IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビアメカニクス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-レーザ加工装置 図1
  • 特開-レーザ加工装置 図2
  • 特開-レーザ加工装置 図3
  • 特開-レーザ加工装置 図4
  • 特開-レーザ加工装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050541
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/042 20140101AFI20230404BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20230404BHJP
【FI】
B23K26/042
B23K26/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160697
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000233332
【氏名又は名称】ビアメカニクス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 賢司
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD12
4E168CA03
4E168CA13
4E168CB04
4E168CB07
4E168CB19
4E168CB23
4E168DA23
4E168DA43
4E168EA15
4E168JB01
(57)【要約】
【課題】レーザ発振器起動後、レーザ光の光軸の位置が安定するまでの間に、位置精度に優れた加工ができる、レーザ加工装置を提供すること。
【解決手段】レーザ発振器の起動後から所定の時間が経過するまでの間の、レーザ光の光軸の位置変化に応じた光軸位置の補正量を算出し、これを予め記憶する。発振器起動後、所定の時間が経過するまでの間、記憶された光軸位置の補正量に基づいて、光軸偏向手段によりレーザ光の光軸位置を補正する。
【選択図】図5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器から出力されるレーザ光の予め定める光軸上に光軸位置決め手段を配置し、この光軸位置決め手段により前記レーザ発振器から出力されるレーザ光を被加工物上に位置決めするようにしたレーザ加工装置であって、
前記レーザ発振器と前記光軸位置決め手段との間に配置され、前記レーザ光の光軸を偏向自在な光軸偏向手段と、
前記光軸位置決め手段と前記光軸偏向手段との間に配置され、前記レーザ光の光軸の位置を検出するための光軸位置検出手段と、を備え、
さらに、前記光軸位置検出手段により検出した、レーザ発振器の起動後所定の時間が経過するまでの間の、前記レーザ光の光軸位置の変化に基づき、前記光軸偏向手段によって前記光軸位置決め手段に入射する前記レーザ光の光軸を前記予め定める光軸に一致させるための補正量を算出する、補正量算出部と、
前記算出された補正量を記憶する、補正情報記憶部と、を有し、
前記補正情報記憶部に記憶された補正量に基づき、前記光軸偏向手段が前記レーザ光の光軸を偏向する、
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記補正情報記憶部が、レーザ発振器の発振条件毎の補正量を記憶する、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプリント基板にレーザを使用して穴あけを行うためのレーザ加工装置にかかり、より詳しくは光軸偏向手段により、レーザ発振器から出力されたレーザ光の光軸位置を、基本光軸に一致するように補正するレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工装置において、光源となるレーザ発振器の起動後しばらくの間は、発振器から出力されるレーザの光軸位置がずれ、安定しないことが知られている。これは、レーザ発振器内部において、レーザ発振を始めると温度が上昇し、レンズ、ミラー及びこれらを支えているブラケット等の構成要素が熱変形するためである。そして、構成要素が熱的に飽和すると、光軸位置が安定することが知られている。
【0003】
このような光軸位置ずれに対応するために、例えば特許文献1に開示されるような、光軸偏向手段を有するレーザ加工装置が知られている。図1は、従来の光軸偏向手段を有するレーザ加工装置の光路系を模式的に示す説明図であり、図2は、従来の光軸偏向手段の動作を説明する図である。従来のレーザ加工装置を、図1および図2を用いて説明する。
【0004】
従来のレーザ加工装置は、図1に示すように、レーザ発信器1、光軸偏向手段10、外部光学系2、光軸位置決め手段30、集光レンズ(fθレンズ)3、第一及び第二スプリッタ22、24、第一及び第二光軸位置検出センサ21、23、及びテーブル5を有して構成されている。
【0005】
レーザ発振器1から出射されたレーザ光は、複数のミラー等から構成される光軸偏向手段10、ミラーやレンズ等で構成された外部光学系2に導かれた後、ガルバノミラー等から構成される光軸位置決め手段30に入射し、集光レンズ(fθレンズ)3を介してテーブル5上に固定された被加工物4に入射される。外部光学系2は、軸線が基本光軸Oと同軸になるように配置されている。なお、基本光軸Oとは、レーザ発振器の開口部(射出部)の中心に一致し、かつ開口部に対して垂直な光軸をいう。
【0006】
光軸位置決め手段30は、回転の軸がねじれの位置に配置されたガルバノミラー31、32と、ガルバノミラー31、32を回転させるスキャナモータ33、34とから構成されており、ガルバノミラーの回転の軸線が基本光軸Oに垂直になるように配置されている。そして、ガルバノミラー31、32を回転させることにより、レーザ光を被加工物4上の所望の位置に位置決めする。テーブル5は、XY方向(紙面の左右及び紙面の垂直方向)に移動自在に構成されている。
【0007】
また、光軸偏向手段10から光軸位置決め手段30までの間に、レーザ光を分光する第一及び第二スプリッタ22、24が設けられ、分光したレーザ光を第一及び第二光軸位置検出センサ21、23へ入射し、それぞれの光軸の位置を検出する。両光軸位置検出センサ21、23は、その表面に、多数の微小な受光素子が(入射するレーザ光が基本光軸Oにある際の)検出ビームに対して垂直な平面方向に配置されており、検出中心が基本光軸Oの延長線上に位置決めされている。
【0008】
レーザ発振器1と外部光学系2との間に設けられた、光軸偏向手段10を構成する第一及び第三ミラー11、14は、それぞれの回転軸の軸線が基本光軸Oに対して垂直な軸線と平行、かつ、基本光軸Oに対して接離する方向(即ち、被加工物の表面上のXY方向に対応する方向)に移動自在に配置されている。
【0009】
第一ミラー11は、レーザ光を入射する方向に垂直な(紙面に垂直方向の)軸12を有しており、該軸12の回りの、矢印U-U’方向に回動自在であり、図示を省略する移動装置により基本光軸Oと直角のZ軸方向(矢印Z-Z’方向、被加工物4の表面上におけるY軸方向であって、紙面の上下方向)(即ち、基本光軸Oに対して垂直な軸線と平行、かつ基本光軸Oに対して接離する方向)に移動自在である。また、第一ミラー11の基本光軸Oに対する基準角度は45°である。第二ミラー13は、第一ミラー11で偏向された基本光軸Oを紙面に垂直かつ紙面の奥側方向に偏向させる。
【0010】
第三ミラー14は、レーザ光を入射する方向に垂直な(紙面に平行方向の)軸15を有しており、該軸15の回りの、矢印V-V’方向に回動自在であり、図示を省略する移動装置により紙面に垂直な方向(即ち、基本光軸Oに対して垂直な軸線と平行、かつ基本光軸Oに対して接離する方向)に移動自在である。なお、図中A方向から見た第三ミラー14と軸15との関係は、同図における第一ミラー11と軸12との関係と同じであり、第三ミラー14の基本光軸Oに対する基準角度は45°である。
【0011】
第一ミラー11は、次のように作動して光軸位置を補正する。図2(a)に示すように、レーザ光6の光軸が、基本光軸Oに対してZ軸方向に平行にずれた場合には、第一ミラー11をZ軸方向に移動させ基本光軸Oに一致させる。また、図2(b)に示すように、レーザ光6が角度α傾いた場合には、第一ミラー11をU方向に角度α傾けることで、基本光軸Oと平行にし、更にZ軸方向に移動させ、基本光軸Oに一致させる。更に、レーザ光6が基本光軸Oに対して平行にずれ、かつ傾いている場合には、第一ミラー11の角度を変え、更にZ軸方向に移動させることで、基本光軸Oに一致させることで、X軸方向のずれを解消する。また同様に、第三ミラー14を用いてY軸方向のずれを解消する。なお、第一及び第三ミラー11、14を回動させる角度と移動させる距離は、両光軸位置検出センサ21、23における、センサの中心に対するレーザ光の中心のずれ量から演算で求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005-205429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、従来の技術は、光軸位置のずれをセンサで検知しながら補正するものであるため、センサがずれを検知してから実際にミラーを作動するまでの間に時差が生じ、加工位置精度の観点から問題があった。また、光軸位置を検出し補正しながら加工しているため、光軸位置検出センサが故障した場合には、光軸位置を補正できなくなり、加工を中断しなければならないという問題があった。
【0014】
そこで本発明は、上記課題を解決し、レーザ発振器起動後の光軸位置のずれを、時差を生じさせることなく直ちに補正し、位置精度を向上することができるとともに、光軸位置検出センサが故障しても、光軸位置を補正しながら加工することができるレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決するために種々の検討を行い、レーザ発振器の起動後、光軸位置が安定するまでの光軸の位置変化を調べた結果、レーザの発振条件(レーザの繰返し周波数及びパルス幅)ごとに、光軸位置がほぼ同様に変化することを見出した。つまり、発振器起動後の光軸の位置変化が、発振条件毎に許容できる範囲内のずれで再現されることを見出した。
【0016】
図3及び図4は、レーザ発振器起動後のレーザ光軸の位置変化を説明する図である。図3は、Co2パルスレーザ発振器を用いて、繰返し周波数及び照射パルス幅が異なる発振条件1と2とで、交互に出射したときの光軸位置の変化を測定したグラフである。横軸が経過時間、縦軸が光軸位置の座標であり、光軸位置検出センサによるX軸の位置変化を(A)に、Y軸の位置変化を(B)に示している。なお、発振条件1と2の切換えごとに発振器を停止、起動したが、停止中はレーザが照射されないため、グラフの見易さを考慮して停止時間中のデータは省略した。
【0017】
図4は、図3のデータを測定したレーザ加工装置とは別のレーザ加工装置で、Co2パルスレーザ発振器を用いて、図3と同様の時間間隔で、発振条件3と発振条件4とで交互に出射したときの光軸位置の変化を測定したグラフであり、図3と同様に、光軸位置検出センサによるX軸の位置変化を(A)に、Y軸の位置変化を(B)に示しており、発振条件切換の間のデータは省略している。なお、発振条件3及び4は、繰返し周波数及び照射パルス幅が異なる。
【0018】
なお、図3の条件1及び、図4の条件3において、開始直後の測定時間だけ長く測定した(約30分)。これは、発振器起動後しばらくの間が最も位置変化が大きく、その後光軸位置が安定することを示すためである。条件切換後は、光軸位置が安定するまでの短時間(それぞれの測定時間は等しい)のデータのみを用いたグラフとした。
【0019】
図3及び図4から明らかなように、発振条件1乃至4は、それぞれの条件毎に同様の位置変化を示している。なお、図3及び4のデータは発振器に近い側の光軸位置検出センサによる測定結果であるが、発振器から遠い側の光軸位置センサにおいても、各条件で同様の位置変化が示された。
【0020】
図3図4から、レーザ発振器の起動後レーザ光軸位置が安定するまでの位置変化が、発振条件毎に同様であることがわかる。これは、発振器内部の光学部品やこれを支えるブラケットが、熱的に飽和状態となるまでに、レーザの発振条件毎に同様の変化過程を経るためと思われる。
【0021】
以上の知見に基づき、上記課題を解決するため、本願において開示される発明のうち代表的なレーザ加工装置は以下の通りである。レーザ発振器から出力されるレーザ光の予め定める光軸上に光軸位置決め手段を配置し、この光軸位置決め手段により前記レーザ発振器から出力されるレーザ光を被加工物上に位置決めするようにしたレーザ加工装置であって、前記レーザ発振器と前記光軸位置決め手段との間に配置され、前記レーザ光の光軸を偏向自在な光軸偏向手段と、前記光軸位置決め手段と前記光軸偏向手段との間に配置され、前記レーザ光の光軸の位置を検出するための光軸位置検出手段と、を備え、さらに、前記光軸位置検出手段により検出した、レーザ発振器の起動後所定の時間が経過するまでの間の、前記レーザ光の光軸位置の変化に基づき、前記光軸偏向手段によって前記光軸位置決め手段に入射する前記レーザ光の光軸を前記予め定める光軸に一致させるための補正量を算出する、補正量算出部と、前記算出された補正量を記憶する、補正情報記憶部と、を有し、前記補正情報記憶部に記憶された補正量に基づき、前記光軸偏向手段が前記レーザ光の光軸を偏向する、ことを特徴とする
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、加工装置起動後直ちに位置精度の良いレーザ加工を行うことができ、生産効率を向上させることができる。また、加工中に光軸位置検出センサが故障しても、継続して補正しながら加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来の光軸位置補正機能を有するレーザ加工機の光路系を模式的に示す説明図である。
図2】従来の光軸位置補正ユニットの動作を説明する図である。
図3】レーザ発振器起動後の光軸位置の変化を示す図である。
図4】レーザ発振器起動後の光軸位置の変化を示す図である。
図5】本発明の実施例となるレーザ加工装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の代表的な実施形態について図5を用いて説明する。図5は本発明の実施例となるレーザ加工装置のブロック図である。なお、図1または図2と同じものまたは同一機能のものは、同一の符号を付して説明を省略する。
【0025】
40は装置全体の動作を制御する全体制御部で、例えばプログラム制御の処理装置によって実現されるものである。全体制御部40は、レーザ発振器1でのレーザパルスの発振を指示するレーザ発振指令信号を出力するレーザ発振制御部41、光軸偏向手段10の動作を制御する光軸偏向手段制御部42、外部光学系2の動作を制御する外部光学系制御部43、光軸位置決め手段30の動作を制御する光軸位置決め手段制御部44を含む。
【0026】
全体制御部40は、さらに、第一及び第二の光軸検出センサ21、23により検出した光軸の位置変化に基づき光軸位置を基本光軸Oに一致させる補正量(第一及び第三ミラー11、14の回転量及び移動量)を算出する補正量算出部45、算出した補正量を補正情報として記憶する補正情報記憶部46を有する。なお、全体制御部40に含まれるこれらの機能要素のうちの一部は全体制御部40とは別個に設けても良い。レーザ穴明け装置としては、ここで説明するもの以外に種々の要素と接続線を有するが、ここでは省略してある。
【0027】
以上の構成において、穴あけ加工を行う前に、予め発振条件(繰り返し周波数及び照射パルス幅)毎の補正情報を以下のようにして得ておく。
【0028】
全体制御部40は、まずレーザ発振器1の起動後レーザ光軸が安定するまでの間の光軸の位置変化を、第一及び第二光軸位置検出センサ21、23で測定する。つまり、発振器の起動後から光軸が安定するまでの間の光軸位置の挙動を測定する。補正量算出部45は、測定した光軸の位置変化に基づき、基本光軸Oに一致させるための補正量(第一及び第三ミラー11、14を回動させる角度と移動させる距離)を算出し、補正情報記憶部46へ保存する。なお、発振条件(繰り返し周波数及び照射パルス幅)毎に、発振器起動後のレーザの光軸位置変化は異なるので、穴あけ加工に使用する可能性のある発振条件毎に、予め軸位置変化を測定して補正量を算出し、発振条件毎の補正情報を補正情報記憶部46に記憶する。なお、レーザ光軸が安定するまでの時間は、発振条件により異なるので、実験により予めこの時間を求めておく。
【0029】
穴あけ加工を行う際には、光軸偏向手段制御部42が、加工に使用する発振条件に対応する補正量を補正情報記憶部46から読み出し、当該補正情報に基づいて光軸偏向手段10を動作させる。
【0030】
本発明によれば、加工に先立ち、予め測定した光軸の位置変化に基づいて算出した補正情報により光軸位置を補正することができる。つまり、光軸位置がずれるタイミングに合わせて光軸偏向手段を作動させることができる。従って、加工しながらセンサで光軸位置のずれを検出し補正する場合のような時差がなく、加工精度の低下を防止することができる。
【0031】
また、従来は光軸位置を検出して補正しながら加工していたので、加工中に光軸位置検出センサが故障すると、光軸位置を補正することができなくなったが、本発明は、加工中は光軸位置を検出しないので、センサが故障しても引き続き補正することができる。
【0032】
なお、発振器起動後の光軸の位置変化は、レーザ発振器1や外部光学系2の内部の構成要素の経年劣化や、光学部品への微小異物の付着等によりわずかずつ変化するため、例えば、加工装置を所定回数使用し、あるいは所定時間使用する毎に、光軸の位置変化を測定しなおして、補正情報を更新してもよい。
【0033】
以上、本発明の一実施例を説明したが、実施例における構成要素などを種々置換したり、別の要素を付加することにより、各種の変形が可能である。本発明は本実施例に限定されるものではなく、レーザを用いた加工であれば、穴あけ加工以外にも適用できる。
【符号の説明】
【0034】
1:レーザ発振器、10:光軸偏向手段、21:第一光軸位置検出センサ、23:第二光軸位置検出センサ、2:外部光学系、30:光軸位置決め手段、4:被加工物、41:レーザ発振制御部、42:光軸偏向手段制御部、45:補正量算出部、46:補正情報記憶部

図1
図2
図3
図4
図5