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  • 特開-研磨パッド 図1
  • 特開-研磨パッド 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050850
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/24 20120101AFI20230404BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20230404BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
B24B37/24 C
C08G18/00 F
H01L21/304 622F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161181
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100215670
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 直毅
(72)【発明者】
【氏名】立野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】喜樂 香枝
(72)【発明者】
【氏名】宮内 慶樹
【テーマコード(参考)】
3C158
4J034
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CB01
3C158CB03
3C158DA12
3C158DA17
3C158EB19
3C158EB20
3C158EB29
3C158ED00
4J034BA08
4J034CA04
4J034CA05
4J034CB03
4J034CB04
4J034CC02
4J034CC03
4J034DB04
4J034DC50
4J034DF01
4J034DF16
4J034DF20
4J034HA02
4J034HA07
4J034HC12
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034NA09
4J034QB14
4J034QC01
4J034RA11
5F057AA06
5F057AA09
5F057AA17
5F057AA24
5F057BA21
5F057BB21
5F057BB31
5F057BB36
5F057CA12
5F057DA03
5F057EA01
5F057EB03
5F057EB06
5F057EB07
5F057EB08
5F057EB30
(57)【要約】
【課題】金属配線に対する絶縁材の研磨選択性が高く、かつ研磨レートの安定性に優れる、研磨パッドを提供する。
【解決手段】本発明の研磨パッドは、複数の涙形状気泡を有し且つ被研磨物を研磨するための研磨面を有するポリウレタンシートを含み、前記ポリウレタンシートを構成するポリウレタン樹脂が、以下の条件を満たす。(1)前記ポリウレタン樹脂を溶媒に溶解させたポリウレタン樹脂溶液を乾燥させて得られる未発泡のポリウレタンシートについて、初期荷重10g、歪範囲0.1%、測定周波数1Hz、圧縮モードでの、20℃から60℃の温度範囲における損失正接tanδを測定し、温度を横軸とし損失正接を縦軸としてプロットしたときに、最小二乗法によって求められる20~60℃の範囲での線形近似曲線の決定係数R2が0.9以上
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の涙形状気泡を有し且つ被研磨物を研磨するための研磨面を有するポリウレタンシートを含む研磨パッドであって、前記ポリウレタンシートを構成するポリウレタン樹脂が、以下の条件を満たす、研磨パッド。
(1)前記ポリウレタン樹脂を溶媒に溶解させたポリウレタン樹脂溶液を乾燥させて得られる未発泡のポリウレタンシートについて、初期荷重10g、歪範囲0.1%、測定周波数1Hz、圧縮モードでの、昇温速度5℃/分で0℃から100℃の温度範囲における損失正接tanδを測定し、温度を横軸とし損失正接を縦軸としてプロットしたときに、最小二乗法によって求められる20~60℃の範囲での線形近似曲線の決定係数R2が0.9以上
【請求項2】
前記ポリウレタンシートを構成するポリウレタン樹脂が、以下の条件を更に満たす、請求項1に記載の研磨パッド。
(2)前記ポリウレタン樹脂を溶媒に溶解させたポリウレタン樹脂溶液を乾燥させて得られる未発泡のポリウレタンシートの、初期荷重10g、歪範囲0.1%、測定周波数1Hz、圧縮モードでの、昇温速度5℃/分で0℃から100℃の温度範囲における損失正接tanδを測定し、温度を横軸とし損失弾性率E’’を縦軸としてプロットしたときに、20℃から60℃の温度範囲における損失弾性率E’’が2.5MPa以上
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂が、パルスNMRで得られる自由誘導減衰信号(FID)を最小二乗法によってスピン-スピン緩和時間T2の長い成分から順に差し引き、波形分離することにより、スピン-スピン緩和時間T2の長い方から順に非晶相、界面相、結晶相の3成分に分けた場合において、20℃における界面相成分の存在比が10%未満である、請求項1又は2に記載の研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドに関する。特には、半導体デバイスのCMP用研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
多層配線を精度よく形成するために、半導体ウエハ等の材料表面には各層の平坦性が求められている。各層の平坦化には通常、研磨パッドを用いた遊離砥粒方式の研磨である化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカ等の砥粒、防食剤、界面活性剤等を含む研磨液(スラリー)を用いて、被研磨物の表面を改質しつつ砥粒が持つ機械的研磨効果を増大させる技法である。CMPでは、砥粒を含む研磨液が被研磨物と研磨パッドとの間に入り込むことで、研磨パッドを高速回転させながら安定的に被研磨物を研磨することができる。
【0003】
半導体デバイス製造用の研磨パッドには、その研磨パッド表面に、研磨スラリーを保持するための開孔と、被研磨物の平坦性を維持する硬性と、被研磨物のスクラッチの発生を防止する粘弾性とが要求される。これらの要求に応える研磨パッドとして、ウレタン樹脂発泡体から製造された研磨面を有する研磨パッドが利用されている。
【0004】
ポリウレタン樹脂発泡体は、通常、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物を含むプレポリマと硬化剤との反応により硬化して成形される(乾式成形法)。そして、この発泡体をシート状にスライスすることにより研磨パッドが形成される。このように乾式成形法により製造された硬質の研磨層を有する研磨パッド(以下、硬質研磨パッドと略すことがある)は、水発泡法、中空ビーズを添加する方法、機械的発泡法、化学的発泡法などにより略球状の気泡が形成されるため、スライスにより形成される研磨パッドの研磨表面には、研磨加工時にスラリーを保持することができる開孔(開口)が形成される。
硬質研磨パッドを用いた場合には、基板の平坦性や研磨レートを向上させることができる。しかしながら、硬質ゆえにスクラッチなどの欠陥を発生させる恐れがある。また、近年、配線幅の微細化に伴い、より精度の高い研磨が求められるようになってきており、硬質研磨パッドでは対応が難しい場面が増えている。そのため、特に仕上げの工程において、湿式成膜法により製造された軟質の研磨層を有する研磨パッド(以下、軟質研磨パッドと略すことがある)が用いられている。
上記CMP工程の仕上げ研磨に用いられる軟質研磨パッドとして、引用文献1には、微小な欠陥を与えにくい軟質なスウェードパッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-149259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、表面に銅等の金属配線が形成されたウエハ等の基板を研磨する場合、従来の軟質研磨パッドを使用しても、金属配線の硬度が絶縁材に比べて相対的に小さく、金属配線が絶縁材よりも多く研磨されるため、ディッシングが発生したり、エロージョンが発生したりすることがあり、金属配線(例えば銅)に対する絶縁材(例えばTEOS)のより高い研磨選択性が望まれている。また、従来の研磨パッドでは被研磨物を研磨したときに、経時的に研磨レートが変化し、安定性に欠けることがある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、金属配線に対する絶縁材の研磨選択性が高く、かつ研磨レートの安定性に優れる、研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を包含する。
[1]複数の涙形状気泡を有し且つ被研磨物を研磨するための研磨面を有するポリウレタンシートを含む研磨パッドであって、前記ポリウレタンシートを構成するポリウレタン樹脂が、以下条件を満たす、研磨パッド。
(1)前記ポリウレタン樹脂を溶媒に溶解させたポリウレタン樹脂溶液を乾燥させて得られる未発泡のポリウレタンシートについて、初期荷重10g、歪範囲0.1%、測定周波数1Hz、圧縮モードでの、昇温速度5℃/分で0℃から100℃の温度範囲における損失正接tanδを測定し、温度を横軸とし損失正接を縦軸としてプロットしたときに、最小二乗法によって求められる20~60℃の範囲での線形近似曲線の決定係数R2が0.9以上
[2]前記ポリウレタンシートを構成するポリウレタン樹脂が、以下の条件を更に満たす、[1]に記載の研磨パッド。
(2)前記ポリウレタン樹脂を溶媒に溶解させたポリウレタン樹脂溶液を乾燥させて得られる未発泡のポリウレタンシートの、初期荷重10g、歪範囲0.1%、測定周波数1Hz、圧縮モードでの、昇温速度5℃/分で0℃から100℃の温度範囲における損失正接tanδを測定し、温度を横軸とし損失弾性率E’’を縦軸としてプロットしたときに、20℃から60℃の温度範囲における損失弾性率E’’が2.5MPa以上
[3]前記ポリウレタン樹脂が、パルスNMRで得られる自由誘導減衰信号(FID)を最小二乗法によってスピン-スピン緩和時間T2の長い成分から順に差し引き、波形分離することにより、スピン-スピン緩和時間T2の長い方から順に非晶相、界面相、結晶相の3成分に分けた場合において、20℃における界面相成分の存在比が10%未満である、[1]又は[2]に記載の研磨パッド。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属配線に対する絶縁材の研磨選択性が高く、かつ研磨レートの安定性に優れる、研磨パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例及び比較例の研磨パッドの製造に使用したポリウレタン樹脂を動的粘弾性測定により測定し、温度を横軸とし、損失正接(tanδ)を縦軸としてプロットした図である。
図2】実施例及び比較例の研磨パッドの製造に使用したポリウレタン樹脂を動的粘弾性測定により測定し、温度を横軸とし、損失弾性率(E’’)を縦軸としてプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
<研磨パッド>
本発明の研磨パッドは、複数の涙形状気泡を有し且つ被研磨物を研磨するための研磨面を有するポリウレタンシートを含む研磨パッドであって、前記ポリウレタンシートを構成するポリウレタン樹脂が、以下の条件を満たす、研磨パッドである。
(1)前記ポリウレタン樹脂を溶媒に溶解させたポリウレタン樹脂溶液を乾燥させて得られる未発泡のポリウレタンシートについて、初期荷重10g、歪範囲0.1%、測定周波数1Hz、圧縮モードでの、0℃から100℃の温度範囲における損失正接tanδを測定し、温度を横軸とし損失正接を縦軸としてプロットしたときに、最小二乗法によって求められる20~60℃の範囲での線形近似曲線の決定係数R2が0.9以上
【0012】
(ポリウレタンシート)
本発明の研磨パッドに含まれるポリウレタンシートは、複数の涙形状(teardrop-shaped)気泡を有する。涙形状気泡は、湿式成膜法によってポリウレタンシート内部に形成される気泡(異方性があり、樹脂シートの上部から(基材と接する側)に向けて径が大きい構造を有する気泡)を意図するものであり、乾式成形法によって形成され研磨パッドに見られる略球状の気泡とは区別される。従って、ポリウレタンシートは、湿式成膜法により形成されたポリウレタンシートと言い換えることができる。湿式成膜法とは、成膜する樹脂を有機溶媒に溶解させ、その樹脂溶液をシート状の基材に塗布後、該有機溶媒は溶解するが該樹脂は溶解しない凝固液中に通して該有機溶媒と凝固液を置換し、凝固させ、乾燥して発泡層を形成する方法を意味する。通常、湿式成膜法によりポリウレタンシートを製造すると、ポリウレタンシート内部の有機溶媒が凝固液中に抜ける時の抜け道が空洞となり、略涙形状のマクロ気泡(涙形状気泡)が複数生じる。
本発明において、ポリウレタンシートとは、ポリウレタン樹脂を主成分(50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更により好ましくは85質量%以上)とするシートを意味しており、他の樹脂(シリコーン樹脂等)を主成分とするシートとは明確に区別される。
【0013】
(ポリウレタン樹脂)
本発明の研磨パッドに含まれるポリウレタンシートを構成するポリウレタン樹脂は、前記ポリウレタン樹脂を溶媒に溶解させたポリウレタン樹脂溶液を乾燥させて得られる未発泡のポリウレタンシートについて、初期荷重10g、歪範囲0.1%、測定周波数1Hz、圧縮モードでの、昇温速度5℃/分で0℃から100℃の温度範囲における損失正接tanδを測定し、温度を横軸とし損失正接を縦軸としてプロットしたときに、最小二乗法によって求められる20~60℃の範囲での線形近似曲線の決定係数R2が0.9以上である。損失正接tanδの定義及び測定方法については後述する。
上記決定係数R2が0.9以上であると、温度変化に対するtanδの変化率が略一定であるため、ポリウレタン樹脂の弾性と粘性とのバランスに優れている。出願人は、弾性と粘性とのバランスに優れているポリウレタン樹脂を使用することで、金属配線に対する絶縁材の研磨選択性が高く、かつ研磨レート安定性に優れる研磨パッドが得られることを見出した。このメカニズムは定かではないが、次のように考えられる。すなわち、材料の粘弾性は、弾性を反映する貯蔵弾性率(E’)と粘性を反映する損失弾性率(E’’)の両者を組み合わせて考えることができる。tanδ=損失弾性率(E’’)/貯蔵弾性率(E’)は両者のバランスを反映したパラメータであり、一般に、tanδが大きいと粘性に富み、tanδが小さいと弾性に富む傾向がある。従来のポリウレタン樹脂の研磨層は、0℃から60℃に温度が上昇するに伴って非線形的(例えば指数関数的)にtanδが小さくなり、その変化が急となる傾向がある。しかし、本発明者らは、常温(20℃付近)での研磨層のtanδの値が従来の研磨パッドのものに比べ大きく、また20℃~60℃の研磨温度範囲において研磨層のtanδの温度変化が少ないことで、20℃付近の比較的温度が低い状態でも粘性に富み、被研磨物を傷つけにくい一方で、60℃付近の比較的温度が高い状態でも粘性が高くなりすぎず、最初の研磨レートを維持でき研磨レートの安定性に寄与すると考えた。一般的に、研磨層のtanδの値が高いと弾性の寄与が小さく研磨レートが低くなると予想される傾向にあるが、本発明では、tanδの値が温度変化しにくいために、研磨工程の最初から終わりまでの全工程にわたって評価すると、ディフェクトが少なく、金属配線に対する絶縁材の研磨レートを高くすることができるという予想外の結果が得られる。
【0014】
上記決定係数は、0.92以上であることが好ましく、0.94以上であることがより好ましく、0.96以上であることが更に好ましい。決定係数R2の上限値は特に限定されないが、1.00未満であってもよく、0.99未満であってもよい。
【0015】
本発明において、貯蔵弾性率(E’)及び損失弾性率(E’’)は、それぞれ、JIS K7244-4に準拠して測定された、所定の温度、初期荷重10g、歪範囲0.1%、測定周波数1Hz、圧縮モードにおける、貯蔵弾性率及び損失弾性率である。
本発明において、損失正接(tanδ)とは、貯蔵弾性率に対する損失弾性率の割合であり、以下のように定義される。
tanδ=E’’/E’
tanδは、ある温度条件での粘弾性の指標である。貯蔵弾性率とは、正弦的に変化する応力を加えた場合における、1周期あたりに貯蔵され完全に回復するエネルギーの尺度である。一方、損失弾性率とは、特性振動数の正弦波のひずみを加えたときのひずみよりπ/2だけ位相が進んだ応力成分の大きさを意味する。E’及びE’’は、動的粘弾性試験(DMA)により測定することができる。
なおtanδの測定において使用する未発泡のポリウレタンシートは、溶媒に溶解させたポリウレタン樹脂溶液を凝固浴に浸漬することなく(未発泡の)シート状にし、その後乾燥させて得られるものであることが好ましい。ポリウレタン樹脂溶液の濃度は特に限定されず、10~30質量%であってよい。また乾燥条件も特に限定されず、例えば80~150℃の温度範囲で5~120分であってもよい。
ポリウレタン樹脂を溶解させる溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。これらの中でも、DMFが好ましい。
【0016】
線形近似は、表計算ソフト「マイクロソフト(登録商標)・エクセル(登録商標)」を用いて線形近似(最小二乗法)することにより求めることができる。
【0017】
(パルスNMR)
パルスNMRの測定は、パルスNMR測定装置(日本電子株式会社製、JNM-MU25、25MHz)を用い、solid echo法にて、20℃にて測定することができる。
solid echo(ソリッドエコー)法については、既によく知られているため詳細は省略するが、主にガラス状および結晶性高分子などの緩和時間の短い試料の測定に用いられるものである。デッドタイムを見かけ上除く方法で、2つの90°パルスを、位相を90°変えて印加する90°x-τ-90°yパルス法で、X軸方向に90°パルスを加えると、デッドタイム後に自由誘導減衰(FID)信号が観測される。FID信号が減衰しない時間τに、第2の90°パルスをy軸方向に加えると、t=2τの時点で磁化の向きがそろってエコーが現れる。得られたエコーは90°パルス後のFID信号に近似することが出来る。
パルスNMRの解析結果から物性と相分離構造と組成との関連を解析する方法は既によく知られており、パルスNMRで得られる自由誘導減衰(FID)信号を最小二乗法によってスピン-スピン緩和時間T2の長い成分から順に差し引いて、波形分離することにより、3成分に分けることができ、緩和時間の長い成分が運動性の大きな成分であり非晶相、短い成分が運動性の小さな成分であり結晶相、中間の成分は界面相であると定義し(界面相と非晶相の成分分けが困難な場合は界面相として解析)、ガウス型関数及びローレンツ型関数による計算式を用いて、各成分の成分量が求められる(例えば、「固体NMR(高分解能NMRとパルスNMR)によるポリウレタン樹脂の相分離構造解析」(DIC Technical Review N.12,pp.7~12,2006)を参照)。
【0018】
パルスNMRの測定について詳説すると、以下の通りである。まず、直径1cmのガラス管に、1~3mm角程度に刻んだサンプルを1~2cmの高さまで詰めた試料を磁場の中に置き、高周波パルス磁場を加えた後の巨視的磁化の緩和挙動を測定すると、自由誘導減衰(FID)信号が得られる(横軸:時間(μ秒)、縦軸:自由誘導減衰信号)。得られたFID信号の初期値は測定試料中のプロトンの数に比例しており、測定試料に3つの成分がある場合には、FID信号は3成分の応答信号の和として現れる。一方、試料中に含まれる各成分は運動性に差があるため、成分間で応答信号の減衰の速さが異なり、スピン-スピン緩和時間T2が相違する。そのため、最小二乗法により3成分に分けることができ、スピン-スピン緩和時間T2の長い方から順にそれぞれ非晶相、界面相、結晶相となる。非晶相は分子運動性の大きな成分、結晶相は分子運動性の小さな成分であり、その中間の成分が界面相となる。
上記パルスNMR、ソリッドエコー法、スピン-スピン緩和時間T2については、特開2007-238783号(特には段落[0028]~[0033])を参照することができる。
【0019】
上記決定係数を0.9以上にするためには、例えば、パルスNMRで得られる自由誘導減衰信号(FID)を最小二乗法によってスピン-スピン緩和時間T2の長い成分から順に差し引き、波形分離することにより、スピン-スピン緩和時間T2の長い方から順に非晶相、界面相、結晶相の3成分に分けた場合において、20℃における界面相成分の存在比が10%未満となるようなポリウレタン樹脂を使用することが好ましい。ポリウレタン樹脂は通常、温度上昇とともに分子の運動性が高まり、界面相成分が非晶相成分へ移行するため、温度変化に対するtanδの変化率が大きくなる傾向にある。一方、界面相成分が少ないポリウレタン樹脂を使用することにより、温度が上昇しても非晶相及び結晶相の変動割合が小さく、その結果温度変化に対するtanδの変化率を略一定に保つことができるため、上記決定係数を0.9以上にすることができる。
【0020】
界面相は、ハードセグメントとソフトセグメントの界面であり、界面相の分率が少ないことは、ハードセグメントとソフトセグメントとの界面が明確であり、ハードセグメントとソフトセグメントとの相溶性が低いことを示している。ポリウレタン樹脂の20℃における界面相成分の存在比を10%未満とする手段は特に限定されず、例えば、ポリウレタン樹脂のハードセグメントとソフトセグメントの極性の差を大きくして分離しやすくすること等が挙げられる。ハードセグメントとソフトセグメントの極性の差を大きくするためには、使用するポリオール成分、ポリイソシアネート成分、鎖延長剤の材料、配合比、分子量等を適宜調製すればよい。具体的には例えば、ポリオール成分としてジオールと二塩基酸との脱水縮合で得られるポリエステルポリオールを用いる場合、ジオールが長鎖であるほど(水酸基間の炭素数が多いほど)極性が下がり、ポリイソシアネート成分の極性の高いハードセグメントとの分離が進行しやすくなる。また、ポリイソシアネート成分(特にMDI)の配合比が高いほどハードセグメントの極性が上がり、ソフトセグメントとの分離が進行しやすくなる。また、鎖延長剤として炭素数の少ないジオールを使用することにより、ハードセグメントの極性が上がり、ソフトセグメントとの分離が進行しやすくなる。上記ポリウレタン樹脂は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよいが、1種類を単独で用いることが好ましい。
【0021】
また、ポリウレタン樹脂は、前記ポリウレタン樹脂を溶媒に溶解させたポリウレタン樹脂溶液を乾燥させて得られる未発泡のポリウレタンシートの、初期荷重10g、歪範囲0.1%、測定周波数1Hz、圧縮モードでの、20から60℃の温度範囲における損失弾性率E’’が2.5MPa以上であることが好ましい。損失弾性率が2.5MPa以上であると、ポリウレタン樹脂の粘性が高く密着性に優れるため凸状欠陥を低減し、被研磨物のディフェクトの発生を抑制することができる。ポリウレタン樹脂の20から60℃の温度範囲における損失弾性率は、2.6MPa以上であることが好ましく、2.7MPa以上であることがより好ましく、2.8MPa以上であることが更に好ましい。
なお本発明においてディフェクトとは、研磨後に被研磨物上に見られる凸状及び凹状の欠陥を指す。凸状欠陥としては、有機残渣、パーティクル、パッド屑、ウォーターマーク等が挙げられる。凹状欠陥としては、スクラッチ、ボイド等が挙げられる。
【0022】
ポリオール成分としては、特に限定されず、種々のポリオール成分を用いることができ、例えばポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられ、ポリエステルジオールが好ましい。ポリオール成分は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
ポリエーテルジオールとしては、特に限定されず、種々のポリエーテルジオールを用いることが出来る。好ましいポリエーテルポリオールの例として、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)等を挙げることが出来る。ポリエーテルポリオールは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
ポリエステルジオールとしては、特に限定されず、種々のポリエステルジオールを用いることが出来る。好ましいポリエステルジオールの例として、ジカルボン酸又はそのエステル若しくは無水物等のエステル形成性誘導体と低分子ジオールとを直接エステル化反応又はエステル交換反応させて得られるポリエステルジオールが挙げられる。上記ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、2-メチルコハク酸、2-メチルアジピン酸、3-メチルアジピン酸、3-メチルペンタン二酸、2-メチルオクタン二酸、3,8-ジメチルデカン二酸、3,7-ジメチルデカン二酸等の炭素数4~12の脂肪族カルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。上記低分子ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール等が挙げられる。低分子ジオールの炭素数は、好ましくは2以上12以下である。ポリエステルジオールは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
ポリオール成分としてポリエステルジオールを使用する場合、ポリウレタン樹脂の界面相成分を低減する観点からは、ポリエステルジオールに含まれる低分子ジオールの含有量を低減させることが好ましい。ポリエステルジオールは、ジカルボン酸等のエステル形成性誘導体と低分子ジオールとの重合時に、平衡反応による副生成物として低分子ジオールが少なからず含まれる。この低分子ジオールは、ポリウレタン樹脂中でハードセグメントとして振舞うため、ソフトセグメント中にハードセグメントが分散した状態として存在するようになる。その結果、ハードセグメントとソフトセグメントの界面(界面相成分)が増えてしまう。
ポリウレタン樹脂の界面相成分を低減する観点からは、ポリオール成分の数平均分子量は700~10,000の範囲であることが好ましく、800~7,500の範囲であることがより好ましく、1,000~5,000の範囲であることが更に好ましい。数平均分子量が上記範囲内であると、ハードセグメントとソフトセグメントの明確な分離が生じやすくなり、界面相成分が少なくなりやすくなる。
【0026】
(ポリイソシアネート成分)
ポリイソシアネート成分としては、特に限定されず、種々のポリイソシアネート成分を用いることができる。ポリイソシアネート成分の例としては例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環族ジイソシアネート;ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを予め反応させて高分子量化したプレポリマ等が挙げられる。中でも、芳香族ジイソシアネートが好ましく、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートがより好ましい。
【0027】
ポリウレタン樹脂の界面相成分を低減する観点からは、ポリイソシアネート成分は、オリゴマー含有量を低減させた4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートであることが好ましい。4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)は、市販されており入手が容易であるが、反応性が高く製造直後から自己重合によりオリゴマーを徐々に生成するようになるため、一般的に市販品には一定量のオリゴマーが存在している。オリゴマーが存在するようなMDIをポリウレタン樹脂の製造における原料として使用すると、ハードセグメントの凝集が阻害され、界面相成分を少なくすることが困難になる。MDI中のオリゴマーの含有量は特に限定されないが、例えば0.5質量%以下であることが好ましい。
MDI中のオリゴマーの含有量を低減させる手法は特に限定されず、公知の精製方法を採用することができるが、例えば、蒸留、再結晶、再沈殿、ろ過等が挙げられ、ろ過が効率の観点から好ましい。
【0028】
(鎖延長剤)
鎖延長剤としては、特に限定されず、種々の鎖延長剤を用いることができる。鎖延長剤の例としては、例えば、プロピレングリコール、1-エチル-1,2-エタンジオール、1,2-ジメチル-1,2-エタンジオール、1-メチル-2-エチル-1,2-エタンジオール、1-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ジメチル-1,2-プロパンジオール、1,3-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、1-メチル-1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、2,3-ジメチル-1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,5-ペンタンジオール、3-エチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジメチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,7-ジメチル-1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,9-ノナンジオール、2,8-ジメチル-1,9-ノナンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の脂肪族ポリオール化合物;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等の芳香族ポリオール化合物;水等が挙げられる。これらの鎖延長剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリウレタン樹脂の界面相成分を低減する観点からは、鎖延長剤は、直鎖状かつ短鎖で、かつ数平均分子量が250以下の鎖延長剤を50~100重量%含有することが好ましい。鎖延長剤は、炭素数2~6の低分子ジオールであることが好ましく、エチレングリコール又は1,4-ブタンジオールであることがより好ましい。これらの鎖延長剤は、ハードセグメントの凝集力を高めることができるため、界面相成分が少なくなりやすくなる。
【0029】
(他の成分)
上記ポリウレタン樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分の他に、カーボンブラック等の無機充填剤、成膜安定化剤、界面活性剤等を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
カーボンブラック等の無機充填剤は、研磨レートを向上させる一方で研磨ディフェクトの発生を招くことから、上記ポリウレタンシートは、無機充填剤の量が少ない方が好ましく、無機充填剤の量が5質量%以下(好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下)であることがより好ましく、無機充填剤を含まないことがさらにより好ましい。
また、上記ポリウレタンシートは、カーボンブラックの量が少ない方が好ましく、カーボンブラックの量が5質量%以下(好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下)であることがより好ましく、カーボンブラックを含まないことがさらにより好ましい。
【0030】
本発明の研磨パッドにおけるポリウレタンシートは、被研磨物を研磨するための研磨面を有している。
本発明の研磨パッドは、ポリウレタンシートの研磨面及び/又は研磨面とは反対側の面が研削処理(バフ処理)されていてもよく、研削処理されていなくてもよいが、ポリウレタンシートの研磨面が研削処理されていることが好ましい。これにより、研磨面に微小気泡由来の開口部が多数存在することとなり、当該開口部にスラリーを保持することで研磨レートを向上させることができる。
また、本発明の研磨パッドは、ポリウレタンシートの研磨面に、溝加工、エンボス加工及び/又は穴加工(パンチング加工)が施されていてもよい。本発明の研磨パッドは、光透過部を備えていてもよい。
また、本発明の研磨パッドは、ポリウレタンシートのみからなる単層構造であってもよく、ポリウレタンシートの研磨面とは反対側の面に基材を貼り合わせた複層構造であってもよい。基材としては、例えば、不織布製、PET製、塩化ビニル製の基材等が挙げられる。基材の特性に特に制限はないが、ポリウレタンシートよりも硬い(例えば、A硬度又はD硬度が大きい)ことが好ましい。ポリウレタンシートよりも硬い層が設けられていることにより、ポリウレタンシートから作製した研磨パッドを用いて被研磨物を研磨する際に、研磨パッドが伸縮したり湾曲したりするのを抑制することができる。
【0031】
本発明の研磨パッドは、光学材料、半導体デバイス、ハードディスク用のガラス基板等の研磨に用いられ、特に半導体ウエハの上に酸化物層又はバリアメタル層と銅などの金属層とが形成されたデバイスを化学機械研磨(CMP)するのに好適に用いられる。
本発明の研磨パッドは、例えば、下記の製造方法により得ることができる。
【0032】
<研磨パッドの製造方法>
本発明の研磨パッドは、例えばポリウレタン樹脂を含む樹脂溶液を調製する工程、前記樹脂溶液を成膜用基材に塗布する工程、及び前記溶液が塗布された成膜用基材を凝固液に浸漬して前記溶液を凝固させる工程を含む、研磨パッドの製造方法により製造することができる。
以下、各工程について説明する。
【0033】
(樹脂溶液を調製する工程)
本工程では、ポリウレタン樹脂を水混和性の有機溶媒に溶解させて、ポリウレタン樹脂を含む樹脂溶液を調製する。
ポリウレタン樹脂としては、上述したものを用いることができる。
上記有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)等が挙げられる。上記有機溶媒は、1種類のみを使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。中でも、上記有機溶媒は、DMF又はDMAcであることが好ましい。
上記樹脂溶液の固形分濃度は、特に限定されないが、15~50質量%であることが好ましく、15~40質量%であることがより好ましく、20~35質量%であることが更により好ましい。固形分濃度が上記範囲内であると、樹脂溶液が適度な流動性を有し、樹脂溶液を均一に成膜用基材に塗布することが容易になる。
なお、上記樹脂溶液は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分以外の成分を含んでいてもよい。
【0034】
(樹脂溶液を成膜用基材に塗布する工程)
上記で得られた樹脂溶液を、ナイフコーター、リバースコーター等の塗工機により成膜用基材に略均一となるように、連続的に塗布する。このとき、成膜用基材と塗工機のダイやナイフとの間隙(クリアランス)を調整することで、塗膜の膜厚を調整することができる。
上記成膜用基材としては、本技術分野で通常用いられる基材であれば特に制限なく使用することができ、例えば、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム等の可撓性のある高分子フィルム、弾性樹脂を含浸固着させた不織布等が挙げられる。中でも、ポリエステルフィルムが好ましく用いられる。
【0035】
(樹脂溶液を凝固させる工程)
樹脂溶液が塗布された基材を、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液(凝固浴)に浸漬して、ポリウレタン樹脂を凝固再生させる。
凝固液としては、水、水及びDMF等の極性有機溶媒の混合溶媒等が用いられる。極性有機溶媒としては、ポリウレタン樹脂を溶解するのに用いた水混和性の有機溶媒、例えばDMF、DMAc、THF、DMSO、NMP、アセトン、DMI等が挙げられる。混合溶媒中の極性有機溶媒の濃度は0~20質量%であることが好ましく、1~20質量%であることがより好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。上記凝固液は、水又は水及びDMFの混合溶媒であることが好ましく、水及びDMFの混合溶媒であることがより好ましい。
凝固液の温度や浸漬時間に特に制限はなく、例えば10~60℃、好ましくは15~50℃で5~120分間であることが好ましい。
凝固液中では、まず、塗布された樹脂溶液と凝固液との界面に緻密なスキン層が形成される。その後、スキン層を通じて樹脂溶液中の有機溶媒と凝固液との溶媒置換が進行し、ポリウレタン樹脂が成膜用基材上にシート状に凝固再生されて、内部に涙形状気泡が複数形成された成膜用基材付き樹脂シートが得られる。
【0036】
その後、凝固再生されたポリウレタンシートを上記樹脂シートから剥離し、又は剥離せずに、洗浄、乾燥処理を行う。
洗浄処理により、ポリウレタンシート中に残存する有機溶媒が除去される。洗浄に用いられる洗浄液としては、水が挙げられる。
洗浄後、ポリウレタンシートを乾燥処理する。乾燥処理は従来行われている方法で行えばよく、例えば80~150℃で5~60分間程度、乾燥器内で乾燥させればよい。
【0037】
上記ポリウレタンシートは、必要に応じて、研磨面及び/又は研磨面とは反対の面を研削処理(バフ処理)してもよい。また、ポリウレタンシートの研磨面に溝加工、エンボス加工及び/又は穴加工(パンチング加工)を施してもよく、研磨面とは反対側の面に基材を貼り合わせてもよい。
研削処理の方法に特に制限はなく、サンドペーパーを用いた研削、バフ機やスライス機を用いた研削等、公知の方法を採用することができる。中でも、バフ機やスライス機を用いると厚みが略均一化されたポリウレタンシートが得られるため好ましい。
溝加工及びエンボス加工の形状に特に制限はなく、例えば、格子型、同心円型、放射型等の形状が挙げられる。
ポリウレタンシートに基材を貼り合わせて複層構造とする場合には、複数の層同士を両面テープや接着剤等を用いて、必要により加圧しながら接着・固定すればよい。この際用いられる両面テープや接着剤に特に制限はなく、当技術分野において公知の両面テープや接着剤の中から任意に選択して使用することができる。
【実施例0038】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0039】
(研磨パッドの製造)
実施例1
100%モジュラスが7.2MPaのポリエステル系ポリウレタン樹脂の固形分濃度を30質量%とするDMF溶液100質量部に、DMF55質量部、ポリエーテル樹脂/シリコーン樹脂の混合物(質量比7/3、商品名:クリスボン アシスター SD-7、DIC株式会社製)からなるノニオン性界面活性剤を2質量部添加して混合撹拌することにより、ポリウレタン樹脂含有溶液を得た。ポリエステル系ポリウレタン樹脂としては、エチレングリコール及びプロピレングリコールとアジピン酸とを脱水縮合して得られたポリエステルポリオールを120℃~140℃で数時間真空蒸留を行い、分子量160以下の低分子ジオ-ル成分の含有量を1.3モル%に調整したポリエステルポリオールと1,4-ブタンジオール/トリメチロールプロパン=97/3モル比の鎖延長剤と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを縮合して得られたものを用いた。次に、成膜用基材として、PETフィルムを用意し、そこに、上記樹脂含有溶液を、ナイフコーターを用いて塗布し、DMF/水=95/5質量比の凝固浴に18℃で60分間浸漬し、該樹脂含有溶液を凝固させた後、洗浄・乾燥させて、樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムの表面に形成されたスキン層側に12μmバフ処理を施し、厚み0.80mmのポリウレタンシートを得た。その後、バフ処理した面の裏面に両面テープを貼り合わせ、バフ処理面に格子状の金型でエンボス加工を行い、研磨パッドを得た。
【0040】
比較例1
100%モジュラスが5.4MPaのポリエステル系ポリウレタン樹脂の固形分濃度を30質量%とするDMF溶液100質量部に、DMF55質量部、ポリエーテル樹脂/シリコーン樹脂の混合物(質量比7/3、商品名:クリスボン アシスター SD-7、DIC株式会社製)からなるノニオン性界面活性剤を2質量部添加して混合撹拌することにより、ポリウレタン樹脂含有溶液を得た。ポリエステル系ポリウレタン樹脂としては、1,4-ブタンジオールとアジピン酸とを脱水縮合して得られたポリエステルポリオール(蒸留処理せず使用し、分子量160以下の低分子ジオ-ル成分は12.9モル%)と1,4-ブタンジオール/トリメチロールプロパン=60/40モル比の鎖延長剤と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを縮合して得られたものを用いた。次に、成膜用基材として、PETフィルムを用意し、そこに、上記樹脂含有溶液を、ナイフコーターを用いて塗布し、水からなる凝固浴に18℃で60分間浸漬し、該樹脂含有溶液を凝固させた後、洗浄・乾燥させて、樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムの表面に形成されたスキン層側に10μmバフ処理を施し、厚み0.98mmのポリウレタンシートを得た。その後、バフ処理した面の裏面に両面テープを貼り合わせ、バフ処理面に格子状の金型でエンボス加工を行い、研磨パッドを得た。
【0041】
(パルスNMR測定)
得られた研磨パッドを、以下の条件にてパルスNMR測定を行った。具体的には、研削処理済みの研磨パッドのランド部から1~3mm角程度のサンプル片をカッターで切り出し、10mmφの試料管に1~2cmの高さまで充填し、パルスNMR測定を行って減衰曲線を得た。得られた減衰曲線とフィッティング曲線が一致するよう、ローレンツ関数(直線部分)、ガウス関数(曲線部分)を用いて最小二乗法により解析し、研磨層中の非晶相、界面相及び結晶相の割合(存在比(質量%))を求めた。なおフィッティング及び解析は、下記測定装置に付属のソフトウェアを用いた。
〔測定条件〕
装置:日本電子(株)社製、JNM-MU25
測定磁場強度:0.58T
観測周波数:25MHz
観測核:1H
測定:スピン-スピン緩和(T2)
測定法:Solid Echo法
パルス幅:2.2μs
パルス間隔:13.0μs
パルス繰り返し時間:4.0sec
積算回数:16回
測定温度:20℃
【0042】
(動的粘弾性測定)
研磨パッドの製造に使用したポリウレタン樹脂の動的粘弾性測定を以下の条件にて行った。測定サンプルは、ポリウレタン樹脂を溶媒であるDMFに濃度25質量%となるように溶解させ、得られた溶液を塗工して熱風乾燥(80℃、120分)し、0.1mm程度の厚みのポリウレタンフィルムを作製した後、縦5mm×横20mmに切り出したものを使用した。動的粘弾性測定により0℃から100℃の温度範囲における損失正接(tanδ)を測定し、温度を横軸とし損失正接を縦軸としてプロットし、最小二乗法によって20~60℃の範囲での線形近似曲線を得て、決定係数(R2)を、表計算ソフト「マイクロソフト(登録商標)・エクセル(登録商標)」を用いて線形近似(最小二乗法)することによって算出した。また、20から60℃の温度範囲における損失弾性率(E’’)の最小値を測定した。なお、損失正接のデータは0℃から100℃の温度範囲で104点プロットすることにより得た。
〔測定条件〕
装置:RSA3(TAインスツルメント社製)
試験片の大きさ:5mm×20mm×0.1mm
周波数:1Hz
歪範囲:0.1%
初期荷重:10g
試験モード:圧縮
温度範囲:0~100℃
昇温速度:5℃/分
【0043】
(研磨試験)
得られた研磨パッドを用い、TEOS(テトラエトキシシラン)膜付きシリコンウエハ、BDII(ブラックダイヤモンドII(登録商標):炭化酸化シリコン(SiOC)、アプライドマテリアルズ社製の低誘電率(Low-k)材料)膜付きウエハ及びCu膜付きシリコンウエハの各51枚に対して、以下の条件にて研磨加工を行い、研磨レート、研磨選択性、研磨レートの安定性及びディフェクトを評価した。
【0044】
〔研磨条件〕
使用研磨機:(株)荏原製作所製、商品名「F-REX300X」
研磨圧力:2.5psi
研磨剤:CuBM用スラリー
研磨剤温度:室温
ドレッサー:3M社製ダイヤモンドドレッサー、型番「A188」
被研磨物:300mmφTEOS膜付きシリコンウエハ、BDII膜付きウエハ及びCu膜付きウエハ
パッドブレイク:9N×30分、ダイヤモンドドレッサー54rpm、定盤回転数80rpm、超純水200mL/分
研磨:定盤回転数70rpm、ヘッド回転数71rpm、スラリー流量200mL/分、研磨時間60秒
【0045】
(研磨レート及び研磨選択性)
TEOS膜付きウエハ、BDII膜付きウエハ及びCu膜付きウエハそれぞれについて、研磨前後の121箇所の厚さの測定結果から平均値を求めて、その平均値から各点において測定された厚さを研磨時間で除することにより研磨レート(Å/分)を求めた。なお厚さ測定は、光学式膜厚膜質測定器(KLAテンコール社製、商品名「ASET-F5x」、測定:DBSモード)を用いて行った。
研磨した51枚の膜付きウエハのうち、1枚目、5枚目、10枚目、15枚目、20枚目、25枚目、35枚目、50枚目、51枚目を抜き取り、各研磨レートを求めて平均研磨速度を算出し、Cu平均研磨速度に対するTEOS平均研磨速度(TEOS/Cu)及びCu平均研磨速度に対するBDII平均研磨速度(BDII/Cu)を算出して、研磨選択性を比較した。TEOS/Cu、BDII/Cuの値が大きいほど、Cu(金属配線)に対するTEOS又はBDII(絶縁材)の研磨選択性が高いと評価した。
【0046】
(研磨レートの安定性)
上記で算出した各研磨レートについて平均値及び標準偏差を求め、下記式により研磨レート不均一度を算出した。研磨レート不均一度の数値が低いほど、研磨レートの安定性が高いと評価した。
研磨レート不均一度(%)=(研磨レート標準偏差/研磨レート平均値)×100
【0047】
(ディフェクトの評価)
研磨後のCu膜付きウエハ9枚のCu部表面を、表面検査装置(KLAテンコール社製、Surfscan SP5、検出限界130nm)を用いてディフェクトを検出してカウントし、平均値を算出した。ここで評価するディフェクトは、パーティクル、パッド屑由来と思われる有機物、有機残渣、スクラッチ、膜由来のボイド、ウォーターマーク等の欠陥の合計である。
以上の結果を表1、図1~2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から分かるように、界面相成分が少ないポリウレタン樹脂を使用することにより、温度を横軸とし損失正接を縦軸としてプロットしたときの、最小二乗法による20~60℃の範囲での線形近似曲線決定係数R2が0.9以上となり、得られた研磨パッドでウエハを研磨すると、銅の研磨レートをTEOSや炭化酸化シリコン(SiOC)に比べ抑制することができ(すなわち、金属配線に対する絶縁材の研磨選択性が高くすることができ)、かつ研磨レートの安定性を向上させることができる。また、本発明の研磨パッドによれば、使用するポリウレタン樹脂の20℃から60℃の温度範囲における損失弾性率E’’が2.5MPa以上であるため、ディフェクトの発生を抑制することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の研磨パッドは、金属配線に対する絶縁材の研磨選択性が高く、かつ研磨レートの安定性に優れる。よって、本発明の研磨パッドは、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2