(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050509
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】遮蔽空間形成装置
(51)【国際特許分類】
A61G 10/00 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
A61G10/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160640
(22)【出願日】2021-09-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り Web掲載日 令和3年9月17日 Webのアドレス https://www.hama-med.net/jsta39/ https://www.hama-med.net/jsta39/shoroku,pdf
(71)【出願人】
【識別番号】513199992
【氏名又は名称】本地川 裕之
(71)【出願人】
【識別番号】513200184
【氏名又は名称】日興商事株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本地川 裕之
【テーマコード(参考)】
4C341
【Fターム(参考)】
4C341JJ03
4C341KK05
4C341MS18
(57)【要約】
【課題】感染防止目的で患者頭頚部を収容して周囲環境から遮蔽する各種装置が実用化されているが、多くは患者が仰臥する寝台に載置するものであり、寝台の幅が狭い場合や移動の際に設置面の形状によっては装置が脱転する可能性がある。また使用の都度、装置の非交換部材の消毒処理が必要である。
【解決手段】本発明は医療用寝台に備わる点滴支柱用の孔に挿着した多関節アームでフレームを対象の上方の任意の位置に任意の角度で保持し、フレームに装着したシート材で対象を天蓋状に覆うことで、周囲環境と分離した遮蔽空間を形成する。シート材は同じく交換部材である環状バンドでフレームに締着されるが、対象側に露出しないフレームは使用後の消毒処理を要しない。
【選択図】
図22
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮蔽した空間を形成する装置であって、1つ以上の関節を有する支持アーム機構と、支持アーム機構により空中に保持されるフレーム機構を有し、前記フレーム機構はそれに装着したシート材で遮蔽対象物を天蓋状に覆って内包することを特徴とする遮蔽空間形成装置。
【請求項2】
前記フレーム機構は遮蔽対象物に直接暴露されることがなく、前記フレーム機構に装着したシート材を使用後に交換する際に前記フレーム機構の保守作業が不要であることを特徴とする請求項1に記載の遮蔽空間形成装置。
【請求項3】
前記フレーム機構は対象物に対向する面に照明装置を備えることで、作業時の視認性を改善することを特徴とする請求項1に記載の遮蔽空間形成装置。
【請求項4】
前記支持アーム機構の脚部が、拡径および縮径が自在であり、対象物を載置する台に設けられた孔に挿着する際に拡径することで遮蔽空間形成装置全体が回旋することを抑制できることを特徴とする請求項1に記載の遮蔽空間形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
対象物を隔離する天蓋状遮蔽空間形成技術に関する
【背景技術】
【0002】
感染症が疑われる患者の頭頸部分を収容する容器で不完全な閉鎖ながら空間を分離し呼気に含まれる飛沫が室内環境に直接拡散することを防ぐ空間遮蔽装置が考案されている。例えば特許文献1のように透明アクリル板を一部が開放された箱状に加工して患者頭頸部を収容する案や、特許文献2のようにアーチ状の半円柱形状の骨格に透明シート材を被せた遮蔽装置で患者の頭頚部を覆う案が考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6843412号
【特許文献2】特許第6889347号
【特許文献3】特願2021-107978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空気中に物質を拡散する対象を扱う際に、その拡散物質を局所化したい場合がある。拡散される物質が作業者の健康に影響を及ぼす場合には、作業者がマスクなどの防護具を使用することもあるが、作業環境への物質拡散は防げないので空間的に分離して物質拡散を局所化することが望まれる。
【0005】
ある対象から拡散される物質の局所化に用いた装置を、別の対象に用いるときには、装置そのものが次の使用に影響を生じないように部材の交換などの更新作業が必要になることがある。この更新作業が簡便であると利用効率が改善する。
【0006】
そこで本発明は、対象物を内包し、更新作業の効率を改善した遮蔽空間形成装置の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の遮蔽空間形成装置は、遮蔽した空間を形成する装置であって、1つ以上の関節を有する支持アーム機構と、支持アーム機構により空中に保持されるフレーム機構を有し、前記フレーム機構はそれに装着したシート材で遮蔽対象物を天蓋状に覆って内包することを特徴とするものである。
【0008】
本発明の遮蔽空間形成装置は、前記フレーム機構が遮蔽対象物に直接暴露されることがなく、前記フレーム機構に装着したシート材を使用後に交換する際に前記フレーム機構の保守作業が不要であると良い。
【0009】
本発明の遮蔽空間形成装置は、前記フレーム機構が対象物に対向する面に照明装置を備えることで、作業時の視認性を改善できると良い。
【0010】
本発明の遮蔽空間形成装置は、前記支持アーム機構の脚部が、拡径および縮径が自在であり、対象物を載置する台に設けられた孔に挿着する際に拡径することで遮蔽空間形成装置全体が回旋することを抑制できると良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、他の対象に使用する際の手間が最小で狭小なスペースでも安定して使用できる遮蔽空間形成装置を提供でき、使用後の清浄化処理も簡便である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】広口瓶にシートを覆設し、紐を遊嵌した状態。
【
図4】広口瓶にシートを覆設し、遊嵌した紐を引き締めた状態。
【
図5】径の小さな広口瓶に固定周長の環状部材を遊嵌した状態。
【
図6】
図5の広口瓶を拡径し固定周長の環状部材が締着状態になった様子。
【
図7】シート材を覆設した広口瓶が拡径して
図6の状態と同様に締着状態になった様子。
【
図8】頂点の一つが内側方向に摺動できる概ね矩形のフレームで、摺動可能な部材が矩形の頂点をなす状態にある図。
【
図9】
図8の概ね矩形フレームで摺動可能な部材が内側方向に摺動した状態。
【
図10】
図8で示した概ね矩形のフレームに固定周長の環状部材を環装して締着状態すなわちロック状態にした図。
【
図11】
図10で示した環状部材を環装した概ね矩形のフレームの摺動可能な部材を内側に摺動させてアンロック状態とした図。
【
図12】
図8から
図11で示した概ね矩形のフレームに載設する部材であって、この図では保持する外部部材と連結する機構を有している。
【
図13】
図8から
図11で示した概ね矩形のフレームに
図12で示した部材を載設して一体化した状態を上方から見た様子。
【
図14】
図8から
図11で示した概ね矩形のフレームに
図12で示した部材を載設して一体化した状態を下方から見た様子。
【
図15】
図13と
図14で示した部材にシート材を覆設して環状部材を遊嵌した状態。摺動可能部材32はアンロック状態となっている。
【
図16】
図8から
図11で示した摺動可能な部材に替えて利用可能な回動部材の図。この図ではロック状態となる。
【
図17】
図8から
図11で示した摺動可能な部材に替えて利用可能な回動部材の図。この図ではアンロック状態となる。
【
図18】外輪51と内輪52から構成される円形フレームの例。
【
図19】円形フレームの外輪の部分拡大。全周を有限個の王冠状の可動片で構成し、各可動片は上部に爪を備える。各可動片は内側面に押動を受けるための小突起を有する。
【
図20】円形フレームの内輪の部分拡大。外輪の可動片と同数の凹凸を有し、凸部分が外輪の可動片内側の小突起を押動して遠心方向に移動させると拡径状態になる。内輪が回転して、外輪の可動片内側の小突起が内輪の凹部分にあるとき各可動片は基部の弾性により求心方向に移動して縮径状態になる。
【
図21】
図18から
図20で示した円形フレームを縮径状態にして、シート材を覆設し、さらに長手袋を覆設し、固定周長の環状部材を遊嵌し、円形フレームを拡径状態にしてロック状態とし、円形フレーム内側のシート材を開窓するとシート材を介して作業者の手を入れてシート材で隔離された空間内で作業が可能となる。
【
図22】矩形フレームにシート材を覆設し、そのシートの側面に円形フレームを用いて長手袋を設置したものを、患者が仰臥している寝台に備わる点滴支柱受け具に挿設した支持アーム部材で空中に保持し、患者の頭頚部を収容するように保持した様子。
【
図23】支持アーム機構脚部が拡径と縮径をする機構の一例。パイプ状の支持アーム機構脚部81内で3方向に配置された台形部材83に接している円錐形部材82が長軸方向に能動的に移動可能である。Aの状態では台形部材83はパイプ81内側に位置している。円錐形部材82が、その尖端方向に移動すると台形部材83は外側方向に押出されてBの状態となる。さらに円錐形部材82が、その尖端方向に移動すると台形部材83はさらに外側方向に押出されて拡径状態となる。円錐形部材82が逆方向に移動すると台形部材83への押圧力は減退し、パイプ81内面と台形部材83の間に弾性部材を介在させておくと、台形部材83は内側方向に移動し縮径状態となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、その前提条件となる課題や目的を踏まえつつ、詳細に説明する。
【0014】
本実施形態の遮蔽空間形成装置はフレーム部材と支持アーム部材で構成される。
前記フレーム部材は円形または楕円形または多角形の外形を有している。前記フレーム部材はシート材を装着する機構を有している。
【0015】
前記支持アーム部材は前記フレーム部材と関節で連結する。前記支持アーム部材の脚部は対象が載置される台との連結機能を有する。前記支持アーム部材は1つ以上の関節を有してもよい。前記支持アーム部材は前記フレーム部材を空中の任意の位置に任意の角度で保持する機能を有する。
【0016】
すなわち本実施形態の遮蔽空間形成装置は、遮蔽した空間を形成する装置であって、1つ以上の関節を有する支持アーム機構と、支持アーム機構により空中に保持されるフレーム機構を有し、前記フレーム機構はそれに装着したシート材で遮蔽対象物を天蓋状に覆って内包することを特徴とするものである。
【0017】
対象物が何らかの影響を受けることを防ぐために、対象物を周囲環境から空間的に分離したい場合がある。逆に対象物が周囲環境に影響を及ぼさないために空間的に分離したい場合がある。
【0018】
例えば、外科手術における覆布や外科医が装用する手袋は、消毒済みの清潔領域が、周囲環境や医療者の皮膚に直接接触することを避ける目的で使用される。逆に手術を受ける患者が感染性疾患に罹患している可能性が否定できない場合には、周囲環境や執刀する医師が感染リスクに直接暴露されることを防ぐ目的を担い、双方向の影響軽減を目的とすることもある。
【0019】
別の例で、呼吸器感染症に罹患し、呼吸の度に感染性飛沫を拡散している可能性がある患者を扱う場合には、自分自身を保護する目的で治療者がマスクなどの防護具を着用する。しかし他の治療者とも共用している室内環境への拡散は防げないので、飛沫を局所化する手段があると良い。
【0020】
人体で呼気と吸気の出入り口となる口と鼻は頭部顔面に存在する。前腕部からの採血や心電図検査など頭部以外の人体部位で行える医療行為では患者自身に適切なマスクを装用させることで呼気を介する感染リスクを低減できる。しかし例えば胃の内視鏡検査では、マスクは使えない状況であり被検者の口や鼻に対する操作中に被検者が咳き込むと感染力を持つ飛沫が環境内に飛散する可能性が懸念される。当該医療者自身はマスクやフェイスガードで防護できるものの、処置室室内での飛沫拡散は防げず感染要因の局所化は期待できない。
【0021】
この課題に対して主に患者の頭頸部分を収容する装置で空間を分離し飛沫が室内環境に直接拡散することを防ぐ空間遮蔽装置が考案されている。一方で医療行為において目視は重要な情報収集手段であり、遮蔽装置には観察のために視認性が期待される。そのため空間遮蔽装置の多くは遮蔽性と透過視認性を両立させる観点から透明な板材または透明シート材を使用している。
【0022】
板材を使う案の多くは治療者の腕が入るように開口部を設けている案が多い。例えば文献1は透明アクリル板を箱状に加工して一部を開口あるいは開放したもので患者頭頸部を収容する案である。文献2はアーチ状の半円柱形状の骨格に透明シート材を被せた遮蔽装置で患者の頭頚部を覆う案である。
【0023】
透明アクリル板製の箱であれ、半円柱形状骨格を透明シート材で覆う方法であれ、装置は患者臥床面に載置するものである。箱型装置では底面は開放であり、側板の下縁で寝台に接触する。半円柱状骨格はほぼ平行する足部で寝台に接触し、それは2本の直線状である。
【0024】
寝台の幅によっては、これらの装置の載置接触面が寝台天面から逸脱し、装置全体が脱転する可能性がある。特に寝台そのものが移動することを前提としているストレッチャーで使用する場合には、天面の幅が狭いという条件に加えて移動で生じる慣性力により装置が寝台天面から逸脱し、装置全体が脱転する可能性は更に高くなる。すなわち使用に際しての安定性に懸念がある。
【0025】
本実施形態ではフレーム部材に相当の面積を有するシート材を取り付け、それを患者の上方に支持アームで保持する。シート材の辺縁部はカーテン状に垂れ下がるので、これが患者が仰臥する寝台天面に接することで患者頭部を内包する遮蔽空間が成立する。
【0026】
本実施形態では、装置全体は寝台に備わる鉛直方向の孔に挿着して使用するので、使用する寝台の幅や、寝台全体の移動によって生じる慣性力の影響は低減される。すなわち実使用に際しての安定性は改善される。
【0027】
また医療行為においては想定外の事態に際して、より多くの人員の関与を必要とする場合も生じうる。その際に空間分離を放棄してシールド装置使用を止めるのも選択肢の一つではあるが、感染性飛沫の空間への拡散は、事後の対応処置手順を増やし、感染拡大という悲劇も起こしかねない。可能な限り飛沫は局所化しながら医療行為そのものが必要とする対象への物理的アクセスの自由度も保ちたいという命題に対して、固定的なアクセス用開口部を備えたアクリル板で構成された箱状の装置や、透明シート材を支える半円筒形の骨格は制限要素となってしまう。すなわち遮蔽空間内部の対象への物理的アクセス性が懸念される。
【0028】
本実施形態によれば天蓋状の遮蔽空間の側面部は全周にわたって自由下垂したカーテン状のシート材なので、注意は要するものの内部へのアクセス性は良好である。
【0029】
感染性疾患を考慮した場合、シールド装置は使用後、消毒処理が必要であるが、廃棄を前提とした交換部材を採用することで、消毒処理対象を減らし処理に要する時間を短縮できる。
【0030】
外科手術用手袋や手術着などはディスポーザブルと呼ばれる単回使用の使い捨てとすることで、多数の患者に対応が必要な場合に患者毎に新品を使用することで効率が高まると同時に交差感染防止効果も大幅に改善されるので、今日では標準的に使用されている。シールド装置においても使用後の消毒処理は可能な限り交換部材の交換だけで対応できることが望ましい。
【0031】
シールド装置を使用するに際して感染源を含む可能性のある飛沫が、透明アクリル板や透明シート材などの遮蔽部材に付着することは避けられないが、同じ装置を別の患者に使用する際には清浄化作業が必要であり、交換を前提とする部材以外の部分に汚染物が付着することは最小限、できれば皆無であることが望まれる。
【0032】
透明アクリル板による遮蔽の場合には、透明アクリル板そのものを都度交換することは非現実的であり、実際には清拭処理を経て再利用することになるので手間とリスクが生じる。
【0033】
半円柱形状骨格に被せた透明シート材による遮蔽では、透明シート材は容易に交換廃棄できるが、透明シート材と同様に飛沫に暴露される半円柱形状骨格は再利用されるので清拭処理する必要があり手間とリスクが生じる。
【0034】
すなわち、使用の後に次回使用に備えた準備作業に占める非交換部材関連処理があると非効率であると同時に衛生上の懸念が残る。
【0035】
本実施形態では透明シート材を交換部材として使用する。透明シート材のフレーム部材への装着に際して、フレーム部材が患者側に直接暴露されないことを目指す。そのためにフレーム部材には特許文献3の機構を採用しても良い。
【0036】
特許文献3ではシート材を非交換部材であるフレーム部材に装着するために固定周長を有する環状部材すなわちバンド材を使用する。このバンド材はシート材と同じく交換部材すなわち使用の都度、廃棄することを前提とする消耗品である。この機構による装着の機序を説明する。
【0037】
空間遮蔽すなわち空間を分離する手段として、例えば広口瓶の容器開口部を油紙などのシート材で覆い、紐を使って締着する封鎖方法は古来より広く用いられてきた。以下、シート材を交換部材と想定して記載する。封鎖用のシート材を内外から挟み込む部材をそれぞれ内側部材と外側部材と称することにする。
【0038】
上記の例では広口瓶が内側部材であり、紐が外側部材である。内側部材は一定の大きさであり、外側部材は縛るという行為で適切な締着力を付勢する役割を担い、周長は可変である。一方、内側部材は外側部材が加える締着力に抗して形状を維持できる強度と剛性を有している。すなわち圧壊に相当する破壊はもとより、外周形状が3次元的に捻じれる変形も好ましくない。
【0039】
この例で広口瓶に収納する内容物が放射性物質や感染体など危険物質である場合であれば、外側部材は前記の紐のような単純な構造でもよいが、後に廃棄対象となる内側部材は外側部材から加えられる締着力に耐える強度と剛性を有していなくてはならない。そのため素材の選択と肉厚は重要な要素であり、内側部材の大きさによっては捻じれ変形に対する強度と剛性が求められるだけでなく、廃棄物として嵩高となる懸念がある。また一般的に強度と剛性を高めると、通常では素材と製造および廃棄にかかるコストは増大する傾向があるので内部部材を都度、廃棄交換することは不経済となり得る。
【0040】
逆に広口瓶のような容器に収納する内容物が隔離保護されるべき対象であって、広口瓶の周囲環境に放射性物質や感染体など危険物質がある場合には、危険物質に暴露される外側部材は汚染されている可能性があるので、交換部材の廃棄を含めた各種操作に際しては、その部分に直接触れないで操作可能とする工夫が望まれる。また廃棄による交換が頻回になる場合には廃棄部材は単純な構造であると同時に低コストであることが望まれる。
【0041】
外部部材を交換部材にした場合を考えると、外側部材に求められるのは剛性ではなく、張力に抗する強度と低伸展性そして締着力を付勢する機能である。前記した広口瓶に対する紐の場合、結紮という行為で締着力を実現していたが危険物側に配置された紐を使用前に結紮することは容易であっても、使用中に予期せず解ける事態は好ましくない、締着力解除の際に危険物に暴露された外側部材の操作が必要となるが、使用中に解けることのないように固く結紮された状態を解除するのは容易ではない。ズボンのベルトの一端にあるバックルのような機構を装備することで解決できる可能性はあるが、都度廃棄することが許容できるコスト内で自在に解除可能な機構を用意できたとしても、安全側からシート材を介して容易に操作できるのか懸念が残る。すなわち、暴露される部材を限局して、その部材のみを簡便に交換できる交換部材とすることで、再利用に向けた他部材の清拭作業などの手間を排除することが望まれる。
【0042】
本実施例では特許文献3に記載された締着機構を採用し、締着力生成機能を外部部材ではなく内部部材に担わせる。都度廃棄する外側部材には固定周長を有する環状構造の部材すなわち環状バンド材を用いる。環状バンド材には張力に対する強度と低伸長性が求められる。環状バンド材は例えば梱包に多用されるポリプロピレンのテープを環状に加工したものを利用する。低伸長性と強度はもとより都度廃棄する単回使用を想定とした場合でも製造コストは低廉であり、廃棄時にも嵩張ることなく、焼却処理で排出されるガスも許容できる範囲である。
【0043】
遮蔽対象物に暴露されないので直接触れて操作することが可能な内側部材としてフレーム部材の一部または全周を自在に拡径と縮径が可能であるようにすることで、自在に締着力の付勢または減勢を可能とする締着機構を提供できる。
【0044】
図10に概ね矩形の外形を有するフレームの例を示す。このフレームのひとつの頂点が
図11のように矩形の内側方向に摺動可能な機構を備えている。この矩形フレームに、
図12で示す保持具連結機構を備えたフレーム上乗せ部材を載設して
図13のように一体化する。
図13は一体化した状態を上面から見た図であり、
図14は下面から見た図である。フレーム上乗せ部材はバンド状の環状部材が脱転することを防ぐプーリーの役割を兼ねている。
【0045】
図14の状態にシート材を覆設して、環状部材を遊嵌する。フレームの可動部材32をアンロック状態からロック状態に摺動すると環状部材を締着できる。天地を逆転すると
図15のような天蓋様の空間を作り出せる。フレームの保持具連結機構35を利用して適切な位置に保持することで対象を内包可能な空間が形成できる。
図14の可動部材32は摺動してアンロック状態にあるが、実使用時には摺動してロック状態になりシート部材などが脱落しないようにする。
【0046】
この機構で十分な面積を有する透明シート材をフレーム部材に締着し、環状バンドが遮蔽対象物側になるようにすると、シート材の中央部はフレーム部材で保持され、シート材の外縁部分は自由端となりカーテン状に垂れ下がり、天蓋状の空間を形成できる。フレーム部材に締着した状態ではシート材のフレーム部材の内部に位置する部分は全周方向に進展されるため平面性が増して波うちが減るので、透過視認性が改善される。
【0047】
視認性を確保するために照明は重要である。フレーム部材の対象に対向する部分にLEDなどの照明部材を内蔵することで、透過視認性をさらに改善しても良い。また照明は発光体そのものをフレーム部材に内蔵するほかに外部光源が生成する光を導光ファイバーなどでフレームに導いても良い。
【0048】
すなわち本実施形態の遮蔽空間形成装置は、前記フレーム機構が対象物に対向する面に照明装置を備えることで、作業時の視認性を改善できる特徴を備える。
【0049】
フレーム部材の形状は特許文献3に記されているように凸多角形または円形または楕円など多様な形状が選択できるが、ここでは、概ね矩形のフレーム部材を用いて説明する。矩形の頂点の一つをなす部材が可動性を有し、内側方向に自在に摺動可能であり、矩形の頂点に位置する状態でロック可能な機構を有している。この矩形の頂点に固定された状態をロック状態と称する。ロックが解除されて摺動可能な部材が矩形の頂点をなす位置から矩形の内側方向に位置が変化した状態をアンロック状態と称する。
【0050】
前記ロック状態にある場合のフレーム外周長に相当する周長を有する例えばポリプロピレンのような低伸長性軟性材料でできた環状部材を用意し、アンロック状態のフレーム部材に環装する。このときフレーム部材の実質外周長はロック状態に比べて短くなっているので、環状部材は遊装状態である。フレーム部材をロック状態に推移させるとフレーム部材の実質外周長は環状部材の周長と同等になり、遊装状態であった環状部材との間に押圧が生じる。
【0051】
すなわち、それ自体の外周長に相当する固定周長を有する環状部材を遊嵌し、その環状部材の内側面に外側方向に向かう押圧を加えて、締着力を付勢する締着機構が成立する。
【0052】
アンロック状態のフレーム部材にシート材を覆設し、さらにバンド材を環装する。この状態ではバンド材は遊装状態だが、フレーム部材をロック状態にすると、バンド材とフレーム部材の間に生じる押圧によってシート材を挟圧することでシート材をフレーム部材に締着できる。
【0053】
すなわち前記、フレーム部材に、フレーム部材の外周長に相当する固定周長を有するバンド材を、シート材を介して遊嵌し、そのバンド材の内側面に外側方向に向かう押圧を加えて、挟装したシート材に対する締着力を付勢する締着機構が成立する。
【0054】
シート材をフレーム部材から分離するには、バンド材でシート材を挟持したフレーム部材をアンロック状態に変化させることで、バンド材とフレーム部材との間の押圧は消退し、シート材に対する挟圧も減勢するので、シート材は遊装状態になったバンド材とともにフレーム部材から分離可能となり廃棄可能できる。
【0055】
すなわち、医療者は、遮蔽対象に暴露されていないので直接操作することが容易なフレーム部材の拡径および縮径機構により広口瓶の例の紐を結紮したり解除したりすることと同等の効果をワンタッチで行える。
【0056】
本実施形態の遮蔽空間形成装置は、前記フレーム機構が遮蔽対象物に直接暴露されることがなく、前記フレーム機構に装着したシート材を使用後に交換する際に前記フレーム機構の保守作業が不要であるという特徴を備える。
【0057】
ロック状態を生成する機構は摺動自在な部材だけに限らない。すなわち可動方法は摺動に限らない。例えば
図16と
図17に示すように蝶番を介してフレーム部材本体に蝶着された頂点がフレーム内側方向に回動自在である機構を用いても本実施形態の機能を実現できる。
【0058】
フレームの外形は前記した矩形を含む多角形に限らず、概ね円形または楕円形の場合でも全周または一部が内側方向に移動可能であれば機能する。また可動可能な部材は1つの頂点に制限されない。たとえば前記矩形フレームで2つ以上の頂点が可動性を有していてもよい。
【0059】
またフレームが円形の場合には全周を有限個に分割した円周部分が拡径方向と縮径方向に任意に偏位移動することで環状部材に対する押圧を制御できる。
図18で示す王冠状の部材51に凹凸を有する円周を有する部材52を嵌挿し、部材52を回転させて肉厚の大きな部分57が部材51の内側にあたる状態にすると、部材51の可動片53を外側方向に押動し、部材51は拡径状態となる。逆に部材52を回転させて肉厚の小さな部分58が部材51の内側55にあたる状態にすると部材51の可動片53は自身の弾性で内側方向に戻り部材51は縮径状態となる。シート材を被せた本機構に環状部材を環装し、本機構を拡径状態にすると環状部材への押圧が生じるので挟持したシート材に対する締着力が付勢され、本機構を縮径状態にすると環状部材への押圧は消退するのでシート材に対する締着力は減勢する。
【0060】
ヒトの指先から前腕あるいは上腕部までを収容可能な長手袋状構造の軟性袋をシート材がカーテン状に下垂した部分とともに、前記した円形のフレーム部材とバンド材で挟装したうえで、円形締着機構フレーム内部のシート材を開窓すると、医療者は汚染環境と分離した空間内に手指先端から腕を挿入して対象を用手的に操作することができる。この用途には手袋構造の基部を非伸展性として締着力を生じるバンド材の機能を兼ねても良い。
【0061】
すなわちシート材とともに、ヒトの手や腕を含む部材を収容できる袋状軟性部材の開口部を、シート材のカーテン状に下垂した部分に円形締着機構フレーム部材とバンド材で挟装して締着し、円形締着機構フレームに囲まれた部分のシート材を開窓することで操作対象物に手を含む物体を自在に接近させることが可能であることを特徴とする締着機構が成立する。
【0062】
本実施形態ではこのフレーム機構を採用することで、患者毎に交換すべき部材はシート材とバンド材のみである。フレーム部材は患者側に暴露されないので交換も清拭も必要ない。このため準備作業に占める非交換部材関連処理の比率はほぼ皆無にできる。
【0063】
すなわち本実施形態の遮蔽空間形成装置は、前記フレーム機構が遮蔽対象物に直接暴露されることがなく、前記フレーム機構に装着したシート材を使用後に交換する際に前記フレーム機構の保守作業が不要であるという特徴を備える。
【0064】
一方、医療行為での実使用に際して透明な板材やシート材を介しての透過視認性は対象を目視観察するために重要である。板材は表面の平面性が良好であり、波打つこともないので良好な透過視認性が期待できる。しかし使用の都度、薬剤を使った清拭を繰り返すと、表面には微小な傷が生じることもあるし、薬剤によって素材に曇りが生じることもありうる。透明シート材は都度新品に交換するので傷や曇りの可能性は低いが平面性の確保は板材ほど容易ではなく、波打つことで透過視認性に影響する可能性がある。すなわち遮蔽空間内の対象に対する視認性が確保できない懸念がある。
【0065】
本実施形態はフレーム部材を備える。フレーム部材に締着したシート材のフレーム部材内部に位置する部分はフレーム外側方向への張力を受けており、波うちや弛みは低減されるので、フレーム部材にシート材を単に被せただけの装置と比較して、透明シート材を使用した際の透過視認性は改善される。
【0066】
視認性を確保するために照明は重要である。フレーム部材の対象に面する部分にLEDに代表される照明部材を内蔵することで、透過視認性をさらに改善しても良い。また照明は発光体そのものをフレーム部材に内蔵するほかに外部光源が生成する光を導光ファイバーなどでフレームに導いても良い。
【0067】
本実施形態では、アーム機構によって、このフレーム機構を仰臥した患者の上方に保持する。アーム機構はフレーム機構との連結部に自在関節を有するほかに、1つ以上の関節を有しても良い。これによって透過視認用窓として機能するフレーム部材を、使用する医療者の目的に適う任意の位置に保持できる。関節は角度を固定するロック機構を有しても良い。また関節間のアーム部材は自在に伸縮できる機構を備えても良い。
【0068】
本実施形態の遮蔽空間形成装置は、前記フレーム機構が対象物に対向する面に照明装置を備えることで、作業時の視認性を改善できる特徴を備えることができる。
【0069】
アーム機構の基部は患者が仰臥する寝台面と連結する役割を担う。本実施形態ではアーム機構の基部は概ね棒状をなしており、拡径と縮径が自在である。医療で使用される処置台やストレッチャーには点滴支柱を設置するための受け孔が設けられていることが多い。本実施形態のアーム機構の基部は、これら医療用寝台に備わる点滴支柱用の受け孔に挿設して、装置全体と患者との相対位置を固定する。そのためにフレーム部材との連結部にある自在関節を含めたアーム部材の各関節は角度を維持するためにロック機構を有しても良い。
【0070】
また医療用寝台に連結するアーム機構基部は寝台側の受け孔内で回旋することを抑止するために拡径と縮径が可能な機構を有しても良い。アーム機構基部の拡径と縮径は、例えば
図23で示すような円柱形パイプ81内部の中空部分でパイプ長軸方向に任意に移動できる円錐形状の部材82により、パイプ横断面がなす円の中心から放射状方向に移動可能な概ね台形をなす部材83をパイプ外側方向に押し出し拡径状態を作り出す機構が考えられる。同様の台形状部材83を複数個、異なる方向に押し出すことで均整のとれた拡径を実現できる。
【0071】
円錐形状の部材82を逆方向に移動させると台形状部材83をパイプ外側方向に押し出す力は減退する。パイプ81内壁と台形部材83の間にバネなどの弾性材を挟むことで円錐形状部材82による力が減衰するにしたがって、台形状部材83はパイプの中心方向へと移動し縮径状態とすることができる。
【0072】
本実施形態における遮蔽空間形成装置は、前記支持アーム機構の脚部が、拡径および縮径が自在であり、対象物を載置する台に設けられた孔に挿着する際に拡径することで遮蔽空間形成装置全体が回旋することを抑制できる特徴を備えることができる。
【0073】
2020年、世界に拡大したコロナウイルス感染の対策としてマスクなどの衛生部材使用と並行して空間遮蔽が求められる場面が増えてきた。対面接客時や会議の際に直接の飛沫が飛散することを防ぐためにアクリル板やビニールシートで空間を区切る様々な工夫がなされている。病室の躯体を変更することは難しいが感染者のベッドを透明シートで区分して、各種検査の検体を扱う際にも飛散防止の仕切りとして多用されるようになってきた。
【0074】
空間分離のシートは、当然ながら内部へのアクセスに適さない。例えば処方した投薬を渡す際にカーテン様のシートを大きく開口してしまうと一時的ながら空気の交雑が生じてしまう。物体の移動時のアクセスポートは最小サイズであることが望ましいが、患者毎に交換・廃棄をするシート材に機能を具備させようとすると加工コストがかかる上に、症例ごとにニーズも異なるので共通性を見込める機能しか提供できない。個別の状況に柔軟に対応することは難しく、現実には大は小を兼ねるという観点から大きなアクセスポートを設けることになりがちである。
【0075】
また透明素材でできたシートは内部の様子を観察しやすいが、シートの波うちなどで平面性が乏しい場合には透過視認性は損なわれることがあり、透明素材といえども平面性の有無で透過視認性は大きく影響を受ける。
【0076】
本実施形態では汎用の透明シートで空間遮蔽をした場合でも部分的な平面性を容易に確保し観察窓として視認性を高めるとともに、危険物側に位置する締着用部材を使い捨てとするため低廉な部材で機能する固定機構を提供する。
【0077】
円形のフレームを用いて、ヒトの指先から前腕あるいは上腕部までを収容可能な長手袋状構造の軟性袋をシート部材に加えて挟装した状態に環状部材を環装したフレームで、円形フレーム内部のシート部材を開窓すると、汚染環境と分離した空間内に手指先端から腕を挿入して対象を用手的に操作することができるので、例えば気管挿管を行う場合にも医療者は分離された安全な状態から必要な操作を容易に実施できる。前述の透視視認性を確保したフレームの窓を通して観察しながら手技操作を行える。
【0078】
遮蔽装置の使用が終了した時点で、各フレームを縮径するとシート部材と環状部材そして手袋部材などは容易に脱落し、汚染部位に触れることなく廃棄できる。この時点ですべてのフレームは終始、非汚染環境のみで使用されていたので感染リスクを前提とした消毒滅菌処理は不要であり、次の使用のために準備を開始できる。
【0079】
本実施形態の利用部位は頭頚部に限らない。例えば外傷治療を手術室ではなく事故発生現場で実施する場合には清潔を確保するために治療対象を周囲の環境から分離することが望まれる場合がある。治療者は不十分な状況下で自身の手洗いはおろか手術服を使うこと自体が無意味な屋外であるなら、手術対象の術野のみを空間分離して清潔度を最大化することが本実施形態で実現できる。
【0080】
以上、本発明の遮蔽空間形成装置の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の利用部位は頭頚部に限らない。例えば外傷治療を手術室ではなく事故発生現場で実施する場合には清潔を確保するために治療対象を周囲の環境から分離することが望まれる場合がある。治療者は不十分な状況下で自身の手洗いはおろか手術服を使うこと自体が無意味な屋外であるなら、手術対象の術野のみを空間分離して清潔度を最大化することが本発明で実現できる。
【符号の説明】
【0082】
11. 広口瓶
12. 紐
13. シート材
14. 紐を引き締める方向
15. 結び目
16. 紐を引き締めることで伸びた自由端
17. 径の小さな広口瓶
18. 径の大きな広口瓶
31. フレーム
32. 可動部材
33. 環状部材
34. 環状部材の緩んだ部分
35. 保持具連結機構
36. フレーム上乗せ部材
37. シート材の平面形成部分
38. 回動部材
39. 蝶番
51. 外輪
52. 内輪
53. 可動片
54. リブ
55. 突起
57. 拡径用押し出し面
58. 縮径用スロープ
61. 長手袋
62. 円形フレーム
63. 環状部材
68. シート材
71. フレーム
72. 手袋ユニット
73. シート材
74. 寝台に備わっている点滴支柱受け具。支持アーム脚部が挿億されている。
75. 支持アーム機構のアーム同士を連結するの関節。
81. 支持アーム脚部の外形をなすパイプ
82. 円錐形の部材。81.パイプの長軸方向に能動的に移動できる。
83. 台形部材。82.円錐形部材からの押圧によって外側方向に押し出され、押圧が減退するとパイプ内面との間に介在する弾性材によって内側方向に移動する。