(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050795
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】対象捕捉用デバイス及びその使用方法並びに生体分子の精製方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230404BHJP
C12N 7/02 20060101ALI20230404BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N7/02
C12N15/10 112Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161082
(22)【出願日】2021-09-30
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構、再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業遺伝子治療製造技術開発「遺伝子・細胞治療用ベクターのプラットフォーム製造技術開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】末岡 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】西八條 正克
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB13
4B029BB20
4B029DG08
4B029HA05
4B065AA95X
4B065BD14
4B065CA60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生体分子の捕捉効率に優れた対象捕捉用デバイスの提供。
【解決手段】デバイスは、環状弾性部材、対象を捕捉する捕捉担体を収容する担体収容室形成用凹部Aと、一端が外部に開口し、他端が前記凹部Aにおける底面に向けてかつ前記底面と略平行方向に開口する貫通孔Aと、前記凹部Aよりも外側であってかつ凹部Aと離接して設けられ、前記環状弾性部材を収容すると共に、収容させた際に前記環状弾性部材と接触する底部の深さが前記環状弾性部材の最大厚みよりも小さい環状弾性部材収容用凹部Aとを有するハウジング要素A10、及び、前記凹部Aと対向して前記担体収容室を形成し、前記凹部Aと共に前記捕捉担体の略外周縁に当接して前記捕捉担体を挟持した状態で収容する担体収容室形成用凹部Bと、一端が外部に開口し、他端が前記凹部Bにおける底面に向けてかつ前記底面と略平行方向に開口する貫通孔B22とを有するハウジング要素B20、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状弾性部材、
対象を捕捉する捕捉担体を収容する担体収容室を形成するための担体収容室形成用凹部Aと、
一端が外部に開口し、他端が前記担体収容室形成用凹部Aにおける底面に向けてかつ前記底面と略平行方向に開口する貫通孔Aと、
前記担体収容室形成用凹部Aよりも外側であってかつ前記担体収容室形成用凹部Aと離接して設けられ、前記環状弾性部材を収容すると共に、前記環状弾性部材を収容させた際に前記環状弾性部材と接触する底部の深さが前記環状弾性部材の最大厚みよりも小さい環状弾性部材収容用凹部Aと
を有するハウジング要素A、及び、
前記捕捉担体を収容する担体収容室を形成するためのものであって、前記担体収容室形成用凹部Aと対向して前記担体収容室を形成し、前記担体収容室形成用凹部Aと共に前記捕捉担体の略外周縁に当接して前記捕捉担体を挟持した状態で収容する担体収容室形成用凹部Bと、
一端が外部に開口し、他端が前記担体収容室形成用凹部Bにおける底面に向けてかつ前記底面と略平行方向に開口する貫通孔Bと、
を有するハウジング要素B、
を有することを特徴とする対象捕捉用デバイス。
【請求項2】
前記貫通孔A及び前記貫通孔Bが、流体を流通可能な管状部材又はチューブ状部材と接続可能である、請求項1に記載の対象捕捉用デバイス。
【請求項3】
前記担体収容室が平面視すると略円形である、請求項1又は2に記載の対象捕捉用デバイス。
【請求項4】
前記環状弾性部材が、厚み方向の断面が略円形であって平面視したとき略円形のO-リングである、請求項1から3のいずれかに記載の対象捕捉用デバイス。
【請求項5】
前記ハウジング要素Aが、対向して配置された前記ハウジング要素Bを基準として、前記担体収容室形成用凹部Aにおける底面よりも遠い側に、前記貫通孔Aの開口部から流入又は流出する流体を、前記担体収容室形成用凹部Aにおける底面側に向けて案内する案内部Aを有し、
前記ハウジング要素Bが、対向して配置された前記ハウジング要素Aを基準として、前記担体収容室形成用凹部Bにおける底面よりも遠い側に、前記貫通孔Bの開口部から流入又は流出する流体を、前記担体収容室形成用凹部Bにおける底面側に向けて案内する案内部Bを有する、請求項1から4のいずれかに記載の対象捕捉用デバイス。
【請求項6】
前記ハウジング要素Aの前記担体収容室形成用凹部Aが底面に流路形成用リブAを有し、
前記ハウジング要素Bの前記担体収容室形成用凹部Bが底面に流路形成用リブBを有し、
前記流路形成用リブAの高さ(tA)及び前記流路形成用リブBの高さ(tB)が0.5mm以上である(tA≧0.5mm,tB≧0.5mm)、請求項1から5のいずれかに記載の対象捕捉用デバイス。
【請求項7】
複数の前記流路形成用リブAのうち、前記担体収容室形成用凹部Aにおける前記貫通孔A側に位置する前記流路形成用リブAが、前記貫通孔Aに向けて配向し、
複数の前記流路形成用リブBのうち、前記担体収容室形成用凹部Bにおける前記貫通孔B側に位置する前記流路形成用リブBが、前記貫通孔Bに向けて配向した、請求項1から6のいずれかに記載の対象捕捉用デバイス。
【請求項8】
前記捕捉担体がシート状である、請求項1から7のいずれかに記載の対象捕捉用デバイス。
【請求項9】
前記捕捉担体が、液体透過性膜、織布及び不織布の少なくともいずれかで形成された捕捉担体要素を含む、請求項1から8のいずれかに記載の対象捕捉用デバイス。
【請求項10】
前記捕捉担体が、前記捕捉担体要素が積層されてなる、請求項9に記載の対象捕捉用デバイス。
【請求項11】
前記捕捉担体における、厚みが直径に対し、2分の1以下である、請求項8から10のいずれかに記載の対象捕捉用デバイス。
【請求項12】
前記捕捉担体が、アフィニティクロマトグラフィー担体、イオン交換クロマトグラフィー担体、及び疎水性相互作用クロマトグラフィーの少なくともいずれかである、請求項1から11のいずれかに記載の対象捕捉用デバイス。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の対象捕捉用デバイスの使用方法であって、
前記対象捕捉用デバイスにおける前記捕捉担体に送液する際の圧力を0.3MPa以上とすることを特徴とする対象捕捉用デバイスの使用方法。
【請求項14】
請求項1から12のいずれかに記載の対象捕捉用デバイスの使用方法であって、
前記対象捕捉用デバイスにおける前記捕捉担体に送液する際の滞留時間を1分間以下とすることを特徴とする対象捕捉用デバイスの使用方法。
【請求項15】
請求項1から12のいずれかに記載の対象捕捉用デバイスを用いて試料液中から生体分子を分離することを特徴とする生体分子の精製方法。
【請求項16】
前記生体分子が、ウイルス、ウイルス様粒子、及びウイルスベクターの少なくともいずれかである、請求項15に記載の生体分子の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象捕捉用デバイス及びその使用方法並びに生体分子の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、クロマトグラフィー等の手法により、カラム(デバイス)中に充填した多孔質ビーズ担体を用い、試料液を前記多孔質ビーズ担体における多孔質内を通過させ、前記多孔質内を通過できないサイズの前記試料液中に含まれる、ウイルス、タンパク質等の生体分子を前記試料液から分離(単離)させて精製することが行われてきた。
しかし、前記多孔質ビーズ担体を用いる場合、前記試料液を高速で前記カラム(デバイス)内を通過させて処理しようとしても、前記試料液の流速は、前記多孔質ビーズ担体における多孔質の孔径に依存してしまい(前記多孔質ビーズ担体の通過段階が律速要因となり)、高流速での処理が難しく、また、前記試料液の流圧(背圧)によって前記多孔質ビーズ担体が変形等してしまうという問題があった。
【0003】
一方、粗ろ過、精密ろ過、限外ろ過などに用いられるフィルタデバイスでは、内部に多孔質シート部材を用いることで、前記試料液からの不純物の分離、目的物の濃縮などが可能である。この場合、前記多孔質シートの一部が閉塞する等してその使用部分に偏りが生じたとしても、前記試料液が前記多孔質シートを通過させることができさえすれば、前記生体分子を前記試料液から分離(単離)させて精製することができるという利点がある。
上記シート部材の利点を活用するために、ウイルス、タンパク質等の生体分子を捕捉(吸着)可能なリガンド(抗体等)を多孔質シートの表面に配置させた、シート状のアフィニティ担体やイオン交換担体を用い、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーの手法により前記生体分子を前記アフィニティ担体あるいはイオン交換担体に捕捉(吸着)させることで、前記試料液中に含まれる前記生体分子を前記試料液から分離(単離)させて精製することも行われてきている。
しかし、シート状の前記担体を用いる場合、前記担体の全面に対し均一にかつ一定の流速で前記試料液を接触通過させることが必要になるところ、それを実現するのは容易ではなく、また、前記試料液を高流速で通過させると、前記リガンド(抗体等)に前記生体分子が捕捉(吸着)されることなく流出してしまうという問題がある。
【0004】
このため、プリーツ型アフィニティ担体やロール型アフィニティ担体などを備えたデバイスを用い、アフィニティクロマトグラフィーの手法により前記生体分子を前記捕捉担体に捕捉(吸着)させることで、前記試料液中に含まれる前記生体分子を前記試料液から分離(単離)させて精製することも行われてきている。
【0005】
例えば、
図14及び
図15に示すように、巻き膜複合体110をアフィニティ担体として用い、巻き膜複合体110を内部に収容する円筒状の筐体50と、入口80を有しかつ筐体50内に収容された巻き膜複合体110に試料液を供給するための第1の流れ分配器60と、出口85を有しかつ供給された前記試料液を筐体50から排出するための第2の流れ分配器70と、第1の流れ分配器60又は第二の流れ分配器70と巻き膜複合体110との間に配置される多孔質フリット40とを備えたクロマトグラフ装置200が提案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、この場合、アフィニティ担体として、複雑な構造物である、巻き膜複合体110を用いなければならず、それを更に収容させるための構造も必要となり、デバイス構造が複雑化し、前記担体の交換時等における取扱性等に劣り、安価にかつ簡便に前記生体分子の精製を行うことができないという問題があった。
【0006】
そこで、シート状の前記アフィニティ担体を用いることで、取扱性を向上させ、デバイス構造の複雑化を回避する一方、シート状の前記アフィニティ担体を用いても、前記アフィニティ担体の全面に対し均一にかつ一定の流速で前記試料液を接触通過させることができ、前記アフィニティ担体の全面の効率的使用を可能とする、対象捕捉用デバイスの提供が望まれているところ、かかる対象捕捉用デバイス及びその使用技術は未だに提供されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高流速での使用が可能であり、高流速であってもアフィニティクロマトグラフィー部材(シート状アフィニティ担体)の全面に均一にかつ効率よく試料液を接触通過させることができ、生体分子の捕捉(吸着)効率に優れ、簡単な構造で封止効果に優れ、取扱性に優れ、分解乃至繰返し使用が容易な、対象捕捉用デバイス、及び、その効率的な使用方法、並びに、生体分子の捕捉(吸着)効率に優れ、操作性に優れた生体分子の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
本発明の対象捕捉用デバイスは、
環状弾性部材、
対象を捕捉する捕捉担体を収容する担体収容室を形成するための担体収容室形成用凹部Aと、
一端が外部に開口し、他端が前記担体収容室形成用凹部Aにおける底面に向けてかつ前記底面と略平行方向に開口する貫通孔Aと、
前記担体収容室形成用凹部Aよりも外側であってかつ前記担体収容室形成用凹部Aと離接して設けられ、前記環状弾性部材を収容すると共に、前記環状弾性部材を収容させた際に前記環状弾性部材と接触する底部の深さが前記環状弾性部材の最大厚みよりも小さい環状弾性部材収容用凹部Aと
を有するハウジング要素A、及び、
前記捕捉担体を収容する担体収容室を形成するためのものであって、前記担体収容室形成用凹部Aと対向して前記担体収容室を形成し、前記担体収容室形成用凹部Aと共に前記捕捉担体の略外周縁に当接して前記捕捉担体を挟持した状態で収容する担体収容室形成用凹部Bと、
一端が外部に開口し、他端が前記担体収容室形成用凹部Bにおける底面に向けてかつ前記底面と略平行方向に開口する貫通孔Bと、
を有するハウジング要素B、
を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の対象捕捉用デバイスは、前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとが一体化されて形成される。
一体化される際、前記環状弾性部材は、前記ハウジング要素Aにおける前記環状弾性部材収容用凹部Aに収容される。このとき、前記環状弾性部材収容用凹部Aにおける、前記環状弾性部材と接触する底部の深さが、前記環状弾性部材の最大厚みよりも小さいため、前記環状弾性部材の一部は前記環状弾性部材収容用凹部Aから突出した状態で露出する。このような状態で、前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとを圧接させると前記環状弾性部材が弾性変形し、この弾性変形した前記環状弾性部材を介して、前記前記環状弾性部材が配された領域の内側と外側との間で液体が流通しないように液密に前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとが一体化される。このとき、前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとに特殊な構造を設け、そこに接着剤等の封止剤を用いる必要がないので、構造の複雑化を招くことがなく、取扱性に優れ、簡便に繰返しの使用が可能である。
一体化された後、前記前記環状弾性部材が配された領域の内側には、前記ハウジング要素Aにおける前記担体収容室形成用凹部Aと、前記ハウジング要素Bにおける担体収容室形成用凹部Bとが対向して、前記捕捉担体を収容する担体収容室が、前記環状弾性部材が配された領域の内側にかつ前記環状弾性部材が配された領域とは離れた位置に形成される。そして、この担体収容室においては、前記捕捉担体の略外周縁が、前記ハウジング要素Aにおける前記担体収容室形成用凹部Aと、前記ハウジング要素Bにおける担体収容室形成用凹部Bとに挟持された状態で、シート状の前記捕捉担体が収容される。その結果、前記担体収容室は、その内部空間が前記捕捉担体によって2つの空間に分割され、この2つの空間は前記捕捉担体を介して液体流通可能となっている。そして、前記ハウジング要素Aには、一端が、前記担体収容室形成用凹部Aにおける底面に向けてかつ前記底面と略平行方向に開口する貫通孔Aが設けられており、前記貫通孔Aにおける他端が前記ハウジング要素Aの外部に開口していることから、前記ハウジング要素Aの外部から前記貫通孔Aに液体を流入させると、前記液体は前記担体収容室内に流入する。また、前記ハウジング要素Bには、一端が、前記担体収容室形成用凹部Bにおける底面に向けてかつ前記底面と略平行方向に開口する貫通孔Bが設けられており、前記貫通孔Bにおける他端が前記ハウジング要素Bの外部に開口していることから、前記ハウジング要素Bの外部から前記貫通孔Bに液体を流入させると、前記液体は前記担体収容室内に流入する。
【0011】
本発明の対象捕捉用デバイスにおける、前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとを前記環状弾性部材を介して液密に一体化させた後、前記ハウジング要素Aの外部から前記貫通孔Aに試料液を流入させると、前記試料液は、前記担体収容室内における前記捕捉担体によって分割された、前記ハウジング要素Aにおける前記担体収容室形成用凹部Aの空間内に流入する。このとき、前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとが前記環状弾性部材を介して液密に一体化されていることから、前記担体収容室内に流入した前記試料液は、前記環状弾性部材が配された領域の外側に漏出することなく、前記捕捉担体を介して、前記担体収容室内における前記捕捉担体によって分割された、前記ハウジング要素Bにおける前記担体収容室形成用凹部Bの空間内に流入する。このとき、前記試料液に含まれる捕捉対象は、前記捕捉担体によって捕捉(吸着)され、前記試料液から分離(単離)される。そして、前記担体収容室形成用凹部Bの空間内に流入した前記試料液は、前記ハウジング要素Bにおける前記貫通孔B内に流入し、前記ハウジング要素Bの外部へ流出される。本発明の対象捕捉用デバイスにおいては、前記貫通孔Aからの前記試料液の流入、及び、前記貫通孔Bからの前記試料液の流出が、前記捕捉担体の面方向と略平行方向となるので、前記対象捕捉用デバイスは、タンジェンシャルフローデバイスであり、前記試料液の流入出がシート状の前記捕捉担体の面方向と略直交方向となるデッドエンド型フローデバイスに比し、前記試料液の流圧によってシート状の前記捕捉担体が変形、破損等し難く、また、前記試料液を前記捕捉担体の全面に短時間で効率よく均一にかつ一定速度で拡散させることができ、前記試料液と前記捕捉担体との接触時間を増やすことができ、捕捉効率に優れる。
【0012】
本発明の対象捕捉用デバイスにおいては、前記環状弾性部材を介した前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとの圧接を解くだけで、複雑な構造を有さず安価なシート状の前記捕捉担体を交換等することができ、取扱いが簡便で、分解乃至繰返し使用が容易である。また、前記担体収容室内の密閉性は、前記環状弾性部材を介した前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとの圧接だけで実現され、特定構造を設けそこに接着剤等の封止剤を充填等する必要がないので、取扱いが簡便で構造も複雑化せず、分解乃至繰返し使用が容易である。また、前記捕捉担体が前記環状弾性部材と接することがないことから、シート状の前記捕捉担体の捕捉有効面積を減少させたり、前記捕捉担体を劣化させることがない。
【0013】
本発明の対象捕捉用デバイスの使用方法は、本発明の前記対象捕捉用デバイスにおける前記捕捉担体に送液する際の圧力を0.3MPa以上とすることを特徴とする。
本発明の対象捕捉用デバイスの使用方法においては、本発明の前記対象捕捉用デバイスを用いることから、前記対象捕捉用デバイスにおける前記捕捉担体に向けて試料液を送液する際の圧力を0.3MPa以上としても、前記捕捉担体の変形等、前記試料液の流速低下等が生ずることがない。
【0014】
本発明の生体分子の精製方法は、本発明の前記対象捕捉用デバイスを用いて試料液中から生体分子を分離することを特徴とする。
本発明の生体分子の精製方法においては、本発明の前記対象捕捉用デバイスを用いることから、前記対象捕捉用デバイスにおける前記捕捉担体の変形等、前記試料液の流速低下等が生ずることなく、前記生体分子が効率的に分離される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、高流速での使用が可能であり、高流速であってもアフィニティクロマトグラフィー部材(シート状アフィニティ担体)の全面に均一にかつ効率よく試料液を接触通過させることができ、生体分子の捕捉(吸着)効率に優れ、簡単な構造で封止効果に優れ、取扱性に優れ、分解乃至繰返し使用が容易な、対象捕捉用デバイス、及び、その効率的な使用方法、並びに、生体分子の捕捉(吸着)効率に優れ、操作性に優れた生体分子の精製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスを説明するための写真である。
【
図2】
図2は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスを説明するための斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2の対象捕捉用デバイスを上下反転させた斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスにおけるハウジング要素A(O-リングを搭載した状態)を説明するための写真である。
【
図5】
図5は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスにおけるハウジング要素A(O-リングを搭載していない状態)を説明するための斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスにおけるハウジング要素Bを説明するための斜視図である。
【
図7】
図7は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスにおけるハウジング要素B(アフィニティ担体を搭載した状態)を説明するための斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスにおける捕捉担体収容室の厚み(深さ)方向と平行方向の断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスに試料液を流入出させるための管状部材を接続した状態を説明するための斜視図である。
【
図10】
図10は、本発明の第二の実施例に係る対象捕捉用デバイスを説明するための写真である。
【
図11】
図11は、本発明の第二の実施例に係る対象捕捉用デバイスを説明するための斜視図である。
【
図12】
図12は、本発明の第二の実施例に係る対象捕捉用デバイスにおけるハウジング要素Bを説明するための斜視図である。
【
図13】
図13は、本発明の第二の実施例に係る対象捕捉用デバイスにおけるハウジング要素A(四角枠状パッキンを搭載した状態)を説明するための斜視図である。
【
図14】
図14は、従来における対象捕捉用デバイスの一例を説明するための概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(対象捕捉用デバイス)
本発明の対象捕捉用デバイスは、前記環状弾性部材と、前記ハウジング要素Aと、前記ハウジング要素Bとを有してなり、さらに必要に応じて適宜選択したその他の部材、例えば捕捉担体などを有してなる。
【0018】
-環状弾性部材-
前記環状弾性部材としては、環状で弾性を有する限り特に制限はなく、例えば、前記環状としては、円環状(円形状)、角状(四角形状)などが挙げられ、前記弾性を有する素材としては、ゴム、樹脂などが挙げられ、具体例としては、O-リング、角状リング、円形パッキン、角状パッキンなどが挙げられる。これらの中でも、角状(四角形状)などに比し、前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとをより簡便かつ液密に一体化でき、また応力集中がなく、破損等し難い点で、O-リングが好ましい。
前記O-リングとしては、厚み方向の断面形状が円形であり、かつ、平面視したときの形状が円形であることが好ましい。前記O-リングの厚み方向の断面形状が、略L字形、楕円形などであると、前記O-リングを前記環状弾性部材収容用凹部Aに収容させるときに前記O-リングに歪みが生じたり、前記O-リングの繰返し使用による前記O-リングに変形等が生じたりした場合に、前記O-リングのみで前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとを簡便かつ効率的に液密に接続することができないことがある。
【0019】
-ハウジング要素A-
前記ハウジング要素Aは、担体収容室形成用凹部Aと、貫通孔Aと、環状弾性部材収容用凹部Aとを有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の部材を有してなる。
前記ハウジング要素Aは、変形し難い剛性を有し、前記試料液と化学反応等しない材質で形成されていることが好ましく、前記材質としては、樹脂、金属、合金、セラミックスなどが挙げられる。これらの中でも、作製のコスト、容易さから樹脂が好ましい。前記樹脂としては、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドなどが好適に挙げられる。前記ハウジング要素Aの形状としては、例えば、平面視したとき、略円形状、略楕円形上、略小判形状、略角状などが挙げられる。前記ハウジング要素Aの構造としては、二以上の部材が複合化されて形成されていてもよいが、取扱性、耐久性、メインテナンス性等の点で、単一の部材で形成されているのが好ましい。
前記ハウジング要素Aは、前記ハウジング要素Bと一体化するためのネジ穴等を有することが好ましい。前記ネジ穴等の数、配置場所としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、前記前記ハウジング要素Aにおける外周部に略等間隔に設けられていることが好ましい。
【0020】
前記担体収容室形成用凹部Aは、対象を捕捉する捕捉担体を収容する担体収容室を形成するための空間である。
前記担体収容室形成用凹部Aの大きさとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、前記捕捉担体の大きさに応じて決められ、前記捕捉担体を収容できる大きさが選択される。
前記担体収容室形成用凹部Aの形状としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平面視したとき、略円形、楕円形、角形(四角形)などが挙げられるが、前記環状弾性部材として前記O-リングを使用した場合には、前記O-リングの内側に最大の面積で前記担体収容室形成用凹部Aを形成することができ、前記捕捉対象の捕捉(吸着)効率を向上させることができる点で略円形が好ましい。
なお、前記担体収容室形成用凹部Aの形状を(前記担体収容室形成用凹部Bの形状と共に)略円形とした場合、前記担体収容室の形状も平面視すると略円形となり、前記担体収容室に配置する前記捕捉担体も略円形とすることができる。この場合、前記O-リングによる簡便かつ効率的な液密化(試料液の外部への漏出防止化)、略円形の前記捕捉担体による捕捉面積の最大化できると共に、略円形の前記捕捉担体上に前記試料液を短時間で均一分散させることができ、前記捕捉対象の捕捉効率に優れる。
【0021】
前記担体収容室形成用凹部Aにおける底面には、流路形成用リブAが形成されていることが前記試料液の円滑な流れを維持できる点で好ましい。
前記流路形成用リブAの高さ(tA)としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、0.5mm以上である(tA≧0.5mm)ことが好ましい。
前記流路形成用リブAの形状としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、直線状などが好ましい。
前記流路形成用リブAの数や位置としては、特に制限はなく、前記担体収容室内における流路形成(並行流の形成、流れを邪魔しないこと等を実現)や、前記捕捉担体と前記ハウジング要素A又は前記ハウジング要素Bの内壁との間の空間形成の観点から適宜選択することができ、例えば、複数、略等間隔の位置などが好ましく、例えば、
図5、
図13に示すようなものなどが挙げられる。
【0022】
前記貫通孔Aとしては、一端が前記ハウジング要素Aの外部に向けて開口し、他端が前記担体収容室形成用凹部Aにおける底面に向けてかつ前記底面と略平行方向に開口していれば、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。前記貫通孔Aにおける一の開口が前記担体収容室形成用凹部Aにおける底面に向けてかつ前記底面と略平行方向に開口していることで、シート状の前記捕捉担体(アフィニティ担体)を用いても、前記捕捉担体(アフィニティ担体)の全面に対し均一にかつ一定の流速で前記試料液を接触通過させることができ、前記捕捉担体(アフィニティ担体)の全面の効率的使用を可能とすることができる。なお、前記担体収容室形成用凹部Aにおいて、前記貫通孔Aにおける前記一の開口から流入(又は流出)させる前記試料液を前記捕捉担体(アフィニティ担体)の表面に案内する案内部が設けられていることが、前記捕捉担体(アフィニティ担体)の全面に対し均一にかつ一定の流速で前記試料液を接触通過させ、前記捕捉担体(アフィニティ担体)の全面の効率的使用を可能とする効果を高める観点からは好ましい。
前記貫通孔Aの前記一端は、前記ハウジング要素Aの外部表面に開口していてもよいし、前記ハウジング要素Aから吐出形成された突出部に開口していてもよい。
貫通孔Aは1個、又は複数個配置することができる。貫通孔Aが1個である場合、前記試料液を均一に流す観点から、前記ハウジング要素Aを平面視した際の中心部に配置することが好ましい。前記貫通孔Aが複数個である場合、前記ハウジング要素Aを平面視した際の中心部から対称となるように各々を配置することで、前記試料液を均一に流すことができる。
前記貫通孔Aの形状乃至構造としては、前記試料液を流通可能な管状部材又はチューブ状部材と接続可能であるのが好ましく、例えば、前記試料液の流速損失を減らす点で直線状が好ましく、内周面にネジ山等が形成されて管等が簡単に外れないように継手(フィッティング)を介して前記管等を接続可能とする形状乃至構造が好ましい。継手の種類、継手との接続方法に特に制限はなく、バイオプロセスのクロマトグラフィーシステムやポンプシステムで使用されるものから適宜選択することができる。例えば、M6 connectorなどの円筒形、fingertight connectorなどの略円錐形をはじめとしたネジ式の接続、ルアーコネクターによるルアーロック式の接続、もしくはガスケットとクランプを用いたフェルール式の接続などが挙げられる。
【0023】
前記環状弾性部材収容用凹部Aとしては、前記環状弾性部材を収容することができる限り、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、前記ハウジング要素Aにおいて設けられる位置としては、前記担体収容室形成用凹部Aよりも外側であってかつ前記担体収容室形成用凹部Aと離接した位置が好ましい。この場合、前記前記環状弾性部材と前記捕捉担体との直接的な接触を避けることができる。
前記環状弾性部材収容用凹部Aの大きさ(深さ)としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、前記環状弾性部材を収容させた際に前記環状弾性部材と接触する、前記環状弾性部材収容用凹部Aにおける底部の深さが、前記環状弾性部材の最大厚みよりも小さいことが好ましい。この場合、前記環状弾性部材の弾性変形により、前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとを簡便かつ液密に一体化できる。
【0024】
-ハウジング要素B-
前記ハウジング要素Bは、担体収容室形成用凹部Bと、貫通孔Bとを有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の部材、例えば環状弾性部材収容用凹部Bなどを有してなる。
前記ハウジング要素Bは、変形し難い剛性を有し、前記試料液と化学反応等しない材質で形成されていることが好ましく、前記材質としては、樹脂、金属、合金、セラミックスなどが挙げられる。これらの中でも、作製のコスト、容易さから樹脂が好ましい。前記樹脂としては、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドなどが好適に挙げられる。前記ハウジング要素Bの形状としては、例えば、平面視したとき、略円形状、略楕円形上、略小判形状、略角状などが挙げられ、前記ハウジング要素Aと同じ形状が好適に選択される。前記ハウジング要素Bの構造としては、二以上の部材が複合化されて形成されていてもよいが、取扱性、耐久性、メインテナンス性等の点で、単一の部材で形成されているのが好ましい。
前記ハウジング要素Bは、前記ハウジング要素Aと一体化するためのネジ穴等を有することが好ましい。前記ネジ穴等の数、配置場所としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、前記前記ハウジング要素Bにおける外周部に略等間隔に設けられていることが好ましい。
【0025】
前記担体収容室形成用凹部Bは、対象を捕捉する捕捉担体を収容する担体収容室を形成するための空間である。
前記担体収容室形成用凹部Bの大きさとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、前記捕捉担体の大きさに応じて決められ、前記捕捉担体を収容できる大きさが選択され、前記ハウジング要素Aと同じ大きさが好適に選択される。
なお、前記ハウジング要素Aにおける前記担体収容室形成用凹部Aと、前記ハウジング要素Bにおける前記担体収容室形成用凹部Bとが対向されて前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとが一体化されたときに、前記担体収容室が形成されるが、前記担体収容室の大きさとしては、前記捕捉担体による前記捕捉対象の捕捉効率が高くなるように選択することができる。具体的には次のように考えるのが好ましい。即ち、前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとが一体化されて形成された対象捕捉用デバイスにおける全内部空間体積から、前記担体収容室の体積を除いた部分の体積を「デッドボリューム」と呼ぶが、前記試料液に含まれる前記捕捉対象(目的物)を前記試料液中に含まれる不純物と分離して効率的に回収する観点からは、前記捕捉対象は少ない液量で濃縮された状態で回収できることが好ましく、そのためには前記試料液の滞留と拡散とを生じる前記デッドボリュームは少ない方が好ましい。前記捕捉担体の体積に対する前記デッドボリュームの体積の上限値としては、10倍以下であることが好ましく、5倍以下であることがより好ましく、2倍以下であることが特に好ましい。一方、前記デッドボリュームが小さくなり過ぎ、前記捕捉担体と前記担体収容室形成用凹部Aとの間の空間、及び、前記捕捉担体と前記担体収容室形成用凹部Bとの間の空間が小さくなり過ぎてしまうと、略並行流による前記捕捉担体表面に向けての均一な拡散流、及び、前記捕捉担体の厚み方向への均一な垂直流が生じ難くなってしまうことがある。よって、前記捕捉担体の体積に対する前記デッドボリュームの体積の下限値としては、0.1倍以上であることが好ましく、0.3倍以上であることがより好ましく、0.5倍以上であることが特に好ましい。
前記担体収容室形成用凹部Bの形状としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、前記ハウジング要素Aと同じ形状が好適に選択され、例えば、平面視したとき、略円形、楕円形、角形(四角形)などが挙げられる。
【0026】
前記担体収容室形成用凹部Bにおける底面には、流路形成用リブBが形成されていることが前記試料液の円滑な流れを維持できる点で好ましい。
前記流路形成用リブBの高さ(tB)としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、0.5mm以上である(tB≧0.5mm)ことが好ましい。
前記流路形成用リブBの形状としては、特に制限はなく、前記担体収容室内における流路形成(並行流の形成、流れを邪魔しないこと等を実現)や、前記捕捉担体と前記ハウジング要素A又は前記ハウジング要素Bの内壁との間の空間形成の観点から目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、直線状などが好ましく、前記ハウジング要素Bにおける貫通孔Bが下流側になる場合には、前記担体収容室内にある前記試料液の流れが貫通孔B側に向けて集約されるような(貫通孔Bに向けて配向した)形状が好適に選択される。
前記流路形成用リブBの数や位置としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、複数、略等間隔の位置などが好ましく、
図6、
図12に示すようなものなどが好ましい。
【0027】
前記貫通孔Bとしては、一端が前記ハウジング要素Bの外部に向けて開口し、他端が前記担体収容室形成用凹部Bにおける底面に向けてかつ前記底面と略平行方向に開口していれば、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。前記貫通孔Bにおける一の開口が前記担体収容室形成用凹部Aにおける底面に向けてかつ前記底面と略平行方向に開口していることで、シート状の前記捕捉担体(アフィニティ担体)を用いても、前記捕捉担体(アフィニティ担体)の全面に対し均一にかつ一定の流速で前記試料液を接触通過させることができ、前記捕捉担体(アフィニティ担体)の全面の効率的使用を可能とすることができる。なお、前記担体収容室形成用凹部Bにおいて、前記貫通孔Bにおける前記一の開口に向けて流出(又は流入)させる前記試料液を前記捕捉担体(アフィニティ担体)の表面から案内する案内部が設けられていることが、前記捕捉担体(アフィニティ担体)の全面に対し均一にかつ一定の流速で前記試料液を接触通過させ、前記捕捉担体(アフィニティ担体)の全面の効率的使用を可能とする効果を高める観点からは好ましい。前記貫通孔Bの前記一端は、前記ハウジング要素Bの外部表面に開口していてもよいし、前記ハウジング要素Bから吐出形成された突出部に開口していてもよい。なお、このとき、前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとを一体化させた際、これらを平面視したとき、前記ハウジング要素Aにおける前記貫通孔Aと、前記ハウジング要素Bにおける前記貫通孔Bとが互いに略平行な位置に、より好ましくは略同一直線上の位置にあることが、前記捕捉対象の分離効率等の点で好ましい。
貫通孔Bは1個、又は複数個配置することができる。貫通孔Bが1個である場合、前記試料液を均一に流す観点から、前記ハウジング要素Bを平面視した際の中心部に配置することが好ましい。前記貫通孔Bが複数個である場合、前記ハウジング要素Bを平面視した際の中心部から対称となるように各々を配置することで、前記試料液を均一に流すことができる。
前記貫通孔Bの形状乃至構造としては、前記試料液を流通可能な管状部材又はチューブ状部材と接続可能であるのが好ましく、例えば、前記試料液の流速損失を減らす点で直線状が好ましく、内周面にネジ山等が形成されて管等が簡単に外れないように継手(フィッティング)を介して前記管等を接続可能とする形状乃至構造が好ましい。継手の種類、継手との接続方法に特に制限はなく、バイオプロセスのクロマトグラフィーシステムやポンプシステムで使用されるものから適宜選択することができる。例えば、M6 connectorなどの円筒形、fingertight connectorなどの略円錐形をはじめとしたネジ式の接続、ルアーコネクターによるルアーロック式の接続、もしくはガスケットとクランプを用いたフェルール式の接続などが挙げられる。
【0028】
前記環状弾性部材収容用凹部Bとしては、前記環状弾性部材を収容することができる限り、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、また、任意に設けることができるが、前記ハウジング要素Bにおいて設けられる位置としては、前記担体収容室形成用凹部Bよりも外側であってかつ前記担体収容室形成用凹部Bと離接した位置が好ましい。この場合、前記前記環状弾性部材と前記捕捉担体との直接的な接触を避けることができる。
前記環状弾性部材収容用凹部Bの大きさ(深さ)としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、前記環状弾性部材収容用凹部Bにおける底部の深さと、前記環状弾性部材収容用凹部Aにおける底部の深さとを合わせた大きさが、前記環状弾性部材の最大厚みよりも小さいことが好ましい。この場合、前記環状弾性部材の弾性変形により、前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとを簡便かつ液密に一体化できる。
【0029】
前記ハウジング要素Bは、前記ハウジング要素Aに対し、分離可能に設計されていてもよいし、分離不可能に一体化されていてもよい。前記分離可能に設計されている場合は、繰返し使用に好適であり、前記分離不可能に一体化されている場合は、前記捕捉担体をはじめから前記捕捉担体収容室に収容させておき、使い捨て(ディスポーサブル)タイプとすることができる。分離可能に設計する方法としては、ハウジング要素同士をネジで一体化する方法、ハウジング要素の一方にネジ山、他方にネジ穴を設計してハウジング要素同士を一体化する方法、スナップフィットにより一体化する方法などが挙げられる。分離不可能に一体化する方法としては、接着剤などの溶剤を用いる接合方法、加熱による溶着、溶接方法などが挙げられ、このうち後者は、超音波溶接、高周波溶接、レーザー溶接、外部加熱溶接などが用いられる。
【0030】
-捕捉担体-
前記捕捉担体としては、特に制限はなくその大きさ、形状、構造、材質等については目的に応じて適宜選択することができるが、前記形状としては、例えば、シート状乃至膜状が好適に挙げられ、また、平面視したときの形状としては、円形状、角状(四角形状、矩形状)などが挙げられ、前記構造としては、例えば、単層構造、積層構造、複合体構造などが挙げられ、前記材質乃至構造としては、例えば、液体透過性膜、織布及び不織布の少なくともいずれかが好ましい。
【0031】
本発明においては、前記捕捉担体は、シート状の捕捉担体要素が積層された積層構造のものが、前記捕捉対象の分離効率の点で好ましい。上述したとおり、従来においては、前記捕捉担体として、複雑な構造物である、同心円状に積層した多孔質膜によるロール型担体などを用いた場合、前記ロール型担体等を収容させるための構造も必要となり、デバイス構造が複雑化し、前記ロール型担体等の交換時等における取扱性等に劣り、安価にかつ簡便に前記生体分子の精製を行うことができないという問題があったが、本発明におけるシート状乃至膜状の前記捕捉担体ではかかる問題がない。
前記積層構造における前記シート状の捕捉担体要素の積層数としては、特に制限はなく前記捕捉担体要素の厚み等に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記捕捉担体要素の厚みが50μm~500μmである場合には、5~200であることが好ましく、5~100であることがより好ましく、5~50がさらに好ましい。
本発明においては、前記シート状の捕捉担体要素を1乃至複数積層してなる前記捕捉担体のユニットを複数用意し、これをフリット、スペーサー等を用いて前記担体収容室内に配置すること、具体例としては、前記シート状の捕捉担体要素を10層積層した前記捕捉担体のユニットを2つ用意し、この2つのユニット間に互いのユニットを離接させるスペーサーを配置し、これを前記担体収容室内に配置することなどもできる。
また、前記捕捉担体のユニットはリガンド、基材が異なる種類のものを複数用意してもよい。その際、異なる種類の捕捉担体のユニットは直接積層することもできるし、フリット、スペーサー等を用いて離接させて配置することもできる。
捕捉担体の劣化防止、捕捉担体からの基材の漏出などを防ぐために、捕捉担体ユニットをフリットで挟んで、前記担体収容室内に配置することもできる。
【0032】
前記捕捉担体における厚みとしては、前記捕捉担体の最大径(直径)に対し、2分の1以下であることが好ましい。本発明の対象捕捉用デバイスにおいては、前記貫通孔Aからの前記試料液の流入、及び、前記貫通孔Bからの前記試料液の流出が、前記捕捉担体の面方向と略平行方向となるタンジェンシャルフローデバイスであることから、前記捕捉担体における厚みを薄くすることができ、前記試料液の前記捕捉担体を効率よく通過させることができると共に、前記捕捉担体における厚みを薄くしても前記捕捉対象の分離効率を低下させることがない。
また、前記捕捉担体の一方の表面における、前記担体収容室形成用凹部A又は前記担体収容室形成用凹部Bと当接する略外周縁部分の面積としては、前記捕捉担体を十分に挟持できる限りは小さいことが、前記捕捉対象の分離効率の点で好ましい。
【0033】
前記捕捉担体は、前記捕捉対象を捕捉可能な捕捉ユニット(リガンド)が表面に配されており、前記捕捉ユニット(リガンド)の種類によって、アフィニティクロマトグラフィー担体、イオン交換クロマトグラフィー担体、及び疎水性相互作用クロマトグラフィーの少なくともいずれかとして機能する。
前記捕捉ユニット(リガンド)の選択は、前記捕捉対象の種類に応じて選択するのが好ましく、例えば、前記捕捉対象がウイルス、ウイルス様粒子、ウイルスベクター、タンパク質、核酸等の生体分子である場合には、前記生体分子に特異的に結合可能な抗体等を前記捕捉ユニット(リガンド)として好適に選択することができる。この場合、前記抗体等を前記捕捉ユニット(リガンド)として備えた前記捕捉担体は、前記アフィニティクロマトグラフィー担体(アフィニティ担体)として機能する。また、前記生体分子の等電点に応じて、正又は負に帯電した化合物を前記捕捉ユニット(リガンド)として好適に選択することもできる。この場合、前記化合物を前記捕捉ユニット(リガンド)として備えた前記捕捉担体は、前記イオン交換クロマトグラフィー担体として機能する。
前記捕捉ユニット(リガンド)は、前記生体分子に結合するものだけでなく、前記生体分子には結合せず、除去したい分子に結合するものを選択してもよい。
【0034】
前記捕捉担体の好適な具体例としては、水不溶性基材と、前記水不溶性基材に固定化された前記捕捉ユニット(リガンド)とを少なくとも有するものが挙げられる。
前記水不溶性基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水不溶性繊維、メンブレン(中空糸を含む)、モノリスなどが挙げられるが、水不溶性繊維が好ましい。
前記水不溶性繊維の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリオレフィン系、ポリプロピレン、無水マレイン酸ポリプロピレン、変性ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース、再生セルロース、セルロースアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、エチルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリスチレン、臭素化ポリスチレン、ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリクロロプレン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリブタジエン、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、アラミド、ガラス、ナイロン、レーヨンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、電子線グラフト重合の反応性が良好な点から、ポリオレフィン系、又はセルロース系が好ましく、ポリオレフィン系がより好ましく、ポリプロピレンがさらに好ましい。
【0035】
前記水不溶性繊維の平均繊維直径の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な引張強度を有する点、もしくは生産性の点から、0.3μm以上が好ましく、0.4μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。
前記水不溶性繊維の平均繊維直径の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、精製性能が高い点から、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましく、3μm以下が特に好ましい。平均繊維直径が15μmを超えるものは、精製性能が低いため好ましくない。
【0036】
前記水不溶性繊維の平均孔径の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な通液性能を有する点、もしくは生産性の点から、0.1μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、1.5μm以上がさらに好ましい。
前記水不溶性繊維の平均孔径の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、精製性能が高い点から、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましく、10μm以下が特に好ましい。
【0037】
前記水不溶性繊維の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、不織布であっても、織布もしくは編物であってもよいが、製造工程の簡略化の点から、不織布が好ましい。
前記不織布の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、湿式法、乾式法、メルトブロー法、エレクトロスピニング法、フラッシュ紡糸法、抄造法、スパンボンド法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法(水流絡合法)、ステッチボンド法、スチームジェット法などが挙げられる。これらの中でも、極細繊維が得られる点から、メルトブロー法、エレクトロスピニング法、フラッシュ紡糸法、抄造法などが好ましい。
【0038】
前記水不溶性基材と前記捕捉ユニット(リガンド)との接続方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記捕捉ユニット(リガンド)に存在するアミノ基、カルボキシル基、又はチオール基を利用した、カップリング法等が挙げられる。
前記カップリング法としては、担体を臭化シアン、エピクロロヒドリン、ジグリシジルエーテル、トシルクロライド、トレシルクロライド、ヒドラジン、過ヨウ素酸ナトリウムなどと反応させて前記水不溶性基材を活性化し(あるいは前記水不溶性基材表面に反応性官能基を導入し)、前記捕捉ユニット(リガンド)として固定化する化合物とカップリング反応を行い固定化する方法、また、前記水不溶性基材と前記捕捉ユニット(リガンド)として固定化する化合物が存在する系にカルボジイミドのような縮合試薬、又はグルタルアルデヒドのように分子中に複数の官能基を持つ試薬を加えて縮合、架橋することによる固定化方法などが挙げられる。
【0039】
-対象捕捉用デバイスの使用-
本発明の対象捕捉用デバイスは、例えば、次のようにして使用することができる。
前記ハウジング要素Aにおける前記担体収容室形成用凹部Aに前記捕捉担体を配置する。前記環状弾性部材を前記ハウジング要素Aにおける前記環状弾性部材収容用凹部Aに収容させる。次に、前記ハウジング要素Bにおける前記担体収容室形成用凹部Bが前記ハウジング要素Aにおける前記担体収容室形成用凹部Aと対向するように、かつ、前記ハウジング要素Bにおける前記前記貫通孔Bが前記ハウジング要素Aにおける前記貫通孔Aと略平行(略同一直線上)になるようにして、前記ハウジング要素Bと前記ハウジング要素Aに重ね合わせる。そして、前記ハウジング要素Bと前記ハウジング要素Aとをネジ等で強固に固定する。このとき、前記ハウジング要素Bと前記ハウジング要素Aとの間に存在する前記環状弾性部材が弾性変形して、前記ハウジング要素Bと前記ハウジング要素Aとは互いに液密に(前記担体収容室中の前記試料液が外部に漏出することなく)一体化される。
次に、前記ハウジング要素Aの外部から前記貫通孔Aに接続管(チューブ)等を介して試料液を流入させる。前記試料液の送液圧力としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、0.3MPa以上の高圧条件下であっても本発明の対象捕捉用デバイスは使用することができる点は、前記生体分子の精製効率の観点からは大きな利点といえる。そして、前記試料液は、前記担体収容室内における前記捕捉担体によって分割された、前記ハウジング要素Aにおける前記担体収容室形成用凹部Aの空間内に流入する。このとき、前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとが前記環状弾性部材を介して液密に一体化されていることから、前記担体収容室内に流入した前記試料液は、前記環状弾性部材が配された領域の外側に漏出することなく、前記捕捉担体を介して、前記担体収容室内における前記捕捉担体によって分割された、前記ハウジング要素Bにおける前記担体収容室形成用凹部Bの空間内に流入する。このとき、前記試料液に含まれる捕捉対象は、前記捕捉担体によって捕捉(吸着)され、前記試料液から分離(単離)される。そして、前記担体収容室形成用凹部Bの空間内に流入した前記試料液は、前記ハウジング要素Bにおける前記貫通孔B内に流入し、前記ハウジング要素Bの外部へ流出される。本発明の対象捕捉用デバイスにおいては、前記貫通孔Aからの前記試料液の流入、及び、前記貫通孔Bからの前記試料液の流出が、前記捕捉担体の面方向と略平行方向となるので、前記対象捕捉用デバイスは、タンジェンシャルフローデバイスであり、前記試料液の流入出が前記捕捉担体の面方向と略直交方向となるデッドエンド型フローデバイスに比し、シート状の前記捕捉担体(アフィニティ担体)を用いても、略並行方向の流れによって前記試料液を前記捕捉担体(アフィニティ担体)の全面に対し均一にかつ一定の流速で前記試料液を接触通過させることができ、前記試料液と前記捕捉担体との接触機会が増え、捕捉効率を向上させることができるため、前記捕捉担体(アフィニティ担体)の効率的使用が可能となる。
【0040】
本発明の対象捕捉用デバイスにおいては、前記環状弾性部材を介した前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとの圧接を解くだけで、前記捕捉担体を交換等することができ、取扱いが簡便で、分解乃至繰返し使用が容易である。また、前記担体収容室内の密閉性は、前記環状弾性部材を介した前記ハウジング要素Aと前記ハウジング要素Bとの圧接だけで実現され、特定構造を設けそこに封止剤を充填等する必要がないので、取扱いが簡便で、分解乃至繰返し使用が容易である。また、前記捕捉担体が前記環状弾性部材と接することがないことから、前記捕捉担体の捕捉有効面積を減少させたり、前記捕捉担体を劣化させることがない。
【0041】
(対象捕捉用デバイスの使用方法)
本発明の対象捕捉用デバイスの使用方法は、(1)前記対象捕捉用デバイスにおける前記捕捉担体に送液する際の圧力を0.3MPa以上とすること、及び、(2)前記対象捕捉用デバイスにおける前記捕捉担体に送液する際の滞留時間を1分間以下とすることの少なくともいずれかを含み、更に必要に応じて適宜選択したその他の工程乃至処理を含む。
前記(1)における圧力の測定方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、公知の圧力計等を用いることができる。
本発明の対象捕捉用デバイスの使用方法においては、本発明の前記対象捕捉用デバイスを用いることにより、前記対象捕捉用デバイスにおける前記捕捉担体に向けて試料液を送液する際の圧力を0.3MPa以上、及び/又は、前記対象捕捉用デバイスにおける前記捕捉担体に送液する際の滞留時間を1分間以下としても、前記捕捉担体の変形等、前記試料液の流速低下等が生ずることがないので、前記試料液の大量かつ高速処理に対応し得る。
なお、本発明においては、前記圧力は、前記試料液を前記捕捉担体に向けて送液するポンプ等の送液圧力設定値を前記圧力として制御することができ、前記滞留時間は、前記試料液を前記捕捉担体に向けて送液する流速を設定することで、もしくは、前記担体収容室から流出する前記試料液の流速とから換算して制御することができる。
【0042】
(生体分子の精製方法)
本発明の生体分子の精製方法は、前記対象捕捉用デバイスを用いて試料液中から生体分子を分離する分離工程を含み、更に必要に応じて適宜選択したその他の工程を含む。
前記生体分子としては、例えば、ウイルス、ウイルス様粒子、ウイルスベクター、タンパク質、核酸などが挙げられるが、特にウイルス、ウイルス様粒子、ウイルスベクターなどが好適に挙げられる。
【0043】
-分離工程-
前記分離工程においては、前記捕捉担体に前記試料液を通液させることにより、前記捕捉担体と前記生体分子とを接触させ、前記捕捉担体における前記捕捉ユニット(リガンド)に、前記試料液に含まれる前記生体分子を結合乃至吸着させることにより、前記生体分子を前記試料液から分離する。また、前記生体分子は吸着させずに、前記試料液に含まれる他の分子を吸着させることにより、前記生体分子を前記試料液から分離する方法も挙げられる。
【0044】
-その他の工程-
前記その他の工程としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記接触工程後の、前記捕捉担体に結合乃至吸着した前記生体分子を前記捕捉担体から解離させる解離工程などが挙げられる。
前記解離工程において、前記生体分子が前記捕捉担体から解離され、溶出される。
前記解離の方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記生体分子が結合した前記捕捉担体と解離用バッファー(溶出バッファー)とを混合する方法、前記生体分子が結合した前記捕捉担体が充填されたデバイスに、解離用バッファー(溶出バッファー)を通液する方法などが挙げられる。
前記解離用バッファー(溶出バッファー)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、pH3以上のバッファーが好ましく、pH3.5以上のバッファーがより好ましく、pH4以上のバッファーがさらに好ましく、pH4.5以上のバッファーが特に好ましい。
【実施例0045】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
図1~
図9は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイス(丸型;ラウンドタイプ)を説明するためのものであり、
図10~
図13は、本発明の第二の実施例に係る対象捕捉用デバイス(四角型;スクエアタイプ)を説明するためのものである。
【0046】
(第一の実施例)
図1は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスを説明するための写真である。
図2は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスを説明するための斜視図である。
図3は、
図2の対象捕捉用デバイスを上下反転させた斜視図である。
図4は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスにおけるハウジング要素A(O-リングを搭載した状態)を説明するための写真である。
図5は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスにおけるハウジング要素A(O-リングを搭載していない状態)を説明するための斜視図である。
図6は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスにおけるハウジング要素Bを説明するための斜視図である。
図7は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスにおけるハウジング要素B(アフィニティ担体を搭載した状態)を説明するための斜視図である。
図8は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスにおける捕捉担体収容室の厚み(深さ)方向と平行方向の断面図である。
図9は、本発明の第一の実施例に係る対象捕捉用デバイスに試料液を流入出させるための管状部材を接続した状態を説明するための斜視図である。
【0047】
図1~
図3に示すように、第一の実施例に係る対象捕捉用デバイス1は、ハウジング要素A 10とハウジング要素B 20とがO-リング30を介してネジ70にて固定され、一体化されて形成される。
【0048】
図4~
図5に示すように、ハウジング要素A 10は、担体収容室形成用凹部A 14と、担体収容室形成用凹部A 14に連通する貫通孔A 12と、担体収容室形成用凹部A 14の外側であって担体収容室形成用凹部A 14とは離設して設けられた環状弾性部材収容用凹部A 16と、環状弾性部材収容用凹部A 16の外側であってハウジング要素A 10の外周部に略等間隔に設けられたネジ用切欠部A 18及びネジ穴19とを有する。ハウジング要素A 10は、ポリカーボネート製で透明であり、切削加工で形成され、平面視したとき略円形状である。
【0049】
貫通孔A 12は、一端がハウジング要素A 10の外部に向けて開口し、他端が担体収容室形成用凹部A 14における底面A 14bに向けてかつ底面A 14bと略平行方向に開口し、案内部A 14eを介して担体収容室形成用凹部A 14における底面A 14bに連通する直線状孔である。貫通孔A 12の内部表面には、
図9に示す、管状部材A 61を螺合させるネジ溝が形成されている。
【0050】
担体収容室形成用凹部A 14は、対象を捕捉する捕捉担体としてのアフィニティ担体40を収容する担体収容室50を形成するための凹部空間であり、平面視したとき円形である。ここでは、直径2.5cmのアフィニティ担体40を余剰スペースなく搭載できる直径サイズとなっている。担体収容室形成用凹部A 14における底面A 14bには、外周部分に、アフィニティ担体40と当接してアフィニティ担体40を挟持する担体当接部A 14aが設けられている。担体当接部A 14aの内側には、貫通孔A 12が設けられた側に案内部A 14eが設けられており、また、案内部A 14eが設けられている箇所以外には、直線状の凸部である流路形成用リブA 14cが5本間隔にかつ貫通孔A 12の軸方向と平行な方向に形成されている。流路形成用リブA 14cの高さ(tA)は0.5mmであり、幅は0.8mmである。
【0051】
環状弾性部材収容用凹部A 16は、その底部の深さがO-リング30の最大厚みよりも小さいため、環状弾性部材収容用凹部A 16にO-リング30が収容された際、O-リング30は、その厚み方向の一部が環状弾性部材収容用凹部A 16からはみ出た状態となっている。
【0052】
図6~
図7に示すように、ハウジング要素B 20は、担体収容室形成用凹部B 24と、担体収容室形成用凹部B 24に連通する貫通孔B 22と、ハウジング要素B 20の外周部に略等間隔に設けられたネジ用切欠き部28及びネジ穴29とを有する。ハウジング要素B 20は、ポリカーボネート製で透明であり、切削加工で形成されたものであり、平面視したとき略円形状である。
【0053】
貫通孔B 22は、一端がハウジング要素B 20の外部に向けて開口し、他端が担体収容室形成用凹部B 24における底面B 24bに向けてかつ底面B 24bと略平行方向に開口し、案内部B 24eを介して担体収容室形成用凹部B 24における底面B 24bに連通する直線状孔である。貫通孔B 22は、ハウジング要素A 10とハウジング要素B 20とが一体化された際、貫通孔A 12とは、略同一直線状に位置し、かつ担体収容室50を介して互いに反対側に位置するように対向して配置される。貫通孔B 22の内部表面には、
図9に示す、管状部材B 62を螺合させるネジ溝が形成されている。
【0054】
担体収容室形成用凹部B 24は、対象を捕捉する捕捉担体としてのアフィニティ担体40を収容する担体収容室50を形成するための凹部空間であり、平面視したとき円形である。担体収容室形成用凹部B 24における底面B 24bには、外周部分に、アフィニティ担体40と当接してアフィニティ担体40を挟持する担体当接部B 24aが設けられている。担体当接部B 24aの内側には、貫通孔B 22が設けられた側に案内部B 24eが設けられており、また、案内部B 24eが設けられている箇所以外には、直線状の凸部である流路形成用リブB 24bとして、互いに平行にかつ等間隔に配置された3本の直線と、前記3本の直線と直交方向に互いに平行にかつ等間隔に配置された3本の直線とが、一定間隔で離接された配置された状態で形成されており、前記3本の直線の中で、貫通孔B 22側に近くなるほど、流路形成用リブB 24cの長さが長くなっている。流路形成用リブB 24cの高さ(tA)は0.5mmであり、幅は0.8mmである。
【0055】
図1~
図3、
図8及び
図9に示すように、第一の実施例に係る対象捕捉用デバイス1は、ハウジング要素A 10とハウジング要素B 20とがO-リング30を介してネジ70にて固定され、一体化される際、アフィニティ担体40を担体収容室形成用凹部A 14又は担体収容室形成用凹部B 24に載置した状態で、O-リング30をO-リング収容用凹部A 16に載置した状態で、ネジ70をネジ用切欠部A 18にネジ70のネジ頭が配置するようにしてネジ孔A 19を貫通させてネジ孔B 29に螺合させる。このとき、O-リング収容用凹部A 16における、O-リング30と接触する底部の深さが、O-リング30の最大厚みよりも小さいため、O-リング30の一部はO-リング収容用凹部A 16から突出した状態で露出する。このような状態で、ハウジング要素A 10とハウジング要素B 20とがO-リング30を介して圧接されるとO-リング30が弾性変形し、この弾性変形したO-リング30を介して、O-リング30が配された領域の内側と外側との間で液体が流通しないように液密にハウジング要素A 10とハウジング要素B 20とが一体化される。ハウジング要素A 10とハウジング要素B 20とに特殊な構造を設け、そこに接着剤等の封止剤を用いる必要がないので、構造の複雑化を招くことがなく、取扱性に優れ、簡便に繰返しの使用が可能である。
【0056】
一体化された後、O-リング30が配された領域の内側には、ハウジング要素A 10における担体収容室形成用凹部A 14と、ハウジング要素B 20における担体収容室形成用凹部B 24とが対向して、アフィニティ担体40を収容する担体収容室50が、O-リング30が配された領域の内側にかつO-リング30が配された領域とは離れた位置に平面視で円形に形成される。このとき、O-リング30も担体収容室50も同心円状に配置させることができるので、O-リング30の内側において担体収容室50の平面視での面積(体積)を最大化させることができる。また、担体収容室50の形状が平面視で円形となる対象捕捉用デバイス1においては、担体収容室50に配置するアフィニティ担体40も平面視で円形とすることができるため、平面視で円形のアフィニティ担体40上に前記試料液を短時間で均一分散させることができ、前記捕捉対象の捕捉効率に優れる。
【0057】
担体収容室50においては、アフィニティ担体40の略外周縁が、ハウジング要素A 10における担体収容室形成用凹部A 14の担体当接部A 14aと、ハウジング要素B 20における担体収容室形成用凹部B 24の担体当接部B 24aとに挟持された状態で、アフィニティ担体40が収容される。その結果、担体収容室50は、その内部空間がアフィニティ担体40によって2つの空間に分割され、この2つの空間はアフィニティ担体40を介して液体流通可能となっている。そして、ハウジング要素A 10には、一端が、担体収容室形成用凹部A 14における底面A 14bに向けてかつ底面A 14bと略平行方向に開口する貫通孔A 12が設けられており、貫通孔A 12における他端がハウジング要素A 10の外部に開口していることから、ハウジング要素A 10の外部から貫通孔A 12に液体を流入させると、その液体は担体収容室50内に流入する。また、ハウジング要素B 20には、一端が、担体収容室形成用凹部B 24における底面B 24bに向けてかつ底面B 24bと略平行方向に開口する貫通孔B 22が設けられており、貫通孔B 22における他端がハウジング要素B 20の外部に開口していることから、ハウジング要素B 20の外部から貫通孔B 22に液体を流入させると、その液体は担体収容室50内に流入する。なお、このとき、貫通孔A 12及び貫通孔B 22における一の開口が担体収容室形成用凹部A14、担体収容室形成用凹部B 24における底面A 14b、底面B 24bに向けてかつ底面A 14b、底面B24bと略平行方向に開口していることから、シート状のアフィニティ担体40を用いても、貫通孔A 12(又は貫通孔B 22)から供給された前記液体が、アフィニティ担体40の全面に対し均一にかつ一定の流速で接触通過できることから、アフィニティ担体40の全面が効率的に使用されることになる。
【0058】
こうして組み立てられた対象捕捉用デバイス1において、貫通孔A 12にフィッティングを接続し、ハウジング要素A 10の外部からチュービングを通して試料液を流入させると、この試料液は、担体収容室50内におけるアフィニティ担体40によって分割された、ハウジング要素A 10における担体収容室形成用凹部A 14の空間内に流入する。このとき、担体収容室形成用凹部A 14における底面A 14bには、直線状の流路形成用リブA 14cが
図5、
図13に示すように、5本等間隔にかつ貫通孔A 12の軸方向と平行に形成されているため、貫通孔A 12から案内部A 14eを介して底面A 14bに向けて流入する前記試料液をアフィニティ担体40の全面に円滑かつ均一に導くことができる。また、担体収容室形成用凹部A 14において、貫通孔A 12における一の開口から流出させる前記試料液をアフィニティ担体40の表面に案内する案内部A 14eが設けられていることから、アフィニティ担体40の全面に対し均一にかつ一定の流速で前記試料液を効率的に接触通過させることができ、アフィニティ担体40の全面が効率的に使用される。
【0059】
そして、ハウジング要素A 10とハウジング要素B 20とがO-リング30を介して液密に一体化されていることから、担体収容室50内に流入した前記試料液は、O-リング30が配された領域の外側に漏出することなく、アフィニティ担体40を介して、担体収容室50内におけるアフィニティ担体40によって分割された、ハウジング要素B 20における担体収容室形成用凹部B 24の空間内に流入する。このとき、前記試料液に含まれる捕捉対象は、アフィニティ担体40によって捕捉(吸着)され、前記試料液から分離(単離)される。そして、担体収容室形成用凹部B 24の空間内に流入した前記試料液は、ハウジング要素B 20における貫通孔B 22内に流入し、ハウジング要素B 20の外部へ流出される。このとき、担体収容室形成用凹部B 24における底面B 24bには、直線状の流路形成用リブB 24cが
図6、
図12に示すように、互いに平行にかつ等間隔に配置された3本と、前記3本と直交方向に互いに平行にかつ等間隔に配置された3本とが、一定間隔で離接されて形成され、かつ、前記3本の中で、貫通孔B 22側に近くなるほど、流路形成用リブB 24cの長さが長くなるように形成されているため、アフィニティ担体40を通過してきた前記試料液を円滑に案内部B 24eに導くことができ、
図9に示す管状部材B 62を介して貫通孔B 22から流出させることができる。
【0060】
対象捕捉用デバイス1においては、貫通孔A 12からの前記試料液の流入、及び、貫通孔B 22からの前記試料液の流出が、アフィニティ担体40の面方向と略平行方向となるので、対象捕捉用デバイス1は、タンジェンシャルフローデバイスであり、前記試料液の流入出がアフィニティ担体40の面方向と略直交方向となるデッドエンド型フローデバイスに比し、前記試料液の流圧によってアフィニティ担体40が変形、破損等し難く、また、前記試料液を前記捕捉担体上に短時間で均一拡散させることができ、前記試料液とアフィニティ担体40との接触時間を増やすことができ、捕捉効率に優れる。また、
図1~
図3及び
図9に示すように、平面視したとき、貫通孔A 12と貫通孔B 22とが互いに略同一直線上の位置にあり、前記試料液を流通させる際の効率、前記捕捉対象の分離効率等に優れる。
【0061】
対象捕捉用デバイス1においては、ネジ70を外してO-リング30を介したハウジング要素A 10とハウジング要素B 20との圧接を解くだけで、アフィニティ担体40を交換等することができ、取扱いが簡便で、分解乃至繰返し使用が容易である。また、担体収容室50内の密閉性は、O-リング30を介したハウジング要素A 10とハウジング要素B 20との圧接だけで実現され、特定構造を設けそこに接着剤等の封止剤を充填等する必要がないので、取扱いが簡便で構造も複雑化せず、分解乃至繰返し使用が容易である。また、アフィニティ担体40がO-リング30と接することがないことから、アフィニティ担体40の捕捉有効面積を減少させたり、アフィニティ担体40を劣化させることがない。
【0062】
(第二の実施例)
図10は、本発明の第二の実施例に係る対象捕捉用デバイスを説明するための写真である。
図11は、本発明の第二の実施例に係る対象捕捉用デバイスを説明するための斜視図である。
図12は、本発明の第二の実施例に係る対象捕捉用デバイスにおけるハウジング要素Bを説明するための斜視図である。
図13は、本発明の第二の実施例に係る対象捕捉用デバイスにおけるハウジング要素A(四角枠状パッキンを搭載した状態)を説明するための斜視図である。
第二の実施例に係る対象捕捉用デバイス100は、第一の実施例に係る対象捕捉用デバイス1と比較すると、ハウジング要素A 110、ハウジング要素B 120、担体収容室形成用凹部A 114、担体収容室形成用凹部B 124、アフィニティ担体(不図示)が平面視で略四角形となり、O-リング収容用凹部A 16を四角枠状パッキン収容用凹部A 116に、O-リング30を四角枠状パッキン130に代え、貫通孔A 112及び貫通孔B 122がハウジング要素A 110、ハウジング要素B 120における対角線上にかつ互いに同一直線上に位置するようにし、担体収容室形成用凹部A 114、担体収容室形成用凹部B 124を一辺が2cmの平面視で正方形のアフィニティ担体(不図示)を余剰スペースなく搭載できるサイズとした外は、材質、構造等が共通であり、その作用も共通するので、ここでは説明を割愛する。
【0063】
(実験)
上述した、第一の実施例に係る対象捕捉用デバイス1と、第二の実施例に係る対象捕捉用デバイス100とを用いて以下の実験を行った。
対象捕捉用デバイス1、及び対象捕捉用デバイス100内部の体積を、以下の方法によって算出した。担体収容室50、担体収容室150のそれぞれ内部にアフィニティ担体を収容させない状態で、対象捕捉用デバイス1における流出側の貫通孔B 22の出口、対象捕捉用デバイス100における流出側の貫通孔B 122の出口をそれぞれストッププラグによって封止し、対象捕捉用デバイス1における流入側の貫通孔A 12の入口、対象捕捉用デバイス100における流入側の貫通孔A 112の入口から、それぞれシリンジにて水を注入した。前記入口に達するまで水を注入し続け、ここでは注入液総量を対象捕捉用デバイス11及び対象捕捉用デバイス100内部の体積とした。結果を表1に示した。
【0064】
【表1】
なお、表1において、「形状」は、対象捕捉用デバイス1、対象捕捉用デバイス100を平面視したときの形状を意味し、「押さえ」は、環状弾性部材の種類を意味し、「パッキン」は、四角枠状パッキンを意味し、「デバイス内部の体積」は、対象捕捉用デバイス1及び対象捕捉用デバイス100内部の体積を意味し、「担体体積」は、担体収容室50、150の体積を意味し、「デバイスのデッドボリューム」は、デバイス内部の体積から、担体体積を差し引いた体積(アフィニティ担体を除いた部分の上流側及び下流側の空間部分)を意味する。
【0065】
-アフィニティ担体の作製-
対象捕捉用デバイス1に搭載するアフィニティ担体40、対象捕捉用デバイス100に搭載するアフィニティ担体(不図示)を次のとおり作製した。
ポリプロピレンを材料としてメルトブロー法により、平均繊維径1.19μm、目付30g/m2、厚さ0.17mmである水不溶性繊維(ポリプロピレン繊維)による不織布を作製した。ラジカル重合性化合物溶液は、GMA(グリシジルメタクリレート)/ポリソルベート20/水を重量%で10/2/88となるように混合し、窒素ガスを通気することで溶存酸素を除去した。作製した不織布に加速電圧250kV、照射線量50kGyとなる条件で、窒素ガス雰囲気下、室温で電子線照射を行った。電子線照射後の不織布をラジカル重合性化合物溶液に浸漬し、反応槽にて50℃で40分間過熱して重合反応を促進させた。その後、常温の水で不織布を洗浄した後、乾燥し、グラフト率50%の水不溶性繊維不織布(アフィニティ担体用基材不織布)を得た。
下記のとおり、前記アフィニティ担体用基材不織布の平均繊維径及び平均孔径を測定し、グラフト重合前後の結果を表2に示した。
【0066】
前記アフィニティ担体用基材不織布の平均繊維径は、走査電子顕微鏡観察をもとに求めた。得られた電子顕微鏡画像から、無作為に選択した100本以上のポリプロピレン繊維の直径を計測した。100以上の計測値の数平均値を平均繊維直径とした。また、グラフト率は、グラフト反応前の不織布重量(W1)とグラフト反応後の不織布重量(W2)とを測定し、以下のように算出した値である。
グラフト率=〔(W2-W1)/W1〕×100(%)
【0067】
前記アフィニティ担体用基材不織布の平均孔径は、パームポロメーター(Porous Materials Inc.(PMI社)製、Capillary Flow Porometer CFP-1200AEXLCSHJ)を用いて測定したミーン・フロー・ポアサイズを平均孔径とした。前記平均孔径の測定、算出には、測定ソフトウェア(Autofilling Perm-Porometer v6.73.90)及び解析ソフトウェア(CAPREP v6.71.51)を用いた。
測定する前記アフィニティ担体用基材不織布は、直径26mmの円形に打ち抜き、Galwick(米国登録商標)浸透液(PMI社製、表面張力15.9Dynes/cm)に浸漬後、デシケーターに入れて真空ポンプで1分程度減圧して空気を留去し、浸透液を充填した。この前記アフィニティ担体用基材不織布を装置付属の試料台(Φ26)にセットし、浸透液に含侵させたサンプルに対して空気の流量を200000cc/mまで徐々に増加させ、その後、乾燥状態で0kPaの圧力となるまで空気の流量を徐々に減少させた。その際の圧力をプロットし、バブルポイント法にて平均流量径(平均孔径)を算出した。なお、測定条件を下記に示した。
Maxflow 200000(cc/m)
Bublflow 2.00(cc/m)
F/PT 200(oldbubltime)
Minbpress 0(kPa)
Zerotime 1.0(sec)
V2incr 5(cts*3)
Preginc 0.3
Pulsedelay 2
Maxpres 1378.9466(kPa)
Pulsewidth 0.2(sec)
Mineqtime 30(sec)
Presslew 10(cts*3)
Flowslew 50(cts*3)
Equiter 5(0.1sec)
Aveiter 20(0.1sec)
Maxpdif 0.69(kPa)
Maxfdif 50(cc/m)
【0068】
【表2】
なお、表2において、「原反」は、前記グラフト重合前の前記アフィニティ担体用基材不織布の測定結果を意味し、「グラフト重合後」は、前記グラフト重合後の前記アフィニティ担体用基材不織布の測定結果を意味する。
【0069】
前記アフィニティ担体用基材不織布を、ポンチを用いて、直径2.5cmの円形に打ち抜き、対象捕捉用デバイス1における担体収容室50に収容させるためのアフィニティ担体要素ディスク1(不織布ディスク1)を作製し、一辺2cmの正方形に打ち抜き、対象捕捉用デバイス100における担体収容室150に収容させるためのアフィニティ担体要素ディスク2(不織布ディスク2)を作製した。
【0070】
前記アフィニティ担体要素ディスク1(不織布ディスク1)及び前記アフィニティ担体要素ディスク2(不織布ディスク2)に対し、ポリエチレンイミン(PEI)溶液(純正化学株式会社製、Mw:70,000、分岐鎖)を加え、37℃で16時間転倒混和した。反応後、前記アフィニティ担体要素ディスク1(不織布ディスク1)及びアフィニティ担体要素ディスク2(不織布ディスク2)をグラスフィルターに移して純水で洗浄し、PEIの固定化された、前記アフィニティ担体要素ディスク1(担体1)及び前記アフィニティ担体要素ディスク2(担体2)を得た。
【0071】
前記アフィニティ担体要素ディスク1(担体1)をそれぞれ1枚ずつ重ね合わせ、1mL-column分を、対象捕捉用デバイス1における担体収容室50に収容させるためのアフィニティ担体40用積層構造物とした。また、前記アフィニティ担体要素ディスク2(担体2)をそれぞれ1枚ずつ重ね合わせ、2mL-column分を、対象捕捉用デバイス100における担体収容室150に収容させるためのアフィニティ担体140(不図示)用積層構造物とした。
【0072】
アフィニティ担体40用積層構造物を対象捕捉用デバイス1における担体収容室50に収容させて対象捕捉用デバイス1を用意し、アフィニティ担体140(不図示)用積層構造物を対象捕捉用デバイス100における担体収容室150に収容させて対象捕捉用デバイス100を用意した。
こうして用意した、対象捕捉用デバイス1及び対象捕捉用デバイス100につき、フィッティング(Fingertight connector 1/16’’ male for tubing o.d. 1/16’’)を用いてAKTA Avant 150(cytiva社製)に接続し、対象捕捉用デバイス1及び対象捕捉用デバイス100それぞれに送る液の流速を徐々に上げて、対象捕捉用デバイス1及び対象捕捉用デバイス100それぞれから液漏れが生じるかを確認し、液漏れが生じた際の液の流速及び送液圧力を記録した。結果を表3に示した。
【0073】
【表3】
なお、表3において、「形状」は、対象捕捉用デバイス1、対象捕捉用デバイス100を平面視したときの形状を意味し、「Delta column pressure」は、対象捕捉用デバイス1及び対象捕捉用デバイス100の、入口における流入圧力と、出口における流出圧力との差を意味する。
【0074】
表3に示す結果より、対象捕捉用デバイス100は、送液時の圧力が0.35MPaとなった際に液漏れが生じることがわかった。一方で、対象捕捉用デバイス1は、同程度の圧力であっても液漏れすることはなく、より高流速で使用可能であることがわかった。
【0075】
-リガンドの準備-
国際公開第2020/067418号パンフレットの実施例6に記載の方法で免疫実験を実施した。免疫したアルパカの血液から特開2015-119637号公報の実施例1に記載の方法で、抗体遺伝子群を取得し、抗AAV-VHH抗体のファージライブラリーを調製した。ファージライブラリーからの抗AAV-VHH抗体のスクリーニングは、AAVのempty particleを抗原として、特開2015-119637号公報の実施例1に記載のバイオパンニングの方法で実施した。AAVのempty particleは、国際公開第2020/067418号パンフレットの実施例3に記載の方法で調製した。
バイオパンニング後のファージ感染した大腸菌を段階希釈し、100μg/mLアンピシリンと2%グルコースを含む2YT寒天培地(1.6%トリプトン、1.0%酵母エキス、2.0%寒天)で培養した。シングルコロニーを100μg/mLアンピシリンと2%グルコースを含む2YT培地 3mLで37℃で一晩培養した。100μg/mLアンピシリンを含む2YT培地 5mLに一晩培養した培養液を30μL加え、37℃、300rpmで1時間培養した。培養後、培養液3mLを分取し、ヘルパーファージ(M13KO7(Thermo Fisher Scientific社製):1.0×1013/mL)をMOI=5で感染させた。37℃で30分間静置した後、37℃、300rpmで30分間振とうした。この培養液にカナマイシンを50μg/mLになるように添加し、37℃、300rpmで一晩培養した。培養後、培養液を4℃、4,000rpmで30分間遠心し、上清を0.2μmのフィルター(Sartorius社製)でろ過し、大腸菌を除去し、抗AAV-VHH抗体がディスプレイされたファージを取得した。
このファージ溶液を抗体溶液とし、国際公開第2020/067418号パンフレットに記載の方法で、AAVに対する結合活性を評価し、結合活性の高いクローンを選抜した。結合活性の高いファージクローンをE.coli MV1184(タカラバイオ株式会社製)に感染させ、抗AAV-VHH抗体をペリプラズムに発現する大腸菌を育種した。この大腸菌を100μg/mLのアンピシリンを含むTB培地(1.2%トリプトン、2.4%酵母エキス、0.8%グリセロール、0.94%リン酸水素二カリウム、0.22%リン酸二水素カリウム)を用いて37℃で1時間培養した後、終濃度が1mMになるようにイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドを添加し、37℃で一晩培養した。
得られたVHH発現培養液からAKTA avant 25(GEヘルスケア社)を用いた陽イオン交換クロマトグラフィーにより抗AAV-VHH抗体を精製した。サンプルは25mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)で平衡化したCellufine MAX S-r 100 mL(JNC社製)に負荷し、平衡化に用いたバッファーと1M NaClを含むリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)のリニアグラジエントにより溶出した。精製した抗AAV-VHH抗体を遠心限外ろ過ユニットOMEGA Membrane 1K(PALL社製)で濃縮し、VHHリガンドを得た。
【0076】
上述において調製した、対象捕捉用デバイス1に用いる、PEI固定化アフィニティ担体要素ディスク1(担体1)と、対象捕捉用デバイス100に用いる、PEI固定化アフィニティ担体要素ディスク2)とのそれぞれに対し、超純水5mL及び2N水酸化ナトリウム水溶液1mLを加えて30分間転倒混和した。1,4‐ブタンジオールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製)5mLを加え、37度で4時間転倒混和した。反応後、前記各担体要素ディスクをグラスフィルターに移して純水で洗浄し、エポキシ化担体要素ディスクを得た。
【0077】
こうして得られたエポキシ化担体要素ディスクに対し、0.5mol/LのNaClを含む0.2mol/L炭酸緩衝液(pH10.0)を加えた。それに対し、作製した上記精製VHH抗体(VHHリガンド)を1.7mg分添加し、液量が5mLとなるようにした。37℃で30分間転倒混和した後、無水硫酸ナトリウム0.497gをゆっくりと加えて溶解させ、さらに37℃で16時間転倒混和した。反応後、エポキシ化担体要素ディスクをグラスフィルターに移して上記炭酸緩衝液で洗浄した。この際のろ液を回収し、吸光度を測定することによりエポキシ化担体要素ディスクに固定化されたVHHリガンドのリガンド密度を算出した。算出したリガンド密度は5.8mg/mL-columnであった。続いて、洗浄後のエポキシ化担体要素ディスクに残存するエポキシ基を封止するため、0.1mol/LのNaCl、及び10%v/vチオグリセロールを含む0.2mol/Lリン酸緩衝液(pH8.0)を加え、25℃で16時間転倒混和した。反応後、エポキシ化担体要素ディスクをグラスフィルターに移して純水及び20%エタノールで洗浄し、VHHが固定化されたアフィニティ担体(対象捕捉用デバイス1に用いるアフィニティ担体40、対象捕捉用デバイス100に用いるアフィニティ担体(不図示))を得た。
【0078】
-対象捕捉用デバイスの用意-
得られた、アフィニティ担体40を対象捕捉用デバイス1における担体収容室50に収容させて対象捕捉用デバイス1を得て、アフィニティ担体(不図示)を対象捕捉用デバイス100における担体収容室150に収容させて対象捕捉用デバイス100を得た。
また、アフィニティ担体40を、1mL-column分をOMNIFIT(登録商標) EZカラム(Φ25mm、10cm長)中に、カラム長手方向(軸方向)とアフィニティ担体40における両表面が直交するように収容させて比較用対象捕捉デバイスを得た。なお、この比較用対象捕捉デバイスにおいては、液の流通方向がアフィニティ担体40における両表面と直交する方向となるので、この比較用対象捕捉デバイスは、いわゆるデッドエンド型フローデバイスである。
【0079】
-試料液の調製-
--動物細胞によるアデノ随伴ウイルス(AAV2)産生及びAAV2前処理液調製--
蛍光タンパク質GFPの改変体であるVENUS(GenBank:ACQ43955.1)を発現するAAV2作製用プラスミドを、AAVベクター作製キット(「AAVpro(登録商標) Helper Free System」タカラバイオ社製)を用いて作製した。
培養したHEK293細胞に、トランスフェクション試薬(「Polyethylenimine MAX」Polysciences社製、MW:40,000)を用いて作製したプラスミドをトランスフェクションし、AAVを産生させた。培養終了後、細胞を剥離し、細胞培養液を回収した。これを遠心分離し、上清を除去し、AAV産生細胞を得た。
上記で得たAAV産生細胞を、0.1% Triton X-100を含むダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(Sigma-Aldrich社製、以下、「PBS」と略記する)に懸濁し、氷中で20分間撹拌し、細胞破砕した。得られた細胞破砕液に、7.5v/v%の1M塩化マグネシウム水溶液と、0.1v/v%の250kU/mL KANEKA Endonuclease(株式会社カネカ製)を添加し、37℃で30分間静置し、細胞由来核酸を分解した。反応後、反応液に対して15v/v%の0.5M EDTA溶液を添加した後、デプスフィルター(Pall社製)により清澄化した。得られた清澄化液をAAV2前処理液とした。
【0080】
--AAV2粗精製液の調製--
Journal of Virological Methods 2007 140:183-192を参考に、得られたAAV2前処理液を陽イオン交換クロマトグラフィーにより精製した。
POROS(登録商標) 50HS(Thermo社製)をTricorn(登録商標)10/150(GEヘルスケア社製)に充填し、陽イオン交換精製用のカラムとした。
下記A~F液を調製し、使用前に0.2μmフィルターを通した。
A液:NaPO4(20mmol/L),NaCl(100mmol/L),pH7.4
B液:NaPO4(20mmol/L),NaCl(100mmol/L),Sarkosyl(5mmol/L),pH7.4
C液:NaPO4(20mmol/L),NaCl(370mmol/L),pH7.4
D液:NaCl(1mol/L)
E液:NaOH(0.5mol/L)
F液:AAV2前処理液をA液で希釈し、pH7.4に調製した溶液
上記カラムをAKTA Avant 25に接続し、D液で洗浄、A液で平衡化した。その後、F液を通液し、AAVをカラム担体に保持させた後、A液、B液、A液の順に洗浄し、C液でAAVを溶出した。溶出終了後、カラムはD液、及びE液で洗浄した。
粗精製したAAVはSDS-PAGEで精製度合いの確認、定量PCR(qPCR)で液中のAAV量を定量した。
【0081】
-捕捉性能比較-
対象捕捉用デバイス1(タンジェンシャルフローデバイス)及び比較用対象捕捉デバイス(デッドエンド型フローデバイス)を用い、得られた上記AAV2粗精製液をアフィニティクロマトグラフィーにより精製した。
下記A~F液を調製し、使用前に0.2μmフィルターでろ過した。
A液:Tris-HCl(20mmol/L),塩化ナトリウム(500mmol/L),pH8.0
B液:クエン酸(100mmol/L),塩化ナトリウム(500mmol/L),pH4.5
C液:クエン酸(100mmol/L),塩化ナトリウム(500mmol/L),pH2.1
D液:NaOH(10mmol/L)
E液:リン酸(120mmol/L),酢酸(167mmol/L),ベンジルアルコール(2.2%v/v)
F液:20%エタノール
F液:AAV2粗精製液をA液で希釈し、pH8.0に調製した溶液
【0082】
対象捕捉用デバイス1(タンジェンシャルフローデバイス)及び比較用対象捕捉デバイス(デッドエンド型フローデバイス)をそれぞれAKTA Avant 25に接続し、滞留時間を2.5秒(流速24mL/min)に設定し、純水で洗浄、A液で平衡化した。その後、F液を通液し、AAVを各デバイスにおけるアフィニティ担体に捕捉させた後、A液で洗浄し、B液にてAAVを溶出した(溶出工程)。溶出終了後、各デバイスはC液、A液、D液、A液、E液の順に洗浄した(洗浄工程)。洗浄後、各デバイス内をF液に置換し冷蔵保存した。
各フラクションに含まれるAAV量をQuantStudio3 リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific社製)を用いた定量PCR(qPCR)にて定量した。また、回収AAV量に対するフロースルー(FT)への漏出AAV量の比率、及び回収AAV量に対する溶出工程の回収AAV量の比率を算出した。結果を表4に示した。
【0083】
【表4】
なお、表4において、「FT」は、F液の通液時にデバイスから排出される流出液(フロースルー)を意味する。
【0084】
表4に示す結果によれば、比較用対象捕捉デバイス(デッドエンド型フローデバイス)を用いると、AAVがFTに4割程度漏れだしてしまい、対象物を高流速で効率的に精製することが難しいことがわかった。一方で、対象捕捉用デバイス1(タンジェンシャルフローデバイス)を用いると、ほとんどのAAVを溶出工程で回収することができ、対象物を高流速で効率的に精製可能であることがわかった。
【0085】
-対象捕捉用デバイス1の高流速使用-
対象捕捉用デバイス1(タンジェンシャルフローデバイス)を用い、上記同様にAAVをクロマトグラフィー精製した。その際に、対象捕捉用デバイス1(タンジェンシャルフローデバイス)における担体収容室50内での液の滞留時間を60秒、10秒、2.5秒に設定し、各設定値でのFTへのAAV漏出率、及び溶出工程でのAAV回収率を算出した。結果を表5に示した。
【0086】
【表5】
なお、表5において、「FT」は、F液の通液時にデバイスから排出される流出液(フロースルー)を意味する。
【0087】
表5に示す結果によれば、対象捕捉用デバイス1(タンジェンシャルフローデバイス)は、滞留時間60秒以下であっても対象物を効率的に精製可能であることがわかった。
【0088】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 環状弾性部材、
対象を捕捉する捕捉担体を収容する担体収容室を形成するための担体収容室形成用凹部Aと、
一端が外部に開口し、他端が前記担体収容室形成用凹部Aにおける底面に向けてかつ前記底面と略平行方向に開口する貫通孔Aと、
前記担体収容室形成用凹部Aよりも外側であってかつ前記担体収容室形成用凹部Aと離接して設けられ、前記環状弾性部材を収容すると共に、前記環状弾性部材を収容させた際に前記環状弾性部材と接触する底部の深さが前記環状弾性部材の最大厚みよりも小さい環状弾性部材収容用凹部Aと
を有するハウジング要素A、及び、
前記捕捉担体を収容する担体収容室を形成するためのものであって、前記担体収容室形成用凹部Aと対向して前記担体収容室を形成し、前記担体収容室形成用凹部Aと共に前記捕捉担体の略外周縁に当接して前記捕捉担体を挟持した状態で収容する担体収容室形成用凹部Bと、
一端が外部に開口し、他端が前記担体収容室形成用凹部Bにおける底面に向けてかつ前記底面と略平行方向に開口する貫通孔Bと、
を有するハウジング要素B、
を有することを特徴とする対象捕捉用デバイスである。
<2> 前記貫通孔A及び前記貫通孔Bが、流体を流通可能な管状部材又はチューブ状部材と接続可能である、前記<1>に記載の対象捕捉用デバイスである。
<3> 前記担体収容室が平面視すると略円形である、前記<1>又は<2>に記載の対象捕捉用デバイスである。
<4> 前記環状弾性部材が、厚み方向の断面が略円形であって平面視したとき略円形のO-リングである、前記<1>から<3>のいずれかに記載の対象捕捉用デバイスである。
<5> 前記ハウジング要素Aが、対向して配置された前記ハウジング要素Bを基準として、前記担体収容室形成用凹部Aにおける底面よりも遠い側に、前記貫通孔Aの開口部から流入又は流出する流体を、前記担体収容室形成用凹部Aにおける底面側に向けて案内する案内部Aを有し、
前記ハウジング要素Bが、対向して配置された前記ハウジング要素Aを基準として、前記担体収容室形成用凹部Bにおける底面よりも遠い側に、前記貫通孔Bの開口部から流入又は流出する流体を、前記担体収容室形成用凹部Bにおける底面側に向けて案内する案内部Bを有する、前記<1>から<4>のいずれかに記載の対象捕捉用デバイスである。
<6> 前記ハウジング要素Aの前記担体収容室形成用凹部Aが底面に流路形成用リブAを有し、
前記ハウジング要素Bの前記担体収容室形成用凹部Bが底面に流路形成用リブBを有し、
前記流路形成用リブAの高さ(tA)及び前記流路形成用リブBの高さ(tB)が0.5mm以上である(tA≧0.5mm,tB≧0.5mm)、前記<1>から<5>のいずれかに記載の対象捕捉用デバイスである。
<7> 複数の前記流路形成用リブAのうち、前記担体収容室形成用凹部Aにおける前記貫通孔A側に位置する前記流路形成用リブAが、前記貫通孔Aに向けて配向し、
複数の前記流路形成用リブBのうち、前記担体収容室形成用凹部Bにおける前記貫通孔B側に位置する前記流路形成用リブBが、前記貫通孔Bに向けて配向した、前記<1>から<6>のいずれかに記載の対象捕捉用デバイスである。
<8> 前記捕捉担体がシート状である、前記<1>から<7>のいずれかに記載の対象捕捉用デバイスである。
<9> 前記捕捉担体が、液体透過性膜、織布及び不織布の少なくともいずれかで形成された捕捉担体要素を含む、前記<1>から<8>のいずれかに記載の対象捕捉用デバイスである。
<10> 前記捕捉担体が、前記捕捉担体要素が積層されてなる、前記<9>に記載の対象捕捉用デバイスである。
<11> 前記捕捉担体における、厚みが直径に対し、2分の1以下である、前記<8>から<10>のいずれかに記載の対象捕捉用デバイスである。
<12> 前記捕捉担体が、アフィニティクロマトグラフィー担体、イオン交換クロマトグラフィー担体、及び疎水性相互作用クロマトグラフィーの少なくともいずれかである、前記<1>から<11>のいずれかに記載の対象捕捉用デバイスである。
<13> 前記<1>から<12>のいずれかに記載の対象捕捉用デバイスの使用方法であって、
前記対象捕捉用デバイスにおける前記捕捉担体に送液する際の圧力を0.3MPa以上とすることを特徴とする対象捕捉用デバイスの使用方法である。
<14> 前記<1>から<12>のいずれかに記載の対象捕捉用デバイスの使用方法であって、
前記対象捕捉用デバイスにおける前記捕捉担体に送液する際の滞留時間を1分間以下とすることを特徴とする対象捕捉用デバイスの使用方法である。
<15> 前記<1>から<12>のいずれかに記載の対象捕捉用デバイスを用いて試料液中から生体分子を分離することを特徴とする生体分子の精製方法である。
<16> 前記生体分子が、ウイルス、ウイルス様粒子、及びウイルスベクターの少なくともいずれかである、前記<15>に記載の生体分子の精製方法である。