IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リンテック株式会社の特許一覧

特開2023-5054粘着シートの製造方法、及び粘着シート
<>
  • 特開-粘着シートの製造方法、及び粘着シート 図1
  • 特開-粘着シートの製造方法、及び粘着シート 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005054
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】粘着シートの製造方法、及び粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20230111BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230111BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C09J7/38
B32B27/00 M
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106743
(22)【出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 仁
【テーマコード(参考)】
4F100
4J004
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AA20B
4F100AH06B
4F100AH08B
4F100AK07A
4F100AK25C
4F100AK42D
4F100AK51C
4F100AK52E
4F100AL01C
4F100AR00C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100CA02C
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100EJ42B
4F100EJ42C
4F100EJ52B
4F100EJ54B
4F100EJ58B
4F100EJ86B
4F100EJ98
4F100JA07C
4F100JB05B
4F100JL11
4F100JL13C
4F100JL14E
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4J004AB01
4J004CA04
4J004CA06
4J004CA08
4J004CB03
4J004CC03
4J004CD08
4J004FA05
(57)【要約】
【課題】基材と粘着層との密着性が高く、使用時に基材と粘着層とが剥離することがない粘着シートの製造方法、及び粘着シートを提供する。
【解決手段】基材10の表面上に、有機金属化合物を含む塗布液を塗布して、厚さが0.01~1μmである有機金属化合物層21を形成させる工程と、有機金属化合物層21に、エネルギーを照射することによって、有機金属化合物層21中の有機金属化合物の少なくとも一部を金属酸化物に変化させて金属酸化物層20とし、さらに親水化する工程と、金属酸化物層20の表面上に、粘着層30を形成させる工程と、を含む、粘着シートの製造方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面上に、有機金属化合物を含む塗布液を塗布して、厚さが0.01~1μmである有機金属化合物層を形成させる工程と、
前記有機金属化合物層に、エネルギーを照射することによって、前記有機金属化合物層中の前記有機金属化合物の少なくとも一部を金属酸化物に変化させて金属酸化物層とし、さらに親水化する工程と、
金属酸化物層の表面上に、粘着層を形成させる工程と、
を含む、粘着シートの製造方法。
【請求項2】
前記エネルギーの照射は、大気雰囲気下で行う、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記エネルギーの照射は、大気圧下で行う、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物層は、表面の水接触角が50°以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記有機金属化合物が、有機ケイ素化合物、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物、有機バナジウム化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ニオブ化合物、有機モリブデン化合物、有機ハフニウム化合物、有機タンタル化合物、有機タングステン化合物、有機セリウム化合物、有機ニッケル化合物、有機クロム化合物、有機コバルト化合物、有機スズ化合物、及び有機銅化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
基材と、
前記基材の表面上に形成された金属酸化物層と、
金属酸化物層の、前記基材と反対側の表面上に形成された粘着層と、
を含み、
前記金属酸化物層は、有機金属化合物を含む塗布液を塗布して得られた、厚さが0.01~1μmである有機金属化合物層に、エネルギーを照射することによって、親水化処理が施された金属酸化物層である、
粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートの製造方法、及び粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着シートは、基材上に粘着剤等を含有する粘着層が形成されたものであり、OA機器、家電製品、自動車等の各産業分野において、部品の固定用途等に用いられている。それ以外にも、各種情報を表示するためのラベル用途等、多岐にわたり使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、炭素数1~18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分モノマーとする(メタ)アクリル酸エステル系重合体(A)と、分子内に不飽和基を有する不飽和基含有リン系化合物(B)と、光重合開始剤(C)とを含有する粘着剤組成物に活性エネルギー線を照射してなる粘着剤層を備えた粘着シートが開示されている。
【0004】
そして、粘着シートに種々の処理を施すことによって、その粘着性等をコントロールすることが試みられている。
【0005】
例えば、特許文献2には、プラズマ流に、有機多官能性シランを含有する前駆体が供給され、前駆体が富化されたプラズマ流が巻き面に方向づけられ、巻き面がSiOコーティングで覆われることにより、接着テープロールの巻き面接着性を低下させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-229367号公報
【特許文献2】特表2019-531360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した粘着シートは、使用時等に粘着層が基材から剥離しない程度に、しっかりと基材と粘着層とが密着していることが望まれている。しかしながら、特許文献1、2は、このような点には配慮されていない。
【0008】
基材と粘着層との密着性を確保するためには、基材及び粘着層の組み合わせが重要であるため、基材及び粘着層の材料選択の制約があるという問題がある。
【0009】
この点、基材及び粘着層の間に中間層を設けたり、基材の表面等に表面処理を施したりすることも試みられているが、基材及び粘着層の密着性を向上させるという観点から、未だ改良の余地がある。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、基材と粘着層との密着性が高く、使用時に基材と粘着層とが剥離することがない粘着シートの製造方法、及び粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上述した目的を達成するために鋭意検討した結果、基材の表面上に、有機金属化合物を含む塗布液を塗布して、厚さが0.01~1μmである有機金属化合物層を形成させる工程と、前記有機金属化合物層に、エネルギーを照射することによって、前記有機金属化合物層中の前記有機金属化合物の少なくとも一部を金属酸化物に変化させて金属酸化物層とし、さらに親水化する工程と、金属酸化物層の表面上に、粘着層を形成させる工程と、を含む、粘着シートの製造方法とすることに知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0013】
(1)
基材の表面上に、有機金属化合物を含む塗布液を塗布して、厚さが0.01~1μmである有機金属化合物層を形成させる工程と、前記有機金属化合物層に、エネルギーを照射することによって、前記有機金属化合物層中の前記有機金属化合物の少なくとも一部を金属酸化物に変化させて金属酸化物層とし、さらに親水化する工程と、金属酸化物層の表面上に、粘着層を形成させる工程と、を含む、粘着シートの製造方法である。
(2)
前記エネルギーの照射は、大気雰囲気下で行う、(1)に記載の製造方法である。
(3)
前記エネルギーの照射は、大気圧下で行う、(1)又は(2)に記載の製造方法である。
(4)
前記金属酸化物層は、表面の水接触角が50°以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法である。
(5)
前記有機金属化合物が、有機ケイ素化合物、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物、有機バナジウム化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ニオブ化合物、有機モリブデン化合物、有機ハフニウム化合物、有機タンタル化合物、有機タングステン化合物、有機セリウム化合物、有機ニッケル化合物、有機クロム化合物、有機コバルト化合物、有機スズ化合物、及び有機銅化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(1)~(4)のいずれかに記載の製造方法である。
(6)
基材と、前記基材の表面上に形成された金属酸化物層と、金属酸化物層の、前記基材と反対側の表面上に形成された粘着層と、を含み、前記金属酸化物層は、有機金属化合物を含む塗布液を塗布して得られた、厚さが0.01~1μmである有機金属化合物層に、エネルギーを照射することによって、親水化処理が施された金属酸化物層である、粘着シートである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基材と粘着層との密着性が高く、使用時に基材と粘着層とが剥離することがない粘着シートの製造方法、及び粘着シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本実施形態に係る製造方法の一例を説明する概念図であり、図1(a)は、本実施形態に係る製造方法において作製される積層体の断面模式図であり、図1(b)は、図1(a)の積層体に親水化処理を施した処理後積層体の断面模式図であり、図1(c)は、本実施形態に係る製造方法により得られる粘着シートの一例の断面模式図である。
図2図2は、本実施形態に係る製造方法により得られる剥離基材付き粘着シートの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0017】
そして、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0018】
図1は、本実施形態に係る製造方法の一例を説明する概念図であり、図1(a)は、本実施形態に係る製造方法において作製される積層体の断面模式図であり、図1(b)は、図1(a)の積層体に親水化処理を施した処理後積層体の断面模式図であり、図1(c)は、本実施形態に係る製造方法により得られる粘着シートの一例の断面模式図である。
【0019】
本実施形態に係る粘着シート1の製造方法は、
(1)基材10の表面上に、有機金属化合物を含む塗布液を塗布して、厚さが0.01~1μmである有機金属化合物層21を形成させる工程と、
(2)有機金属化合物層21に、エネルギーを照射することによって、有機金属化合物層21中の有機金属化合物の少なくとも一部を金属酸化物に変化させて金属酸化物層20とし、さらに親水化する工程と、
(3)金属酸化物層20の表面上に、粘着層30を形成させる工程と、
を含む、粘着シート1の製造方法である。本実施形態に係る製造方法によって得られる粘着シート1は、基材10、金属酸化物層20、及び粘着層30を少なくとも備える(図1(c)参照)。
【0020】
本実施形態に係る製造方法によれば、(2)工程を行うことによって、有機金属化合物層21を金属酸化物層20に変化させるだけでなく、その表面を親水化させることもできる。これにより、金属酸化物層20を易接着層として機能させることができるとともに、金属酸化物層20に低分子物質の層間の移行を抑制する機能も付与できる。
【0021】
以下、各工程について説明する。
【0022】
<工程(1)>
【0023】
(1)まず、基材10の表面上に、金属酸化物の前駆体である有機金属化合物を含む塗布液を塗布して、厚さが0.01~1μmである有機金属化合物層21を形成させる。
【0024】
基材10の材料は特に限定されず、通常の粘着シート1として使用される材料を採用することができる。基材10の具体例としては、例えば、樹脂、紙、不織布、金属、又はこれらの複合シート等が挙げられる。
【0025】
基材10として使用可能な樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;アセテート樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合(ABS)樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。これらの中でも、本実施形態の効果をより発揮できるという観点から、粘着層30との密着性が低い、ポリオレフィン、ポリエステルであることが好ましく、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートであることがより好ましい。なお、基材10と有機金属化合物層21との間には易接着層が介在されていないことが好ましい。
【0026】
これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
基材10として使用可能な紙としては、例えば、クラフト紙(酸性紙又は中性紙)、上質紙、中質紙、微塗工紙、塗工紙、ライナー、セミグラシン紙、グラシン紙、片艶紙、パーチメント紙板紙、白板紙等が挙げられる。
【0028】
また、基材10には、添加剤として、染料、顔料等の着色剤、アニリド系、フェノール系等の酸化防止剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、光安定剤、改質剤、防錆剤、充填剤、表面潤滑剤、腐食防止剤、耐熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、重合禁止剤、架橋剤、触媒、可塑剤、レベリング剤、増粘剤、軟化剤、分散剤等を含有していてもよい。
【0029】
また、基材10は、単層であってもよいし、2層以上の複数層から構成されていてもよい。2層以上の複数層とする場合、上述した2種以上を併用してもよいし、上述した層に加えて、公知の機能層を有していてもよい。なお、基材10が2層以上の複数層である場合、易接着層を含まないことが好ましい。
【0030】
基材10の寸法形状は特に限定されず、用途に応じて好適な寸法形状を採用することができる。例えば、基材10の厚さは、20~150μmであることが好ましい。この厚さの下限は、25μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることが更に好ましく、35μm以上であることがより更に好ましい。また、この厚さの上限は、80μm以下であることがより好ましく、70μm以下であることが更に好ましく、60μm以下であることがより更に好ましい。
【0031】
本実施形態に係る粘着シート1の製造時において、基材10の供給を連続的に行うことができ、量産におけるメリットが大きいことから、基材10は長尺基材であることが好ましい。このような長尺基材の長手方向の長さは、通常10~10000mであり、好ましくは100~3000mである。長尺基材の短手方向の長さは、通常0.1~5mであり、好ましくは0.2~2mである。なお、本明細書において「長尺基材」とは、「ロール状に巻かれた長尺の基材」及び「ロール状の長尺基材から巻きだした基材」を含むものである。
【0032】
使用する有機金属化合物は、エネルギー照射することによって、金属酸化物に変化するものであれば良い。そして、有機金属化合物は、溶剤に溶解し、溶液塗布が可能であることが好ましい。溶液塗布はウェットプロセスコーティングであるため、真空を使わないため、ドライプロセスコーティングと比べて、成膜コスト、成膜スピードに優位性があり、量産性が向上する。
【0033】
有機金属化合物の好適例としては、例えば、有機ケイ素化合物、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物、有機バナジウム化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ニオブ化合物、有機モリブデン化合物、有機ハフニウム化合物、有機タンタル化合物、有機タングステン化合物、有機セリウム化合物、有機ニッケル化合物、有機クロム化合物、有機コバルト化合物、有機スズ化合物、及び有機銅化合物等からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0034】
これらの有機金属化合物の中でも、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物がより好ましい。
【0035】
有機ケイ素化合物としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等のオルガノポリシロキサン類;シリコンテトラメトキシド、シリコンテトラエトキシド、シリコン-tert-ブトキシド、シリコンテトラ-n-ブトキシド、シリコンテトライソプロポキシド等のケイ素アルコキシド類;及びその加水分解生成物からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0036】
有機チタン化合物としては、例えば、アセチルアセトンチタン、チタニルアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシド等のチタンアセチルアセトン錯体類;及びチタンテトラエトキシド、チタンテトラ-n-ブトキシド、チタンテトライソプロポキシド等のチタンアルコキシド類からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0037】
これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
2種以上を併用する場合の具体例としては、例えば、有機ケイ素化合物と有機チタン化合物;有機ケイ素化合物と有機銅化合物;有機チタン化合物と有機銅化合物;有機ケイ素化合物と有機チタン化合物と有機銅化合物;等が挙げられる。
【0039】
有機金属化合物を含む塗布液は、上述した有機金属化合物と溶媒を少なくとも含有するものを使用できる。溶媒としては、特に限定されず、有機金属化合物の種類に応じて公知の溶媒を選択することができる。
【0040】
溶媒としては、有機溶媒を使用することができる。溶媒の具体例としては、例えば、アルコール類、アセトン、酢酸エチル、酢酸、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル(DME)、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トルエン、四塩化炭素、n-ヘキサン等が挙げられる。
【0041】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、フェネチルアルコール等のモノアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のジオール類;トリエチレングリコール等のトリオール類;ポリエチレングリコール等のポリオール類が挙げられる。
【0042】
塗布液における有機金属化合物の濃度は、特に限定されないが、0.1~10質量%であることが好ましい。この下限は、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましい。また、この上限は、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましい。有機金属化合物の濃度をこのような範囲とすることで、有機金属化合物層21の厚さをより正確に制御することができるとともに、ハジキやスジ等の塗膜の外観不良を抑制することができる。
【0043】
有機金属化合物を含む塗布液の塗布は、公知の方法によって行うことができる。例えば、基材10の表面上に、バーコーター、ダイコーター、グラビアコーター、ロールコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、サイズプレスコーター等の塗工機を用いて塗布して、形成させる方法が挙げられる。これらの中でも、塗膜の形成し易さの観点から、バーコーター、ダイコーター、グラビアコーターを用いる方法が好ましい。
【0044】
塗布後、必要に応じて、加熱乾燥等の更なる工程を行ってもよい。
【0045】
本実施形態によれば、工程(1)はRoll to Roll形式により連続的に行うことができる。具体的には、巻芯に巻き取られている基材10(長尺基材)を搬送する方向に、適度な張力を付与しながら巻き出し、塗工機を通過させ、基材10の表面上に有機金属化合物を含む塗布液を塗布する。塗工機を通過して塗膜が形成された基材10は、乾燥炉へ搬送され、乾燥炉によって塗布膜が乾燥されて有機金属化合物層21が形成され、その後、基材10は、巻芯に巻き取られる。
【0046】
このようにして形成される有機金属化合物層21の厚さは、0.01~1μmである。この厚さが0.01μm未満であると、基材と粘着層との密着性が十分に得られない。また、この厚さが1μmを超えると、(2)工程におけるエネルギー照射によって、有機金属化合物層が十分に金属酸化物に変化せず(例えば、有機金属化合物層21の基材10と接する側の面の改質が不十分となり)、基材10と金属酸化物層20の密着性が不十分となる場合がある。例えば、有機金属化合物層21の厚さが1μmを超える場合、エネルギー照射によって照射表面をある程度改質できたとしても、その反対側の表面(裏面)は十分には改質できず、有機金属化合物が多量に残存してしまいやすい。一般的に、有機金属化合物は凝集力が低く、有機金属化合物の凝集破壊により密着性が低下する傾向にあるため、1μmを超える厚さの場合には十分な効果が得られない(ただし、本実施形態の作用はこれらに限定されない。)。
【0047】
このような観点から、有機金属化合物層21の厚さの下限は、好ましくは0.03μm以上であり、より好ましくは0.05μm以上である。また、この厚さの上限は、好ましくは0.5μm以下であり、より好ましくは0.2μm以下である。
【0048】
<工程(2)>
【0049】
次に、(2)有機金属化合物層21に、エネルギーを照射することによって、有機金属化合物層21中の有機金属化合物の少なくとも一部を金属酸化物に変化させて金属酸化物層20とし、さらに親水化する。
【0050】
工程(2)を行うことによって、高い親水性を有する金属酸化物層20を基材10の表面に形成することができる。これにより、金属酸化物層20の表面が親水化され、粘着層30との密着性を高くすることができる。金属酸化物層20の親水化が実現される理由は定かではないが、以下のような理由からだと推測される。まず、有機金属化合物層21にエネルギーを照射することにより、有機金属化合物層21中の有機金属化合物の少なくとも一部が変化し、金属酸化物層20となる。そして、大気中等に存在する水分子が金属酸化物層20の表面に付加する。これによって、金属酸化物層20の表面に水酸基(-OH)が付加して、金属酸化物層20の表面が親水化されるため、粘着層30と金属酸化物層20とが強固に密着する。
【0051】
さらに、基材10と粘着層30との間に金属酸化物層20が存在することにより、基材10及び/又は粘着層30に含まれている低分子化合物(例えば、可塑剤、オイル等)が、粘着層30及び/又は基材10に移行することを抑制するバリア機能も付与できる。
【0052】
またさらに、金属酸化物層20の表面に水酸基(-OH)が存在することによって、粘着剤等に配合されている架橋剤(例えば、イソシアナート系架橋剤等)やシランカップリング剤と積極的に結合することができ、これによっても密着性が向上することが期待される(ただし、本実施形態の作用はこれらに限定されない。)。
【0053】
金属酸化物層20の表面の水酸基(-OH)を定量評価する方法として、X線光電子分光法(XPS)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)、核磁気共鳴(NMR)、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)、昇温脱離ガス分析(TPD)、ラベル化剤法等が挙げられる。
【0054】
この点、粘着層30との密着性が低い基材10(例えば、疎水性の基材10)を使用する場合、従来は、コロナ処理等の表面処理を行うことにより、処理表面に官能基を付加し、その表面を親水化させて粘着層30との密着性を向上させようとすることが試みられている。しかし、このようなコロナ処理では、周辺気体(空気、窒素、酸素、二酸化炭素等)に準ずる親水性官能基を付加させて親水性を向上させているのみであるため、親水性の向上に限界がある。例えば、ポリプロピレンである基材にコロナ処理を行った場合、基材の表面に付加する親水性官能基の量が少なく、基材の処理表面の親水化が不十分となる。
【0055】
金属酸化物は、上述した有機金属化合物と同じ金属種である。有機金属化合物から金属酸化物に変化する際の具体例としては、
有機ケイ素化合物である場合は酸化ケイ素(SiO等)に変化し、
有機アルミニウム化合物である場合は酸化アルミニウム(Al等)に変化し、
有機チタン化合物である場合は酸化チタン(TiO等)に変化し、
有機バナジウム化合物である場合は酸化バナジウム(V、VO、V、V13等)に変化し、
有機ジルコニウム化合物である場合は酸化ジルコニウム(ZrO等)に変化し、
有機ニオブ化合物である場合は酸化ニオブ(Nb、NbO、Nb等)に変化し、
有機モリブデン化合物である場合は酸化モリブデン(MoO、MoO、Mo等)に変化し、
有機ハフニウム化合物である場合は酸化ハフニウム(HfO等)に変化し、
有機タンタル化合物である場合は酸化タンタル(Ta等)に変化し、
有機タングステン化合物である場合は酸化タングステン(WO等)に変化し、
有機セリウム化合物である場合は酸化セリウム(Ce、CeO等)に変化し、
有機ニッケル化合物である場合は酸化ニッケル(NiO等)に変化し、
有機クロム化合物である場合は酸化クロム(CrO、Cr、CrO等)に変化し、
有機コバルト化合物である場合は酸化コバルト(CoO等)に変化し、
有機スズ化合物である場合は酸化スズ(SnO等)に変化し、
有機銅化合物である場合は酸化銅(CuO、CuO等)に変化する。
【0056】
金属酸化物の中でも、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ニッケル、酸化モリブデン、酸化クロム、酸化コバルト、酸化銅等であることが好ましい。これらの中でも、透明性及び親水性の観点から、酸化ケイ素、酸化チタンであることがより好ましい。
【0057】
金属酸化物層20に含まれる金属酸化物は、1種単独でもよいし、2種以上を含む複合金属であってもよい。
【0058】
一例として、有機ケイ素化合物としてポリジアルキルシロキサン(-OSiR-;Rはアルキル基を示す。)を用いて、有機金属化合物層21を形成し、酸化ケイ素の金属酸化物層20を形成する場合について説明する。まず、有機金属化合物層21に酸化ケイ素(O=Si=O)のバンドギャップエネルギー(約8.2eV)相当のエネルギーを照射すると、Si-O、Si-C、Si-H等の結合が切れてポリジアルキルシロキサンが分解されるとともに、空気中の酸素と結合(酸化)することによって、ポリジアルキルシロキサンが酸化ケイ素(O=Si=O)に変換されて、金属酸化物層20を形成する。さらに、酸化ケイ素の酸素原子(O)の1つと、大気中に存在する微量の水分子(HO)や水素ラジカル(・OH)等とが反応することによって、金属酸化物層20の表面に親水性の水酸基(-OH)が生成する。例えば、酸化ケイ素層(金属酸化物層20)の表面にエネルギーが照射されると、一部の架橋酸素が脱離して酸素欠陥が生じる。この酸素欠陥に上述した水分子等が乖離吸着して、表面水酸基が生成する。このようなメカニズムによって、金属酸化物層20である酸化ケイ素層に親水性が発現又は向上するものと考えられる(但し、本実施形態の作用はこれらに限定されない。)。
【0059】
別の一例として、有機チタン化合物としてアルコキシドチタンを用いて、有機金属化合物層21を形成し、酸化チタンの金属酸化物層20を形成する場合について説明する。まず、アルコキシドチタンにバンドギャップエネルギー(約3.2eV)相当のエネルギーを照射すると、分解、酸化することによって、アルコキシドチタンが酸化チタン(O=Ti=O)に変換されて、金属酸化物層20を形成する。さらに、酸化チタンにバンドギャップエネルギー(約3.2eV)相当のエネルギーが照射されると、酸化チタンの酸素原子(O)の1つと、外部に存在する微量の水分子(HO)等とが反応することによって、酸化チタンの表面に親水性の水酸基(-OH)が生成する。これによって、親水性が発現又は向上するものと考えられる(但し、本実施形態の作用はこれらに限定されない。)。
【0060】
上述したように金属酸化物層20の表面に水酸基が形成されると(表面水酸基の形成)、水素結合等によってそこに外部の水分子が吸着することによって、親水性が更に向上する。いわば、化学吸着水だけでなく、物理吸着水によっても親水性に寄与することが可能となる。その結果、親水部位と疎水部位とが混在する表面構造となり、水をたらした場合の水接触角が後述するような好適な角度(例えば、50°以下)となるように制御することが可能となり、基材10及び粘着層30の密着性が一層向上する。このような観点から、本実施形態の好適な態様として、金属酸化物層20の表面に水酸基が存在している態様が挙げられる。
【0061】
本実施形態では、照射によってエネルギーを有機金属化合物層21に付与して、有機金属化合物を金属酸化物に変化させた上で、水酸基を付加することができればよい。エネルギーの照射は、プラズマ処理、エキシマランプ処理、低水銀ランプ処理、電子線処理、γ線処理等によって行うことが好ましく、エキシマランプ処理によって行うことがより好ましい。エキシマランプ処理を行う場合、キセノンエキシマランプを用いることが好ましい。なお、本実施形態では、金属酸化物のバンドギャップエネルギー相当のエネルギーを、有機金属化合物層21に照射することが好ましく、金属酸化物のバンドギャップエネルギー以上のエネルギーを、有機金属化合物層21に照射することがより好ましい。この程度のエネルギーを照射することによって、有機金属化合物層21中の金属化合物を、金属酸化物に効率よく変化(改質)させることができる。
【0062】
本実施形態では、エキシマランプ処理を行う場合、例えば、ピーク波長が200nm以下のエネルギー(好適例として、真空紫外線;VUV)を有機金属化合物層21に照射することが好ましい。ピーク波長の下限は、100nm以上であることが好ましく、120nm以上であることがより好ましく、140nm以上であることが更に好ましく、150nm以上であることがより更に好ましい。また、ピーク波長の上限は、180nm以下であることがより好ましい。また、照射エネルギーが10~3000mJ/cmの範囲のエネルギーを有機金属化合物層21に照射することが好ましい。このような条件でエネルギーを照射することで、金属化合物層21中の金属酸化物のバンドギャップエネルギー以上のエネルギーを、効率よく付与することができる。その結果、有機金属化合物層21中の金属化合物の分子の結合が切れて、分解されるとともに、空気中の酸素と結合(酸化)することによって、上述したような金属酸化物層20が効率よく形成させることができる。
【0063】
従来の成膜技術の1つとして、化学蒸着(CVD)等の蒸着法が行われている。蒸着法は、例えば、減圧下又は真空下で、蒸着材料(プリカーサー)を加熱して原料ガスを発生させ、これを基板上に付着させて層形成を行う。このようなCVD法は、減圧設備が必要であるため、粘着シートの製造方法としては、装置構成が大がかりとなってしまい、簡便な製造方法ではない。また、製造コストの観点からも現実的でない。さらには、基材の材質に依存した成膜となるため、基材と蒸着材料の組み合わせ(材料選択性)の制約がある。
【0064】
また、従来の半導体の製造分野等では、大気圧下で有機金属化合物(Metal Organic:MO)や有機金属錯体を使用してCVDを行う、大気圧MOCVD法等も試みられている。大気圧MOCVD法は、大気圧下で行うことができるという利点はあるものの、均一な成膜を得るためには原料ガスやキャリアガスを高度にコントロールする必要がある。また、半導体の製造分野で採用される大気圧MOCVD法では、原料ガスが有毒であるため、反応装置(リアクター)の装置構成を簡略化できないといった制約もある。このように、大気圧MOCVD法も、粘着シートの製造方法としては簡便な製造方法とはいえない。そして、上述したように、原料ガスやキャリアガスのコントロールが難しいため、成膜の状態が不均一となり易く、均一な親水性面が得られにくいといった製品上の問題も起こり得る。
【0065】
しかしながら、本実施形態に係る製造方法は、予め基材上に有機金属化合物層21を形成し、これを金属酸化物層20に変化させ、さらにこれを親水化する。そのため、従来の蒸着法等と異なり、真空下で製造する必要がなく、簡便な装置構成で製造可能であるという利点を有する。さらに、均一な金属酸化物層20の形成が可能であり、かつ、高度に親水化することができる。
【0066】
本実施形態によれば、工程(2)はRoll to Roll形式により連続的にエネルギーを照射することができる。具体的には、工程(1)により得られた有機金属化合物層21が形成された基材10(長尺基材)を搬送する方向に、適度な張力を付与しながら巻き出し、エネルギーを照射する装置へ搬送され、有機金属化合物層21にエネルギーを照射し、その後、基材10は、巻芯に巻き取られる。
【0067】
上述したように、本実施形態によれば、工程(2)は必ずしも減圧下で行う必要がなく、大気圧下で行うことができる。よって、装置構成の制約がなく、かつ製造コストにも優れるといった観点から、エネルギーの照射は、大気圧下で行うことが好ましい。
【0068】
また、本実施形態によれば、有機金属化合物を金属酸化物に効率よく変換し、さらには金属酸化物層20の表面を効率よく親水化する観点から、エネルギーの照射は、酸素含有雰囲気下で行うことが好ましく、簡便性やコスト等の観点も加味すれば、大気雰囲気(空気雰囲気)下で行うことがより好ましい。酸素含有雰囲気としては、酸素を含有する雰囲気であればよく、例えば、大気(空気)の酸素分圧を増減させた雰囲気等が挙げられる。このような雰囲気では、いずれも酸素(O)が存在するため、この酸素原子を有機金属化合物に導入することができるため、金属酸化物に効率よく変化させることができる。さらには金属酸化物層20の表面にもこの酸素原子を導入することができるため、金属酸化物層20の表面に水酸基(-OH)を効率よく導入することもできる。その結果、金属酸化物層20の親水性を一層向上させるともに、基材10と粘着層30の密着性を一層向上させることができる。さらに、窒素ガスや希ガス等の不活性ガス雰囲気下で行う必要がないため、簡便かつ製造コストに優れるといった利点も有する。このような利点は、特に大気雰囲気下において顕著である。
【0069】
工程(2)におけるエネルギーの照射条件は、特に限定されないが、例えば、エキシマランプ処理による場合、照射時間は、1~200秒であることが好ましく、5~100秒であることがより好ましく、10~50秒であることが更に好ましい。そして、エキシマランプ処理による場合、照射対象(基材10等)との照射距離は、0.01~100mmであることが好ましく、0.05~50mmであることがより好ましく、0.1~10mmであることが更に好ましい。このような照射時間及び照射距離とすることで、より均一な金属酸化物層20を形成できるとともに、より高い親水性を付与することができる。
【0070】
金属酸化物層20の厚さは、好ましくは0.01~1μmである。そして、この厚さの下限は、より好ましくは0.03μm以上であり、更に好ましくは0.05μm以上である。また、この厚さの上限は、より好ましくは0.5μm以下であり、更に好ましくは0.2μm以下である。この厚さの下限をこのような範囲とすることで、(2)工程における親水化の効果が一層向上し、この厚さの上限をこのような範囲とすることで、(2)工程における有機金属化合物から金属酸化物への変化、及び金属酸化物の表面の親水化の改質の効果が一層向上し、基材10と金属酸化物層20の密着性が一層向上する。
【0071】
金属酸化物層20の表面は、その水接触角が50°以下であることが好ましく、30°以下であることがより好ましく、10°以下であることがより好ましい。特に、粘着層30側の表面が、上述した水接触角であることが好ましい。親水化の程度として、水接触角の上限をこのような範囲とすることで、粘着層30に使用する粘着剤の種類の制限を緩和できる。すなわち、幅広い種類の粘着剤において、基材10との密着性を高くすることができる。そして、糊残り等といった品質不具合の発生もより効果的に抑制することができる。
【0072】
<工程(3)>
【0073】
続いて、(3)金属酸化物層20の表面上に、粘着層30を形成させる。本実施形態によれば、金属酸化物層20の表面が親水化されて、高い親水性を付与された状態(好適例の一例としては、例えば、金属酸化物層20の水接触角が50°以下である状態)で、粘着層30を形成させることにより、基材10及び粘着層30との高い密着性を得ることができる。
【0074】
粘着層30を形成させる方法としては、例えば、粘着層30となる粘着剤組成物を、金属酸化物層20の表面上に、バーコーター、ダイコーター、グラビアコーター、ロールコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、サイズプレスコーター等の塗工機を用いて塗布して、層形成させる方法が挙げられる。これらの中でも、層形成のし易さの観点から、バーコーター、ダイコーター、グラビアコーターを用いる方法が好ましい。
【0075】
粘着剤組成物の粘着剤としては、例えば、公知のアクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、エステル系粘着剤等を用いることができる。
【0076】
また、粘着剤組成物には、添加剤として、染料、顔料等の着色剤、アニリド系、フェノール系等の酸化防止剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、光安定剤、改質剤、防錆剤、充填剤、表面潤滑剤、腐食防止剤、耐熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、重合禁止剤、架橋剤、溶媒等を更に含んでいてもよい。すなわち、粘着層30は、必要に応じてこれらの添加剤を含んでいてもよい。後述するように、金属酸化物層20は、低分子化合物の他層への移行を効果的に抑制することも可能であるため、低分子の添加剤等の他層への移行を抑制することもできる。
【0077】
本実施形態によれば、工程(3)はRoll to Roll形式により連続的に行うことができる。具体的には、巻芯に巻き取られている基材10(長尺基材)を搬送する方向に、適度な張力を付与しながら巻き出し、塗工機を通過させ、金属酸化物層20の表面上に粘着剤組成物を含む塗布液を塗布する。塗工機を通過して塗膜が形成された基材10は、乾燥炉へ搬送され、乾燥炉によって塗布膜が乾燥されて粘着層30が形成され、その後、基材10は、巻芯に巻き取られる。
【0078】
本実施形態によれば、上述した工程(1)~(3)を行うことによって、粘着シート1を製造することができる。上述した工程(1)~(3)は、連続的なインライン設備で行ってもよく、工程(1)~(3)を各々オフライン設備で行ってもよい。なお、粘着シート1は、剥離基材を更に有する剥離基材付き粘着シートとして使用することもできる。剥離基材付き粘着シートは、例えば、以下のような方法によって製造することができる。
【0079】
図2は、本実施形態に係る製造方法により得られる剥離基材付き粘着シートの断面模式図である。
【0080】
剥離基材付き粘着シート4は、図1に示す粘着シート1の粘着層30の表面に剥離基材40が積層されたものである。この剥離基材付き粘着シート4は、例えば、以下の製造方法によって得ることができる。
【0081】
まず、上述した工程(1)及び(2)を行うことによって、基材10及び金属酸化物層20を有する処理後積層体3(図1(b)参照)を準備する。
【0082】
そして、粘着層30となる粘着剤組成物を準備し、これを工程(3)において説明した方法によって剥離基材40の表面に塗布し、粘着層30を形成させる。これにより、粘着層30が形成された剥離基材40(粘着層付き剥離基材5)を準備する。
【0083】
続いて、処理後積層体3の金属酸化物層20と、粘着層付き剥離基材5の粘着層30とが接するように、処理後積層体3と粘着層付き剥離基材5とを貼り合わせることによって、剥離基材付き粘着シート4(図2参照)を得ることができる。
【0084】
剥離基材40としては、特に限定されず、公知の材料を用いることができる。
【0085】
以上説明してきたように、本実施形態に係る製造方法によれば、基材10及び粘着層30が剥離することなく、高い密着性を有する粘着シート1を得ることができる。さらには、金属酸化物層20に低分子物質が他層に移行することを抑制する機能を付与することも可能である。
【0086】
そして、粘着シート1の好適例としては、基材10と、基材10の表面上に形成された金属酸化物層20と、金属酸化物層20の、基材10と反対側の表面上に形成された粘着層30と、を含み、金属酸化物層20は、有機金属化合物を含む塗布液を塗布して得られた、厚さが0.01~1μmである有機金属化合物層に、エネルギーを照射することによって、親水化処理が施された金属酸化物層である。例えば、有機金属化合物が有機ケイ素化合物である場合、有機ケイ素化合物に、エネルギーを照射することによって、親水化処理が施された酸化ケイ素(金属酸化物)を含み、XPS装置でラベル化分析することによって、シラノール等の水酸基含有化合物に由来するピークを有することが確認される、粘着シート1である。
【0087】
このようにして得られる粘着シート1は、一般ラベル用シート、電子部品加工用シート、ディスプレイ用シート、自動車用シート、ウィンドウ用シート等に好適に使用することができる。
【実施例0088】
以下の実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、%及び部は、特に断りのない限り、質量基準に基づくものである。
【0089】
<実施例1>
【0090】
(有機金属化合物層の形成)
【0091】
付加反応硬化型ポリオルガノシロキサン(信越化学工業社製、商品名:KS835、付加反応硬化型PDMS)100質量部をトルエンで希釈して、10質量%の溶液を調製し、これに白金触媒(信越化学工業社製、商品名:PL-50T)2質量部を添加して、有機金属化合物の塗布液を調製した。
【0092】
次いで、有機金属化合物の塗布液を、基材10(ポリプロピレン(PP)、王子エフテックス社製、商品名:アルファン PK-002、厚さ40μm)の表面に塗布した。そして、90℃で1分間の条件で加熱乾燥することによって、基材10上に乾燥後の厚さが0.05μmである有機金属化合物層21を形成させた。これにより、積層体2(基材10/有機金属化合物層21、図1(a)参照)を得た。
【0093】
(金属酸化物層20の形成及び親水化処理)
【0094】
得られた積層体2(基材10/有機金属化合物層21)の有機金属化合物層21の表面に、キセノンエキシマランプ(浜松ホトニクス社製、商品名:FLAT EXCIMER EX-mini、L12530-01)を用いて、大気雰囲気下かつ大気圧下で、光照射窓と積層体との距離1mmで、ピーク波長が172nmの紫外線を30秒間照射して、照射エネルギーが10~3000mJ/cmの範囲にあるエネルギーを付与することによって、有機金属化合物を金属酸化物(SiO)に変化させた処理後積層体3(基材10/金属酸化物層20、図1(b)参照)を作製した。なお、エキシマランプ処理により有機金属化合物に付与したエネルギーは、金属酸化物(SiO)のバンドギャップエネルギー以上であった。
【0095】
なお、有機金属化合物層21から金属酸化物層20への変化は、XPS分析を行い、エキシマランプ処理後に、Si3+に由来するケミカルシフト、及びSi4+に由来するケミカルシフトの発現が確認され、PDMSからSiOに変化したことを確認した。
そして、金属酸化物層20の表面について、X線光電子分光装置(XPS装置;アルバック・ファイ社製、製品名:Quantum2000)でラベル化分析を行うことによって、水酸基(-OH)が存在していることを確認した。このようにして得られた金属酸化物層20の表面の水接触角を測定した。
【0096】
なお、有機金属化合物層21から金属酸化物層20への変化は、XPS装置を用い、C1s、O1s、Si2pに由来するピークを測定し、元素組成より、PDMSからSiOに変化したことを確認した。
【0097】
また、金属酸化物層20表面について、水酸基(-OH)をラベル化系試薬でラベル化した後、X線光電子分光法(XPS)によって測定することで、金属酸化物層20表面に水酸基が存在していることを確認した(ラベル化分析)。
【0098】
(粘着層30の形成)
【0099】
アクリル酸2-エチルヘキシル80質量部と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル20質量部とを共重合させて、アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:60万)を調製した。得られたアクリル酸エステル共重合体に、架橋剤としてトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製、製品名:コロネートL)2質量部を混合し、十分に撹拌して、メチルエチルケトンで希釈することにより、固形分濃度25質量%である粘着性組成物の塗布溶液を得た。
【0100】
得られた粘着性組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した剥離基材40(リンテック社製、製品名:SP-PET382150、厚さ38μmの粘着シート、図2参照)の剥離処理面に、乾燥後の厚さが25μmになるようにナイフコーターで塗布した後、100℃で1分間の条件で加熱処理することによって、粘着層30を形成させた。
【0101】
続いて、粘着層30が形成された剥離基材40を、上述の処理後積層体3(基材10/金属酸化物層20、図1(b)参照)の金属酸化物層20が粘着層30と接するように、処理後積層体3と貼り合わせた。そして、23℃、50%RHの条件下で7日間養生することにより、剥離基材付き粘着シート4(基材10/金属酸化物層20/粘着層30/剥離基材40、図2及び図1(c)参照)を製造した。
【0102】
<実施例2>
【0103】
有機金属化合物層21の厚さ及び金属酸化物層20の厚さが0.1μmとなるようにした点以外は、実施例1と同様にして、剥離基材付き粘着シート4を作製した。なお、エキシマランプ処理により有機金属化合物に付与したエネルギーは、金属酸化物(SiO)のバンドギャップエネルギー以上であった。
【0104】
実施例1と同様に分析した結果、有機金属化合物層21は、SiOである金属酸化物層20に変化しており、その表面には水酸基(-OH)が存在していることを確認した。
【0105】
<実施例3>
【0106】
チタンオリゴマー(マツモトファインケミカル社製、商品名:オルガチックス PC-250;有機チタン化合物)100質量部をエタノールで希釈して2質量%の有機金属化合物溶液を調製した点以外は、実施例1と同様にして剥離基材付き粘着シート4を作製した。なお、エキシマランプ処理により有機金属化合物に付与したエネルギーは、金属酸化物(TiO)のバンドギャップエネルギー以上であった。
【0107】
実施例1と同様に分析した結果、有機金属化合物層21は、TiOである金属酸化物層20に変化しており、その表面には水酸基(-OH)が存在していることを確認した。
【0108】
<実施例4>
【0109】
有機金属化合物層21の厚さ及び金属酸化物層20の厚さを0.1μmとした点以外は、実施例3と同様にして剥離基材付き粘着シート4を作製した。なお、エキシマランプ処理により有機金属化合物に付与したエネルギーは、金属酸化物(TiO)のバンドギャップエネルギー以上であった。
【0110】
実施例1と同様に分析した結果、有機金属化合物層21は、TiOである金属酸化物層20に変化しており、その表面には水酸基(-OH)が存在していることを確認した。
【0111】
<比較例1>
【0112】
基材10の表面上に金属酸化物層20を形成しなかった点以外は、実施例1と同様にして剥離基材付き粘着シートを作製した。
【0113】
<比較例2>
【0114】
有機金属化合物層21の厚さ及び金属酸化物層20の厚さを0.003μmとした点以外は、実施例1と同様にして剥離基材付き粘着シートを作製した。
【0115】
実施例1と同様に分析した結果、有機金属化合物層21は、SiOである金属酸化物層20に変化しており、その表面には水酸基(-OH)が存在していることを確認した。
【0116】
<比較例3>
【0117】
有機金属化合物層21の厚さ及び金属酸化物層20の厚さを3.0μmとした点以外は、実施例3と同様にして剥離基材付き粘着シートを作製した。
【0118】
実施例1と同様に分析した結果、有機金属化合物層21は、SiOである金属酸化物層20に変化しており、その表面には水酸基(-OH)が存在していることを確認した。
【0119】
<評価方法>
【0120】
以下に示す方法に準拠して各物性の評価を行った。なお、測定対象である粘着シート1(図1参照)は、剥離基材付き粘着シート4(図2参照)から剥離基材40を剥がしたものを用いた。
【0121】
(表面分析)
【0122】
有機金属化合物層21及び金属酸化物層20の表面分析は、上述したように、以下の手法に準拠して行った。
有機金属化合物層21から金属酸化物層20への変化は、XPS分析を行い、処理前後に有機金属化合物から金属酸化物への変化の有無を確認した。
そして、金属酸化物層20の表面について、XPS装置でラベル化分析を行うことによって、水酸基(-OH)が存在しているか否かを確認した。
【0123】
(厚さの測定)
【0124】
有機金属化合物層21の厚さ及び金属酸化物層20の厚さは、反射式膜厚計(フィルメトリクス社製、製品名:F20)、及びJ.A.Woollam Japan社製の分光エリプソメーター(製品名:M-2000)を用いて、以下の条件で測定した。
・測定領域0.001~0.5μm:分光エリプソメーター
・測定領域0.5~10μm:反射式膜厚計
【0125】
(水接触角の測定)
【0126】
JIS R 3257に準拠し、全自動接触角測定装置(協和界面科学社製、製品名:DM-701)を用いて、金属酸化物層20の表面について、水2μLに対する接触角として測定した。
【0127】
(密着性試験)
【0128】
粘着シートの粘着剤の密着性試験はラブオフ(rub-off)試験にて評価した。具体的には、粘着層の表面上において3cmの距離を指先で5回強く擦った後、粘着層の表面から粘着剤の脱落があったか否かを、目視で確認した。
〇:粘着層の表面から粘着剤の脱落が、目視で全く確認されなかった。
×:粘着層の表面から粘着剤の脱落が、目視で確認された。
【0129】
(鉱物オイル移行抑制試験)
【0130】
さらに、実施例1~4の粘着シート1(図1(c)参照)について、鉱物オイル移行抑制試験を行い、低分子化合物の移行抑制効果についても検証した。具体的には、図1(b)の段階の処理後積層体3の金属酸化物層20の表面に、鉱物オイル(成分:水素処理重ナフテン系石油)をバーコーターで塗布して、室温で7日間静置した。そして、7日経過後の状態を観察した。その結果、実施例1~4のいずれについても、目視によって、鉱物オイルが基材10に浸透していないことが確認された。
【0131】
各実施例及び各比較例の製造条件及び評価結果を、表1及び表2に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
以上より、本実施例によれば、金属酸化物層の親水性が高く、基材と粘着層との密着性が高く、使用時に基材と粘着層とが剥離することがなく、さらには、低分子化合物の移行も抑制できる粘着シートを製造できることが少なくとも確認された。
【符号の説明】
【0135】
1:粘着シート
2:積層体
3:処理後積層体
4:剥離基材付き粘着シート
5:粘着層付き剥離基材
10:基材
20:金属酸化物層
21:有機金属化合物層
30:粘着層
40:剥離基材
図1
図2