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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050354
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/463 20230101AFI20230404BHJP
【FI】
C02F1/463
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160413
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】奈良 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩史
【テーマコード(参考)】
4D061
【Fターム(参考)】
4D061DA02
4D061DB11
4D061DB18
4D061DC03
4D061DC09
4D061EA06
4D061EB01
4D061EB05
4D061EB14
4D061EB19
4D061EB28
4D061EB39
4D061EB40
4D061EC01
4D061FA09
4D061FA13
4D061FA14
4D061GC12
4D061GC20
(57)【要約】
【課題】被処理水からフミン質を効率的に除去することが可能な水処理装置を提供する。
【解決手段】フミン質11bを含む被処理水21が流入する電解槽4と、電解槽4内において被処理水21に浸漬する第一電極10a及び第二電極10bと、第一電極10aと第二電極10bとの間に電流を印加する電源5と、を備え、第一電極10a及び第二電極10bは、電源5から電流を印加することで鉄イオン11cが溶出する材料で構成される。第一電極10a及び第二電極10bは、電源5から電流を印加した際に、陽極側においてフミン質11bと鉄イオン11cとの反応により形成される第一生成物11fと、陰極側において水酸化物イオン11dと鉄イオン11cとの反応により形成される第二生成物11gとが凝集してフロック11hを形成するように配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フミン質を含む被処理水が流入する電解槽と、
前記電解槽内において前記被処理水に浸漬する第一電極及び第二電極と、
前記第一電極と前記第二電極との間に電流を印加する電源と、を備え、
前記第一電極及び前記第二電極の少なくとも一方は、前記電源から電流を印加することで鉄イオンが溶出する材料で構成され、
前記第一電極及び前記第二電極は、前記電源から電流を印加した際に、陽極側において前記フミン質と前記鉄イオンとの反応により形成される第一生成物と、陰極側において水酸化物イオンと前記鉄イオンとの反応により形成される第二生成物とが凝集してフロックを形成するように配置されていることを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記第一電極と前記第二電極との間の電極間距離は、0.5mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
前記電源は、前記被処理水に含まれる前記フミン質の濃度に対して、前記第一電極及び前記第二電極の少なくとも一方から溶出する前記鉄イオンの濃度が2倍以上となるように電流を印加することを特徴とする請求項1または2に記載の水処理装置。
【請求項4】
前記第一電極及び前記第二電極は、いずれも前記電源から電流を印加することで鉄イオンが溶出する材料で構成され、電流を印加した際に、前記第一電極と前記第二電極との間で極性を反転させることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項5】
前記被処理水から前記フロックを除去する分離部をさらに備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、井戸、河川、又は池などの水源の水を、飲料水や生活用水として利用するために浄化する水浄化方法が開示されている。浄化により水から除去する物質は、例えば、濁りの原因である無機懸濁物あるいは色や臭気の原因である溶存有機物である。溶存有機物に関しては、例えば、インドネシアのカリマンタン島及びスマトラ島に代表される泥炭地域の水源の水には、フミン質という溶存有機物が高濃度で含まれることから色度が高く、生活水用途に用いる場合には洗濯物が着色する等問題となる。フミン質の除去方法としては、凝集剤を用いてフミン質を沈殿させて除去する凝集沈殿法(特許文献1参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-216738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フミン質が含まれた色度の高い水から、色度の原因であるフミン質を凝集沈殿法で除去しようとする場合、フミン質の分子が小さいことから凝集させることが難しく、沈殿が容易な大きさのフロック(凝集剤及び、懸濁物或いは溶存物による沈殿物)を形成しづらいという課題があった。
【0005】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、従来の凝集沈殿技術において困難であった被処理水からのフミン質の効率的な除去を可能とする水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そして、この目的を達成するために、本発明に係る水処理装置は、フミン質を含む被処理水が流入する電解槽と、電解槽内において被処理水に浸漬する第一電極及び第二電極と、第一電極と第二電極との間に電流を印加する電源と、を備え、第一電極及び第二電極の少なくとも一方は、電源から電流を印加することで鉄イオンが溶出する材料で構成され、第一電極及び第二電極は、電源から電流を印加した際に、陽極側においてフミン質と鉄イオンとの反応により形成される第一生成物と、陰極側において水酸化物イオンと鉄イオンとの反応により形成される第二生成物とが凝集してフロックを形成するように配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、被処理水からフミン質を効率的に除去することが可能な水処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明に係る実施の形態の水処理装置1の浄化処理時における模式図である。
図2図2は、本発明に係る実施の形態1の電解槽の電気分解における模式図である。
図3図3は、本発明に係る実施の形態の水処理装置1の処理後水の色度を示した図である。
図4図4は、本発明に係る実施の形態の水処理装置1の処理後水の色度を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る水処理装置は、フミン質を含む被処理水が流入する電解槽と、電解槽内において被処理水に浸漬する第一電極及び第二電極と、第一電極と第二電極との間に電流を印加する電源と、を備え、第一電極及び第二電極の少なくとも一方は、電源から電流を印加することで鉄イオンが溶出する材料で構成され、第一電極及び第二電極は、電源から電流を印加した際に、陽極側においてフミン質と鉄イオンとの反応により形成される第一生成物と、陰極側において水酸化物イオンと鉄イオンとの反応により形成される第二生成物とが凝集してフロックを形成するように配置されている。こうした構成によれば、水処理装置に電流を印加することにより、第一生成物及び第二生成物を形成させることができ、第一生成物と第二生成物とが凝集することにより、フミン質を取り込んだフロックを形成することができる。したがって、サイズの小さなフミン質をフロックとして沈殿させることができ、被処理水からフミン質を効率的に除去することが可能となる。
【0010】
また、本発明に係る水処理装置では、第一電極と第二電極との間の電極間距離を、0.5mm以上としてもよい。このような構成とすることにより、電極から剥がれ落ちる不働態が電極間に詰まることを低減できる。したがって、不働態が詰まった部分に電流が流れなくなることにより、第一生成物と第二生成物の生成、及びフロックの形成が、阻害される可能性を低減できる。
【0011】
また、本発明に係る水処理装置は、電源により、被処理水に含まれるフミン質の濃度に対して、第一電極及び第二電極の少なくとも一方から溶出する鉄イオンの濃度が2倍以上となるように電流を印加する。このような構成とすることにより、第一生成物の生成及び第二生成物の生成に十分な鉄イオンが溶出する。したがって、第一生成物及び第二生成物の凝集物であるフロックを効率的に形成でき、被処理水21中のフミン質11bを効率よく除去することが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る水処理装置は、第一電極及び第二電極が、いずれも電源から電流を印加することで鉄イオンが溶出する材料で構成され、電流を印加した際に、第一電極と第二電極との間で極性を反転させる。このような構成とすることにより、不働態が蓄積して電流を十分に印加できなくなった電極表面から不働態を剥がし落とすことができる。したがって、不働態の蓄積を抑制でき、不働態により電流が流れなくなり、浄化処理効率が低減することを抑制可能となる。
【0013】
また、本発明に係る水処理装置は、電解処理を行った被処理水からフロックを除去する分離部をさらに備える。このような構成とすることにより、処理後水に残留するフロックをより確実に除去することができる。したがって、被処理水からのフミン質の除去効率を向上することができる。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。また、実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、各図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0015】
本発明の実施の形態を具体的に説明する前に、従来技術の課題を改めて説明するとともに、実施の形態の概要を説明する。
【0016】
上述のように、泥炭地域の原水には、フミン質のような溶存有機物が含まれており、色度が高い場合がある。例えば、インドネシアのスマトラ島では、原水の色度が100TCU~500TCU(TCU:true color units)であり、あたかも紅茶の様な色を呈している。原水に含まれるフミン質は、植物などが微生物による分解を経て生成された生成物である。フミン質は、大きく分けてヒュームス質、フミン酸、及びフルボ酸から構成されており、分子の大きさは、ヒュームス質、フミン酸、及びフルボ酸の順に小さくなる。フミン質において、アルカリ水溶液で沈殿するものをヒュームス質といい、アルカリ水溶液に可溶であるが酸水溶液で沈殿するものをフミン酸といい、アルカリ水溶液にも酸水溶液にも可溶なものをフルボ酸という。フミン質のような元々サイズが極めて小さい溶存物に凝集沈殿法を適用しても、除去対象物を沈殿に十分な大きさのフロックにまで凝集させることは難しく、十分な浄化性能は得られない。そこで本発明者は基礎検討を重ね、フミン質をも凝集させ粗大化させる成分を、鉄電極を用いた電解処理によって生成可能であることを見出した。具体的には、フミン質を含む水中に浸漬した鉄の電極間に直流電流を印加する。これにより、陽極側からは鉄イオンが溶出し、鉄イオンとフミン質とがキレート錯体を形成し、陰極側で生成された水酸化物イオンと鉄イオンとが水酸化鉄を形成する。そして、キレート錯体と水酸化鉄とが互いに凝集し、沈殿に十分な大きさのフロックを形成することを発見した。フロックは、沈殿、或いは、ろ過精度0.1~1μm程度のMF(Microfiltration)膜分離等の固液分離法で容易に除去可能である。本実施形態の水処理装置は、この凝集作用を用いて被処理水からフミン質を除去することが可能な装置である。
【0017】
(実施の形態1)
図1を参照して、本実施の形態1に係る水処理装置1について説明する。図1は、本発明に係る実施の形態1の水処理装置1の浄化処理時における模式図である。
【0018】
本実施の形態1の水処理装置1は、図1に示すように、フミン質を含み色度の高い被処理水21を浄化して無色透明の生活用水として使用するための装置である。具体的には、水処理装置1は、流入口2と、浄水排出口3と、電解槽4と、電源5と、分離部6と、流入管7と、送水管8と、排出管9と、第一電極10aと、第二電極10bとを有して構成される。
【0019】
流入口2は、フミン質を含む被処理水21であり、水処理装置1の外部から圧送されてきた被処理水21を、装置内に導入するための開口である。流入口2により、井戸、河川、又は池などの水源から、被処理水21が水処理装置1内に導入される。流入口2は、水処理装置1を構成する筐体に設けられており、装置内の流入管7によって電解槽4と連通接続されている。
【0020】
浄水排出口3は、水処理装置1で処理された被処理水21を処理後水22として装置外部に取り出すための開口である。流量と浄水排出口3は装置を構成する筐体に設けられており、装置内の排出管9と連通接続されている。
【0021】
電解槽4は、第一電極10aと第二電極10bを内部に固定し、被処理水21を内部に取り込み、電気分解を行うための容器である。電解槽4の内部は、流入管7及び送水管8と連通接続されている。
【0022】
電源5は、第一電極10a及び第二電極10bに接続されており、第一電極10aと第二電極10bの間に電流を印加する。また、電源5は第一電極10aと第二電極10bに印加される電流の極性を反転させる転極を行う回路を内蔵している。
【0023】
分離部6は、電解槽4内における電気分解で発生する凝集物であり、フミン質を取り込んだ凝集物を分離除去する。分離部6は、ろ過精度1μmのろ過膜である。分離部6に用いるろ過膜としては、例えばMFろ過膜を用いることができる。分離部6は、送水管8と排出管9に連通接続されている。
【0024】
流入管7は、流入口2及び電解槽4と連通接続されており、流入口2から取り込まれた被処理水21を電解槽4に届ける。
【0025】
送水管8は、電解槽4及び分離部6と連通接続されており、電解槽4で電気分解により処理された被処理水21を分離部6に届ける。
【0026】
排出管9は、分離部6及び浄水排出口3と連通接続されている。排出管9は、分離部6で凝集物が分離除去された被処理水21を浄水排出口3に届ける。
【0027】
被処理水21は、流入口2から連続的に取り込まれ、流入管7~電解槽4~送水管8~分離部6~排出管9を流れることにより、浄化処理される。浄化処理された被処理水21は、処理後水22として浄水排出口3から連続的に取り出される。被処理水21が流入口2に取り込まれる流量と、被処理水21が流入管7を流れる流量、被処理水21が電解槽4に流入・流出する流量、被処理水21が送水管8を流れる流量、被処理水21が分離部6に流入・流出する流量、被処理水21が排出管9を流れる流量、処理後水22が浄水排出口3から取り出される流量はそれぞれ同じである。
【0028】
第一電極10a及び第二電極10bは、いずれも鉄で構成されている。第一電極10aと第二電極10bとは対面で設置されており、電極の間の距離は3mmである。なお、電極間の距離は、0.5mm以上であることが好ましい。これは、後述するフロック11hあるいは電極上に形成される不働態が電極間に詰まる可能性を低減するためである。また、電極間の距離を大きくするにしたがい、後述する反応である、陽極から溶出する鉄イオンと陰極から発生する水酸化物イオンとの反応の発生頻度が低下する可能性、及び、主に陽極付近で生成する第一生成物11fと主に極間で生成する第二生成物11gとがフロック11hを形成する反応の発生頻度が低下する可能性が高まる。つまり、電極間の距離を小さくすることにより、第二生成物11g及びフロック11hの形成効率が向上する。したがって、電極間の距離は、不働態及びフロック11hが詰まらない程度に小さくすることが好ましく、水処理装置1では、電極間の距離を3mmとした。
【0029】
第一電極10a及び第二電極10bは、電源5と接続されている。電源5により、第一電極10aと第二電極10bの間に直流電流が印加され、被処理水21の電気分解が行われる。第一電極10a及び第二電極10bは、いずれか片方が陽極側になり、もう一方が陰極側となる。電気分解により、陽極側の電極からは鉄イオン11cが溶出し、陰極側からは水酸化物イオンが発生する。鉄イオン11c及び水酸化物イオン11dは、いずれもフミン質11bを取り込むフロック11hを形成する成分となる。鉄イオン11cの溶出量は、印加する電流量により制御可能であり、電流量の増減に比例して鉄イオン11cの溶出量も増減する。したがって、被処理水21に含まれるフミン質11bの濃度に応じて印加する電流量を設定することで、水質に応じて鉄イオン11cの溶出量を制御でき、被処理水21の浄化処理を行うことができる。
【0030】
また、第一電極10a及び第二電極10bは、電源5に内蔵された回路によって転極される。第一電極10a及び第二電極10bは、両極とも鉄で構成されている。したがって、後述する電気分解反応における陽極及び陰極のどちらの極としても作用することができるため、転極中においても、浄化処理を継続することができる。
【0031】
さらに、転極によって、陽極側と陰極側とを反転させることにより、鉄イオン11cを放出する電極を入れ替えることができる。したがって、一方の電極のみが消費されることを抑制できる。
【0032】
加えて、転極により、電極付近での化学反応が促進される。つまり、転極によって、浄化処理の反応の発生頻度を向上させることができる。例えば、転極によって陽極から陰極となった極付近では、転極前に溶出した鉄イオン11cと、転極後に発生した水酸化物イオン11dとの両方が比較的高濃度で存在している。そのため、転極により第二生成物11gが生成しやすくなる。さらに、生成した第二生成物11gと、転極前に生成した第一生成物11fとが反応することにより、フロック11hが生成する。また、転極によって陰極から陽極となった極付近では、転極前に発生した水酸化物イオン11dと、転極後に溶出した鉄イオン11cとの両方が比較的高濃度で存在している。そのため、転極により第二生成物11gが生成しやすくなる。さらに、転極前には鉄イオン11cの濃度が比較的低いために反応していなかったフミン質11bが、溶出してきた鉄イオン11cと反応し、第一生成物11fが生成しやすくなる。そして、第一生成物11fと第二生成物11gとが反応し、フロック11hが生成しやすくなる。したがって、転極を行うことにより、第二生成物11g及びフロック11hの形成反応の発生頻度を上昇させることができる。なお、不働態の除去を行うための転極は、例えば1週間に一度行うのに対し、化学反応を促進するために行う転極は、30分に一回程度行うようにしてもよい。
【0033】
ここで、図2を参照して、電解槽4における電気分解について詳細に説明する。図2は本発明に係る実施の形態1の電解槽4の電気分解における模式図である。
【0034】
電解槽4の内部に配置された第一電極10aは、鉄で構成されている。式(1)に示すように、被処理水21が電解槽4に流入後、電源5により陽極である第一電極10aと陰極である第二電極10bの間に電流が印加され、陽極側からは電気分解によりFe2+が溶出する。
【0035】
Fe→Fe2++2e・・・式(1)
溶出したFe2+は、その殆どが速やかにFe3+(鉄イオン11c)に酸化される。鉄イオン11cの濃度制御方法について説明する。電源5により、第一電極10aと第二電極10bとの間に印加する電流値をx[A]とすると、式(1)とファラデーの電気分解の法則により、1秒あたりに生成するFe2+ののモル量はx/(96485×2)[mol]であり、Fe2+の重量は55.85×x/(96485×2×10)[mg]である。被処理水21が電解槽4に取り込まれる流量をy[L/s]とすると、被処理水21に取り込まれたFe2+の濃度は、55.85×x/(96485×2×y×10)[mg/L]、すなわち、2.89×(x/y)×10-7 [mg/L]である。Fe2+の濃度は、Fe3+である鉄イオン11cの濃度と同じであるため、被処理水21に溶出する鉄イオン11cの濃度は、2.89×(x/y)×10-7 [mg/L]で制御可能である。
【0036】
鉄イオン11cは、フミン質11bと結合し、第一生成物11fとなる。フミン質11bは、被処理水21に含まれ、その大きさは10nm~100nm程度である。したがって、ろ過精度0.1~1μm程度のMF膜等では除去することが難しい。しかし、鉄イオン11cとフミン質11bとが結合することにより、大きさ10nm~100nm程度と小さいものの、様々な粒子と凝集しやすいキレート錯体である第一生成物11fとなる。第一生成物11fは、キレート錯体であるため、後述する第二生成物11gと吸着しやすい。
【0037】
一方、陰極では、式(2)に示すように、水分子11aが電気分解され、水素11e及び水酸化物イオン11dが生成する。
【0038】
2HO+2e→H+2OH・・・式(2)
式(3)に示すように、生成した水酸化物イオン11dは、鉄イオン11cと結合し、大きさ100nm~1μm程度の水酸化鉄粒子である第二生成物11gとなる。
【0039】
Fe3++3OH→Fe(OH)・・・式(3)
第一生成物11fと第二生成物11gとは、互いに吸着して凝集する性質を有しており、第一生成物11fと第二生成物11gとが凝集することにより、粗大なフロック11hが形成される。フロック11hは電解槽4の内部や送水管8の内部で成長する。このフミン質11bを含んだ粗大なフロックは、最終的にサイズが数μm以上に達することから、後段の分離部6でのMF膜ろ過(ろ過精度0.1~1μm程度)によって容易に分離できる。フロック11hが分離除去された水は、排出管9及び浄水排出口3から処理後水22として得られ、生活用水として供給される。
【0040】
改めて、水処理装置1における被処理水21の浄化処理について説明する。フミン質11bを含む被処理水21は、流入口2によって水処理装置1内に導入され、電解槽4に流入する。被処理水21は、電解槽4内の第一電極10a及び第二電極10bにより電気分解される。電気分解により、陽極では式(1)の反応が起こり、鉄イオン11cが溶出する。被処理水21中のフミン質11bは、鉄イオン11cと反応し、第一生成物11fが生じる。また、式(3)に示すように、電気分解の際に式(2)の反応により生成する水酸化物イオン11dと、鉄イオン11cとが反応することにより、第二生成物11gが生じる。キレート錯体である第一生成物11fは、第二生成物11gと互いに吸着して凝集することにより、フロック11hを形成する。つまり、被処理水21中のフミン質11bが、フロック11h中に取り込まれる。フロック11hを含む水は、送水管8により、分離部6へと送水される。分離部6は、MF膜を有し、ろ過を行うことにより、フロック11hを分離する。フロック11hが分離された水は、排出管9により浄水排出口3へと送水され、浄水排出口3から処理後水22として排出される。処理後水22は、色度が低減された生活用水として用いることができる。
【0041】
ここで図3を参照して、水処理装置1によるフミン質の浄化試験の実験結果を示す。図3は、本発明に係る実施の形態の水処理装置1の処理後水22の色度を示した図である。比較のために、実験で用いた被処理水の色度と、一般的な凝集沈殿法として、PSI(Poly Silicate Iron)で凝集した後にMF膜でろ過した実験結果についても併記した。
【0042】
被処理水21の色度300TCUは、主にフミン質11bによるものであり、一般的な凝集沈殿法での浄化後の色度255TCUと比較して、水処理装置1で浄化後の水である処理後水22の色度は、20TCUに低下しており、フミン質11bがよく除去されている。
【0043】
なお、ここまで述べた電気分解を長時間(例えば、5日間)行った場合、陰極である第二電極10bの表面には徐々に水酸化鉄等の不働態が形成され、極板間に印加される電流が低下するなどの不具合の原因となる。この不働態は、電極の極性を入れ替えることにより剥がし落とすことができるため、第一電極10aと電極板の極板間に印加される電圧の極性は、定期的(例えば、1週間に1回)に電源に内蔵された回路により反転制御されることが望ましい。転極後、電流を印加したまま不働態が剥がれ落ちるまで待機した後、再度転極を行い元の極性に戻しても良い。また、水処理装置1では、第一電極10aだけでなく、第二電極10bも鉄で構成しているため、転極後には第一電極10aが陰極、第二電極10bが陽極として作用する。したがって、不働態を剥がし落としながらそのまま連続的に式(1)~式(3)で示した処理と同等の処理を行うことが可能となる。また、剥がれ落ちる不働態のサイズは概ね0.5mmであるため、極板間は少なくとも0.5mm以上離すことで、電極の間に剥がれ落ちた不働態が詰まり、詰まった部分に電流が流れず、式(1)~式(3)で示した電気分解を行うことができなくなる可能性を低減できる。さらには、不働態の剥がれ落ちを促進するために、極板は電解槽内の水流の方向に並行に配置されることが望ましい。また、第一電極10a或いは第二電極10bから溶出させる鉄イオン11cの濃度は、被処理水21中のフミン質11bとキレート錯体を形成し、また十分な量の水酸化鉄を得るために、フミン質11bの濃度の2倍以上とすることが望ましい。
【0044】
ここで図4を参照して、鉄イオンの溶出濃度とフミン質の除去効率の関係について詳細に説明する。図4は、本発明に係る実施の形態1の水処理装置1でフミン質11bの濃度100mg/Lの被処理水21中のフミン質を除去し、処理後水22の色度を測定した結果である。鉄の溶出濃度を10mg/L~300mg/Lで変化させた場合、フミン質の濃度100mg/Lの2倍以上となる鉄イオン濃度200mg/L以上でフミン質濃度の指標である色度2.5TCUと十分下がった処理後水22を得ることができる。
【0045】
鉄の溶出濃度が低い場合(図4での10mg/L~150mg/L)、生じた鉄イオン11cは、第二生成物11gの生成によって消費されてしまい、第一生成物11fにフミン質11bが取り込まれづらくなる。或いは、第一生成物11f及び第二生成物11gは生成するものの、少量であるため、フロック11hの形成反応が生じづらくなる。そのため、フミン質11b或いは第一生成物11f或いは第二生成物11gにより、被処理水21の色度が上昇する。一方、鉄の溶出濃度をフミン質11bの濃度の2倍以上とした場合(図4での200mg/L~300mg/L)には、鉄イオン11cは、第二生成物11gだけでなく、第一生成物11fの生成にも十分に供される。したがって、水中に第一生成物11f及び第二生成物11gが十分に存在し、フロック11hの形成反応が発生しやすくなる。したがって、被処理水21の色度を低減することができる。
【0046】
一方で、鉄の溶出濃度を過剰に大きくすると、過剰な水酸化鉄を生成することになるため、フミン質11bが取り込まれるよりも過剰に鉄イオン11cを溶出させるのは好ましくない。
【0047】
したがって、第一電極10a或いは第二電極10bから溶出させる鉄イオン11cの濃度は、被処理水21中のフミン質11bとキレート錯体を形成し、また十分な量の水酸化鉄を得られる量とすればよく、水処理装置1では、フミン質11bの濃度の2倍以上となるように電流を印加した。なお、ここでフミン質11bの濃度の2倍と設定した第一電極10a或いは第二電極10bから溶出させる鉄イオン11cの濃度は、フミン質11bと反応する鉄イオン11c及び水酸化物イオン11dと反応する鉄イオン11cを含む濃度である。
【0048】
以上のように、水処理装置1では、上述した電解槽4により、浄化処理を行うことでフミン質を除去し、被処理水21の浄化を行うことができる。
【0049】
以上、本実施の形態1に係る水処理装置1によれば、以下の効果を享受することができる。
【0050】
(1)水処理装置1は、フミン質11bを含む被処理水21が流入する電解槽4と、電解槽4内において被処理水21に浸漬する第一電極10a及び第二電極10bと、第一電極10aと第二電極10bとの間に電流を印加する電源5と、を備え、第一電極10a及び第二電極10bの少なくとも一方は、電源5から電流を印加することで鉄イオンが溶出する材料で構成され、第一電極10a及び第二電極10bは、電源5から電流を印加した際に、陽極側においてフミン質11bと鉄イオン11cとの反応により形成される第一生成物11fと、陰極側において水酸化物イオン11dと鉄イオン11cとの反応により形成される第二生成物11gとが凝集してフロック11hを形成するように配置されている。こうした構成によれば、水処理装置1に電流を印加することにより、第一生成物11f及び第二生成物11gを形成させることができ、第一生成物11fと第二生成物11gとが凝集することにより、フミン質11bを取り込んだフロック11hを形成することができる。したがって、サイズの小さなフミン質11bをフロック11hとして沈殿させることができ、被処理水21からフミン質11bを効率的に除去することが可能となる。
【0051】
(2)水処理装置1は、第一電極10aと第二電極10bとの間の電極間距離を、0.5mm以上となるように構成された。このような構成とすることにより、電極から剥がれ落ちる不働態が電極間に詰まることを低減できる。したがって、不働態が詰まった部分に電流が流れなくなることにより、第一生成物11fと第二生成物11gの生成、及びフロック11hの形成が、阻害される可能性を低減できる。
【0052】
(3)水処理装置1は、電源5により、被処理水21に含まれるフミン質11bの濃度に対して、第一電極10a及び第二電極10bの少なくとも一方から溶出する鉄イオン11cの濃度が2倍以上となるように電流を印加された。このような構成とすることで、第一生成物11fの生成及び第二生成物11gの生成に十分な鉄イオン11cが溶出する。したがって、第一生成物11f及び第二生成物11gの凝集物であるフロック11hを効率的に形成でき、被処理水21中のフミン質11bを効率よく除去することが可能となる。
【0053】
(4)水処理装置1は、第一電極10a及び第二電極10bが、いずれも電源5から電流を印加することで鉄イオン11cが溶出する材料で構成され、電流を印加した際に、第一電極10aと第二電極10bとの間で極性を反転させる。このような構成とすることで、不働態が蓄積して電流を十分に印加できなくなった電極表面から不働態を剥がし落とすことができる。したがって、不働態の蓄積を抑制でき、不働態により電流が流れなくなり、浄化処理効率が低減することを抑制可能となる。また、転極によって、陽極側と陰極側とを反転させることにより、鉄イオン11cを放出する電極を入れ替えることができる。したがって、一方の電極のみが減っていくことを抑制できる。
【0054】
また、両極とも鉄イオン11cを溶出する材料で構成されていることから、例えば転極によって陽極から陰極となった極付近では、転極前に溶出した鉄イオン11cと、転極後に発生した水酸化物イオン11dとの両方が比較的高濃度で存在している。また、転極によって陰極から陽極となった極付近では、転極前に発生した水酸化物イオン11dと、転極後に溶出した鉄イオン11cとの両方が比較的高濃度で存在している。したがって、転極を行うことにより、第二生成物11g及びフロック11hの形成反応の発生頻度を上昇させることができる。
【0055】
(5)水処理装置1は、電解処理を行った被処理水21からフロック11hを除去する分離部6をさらに備える。このような構成とすることにより、処理後水22に残留するフロック11hをより確実に除去することができる。したがって、被処理水21からのフミン質の除去効率を向上することができる。
【0056】
以上、本発明に関して実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素あるいは各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されているところである。
【0057】
本実施の形態1に係る水処理装置1において、例えば、電解槽4や送水管8の内部に攪拌機或いはバブリング等の攪拌機構を設けていても良い。これにより、陽極から溶出する鉄イオンと陰極から発生する水酸化物イオンとの反応の発生頻度、及び、主に陽極付近で生成する第一生成物11fと主に極間で生成する第二生成物11gとがフロック11hを形成する反応の発生頻度が向上する。したがって、フロック11hの形成及び成長をより早く安定に実現することができ、被処理水21の浄化処理を速やかに行うことが可能となる。
【0058】
また、本実施の形態1に係る水処理装置1では、分離部6ではMF膜ろ過を行うように構成したが、これに限られない。例えば、分離部6では、MF膜ろ過以外にも、粒状のろ材を用いたろ過を用いることができる。粒状のろ材としては、例えば、砂、アンスラサイト、ガーネット、セラミックス、活性炭、オキシ水酸化鉄、マンガン砂など、水中で沈降し、圧力で変形しにくい硬度をもつものであればよく、これらの材料を上下方向に積層したものを用いてもよい。
【0059】
また、本実施の形態1に係る水処理装置1において、電解槽4での電気分解処理後に、高分子凝集剤や無機系凝集剤を追加で注入してもよい。このようにすることで、フロック11hの成長をより早く安定に実現することができる。
【0060】
また、本実施の形態1に係る水処理装置1では、分離部6ではMF膜ろ過を行うように構成したが、これに限られない。例えば、分離部6は、フロック11hを沈殿させる沈殿池としても良い。これにより、電解処理後の被処理水21が沈殿池に流入後、フロック11hが沈殿池の底部に沈殿するまで待機した後に上澄み液を取り出すことで、フミン質11bの濃度の十分低い処理後水22を得ることができる。沈殿池とする場合において、フロックを沈殿させる時間をより確実に制御するためには、送水管8にバルブを設けて分離部6への電解処理後の被処理水21の連続的な流入を阻止することで、沈殿池内の全てのフロック11hが沈殿するために必要な沈殿時間を確保することができる。また、電解槽4が沈殿池の機能を兼ねていても良い。
【0061】
また、本実施の形態1に係る水処理装置1では、第一電極10a及び第二電極10bの素材として、鉄を用いたが、これに限られない。例えば、電極の素材は鉄であることが望ましいが、鉄以外にも、フミン質11bをキレートし、水酸化物化してキレート錯体と凝集するイオンを溶出する素材として、より安価なアルミを用いることもできる。
【0062】
また、本実施の形態1に係る水処理装置1では、第一電極10a及び第二電極10bの素材として、両極ともに鉄を用いたが、これに限られない。例えば、陽極のみに鉄を用いるようにしてもよい。
【0063】
また、本実施の形態1に係る水処理装置1では、転極を制御する回路を電源5内に内蔵したが、これに限らない。転極の制御は、電極と電源5を接続する回路を手動で繋ぎ替えることで行っても良い。
【0064】
また、本実施の形態1に係る水処理装置1では、被処理水21が流入口2に取り込まれる流量と、被処理水21が流入管7を流れる流量、被処理水21が電解槽4に流入及び流出する流量、被処理水21が送水管8を流れる流量、被処理水21が分離槽6に流入及び流出する流量、被処理水21が排出管9を流れる流量、及び処理後水22が浄水排出口3から取り出される流量はそれぞれ同じである、つまり、被処理水21は、水処理装置1内の各構成要素内をそれぞれ一定流量で流通しているとしたが、これに限られない。例えば、電解槽4に被処理水21を一定量貯留し、貯留した被処理水21の電気分解を行い、送水管8に送水するようにしてもよい。これにより、フロック11hの一部が電解槽4内に沈殿するため、分離部6に送出されるフロック11hの量が減少する。したがって、分離部6のメンテンナンス頻度(例えば、MF膜の交換頻度)を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る水処理装置は、フミン質を含んだ水源の水からフミンを除去し、色度を低減した生活用水を得る上で有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 水処理装置
2 流入口
3 浄水排出口
4 電解槽
5 電源
6 分離部
7 流入管
8 送水管
9 排出管
10a 第一電極
10b 第二電極
11a 水分子
11b フミン質
11c 鉄イオン
11d 水酸化物イオン
11e 水素
11f 第一生成物
11g 第二生成物
11h フロック
21 被処理水
22 処理後水
図1
図2
図3
図4