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特開2023-50764臨床試験薬管理システム及び、臨床試験薬管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050764
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】臨床試験薬管理システム及び、臨床試験薬管理方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 20/10 20180101AFI20230404BHJP
【FI】
G16H20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161036
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000132194
【氏名又は名称】株式会社スズケン
(71)【出願人】
【識別番号】520153648
【氏名又は名称】EPSホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 井達
(72)【発明者】
【氏名】町田 伸雄
(72)【発明者】
【氏名】高木 里美
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】臨床試験の実施に必要な情報の管理をより容易にし、リアルタイム性を向上させることで、臨床試験の信頼性及び効率を向上させることが可能な臨床試験薬管理システム及び臨床試験薬管理方法を提供する。
【解決手段】臨床試験薬の管理に係る臨床試験薬管理システム10は、臨床試験に使用される各々の臨床試験薬に付されるとともに、固有情報が読み出し可能に記録された識別子5aと、識別子に記録された固有情報を読み取る読取装置としての読取センサ6a、7a、17aと、識別子に記録されるか又は読み出された情報を管理する情報管理装置8と、を備える。情報管理装置8は、臨床試験薬の内容に関する情報に関わる臨床試験薬情報と、臨床試験薬が投与される対象に関する情報である被験者識別情報と、の少なくとも何れかの情報を、識別子に記録された固有情報と関連づけて記憶する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
臨床試験薬の管理に係る臨床試験薬管理システムであって、
臨床試験に使用される各々の前記臨床試験薬に付されるとともに、固有情報が読み出し可能に記録された識別子と、
前記識別子に記録された固有情報を読み取る読取装置と、
前記識別子に記録されまたは読み出された情報を管理する情報管理装置と、
を備え、
前記情報管理装置は、
前記臨床試験薬の内容に関する情報に関わる臨床試験薬情報と、
前記臨床試験薬が投与される対象に関する情報である被験者識別情報と、
の少なくとも何れかの情報を、前記識別子に記録された固有情報と関連づけて記憶することを特徴とする、臨床試験薬管理システム。
【請求項2】
前記臨床試験薬の出荷から投与までの保管状態および/または運搬状態と時間との関係に関する情報である保管運搬情報と、
前記臨床試験薬の運搬中及び保管中の環境条件に関する情報である環境情報と、
の少なくともいずれかをさらに、前記識別子に記録された固有情報と関連づけて記憶することを特徴とする、請求項1に記載の臨床試験薬管理システム。
【請求項3】
前記情報管理装置は、
前記臨床試験薬情報、前記被験者識別情報、前記保管運搬情報、前記環境情報の少なくとも何れかに基づいて、所定様式による記録表を自動作成することを特徴とする、請求項2に記載の臨床試験薬管理システム。
【請求項4】
前記臨床試験薬情報、前記被験者識別情報、前記保管運搬情報、前記環境情報の少なくともいずれかを遠隔閲覧可能な閲覧装置をさらに備えることを特徴とする、請求項2または3に記載の臨床試験薬管理システム。
【請求項5】
前記情報管理装置は、
前記臨床試験薬情報、前記保管運搬情報、前記環境情報の少なくともいずれかに基づいて、前記臨床試験における前記臨床試験薬の使用の可否判断を補助する可否判断補助部を有することを特徴とする、請求項2から4のいずれか一項に記載の臨床試験薬管理システム。
【請求項6】
前記情報管理装置は、
前記臨床試験に使用する予定の前記臨床試験薬の内容に関わる臨床試験薬予定情報と、
前記臨床試験薬の出荷から使用までの保管状態および/または運搬状態と時間との関係の予定に関する情報である保管運搬予定情報と、
前記臨床試験薬の運搬中及び保管中の環境条件の予定に関する情報である環境予定情報と、
の少なくともいずれかを記憶した予定情報記憶部を有し、
前記臨床試験薬に対する、前記臨床試験薬予定情報と前記臨床試験薬情報、前記保管運搬予定情報と前記保管運搬情報、または、前記環境予定情報と前記環境情報の少なくともいずれかの間の相違が所定範囲以上となり、あるいは所定範囲以上となることが予測された場合に、警告を発することを特徴とする、請求項2から5のいずれか一項に記載の臨床試験薬管理システム。
【請求項7】
前記臨床試験薬を該臨床試験薬に応じた環境条件を維持しつつ保管する環境維持保管手段と、
前記環境維持保管手段における前記環境条件に関する情報を取得する保管環境検知手段と、
前記識別子との通信によって前記臨床試験薬が前記環境維持保管手段によって保管されていることを検知する保管状態検知手段と、
前記臨床試験薬を該臨床試験薬に応じた環境条件を維持しつつ運搬することが可能な環境維持運搬手段と、
前記環境維持運搬手段における前記環境条件に関する情報を取得する運搬環境検知手段と、
前記識別子との通信によって前記臨床試験薬が前記環境維持運搬手段によって運搬されていることを検知する運搬状態検知手段と、
をさらに備え、
前記情報管理装置は、
前記保管運搬情報を、前記保管状態検知手段および/または前記運搬状態検知手段から取得し、
前記環境情報を、前記保管環境検知手段および/または前記運搬環境検知手段から取得することを特徴とする、請求項2から6のいずれか一項に記載の臨床試験薬管理システム。
【請求項8】
臨床試験における臨床試験薬の管理に係る情報管理装置を備える臨床試験薬管理システムを用いた、臨床試験薬管理方法であって、
固有の識別番号が記録された識別子を前記臨床試験に使用される各々の前記臨床試験薬に付する識別子付与工程と、
前記臨床試験薬の内容に関わる情報である臨床試験薬情報と、前記臨床試験薬が投与される対象に関する情報である被験者識別情報の少なくともいずれかの情報を前記識別子から読み出し、あるいは別途取得することで前記情報管理装置に提供する情報収集工程と、
前記情報収集工程において前記情報管理装置に提供された情報を前記情報管理装置において前記識別番号と関連づけて表示可能に記憶する情報記憶工程と、
を有することを特徴とする、臨床試験薬管理方法。
【請求項9】
前記情報収集工程において、
前記臨床試験薬の出荷から使用までの保管状態および/または運搬状態と時間との関係に関する情報である保管運搬情報と、前記臨床試験薬の運搬中及び保管中の環境条件に関する情報である環境情報と、をさらに前記情報管理装置に提供することを特徴とする、請求項8に記載の臨床試験薬管理方法。
【請求項10】
前記情報管理装置に、前記臨床試験薬、前記保管運搬情報、前記環境情報の少なくともいずれかに基づいて、前記臨床試験における前記臨床試験薬の使用の可否判断を補助させる可否判断補助工程をさらに有することを特徴とする、請求項9に記載の臨床試験薬管理方法。
【請求項11】
前記臨床試験に使用する予定の前記臨床試験薬の内容に関わる臨床試験薬予定情報と、前記臨床試験薬の出荷から使用までの保管状態および/または運搬状態と時間との関係の予定に関する情報である保管運搬予定情報と、前記臨床試験薬の運搬中及び保管中の環境条件の予定に関する情報である環境予定情報と、の少なくともいずれかの情報を前記識別子から読み出し、あるいは別途取得することで前記情報管理装置に提供する予定情報収集工程と、
前記臨床試験薬に対する、前記臨床試験薬予定情報と前記臨床試験薬情報、前記保管運搬予定情報と前記保管運搬情報、または、前記環境予定情報と前記環境情報の少なくともいずれかの間の相違が所定範囲以上となり、あるいは所定範囲以上となることが予測された場合に、警告を発する警告工程と、をさらに有することを特徴とする、請求項9または
10に記載の臨床試験薬管理方法。
【請求項12】
前記臨床試験薬管理システムは、
前記臨床試験薬を該臨床試験薬に応じた環境条件を維持しつつ保管する環境維持保管手段と、
前記環境維持保管手段における前記環境条件に関する情報を取得する保管環境検知手段と、
前記識別子との通信によって前記臨床試験薬が前記環境維持保管手段によって保管されていることを検知する保管状態検知手段と、
前記臨床試験薬を該臨床試験薬に応じた環境条件を維持しつつ運搬することが可能な環境維持運搬手段と、
前記環境維持運搬手段における前記環境条件に関する情報を取得する運搬環境検知手段と、
前記識別子との通信によって前記臨床試験薬が前記環境維持運搬手段によって運搬されていることを検知する運搬状態検知手段と、
をさらに備え、
前記情報収集工程において、
前記保管運搬情報は、前記保管状態検知手段および/または前記運搬状態検知手段から取得し、
前記環境情報は、前記保管環境検知手段および/または前記運搬環境検知手段から取得することを特徴とする、請求項9から11のいずれか一項に記載の臨床試験薬管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床試験薬管理システム及び、臨床試験薬管理方法に関し、特に、RFID等の識別子を用いて効率的に臨床試験薬を管理する臨床試験薬管理システム及び、臨床試験薬管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の臨床試験は、医薬品や医療機器など、病気の予防・診断・治療に関わる医療手段の候補について、有効性や安全性等を確認するために実施される試験である。その中で治験とは、製薬会社等が主体となり厚生労働省から医薬品や医療機器の製造・販売承認を得るために行う臨床試験であり、治験の実施に関しては厳格なルールが定められている。一方、臨床試験の中で臨床研究とは、医師等が主体となって治療法や診断法の有効性や安全性を調べ、より優れた医療の提供を目的に行う臨床試験である。臨床試験は、製薬会社、臨床試験(薬)の管理会社、医療機関及び被験者の協力下で行われる。
【0003】
臨床試験は、例えば、図12示すに示すような流れで実施される。臨床試験が開始されると、一般的には、まず、第I相臨床試験が行われる。この第I相臨床試験は、健常者に行われる少量の試験対象が投薬され、主に臨床試験薬の安全性及び薬物の体内動態を確認するための試験である。第I相臨床試験が終了すると、第II臨床試験が行われる。この第II
臨床試験では、第I相臨床試験で安全性が確認された容量の範囲内で、同意を得た比較的
少数の患者に使用して効果と安全性を調査し、用量を検討する。
【0004】
次に、第III臨床試験が行われる。この第III臨床試験では、実際の医療現場における効果と安全性を確認するために、第II試験より年齢、病態、重症度などに幅のある被験者群に対して、有効性と安全性、適応疾患における用法・用量、副作用、他剤との相互作用等を、標準療法との比較試験により評価・検証する。この比較試験においては、既存の医薬品や比較対照薬と試験対象をどちらか分からないように使用する盲検によって、多くの患者に使用して比較する試験がある。
【0005】
そして、臨床試験データの十分な蓄積が行われ、臨床試験データの解析・統計処理が行われ最終的に臨床試験報告書としてまとめられる。
【0006】
従来、臨床試験においては、臨床試験薬情報、被験者識別情報、臨床試験薬の割付情報、臨床試験薬の配送・在庫管理、臨床試験薬の回収・廃棄情報管理等について、コンピュータを用いた管理システムによる処理が行われてきた。しかしながら、これらの情報と実際の臨床試験の進捗との関係は、目視に頼らざるを得ない場合もあり、必ずしも信頼性・効率の点で必ずしも充分とは言えなかった。また、情報のリアルタイム性という観点からも改善の要望があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-118396号公報
【特許文献2】特表2018-538641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、臨床試験の実施に必要な情報の管理をより容易にし、ヒューマンエラーを低減することで、臨床試験の
信頼性及び効率を向上させることが可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、以下の点を特徴とする。すなわち、臨床試験薬の管理に係る臨床試験薬管理システムであって、
臨床試験に使用される各々の前記臨床試験薬に付されるとともに、固有情報が読み出し可能に記録された識別子と、
前記識別子に記録された固有情報を読み取る読取装置と、
前記識別子に記録されまたは読み出された情報を管理する情報管理装置と、
を備え、
前記情報管理装置は、
前記臨床試験薬の内容に関する情報に関わる臨床試験薬情報と、
前記臨床試験薬が投与される対象に関する情報である被験者識別情報と、
の少なくとも何れかの情報を、前記識別子に記録された固有情報と関連づけて記憶することを特徴とする、臨床試験薬管理システムである。
【0010】
すなわち、本発明において、臨床試験に使用される臨床試験薬またはその梱包材には、固有情報が記録された識別子が取り付けられる。この固有情報とは、例えば識別子毎に定義された管理番号である。そして、情報管理装置には、この固有情報と関連づけて、臨床試験薬の内容に係る情報である臨床試験薬情報と、臨床試験薬が投与される被験者の情報である被験者識別情報とが記憶される。なお、ここで被験者識別情報は被験者を識別可能とする情報であり、被験者の管理番号、被験者に付与されたコード等であってもよい。
【0011】
これによれば、臨床試験における臨床試験薬の流通の中で、識別子の情報を読取装置で読み取るという簡単な作業によって、臨床試験薬に関する情報を、投与予定の被験者の情報とともに迅速に取得・確認することができる。その結果、臨床試験の運営を効率化できるとともに、臨床試験薬の過不足や投与間違い等の事故をより確実に防止することが可能となる。
【0012】
また、本発明においては、前記臨床試験薬の出荷から投与までの保管状態および/または運搬状態と時間との関係に関する情報である保管運搬情報と、
前記臨床試験薬の運搬中及び保管中の環境条件に関する情報である環境情報と、
の少なくともいずれかをさらに、前記識別子に記録された固有情報と関連づけて記憶するようにしてもよい。
【0013】
臨床試験においては、臨床試験薬は、医薬品メーカーから臨床試験が実施される医療機関まで配送され、被験者に投与される。その間、臨床試験薬は厳密な温度管理が求められることが多いことから、移動時には、環境条件が管理され、且つ情報管理装置に環境情報を伝送可能な保冷コンテナ等に格納された状態で移動する。また、途中で治験薬流通機関(流通業者)に保管される場合には、情報管理装置に環境情報を伝送可能な冷蔵保管庫に格納された状態で保管される。そして、本発明においては、臨床試験薬の流通過程の各ポイントにおいて、読取装置によって、臨床試験薬に取り付けられた識別子の固有情報を読取ることによって、各時間において各臨床試験薬がどのような運搬状態、保管状態かの情報を取得し記憶させることが可能である。また、同時に、臨床試験薬の流通過程における環境情報についても取得し、情報管理装置に記憶させることが可能である。
【0014】
これによれば、各臨床試験薬が、予定どおりに医療機関に配送されているかの情報と、各臨床試験薬が、如何なる環境にどれ程の時間曝された状態で、医療機関に届けられるかの情報を正確に取得することが可能である。その結果、臨床試験薬の配送上の不都合が原因で臨床試験に遅延が生じたり、流通過程において許容範囲を外れた環境に晒されること
で臨床試験薬が使用不可になる等の不都合をより確実に防止することが可能となる。
【0015】
また、本発明においては、前記情報管理装置は、
前記臨床試験薬情報、前記被験者識別情報、前記保管運搬情報、前記環境情報の少なくとも何れかに基づいて、所定様式による記録表を自動作成することとしてもよい。
【0016】
臨床試験においては、各段階における進捗を詳細に記録する必要があり、臨床試験薬出納記録、治験薬受領書、返却書といった書類を作成する必要に迫られる場合も多い。また、各段階における進捗状況を一覧化することで迅速に確認する必要がある。これに対し、本発明によれば、臨床試験の管理者が、臨床試験の実施に必要な前記臨床試験薬情報、前記被験者識別情報と、臨床試験薬の有効性に関わる情報である前記保管運搬情報、前記環境情報を効率的に確認することができ、臨床試験の信頼性及び効率を向上させることが可能である。
【0017】
また、本発明においては、前記臨床試験薬情報、前記被験者識別情報、前記保管運搬情報、前記環境情報の少なくともいずれかを遠隔閲覧可能な閲覧装置をさらに備えることとしてもよい。
【0018】
これによれば、臨床試験の管理者が臨床試験の現場に滞在しなくても、臨床試験の管理に必要な臨床試験薬情報、被験者識別情報と、臨床試験薬の有効性に関わる情報である保管運搬情報、環境情報を効率的に確認することが可能である。
【0019】
また、本発明において、前記情報管理装置は、前記臨床試験薬情報、前記保管運搬情報、前記環境情報の少なくともいずれかに基づいて、前記臨床試験における前記臨床試験薬の使用の可否判断を補助する可否判断補助部を有することとしてもよい。
【0020】
すなわち、本発明においては、臨床試験薬情報、保管運搬情報、環境情報の少なくともいずれかに基づいて、情報管理装置における可否判断補助部が、臨床試験における臨床試験薬の使用の可否判断を補助する。より具体的には、可否判断の対象の臨床試験薬が如何なる試験薬で、如何なる流通態様を経て、如何なる環境に晒されていたかという情報に基づいて、当該臨床試験薬が使用可能か否かを試験実施者・管理者等が判断する材料となる情報を提供する。これによれば、経験の少ない試験実施者・管理者等であっても、より正確に、当該臨床試験薬の臨床試験への使用が可能か否かを判断することができる。ここで、可否判断を補助するとは、可否判断の判断結果の提示でも構わないし、前記臨床試験薬情報、前記保管運搬情報、前記環境情報をそのまま、あるいは、判断し易いように加工して表示することでも構わない。また、ここで試験実施者・管理者等には、医薬品メーカーや、医療機関の治験薬管理者が含まれ得る。
【0021】
また、前記情報管理装置は、
前記臨床試験に使用する予定の前記臨床試験薬の内容に関わる臨床試験薬予定情報と、
前記臨床試験薬の出荷から使用までの保管状態および/または運搬状態と時間との関係の予定に関する情報である保管運搬予定情報と、
前記臨床試験薬の運搬中及び保管中の環境条件の予定に関する情報である環境予定情報と、
の少なくともいずれかを記憶した予定情報記憶部を有し、
前記臨床試験薬に対する、前記臨床試験薬予定情報と前記臨床試験薬情報、前記保管運搬予定情報と前記保管運搬情報、または、前記環境予定情報と前記環境情報の少なくともいずれかの間の相違が所定範囲以上となり、あるいは所定範囲以上となることが予測された場合に、警告を発することとしてもよい。
【0022】
ここで、臨床試験薬予定情報は、臨床試験に使用が予定されている臨床試験薬の情報である。保管運搬予定情報は、予定されている、臨床試験薬の出荷から使用までの保管状態および/または運搬状態と時間との関係である。また、環境予定情報とは、臨床試験薬が臨床試験に使用されるまでに曝されることを予定されている環境情報である。本発明においては、これらの情報と、実際の臨床試験薬情報、保管運搬情報、環境情報とを比較することで、臨床試験薬の進捗状況が予定通りか否かが判定される。そして、その差が所定範囲以上となる場合は、臨床試験の管理者に警告を発する。これによれば、臨床試験が予定外の状態で進行しつつあることを管理者に迅速に警告することができ、臨床試験を、より確実に予定通り完了させることが可能となる。
【0023】
また、本発明は、前記臨床試験薬を該臨床試験薬に応じた環境条件を維持しつつ保管する環境維持保管手段と、
前記環境維持保管手段における前記環境条件に関する情報を取得する保管環境検知手段と、
前記識別子との通信によって前記臨床試験薬が前記環境維持保管手段によって保管されていることを検知する保管状態検知手段と、
前記臨床試験薬を該臨床試験薬に応じた環境条件を維持しつつ運搬することが可能な環境維持運搬手段と、
前記環境維持運搬手段における前記環境条件に関する情報を取得する運搬環境検知手段と、
前記識別子との通信によって前記臨床試験薬が前記環境維持運搬手段によって運搬されていることを検知する運搬状態検知手段と、
をさらに備え、
前記情報管理装置は、
前記保管運搬情報を、前記保管状態検知手段および/または前記運搬状態検知手段から取得し、
前記環境情報を、前記保管環境検知手段および/または前記運搬環境検知手段から取得するようにしてもよい。
【0024】
すなわち、本発明においては、臨床試験薬を該臨床試験薬に応じた環境条件を維持しつつ保管する環境維持保管手段が備えられる。環境維持保管手段の例としては、流通過程や医療機関において臨床試験薬が温度管理されつつ保管される冷蔵保管庫が挙げられる。
また、本発明においては、環境維持保管手段における環境条件に関する情報を取得する保管環境検知手段が備えられる。この保管環境検知手段の例としては、冷蔵保管庫に設けられ、冷蔵保管庫内の温度を計測する温度計測器が挙げられる。
また、本発明においては、識別子との通信によって臨床試験薬が環境維持保管手段によって保管されていることを検知する保管状態検知手段が備えられる。この保管状態検知手段の例としては、冷蔵保管庫に設けられ、電波を発信する識別子が冷蔵保管庫内にあることを検知する受信装置が挙げられる。
また、本発明においては、臨床試験薬を該臨床試験薬に応じた環境条件を維持しつつ運搬することが可能な環境維持運搬手段が備えられる。この環境維持運搬手段の例としては、温度維持機能を有する保冷コンテナが挙げられる。
また、本発明においては、環境維持運搬手段における環境条件に関する情報を取得する運搬環境検知手段が備えられる。この運搬環境検知手段の例としては、保冷コンテナに設けられ、保冷コンテナ内の温度を計測する温度計測器が挙げられる。
また、本発明においては、識別子との通信によって臨床試験薬が環境維持運搬手段によって運搬されていることを検知する運搬状態検知手段が備えられる。この運搬状態検知手段の例としては、保冷コンテナに設けられ、電波を発信する識別子が保冷コンテナ内にあることを検知する受信装置が挙げられる。
そして、本発明においては、情報管理装置は、保管運搬情報を、保管状態検知手段およ
び/または運搬状態検知手段から取得し、環境情報を、保管環境検知手段および/または運搬環境検知手段から取得する。これによれば、より容易に臨床試験薬の実際の保管運搬情報、環境情報を、リアルタイムに取得することが可能となる。
【0025】
また、本発明は、臨床試験における臨床試験薬の管理に係る情報管理装置を備える臨床試験薬管理システムを用いた、臨床試験薬管理方法であって、
固有の識別番号が記録された識別子を前記臨床試験に使用される各々の前記臨床試験薬に付する識別子付与工程と、
前記臨床試験薬の内容に関わる情報である臨床試験薬情報と、前記臨床試験薬が投与される対象に関する情報である被験者識別情報の少なくともいずれかの情報を前記識別子から読み出し、あるいは別途取得することで前記情報管理装置に提供する情報収集工程と、
前記情報収集工程において前記情報管理装置に提供された情報を前記情報管理装置において前記識別番号と関連づけて表示可能に記憶する情報記憶工程と、
を有することを特徴とする、臨床試験薬管理方法であってもよい。
【0026】
また、上記の臨床試験薬管理方法では、前記情報収集工程において、
前記臨床試験薬の出荷から使用までの保管状態および/または運搬状態と時間との関係に関する情報である保管運搬情報と、前記臨床試験薬の運搬中及び保管中の環境条件に関する情報である環境情報と、をさらに前記情報管理装置に提供することとしてもよい。
【0027】
また、上記の臨床試験薬管理方法では、前記情報管理装置に、前記臨床試験薬、前記保管運搬情報、前記環境情報の少なくともいずれかに基づいて、前記臨床試験における前記臨床試験薬の使用の可否判断を補助させる可否判断補助工程をさらに有することとしてもよい。
【0028】
また、上記の臨床試験薬管理方法では、前記臨床試験に使用する予定の前記臨床試験薬の内容に関わる臨床試験薬予定情報と、前記臨床試験薬の出荷から使用までの保管状態および/または運搬状態と時間との関係の予定に関する情報である保管運搬予定情報と、前記臨床試験薬の運搬中及び保管中の環境条件の予定に関する情報である環境予定情報と、の少なくともいずれかの情報を前記識別子から読み出し、あるいは別途取得することで前記情報管理装置に提供する予定情報収集工程と、
前記臨床試験薬に対する、前記臨床試験薬予定情報と前記臨床試験薬情報、前記保管運搬予定情報と前記保管運搬情報、または、前記環境予定情報と前記環境情報の少なくともいずれかの間の相違が所定範囲以上となり、あるいは所定範囲以上となることが予測された場合に、警告を発する警告工程と、をさらに有することとしてもよい。
【0029】
また、上記の臨床試験薬管理方法では、前記臨床試験薬管理システムは、
前記臨床試験薬を該臨床試験薬に応じた環境条件を維持しつつ保管する環境維持保管手段と、
前記環境維持保管手段における前記環境条件に関する情報を取得する保管環境検知手段と、
前記識別子との通信によって前記臨床試験薬が前記環境維持保管手段によって保管されていることを検知する保管状態検知手段と、
前記臨床試験薬を該臨床試験薬に応じた環境条件を維持しつつ運搬することが可能な環境維持運搬手段と、
前記環境維持運搬手段における前記環境条件に関する情報を取得する運搬環境検知手段と、
前記識別子との通信によって前記臨床試験薬が前記環境維持運搬手段によって運搬されていることを検知する運搬状態検知手段と、
をさらに備え、
前記情報収集工程において、
前記保管運搬情報は、前記保管状態検知手段および/または前記運搬状態検知手段から取得し、
前記環境情報は、前記保管環境検知手段および/または前記運搬環境検知手段から取得することとしてもよい。
【0030】
本発明における上記の課題を解決するための手段は、可能な限り組み合わせて使用することが可能である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、臨床試験の実施に必要な情報の管理をより容易にし、リアルタイム性を向上させることで、臨床試験の信頼性及び効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】従来の臨床試験における機能分担と臨床試験薬の流通の態様を示す図である。
図2】本発明の実施例における臨床試験薬管理システムを用いた、臨床試験薬の管理・流通の態様を示す図である。
図3】本発明の実施例における情報管理装置のハード構成を示す概略図である。
図4】本発明の実施例における臨床試験薬の管理情報の例を示す記録表である。
図5】本発明の実施例における臨床試験薬の管理情報の第2の例を示す記録表である。
図6】本発明の実施例における保管運搬状況に係る情報の例を示す図である。
図7】本発明の実施例における環境状況に係る情報の例を示す図である。
図8】本発明の実施例における臨床試験薬の管理情報の第3の例を示す記録表である。
図9】本発明の実施例における臨床試験薬管理システムの機能ブロック図である。
図10】発明の実施例における保管運搬状況に係る情報と、保管運搬状況に係る予定情報との関係を示す図である。
図11】発明の実施例における環境状況に係る情報と、環境状況に係る予定情報との関係を示す図である。
図12】臨床試験の工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施の形態は一例であって、本発明を以下の実施の形態に限定する趣旨ではない。
【0034】
<実施例1>
図1は従来の臨床試験における機能分担と臨床試験薬の流通の態様について、治験を例にとって説明した図である。図1においてブロック1は医薬品メーカー、ブロック2は治験薬流通機関、ブロック3は病院に代表される医療機関、ブロック4は治験薬管理機関を示す。なお、ここにおける治験薬流通機関2と治験薬管理機関4とは、同一業者によって運営されても構わない。治験薬管理機関4は、治験全般の企画及びスケジューリングを含めた管理を行う機関であって、治験薬流通機関2に対して、治験薬の医療機関3への配送を指示したり、治験を実施する医療機関3に対して、被験者のランダム化、治験薬への管理番号の付与(発番)等を行う。また、治験中に重篤な副作用が発生した場合等には、EK(Emergency Keycode)開示結果の提示が行われる場合もある。一方
、医療機関3から治験薬管理機関4には、被験者を治験に組み入れるための症例登録、治験薬の受領登録や、治験中におけるEKの開示の指示等が行われる。これらの処理に基づいて、治験が準備・実行される。
【0035】
ここで、上述のように、医薬品メーカー1が生産した治験薬5は、治験薬流通機関2に配送される。その際、治験薬5には、厳しい温度管理が求められるため、治験薬5は移動中の温度管理が可能な環境維持運搬手段としての保冷コンテナ6に収納された状態で治験薬流通機関2に配送される。そして、治験薬流通機関2においては、治験薬5は環境維持保管手段としての冷蔵保管庫7にて温度管理がなされた状態で保管される。そしてまた、この期間中に、科学的な臨床試験を可能とし、治療内容の盲検化とランダム化を行うため、治験薬管理機関4からの情報に基づいて、治験における各被験者の群について治験薬5の割付が行われる。この治験薬5の割付では、盲検を行う場合には、被験者の群の番号に対し治験薬5として実薬と比較対照薬が区別された上で割り付けられる。
【0036】
そして、被験者の群の番号と治験薬5の組み合わせが決定すると、その情報は秘匿状態で管理される。その情報の中身については、医療機関3及び治験の依頼機関である医薬品メーカー1のいずれも知ることができないように管理される。
【0037】
このように、被験者の選定や治験薬5の割付に、医療機関3や医薬品メーカー1ではなく、治験薬流通機関2や治験薬管理機関4が関与するのは、治験薬の確実・適正な流通のためであり、また、盲検等の匿名性の高い手法で治験が行われる場合に、医療機関3や治験の依頼機関である医薬品メーカー1に対して、比較対照薬が投与される被験者が誰であるかが知られないようにして、治験における客観的公正さを保つため等の理由によるものである
【0038】
治験薬流通機関2において治験薬5の割付が完了した後、治験薬管理機関4の指示により、治験薬5は、治験薬流通機関2の冷蔵保管庫7から出庫され、医療機関3にさらに配送される。
【0039】
その際、冷蔵保管庫7から出されて医療機関3に配送されるまでの期間は、治験薬5は、再び保冷コンテナ16に収納された状態で医療機関3まで運搬される。そして、医療機関3においては、治験薬5は保冷コンテナ16から取り出されて医療機関3における冷蔵保管庫17に入庫され保管される。そして、医療機関3において、治験が行われる際には、治験薬5は冷蔵保管庫17から出庫されて、割付けられた被験者の群に投与される。
【0040】
以上のような従来の治験のプロセスにおいて、症例登録、ランダム化、治験薬発番、治験薬受領登録、治験薬割付等の処理は、サーバシステムを用いて情報管理されていたものの、各情報が人による手入力により管理される場合もあり、ヒューマンエラーが生じる危険性も少なくなく、また、入力担当者の負担も大きかった。さらに、医薬品メーカー1から治験薬流通機関2を経由して医療機関3で治験薬5が保管されるまでの流通経路において、治験薬5が予定された態様で流通されたか、あるいは、予定された環境条件下に確実に管理されていたかについては、リアルタイムな情報に基づいて保証されていなかった。
【0041】
次に、本実施例における臨床試験薬管理システム10を用いた、治験薬5の流通・管理の態様について図2に示す。本実施例では、治験薬5(治験薬5自体若しくは治験薬5の梱包材)に固有情報として当該治験薬5の識別No.が記録された識別子としての識別素子5aを取り付ける。また、保冷コンテナ6、16には、識別素子5aに基づく治験薬5の識別No.を検知可能な読取装置としての読取センサ6a、16a及び内部の温度履歴情報の取得が可能な温度センサ6b、16bが取り付けられている。なお、本実施例において治験薬5に識別素子5aを取り付ける工程は識別子付与工程に相当する。
【0042】
そして、読取センサ6a、16a及び温度センサ6b、16bの出力信号は、無線通信により情報管理装置8に送信され、必要に応じ記録される。これにより、所定の識別No
.を有する治験薬5が、保冷コンテナ6、16内に収納されているか否かの情報と、保冷コンテナ6、16内の温度履歴情報が情報管理装置8においてリアルタイムに記録可能となっている。この工程は情報収集工程及び情報記憶工程に相当する。その結果、医薬品メーカー1から治験薬流通機関2へ、治験薬流通機関2から医療機関3への配送中に治験薬5が保冷コンテナ6、16内に確実に収納されていることが検知可能となり、また、保冷コンテナ6、16内の温度履歴が記録可能となっている。また、医療機関3から治験薬流通機関2へ治験薬を回収する場合においても、配送中に治験薬5が保冷コンテナ16内に確実に収納されていることが検知可能となり、また、保冷コンテナ16内の温度履歴が記録可能となっている。なお、医療機関3から治験薬流通機関2へ治験薬を回収する場合であっても、再使用の可能性がない場合には、必ずしも治験薬5の保冷コンテナ16への収納状態の検知や、保冷コンテナ16内の温度履歴の記録は必要ではない。
【0043】
また、本実施例では、治験薬流通機関2及び医療機関3に備えられている冷蔵保管庫7、17にも識別素子5aによる治験薬5の識別情報を検知可能な読取センサ7a、17a及び温度履歴情報の取得が可能な温度センサ7b、17bが取り付けられている。そして、読取センサ7a、17a及び温度センサ7b、17bの出力信号は、無線通信により情報管理装置8にリアルタイムに送信・記録される。これにより、所定の識別No.を有する治験薬5が、冷蔵保管庫7、17内に保管されているか否かの情報と、冷蔵保管庫7、17内の温度履歴情報がリアルタイムに記録可能となっている。この工程も情報収集工程及び情報記憶工程に相当する。なお、上記において識別素子5aと読取センサ7a、17aとは、保管状態検知手段を構成する。識別素子5aと読取センサ6a、16aとは、運搬状態検知手段を構成する。また、温度センサ6b、16bは、運搬環境検知手段に相当する。また、温度センサ7b、17bは、保管環境検知手段に相当する。
【0044】
ここで、識別素子5aは、例えばICタグやRFIDタグ(アクティブ方式及びパッシブ方式の双方を含む)であってもよく、この場合には読取センサ6a、16a、7a、17aはRFIDリーダーであってもよい。また、識別素子5a及び、読取センサ6a、16a、7a、17aは、互いにブルートゥース(登録商標)等の近距離ワイヤレス通信が可能な機器で構成してもよい。また、識別素子5aは、治験薬5の識別NO.が識別可能
な磁界や光を発信するデバイスであってもよく、この場合には読取センサ6a、16a、7a、17aは磁気センサや光センサであってもよい。さらに、識別素子5aはアクティブに電磁界や光等の信号を発信するものでなくても良く、例えば、バーコードやQRコード(登録商標)が印刷されたラベル等でもよい。この場合には読取センサ6a、16a、7a、17aはバーコードリーダーやQRコード(登録商標)リーダーであってもよい。
【0045】
また、本実施例では前述のように、読取センサ6a、16a、7a、17a及び温度センサ6b、16b、7b、17bには通信機能を付け、情報管理装置8に治験薬5の識別No.及び所在に関する情報と温度履歴情報とをリアルタイムに送信し、情報管理装置8において各情報を受信・記録した。しかしながら、この他、読取センサ6a、16a、7a、17a及び温度センサ6b、16b、7b、17b自体、または、保冷コンテナ6、16及び冷蔵保管庫7、17に記憶機能を備えて各情報を独立に記録・蓄積するようにしてもよい。
【0046】
本実施例によれば、治験薬5が医薬品メーカー1により製造・出荷(治験薬流通機関2へ配送)された後の、医薬品メーカー1から治験薬流通機関2までの配送過程、治験薬流通機関2から医療機関3までの配送過程において、治験薬5が確実に、保冷コンテナ6、16に格納され、適切な温度管理がなされていたか否かが確認可能となる。また、治験薬流通機関2における保管過程、医療機関3における保管過程において、治験薬5が確実に、冷蔵保管庫7、17に格納され、適切な温度管理がなされていたか否かが確認可能となる。
【0047】
図3は、情報管理装置8のハードウェア構成を示す概略構成図である。情報管理装置8は、図3に示すように、Central Processing Unit(CPU)80a、Random Access Memory(RAM)80b、Hard Disk Drive(HDD)80c、例えばNetwork Interface Card(NIC)80d等のネットワークインターフェース機器を備えるコンピュータシステムから構成される。HDD80cにOS(Operating System)やアプリケーションソフトウェアのプログラムが格納されており、CPU80aがこれらのプログラムを実行することで、本明細書で説明する機能が提供される。なお、情報管理装置8は1台のコンピュータによって構成される必要はなく、複数台のコンピュータがネットワークを介して連携することで実現されてもよい。
【0048】
図4には、本実施例の臨床試験薬管理システム10において管理された、治験薬5の管理情報の例を示す。本実施例では、図に示すように治験薬5の管理情報を記録表の形で管理し表示することが可能である。図中、第1列には、識別素子5aに付与された固有情報である識別No.である。第2列は、各識別素子5aが取り付けられた治験薬の治験薬N
o.である。この治験薬No.は治験薬5の薬剤の種類毎に付与された番号であり、臨床
試験薬情報に相当する。第3列は、被験者No.である。この被験者No.は被験者毎または被験者の群毎に設けられた管理番号であり被験者識別情報に相当する。また、被験者No.は図4に示すように、各被験者に投与される治験薬5が識別可能な態様で、各被験
者に付与されるようにしてもよい。第4列は、盲検における実薬、比較対照薬の別を示す欄である。
【0049】
このように、本実施例では、盲検化試験において、治験薬No.、被験者No.、が識別素子5aの識別No.に関連づけられて、情報管理装置8において記憶されている。よって、所定の識別No.の識別素子5aが取り付けられた治験薬5が、何れの治験薬5であり、何れの被験者に投与されるかという情報を、識別素子5aの識別No.を読み取る
という簡易な作業により収集・管理することが可能である。また、各識別No.の治験薬5における実薬、比較対照薬の区別も行うことが可能である。但し、実薬/比較対照薬の区別は、被験者はもちろん、医薬品メーカー1、医療機関3に対しても秘匿されるため、当該情報については閲覧制限がかけられる。
【0050】
次に、図5には、図4に示した、治験薬No.、被験者No、実薬/比較対照薬の区別に加えて、各識別素子5aが取り付けられた治験薬5の保管運搬状況、環境状況について関連づけて管理する場合の管理情報を記録表の形で示す。保管運搬状況は、医薬品メーカー1から、治験薬5が保冷コンテナ6に格納されて配送開始してから、医療機関3において冷蔵保管庫17内に保管される迄の状況において異常がなかったか否かの情報である。これは、例えば、保冷コンテナ6、16あるいは、冷蔵保管庫7、17から不用意に外部に出された状態で放置されたり、冷蔵保管庫7、17に異常に長い時間格納されていたというような運搬上・保管上の異常がないか否かの情報である。
【0051】
環境状況は、医薬品メーカー1から、治験薬5が保冷コンテナ6に格納されて配送開始してから、医療機関3において冷蔵保管庫17内に保管される間の流通経路において治験薬5が晒される環境に異常がなかったか否かの情報である。これは、例えば、保冷コンテナ6、16、あるいは、冷蔵保管庫7、17内の温度が許容範囲を超えて昇温または降温したりというような環境管理上の異常がないか否かの情報である。これの情報管理により、治験の準備が問題なく進捗しているかの他、各識別素子5aが取り付けられた治験薬5が治験に使用可能か否かを、より正確に判断することが可能となる。この処理は本実施例において可否判断補助工程に相当する。
【0052】
図6は、保管運搬状況のOK、NGを判定するための情報の一例を示す。図6に示す情
報によれば、当該情報に係る治験薬5は、時刻t1まで医薬品メーカー1の冷蔵保管庫(不図示)内に保管され、時刻t1から時刻t2までの間は保冷コンテナ6内に格納された状態で運搬されたことが明確である。そして、時刻t2から時刻t3までの間は治験薬流通機関2の冷蔵保管庫7内に保管され、時刻t3から時刻t4の間は保冷コンテナ16内に格納された状態で運搬され、時刻t4から時刻t5までの間には、医療機関3における冷蔵保管庫17内に保管され、時刻t5に出庫され、時刻t6に被験者に投与されたことが明確である。図6に示したような、治験薬5の保管状態、運搬状態と時間との関係を示す情報は本実施例において保管運搬情報に相当する。
【0053】
図7は、環境状況のOK、NGを判定するための情報の一例を示す。図7に示す情報によれば、治験薬5は、医薬品メーカー1の冷蔵保管庫(不図示)から一旦出庫され、保冷コンテナ6に積み換えられる時刻t1、冷蔵保管庫7から出庫され保冷コンテナ16内に積み換えられる時刻t3の直後の時間において温度が高い状況が見られる。同様に、保冷コンテナ6から治験薬流通機関2の冷蔵保管庫7内に積み換えられる時刻t2、保冷コンテナ16から医療機関3における冷蔵保管庫17内に積み換えられる時刻t4の直後の時間においても温度が高い状況が見られる。図7に示したような、治験薬5の運搬中及び保管中の環境条件に関する情報は本実施例において環境情報に相当する。
【0054】
そして、冷蔵保管庫7から出庫され保冷コンテナ16内に積み換えられる時刻t3の直後では許容範囲を短時間超えた事実が確認できる。このように情報管理装置8には、各治験薬5が、被験者への投与前にどのような保管運搬状況及び環境情報に曝されたかの情報が記憶されており、治験の管理者は、これらの情報を用いて、治験薬5の治験への使用の可/不可を判断することができる。なお、図5の管理情報においては、各識別No.における保管運搬状況、環境状況のOK/NG欄をクリックすることで、図6または図7に示した詳細な情報を閲覧できるようにしてもよい。また、図7に示したような、各治験薬5が、被験者への投与前にどのような保管運搬状況及び環境情報に曝されたかの情報は、必ずしもグラフ化される必要はなく、例えば、温度の履歴情報がテキストで表示されるようにしてもよいし、治験薬5が温度の許容範囲を超えた時間帯のみ、あるいは時間帯と温度とを表示するようにしてもよい。
【0055】
図8には、図4に示した管理情報に加え、第7列に、各治験薬5の試験への使用可否についての判断結果を示す例を記録表の形で示す。この使用可否の欄は、図6及び図7に示したような情報に基づいて、使用可否を情報管理装置8が算出するものである。この判断のプロセスについては特に制限はないが、図6の保管運搬状況の情報において、各保冷コンテナ6、16及び、冷蔵保管庫7、17における格納時間の合計値が所定の閾値以下であること等の条件であってもよい。あるいは、図7の環境状況の情報において、許容温度範囲から外れた温度差が所定温度以内で、外れている期間の合計が所定時間以内である等の条件であってもよい。この使用可否の判断については、治験依頼者による最終判断が必要であるため、治験依頼者が最終判断するための参考情報としての位置づけとなる。ここで、各治験薬5の試験への使用可否についての判断結果を示す処理は、本実施例において可否判断補助工程に相当する。
【0056】
次に、図9には、本実施例にかかる臨床試験薬管理システム10の機能ブロック図を示す。臨床試験薬管理システム10は、上述したように、治験薬5を環境条件を維持しつつ保管する環境維持保管手段(7、17)を有する。そして、環境維持保管手段(7、17)には、環境条件に関する情報を取得する保管環境検知手段(7b、17b)と、治験薬5が環境維持保管手段(7、17)によって保管されていることを検知する保管状態検知手段(7a、17a)が設けられる。また、臨床試験薬管理システム10は、同様に、治験薬5を当該治験薬に応じた環境条件を維持しつつ運搬することが可能な環境維持運搬手段(6、16)を有する。そして、環境維持運搬手段(6、16)には、環境条件に関す
る情報を取得する運搬環境検知手段(6b、16b)と、治験薬5が環境維持運搬手段(6、16)によって運搬されていることを検知する運搬状態検知手段(6a、16a)が設けられる。
【0057】
そして、前述したように、環境維持保管手段は、一例として冷蔵保管庫7、17によって実現される。保管環境検知手段は、一例として温度センサ7b、17bによって実現される。保管状態検知手段は、一例として読取センサ7a、17aと識別素子5aとによって実現される。環境維持運搬手段は、一例として保冷コンテナ6、16によって実現される。運搬環境検知手段は、一例として温度センサ6b、16bによって実現される。運搬状態検知手段は、一例として読取センサ6a、16aと識別素子5aとによって実現される。
【0058】
また、臨床試験薬管理システム10は情報管理装置8を有し、情報管理装置8には、治験薬5の使用可否の判断を補助する可否判断補助部8aが設けられる。
【0059】
また、本実施例における臨床試験薬管理システム10は、図4図8に示した管理情報の記録表及び、グラフを表示する閲覧装置としての表示部9aを有する。これにより、治験の管理者は、治験の進捗状況を俯瞰的に確認することが可能となる。なお、本実施例において、記録表及びグラフは所定様式で自動作成される。また、この表示部9aは、情報管理装置8を構成するコンピュータに直接接続され、コンピュータの設置場所において記録表及びグラフを確認可能としてもよいし、ネットワークを経由して遠隔地において確認可能としてもよい。遠隔地において管理情報を表示可能とすることで、治験の関係者が、現場に赴かずとも、任意の場所において治験の進捗状況及び異常の有無を確認することが可能である。
【0060】
また、本実施例における臨床試験薬管理システム10は、予定情報記憶部8bを有する。この予定情報記憶部8bには、治験の開始前に、治験に使用する予定の治験薬5の情報が記憶される。また、治験薬5が医薬品メーカー1から出荷されてから医療機関3に配送され、被験者に投与されるまでの保管運搬状況と時間との関係の予定情報、すなわち図6に示したグラフの予定に係る情報が記憶される。さらに、治験薬5の運搬中及び保管中の環境状況の予定情報、すなわち図7に示したグラフの予定に係る情報が記憶される。
【0061】
そして、これらの予定情報と、実際の治験薬5の保管運搬状況と時間との関係または、実際の治験薬5の運搬中及び保管中の環境状況の情報との相違が所定範囲以上になった場合には、警告部9bによって治験の管理者に警告を発するようにしてもよい。なお、ここにおいて、治験薬5の情報、治験薬5の保管運搬状況と時間との関係の予定情報、治験薬5の運搬中及び保管中の環境状況の予定情報は、予め情報管理装置8に入力しておいてもよいし、最適な過去の実際の例を予定情報として記憶しておいても構わない。これらの予定情報を準備する工程は、本実施例において予定情報収集工程に相当する。
【0062】
図10及び図11は、この場合の詳細な処理内容について説明するための図である。図10は、保管運搬状況の予定情報と、実際の治験薬5の保管運搬状況の情報との差の例を示したグラフである。この保管運搬状況の予定情報は保管運搬予定情報に相当する。図10では、保管運搬状況の予定情報としては、例として、治験薬流通機関2へ到着予定時刻t2、医療機関3への到着予定時刻t4について示す。図10では、治験薬流通機関2への実際の到着時刻t2は、到着予定時刻t2に対して遅れているが、その差は閾値以下であるので、警告部9bからの警告は出さない。
【0063】
一方、医療機関3への実際の到着時刻t4は、到着予定時刻t4よりかなり遅れており、その差が閾値を超えている。この場合には、全体のスケジュールに影響を及ぼす可能
性があり、且つ、長時間の運搬の振動等が、治験薬5の品質に悪影響を及ぼす危険性があるので、警告部9bから警告を発する。なお、図10において、例えば、治験薬流通機関2に治験薬5が到達し、冷蔵保管庫7に積み換えた際に、予定していた識別No.と異なる識別No.の治験薬5が届いているといった状況も考えられる。この場合は、臨床試験薬情報と臨床試験薬予定情報との間の相違が許容範囲を超えていることに相当するので、この場合も警告部9bから警告を発することになる。なお、この警告の内容は特に制限はないが、例えば、治験の管理者への警告メールの送付、表示部9aにおけるアラート画面の表示等が考えられる。この処理は本実施例において警告工程に相当する。
【0064】
図11は、環境状況としての温度Tの予定情報と、実際の温度Tの情報との差を示したグラフである。この環境状況としての温度Tの予定情報は環境予定情報に相当する。図11では、温度Tの予定情報は破線で示される。そして、特に実際の温度Tの情報と比較する予定情報としては、例として、医薬品メーカー1からの配送開始時t1における保冷コンテナ6内の温度T(t1)について示す。また、治験薬流通機関2から医療機関3への配送開始時t3における保冷コンテナ16内の温度T(t3)、医療機関3への到達時t4における冷蔵保管庫17内の温度T(t4)について示す。
【0065】
図11では、医薬品メーカー1からの配送開始時t1における保冷コンテナ6内の温度T(t1)は、予定温度T(t1)より高くなっているが、その差は閾値内である。治験薬流通機関2から医療機関3への配送開始時t3における保冷コンテナ16内の温度T(t3)は、予定温度T(t3)よりかなり高くなっており、閾値を超えている。そして、医療機関3への到達時t4における冷蔵保管庫17の温度T(t4)については、予定温度T(t4)より高くなっているが、その差は閾値より小さい。よって、この場合には、治験薬5が保冷コンテナ16において過剰に高い温度に曝される危険性があるので、時刻t3において警告を発するようにする。治験の管理者は、この警告を受けて、保冷コンテナ16内を急冷する等の措置を講じることができる。これにより、治験薬5が治験において使用不可になってしまうような事態を事前に回避することができ、治験をより確実に進行させることが可能となる。
【0066】
なお、図10図11に示した例では、実際に、t1、t2等の各時点において、保管運搬状況や環境状況の実際の情報が、予定情報と大きく異なる場合に、警告を発することとした。この他、t1、t2等の各時点において、保管運搬状況や環境状況の実際の情報が、予定情報と大きく異なる危険性がある場合に、より早期に警告を発するようにしてもよい。例えば、図10の例では、予定情報と実際の情報を比較する時刻を治験薬流通機関2や医療機関3に到達する時刻ではなくて、運搬中の中間点の時刻について設定しておいてもよい。
【0067】
図11の例では、治験薬5が治験薬流通機関2から配送開始される時刻t3より前の時刻における保冷コンテナ16内の温度について予定温度Tを設定しておき、治験薬5を積み換える前の実際の保冷コンテナ16内の温度Tと比較するようにしてもよい。そうすることで、治験薬5が治験に使用不可になってしまうような事態をより確実に回避することができ、治験をさらに確実に進行させることが可能となる。なお、この場合の処理は本実施例において、臨床試験薬予定情報と臨床試験薬情報、保管運搬予定情報と保管運搬情報、または、環境予定情報と環境情報の少なくともいずれかの間の相違が所定範囲以上となり、あるいは所定範囲以上となることが予測された場合に、警告を発することに相当する。
【0068】
なお、上記の実施例においては、治験薬5に求められている環境状況が、治験薬5の周囲温度である例について説明したが、本発明は、医薬品5の管理に求められている環境状況が他の環境項目である場合に適用されてもよい。例えば、湿度、照度、衝撃、振動、気
圧または、これらに温度を含めた条件の組合せを、治験薬5の管理に求められている環境状況としてもよい。
【0069】
また、上記の実施例における処理は、可能な限り、予め定められたプログラムに基づいて、上記した各サーバによってシステム的に自動処理されるようにしてもよいが、本発明は、上記の実施例に係る処理の一部を人的資源によってマニュアルで実行する場合をも含む趣旨である。また、上記の実施例の説明においては、臨床試験として治験が行われる場合を例にとって説明したが、本発明は、臨床研究が行われる場合に適用されても構わない。
【0070】
なお、上記の本実施例においては、医薬品メーカー1と治験薬流通機関2、治験薬流通機関2と医療機関3の間の治験薬5の配送時には、保冷コンテナ6、16を用いて治験薬5の温度管理を行うこととしたが、本発明における環境維持運搬手段はこれに限られない。例えば、冷蔵車の冷蔵庫、冷凍車の冷凍庫、保冷専用車両の荷台等に直接、治験薬5を収納して運搬しても構わない。しかしながら、この場合には、冷蔵車、冷凍車と、冷蔵保管庫7、17の間の治験薬5の積み換え時間、温度を管理し、記録可能としておくことが望ましい。
【符号の説明】
【0071】
1・・・医薬品メーカー
2・・・治験薬流通機関
3・・・医療機関
4・・・治験薬管理機関
5・・・医薬品
5a・・・識別素子
6、16・・・保冷コンテナ
6a、16a・・・読取センサ
6b、16b・・・温度センサ
7、17・・・冷蔵保管庫
7a、17a・・・読取センサ
7b、17b・・・温度センサ
8・・・情報管理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12