(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050421
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
B62D25/08 H
B62D25/08 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160504
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤史
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB35
3D203BB38
3D203CB26
3D203DA37
3D203DA68
(57)【要約】
【課題】吸気カバーの流路内を流れる外気を、ダッシュパネルの吸気口に効率的に導くことができる車両前部構造を提供する。
【解決手段】車両前部構造100は、ダッシュパネル108に設けられ車室内の空調ユニット112による吸気が行われる吸気口102と、ダッシュパネルに固定されカウル部113から導入された外気を吸気口に案内する流路を形成する吸気カバー104と、吸気口と吸気カバーとの間に配置されダッシュパネルから吸気口の前方に車幅方向に立設された防水壁106とを備え、吸気カバーは、吸気口の上方に配置され流路の上側を区画する上壁114と、上壁の車幅方向の両端から連続してダッシュパネルまで延び流路の車幅方向両側を区画する一対の側壁116、118とを有し、上壁は、防水壁よりも後方に配置され後方に向かうほど上方に立ち上がる立ち上り部152と、立ち上り部の前端155から連続して前方に延びる延出部154とを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部と車室とを区画するダッシュパネルに設けられ該車室内の空調ユニットによる吸気が行われる吸気口と、
前記ダッシュパネルに固定されカウル部から前記車両前部に導入された外気を前記吸気口に案内する流路を形成する吸気カバーとを備える車両前部構造において、当該車両前部構造はさらに、
前記吸気口と前記吸気カバーとの間に配置され前記ダッシュパネルから前記吸気口の前方に車幅方向にわたって立設され前記吸気カバーと一体または別体である防水壁を備え、
前記吸気カバーは、
前記吸気口の上方に配置され前記流路の上側を区画する上壁と、
前記上壁の車幅方向の両端から連続して前記ダッシュパネルまで延び前記流路の車幅方向両側を区画する一対の側壁とを有し、
前記上壁は、
前記防水壁よりも後方に配置され後方に向かうほど上方に立ち上がる立ち上り部と、
前記立ち上り部の前端から連続して前方に延びる延出部とを有することを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記防水壁は、前記ダッシュパネルから該ダッシュパネルに垂直に前記吸気カバー側に延びる直線よりも後方に傾斜している傾斜壁を有し、
前記立ち上り部は、前記傾斜壁よりも後方に配置されていて、
前記延出部は、前記傾斜壁と上下方向で重なっていることを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記防水壁の傾斜壁は、前記ダッシュパネルから前記吸気カバー側に延びる第1傾斜壁と、該第1傾斜壁の上端から連続していて該第1傾斜壁よりもさらに後方に傾斜している第2傾斜壁とを有することを特徴とする請求項2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記吸気カバーはさらに、前記一対の側壁同士を車幅方向に連結する後壁を有し、
前記上壁はさらに、前記立ち上り部の後端に連続し前記後壁に向かうほど下方に立ち下がる立ち下り部を有し、
前記立ち下り部と前記後壁とは、前側に鈍角をなして互いに接続されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項5】
前記後壁は、前記ダッシュパネルのうち前記吸気口が形成されている面に向かって直線状に延びていて、前記後壁と前記面とは、前側に鈍角をなしていることを特徴とする請求項4に記載の車両前部構造。
【請求項6】
前記上壁の立ち下り部および前記後壁は、前記カウル部またはダッシュパネルに隣接していて該カウル部またはダッシュパネルの形状に対応した形状を有し、
前記吸気カバーはさらに、前記立ち下り部および前記後壁と前記カウル部または前記ダッシュパネルとの間を封止する封止部材を有することを特徴とする請求項4または5に記載の車両前部構造。
【請求項7】
前記上壁は、前記一対の側壁の前記ダッシュパネル上の縁よりも車両前側まで延びていて、
前記一対の側壁の前縁は、
前記ダッシュパネルから車両前側に向かうほど前記上壁に近づく傾斜部と、
前記傾斜部の前端から連続して上方に延長され前記上壁の前端に到達する延長部とを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項8】
前記吸気カバーはさらに、前記上壁の前端から上方に張り出した上側フランジと、
前記一対の側壁の前記延長部から車幅方向外側に張り出した外側フランジとを有することを特徴とする請求項7に記載の車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両には一般的に、フロントガラスとフロントフードとの間に樹脂製のカウルカバーが設けられている。カウルカバーには、ダッシュパネルの後部側すなわち車室側に配置される空調ユニットに外気を取り込む吸気口が形成されている。なおダッシュパネルは、車両のパワーユニット搭載ルームと車室とを区画する。
【0003】
ダッシュパネルには、カウルカバーの吸気口から取り込んだ外気を空調ユニットに導く開口が形成されている。このダッシュパネルの開口の前部には、樹脂製の吸気カバーが設けられている。吸気カバーは、カウルカバーの吸気口から取り込んだ外気を、ダッシュパネルの開口から空調ユニットに導くだけでなく、カウルカバーの吸気口などから浸入する雨水がダッシュパネルの開口から空調ユニットに浸入することを防止する役割を有する。
【0004】
特許文献1には、自動車の外気導入構造が記載されている。この構造は、吸気カバーとしてのダクト30を有する。ダクト30は、ダクト開口30aが形成された前面と、底面とを有する。ダクト30の底面には、下面開口が形成されている。底面の下面開口は、ダッシュパネル10に形成された空気吸気口10aに連通している。これにより、ダクト30は、前面のダクト開口30aから外気を取り込んで、さらに底面の下面開口を介してダッシュパネル10の空気吸気口10aまで外気を導く流路を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のダクト30において、底面の下面開口およびダッシュパネル10の空気吸気口10aが、ダクト開口30aの後方かつ下方に設けられていた場合、ダクト開口30aから雨水などが浸入すると、底面の下面開口を通って空気吸気口10aまで雨水などが容易に浸入してしまう。
【0007】
そこでダクト30の流路上に、後方に開口する防水部材を、空気吸気口10aの上方を覆うように配置して、ダクト30の流路内をラビリンス構造にすることが考えられる。しかし、ダクト30内に防水部材を配置すると、その分、ダクト30内の流路の断面積が小さくなり、さらにダクト30に流れる空気(外気)が防水部材と接し、乱流などが発生してしまい、空気吸気口10a側に外気を効率的に導くことができない。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、吸気カバーの流路内を流れる外気を、ダッシュパネルの吸気口に効率的に導くことができる車両前部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両前部構造の代表的な構成は、車両前部と車室とを区画するダッシュパネルに設けられ車室内の空調ユニットによる吸気が行われる吸気口と、ダッシュパネルに固定されカウル部から車両前部に導入された外気を吸気口に案内する流路を形成する吸気カバーとを備える車両前部構造において、車両前部構造はさらに、吸気口と吸気カバーとの間に配置されダッシュパネルから吸気口の前方に車幅方向にわたって立設され吸気カバーと一体または別体である防水壁を備え、吸気カバーは、吸気口の上方に配置され流路の上側を区画する上壁と、上壁の車幅方向の両端から連続してダッシュパネルまで延び流路の車幅方向両側を区画する一対の側壁とを有し、上壁は、防水壁よりも後方に配置され後方に向かうほど上方に立ち上がる立ち上り部と、立ち上り部の前端から連続して前方に延びる延出部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吸気カバーの流路内を流れる外気を、ダッシュパネルの吸気口に効率的に導くことができる車両前部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例に係る車両前部構造およびその要部を示す図である。
【
図2】
図1の車両前部構造の防水壁を示す図である。
【
図3】
図1の車両前部構造の各断面を示す図である。
【
図4】
図1の車両前部構造の吸気カバーを示す図である。
【
図5】
図4の吸気カバーを他の方向から見た状態を示す図である。
【
図6】
図3の吸気カバーの流路内の気流を比較例とともに模式的に示す図である。
【
図7】
図6に後続して吸気カバー内の気流を比較例とともに模式的に示す図である。
【
図8】
図1の車両前部構造の吸気カバーの他の変形例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施の形態に係る車両前部構造の代表的な構成は、車両前部と車室とを区画するダッシュパネルに設けられ車室内の空調ユニットによる吸気が行われる吸気口と、ダッシュパネルに固定されカウル部から車両前部に導入された外気を吸気口に案内する流路を形成する吸気カバーとを備える車両前部構造において、車両前部構造はさらに、吸気口と吸気カバーとの間に配置されダッシュパネルから吸気口の前方に車幅方向にわたって立設され吸気カバーと一体または別体である防水壁を備え、吸気カバーは、吸気口の上方に配置され流路の上側を区画する上壁と、上壁の車幅方向の両端から連続してダッシュパネルまで延び流路の車幅方向両側を区画する一対の側壁とを有し、上壁は、防水壁よりも後方に配置され後方に向かうほど上方に立ち上がる立ち上り部と、立ち上り部の前端から連続して前方に延びる延出部とを有することを特徴とする。
【0013】
上記構成では、吸気カバーの上壁の立ち上り部を防水壁よりも後方に配置している。これにより、吸気カバーと防水壁との間で、吸気カバーの延出部に沿って後方に流れる空気(外気)による後方気流と、防水壁に沿って上方に流れる空気による上方気流とを相互作用させて、これらの各気流を上壁の立ち上り部に沿って吸気口に効率的に導くことができる。
【0014】
ここで、後方気流が上方気流に対して作用する場合について説明する。上方気流が吸気カバーの延出部に向かって流れるとき、後方気流が上方気流を後方に向かって押すことにより、上方気流を吸気カバーの立ち上り部に導くことができる。
【0015】
つぎに、上方気流が後方気流に対して作用する場合について説明する。後方気流の流れる方向が延出部から立ち上り部に沿って変化するとき、後方気流の一部が後方かつ下方に流れて立ち上り部から剥離しようとしても、上方気流が後方気流を上方に向かって押し上げることにより、後方気流の一部が乱流となることを抑制することができる。このようにして上記構成によれば、吸気カバーの流路内を流れる外気を、ダッシュパネルの吸気口に効率的に導くことができる。
【0016】
上記の防水壁は、ダッシュパネルからダッシュパネルに垂直に吸気カバー側に延びる直線よりも後方に傾斜している傾斜壁を有し、立ち上り部は、傾斜壁よりも後方に配置されていて、延出部は、傾斜壁と上下方向で重なっているとよい。
【0017】
これにより、防水壁の傾斜壁に沿って上方かつ後方に空気が流れるようにして、さらにこの空気を、防水壁の傾斜壁よりも後方に配置された上壁の立ち上り部に導くことができる。また上壁の延出部が防水壁の傾斜壁に上下方向で重なる位置まで立ち上り部から前方に延びているため、延出部に沿って後方に空気を流しやすくすることができる。
【0018】
上記の防水壁の傾斜壁は、ダッシュパネルから吸気カバー側に延びる第1傾斜壁と、第1傾斜壁の上端から連続していて第1傾斜壁よりもさらに後方に傾斜している第2傾斜壁とを有するとよい。
【0019】
このように、防水壁の第2傾斜壁が、第1傾斜壁の上端から連続し、第1傾斜壁よりもさらに後方に傾斜しているため、第1傾斜壁から第2傾斜壁に沿って上方かつ後方に空気を流しやすくすることができる。これにより、第2傾斜壁から空気が剥離することを抑制して、吸気カバーの上壁の立ち上り部に空気を導きやすくすることができる。
【0020】
上記の吸気カバーはさらに、一対の側壁同士を車幅方向に連結する後壁を有し、上壁はさらに、立ち上り部の後端に連続し後壁に向かうほど下方に立ち下がる立ち下り部を有し、立ち下り部と後壁とは、前側に鈍角をなして互いに接続されているとよい。
【0021】
このように上壁の立ち下り部と後壁が鈍角をなしているので、上壁の立ち上り部から立ち下り部に空気が流れ、さらに立ち下り部から後壁に空気が導かれたとき、この空気を、立ち下り部から後壁に沿って導きやすくなる。このため、立ち下り部と後壁の周辺に乱流が発生し難くなり、吸気口に空気を効率的に導くことができる。
【0022】
上記の後壁は、ダッシュパネルのうち吸気口が形成されている面に向かって直線状に延びていて、後壁と面とは、前側に鈍角をなしているとよい。
【0023】
これにより、上壁の立ち下り部から後壁に空気が流れ、さらに後壁からダッシュパネルの吸気口が形成されている面に空気が導かれたとき、この空気を、後壁からダッシュパネルの面に沿って導きやすくなる。このため、後壁とダッシュパネルの面の周辺に乱流が発生し難くなり、吸気口に空気を効率的に導くことができる。
【0024】
上記の上壁の立ち下り部および後壁は、カウル部またはダッシュパネルに隣接していてカウル部またはダッシュパネルの形状に対応した形状を有し、吸気カバーはさらに、立ち下り部および後壁とカウル部またはダッシュパネルとの間を封止する封止部材を有するとよい。
【0025】
このように、立ち下り部および後壁と、カウル部またはダッシュパネルとの間に封止部材が配置されるため、これらの間から水が浸入し、さらにダッシュパネルの吸気口に流れ落ちることを防止することができる。
【0026】
上記の上壁は、一対の側壁のダッシュパネル上の縁よりも車両前側まで延びていて、一対の側壁の前縁は、ダッシュパネルから車両前側に向かうほど上壁に近づく傾斜部と、傾斜部の前端から連続して上方に延長され上壁の前端に到達する延長部とを有するとよい。
【0027】
このように、一対の側壁の前縁に、傾斜部および延長部を設けることにより、傾斜部と、延長部と、ダッシュパネル上の縁と上壁の前端を結ぶ線とで区画される領域に沿って、吸気カバーの内部に外気を導入しやすくすることができる。さらに吸気カバーでは、その内部に導入された外気が側壁の上記区画された領域の外側に逃げることがない。これにより、一対の側壁のうち上側に空気を導きやすくしつつ、側壁のうち下側に空気を導き難くして、上壁に沿って流れる空気を増やすことができる。
【0028】
上記の吸気カバーはさらに、上壁の前端から上方に張り出した上側フランジと、一対の側壁の延長部から車幅方向外側に張り出した外側フランジとを有するとよい。
【0029】
これにより、上側フランジおよび外側フランジに沿って上壁側および一対の側壁側に空気を導きやすくすることができる。
【実施例0030】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0031】
図1は、本発明の実施例に係る車両前部構造100およびその要部を示す図である。
図1(a)は、車両前部構造100を斜め前方から見た状態を示している。
図1(b)は、車両前部構造100の要部を示している。以下各図において、車両前後方向をそれぞれ矢印Front、Back、車幅方向の左右をそれぞれ矢印Left、Right、車両上下方向をそれぞれ矢印Up、Downで例示する。
【0032】
車両前部構造100は、
図1(a)の点線で示す吸気口102と、吸気カバー104と、防水壁106とを備える。吸気口102は、ダッシュパネル108に設けられている。ダッシュパネル108は、車両前部である例えばパワーユニット搭載ルームと車室とを区画するパネルであって、吸気口102が形成されたベース面110を有する。吸気口102は、ダッシュパネル108の車両後側に位置する車室内の空調ユニット112による吸気が行われる。
【0033】
吸気カバー104は、例えば樹脂製のカバーであって、ダッシュパネル108のベース面110などに固定されている。また吸気カバー104は、
図1(a)の鎖線で示すカウル部113(
図3(a)参照)から、ダッシュパネル108の車両前側に位置するパワーユニット搭載ルームに導入された外気を、吸気口102に案内する流路を形成する。
【0034】
防水壁106は、吸気カバー104と別体であって、吸気口102と吸気カバー104との間に配置され、例えばダッシュパネル108のベース面110から吸気口102の前方に車幅方向にわたって立設されている。
【0035】
吸気カバー104は、
図1(b)に示す上壁114と、一対の側壁116、118とを有する。上壁114は、吸気口102の上方に配置され流路の上側を区画する。一対の側壁116、118は、上壁114の車幅方向の両端から連続してダッシュパネル108のベース面110に向かって延び、流路の車幅方向両側を区画する。
【0036】
吸気カバー104はさらに、連結部120と、一対の支持部122、124とを有する。連結部120は、上壁114よりも下方で防水壁106に重ねられ、所定の締結部材126で連結されている。支持部122、124は、上壁114から延びて連結部120に接続され、連結部120を支持する。
【0037】
なお吸気カバー104はさらに、一対の側壁116、118から車幅方向にそれぞれ張り出したフランジ128、130を有する。フランジ128、130は、
図1(a)および
図1(b)に示す所定の締結部材132、134によってダッシュパネル108にそれぞれ固定される。
【0038】
図2は、
図1の車両前部構造100の防水壁106を示す図である。防水壁106は、
図2(a)に示すように、車両前方に位置する傾斜壁136と、一対の壁部138、140とを有する。なお傾斜壁136には、
図1(b)に示す締結部材126が貫通する孔部141が形成されている。
【0039】
一対の壁部138、140は、傾斜壁136の車幅方向両端から車両後方に連続して延びている。また壁部138、140は、その後面142が
図2(b)に示すように前方に向かうほど上方に位置するように傾斜している。
【0040】
ここで
図2(b)に示す直線Cは、ダッシュパネル108のベース面110(
図1(a)参照)から、ベース面110に垂直に吸気カバー104側に延びる直線である。防水壁106の傾斜壁136は、この直線Cよりも後方に傾斜している。また傾斜壁136は、第1傾斜壁144と第2傾斜壁146とを有する。
【0041】
第1傾斜壁144は、ダッシュパネル108のベース面110から吸気カバー104側に延びている。第2傾斜壁146は、第1傾斜壁144の上端148から連続していて、第1傾斜壁144よりもさらに後方に傾斜している。
【0042】
図3は、
図1の車両前部構造100の各断面を示す図である。
図3(a)は、
図1(a)のカウル部113も含めた車両前部構造100のA-A断面図である。
図3(b)は、
図1(b)の車両前部構造100のB-B断面図である。
図4は、
図1の車両前部構造100の吸気カバー104を示す図である。
【0043】
車両前部構造100は、
図3(a)に示すように、カウル支持部150によって支持されたカウル部113を通して外気Dが導入され、例えば図中矢印に示すような気流E、Fが吸気カバー104や防水壁106の傾斜壁136に向かって流れ込む。
【0044】
吸気カバー104の上壁114は、
図3(b)に示すように立ち上り部152と延出部154とを有する。立ち上り部152は、防水壁106の傾斜壁136よりも後方に配置され、後方に向かうほど上方に立ち上がる。延出部154は、傾斜壁136と上下方向で重なる位置まで、立ち上り部152の前端155から連続して前方に延びている。なお延出部154は、
図3(b)に示すように平坦形状を有する。しかし、これに限らず、延出部154は、下方に凸となるような形状、例えば弧状に湾曲した形状であってもよい。
【0045】
吸気カバー104はさらに、後壁156を有する。後壁156は、
図4に示すように一対の側壁116、118同士を車幅方向に連結する。また
図3(b)に示すように上壁114はさらに、立ち下り部158を有する。
【0046】
立ち下り部158は、立ち上り部152の後端160に連続し、後壁156に向かうほど下方に立ち下がる。また立ち下り部158と後壁156とは、
図3(b)に示すように前側に鈍角θaをなして互いに接続されている。さらに後壁156は、ダッシュパネル108のうち吸気口102が形成されているベース面110に向かって直線状に延びている。また
図3(a)に点線Gで示す後壁156の延びる方向とベース面110とは、前側に鈍角θbをなしている。なお立ち上り部152、立ち下り部158および後壁156は、弧を描くように連続して形成されていてもよい。
【0047】
また立ち下り部158および後壁156は、ダッシュパネル108に隣接していて、ダッシュパネル108の形状に対応した形状を有する。さらに立ち下り部158と後壁156にはそれぞれ、
図3(b)に示す第1封止部材162と第2封止部材164が設けられている。この第1封止部材162および第2封止部材164は、立ち下り部158および後壁156とダッシュパネル108との間を封止し、これらの間から水などが浸入し、さらにダッシュパネル108の吸気口102に流れ落ちることを防止することができる。
【0048】
吸気カバー104はさらに、上側フランジ166と
図4に示す外側フランジ168、170とを有する。上側フランジ166は、上壁114の前端172(
図3(b)参照)から上方に張り出している。外側フランジ168、170は、
図4に示すように一対の側壁116、118から車幅方向外側に張り出している。これにより、上側フランジ166および外側フランジ168、170に沿って、上壁114側および一対の側壁116、118側に空気を導きやすくすることができる。
【0049】
また
図4に示す一対の側壁116、118から車幅方向にそれぞれ張り出したフランジ128、130には、固定孔173a、173bが形成されている。これにより、フランジ128、130は、締結部材132、134(
図1参照)を固定孔173a、173bに貫通させることによりダッシュパネル108にそれぞれ固定される。
【0050】
なお吸気カバー104の連結部120は、
図4(a)に示すように一対のリブ174、176と連結面178とを有する。一対のリブ174、176は、車幅方向に離間して車両前後方向に延びていて、連結面178によって連結されている。一対の支持部122、124は、その間に間隙が形成されていて、さらに一対のリブ174、176にそれぞれ接続されている。また、一対の支持部122、124および一対のリブ174、176は、車両前後方向に長手に設定されている。さらに
図4(b)に示すように、一対の支持部122、124は、連結部120から上壁114に向かうほど互いに離間するように傾斜していて、いわば逆ハの字形状に開いた状態になっている。
【0051】
図5は、
図4の吸気カバー104を他の方向から見た状態を示す図である。
図5(a)および
図5(b)はそれぞれ、吸気カバー104の左側面図および下面図である。
【0052】
吸気カバー104の上壁114は、
図5(a)に示すように、側壁118のうちダッシュパネル108のベース面110に接する縁180よりも車両前側まで延びている。また側壁118の前縁182は、傾斜部184と延長部186とを有する。傾斜部184は、ダッシュパネル108のベース面110から車両前側に向かうほど上壁114に近づくように傾斜している。延長部186は、傾斜部184の前端188から連続して上方に延長され、上壁114の前端172に到達する。
【0053】
なお側壁116も同様に、
図4(a)に示すように、その前縁190に傾斜部192と延長部194とを有する。傾斜部192は、ダッシュパネル108のベース面110に接する縁196から車両前側に向かうほど上壁114に近づくように傾斜している。延長部194は、傾斜部192の前端198から連続して上方に延長され、上壁114の前端172に到達する。
【0054】
このように吸気カバー104では、一対の側壁118、116の前縁182、190に、傾斜部184、192および延長部186、194を設けている。これにより、傾斜部184、192と、延長部186、194と、ダッシュパネル108上の縁180、196と上壁114の前端172を結ぶ線H、Iとで区画される領域200、202(
図4(a)および
図5(a)参照)に沿って、吸気カバー104の内部に外気を導入しやすくすることができる。
【0055】
また吸気カバー104では、その内部に導入された外気が一対の側壁118、116の上記区画された領域200、202の外側に逃げることがない。したがって吸気カバー104では、一対の側壁118、116の上側に空気を導きやすくしつつ、下側に空気を導き難くして、上壁114に沿って流れる空気を増やすことができる。
【0056】
ここで車両においては、車両中央側に近いほど前方から空気を導きやすくなり、その一方で車両外側に近い位置では空気が車両外側に逃げてしまう。そこで吸気カバー104では、
図5(b)に示すように立ち上り部152および立ち下り部158を、車両中央側(図中では右側)に向かうほど前側に位置するように傾斜させている。これにより、車両前部構造100では、立ち上り部152および立ち下り部158の傾斜方向に沿って空気を導いて、ダッシュパネル108のベース面110に形成された吸気口102全体に空気を導きやすくすることができる。
【0057】
以下、吸気カバー104の流路内での
図3(a)に示す気流E、Fの挙動について説明する。
図6は、
図3の吸気カバー104の流路内の気流を比較例とともに模式的に示す図である。
【0058】
図6(a)に示す吸気カバー104では、上壁114の立ち上り部152を防水壁106よりも後方に配置している。これにより、吸気カバー104と防水壁106との間で、吸気カバー104の延出部154に沿って後方に流れる空気(外気)による後方気流Eと、防水壁106の傾斜壁136に沿って上方に流れる空気による上方気流Fとを相互作用させることができる。
【0059】
まず、後方気流Eが上方気流Fに対して作用する場合について説明する。
図6(a)に示すように上方気流Fは、防水壁106の傾斜壁136の第1傾斜壁144に沿う気流faと、第2傾斜壁146に沿う気流fbとに分かれる。そして気流faが上壁114の延出部154に向かって流れると、後方気流Eは、気流faを後方に向かって押すことにより、気流faを延出部154に沿う方向に導いて、気流fcを生じさせる。
【0060】
さらに後方気流Eは、気流fbも後方に向かって押すことにより、気流fbを立ち上り部152に沿う方向に導いて、気流fdを生じさせる。その後、気流fcと気流fdは、立ち上り部152に沿って後方に流れて、さらに立ち下り部158および後壁156に沿って流れることにより、ダッシュパネル108のベース面110に形成された吸気口102に効率的に導かれる。
【0061】
一方、
図6(b)に示す比較例の吸気カバー204は、上壁206の立ち上り部208が防水壁210の前方あるいは防水壁210と上下方向で重なっている点で、上記吸気カバー104と異なる。
【0062】
比較例の吸気カバー204では、後方気流Eが上方気流Fの一部である気流f1を後方に押すと、気流f1は、立ち上り部208に直交するように流れる気流f3となってしまい、乱流が発生しやすくなる。さらに上方気流Fの一部である気流f2は、上壁206の立ち下り部212に直交するように流れている。このため、後方気流Eが気流f2を後方に押しても、気流f4を生じさせるに過ぎず、立ち下り部212に沿う方向に導くことが困難であるため、乱流が発生しやすくなる。
【0063】
つぎに
図7を参照して、上方気流Fが後方気流Eに対して作用する場合について説明する。
図7は、
図6に後続して吸気カバー104内の気流を比較例とともに模式的に示す図である。
【0064】
図7(a)に示すように、後方気流Eの流れる方向が上壁114の延出部154から立ち上り部152に沿って変化するとき、後方気流Eの一部は、気流Eaとして後方かつ下方に流れて立ち上り部152から剥離しようする。しかし、上方気流Fの一部である気流fbが後方気流Eを上方に向かって押し上げることにより、気流Eaに代えて、気流Ebを生じさせることができる。これにより、後方気流Eの一部が乱流となることを抑制することができる。
【0065】
一方、
図7(b)に示す比較例の吸気カバー204では、後方気流Eが立ち下り部212に沿う方向に流れているとき、上方気流Fの一部である気流f2は、上壁206の立ち下り部212に直交するように流れている。このため、後方気流Eが気流f2を立ち下り部212に向かって押すことにより、立ち下り部212で乱流が発生し、後方気流Eの流れを阻害してしまう。
【0066】
しかも吸気カバー204では、立ち下り部212と後壁214とが急な角度で接続されているため、
図7(b)に示すように後方気流Eが後壁214にぶつかって乱流Ecが発生しやすくなる。このように比較例の吸気カバー204では、後方気流E、上方気流Fをダッシュパネル108Aの吸気口102に効率的に導くことが困難である。
【0067】
これに対して車両前部構造100によれば、吸気カバー104の上壁114の立ち上り部152を防水壁106よりも後方に配置することにより、
図6および
図7に示す後方気流Eおよび上方気流Fを上記のように相互作用させて、これらの各気流E、Fをダッシュパネル108の吸気口102に効率的に導くことができる。
【0068】
また車両前部構造100では、防水壁106が傾斜壁136を有し、立ち上り部152が傾斜壁136よりも後方に配置されている。これにより、防水壁106の傾斜壁136に沿って上方かつ後方に空気が流れるようにして、さらにこの空気を、防水壁106の傾斜壁136よりも後方に配置された上壁114の立ち上り部152に導くことができる。
【0069】
また上壁114の延出部154が防水壁106の傾斜壁136に上下方向で重なる位置まで立ち上り部152から前方に延びているため、延出部154に沿って後方に空気を流しやすくすることができる。
【0070】
さらに防水壁106の第2傾斜壁146が、第1傾斜壁144よりもさらに後方に傾斜しているため、第1傾斜壁144から第2傾斜壁146に沿って上方かつ後方に空気を流しやすくすることができる。これにより、第2傾斜壁146から空気が剥離することを抑制して、吸気カバー104の上壁114の立ち上り部152に空気を導きやすくすることができる。
【0071】
また、上壁114の立ち下り部152と後壁156が鈍角θa(
図3(b)参照)をなしている。このため、上壁114の立ち上り部152から立ち下り部158に空気が流れ、さらに立ち下り部158から後壁156に空気が導かれたとき、この空気を、立ち下り部158から後壁156に沿って導きやすくなる。このため、立ち下り部158と後壁156の周辺に乱流が発生し難くなり、ダッシュパネル108の吸気口102に空気を効率的に導くことができる。
【0072】
また後壁156は、ダッシュパネル108のうち吸気口102が形成されているベース面110に向かって直線状に延びて、ベース面110と前側に鈍角θb(
図3(a)参照)をなしている。
【0073】
これにより、上壁114の立ち下り部158から後壁156に空気が流れ、さらに後壁156からダッシュパネル108のベース面110に空気が導かれたとき、この空気を、後壁156からベース面110に沿って導きやすくすることができる。このため、後壁156とダッシュパネル108のベース面110の周辺に乱流が発生し難くなり、吸気口102に空気を効率的に導くことができる。
【0074】
また
図2に示すように防水壁106が一対の壁部138、140を有し、これら壁部138、140の後面142が前方に向かうほど上方に位置するように傾斜している。これにより、立ち上り部152、立ち下り部158および後壁156から剥離した空気を、吸気口102側に導きやすくすることができる。また防水壁106の車幅方向外側から吸気口102側に水などが浸入することを、一対の壁部138、140によって抑制することができる。
【0075】
なお防水壁106の傾斜壁136は、
図2(b)に示すように第1傾斜壁144と第2傾斜壁146を有する形状としたが、これに限定されず、1つの傾斜面で形成するようにしてもよく、あるいは、弧状に湾曲した湾曲面としてもよい。
【0076】
図8は、
図1の車両前部構造100の吸気カバー104の他の変形例を模式的に示す図である。
図8(a)に示す変形例の吸気カバー104Aは、底壁216を有する。この底壁216には、ダッシュパネル108の吸気口102に重なる開口218が形成され、さらに防水壁106Aが立設されている。すなわち防水壁106Aは、吸気カバー104Aと一体になっている。
【0077】
このように吸気カバー104Aが、底壁216を有し防水壁106Aと一体化している構成であっても、上壁114の立ち上り部152を防水壁106Aよりも後方に配置することにより、ダッシュパネル108の吸気口102に空気を効率的に導くことができる。
【0078】
図8(b)に示す変形例の吸気カバー104Bでは、上壁114Aのうち流路を形成する下面220にのみ、立ち上り部152A、延出部154A、立ち下り部158Aおよび後壁156Aを形成している。なおダッシュパネル108Bは、吸気カバー104Bの外面222に沿うような形状となっている。
【0079】
このような吸気カバー104Bであっても、上壁114Aの立ち上り部152Aを防水壁106よりも後方に配置することにより、ダッシュパネル108Bの吸気口102に空気を効率的に導くことができる。
【0080】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。