(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050338
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】ゴーヤの抜き粕漬け及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/10 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
A23B7/10 A
A23B7/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160390
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】721009449
【氏名又は名称】井刈 瑞恵
(72)【発明者】
【氏名】井刈瑞恵
【テーマコード(参考)】
4B169
【Fターム(参考)】
4B169DA01
4B169DA16
4B169DB19
4B169HA01
(57)【要約】
【課題】比較的安価に製造することができ、なおかつ、ゴーヤ本来の異風味を残しつつ、良好な食感で栄養価の高いゴーヤの抜き粕漬け及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】粕漬けに供した酒粕からなる抜き粕を容器に入れて粕床を形成する粕床形成工程ST1と、ゴーヤを縦割りにしてタネとワタを除去する下処理工程ST2と、下処理工程を経たゴーヤを塩漬けすることなく粕床の内部に投入する投入工程ST3と、ゴーヤが投入された粕床を10~20℃の温度で24~36時間漬け込む漬け工程ST4と、漬け工程を終えた粕床からゴーヤを取り出す取出し工程ST5とを備えるゴーヤの抜き粕漬けの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粕漬けに供した酒粕からなるペースト状の抜き粕を容器に入れて粕床を形成する粕床形成工程と、生鮮なゴーヤを縦割りにしてタネとワタを除去する下処理工程と、前記下処理工程を経たゴーヤを塩漬けすることなく前記粕床の内部に投入する投入工程と、前記ゴーヤが投入された前記粕床を10~20℃の温度で24~36時間漬け込む漬け工程と、前記漬け工程を終えた前記粕床から前記ゴーヤを取り出す取出し工程とを備えるゴーヤの抜き粕漬けの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって製造されたゴーヤの抜き粕漬け。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴーヤの抜き粕漬け及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沖縄の名産として知られているウリ科の野菜ゴーヤは、ニガウリという別名の通り独特の苦味があるが、ビタミンC、βカロテン、食物繊維、カリウム、葉酸などの栄養素を豊富に含んでいる。ゴーヤは、常温保存では日持ちしない野菜であるため、一般的には炒め物や揚げ物、酢の物、和え物等に調理されて摂食されている。
【0003】
ゴーヤの苦味を軽減してより摂食し易くするために、ゴーヤに味噌や酢を絡めて真空パック保存する方法(特許文献1)や、ゴーヤと枝豆などの副原料をミキサーで撹拌してゴーヤジュースを製造する方法(特許文献2)、ポリフェノール素材が所定割合含有した水相粒子を油相中に分散した状態で含有させる製造方法(特許文献3)などが知られている。
【0004】
また、ゴーヤの粕漬け方法として、酒粕に砂糖やみりん等を加えた粕床に、ゴーヤとだし昆布を挟んだ状態で数日間漬け込む方法(非特許文献1)が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007‐215533号公報
【特許文献2】特開2015‐053907号公報
【特許文献3】特開2020‐014450号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】cookpad,「ゴーヤの粕漬け」,レシピID:1516535(URL=https://cookpad.com/recipe/1516535)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1乃至3に記載のゴーヤを主材料とした製造方法は加工用の機械装置を必要としたり、工程が煩雑になったりして、一般家庭での実施は少なく、企業による製品化も殆ど普及していない。
【0008】
また、非特許文献1に記載のレシピによれば、未使用の酒粕や複数の調味料を大量に使用するため、材料費が高くなったり、ゴーヤ本来の異風味が大幅に損なわれたりしてしまう。さらに、ゴーヤを粕漬けにする前に、ゴーヤに多量の塩をまぶして一昼夜漬け込むため、ゴーヤの水分が大幅に減少する。ゴーヤは奈良漬に用いるしま瓜に比べて果肉が薄いため、水分が減少すると全体が収縮して食感が劣ったり、ゴーヤ本来の苦味や酸味が損なわれ、逆に塩味が強くなったりする。
【0009】
ところで、酒粕は、清酒製造の圧搾工程後に残った搾りかすのことであり、酒粕を利用した代表的な食品としてしま瓜の奈良漬けがある。粕漬けに供した後の酒粕は、廃棄されるのが通常であるが、稀に魚肉の抜き粕漬けや野菜の抜き粕漬けが販売されている。しかしながら、健康志向の高まりに伴って食品の減塩傾向が続く昨今、漬け物の需要が減少し、粕漬けや抜き粕漬けの商品販売も低迷している。しかも、ゴーヤは栄養価の高い食材であるにもかかわらず、特有の苦みがあるうえ、主に夏季に収穫されるゴーヤの効果的な保存方法がないことから、ゴーヤを食材として利用することは限定的であり、ゴーヤの粕漬けを産業製品として製造したり、ましてや、抜き粕漬けにゴーヤを利用したりすることは行われていなかった。
【0010】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、高価な機械装置を利用することなく、大量の調味料等の使用を抑制することで、比較的安価に製造することができ、なおかつ、ゴーヤ本来の異風味を残しつつ、良好な食感を保持し、栄養価の高い食材としてのゴーヤの抜き粕漬け及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために、本発明のゴーヤの抜き粕漬けの製造方法は、粕漬けに供した酒粕からなる抜き粕を容器に入れて粕床を形成する工程と、生鮮なゴーヤを縦割りにしてタネとワタを除去する下処理工程と、前記下処理工程を経たゴーヤを塩漬けすることなく前記粕床の内部に投入する投入工程と、前記ゴーヤが投入された前記粕床を10~20℃の温度で24~36時間漬け込む漬け工程と、前記漬け工程を終えた前記粕床から前記ゴーヤを取り出す取出し工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のゴーヤの抜き粕漬けは、前記製造方法によって製造されたゴーヤの抜き粕漬けであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、粕漬けに供した酒粕からなる抜き粕を粕床として用いて、下処理工程を経たゴーヤを塩漬けすることなく粕床の内部に投入してゴーヤの抜き粕漬けを製造するので、酒粕に元来含まれるアルコール分、ビタミンB、ミネラルなどに加え、すでに粕漬けに供した際に生成された発酵旨味成分、適量の調味料が抜き粕に含有されていることから、これらがゴーヤに浸透して、調味料等を使用することなく、比較的安価にゴーヤの抜き粕漬けを製造することができる。しかも、当該粕床で、所定温度で所定時間ゴーヤを漬け込むことにより、ゴーヤ本来の異風味を残しつつ、良好な食感を保持し、栄養価の高いゴーヤの抜き粕漬を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明にかかるゴーヤの抜き粕漬けの製造方法の一実施形態を示す製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0016】
図1に示すように、まず、粕漬けに供した酒粕からなる抜き粕を容器に入れて粕床を形成する(粕床形成工程ST1)。ここで使用する酒粕は、市販されている未使用の酒粕ではなく、しま瓜等の野菜や白身魚の切り身等の魚介類を周知の粕漬け方法で一回以上粕漬けに供した抜き粕である。そもそも、酒粕は清酒製造過程における副産物(残渣)であり、この酒粕を粕漬けに供した後の抜き粕は、通常廃棄されてしまうが、本発明では、二次残渣であるこの抜き粕を用いて粕床を形成する。
【0017】
本発明で使用する抜き粕は、一回以上粕漬けに供した酒粕であれば回数は問わないが、三回以上使用した酒粕は、発酵が進んで酸味が強くなったり、漬け込む食材にすり込む塩分の影響で塩味が強くなったりするため、一回ないし二回程度粕漬けに供した酒粕を用いるのが望ましい。また、この抜き粕には、粕漬けした際に添加した砂糖やみりんなどの調味料や、塩分、脂質、脂溶性ビタミン、ミネラル、食物繊維ほか、発酵によって生育された乳酸菌や酵母菌、ひいてはこれらの菌類が生成した複数のアミノ酸が含まれているため、新たに調味料を添加する必要はない。
【0018】
また、この抜き粕は、粕漬けにした食材(野菜や魚介類など)に含まれていた水分が浸み出すため、未使用の酒粕に比べて水分量が多く、トマトケチャップのように粘性の低いペースト状を呈している。一般的に、粕漬け(奈良漬)をする場合、漬け込む食材の水分が粕床に浸み出で、長期間の漬け込みの際に粕床が腐敗したり変質したりするのを防ぐために、食材を塩漬けして予め水分を抜いてから本漬けを行う。これに対して、本発明にかかる製造方法では、後述する漬け工程で所定の温度条件・時間条件で漬け込むことから、粕床の腐敗を招くことがないため、ペースト状の抜き粕を用いても何ら支障はない。
【0019】
なお、この粕床形成工程ST1で抜き粕を入れる容器としては、ポリエチレン等の樹脂やホーロー、ガラス、陶器、もしくはジッパー付きの耐熱性ポリ袋を使用することができる。容器に入れる抜き粕の量は、抜き粕漬けの対象となるゴーヤをすべて投入しても、容器上部のフチと抜き粕の上面との間に数センチの空気層が形成される程度の量とすることが望ましい。
【0020】
下処理工程ST2では、生鮮なゴーヤを包丁等で縦割りにしてタネとワタを除去する。ゴーヤの両端部は苦みが強いので、切り落とすのが望ましい。内部のタネとワタはスプーン等を用いて上下に複数回移動させれば容易にこそげ取ることができる。そして、タネとワタを除去したゴーヤを流水で濯ぎ洗いする。なお、粕床形成工程ST1と下処理工程ST2の順番は特に限定されず、先に下処理工程ST2を行い、その後で粕床形成工程ST1を行ってもよい。
【0021】
次に、下処理工程ST2を経たゴーヤを、塩漬けすることなく、粕床形成工程ST1で形成した粕床の内部に投入する(投入工程ST3)。ここで言う「塩漬けすることなく」には、ゴーヤに食塩をまぶしたり、塩もみしたりすることも含まれる。生鮮なゴーヤは約90%の水分を含有しているが、これを塩漬けすると、数%から数十%の水分が浸み出してしまう。ゴーヤの果肉から水分が減少すると全体が収縮して食感が劣り、ゴーヤ本来の苦味や酸味が損なわれる。逆に、塩漬けすることによりゴーヤの塩味が強くなる。そこで、この投入工程ST3で粕床に投入するゴーヤは塩漬けしない。換言すれば、生鮮なゴーヤの水分量を維持した状態で、粕床に投入する。
【0022】
投入工程ST3において、粕床の抜き粕の量と投入するゴーヤの量の割合は、抜き粕の重量を10としたとき、ゴーヤの重量を7~13の範囲内とすることが望ましい。容器内には、ペースト状の抜き粕が半分の高さ辺りまで収容されており、この抜き粕に下処理したゴーヤを文字通り投げ入れることで、抜き粕の中にゴーヤが浸漬していく。
【0023】
ゴーヤを粕床の内部に投入したら、粕床の温度を10~20℃の範囲内に維持しつつ、24~36時間漬け込む(漬け工程ST4)。この漬け工程において、浸透圧の作用により、ゴーヤ内部の水分や水溶性ビタミンが抜き粕に溶出するとともに、抜き粕中の塩分、アルコール、糖分、旨味成分、栄養素が浸透する。なお、このときゴーヤから浸み出る水分量は、塩漬けした場合に比べてはるかに少ないので、所定時間の漬け工程を経ても食感を損なうことはない。
【0024】
漬け工程ST4において、粕床の温度が10℃未満だと、抜き粕中の各種養分や味がゴーヤ内部に十分に浸透するまでに時間がかかり過ぎ、ゴーヤの抜き粕漬けが完成するまでの期間が長期化する。逆に、粕床の温度が20℃を超えると、雑菌が繁殖して、抜き粕中の各種養分がゴーヤ内部に十分に浸透する前に抜き粕自体の腐敗が進行し、所望の抜き粕漬けを得られなくなる。また、漬け工程の時間が24時間未満だと、粕床の温度が低い場合と同様に、抜き粕中の成分や味がゴーヤの内部に十分浸透せず、食感や味見が不十分なものとなる。一方、漬け工程の時間が36時間を超えると、粕床の温度が高い場合と同様に、抜き粕自体の腐敗(変質)を招いてしまう。そこで、ゴーヤを投入した粕床の容器は、冷暗所などできるだけ涼しいところに保管することが望ましい。
【0025】
なお、ゴーヤを粕床の内部に投入した容器(例えば、ジッパー付き耐熱ポリ袋)を、電子レンジで加熱した後、漬け工程ST4に投じてもよい。この時の加熱条件は、200wで、ゴーヤ及び粕床の重量100gあたり1分間とするのが望ましい。このような誘電加熱処理をすることで、抜き粕の適度な発酵を促すことができる。
【0026】
次に、漬け工程ST4を終えた粕床からゴーヤを取り出し(取出し工程ST5)、ゴーヤに付着している抜き粕を取り除き、適宜の大きさに切り分けることで、ゴーヤの抜き粕漬けが完成する。完成したゴーヤの抜き粕漬けは、必要な分だけ取り分けてそのまま食してもよいし、密閉可能なポリ袋に入れて、脱気した状態で冷蔵保存または冷凍保存してもよい。
【0027】
沖縄県は亜熱帯地方であり、一年を通してゴーヤの収穫ができることから、保存の必要性がなく、加えて平均気温が高いために発酵速度の制御が難しく、漬物文化が発展していなかった。ところが、本発明によりゴーヤの加工保存が容易になり、沖縄地方における漬物文化の発展に寄与することができる。
【0028】
一方、ゴーヤは、栽培のための肥料や農薬が不要で、育成管理が簡易である。加えて、近年のSDGs志向の高まりや温暖化対策の一環で、ゴーヤを緑のカーテンとして、全国的に一般家庭で栽培されるようになった。しかしながら、ゴーヤのような果菜は日持ちがせず、かといって大量に消費することもできなかった。そこで、本発明を利活用することにより容易にゴーヤを加工保存でき、廃棄量を削減することが可能となる。
【0029】
また、本発明によれば、加工や保存過程に機械装置を使用することなく、容易にゴーヤの抜き粕漬けを製造することができるため、電力使用量や二酸化炭素排出量を低減することに繋がり、SDGs志向に合致する。
【0030】
さらに、本発明に係るゴーヤの抜き粕漬けは、一般的な漬物に比べて塩分濃度や糖度が低く、逆に、酵母や酵素、ミネラル、アミノ酸等の栄養価が高く、食感も良好なため、健康食品として摂取しやすい。
【実施例0031】
しま瓜を奈良漬にした際に用いた使用済の酒粕(抜き粕)1000gと、ポリエチレン樹脂製の容器を用意し、抜き粕を容器内に入れて粕床を形成した(粕床形成工程ST1)。
【0032】
次に、生鮮のゴーヤを3本(約750g)用意し、それぞれの両端を切り落とすとともに、各ゴーヤを包丁で縦割りに二分割して、内部のタネとワタをスプーンでこそげ取り、流水で表面汚れ等を洗浄して、下処理工程ST2を行った。
【0033】
次に、縦割りにしたゴーヤを、塩漬けすることなく生鮮のまま、容器内のペースト状の抜き粕の中に縦向きに投入した(投入工程ST3)。ゴーヤを粕床に投入し終わった時点で、容器上部のフチと抜き粕の上面との間に約5cmの空気層が形成された。そして、容器の開口部をガーゼで覆い、掛け紐で括って、異物が混入しないようにした。
【0034】
次に、ゴーヤを投入した粕床の容器を昼夜の温度変化が少なく風通しの良い冷暗所(平均気温が約15℃の場所)に設置して、24時間漬け込んだ(漬け工程ST4)。
【0035】
最後に、容器から漬け終わったゴーヤをすべて取り出し(取出し工程ST5)、濡れた布でゴーヤの周囲に付着していた抜き粕をぬぐい取り、4枚のゴーヤ(2本分)を薄切りにして、ゴーヤの抜き粕漬けが完成した。なお、残りのゴーヤ(1本分)は薄切りにせずに、ポリ袋に脱気収納して冷凍保存した。
【0036】
発明者は、本発明によって製造されたゴーヤの抜き粕漬け(実施例)と、一般に知られているゴーヤの粕漬け(比較例)の味について官能試験を行った。なお、一般的なゴーヤの粕漬けは、非特許文献1のレシピに基づいて製造した。試験は、10名のパネラーにより実施し、酸味、塩味、苦味、香り、食感および総合について、それぞれ10満点で評価した。その結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
表1に示した結果から分かるように、官能評価では本発明に係る製造方法によって得られたゴーヤの抜き粕漬けは、一般的なゴーヤの粕漬けに比べて良い評価を得られ、特に食管にいたっては顕著な有意差が見られた。