(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050943
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】遊星歯車機構及び回転機械システム
(51)【国際特許分類】
F16H 1/28 20060101AFI20230404BHJP
F04D 29/60 20060101ALI20230404BHJP
F04D 29/62 20060101ALI20230404BHJP
F04D 29/64 20060101ALI20230404BHJP
F04D 29/053 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
F16H1/28
F04D29/60 J
F04D29/62 D
F04D29/64 D
F04D29/053 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161323
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】310010564
【氏名又は名称】三菱重工コンプレッサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】永尾 英樹
(72)【発明者】
【氏名】宮田 寛之
【テーマコード(参考)】
3H130
3J027
【Fターム(参考)】
3H130AA20
3H130AB27
3H130AB42
3H130AB52
3H130AC30
3H130BA22G
3H130BA23G
3H130DE07X
3H130EA01G
3H130EC05G
3J027FA37
3J027FB40
3J027GB03
3J027GC13
3J027GC22
3J027GD02
3J027GD09
3J027GD13
3J027GE11
(57)【要約】
【課題】内歯車の遠心力による変形を有効に抑え、高速回転に対応する。
【解決手段】遊星歯車機構は、軸線を中心として自転可能な太陽歯車と、前記軸線の延びる軸方向に延びて前記太陽歯車に固定され、前記太陽歯車と一体に前記軸線を中心として回転可能な第一軸と、前記太陽歯車と噛み合い、前記軸線と平行な自身の中心線を中心として自転可能な複数の遊星歯車と、複数の前記遊星歯車に対して径方向の外側に配置され、前記径方向の内側を向いて前記遊星歯車に噛み合う内歯を備え、前記軸線を中心として回転可能な内歯車と、前記軸方向に延びて前記内歯車に連結され、前記内歯車とともに前記軸線を中心として回転する第二軸と、前記内歯車の外周面に固定されて、前記内歯車を形成する材料よりも比強度の高い材料で環状に形成された補強部材と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心として自転可能な太陽歯車と、
前記軸線の延びる軸方向に延びて前記太陽歯車に固定され、前記太陽歯車と一体に前記軸線を中心として回転可能な第一軸と、
前記太陽歯車と噛み合い、前記軸線と平行な自身の中心線を中心として自転可能な複数の遊星歯車と、
複数の前記遊星歯車に対して径方向の外側に配置され、前記径方向の内側を向いて前記遊星歯車に噛み合う内歯を備え、前記軸線を中心として回転可能な内歯車と、
前記軸方向に延びて前記内歯車に連結され、前記内歯車とともに前記軸線を中心として回転する第二軸と、
前記内歯車の外周面に固定されて、前記内歯車を形成する材料よりも比強度の高い材料で環状に形成された補強部材と、を備える遊星歯車機構。
【請求項2】
前記補強部材は、前記軸方向において、少なくとも一部が複数の前記遊星歯車と重なる領域に形成される請求項1に記載の遊星歯車機構。
【請求項3】
前記内歯車は、前記軸方向の一端に開口端を有し、
前記補強部材は、前記軸方向において前記開口端に近いほど、前記径方向の厚さが大きくなっている請求項1又は2に記載の遊星歯車機構。
【請求項4】
前記内歯車は、前記軸方向の一端に開口端を有し、
前記補強部材は、前記軸方向において前記開口端に近いほど、前記補強部材を形成する材料の弾性係数が大きくなっている請求項1から3の何れか一項に記載の遊星歯車機構。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の遊星歯車機構と、
前記第一軸及び前記第二軸の一方に連結された回転機械と、を備える回転機械システム。
【請求項6】
前記回転機械は、前記第一軸に連結された圧縮機であり、
前記第二軸に連結され、前記圧縮機を駆動する駆動機をさらに備える請求項5に記載の回転機械システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遊星歯車機構及び回転機械システムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の圧縮流体を生成する軸流圧縮機や遠心圧縮機等の圧縮機には、駆動機(モータ)によって駆動されるものがある。例えば、特許文献1には、駆動機により、圧縮機を駆動する圧縮機システムの構成が開示されている。特許文献1に記載の構成では、駆動機に接続された増速機を介して圧縮機が連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような圧縮機を、例えば数万rpmといった高速回転させる場合、増速機に、遊星歯車機構が用いられることがある。増速機としての遊星歯車機構は、内歯車と、複数の遊星歯車と、太陽歯車と、を主に備える。内歯車は、入力軸に連結され、径方向の内側を向く内歯を備える。複数の遊星歯車は、内歯車の径方向の内側に配置される。複数の遊星歯車は、内歯車の内歯に噛み合った状態で配置されている。出力軸に連結された太陽歯車は、複数の遊星歯車の径方向の内側に配置される。太陽歯車は、複数の遊星歯車に噛み合った状態で配置されている。このような遊星歯車機構において、出力軸を高速回転させると、円筒状の内歯車も高速回転する。内歯車は、円筒状であるため、高速回転時の遠心力によって、径方向の外側に広がるように変形するような力が働く。内歯車が変形すると、内歯車と複数の遊星歯車の噛み合い状態に不具合が生じることがある。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、内歯車の遠心力による変形を有効に抑え、高速回転に対応することが可能な遊星歯車機構及び回転機械システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る遊星歯車機構は、軸線を中心として自転可能な太陽歯車と、前記軸線の延びる軸方向に延びて前記太陽歯車に固定され、前記太陽歯車と一体に前記軸線を中心として回転可能な第一軸と、前記太陽歯車と噛み合い、前記軸線と平行な自身の中心線を中心として自転可能な複数の遊星歯車と、複数の前記遊星歯車に対して径方向の外側に配置され、前記径方向の内側を向いて前記遊星歯車に噛み合う内歯を備え、前記軸線を中心として回転可能な内歯車と、前記軸方向に延びて前記内歯車に連結され、前記内歯車とともに前記軸線を中心として回転する第二軸と、前記内歯車の外周面に固定されて、前記内歯車を形成する材料よりも比強度の高い材料で環状に形成された補強部材と、を備える。
【0007】
本開示に係る回転機械システムは、上記したような遊星歯車機構と、前記第一軸及び前記第二軸の一方に連結された回転機械と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の遊星歯車機構及び回転機械システムによれば、内歯車の遠心力による変形を有効に抑え、高速回転に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の第一実施形態に係る回転機械システムの概略構成を示す模式図である。
【
図2】第一実施形態の遊星歯車機構を示す圧縮機システムの要部拡大図である。
【
図4】第一実施形態の変形例における遊星歯車機構を構成する内歯車の外観を示す図である。
【
図5】本開示の第二実施形態に係る回転機械システムの遊星歯車機構の概略構成を示す模式図である。
【
図6】本開示の第三実施形態に係る回転機械システムの遊星歯車機構概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本開示による遊星歯車機構及び回転機械システムを実施するための形態を説明する。しかし、本開示はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0011】
(回転機械システムの構成)
回転機械システム1は、一つの駆動機2で複数の圧縮機3を高速運転させる。回転機械システム1では、駆動機2に対して複数の圧縮機3が同じサイドに並んでおり、一つの駆動機2に対して複数の圧縮機3が並列に繋がれている。
図1に示すように、本実施形態の回転機械システム1は、駆動機2と、複数の圧縮機(回転機械)3と、伝達機構4と、を備えている。本実施形態の回転機械システム1では、一つの駆動機2のみが配置されている。
【0012】
駆動機2は、圧縮機3を駆動させるための動力を発生させるように回転駆動される。駆動機2は、主軸線Oを中心に回転する駆動軸21を有している。駆動軸21は、一つのみ配置されている。駆動軸21は、主軸線Oを中心とする円柱状に形成されている。本実施形態の駆動機2は、駆動軸21を駆動させるモータである。なお、駆動機2としては、圧縮機3を駆動させるための動力を発生させることができればよく、モータ以外に蒸気タービン等を採用することができる。
【0013】
圧縮機3は、作動流体としてガスを圧縮する。圧縮機3は、それぞれ内部に配置されたインペラ(不図示)を用いて分子量10以下のガスを圧縮する。本実施形態の圧縮機3は、水素ガスを圧縮する一軸多段遠心圧縮機である。本実施形態の圧縮機3として、第一圧縮機31、第二圧縮機32、及び第三圧縮機(不図示)の三つを有している。第一圧縮機31、第二圧縮機32、及び第三圧縮機は、配管(不図示)を介して順に接続されている。回転機械システム1では、圧縮すべきガスが、第一圧縮機31、第二圧縮機32、及び第三圧縮機の順に導入されて順次圧縮される。ガスは、第三圧縮機において圧縮された後、回転機械システム1の外部の供給先に供給される。なお、複数の圧縮機3は、互いに繋がるよう順に接続されるように配置されていることに限定されるものではない。複数の圧縮機3は、互いに切り離されて独立して運転可能なように、並列に配置されていてもよい。
【0014】
(伝達機構の構成)
伝達機構4は、駆動軸21の回転を増速させて複数の圧縮機3に伝達する。伝達機構4は、一つの駆動軸21と、複数の圧縮機3とを接続している。伝達機構4は、圧縮機3の定格運転時に、後述する太陽軸58を、10000(回転/分)以上100000(回転/分)回転以下程度の回転数まで増速させて回転させる。伝達機構4は、ケーシング40と、主軸41と、主歯車42と、主軸軸受43と、複数の遊星歯車機構5Aと、を有している。
【0015】
ケーシング40は、伝達機構4における外装を構成している。ケーシング40は、主軸41と、主歯車42と、主軸軸受43と、複数の遊星歯車機構5Aとを内部に収容している。
【0016】
主軸41は、駆動軸21とともに回転する。主軸41は、主歯車42を介して、駆動軸21の回転を複数の遊星歯車機構5Aに伝達する。主軸41は、ケーシング40の外部で駆動軸21の端部と接続されている。主軸41は、駆動軸21によって主軸線O回りに回転駆動される。主軸41は、主軸線Oを中心とする円柱状に形成されている。つまり、主軸41は、駆動軸21と同軸となるように配置されている。主軸41は、先端がケーシング40内に配置されるようにケーシング40を貫通している。
【0017】
主歯車42は、ケーシング40内で主軸41に固定されている。主歯車42は、主軸線Oを中心とする円板状に形成された外歯車である。本実施形態の主歯車42は、伝達機構4で使用される歯車の中でも最も外径が大きい。なお、主歯車42は、伝達機構4で使用される歯車の中でも最も外径が大きい形状であることに限定されるものではない。
【0018】
主軸軸受43は、ケーシング40に対して主軸41を回転可能に支持している。主軸軸受43は、ケーシング40の内部に固定されている。本実施形態の主軸軸受43は、ジャーナル軸受である。主軸軸受43は、主歯車42を挟むように、主軸41に対して一対配置されている。
【0019】
(遊星歯車機構の構成)
複数の遊星歯車機構5Aは、主軸41を囲むようにケーシング40の内部に配置されている歯車機構である。各遊星歯車機構5Aは、対応する一つの圧縮機3と一対一の関係で接続されている。各遊星歯車機構5Aは、主軸41の回転を対応する一つの圧縮機3に伝達する。本実施形態では、第一圧縮機31に接続された第一遊星歯車機構5Ap、第二圧縮機32に接続された第二遊星歯車機構5Aq、及び第三圧縮機に接続された第三遊星歯車機構(不図示)の三つが、ケーシング40内に均等に離れて配置されている。本実施形態では、第一遊星歯車機構5Ap、第二遊星歯車機構5Aq、及び第三遊星歯車機構(不図示)は、同じ構成となされている。
【0020】
図2に示すように、本実施形態における各遊星歯車機構5Aは、副軸(第二軸)51と、副歯車52と、複数の遊星歯車53と、複数の遊星歯車軸54と、歯車支持部55と、内歯車56と、太陽歯車57と、太陽軸(第一軸)58と、第一軸受61と、第二軸受62、補強部材70Aとを有している。
【0021】
副軸51は、主軸41の回転が伝達され、主軸41とともに回転する。副軸51は、主軸線Oと平行に延びる第一中心軸線(軸線)O1を中心とする円柱状に形成されている。副軸51は、主軸41に対して、主軸41の径方向の外側に離れた位置に配置されている。副軸51は、主軸41と平行に延びている。副軸51は、主軸41が回転することで、第一中心軸線O1を中心に回転する。
【0022】
副歯車52は、主歯車42と噛み合っている。副歯車52は、副軸51に固定されている。副歯車52は、第一中心軸線O1を中心とする円板状に形成された外歯車である。本実施形態の副歯車52は、主歯車42よりも外径が小さい。なお、副歯車52は、主歯車42よりも外径が小さいことに限定されるものではない。例えば、副歯車52は、主歯車42と同じ径であってもよい。
【0023】
複数の遊星歯車53は、内歯車56を介して副軸51の回転が伝達され、副軸51の回転とともに回転する。
図2及び
図3に示すように、複数の遊星歯車53は、副軸51に対して、副軸51の径方向Drの外側Droに配置されている。径方向Drは、第一中心軸線O1を中心とする副軸51や太陽軸58の径方向である。複数の遊星歯車53は、太陽軸58の周方向Dcに互いに間隔をあけて配置されている。周方向Dcは、第一中心軸線O1を中心とした副軸51や太陽軸58の周方向である。複数の遊星歯車53は、内歯車56及び太陽歯車57と噛み合っている。本実施形態では、三つの遊星歯車53が周方向Dcに均等に離れて配置されている。なお、遊星歯車53の数は、三つに限定されるものではなく一つ以上であればよく、四つ以上配置されていてもよい。各遊星歯車53は、第二中心軸線(中心線)O2を中心とする円板状に形成された外歯車である。複数の遊星歯車53は、公転せずに、自身の中心線である第二中心軸線O2を中心として自転のみする。
【0024】
図2に示すように、遊星歯車軸54は、遊星歯車53とともに回転する。遊星歯車軸54は、主軸線O及び第一中心軸線O1と平行に延びる第二中心軸線O2を中心とする円柱状に形成されている。遊星歯車軸54は、副軸51に対して、副軸51の径方向Drの外側Droに離れた位置に配置されている。遊星歯車軸54は、主軸41及び副軸51と平行に延びている。遊星歯車軸54は、第二中心軸線O2を中心として自転可能に遊星歯車53を支持する。
【0025】
歯車支持部55は、複数の遊星歯車53を自転可能に支持する。本実施形態の歯車支持部55は、第一歯車支持部55Aと、第二歯車支持部55Bとを有している。具体的には、第一歯車支持部55A及び第二歯車支持部55Bは、第二中心軸線O2を中心として回転可能に複数の遊星歯車軸54の両端を支持している遊星キャリアである。第一歯車支持部55A及び第二歯車支持部55Bは、複数の遊星歯車軸54が移動しないように、複数の遊星歯車軸54の相互の位置を維持している。第一歯車支持部55Aは、ケーシング40に対して移動不能な状態で固定されている。第二歯車支持部55Bは、ケーシング40に対して固定されていない。
【0026】
図2に示すように、内歯車56は、副軸51の端部51bに固定されている。内歯車56は、第一中心軸線O1を中心とする有底円筒状に形成されている。具体的には、内歯車56は、軸方向Daの第二側Da2の一端(副軸51と固定されていない側の端部)に開口端56sを有している。内歯車56は、副軸51とともに回転することで、第一中心軸線O1を中心として回転可能とされている。内歯車56は、内部に収容された複数の遊星歯車53に対して径方向Drの外側Droから噛み合っている。内歯車56は、筒状部56cと、円板状部56dと、を一体に有している。
【0027】
円板状部56dは、副軸51の端部51bから径方向Drの外側Droに延びている。円板状部56dは、第一中心軸線O1を中心とした円板状の部材である。円板状部56dは、内歯車56において第一中心軸線O1の延びる軸方向Daの第一側Da1の端部で底部を形成している。
【0028】
筒状部56cは、円板状部56dの外周部から、第一中心軸線O1と平行に、軸方向Daの第二側Da2に向かって延びている。筒状部56cは、第一中心軸線O1を中心とする円筒状をなしている。筒状部56cの軸方向Daの第一側Da1の端部は、円板状部56dにより閉塞されている。筒状部56cでは、軸方向Daの第二側Da2の端部のみが、軸方向Daの第二側Da2に向けて開口する開口端56sとなっている。
【0029】
筒状部56cは、複数の遊星歯車53の径方向Drの外側Droに配置されている。内歯車56は、筒状部56cにおいて径方向Drの内側Driを向く内周面に、複数の遊星歯車53に噛み合う内歯56gを備えている。内歯56gは、少なくとも軸方向Daにおいて、複数の遊星歯車53に対して径方向Drで対向する領域に形成されている。内歯56gは、周方向Dcに複数の歯が間隔をあけて環状に並んでいる。内歯56gは、軸方向Daにおいて、開口端56sから円板状部56dに向かって筒状部56cの途中まで形成されている。つまり、本実施形態において、筒状部56cと複数の遊星歯車53とは、開口端56sから軸方向Daにおける筒状部56cの途中(円板状部56dには到達しない位置)までの領域で噛み合っている。
【0030】
内歯車56は、副軸51とともに回転することで、径方向Drの内側Driに配置された複数の遊星歯車53に対して副軸51の回転を伝達する。内歯車56は、例えば、鋼材、ステンレス鋼材等の金属材料によって形成されている。
【0031】
なお、内歯車56は、内歯56gが内側に形成された筒状部56cと、副軸51に固定される円板状部56dとが別の部材で形成されていてもよい。したがって、内歯車56は、円板状部56dが歯車として構成され、円板状部56dと筒状部56cとが互いに噛み合って回転する構造であってもよい。また、内歯車56は、円板状部56dに複数の孔が形成されたような構造であってもよい。また、内歯車56は、円板状部56dが複数の部材に分かれたストラッド形状であってもよい。
【0032】
太陽歯車57は、複数の遊星歯車53に対して径方向Drの内側Driで噛み合っている出力歯車である。太陽歯車57は、第一中心軸線O1を中心とする円板状に形成された外歯車である。太陽歯車57は、複数の遊星歯車53よりも外径が小さい。なお、太陽歯車57は、円板状であることに限定されるものではなく、円筒状であってもよい。つまり、太陽歯車57の厚みは何ら限定されるものではない。また、太陽歯車57は、複数の遊星歯車53よりも外径が小さいことに限定されるものではない。したがって、太陽歯車57の大きさ、複数の遊星歯車53と同じ又は大きく形成されていてもよい。
【0033】
太陽軸58は、第一中心軸線O1を中心に軸方向Daに延びている。太陽軸58は、軸方向Daの第一側Da1の端部58a(駆動機2に近い端部)に太陽歯車57が固定されている出力軸である。太陽軸58は、軸方向Daの第二側Da2の端部58b(駆動機2に近い端部と反対側の端部)に圧縮機3の回転軸が接続されている。太陽軸58は、遊星歯車53の回転が伝達された太陽歯車57とともに、第一中心軸線O1を中心として回転(自転)する。太陽軸58は、第一中心軸線O1を中心とする円柱状に形成されている。太陽軸58の軸線は、副軸51の第一中心軸線O1と一致している。つまり、太陽軸58は、駆動軸21に対して平行かつ径方向Drの外側Droにずれた位置となるように配置されている。
図1に示すように、太陽軸58は、端部58aがケーシング40内に配置されるように、ケーシング40を貫通している。なお、太陽軸58は、端部58aがケーシング40内に配置されるように、ケーシング40を貫通した構造に限定されるものではない。太陽軸58は、継手を用いる場合には、ケーシング40内に収容されていればよく、ケーシング40を貫通した構造でなくてもよい。
【0034】
図1及び
図2に示すように、第一軸受61は、副軸51をケーシング40に対して回転可能に支持している。第一軸受61は、ケーシング40の内部に固定されている。本実施形態の第一軸受61は、ジャーナル軸受である。第一軸受61は、ジャーナル軸受であれば、主軸軸受43と同じ種類及び大きさの軸受であってもよく、異なる種類及び大きさの軸受であってもよい。したがって、第一軸受61は、転がり軸受やすべり軸受であってもよい。第一軸受61がすべり軸受の場合には、例えば、周方向に分割されていない筒状のスリーブタイプの軸受であってもよい。また、第一軸受61がすべり軸受の場合には、例えば、周方向に分割された複数のパッドを有するティルティングパッド軸受であってもよい。第一軸受61は、副歯車52を挟むように、副軸51に対して一対配置されている。
【0035】
第二軸受62は、太陽軸58をケーシング40に対して回転可能に支持している。第二軸受62は、第一歯車支持部55Aに固定されている。本実施形態の第二軸受62は、ティルティングパッド軸受であってもよい。第二軸受62は、太陽歯車57に対して圧縮機3に近い位置に配置されている。第二軸受62は、ケーシング40に対して移動不能な状態とされていればよく、第一歯車支持部55Aに固定された構造に限定されるものではない。例えば、第二軸受62は、ケーシング40に直接固定されていてもよい。また、第二軸受62は、太陽軸58の振動を減衰させるようなダンピング機能が付加された軸受であってもよい。
【0036】
図2及び
図3に示すように、補強部材70Aは、内歯車56に対して径方向Drの外側Droに配置されている。補強部材70Aは、筒状部56cの外周面に固定されている。補強部材70Aは、第一中心軸線O1回りの周方向Dcに連続して延びるように環状に形成されている。本実施系チアの補強部材70Aは、径方向Dr及び軸方向Daに一定の厚さTを有している。つまり、補強部材70Aは、第一中心軸線O1を中心とした一定の厚さTの円環状に形成されている。
【0037】
補強部材70Aは、軸方向Daにおいて、少なくとも一部が複数の遊星歯車53と重なる領域に形成されることが好ましい。また、補強部材70Aは、軸方向Daにおいて内歯車56の開口端56sに近い位置に配置することが好ましい。本実施形態では、補強部材70Aは、軸方向Daにおいて、筒状部56cの外周面の全域を覆っていない。補強部材70Aは、内歯車56の開口端56sから軸方向Daの第一側Da1に向けて、複数の遊星歯車53と重なる領域よりも軸方向Daにわずかに長い領域L1のみで延びるように形成されている。つまり、本実施形態の補強部材70Aは、軸方向Daにおいて、内歯車56と複数の遊星歯車53とが噛み合う領域の全域と重なるように形成されている。
【0038】
補強部材70Aは、内歯車56を形成する材料よりも比強度の高い材料で形成されている。ここで、比強度とは、材料の密度に対する引張強度の比(比強度=引張強度/密度)である。補強部材70Aは、内歯車56を形成する材料に対し、比強度が、例えば2倍以上となる材料で形成するのが好ましい。
【0039】
補強部材70Aを形成する材料は、例えば、内歯車56を形成する材料よりも、弾性係数が高い材料であるのが好ましい。補強部材70Aを形成する材料は、内歯車56を形成する材料よりも、密度が低い材料であるのが好ましい。
【0040】
これらの上限を満足する補強部材70Aの材料の具体例としては、例えば、チタニウム合金や、アルミニウム合金や、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が挙げられる。特に、補強部材70Aを炭素繊維強化プラスチックで形成する場合、
図4に示すように、炭素繊維強化プラスチックに含まれる繊維70fの繊維方向Dfを、例えば、第一中心軸線O1回りの周方向Dcとなるように、補強部材70Aを形成することが好ましい。
【0041】
(補強部材についての検討)
ここで、実際に内歯車56を高速回転させる場合の補強部材70Aは、以下のように定められる。
周速V(m/s)で回転する内歯車56の変形量(ひずみ)ε1は、下式(1)で表される。
ε1=σθ/E1=ρ1×V2/E1 ・・・(1)
ここで、σθ:内歯車56の周方向応力、E1:内歯車56の材料の弾性係数、ρ1:内歯車56の材料の密度である。
【0042】
このことから、内歯車56が周速V(m/s)で回転しているときに、内歯車56の変形によって補強部材70Aに作用する内圧Pは、下式(2)で表される。
P=t1/r×ρ1×V2 ・・・(2)
ここで、t1:内歯車56の径方向Drの厚さ、r:内歯車56の半径である。
【0043】
式(2)で表される内圧Pが補強部材70Aに作用したときに、内歯車56から補強部材70Aに作用する周方向応力σθ1は、下式(3)で表される。
σθ1=r/t2×t1/r×ρ1×V2 ・・・(3)
ここで、t2:補強部材70Aの径方向Drの厚さである。
【0044】
また、内歯車56に固定されていることで内歯車56と同じ周速V(m/s)で回転する補強部材70A自身の遠心力による周方向応力σθ2は、下式(4)で表される。
σθ2=ρ2×V2 ・・・(4)
ここで、ρ2:補強部材70Aの密度である。
【0045】
例えば、補強部材70Aを備えず、単体で周速V1=80(m/s)で回転可能な内歯車56に、補強部材70Aを固定して、周速V2=130(m/s)で回転させる場合を想定する。この場合、周速V2=130(m/s)で補強部材70Aに発生する周方向応力σθ2による補強部材70Aの変形量ε2が、周速V1=80(m/s)で内歯車56単体に生じる変形量ε1と同レベルになればよい(ε2=ε1)。補強部材70Aの変形量ε2は、次式(5)で表される。
ε2=(σθ1+σθ2)/E2
=(t1/t2×ρ1+ρ2)×(V2)2/E2 ・・・(5)
【0046】
式(1)及び(5)に基づき、ε2=ε1を満足するには、下式(6)を満足する比弾性係数E2/ρ2であれば良い。
E2/(t1/t2×ρ1+ρ2)=E1/ρ1×(V2/V1)2 ・・・(6)
【0047】
例えば、ρ2=0.2×ρ1、t1/t2=1であるとすると、補強部材70Aに必要な比弾性係数E2/ρ2は、下式(7)で表される。
E2/ρ2=15.8×E1/ρ1 ・・・(7)
【0048】
式(7)に基づき、補強部材70Aに必要な弾性係数E2は、下式(8)で表される。
E2=15.8×ρ2/ρ1×E1
=15.8×0.2×E1
=3.16×E1・・・(8)
例えば、内歯車56を鉄鋼製とした場合、上記のように算出された弾性係数E2を有する補強部材70Aの材料としては、炭素繊維強化プラスチックが挙げられる。
【0049】
また、補強部材70Aに必要な強度(許容応力)について検討する。
内歯車56の材料の許容応力をσ1、補強部材70Aの材料の許容応力をσ2とすると、それぞれの許容応力でのひずみを等しいレベルにする(ε2=ε1)には、下式(9)が成り立つ。
σ2/E2=σ1/E1 ・・・(9)
【0050】
式(9)から、補強部材70Aの材料の許容応力σ2は、下式(10)を満足するのが好ましい。
σ2=σ1×E2/E1 ・・・(10)
【0051】
上式(8)の例に基づいて想定すると、上式(10)は、
σ2=σ1×E2/E1
=σ1×3.16
となる。つまり、補強部材70Aは、内歯車56の3倍の許容応力が必要となる。
例えば、内歯車56を鉄鋼製とした場合、上記のように算出された許容応力σ2を有する補強部材70Aの材料としては、やはり、炭素繊維強化プラスチックが挙げられる。したがって、内歯車56を金属材料で形成した場合、補強部材70Aの材料としては、炭素繊維強化プラスチックが好ましいことがわかる。
【0052】
(作用効果)
上記構成の遊星歯車機構5Aでは、内歯車56の外周面に、内歯車56を形成する材料よりも比強度の高い材料で形成した環状の補強部材70Aが固定される。このような補強部材70Aは、内歯車56に比べて変形量が小さくなる。したがって、本実施形態の遊星歯車機構5Aでは、内歯車56が高速回転した際に生じる遠心力による内歯車56の変形が補強部材70Aによって抑えられる。具体的には、補強部材70Aを、内歯車56を形成する材料と同等以下の比強度の材料で形成した場合には、遠心力によって内歯車56と同等以上の変形量で補強部材70Aが拡径してしまう。一方で、本実施形態のように補強部材70Aを、内歯車56を形成する材料よりも比強度の高い材料で形成することで、遠心力が作用しても、広がるような補強部材70Aの変形量は内歯車56よりも小さくなる。その結果、補強部材70Aにより、遠心力による径方向Drの外側Droへ広がるような内歯車56の変形を、有効に抑えることができる。したがって、内歯車56の遠心力による変形を有効に抑え、回転数に関わらず、内歯車56と複数の遊星歯車53との噛み合い状態を安定した状態で維持できる。その結果、高速回転に対応することができる遊星歯車機構5Aを提供することができる。
【0053】
また、補強部材70Aを、内歯車56よりも弾性係数が高い材料や内歯車56よりも密度が低い材料で形成することにより、変形しづらさが内歯車56に対して相対的に高まる。その結果、内歯車56に比べて補強部材70Aの変形量を抑えることができる。したがって、内歯車56の遠心力による変形を有効に抑えることができる。
【0054】
また、内歯車56は、金属材料によって形成されている。内歯車56は、金属材料で形成した方が、樹脂材料で形成する場合に比べて強度を高めることができる。その結果、遠心力による内歯車56自体の変形を抑えることができる。したがって、高速回転で遊星歯車機構5Aを使用する場合、内歯車56を金属材料で形成することが好ましい。このように高回転域で遊星歯車機構5Aを使用する場合に、比強度の高い材料で形成された補強部材70Aを用いることで、金属製の内歯車56の遠心力による変形も有効に抑えることができる。
【0055】
また、補強部材70Aは、炭素繊維強化プラスチックによって形成されることで軽量かつ高い強度を確保できる。特に、本実施形態では、炭素繊維強化プラスチックを構成する繊維70fの繊維方向Df(延伸方向)を、第一中心軸線O1を基準とする周方向Dcと一致させるように、補強部材70Aを形成することが好ましい。このように補強部材70Aを形成することで、補強部材70Aの周方向Dcと交差する方向への伸びを抑えることができる。したがって、遠心力による補強部材70Aの径方向Drへの変形量を抑えることができる。
【0056】
また、補強部材70Aは、軸方向Daにおいて、少なくとも一部が複数の遊星歯車53と重なる領域に形成されている。これにより、遊星歯車53と内歯車56とが噛み合う領域での内歯車56の変形を重点的に抑えることができる。したがって、内歯車56の変形を効率良く抑えることができる。
【0057】
また、本実施形態の伝達機構4は、圧縮機3の定格運転時に、太陽軸58を、10000(回転/分)以上100000(回転/分)回転以下程度の回転数まで増速させて回転させる。このような高回転域で伝達機構4が駆動される場合、内歯車56の回転数も非常に大きくなる。その結果、内歯車56の遠心力による変形の影響が大きくなるが、補強部材70Aによって内歯車56の変形を抑えることで、内歯車56と遊星歯車53との噛み合い状態に不具合が生じることを、長時間に渡って有効に抑えることができる。したがって、出力軸である太陽軸58を高速で安定して回転させることができる。
【0058】
また、高回転域で伝達機構4が駆動される場合に、遊星歯車機構5Aを用いると、高速で回転する太陽軸58に作用するギア接線力が複数の遊星歯車53から互いにキャンセルするように働く。その結果、太陽軸58を支持する軸受にギア接線力の荷重はほぼ働かなくなる。その結果、太陽軸58を支持する軸受のサイズを小さくすることができ、高回転域で使用可能な伝達機構4をコンパクトにすることができる。
【0059】
このように、高速回転される圧縮機3は、水素ガスを圧縮している。補強部材70Aで補強された内歯車56を有する遊星歯車機構5Aによって、圧縮機3が高速回転に対応可能であるため、水素ガスを効率良く圧縮することができる。
【0060】
また、回転機械システム1は、副軸51に連結され、圧縮機3を駆動する駆動機2をさらに備える。この回転機械システム1は、駆動機2の回転駆動力を、遊星歯車機構5Aを介して圧縮機3に伝達する。このような構成において、内歯車56の遠心力による変形を有効に抑えことができる遊星歯車機構5Aを備えることで、圧縮機3を高速回転に対応したものとすることができる。
【0061】
(第二実施形態)
次に、本開示に係る遊星歯車機構及び回転機械システムの第二実施形態について説明する。なお、以下に説明する第二実施形態においては、上記第一実施形態と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。第二実施形態では、補強部材70Bの構成が第一実施形態と異なっている。
【0062】
図5に示すように、第二実施形態の遊星歯車機構5Bの補強部材70Bは、軸方向Daの位置によって厚さが異なっている。補強部材70Bは、軸方向Daにおいて開口端56sに近いほど、径方向Drの厚さが大きくなっている。第二実施形態において、補強部材70Bは、軸方向Daの第一側Da1から第二側Da2に向かって、補強部材70Bの径方向Drの厚さが段階的に大きくなっている。なお、補強部材70Bは、軸方向Daの第一側Da1から第二側Da2に向かって、補強部材70Bの径方向Drの厚さが連続的に変化するように大きくなっていてもよい。
【0063】
本実施形態において、補強部材70Bは、軸方向Daの第一側Da1から第二側Da2に向かって、外径が三段階に大きくなっている。補強部材70Bは、例えば、第一補強部701と、第二補強部702と、第三補強部703と、を有している。第一補強部701と、第二補強部702と、第三補強部703とは弾性係数及び密度が同じになるように、同じ材料で形成されている。第一補強部701と、第二補強部702と、第三補強部703とは、一体となるように互いに固定されていてもよく、それぞれ分離可能なように別体とされていてもよい。
【0064】
第一補強部701の径方向Drにおける厚さをT1、第二補強部702の径方向Drにおける厚さをT2、第三補強部703の径方向Drにおける厚さをT3とする。厚さT1、厚さT2、及び厚さT3は、
T1<T2<T3
の関係を満たしている。
【0065】
ここで、補強部材70Bを備えない内歯車56の単体の状態での変形量(ひずみ)ε1に基づいて、補強部材70Bの厚みは定められる。例えば、軸方向Daにおいて、第一補強部701が配置される領域a1における第一補強部701を備えない状態での内歯車56の変形量(ひずみ)をε11とする。また、軸方向Daにおいて、第二補強部702が配置される領域a2における第二補強部702を備えない状態での内歯車56の変形量をε12とする。また、軸方向Daにおいて、第三補強部703が配置される領域a3における第三補強部703を備えない状態での内歯車56の変形量をε13とする。内歯車56の変形量ε1によって、補強部材70Bに周方向応力が発生する。周方向応力による補強部材70Bの変形量(ひずみ)ε2は、下式(11)のような関係を有する。
ε2∝ε1/(E2×t2) ・・・(11)
【0066】
したがって、第一補強部701、第二補強部702、および第三補強部703を同材料で形成する場合、各領域a1、a2、及びa3の変形量に応じて補強部材70Bの板厚を変えることにより、各領域a1、a2、及びa3での内歯車56の変形量を均一にすることができる。
【0067】
さらに、第三補強部703が配置される領域a3における内歯車56の変形量ε13を1.0とした場合、第一補強部701の厚さT1は、T3×ε11を満たすことが好ましい。同様に、第三補強部703が配置される領域a3における内歯車56の変形量ε13を1.0とした場合、第二補強部702の厚さT2は、T3×ε12を満たすことが好ましい。
【0068】
(作用効果)
上記構成の遊星歯車機構5B及び回転機械システム1では、軸方向Daにおいて開口端56sに近づくにつれ、補強部材70Bは、径方向Drの厚さが段階的に大きくなるように形成されている。遠心力による径方向Drへの内歯車56の変形量は、軸方向Daにおいて円板状部56dから離れて開口端56sに近づくにつれて大きくなる。これに対し、補強部材70Bの径方向Drの厚さを、軸方向Daで開口端56sに近づくにつれて大きくさせることで、補強部材70Bの変形量を、開口端56sに近づくにつれて小さくすることができる。これにより、補強部材70Bによる拘束力を、開口端56sに近づくほど大きくすることができる。したがって、内歯車56の変形を軸方向Daで均一に近づけるように抑えることができる。その結果、内歯車56の遠心力による変形を有効に抑え、高速回転に対応することができる遊星歯車機構5Bを提供することができる。
【0069】
(第三実施形態)
次に、本開示に係る遊星歯車機構及び回転機械システムの第三実施形態について説明する。なお、以下に説明する第三実施形態においては、上記第一実施形態と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。第三実施形態では、補強部材70Cの構成が第一実施形態や第二実施形態と異なっている。
【0070】
図6に示すように、第三実施形態の遊星歯車機構5Cの補強部材70Cは、軸方向Daで補強部材70Cを形成する材料の弾性係数が異なっている。補強部材70Cは、軸方向Daにおいて開口端56sに近いほど、補強部材70Cを形成する材料の弾性係数が大きくなっている。本実施形態において、補強部材70Cは、軸方向Daの第一側Da1から第二側Da2に向かって、補強部材70Cを形成する材料の弾性係数が段階的に大きくなっている。なお、補強部材70Cは、軸方向Daの第一側Da1から第二側Da2に向かって、補強部材70Cを形成する材料の弾性係数が連続的に変化するように大きくなっていてもよい。
【0071】
本実施形態において、補強部材70Cは、軸方向Daの第一側Da1から第二側Da2に向かって、材料の弾性係数が三段階に大きくなっている。補強部材70Cは、例えば、第一補強部711と、第二補強部712と、第三補強部713と、を有している。第一補強部711と、第二補強部712と、第三補強部713とは異なる材料で形成され、径方向Drにおける厚さが同一とされている。第一補強部711と、第二補強部712と、第三補強部713とは、一体となるように互いに固定されていてもよく、それぞれ分離可能なように別体とされていてもよい。
【0072】
第一補強部711の径方向Drにおける弾性係数をE1、第二補強部712の径方向Drにおける弾性係数をE2、第三補強部713の径方向Drにおける弾性係数をE3とする。弾性係数E1、弾性係数E2、及び弾性係数E3は、
E1<E2<E3
の関係を満たしている。
【0073】
ここで、第二実施形態と同様に、内歯車56の変形量ε1によって、補強部材70Cに周方向応力が発生する。周方向応力による補強部材70Aの変形量(ひずみ)ε2は、上述した式(11)のような関係を有する。したがって、第一補強部711、第二補強部712、および第三補強部713を同一の厚さで形成する場合、各領域a1、a2、及びa3の変形量に応じて補強部材70Cを形成する材料の弾性係数を変えることにより、各領域a1、a2、及びa3での内歯車56の変形量を均一にすることができる。
【0074】
そこで、第三補強部713が配置される領域a3における内歯車56の変形量ε13を1.0とした場合、第一補強部711を形成する材料の弾性係数E1は、E3×ε11を満たすことが好ましい。同様に、第三補強部713が配置される領域a3における内歯車56の変形量ε13を1.0とした場合、第二補強部712を形成する材料の弾性係数E2は、E3×ε12を満たすことが好ましい。
【0075】
(作用効果)
上記構成の遊星歯車機構5C及び回転機械システム1では、軸方向Daにおいて開口端56sに近づくにつれ、補強部材70Cを形成する材料の弾性係数が段階的に大きくなるように形成されている。遠心力による径方向Drへの内歯車56の変形量は、軸方向Daにおいて円板状部56dから離れて開口端56sに近づくにつれて大きくなる。これに対し、補強部材70Cを形成する材料の弾性係数を、軸方向Daで開口端56sに近づくにつれて大きくさせることで、補強部材70Cの変形量を、開口端56sに近づくにつれて小さくすることができる。これにより、補強部材70Cによる拘束力を、開口端56sに近づくほど大きくすることができる。したがって、内歯車56の変形を軸方向Daで均一に近づけるように抑えることができる。その結果、内歯車56の遠心力による変形を有効に抑え、高速回転に対応することができる遊星歯車機構5Cを提供することができる。
【0076】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0077】
なお、上記実施形態では、内歯車56が軸方向Daの第一側Da1に開口端56sを備える構成としたが、これに限るものではなく、例えば、内歯車56が軸方向Daの両側に開口端を備える構成であってもよい。この場合、補強部材70A~70Cは、内歯車56が軸方向Daの両側にそれぞれ備えるのが好ましい。
【0078】
また、遊星歯車機構5A~5Cの構成は、上記実施形態で示した構成に限らず、適宜変更可能である。
【0079】
また、上記実施形態では、第二軸としての太陽軸58を出力軸とし、第一軸としての副軸51を入力軸とする構成としたが、第一軸を出力軸とし、第二軸を入力軸とする構成であってもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、回転機械システム1を構成する回転機械として、圧縮機を例示したが、回転機械の用途、構成等について何ら問うものではない。例えば、回転機械は、船舶等に備えられるプロペラシャフト回りに駆動系や、風車等であってもよい。
【0081】
<付記>
実施形態に記載の遊星歯車機構5A~5C、回転機械システム1は、例えば以下のように把握される。
【0082】
(1)第1の態様に係る遊星歯車機構5A~5Cは、軸線O1を中心として自転可能な太陽歯車57と、前記軸線O1の延びる軸方向Daに延びて前記太陽歯車57に固定され、前記太陽歯車57と一体に前記軸線O1を中心として回転可能な第一軸58と、前記太陽歯車57と噛み合い、前記軸線O1と平行な自身の中心線O2を中心として自転可能な複数の遊星歯車53と、複数の前記遊星歯車53に対して径方向Drの外側に配置され、前記径方向Drの内側を向いて前記遊星歯車53に噛み合う内歯56gを備え、前記軸線O1を中心として回転可能な内歯車56と、前記軸方向Daに延びて前記内歯車56に連結され、前記内歯車56とともに前記軸線O1を中心として回転する第二軸51と、前記内歯車56の外周面に固定されて、前記内歯車56を形成する材料よりも比強度の高い材料で環状に形成された補強部材70A~70Cと、を備える。
【0083】
これにより、補強部材70A~70Cは、内歯車56に比べて変形量が小さくなる。したがって、遊星歯車機構5A~5Cでは、内歯車56が高速回転した際に生じる遠心力による内歯車56の変形が補強部材70A~70Cによって抑えられる。具体的には、補強部材70Aを、内歯車56を形成する材料と同等以下の比強度の材料で形成した場合には、遠心力によって内歯車56と同等以上の変形量で補強部材70A~70Cが拡径してしまう。一方で、補強部材70A~70Cを、内歯車56を形成する材料よりも比強度の高い材料で形成することで、遠心力が作用しても、径方向Drの外側Droへ広がるような補強部材70A~70Cの変形量は内歯車56よりも小さくなる。その結果、補強部材70A~70Cにより、遠心力による内歯車56の変形を、有効に抑えることができる。したがって、内歯車56の遠心力による変形を有効に抑え、回転数に関わらず、内歯車56と複数の遊星歯車53との噛み合い状態を安定した状態で維持できる。その結果、高速回転に対応することができる遊星歯車機構5A~5Cを提供することができる。
【0084】
(2)第2の態様に係る遊星歯車機構5A~5Cは、(1)の遊星歯車機構5A~5Cであって、前記補強部材70A~70Cは、前記軸方向Daにおいて、少なくとも一部が複数の前記遊星歯車53と重なる領域に形成される。
【0085】
これにより、遊星歯車53と内歯車56とが噛み合う領域での内歯車56の変形を重点的に抑えることができる。したがって、内歯車56の変形を効率良く抑えることができる。
【0086】
(3)第3の態様に係る遊星歯車機構5Bは、(1)又は(2)の遊星歯車機構5Bであって、前記内歯車56は、前記軸方向Daの一端に開口端56sを有し、前記補強部材70Bは、前記軸方向Daにおいて前記開口端56sに近いほど、前記径方向Drの厚さが大きい。
【0087】
これにより、遠心力による内歯車56の変形量は、軸方向Daで開口端56sに近づくにつれて大きくなる。これに対し、補強部材70Bの径方向Drの厚さを、軸方向Daで開口端56sに近づくにつれて大きくさせることで、補強部材70Bの変形量を、開口端56sに近づくにつれて小さくすることができる。これにより、補強部材70Bによる拘束力を、開口端56sに近づくほど大きくすることができる。したがって、内歯車56の変形を軸方向Daで均一に近づけるように抑えることができる。その結果、内歯車56の遠心力による変形を有効に抑え、高速回転に対応することができる遊星歯車機構5Bを提供することができる。
【0088】
(4)第4の態様に係る遊星歯車機構5Cは、(1)から(3)の何れか一つの遊星歯車機構5Cであって、前記内歯車56は、前記軸方向Daの一端に開口端56sを有し、前記補強部材70Cは、前記軸方向Daにおいて前記開口端56sに近いほど、前記補強部材70Cを形成する材料の弾性係数が大きくなっている。
【0089】
これにより、遠心力による内歯車56の変形量は、軸方向Daで開口端56sに近づくにつれて大きくなる。これに対し、補強部材70Cを形成する材料の弾性係数を、軸方向Daで開口端56sに近づくにつれて大きくさせることで、補強部材70Cの変形量を、開口端56sに近づくにつれて小さくすることができる。これにより、補強部材70Cによる拘束力を、開口端56sに近づくほど大きくすることができる。したがって、内歯車56の変形を軸方向Daで均一に近づけるように抑えることができる。その結果、内歯車56の遠心力による変形を有効に抑え、高速回転に対応することができる遊星歯車機構5Cを提供することができる。
【0090】
(5)第5の態様に係る回転機械システム1は、(1)から(4)の何れか一つの遊星歯車機構5A~5Cと、前記第一軸58及び前記第二軸51の一方に連結された回転機械3と、を備える。
【0091】
この回転機械システム1は、内歯車56の遠心力による変形を有効に抑えことができる遊星歯車機構5A~5Cを備えることで、回転機械3を、高速回転に対応したものとすることができる。
【0092】
(6)第6の態様に係る回転機械システム1は、(5)の回転機械システム1であって、前記回転機械3は、前記第一軸58に連結された圧縮機3であり、前記第二軸51に連結され、前記圧縮機3を駆動する駆動機2をさらに備える。
【0093】
この回転機械システム1は、駆動機2の回転駆動力を、遊星歯車機構5A~5Cを介して圧縮機3に伝達する。このような構成において、内歯車56の遠心力による変形を有効に抑えことができる遊星歯車機構5A~5Cを備えることで、圧縮機3を高速回転に対応したものとすることができる。
【符号の説明】
【0094】
1…回転機械システム
2…駆動機
21…駆動軸
3…圧縮機(回転機械)
31…第一圧縮機
32…第二圧縮機
4…伝達機構
40…ケーシング
41…主軸
42…主歯車
43…主軸軸受
5A~5C…遊星歯車機構
5Ap…第一遊星歯車機構
5Aq…第二遊星歯車機構
51…副軸
51b…端部
52…副歯車
53…遊星歯車
54…遊星歯車軸
55…歯車支持部
55A…第一歯車支持部
55B…第二歯車支持部
56…内歯車
56c…筒状部
56d…円板状部
56g…内歯
56s…開口端
57…太陽歯車
58…太陽軸
58a…端部
58b…端部
61…第一軸受
62…第二軸受
70A~70C…補強部材
70f…繊維
701…第一補強部
702…第二補強部
703…第三補強部
711…第一補強部
712…第二補強部
713…第三補強部
Da…軸方向
Da1…第一側
Da2…第二側
Dc…周方向
Dr…径方向
Dri…内側
Dro…外側
Df…繊維方向
L1…領域
O…主軸線
O1…第一中心軸線(軸線)
O2…第二中心軸線(中心線)
T1…厚さ
T2…厚さ
T3…厚さ
a1…領域
a2…領域
a3…領域