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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050515
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】打音検査システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/265 20060101AFI20230404BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
G01N29/265
G01N29/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160657
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【弁理士】
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】菊池 武志
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA10
2G047AD11
2G047BA04
2G047BC07
2G047CA03
2G047DB03
2G047EA13
2G047GA05
2G047GA19
2G047GA21
2G047GG47
2G047GH12
2G047GJ02
(57)【要約】
【課題】高所でも安定して打音検査できる打音検査システムの提供。
【解決手段】ターゲットと、検査面を自動走行する走行機構と、検査面にマーキングを施すマーキング機構と、前記検査面に吸着するための吸着機構と、検査面の打音検査を実施する打音検査機構とを有する打音検査装置と、ターゲットを自動追尾・測距・測角可能な測量機とを備える打音検査システム。打音検査装置を吸着機構で検査面に吸着させながら所望の位置へ走行させて打音検査を実施させる。異常有り判定された場合、検査面にマーキングが施される。測量機はターゲットを自動追尾し、打音検査実施時に、前記ターゲットの測距・測角を行う。検査経路と、打音検査位置が精密に把握される。所定パターンで検査面を自走させて検査を繰り返すことで、網羅的に自動で検査が実施される。また、走行データから検査面の三次元形状データを算出できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットと、検査面を自動走行する走行機構と、前記検査面にマーキングを施すマーキング機構と、前記検査面に吸着するための吸着機構と、前記検査面の打音検査を実施する打音検査機構とを有する打音検査装置と、
前記走行機構、前記マーキング機構、および前記打音検査機構を制御する装置制御部と、
前記ターゲットを自動追尾する追尾部と、前記ターゲットまでの距離を測定する測距部と、前記ターゲットの角度を計測する測角部とを有する測量機と、
前記測量機を制御する測量機制御部と、
前記打音検査装置による打音検査で前記検査面の異常の有無を判定する判定部と、
を備え、
前記装置制御部は、前記打音検査装置を前記吸着機構により前記検査面に吸着させながら所望の位置へ走行させて、前記打音検査装置に打音検査を実施させ、前記判定部が異常有りと判定した場合、前記マーキング機構にマーキングを施すように制御し、
前記測量機制御部は、前記測量機に前記ターゲットを自動追尾させて、前記打音検査装置による打音検査実施時に、前記ターゲットの測距・測角を行うように制御する、
ことを特徴とする打音検査システム。
【請求項2】
前記装置制御部は、前記打音検査装置を所定のパターンで走行させることで、前記検査面を網羅的に走行させ、走行中に所定時間ごと、または所定の距離ごとに、前記打音検査機構に打音検査を実施させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の打音検査システム。
【請求項3】
前記測量機による測距・測角による取得データに基づいて、前記検査面の三次元形状データを算出し、前記判定部による判定結果に紐づけして、試験結果を視認可能な情報とする処理が行われる、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の打音検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広範囲に安定して打音検査できる打音検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建造物には、安全性を維持するための定期的な点検が実施される。例えば、コンクリート建造物では、検査者がハンマーで打撃して打音を検査する打音検査によって、コンクリート内部にひび割れや浮きなどの異常部位がないか調べられる。検査対象は、ビル、橋脚、トンネルなど、大型の建造物であり、検査者の手が検査面に届かない場合もある。このため、アームの先端に検査装置を付けてアームを伸ばして検査したり(特許文献1)、マルチコプターなどの飛行体を用いて検査していた(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-205216号
【特許文献2】特開2020-79526号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、アームの長さに限界があるため、アームの最大長までの範囲しか検査ができない。飛行体による打音検査はハンマーによる打撃の安定性を欠くという問題があった。
【0005】
本発明は、この問題を鑑みてなされたものであり、検査員が手の届かない高所でも安定して打音検査できる打音検査システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するため、本開示のある態様では、ターゲットと、検査面を自動走行する走行機構と、前記検査面にマーキングを施すマーキング機構と、前記検査面に吸着するための吸着機構と、前記検査面の打音検査を実施する打音検査機構とを有する打音検査装置と、前記走行機構、前記マーキング機構、および前記打音検査機構を制御する装置制御部と、前記ターゲットを自動追尾する追尾部と、前記ターゲットまでの距離を測定する測距部と、前記ターゲットの角度を計測する測角部とを有する測量機と、前記測量機を制御する測量機制御部と、前記打音検査装置による打音検査で前記検査面の異常の有無を判定する判定部と、を備え、前記装置制御部は、前記打音検査装置を前記吸着機構により前記検査面に吸着させながら所望の位置へ走行させて、前記打音検査装置に打音検査を実施させ、前記判定部が異常有りと判定した場合、前記マーキング機構にマーキングを施すように制御し、前記測量機制御部は、前記測量機に前記ターゲットを自動追尾させて、前記打音検査装置による打音検査実施時に、前記ターゲットの測距・測角を行うように制御するように打音検査システムを構成した。
【0007】
この態様によれば、打音検査装置は、検査面に吸着しており、検査面が天井面や鉛直面であっても、検査面に張り付きながら自走して、高所であっても、打音検査を実施できる。また打音検査装置による打撃で、高所などの場所や作業者に熟練度よらずに、安定して打音検査が実施される。ターゲットと測量機により、精密に打音検査装置に把握されて走行でき、打音検査位置も精密に把握される。
【0008】
また、ある態様では、前記装置制御部は、前記打音検査装置を所定のパターンで走行させることで、前記検査面を網羅的に走行させ、走行中に所定時間ごと、または所定の距離ごとに、前記打音検査機構に打音検査を実施させるように構成した。この態様によれば、検査面を所定パターンによる走行で、検査面を網羅的に実施でき、所定範囲または所定距離ごとに打音検査を実施することで、自動で、検査面をしらみつぶしに打音検査できる。
【0009】
また、ある態様では、前記測量機による測距・測角による取得データに基づいて、前記検査面の三次元形状データを算出し、前記判定部による判定結果に紐づけして、試験結果を視認可能な情報とする処理が行われるように構成した。この態様によれば、検査面の三次元データを取得するとともに、検査結果にもとづいて異常個所が可視化して見える。実際の検査面ではマーキング、データでは検査面形状と共に、異常個所を一目で把握できる。
【発明の効果】
【0010】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、高所でも安定して打音検査できる打音検査システムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】好適な実施形態に係る打音検査システムの概略構成図である。
図2】測量機の構成ブロック図である。
図3】処理PCの構成ブロック図である。
図4図4(A)が打音検査装置の側面図である。図4(B)が打音検査装置の底面図である。
図5】打音検査装置の構成ブロック図である。
図6】打音検査のフローチャートである。
図7】打音検査装置の走行ルートの一例である。
図8】打音検査の後処理後表示の一例である。
図9】打音検査の結果の一例である。
図10】打音検査の結果の一例である。
図11】打音検査の結果の一例である。
図12】打音検査システムによる別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の構成の具体的な実施形態を、図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。また、同一の構成を持つものは同一の符号を付して、説明を省略する。
【0013】
(打音検査システム)
図1は、本発明の好適な実施形態である打音検査システム1の概略構成図であり、検査現場での作業イメージを示している。本実施形態に係る打音検査システム1は、打音検査装置4、測量機2、処理PC6を備える。処理PC6、測量機2、打音検査装置4は、相互に接続され、互いに情報を送受信可能となっている。
【0014】
打音検査装置4は、操作による走行または自律的な走行により検査面Aを走行可能に構成され、かつ検査面Aに自らを吸着させる吸着手段を有しており、検査面Aが鉛直面や天井面であっても、検査面Aから離れずに張り付いて走行する。打音検査装置4は、検査面Aの検査位置まで自ら移動して、打音検査を行う。
【0015】
打音検査装置4にはターゲットTが取り付けられている。ターゲットTは、複数の三角錐状のプリズムを放射状に組み合わせて構成された、いわゆる全方位プリズムであり、その全周(360°)から入射する光を、その入射方向と反対の方向に再帰反射する。
【0016】
処理PC6は、検査現場内に設置される。測量機2、打音検査装置4、および処理PC6は相互に無線接続され(有線接続も可)、互いに情報を送受信可能となっている。
【0017】
測量機2は、基準点中心上に三脚を用いて設置される。測量機2は、整準器の上に設けられた基盤部2aと、基盤部2aを軸H-H周りに水平に回転する托架部2bと、托架部2bの中央で軸V-V周りに鉛直回転する望遠鏡2cとを有する。測量機2は、自動追尾機能・測距機能・測角機能を備えており、走行中の打音検査装置4のターゲットTを追尾し、打音検査時にターゲットTを測距・測角する。
【0018】
(測量機2)
図2は、測量機2の構成ブロック図である。測量機2は、モータドライブトータルステーションであり、水平角検出器21、鉛直角検出器22、水平回転駆動部23、鉛直回転駆動部24、測量機制御部25、測距部26、追尾部27、通信部28を備える。
【0019】
水平角検出器21と鉛直角検出器22は、エンコーダである。水平角検出器21は、托架部2bの回転軸に設けられ、托架部2bの水平角を検出する。鉛直角検出器22は、望遠鏡2cの回転軸に設けられ、望遠鏡2cの鉛直角を検出する。
【0020】
水平回転駆動部23および鉛直回転駆動部24はモータである。水平回転駆動部23は托架部2bの回転軸を動かし、鉛直回転駆動部24は、望遠鏡2cの回転軸を動かす。両駆動部の協働により、望遠鏡2cの向きが変更される。水平角検出器21と鉛直角検出器22とで、測角部を構成する。水平回転駆動部23および鉛直回転駆動部24とで、駆動部を構成する。
【0021】
測距部26は、送光部と受光部を備え、例えば赤外パルスレーザなどの測距光を送光部から出射し、その反射光を受光部で受光し、測距光と内部参照光との位相から測距する。測距部は、プリズム測定のみならず、ノンプリズム測定も可能となっている。
【0022】
追尾部27は、測距光とは異なる波長の赤外線レーザなどの追尾光として出射する追尾送光系と、CCDセンサまたはCMOSセンサなどのイメージセンサを有する追尾受光系を有する。追尾部27は、追尾光を含む風景画像と追尾光を除いた風景画像を取得し、両画像を測量機制御部25に送る。測量機制御部25は、両画像の差分からターゲット像の中心を求め、ターゲット像の中心と望遠鏡2cの視軸中心からの隔たりが一定値以内に収まる位置をターゲットの位置として検出し、常に望遠鏡2cがターゲットの方向を向くように、自動追尾する。
【0023】
通信部28は、外部ネットワークとの通信を可能にするものであり、例えば、インターネットプロトコル(TCP/IP)を用いてインターネットを接続し、打音検査装置4および処理PC6と情報の送受信を行う。無線通信はこれに制限されず、既知の無線通信を使用することができる。
【0024】
測量機制御部25は、CPUを備えたマイクロコントローラであり、ROMおよびRAMを有し、ROMに収納されたプログラムにより、RAMにて各制御が実行される。制御として、通信部28を介した情報の送受信、水平回転駆動部23および鉛直回転駆動部24による各回転軸の駆動、測距部26による測距、水平角検出器21および鉛直角検出器22による測角、追尾部27による自動追尾を行う。
【0025】
測量機2は、測距部26および測角部(21、22)により、ターゲットTの測距および測角を行う。打音検査が実施されたタイミングと同期したタイミングで、測量機2はターゲットTの測距および測角を行い、測定(測距・測角)した結果(以下、測定データDAと称する)は、通信部28を介して処理PC6へ送られる。また、測量機2は追尾中も、所定の間隔で随時、ターゲットTへの測距・測角を行う。追尾時の測定データも処理PC6へ送られ、ターゲットTの移動ルートや移動時間が把握される。
【0026】
(処理PC6)
図3は、処理PC6の構成ブロック図である。処理PC6は、汎用パーソナルコンピュータ、PLD(programmable Logic Device)などによる専用ハードウェア、タブレット端末、またはスマートフォンなどである。処理PC6は、通信部61と、表示部62と、入力部63と、記憶部64と、演算処理部65を有する。
【0027】
通信部61は、前述の通信部28と同等の構造を有し、測量機2および打音検査装置4と情報の送受信を行う。
【0028】
表示部62は、例えば液晶ディスプレイである。入力部63は、キーボード、マウスなどであり、種々の入力・選択・決定を可能にする。
【0029】
記憶部64は、例えばHDDドライブである。記憶部64には、打音検査で取得したデータが収納される。
【0030】
演算処理部65は、少なくともCPUおよびメモリ(RAM、ROMなど)を集積回路に実装した制御ユニットである。
【0031】
打音検査装置4は、自律走行可能であり、内蔵したプログラムに従って所定の走行(自立走行)を行うが、処理PC6にて遠隔操作も可能であり、演算処理部65には、打音検査装置のコントローラとして、操作部651がソフトウェア的に構成されている。入力部63と協働して作業者が直接に打音検査装置4の操作(マニュアル走行)を行うことができる。操作部651は、測量機2の自動追尾により位置情報を把握して、フィードバック制御しながら、所望のルートを走行させることも可能である。この場合、作業者は操作不要で、打音検査装置4は、操作部651の完全制御により自動走行する。
【0032】
演算処理部65には、打音検査で取得したデータの後処理を行う後処理部652も、ソフトウェア的に構成されている。後処理については、後述する。
【0033】
(打音検査装置4)
図4は、打音検査装置4を示し、図4(A)が側面図、図4(B)が底面図である。図5は打音検査装置4の構成ブロック図である。
【0034】
打音検査装置4は、ターゲットT、打音検査機構50、走行機構41、吸着機構42、マーキング機構43、3軸センサ44、検知センサ45、通信部46、装置制御部49、を備える。
【0035】
打音検査装置4は、直方体状の筐体4aを有し、筐体4aの上面には、ターゲット支持部材としてポール4bが立設しており、ポールの4bの上端部に、ターゲットTが配置されている。
【0036】
打音検査機構50は、打撃部51と、収音部52とを有する。
【0037】
打撃部51は、ソレノイドコイル51aおよび円柱状のハンマー51bを有し、ソレノイドコイルへの通電のON/OFFにより、ハンマー51bを上下移動させて、検査面Aを打撃する。本実施形態においては、ハンマー51bの打点を検査点Pとする。詳しくは、水平面である仮想検査面に打音検査装置4を配置したときのハンマー51bの中心の鉛直線と仮想検査面との交点を、ハンマー51bの打点としている。ハンマー51bの鉛直上にターゲットTが配置されている。ターゲットTの光学中心点とハンマー51bの打点との相対位置は既知とする。
【0038】
収音部52は、いわゆるマイクであり、ハンマー51b近傍に配置され、ハンマー51bによる打音を収音する。収音された収音データDCは装置制御部49へ出力される。
【0039】
走行機構41は、打音検査装置4を自在に走行させて、所定の位置まで移動するための機構であり、筐体4aの底面部の四隅に設けられている。走行機構41は、4つの車輪41a、および各車輪41aに連結される駆動源となる4つのモータ41bを有する。筐体4aの底面の四隅に車輪41aが設けられ、連結されたモータ41bが、それぞれが独立して連結された車輪41aを回転駆動させる。モータ41bは正回転/逆回転が自在であり、複数のモータ41bを独立して駆動させることで、前進動作、後退動作、旋回動作などを行うことができる。車輪41aの数は、3以上とすることができ、他の機構、例えば、前方の一対の車輪の代わりに、ポール4bの鉛直下に球状の車輪を配置し、後方の一対の車輪をモータで駆動して、3つの車輪で支持して自在に走行動作させてもよい。この場合、打音検査機構50は筐体4aの後方に配置される。また、チェーンリンク機構などを介して1つの走行アクチュエータで複数の車輪41aを回転駆動する構成としてもよい。また無限軌道(即ち、複数の車輪にクローラーを張架させた走行手段)を有する構成でもよい。
【0040】
吸着機構42は、吸引ファン42a、スカート42b、およびダクト42cを有する。筐体4aの底面中央が開口してダクト42cが設けられ、その中央に吸引ファン42aが設けられている。ダクト42cは、吸引ファン42aを覆い、筐体4aを貫通して、排気口を筐体4aの上面としている。スカート42bは、吸引ファン42aを中心に、これを大きく囲い、走行機構41や打音検査機構50を避けて、筐体4aの底面から打音検査装置4の下方(検査面A側)に向かって延在している。スカート42bは、所定の摩擦係数を有するゴムなどの弾性部材からなり、検査面Aに吸着するようになっている。
【0041】
吸引ファン42aが駆動すると、筐体4aの底面、スカート42bおよび検査面Aで区画される空間の空気が、ダクト42cを通り外部に排気され、前記空間が所定の負圧で維持されるようになる。これにより、打音検査装置4は検査面Aに吸着し、検査面Aから脱落することなく走行可能となる。
【0042】
マーキング機構43は、着色されたマーキング用の着色溶液を先端のノズルから噴射し、標点にマーキングを行う吐出装置である。マーキング機構43は、ノズルの先端が鉛直下方向となるように筐体4aの下部に固定されている。打音検査の結果、異常が疑われる場合に溶液を噴射して、異常個所を可視化する。蛍光塗料を溶液に含ませると、トンネルなどの暗所や夜間でも作業者が位置を把握しやすく好ましい。
【0043】
3軸センサ44は、IMU(慣性計測装置)であり、3軸ジャイロと3軸加速度センサを有し、打音検査装置4の3軸方向の角速度と加速度を取得する。3軸センサ44は、打音検査装置4の姿勢を検出する姿勢検出装置として機能する。以下、3軸センサ44の検出結果を姿勢データDBと称する。打音検査が実施されたタイミングと同期されたタイミングで3軸センサ44は姿勢データDBを取得し、取得された姿勢データDBは処理PC6へ送られる。打音検査装置4は、検査面Aが天井面であっても走行可能であるため、打音検査の検査点Pの詳細な位置把握のために、打音検査時の姿勢データDBがあると好ましい。処理PC6に送られた姿勢データDBは、ターゲットTの測距・測角データである測定データDAと共に、打音検査を実施した検査点Pの詳細な三次元座標の算出に用いられる。
【0044】
検知センサ45は、障害物を検知する光学センサであり、筐体4aの四方に配置され、打音検査装置4の進行方向の障害物を検知する。障害物が検知された場合、打音検査装置4の走行ルートが変更される。CCD、CMOSセンサなどの撮像素子を用いて、撮像された画像の解析により障害物や有無や、障害物の位置を特定するように構成してもよい。検査面Aの縁部や穴も障害物の一種として検知され、打音検査装置4が検査面Aから脱落することが防止されるとより好ましい。
【0045】
通信部46は、前述の通信部28と同等の構造を有し、測量機2および処理PC6と情報の送受信を行う。
【0046】
装置制御部49は、CPUを備えたマイクロコントローラであり、ROMおよびRAMを有し、ROMに収納されたプログラムにより、RAMにて各制御が実行される。装置制御部49は、打音検査機構50の打音検査のタイミング、走行機構41の走行、吸着機構42の吸引ファン42aのON/OFF、マーキング機構43への噴射指示、3軸センサ44や検知センサ45のデータ取得など、打音検査装置4に搭載された各種機構を制御する。
【0047】
装置制御部49には、打音検査機構50から出力された収音データDCを解析して、異常の有無の有無を判定する判定部491が搭載されている。ここで、異常とは、検査面の亀裂、剥離、浮き、さらに内部空洞などである。異常があった場合、装置制御部49は、マーキング機構43に溶液を噴射させる。
【0048】
(打音検査方法)
次に、打音検査システム1を用いた打音検査方法を説明する。図6は、打音検査システム1を用いた作業工程フローである。打音検査システム1では、検査面Aの複数の検査点P(P1、P2、P3・・・)を順に連続して打音検査することができる。
【0049】
まず、ステップS101で、基準点に測量機2が設置される。
【0050】
次に、ステップS102に移行して、打音検査装置4が、検査面Aの初期位置に配置される。測量機2は、打音検査装置4のターゲットTをロックし、追尾を開始する。
【0051】
次に、ステップS103に移行して、打音検査装置4が、吸着機構42により検査面Aに張り付き、走行機構41で検査点Pnまで移動する。

次に、打音検査装置4が検査点Pnに到達すると、ステップS104に移行して、打音検査が実施される。装置制御部49は、打音検査機構50のソレノイドコイル51aを通電させ、ハンマー51bを上下運動させて検査面Aを打撃させる。打音は収音部52で収音されて、取得された収音データDCが装置制御部49へ出力される。打音検査装置4は、3軸センサ44で姿勢データDBを取得させる。また、打音検査装置4の打音検査のタイミングに同期させて、測量機2によるターゲットTの測距・測角が実施される。習得された測定データDAは、通信部28を介して処理PC6へ送られる。
【0052】
次に、ステップS105に移行して、判定部491により、収音データDCの解析から検査面Aの検査点Pnの近傍における異常の有無が判定される。
【0053】
次に、ステップS106に移行して、判定部491が異常有りと判定した場合、ステップS107に移行して、マーキング機構43が溶液を検査面Aへ向かって噴射し、マーキングを行う。噴射が完了すると、ステップS108へ移行する。ステップS106で判定部491が異常なしと判定した場合、ステップS108へ移行する。
【0054】
次に、ステップS108に移行して、打音検査データとして、姿勢データDBと収音データDCが処理PC6へ送られる。処理PC6で、測定データDA、姿勢データDB、および収音データDCは、検査点Pnにおける打音検査結果として互いに紐づけされて、記憶部64に収納される。検査点Pにおける打音検査が完了する。
【0055】
次に、ステップS109に移行して、次に打音検査すべき検査点Pnがある場合には、ステップS103へ移行し、全ての検査点Pの打音検査が完了するまでステップS103~ステップS109を繰り返す。全ての検査点Pの打音検査を終えると、終了する。
【0056】
上記に示すように、打音検査システム1によれば、打音検査装置4は検査面Aに張り付きながら自走できるため、検査面Aが鉛直面や天井面であっても問題なく移動して、所望の位置で打音検査を実施することができる。検査員の手が届かないほど高所であっても、問題なく打音検査を実施できる。高所の場合、検査員の足場の確保や安全性が問題となるが、足場を設ける必要がなく、安全に打音検査を実施することができる。
【0057】
打音検査は、ハンマーで打撃して打音で判断するため、検査員の経験や感覚に依存するが、器械による打撃で何度繰り返し同じ力で打撃でき、かつ判定部による解析から経験に依存せずに異常を検知することができる。定量的でばらつきのない検査を実施することができる。異常ありと判定された場所にマーキングが施されるため、一目で異常個所を把握できる。
【0058】
打音検査装置4の自走と打音検査の繰り返しで、自動で検査面Aが網羅的に検査される。検査位置は、測量機2の測定により把握されるため、もれがなく、また 異常が疑われる領域は重点的に検査できる
【0059】
(走行種類)
打音検査装置4は、検査員によるマニュアル操作による「マニュアル走行」や、あらかじめ定められた走行パターンにより自動で走行させる「自律走行」や、あらかじめ検査面Aの形状データが用意されている場合には、走行ルート及び検査点Pを指定して測量機2により位置を把握させながら誘導し、指定したルートを走行させる「自動走行」が可能である。ここで、本実施形態における自律走行を用いた打音検査について説明する。
【0060】
打音検査装置4は、自律運転として、検査面Aを網羅的に走行させるための走行パターンが記憶されており、走行パターンに基づいて打音検査装置4を走行させながら打音検査を繰り返し実施することで、検査面Aを網羅的に検査することができる。
【0061】
図7は、打音検査装置4の自立走行における走行ルートの一例である。走行パターンの例として示す。打音検査装置4は、走行ルートR1を走行しながら、検査点P(P1、P2、P3・・・)で検査を実施する。
【0062】
図7に示すように、検査面Aの下部角部を初期位置として打音検査装置4を配置し、そこから打音検査装置4を上方に走らせ、上端部まで来たら、所定距離だけ左方(または右方)にオフセット移動させて、今度は上端部から下端部まで走らせる。下端部に到達したら、またオフセット移動させて、上端部まで走らせる。これを繰り返すことで、検査面Aの全領域を網羅的に走行させることができる。あるいは、縁部の下方に配置して、縁部に沿って移動させ、端部まで到達したら、90度方向転換させて縁部から所定距離直交方向に走らせ、また90度方向転換させて、自走したルートから所定距離オフセットさせて、縁部での走行と同じルートを走行させる。検査面Aを走査するように走らせることで、端部が直線でない場合にも網羅的に検査することができる。検知センサ45により障害物が検知された場合は、障害物に沿って迂回する。追尾しながら随時、測距・測角を実施する測量機2により打音検査装置4の走行したルートや所在位置は把握される。走行ルートが交差しても構わず、同じ場所を走行しても問題ない。所定の距離ごと、もしくは所定の時間ごとに打音検査が実施される。検査対象物の態様(コンクリートなどの素材、建築からの経年年数、表面状態など)により、打音検査の頻度は設定できる。検査範囲同士が重なり合い、検査未実施の領域を作らないように所定の距離が設定されると好ましい。打音検査で異常が検出された場合、打音検査の頻度を高めるため、所定距離や所定時間を短くするように構成してもよい。異常が発生しやすい打継目などは、検査を繰り返すように設定してもよい。上記構成により、自形状が既知ではない検査面Aにおいても、全領域を網羅的に、かつ自動で打音検査が行われる。検査面の三次元データの用意や検査点の設定などの事前の準備が不要で、3次元データのない古い建造物であっても、自動で網羅的な打音検査を実施することができる。
【0063】
(打音検査データの後処理)
次に、打音検査で取得されたデータの後処理について詳しく説明する。
【0064】
記憶部64には、打音検査された検査点P(P1、P2、P3・・・)における測定データDA(DA1、DA2、DA3・・・・)、姿勢データDB(DB1、DB2、DB3・・・)、収音データDC(DC1、DC2、DC3・・・)が収納されている。
【0065】
後処理部652は、測量機2の設置された基準点の三次元座標(絶対三次元座標)と、測量機2による測定データDA、および打音検査装置4の姿勢データDBから、検査点Pの三次元座標DPを算出する。そして算出した三次元座標DP(PD1、PD2、PD3・・・)に基づいて、検査面Aの三次元形状データを算出する。
【0066】
さらに、収音データDCを詳しく解析して、異常のレベルを算出し、前述の検査面Aの三次元形状データに合わせて可視化する。レベルに合わせて色付けして、表示部62に表示させ、異常個所の状態を分かりやすく示す。
【0067】
図8(A)は、後処理部652により、上記後処理が実施され、表示部62に表示される三次元形状データの一例である。図8(B)は打音検査後の検査対象物である。
【0068】
図8(A)に示すように、表示部62には打音検査で取得されたデータを基に算出された検査面Aの三次元形状データである検査面AAが表示され、検査面AAの表面には、異常が疑われる箇所が、領域として異常のレベルに合わせて図示される。図8(B)に示すように、実際の検査対象物の検査面Aには、マーキングが施されている。作業者は、データと現物の両方で、検査面の異常個所を視認して把握することができる。
【0069】
図9は、表示部62に表示されるデータの別の例である。検査面AA上には、点データPPが表示される。点PP(PP1、PP2、PP3・・・)は検査点P(P1、P2、P3・・・)に対応位置に配置されている。このように後処理を施して表示することで、検査面Aと検査点Pが可視化される。
【0070】
点PPをクリックすると、収音データDCを聞くことや、判定内容、解析結果として、異常の種類(割れ、浮きなど)や、検査点を中心とした所定範囲の予測形状などが表示される。各点PPは、異常の有無または異常レベルにより色分けされており、異常状態も一目で把握される。
【0071】
図10は、後処理後に表示部62に表示されるデータの別の例である。検査面A、打音検査装置4の走行ルートR、検査点Pが、それぞれデータとして検査面AA、走行ルートRA、点PPとして表示部62に表示される。
【0072】
測量機2による追尾時、所定間隔で測距・測角も実施されるため、取得データを記憶部に出力しておくことで、走行ルートを把握できる。測距・測角のタイミングと同期して、3軸センサ44から姿勢データDBも取得されるとより、正確な三次元データを取得でき、好ましい。
【0073】
各点と走行ルートは、絶対三次元座標データとして算出されるため、これを基に測量機2での追尾のもと、誘導して同ルートで打音検査装置4を自動走行させ、同検査点で打音検査を実施させることができる。これにより、打音検査の再現検査を実施することができる。検査条件などの設定が不要で、容易に検査面Aを再度検査できる。検査対象物は、安全のために毎年検査が義務づけされている場合が多く、毎年の検査の工数を抑制することができる。もちろん、経年により異常状態が進行する、もしくは修繕して異常状態が改善することもあるため、完全同一の再現検査である必要はなく、検査面Aを網羅的に検査するだけでよい。検査面Aを所定時間経過後に再び網羅的に打音検査することで、検査面Aの経年変化を把握することができる。検査員の熟練度によらず、時間的に隔たりがあっても、同じ条件で検査を実施することができるため、客観的に検査面Aの状態が把握される。
【0074】
図11は、後処理後に表示部62に表示されるデータの別の例である。図11は、検査年度の異なる同じ検査面Aのデータを同時に表示させている。上面から、2年前、1年前、今年の打音検査の結果を示している。このように、打音検査時の異なる検査面Aの状態を比較することで、経年劣化を可視化することができる。アニメーションのように所定時間で順に表示させて、アニメーションのように表示させても好ましい。
【0075】
打音検査装置4は、吸着機構42の吸引ファン42aにより、筐体4aの底面側の圧力を下げることで、検査面Aに吸着している。スカート42bにより区画される圧力を下げる空間の気密性を高めることで、吸着力を高めている。スカート42bは筐体4a底面から、水平面である仮想検査面までの距離よりも長く延在しており、検査面Aが湾曲していても、吸着機構42の吸着力は維持され、打音検査装置4は検査面Aから脱落せずに走行する。このため、検査対象物が円柱やトンネルであっても、打音検査システム1を用いることができる。
【0076】
図12は、トンネルでの打音検査システム1の実施例を示している。図12(A)は、打音検査対象物のトンネルを示す。道路の上方に凸状に形成される湾曲面が、検査面A2となる。トンネル内に測量機2を配置し、トンネルの入り口の検査面A2の下方に打音検査装置4を配置して、ターゲットTを測量機2に追尾させる。自律走行により湾曲面である検査面A2を走行させながら打音検査を繰り返すことで、検査面A2を網羅的に検査できる。
【0077】
図12(B)は、打音検査後に、後処理工程で得られる検査面AA2の三次元形状と、打音検査の結果を表示部62に表示させたものである。算出された検査面A2は薄墨で着色して示す。異常有りと判定された箇所をより濃い薄墨で着色して示す。
【0078】
図12(C)は、検査後のトンネルを示す。打音検査により異常が判定された検査点Pにはマーキングが施されている。
【0079】
図12(B)および図12(C)に示すように、検査対象がトンネルであっても、打音検査システム1を適用でき、データでも、現場でも、異常個所が可視化され、検査員に異常個所をわかりやすく示される。打音検査は打音検査装置4の走行により自動で網羅的に実施されるため、暗所であるトンネル内でも問題なく実施される。作業員はマーキング箇所を念入りに再検査し、修繕する。修繕後の再検査も容易に実施できる。全体の作業工数を大幅に減少させることができる。また、トンネル形状と異常個所の三次元座標が把握されるため、次年度の検査では、問題個所を重点検査できる。また、トンネルに限らず、暗所や夜間であっても打音検査システム1を適用でき、打音検査を実施できる。
【0080】
以上、本発明の好ましい実施形態について述べたが、上記の実施形態は本発明の一例に過ぎない。例えば、判定部491を、処理PC6の演算処理部65に実装し、演算処理能力の高い処理PC6で解析や判定を行い、異常の有無のみ装置制御部49へ送るように構成してもよい。打音検査装置4の走行を処理PC6の演算処理部65が制御し、リアルタイムに打音検査装置4の位置および姿勢を把握しながら、走行させてもよい。特に、事前に検査面Aの形状が既知である場合、最適な走行ルートと打音の検査点Pを算出して、これに従って処理PC6から打音検査装置4を走行させると好ましい。このように当業者の知識に基づいて変形させることが可能である。
【0081】
このような変形や実施例の組み合わせは当業者の知識に基づいて行うことができ、そのような形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0082】
1 :打音検査システム
2 :測量機
4 :打音検査装置
6 :処理PC
21 :水平角検出器
22 :鉛直角検出器
25 :測量機制御部
26 :測距部
27 :追尾部
28 :通信部
41 :走行機構
43 :マーキング機構
49 :装置制御部
50 :打音検査機構
491 :判定部
652 :後処理部
A :検査面
A2 :検査面
AA :検査面
AA2 :検査面
PC :処理
PC6 :処理
T :ターゲット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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図12