、熱伝導性部材からなる間隙材と、複数のバッテリセルと、前記複数のバッテリセルを格納するモジュール筐体とを備え、前記間隙材は、モジュール筐体の内部に配置される。
熱伝導性部材からなる間隙材は、バッテリセル相互間、及びバッテリセルとモジュール筐体間に充填されており、充填されている間隙材は、バッテリセル、及びモジュール筐体に密着する。これにより、バッテリセル間の間隙材は、バッテリセル相互間の離間状態を保持する機能を有している。また、バッテリセルとモジュール筐体との間の間隙材は、バッテリセルとモジュール筐体の双方に密着し、バッテリセルで発生する熱をモジュール筐体に伝える機能を有している。
【0039】
図1は、バッテリモジュールの具体的な構成を示す。
図2は各バッテリセルの具体的な構成を示す。
図1で示すように、バッテリモジュール10の内部には、複数のバッテリセル11が配置される。各バッテリセル11は、可撓性の外装フィルム内にラミネートして封入したものであり、全体的な形状は、高さや幅の大きさに比べて厚さが薄い偏平体である。こうしたバッテリセル11は、
図2で示すように、正極11aと負極11bが外部に表れ、偏平面の中央部11cは圧着された端部11dよりも肉厚に形成されている。
【0040】
図1に示すように、各バッテリセル11は、その偏平面同士が対向するように配置されている。
図1の構成において、間隙材13は、モジュール筐体12の内部に格納される、複数のバッテリセル11の全体を覆うようには充填されていない。間隙材13は、モジュール筐体12の内部の一部分(底側部分)に存在する間隙を満たすように充填されている。間隙材13は、バッテリセル11相互間、および、バッテリセル11とモジュール筐体12の間に充填され、この部分のバッテリセル11の表面、および、モジュール筐体12の内面と密着されている。
【0041】
バッテリセル11相互の間に充填される間隙材13は、双方のバッテリセル11の表面に接着されているが、間隙材13自体は、適度の弾性と柔軟性を有しており、バッテリセル11相互の間隔を変位する外力が印加されても、外力による歪み変形を緩和することができる。したがって、間隙材13は、バッテリセル11相互間の離間状態を保持する機能を有している。
バッテリセル11とモジュール筐体12の内面との間の間隙に充填されている間隙材13も、バッテリセル11の表面と、モジュール筐体12の内面に、密に接着されている。その結果、バッテリセル11の内部で発生する熱は、バッテリセル11の表面に接着している間隙材13を経由して、該間隙材13の他の面により密着されているモジュール筐体12の内面へと伝えられる。
【0042】
バッテリモジール10内への間隙材13の形成は、一般的なディスペンサーを用いて、液状の熱伝導性組成物を塗布した後、その液状の熱伝導性組成物を硬化させることで行うとよい。本発明の熱伝導性組成物は粘度が低いため、塗布する際の作業性に優れる。
この際、上記の通り2液型の熱伝導性組成物を使用することが好ましい。2液型は、保管が容易であるとともに、使用直前に混合すればディスペンサーで塗布する作業時には硬化し難く、塗布後は速やかに硬化させることができる。また、ディスペンサーでの塗布は、バッテリモジュール10の筐体12内の比較的奥深くまで、液状の熱導電性組成物を充填させることができる点でも好ましい。
【0043】
バッテリセル11を覆う間隙材13は、バッテリセル11の一方側において、各バッテリセル11の20~40%覆うことが好ましい。20%以上とすることで、バッテリセル11を安定的に保持することができる。また、発熱量が大きいバッテリセルを十分に覆うことで、放熱効率が良好となる。一方で、40%以下とすることで、バッテリセル11から発生する熱の放熱を効率的に行うことができ、重量増大や、作業性の悪化等も防げる。また、放熱効率を良好にするために、バッテリセル11の電極11a,11bがある側を間隙材13で覆うことが好ましく、電極11a,11bの全体を間隙材13で覆うことがより好ましい。
【0044】
以上のとおり、バッテリモジュール10は、バッテリセル11から発生した熱を、間隙材13を経由して、モジュール筐体12に逃がすことができる。
間隙材13は、複数のバッテリモジュール10を内部に備えるバッテリパックに使用することも好ましい。バッテリパックは、一般には、複数のバッテリモジュール10と、該複数のバッテリモジュール10を収容するバッテリパックの筐体とを備える。該バッテリパックにおいて、バッテリモジュール10とバッテリパック筐体との間に間隙材13を設けることができる。これにより、上記のとおりモジュール筐体12に逃がした熱をさらに、バッテリパックの筐体に逃がすことができ、効果的な放熱が可能となる。
また、間隙材13に本発明の熱伝導性部材を用いているので、間隙材13を形成させる際の作業性に優れる。さらに、間隙材13は耐熱性に優れ、かつ低分子シロキサンの発生が抑制されているため、低分子シロキサンに起因する電気的不具合の発生が防止される。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0046】
[耐熱性]
各実施例及び比較例の熱伝導性組成物の耐熱性は、使用したエステル化合物の沸点に基づき以下のとおり評価した。耐熱性評価は5、3、1の3段階の評点で行い、評点が大きい方が耐熱性に優れることを意味する。
(耐熱性評価)
5:沸点が300℃以上
3:沸点が200℃以上300℃未満
1:沸点が200℃未満
【0047】
[粘度]
各実施例及び比較例の熱伝導性組成物の粘度を以下のとおり測定した。
熱伝導性組成物の調製直後(第1剤及び第2剤の混合直後)の試料を、粘度計(Brookfield社製「DV2T (スピンドル SC4-14)」)を用いて、25℃で、回転数10rpmで120秒間測定して、90~120秒の平均値を測定値とした。また、回転数1rpmの条件でも同様に粘度を測定した。
回転数10rpmの条件で測定された粘度の値をもとに、以下の式により相対粘度を算出し、以下の基準で粘度評価を行った。なお粘度評価は5、4、3、2、1の5段階の評点で行い、評点が大きい方がエステル化合物の配合による粘度低減効果が大きいことを意味する。
相対粘度(%)=100×[(各実施例及び比較例の熱伝導性組成物の粘度)/(比較例1の熱伝導性組成物の粘度)]
(粘度評価)
5:相対粘度が30%未満
4:相対粘度が30%以上40%未満
3:相対粘度が40%以上50%未満
2:相対粘度が50%以上60%未満
1:相対粘度が60%以上
【0048】
[相溶性]
各実施例及び比較例で使用するオルガノポリシロキサンとエステル化合物を、各実施例及び比較例で示す配合量比で混合した試料の相溶性を目視により以下の基準で評価した。
(試料の相溶性)
5:試料が透明であった
3:試料が若干白濁しており、透明性がやや低下していた。
1:試料が白濁していた
【0049】
(相溶限界濃度)
オルガノポリシロキサン100質量部に対して、各実施例及び比較例で使用するエステル化合物を10質量部添加し混合物とした後、さらに該混合物にエステル化合物を10質量部ずつ増量して添加していき、合計50質量部になるまで添加した。その際、混合物が白濁し始めるエステル化合物の配合量から10質量部少ない量(すなわち透明性を維持できる添加量)を相溶限界濃度とし以下の基準で評価した。なお、エステル化合物を50質量部添加した場合に混合物が透明であった場合は、相溶限界濃度を50質量部以上とした。
【0050】
(相溶性評価)
相溶性評価は、上記方法で測定した相溶限界濃度に基づいて以下のとおり評価した。なお相溶性評価は5、4、3、2、1の5段階の評点で行い、評点が大きい方が相溶性に優れることを意味する。
5:相溶限界濃度が50質量部以上
4:相溶限界濃度が40質量部以上50質量部未満
3:相溶限界濃度が30質量部以上40質量部未満
2:相溶限界濃度が20質量部以上30質量部未満
1:相溶限界濃度が10質量部以上20質量部未満
【0051】
[総合評価]
上記した耐熱性評価、粘度評価、及び相溶性評価において、最小の評点を総合評価とした。
【0052】
[実施例1]
表2に示すように、エステル化合物の種類をラウリン酸メチルとして、以下に示す配合1の組成の熱伝導性組成物について、上記した各種評価を行った。
<配合1>
配合1は、表1に示すとおり、第1剤及び第2剤の2液型の配合である。
シリコーンA剤(25℃における粘度400cs)は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及び微量の付加反応触媒(白金触媒)を含む。
シリコーンB剤(25℃における粘度300cs)は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンを含む。
第1剤は、シリコーンA剤100質量部、エステル化合物30質量部、デシルトリメトキシシラン1.5質量部、平均粒径45μmの酸化アルミニウム200質量部、平均粒径1μmの水酸化アルミニウム150質量部、平均粒径10μmの水酸化アルミニウム200質量部、平均粒径90μmの水酸化アルミニウム400質量部からなる。
第2剤は、シリコーンB剤100質量部、エステル化合物30質量部、デシルトリメトキシシラン1.5質量部、平均粒径45μmの酸化アルミニウム200質量部、平均粒径1μmの水酸化アルミニウム150質量部、平均粒径10μmの水酸化アルミニウム200質量部、平均粒径90μmの水酸化アルミニウム400質量部からなる。
これら第1剤及び第2剤を混合することで熱伝導性組成物が調製される。
なお、表1に示す配合1~配合4の組成の各熱伝導性組成物は、25℃で液状であった。
【0053】
[実施例2~12、比較例4]
実施例1で用いたエステル化合物を表2~4に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性組成物を得た。
【0054】
[比較例1]
エステル化合物を使用しなかった以外は実施例1と同様にして熱伝導性組成物(表1に示す配合2の熱伝導性組成物)を得た。
【0055】
[比較例2]
エステル化合物に代えて、n-デシルトリメトキシシランを30質量部使用した以外は実施例1と同様にして熱伝導性組成物(表1に示す配合3の熱伝導性組成物)を得た。
【0056】
[比較例3]
エステル化合物に代えて、ジメチルシリコーンオイル(25℃における粘度10cs)を30質量部使用した以外は実施例1と同様にして熱伝導性組成物(表1に示す配合4の熱伝導性組成物)を得た。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
各実施例の結果より、炭素数12~28のエステル化合物を含有する本発明の熱伝導性組成物は、耐熱性に優れ、オルガノポリシロキサンとの相溶性が良好であり、粘度が低くなることが分かった。特に、炭素数17~22のエステル化合物を使用すると、本発明の効果が高く、総合評価の結果が特に優れていた。
また、各実施例の熱伝導性組成物は、粘度を低下させるためにエステル化合物を使用し、低粘度のシリコーンオイルを使用していないため、低分子シロキサンの発生が抑制される。
これに対して比較例1の熱伝導性組成物は、炭素数12~28のエステル化合物を含有していないため、粘度が高く、作業性に劣る結果となった。
比較例2の熱伝導性組成物は、エステル化合物の代わりにn-デシルトリメトキシシランを用いた例であり、粘度は低下したものの、耐熱性が悪くなった。
比較例3の熱伝導性組成物は、エステル化合物の代わりにジメチルシリコーンオイルを用いた例であり、粘度は低下したものの、加熱時に低分子シロキサンが発生するため、該低分子シロキサンに起因する不具合が発生しやすい。
比較例4の熱伝導性組成物は、炭素数が28を超えるエステル化合物を使用した例であるが、実施例の熱伝導性組成物に比べて粘度の低減効果が低く、作業性に劣るものであった。