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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050845
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】運動用タイツ
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/05 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
A41D13/05 143
A41D13/05 125
A41D13/05 136
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161173
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雄二
(72)【発明者】
【氏名】角 奈那子
(72)【発明者】
【氏名】福田 誠
【テーマコード(参考)】
3B011
【Fターム(参考)】
3B011AA05
3B011AB11
3B011AC17
(57)【要約】
【課題】過度の脚流れを生じ難くする運動用タイツを提供する。
【解決手段】運動用タイツ10は、少なくとも高張力部分22と、高張力部分22の張力よりも低い張力を有する低張力材料とを結合して、第1脚を囲む第1筒部16、第2脚を囲む第2筒部、及び下腹部を囲む第3筒部20を含む所定形状に形成し、高張力材料は、少なくとも、第3筒部20の幅方向中間から、第1筒部16及び第2筒部の幅方向外側下端に向かう第1方向に沿って延びるよう配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも高張力部分と、前記高張力部分の張力よりも低い張力を有する低張力部分とを結合して、第1脚を囲む第1筒部、第2脚を囲む第2筒部、及び下腹部を囲む第3筒部を含む所定形状に形成し、
前記高張力部分は、少なくとも、前記第3筒部の幅方向中間から、前記第1筒部及び前記第2筒部の幅方向外側下端に向かう第1方向に沿って延びるよう配置されている、運動用タイツ。
【請求項2】
前記高張力部分は、前記第3筒部の幅方向中心に沿って延びる線に対して10~80度の角度をなすよう配置されている、請求項1に記載の運動用タイツ。
【請求項3】
前記高張力部分は、着用者の鼠径部に沿って延びる仮想線と直交する方向に延びるよう配置されている、請求項1又は2に記載の運動用タイツ。
【請求項4】
前記高張力部分は、前記第1方向に沿って平行に配置された複数本の直線部分を有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の運動用タイツ。
【請求項5】
前記高張力部分は、前記第1方向に沿って直線上に配列された複数の要素を有する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の運動用タイツ。
【請求項6】
前記高張力部分は、着用者の骨盤を覆う部分を避けて配置されている、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の運動用タイツ。
【請求項7】
前記高張力部分は、着用者の大腿部幅方向内側を覆う部分を避けて配置されている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の運動用タイツ。
【請求項8】
着用者の鼠径部に沿って延びる仮想線と直交する方向に引張力を加える引張構造を備える、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の運動用タイツ。
【請求項9】
前記第1筒部、前記第2筒部、及び前記第3筒部は、対応する形状の前身頃生地及び後身頃生地を結合して形成され、
前記前身頃生地と前記後身頃生地との間の結合線は、上下方向に延び、かつ中間部分で後方に突出する屈曲形状を有する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の運動用タイツ。
【請求項10】
前記第1筒部、前記第2筒部、及び前記第3筒部は、対応する形状の前身頃生地及び後身頃生地を結合して形成され、
前記後身頃生地の張力は前記前身頃生地の張力よりも小さい、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の運動用タイツ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は運動用タイツに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、競技者の運動時の動きをサポートしたり、姿勢維持をサポートしたりするための運動用タイツが知られている(例えば、特許文献1)。この種の運動用タイツは、求められる機能に応じて異なる張力を有する材料を組み合わせて形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6019112号公報
【0004】
近年、健康増進を目的としてランニングに注目が集まっている。ランニング時には、特に下半身に継続的に負荷が加わり続けるため、一定の姿勢を維持することが重要になることが知られている。一部の運動用タイツは、ランニング時の姿勢維持をサポートすることを目的としている。
【0005】
ランニング時に、競技者の身体に起こり得る現象の一つとして、いわゆる「脚流れ」が知られている。脚流れとは、一連のランニング動作のうち、一方の脚が接地しており他方の脚が接地していない片足支持期において、他方の脚が後方にあることをいう。過度の脚流れが起きると、競技者の足が身体よりも後方で運動し続けることとなり、適切な蹴り出しを行い難くなる。また、長距離走を行っているときに過度の脚流れが起きると、競技者の脚に疲労が蓄積し易くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、過度の脚流れを生じ難くする運動用タイツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、少なくとも高張力部分と、高張力部分の張力よりも低い張力を有する低張力部分とを結合して、第1脚を囲む第1筒部、第2脚を囲む第2筒部、及び下腹部を囲む第3筒部を含む所定形状に形成し、高張力部分は、少なくとも、第3筒部の幅方向中間から、第1筒部及び第2筒部の幅方向外側下端に向かう第1方向に沿って延びるよう配置されている運動用タイツが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態による運動用タイツの正面図である。
図2】同運動用タイツの前身頃の概略的な展開図である。
図3】走行時の脚の動きを示す概略図である。
図4】変形例による運動用タイツの一部を拡大した正面図である。
図5】変形例による運動用タイツの一部を拡大した正面図である。
図6】変形例による運動用タイツの一部を拡大した正面図である。
図7】変形例による運動用タイツの一部を拡大した正面図である。
図8】変形例による運動用タイツの正面図である。
図9】変形例による運動用タイツの側面図である。
図10】変形例による運動用タイツの正面図である。
図11】実施例による運動用タイツの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳述する。実施形態では、方向を示す用語として、前後方向、幅方向、及び上下方向を用いることがある。各方向は、運動用タイツを着用している者が起立している状態において、着用者の身体に対する方向をいう。つまり前方向は着用者が向いている方向を示し、後方向は着用者の背中が向いている方向を示す。幅方向は、着用者の身体の幅方向を示す。また、以下の説明では、ショートパンツ型の短・中距離走用の運動用タイツを例に挙げるが、本発明はロングパンツ型若しくはハーフパンツ型の運動用タイツ又は長距離走用の運動用タイツにも適用可能である。
【0010】
図1は、運動用タイツの正面図である。図1に示すように、運動用タイツ10は、前身頃12と、後身頃14とを備える。前身頃12は着用者の下半身の一部の前面を覆い、後身頃14は着用者の下半身の一部の後面を覆う。前身頃12と後身頃14は、幅方向端部において互いに結合されている。運動用タイツ10は、前身頃12及び後身頃14を結合することで、着用者の二本の脚、及び下腹部をそれぞれ囲む3つの筒部からなる立体形状を有する。より具体的には運動用タイツ10は、着用者の第1脚(図示の例では右足)を囲む第1筒部16と、着用者の第2脚(図示の例では左脚)を囲む第2筒部18と、着用者の下腹部を囲む第3筒部20とを含む立体形状を有する。なお、筒部の用語は、単に前身頃12と後身頃14とからなる立体形状を概略的に説明するために用いられている。以下の説明から分かるように、第1~第3筒部16,18,20自体の機能は、本実施形態の特徴部分と直接関連するものではないため、第1~第3筒部16,18,20の間の境界について詳細な説明を行わない。
【0011】
第1筒部16と第2筒部18は、第3筒部20から下向きに延びる。すなわち、第3筒部20は、第1筒部16及び第2筒部18の上方に位置する。第1筒部16及び第2筒部18の下端は、それぞれ着用者の大腿部下端近傍に対応する位置まで延びる。第1筒部16と第2筒部18の下端、かつ筒の内側には、すべり止めSが貼り付けられている。すべり止めSは、大腿部を囲むように、第1筒部16及び第2筒部18の内側に沿って配置されている。すべり止めSは、運動用タイツ10の着用者の肌との間の摩擦力を増加させられる構造又は材料により構成される。すべり止めSとしては、例えば、第1筒部16及び第2筒部18の内側にシリコン樹脂等の樹脂材料を取り付けたパーツを用いることができる。すべり止めSは、前身頃12および後身頃14を構成する生地よりも摩擦係数の大きい生地を配置することによって形成されてもよいし、寸法を絞るなどしてその部分の着圧を大きくすることによって形成されてもよい。
【0012】
運動用タイツ10は、全体的に身体の各部を締め付ける構造を有している。具体的には、運動用タイツ10の前身頃12及び後身頃14は、伸縮性を有する生地(「低張力部分」に相当)により形成されている。伸縮性は、例えば、張力(N)により表される物理値である。前身頃12及び後身頃14の大部分は、同一の伸縮性(張力:f1〔N〕)を有する生地により形成されている。このような生地としては、例えばナイロンのような化学繊維がある。このような生地を用いて運動用タイツ10を作ることにより、運動用タイツ10を着用したとき、第1筒部16は着用者の右脚を全方位から締め付け、第2筒部18は左脚を全方位から締め付け、第3筒部20は着用者の下腹部を全方位から締め付ける。なお、前身頃及び後身頃の用語は、説明の便宜上用いているに過ぎず、前身頃及び後身頃のそれぞれが、一枚の生地により形成されていることを意味するものではない。
【0013】
運動用タイツ10は、高張力材料により形成された高張力部分22を有する。高張力部分22の張力f2は、低張力部分をなす生地の張力f1よりも大きい。高張力部分22は、低張力部分をなす生地に高張力材料が適用(塗布、プリント等)されている一つのまとまった領域である。生地の上に高張力材料を適用している本実施形態では、符号22により示される六角形の領域全体が高張力部分22である。つまり高張力部分22は、六角形の領域内の生地と、高張力材料の積層体を含む概念である。運動用タイツ10は、着用者の右脚及び左脚のそれぞれに対応して、2つの高張力部分22を有する。高張力材料としては、高張力エラストマーを含む樹脂材料がある。高張力材料としては、前身頃12及び後身頃14の大部分(つまり、高張力部分22以外の部分)を形成する生地よりも高い張力を有する様々な材料を用いることができる。高張力材料としては、例えば、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリエチレン系など種々の熱可塑性エラストマーが好適に使用される。高張力材料としては、熱可塑性エラストマーに限らず、熱硬化性エラストマーを使用してもよい。
【0014】
図2は、運動用タイツの前身頃の概略的な展開図である。図2において仮想線L1は、運動用タイツ10を正面視したときに着用者の鼠径部に対応する位置に沿って延びる線を示す。なお、図2では主に着用者の右脚側に設けられた高張力部分22を示し、以下では右脚側に設けられた高張力部分22について詳細な説明を行う。2つの高張力部分22は、着用者の身体の中心に対して線対称に設けられている点以外は、同一の構成を有する。
【0015】
高張力部分22は、着用者の左右の大腿に対応する位置にそれぞれ設けられている。高張力部分22は、複数の連続的な直線部分24を含み、各直線部分24は互いに平行に配置されている。高張力部分22は、第3筒部20の幅方向中間から、幅方向外向き、かつ下向き(第1方向に相当)に延びる。高張力部分22の延びる向きとは、各直線部分24の延びる向きを意味する。
【0016】
詳細は後述するが、高張力部分22が複数の不連続な要素により形成されており、かついくつかの要素により構成される複数の群が互いに平行に配列されている場合(後述する図6の例)、高張力部分22の延びる向きは群が配列されている方向をいう。また、詳細は後述するが、高張力部分22がランダムに配置された複数の不連続な要素により形成されている場合、高張力部分22の延びる向きは、全ての要素の最も長い径の平均ベクトルにより定まる方向をいう(後述する図7)。
【0017】
直線部分24の太さや、直線部分24同士の間隔は、要求される張力に応じて決定される。直線部分24を太くしたり、直線部分24同士の間隔を狭めたりすると、高張力部分22の張力を増加させられる。直線部分24の太さは、例えば、1mm~50mmであり、各直線部分間の距離(直線部分24の中心間距離)は、例えば、1mm~50mmであるのがよい。
【0018】
高張力部分22は、第3筒部20の下端から所定の距離だけ上方に離れた位置まで延びる。なお、高張力部分22を、第3筒部20の下端まで延ばしてもよい。高張力部分22の上端は、第3筒部20の幅方向中間、より具体的には正面視したときに第3筒部20の幅方向中心付近に位置する。2つの高張力部分22が干渉しないよう、高張力部分22の上端を、第3筒部20の幅方向中心よりも幅方向外側に設けることが好ましい。
【0019】
また、高張力部分22が着用者の股間に対応する箇所を避けるよう、高張力部分22の上端を位置決めしてもよい。この場合、高張力部分22の上端は、第3筒部20の中央付近よりもさらに幅方向外側に設けられる。これにより、走行時に比較的身体の動作が多い股間付近において、高張力部分22が着用者の動作を妨げ難くなる。
【0020】
また、高張力部分22は、着用者の骨盤を覆う部分A1を避けて配置されている。より具体的には骨盤を覆う部分A1は、正面視において着用者の腸骨と重複する部分をいう。これにより、高張力部分22が骨盤の動きを妨げるのを防止できる。
【0021】
また、高張力部分22は、着用者の大腿部幅方向内側を覆う部分A2を避けて配置されている。より具体的には大腿部幅方向内側を覆う部分A2は、左右の大腿部が対向する部分をいう。これにより、高張力部分22が着用者に違和感を与えたり、左右の高張力部分22同士が擦れたりするのを防止できる。
【0022】
高張力部分22の延びる向きは、第3筒部20の幅方向中心に沿って延びる仮想線L2に対して所定範囲(仮想線L3と仮想線L4の間の角度範囲)内の鋭角とされる。具体的には、高張力部分22が仮想線L2に対してなす角度は、10度から80度の間であることが好ましい。仮想線L3と仮想線L4の交点の位置は特に限定されないが、高張力部分22の面積を大きくして高張力部分22の効果を高める観点から、交点は比較的上方に設けるのがよい。
【0023】
高張力部分22の延びる向きを、別の観点から決定してもよい。具体的には高張力部分22の延びる向きは、着用者の鼠径部に対応する位置に沿って延びる仮想線L1に対して略直角をなすのがよい。この場合、高張力部分22は、着用者の鼠径靱帯と平行に延びる、
ここで着用者の鼠径部に対応する位置に沿って延びる仮想線L1に対して略直角とは、高張力部分22が仮想線L2に対してなす角度が40度から50度の間の範囲をいう。
ということもできる。
【0024】
このように高張力部分22を配置することにより、走行時に蹴り出した直後の脚の大腿部が後方に移動する動きに対向して、下腹部との間で引張り力を作用させられる。大腿部と下腹部との間で引張り力を作用させることにより、走行時の過度の脚流れ現象を防ぎ、運動用タイツ10の着用者のパフォーマンス向上が期待できる。
【0025】
以下、運動用タイツ10の作用について説明する。図3は、走行時の脚の動きを示す概略図である。図3では、走行時の脚の動きを状態(i)~(iv)の四段階に分けて示す。図3は、走行者の右側から走行者を見た図であり、明確化のために手前にある右脚を実線で示し、奥側にある左脚を破線で示す。図3中の上段に示されているモデルは、運動用タイツ10を着用していないときの状態を示し、下段に示されているモデルは、運動用タイツ10を着用しているときの状態を示す。
【0026】
状態(i)は、右脚が接地した直後の状態を示し、右脚による片足支持期前期を示す。状態(ii)は、右脚による蹴り出しを行う瞬間の状態を示し、右脚による片足支持期後期を示す。状態(iii)は、左脚の接地直前の状態を示す。状態(iv)は、左脚が接地した直後の状態を示し、左脚による片足支持期前期を示す。本明細書において「過度の脚流れ」とは、状態(ii)から状態(iii)にかけて、蹴り出した脚(図3では右脚)の大腿部と地面Gにして直角な仮想線L5とのなす角度が大きくなる状態をいう。すなわち、伸展角度αと伸展角度βの差が大きくなる状態をいう。
【0027】
図3の上段の一連の動作において右脚に着目すると、状態(ii)では右脚による蹴り出しを行う瞬間、右脚の大腿部と、地面Gに対して直角な仮想線L5との間の伸展角度αが、下段の状態(ii)における伸展角度αと比べて大きくなっている。また状態(ii)に続く状態(iii)においても、上段のモデルにおける伸展角度βは下段のモデルにおける伸展角度βよりも大きくなっている。さらに状態(iii)に続く状態(iv)においても、下段モデルにおける右脚の大腿部は仮想線L5より前方に位置しているのに対し、上段モデルにおける右脚の大腿部は仮想線L5付近に位置している。すなわち上段モデルでは状態(ii)から状態(iii)を経て状態(iv)に至るまでの一連の動作において右脚を前方に引き付ける動作が遅れており、結果としてピッチが遅くなるなどして走る速度が遅くなると考えられる。
【0028】
このような過度の脚流れが生じる原因として、状態(ii)から状態(iii)に至るまでの間において、脚(図3においては右脚)を前に引き出そうとするタイミングの遅れや脚を前に引き出すための筋力不足などが考えられる。運動用タイツ10は、この過度の脚流れが生じる原因を改善するものである。図3において下段の一連の動作において、右脚に着目すると状態(ii)において、伸展角度αが上段の伸展角度αよりも小さくなっている。また状態(iii)においても、伸展角度βが上段の伸展角度βよりも小さくなっている。したがって、伸展角度αと伸展角度βの差(β-α)は伸展角度βと伸展角度αとの差(β-α)よりも小さくなっている。これは状態(ii)から状態(iii)にかけて右脚が後方に伸展した状態において、伸ばされた高張力部分22に収縮力が働き、その収縮しようとする力が股関節を屈曲させる方向に作用するためである。これにより、伸展角度αと伸展角度βの差(β-α)が小さくなる。伸展角度の差(β-α)が小さくなるということは、状態(ii)から状態(iii)を経て状態(iv)に至る過程において右脚を前方により素早く引き出せるようになることを意味する。その結果、過度の脚流れの現象が起きにくくなり、運動用タイツ10の着用者のパフォーマンス向上に寄与する効果が期待される。
【0029】
以上のように運動用タイツ10によれば、過度の脚流れを生じ難くすることができ、着用者のパフォーマンスの向上への寄与が期待できる。
【0030】
上述の実施形態では、高張力部分22を、前身頃12(図1参照)の表面に貼り付けられた高張力材料により形成することとした。しかしながら、高張力部分22は前身頃12の所定の位置に、前身頃12とは別の生地を貼り付け、又は縫い付けることにより形成してもよい。また、高張力部分22は、高張力材料を前身頃12の内側(身体側)に貼り付けて形成してもよい。また、高張力部分22に対応する位置において、前身頃12を形成する生地の坪量を部分的に高めて前身頃12内部に高張力部分22を形成してもよい。高張力部分22を、ラバープリント、縫製、刺繍等により形成してもよい。
【0031】
また、実施形態では張力が異なる二種類の材料を用いることとした。しかしながら張力が異なる二種類以上の材料により運動用タイツ10を作成してもよい。一例として、運動用タイツ10の大部分を低張力部により形成し、大腿四頭筋をサポートする中張力部を大腿四頭筋に対応する位置によって形成し、かつ高張力部分22を上述した位置に形成してもよい。この場合、高張力部分22における張力が、高張力部分22を縮める際に抵抗となる、着用者のハムストリングを覆う箇所における張力よりも高ければよい。したがって、このような場合、高張力部分22とは、運動用タイツ10全体において、最も高い張力を有することを意味するものではなく、少なくとも着用者のハムストリングを覆う箇所における張力よりも高いことを意味する。
【0032】
実施形態では運動用タイツ10を構成する前身頃12及び後身頃14を、同一の生地により形成されていることとしたが、前身頃12と後身頃14とを、張力の異なる生地で形成してもよい。前身頃12と後身頃14とを張力の異なる生地で形成する場合、後身頃14の生地の張力を、前身頃12の生地の張力よりも小さくすることが好ましい。
【0033】
本発明者が走行時における運動用タイツの後身頃の張力変化分布についてシミュレーションを行った結果、脚を前方に振り出す際に臀部、特に臀溝付近において脚の長軸方向に張力が大きくなることが判明した。したがって、後身頃14を張力が比較的小さい生地で形成することによって股関節運動が阻害されにくくなり、これによっても運動用タイツ10の着用者のパフォーマンスを向上させる効果が期待できる。
【0034】
以下、実施形態のさらなる変形例について説明する。以下の変形例では、高張力部を構成する要素の様々な形状又は配置について説明する。なお、以下の説明では、図2に示す例と同様に右脚側の高張力部の形状について詳述する。図4乃至7は、変形例による運動用タイツの一部を拡大した正面図である。
【0035】
図4に示すように、高張力部分22を形成する直線部分24の太さを変化させてもよい。この場合、幅方向内側にある直線部分24の太さを最も太くし、幅方向外側に向かって直線部分24の太さを漸減させるのがよい。発明者等による競技者の動作解析の結果、状態(ii)(図3参照)において前身頃12(図1参照)に最も伸びる力が作用する箇所は、大腿部幅方向内側近傍であることが判明した。したがって、大腿部幅方向内側近傍では直線部分24の太さを太くすることで、より効率的に脚流れを生じ難くすることができる。
【0036】
図5に示すように、高張力部分22を形成する複数の直線部分24同士の間隔を変化させてもよい。上述した動作解析の結果に基づけば、大腿部幅方向内側近傍において直線部分24同士の間隔を最も狭くすることで、効率的に脚流れを生じ難くすることができる。
【0037】
図6に示すように、高張力部分22を不連続な要素により形成してもよい。図6の例では、複数の菱形部30を直線状に配列し、かつ大腿部幅方向内側近傍の菱形部30の寸法を最も大きくしている。このような不連続な要素により高張力部分22を形成しても、一定の脚流れ防止効果を期待できる。
【0038】
図7に示す例では、高張力部分22を複数の細長い三角形部32により形成している。複数の三角形部32は、高張力部分22の密度を上げられるよう、隣接する三角形部32とは逆無に隙間無く配置されている。このように、直線部分24の形状を変化させたとしても、一定の脚流れ防止効果を期待できる。
【0039】
図8は、変形例による運動用タイツの正面図である。変形例による運動用タイツ10は、上述した構成に加えて、着用者の鼠径部に沿って延びる仮想線L1(図2参照)と直交する方向に引張力を加える引張構造40を備える。引張構造40は、生地をつまんで縫い合わせる、いわゆるダーツ構造により形成される。具体的には引張構造40は、仮想線L1に沿ってダーツを施すことで形成される。このような引張構造40によっても、高張力部分22と同様の作用により脚流れを生じ難くすることができる。
【0040】
図9は、変形例による運動用タイツの側面図である。変形例による運動用タイツ10は、上述した構成に加えて、前身頃12と後身頃14との間にある上下方向に延びる結合線L6を、中間部分で後方に突出する屈曲形状とする構造を有する。図示の例では、結合線L6は、臀部の高さにおいて臀部方向に凸をなすよう屈曲している。このような構造によっても、高張力部分22と同様の作用により脚流れを生じ難くすることができる。
【0041】
図10は、変形例による運動用タイツの正面図である。変形例による運動用タイツ10は、第3筒部20の内表面に設けられたすべり止めSuと、第1筒部16及び第2筒部18のそれぞれの内表面に設けられたすべり止めSlとを備える。高張力部22の上端部は、第3筒部20に設けたすべり止めSuに対応する位置まで延びる。つまり、運動用タイツ10を正面視したときに高張力部22の上端と、すべり止めSuとは重複する。高張力部22の下端部は、第1筒部16および第2筒部18に設けたすべり止めSlに対応する位置まで延びる。つまり、運動用タイツ10を正面視したときに高張力部22の下端と、すべり止めSlとは重複する。このように高張力部22の上端及び下端をすべり止めSuと重複させることによって、高張力部22が延びる方向に引っ張られる際に働く抵抗力がより大きくなり、過度の脚流れを生じにくくする効果を高めることが期待される。なお、高張力部22の上端および下端のうち一方のみがすべり止めSu,Slと重複する態様であってもよい。
【0042】
図11は、実施例による運動用タイツの正面図である。より具体的には図11は、股関節の最大伸展時に運動用タイツに発生する張力の方向及び大きさについて調べた装着シミュレーションの結果である。図11において、張力の大きさは色の濃淡で表され、濃い色ほど大きな張力が発生していることを示す。また張力の方向は細い線で表されており、細い線が伸びる方向が張力の向きに対応する。図11における白抜き矢印は鼠径部付近に発生している張力の方向及び大きさをわかりやすく示したものである。矢印の向きが鼠径部付近に発生している張力の方向を表している。また、矢印の太さが鼠径部付近に発生している張力の相対的な大きさを表しており、太い矢印の方が細い矢印より張力が大きい。なお、矢印の長さは張力の大きさとは無関係である。
【0043】
シミュレーションの条件は以下の通りである。
・前身頃生地の張力:40%伸長時に2.0N/cm
・後身頃生地の張力:40%伸長時に0.8N/cm
・人体モデルの動作:速さ10m/秒の短距離走動作
【0044】
この条件でシミュレーションを行った結果、図11に示すように股関節伸展時において、第3筒部20の幅方向中間から、第1筒部16(第2筒部18)の幅方向外側下端に向かう方向に沿って張力が発生していることが判明した。特に鼠径部に沿った部分でかつ鼠径部の内側ほど大きな張力が発生していることがこのシミュレーション結果から明らかになった。したがって、高張力部22を張力方向を加味した所定方向に沿って延ばすことで、過度な脚流れを防ぐ効果が期待できる。
【符号の説明】
【0045】
10 運動用タイツ、 12 前身頃、 14 後身頃、 16 第1筒部、 18 第2筒部、 20 第3筒部、 22 高張力部分、 40 引張構造。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11