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特開2023-50779修飾ベクターの作製方法、及びベクターの修飾方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050779
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】修飾ベクターの作製方法、及びベクターの修飾方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/864 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161058
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(71)【出願人】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】前田 博文
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆英
(72)【発明者】
【氏名】大成 果乃子
(72)【発明者】
【氏名】北野 光昭
(72)【発明者】
【氏名】水上 浩明
(72)【発明者】
【氏名】卜部 匡司
(57)【要約】
【課題】ベクターを改変や前処理することなく、ガラクトサミン構造を有するリガンドを簡便に導入することができる、生体内において肝臓選択的輸送が可能な、修飾ベクターの作製方法及びベクターの修飾方法、並びに、これらにより得られた、生体内で適度な血中安定性を示す修飾ベクター、及びその用途としての生体内肝臓選択的輸送体及び血中濃度安定化剤を提供すること。
【解決手段】ベクターにおける官能基に、前記官能基と結合可能な官能基(A)と、リガンド化合物と結合可能な官能基(B)と、を有するリンカー化合物における、前記官能基(A)を結合させる工程と、前記官能基(B)に、前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)を有する前記リガンド化合物における、前記官能基(C)を結合させる工程と、を含み、前記リガンド化合物が、ガラクトサミン構造を有することを特徴とする、修飾ベクターの作製方法、及びベクターの修飾方法である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクターにおける官能基に、
前記官能基と結合可能な官能基(A)と、リガンド化合物と結合可能な官能基(B)と、を有するリンカー化合物における、前記官能基(A)を結合させる工程と、
前記官能基(B)に、
前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)を有する前記リガンド化合物における、前記官能基(C)を結合させる工程と、
を含み、
前記リガンド化合物が、ガラクトサミン構造を有することを特徴とする、修飾ベクターの作製方法。
【請求項2】
前記ガラクトサミン構造が、N-アセチルガラクトサミン構造である、請求項1に記載の作製方法。
【請求項3】
前記ベクターにおける官能基が、アミノ基、グアニジノ基、水酸基、カルボキシル基、及びインドール基のいずれかである、請求項1又は2に記載の作製方法。
【請求項4】
前記ベクターにおける官能基が、リジン残基、アルギニン残基、チロシン残基、セリン残基、スレオニン残基、トリプトファン残基における官能基である、請求項1から3のいずれかに記載の作製方法。
【請求項5】
前記官能基(A)が、スクシンイミジル基である、請求項1から4のいずれかに記載の作製方法。
【請求項6】
前記官能基(B)が、アジド基、アルキニル基、アルケニル基、カルボニル基、ホスフィン基、テトラジン基、ヒドラジン基、及びヒドロキシルアミン基のいずれかである、請求項1から5のいずれかに記載の作製方法。
【請求項7】
前記リンカー化合物の重量平均分子量が5000以下である、請求項1から6のいずれかに記載の作製方法。
【請求項8】
前記リンカー化合物が、ポリエチレングリコール基を有する、請求項1から7のいずれかに記載の作製方法。
【請求項9】
前記ベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、請求項1から8のいずれかに記載の作製方法。
【請求項10】
前記ベクターにおける官能基が、前記アデノ随伴ウイルスベクターのカプシドを構成する官能基である、請求項9に記載の作製方法。
【請求項11】
前記ベクターにおける官能基がアミノ基であり、前記官能基(A)がスクシンイミジル基であり、前記官能基(B)又は(C)がアジド基及び/又はアルキニル基であり、前記リガンド化合物が、ガラクトサミン構造を有する、請求項1から10のいずれかに記載の作製方法。
【請求項12】
前記ベクターにおける官能基がリジン残基における官能基であり、前記官能基(B)又は(C)がアジド基及び/又はアルキニル基であり、前記リガンド化合物が、ガラクトサミン構造を有する、請求項1から11のいずれかに記載の作製方法。
【請求項13】
前記修飾ベクターの血中安定性が、修飾前と比較して高い、請求項1から12のいずれかに記載の作製方法。
【請求項14】
ベクターにおける官能基に、
前記官能基と結合可能な官能基(A)と、リガンド化合物と結合可能な官能基(B)と、を有するリンカー化合物における、前記官能基(A)を結合させる工程と、
前記官能基(B)に、
前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)を有する前記リガンド化合物における、前記官能基(C)を結合させる工程と、
を含み、
前記リガンド化合物が、ガラクトサミン構造を有することを特徴とする、ベクターの修飾方法。
【請求項15】
修飾されたベクターの血中安定性が、修飾前と比較して高い、請求項14に記載のベクターの修飾方法。
【請求項16】
ガラクトサミン構造を含むリガンド部を有し、
リンカーを介して、前記リガンド部と、ベクターと、が結合しており、
前記リンカーは、アミド結合により前記ベクターと結合していることを特徴とする修飾ベクター。
【請求項17】
請求項16に記載の修飾ベクターを含むことを特徴とする、肝臓選択的輸送体。
【請求項18】
請求項16に記載の修飾ベクターを含むことを特徴とする、血中濃度安定化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾ベクターの作製方法、及びベクターの修飾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療には、ベクターが広く使われているが、ベクターの生体内における標的組織への移行性が十分ではないことなどが課題である。
この課題を解決する方法として、ベクターを構成するタンパク質の改変などが行われているが、生体内で薬効を示すための十分な効果が得られていない。
【0003】
そこで、近年、ベクターを化学修飾し、ベクターに機能を高めるためのリガンドを導入する方法が開発されてきたが(非特許文献1、特許文献1など)、この方法では、ベクター上の官能基と結合させる部位と機能を高めるためのリガンドとが一体型の試薬が使用されているため、入手できる試薬には制限があり、有効な方法とは言い難い。
【0004】
また他の方法として、2ステップで化学修飾する方法が報告されているが(特許文献2など)が、この方法は、システイン残基を利用する方法であり、化学修飾前に還元処理でシステイン残基を遊離させる必要があるため、簡便な方法とは言い難い。またこの還元処理によって、ベクターが分解している可能性がある。
【0005】
更に他の方法としては、ベクターを改変してシステイン残基を変異導入した後に化学修飾する方法が報告されているが(非特許文献2など)、変異導入の手間がかかるため、簡便な方法とは言い難い。
【0006】
一方、ベクターにガラクトサミン構造を有するリガンドを1ステップで導入する方法が報告されているが、リガンド調製に煩雑で多くのステップが必要であるため、産業上有効な方法とは言い難い。また、ガラクトサミン構造を有するリガンドは、肝臓に発現するアシアロ糖タンパク質受容体と結合することが知られているが、ガラクトサミン構造を化学修飾したベクターの生体内における肝臓選択的輸送機能は示されていない(特許文献1や非特許文献3など)。本発明の技術分野では、試験管内でのデータのみで結論付けることは十分ではなく、生体内のデータにより確認することが重要であり、さらに、生体内でのデータは必ずしも試験管内でのデータと一致しない。
また、肝臓選択的輸送を達成するためには、適度な血中安定性を実現することが重要であると考えられるが、これまでに、生体内で適度な血中安定性を示す修飾ベクターは報告されていない。
【0007】
したがって、ベクターを改変や前処理することなく、ガラクトサミン構造を有するリガンドを簡便に導入することができる、生体内において肝臓選択的輸送が可能な、修飾ベクターの作製方法及びベクターの修飾方法、並びに、これらにより得られた、生体内で適度な血中安定性を示す修飾ベクターは全く知られておらず、これらの提供が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2021/005210号
【特許文献2】欧州特許出願公開第3461836号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Biotechnol. Bioeng. 2005 92:24-34
【非特許文献2】small 2013 9 3:421-429
【非特許文献3】Chem.Sci. 2020 11:1122-1131
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、ベクターを改変や前処理することなく、ガラクトサミン構造を有するリガンドを簡便に導入することができる、生体内において肝臓選択的輸送が可能な、修飾ベクターの作製方法及びベクターの修飾方法、並びに、これらにより得られた、生体内で適度な血中安定性を示す修飾ベクター、及びその用途としての生体内肝臓選択的輸送体及び血中濃度安定化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ベクターにおける官能基に、前記官能基と結合可能な官能基(A)と、リガンド化合物と結合可能な官能基(B)と、を有するリンカー化合物における、前記官能基(A)を結合させる工程と、前記官能基(B)に、前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)を有する前記リガンド化合物における、前記官能基(C)を結合させる工程と、を含み、前記リガンド化合物が、ガラクトサミン構造を有する方法により、ベクターを改変や前処理することなく、ガラクトサミン構造を有するリガンドを簡便に導入することができる、生体内において肝臓選択的輸送が可能な、修飾ベクターの作製方法及びベクターの修飾方法、並びに、これらにより得られた、生体内で適度な血中安定性を示す修飾ベクター、及びその用途としての生体内肝臓選択的輸送体及び血中濃度安定化剤が提供できることを知見した。
【0012】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下のとおりである。即ち、
<1> ベクターにおける官能基に、前記官能基と結合可能な官能基(A)と、リガンド化合物と結合可能な官能基(B)と、を有するリンカー化合物における、前記官能基(A)を結合させる工程と、前記官能基(B)に、前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)を有する前記リガンド化合物における、前記官能基(C)を結合させる工程と、を含み、前記リガンド化合物が、ガラクトサミン構造を有することを特徴とする、修飾ベクターの作製方法である。
<2> ベクターにおける官能基に、前記官能基と結合可能な官能基(A)と、リガンド化合物と結合可能な官能基(B)と、を有するリンカー化合物における、前記官能基(A)を結合させる工程と、前記官能基(B)に、前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)を有する前記リガンド化合物における、前記官能基(C)を結合させる工程と、を含み、前記リガンド化合物が、ガラクトサミン構造を有することを特徴とする、ベクターの修飾方法である。
<3> ガラクトサミン構造を含むリガンド部を有し、リンカーを介して、前記リガンド部と、ベクターと、が結合しており、前記リンカーは、アミド結合により前記ベクターと結合していることを特徴とする修飾ベクターである。
<4> 前記<3>に記載の修飾ベクターを含むことを特徴とする、肝臓選択的輸送体である。
<5> 前記<3>に記載の修飾ベクターを含むことを特徴とする、血中濃度安定化剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、ベクターを改変や前処理することなく、ガラクトサミン構造を有するリガンドを簡便に導入することができる、生体内において肝臓選択的輸送が可能な、修飾ベクターの作製方法及びベクターの修飾方法、並びに、これらにより得られた、生体内で適度な血中安定性を示す修飾ベクター、及びその用途としての生体内肝臓選択的輸送体及び血中濃度安定化剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1における、第2の工程の後のSDS-PAGEの結果を示す図である。
図2図2は、実施例2における、第1の工程の後と第2の工程の後のSDS-PAGEの結果を示す図である。
図3図3は、実施例3における、肝臓細胞株への感染性を示す図である。
図4図4は、実施例3における、腎臓細胞株への感染性を示す図である。
図5図5は、実施例4における、血中濃度測定結果を示す図である。
図6A図6Aは、実施例4における、肝臓のVenus発現細胞を示す図(低倍)である。
図6B図6Bは、実施例4における、肝臓の抗GFP抗体陽性細胞を示す図(低倍)である。
図6C図6Cは、実施例4における、肝臓のDAPI陽性細胞、Venus発現細胞、及び抗GFP抗体陽性細胞を示す図(低倍)である。
図6D図6Dは、実施例4における、肝臓のVenus発現細胞を示す図(高倍)である。
図6E図6Eは、実施例4における、肝臓の抗GFP抗体陽性細胞を示す図(高倍)である。
図6F図6Fは、実施例4における、肝臓のDAPI陽性細胞、Venus発現細胞、及び抗GFP抗体陽性細胞を示す図(高倍)である。
図7A図7Aは、実施例4における、脳のVenus発現細胞を示す図(低倍)である。
図7B図7Bは、実施例4における、脳の抗GFP抗体陽性細胞を示す図(低倍)である。
図7C図7Cは、実施例4における、脳のDAPI陽性細胞、Venus発現細胞、及び抗GFP抗体陽性細胞を示す図(低倍)である。
図7D図7Dは、実施例4における、脳のVenus発現細胞を示す図(高倍)である。
図7E図7Eは、実施例4における、脳の抗GFP抗体陽性細胞を示す図(高倍)である。
図7F図7Fは、実施例4における、脳のDAPI陽性細胞、Venus発現細胞、及び抗GFP抗体陽性細胞を示す図(高倍)である。
図8A図8Aは、実施例4における、腎臓のVenus発現細胞を示す図(低倍)である。
図8B図8Bは、実施例4における、腎臓の抗GFP抗体陽性細胞を示す図(低倍)である。
図8C図8CBは、実施例4における、腎臓のDAPI陽性細胞、Venus発現細胞、及び抗GFP抗体陽性細胞を示す図(低倍)である。
図8D図8Dは、実施例4における、腎臓のVenus発現細胞を示す図(高倍)である。
図8E図8Eは、実施例4における、腎臓の抗GFP抗体陽性細胞を示す図(高倍)である。
図8F図8Fは、実施例4における、腎臓のDAPI陽性細胞、Venus発現細胞、及び抗GFP抗体陽性細胞を示す図(高倍)である。
図9A図9Aは、実施例4における、肝臓のVenus発現割合を示す図である。
図9B図9Bは、実施例4における、肝臓の抗GFP抗体陽性割合を示す図である。
図10A図10Aは、実施例4における、脳のVenus発現割合を示す図である。
図10B図10Bは、実施例4における、脳の抗GFP抗体陽性割合を示す図である。
図11A図11Aは、実施例4における、腎臓のVenus発現割合を示す図である。
図11B図11Bは、実施例4における、腎臓の抗GFP抗体陽性割合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(修飾ベクターの作製方法)
前記修飾ベクターの作製方法は、ベクターにおける官能基に、前記官能基と結合可能な官能基(A)と、リガンド化合物と結合可能な官能基(B)と、を有するリンカー化合物における、前記官能基(A)を結合させる第1の工程と、前記官能基(B)に、前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)を有する前記リガンド化合物における、前記官能基(C)を結合させる第2の工程と、を含み、さらにその他の工程を有することができる。
【0016】
前記第1の工程と、前記第2の工程を行う順番としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リンカー化合物に結合可能な多様なリガンドを簡便にベクターに導入することができ、リガンドの選択肢が広がる点から、前記第1の工程の後に、前記第2の工程を行うことが好ましい。
【0017】
<第1の工程>
前記第1の工程は、ベクターにおける官能基に、前記官能基と結合可能な官能基(A)と、リガンド化合物と結合可能な官能基(B)と、を有するリンカー化合物における、前記官能基(A)を結合させる工程である。
【0018】
-ベクター-
前記ベクターとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウイルスベクター、プラスミドベクター、人工染色体ベクター、コスミドベクター、フォスミドベクターなどが挙げられる。
これらの中でも、遺伝子治療に広く使用されている点で、ウイルスベクターが好ましい。
【0019】
前記ウイルスベクターとして用いられるウイルスとしては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、ポリオウイルス、パピローマウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルスなどが挙げられる。
これらの中でも、病原性が低い点で、アデノ随伴ウイルス(AAV)が好ましい。
【0020】
前記ウイルスベクターとして用いられるAAVの血清型としてはAAV1(1型AAV)、AAV2(2型AAV)、AAV3(3型AAV)、AAV4(4型AAV)、AAV5(5型AAV)、AAV6(6型AAV)、AAV7(7型AAV)、AAV8(8型AAV)、AAV9(9型AAV)、AAV10(10型AAV)、AAV11(11型AAV)、AAV12(12型AAV)、AAV13(13型AAV)、AAV14(14型AAV)、及びこれらの改変体などが挙げられるが、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記改変体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、標的細胞の組織特異性(感染する細胞の指向性)向上などのため、遺伝子組み換えにより(野生型AAVを)改変させたAAVなどが挙げられる。
【0021】
--ベクターにおける官能基--
前記ベクターにおける官能基としては、前記ベクターと前記リンカー化合物との反応性の点から、アミノ基が好ましい。
前記ベクターにおける官能基は、前記ベクターと前記リンカー化合物との反応性の点から、リジン残基における官能基が好ましく、リジン残基におけるアミノ基がより好ましい。
【0022】
前記ベクターにおける官能基は、前記ベクター1単体あたり、1つであってもよく、複数であってもよい。
前記ベクター1単体は、前記ベクターが複数のサブユニットから構成される場合は、その集合体や集合体からなる粒子及び粒子状の物質をいう。
前記ベクターが、前記アデノ随伴ウイルス(AAV)である場合は、前記ベクター1単体は、主にVP1とVP2とVP3のモノマーから構成されている。VP1:VP2:VP3の比率は、セロタイプや製造方法によって異なる可能性があるが、例えば5:5:50の比率で構成された60程度のサブユニットからなることが知られている。
前記ベクターが、前記アデノ随伴ウイルス(AAV)である場合は、前記ベクターにおける官能基が、前記アデノ随伴ウイルスのカプシドを構成する官能基であることが好ましい。
【0023】
前記カプシドは、VP1、VP2、VP3などから構成される。
【0024】
-リンカー化合物-
前記リンカー化合物は、前記ベクターにおける官能基と結合可能な官能基(A)と、前記リガンド化合物と結合可能な官能基(B)と、を有し、さらに連結部(D)を有することができる。
前記連結部(D)を有さない場合は、前記ベクターにおける官能基と結合可能な官能基(A)と、前記リガンド化合物と結合可能な官能基(B)と、が直接結合し、前記連結部(D)を有する場合は、前記連結部(D)の一端に前記ベクターにおける官能基と結合可能な官能基(A)が結合し、前記連結部(D)の他端に前記リガンド化合物と結合可能な官能基(B)が結合する態様が好ましい。
【0025】
--ベクターにおける官能基と結合可能な官能基(A)--
前記ベクターにおける官能基と結合可能な官能基(A)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スクシンイミジル基、イソシアネート基、アミノメトキシエチル基、シクロヘキセンスルホンアミド基、カルボニル基、アルデヒド基、不飽和カルボニル基、ジアゾニウムテレフタレート、ハロゲン原子、マレイミジル基、フタルイミジル基、ジアゾベンゼン基、不飽和ニトリル基、アレニル基、脱離基、などが挙げられる。
【0026】
前記脱離基としては、OSOR’若しくはOP(O)(OR’)(R’は炭素数1~6のアルキル基;炭素数4~10のアリール基を表し、ここでの炭素数1~6のアルキル基としては直鎖状又は分岐状のアルキル基、中でもメチル基;エチル基;(n-,i-)プロピル基;(n-,i-,t-)ブチル基が好適な例として挙げられ、また炭素数4~10のアリール基とは、例えばフェニル基;(2-,3-,4-)トリル基;(1-,2-)ナフチル基;2-ピロリル基;2-フリル基;3-チエニル基;2-ピリジル基の5若しくは6員の単環若しくは縮合環からなる芳香族炭化水素基若しくは複素環基をいい、例えばメタンスルホニル基、トルエンスルホニル基、などが挙げられる。
これらの中でも、反応性の点で、スクシンイミジル基が好ましい。
前記官能基(A)は、前記リンカー化合物1分子あたり、1つであってもよく、複数であってもよい。
【0027】
--リガンド化合物と結合可能な官能基(B)--
前記リガンド化合物と結合可能な官能基(B)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アジド基、アルキニル基、アルケニル基、カルボニル基、ホスフィン基、テトラジン基、ヒドラジン基、及びヒドロキシルアミン基などが挙げられる。
これらの中でも、反応性の点で、アルキニル基、又はアジド基が好ましく、アルキニル基がより好ましい。
前記官能基(B)は、前記リンカー化合物1分子あたり、1つであってもよく、複数であってもよい。複数の場合は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アジド基及びアルキニル基などが挙げられる。
【0028】
--連結部(D)--
前記連結部(D)は、前記官能基(A)と前記官能基(B)とを連結することができ、前記官能基(A)、前記官能基(B)、及び前記リガンド化合物と反応しない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0029】
前記連結部(D)は、直鎖構造であってもよいし、分岐構造であってもよいが、前記直鎖構造が好ましい。
前記連結部(D)は、親水性であってもよいし、疎水性であってもよいし、両親媒性であってもよいが、前記親水性が好ましい。
前記連結部(D)の長さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記連結部(D)を構成する炭素原子の数などによって調節することができる。
【0030】
前記連結部(D)の化学構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルキレン基を有する構造、カルボニル基を有する構造、エーテル結合を有する構造、カルボン酸エステル結合を有する構造、これらの組合せなどが挙げられる。
前記エーテル結合を有する構造は、鎖状(例えばエチレングリコールなどの直鎖、例えばプロピレングリコールなどの分岐鎖)であってもよいし、環状(テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどを含む構造)あってもよい。
【0031】
前記連結部(D)の具体例としては、アルキレン基、アルキレンオキシ基、ポリ(アルキレンオキシ)基、エステル基、アミド基、ケトン基、これらの組合せなどが挙げられる。
前記アルキレン基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、炭素数1~20のアルキレン基が好ましく、炭素数1~10のアルキレン基がより好ましく、炭素数1~4のアルキレン基がさらに好ましい。
前記アルキレンオキシ基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、炭素数1~100のアルキレンオキシ基が好ましく、炭素数4~100のアルキレンオキシ基がより好ましく、炭素数5~50のアルキレンオキシ基がさらに好ましい。
前記ポリ(アルキレンオキシ)基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、炭素数1~100のポリ(アルキレンオキシ)基が好ましく、炭素数5~50のポリ(アルキレンオキシ)基がより好ましく、炭素数6~40のポリ(アルキレンオキシ)基がさらに好ましい。
前記ポリ(アルキレンオキシ)基におけるアルキレンオキサイド単位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが好ましく、エチレンオキサイドがより好ましい。
【0032】
前記連結部(D)は、血中安定性を向上させる点から、ポリエチレングリコール基が付加されたものであってもよい。
前記連結部(D)における、前記ポリエチレングリコール基の平均繰り返し数の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ベクターと前記リンカー化合物との反応性や、血中安定性の点から、1以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。
前記連結部(D)における、前記ポリエチレングリコール基の平均繰り返し数の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ベクターと前記リンカー化合物との反応性の点から、100以下が好ましく、70以下がより好ましく、50以下がさらに好ましい。
【0033】
前記リンカー化合物の重量平均分子量の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ベクターと前記リンカー化合物との反応性の点から、100以上が好ましく、200以上がより好ましく、300以上がさらに好ましい。
前記リンカー化合物の重量平均分子量の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ベクターと前記リンカー化合物との反応性の点から、10,000以下が好ましく、8,000以下がより好ましく、5,000以下がさらに好ましい。
【0034】
前記リンカー化合物の具体例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジベンゾ[b,f]アゾシン-5(6H)-ヘキサン酸,11,12-ジデヒドロ-ε-オキソ-,2,5-ジオキソ-3-スルホ-1-ピロリジニルエステル,ナトリウム塩:DIBENZ[b,f]azocine-5(6H)-hexanoic acid, 11,12-didehydro-ε-oxo-,2,5-dioxo-3-sulfo-1-pyrrolidinyl ester, sodium salt、4,7,10,13,16-ペンタオキサ-20-アザトリコサノ酸, 23-(11,12-ジデヒドロジベンズ[b,f]アゾシン-5(6H)-イル)-19,23-ジオキソ-,2,5-ジオキソ-1-ピロリジニルエステル:4,7,10,13,16-Pentaoxa-20-azatricosanoic acid, 23-(11,12-didehydrodibenz[b,f]azocin-5(6H)-yl)-19,23-dioxo-,2,5-dioxo-1-pyrrolidinyl esterなどが挙げられる。
【0035】
-ベクターにおける官能基への前記官能基(A)の結合-
前記ベクターにおける官能基への前記官能基(A)の結合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記リンカー化合物と前記ベクターとを含む溶液を混合し反応させる方法、前記リガンド化合物が結合した前記リンカー化合物と前記ベクターとを含む溶液を混合し反応させる方法などが挙げられる。これらの方法の後、グリシン溶液を加えて、さらに反応させる方法であってもよい。
【0036】
前記溶液の溶媒としては、水系溶媒でも有機溶媒でもよく、水系溶媒と有機溶媒との混合溶媒でもよい。
前記水系溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)バッファー、リン酸バッファー、蒸留水などが挙げられる。
前記HEPESバッファー、又はリン酸バッファーのpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、pH4以上pH12以下が好ましく、pH5以上pH11以下がより好ましく、pH6以上pH10以下がさらに好ましく、pH7以上pH9以下が特に好ましい。
前記有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水と相溶性であることが好ましい。例えば、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール性溶媒、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジメチルスルホキシド等の硫黄系溶媒、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒などが挙げられる。
前記水系溶媒と前記有機溶媒の混合比としては、特に制限はなく、不溶性の成分が顕著に生じなければよい。
【0037】
前記リンカー化合物の終濃度(グリシン溶液添加前)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1μM以上200mM以下が好ましく、0.5μM以上100mM以下がより好ましく、5μM以上80mM以下がさらに好ましく、10μM以上50mM以下が特に好ましい。
【0038】
前記ベクターの力価としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1×10vg/μL以上1×10100vg/μL以下が好ましく、1×10vg/μL以上5×1080vg/μL以下がより好ましく、1×10vg/μL以上1×1050vg/μL以下がさらに好ましい。
【0039】
前記グリシン溶液の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1μM以上20M以下が好ましく、0.5μM以上10M以下がより好ましく、5μM以上5M以下がさらに好ましく、10μM以上4M以下が特に好ましい。
【0040】
前記反応の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0℃以上70℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。
前記グリシン溶液添加前の反応の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5分間以上120時間以下が好ましく、30分間以上96時間以下がより好ましく、1時間以上72時間以下がさらに好ましい。
前記グリシン溶液添加後の反応の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5分間以上120時間以下が好ましく、30分間以上96時間以下がより好ましく、1時間以上72時間以下がさらに好ましい。
【0041】
前記ベクターと前記リンカー化合物との結合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アミド結合による結合が好ましい。
【0042】
<第2の工程>
前記第2の工程は、前記官能基(B)に、前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)を有する前記リガンド化合物における、前記官能基(C)を結合させる工程である。
【0043】
-リガンド化合物-
前記リガンド化合物は、前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)と、リガンド部と、を有し、さらに連結部(E)を有することができる。
前記連結部(E)を有さない場合は、前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)と、前記リガンド部と、が直接結合し、前記連結部(E)を有する場合は、前記連結部(E)の一端に前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)が結合し、前記連結部(E)の他端に前記リガンド部が結合する態様が好ましい。
【0044】
--官能基(B)と結合可能な官能基(C)--
前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記官能基(B)がアジド基の場合はホスフィン基、又はアルキニル基が好ましく、前記官能基(B)がアルキニル基の場合はアジド基が好ましく、前記官能基(B)がアルケニル基の場合はテトラジン基、又はアルケニル基が好ましく、前記官能基(B)がカルボニル基の場合はヒドラジン基、又はヒドロキシルアミン基が好ましく、前記官能基(B)がホスフィン基の場合はアジド基が好ましく、前記官能基(B)がテトラジン基の場合はアルケニル基が好ましく、前記官能基(B)がヒドラジン基の場合はカルボニル基が好ましく、前記官能基(B)がヒドロキシルアミン基の場合はカルボニル基好ましい。
前記官能基(C)は、前記リガンド化合物1分子あたり、1つであってもよく、複数であってもよい。複数の場合は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アジド基及びアルキニル基などが挙げられる。
【0045】
--リガンド部--
前記リガンド化合物におけるリガンド部とは、生物における組織や細胞やタンパク質等と親和性等を有する、あるいは親和性を利用してラベル化する物質であり、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記ラベル化とは、ベクターに膜透過性・標的細胞特異性などの機能を付加することであり、前記機能を付加するとは、修飾することを意味する。広義の意味ではリンカーの導入もその他の機能物質を導入しやすくなる足場機能を付加している点で修飾しているといえる。
【0046】
前記リガンド部としては、ガラクトサミン構造を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、さらにその他の構造を有することができる。
【0047】
前記ガラクトサミン構造は、ガラクトサミン残基(官能基)であって、ガラクトサミン分子そのものではない。
また、前記ガラクトサミン構造は、ポリエチレングリコール基や保護基が付加されたものであってもよい。
さらに、ガラクトサミン構造は、炭素原子やヘテロ原子を有する多環状の構造であってもよい。ここでいうヘテロ原子とは、炭素原子以外の原子であり、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、セレン原子、ケイ素原子等を挙げることができる。
【0048】
前記ガラクトサミン構造における、前記ポリエチレングリコール基の平均繰り返し数の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、反応性の点から、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましい。
前記ガラクトサミン構造における、前記ポリエチレングリコール基の平均繰り返し数の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、反応性の点から、100以下が好ましく、70以下がより好ましく、50以下がさらに好ましい。
【0049】
前記保護基とは、糖化合物に含まれる水酸基やアミノ基を保護する置換基であり、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸基の保護基としてはアシル基やカーボネート基やカルバメート基や環状のアセタール基やエーテル基などが挙げられる。前記アシル基としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アセチル基、フェニルアセチル基、ハロゲン化アセチル基、メトキシアセチル基、フェノキシアセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基などが挙げられる。前記カーボネート基としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、t-ブチルカーボネート基、ベンジルカーボネート基などが挙げられる。前記カルバメート基としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フェニルカルバメート基などが挙げられる。前記環状のアセタール基としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メチレンアセタール基、エチリデンアセタール基、アセトナイド基、ベンジリデンアセタール基などが挙げられる。前記エーテル基としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ベンジルエーテル基などが挙げられる。
例えば、アミノ基の保護基としてはアシル基やカルバメート基などが挙げられる。前記アシル基としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アセチル基、フェニルアセチル基、ハロゲン化アセチル基、メトキシアセチル基、フェノキシアセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基などが挙げられる。前記カルバメート基としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、9-フルオレニルメチルカルバメート基、フェニルカルバメート基、t-ブチルカルバメート基などが挙げられる。
これらの保護基の中で、低毒性や入手性の点から、アセチル基が好ましい。
【0050】
前記ガラクトサミン構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、N-アセチルガラクトサミン構造が好ましい。
【0051】
--連結部(E)--
前記連結部(E)は、前記官能基(C)と前記リガンド部とを連結することができ、前記リンカー化合物、及び前記官能基(C)、リガンド部と反応しない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記連結部(E)の構造、及び具体例は、前述のリンカー化合物における連結部(D)と同様である。
【0052】
前記リガンド化合物の重量平均分子量の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、反応性と血中安定性を高める効果の点から、200以上が好ましく、250以上がより好ましい。
前記リガンド化合物の重量平均分子量の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、反応性と感染性の点から、500,000以下が好ましく、300,000以下がより好ましく、200,000以下がさらに好ましく、100,000以下がよりさらに好ましく、10,000以下が特に好ましい。
【0053】
前記リガンド化合物の具体例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2-アジドエチル2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-ガラクトピラノシド:2-Azidoethyl 2-acetamido-2-deoxy-β-D-galactopyranosideなどが挙げられる。
【0054】
-官能基(B)への官能基(C)の結合-
前記官能基(B)への官能基(C)の結合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ベクターにおける官能基への前記官能基(A)の結合で得られた反応物と前記リガンド化合物とを含む溶液を混合し、反応させる方法、前記リンカー化合物と前記リガンド化合物とを含む溶液を混合し、反応させる方法などが挙げられる。
【0055】
前記溶液の溶媒としては、水系溶媒でも有機溶媒でもよく、水系溶媒と有機溶媒との混合溶媒でもよい。
前記水系溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、HEPESバッファー、リン酸バッファー、蒸留水などが挙げられる。
前記HEPESバッファー、又はリン酸バッファーのpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、pH1以上pH12以下が好ましく、pH2以上pH12以下がより好ましく、pH3以上pH11以下がさらに好ましく、pH4以上pH10以下が特に好ましい。
前記有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水と相溶性であることが好ましい。例えば、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール性溶媒、テトラヒドロフラン、1,4ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジメチルスルホキシド等の硫黄系溶媒、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒などが挙げられる。
前記水系溶媒と前記有機溶媒の混合比としては、特に制限はなく、不溶性の成分が顕著に生じなければよい。
【0056】
前記リガンド化合物の終濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01mM以上100mM以下が好ましく、0.1mM以上80mM以下がより好ましく、0.2mM以上50mM以下がさらに好ましい。
【0057】
前記反応の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0℃以上70℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。
前記反応の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5分間以上120時間以下が好ましく、30分間以上96時間以下がより好ましく、1時間以上72時間以下がさらに好ましい。
【0058】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ベクターの調製工程、ベクターの精製工程、還元工程、修飾ベクターの精製工程などが挙げられる。
【0059】
-ベクターの調製工程-
前記ベクターの調製工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、培養細胞などに、ベクターをコードする遺伝子をトランスフェクトし、細胞溶解液、又は細胞上清からベクターを調製する方法などが挙げられる。
【0060】
-ベクターの精製工程-
前記ベクターの精製工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販のキットを用いて精製する方法、細胞溶解液を陽イオンカラムクロマトグラフィー、及び陰イオンカラムクロマトグラフィー、サイズ排除カラムクロマトグラフィー、フィルター、限外ろ過膜を用いて精製する方法などが挙げられる。
【0061】
-還元工程-
前記還元工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ベクターにおける官能基に、前記リンカー化合物における、前記官能基(A)を結合させる工程の後、若しくは前記官能基(B)に、前記ガンド化合物における、前記官能基(C)を結合させる工程の後の反応液に、DTT(ジチオトレイトール)などの還元剤を加える工程、又は、精製工程後の修飾ベクターに、DTTなどの還元剤を加える工程などが挙げられる。
【0062】
-修飾ベクターの精製工程-
前記修飾ベクターの精製工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、陽イオン交換カラムクロマトグラフィー、及び陰イオンカラムクロマトグラフィー、サイズ排除カラムクロマトグラフィー、フィルター、限外ろ過膜を用いて精製する方法などが挙げられる。修飾反応の第1の工程と第2の工程の間で精製してもよく、第2の工程の後で精製してもよい。
【0063】
<修飾ベクター>
前記修飾ベクターは、ガラクトサミン構造を含むリガンド部を有し、リンカーを介して、前記リガンド部と、ベクターと、が結合しており、前記リンカーは、アミド結合により前記ベクターと結合している。
前記修飾ベクターは、前記修飾ベクターの作製方法により得られる。
【0064】
前記リガンド部、及び前記ベクターは、上述のとおりである。
前記リンカーは、前記ベクターに、前記リンカー化合物を結合し、さらにリガンド化合物を結合した際に生じる、前記リンカー化合物由来の構造を有する。
【0065】
前記修飾ベクターの血中安定性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、肝臓選択的輸送効果を向上させる点から、修飾前のベクターの血中安定性と比較して高いことが好ましく、2倍以上であることがより好ましく、3倍以上であることがさらに好ましく、5倍以上であることが特に好ましい。
また、肝臓選択的輸送効果を向上させる点から、修飾前のベクターの血中安定性と比較して、1,000,000倍以下であることが好ましく、500,000倍以下であることがより好ましく、100,000倍以下であることがさらに好ましい。
【0066】
前記血中安定性は、8週齢の雄性C57BL/6J(Jax)マウスに、修飾前のベクター、又は修飾ベクターを、4×1013vg/10mL/kg B.W.の用量で、尾静脈内投与し、4時間後に、ヘパリン含有ヘマトクリット採血管(ヘマトロン7041-02)及び採血針を用いて、尾より微量採血後(10μL以上)、DNeasy Blood & Tissue Kit(69504、Qiagen社)を用いてDNAを50μLの水に溶解して抽出し、採取した血液に含まれる目的タンパク質をコードする核酸配列(目的遺伝子)のベクターゲノム数を、下記のとおり、定量PCR法(Quantstudio3、SYBR Green法)により測定することで決定する。
前記定量PCRには、12.5μLのPowerUp(商標) SYBR(登録商標) Green Master Mix(Thermo Fisher Scientific社)、0.125μLのフォワードプライマー(50μM、配列番号1)、0.125μLのリバースプライマー(50μM、配列番号2)、11.25μLのMilli-Q(登録商標)水、及び10~10倍まで連続希釈した1μLの標準品又は1μLのDNA抽出サンプルからなる試料(合計25μL)を用いる。
上記試料に対してQuantStudio3(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、94℃/15秒(熱変性)、60℃/30秒(アニーリング)、72℃/30秒(伸長反応)を30サイクル繰り返すことによりPCR反応を行う。
前記ベクターが、前記アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである場合は、上記標準品は、pAAV-MCS Expression Vector(0.67μg/μL、TE溶液、Cell Biolabs社)をPvuII(タカラバイオ株式会社)で37℃、2時間消化して直線化したものを使用する。
【0067】
(ベクターの修飾方法)
前記ベクターの修飾方法は、ベクターにおける官能基に、前記官能基と結合可能な官能基(A)と、リガンド化合物と結合可能な官能基(B)と、を有するリンカー化合物における、前記官能基(A)を結合させる第1の工程と、前記官能基(B)に、前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)を有する前記リガンド化合物における、前記官能基(C)を結合させる第2の工程と、を含み、さらにその他の工程を有することができる。
【0068】
ベクターの修飾方法における、前記第1の工程、前記第2の工程、及び前記その他の工程並びに前記修飾ベクターは、前記修飾ベクターの作製方法における記載のとおりである。
【0069】
(肝臓選択的輸送体)
前記肝臓選択的輸送体は、前記修飾ベクターを含み、さらにその他の成分を含むことができる。
前記修飾ベクターは、上述のとおりである。
【0070】
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、界面活性剤、流動化剤、着色剤、安定化剤、pH調整剤などが挙げられる。これらは、1種単独でも2種以上混合して使用してもよい。
【0071】
(血中濃度安定化剤)
前記血中濃度安定化剤は、前記修飾ベクターを含み、さらにその他の成分を含むことができる。
前記修飾ベクターは、上述のとおりである。
【0072】
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、界面活性剤、流動化剤、着色剤、安定化剤、pH調整剤などが挙げられる。これらは、1種単独でも2種以上混合して使用してもよい。
【実施例0073】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
<参考例1:AAV2の作製>
HEK293T細胞(ATCC社)に、PEI(Polysciences社)の培地溶液(1mg/mL、7.5mL)と、蛍光タンパク質GFPのpAAV2(Cell Biolabs社)をVENUS(GenBank:ACQ43955.1)が発現するように改変したpAAV2(1mg/mL、0.5mL、ベクタープラスミド)とpRC-mi342(1mg/mL、1.75mL、パッケージングプラスミド、タカラバイオ株式会社)とpHelper(1mg/mL、0.25mL、ヘルパープラスミド、タカラバイオ株式会社)の培地溶液と、をトランスフェクションし、37℃で8%CO下で4日間培養することでAAV2を産生させた。EDTA(エチレンジアミン四酢酸:Etylenediaminetetraacetic acid)を加えて細胞を剥離した後、遠心分離して細胞ペレットと遠心上清を回収した。
【0075】
<参考例2:AAV2の精製>
参考例1で得られた遠心上清に、40wt%のPEG8000(Sigma-Aldrich社)と2.5MのNaCl水溶液の混合液を加えた後に4℃で16時間静置した。遠心分離後、沈殿層を0.1v/v%TritonX-100(T8787、Sigma-Aldrich社)含有ダルベッコPBS(ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水:Dulbecco’s Phosphate-Buffered Saline)、1M MgCl水溶液、更にエンドヌクレアーゼで処理した。EDTAで反応を停止した後に遠心分離して上清1を回収した。
また、参考例1で得られた細胞ペレットを0.1v/v%TritonX-100(T8787 Sigma-Aldrich社)含有ダルベッコPBS(ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水:Dulbecco’s Phosphate-Buffered Saline)、1M MgCl水溶液、更にエンドヌクレアーゼで処理した。EDTAで反応を停止した後に遠心分離して上清2を回収した。得られた上清1と上清2を混合して、陽イオンカラムクロマトグラフィー(POROS 50HS、Thermo Fisher Scientific社)と陰イオンカラムクロマトグラフィー(POROS 50HQ、Thermo Fisher Scientific社)で精製し、濃縮後、AAV2溶液を得た。
【0076】
得られたAAV2について、下記のとおり、フォワードプライマー(配列番号1)及びリバースプライマー(配列番号2)を用いて、定量PCR法(Quantstudio3、SYBR Green法)により力価測定した結果、4.7×1010vg/μL(1.15mL)であった。
前記定量PCRには、12.5μLのPowerUp(商標) SYBR(登録商標) Green Master Mix(A25742、Thermo Fisher Scientific社)、0.125μLのフォワードプライマー(50μM、配列番号1)、0.125μLのリバースプライマー(50μM、配列番号2)、11.25μLのMilli-Q(登録商標)水、及び10~10倍まで連続希釈した1μLの標準品又は1000倍希釈した1μLのサンプルからなる試料(合計25μL)を用いた。
上記試料に対してQuantStudio3(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、94℃/15秒(熱変性)、60℃/30秒(アニーリング)、72℃/30秒(伸長反応)を30サイクル繰り返すことによりPCR反応を行った。
上記標準品は、pAAV-MCS Expression Vector(0.67μg/μL、TE溶液、Cell Biolabs社)をPvuII(1243A、タカラバイオ株式会社)で37℃、2時間消化して直線化することにより作製した。
【0077】
また、得られたAAV2をMicro BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Sceience社)を用いてタンパク定量したところ、271μg/mL(1.15mL)であった。
【0078】
<実施例1:AAV2の修飾1>
(1-1 HEPESバッファーの調製)
1MのHEPES(gibco社)水溶液を水で希釈し、1MのNaOH水溶液を加えてpH8.3の50mMのHEPES水溶液(HEPESバッファー)を調製した。
【0079】
(1-2 AAV2溶液の調製)
参考例2と同様の方法で得られたAAV2溶液を、前記HEPESバッファーを用いて60μg/mLに希釈した。
【0080】
(1-3 反応試薬1A、1B、1C、1D、1Eの調製)
前記HEPESバッファーを用いて、1.2mMのジベンゾ[b,f]アゾシン-5(6H)-ヘキサン酸,11,12-ジデヒドロ-ε-オキソ-,2,5-ジオキソ-3-スルホ-1-ピロリジニルエステル,ナトリウム塩:DIBENZ[b,f]azocine-5(6H)-hexanoic acid,11,12-didehydro-ε-oxo-,2,5-dioxo-3-sulfo-1-pyrrolidinyl ester,sodium salt(Aldrich chemistry社)溶液である反応試薬1Aを調製した。さらに、希釈し、反応試薬1Bである1.0mM、反応試薬1Cである0.8mM、反応試薬1Dである0.6mM、反応試薬1Eである0.4mMのジベンゾ[b,f]アゾシン-5(6H)-ヘキサン酸,11,12-ジデヒドロ-ε-オキソ-,2,5-ジオキソ-3-スルホ-1-ピロリジニルエステル,ナトリウム塩、:DIBENZ[b,f]azocine-5(6H)-hexanoic acid,11,12-didehydro-ε-oxo-,2,5-dioxo-3-sulfo-1-pyrrolidinyl ester,sodium salt溶液を調製した。
【0081】
(1-4 反応試薬2A、2B、2C、2D、2Eの調製)
前記HEPESバッファーを用いて、2.4mMの2-アジドエチル2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-ガラクトピラノシド:2-Azidoethyl 2-acetamido-2-deoxy-β-D-galactopyranoside(Sigma-Aldrich社)溶液である反応試薬2Aを調製した。さらに、希釈して、反応試薬2Bである2.0mM、反応試薬2Cである1.6mM、反応試薬2Dである1.2mM、反応試薬2Eである0.8mMの2-アジドエチル2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-ガラクトピラノシド:2-Azidoethyl 2-acetamido-2-deoxy-β-D-galactopyranoside溶液を調製した。
【0082】
(1-5 第1の工程)
上記の方法で調製した、2.25mLの反応試薬1A、1B、1C、1D、1Eと0.25mLの精製AAV2溶液(60μg/mL)をそれぞれ混合し、37℃のインキュベーター中で16時間反応させた。さらに、前記HEPESバッファーで調製した、500μLの2Mグリシン溶液(Wako社)を加えて、37℃のインキュベーター中で7時間反応させることで、第1工程生成物3A、第1工程生成物3B、第1工程生成物3C、第1工程生成物3D、第1工程生成物3Eを得た。
【0083】
(1-6 第2の工程)
上記の方法で調製した、3mLの反応試薬2A、2B、2C、2D、2Eと、1.5mLの前記第1工程生成物(3A、3B、3C、3D、3E)の反応溶液をそれぞれ混合し、37℃のインキュベーター中で16時間反応させることで、修飾ベクター4A、修飾ベクター4B、修飾ベクター4C、修飾ベクター4D、修飾ベクター4Eを得た。
反応液をDTT(ジチオトレイトール:DITHIOTHREITOL)含有サンプルバッファーで還元した後、SDS-PAGE(ATTO社)を行い、銀染色(Invitrogen社)で反応の進捗を確認した。
銀染色の結果を図1に示した。未修飾のVP1のバンドが約82kDaで、反応後が約92kDaであり、化合物が10kDa分、付加されたことが分かった。
【0084】
図1のレーン1はマーカー、レーン2は未修飾のAAV2(野生型のAAV2)、レーン3は修飾ベクター4A、レーン4は修飾ベクター4B、レーン5は修飾ベクター4C、レーン6は修飾ベクター4D、レーン7は修飾ベクター4Eである。
【0085】
(1-7 修飾ベクターの精製)
反応試薬1及び2との反応により得られた修飾AAV2について、遠心式限外ろ過フィルター(アミコンウルトラ-100キロ、Merck社)を用いて遠心濃縮を5回繰り返し、最終的に50mM ポロキサマー188含有HEPESバッファー(150mM NaCl、0.01%ポロキサマー188含有)にバッファー置換することで精製した。
精製後に、プライマー1(配列番号1)及びプライマー2(配列番号2)を用いて、定量PCR法(Quantstudio、SYBR Green法)により力価測定した。
定量PCRは、参考例2と同様にして行った。
結果を表1に示した。
【0086】
【表1】
【0087】
<実施例2:AAV2の修飾2>
(2-1 AAV2溶液の調製)
参考例2と同様の方法で得られたAAV2溶液を実施例1と同様にしてHEPESバッファーを用いて60μg/mLに希釈した。
【0088】
(2-2 反応試薬1Fの調製)
実施例1と同様にしてHEPESバッファーを用いて、0.6mMのジベンゾ[b,f]アゾシン-5(6H)-ヘキサン酸,11,12-ジデヒドロ-ε-オキソ-,2,5-ジオキソ-3-スルホ-1-ピロリジニルエステル,ナトリウム塩:DIBENZ[b,f]azocine-5(6H)-hexanoic acid, 11,12-didehydro-ε-oxo-,2,5-dioxo-3-sulfo-1-pyrrolidinyl ester,sodium salt(Aldrich chemistry社)溶液である反応試薬1Fを調製した。
【0089】
(2-3 反応試薬2Fの調製)
実施例1と同様にしてHEPESバッファーを用いて、1.2mMの2-アジドエチル2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-ガラクトピラノシド:2-Azidoethyl 2-acetamido-2-deoxy-β-D-galactopyranoside (Sigma-Aldrich社)溶液である反応試薬2Fを調製した。
【0090】
(2-4 第1の工程)
上記の方法で調製した、2.25mLの反応試薬1Fと0.25mLの精製AAV2溶液(60μg/mL)を混合し、37℃のインキュベーター中で17時間反応させた。さらに、実施例1と同様にしてHEPESバッファーで調製した2Mのグリシン溶液(Wako社)を0.5mL加えて、37℃のインキュベーター中で6時間反応させることで、第1工程生成物3Fを得た。
【0091】
(2-5 第2の工程)
上記の方法で調製した、3mLの反応試薬2Fと、1.5mLの前記第1工程生成物3Fの反応溶液を混合し、37℃のインキュベーター中で17時間反応させることで、修飾ベクター4Fを得た。
反応液をDTT(ジチオトレイトール:DITHIOTHREITOL)含有サンプルバッファーで還元した後、SDS-PAGE(ATTO社)を行い、銀染色(Invitrogen社)で反応の進捗を確認した。
銀染色の結果を図2に示した。未修飾のVP1のバンドが約82kDaで、第1工程生成物のVP1のバンドが約88kDaで、第2工程反応後が約92kDaであり、化合物が10kDa分、付加されたことが分かった。
【0092】
図2のレーン1はマーカー、レーン2は未修飾のAAV2(野生型のAAV2)、レーン3は第1工程生成物3F、レーン4は修飾ベクター4Fである。
【0093】
(2-6 修飾ベクターの精製)
反応試薬1及び2との反応により得られた修飾AAV2について、遠心式限外ろ過フィルター(アミコンウルトラ-100キロ、Merck社)を用いて遠心濃縮を5回繰り返し、最終的に0.01%ポロキサマー188含有Dulbecco’s Phosphate-Buffered Salineにバッファー置換することで精製した。
精製後に、プライマー1(配列番号1)及びプライマー2(配列番号2)を用いて、定量PCR法(Quantstudio、SYBR Green法)により力価測定した。
定量PCRは、参考例2と同様にして行った。
結果を表2に示した。
【0094】
【表2】
【0095】
<実施例3:In vitro評価>
(3-1 プレートの準備:1日目)
細胞を96ウェルプレート(Falcon(登録商標)、製品番号353072)に100μL/ウェルで播種した。
肝臓細胞株である、HuH7細胞(JCRB 0403、DMEM+10%FCS)は、3x10cells/ウェルで播種し、腎臓細胞株である、2v6.11細胞(ATCC由来、DMEM/F-12+10%FCS)は、5x10cells/ウェルで播種した。
【0096】
(3-2 感染:2日目)
1日目に準備したプレートに細胞が良好に成育していることを確認後、ベクター液、コントロール液(各細胞に使用している培地)を、各濃度3ウェルずつ、20μL/ウェルで添加した。
ベクター液としては、実施例1で作製した、修飾ベクター4A(1.2mM)、修飾ベクター4B(1.0mM)、修飾ベクター4C(0.8mM)、修飾ベクター4D(0.6mM)、修飾ベクター4E(0.4mM)を、各細胞培養に使用している培地を用いて、3x10vg/cells、1x10vg/cellsとなるよう調整したものを使用した。コントロール液としては、参考例2と同様の方法で得られたAAV2(未修飾AAV2ベクター)を、各細胞培養に使用している培地を用いて、3x10vg/cells、1x10vg/cellsとなるよう調整したものを使用した。
【0097】
(3-3 発現状況の確認及び定量:5日目)
(3-3-1)
顕微鏡を用いて通常光で細胞の状態を確認した後、蛍光モードで発現状況を確認した。
(3-3-2)
蛍光の定量は、Fluoroskan Ascent FL(Lab Systems)を用いて測定した。
FLフィルター(Ex 485nm Em 538nm)を使用した。
(3-3-3:測定値のグラフ化)
コントロール(ベクターなし)の測定値をバックグラウンドとして、各サンプルの測定値から引いたものを各サンプルの蛍光強度とした。
HuH7細胞に感染させたときの蛍光強度(アセント強度)を図3に示し、2v6.11細胞に感染させたときの蛍光強度(アセント強度)を図4に示した。
図3及び4の各修飾ベクター又は未修飾ベクターのバーにおいて、左側が3x10vg/cellsとなるよう調整したものを使用したときの結果であり、右側が1x10vg/cellsとなるよう調整したものを使用したときの結果である。
【0098】
<実施例4:In vivo評価>
(4-1 被験物質の投与)
被験物質群(G1、G2)として、8週齢の雄性C57BL/6J(Jax)マウス(オリエンタル酵母工業株式会社経由)に、被験物質(参考例2と同様の方法で得られたAAV2(未修飾AAV2ベクター):G1、又は実施例と同様の方法で得られた修飾ベクター4D:G2)を、4×1013vg/10mL/kg B.W. (1匹あたりのAAV投与量≒1×1012vg/mouse)の用量で、尾静脈内投与した(n=3)。
バッファーコントロール群(G0)として、8週齢の雄性C57BL/6J(Jax)マウス(オリエンタル酵母工業株式会社経由)に、250μLのPBS(162-18547 富士フイルム和光純薬株式会社製)を尾静脈内投与した(n=3)。
上記の被験物質は、投与液調製時に濃度を再測定した。濃度調製後は、4℃で保存した。
【0099】
(4-2 被験物質の血中濃度の測定)
被験物質の投与から4及び24時間後に、ヘパリン含有ヘマトクリット採血管(ヘマトロン7041-02)及び採血針を用いて、尾より微量採血(10μL以上)後、1.5mLチューブに移し、DNeasy Blood & Tissue Kit(69504、Qiagen社)を用いてDNAを50μLの水に溶解して抽出し、採取した血液に含まれるAAV濃度を、プライマー1(配列番号1)及びプライマー2(配列番号2)を用いて、定量PCR法(Quantstudio、SYBR Green法)により測定した。
定量PCRは、「10~10倍まで連続希釈した1μLの標準品又は1000倍希釈した1μLのサンプル」を「10~10倍まで連続希釈した1μLの標準品又は1μLのDNA抽出サンプル」に代えた以外は、参考例2と同様にして行った。
結果を図5に示した。
【0100】
図5の結果より、被験物質の投与から4時間後の血中AAV濃度は、修飾ベクター投与群(G2)において、未修飾AAV2ベクター投与群(G1)の約10倍であり、本発明の修飾ベクターは、適度な血中安定性を示すことが分かった。
バッファーコントロール群(G0)の血中AAV濃度は、測定限界以下であった。
【0101】
(4-3 マウスの解剖)
被験物質の投与後21日目に、イソフルラン(ファイザー株式会社)吸入麻酔下でマウスを開腹及び開胸し、0.1%のヘパリンナトリウム注(エイワイファーマ株式会社)含有PBS 30mLを心尖部から注入し、灌流を行った。その後、出血ポイントである肝臓末端を切開して放血死させ、脳・肝臓・腎臓を摘出した。
【0102】
(4-4 マウス臓器(肝臓・脳・腎臓)の凍結ブロック作製)
採取組織を細切後、4%パラホルムアルデヒド溶液(09154-85、ナカライテスク株式会社)に一晩固定させた後、30%スクロース(000-69505、キシダ化学株式会社)溶液で合計2日間浸漬させた。
その後、O.C.T.Compound(4583、サクラファインテックジャパン株式会社)を用いて、組織を液体窒素で急速凍結することで凍結ブロックを作製した。
【0103】
(4-5 蛍光免疫組織染色 Free floating法)
クリオスタット(MICROM HM505E)を用いて凍結ブロックから凍結組織切片(肝臓:20μm、脳:40μm、腎臓:20μm)を作製し、PBSで満たした24well組織培養用マイクロプレートの各wellに個体毎の切片を添加した。
PBSX(0.3% triton X-100(T8787、Sigma-Aldrich社)含有PBS)で2回洗浄(10分)し、0.5mLの0.2%BSA溶液(ウシ血清アルブミン:Bovine serum albumin(A9647-100G、Sigma-Aldrich社)含有PBSX)で60分ブロッキング処理し、0.5mLの一次抗体溶液(1000倍希釈抗GFP抗体(ab13970、Abcam)含有0.2%BSA溶液)に4℃で一晩反応させた。
【0104】
その後、PBSXで洗浄(10分)を3回行い、0.5mLの二次抗体溶液(1000倍希釈Alexa Flour 647 goat 抗chicken IgY(H+L)抗体(A-21449、Invitrogen Thermo Fisher Scientific社)含有0.2%BSA溶液)に室温で3時間反応させた。
【0105】
その後、PBSで10分間洗浄し、0.5mLのDAPI溶液(1000倍希釈DAPI(340-07971、株式会社 同仁化学研究所)含有PBS)に室温で10分間反応させた。PBSで10分間洗浄後、蛍光用封入材(Prolong Glass、P36984 Molecular probes)を用いて、回収した切片をスライドガラスに封入した。
【0106】
(4-6 切片の画像解析)
共焦点定量イメージサイトメーター(CQ1、横川電機株式会社)を用いて、封入後のスライドガラス標本を撮影した。
結果を図6A(肝臓における、Venus発現細胞 低倍)、図6B(肝臓における、抗GFP抗体陽性細胞 低倍)、図6C(肝臓における、DAPI陽性細胞、Venus発現細胞、及び抗GFP抗体陽性細胞 低倍)、図6D(肝臓における、Venus発現細胞 高倍)、図6E(肝臓における、抗GFP抗体陽性細胞 高倍)、図6F(肝臓における、DAPI陽性細胞、Venus発現細胞、及び抗GFP抗体陽性細胞 高倍)、図7A(脳における、Venus発現細胞 低倍)、図7B(脳における、抗GFP抗体陽性細胞 低倍)、図7C(脳における、DAPI陽性細胞、Venus発現細胞、及び抗GFP抗体陽性細胞 低倍)、図7D(脳における、Venus発現細胞 高倍)、図7E(脳における、抗GFP抗体陽性細胞 高倍)、図7F(脳における、DAPI陽性細胞、Venus発現細胞、及び抗GFP抗体陽性細胞 高倍)、図8A(腎臓における、Venus発現細胞 低倍)、図8B(腎臓における、Venus発現細胞 低倍)、図8C(腎臓における、DAPI陽性細胞、Venus発現細胞、及び抗GFP抗体陽性細胞 低倍)、図8D(腎臓における、Venus発現細胞 高倍)、図8E(腎臓における、抗GFP抗体陽性細胞 高倍)、図8F(腎臓における、DAPI陽性細胞、Venus発現細胞、及び抗GFP抗体陽性細胞 高倍)に示した。
前記低倍は10倍での撮影であり、前記高倍は20倍での撮影である。
【0107】
画像解析ソフトウェアであるImageJ(National Institutes of Health, ver.1.53)を用い、各蛍光免疫組織染色像におけるVenus発現割合 (緑色)及び抗GFP抗体陽性割合(赤色)を測定(組織面積に対する各蛍光色の面積が占める割合)し、AAVによる遺伝子導入の程度を数値化した。
結果を図9A(肝臓 Venus発現割合)、図9B(肝臓 抗GFP抗体陽性割合)、図10A(脳 Venus発現割合)、図10B(脳 抗GFP抗体陽性割合)、図11A(腎臓 Venus発現割合)、図11B(腎臓 抗GFP抗体陽性割合)に示した。
【0108】
図6から図11の結果より、本発明の修飾ベクターは、生体内において肝臓選択的に輸送されることが分かった。
【0109】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> ベクターにおける官能基に、前記官能基と結合可能な官能基(A)と、リガンド化合物と結合可能な官能基(B)と、を有するリンカー化合物における、前記官能基(A)を結合させる工程と、前記官能基(B)に、前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)を有する前記リガンド化合物における、前記官能基(C)を結合させる工程と、を含み、前記リガンド化合物が、ガラクトサミン構造を有することを特徴とする、修飾ベクターの作製方法である。
<2> 前記ガラクトサミン構造が、N-アセチルガラクトサミン構造である、前記<1>に記載の作製方法である。
<3> 前記ベクターにおける官能基が、アミノ基、グアニジノ基、水酸基、カルボキシル基、及びインドール基のいずれかである、前記<1>又は<2>に記載の作製方法である。
<4> 前記ベクターにおける官能基が、リジン残基、アルギニン残基、チロシン残基、セリン残基、スレオニン残基、トリプトファン残基における官能基である、前記<1>から<3>のいずれかに記載の作製方法。
<5> 前記官能基(A)が、スクシンイミジル基である、前記<1>から<4>のいずれかに記載の作製方法である。
<6> 前記官能基(B)が、アジド基、アルキニル基、アルケニル基、カルボニル基、ホスフィン基、テトラジン基、ヒドラジン基、及びヒドロキシルアミン基のいずれかである、前記<1>から<5>のいずれかに記載の作製方法である。
<7> 前記リンカー化合物の重量平均分子量が5000以下である、前記<1>から<6>のいずれかに記載の作製方法である。
<8> 前記リンカー化合物が、ポリエチレングリコール基を有する、前記<1>から<7>のいずれかに記載の作製方法である。
<9> 前記ベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、前記<1>から<8>のいずれかに記載の作製方法である。
<10> 前記ベクターにおける官能基が、前記アデノ随伴ウイルスベクターのカプシドを構成する官能基である、前記<9>に記載の作製方法である。
<11> 前記ベクターにおける官能基がアミノ基であり、前記官能基(A)がスクシンイミジル基であり、前記官能基(B)又は(C)がアジド基及び/又はアルキニル基であり、前記リガンド化合物が、ガラクトサミン構造を有する、前記<1>から<10>のいずれかに記載の作製方法である。
<12> 前記ベクターにおける官能基がリジン残基における官能基であり、前記官能基(B)又は(C)がアジド基及び/又はアルキニル基であり、前記リガンド化合物が、ガラクトサミン構造を有する、前記<1>から<11>のいずれかに記載の作製方法である。
<13> 前記修飾ベクターの血中安定性が、修飾前と比較して高い、前記<1>から<12>のいずれかに記載の作製方法である。
<14> ベクターにおける官能基に、前記官能基と結合可能な官能基(A)と、リガンド化合物と結合可能な官能基(B)と、を有するリンカー化合物における、前記官能基(A)を結合させる工程と、前記官能基(B)に、前記官能基(B)と結合可能な官能基(C)を有する前記リガンド化合物における、前記官能基(C)を結合させる工程と、を含み、前記リガンド化合物が、ガラクトサミン構造を有することを特徴とする、ベクターの修飾方法である。
<15> 修飾されたベクターの血中安定性が、修飾前と比較して高い、前記<14>に記載のベクターの修飾方法である。
<16> ガラクトサミン構造を含むリガンド部を有し、リンカーを介して、前記リガンド部と、ベクターと、が結合しており、前記リンカーは、アミド結合により前記ベクターと結合していることを特徴とする修飾ベクターである。
<17> 前記<16>に記載の修飾ベクターを含むことを特徴とする、肝臓選択的輸送体である。
<18> 前記<16>に記載の修飾ベクターを含むことを特徴とする、血中濃度安定化剤である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
【配列表】
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