(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050978
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】絶縁型DC/DCコンバータ
(51)【国際特許分類】
H02M 3/06 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
H02M3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161382
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】萩原 誠
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730AA15
5H730AS04
5H730AS05
5H730AS08
5H730BB21
5H730BB27
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5H730BB81
5H730DD03
5H730DD04
5H730DD16
5H730EE04
5H730FD01
5H730FD11
5H730FD21
5H730FD51
5H730FG05
5H730FG10
(57)【要約】
【課題】小型化または大容量化が可能な絶縁型の双方向DC/DCコンバータを提供する。
【解決手段】第1スイッチング素子S1は、第1絶縁用コンデンサC1の第1端と一次側正極端子P1の間に接続される。第2スイッチング素子S2は、第1絶縁用コンデンサC1の第2端と二次側負極端子P4の間に接続される。第1制御電流源110は、第1絶縁用コンデンサC1の第1端と第2絶縁用コンデンサの第1端の間に直列に接続される第1インダクタL1および少なくともひとつの第1ブリッジセル114を含む。各第1ブリッジセル114は直流コンデンサを含む。第2制御電流源120は、第1絶縁用コンデンサC1の第2端と第2絶縁用コンデンサC2の第2端の間に直列に接続される第2インダクタL2および少なくともひとつの第2ブリッジセル124を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側正極端子および一次側負極端子と、
二次側正極端子および二次側負極端子と、
第1端および第2端を有する第1絶縁用コンデンサと、
第1端および第2端を有する第2絶縁用コンデンサと、
前記第1絶縁用コンデンサの前記第1端と前記一次側正極端子の間、前記第2絶縁用コンデンサの前記第1端と前記一次側負極端子の間の一方に接続される第1スイッチング素子と、
前記第1絶縁用コンデンサの前記第2端と前記二次側負極端子の間、前記第2絶縁用コンデンサの前記第2端と前記二次側正極端子の一方に接続される第2スイッチング素子と、
前記第1絶縁用コンデンサの前記第1端と前記第2絶縁用コンデンサの前記第1端の間に直列に接続される第1インダクタおよび少なくともひとつの第1ブリッジセルを含み、各第1ブリッジセルは直流コンデンサを含む、第1制御電流源と、
前記第1絶縁用コンデンサの前記第2端と前記第2絶縁用コンデンサの前記第2端の間に直列に接続される第2インダクタおよび少なくともひとつの第2ブリッジセルを含み、各第2ブリッジセルは直流コンデンサを含む、第2制御電流源と、
前記第1スイッチング素子がオン、前記第2スイッチング素子がオフである第1状態と、前記第1スイッチング素子がオフ、前記第2スイッチング素子がオンである第2状態と、を交互に繰り返すとともに、前記少なくともひとつの第1ブリッジセルおよび前記少なくともひとつの第2ブリッジセルを制御するコントローラと、
を備えることを特徴とする絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項2】
前記第1絶縁用コンデンサの前記第1端と前記一次側正極端子の間、前記第2絶縁用コンデンサの前記第1端と前記一次側負極端子の間の他方に接続される第3スイッチング素子と、
前記第1絶縁用コンデンサの前記第2端と前記二次側負極端子の間、前記第2絶縁用コンデンサの前記第2端と前記二次側正極端子の他方に接続される第4スイッチング素子と、
をさらに備え、
前記コントローラは、
前記第1状態において前記第3スイッチング素子をオン、前記第4スイッチング素子をオフし、
前記第2状態において、前記第3スイッチング素子をオフ、前記第4スイッチング素子をオンすることを特徴とする請求項1に記載の絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記一次側正極端子と前記一次側負極端子の間の一次側電圧と、前記二次側正極端子と前記二次側負極端子の間の二次側電圧にもとづいて、前記第1状態と前記第2状態のデューティサイクルを制御するスイッチングコントローラを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記第1インダクタに流れる第1インダクタ電流がその指令値に近づくように、前記少なくともひとつの第1ブリッジセルの出力電圧それぞれをフィードバック制御する一次側コントローラを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項5】
前記一次側正極端子と前記一次側負極端子の間の電圧をVdc1、前記二次側正極端子と前記二次側負極端子の間の電圧をVdc2、前記第1絶縁用コンデンサの電圧をvC1、前記第2絶縁用コンデンサの電圧をvC2とするとき、
前記少なくともひとつの第1ブリッジセルの出力電圧それぞれの指令値は、前記第1状態においてVdc1、前記第2状態において-Vdc2+vC1+vC2であるフィードフォワード成分を含むことを特徴とする請求項4に記載の絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項6】
前記一次側コントローラは、
前記少なくともひとつの第1ブリッジセルそれぞれの直流コンデンサの電圧の平均値が所定の指令値に近づくように、前記第1インダクタ電流の前記指令値の交流成分を変化させることを特徴とする請求項4または5に記載の絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項7】
前記少なくともひとつの第1ブリッジセルは複数の第1ブリッジセルであり、
前記一次側コントローラは、複数のコンデンサ電圧バランサーを含み、
前記複数のコンデンサ電圧バランサーのそれぞれは、前記複数の第1ブリッジセルの対応するひとつの前記直流コンデンサの電圧が、前記複数の第1ブリッジセルそれぞれの直流コンデンサの電圧の平均値に近づくように、対応する第1ブリッジセルの出力電圧の指令値を補正することを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項8】
前記一次側コントローラは、
前記第1絶縁用コンデンサの電圧と前記第2絶縁用コンデンサの電圧の平均値がゼロに近づくように、前記第1インダクタ電流の前記指令値の直流成分を変化させることを特徴とする請求項4から7のいずれかに記載の絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項9】
前記コントローラは、前記第2インダクタに流れる第2インダクタ電流がその指令値に近づくように、前記少なくともひとつの第2ブリッジセルの出力電圧それぞれの指令値を生成する二次側コントローラを含むことを特徴とする請求項4から8のいずれかに記載の絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項10】
前記二次側コントローラは、前記一次側コントローラと同じ構成を有することを特徴とする請求項9に記載の絶縁型DC/DCコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁型DC/DCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道、電気自動車、電動航空機等の移動体、太陽光発電、次世代直流系統において、直流電圧を直流電圧に変換するDC/DCコンバータは重要な要素技術である。
【0003】
特許文献1や非特許文献1には、補助変換器を用いた双方向チョッパ回路が提案されている。この双方向チョッパ回路は、従来の双方向チョッパ回路(Buckコンバータ)に対応する主変換器と、主変換器のインダクタと直列に接続された補助変換器とを備える。補助変換器は、単相フルブリッジ変換器のカスケード接続により構成される。補助変換器を使用することで、それを使用しない従来の双方向チョッパと比較して、インダクタンスを1/50以下に低減できる。また、補助変換器が半導体直流遮断器としての機能を有するため低圧側直流遮断器を除去できる。
【0004】
一方、電気鉄道用DC/DCコンバータは、安全上の理由や信頼性向上の観点から直流電圧間の電気的絶縁が要求される場合がある。絶縁が要求される用途では、補助変換器を用いた双方向チョッパ回路を用いることができず、変圧器を用いたフライバックコンバータやフォワードコンバータなどが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】大西晴菜、萩原誠:「補助変換器を有する双方向チョッパの制御法と動作検証」、電気学会産業応用部門誌、vol.138、No.7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが変圧器を用いた絶縁型DC/DCコンバータでは、磁気エネルギーを介して電力授受を行うため、大容量化にともなって、磁気エネルギーが必然的に大きくなる。一般に変圧器の重量・体積は磁気エネルギーに比例するため、変圧器が大型化・高重量化するという問題がある。このため、フライバックコンバータの適用は数100W以下に限定されている。
【0008】
また、フライバックコンバータでは、磁気エネルギーを多く蓄える必要上、鉄心内部に空隙(ギャップ)を設ける必要がある。ギャップを設けることで効率的に磁気エネルギーを蓄積できる一方、ギャップに起因する漏れ磁束が増大する。漏れ磁束に蓄えられた磁気エネルギーはスイッチング素子に過電圧を引き起こす要因となり、システムの信頼性低下を引き起こす。
【0009】
まとめると、非絶縁型DC/DCコンバータである双方向チョッパ回路は、高圧化・大容量化が容易であり、特に補助変換器を適用することでインダクタの小型・軽量化を実現できるという利点があるが、直流電圧間の電気的絶縁は実現できないという問題がある。一方、絶縁型DC/DCコンバータの代表例であるフライバックコンバータは、磁気エネルギーを介して電力授受を行うため、大容量化が困難という問題が存在した。
【0010】
本開示はかかる状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、小型化または大容量化が可能な絶縁型の双方向DC/DCコンバータの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のある態様は、絶縁型DC/DCコンバータに関する。絶縁型DC/DCコンバータは、一次側正極端子および一次側負極端子と、二次側正極端子および二次側負極端子と、第1端および第2端を有する第1絶縁用コンデンサと、第1端および第2端を有する第2絶縁用コンデンサと、第1絶縁用コンデンサの第1端と一次側正極端子の間、第2絶縁用コンデンサの第1端と一次側負極端子の間の一方に接続される第1スイッチング素子と、第1絶縁用コンデンサの第2端と二次側負極端子の間、第2絶縁用コンデンサの第2端と二次側正極端子の一方に接続される第2スイッチング素子と、第1絶縁用コンデンサの第1端と第2絶縁用コンデンサの第1端の間に直列に接続される第1インダクタおよび少なくともひとつの第1ブリッジセルを含み、各第1ブリッジセルは直流コンデンサを含む、第1制御電流源と、第1絶縁用コンデンサの第2端と第2絶縁用コンデンサの第2端の間に直列に接続される第2インダクタおよび少なくともひとつの第2ブリッジセルを含み、各第2ブリッジセルは直流コンデンサを含む、第2制御電流源と、第1スイッチング素子がオン、第2スイッチング素子がオフである第1状態と、第1スイッチング素子がオフ、第2スイッチング素子がオンである第2状態と、を交互に繰り返すとともに、少なくともひとつの第1ブリッジセルおよび少なくともひとつの第2ブリッジセルを制御するコントローラと、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本開示のある態様によれば、絶縁型DC/DCコンバータを小型化または大容量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1に係る絶縁型DC/DCコンバータの回路図である。
【
図3】
図3(a)、(b)は、
図1の絶縁型DC/DCコンバータの動作を説明する図である。
【
図4】絶縁型DC/DCコンバータの動作波形を示す図である。
【
図5】絶縁型DC/DCコンバータのコントローラの構成例を示すブロック図である。
【
図6】一次側コントローラの構成例を示すブロック図である。
【
図7】直流コンデンサ電圧一括制御部のブロック図である。
【
図8】変換器電圧コントローラの構成例を示すブロック図である。
【
図9】コンデンサ電圧バランサーの構成例を示す図である。
【
図10】絶縁用コンデンサ電圧の直流分制御が組み込まれたインダクタ電流指令値生成部のブロック図である。
【
図11】シミュレーションに用いた回路定数を示す図である。
【
図12】一次側から二次側への電力送電時におけるシミュレーション波形を示す図である。
【
図13】二次側から一次側への電力送電時におけるシミュレーション波形を示す図である。
【
図14】電力潮流の向きを20msで反転させた場合のシミュレーション波形を示す図である。
【
図15】変形例1に係る絶縁型DC/DCコンバータの回路図である。
【
図16】変形例2に係る絶縁型DC/DCコンバータの回路図である。
【
図17】変形例3に係る絶縁型DC/DCコンバータの回路図である。
【
図18】
図18(a)~(c)は、変形例4に係る第1制御電流源を示す図である。
【
図19】変形例5に係る絶縁型DC/DCコンバータの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0015】
一実施形態に係る絶縁型DC/DCコンバータは、一次側正極端子および一次側負極端子と、二次側正極端子および二次側負極端子と、第1端および第2端を有する第1絶縁用コンデンサと、第1端および第2端を有する第2絶縁用コンデンサと、第1絶縁用コンデンサの第1端と一次側正極端子の間、第2絶縁用コンデンサの第1端と一次側負極端子の間の一方に接続される第1スイッチング素子と、第1絶縁用コンデンサの第2端と二次側負極端子の間、第2絶縁用コンデンサの第2端と二次側正極端子の一方に接続される第2スイッチング素子と、第1絶縁用コンデンサの第1端と第2絶縁用コンデンサの第1端の間に直列に接続される第1インダクタおよび少なくともひとつの第1ブリッジセルを含み、各第1ブリッジセルは直流コンデンサを含む、第1制御電流源と、第1絶縁用コンデンサの第2端と第2絶縁用コンデンサの第2端の間に直列に接続される第2インダクタおよび少なくともひとつの第2ブリッジセルを含み、各第2ブリッジセルは直流コンデンサを含む、第2制御電流源と、第1スイッチング素子がオン、第2スイッチング素子がオフである第1状態と、第1スイッチング素子がオフ、第2スイッチング素子がオンである第2状態と、を交互に繰り返すとともに、少なくともひとつの第1ブリッジセルおよび少なくともひとつの第2ブリッジセルを制御するコントローラと、を備える。
【0016】
この絶縁型DC/DCコンバータは絶縁用コンデンサを用いて電気的絶縁を実現する。その結果、変換器の小型・軽量化を実現できる。さらに、変圧器の損失と比較しコンデンサの損失は小さいため、高効率化が期待できる。
【0017】
また従来のフライバックコンバータは磁気エネルギーを介して直流電源間の電力授受を行うため、大容量電力変換に不向きであるが、この絶縁型DC/DCコンバータは、各セルの直流コンデンサに蓄えられる静電エネルギーを介して電力授受を行うため、大容量電力変換を実現できる。
【0018】
一実施形態において、各ブリッジセルに位相シフトPWM(Pulse-Width Modulation)を適用してもよい。これにより第1インダクタ、第2インダクタの小型化を実現できる。その結果、小型・軽量な電力変換器を実現することができるため、移動体に搭載する電力変換器としても最適である。
【0019】
一実施形態において、絶縁型DC/DCコンバータは、第1絶縁用コンデンサの第1端と一次側正極端子の間、第2絶縁用コンデンサの第1端と一次側負極端子の間の他方に接続される第3スイッチング素子と、第1絶縁用コンデンサの第2端と二次側負極端子の間、第2絶縁用コンデンサの第2端と二次側正極端子の他方に接続される第4スイッチング素子と、をさらに備えてもよい。コントローラは、第1状態において第3スイッチング素子をオン、第4スイッチング素子をオフし、第2状態において、第3スイッチング素子をオフ、第4スイッチング素子をオンしてもよい。
【0020】
一実施形態において、コントローラは、一次側正極端子と一次側負極端子の間の一次側電圧と、二次側正極端子と二次側負極端子の間の二次側電圧にもとづいて、第1状態と第2状態のデューティサイクルを制御するスイッチングコントローラを含んでもよい。
【0021】
一実施形態において、コントローラは、第1インダクタに流れる第1インダクタ電流がその指令値に近づくように、少なくともひとつの第1ブリッジセルそれぞれの出力電圧をフィードバック制御する一次側コントローラを含んでもよい。これにより電流制御(電力制御)を実現できる。
【0022】
一実施形態において、一次側正極端子と一次側負極端子の間の電圧をVdc1、二次側正極端子と二次側負極端子の間の電圧をVdc2、第1絶縁用コンデンサの電圧をvC1、第2絶縁用コンデンサの電圧をvC2とするとき、少なくともひとつの第1ブリッジセルの出力電圧それぞれの指令値は、第1状態においてVdc1、第2状態において-Vdc2+vC1+vC2であるフィードフォワード成分を含んでもよい。
【0023】
フィードフォワード項を追加することで、インダクタ電流に含まれる周波数のスイッチング周波数成分を除去できる。その結果、リップル電流とインダクタンスの大幅な低減が実現できる。
【0024】
一実施形態において、少なくともひとつの第1ブリッジセルは複数の第1ブリッジセルであってもよい。一次側コントローラは、複数のコンデンサ電圧バランサーを含んでもよい。複数のコンデンサ電圧バランサーのそれぞれは、複数の第1ブリッジセルの対応するひとつの直流コンデンサの電圧が、複数の第1ブリッジセルそれぞれの直流コンデンサの電圧の平均値に近づくように、対応する第1ブリッジセルの出力電圧の指令値を補正してもよい。
【0025】
これにより、複数の直流コンデンサの電圧を均一化できる。なお、「平均値」は合計値と等価であり、したがって、複数の値の平均値を制御することは、複数の値の合計値を制御することを含む。
【0026】
一実施形態において、一次側コントローラは、少なくともひとつの第1ブリッジセルそれぞれの直流コンデンサの電圧の平均値が所定の指令値に近づくように、第1インダクタ電流の指令値の交流成分を変化させてもよい。これにより、複数の直流コンデンサの電圧の合計電圧を安定化できる。
【0027】
一実施形態において、一次側コントローラは、第1絶縁用コンデンサの電圧と第2絶縁用コンデンサの電圧の平均値がゼロに近づくように、第1インダクタ電流の指令値の直流成分を変化させてもよい。
【0028】
一実施形態において、コントローラは、第2インダクタに流れる第2インダクタ電流がその指令値に近づくように、少なくともひとつの第2ブリッジセルの出力電圧それぞれの指令値を生成する二次側コントローラを含んでもよい。二次側コントローラは、一次側コントローラと同じ構成を有してもよい。
【0029】
(実施形態)
以下、好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施形態は、開示および発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示および発明の本質的なものであるとは限らない。
【0030】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0031】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に接続された(設けられた)状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0032】
また本明細書において、電圧信号、電流信号などの電気信号、あるいは抵抗、コンデンサなどの回路素子に付された符号は、必要に応じてそれぞれの電圧値、電流値、あるいは抵抗値、容量値を表すものとする。
【0033】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る絶縁型DC/DCコンバータ100の回路図である。絶縁型DC/DCコンバータ100には、一次側電源PS1と二次側電源PS2が接続される。絶縁型DC/DCコンバータ100は、一次側電源PS1からの電力を二次側電源PS2に単方向で伝送可能であり、あるいは一次側電源PS1と二次側電源PS2との間で双方向に電力を伝送可能である。一次側電源PS1の電圧を一次側直流電圧V
dc1、二次側電源PS2の電圧を二次側直流電圧V
dc2と称する。本明細書において、電気信号(電流信号や電圧信号)に付された小文字で始まる符号i
#、v
#は瞬時値量を表し、言い換えればその信号が絶縁型DC/DCコンバータ100のスイッチング動作に応じて変動することを表す。後述するように、絶縁型DC/DCコンバータ100は、V
dc1>V
dc2の条件でも動作可能であり、V
dc1<V
dc2の条件でも動作可能であるし、V
dc1=V
dc2の条件でも動作可能である。
【0034】
絶縁型DC/DCコンバータ100は、一次側入力102と二次側出力104を有する。上述のように、絶縁型DC/DCコンバータ100は双方向コンバータとして動作可能であるため、「入力」と「出力」の表記は便宜的なものである。一次側入力102は、一次側正極端子P1と一次側負極端子P2を有し、一次側正極端子P1と一次側負極端子P2の間には、一次側電源PS1が接続される。二次側出力104は、二次側正極端子P3と二次側負極端子P4を有し、二次側正極端子P3と二次側負極端子P4の間には、二次側電源PS2が接続される。
【0035】
絶縁型DC/DCコンバータ100は、第1絶縁用コンデンサC1、第2絶縁用コンデンサC2、複数のスイッチング素子S1~S4、第1制御電流源110、第2制御電流源120、コントローラ200を備える。
【0036】
第1絶縁用コンデンサC1および第2絶縁用コンデンサC2は、絶縁すべき一次側領域106と二次側領域108の境界に設けられる。第1絶縁用コンデンサC1および第2絶縁用コンデンサC2はそれぞれ、単一の部品(コンデンサ)で構成してもよいし、複数の部品(コンデンサ)を直列および/または並列に接続して構成してもよい。
【0037】
第1スイッチング素子S1は、一次側正極端子P1と第1絶縁用コンデンサC1の一次側の電極(端子)の間に接続され、第2スイッチング素子S2は、第1絶縁用コンデンサC1の二次側の電極(端子)と二次側負極端子P4の間に接続される。第1スイッチング素子S1は、一次側正極端子P1から第1絶縁用コンデンサC1に向かう電流を遮断できるように構成され、第2スイッチング素子S2は、第1絶縁用コンデンサC1から二次側負極端子P4に向かう電流を遮断できるように構成される。
【0038】
第3スイッチング素子S3は、一次側負極端子P2と第2絶縁用コンデンサC2の一次側の電極(端子)の間に接続され、第4スイッチング素子S4は、第2絶縁用コンデンサC2の二次側の電極(端子)と二次側正極端子P3の間に接続される。第3スイッチング素子S3は、第2絶縁用コンデンサC2から一次側負極端子P2に向かう電流を遮断できるように配置される。第4スイッチング素子S4は、二次側正極端子P3から第2絶縁用コンデンサC2に向かう電流を遮断できるように配置される。
【0039】
第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4は、単方向の電流が遮断可能なバルブデバイスであり、半導体スイッチ(パワートランジスタ)を用いることができる。たとえば、第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4はそれぞれ、並列に接続されたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)とフリーホイールダイオード(フライホイルダイオードあるいは還流ダイオードともいう)を含む逆導通IGBT(RC-IGBT)で構成してもよい。あるいは第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)で構成してもよい。MOSFETは、そのボディダイオードがフリーホイールダイオードとして機能する。
【0040】
さらに、第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4に対して並列に、過電圧抑制用スナバ回路を接続してもよい。ただし、
図1の絶縁型DC/DCコンバータ100は、磁気エネルギーを用いずに電力伝送を行うため、漏れインダクタンスに蓄積される磁気エネルギーは発生しない。その結果、スナバ回路の小型・軽量化が実現できる。
【0041】
第1制御電流源110は、第1絶縁用コンデンサC1の一次側電極と第2絶縁用コンデンサC2の一次側電極の間に接続される。第1制御電流源110は、第1インダクタL1と第1変換器112を含む。第1変換器112は、その両端間電圧(変換器電圧という)vaが調節可能であり、可変制御電圧源と把握することができる。これにより第1インダクタL1に流れるインダクタ電流iL1を制御可能となっている。インダクタ電流iL1は、第1絶縁用コンデンサC1の一次側電極から第2絶縁用コンデンサC2の一次側電極に向かう向きを正ととる。
【0042】
第1変換器112は半導体電力変換器であり、少なくともひとつ(N個、N≧1)のブリッジセル(単位セル)114_1~114_Nのカスケード接続で構成される。
【0043】
図2は、ブリッジセル114_jの構成例を示す回路図である。ブリッジセル114_jは、直流コンデンサC
jaと、トランジスタQ1~Q4からなるフルブリッジ回路115と、を含む単相フルブリッジ変換器である。直流コンデンサC
jaの両端間電圧v
Cjaを直流コンデンサ電圧と称する。またフルブリッジ回路115の出力間電圧をv
jaと表記し、セル電圧と称する。フルブリッジ回路115は、第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4よりも高速にスイッチングする。
【0044】
ブリッジセル114は、図示しないゲートドライバなどを含むが、公知技術であるため図示を省略している。また
図2ではブリッジセル114として単相フルブリッジ変換器を使用しているが、同様の機能を有する任意の半導体電力変換器を代用できる。またブリッジセル114のトランジスタQ1~Q4は、第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4と同様にRC-IGBTで構成することができるが、その限りでなく、MOSFETなどのその他のパワートランジスタで構成してもよい。
【0045】
図1に戻る。第2制御電流源120は、第1絶縁用コンデンサC1の二次側電極と第2絶縁用コンデンサC2の二次側電極の間に接続される。第2制御電流源120は、第2インダクタL2と第2変換器122を含み、第1制御電流源110と同様に構成され、インダクタ電流i
L2を生成する。インダクタ電流i
L2は、第1絶縁用コンデンサC1の二次側電極から第2絶縁用コンデンサC2の二次側電極に向かう向きを正ととる。なお、第1のインダクタL1と第2のインダクタL2は磁気的に結合した結合インダクタを用いて実装してもよい。
【0046】
第2変換器122は半導体電力変換器であり、複数N個(N≧2)の単位セル124_1~124_Nのカスケード接続で構成される。ブリッジセル124_jは、
図2のブリッジセル114と同様に構成され、直流コンデンサC
jbとフルブリッジ回路115を含む。
【0047】
図1に戻る。一次側負極端子P2と二次側負極端子P4はそれぞれ、安全上の観点から接地されることが想定される。
図1は負極端子P2,P4の両方を接地しても動作可能であり、片側のみを接地した場合も動作可能である。
【0048】
コントローラ200は、絶縁型DC/DCコンバータ100が目標とする状態となるように、第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4および第1変換器112、第2変換器122を制御する。
【0049】
具体的には、コントローラ200は、絶縁型DC/DCコンバータ100を二状態φ1とφ2で交互にスイッチングする。第1状態φ1では、第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4のうち、一次側のスイッチがオン、二次側のスイッチがオフであり、第2状態φ2では、第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4のうち、二次側のスイッチがオン、一次側のスイッチがオフである。
【0050】
第1状態φ1:
第1スイッチング素子S1 ON
第3スイッチング素子S3 ON
第2スイッチング素子S2 OFF
第4スイッチング素子S4 OFF
【0051】
第2状態φ2:
第1スイッチング素子S1 OFF
第3スイッチング素子S3 OFF
第2スイッチング素子S2 ON
第4スイッチング素子S4 ON
【0052】
第1状態φ1と第2状態φ2の間には、全スイッチング素子S1~S4がオフとなるデッドタイムを挿入することができる。
【0053】
またコントローラ200は、第1変換器112を制御し、インダクタL1に流れる電流iL1を安定化する。具体的には第1変換器112を構成するブリッジセル114のフルブリッジ回路115のスイッチング動作を制御することにより、インダクタ電流iL1を安定化する。同様にコントローラ200は、第2変換器122を制御し、インダクタL2に流れる電流iL2を安定化する。
【0054】
以上が絶縁型DC/DCコンバータ100の構成である。続いてその動作を説明する。
【0055】
図3(a)、(b)は、
図1の絶縁型DC/DCコンバータ100の動作を説明する図である。ここでは一次側入力102から二次側出力104への電力伝送を説明する。説明の簡潔化、理解の容易化のために、配線抵抗と配線インダクタンスは零とし、各ブリッジセルは理想的な制御電圧源として動作するものとする。即ち、各ブリッジセルが出力する高調波電圧は零と仮定する。このとき、可変制御電圧源とインダクタの組み合わせは、理想的な制御電流源として動作する。
【0056】
また、全スイッチング素子S1~S4は理想スイッチであるものとし、全スイッチング素子S1~S4オフとなるデッドタイムはゼロであるとする。
【0057】
図3(a)には、絶縁型DC/DCコンバータ100の第1状態φ1の等価回路が、
図3(b)には、絶縁型DC/DCコンバータ100の第2状態φ2の等価回路が示される。
【0058】
図3(a)の第1状態φ1では、二次側電源PS2が第1絶縁用コンデンサC1、第2絶縁用コンデンサC2から切り離され、二次側電源PS2に流れる電流i
dc2はゼロとなる。
図3(b)の第2状態φ2では、一次側電源PS1が第1絶縁用コンデンサC1、第2絶縁用コンデンサC2から切り離され、一次側電源PS1に流れる電流i
dc1はゼロとなる。つまり、第1状態φ1と第2状態φ2を交互に繰り返すことにより、一次側電源PS1と二次側電源PS2の電気的絶縁を確保することができる。
【0059】
図3(a)の第1状態φ1において、以下の電圧・電流方程式が成立する。
【数1】
なお、本動作期間は各ブリッジセルに使用するコンデンサが静電エネルギーを蓄積する都合上、式(1),(2)において、v
1>0,v
2>0の関係が成立する必要がある。
【0060】
図3(b)の第2状態φ2において、以下の電圧・電流方程式が成立する。
【数2】
なお、本動作期間は各ブリッジセルに使用するコンデンサが静電エネルギーを放出する都合上、式(6),(7)において、v
1<0,v
2<0の関係が成立する必要がある。以上より、バルブデバイスの状態に関わらず、絶縁用コンデンサC1,C2には常に共通の電流が流れる(i
C1=i
C2)。
【0061】
スイッチング素子S1,S3のオン時間をT
ON、オフ時間をT
OFF、デューティサイクル(スイッチング周期に対するオン時間の割合、通電率ともいう)をd=T
ON/(T
ON+T
OFF)とする。このとき、スイッチング素子S2,S4の通電率は1-dとなる。一次側電力の一周期平均値をP
dc1、二次側電力の一周期平均値をP
dc2とする。このとき、両者は式(11)で表される。
【数3】
ただしI
dc1,I
dc2は、i
dc1,i
dc2の一周期平均値を表す(I
dc1>0,I
dc2>0)。変換器損失が零の場合、定常時においてP
dc1=P
dc2の関係式が成立する。このとき、式(11)より式(12)の関係が導かれる。
【数4】
【0062】
式(12)を変形すると、式(12’)を得る。
【数5】
つまり、この絶縁型DC/DCコンバータ100によれば、デューティサイクルdに応じて、入力電圧V
dc1と出力電圧V
dc2の比(昇圧比/降圧比)を制御することができる。具体的にはd=0のとき、v
dc2=0であり、0<d<0.5の範囲において、V
dc2=0~V
dc1となり降圧動作が可能であり、0.5<d<1の範囲において、V
dc2>V
dc1となり、昇圧動作が可能となる。
【0063】
コンデンサ電圧v
C1,v
C2に含まれる直流分を一定とするため、コンデンサ電流i
C1,i
C2の一周期平均値は零である必要がある。このとき、式(4),(9),(12)より、式(13)が成立する必要がある。
【数6】
【0064】
式(11)~(13)より、P
dc1とP
dc2は式(14)に変形できる。
【数7】
【0065】
式(14)より、iL1とiL2とを適切に制御することで電力制御を実現できる。
【0066】
コンデンサ電圧v
C1,v
C2に着目すると、スイッチング素子S1,S3がオン、S2,S4がオフである第1状態φ1において、式(4)から、以下の回路方程式が成立する。
【数8】
したがって、i
L2が直流量I
L2の場合、傾きI
L2/C1、もしくはI
L2/C2で一次関数的に増加する。
【0067】
一方、スイッチング素子S1,S3がオフ、S2,S4がオンである第2状態φ2において、式(9)より以下の回路方程式が成立する。
【数9】
したがって、i
L1が直流量I
L1の場合、傾き-I
L1/C1、もしくは-I
L1/C2で一次関数的に減少する。前述の式(13)が成立する場合、増加量と減少量は等しくなり、直流コンデンサ電圧v
C1,v
C2の直流分は一定に保たれる。
【0068】
一方、仮にiL2を式(13)で与えられる値よりも大きくすると、増加量の方が減少量よりも多くなる。その結果、vC1,vC2に含まれる直流分は増加する。一方、iL2を式(13)で与えられる値よりも小さくすると、減少量の方が増加量よりも多くなる。その結果、vC1,vC2に含まれる直流分は減少する。上記特性は、vC1とvC2の算術平均値に含まれる直流量の制御に利用できる。
【0069】
変換器電圧v
a,v
bに着目すると、第1状態φ1において、インダクタL1,L2における電圧降下が零の場合、式(17)で表せる。
【数10】
【0070】
第1変換器112,122に流入する瞬時電力は、それぞれ、vaiL1,vbiL2で与えられる。前述の仮定(v1>0,v2>0,iL1>0,iL2>0)より両電力とも正となる。したがって、一次側電源PS1(Vdc1)から各変換器112,122に電力が伝達され、伝達された電力は静電エネルギーとして、各ブリッジセル114_j,124_j(j=1~N)の直流コンデンサCja,Cjbに蓄積される。
【0071】
次に、第2状態φ2において、インダクタL1,L2における電圧降下が零の場合、変換器電圧v
a,v
bは式(18)で表せる。
【数11】
【0072】
各変換器112,122に流入する瞬時電力は、それぞれ、vaiL1,vbiL2で与えられる。前述の仮定(v1<0,v2<0,iL1>0,iL2>0)より両電力とも負となる。したがって、各ブリッジセル114_j,124_j(j=1~N)の直流コンデンサCja,Cjbに蓄積された静電エネルギーを放出することで、各変換器112,122から二次側電源PS2(Vdc2)に電力が伝達される。
【0073】
以上を要するに、第1状態φ1において第1変換器112、第2変換器122それぞれの直流コンデンサC
ja,C
jbに電力が流入し、静電エネルギーを蓄積する。一方、第2状態φ2において、各コンデンサC
ja,C
jbから電力が流出し、静電エネルギーを放出する。即ち、
図1の絶縁型DC/DCコンバータ100では、静電エネルギーを介して電力授受を行う点で、従来のコンバータと異なっている。
【0074】
また、
図1において絶縁用コンデンサは電気的絶縁のみを目的としており、回路動作時の耐圧はバルブデバイス(スイッチング素子S1~S4)により確保される点に留意する必要がある。
【0075】
図4は、絶縁型DC/DCコンバータ100の動作波形を示す図である。ここでは、V
dc1=V
dc2=V
dc,i
L1=i
L2=I
dc(>0),C1=C2としている。このときのデューティサイクルdは0.5である。v
a,v
b,i
L1,i
L2に着目すると、v
a,v
bが交流分のみであるのに対して、i
L1,i
L2は直流分のみである。したがって、変換器112,122に流入する瞬時電力(v
ai
L1,v
bi
L2)も交流分のみとなる。その結果、各ブリッジセル114,124には交流電力のみ供給され、定常的な直流電力は発生しない。したがって、直流コンデンサ電圧v
Cja,v
Cjbの直流分を一定値に保つことができる。
【0076】
以上が絶縁型DC/DCコンバータ100の動作である。続いてその利点を説明する。
【0077】
絶縁型DC/DCコンバータ100は、従来の双方向コンバータに比べて以下の利点を有する。すなわち従来の双方向コンバータでは、直流電圧間の電気的絶縁を実現できないのに対して、本実施形態では、電気的絶縁を実現できる。その結果、より安全で信頼性の高い電力変換器を実現できる。
【0078】
また絶縁型DC/DCコンバータ100は、フライバックコンバータに比べて以下の利点を有する。すなわち、フライバックコンバータは変圧器を用いて電気的絶縁を実現するのに対して、絶縁型DC/DCコンバータ100は絶縁用コンデンサC1,C2を用いて電気的絶縁を実現する。その結果、変換器の小型・軽量化を実現できる。さらに、変圧器の損失と比較しコンデンサの損失は小さいため、高効率化が期待できる。
【0079】
またフライバックコンバータは磁気エネルギーを介して直流電源間の電力授受を行うため、大容量電力変換に不向きである。一方、本実施形態では、各セルの直流コンデンサに蓄えられる静電エネルギーを介して電力授受を行うため、大容量電力変換を実現できる。
【0080】
また、各ブリッジセルに位相シフトPWM(Pulse-Width Modulation)を適用することが可能であり、これによりインダクタL1,L2の小型化を実現できる。その結果、小型・軽量な電力変換器を実現することができるため、移動体に搭載する電力変換器としても最適である。
【0081】
フライバックコンバータでは、フィードバック制御によりインダクタ電流を制御することは難しいが、本実施形態では、容易にフィードバック制御を適用できる。その結果、高性能でロバストな電力変換器を実現できる。
【0082】
続いて、コントローラ200による絶縁型DC/DCコンバータ100の具体的な制御について説明する。
【0083】
図5は、絶縁型DC/DCコンバータ100のコントローラ200の構成例を示すブロック図である。このコントローラ200は、一次側と二次側の電力P
dc1,P
dc2を制御対象とし、それらをフィードバック制御によって指令値に近づける。一次側電源PS1と二次側電源PS2の電圧V
dc1,V
dc2それぞれが一定と見なせる場合、電力P
dc1,P
dc2を制御することは、電流i
dc1,i
dc2を制御することに他ならない。つまりコントローラ200は、メジャーループにおいて、一次側電流i
dc1と二次側電流i
dc2をそれぞれの指令値に近づけるフィードバック制御を行う。以下の例では、インダクタ電流i
L1がその指令値i
*
L1に近づき、インダクタ電流i
L2がその指令値i
*
L2に近づくように、フィードバックループが構成される。
【0084】
すなわち、コントローラ200は、以下の2つの機能を有する。
・デューティサイクル制御
・インダクタ電流制御(電力制御)
【0085】
コントローラ200は、主として、スイッチングコントローラ202、一次側コントローラ204、二次側コントローラ206およびセンサ群208を備える。センサ群208は、制御に必要な電気信号(電圧信号や電流信号)を検出し、デジタル値に変換する。
【0086】
コントローラ200の機能は、ソフトウェア処理で実現してもよいし、ハードウェア処理で実現してもよいし、ソフトウェア処理とハードウェア処理の組み合わせで実現してもよい。ソフトウェア処理は、具体的には、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)、マイコンなどのプロセッサ(ハードウェア)と、プロセッサ(ハードウェア)が実行するソフトウェアプログラムの組み合わせで実装される。ハードウェア処理は具体的には、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やコントローラIC、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアで実装される。ハードウェア処理の場合、デジタル回路やアナログ回路、アナログデジタル混載回路で実装することができる。
【0087】
デューティサイクル制御に関して、スイッチングコントローラ202が設けられる。スイッチングコントローラ202は、第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4を制御する。上述のように、デューティサイクルdは、一次側電圧Vdc1と二次側電圧Vdc2にもとづいて式(12)から定まる。本実施形態では、式(12)で定まるデューティサイクルdで、第1状態φ1、第2状態φ2をスイッチングし、各状態に応じたオン、オフの制御信号を、第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4に出力する。たとえば第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4のオン、オフ状態は、一般的な三角波比較法より決定することができる。すなわち三角波やのこぎり波(最小値:0、最大値:1)とデューティサイクルdの比較より決定することができる。
【0088】
上述のように、デューティサイクルdは、式(12)で与えられる。その際、検出した瞬時直流電圧Vdc1,Vdc2を使用する。なお、スイッチング素子S1,S3のペアと、S2,S4のペアは相補動作を行う。即ち、S1,S3がオンの場合S2,S4はオフとし、S1,S3がオフの場合S2,S4はオンとする。
【0089】
インダクタ電流制御(電力制御)に関連して、一次側コントローラ204および二次側コントローラ206が設けられる。
【0090】
一次側コントローラ204は、インダクタL1に流れる電流iL1がその指令値i*
L1に近づくように、第1変換器112を制御する。具体的には第1変換器112を構成する複数のブリッジセル114_1~114_Nそれぞれのフルブリッジ回路115を制御するためのPWM信号PWM1a~PWMNaを生成し、スイッチング動作を制御することにより、各ブリッジセル114のセル電圧v1a~vNaひいてはそれらの合計である変換器電圧vaを変化させ、これによりインダクタ電流iL1を安定化する。
【0091】
同様に、二次側コントローラ206は、インダクタL2に流れる電流iL2がその指令値i*
L2に近づくように、第2変換器122を制御する。具体的には第2変換器122を構成する複数のブリッジセル124_1~124_Nそれぞれのフルブリッジ回路115のスイッチング動作を制御するためのPWM信号PWM1b~PWMNbを生成し、各ブリッジセル124のセル電圧v1b~vNbひいてはそれらの合計である変換器電圧vbを変化させ、これによりインダクタ電流iL2を安定化する。二次側コントローラ206は、一次側コントローラ204と同様に構成される。
【0092】
図6は、一次側コントローラ204の構成例を示すブロック図である。一次側コントローラ204は、変換器電圧コントローラ210と、複数のブリッジコントローラ220_1~220_Nを含む。変換器電圧コントローラ210は、インダクタ電流コントローラ212およびインダクタ電流指令値生成部230を含む。インダクタ電流指令値生成部230は、所望の電力が得られるように、インダクタ電流指令値i
*
L1を生成する。インダクタ電流コントローラ212は、インダクタL1に流れる電流i
L1の検出値と、その指令値i
*
L1を受け、それらの誤差がゼロに近づくように、複数のセル電圧v
1a~v
Naの指令値v
*
1a~v
*
Naを生成する。
【0093】
j番目のブリッジコントローラ220_jは、対応する直流コンデンサCjaの直流電圧の検出値vCjaと、セル電圧の指令値v*
jaを受ける。ブリッジコントローラ220_jはデューティサイクル演算部222およびPWM変調器224を含む。
【0094】
デューティサイクル演算部222は、v*
jaをvCjaで正規化することにより、位相シフトPWM制御のデューティサイクル(位相シフト量、あるいはオーバーラップ量)djaを算出する。PWM変調器224は、デューティサイクルdjaにもとづいてキャリア周波数fSAを有するPWM信号PWMjaを生成し、ブリッジセル114_jを制御する。
【0095】
以上がコントローラ200の構成例である。続いて、コントローラ200の好ましい制御および構成を説明する。
【0096】
コントローラ200は、上述したデューティサイクル制御およびインダクタ電流制御(電力制御)に加えて、以下の制御を付加的に行うことが好ましい。
【0097】
・直流コンデンサ電圧制御
図1における各ブリッジセル114,124の動作に着目すると、スイッチング素子S1,S3がオンである第1状態φ1において、一次側電源PS1から電力を吸収する。またスイッチング素子S2,S4がオンである第2状態φ2において二次側電源PS2に電力を放出する。各ブリッジセル114,124に流出入する電力の一周期平均値は零となり、定常的な直流電力は発生しないため、直流コンデンサ電圧v
Cja,v
Cjbの直流分は理想的には変動しない。しかし、実際は過渡変動や変換器112,122の損失の影響で変動するため、直流コンデンサ電圧制御を適用する必要がある。
【0098】
ここで、直流コンデンサ電圧制御は、2つの処理の組み合わせで行うことができる。
・直流コンデンサ電圧の一括制御
・直流コンデンサ電圧のバランス制御
【0099】
前者は、複数の直流コンデンサ電圧vC1a~vCNaの平均値vCa_ave(二次側ではvC1b~vCNbの平均値vCb_ave)を制御するのに対して、後者は、複数の直流コンデンサ電圧vC1a~vCNaのばらつきを解消する。
【0100】
・直流コンデンサ電圧一括制御
実際の変換器112,114では、過渡変動や変換器損失の影響で直流コンデンサ電圧v
C1a~v
CNa,v
C1b~v
CNbは変動するため、直流コンデンサ電圧一括制御を適用することが好ましい。直流コンデンサ電圧一括制御は、式(19)で与えられる直流コンデンサ電圧の算術平均値v
Ca_ave,v
Cb_aveを制御することを主目的とする。
【数12】
【0101】
直流コンデンサ電圧一括制御は、インダクタ電流の交流成分を利用することで実現することができる。
図4に示すv
a,v
bは方形波状の電圧波形となるが、基本波周波数は第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4のキャリア周波数f
SMと等しい。インダクタ電流i
L1,i
L2の交流成分を利用した直流コンデンサ電圧制御法は、インダクタ電流i
L1,i
L2に周波数f
SMの正弦波状交流成分を重畳し、その振幅を制御することで、直流コンデンサ電圧一括制御を実現する。
【0102】
図7は、直流コンデンサ電圧一括制御部240のブロック図である。なお、ここでは一次側コントローラ204側の制御について説明するが、二次側についても同様である。
【0103】
直流コンデンサ電圧一括制御部240は、インダクタ電流指令値生成部230に組み込まれる。インダクタ電流指令値生成部230において、インダクタ電流iL1の指令値i*
L1は、直流成分i*
L1_dcと交流成分i*
L1_acに分けられており、直流コンデンサ電圧一括制御部240は、交流成分の指令値i*
L1_acを変化させることで、直流コンデンサ電圧一括制御を行う。
【0104】
インダクタ電流指令値生成部230は、直流コンデンサ電圧一括制御部240および加算器232を含む。
【0105】
直流コンデンサ電圧一括制御部240は、直流コンデンサ電圧vC1a~vCNaの検出値の平均値vCa_aveが、その指令値v*
Cに近づくように、交流成分の指令値i*
L1_acをフィードバック制御する。
【0106】
直流コンデンサ電圧一括制御部240は、平均値演算部242、誤差検出器244、PIコントローラ246、振幅変調器248を含む。平均値演算部242は、複数の直流コンデンサ電圧vC1a~vCNaの検出値の算術平均値vCa_aveを演算する。
【0107】
誤差検出器244は、直流コンデンサ電圧の指令値(目標値)v*
Cと、複数の直流コンデンサの直流電圧の算術平均値vCa_aveとの差分を演算し、誤差を生成する。PIコントローラ246は、誤差検出器244が生成する誤差を比例・積分演算する。振幅変調器248は、正弦波sin(2πfSMt)を、PIコントローラ246の出力で振幅変調する。正弦波sin(2πfSMt)は、vaに含まれる基本波成分と同相成分を表す。振幅変調器248の出力は、インダクタ電流制御(電力制御)におけるインダクタL1の電流iL1(インダクタL2の電流iL2)交流成分の指令値(目標値)i*
L1_acとなる。
【0108】
加算器232は、直流成分の指令値(目標値)i*
L1_dcに、交流成分の指令値(目標値)i*
L1_acを重畳(加算)する。直流成分i*
L1_dcによって電力が制御され、交流成分i*
L1_acにより、直流コンデンサ電圧が制御される。
【0109】
仮にv*
C>vCa_aveの場合、i*
L1_acはvaに含まれる基本波成分と同相となる。その結果、vaとインダクタ電流iL1は正の有効電力を形成し変換器112に有効電力が流入し、直流コンデンサ電圧vC1a~vCNaは増加する。一方、v*
C<vCa_aveの場合、i*
L1_acはvaに含まれる基本波成分と逆相となる。その結果、vaとインダクタ電流iL1は負の有効電力を形成し、直流コンデンサ電圧vC1a~vCNaは減少する。上記特性を利用することで、直流コンデンサ電圧を制御できる。
【0110】
第2変換器122側についても同様である。
【0111】
なお、平均電圧vCa_ave(vCb_ave)には、スイッチング素子S1,S3(S2,S4)のスイッチング周波数と等しい三角波状の交流電圧(リップル)が発生する。交流電圧は制御系の外乱となるため、制御系に取り込む際に除去する必要がある。交流電圧除去は、ローパスフィルタや移動平均フィルタを適用することで実現できる。
【0112】
・直流コンデンサ電圧バランス制御
上述の直流コンデンサ電圧一括制御では、複数の直流コンデンサ電圧の平均値が安定化されるが、直流コンデンサ電圧にアンバランスが生じうる。このアンバランスを解消するために直流コンデンサ電圧バランス制御が導入される。
【0113】
直流コンデンサ電圧バランス制御で、各ブリッジセルの出力電圧(セル電圧)v*
jaとインダクタ電流iL1の間で有効電力を形成することで電圧バランスを実現する。その際、インダクタ電流iL1の極性に応じて電圧指令値の極性を変化させる点に留意する必要がある。
【0114】
図8は、変換器電圧コントローラ210の構成例を示すブロック図である。上述のように変換器電圧コントローラ210は、複数のブリッジセル114のセル電圧の指令値v
*
1a~v
*
Naを生成する。直流コンデンサ電圧バランス制御は、変換器電圧コントローラ210に組み込むことができる。
【0115】
変換器電圧コントローラ210は、上述のようにインダクタ電流コントローラ212を含む。インダクタ電流コントローラ212は、上述のインダクタ電流制御(電力制御)を行う。インダクタ電流コントローラ212は、誤差検出器212aおよびPIコントローラ212bを含む。
【0116】
フィードフォワードコントローラ214は、インダクタ電流制御にもとづく電圧項v
*
FBaに加えて、式(20)で与えられるフィードフォワード電圧指令値v
*
FFaを生成する。2つの電圧指令値v
*
FBa,v
*
FFaは、加算器216によって加算され、変換器電圧v
aの指令値v
*
aが生成される。
【数13】
フィードフォワード項を追加することで、インダクタ電流i
L1に含まれる周波数f
SMのスイッチング周波数成分を除去できる。その結果、リップル電流とインダクタンスの大幅な低減が実現できる。
【0117】
変換器電圧指令値v*
aは、除算器218において1/N倍される。これは、ブリッジセル114ひとつ当たりのセル電圧の指令値に相当する。
【0118】
直流コンデンサ電圧バランス制御のために、コンデンサ電圧バランサー250_1~250_Nが設けられる。j番目のコンデンサ電圧バランサー250_jは、対応するj番目の直流コンデンサ電圧vCjaと、複数の直流コンデンサ電圧vC1a~vCNaの平均値vCa_aveとの誤差が小さくなるように、セル電圧の指令値v*
jaを補正する。
【0119】
図9は、コンデンサ電圧バランサー250の構成例を示す図である。コンデンサ電圧バランサー250_jは、誤差検出器252、PIコントローラ254、極性反転器256、加算器258を備える。誤差検出器252は、対応するj番目の直流コンデンサ電圧v
Cjaと、直流コンデンサ電圧v
C1a~v
CNaの平均値v
Ca_aveとの誤差を算出する。PIコントローラ254は、誤差検出器252が生成する誤差を比例・積分演算する。極性反転器256は、i
L1>0のときにPIコントローラ254の出力をそのまま出力し、i
L1<0のときにPIコントローラ254の出力の極性(符号)を反転する。加算器258は、v
*
a/Nに、極性反転器256の出力を加算する。
【0120】
・絶縁用コンデンサ電圧の直流分制御
コントローラ200は、上述したデューティサイクル制御およびインダクタ電流制御(電力制御)に加えて、絶縁用コンデンサ電圧vC1,vC2の直流分制御を付加的に行うことが好ましい。絶縁用コンデンサ電圧vC1,vC2の直流分制御は、インダクタ電流指令値生成部230に組み込むことができる。
【0121】
図10は、絶縁用コンデンサ電圧の直流分制御が組み込まれたインダクタ電流指令値生成部230Eのブロック図である。インダクタ電流指令値生成部230Eは、絶縁用コンデンサ電圧制御部260を備える。
【0122】
前述の通り各絶縁用コンデンサC1,C2に流れる電流は共通であるためv
C1,v
C2を独立に制御することはできない。そこで絶縁用コンデンサ電圧制御部260は、式(21)で与える算術平均値v
C_aveを制御する。
【数14】
【0123】
図4の理想波形にて示した通り、v
C1とv
C2には、スイッチング周波数f
SMと等しい三角波状の交流電圧(リップル)が発生する。交流電圧(リップル)は制御系の外乱となるため、制御系に取り込む際に除去する必要がある。交流電圧除去は、ローパスフィルタや移動平均フィルタを適用することで実現できる。
【0124】
前述の通り、i
L2もしくはi
L1に含まれる直流分を調整することでv
C_aveに含まれる直流分を可変できる。したがって、
図8における直流電流指令値i
*
L1_dc、もしくはi
*
L2_dcを、v
C_aveを零とするような電圧フィードバック制御から決定することで、v
c_aveを零にできる。
【0125】
なお、vc_aveは制御により零に抑制できるが、仮にvC1とvC2に含まれる直流分にばらつきがあった場合、vc_aveを制御により零にすることはできない。vC1とvC2の直流分のばらつきは主に静電容量C1、C2の個体差に起因して、主に過渡時に発生する恐れがある。一方、コンデンサには誘電体損失が存在し、上記はコンデンサと並列に絶縁抵抗を配置することで一般に模擬する。上記絶縁抵抗により直流分のばらつきは最終的に零になる。
【0126】
絶縁用コンデンサ電圧制御部260は、平均値演算部262、誤差検出器264、PIコントローラ266を含む。平均値演算部262は、2つの絶縁用コンデンサC1,C2の電圧vC1,vC2の平均値vC_aveを算出する。誤差検出器264は、平均値vC_aveと、その目標値である零(0)との差分を算出する。PIコントローラ266は、誤差を増幅し、インダクタ電流iL1の直流分の補正量iL1_dc_cmpを生成する。加算器234は、インダクタ電流iL1の直流分の指令値i*
L1_dcに補正量iL1_dc_cmpを加算する。加算器232と234は1個にまとめてもよい。
【0127】
以上がコントローラ200による電力制御である。
【0128】
続いてシミュレーション結果を説明する。シミュレーションには「PSCAD/EMTDC」を使用した。
図11は、シミュレーションに用いた回路定数を示す図である。
【0129】
ブリッジセル数Nは3とした。直流電圧はVdc1=1kV,Vdc2=1kVとし、各コンデンサ電圧vC1,vC2は0.4kVとした。スイッチング素子S1~S4のキャリア周波数fSMは450Hzとし、各ブリッジセルのキャリア周波数fSAは1800Hzとした。各ブリッジセルには位相シフトPWMを適用しているため、変換器112,122の等価キャリア周波数は10.8kHz(=2×N×fSA)となる。
【0130】
シミュレーションは原理確認が目的のため、理想状態を想定している。即ち制御遅延が零のアナログ制御系を仮定し、デッドタイムが零の理想スイッチを使用する。
【0131】
図12は、一次側から二次側への電力送電時におけるシミュレーション波形を示す図である。ただし、インダクタ電流直流分の指令値i
*
L1_dc=i
*
L2_dc=150[A]とした。
図8の制御系を適用することで、インダクタ電流i
L1は指令値150Aに定常偏差なく追従する。一方、i
L1には10.8kHzのスイッチングリップル成分が存在するが、直流分に対して十分に小さい。デューティサイクルdは、表1の回路定数を式(12)に代入すると、0.5となる。
【0132】
一次側電流idc1に着目すると、第1状態φ1(S1=ON,S2=OFF)のとき、式(3)よりidc1=iL1+iL2=300[A]となる。一方、第2状態φ2(S1=OFF,S2=ON)の場合は、式(8)よりidc1=0となる。コンデンサ電流iC1に着目すると、第1状態φ1では、式(4)より、iC1=iL2=150[A]となる。一方、第2状態φ2では、式(9)より、iC1=-iL2=-150[A]となる。一次側電力の一周期平均値は式(14)よりP1=Vdc1iL1=1kV×150A=150[kW]となる。二次側電力の一周期平均値は同式より、P2=Vdc2iL2=1kV×150A=150[kW]となる。
【0133】
変換器電圧vaに着目すると、第1状態φ1では、式(17)より、va=Vdc1=1[kV]となる。一方、第2状態φ2では、式(18)よりva=-Vdc2+vC1+vC2となり、コンデンサ電圧vC1,vC2の影響を受ける。コンデンサ電圧vC1,vC2の影響を除外すると、vaは180度通電の方形波電圧と見なすことができ、周波数はfSMと等しい450Hzとなる。スイッチングに起因する10.8kHzの成分もvaに存在するが、450Hz成分と比較し十分に小さい。
【0134】
直流コンデンサ電圧vC1a,vC2a,vC3aに関しては直流分と交流分を含み、直流分は指令値400Vに良好に追従する。交流分に関しては、450Hzの三角波状交流波形となる。第1状態φ1に着目すると、直流コンデンサ電圧vC1a,vC2a,vC3aは一次関数的に増加する。これは、ブリッジセル114_1~114_3に電力が流入し、直流コンデンサC1a~C3aが静電エネルギーを蓄えていることを意味する。一方、第2状態φ2では、直流コンデンサ電圧vC1a,vC2a,vC3aが一次関数的に減少する。これは、ブリッジセル114_1~114_3から二次側に電力が流出し、直流コンデンサC1a~C3aが静電エネルギーを放出していることを意味する。コンデンサ電圧vC1a,vC2a,vC3aが最大値をとるときの静電エネルギーと、最小値をとるときの静電エネルギーの差分が、充放電する静電エネルギー量に相当する。
【0135】
図13は、二次側から一次側への電力送電時におけるシミュレーション波形を示す図である。ただし、インダクタ電流直流分の指令値i
*
L1_dc=i
*
L2_dc=-150[A]とした。デューティサイクルdは、
図12と同様に0.5となる。
【0136】
一次側電流i
dc1に着目すると、第1状態φ1では、式(3)より、i
dc1=i
L1+i
L2=-300[A]となる。一方、第2状態φ2では、式(8)よりi
dc1=0となる。コンデンサ電流i
C1に着目すると、第1状態φ1では、式(4)より、i
C1=i
L2=-150[A]となる。一方、第2状態φ2では、式(9)より、i
C1=-i
L1=150[A]となる。一次側電力の一周期平均値は式(14)よりP
1=V
dc1i
L1=1kV×(-150A)=-150[kW]となる。二次側電力の一周期平均値は同式より、P
2=V
dc2i
L2=1kV×(-150A)=-150[kW]となる。他の波形は、
図12と同様となる。
【0137】
図14は、電力潮流の向きを20msで反転させた場合のシミュレーション波形を示す図である。電力潮流を20msで高速に変化させた場合も、変換器112,122は過電圧・過電流を生じることなく良好に動作する。これは、
図1が高速な電流制御機能を有することを示している。
【0138】
上述した実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なことが当業者に理解される。以下、こうした変形例について説明する。
【0139】
(変形例1)
図15は、変形例1に係る絶縁型DC/DCコンバータ100Aの回路図である。上述のように、実施形態に係る絶縁型DC/DCコンバータ100は、負極端子P2,P4の両方を接地しても動作可能であり、片側のみを接地した場合も動作可能である。一次側負極端子P2と二次側負極端子P4の片側のみ接地した場合は、第1スイッチング素子S1と第3スイッチング素子S3の何れか一方を省略できる。同様に第2スイッチング素子S2と第4スイッチング素子S4の何れか一方を省略できる。
【0140】
変形例1では、第3スイッチング素子S3と第4スイッチング素子S4が省略されている。
【0141】
なお、一次側負極端子P2と二次側負極端子P4の両方を接地した場合は、接地点に流れる電流を零にする都合上、第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4の全てを配置する必要がある。
【0142】
(変形例2)
図1では、第1スイッチング素子S1~第4スイッチング素子S4として、単方向の電流遮断が可能な半導体バルブデバイスを用いたが、双方向の電流遮断が可能な半導体バルブデバイスを用いてもよい。
【0143】
図16は、変形例2に係る絶縁型DC/DCコンバータ100Bの回路図である。双方向の電流遮断が可能な半導体バルブデバイスは、単方向の電流遮断が可能な半導体バルブデバイスを2個互いに逆直列接続することで実現できる。
【0144】
(変形例3)
図17は、変形例3に係る絶縁型DC/DCコンバータ100Cの回路図である。変形例3においては、第1スイッチング素子S1と第4スイッチング素子S4が省略され、第2スイッチング素子S2と第3スイッチング素子S3が双方向の電流遮断が可能な半導体バルブデバイスで構成される。
【0145】
(変形例4)
図1の第1制御電流源110、第2制御電流源120において、インダクタL1,L2の配置は、
図1のそれに限定されない。
図18(a)~(c)は、変形例4に係る第1制御電流源110を示す図である。
図18(a)では、インダクタL1が、ブリッジセル114_1の上側に配置される。
図18(b)では、インダクタL1が、ブリッジセル114_Nの下側に配置される。
図18(c)では、インダクタL1がブリッジセルの間に配置される。
【0146】
(変形例5)
図19は、変形例5に係る絶縁型DC/DCコンバータ100Dの回路図である。絶縁型DC/DCコンバータ100Dは、
図1の絶縁型DC/DCコンバータ100を1ユニットとして、複数M個(M≧2)のユニットを並列に接続した構成を有する。
【0147】
コントローラ200の構成や制御は上述したそれに限定されない。以下、制御に関する変形例を説明する。
【0148】
(変形例6)
ブリッジセル114(124)の個数N,つまり直流コンデンサの個数Nが1である場合には、直流コンデンサ電圧のバランス制御は省略できる。また一次側のブリッジセル114の個数と、二次側のブリッジセル124の個数は異なっていてもよく、それらの個数は、一次側電圧Vdc1と二次側電圧Vdc2それぞれに基づいて決定すればよい。
【0149】
(変形例7)
実施形態では、コントローラ200による制御に関して、電流制御(電量制御)を説明したが、絶縁型DC/DCコンバータ100の動作モードはそれに限定されない。たとえば、絶縁型DC/DCコンバータ100の一次側電圧Vdc1または二次側電圧Vdc2が、所定の指令値に近づくように、フィードバックループを形成してもよい。たとえば、二次側電圧Vdc2をその指令値V*
dc2に安定化したい場合、第一変換器112のインダクタ電流の直流指令値i*
L1_dcと第二変換器122のインダクタ電流の直流指令値i*
L2_dcをフィードバック制御により決定してもよい。具体的には、i*
L1_dcとi*
L2_dcは共通な値とし、Vdc2およびV*
dc2の誤差をPIコントローラなどによって増幅し、PIコントローラの出力に応じて直流指令値を与えればよい。
【0150】
(変形例7)
コントローラ200は、ハードウェア(デジタル回路やアナログ回路)で実装してもよい。アナログ回路で実装する場合、誤差検出器とPIコントローラは、エラーアンプ(オペアンプ)に置換される。
【0151】
(用途)
本発明は、小型・軽量化・高性能性・電気的絶縁が強く要求される高圧・大容量DC/DCコンバータへの適用が期待されるが、特に以下に示す分野において好適に利用できる。
・電気鉄道、電気自動車・電動航空機等移動体用のDC/DCコンバータ
・太陽光発電用のDC/DCコンバータ
・次世代直流系統用のDC/DCコンバータ
【0152】
実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにさまざまな変形例が存在すること、またそうした変形例も本開示または本発明の範囲に含まれることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0153】
100 絶縁型DC/DCコンバータ
102 一次側入力
104 二次側出力
PS1 一次側電源
PS2 二次側電源
C1 第1絶縁用コンデンサ
C2 第2絶縁用コンデンサ
L1 第1インダクタ
L2 第2インダクタ
S1 第1スイッチング素子
S2 第2スイッチング素子
S3 第3スイッチング素子
S4 第4スイッチング素子
P1 一次側正極端子
P2 一次側負極端子
P3 二次側正極端子
P4 二次側負極端子
110 第1制御電流源
112 第1変換器
114 ブリッジセル
115 フルブリッジ回路
120 第2制御電流源
122 第2変換器
124 ブリッジセル
200 コントローラ
202 スイッチングコントローラ
204 一次側コントローラ
206 二次側コントローラ
208 センサ群
210 変換器電圧コントローラ
212 インダクタ電流コントローラ
212a 誤差検出器
212b PIコントローラ
220 ブリッジコントローラ
222 デューティサイクル演算部
224 PWM変調器
230 インダクタ電流指令値生成部
232 加算器
240 直流コンデンサ電圧一括制御部
242 平均値演算部
244 誤差検出器
246 PIコントローラ
248 振幅変調器
250 コンデンサ電圧バランサー
252 誤差検出器
254 PIコントローラ
256 極性反転器
258 加算器
260 絶縁用コンデンサ電圧制御部
262 平均値演算部
264 誤差検出器
266 PIコントローラ