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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050755
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】鍵盤楽器の鍵盤装置
(51)【国際特許分類】
   G10B 3/12 20060101AFI20230404BHJP
   G10H 1/34 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
G10B3/12 130
G10H1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161027
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】山口 勉
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478BD01
5D478BD05
(57)【要約】
【課題】押鍵に連動して回動するハンマーの回動角度を、鍵の種類に応じて異なるように設定することにより、押鍵時のタッチ重さを調整できるとともに、グランドピアノの鍵盤と同様の鍵動作を得ることができる鍵盤楽器の鍵盤装置を提供する。
【解決手段】鍵盤シャーシ4と、鍵盤シャーシ4の上部に配置された複数の鍵2と、複数の鍵2にそれぞれ対応して設けられ、鍵2の下方において鍵盤シャーシ4にハンマー支軸18aを介して回動自在に支持され、押鍵された鍵2に連動して回動する複数のハンマー31と、を備え、複数の鍵2のうちの所定の第1の鍵2に対応し、複数のハンマー31のうちの所定の第1のハンマー31と、複数の鍵2のうちの所定の第2の鍵2に対応し、複数のハンマー31のうちの所定の第2のハンマー31は、押鍵に伴う回動角度が互いに異なるように設定されている。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤シャーシと、
各々が前後方向に延び、前記鍵盤シャーシの上部に、左右方向に並んだ状態に配置された複数の鍵と、
各々が前後方向に延びるとともに、前記複数の鍵にそれぞれ対応して設けられ、前記鍵の下方において前記鍵盤シャーシにハンマー支軸を介して回動自在に支持されるとともに左右方向に並んだ状態に配置され、押鍵された鍵に連動して回動する複数のハンマーと、
を備え、
前記複数の鍵のうちの所定の第1の鍵に対応し、前記複数のハンマーのうちの所定の第1のハンマーと、前記複数の鍵のうちの所定の第2の鍵に対応し、前記複数のハンマーのうちの所定の第2のハンマーは、押鍵に伴う回動角度が互いに異なるように設定されていることを特徴とする鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項2】
前記鍵及び当該鍵に対応するハンマーは、互いに係合する鍵側係合部及びハンマー側係合部をそれぞれ備えており、
前記鍵側係合部及び前記ハンマー側係合部の一方は、前後方向に延びる係合凹部を有し、
前記鍵側係合部及び前記ハンマー側係合部の他方は、左右方向に延びるとともに前記係合凹部に回動自在にかつスライド自在に係合する係合軸を有しており、
離鍵状態において、前記第1の鍵又はハンマーの前記係合凹部における延び方向の傾きと、前記第2の鍵又はハンマーの前記係合凹部における延び方向の傾きが、互いに異なるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項3】
各々が前後方向に延びるとともに、前記複数の鍵にそれぞれ対応して左右方向に並んだ状態に配置され、前記鍵と前記ハンマーの間において前記鍵盤シャーシにアーム支軸を介して回動自在に支持されるとともに、前端部が前記ハンマーの所定部位に回動自在にかつスライド自在に連結し、後端部が前記鍵の後端部に回動自在に連結し、押鍵された鍵に連動して回動する複数の連結アームを、さらに備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項4】
各々が前後方向に延びるとともに、前記複数の鍵にそれぞれ対応して左右方向に並んだ状態に配置され、前記鍵と前記ハンマーの間において前記鍵盤シャーシにアーム支軸を介して回動自在に支持されるとともに、前端部が前記ハンマーの所定部位に回動自在にかつスライド自在に連結し、後端部が前記鍵の後端部に回動自在に連結し、押鍵された鍵に連動して回動する複数の連結アームを、さらに備えており、
前記第1の鍵に対応し、前記複数の連結アームのうちの所定の第1の連結アームを支持する第1のアーム支軸と、前記第2の鍵に対応し、前記複数の連結アームのうちの所定の第2の連結アームを支持する第2のアーム支軸は、互いに所定方向に所定長さ分、ずれた状態で設けられていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項5】
前記第1のハンマーを支持する第1のハンマー支軸と、前記第2のハンマーを支持する第2のハンマー支軸は、互いに所定方向に所定長さ分、ずれた状態で設けられていることを特徴とする請求項4に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項6】
前記第1のハンマーは、押鍵に伴う回動角度が前記第2のハンマーのそれよりも大きくなるように設定されており、
前記第1の鍵は、黒鍵として設定され、
前記第2の鍵は、白鍵として設定されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項7】
前記第1のハンマーは、押鍵に伴う回動角度が前記第2のハンマーのそれよりも大きくなるように設定されており、
前記第1の鍵は、鍵盤装置における低音域の鍵として設定され、
前記第2の鍵は、鍵盤装置における高音域の鍵として設定されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ピアノなどの鍵盤楽器に適用され、鍵の押鍵に連動して回動するハンマーを備えた鍵盤楽器の鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の鍵盤装置として、例えば本出願人がすでに出願した特許文献1の鍵盤装置が知られている。この鍵盤装置は、各々が前後方向に延び、互いに左右方向に並んだ状態に配置された複数の鍵と、これらの鍵を下方から支持し、タッチ重さ(鍵を押し下げる際に指先に感じる重さ)を付与するための重り(ハンマー)を有する複数のリンク機構とを備えている。各リンク機構は、それぞれ前後方向に所定長さ延び、前端部が鍵の前部に回動自在に連結された前側連結リンクバーと、後端部が鍵の後端部に回動自在に連結された後側連結リンクバーと、前側連結リンクバーの後端部から後方に延びるように取り付けられた前記重りとを有している。上記の各連結リンクバーは、長さ方向の中央付近に設けられた支持ピンを介して回動自在に支持されており、また、前側連結リンクバーの後端部と後側連結リンクバーの前端部が、互いに回動自在にかつスライド自在に連結されている。また、重りは、前側連結リンクバーの後部から水平にかつ後方に所定長さ延びるアームと、このアームの後端部に固定された重り本体とで構成されている。
【0003】
上記のように構成された鍵盤装置では、鍵の前端部が押し下げられると、リンク機構の各連結リンクバーが支持ピンを中心として所定方向に回動するとともに、水平な重りのアームが後ろ上がりに傾斜する。この場合、前側連結リンクバーの後部に重りの自重が作用することにより、鍵がリンク機構で下方から強く支持され、それにより、鍵の押下げの際には、その押下げに対する反力としてのタッチ重さが大きくなる。そして、鍵の前端部が最下位まで押し下げられた際には、鍵の後端部が前端部の約1/2の距離分、下方に位置する。これにより、鍵は、それ自体の長さと同程度、後方に位置する仮想支点を中心として回動するように動作し、その結果、鍵の長さを、アコースティックのグランドピアノのそれに比べて短く構成しながら、グランドピアノの鍵盤と同様の鍵動作が得られるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-52391号公報(図3図5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の鍵盤装置では、押鍵に伴う重りの動作が一定であり、そのため、全ての鍵のタッチ重さが一定になってしまう。通常、アコースティックのグランドピアノの鍵盤では、低音域の鍵のタッチ重さは重く、高音域の鍵のタッチ重さは軽くなっている。しかし、上記の鍵盤装置を電子ピアノに適用した場合には、その電子ピアノの全ての鍵のタッチ重さが同じになり、グランドピアノの鍵盤と同様のタッチ重さを有する鍵盤装置を得ることができない。
【0006】
また、上記の特許文献1には、白鍵を支持するリンク機構しか記載されておらず、そのリンク機構をそのまま黒鍵に適用するのは困難である。もちろん、黒鍵に対応するリンク機構を作製することは可能であるものの、白鍵と黒鍵で異なるリンク機構を作製する場合には、その分、製造コストが上昇してしまう。さらに、通常、アコースティックのグランドピアノの鍵盤では、黒鍵の回動支点は白鍵のそれよりも後方に位置している。上記のリンク機構を適用した鍵盤装置において、白鍵及び黒鍵の仮想支点の位置が同じである場合には、グランドピアノと同様の鍵動作を得ることができないことがある。したがって、上記の鍵盤装置には、改善の余地がある。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、押鍵に連動して回動するハンマーの回動角度を、鍵の種類に応じて異なるように設定することにより、押鍵時のタッチ重さを調整できるとともに、グランドピアノの鍵盤と同様の鍵動作を得ることができる鍵盤楽器の鍵盤装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、鍵盤シャーシと、各々が前後方向に延び、鍵盤シャーシの上部に、左右方向に並んだ状態に配置された複数の鍵と、各々が前後方向に延びるとともに、複数の鍵にそれぞれ対応して設けられ、鍵の下方において鍵盤シャーシにハンマー支軸を介して回動自在に支持されるとともに左右方向に並んだ状態に配置され、押鍵された鍵に連動して回動する複数のハンマーと、を備え、複数の鍵のうちの所定の第1の鍵に対応し、複数のハンマーのうちの所定の第1のハンマーと、複数の鍵のうちの所定の第2の鍵に対応し、複数のハンマーのうちの所定の第2のハンマーは、押鍵に伴う回動角度が互いに異なるように設定されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、複数の鍵のうちの所定の第1の鍵に対応する所定の第1のハンマーと、複数の鍵のうちの所定の第2の鍵に対応する所定の第2のハンマーは、押鍵に伴う回動角度が互いに異なるように設定されている。例えば、押鍵に伴う第1のハンマーの回動角度が、第2のハンマーのそれに比べて大きく設定されている場合には、第1の鍵のタッチ重さが、第2の鍵のそれに比べて重くなる。したがって、上記の場合、第1の鍵及びハンマーを低音域の鍵及びハンマーに適用し、第2の鍵及びハンマーを高音域の鍵及びハンマーに適用することにより、低音域の鍵のタッチ重さを重くするとともに、高音域の鍵のタッチ重さを軽くすることができる。
【0010】
また、各鍵が、その後端よりも後方に位置する仮想支点を中心として回動する鍵盤装置では、押鍵に伴うハンマーの回動角度が大きく設定されることにより、対応する鍵の仮想支点の位置を、より後ろ側に、すなわち、鍵の後端から仮想支点までの長さ(以下、適宜「仮想支点長」という)を、より長くすることができる。例えば、押鍵に伴う第1のハンマーの回動角度が、第2のハンマーのそれに比べて大きく設定されている場合には、第1の鍵の仮想支点長を、第2の鍵のそれに比べて長くすることができる。したがって、上記の場合、第1の鍵及びハンマーを黒鍵及びそのハンマーに適用し、第2鍵及びそのハンマーを白鍵及びそのハンマーに適用することにより、黒鍵の仮想支点長を白鍵のそれに比べて長くすることができる。
【0011】
以上のように、本発明の鍵盤装置によれば、押鍵に連動して回動するハンマーの回動角度を、鍵の種類に応じて異なるように設定することにより、押鍵時のタッチ重さや仮想支点長を鍵の種類に応じて調整することができ、その結果、グランドピアノと同様の鍵動作を得ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、鍵及び鍵に対応するハンマーは、互いに係合する鍵側係合部及びハンマー側係合部をそれぞれ備えており、鍵側係合部及びハンマー側係合部の一方は、前後方向に延びる係合凹部を有し、鍵側係合部及びハンマー側係合部の他方は、左右方向に延びるとともに係合凹部に回動自在にかつスライド自在に係合する係合軸を有しており、離鍵状態において、第1の鍵又はハンマーの係合凹部における延び方向の傾きと、第2の鍵又はハンマーの係合凹部における延び方向の傾きが、互いに異なるように設定されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、鍵及びそれに対応するハンマーはそれぞれ、互いに係合する鍵側係合部及びハンマー側係合部を備えている。また、鍵側係合部及びハンマー側係合部の一方は、前後方向に延びる係合凹部を有し、鍵側係合部及びハンマー側係合部の他方は、係合凹部に係合する係合軸を有している。そして、第1の鍵又はハンマーの係合凹部と、第2の鍵又はハンマーの係合凹部の延び方向の傾きが、互いに異なるように設定されている。後述するように、鍵の種類に応じて、係合凹部の延び方向の傾きを異なるように設定することにより、鍵の種類ごとに、押鍵に連動して回動するハンマーの回動角度を容易に調整することができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、各々が前後方向に延びるとともに、複数の鍵にそれぞれ対応して左右方向に並んだ状態に配置され、鍵とハンマーの間において鍵盤シャーシにアーム支軸を介して回動自在に支持されるとともに、前端部がハンマーの所定部位に回動自在にかつスライド自在に連結し、後端部が鍵の後端部に回動自在に連結し、押鍵された鍵に連動して回動する複数の連結アームを、さらに備えていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、前後方向に延びる連結アームが、鍵盤シャーシにアーム支軸を介して回動自在に連結されている。また、連結アームの前端部が、ハンマーの所定部位に回動自在にかつスライド自在に連結し、連結アームの後端部が鍵の後端部に回動自在に連結している。このような連結アームが、鍵とハンマーの間に設けられ、押鍵に連動して回動することにより、仮想支点を中心として回動する鍵を備えた鍵盤装置を、容易に得ることができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、各々が前後方向に延びるとともに、複数の鍵にそれぞれ対応して左右方向に並んだ状態に配置され、鍵とハンマーの間において鍵盤シャーシにアーム支軸を介して回動自在に支持されるとともに、前端部がハンマーの所定部位に回動自在にかつスライド自在に連結し、後端部が鍵の後端部に回動自在に連結し、押鍵された鍵に連動して回動する複数の連結アームを、さらに備えており、第1の鍵に対応し、複数の連結アームのうちの所定の第1の連結アームを支持する第1のアーム支軸と、第2の鍵に対応し、複数の連結アームのうちの所定の第2の連結アームを支持する第2のアーム支軸は、互いに所定方向に所定長さ分、ずれた状態で設けられていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、前述した請求項3と同様の複数の連結アームを備えており、第1の鍵に対応する第1の連結アームを支持する第1のアーム支軸と、第2の鍵に対応する第2の連結アームを支持する第2のアーム支軸が、互いに所定方向に所定長さ分、ずれた状態で設けられている。これにより、押鍵に連動して回動する第1及び第2の連結アームの回動角度が異なり、それに伴い、押鍵に伴う第1の連結アームに連結された第1のハンマーと、第2の連結アームに連結された第2のハンマーの回動角度も異なる。このように、仮想支点を中心として回動する鍵を備えた鍵盤装置において、第1及び第2のアーム支軸を互いに異なる位置に設けることにより、鍵の種類ごとに、押鍵に連動して回動するハンマーの回動角度を容易に調整することができる。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、第1のハンマーを支持する第1のハンマー支軸と、第2のハンマーを支持する第2のハンマー支軸は、互いに所定方向に所定長さ分、ずれた状態で設けられていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、第1のハンマーを支持する第1のハンマー支軸と、第2のハンマーを支持する第2のハンマー支軸が互いに所定方向に所定長さ分、ずれた状態で設けられている。これにより、押鍵に伴う第1のハンマーと、第2のハンマーの回動角度が異なり、上記請求項4と相まって、鍵の種類ごとのハンマーの回動角度の差を、大きくすることができる。
【0020】
請求項6に係る発明は、請求項1から5のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、第1のハンマーは、押鍵に伴う回動角度が第2のハンマーのそれよりも大きくなるように設定されており、第1の鍵は、黒鍵として設定され、第2の鍵は、白鍵として設定されることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、押鍵に伴う第1のハンマーの回動角度が第2のハンマーのそれよりも大きくなるように設定されている。これにより、各鍵が、その後端よりも後方に位置する仮想支点を中心として回動する鍵盤装置では、第1のハンマーに対応する第1の鍵の仮想支点長が、第2のハンマーに対応する第2の鍵のそれに比べて長くなる。したがって、第1の鍵を黒鍵とし、第2の鍵を白鍵として設定することにより、黒鍵の仮想支点長を白鍵のそれよりも長くすることができ、その結果、黒鍵と白鍵の仮想支点長の関係を、グランドピアノの鍵盤と同様にすることができる。
【0022】
請求項7に係る発明は、請求項1から5のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、第1のハンマーは、押鍵に伴う回動角度が第2のハンマーのそれよりも大きくなるように設定されており、第1の鍵は、鍵盤装置における低音域の鍵として設定され、第2の鍵は、鍵盤装置における高音域の鍵として設定されることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、上述した請求項6と同様、押鍵に伴う第1のハンマーの回動角度が第2のハンマーのそれよりも大きくなるように設定され、それにより、第1のハンマーに対応する第1の鍵のタッチ重さが、第2のハンマーに対応する第2の鍵のそれに比べて重くなる。したがって、第1の鍵を鍵盤装置における低音域の鍵とし、第2の鍵を鍵盤装置における高音域の鍵として設定することにより、低音域の鍵のタッチ重さを高音域の鍵のそれに比べて重くすることができ、その結果、低音域と高音域の鍵のタッチ重さの関係を、グランドピアノの鍵盤と同様にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明を適用した電子ピアノの鍵盤装置の一部(1オクターブ分)を示す斜視図であり、(a)は鍵盤装置の外観を示し、(b)は左端の白鍵及び黒鍵以外の鍵を省略した状態を示す。
図2図1(b)に示す鍵盤装置において、白鍵及び黒鍵を、それぞれの鍵支持機構とともに、鍵盤シャーシから取り外した状態を示す斜視図である。
図3】(a)は図1(b)に示す鍵盤装置の平面図、(b)はA-A線に沿う断面図である。
図4】白鍵及び鍵支持機構を示す斜視図であり、(a)は白鍵と鍵支持機構が連結された状態、(b)は白鍵と鍵支持機構が分解された状態を示す。
図5】黒鍵及び鍵支持機構を示す斜視図であり、(a)は黒鍵と鍵支持機構が連結された状態、(b)は黒鍵と鍵支持機構が分解された状態を示す。
図6】鍵盤装置における白鍵の動作を説明するための図であり、(a)は離鍵状態を示し、(b)は押鍵状態を示す。
図7】鍵盤装置における黒鍵の動作を説明するための図であり、(a)は離鍵状態を示し、(b)は押鍵状態を示す。
図8】本発明の要部を説明するための図であり、(a)は白鍵の側断面図、(b)は白鍵における鍵前側連結部の連結凹部を拡大して示す図、(c)は黒鍵の側断面図、(d)は黒鍵における鍵前側連結部の連結凹部を拡大して示す図である。
図9】鍵の後端と仮想支点と間の長さを説明するための図であり、(a)は白鍵を中心とする鍵盤装置の側断面図、(b)は白鍵の連結凹部を拡大して示す図、(c)は黒鍵を中心とする鍵盤装置の側断面図、(d)は黒鍵の連結凹部を拡大して示す図である。
図10】黒鍵の仮想支点長が白鍵のそれよりも長くなる鍵盤装置の動作原理を説明するための模式図であり、(a)は離鍵状態の白鍵及びその鍵支持機構を示し、(b)は離鍵状態の黒鍵及びその鍵支持機構を示す。
図11図10に続く動作原理を説明するための模式図であり、(a)は押鍵状態の白鍵及びその鍵支持機構を示し、(b)は押鍵状態の黒鍵及びその鍵支持機構を示す。
図12図9と同様の図であり、(a)は高音域の白鍵を中心とする鍵盤装置の側断面図、(b)は(a)の白鍵の連結凹部を拡大して示す図、(c)は低音域の白鍵を中心とする鍵盤装置の側断面図、(d)は(c)の白鍵の連結凹部を拡大して示す図である。
図13】(a)及び(b)は、図12(a)及び(b)にそれぞれ対応する白鍵の押鍵状態を示す模式図である。
図14】鍵の種類に応じて、押鍵に伴う第1アームの回動角度を異なるように設定する他の実施形態を説明するための図であり、(a)は白鍵を中心とする鍵盤装置の側断面図、(b)は第2アームを支持する第2支軸及びその周囲を拡大して示す図、(c)は第1アームを支持する第1支軸及びその周囲を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1(a)は、本発明が適用される電子ピアノの鍵盤装置1について、1オクターブ分のみを示している。なお、以下の説明ではまず、鍵盤装置1の基本構成及びその動作を説明し、その後で、本発明の要部について説明するものとする。
【0026】
図1(b)は、同図(a)の鍵盤装置1において、左端の白鍵2a及び黒鍵2b以外の鍵2を省略した状態を示しており、図2は、白鍵2a及び黒鍵2bを鍵支持機構6とともに鍵盤シャーシ4から取り外した状態を示している。
【0027】
この鍵盤装置1は、鍵盤シャーシ4と、白鍵2a及び黒鍵2bから成り、左右方向に並んだ状態に配置された複数の鍵2と、鍵2ごとに鍵盤シャーシ4に回動自在に取り付けられ、対応する鍵2を下方から支持する鍵支持機構6と、各鍵2の押鍵情報を検出するための鍵スイッチ3などを備えている。
【0028】
鍵盤シャーシ4は、所定の樹脂材料(例えばABS樹脂)を射出成形することなどによって所定形状の樹脂成形品から成るシャーシ本体4aを備えている。図3に示すように、このシャーシ本体4aでは、その前部11、中間部12及び後部13がいずれも全体として左右方向(図3(a)の左右方向)に延びるように形成され、これらが左右方向に間隔を隔ててかつ各々が前後方向に延びる複数のリブ14によって一体に成形されている。なお、以下の説明では、鍵盤シャーシ4において、シャーシ本体4aの前部11、中間部12及び後部13をそれぞれ、「シャーシ前部11」、「シャーシ中間部12」及び「シャーシ後部13」というものとする。
【0029】
シャーシ前部11は主に、押鍵時に白鍵2aをガイドするとともに、その前端部の上限位置及び下限位置を規制するためのものである。このシャーシ前部11には、白鍵2aごとに下方から挿入され、白鍵2aの横振れを防止するための複数の白鍵ガイド11aが、左右方向に並んだ状態で立設されている。また、シャーシ前部11には、各白鍵ガイド11aの左右両側に、上下方向に貫通する係合孔11b、11bが設けられており、両係合孔11b、11bに、白鍵2aの後述する左右2つの上限位置規制部21、21がそれぞれ貫通した状態で係合する。さらに、シャーシ前部11には、その前端部に、前方に突出しかつシャーシ本体4aの全体にわたって左右方向に延びるストッパ取付部11cが設けられ、このストッパ取付部11cの下面及び上面にそれぞれ、白鍵用の鍵上限ストッパ16a及び鍵下限ストッパ16bが、左右方向に延びるように取り付けられている。なお、シャーシ前部11には、白鍵ガイド11aの後方の所定位置に、シャーシ本体4aの全体にわたって左右方向に延びる黒鍵用のストッパ取付部11dが設けられ、このストッパ取付部11dに、黒鍵用の鍵上限ストッパ17が、左右方向に延びるように取り付けられている。
【0030】
シャーシ中間部12は主に、押鍵時に黒鍵2bをガイドするとともに、白鍵用及び黒鍵用の鍵支持機構6a、6bの後述する第1アーム31及び第2アーム32を揺動自在に支持するものである。このシャーシ中間部12は、左右方向に延びる平板状の平坦部12aと、この平坦部12a上に立設され、左右方向に適宜、間隔を隔てて配置された複数の黒鍵ガイド12bとを有している。各黒鍵ガイド12bは、黒鍵2bごとに下方から挿入され、その黒鍵2bの横振れを防止する。また、シャーシ中間部12の前部には、鍵支持機構6の第1アーム31を支持する第1アーム支持部18が設けられている。この第1アーム支持部18は、隣り合うリブ14、14の間にそれぞれ左右方向に延びるように設けられた複数の第1支軸18aを有しており、これらの第1支軸18aに、第1アーム31が揺動自在に支持されている。さらに、シャーシ中間部12の後部には、鍵支持機構6の第2アーム32を支持する第2アーム支持部19が設けられている。この第2アーム支持部19は、隣り合うリブ14、14の間にそれぞれ左右方向に延びるように設けられた複数の第2支軸19aを有している。複数の第2支軸19aは、上記第1支軸18aよりも後方にかつ高い位置に、左右方向に延びる同一軸線上に配置されており、これらの第2支軸19aに、第2アーム32が揺動自在に支持されている。なお、シャーシ中間部12の下側に設けられた後述する中レール8の所定位置には、シャーシ本体4aの全体にわたって左右方向に延びる第1アーム下限ストッパ10bが設けられている。
【0031】
また、鍵盤シャーシ4の下部には、上記のシャーシ前部11とシャーシ中間部12の間に、前記鍵スイッチ3が取り付けられている。この鍵スイッチ3は、左右方向に延びる横長のプリント基板3aと、このプリント基板3a上に鍵2ごとに取り付けられ、押鍵時に第1アーム31によって押圧されるゴムスイッチから成る複数のスイッチ本体3bとで構成されている。
【0032】
シャーシ後部13は主に、鍵2を、その後端部において、横振れを防止しながら上下方向にガイドするとともに、第1アーム31の後端部の上限位置を規制するためのものである。図2及び図3(a)に示すように、シャーシ後部13は、隣接する鍵2、2同士を仕切るよう、互いに左右方向に所定間隔を隔てて、複数の仕切壁13aを有している。また、図3(b)に示すように、シャーシ後部13の上部の所定位置には、シャーシ本体4aの全体にわたって左右方向に延びる第1アーム上限ストッパ10aが設けられている。この第1アーム上限ストッパ10a、及びシャーシ中間部12に設けられた前記第1アーム下限ストッパ10bはそれぞれ、鍵2にタッチ重さを付与するためのハンマーとしての機能を有する第1アーム31に対し、その第1アーム31が上方に回動したときの上限位置、及び下方に回動したときの下限位置を規制するためのものである。さらに、シャーシ後部13の上部には、シャーシ本体4aの全体にわたって左右方向に延び、鍵2の後端部を覆うように配置された金属製のカバープレート15が取り付けられている。
【0033】
以上のように構成された鍵盤シャーシ4のシャーシ本体4aには、図2及び図3(a)に示すように、上方及び前方に開放する複数の第1開口部5a及び上方に開放する複数の第2開口部5bが設けられている。上記の各第1開口部5aを介して、鍵支持機構6の第1アーム31が外方から第1支軸18aに係合され、また、上記の各第2開口部5bを介して、第2アーム32が外方から第2支軸19aに係合される。
【0034】
また、上記の鍵盤シャーシ4では、複数のシャーシ本体4aが、互いに左右方向に並んだ状態に連結されるとともに、いずれも左右方向に延び、互いに前後方向に所定間隔を隔てて配置された金属製の前レール7、中レール8及び後レール9に載置された状態でねじ止めされている。そして、上記の前レール7及び後レール9を介して、電子ピアノの図示しない棚板上に鍵盤シャーシ4が固定される。
【0035】
次に、鍵2及び鍵支持機構6について説明する。図4(a)は、白鍵2a及びその鍵支持機構6aを拡大して示しており、図4(b)は、それらを分解して示している。同図に示すように、白鍵2aは、所定の樹脂材料(例えばAS樹脂)を射出成形することなどにより、前後方向に所定長さ延びるとともに、下方に開放する中空状に形成されている。白鍵2aの前端部には、左右の側壁から下方に延びかつその下端部が前方に屈曲するように形成された左右一対の上限位置規制部21、21が設けられている。これらの上限位置規制部21、21は、前述したように、シャーシ前部11の左右の係合孔11b、11bにそれぞれ貫通した状態で係合する。
【0036】
また、白鍵2aの前部には、上限位置規制部21よりも後方の所定位置に、鍵支持機構6aの第1アーム31に連結される鍵前側連結部22が設けられている。この鍵前側連結部22は、側面形状が長孔状でかつ前方に開放するU字状に形成された連結凹部22aを有している。また、この連結凹部22aには、その内周面全体を覆うように設けられ、第1アーム31の後述する連結軸35bが連結凹部22a内で摺動する際に、ノイズの発生を抑制するための緩衝部材20が取り付けられている。
【0037】
さらに、白鍵2aの後部には、鍵支持機構6aの第2アーム32に連結される鍵後側連結部23が設けられている。この鍵後側連結部23は、白鍵2aの左右方向の中央部から下方に垂下し、左右方向に所定の厚さを有する板状の連結本体部23aと、この連結本体部23aの左右の側面からそれぞれ同軸状に突出した左右一対の係合凸部23b、23bとを有している。また、白鍵2aの後部には、上下方向に貫通し、鍵盤装置1のメンテナンス時などに、白鍵2aと鍵支持機構6aの第2アーム32との連結を解除する際に、所定の工具を上方から挿入するための工具挿入孔24が形成されている。
【0038】
一方、鍵支持機構6aは、互いに係合するとともに、白鍵2aの鍵前側連結部22及び鍵後側連結部23にそれぞれ連結された第1アーム31及び第2アーム32を備えている。
【0039】
図4(b)に示すように、第1アーム31は、アーム本体33と、このアーム本体33に取り付けられた2つの錘34、34とで構成されている。アーム本体33は、所定の樹脂材料(例えばポリアセタール)を射出成形することなどにより、所定形状の樹脂成形品で構成されている。このアーム本体33は、前後方向に所定長さ延びていて、前端部に、白鍵2aの鍵前側連結部22に連結する第1アーム前側連結部35が設けられている。この第1アーム前側連結部35は、上方及び前方に開放するボックス状に形成されたボックス部35aと、このボックス部35aの左右の側壁の前側上端部同士をつないだ状態で、左右方向に延びるように設けられた連結軸35bとを有している。そして、この連結軸35bは、白鍵2aの鍵前側連結部22の連結凹部22aに対し、回動自在にかつ前後方向にスライド自在に連結している。
【0040】
また、アーム本体33は、第1アーム前側連結部35の直ぐ後側の所定位置に、側面形状が下方に開放するU字状の軸受部36を有しており、この軸受部36が、鍵盤シャーシ4における第1支軸18aに回動自在に係合する。さらに、アーム本体33は、軸受部36の後方の所定位置に、第2アーム32と連結する第1アーム後側連結部37が設けられている。具体的には、第1アーム後側連結部37は、左右方向に延び、両端部がアーム本体33の左右の側面よりも外方にそれぞれ突出する連結軸37aを有している。そして、この連結軸37aの両端部が、第2アーム32の後述する第2アーム前側連結部45の連結凹部45b、45bに係合する。
【0041】
アーム本体33の後部である錘取付け部38には、細長い板状の2枚の錘34、34が、錘取付け部38を両側から挟んだ状態で取り付けられている。なお、各錘34は、アーム本体33よりも比重の大きな材料(例えば鉄などの金属)から成り、金属板をプレス加工することなどによって、所定形状に形成されている。
【0042】
第2アーム32は、第1アーム31のアーム本体33と同様の樹脂材料を射出成形することにより、所定形状の樹脂成形品で構成されている。この第2アーム32は、第1アーム31よりも短く前後方向に所定長さ延びている。また、第2アーム32は、長さ方向の中央付近に、側面形状が前方に開放するC字状の軸受部41を有しており、この軸受部41が、鍵盤シャーシ4における第2支軸19aに回動自在に係合する。
【0043】
また、第2アーム32の後部には、白鍵2aの鍵後側連結部23に連結される第2アーム後側連結部42が設けられている。この第2アーム後側連結部42は、二股状に形成されており、第2アーム32の長さ方向に沿って互いに平行に所定長さ延びる左右2つの連結アーム部43、43を有している。各連結アーム部43の後端部には、左右方向に貫通する連結孔43aが形成されている。そして、両連結アーム部43、43は、それらの後端部間で、白鍵2aにおける鍵後側連結部23の連結本体部23aを左右両側から挟持するとともに、各連結孔43aが鍵後側連結部23の対応する係合凸部23bに回動自在に嵌合する。
【0044】
さらに、第2アーム32の前部には、第1アーム31の第1アーム後側連結部37に連結される第2アーム前側連結部45が設けられている。この第2アーム前側連結部45は、互いに左右方向に所定間隔を隔てた左右一対の連結片45a、45aを有しており、各連結片45aには、側面形状が長孔状でかつ前方に開放するU字状の連結凹部45bが形成されている。そして、第2アーム前側連結部45の左右の連結片45a、45aは、それらの連結凹部45b、45bを介して、第1アーム31の連結軸37aの両端部にそれぞれ、回動自在にかつスライド自在に係合する。
【0045】
図5(a)は、黒鍵2b及びその鍵支持機構6bを拡大して示しており、図5(b)は、それらを分解して示している。黒鍵2bは、白鍵2aと同様の樹脂材料を射出成形することなどにより、白鍵2aよりも短く前後方向に所定長さ延びるとともに、下方に開放する中空状に形成されている。黒鍵2bの前側下端部には、白鍵2aの鍵前側連結部22とほぼ同様に形成された鍵前側連結部26が設けられている。この鍵前側連結部26は、側面形状が長孔状でかつ前方に開放するU字状に形成された連結凹部26aを有している。また、鍵前側連結部26は、連結凹部26aの下側前端部に、黒鍵2bの本体の前面よりも前方に所定長さ延びる延設部26bを有しており、この延設部26bが黒鍵2bの上限位置規制部として機能する。なお、以下の説明では、黒鍵2b及び鍵支持機構6bについて、前述した白鍵2a及び鍵支持機構6aと同じ構成部分については同一の符号を付して、詳細な説明を省略するものとする。
【0046】
黒鍵2bを支持する鍵支持機構6bは、前述した白鍵用の鍵支持機構6aとほぼ同様に構成されている。具体的には、鍵支持機構6bの第1アーム31のアーム本体33、及び第2アーム32は、白鍵用の鍵支持機構6aのアーム本体33及び第2アーム32に対し、形状及びサイズが全く同じに構成されている。なお、黒鍵用の鍵支持機構6bの左右2つの錘34、34は、白鍵用の鍵支持機構6aの錘34に対し、後部の形状が異なっている。
【0047】
次に、以上のように構成された鍵盤装置1における鍵2及び鍵支持機構6の動作について説明する。図6は白鍵2a及びその鍵支持機構6aの動作を示し、図7は、黒鍵2b及びその鍵支持機構6bの動作を示している。
【0048】
図6(a)に示す離鍵状態において、白鍵2aの前端部が演奏者により指で押し下げられると、白鍵2aの鍵前側連結部22が下方に移動し、それにより、第1アーム31が第1支軸18aを中心として反時計方向に回動する。また、第1アーム31の上記回動に伴い、第1アーム31の連結軸37aに連結凹部45bを介して係合する第2アーム前側連結部45が上方に移動する。これにより、第2アーム32は、第2支軸19aを中心として時計方向に回動する。そして、この第2アーム32の回動に伴い、その後端部の第2アーム後側連結部42を介して連結された鍵後側連結部23が引き下げられ、白鍵2aの後端部が下方に移動する。
【0049】
なお、第1アーム31の上記回動の際には、第1アーム前側連結部35のボックス部35aが下方に移動するのに伴い、そのボックス部35aの底壁によって、押鍵された鍵2に対応する鍵スイッチ3のスイッチ本体3bを上方から押圧する。これにより、電子ピアノにおいて、押鍵された鍵2の押鍵情報が検出され、その検出された押鍵情報に基づいて、図示しないスピーカから音が発生する。
【0050】
上記のように、白鍵2aを押し下げる場合、第1アーム31の反時計方向への回動に伴い、第1アーム31の錘34は、図6(b)に示すように、後ろ上がりに傾斜し、後端部が第1アーム上限ストッパ10aに下方から当接する。これにより、第1アーム31のそれ以上の回動が阻止される。そして、白鍵2aの前端部が最下位置まで押し下げられた際には、白鍵2aの前端部が鍵下限ストッパ16bに当接し、それ以上の白鍵2aの押下げが阻止される。
【0051】
以上のように押鍵される白鍵2aは、その後端よりも後方に位置する仮想支点Pを中心として回動するように動作する。この仮想支点Pの位置は、例えば白鍵2aの前端からの距離が白鍵2a自体の長さの約2倍になるように設定されている。これにより、白鍵2aの前端部が最下位置まで押し下げられた際には、図6(a)に示す離鍵状態のときに比べて、白鍵2aの前端部は、所定の鍵ストローク(例えば10mm)分、下方に位置し、後端部は、上記鍵ストロークの約1/2の距離(例えば5mm)分、下方に位置する。
【0052】
一方、押し下げられた白鍵2aから指を離すと、錘34の自重により、鍵支持機構6aの第1アーム31が上記と逆方向に回動し、それに伴い、第2アーム32も上記と逆方向に回動する。これに伴い、白鍵2aは、仮想支点Pを中心として、上方に回動する。そして、第1アーム31における第1支軸18aの後方の所定部位が第1アーム下限ストッパ10bに上方から当接するとともに、白鍵2aの両上限位置規制部21、21が鍵上限ストッパ16aに下方から当接し、それ以上の白鍵2aの回動が阻止され、元の離鍵状態に戻る。
【0053】
また、黒鍵2bの押鍵時の動作も、上述した白鍵2a及び鍵支持機構6aと同様に行われる。すなわち、図7(a)に示す離鍵状態において、黒鍵2bの前端部が押し下げられると、第1アーム31が第1支軸18aを中心として反時計方向に、第2アーム32が第2支軸19aを中心として時計方向に回動し、これにより、黒鍵2bは、後方の仮想支点Qを中心として回動するように動作する。なお、この仮想支点Qの位置は、前述した白鍵2aの仮想支点Pと同様、例えば黒鍵2bの前端からの距離が黒鍵2自体の長さの約2倍になるように設定されている。したがって、黒鍵2bの前端部が最下位置まで押し下げられた際には、図7(a)に示す離鍵状態のときに比べて、黒鍵2bの前端部は、所定の鍵ストローク分、下方に位置し、後端部は、上記鍵ストロークの約1/2の距離分、下方に位置する。
【0054】
一方、押し下げられた黒鍵2bから指を離すと、鍵支持機構6bの第1アーム31及び第2アーム32が上記と逆方向に回動し、それに伴い、黒鍵2bが、仮想支点Qを中心として、上方に回動する。そして、黒鍵2bの鍵前側連結部26の延設部26bが鍵上限ストッパ17に下方から当接し、それ以上の黒鍵2bの回動が阻止され、元の離鍵状態に戻る。
【0055】
次に、図8図14を参照しながら、本発明の要部について説明する。本発明の要部は、鍵2の種類に応じて、押鍵に伴う第1アーム31(ハンマー)の回動角度を異なるように設定することである。より具体的には、白鍵2a(第2の鍵)と黒鍵2b(第1の鍵)において、又は高音域の鍵2(第2の鍵)と低音域の鍵2(第1の鍵)において、これらに対応する鍵支持機構6の押鍵に伴う第1アーム31の回動角度が互いに異なるように設定される。
【0056】
まず、白鍵2aと黒鍵2bにおいて、それぞれの鍵支持機構6a、6bの押鍵に伴う第1アーム31、31の回動角度を互いに異なるように設定する場合について説明する。図8(a)は白鍵2aの側断面図であり、同図(b)は白鍵2aにおける鍵前側連結部22の連結凹部22aを拡大して示している。一方、図8(c)は黒鍵2bの側断面図であり、同図(d)は黒鍵2bにおける鍵前側連結部26の連結凹部26aを拡大して示している。なお、前述したように、白鍵2a及び黒鍵2bの連結凹部22a、26aには、押鍵時にノイズの発生を抑制するための緩衝部材20が取り付けられるが、以下の説明では、緩衝部材20を省略して説明するものとする。
【0057】
図8(b)に示すように、白鍵2aの連結凹部22aは、互いに上下方向に所定間隔を隔てて対向し、前後方向(図8の左右方向)に平行に延びる天井面61及び底面62を有している。この連結凹部22aは、上記の天井面61及び底面62により、離鍵状態においてほぼ水平に延びる基準線Lに沿って前後方向に延びるように構成されている。つまり、連結凹部22aの延び方向の傾きは、基準線Lに一致している。なお、図8(b)では、連結凹部22aの延び方向の傾きをわかりやすくするために、基準線Lを天井面61に重ねた状態で記載しており、後述する他の図でも同様とする。
【0058】
一方、図8(c)及び(d)に示すように、黒鍵2bの連結凹部26aは、白鍵2aの連結凹部22aと同様の天井面63及び底面64を有している。また、黒鍵2bの連結凹部26aは、上記の基準線Lに対し、所定角度(例えば1~2度)、前下がり(図8(d)では左下がり)に傾斜して延びるように構成されている。つまり、連結凹部26aの延び方向の傾きは、白鍵2aにおける連結凹部22aのそれに比べて、前下がりに傾斜している。
【0059】
図9(a)は白鍵2aを中心とする鍵盤装置1の側断面図であり、同図(b)は白鍵2aの連結凹部22aを拡大して示している。前述したように、白鍵2aは、押鍵時に、同図(a)に示す仮想支点Pを中心として回動するように動作する。この場合の白鍵2aの後端から仮想支点Pまでの長さである仮想支点長は、長さDである。
【0060】
一方、図9(c)は黒鍵2bを中心とする鍵盤装置1の側断面図である。同図(d)は黒鍵2bの連結凹部26aを拡大して示している。前述したように、黒鍵2bは、押鍵時に、同図(c)に示す仮想支点Qを中心として回動するように動作する。この場合の黒鍵2bの後端から仮想支点Qまでの長さである仮想支点長Eは、連結凹部26aの延び方向の傾きが白鍵2aの連結凹部22aのそれよりも前下がりに傾斜していることから、白鍵2aの仮想支点長Dよりも長くなる(E>D)。
【0061】
ここで、図10及び図11の模式図を参照して、上記のように黒鍵2bの仮想支点長Eが白鍵2aの仮想支点長Dよりも長くなる鍵盤装置1の動作原理について説明する。図10(a)及び(b)はそれぞれ、離鍵状態における白鍵2a及びその鍵支持機構6a、並びに黒鍵2b及びその鍵支持機構6bを示している。なお、これらの模式図では、白鍵2aの連結凹部22a及び黒鍵2bの連結凹部26aについて、第1アーム31を反時計方向に回動させる際の作用点として機能する天井面61及び63のみを記載している。また、両天井面61及び63の傾きの違いをわかりやすくするために、天井面63の傾きを、本来の傾きに比べて大きく表している。
【0062】
図10(a)及び(b)に示すように、離鍵状態では、白鍵2a及び黒鍵2bの鍵支持機構6a及び6bの第1アーム31及び第2アーム32はいずれも同じ姿勢になっている。この状態から、白鍵2aの前端部を押し下げると、第1アーム31は、天井面61を介して連結軸35bが押し下げられることで、第1支軸18aを中心として反時計方向に回動する。一方、第2アーム32は、第1アーム31の上記回動に伴い、連結軸37aが上方に移動することで、第2支軸19aを中心として時計方向に回動する。そして、白鍵2aが最下位まで押し下げられると、第1アーム31は、図11(a)に示す位置まで回動する。
【0063】
一方、図10(b)に示す状態から、黒鍵2bの前端部を押し下げると、上述した白鍵2aと同様、第1アーム31及び第2アーム32が回動する。しかし、黒鍵2bでは、天井面63(連結凹部26a)の傾きが白鍵2aの天井面61(連結凹部22a)の傾きよりも大きいため、黒鍵2bが最下位まで押し下げられた際には、天井面63に沿って前方にスライドする、第1アーム31の連結軸35bが、白鍵2a用の第1アーム31のそれに比べて、より下方に位置する。その結果、黒鍵2b用の第1アーム31の回動角度は、白鍵2a用の第1アーム31のそれに比べて大きくなる。加えて、黒鍵2b用の第2アーム32の回動角度も、白鍵2a用の第2アーム32のそれに比べて大きくなる。これにより、黒鍵2bの後端部の係合凸部23bが、白鍵2aの係合凸部23bよりも引き下げられ、その結果、黒鍵2bの仮想支点長Eは、白鍵2aの仮想支点長Dよりも長くなる。
【0064】
次に、図12及び図13を参照しながら、高音域と低音域の鍵2において、押鍵に伴う第1アーム31の回動角度を互いに異なるように設定することで、それらの鍵2のタッチ重さが互いに異なる鍵盤装置1について説明する。図12は、前記図9と同様の図であり、(a)は高音域の白鍵2aを中心とする鍵盤装置1の側断面図であり、(b)は(a)の白鍵2aの連結凹部22aを拡大して示している。同図(b)に示すように、高音域の白鍵2aの連結凹部22aは、離鍵状態において、基準線Lに沿って前後方向に延びるように構成されている。
【0065】
一方、図12(c)は低音域の白鍵2aを中心とする鍵盤装置1の側断面図であり、(d)は(c)の白鍵2aの連結凹部22aを拡大して示している。同図(d)に示すように、低音域の白鍵2aの連結凹部22aは、天井面61A及び底面62Aを有しており、これらの天井面61A及び底面62Aにより、離鍵状態において、基準線Lに対し、所定角度(例えば1~2度)、前下がり(図12では左下がり)に傾斜して延びるように構成されている。このように、低音域の白鍵2aにおける連結凹部22aの延び方向の傾きは、高音域の白鍵2aにおける連結凹部22aのそれに比べて、前下がりに傾斜している。
【0066】
図13(a)及び(b)は、上述した図12(a)及び(b)にそれぞれ対応する白鍵の押鍵状態を模式的に示している。図13(b)に示すように、低音域の白鍵2aを支持する鍵支持機構6aでは、押鍵に伴う第1アーム31の回動角度が、図13(a)に示す高音域の白鍵2aを支持する鍵支持機構6aの第1アーム31のそれに比べて大きくなる。それにより、低音域の白鍵2aのタッチ重さは、高音域の白鍵2aのタッチ重さに比べて重くなる。
【0067】
図14は、鍵2の種類に応じて、押鍵に伴う第1アーム31の回動角度を異なるように設定する他の実施形態を説明するための図であり、(a)は白鍵2aを中心とする鍵盤装置1の側断面図である。この鍵盤装置1では、各鍵支持機構6の第2アーム32を支持する第2支軸19a、及び第1アーム31を支持する第1支軸18aが、白鍵2aと黒鍵2bにおいて、また、高音域の鍵2と低音域の鍵2において、互いに所定方向に所定長さ分、ずれた状態で設けられている。
【0068】
図14(b)は、第2アーム32を支持する2つの第2支軸19a、19aが互いに異なる位置に設けられた一例を示しており、同図(b)では、両第2支軸19a、19aが、互いに前後方向に、第2支軸19aの直径分、ずれた状態で設けられている。
【0069】
また、図14(c)は、第1アーム31を支持する2つの第1支軸18a、18aが互いに異なる位置に設けられた一例を示しており、同図(c)では、両第1支軸18a、18aが、互いに前後方向に、第1支軸18aの直径分、ずれた状態で設けられている。
【0070】
上記のように、鍵2の種類に応じて、第2支軸19aの位置を設定したり、これに加えて、第1支軸18aの位置を設定したりすることにより、押鍵に伴う第1アーム31の回動角度を調整することができ、それにより、鍵2の種類に応じて、仮想支点長及びタッチ重さを調整することができる。
【0071】
以上のように、本発明の要部を適用した鍵盤装置1によれば、押鍵に連動して回動する第1アーム31の回動角度を、鍵2の種類に応じて異なるように設定することにより、押鍵時のタッチ重さや仮想支点長を鍵2の種類に応じて調整することができ、その結果、グランドピアノと同様の鍵動作を得ることができる。
【0072】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、鍵2の鍵前側連結部22、26に連結凹部22a、26aを設ける一方、第1アーム31の第1アーム前側連結部35に連結軸35bを設けたが、互いに係合する連結凹部22a、26aと連結軸35bの位置関係を逆にすること、すなわち連結凹部を第1アーム31に設け、連結軸を鍵2に設けることも可能である。
【0073】
また、実施形態では、鍵2の係合凹部22a、26aにおける延び方向の傾きを2種類のみ例示したが、鍵盤装置1において、鍵2の係合凹部22a、26aにおける延び方向の傾きを、3種類以上設定することも可能である。それにより、より多くの鍵2の種類(例えば、低音域及び高音域に加えて中音域など)に応じて、押鍵に伴う第1アーム31の回動角度をきめ細かく設定することが可能になる。
【0074】
さらに、実施形態では、押鍵された鍵2が、後方の仮想支点P、Qを中心として回動するように動作する鍵盤装置1に本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、鍵がそれ自体の後端部を中心として回動しかつ第2アーム32を備えていない一般的な鍵盤装置にも適用できることはもちろんである。また、実施形態で示した鍵2や鍵支持機構6の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 鍵盤装置
2 鍵
2a 白鍵(第2の鍵)
2b 黒鍵(第1の鍵)
4 鍵盤シャーシ
6 鍵支持機構
6a 白鍵用の鍵支持機構
6b 黒鍵用の鍵支持機構
18 第1アーム支持部
18a 第1支軸(ハンマー支軸)
19 第2アーム支持部
19a 第2支軸(アーム支軸)
22 白鍵の鍵前側連結部(鍵側係合部)
22a 連結凹部(係合凹部)
23 鍵後側連結部
23b 係合凸部
26 黒鍵の鍵前側連結部(鍵側係合部)
26a 連結凹部(係合凹部)
31 第1アーム(ハンマー)
32 第2アーム(連結アーム)
35 第1アーム前側連結部
35b 連結軸(係合軸)
37 第1アーム後側連結部
37a 連結軸(所定部位)
42 第2アーム後側連結部
45 第2アーム前側連結部
45b 連結凹部
61 白鍵の連結凹部の天井面
61A 低音域の白鍵の連結凹部の天井面
62 白鍵の連結凹部の底面
62A 低音域の白鍵の連結凹部の底面
63 黒鍵の連結凹部の天井面
64 黒鍵の連結凹部の底面
P 白鍵の仮想支点
Q 黒鍵の仮想支点
L 基準線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14