IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越ポリマー株式会社の特許一覧

特開2023-50376樹脂フィルム、導電積層板、及び回路基板
<>
  • 特開-樹脂フィルム、導電積層板、及び回路基板 図1
  • 特開-樹脂フィルム、導電積層板、及び回路基板 図2
  • 特開-樹脂フィルム、導電積層板、及び回路基板 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050376
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、導電積層板、及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/00 20060101AFI20230404BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230404BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230404BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20230404BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C08L71/00 Z
H05K1/03 610H
H05K1/03 610R
C08J5/18 CEZ
C08K3/34
B32B15/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160442
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】小泉 昭紘
(72)【発明者】
【氏名】片桐 航
(72)【発明者】
【氏名】権田 貴司
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA51
4F071AB30
4F071AD06
4F071AF15
4F071AF40
4F071AF58
4F071AF61
4F071AH13
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F100AB01B
4F100AC05A
4F100AK54A
4F100AK56A
4F100BA02
4F100BA07
4F100GB43
4F100JA03
4F100JG05
4F100JK02
4F100JK06
4J002CH091
4J002DJ056
4J002FD016
4J002GF00
4J002GN00
4J002GQ02
4J002GQ05
(57)【要約】
【課題】密着性や機械的強度の向上とエッチング後における寸法収縮率の低減を並立することのできる樹脂フィルム、導電積層板、及び回路基板を提供する。
【解決手段】熱可塑性の結晶性樹脂であるポリアリーレンエーテルケトン樹脂とマイカとを含有する成形材料により溶融押出成形されて導電積層板や回路基板の材料とされる樹脂フィルム1であり、成形材料の組成体積比率が、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂70体積%以上95体積%以下であるとともに、マイカ5体積%以上30体積%以下であり、マイカは、粒径1μm以下のマイカ粒子の占める量が全マイカ粒子の20%以下とされ、メジアン径D50が2.0μm以上10μm以下のマイカ粒子を含有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリアリーレンエーテルケトン樹脂とマイカとを含有する成形材料により成形される樹脂フィルムであって、
成形材料の組成体積比率は、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂が70体積%以上95体積%以下であるとともに、マイカが5体積%以上30体積%以下であり、
成形材料のマイカは、粒径1μm以下のマイカ粒子の占める量が全マイカ粒子の20%以下であり、メジアン径D50が2.0μm以上10μm以下のマイカ粒子を含むことを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項2】
成形材料の組成体積比率は、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂が80体積%以上95体積%以下であるとともに、マイカが5体積%以上20体積%以下である請求項1記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
マイカを、合成マイカとした請求項1又は2記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
マイカ粒子の比表面積を、3.0m/g以上とした請求項1、2、又は3記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
マイカ粒子の比表面積を、4.0m/g以上とし、かつ粒径1μm以下のマイカ粒子の占める量を全マイカ粒子の10%以下とした請求項1ないし4のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
マイカ粒子のメジアン径D50を、2.0μm以上6.0μm以下とした請求項1ないし5のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
マイカ粒子のメジアン径D95の値を16.2μm以下とした請求項1ないし6のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載された樹脂フィルムの両面のうち、少なくとも片面に金属層を積層したことを特徴とする導電積層板。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかに記載された樹脂フィルムを含むことを特徴とする回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密着性や機械的強度等を向上させたり、エッチング後における寸法収縮率を低減することのできる樹脂フィルム、導電積層板、及び回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スーパーエンジニアリングプラスチックであるポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂が注目されている。このポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、電気絶縁性、耐熱性、耐薬品性等に優れる熱可塑性の結晶性樹脂である。この優れた性質に鑑み、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、自動車分野、エネルギー分野、医療分野等で使用されるが、フレキシブル基板(FPC)等からなる回路基板の製造にも利用される(特許文献1、2参照)。
【0003】
係るポリアリーレンエーテルケトン樹脂を用いて回路基板を製造する場合には図示しないが、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムを成形してベース基材として用意し、このポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムに回路パターンとなる銅箔を直接接着してその露出した表面にエッチング用のフォトレジスト層をラミネートし、このラミネートされた中間体の所定の箇所に加工用の孔を穿孔し、フォトレジスト層に紫外線を照射して露光するとともに、現像して未感光部分のフォトレジスト層を溶かして回路パターンを浮き上がらせる。ポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムを成形するとき、成形材料には、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の他、必要に応じ、フッ素樹脂、タルク、マイカ等が添加される(特許文献3参照)。
【0004】
回路パターンを浮き上がらせたら、中間体の回路パターンをエッチングしてフォトレジスト層を剥離し、中間体を洗浄して乾燥させ、中間体の大部分にカバーフィルムを貼着して絶縁層を形成し、露出した端子部分等にメッキ等の表面処理を施す。こうして中間体にメッキ等の表面処理を施したら、中間体を外形加工して回路パターンの導通性を電気チェックし、最終検査を実施すれば、回路基板を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021‐042294号公報
【特許文献2】特開2007‐051256号公報
【特許文献3】特開2016‐29164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来における回路基板は、以上のように製造され、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムの採用により、優れた電気絶縁性、耐熱性、耐薬品性を得ることができるものの、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムの密着性や機械的強度の向上とエッチング後におけるポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムの寸法収縮率の低減とを並立することが容易ではないという問題がある。
【0007】
係る問題を解消するため、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムの成形材料にタルクを配合した場合、中間体のエッチング後におけるポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムの寸法収縮率を低減させることはできても、密着性の悪化を招くこととなる。また、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムの成形材料にマイカを配合した場合、マイカの特性に何ら配慮しない単なる配合では、引張強度が悪化することがあるので、機械的強度を向上させることは容易ではない。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたもので、密着性や機械的強度の向上とエッチング後における寸法収縮率の低減とを並立することのできる樹脂フィルム、導電積層板、及び回路基板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては上記課題を解決するため、少なくともポリアリーレンエーテルケトン樹脂とマイカとを含有する成形材料により成形されるものであって、
成形材料の組成体積比率は、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂が70体積%以上95体積%以下であるとともに、マイカが5体積%以上30体積%以下であり、
成形材料のマイカは、粒径1μm以下のマイカ粒子の占める量が全マイカ粒子の20%以下であり、メジアン径D50が2.0μm以上10μm以下のマイカ粒子を含むことを特徴としている。
【0010】
なお、成形材料の組成体積比率は、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂が80体積%以上95体積%以下であるとともに、マイカが5体積%以上20体積%以下であることが好ましい。
また、マイカを、合成マイカとすることが好ましい。
また、マイカ粒子の比表面積を、3.0m/g以上とすることが好ましい。
【0011】
また、マイカ粒子の比表面積を、4.0m/g以上とし、かつ粒径1μm以下のマイカ粒子の占める量を全マイカ粒子の10%以下とすることができる。
また、マイカ粒子のメジアン径D50を、2.0μm以上6.0μm以下とすることができる。
また、マイカ粒子のメジアン径D95の値を16.2μm以下とすることもできる。
【0012】
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1ないし7のいずれかに記載された樹脂フィルムの両面のうち、少なくとも片面に金属層を積層した導電積層板であることを特徴としている。
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1ないし7のいずれかに記載された樹脂フィルムを含む回路基板であることを特徴としている。
【0013】
ここで、特許請求の範囲における樹脂フィルムは、溶融押出成形法、カレンダー成形法、又はキャスティング法等の公知の製造法により、10μm以上350μm以下の厚さに製造することができる。溶融押出成形法で樹脂フィルムを製造する場合、押出成形機を使用して成形材料を溶融混練し、押出成形機のダイスから樹脂フィルムを押し出して冷却することにより、樹脂フィルムを製造することができる。また、回路基板には、少なくともプリント配線板、フレキシブル基板、高周波回路基板等が含まれる。
【0014】
本発明によれば、マイカを用いるので、樹脂フィルムの強度を維持しながら、優れた密着性を得ることができる。また、成形材料の組成体積比率とマイカの粒度分布の範囲をそれぞれ特定し、粒径1μm以下のマイカ粒子の占有量を全マイカ粒子の20%以下に限定するとともに、メジアン径D50が2.0μm以上10μm以下のマイカ粒子を用いるので、優れた密着性や機械的強度を維持しつつ、樹脂フィルムが破損しない範囲でエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率を低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂フィルムの密着性や機械的強度を向上させることができるという効果がある。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、成形材料の組成体積比率は、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂が80体積%以上95体積%以下であるとともに、マイカが5体積%以上20体積%以下であるので、樹脂フィルムの母材強度が向上し、密着性がより良好となる。
請求項3記載の発明によれば、マイカが合成マイカなので、吸湿による誘電特性の悪化を抑制し、樹脂フィルムの寸法安定性を向上させることができる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、マイカ粒子の比表面積が3.0m/g以上なので、例えば樹脂フィルムを用いて回路基板を製造する場合、回路基板の製造時のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率を低減させることができる。
請求項5記載の発明によれば、マイカ粒子の比表面積を、4.0m/g以上とし、かつ粒径1μm以下のマイカ粒子の占める量を全マイカ粒子の10%以下とするので、エッチング後における収縮率がきわめて良好となる。
【0018】
請求項6記載の発明によれば、マイカ粒子のメジアン径D50が2.0μm以上6.0μm以下の範囲なので、樹脂フィルムの製造時における製膜性を向上させることが可能となる。
請求項7記載の発明によれば、マイカ粒子のメジアン径D95の値が16.2μm以下なので、樹脂フィルムの機械的強度の向上が期待できる。
【0019】
請求項8又は9記載の発明によれば、請求項1ないし5のいずれかに記載された樹脂フィルムを用いるので、回路基板を製造する場合、樹脂フィルムの密着性や機械的強度の向上とエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率の低減とを並立することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る樹脂フィルムの実施形態を模式的に示す説明図である。
図2】本発明に係る樹脂フィルムと導電積層板の実施形態における樹脂フィルムの表面に銅箔が積層された状態を模式的に示す斜視説明図である。
図3】本発明に係る樹脂フィルムと導電積層板の第2の実施形態における樹脂フィルムの表裏両面に銅箔がそれぞれ積層された状態を模式的に示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における樹脂フィルム1は、図1図2に示すように、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂と、粒度分布範囲の特定されたマイカとを含有する成形材料により成形されるフィルムであり、片面に薄い金属層2である銅が形成されて導電積層板4とされ、この導電積層板4が能動素子や受動素子を電気的に接続する回路基板として利用されることで、国連サミットで採択されたSDGs(国連の持続可能な開発のための国際目標であり、17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)からなる持続可能な開発目標)の目標9の達成に貢献する。
【0022】
成形材料は、少なくともポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂とマイカとを含有し、必要に応じ、他の樹脂や各種フィラーが選択的に含有されており、図1に示す薄膜の樹脂フィルム1を形成する。この成形材料の組成体積比率は、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂が70体積%以上95体積%以下の場合に、マイカが5体積%以上30体積%以下が良い。樹脂フィルム1の母材強度や密着性を向上させたいときには、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂が80体積%以上95体積%以下の場合に、マイカが5体積%以上20体積%以下が良い。
【0023】
マイカの組成体積比率が5体積%以上30体積%以下なのは、5体積%未満の場合には、エッチング後における樹脂フィルム1の寸法収縮率が悪化するからである。これに対し、30体積%を越える場合には、樹脂フィルム1の密着性が低下したり、樹脂フィルム1の硬度が必要以上に上昇して割れやすくなるからである。
【0024】
成形材料のポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、アリーレン基、エーテル基、及びカルボニル基からなる熱可塑性の結晶性樹脂で、例えば特許5709878号公報や特許第5847522号公報、あるいは文献〔株式会社旭リサーチセンター:先端用途で成長するスーパーエンプラ・PEEK(上)〕等に記載された樹脂があげられ、融点が300℃~360℃であり、電気絶縁性、機械的性質、耐熱性、耐薬品性、耐放射線性、耐加水分解性、低吸水性、リサイクル性等に優れる。
【0025】
ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の具体例としては、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂等があげられる。これらの中では、導電積層板4や回路基板の製造に最適な加工温度が得られ、しかも、安価に入手可能なポリエーテルエーテルケトン樹脂が最適である。
【0026】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の製品例としては、ビクトレックス社製の製品名:Victrex Powderシリーズ、Victrex Granulesシリーズ、ダイセル・エボニック社製の製品名:ベスタキープシリーズ、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製の製品名:キータスパイア PEEKシリーズがあげられる。また、ポリエーテルケトンケトン樹脂の製品例としては、アルケマ社製の製品名:KEPSTANシリーズがあげられる。ポリエーテルケトン樹脂の製品例としては、ビクトレックス社製の製品名:HT G22、HT G45があげられる。また、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン樹脂の製品例としては、ビクトレックス社製の製品名:ST G45が該当する。
【0027】
ポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、1種単独でも良いし、2種以上を混合して使用しても良く、共重合体でも良い。また、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、通常、粉末、顆粒型、ペレット型等の成形加工に適した形態で使用される。ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば文献〔株式会社旭リサーチセンター:先端用途で成長するスーパーエンプラ・PEEK(上)〕に記載された製法が用いられる。
【0028】
成形材料のマイカ(雲母ともいう)は、タルクを主原料として人工的に製造される合成マイカ(カリウム4ケイ素フッ素雲母等)と、自然界で産出される天然マイカ(白雲母、黒雲母等)の2種類に分類されるが、吸湿による誘電特性の悪化を抑制し、樹脂フィルム1の密着性や寸法安定性に資する合成マイカが好ましい。合成マイカは、非膨潤性、膨潤性、親油性等に分類されるが、耐熱性に優れる非膨潤性が好ましい。合成マイカの具体的な製品としては、ミクロマイカMKシリーズ〔製品名:片倉コープアグリ株式会社製〕があげられる。
【0029】
マイカは、粒径の異なる多数のマイカ粒子からなり、粒径1μm以上、例えば、平均粒径2μm以上13μm以下等のマイカ粒子の占める量が全マイカ粒子の80%以上とされ、粒径1μm以下のマイカ粒子の占める量が全マイカ粒子の20%以下、好ましくは0.1%以上20%以下、より好ましくは10%以下、特に好ましくは0.15%以上10%以下とされる。これは、粒径1μm以下のマイカ粒子の占有量が全マイカ粒子の20%を越える場合には、回路基板の製造時のエッチング後における樹脂フィルム1の寸法収縮率を低減させることができないからである。
【0030】
この点について説明すると、マイカは板状粒子のため、樹脂フィルム1の面方向にマイカ粒子の面方向が平行に配列しているほど、面方向への収縮は小さくなると考えられる(無機粒子のマイカは樹脂と比べて収縮量が小さいため)。粒径1μm以下のマイカが20%以上含まれている場合には、樹脂フィルム1を成形する際に樹脂フィルム1の面方向と平行にマイカが配列しづらく、マイカが不均一な方向に配列している樹脂フィルム1になっていると推測される(1μm以下のマイカは、樹脂フィルム1の面方向に対して斜めや垂直等、角度が付いた状態で配列されやすいと考えられる)。
【0031】
一方、粒径1μm以下のマイカが20%よりも少ない場合には、マイカが樹脂フィルム1の面方向に配列している配列量の多い樹脂フィルム1となる。銅箔等の金属と積層した後、エッチング後の収縮は面方向の収縮であるから、粒径1μm以下のマイカが20%以下の場合、収縮率が小さくなると予想される。
【0032】
マイカ粒子の比表面積は、回路基板の製造時のエッチング後における樹脂フィルム1の寸法収縮率を低減させるため、3.0m/g以上、好ましくは3.0m/g以上15m/g以下、より好ましくは3.05m/g以上15m/g以下、さらに好ましくは4.00m/g以上15m/g以下、特に好ましくは4.00m/g以上9.71m/g以下が良い。マイカ粒子の比表面積が3.0m/g以上なのは、マイカ粒子の比表面積が3.0m/g未満の場合には、凝集体又は粗大な粒子を多く含むことになるからである。マイカ粒子の比表面積は、透過方法や各種の気体吸着法により測定することができるが、JIS Z 8830:2013に準拠して測定することが好ましい。
【0033】
多数のマイカ粒子には、エッチング後における寸法収縮率の低減を図るため、メジアン径D50が2.0μm以上10μm以下のマイカ粒子が含まれる。平均径や最頻径ではなく、メジアン径(中央径)を選択するのは、マイカ粒子の粒度分布の代表的な値の把握に好適であり、複数のサンプルの粒度分布の大きさを比較する場合に便利だからである。
【0034】
マイカ粒子のメジアン径D50は、樹脂フィルム1の製膜性をも向上させるため、2.0μm以上10μm以下、好ましくは2.0μm以上6.0μm以下、より好ましくは2.8μm以上5.10μm以下が最適である。また、メジアン径D10は、2.6μm以下、好ましくは0.9μm以上2.6μm以下、より好ましくは0.97μm以上2.55μm以下が良い。メジアン径D90は、9.20μm以下、好ましくは5.00μm以上9.20μm以下、より好ましくは5.20μm以上9.15μm以下が良い。さらに、メジアン径D95は、樹脂フィルム1の機械的強度を向上させる観点から、16.2μm以下、好ましくは6.00μm以上16.2μm以下、より好ましくは6.00μm以上15μm以下、さらに好ましくは6.20μm以上14.20μm以下が最適である。
【0035】
このような成形材料により樹脂フィルム1は成形されるが、この成形法は、溶融押出成形法、カレンダー成形法、又はキャスティング法等を特に問うものではない。しかしながら、ハンドリング性や製造設備の簡略化を考慮すると、溶融押出成形法が最適である。この溶融押出成形法で樹脂フィルム1を製造する場合、押出成形機を使用して成形材料を溶融混練し、押出成形機のTダイスから樹脂フィルム1を押し出して冷却すれば、薄膜の樹脂フィルム1を製造することができる。
【0036】
製造された樹脂フィルム1の厚さは、特に限定されるものではないが、回路基板のベースとしての強度や剛性、生産性、汎用性を考慮すると、10μm以上350μm以下、好ましくは10μm以上250μm以下、より好ましくは50μm以上100μm以下が最適である。この樹脂フィルム1の厚さは、専用のマイクロメータ等を使用して測定することができる。
【0037】
金属層2の銅は、例えば厚さ1μm以上50μm以下、好ましくは10μm以上13μm以下の薄い銅箔3、具体的には圧延銅箔又は電解銅箔からなり、図2に示すように、樹脂フィルム1の表面に熱圧着法により積層されて回路パターンを形成する。銅箔3の具体的な製品としては、例えば電解銅箔TQ‐M7VSP〔製品名:三井金属鉱業株式会社製〕、圧延銅箔HA‐V2タイプ〔製品名:JX金属株式会社製〕等があげられる。
【0038】
上記において、樹脂フィルム1を製造する場合には、先ず、溶融押出成形機の原料投入口に調製した成形材料を好ましくは不活性ガスを供給しながら投入し、成形材料を熱分解温度以下に加熱した溶融押出成形機中で溶融混練する。成形材料は、分散性や作業性の観点からすると、溶融したポリアリーレンエーテルケトン中にマイカを添加し、これらの溶融混練により調製されることが好ましい。また、溶融押出成形機は、特に限定されるものではないが、例えば単軸押出成形機、二軸押出成形機、三軸押出成形機等が使用される。
【0039】
成形材料を溶融押出成形機中で溶融混練したら、溶融押出成形機の先端部のTダイスから帯形の樹脂フィルム1を連続的に押出成形し、この樹脂フィルム1を、複数の冷却ロール、一対の圧着ロール、テンションロール、及び巻取機の巻芯に順次巻架するとともに、複数の冷却ロールに摺接させて冷却し、樹脂フィルム1の両側部をスリット刃でそれぞれカットして体裁を整えた後、巻取機の巻芯に順次巻き取って樹脂フィルム1の原反とすれば、樹脂フィルム1を製造することができる。
【0040】
製造された樹脂フィルム1の引張強度は、実験結果から、75N/mm以上125N/mm以下、好ましくは80N/mm以上120N/mm以下が良い。この樹脂フィルム1の引張強度は、例えばJIS K 7127:1999に準拠して測定することができる。
【0041】
樹脂フィルム1の周波数28GHz付近における誘電正接は、実験結果から、0.0020以上、好ましくは0.0040以上0.0080以下、より好ましくは0.0044以上0.0075以下が良い。この樹脂フィルム1の誘電正接は、特に限定されるものではないが、干渉計開放型を使用するファブリペロー法、空洞共振器摂動法により高周波数の比誘電率及び誘電正接を求める方法、相互誘導ブリッジ回路による3端子測定法等により測定することができる。これらの中では、高分解性に優れるファブリペロー法や空洞共振器摂動法の選択が最適である。
【0042】
次に、樹脂フィルム1を用いて導電積層板4を製造する場合には、樹脂フィルム1の表面に導電性の銅を積層すれば、回路基板の中間体となる銅張積層板である導電積層板4を製造することができる。銅の積層方法としては、特に限定されるものではないが、例えば(1)樹脂フィルム1と銅箔3とを熱融着して積層する方法、(2)樹脂フィルム1に銅箔3を接着剤で接着して積層する方法、(3)樹脂フィルム1に銅箔3を蒸着して積層する方法、(4)樹脂フィルム1に銅をスパッタリングする方法等があげられる。
【0043】
(1)の方法は、樹脂フィルム1と銅箔3とを直接重ねてプレス成形機あるいはロール間に挟み、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の融点やその前後の温度で加熱・加圧して樹脂フィルム1に銅箔3を熱融着する方法である。この方法を実施する場合、樹脂フィルム1又は銅箔3の対向面に、融着強度を向上させるため、微細な凹凸を形成することができる。また、樹脂フィルム1又は銅箔3の表面を、コロナ照射処理、紫外線照射処理、プラズマ照射処理、フレーム照射処理、イトロ照射処理、酸化処理、ヘアライン加工、サンドマッド加工等で処理することができる。さらに、樹脂フィルム1又は銅箔3の表面を、シランカップリング剤、シラン剤、チタンネート系カップリング剤、あるいはアルミネート系カップリング剤で処理することもできる。
【0044】
(2)の方法は、樹脂フィルム1と銅箔3との間に、エポキシ樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、シリコーン樹脂系接着剤、ポリイミド樹脂系接着剤、ポリスチレン樹脂系接着剤等の接着剤を配置し、プレス成形機あるいはロール間に挟んだ後、加熱・加圧して銅箔3を樹脂フィルム1上に形成する方法である。
【0045】
樹脂フィルム1や銅箔3の表面は、上記同様、接着強度を向上させる観点から、微細な凹凸を形成することができる。また、樹脂フィルム1や銅箔3の表面を、コロナ照射処理、紫外線照射処理、プラズマ照射処理、フレーム照射処理、イトロ照射処理、酸化処理、ヘアライン加工、サンドマッド加工等で処理しても良い。また、樹脂フィルム1又は銅箔3の表面を、上記同様、シランカップリング剤、シラン剤、チタンネート系カップリング剤、あるいはアルミネート系カップリング剤で処理しても良い。
【0046】
(3)、(4)の方法の場合には、専用の蒸着装置やスパッタリング装置を使用すれば、銅を積層形成することができる。これら(3)、(4)の方法の中でも、(3)の蒸着法を採用すれば、第五世代移動通信システム用の高周波回路基板を容易に得ることができる。また、(4)のスパッタリング法を採用すれば、様々な金属を金属層2として使用することができ、しかも、高い密着強度を得ることが可能となる。
【0047】
次に、銅張積層板である導電積層板4を用いてフレキシブル基板等の回路基板を製造する場合には、導電積層板4の露出した表面にエッチング用のフォトレジスト層をラミネートし、導電積層板4の所定の箇所に加工用の孔を穿孔し、フォトレジスト層に紫外線を照射して露光するとともに、現像して未感光部分のフォトレジスト層を溶かして回路パターンを浮き上がらせる。こうして回路パターンを浮き上がらせたら、導電積層板4の回路パターンをエッチングしてフォトレジスト層を剥離し、導電積層板4を洗浄して150℃~160℃の温度で乾燥させ、導電積層板4の大部分にカバーフィルムを貼着して絶縁層を形成し、露出した端子部分等にメッキ等の表面処理を施す。
【0048】
そして、導電積層板4を外形加工して回路パターンの導通性を電気チェックし、導電積層板4に補強材を圧着したり、部品実装した後、最終検査を実施すれば、回路基板を製造することができる。
【0049】
導電積層板4や回路基板のエッチング後における樹脂フィルム1の寸法収縮率は、実験結果から、0.03%以上0.20%以下、好ましくは0.04%以上0.18%以下が良い。この寸法収縮率は、JIS C 6481:1996に準拠し、二次元側長機を用いて樹脂フィルム1の押出方向や幅方向におけるエッチング前後の寸法を測定することで求めることができる。
【0050】
導電積層板4や回路基板における樹脂フィルム1の密着性は、実験結果等から、7N/cm以上、好ましくは7N/cm以上10N/cm以下、より好ましくは7.2N/cm以上9.2N/cm以下が良い。樹脂フィルム1の密着性は、樹脂フィルム1に銅を積層した試験体をカットし、この試験体を用いてJIS Z 0237:2009(粘着テープ・粘着シート試験方法)を参考にして剥離試験を実施すれば、測定することができる。
【0051】
上記によれば、タルクではなく、金属との密着性に優れるマイカを採用するので、母材である樹脂フィルム1の強度を維持しながら、優れた密着性を得ることができる。また、成形材料の組成体積比率とマイカの粒度分布の範囲をそれぞれ特定し、粒径1μm以下のマイカ粒子の占有量を全マイカ粒子の20%以下とするとともに、メジアン径D50が2.0μm以上10μm以下のマイカ粒子を用いるので、優れた密着性や機械的強度を維持しながら、回路基板の製造時に樹脂フィルム1が破損しない範囲でエッチングした後の樹脂フィルム1の寸法収縮率を低減することができる。
【0052】
次に、図3は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、樹脂フィルム1の表裏両面に、薄い金属層2である銅箔3をそれぞれ積層して導電積層板4とし、この導電積層板4を回路基板の製造に利用するようにしている。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、配線を交差させて複雑な回路を形成可能な両面回路基板の製造に大いに資することができるのは明らかである。
【0053】
なお、上記実施形態では樹脂フィルム1を回路基板に使用したが、何らこれに限定されるものではなく、例えば音響機器等、他の用途に使用しても良い。また、上記実施形態では金属層2として銅箔3を熱融着により積層したが、何らこれに限定されるものではない。例えば、金属層2として、金、銀、クロム、アルミニウム、ニッケル合金、スズ等を熱融着により積層しても良い。
【実施例0054】
以下、本発明に係る樹脂フィルムと導電積層板の実施例を比較例と共に説明する。
ポリアリーレンエーテルケトン樹脂と、マイカ又はタルクとを用いて成形材料を調製し、この調製した成形材料により、実施例1~10と比較例1~7に使用する16種類の樹脂フィルムをフィルム幅530mmに溶融押出成形することとした(表1、2参照)。成形材料のポリアリーレンエーテルケトン樹脂としては、融点が341℃、ガラス転移温度が147℃のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂〔ビクトレックス社製:製品名 Victrex Granulesシリーズ 450G〕、又は融点が360℃、ガラス転移温度が165℃のポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂〔アルケマ社製:製品名:KEPSTANシリーズ 8002〕を使用することとした。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
成形材料のマイカとしては、表3、4に示す8種類の合成マイカ〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名 ミクロマイカMKシリーズ〕、又はメジアン径D50が4.38μmの天然マイカ〔株式会社ヤマグチマイカ:製品名 SJ‐005〕を使用することとした。8種類の合成マイカは、先ず、合成マイカ1をメジアン径D50が2.85μmのMK‐100DS〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名〕、合成マイカ2をメジアン径D50が4.67μmのMK‐100PDS〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名〕とした。合成マイカ3については、MK‐100P〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名〕を高圧乾式ジェットミルにより粉砕し、メジアン径D50が5.01μmの合成マイカ3を得た。
【0058】
合成マイカ4は、メジアン径D50が3.36μmのMK‐100PGDS〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名〕とした。また、合成マイカ5については、MK‐200〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名〕を乾式分級機に投入し、粒径40μmよりも大きいマイカ粒子を取り除いたメジアン径D50が5.1μmのものを合成マイカ5とした。
【0059】
合成マイカ6は、メジアン径D50が1.4μmのFGMK80DS〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名〕とした。また、合成マイカ7については、合成マイカ1を高圧乾式ジェットミルにより微粉砕したメジアン径D50が2.2μmのものを合成マイカ7とした。さらに、合成マイカ8は、メジアン径D50が11.72μmのMK‐300〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名〕とした。
【0060】
合成マイカ6、7は、粒径1μm以下のマイカ粒子の占める量が全マイカ粒子の20%を越える比較用である。また、合成マイカ8は、粒径1μm以下のマイカ粒子の占める量が0%であり、メジアン径D50が10μmを越えるマイカ粒子を含有する比較用である。また、成形材料として、マイカを使用しない場合、表4に示すメジアン径D50が5μmのタルク〔日本タルク株式会社:製品名 ミクロエースシリーズ SJ‐005〕を代わりの比較用に用いることとした。
【0061】
なお、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の比重を1.3、マイカの比重を2.7としてこれらの組成体積比率等を求めた。ポリアリーレンエーテルケトン樹脂100質量部に対し、マイカを45質量部添加したため、それぞれの比重から算出すると、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の体積は76.9、マイカは16.7となる。よって、全体積100%内の組成体積比率を求めると、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂は82.1体積%、マイカは17.9体積%であった。
【0062】
マイカやタルクの粒子径分布は、JIS Z 8825:2013に準拠して測定した。分散液体としては水を使用し、粒子径分布測定装置〔マイクロトラック・ベル株式会社製:製品名:MT3300EXII〕を用いたレーザー回析・散乱法により、体積分布で評価して表3、4にまとめた。また、マイカやタルクの比表面積は、JIS Z 8830:2013に準拠して測定した。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
成形材料を調製する場合、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂を、同方向回転二軸押出機〔φ25mm、L/D=41、製品名 TEX25αIII:日本製鋼所社製〕のスクリュー根元付近に設けられた第一供給口であるホッパーに投入した。また、マイカあるいはタルクを、同方向回転二軸押出機の大気圧に開放されたベント口のすぐ隣のサイドフィーダーの第二供給口より強制圧入した。
【0066】
ポリアリーレンエーテルケトン樹脂を投入し、マイカあるいはタルクを強制圧入したら、これらを同方向回転二軸押出機のバレルの温度:200℃~380℃、スクリューの回転数:350rpm、時間当たりの吐出量:7.2kg/hrの条件下で溶融混練し、ストランド状に押出成形し、このストランド状の押出成形物を空冷固化した後にペレット形にカッティングすることにより、成形材料を調製した。
【0067】
樹脂フィルムを溶融押出成形する場合、成形材料をTダイスを備えたφ40mm単軸押出成形機にセットして溶融混練し、この溶融混練した成形材料を単軸押出成形機のTダイスから連続的に押し出し、その後、230℃の冷却ロールである金属ロールで冷却することにより、所定の厚さの樹脂フィルムを製造した。ここで、φ40mm単軸押出成形機の温度は360℃~400℃、Tダイスの温度は400℃、単軸押出成形機とTダイスとを連結する連結管の温度は400℃にそれぞれ調整した。
【0068】
〔実施例1〕
先ず、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ1とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表1に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を82.1体積%、合成マイカ1を17.9体積%とした。
【0069】
こうして樹脂フィルムを溶融押出成形したら、この樹脂フィルムと用意した銅箔とを320mm×320mmにそれぞれカットして直接積層し、これらを厚さ1mmのSUS板で挟み、熱板を350℃に設定した熱プレス機で、面圧4MPa、5分間熱圧着してから取り出すことで、両面銅張積層板である導電積層板を作製した。銅箔は、厚さ12μmのTQ‐M7VSP〔製品名:三井金属鉱業株式会社製〕を使用した。
【0070】
次いで、銅張積層板である導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率と密着性を測定し、その後、導電積層板の銅箔を全て除去した樹脂フィルムを用いて引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表5に記載し、評価した。
【0071】
・エッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率
エッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率については、JIS C 6481:1996に準拠して測定した。先ず、導電積層板を300mm(押出方向)×300mm(幅方向)の大きさにカットし、この導電積層板の端4点に穴を開け、穴の中心間の距離を押出方向と幅方向とで、エッチング前の導電積層板の長さを測定した後、積層された銅箔を塩化鉄水溶液で除去し、先に測定した同じ部分について樹脂フィルムの長さを測定した。
【0072】
寸法の測定に際しては、2次元測長機〔製品名:VMH600 ミノグループ社製〕を用いた。エッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率は、0.2%未満を目標値とし、0.2%以上の場合には収縮率が不良の×、0.2%未満~0.15%よりも大きい場合には収縮率が普通の△、0.15%未満~0.1%よりも大きい場合には収縮率が良好の○、0.1%以下の場合には収縮率がきわめて良好の◎と表記して評価することとした。
【0073】
・導電積層板における樹脂フィルムの密着性
導電積層板における樹脂フィルムの密着性については、導電積層板をカットして幅25mmの試験体とし、JIS Z 0237:2009を参考に、剥離速度0.3mm/min、剥離角180°にて、導電積層板を支持体に固定し、銅箔を引張治具に固定し、導電積層板から銅箔を引張った際の剥離強度を測定することにより、密着強度(密着性)を測定した。各実施例と各比較例の剥離面は、全て樹脂フィルム間である母材破壊であった。
【0074】
・樹脂フィルムの引張強度
樹脂フィルムの引張強度は、エッチングで銅箔を除去した後の樹脂フィルムを用い、23℃における引張最大強度で評価した。引張強度は、樹脂フィルムの押出方向と幅方向(押出方向の直角方向)について測定した。測定は、JIS K 7127に準拠し、引張速度50mm/分、温度23℃の条件で実施した。測定した引張強度は、90N/mm以上を強度が良好の○、80N/mm以上90N/mm未満を強度が普通の△と表記して評価した。
【0075】
・樹脂フィルムの誘電正接
樹脂フィルムの誘電正接については、電子計測器〔製品名 コンパクトUSBベクトルネットワークアナライザ MS46122B:Anritsu社製〕を用い、開放型共振器法の一種であるファブリペロー法により、周波数28GHz付近の23℃×50RH%の常態と浸水24時間後の誘電正接をそれぞれ測定した。
【0076】
具体的には、銅箔を塩化鉄水溶液で溶かして除去した樹脂フィルムを100×100mmにカットし、このカットした試験片を23℃±2℃、50±10%RHの恒温恒湿室で10時間以上放置してから、ファブリペロー法により測定した値を浸水前の誘電正接とした。浸水24時間後の測定については、浸水前の誘電特性を測定した試験片をイオン交換水に24時間浸水させてから取り出し、ペーパーで樹脂フィルムの表面に付着した水を拭き取り、23±2℃、50±10%RHの環境下で5分間放置してから、ファブリペロー法により測定した。浸水前と浸水24時間後の測定は、全て23±2℃、50±10%RHの測定環境下で実施した。
【0077】
共振器は、開放型共振器〔製品名 ファブリペロー共振器 Model No.DPS03:キーコム社製〕を使用した。測定に際しては、開放型共振器冶具の試料台上に導電積層板を載せ、ベクトルネットワークアナライザー用いて開放型共振器法の一種であるファブリペロー法で測定した。具体的には、試料台の上に導電積層板を載せない状態と、導電積層板を載せた状態の共振周波数の差を利用する共振法により、誘電正接を測定した。測定に用いた具体的な周波数は、28GHzとした。浸水24時間後における誘電正接tanδの値は、0.0080未満を目標値とし、0.0075以下を良好値とした。
【0078】
・樹脂フィルムの割れ性
樹脂フィルムの割れ性については、JIS P 8115に準拠したMIT試験より評価することとした。具体的には、MIT耐折度試験機を用い、4.9Nの荷重、折曲クランプのRを0.8mmとして樹脂フィルムの幅方向の試験片を繰返し折り曲げ、既定の荷重を加えて試験片を引張りながら、左右135°に175回/分の速さで折り曲げるとともに、試験片が破断するまで継続し、破断するまでの折り曲げ回数から、耐折強度を測定することとした。折り曲げ回数は、30回を基準とし、30回以上の場合には割れ性良好の○とし、30回未満の場合には割れ性不良の×として評価した。
【0079】
〔実施例2〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ2とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表1に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を82.1体積%、合成マイカ2を17.9体積%とした。
【0080】
その他は実施例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表5に記載し、評価した。
【0081】
〔実施例3〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ3とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表1に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を82.1体積%、合成マイカ3を17.9体積%とした。
【0082】
その他は実施例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表5に記載し、評価した。
【0083】
〔実施例4〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ4とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表1に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を82.1体積%、合成マイカ4を17.9体積%とした。
【0084】
その他は実施例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表5に記載し、評価した。
【0085】
〔実施例5〕
基本的には実施例4と同様だが、樹脂フィルムの厚さを50μmに変更して溶融押出成形した。その他は実施例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表5に記載し、評価した。
【0086】
〔実施例6〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルケトンケトン樹脂と合成マイカ4とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表1に示すように、ポリエーテルケトンケトン樹脂を82.1体積%、合成マイカ4を17.9体積%とした。
【0087】
樹脂フィルムを溶融押出成形したら、この樹脂フィルムと用意した銅箔とを320mm×320mmにそれぞれカットして直接積層し、これらを厚さ1mmのSUS板で挟み、熱板を370℃に設定した熱プレス機で、面圧4MPa、5分間熱圧着してから取り出すことで、両面銅張積層板である導電積層板を作製した。その他は実施例1と同様とし、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表5に記載し、評価した。
【0088】
〔実施例7〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ4とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表1に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を76.2体積%、合成マイカ4を23.8体積%に変更した。
【0089】
その他は実施例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表5に記載し、評価した。
【0090】
〔実施例8〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ4とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表1に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を88.9体積%、合成マイカ4を11.1体積%に変更した。
【0091】
その他は実施例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表5に記載し、評価した。
【0092】
【表5】
【0093】
〔実施例9〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ5とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表1に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を82.1体積%、合成マイカ5を17.9体積%に変更した。
【0094】
その他は実施例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表6に記載し、評価した。
【0095】
〔実施例10〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と天然マイカとを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表1に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を82.1体積%、天然マイカを17.9体積%とした。
【0096】
その他は実施例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表6に記載し、評価した。
【0097】
〔比較例1〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ6とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表2に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を82.1体積%、合成マイカ6を17.9体積%に変更した。
【0098】
その他は実施例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表6に記載し、評価した。
【0099】
〔比較例2〕
基本的には比較例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ6とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表2に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を76.2体積%、合成マイカ6を23.8体積%に変更した。
【0100】
その他は比較例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表6に記載し、評価した。
【0101】
〔比較例3〕
基本的には比較例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ7とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表2に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を82.1体積%、合成マイカ7を17.9体積%に変更した。
【0102】
その他は比較例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表6に記載し、評価した。
【0103】
〔比較例4〕
基本的には比較例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ8とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表2に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を82.1体積%、合成マイカ8を17.9体積%に変更した。
【0104】
その他は比較例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表6に記載し、評価した。
【0105】
〔比較例5〕
基本的には比較例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と本発明の範囲外のタルクとを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表2に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を82.1体積%、タルクを17.9体積%に変更した。
【0106】
その他は比較例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表6に記載し、評価した。
【0107】
〔比較例6〕
基本的には比較例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ4とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の組成体積比率は、表2に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を本発明の範囲外の67.9体積%、合成マイカ4を32.1体積%に変更した。
【0108】
その他は比較例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表6に記載し、評価した。
【0109】
〔比較例7〕
基本的には比較例6と同様だが、成形材料の組成体積比率を変更した。この比較例7における成形材料の組成体積比率は、表2に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を本発明の範囲外の96体積%、合成マイカ4を4体積%に変更した。
【0110】
その他は比較例1と同様にして導電積層板を作製し、乾燥させた導電積層板のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性を測定して表6に記載し、評価した。
【0111】
【表6】
【0112】
〔評 価〕
各実施例の場合、エッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性に関し、良好な結果を得ることができた。実施例3、9、10の場合、引張強度がやや低下したが、実用上問題のない数値であった。これらの結果から、実施例の樹脂フィルムや導電積層板を用いて回路基板を製造すれば、樹脂フィルムの密着性や機械的強度の向上とエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率の低減とを並立することができると推測される。
【0113】
これに対し、各比較例の場合、エッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率、密着性、引張強度、周波数28GHz付近における誘電正接、及び割れ性に関し、良好な結果を得ることができなかった。特に、比較例2、5、6の場合、割れ性で大きな問題が発生したので、比較例の樹脂フィルムや導電積層板を用いて回路基板を製造した場合、実用性に深刻な疑義が生じるものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明に係る樹脂フィルム、導電積層板、及び回路基板は、情報通信や自動車機器等の分野で使用される。
【符号の説明】
【0115】
1 樹脂フィルム
2 金属層
3 銅箔
4 導電積層板
図1
図2
図3