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特開2023-50650凍上抑制路盤材及び凍上抑制路盤形成方法
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  • 特開-凍上抑制路盤材及び凍上抑制路盤形成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050650
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】凍上抑制路盤材及び凍上抑制路盤形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/02 20060101AFI20230404BHJP
   E01C 3/00 20060101ALI20230404BHJP
   E01C 7/10 20060101ALI20230404BHJP
   E01C 13/02 20060101ALI20230404BHJP
   E01C 13/06 20060101ALI20230404BHJP
   E01B 1/00 20060101ALI20230404BHJP
   C09K 17/12 20060101ALI20230404BHJP
   C09K 17/08 20060101ALI20230404BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20230404BHJP
   C04B 28/08 20060101ALI20230404BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C09K17/02 P
E01C3/00
E01C7/10
E01C13/02
E01C13/06
E01B1/00
C09K17/12 P
C09K17/08 P
C09K17/06 P
C04B28/08
C04B22/06 A
C04B22/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160865
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】592145268
【氏名又は名称】JR東日本コンサルタンツ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596092148
【氏名又は名称】株式会社山本建設
(74)【代理人】
【識別番号】100141313
【弁理士】
【氏名又は名称】辰巳 富彦
(72)【発明者】
【氏名】大西 典昭
(72)【発明者】
【氏名】廣▲瀬▼ 豊
(72)【発明者】
【氏名】佃 尚有
【テーマコード(参考)】
2D051
2D056
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
2D051AD07
2D051AE05
2D051AF02
2D051AF05
2D051AF09
2D051AF13
2D051AF14
2D051AH02
2D051AH03
2D051EB04
2D051EB06
2D056AA03
2D056AA09
4G112MA01
4G112PB03
4G112PB04
4H026CA02
4H026CA03
4H026CA05
4H026CA06
4H026CB03
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】凍上の発生をより確実に抑制することが可能な路盤材を提供する。
【解決手段】本凍上抑制路盤材は、0.15mmのふるい通過率が3.8%以下である水砕スラグと、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、及び酸化マグネシウムとを含み、敷き均し散水して固化させた際の凍結膨張率が0.5%以下に抑えられることを特徴とする。ここで水砕スラグの粗粒率は3.1以上であることも好ましく、水砕スラグの細粒分含有率は2.9%以下であることも好ましい。さらに、好適な一実施形態として、水砕スラグは0.15mmのふるい通過率が3.0%以下であって、敷き均し散水して固化させた際の凍結膨張率が0.3%未満に抑えられることも好ましい。またこの好適な実施形態において、水砕スラグの粗粒率は3.2以上であることも好ましく、水砕スラグの細粒分含有率は2.3%以下であることも好ましい。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.15ミリメートル(mm)のふるい通過率が3.8パーセント(%)以下である水砕スラグと、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、及び酸化マグネシウムとを含み、敷き均し散水して固化させた際の凍結膨張率が0.5%以下に抑えられることを特徴とする凍上抑制路盤材。
【請求項2】
前記水砕スラグの粗粒率は、3.1以上であることを特徴とする請求項1に記載の凍上抑制路盤材。
【請求項3】
前記水砕スラグの細粒分含有率は、2.9%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の凍上抑制路盤材。
【請求項4】
前記水砕スラグは0.15mmのふるい通過率が3.0%以下であって、敷き均し散水して固化させた際の凍結膨張率が0.3%未満に抑えられることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の凍上抑制路盤材。
【請求項5】
前記水砕スラグの粗粒率は、3.2以上であることを特徴とする請求項4に記載の凍上抑制路盤材。
【請求項6】
前記水砕スラグの細粒分含有率は、2.3%以下であることを特徴とする請求項4又は5に記載の凍上抑制路盤材。
【請求項7】
敷き均し散水して固化させた後に凍結した際の、外気側の上端面の温度よりも地面側の下端面の温度が10度(℃)低い基準化時における凍結膨張率が0.1%未満に抑えられることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の凍上抑制路盤材。
【請求項8】
敷き均した上での当該散水は、前記凍上抑制路盤材の含水比が9.7%以上であって16.1%以下の範囲内となるものであることを特徴とする請求項4から7のいずれか1項に記載の凍上抑制路盤材。
【請求項9】
前記凍上抑制路盤材は、セメントを更に含み、
前記セメントは、前記水砕スラグに対する重量比として4.0重量%以上であって36重量%以下だけ含まれており、
前記二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、及び酸化マグネシウムは、前記水砕スラグに対する重量比としてそれぞれ、0.10重量%以上であって1.0重量%以下、0.05重量%以上であって0.50重量%以下、0.08重量%以上であって0.80重量%以下、及び0.01重量%以上であって0.12重量%以下だけ含まれている
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の凍上抑制路盤材。
【請求項10】
0.15mmのふるい通過率が3.8%以下である水砕スラグに対し、セメントを4.0重量%以上であって36重量%以下だけ加えて混合し、さらに、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、及び酸化マグネシウムをそれぞれ、0.10重量%以上であって1.0重量%以下、0.05重量%以上であって0.50重量%以下、0.08重量%以上であって0.80重量%以下、及び0.01重量%以上であって0.12重量%以下だけ加えて混合して、路盤材を生成する第1のステップと、
前記路盤材を所定の高さに敷き均し、敷き均した路盤材に散水して該路盤材を固化させ、その凍上が凍結膨張率にして0.5%以下に抑えられた路盤を形成する第2のステップと
を有することを特徴とする凍上抑制路盤形成方法。
【請求項11】
第1のステップにおいて、0.15mmのふるい通過率が3.0%以下である水砕スラグを用い、第2のステップにおいて、その凍上が凍結膨張率にして0.3%未満に抑えられた路盤を形成することを特徴とする請求項10に記載の凍上抑制路盤形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道や道路等の路盤を形成し、また、路盤形成に用いる路盤材を生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道や道路等の路盤は、安全且つ快適な輸送・移動を実現するのに重要となる構造物である。実際、路盤材を用いて、各種の路盤を新設したり、既設の路盤のメンテナンス・改良を行ったりする工事が全国で実施されている。
【0003】
例えば具体的に、鉄道路盤のメンテナンス・改良工事は、路盤の噴泥対策、軌道継ぎ目落ち対策、橋台背面等構造物接続部の盛土沈下対策や、横断管路等の線路下埋設物の埋戻しによる沈下対策、さらには路盤の沈下対策や、踏切板下路盤の強化対策等を目的として広く実施されている。
【0004】
このような路盤のメンテナンス・改良や新設に用いられる好適な路盤材として、本願の出願人等が特許権者となっている特許に係る特許文献1(特許第3826899号)には、水砕スラグを主成分とし、硫黄分が少なく、透水性が高く、比較的作業困難な場所においても簡便且つ短時間で高強度の路盤を敷き均し又は置き換えることの可能な高空隙路盤材が開示されている。実際、この高空隙路盤材は、2000年(平成12年)改定の鉄道構造物等設計標準(非特許文献1参照)に対応した、長期強度の高い路盤材となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-339784号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】財団法人鉄道総合技術研究所,「SI単位版 鉄道構造物等設計標準・同解説-土構造物」,丸善株式会社,第286頁~第291頁,2000年(平成12年)2月20日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような路盤材を用いて路盤を形成する際には、通常、路盤材を所定の高さに敷き均し、その上に散水を行って路盤材を固化させている。ここで、冬期、特に寒冷地の冬期においては、形成された地盤の内部における水分の凍結によって膨張・隆起が生じてしまう、いわゆる凍上現象の生じてしまうことが大きな問題となっている。
【0008】
実際、凍上現象が発生することによって、路盤上面が設計値を超えて高くなったり、凹凸状や波打った状態になったりし、さらには、路盤上の構造物の位置が設計から外れてしまったりして、極端な場合、鉄道車両や自動車の運行・走行にも影響を与えてしまう可能性が生じることも懸念されるのである。しかしながら従来、発生する凍上現象の程度には、相当のばらつきがあることも認められており、例えば路盤材を改良するにしても、生じる凍結膨張を、大きなばらつきなく確実に抑えるための方策は、何ら見出されてこなかった。
【0009】
そこで本発明は、凍上の発生をより確実に抑制することが可能な路盤材及び路盤形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、0.15ミリメートル(mm)のふるい通過率が3.8パーセント(%)以下である水砕スラグと、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、及び酸化マグネシウムとを含み、敷き均し散水して固化させた際の凍結膨張率が0.5%以下に抑えられる凍上抑制路盤材が提供される。
【0011】
この本発明による凍上抑制路盤材において、上記の水砕スラグの粗粒率は、3.1以上であることも好ましい。また、上記の水砕スラグの細粒分含有率は、2.9%以下であることも好ましい。
【0012】
さらに、本発明による凍上抑制路盤材における好適な一実施形態として、上記の水砕スラグは0.15mmのふるい通過率が3.0%以下であって、敷き均し散水して固化させた際の凍結膨張率が0.3%未満に抑えられることも好ましい。
【0013】
またこの好適な実施形態において、上記の水砕スラグの粗粒率は、3.2以上であることも好ましい。また、上記の水砕スラグの細粒分含有率は、2.3%以下であることも好ましい。
【0014】
さらにこの好適な実施形態においては、敷き均し散水して固化させた後に凍結した際の、外気側の上端面の温度よりも地面側の下端面の温度が10度(℃)低い基準化時における凍結膨張率が0.1%未満に抑えられる。また、敷き均した上での上記の散水は、凍上抑制路盤材の含水比が9.7%以上であって16.1%以下の範囲内となるものであることも好ましい。
【0015】
さらに、本発明による凍上抑制路盤材は、セメントを更に含み、
上記のセメントは、前記水砕スラグに対する重量比として4.0重量%以上であって36重量%以下だけ含まれており、
上記の二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、及び酸化マグネシウムは、水砕スラグに対する重量比としてそれぞれ、0.10重量%以上であって1.0重量%以下、0.05重量%以上であって0.50重量%以下、0.08重量%以上であって0.80重量%以下、及び0.01重量%以上であって0.12重量%以下だけ含まれていることも好ましい。
【0016】
本発明によれば、また、0.15mmのふるい通過率が3.8%以下である水砕スラグに対し、セメントを4.0重量%以上であって36重量%以下だけ加えて混合し、さらに、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、及び酸化マグネシウムをそれぞれ、0.10重量%以上であって1.0重量%以下、0.05重量%以上であって0.50重量%以下、0.08重量%以上であって0.80重量%以下、及び0.01重量%以上であって0.12重量%以下だけ加えて混合して、路盤材を生成する第1のステップと、
この路盤材を所定の高さに敷き均し、敷き均した路盤材に散水して該路盤材を固化させ、その凍上が凍結膨張率にして0.5%以下に抑えられた路盤を形成する第2のステップと
を有する凍上抑制路盤形成方法が提供される。
【0017】
この本発明による凍上抑制路盤形成方法における好適な一実施形態として、上記の第1のステップにおいて、0.15mmのふるい通過率が3.0%以下である水砕スラグを用い、上記の第2のステップにおいて、その凍上が凍結膨張率にして0.3%未満に抑えられた路盤を形成することも好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の路盤材及び路盤形成方法によれば、凍上の発生をより確実に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】細粒分含有土における細粒分含有率Fと凍結膨張率ξとの関係を示すグラフである。
図2】水砕スラグにおける細粒分含有率Fと0.15mmふるい通過率P_0.15との関係を説明するためのグラフである。
図3】水砕スラグにおける0.15mmふるい通過率P_0.15と粗粒率Gとの関係を示すグラフである。
図4】本発明による凍上抑制路盤材において凍結膨張率ξを測定した実施例を説明するためのグラフである。
図5】本発明による凍上抑制路盤材において凍結膨張率ξを測定した実施例を説明するためのグラフである。
図6】本発明による凍上抑制路盤材において凍結膨張率ξを測定した実施例を説明するためのグラフである。
図7】本実施例の測定条件・測定結果をまとめたテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
[凍上抑制路盤材の凍結膨張率等]
本発明による路盤材(以後、凍上抑制路盤材とも称する)は、鉄道や道路等の路盤を形成するための材料であり、冬期、特に北海道といったような寒冷地の冬期における路盤のメンテナンス・改良や新設を行うのに非常に適した路盤材料となっている。
【0022】
従来、そのような冬期の寒冷地での路盤形成工事の現場においては、形成された地盤の内部における水分の凍結によって膨張・隆起が生じてしまう、いわゆる凍上現象の生じてしまうことが大きな問題となっていた。実際、路盤上面の変位・変形や、路盤上構造物の位置のずれから換算すると、凍結膨張率ξにして1%を超えるような凍上の生じるケースも確認されてきた。
【0023】
また、同じ路盤材を用いても、現場によって凍上の程度が大きくばらついていた。このばらつきの1つの原因として、路盤形成工事の際の散水量が現場の状況によって多少異なってしまい、路盤材の含水比Wが一定していなかったことが考えられている。
【0024】
ここで、当該工事現場における経験上の知見として、路盤上面の変位・変形の許容範囲や、路盤上構造物の位置におけるずれの許容範囲を勘案すると、凍結膨張率ξをばらつきなく確実に0.5%以下となるように、より好ましくは(凍上による悪影響をより確実に払拭するため)0.3%未満となるように抑えることが重要であることが分かっている。
【0025】
このような現状の下、本凍上抑制路盤材は、具体的に、
(A)0.15ミリメートル(mm)のふるい通過率P_0.15が、3.8%以下である水砕スラグと、
(B)二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al)、酸化カルシウム(CaO)、及び酸化マグネシウム(MgO)と
を含み、
(C)敷き均し散水して固化させた際の凍結膨張率ξが0.5%以下に抑えられる
ことを特徴としている。ちなみに、この凍上抑制路盤材を用いて路盤を形成する際には、後に説明を行うが、この凍上抑制路盤材を所定の高さに敷き均し、その上に散水を行って凍上抑制路盤材を固化させるのである。
【0026】
ここで上記(A)の0.15mmのふるい通過率P_0.15は、JIS(日本産業規格)A1102「骨材のふるい分け試験方法」に準拠して実施されたふるい分け試験の結果とすることができる。また、上記(C)の凍結膨張率ξは、後に実施例として詳細に説明するが、公益社団地盤工学会の規格であるJGS 0172-2020「凍上性判定のための土の凍上試験方法」に準拠して実施された凍上性試験の結果とすることができる。
【0027】
このように、本発明の凍上抑制路盤材によれば、この後図1及び図2を用いて説明するように、水砕スラグの「0.15mmふるい通過率P_0.15」を、3.8%以下に抑えることにより、凍上を促進させる細かい粒分の割合を低減させて、凍上現象の発生をより確実に抑制することができ、具体的には凍結膨張率ξを0.5%以下に抑えることが可能となるのである。
【0028】
また、この本発明の凍上抑制路盤材においては、水砕スラグの粗粒率Gが3.1以上であってもよい。すなわち後に詳述するが、本発明に係る水砕スラグの特徴を、その粗粒率Gをもって規定することも可能となっている。ここで、この粗粒率Gは、JIS(日本産業規格)A1102「骨材のふるい分け試験方法」に準拠して実施されたふるい分け試験の結果とすることができる。
【0029】
さらに、この本発明の凍上抑制路盤材において、水砕スラグの細粒分含有率Fは、2.9%以下であることも好ましい。すなわち後に詳述するが、本発明に係る水砕スラグの特徴を、その細粒分含有率Fをもって規定することも可能となっている。ちなみに、細粒分含有率Fは、JIS(日本産業規格)A1223:2020に基づき測定することができる特性である。しかしながら一般に、水砕スラグにおける細粒分含有率Fは値が小さく、精度の高い絶対値を導出することは困難であり、またその測定方法も非常に労力・コストのかかるものとなっている。
【0030】
さらにより好適な他の実施形態として、本凍上抑制路盤材は、後に詳細に説明するが、
(A’)0.15mmふるい通過率P_0.15が、3.0%以下である水砕スラグと、
(B)二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al)、酸化カルシウム(CaO)、及び酸化マグネシウム(MgO)と
を含み、
(C’)敷き均し散水して固化させた際の凍結膨張率ξが0.3%未満に抑えられる
ものであることも好ましい。ここでこの実施形態において、水砕スラグの粗粒率Gは、3.2以上であるとすることも好ましく、また、水砕スラグの細粒分含有率Fは、2.3%以下であるとすることも好ましい。
【0031】
このように、路盤の凍上を促進させる細かい粒分の割合をより低減させることにより、さらに確実に凍上の発生を抑制する、具体的には凍結膨張率ξを0.3%未満に抑えることが可能となるのである。
【0032】
ちなみに、以上に述べたような高い凍上抑制性能を発揮する本凍上抑制路盤材は、その組成の好適な一実施形態として、セメントを更に含み、
(D)セメントは、水砕スラグに対する重量比として4.0~36重量%だけ含まれており、
(E)二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al)、酸化カルシウム(CaO)、及び酸化マグネシウム(MgO)は、水砕スラグに対する重量比としてそれぞれ、0.10~1.0重量%、0.05~0.50重量%、0.08~0.80重量%、及び0.01~0.12重量%だけ含まれている
ことも好ましい。なお、"x~y重量%"は、"x重量%以上であってy重量%以下"であることを表している。
【0033】
ここで上記構成(D)において、セメントが4重量%よりも少なくなると固体化の強度が不足し、一方、36重量%よりも多くなると、空隙が減少して透水性が低下し且つ高価となってしまう。また上記構成(E)において、二酸化ケイ素(SiO2)が0.10重量%よりも少なくなると、カルシウムシリケートの急速生長が望めず、一方、1.0重量%よりも多くなると空隙が減少して透水性が低下し且つ高価となる。
【0034】
さらに上記構成(E)において、酸化アルミニウム(Al)が0.05重量%よりも少なくなると急結性が発揮されず、また0.50重量%より多くなっても急結性能が低下し且つ高価となる。さらに、酸化カルシウム(CaO)が0.08重量%よりも少なくなると強度が低下し、一方、0.8重量%より多くなってもより高い強度は得られず且つ高価となる。さらにまた、酸化マグネシウム(MgO)が0.01重量%よりも少なくなると急硬性が得られず、一方、0.12重量%より多くなってもより高い急硬性は得られず且つ高価となる。
【0035】
なお、以上に説明したような上記構成(D)及び(E)の組成範囲の意味は、本願発明者等が実験によって見出したものであり、上記構成(D)及び(E)を満たす本凍上抑制路盤材は、高い透水性(高空隙性)と高い凍上抑制性とを兼ね備えた優れた路盤材となることが実験により確認されている。
【0036】
ちなみに、本凍上抑制路盤材の透水係数は典型例として、施工時に5.3×10-2cm/秒となる。このように本凍上抑制路盤材によれば、砂や礫と同程度の高い透水性を発揮することにより路盤材への水の浸透を促進させて、支持力の発現を早めることができるのである。なお施工半年後には、透水係数は典型例として、6.2×10-3cm/秒にまで低減することも確認されている。
【0037】
また、上記構成(D)及び(E)の条件を満たす下記の組成(配合比)の本凍上抑制路盤材テストピース:
・乾燥水砕スラグ(P_0.15=3.0%) 1240.0 kg/m3
・ポルトランドセメント 150.0 kg/m3(12.1重量%)
・二酸化ケイ素(SiO2) 4.4 kg/m3(0.35重量%)
・酸化アルミニウム(Al) 1.7 kg/m3(0.14重量%)
・酸化カルシウム(CaO) 3.2 kg/m3(0.26重量%)
・酸化マグネシウム(MgO) 0.7 kg/m3(0.06重量%)
(・水 180リットル)
において、一軸圧縮強さσ14、長期一軸圧縮強さσ180、及び変形係数E50を測定したところ、それぞれ1.2 MN/m2以上、2.0 MN/m2以上、及び300 MN/m2となった。すなわち、上記構成(D)及び(E)を備えた本凍上抑制路盤材は、「SI単位版 鉄道構造物等設計標準・同解説-土構造物」(2000年(平成12年)発行,財団法人鉄道総合技術研究所)に準拠した強度及び変形係数を実現することも確認されている。
【0038】
また、以上に述べたような高い凍上抑制性能を発揮する本凍上抑制路盤材として、セメントに加えてフライアッシュを更に含み、
(D’)セメント及びフライアッシュは、水砕スラグに対する重量比としてそれぞれ、2.0~18重量%及び2.0~18重量%だけ含まれており、
(E’)二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al)、酸化カルシウム(CaO)、及び酸化マグネシウム(MgO)は、水砕スラグに対する重量比としてそれぞれ、0.05~1.0重量%、0.02~0.50重量%、0.04~0.80重量%、及び0.01~0.12重量%だけ含まれている
ことも好ましい。
【0039】
ここで上記構成(D’)及び(E’)を備えた凍上抑制路盤材についても、「SI単位版 鉄道構造物等設計標準・同解説-土構造物」(2000年(平成12年)発行,財団法人鉄道総合技術研究所)に準拠した強度及び変形係数を実現し、また、高い透水性(高空隙性)を示すことが実験により確認されている。
【0040】
さらに、以上に述べたような高い凍上抑制性能を発揮する本凍上抑制路盤材として、セメントもフライアッシュも含まないものを採用することも可能である。具体的には、
(D’’)セメントもフライアッシュも含まず、
(E’’)二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al)、酸化カルシウム(CaO)、及び酸化マグネシウム(MgO)は、水砕スラグに対する重量比としてそれぞれ、1.5~13重量%、0.50~4.5重量%、1.0~8.0重量%、及び0.15~1.5重量%だけ含まれている
ことも好ましい。
【0041】
ここで上記構成(D’’)及び(E’’)を備えた凍上抑制路盤材についても、「SI単位版 鉄道構造物等設計標準・同解説-土構造物」(2000年(平成12年)発行,財団法人鉄道総合技術研究所)に準拠した強度及び変形係数を実現し、また、高い透水性(高空隙性)を示すことが実験により確認されている。
【0042】
以下、以上に述べた本凍上抑制路盤材における各成分の特徴を説明する。
【0043】
最初に水砕スラグは、高炉スラグ砕石のうち、スラグ中の硫黄を水と空気によって酸化させ化学的に安定させるエージング処理を施した水硬性粒度調整高炉スラグとすることができる。このような高炉(水砕)スラグは、長期にわたる水硬性と、支持力が経時的に増大し得る潜在水硬性とを合わせ持つものとなっている。
【0044】
また、セメントとしては、主にポルトランドセメント、高炉セメントや、早強ポルトランドセメント等を採用することができ、必要に応じて他の特殊セメントを用いてもよい。
【0045】
フライアッシュは、微粉砕した石炭を微粉炭バーナーで燃焼させたものを主成分とし、必要に応じてクリンカーアッシュを混合したものとすることができる。このようなフライアッシュは水溶性を有し、適当な加水によって長期にわたる強度の維持・増大が期待される。
【0046】
このようなセメント(やフライアッシュ)を上記の配合比で混合した本凍上抑制路盤材は、水砕スラグの潜在水硬性を非常に良好な状態で発現させるものとなっている。ここで、この潜在水硬性は、例えば上述したような適量の酸化カルシウム(CaO)等を配合して路盤内に強いアルカリ性雰囲気を形成することによって強く発揮される。
【0047】
また水砕スラグは基本的に、高炉スラグを多量の水又は空気によって急冷したものであり、それ故ガラス質の粒状を呈している。このガラス質の粒状構造においては、分子が動き回っていた高温での状態がそのままクエンチして常温下に持ち込まれているため、非常に不安定であって化学的な反応性に富んだ状態が発現している。水砕スラグは、それ故、アルカリ性物質の共存の下、加水することによって硬化させることが可能となっているのである。
【0048】
より具体的に、水砕スラグの硬化は、ガラス質の粒状構造を形成する四酸化珪素(SiO)の四面体ネットワークを切断することによって実現する。このネットワークの切断が一旦生じると、酸化カルシウム(CaO)や酸化マグネシウム(MgO)等のアルカリ性物質が水砕スラグから溶出し、その雰囲気がアルカリ性に保たれる。その結果、このネットワークの切断が維持・促進されて、ガラス質の水への溶解が進行し、溶出した酸化カルシウム(CaO)、二酸化珪素二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al)等によりセメントと同様な硬化現象が生じるのである。
【0049】
[細粒分含有率と凍結膨張率の関係]
図1は、細粒分含有土における細粒分含有率Fと凍結膨張率ξとの関係を示すグラフである。
【0050】
図1には、細粒分含有率Fが様々な値となっている多数の細粒分含有土について、凍結膨張率ξを測定した結果が示されている。ここで細粒分含有土は、その粒度に係る特性の調整が比較的容易であり、水砕スラグを含む路盤材における粒度に係る特性を推定するのによく使用される材料となっている。また、細粒分含有率Fは、JIS A1223:2020に基づき測定され、一方、凍結膨張率ξは、JGS 0172-2020に準拠した凍上性試験を行って測定された。
【0051】
図1に示したように、凍結膨張率ξ及びその値のばらつきは、細粒分含有率Fが小さくなるほど小さくなる傾向を示している。この結果は、同じ路盤材を用いても現場によって凍上の程度が大きくばらつく傾向にあることを説明するものとなっており、また、路盤材に含まれる水砕スラグの細粒分含有率Fをより小さく抑えることによって、そのばらつきも含め凍上を抑制することが可能となることを示唆する結果となっている。
【0052】
ここで、各細粒分含有率Fの試料における凍結膨張率ξの最大値(以下、上限凍結膨張率ξUと略称)は、図1の測定結果に近似曲線のフィッティング処理を行うことにより、次式
(1) ξU=0.10×F1.5
をもって算出されることが分かった。
【0053】
なお、上式(1)による上限凍結膨張率ξUの値は、後に図4~7を用いて詳細に説明する、本発明による凍上抑制路盤材における凍結膨張率ξの測定結果(実施例)と概ね合致するものとなっている。具体的にこの実施例では、後に詳述するように、細粒分含有率Fが2.3%である本凍上抑制路盤材における凍結完了時の凍結膨張率ξは、わずかではあるが0.04~0.22%の範囲でばらつく結果が得られている。これに対し上式(1)によれば、上限凍結膨張率ξUは約0.3(=0.10×2.31.5)%となり、上記の本実施例の結果と概ね合致するのである。
【0054】
上式(1)によれば、上述した「凍結膨張率ξを、ばらつきなく確実に0.5%以下に抑える」目標を達成するためには、細粒分含有率Fを、2.9%以下に抑える必要のあることが理解される。
【0055】
しかしながら上述したように、一般に水砕スラグにおける細粒分含有率Fは値が小さく、精度の高い絶対値を導出することは困難であり、またその測定方法も非常に労力・コストのかかるものとなっている。そこで以下、この細粒分含有率Fと、比較的高い精度の測定が容易な0.15mmふるい通過率P_0.15との関係を求め、0.15mmふるい通過率P_0.15を規定・制御することによって、凍結膨張率ξが確実に抑制可能となることを説明する。
【0056】
[細粒分含有率と0.15mmふるい通過率の関係]
図2は、水砕スラグにおける細粒分含有率Fと0.15mmふるい通過率P_0.15との関係を説明するためのグラフである。
【0057】
具体的にここでは、水砕スラグを含む路盤材に対し、JIS A1102に準拠して実施されたふるい分け試験の結果から、目開き0.075mmのふるいにおける通過率を推測し、この値を細粒分含有率Fに相当するとして、細粒分含有率Fと0.15mmふるい通過率P_0.15との関係を決定した。
【0058】
ちなみに、目開き0.075mmのふるいにおける通過率を、細粒分含有率Fに相当するものとする根拠としては、例えば特開2012-220229号公報に記載された細粒分含有率の測定方法が挙げられる。この特許文献は、現場において発生土の細粒分含有率Fcを簡易に測定する方法として、測定式:Fc(%)=(Ms-Mss)/Ms×100(ここで、Msは発生土の土粒子質量であり、Mssは当該発生土から得られた粗粒土の土粒子質量)を用いた測定方法を開示している。この提案された測定方法を鑑みれば、(粒径が0.075mm未満の粒分と規定される)細粒分の含有率は、0.075mmのふるいを通過した粒分の質量比、すなわち0.075mmふるい通過率として概ね把握可能であることが理解される。
【0059】
図2(A)に、互いに異なるふるい通過率を示す3種類の水砕スラグにおける、ふるい目開きとふるい通過率Pとの関係を示す。ここで、各水砕スラグにおける0.15mm、0.3mm及び0.6mmのふるい通過率は、JIS A1102に準拠して実施されたふるい分け試験の結果である。また、図2(A)のグラフの縦軸は対数軸となっている。
【0060】
図2(A)のグラフによれば、各水砕スラグにおいて、ふるい通過率Pの対数はふるい目開きの一次関数となっている。したがって、各水砕スラグについての各近似直線(y=3.90e4.10x,y=1.59e4.64x,y=0.41e6.36x)から、各水砕スラグにおける目開き0.075mmのふるいの通過率(5.3%,2.3%,0.66%)が決定されるのである。以下、この決定された目開き0.075mmのふるいの通過率を細粒分含有率Fとみなして説明を行う。
【0061】
図2(B)には、これら水砕スラグにおける、上記のように決定された細粒分含有率Fと、0.15mmふるい通過率P_0.15との関係が示されている。この図2(B)のグラフによれば、水砕スラグにおいて0.15mmふるい通過率P_0.15は、細粒分含有率Fに(近似式:y=1.32xをもって)比例している。したがって、水砕スラグの細粒分含有率Fは、0.15mmふるい通過率P_0.15をもって読み替え可能であることが理解される。例えば、上述した細粒分含有率Fが2.9%の水砕スラグにおける0.15mmふるい通過率P_0.15は、3.8(=1.32×2.9)%とすることができるのである。
【0062】
これにより、上述した「凍結膨張率ξを、ばらつきなく確実に0.5%以下に抑える」目標を達成するためには、細粒分含有率Fを2.9%以下に抑えることに代えて、0.15mmふるい通過率P_0.15を3.8%以下にすればよいことが結論される。
【0063】
ちなみに、凍結膨張率ξにして1%を超えるような凍上現象の発生が確認されている現場で用いられた公知の路盤材における、0.15mmふるい通過率P_0.15は、5%を超えており例えば7.0%であった。この場合、その細粒分含有率Fは約5.3(=7/1.32)%となり、図1に示した上限凍結膨張率ξuは、約1.2%であって、凍結膨張率ξは必ずしも目標の0.5%以下とはならず、1%を超えるばらつきを示すことになる。これは、凍結膨張率ξにして1%を超えるような凍上現象の発生するケースが確認されている事実と概ね合致する結果となっているのである。
【0064】
[0.15mmふるい通過率と粗粒率の関係]
図3は、水砕スラグにおける0.15mmふるい通過率P_0.15と粗粒率Gとの関係を示すグラフである。
【0065】
図3に、互いに異なる0.15mmふるい通過率P_0.15を示す3種類の水砕スラグにおける、0.15mmふるい通過率P_0.15と粗粒率Gとの関係を示す。ここで、各水砕スラグにおける0.15mmふるい通過率P_0.15及び粗粒率Gは、JIS A1102に準拠して実施されたふるい分け試験の結果となっている。
【0066】
図3のグラフによれば、これらの水砕スラグにおいて、粗粒率Gは、0.15mmふるい通過率P_0.15の単調減少関数としてふるまい、同図に示した近似曲線(y=-0.014x2-0.045x+3.46)を用いて0.15mmふるい通過率P_0.15から算出される値となっている。すなわち、水砕スラグの(細粒分含有率Fや)0.15mmふるい通過率P_0.15は、粗粒率Gをもって読み替え可能であることが理解される。例えば、上述した0.15mmふるい通過率P_0.15が3.8%の水砕スラグにおける粗粒率Gは、3.1(=-0.014×3.82-0.045×3.8+3.46)とすることができるのである。
【0067】
したがって、上述した「凍結膨張率ξを、ばらつきなく確実に0.5%以下に抑える」目標を達成するためには、0.15mmふるい通過率P_0.15を3.8%以下に(細粒分含有率Fを2.9%以下に)抑えることに代えて、粗粒率Gを3.1以上にすればよいことが結論される。
【0068】
[実施例:凍上性試験結果]
図4図5及び図6は、本発明による凍上抑制路盤材において凍結膨張率ξを測定した実施例を説明するためのグラフである。ここで、図4図5及び図6のグラフはそれぞれ、試料(凍上抑制路盤材)の含水比Wが9.7%、12.9%及び16.1%の場合における凍上量・吸排水量の時間変化を示すグラフとなっている。また、図7は、本実施例の測定条件・測定結果をまとめたテーブルである。
【0069】
本実施例においては、その強度・変形係数が所定基準を満たすことをすでに説明した、下記の組成(配合比)の本凍上抑制路盤材:
・乾燥水砕スラグ 1240.0 kg/m3
・ポルトランドセメント 150.0 kg/m3(12.1重量%)
・二酸化ケイ素(SiO2) 4.4 kg/m3(0.35重量%)
・酸化アルミニウム(Al) 1.7 kg/m3(0.14重量%)
・酸化カルシウム(CaO) 3.2 kg/m3(0.26重量%)
・酸化マグネシウム(MgO) 0.7 kg/m3(0.06重量%)
を用いて、3つの供試体を作製し、JGS 0172-2020「凍上性判定のための土の凍上試験方法」に準拠した凍上性試験を実施した。
【0070】
ここで、上記の乾燥水砕スラグにおける0.15mmふるい通過率P_0.15及び粗粒率Gは、測定の結果、それぞれ3.0及び3.2であった。この両者(P_0.15及びG)の値は、図3のグラフで示された両者の対応関係にも合致するものとなっている。さらに、本乾燥水砕スラグにおける細粒分含有率Fは、図2(B)に示した(FとP_0.15の関係を示す)グラフによれば、2.3%であることが理解される。
【0071】
また上記の3つの供試体は、上記配合比の乾燥状態にある本凍上抑制路盤材に対し、それぞれ含水比Wが9.7%、12.9%及び16.1%となるように加水を行って攪拌混合し、径100mm及び高さ50mmのモールドに充填した上で、所定の加重(2.5kgランマーによる高さ30cmからの落下打撃を2回)をもって1層締固め(緩詰)を行い、14日間の気中養生を実施したものであった。
【0072】
ここで、含水比W=12.9%は、実際の施工における標準的な値であり、一方、含水比W=9.7%及び16.1%は、この標準値(12.9%)のそれぞれ75%及び125%の値となっている。このように本実施例は、含水比(施工時における散水量)の違いによる凍結膨張率ξのばらつきが生じるか否かを確認するものともなっているのである。
【0073】
また、これら3つの供試体(含水比W=9.7%,12.9%,16.1%)における土粒子の密度ρsはそれぞれ、2.76g/cm、2.74g/cm及び2.74g/cmであり、概ね一定していたが、14日間の気中養生後の乾燥密度ρdはそれぞれ、1.69g/cm、1.67g/cm及び1.73g/cmとなった。このことから、供試体(含水比W=16.1%)は、作製時の含水量が最も多かったことに起因して材料がよく締まって固化反応が促進され、間隙が他の供試体よりも少なくなったことが見てとれる。実際、この供試体(含水比W=16.1%)における飽和過程での通水量や、飽和後の間隙比・飽和度は、より小さな値となることが確認されている。
【0074】
また具体的に、本実施例の凍上性試験においては、凍上性試験装置にセットされた供試体に対し、軸載荷応力(垂直拘束応力)として10kN/m2を印加し、その応力印加状態のまま通水飽和により供試体の飽和度を十分に高めた上で、凍上量ΔH及び吸排水量ΔVを計測した。また、氷核を形成するべく供試体にサーマルショックを与え、氷晶の確認後に一度冷却盤の温度を0℃付近へ戻し、その後上部の主冷却盤により、温度降下速度-0.10℃/hをもって再度、温度を低下させ、供試体の凍結処理を行った。
【0075】
ここで、供試体の凍結完了は排水量の収束(吸排水量ΔVの一定化)によって確認された。またその後、上部の主冷却盤の温度を-10℃、下部の冷却盤の温度を0℃に設定・制御して、二次膨張量(凍上量)の発現する基準状態(以下、基準化時とも略称)とした。この二次膨張量(凍上量)は、(一般に、凍結完了時の上部の主冷却盤における温度が供試体によって異なるので)上記のように温度を揃えることによって凍土中に存在する不透水の相変化による凍上量への影響を基準化(一定化)する目的で計測される量である。なお、上部の主冷却盤に接する供試体の上面は、施工時における外気側の路盤上端面に相当し、一方、下部の冷却盤に接する供試体の下面は、施工時における地面側の路盤下端面に相当する。
【0076】
さらにその後、上下部の冷却盤の温度を10℃に設定・制御して、供試体の解凍を開始し、解凍過程における凍上量ΔH及び吸排水量ΔVを計測した。
【0077】
図4図5及び図6のグラフ並びに図7のテーブルによれば、これら3つの供試体(含水比W=9.7%、12.9%及び16.1%)における凍結完了時(図4~6の各グラフにおける「A」位置)の凍上量ΔHfはそれぞれ、0.04mm、0.12mm及び0.02mmであって、その結果、凍結完了時の凍結膨張率ξ'(=ΔHf/H0×100)は、
<凍結完了時>
供試体(含水比W=9.7%)では、ξ'=0.07(=0.04/55.5×100)%
供試体(含水比W=12.9%)では、ξ'=0.22(=0.12/54.5×100)%
供試体(含水比W=16.1%)では、ξ'=0.04(=0.02/51.0×100)%
となっている。
【0078】
また、基準化時(二次膨張量の発現時,主冷却盤の温度:-10℃,図4~6の各グラフにおける「B」~「C」位置)の凍上量ΔHsはそれぞれ、0.00mm、0.01mm及び0.00mmであってほとんど凍上が観測されず、その結果、基準化時の凍結膨張率ξs(=ΔHs/H0×100)は、
<基準化時>
供試体(含水比W=9.7%)では、ξs=0.00(=0.00/55.5×100)%
供試体(含水比W=12.9%)では、ξs=0.02(=0.01/54.5×100)%
供試体(含水比W=16.1%)では、ξs=0.00(=0.00/51.0×100)%
となり、いずれの供試体においても凍上はほとんど生じていないことが理解される。
【0079】
ここで、供試体(含水比W=12.9%)は、他と比較して若干大きめの凍結膨張率ξ'及びξsを示しているが、これは、作製時の含水比に依存して発現した供試体内部の物理状態に起因した凍結速度Uの違い等によるものと考えられる。ちなみにこれら3つの供試体(含水比W=9.7%、12.9%及び16.1%)における凍結速度Uはそれぞれ、1.64mm/時、1.96mm/時及び0.62mm/時であった。
【0080】
さらに、これら3つの供試体(含水比W=9.7%,12.9%,16.1%)における、解凍開始時(図4~6の各グラフにおける「C」位置)から十分な時間が経過した時点である解凍沈下完了時の解凍沈下量ΔHtはそれぞれ、0.01mm、-0.02mm及び0.05mmであって、大きな収縮(沈下)は観測されなかった。
【0081】
またこのような解凍過程における排水現象について、これら3つの供試体(含水比W=9.7%,12.9%,16.1%)の排水量(-ΔV)は、解凍開始時(「C」位置)から長期にわたり増加を続け、特に、2つの供試体(含水比W=9.7%,12.9%)の排水量(-ΔV)は、それぞれ図4及び5に示すように、最後まで収束(一定化)する挙動を示さなかった。ただしこれは、解凍過程で供試体そのものが大きく変化した結果ではなく、あくまでも供試体の飽和過程において供試体に吸収された含水が解凍とともに排出された結果であると考えられる。実際、解凍完了後の解凍沈下率ξt(=ΔHt/H0×100)は、-0.04~0.10%であって、解凍による供試体の変化は極わずかであった。
【0082】
以上、本実施例によれば、本凍上抑制路盤材は、上述したような凍結・解凍過程において、高い透水性を有するが故に吸排水量ΔVの大きな変化を示しはするが、その凍上量ΔH及び凍結膨張率ξは、含水量(含水比)を変えた作製条件の影響をほとんど受けず、極めて小さい値となっていることが分かる。
【0083】
具体的には、0.15mmふるい通過率P_0.15が3.0%(若しくはそれ以下)、又は粗粒率Gが3.2(若しくはそれ以上)である本凍上抑制路盤材において、実際の施工時における本凍上抑制路盤材を敷き均した上での散水の程度として、本凍上抑制路盤材の含水比が9.7~16.1%の範囲でばらついたとしても、その凍結膨張率ξは、
(a)凍結完了時では、0.3%未満に抑えられ(本実施例ではξ'=0.04~0.22%)、
(b)外気側の上端面の温度よりも地面側の下端面の温度が10℃低い基準化時では、0.1%未満に抑えられる(本実施例ではξs=0.00~0.02%)
ことが理解される。
【0084】
[凍上抑制路盤形成方法]
以下、本発明による凍上抑制路盤形成方法における2つの実施形態の概略を説明する。
<第1実施形態>
(ステップ1)0.15mmふるい通過率P_0.15が3.8%以下である水砕スラグに対し、セメントを4.0重量%以上であって36重量%以下だけ加えて混合し、さらに、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al)、酸化カルシウム(CaO)、及び酸化マグネシウム(MgO)をそれぞれ、0.10重量%以上であって1.0重量%以下、0.05重量%以上であって0.50重量%以下、0.08重量%以上であって0.80重量%以下、及び0.01重量%以上であって0.12重量%以下だけ加えて混合して、本発明に係る凍上抑制路盤材を生成し、
(ステップ2)生成した凍上抑制路盤材を所定の高さに敷き均し、敷き均した凍上抑制路盤材に対し適量の水をもって散水してこの路盤材を固化させ、また必要ならばこの路盤材の上部を軽く転圧して、その凍上が凍結膨張率ξにして0.5%以下に抑えられた路盤を形成する。
【0085】
<第2実施形態>
(ステップ1)0.15mmふるい通過率P_0.15が3.0%以下である水砕スラグに対し、セメントを4.0重量%以上であって36重量%以下だけ加えて混合し、さらに、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al)、酸化カルシウム(CaO)、及び酸化マグネシウム(MgO)をそれぞれ、0.10重量%以上であって1.0重量%以下、0.05重量%以上であって0.50重量%以下、0.08重量%以上であって0.80重量%以下、及び0.01重量%以上であって0.12重量%以下だけ加えて混合して、本発明に係る凍上抑制路盤材を生成し、
(ステップ2)生成した凍上抑制路盤材を所定の高さに敷き均し、敷き均した凍上抑制路盤材に対し適量の水をもって散水してこの路盤材を固化させ、また必要ならばこの路盤材の上部を軽く転圧して、その凍上が凍結膨張率ξにして0.3%未満に抑えられた路盤を形成する。
【0086】
このように、以上に述べた実施形態によれば、生成した凍上抑制路盤材を敷き均し、散水して固化させ、また軽く転圧するといった簡便且つ短時間の作業をもって、凍結膨張率ξの極めて小さい、高強度・高透水性の路盤を形成することができる。したがって、例えば寒冷地の冬期においても、凍上の抑制された好適な路盤が形成可能となるのである。また、すでに敷き均されている路盤部分を除去し、本凍上抑制路盤材を、その上において定められた高さに敷き均し、以下上記と同様にして路盤を置き換えることも容易に実施可能となる。
【0087】
以上、詳細に説明したように、本発明の高空隙路盤材及び半剛性路盤工法によれば、水砕スラグの0.15mmふるい通過率P_0.15を、少なくとも3.8%以下に抑えることにより、凍上を促進させる細かい粒分の割合を低減させて、凍上現象の発生をより確実に抑制することができ、具体的には凍結膨張率ξを少なくとも0.5%以下に抑えることが可能となるのである。
【0088】
また、上述したような凍上発生の抑制された路盤を形成することによって、例えば、鉄道路盤においては、乗り心地の向上や保守作業の軽減等、道路路盤においては、走行性の向上や保守作業の軽減等、さらに歩道、公園や運動施設の路盤においては、歩行性や運動性の向上等を実現することも可能となるのである。
【0089】
なお、以上に述べた実施形態は全て、本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は、他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って、本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7