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特開2023-50265ドライブシミュレータの制御方法及びドライブシミュレータの制御プログラム
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  • 特開-ドライブシミュレータの制御方法及びドライブシミュレータの制御プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050265
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】ドライブシミュレータの制御方法及びドライブシミュレータの制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   G09B 9/04 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
G09B9/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160291
(22)【出願日】2021-09-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼ウェブ開催日 令和3年6月10日 ▲2▼オンラインセミナーの名称、ウェブサイトのアドレス ・オンラインセミナーの名称 SCANer Days Japan 2021 ・発明を公開したオンラインセミナー「SCANer Days Japan 2021」の開催案内が掲載されたウェブサイトのアドレス https://www.macsystems.co.jp/scaner/news-detail.php?id=375 ・発明を公開したオンラインセミナー「SCANer Days Japan 2021」のパンフレットのアドレス https://www.macsystems.co.jp/scaner/pdf/SCANeR_Days_Japan_2021.pdf ・発明を公開したオンラインセミナー「SCANer Days Japan 2021」のプログラムが掲載されたウェブサイトのアドレス https://client.eventhub.jp/form/d4387b28-02c8-4e6b-b403-0c16743ef208/formsession?isTicketSelected=true
(71)【出願人】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(71)【出願人】
【識別番号】502334881
【氏名又は名称】株式会社マックシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100110744
【弁理士】
【氏名又は名称】藤川 敬知
(72)【発明者】
【氏名】中村 栄治
(72)【発明者】
【氏名】塚田 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 晴之
(57)【要約】
【課題】ドライブシミュレータにおいて遠隔運転における信号遅延の影響を反映可能とするドライブシミュレータの制御方法及びドライブシミュレータの制御プログラムを提供する。
【解決手段】実験又は資料から収集した信号の遅延データからなるレイテンシプロファイルを取得する工程S1と、レイテンシプロファイルに数学的処理を施すことにより、信号の遅延量の時間的変化を表す合成レイテンシプロファイルを生成する工程S2~S6と、合成レイテンシプロファイルで定義される遅延量に基づいて、オペレータからドライブシミュレータ20へ往路送信される制御信号を遅延させた遅延制御信号を生成する工程S7と、合成レイテンシプロファイルで定義される遅延量に基づいて、ドライブシミュレータ20からオペレータへ復路送信されるセンシング信号を遅延させた遅延センシング信号を生成する工程S8と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信回線を介した車両の遠隔運転をシミュレートするドライブシミュレータにおいて、前記ドライブシミュレータとオペレータとの間の信号を制御する方法であって、
実験又は資料から収集した信号の遅延データからなるレイテンシプロファイルを取得する工程と、
前記レイテンシプロファイルに数学的処理を施すことにより、信号の遅延量の時間的変化を表す合成レイテンシプロファイルを生成する工程と、
前記合成レイテンシプロファイルで定義される前記遅延量に基づいて、前記オペレータから前記ドライブシミュレータへ往路送信される制御信号を遅延させた遅延制御信号を生成する工程と、
前記合成レイテンシプロファイルで定義される前記遅延量に基づいて、前記ドライブシミュレータから前記オペレータへ復路送信されるセンシング信号を遅延させた遅延センシング信号を生成する工程と、
を有する、ドライブシミュレータの制御方法。
【請求項2】
前記数学的処理は、ウェーブレット変換である、請求項1に記載のドライブシミュレータの制御方法。
【請求項3】
前記合成レイテンシプロファイルを生成する工程は、
前記レイテンシプロファイルにウェーブレット変換を施す変換工程と、
前記変換工程により得られるウェーブレット係数を取得する取得工程と、
前記取得工程で得られた前記ウェーブレット係数に対して係数操作を施す係数操作工程と、
前記係数操作工程後の前記ウェーブレット係数を用いてウェーブレット逆変換を施すことにより、前記合成レイテンシプロファイルを生成する生成工程と、
を有する、請求項2に記載のドライブシミュレータの制御方法。
【請求項4】
通信回線を介した車両の遠隔運転をシミュレートするドライブシミュレータにおいて、前記ドライブシミュレータとオペレータとの間の信号を制御するために、
コンピュータを、
実験又は資料から収集した信号の遅延データからなるレイテンシプロファイルに数学的処理を施すことにより生成された信号の遅延量の時間的変化を表す合成レイテンシプロファイルを参照し、前記合成レイテンシプロファイルで定義される前記遅延量に基づいて、前記オペレータから前記ドライブシミュレータへ往路送信される制御信号を遅延させた遅延制御信号を生成する手段、及び、
前記合成レイテンシプロファイルで定義される前記遅延量に基づいて、前記ドライブシミュレータから前記オペレータへ復路送信されるセンシング信号を遅延させた遅延センシング信号を生成する手段、
として機能させるためのドライブシミュレータの制御プログラム。
【請求項5】
前記制御信号を往路送信する前に一時的に保存する制御信号バッファと、
前記センシング信号を復路送信する前に一時的に保存するセンシング信号バッファと、
を備え、
前記遅延制御信号を生成する手段は、前記制御信号を前記合成レイテンシプロファイルで定義される前記遅延量に基づく所定時間だけ前記制御信号バッファに一時的に保存することで前記遅延制御信号を生成し、
前記遅延センシング信号を生成する手段は、前記センシング信号を前記合成レイテンシプロファイルで定義される前記遅延量に基づく所定時間だけ前記センシング信号バッファに一時的に保存することで前記遅延センシング信号を生成する、請求項4に記載のドライブシミュレータの制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライブシミュレータの制御方法及びドライブシミュレータの制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者の走行視界、操舵反力等を模擬することが可能なドライビングシュミレータが開発されている(例えば、特許文献1等参照。)。走行視界は、コンピュータグラフックス(CG)による視野画像を被験者に提示することによって模擬される。また、操舵反力は、電動モータ、油圧装置等によってステアリングホイールに操舵反力を与えることによって模擬される。
【0003】
一方、車両を遠隔操作により運転するための車両の遠隔運転に関する技術が提案されている(例えば、特許文献2等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-83883号公報
【特許文献2】特開2004-295360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の遠隔運転においては、ハンドルやアクセル/ブレーキといった車両を制御するための信号と、車載機器により捉えられる映像やレーダなどの車両の運動状態を把握するための信号が、車両とは離れた地点にいるオペレータが操作する遠隔運転機器と操縦対象である車両との間を繋ぐ通信回線上を往来する。信号の伝搬そのものにおいて遅延が発生するばかりでなく、ルータなどのネットワーク機器においても、通信データの読み込みや書き換えなど種々のデータ処理が実行されるために遅延が発生する。すなわち、車両の遠隔運転における信号遅延は、通信遅延及び応答遅延に分類することができる。さらに、通信遅延は、通信上りの遅延及び通信下りの遅延に分類することができ、応答遅延は、操作側における操作入力の遅延及び情報提示の遅延、並びに、被操作側である遠隔車両における車両操作の遅延及び車両応答の遅延に分類することができる。これらの信号遅延により、オペレータは常に時間がずれた状態でしか車両をコントロールできないばかりか、オペレータは車両走行を常に時間がずれた状態でしか把握できない。信号遅延が大きくなれば、車両のコントロールが難しくなるばかりでなく、車両走行の危険性が増すことになる。車両の遠隔運転を実用化するためには、これら信号遅延の問題を避けて通ることができない。
【0006】
そして、ドライブシミュレータで車両の遠隔運転を模擬する場合、上述した信号遅延を考慮する必要があり、「どのようにして」「どのような遅延」をシミュレートするかが重要な課題となる。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、ドライブシミュレータにおいて遠隔運転における信号遅延の影響を反映可能とするドライブシミュレータの制御方法及びドライブシミュレータの制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るドライブシミュレータの制御方法は、通信回線を介した車両の遠隔運転をシミュレートするドライブシミュレータにおいて、前記ドライブシミュレータとオペレータとの間の信号を制御する方法であって、実験又は資料から収集した信号の遅延データからなるレイテンシプロファイルを取得する工程と、前記レイテンシプロファイルに数学的処理を施すことにより、信号の遅延量の時間的変化を表す合成レイテンシプロファイルを生成する工程と、前記合成レイテンシプロファイルで定義される前記遅延量に基づいて、前記オペレータから前記ドライブシミュレータへ往路送信される制御信号を遅延させた遅延制御信号を生成する工程と、前記合成レイテンシプロファイルで定義される前記遅延量に基づいて、前記ドライブシミュレータから前記オペレータへ復路送信されるセンシング信号を遅延させた遅延センシング信号を生成する工程と、を有する。
【0009】
この方法によれば、実験又は資料から収集した信号の遅延データからなるレイテンシプロファイルを取得し、レイテンシプロファイルに数学的処理を施すことにより、信号の遅延量の時間的変化を表す合成レイテンシプロファイルを生成するので、実際の信号遅延状況が反映された信号の遅延量の時間的変化を定義することができる。そして、合成レイテンシプロファイルで定義される遅延量に基づいて、オペレータからドライブシミュレータへ往路送信される制御信号を遅延させた遅延制御信号を生成するので、通信回線を介した車両の遠隔運転における遠隔操作者から被操作車両への往路送信における信号遅延の影響を反映させたシミュレートを行うことができる。また、合成レイテンシプロファイルで定義される遅延量に基づいて、ドライブシミュレータからオペレータへ復路送信されるセンシング信号を遅延させた遅延センシング信号を生成するので、通信回線を介した車両の遠隔運転における被操作車両から遠隔操作者への復路送信における信号遅延の影響を反映させたシミュレートを行うことができる。そして、レイテンシプロファイルを生成する工程で、遠隔運転における信号遅延、すなわち通信上り/下りの各遅延である通信遅延、並びに操作入力、情報提示、車両操作、及び車両応答の各遅延である応答遅延など様々な遅延要因を含む実験又は資料から収集した遅延データを用いることで、ドライブシミュレータにおいて各遅延要因を独立に設定してその影響を評価することが可能となる。よって、遠隔運転における信号遅延の影響を反映可能とするという効果を奏する。
【0010】
また、本発明に係るドライブシミュレータの制御方法において、前記数学的処理は、ウェーブレット変換である。
【0011】
この方法によれば、実験又は資料から収集した信号の遅延データからなるレイテンシプロファイルにウェーブレット変換を施すことにより、実際の信号の遅延量の時間的変化を正確に表す合成レイテンシプロファイルを生成することができる。
【0012】
また、本発明に係るドライブシミュレータの制御方法において、前記合成レイテンシプロファイルを生成する工程は、前記レイテンシプロファイルにウェーブレット変換を施す変換工程と、前記変換工程により得られるウェーブレット係数を取得する取得工程と、前記取得工程で得られた前記ウェーブレット係数に対して係数操作を施す係数操作工程と、前記係数操作工程後の前記ウェーブレット係数を用いてウェーブレット逆変換を施すことにより、前記合成レイテンシプロファイルを生成する生成工程と、を有する。
【0013】
この方法によれば、実際の信号の遅延量の時間的変化を正確に表す合成レイテンシプロファイルを確実に生成することができる。
【0014】
本発明に係るドライブシミュレータの制御プログラムは、通信回線を介した車両の遠隔運転をシミュレートするドライブシミュレータにおいて、前記ドライブシミュレータとオペレータとの間の信号を制御するために、コンピュータを、実験又は資料から収集した信号の遅延データからなるレイテンシプロファイルに数学的処理を施すことにより生成された信号の遅延量の時間的変化を表す合成レイテンシプロファイルを参照し、前記合成レイテンシプロファイルで定義される前記遅延量に基づいて、前記オペレータから前記ドライブシミュレータへ往路送信される制御信号を遅延させた遅延制御信号を生成する手段、及び、前記合成レイテンシプロファイルで定義される前記遅延量に基づいて、前記ドライブシミュレータから前記オペレータへ復路送信されるセンシング信号を遅延させた遅延センシング信号を生成する手段、として機能させる。
【0015】
このプログラムによれば、実験又は資料から収集した信号の遅延データからなるレイテンシプロファイルを取得し、レイテンシプロファイルに数学的処理を施すことにより、信号の遅延量の時間的変化を表す合成レイテンシプロファイルを生成するので、実際の信号遅延状況が反映された信号の遅延量の時間的変化を定義することができる。そして、合成レイテンシプロファイルで定義される遅延量に基づいて、オペレータからドライブシミュレータへ往路送信される制御信号を遅延させた遅延制御信号を生成するので、通信回線を介した車両の遠隔運転における遠隔操作者から被操作車両への往路送信における信号遅延の影響を反映させたシミュレートを行うことができる。また、合成レイテンシプロファイルで定義される遅延量に基づいて、ドライブシミュレータからオペレータへ復路送信されるセンシング信号を遅延させた遅延センシング信号を生成するので、通信回線を介した車両の遠隔運転における被操作車両から遠隔操作者への復路送信における信号遅延の影響を反映させたシミュレートを行うことができる。そして、遠隔運転における信号遅延、すなわち通信上り/下りの各遅延である通信遅延、並びに操作入力、情報提示、車両操作、及び車両応答の各遅延である応答遅延など様々な遅延要因を含む実験又は資料から収集した遅延データからなるレイテンシプロファイルを用いることで、ドライブシミュレータにおいて各遅延要因を独立に設定してその影響を評価することが可能となる。よって、遠隔運転における信号遅延の影響を反映可能とするという効果を奏する。
【0016】
本発明に係るドライブシミュレータの制御プログラムは、前記制御信号を往路送信する前に一時的に保存する制御信号バッファと、前記センシング信号を復路送信する前に一時的に保存するセンシング信号バッファと、を備え、前記遅延制御信号を生成する手段は、前記制御信号を前記合成レイテンシプロファイルで定義される前記遅延量に基づく所定時間だけ前記制御信号バッファに一時的に保存することで前記遅延制御信号を生成し、前記遅延センシング信号を生成する手段は、前記センシング信号を前記合成レイテンシプロファイルで定義される前記遅延量に基づく所定時間だけ前記センシング信号バッファに一時的に保存することで前記遅延センシング信号を生成する。
【0017】
このプログラムによれば、遠隔運転における信号遅延の影響を反映させた遅延制御信号及び遅延センシング信号を、簡単な構成で確実に生成することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るドライブシミュレーションシステムの全体構成を示す全体ブロック図である。
図2】合成レイテンシプロファイルの生成から遅延制御信号及び遅延センシング信号出力までの流れを示すフローブロック図である。
図3】比較例に係る従来のドライブシミュレーションシステムの全体構成を示す全体ブロック図である。
図4】遠隔運転における様々な遅延要因を、乗車運転におけるアクセル操作から加速感認知と対比して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<1.本発明の基本的な考え方>
本発明の理解を容易とするため、以下ではまず本発明の基本的な考え方について説明し、その後に本発明の実施形態について説明する。
【0020】
<1.1本発明の概要>
本発明は、車両の遠隔運転での信号遅延から生じる様々な問題に対して、コンピュータ上の仮想空間において解決策を見出すために手助けとなる、ドライブシミュレータの制御方法及びプログラムに関する発明である。
【0021】
遠隔運転においては、ハンドルやアクセル/ブレーキといった車両を制御するための信号と、車載機器により捉えられる映像やレーダなどの車両の運動状態を把握するための信号が、車両とは離れた地点にいるオペレータが操作する遠隔運転機器と操縦対象である車両との間を繋ぐ通信回線上を往来する。信号の伝搬そのものにおいて遅延が発生するばかりでなく、ルータなどのネットワーク機器においても、通信データの読み込みや書き換えなど種々のデータ処理が実行されるために遅延が発生する。これらの遅延により、オペレータは常に時間がずれた状態でしか車両をコントロールできないばかりか、オペレータは車両走行を常に時間がずれた状態でしか把握できない。信号遅延が大きくなれば、車両のコントロールが難しくなるばかりでなく、車両走行の危険性が増すことになる。車両の遠隔運転を実用化するためには、これら信号遅延の問題を避けて通ることができない。
【0022】
さらに、遠隔運転においては、通信遅延以外にも、様々な遅延要因が存在する。ここで、図4は、遠隔運転における様々な遅延要因を、乗車運転におけるアクセル操作から加速感認知と対比して示す説明図である。車両に乗車しての乗車運転では、図4に示すように、運転者の操作により、車両が駆動されて加速し、運転者が加速感を認知する。一方、車両の外からの遠隔運転においては、図4に示すように、コックピットで操作者が操作すると、通信下り経由で車両へ信号送信され、車両が駆動される。また、車両応答を示す信号が、通信上り経由でコックピットにより受信されることで操作者へ情報提示が行われる。つまり、遠隔運転における信号遅延の要因として、通信上り及び通信下りの通信遅延以外に、コックピット側の操作入力や情報提示並びに車両側の車両操作や車両応答を含む応答遅延も存在する。
【0023】
このような遅延要因をドライブシミュレータで再現することで遠隔運転の問題点を洗い出すことができるが、「どのようにして」「どのような遅延」をシミュレートしたらよいかが重要となる。本発明では、(1)信号遅延を制御信号(以下、C信号と称す)の遅延(往路遅延:オペレータから車両)と、センシング信号(以下、S信号と称す)の遅延(復路遅延:車両からオペレータ)とに分割して扱うことができ、(2)数学解析(ウェーブレット変換)により様々な遅延波形(レイテンシプロファイル、LPとも称す)を合成して様々な信号遅延パターンを実現することにより、遠隔運転における種々の信号遅延状況をシミュレートできる方法及びプログラムを提案する。
【0024】
<1.3信号遅延とLPの合成について>
信号遅延は、ネットワーク機器(ルータやホスト/サーバなど)において信号の処理に要する時間(処理遅延)と、信号が通信路を伝搬するのに要する時間(伝搬遅延)が合算されたものである。伝搬遅延は電気信号の伝搬速度と通信路長で決まるため、通信路を往来するデータ量には左右されないばかりか時間変化もしない。一方、処理遅延はネットワーク機器の処理能力と、それを通過する通信量に依存する。通信量は時間で変化するために、処理遅延も時間的に変化する。
【0025】
通信量は、当該通信路を利用しているユーザの通信行動で決まる。日月単位でならば第三者の通信行動パターンは統計的に予想できるかもしれないが、時分単位といった短期間においては、第三者の通信行動パターンを予測することは不可能である。つまり、短期間における処理遅延の時間変化を予測することは不可能である。また、通信路上のネットワーク機器の数はルーティング経路により刻々と変化するとともに、個々のネットワーク機器の処理能力を第三者が知る手段はない。このような理由により、理論的に短期間における処理遅延の時間変化を導くことはできない。従って、本発明では、フィールド観測により実際に得られる遅延データや文献などで発表されている遅延データを基にして、ウェーブレット変換を利用してLPを合成する手法を採用する。
【0026】
尚、遅延データが発表されている文献として、「Neumeier, S., Walelgne, E., Bajpai, V., Ott, J., & Facchi, C. (2019). Measuring the Feasibility of Teleoperated Driving in Mobile Networks. In Proceedings of the 3rd Network Traffic Measurement and Analysis Conference (pp. 113-120). [8784466] IEEE. https://doi.org/10.23919/TMA.2019.8784466」が挙げられる。また、ウェーブレット変換に関する文献として、「電学誌,129巻10号,2009年,P.660~P.663」が挙げられる。
【0027】
<2.実施形態の構成>
以下、本発明に係るドライブシミュレータの制御方法及び遅延制御プログラムを具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係るドライブシミュレーションシステム1の全体構成を示す全体ブロック図、図2は合成レイテンシプロファイルの生成から遅延C信号及び遅延S信号出力までの流れを示すフローブロック図、図3は比較例に係る従来のドライブシミュレーションシステム100の全体構成を示す全体ブロック図である。尚、本明細書において、「C信号」は制御信号を意味し、「S信号」はセンシング信号を意味するものとする。
【0028】
本実施形態に係るドライブシミュレーションシステム1は、図1に示すように、コントロールユニット10と、ドライブシミュレータ20と、表示ユニット30と、合成レイテンシプロファイル記憶部40と、信号遅延モジュール50と、を備えて構成される。尚、信号遅延モジュール50は、コンピュータプログラムであるドライブシミュレータ20にアドオンされるアドオンプログラムであって、本発明の「ドライブシミュレータの制御プログラム」に相当するものである。
【0029】
コントロールユニット10は、オペレータが車両の運転操作を模擬的に体験できるように構成された装置であり、オペレータの操作に応じたC信号(つまり制御信号)を出力する。コントロールユニット10は、ステアリングホイール11、アクセルペダル12と、ブレーキペダル13等とを備えて構成される。
【0030】
ステアリングホイール11は、コックピットに回転自在に支持される。ステアリングホイール11には舵角センサ及びトルクセンサが設けられる。舵角センサによって検出される操舵角及びトルクセンサによって検出される操舵トルクは、共にC信号として出力される。
【0031】
アクセルペダル12は、コックピットに踏み込み操作可能に取り付けられる。アクセルペダル12には、駆動力検出用センサが設けられる。駆動力検出用センサによって検出されるアクセルペダル12の踏み込み量は、C信号として出力される。
【0032】
ブレーキペダル13は、コックピットに踏み込み操作可能に取り付けられる。ブレーキペダル13には、制動力検出用センサが設けられる。制動力検出用センサによって検出されるブレーキペダル13の踏み込み量は、C信号として出力される。
【0033】
ドライブシミュレータ20は、C信号処理モジュール21と、車両モデルモジュール22と、S信号処理モジュール23とを備えて構成される。
【0034】
C信号処理モジュール21は、信号遅延モジュール50のC信号バッファ52から出力された遅延C信号を入力し、車両モデルモジュール22に入力するための所定の処理を施して出力する。
【0035】
車両モデルモジュール22は、C信号処理モジュール21から出力されたC信号を入力し、被操作車両としての遠隔車両の挙動をシミュレートする処理を行って、S信号を出力する。
【0036】
S信号処理モジュール23は、信号遅延モジュール50のS信号バッファ53から出力された遅延S信号を入力し、表示ユニット30へ入力するための所定の処理を施して出力する。
【0037】
表示ユニット30は、動画を表示可能なディスプレイ装置であって、S信号処理モジュール23から出力された信号が入力されると、運転席の前方視野の変化を模擬した視野画像を生成して画面表示する。
【0038】
合成レイテンシプロファイル記憶部40は、遅延量の時間的変化を表す合成レイテンシプロファイルを記憶する。合成レイテンシプロファイルの生成方法については、後述する。
【0039】
信号遅延モジュール50は、遅延量制御部51と、C信号バッファ52と、S信号バッファ53と、を備えて構成される。
【0040】
遅延量制御部51は、合成レイテンシプロファイル記憶部40を参照し、C信号バッファ52に格納されたC信号に時間的変化に応じたバッファリング時間を設定する。さらに、遅延量制御部51は、合成レイテンシプロファイル記憶部40を参照し、S信号バッファ53に格納されたS信号に時間的変化に応じたバッファリング時間を設定する。
【0041】
C信号バッファ52は、コントロールユニット10から出力されたC信号データを格納する記憶領域である。C信号バッファ52に格納されたC信号データは、遅延量制御部51によりバッファリング時間が設定され、バッファリング時間経過後に遅延C信号として出力されて、C信号処理モジュール21へ入力される。
【0042】
S信号バッファ53は、車両モデルモジュール22から出力されたS信号データを格納する記憶領域である。S信号バッファ53に格納されたS信号データは、遅延量制御部51によりバッファリング時間が設定され、バッファリング時間経過後に遅延S信号として出力されて、S信号処理モジュール23へ入力される。
【0043】
次に、合成レイテンシプロファイルの生成から遅延C信号及び遅延S信号の流れについて、図2を参照しつつ説明する。図2において、S1(Sはステップを表す。他のステップも同様)~S6のフローチャートが合成レイテンシプロファイル生成の流れを示し、残りのブロック図が合成レイテンシプロファイルに基づいて遅延C信号及び遅延S信号が出力されるまでの信号の流れを示している。
【0044】
合成レイテンシプロファイルの生成(S1~S6)は、ドライブシミュレーションシステム100でシミュレーションを実行する前の準備作業として行われる。まず、S1において、実験や資料から信号遅延データを収集してレイテンシプロファイルを作成する。
【0045】
次に、S2において、S1で作成したレイテンシプロファイルにウェーブレット変換を施す。ウェーブレット変換は波の欠片を使った解析手法である(電学誌,129巻10号,2009年,P.660~P.663参照。)。レイテンシプロファイルをfとし、ウェーブレット変換演算子をWとすると、ウェーブレット変換はW(f)となる。
【0046】
続いて、S3において、レイテンシプロファイルの全時間領域に渡りウェーブレット変換を行うことにより、ウェーブレット係数Fを取得する。つまり、F=W(f)である。続いて、S4において、S3で取得したウェーブレット係数Fの係数操作、すなわち、ウェーブレット係数Fの値を増加又は減少させる等の調整操作を行う。
【0047】
最後に、S5において、S4の係数操作後のウェーブレット係数F′を用いてウェーブレット逆変換、すなわちW-1(F′)を行うことにより、合成レイテンシプロファイルf′が生成される。合成レイテンシプロファイルf′は、S6で合成レイテンシプロファイル記憶部40に記憶される。
【0048】
以下、ウェーブレット変換を用いた合成レイテンシプロファイルの生成に関し、理論的説明を行う。経過時間をtとし、遅延量をdとすると、レイテンシプロファイルはd=f(t)で定義される関数fになる。ウェーブレット変換では、最初にマザーウェーブレットψを決める必要があるが、よく知られたいくつかのマザーウェーブレットの中から選択するだけでよい。関数fの形を全時間領域に渡り一つだけのマザーウェーブレットで近似させることはできないため,fを局所的にマザーウェーブレットψで近似させる。その方法は簡単であり、ψを平行移動させながら拡大縮小することにより(式(1))、限られた時間領域だけでfの形を近似させる。式(1)において、aは拡大縮小量を決める変数、bは平行移動量を決める変数である。aによりマザーウェーブレットの形が変わるので、aは周波数に関係する変数であることがわかる。bによりマザーウェーブレットは時間軸上を移動するため、bは時間に関係する変数であることがわかる。
【0049】
【数1】
【0050】
全領域に渡り近似させるには、それぞれの局所領域で近似させればよいことになる。ウェーブレット係数F(b,a)は、各局所領域での近似を一つに束ねる役割を果たしている。F(b,a)は、f(t)とψb,a(t)との内積(両者がどれだけ似ているかを測る方法)、つまりウェーブレット変換を表す式(2)で求められる。尚、式(2)は連続ウェーブレット変換の定義を示すものであるが、フィールド実験や文献で得られる遅延データは離散データになるため、実際に使用するウェーブレット変換は離散ウェーブレット変換になる。
【0051】
【数2】
【0052】
そして、ウェーブレット逆変換により、ウェーブレット係数F(b,a)から関数fを復元することができる(式(3))。
【0053】
【数3】
【0054】
ここで、関数fのウェーブレット係数(b,a)の値をフィルタリングにより変更して得られた係数をFi(b,a)とし、Fi(b,a)を使ってウェーブレット逆変換により得られた関数をfiとする。どのように値を変えたか(どのようにフィルタリングしたのか)により、関数fiが関数fに近似する度合いが変化する。
【0055】
ウェーブレット係数F(b,a)をそのまま利用すれば関数fが得られるので、フィールド実験等で得られた遅延データを使うことになる。フィルタリングにより値を操作したFi(b,a)を利用すればfiになるので、フィールドデータをある程度反映してはいるが、新しいレイテンシプロファイルになる。このように、ウェーブレット係数に基づいてフィールドデータ等をフィルタリングすることで、現実とは大きく乖離することのない様々な遅延条件下でのシミュレーションが可能になる。
【0056】
次に、図2に戻り、S6以降の信号の流れを説明する。ドライブシミュレーションシステム1において、コントロールユニット10から出力されたC信号がC信号バッファ52に入力されると、遅延量制御部51は、合成レイテンシプロファイル記憶部40に記憶された合成レイテンシプロファイルを参照して遅延量を取得してバッファリング時間を設定する。これにより、バッファリング時間だけ遅延した遅延C信号が、C信号バッファ52から出力される。
【0057】
また、車両モデルモジュール22から出力されたS信号がS信号バッファ53に入力されると、遅延量制御部51は、合成レイテンシプロファイル記憶部40に記憶された合成レイテンシプロファイルを参照して遅延量を取得し、S信号のバッファリング時間を設定する。これにより、バッファリング時間だけ遅延した遅延S信号が、S信号バッファ53から出力される。
【0058】
<3.シミュレーションにおける信号の流れ(比較例と実施形態との対比説明)>
次に、本実施形態のシミュレーションにおける信号の流れについて、従来技術に係る比較例と対比して説明する。
【0059】
まず、比較例のドライブシミュレーションシステム100の構成について、図3を参照しつつ説明する。尚、上記実施形態と同一の構成には同一符号を付してそれらについての説明を省略し、異なる点を中心に説明する。
【0060】
比較例に係るドライブシミュレーションシステム100は、図3に示すように、コントロールユニット10と、ドライブシミュレータ20と、表示ユニット30とを備えて構成される。すなわち、本比較例は、上記実施形態とは異なり、信号遅延モジュール50を備えていない。
【0061】
ドライブシミュレーションシステム100では、ステアリングホイール11、アクセルペダル12と、ブレーキペダル13とを備えるコントロールユニット10を、ドライブシミュレータ20が動作しているPCに接続して、仮想空間上の車両モデルを操作する。車両モデルのフロントガラスにカメラを設置し、カメラから取得されるビデオデータを映像として表示ユニット30としてのPC画面に出力して表示する。オペレータは、ビデオ映像を確認しながら車両モデルを操作する。
【0062】
コントロールユニット10からの信号はタイムラグがない状態でC信号処理モジュール21がポーリングにより取得し、車両モデルモジュール22が解釈できるようC信号処理モジュール21でC信号に変換される。車両モデルモジュール22においては、C信号に従って車両モデルの進行方向や速度が決定される。S信号としての車載カメラからのビデオデータもタイムラグがない状態でS信号処理モジュール23へと転送される。このS信号処理モジュール23では、表示ユニット30としてのPCモニタ上にビデオデータが動画として表示できるよう、S信号を加工する。
【0063】
このように、一般的な車両運転のシミュレーションにおいては、意図的にC信号やS信号を遅延させる必要がないが、本発明が対象とする遠隔運転における信号遅延の影響をシミュレーションする場合には、既存のシミュレータに手を加える必要がある。
【0064】
そこで、本実施形態に係るドライブシミュレーションシステム1では、信号遅延が生起する状況での車両の遠隔運転をシミュレーションするために、比較例の構成に対して、図1に示すように信号遅延モジュール50及び合成レイテンシプロファイル記憶部40が追加されて信号の流れが変更されている。
【0065】
具体的には、コントロールユニット10とC信号処理モジュール21との間にC信号バッファ52を配置し、車両モデルモジュール22とS信号処理モジュール23との間にS信号バッファ53を配置する。それぞれのバッファにおけるバッファリング時間(各信号をメモリに一時的に保存する時間)は、遅延量制御部51により決められる仕組みになっている。これらC信号バッファ52及びS信号バッファ53と遅延量制御部51とは、信号遅延モジュール50を構成するサブユニットである。オペレータは、表示ユニット30としてのPCモニタに表示される遅延動画を見ながらコントロールユニット10を介して車両モデルを操作するとともに、オペレータによるハンドル操作やアクセル・ブレーキ操作から時間的に遅れながら、車両モデルは進路や速度を変えることになる。
【0066】
<まとめ>
以上詳述したことから明らかなように、本実施形態に係るドライブシミュレータの制御方法は、通信回線を介した車両の遠隔運転をシミュレートするドライブシミュレータ20において、ドライブシミュレータ20とオペレータ(具体的にはオペレータによって操作されコントロールユニット10及びオペレータによって視認される表示ユニット30)との間の信号を制御する方法であって、実験又は資料から収集した信号の遅延データからなるレイテンシプロファイルを取得する工程S1と、レイテンシプロファイルに数学的処理を施すことにより、信号の遅延量の時間的変化を表す合成レイテンシプロファイルを生成する工程S2~S6と、合成レイテンシプロファイルで定義される遅延量に基づいて、オペレータからドライブシミュレータ20へ往路送信される制御信号(C信号)を遅延させた遅延制御信号(遅延C信号)を生成する工程S7と、合成レイテンシプロファイルで定義される遅延量に基づいて、ドライブシミュレータ20からオペレータへ復路送信されるセンシング信号を遅延させた遅延センシング信号(遅延S信号)を生成する工程S8と、を有する。
【0067】
この方法によれば、実験又は資料から収集した信号の遅延データからなるレイテンシプロファイルを取得し(S1)、レイテンシプロファイルに数学的処理を施すことにより、信号の遅延量の時間的変化を表す合成レイテンシプロファイルを生成するので(S2~S6)、実際の信号遅延状況が反映された信号の遅延量の時間的変化を定義することができる。そして、合成レイテンシプロファイルで定義される遅延量に基づいて、オペレータからドライブシミュレータへ往路送信される制御信号を遅延させた遅延制御信号を生成する(S7)ので、通信回線を介した車両の遠隔運転における遠隔操作者から被操作車両としての遠隔車両への往路送信における信号遅延の影響を反映させたシミュレートを行うことができる。また、合成レイテンシプロファイルで定義される遅延量に基づいて、ドライブシミュレータからオペレータへ復路送信されるセンシング信号を遅延させた遅延センシング信号を生成する(S8)ので、通信回線を介した車両の遠隔運転における被操作車両から遠隔操作者への復路送信における信号遅延の影響を反映させたシミュレートを行うことができる。つまり、レイテンシプロファイルを生成する工程(S1)で、遠隔運転における信号遅延、すなわち通信上り/下りの各遅延である通信遅延、並びに操作入力、情報提示、車両操作、及び車両応答の各遅延である応答遅延など様々な遅延要因を含む実験又は資料から収集した遅延データを用いることで、ドライブシミュレーションシステム1において各遅延要因を独立に設定してその影響を評価することが可能となる。よって、遠隔運転における信号遅延の影響を反映可能とするという効果を奏する。
【0068】
また、数学的処理は、ウェーブレット変換である。この方法によれば、実験又は資料から収集した信号の遅延データからなるレイテンシプロファイルにウェーブレット変換を施すことにより、実際の信号の遅延量の時間的変化を正確に表す合成レイテンシプロファイルを生成することができる。
【0069】
また、合成レイテンシプロファイルを生成する工程は、レイテンシプロファイルにウェーブレット変換を施す変換工程(S2)と、変換工程により得られるウェーブレット係数を取得する取得工程(S3)と、取得工程(S3)で得られたウェーブレット係数に対して係数操作を施す係数操作工程(S4)と、係数操作工程(S4)後のウェーブレット係数を用いてウェーブレット逆変換を施すことにより、合成レイテンシプロファイルを生成する生成工程(S5~S6)と、を有する。
【0070】
この方法によれば、実際の信号の遅延量の時間的変化を正確に表す合成レイテンシプロファイルを確実に生成することができる。
【0071】
本実施形態に係るドライブシミュレータの制御プログラムは、通信回線を介した車両の遠隔運転をシミュレートするドライブシミュレータにおいて、前記ドライブシミュレータとオペレータとの間の信号を制御するために、コンピュータを、実験又は資料から収集した信号の遅延データからなるレイテンシプロファイルに数学的処理を施すことにより生成された信号の遅延量の時間的変化を表す合成レイテンシプロファイルを参照し、前記合成レイテンシプロファイルで定義される前記遅延量に基づいて、前記オペレータから前記ドライブシミュレータへ往路送信される制御信号を遅延させた遅延制御信号を生成する手段、及び、前記合成レイテンシプロファイルで定義される前記遅延量に基づいて、前記ドライブシミュレータから前記オペレータへ復路送信されるセンシング信号を遅延させた遅延センシング信号を生成する手段、として機能させる。
【0072】
このプログラムによれば、実験又は資料から収集した信号の遅延データからなるレイテンシプロファイルを取得し、レイテンシプロファイルに数学的処理を施すことにより、信号の遅延量の時間的変化を表す合成レイテンシプロファイルを生成するので、実際の信号遅延状況が反映された信号の遅延量の時間的変化を定義することができる。そして、合成レイテンシプロファイル記憶部40に記憶された合成レイテンシプロファイルで定義される遅延量に基づいて、オペレータからドライブシミュレータ20へ往路送信される制御信号(C信号)を遅延させた遅延制御信号(遅延S信号)を生成するので、通信回線を介した車両の遠隔運転における遠隔操作者から被操作車両への往路送信における信号遅延の影響を反映させたシミュレートを行うことができる。また、合成レイテンシプロファイルで定義される遅延量に基づいて、ドライブシミュレータ20からオペレータへ復路送信されるセンシング信号(S信号)を遅延させた遅延センシング信号(遅延S信号)を生成するので、通信回線を介した車両の遠隔運転における被操作車両から遠隔操作者への復路送信における信号遅延の影響を反映させたシミュレートを行うことができる。つまり、遠隔運転における信号遅延、すなわち通信上り/下りの各遅延である通信遅延、並びに操作入力、情報提示、車両操作、及び車両応答の各遅延である応答遅延など様々な遅延要因を含む実験又は資料から収集した遅延データからなるレイテンシプロファイルを用いることで、ドライブシミュレーションシステム1において各遅延要因を独立に設定してその影響を評価することが可能となる。よって、遠隔運転における信号遅延の影響を反映可能とするという効果を奏する。
【0073】
本発明に係るドライブシミュレータの制御プログラムは、制御信号を往路送信する前に一時的に保存する制御信号バッファ(C信号バッファ52)と、センシング信号を復路送信する前に一時的に保存するセンシング信号バッファ(S信号バッファ53)と、を備え、遅延制御信号を生成する手段としての遅延量制御部51は、制御信号を合成レイテンシプロファイルで定義される遅延量に基づく所定時間だけ制御信号バッファに一時的に保存することで遅延制御信号(遅延C信号)を生成し、遅延センシング信号を生成する手段としての遅延量制御部51は、センシング信号を合成レイテンシプロファイルで定義される遅延量に基づく所定時間だけセンシング信号バッファ(S信号バッファ53)に一時的に保存することで遅延センシング信号(遅延S信号)を生成する。
【0074】
このプログラムによれば、遠隔運転における信号遅延の影響を反映させた遅延制御信号及び遅延センシング信号を、簡単な構成で確実に生成することができるという効果を奏する。
【0075】
<変形例>
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々に変更を施すことが可能である。例えば、上記実施形態ではレイテンシプロファイルに施される数学的処理としてウェーブレット変換を用いる構成を示したが、これには限られない。例えば、数学的処理としてフーリエ変換を用いる構成としてもよいし、或いは、ニューラルネットワークによる深層学習を用いる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 ドライブシミュレーションシステム
10 コントロールユニット
20 ドライブシミュレータ
30 表示ユニット
40 合成レイテンシプロファイル記憶部
50 信号遅延モジュール(ドライブシミュレータの制御プログラム)
51 遅延量制御部
52 C信号バッファ(制御信号バッファ)
53 S信号バッファ(センシング信号バッファ)
S1 レイテンシプロファイルを取得する工程
S2~S6 合成レイテンシプロファイルを生成する工程
S7 遅延制御信号を生成する工程
S8 遅延センシング信号を生成する工程
図1
図2
図3
図4