(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050991
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】パーフルオロポリエーテルリン酸エステル及びこれを含有する表面処理組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 65/327 20060101AFI20230404BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230404BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20230404BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C08G65/327
C09K3/00 R
C09K3/18 102
C08L71/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161400
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市原 豊
【テーマコード(参考)】
4H020
4J002
4J005
【Fターム(参考)】
4H020AA04
4H020BA12
4J002CH05W
4J002CH05X
4J002GT00
4J005BD07
(57)【要約】
【課題】表面機能性、連続離型性に優れる新規なパーフルオロポリエーテルリン酸エステル及び該パーフルオロポリエーテルリン酸エステルを含有する表面処理組成物を提供する。
【解決手段】一般式(I)で表される、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物及び該直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物を含有する表面処理組成物。
【化1】
[式中、R
1は炭素数1~4の炭化水素基である。mは10~25である。nは10~25である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物。
【化1】
[式中、R
1は炭素数1~4の炭化水素基である。mは10~37である。nは10~37である。]
【請求項2】
請求項1に記載の直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物を含む、表面処理組成物。
【請求項3】
前記直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物の重量平均分子量が2,000~7,000の範囲である、請求項2に記載の表面処理組成物。
【請求項4】
式(II)で表される、分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物をさらに含む、請求項2又は3に記載の表面処理組成物。
【化2】
[式中、Rfは炭素数1~4のパーフルオロアルキル基である。Xはフルオロ基又はトリフルオロメチル基である。Yは炭素数1~10の2価の基である。pは10~25である。]
【請求項5】
前記直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物と前記分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物を質量比5:5~10:0の割合で含む、請求項4に記載の表面処理組成物。
【請求項6】
前記直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物と前記分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物の合計濃度が組成物全量に対して0.1~10質量%の範囲である、請求項4又は5に記載の表面処理組成物。
【請求項7】
請求項2~6のいずれか1項に記載の表面処理組成物を含む、離型剤。
【請求項8】
請求項2~6のいずれか1項に記載の表面処理組成物を含む、樹脂付着防止剤。
【請求項9】
請求項2~6のいずれか1項に記載の表面処理組成物を含む、撥液剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のパーフルオロポリエーテルリン酸エステル及びこれを含有する表面処理組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素リン酸エステルは、離型剤、撥液剤等として広く使用されている。例えば、特許文献1において、含フッ素リン酸エステルとして、1分子あたり1個のリン酸基と1~3個のパーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基を有する化合物が開示されている。また、特許文献2においてはパーフルオロポリエーテルのリン酸エステル化合物を用いて、金属、大理石などを処理し、撥液性の表面にする処理方法が記載されている。しかし、従来の含フッ素リン酸エステルでは、一回塗布での複数回離型(連続離型性)の性能が十分でなく、さらなる離型性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05-194560号公報
【特許文献2】特許第3574222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、離型性、樹脂付着防止性、撥液性等の表面機能性、連続離型性に優れる新規なパーフルオロポリエーテルリン酸エステル及び該パーフルオロポリエーテルリン酸エステルを含有する表面処理組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステルを用いると、良好な表面機能性、連続離型性等を示す表面処理組成物が得られることを見出した。
【0006】
本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものであり、以下に示す広い態様の発明を含むものである。
【0007】
[項1]
式(I)で表される、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物。
【化1】
[式中、R
1は炭素数1~4の炭化水素基である。mは10~37である。nは10~37である。]
【0008】
[項2]
項1に記載の直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物を含む、表面処理組成物。
【0009】
[項3]
前記直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物の重量平均分子量が2,000~7,000の範囲である、項2に記載の表面処理組成物。
【0010】
[項4]
式(II)で表される、分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物をさらに含む、項2又は3に記載の表面処理組成物。
【化2】
[式中、Rfは炭素数1~4のパーフルオロアルキル基である。Xはフルオロ基又はトリフルオロメチル基である。Yは炭素数1~10の2価の基である。pは10~25である。]
【0011】
[項5]
前記直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物と前記分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物を質量比5:5~10:0の割合で含む、項4に記載の表面処理組成物。
【0012】
[項6]
前記直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物と前記分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物の合計濃度が組成物全量に対して0.1~10質量%の範囲である、項4又は5に記載の表面処理組成物。
【0013】
[項7]
項2~6のいずれか1項に記載の表面処理組成物を含む、離型剤。
【0014】
[項8]
項2~6のいずれか1項に記載の表面処理組成物を含む、樹脂付着防止剤。
【0015】
[項9]
項2~6のいずれか1項に記載の表面処理組成物を含む、撥液剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明の新規なパーフルオロポリエーテルリン酸エステルを用いた表面処理組成物は、離型性、樹脂付着防止性、撥液性等の表面機能性に優れる。特に、離型剤として用いた場合、連続離型性に優れており、有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物>
本発明に係る直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物は、一般式(I)で表される化合物である。
【0018】
【0019】
[式中、R1は炭素数1~4の炭化水素基である。mは10~37である。nは10~37である。]
【0020】
R1は炭素数1~4の炭化水素基である。炭素数1~4の炭化水素基としては、炭素数1~4のアルキル基、アルケニル基等が挙げられる。好ましくはR1は炭素数1~4のアルキル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基である。
【0021】
mは10~37、好ましくは15~35、より好ましくは20~35、最も好ましくは25~35である。
【0022】
nは10~37、好ましくは15~35、より好ましくは20~35、最も好ましくは25~35である。
【0023】
一般式(I)で表される直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物は、重量平均分子量が2,000~7,000の範囲であり、好ましくは3,000~6,000の範囲であり、より好ましくは4,000~6,000の範囲であり、最も好ましくは5,000~6,000の範囲である。重量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー等、従来公知の方法で測定することができる。
【0024】
また、一般式(I)で表される直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物は、塩基性金属化合物、アミン化合物、アンモニア等と反応させることによって、金属塩、アミン塩、アンモニウム塩等を形成することができ、これらの塩も上記一般式(I)で表される直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物と同様の有用性を有する。金属塩の種類としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩等が挙げられる。金属塩を形成する金属原子としては、具体的には、Li、Na、K、Ca、Mg、Cu、Co、Ni、Zn、Mn、Fe、Pb、Hg、Zr等を例示できる。アミン塩又はアンモニウム塩を形成するアミン化合物又はアンモニアとしては、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ベンジルアミン、メチルベンジルアミン、ジメチルベンジルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピリジン等が挙げられる。
【0025】
一般式(I)で表される直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物の具体例としては、以下が挙げられるが、これに限定されない。
【0026】
【0027】
[式中、mは10~37である。nは10~37である。]
【0028】
【0029】
[式中、mは10~37である。nは10~37である。]
【0030】
【0031】
[式中、mは10~37である。nは10~37である。]
【0032】
【0033】
[式中、mは10~37である。nは10~37である。]
【0034】
<直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物の製造方法>
一般式(I)で表される直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物は、例えば以下の工程を含む方法により得ることができるが、これに限定されない;
(1)下記一般式(III)で表される直鎖パーフルオロポリエーテルジオールの一方の末端水酸基の水素原子を炭素数1~4の炭化水素基で置換する工程;
【0035】
【0036】
[式中、mは10~37である。nは10~37である。]
(2)一般式(III)で表される直鎖パーフルオロポリエーテルジオールのもう一方の末端水酸基をリン酸エステル化する工程。
【0037】
(1)下記一般式(III)で表される直鎖パーフルオロポリエーテルジオールの一方の末端水酸基の水素原子を炭素数1~4の炭化水素基で置換する工程
本工程において、水酸基の水素原子に置換する炭素数1~4の炭化水素基は、前記一般式(I)のR1に該当する基であり、前記一般式(I)において列挙されたものが用いられる。
【0038】
一般式(III)で表される直鎖パーフルオロポリエーテルジオールは、重量平均分子量が2,000~7,000の範囲であり、好ましくは3,000~6,000の範囲であり、より好ましくは4,000~6,000の範囲であり、最も好ましくは5,000~6,000の範囲である。重量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー等、従来公知の方法で測定することができる。
【0039】
なお、一般式(III)で表される直鎖パーフルオロポリエーテルジオールは、市販品として入手することもでき、また公知の方法により製造することもできる。市販品としては例えばFluorolink D-6000(ソルベイ社製)、Fluorolink D-4000(ソルベイ社製)等が使用可能である。また、一般式(III)で表される直鎖パーフルオロポリエーテルジオールは、特開2006-22334号公報等に開示されている方法に従って合成することもできる。
【0040】
一般式(III)で表される直鎖パーフルオロポリエーテルジオールの一方の末端水酸基の水素原子を炭素数1~4の炭化水素基で置換する方法については、公知の水酸基の置換方法を用いることができる。例えば、メチル基で置換する場合、直鎖パーフルオロポリエーテルジオールに対し、ヨードメタン等のメチル化剤、及び塩基(アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のtert-ブトキシド等)等を用いることで、得ることができる。
【0041】
(2)一般式(III)で表される直鎖パーフルオロポリエーテルジオールのもう一方の末端水酸基をリン酸エステル化する工程
工程(I)で得られた、直鎖パーフルオロポリエーテルジオールの一方の末端水酸基を炭素数1~4の炭化水素基で置換された生成物(モノオール)に対し、もう一方の末端水酸基をリン酸エステル化する方法についても、公知のリン酸エステル化の方法を用いることができる。例えば、五酸化二リン(P2O5)、塩化ホスホリル(POCl3)等を用いることで、得ることができる。五酸化二リン(P2O5)を用いてリン酸エステル化を行う場合には、モノオールに対し五酸化二リン(P2O5)を1.0~10当量用いて、60~80℃で3~10時間撹拌することにより反応を行うことができる。
【0042】
<表面処理組成物>
別の態様において、本発明の直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物を含む表面処理組成物を提供する。本発明の表面処理組成物は、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物を必須成分として含み、溶媒に溶解させた状態で通常用いられる。
【0043】
表面処理組成物において、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物の配合量は、表面処理組成物全量に対して通常0.1~10質量%であり、好ましくは0.1~5質量%であり、より好ましくは0.1~2質量%であり、最も好ましくは0.1~1質量%である。
【0044】
溶媒は、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物を溶解可能な溶媒であれば、特に限定されないが、例えばフッ素系溶媒が挙げられる。好ましいフッ素系溶媒としては、ハイドロフルオロエーテル、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボンが挙げられる。また、表面処理組成物の使用性の観点から、溶媒の沸点は50~140℃程度が好ましく、70~140℃程度のものがさらに好ましい。このような好ましい溶媒としては例えば市販品では、ガルデンSV-55、ガルデンSV-70、ガルデンSV-80、ガルデンSV-110、ガルデンSV-135(以上、ソルベイ社製)、ノベック-7100、ノベック-7200、ノベック-7300(以上、スリーエム社製)、フロリナートFC-40、フロリナートFC-72、フロリナートFC-770、フロリナートFC-3283(以上、スリーエム社製)等が挙げられる。溶媒は、1種単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【0045】
また、本発明の表面処理組成物において、さらに一般式(II)で表される分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物を含むことができる。
【0046】
【0047】
[式中、Rfは炭素数1~4のパーフルオロアルキル基である。Xはフルオロ基又はトリフルオロメチル基である。Yは炭素数1~10の2価の基である。pは10~25である。]
式(II)において、Rfは炭素数1~4のパーフルオロアルキル基であり、例えばトリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基等が挙げられる。
【0048】
Xはフルオロ基又はトリフルオロメチル基であり、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0049】
Yで表される炭素数1~10の2価の基としては、ヘテロ原子を含んでいてもよく、芳香族基、ヘテロ芳香族基、ヘテロ環基、脂肪族基、脂環式基であってもよい。具体的には、例えば以下の基が挙げられる。
【0050】
-(CH2)N1- (N1=1~10)
-A-(CH2)N2- (N2=1~5)
-B-(CH2)N3- (N3=1~5)
-CH2CH2(OCH2CH2)N4- (N4=1~4)
-BCO(OCH2CH2)N5- (N5=1~4)
(式中、Aは、-O-CO-、-CO-O-、-CONH-または-NHCO-を示す。Bは、炭素数1~3のアルキル基(メチル、エチル、プロピル)、炭素数1~4のアルコキシ基(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなど)、ハロゲン原子(F,Cl,Br,I)からなる群から選ばれる置換基を1~3個有していてもよいフェニレンを示す。)
好ましいYで表される炭素数1~10の2価の基としては、以下の構造の二価の基が挙げられる。
【0051】
-(CH2)N1- (N1=1~10)
-CONH-(CH2)N2- (N2=1~5)
-CO-O-(CH2)N2- (N2=1~5)
pは10~25、好ましくは12~20である。
【0052】
一般式(II)で表される分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物は、重量平均分子量が、重量平均分子量が2,000~4,000の範囲であり、好ましくは2,500~3,500の範囲である。重量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー等、従来公知の方法で測定することができる。
【0053】
一般式(II)で表される直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物の具体例としては、以下が挙げられるが、これに限定されない。
【0054】
【0055】
[式中、pは10~25である。]
【0056】
【0057】
[式中、pは10~25である。]
【0058】
【0059】
[式中、pは10~25である。]
【0060】
一般式(II)で表される分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物は、公知の方法により製造することができる。また、例えば一般式(IV)で表されるパーフルオロポリエーテルモノオールの水酸基をリン酸エステル化することにより得ることができる。
【0061】
【0062】
[式中、Rfは炭素数1~4のパーフルオロアルキル基である。Xはフルオロ基又はトリフルオロメチル基である。Yは炭素数1~10の2価の基である。pは10~25である。]
一般式(IV)において、Rf、X、Yは、上記一般式(II)と同様のものが用いられる。
【0063】
一般式(IV)で表されるパーフルオロポリエーテルモノオールは、重量平均分子量が2,000~4,000の範囲であり、好ましくは2,500~3,500の範囲である。重量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー等、従来公知の方法で測定することができる。
【0064】
一般式(IV)で表されるパーフルオロポリエーテルモノオールは、市販品として入手することもでき、また公知の方法により製造することもできる。一般式(III)で表されるパーフルオロポリエーテルモノオールは、米国特許公報3293306号等に開示されている方法に従って合成することもできる。
【0065】
また、一般式(III)で表されるパーフルオロポリエーテルモノオールの水酸基をリン酸エステル化する方法についても、公知の方法を用いることができる。例えば、五酸化二リン(P2O5)等を用いることで、得ることができる。
【0066】
本発明の表面処理組成物中に分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物をさらに含む場合において、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物と分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物は、質量比3:7~10:0の割合、好ましくは5:5~10:0の割合、特に好ましくは5:5~8:2で含む。
【0067】
本発明の表面処理組成物中に分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物をさらに含む場合において、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物及び分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物の合計配合量は、表面処理組成物全量に対して通常0.1~10質量%であり、好ましくは0.1~5質量%であり、より好ましくは0.1~2質量%であり、最も好ましくは0.1~1質量%である。
【0068】
分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物は、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物と比較して撥液性に優れるため、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物と分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物を組み合わせて表面処理組成物を調製することが好ましい。
【0069】
本発明の表面処理組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲内において、防錆剤、触媒、抗菌剤、難燃剤、界面活性剤、消泡剤、増粘剤、粘度調節剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、防腐剤、凍結防止剤、湿潤剤、pH調整剤、安定剤、防黴剤、耐光安定剤、耐候安定剤、中和剤、艶消し剤、乾燥促進剤、発泡剤、非粘着剤、劣化防止剤等を適宜配合してもよい。
【0070】
本発明の表面処理組成物は、離型剤、樹脂付着防止剤、撥液剤、フラックス這い上がり防止剤、防汚剤、防潤剤、オイルバリア剤として使用することができる。
【0071】
本発明の表面処理組成物を利用して離型される成形材料、又は樹脂付着防止用途の対象となる樹脂材料としては、特に限定されないが、例えば、ウレタンゴム、H-NBR、NBR、シリコーンゴム、EPDM、CR、NR、フッ素ゴム、SBR、BR、IIR及びIR等のゴムや、ウレタンフォーム、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂及びFRP(ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、カーボン繊維強化プラスチック(CFRP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP))等の熱硬化性樹脂等、やPP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PS(ポリスチレン)、PA(ポリアミド)、ポリエステル、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、 FRTP(ガラス繊維強化熱可塑性樹脂(GFRTP)、カーボン繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)、アラミド繊維強化熱可塑性樹脂(AFRTP))等の熱可塑性樹脂等、が挙げられる。特に、ウレタンフォーム、ポリウレタン、エポキシ樹脂などの樹脂用の金型の離型剤、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリエステルなどの樹脂用の樹脂付着防止剤として有用である。
【0072】
また、本発明の表面処理組成物が塗布される材料としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、SUS,鉄等の金属、PP、PE,エポキシ等の樹脂、ゴム、FRP(繊維強化プラスチック)、石膏性基材、木製基材、複合材料等が挙げられる。
【0073】
本発明の表面処理組成物は、例えば金型の離型剤として使用する場合は、金型表面に塗布し、乾燥させておくことにより使用することができる。塗布方法としては、特に制限されず、例えばスプレー塗布、刷毛塗布、ロールコーター塗布、ディッピング塗布などが挙げられる。乾燥方法としては風乾または加熱により溶媒を蒸発させて皮膜を形成する方法が挙げられる。金型に付着させる表面処理組成物中の不揮発成分の付着量は、一般的には0.01~10g/m2、好ましくは0.1~2g/m2であり、これによって、十分な離型性が得られる。
【実施例0074】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0075】
(使用材料)
Fluorolink D-6000:直鎖パーフルオロポリエーテルジオール(ソルベイ社製)
HOCH2CF2O-(CF2CF2O)m-(CF2O)n-CF2CH2OH(平均重量分子量6000、m, nは32程度。)
原料体1:分岐鎖パーフルオロポリエーテルモノオール
CF3CF2CF2O-[CF(CF3)CF2O]n-CF(CF3)CH2OH (平均重量分子量3000、nは16程度。)
HFE-7200:ハイドロフルオロエーテル系溶媒(スリーエム社製)
HFE-7300:ハイドロフルオロエーテル系溶媒(スリーエム社製)
ガルデンSV-135:パーフルオロポリエーテル系溶媒(ソルベイ社製、沸点135℃)
【0076】
(合成例1)直鎖パーフルオロポリエーテルジオールFluorolink D-6000のメチルエーテル化(末端水酸基の水素原子のメチル化)
スターラーを入れた30mlナスフラスコにtBuOK(1.3mmol, 0.146 g)、DMF(4.00 g)を秤量した。次に、ナスフラスコにFluorolink D-6000(1.0mmol, 6.00 g)、HFE-7200(6.00 g)を秤量した。反応液を室温で撹拌した。滴下ロートにCH3I(1.1mmol, 0.156 g)、DMF(2.00 g)を秤量した。ナスフラスコの反応液に滴下ロートからCH3I溶液を滴下した。滴下後、反応液を30℃で4時間撹拌した。反応液に1N-HCl水溶液を5 g入れ反応を停止した。下層が目的物であるので、上層の溶媒を除去した。純水を用いての洗浄工程を3回繰り返した。IPAを用いての洗浄工程を3回繰り返した。生成物をナスフラスコに入れ、減圧化乾燥することで溶媒を除去し、メチルエーテル1を収率95%、5.73 g合成した。得られたメチルエーテル1の1H-NMR及び19F-NMRは、以下の通りである。
メチルエーテル1
CH3OCH2CF2O-(CF2CF2O)m-(CF2O)n-CF2CH2OH(平均重量分子量6000)
1H-NMR (CDCl3):δ3.47 (s, 3H, CH
3
OCH2CF2ORf),3.67 (dd, J=9.19,16.39,2H, CH3OCH
2
CF2ORf), 3.84 (dd, J=9.19,16.39,2H, RfOCF2
CH
2
OH );
19F-NMR (CDCl3, C6F6;δ-163):δ -88.29 to -86.63 (m, 4nF, -(CF
2
CF
2
O)n-), -81.47 (m, 2F, CH3OCH2CF
2
-ORf), -79.49 (m, 2F, RfO-CF
2
CH2OH), -53.08 to -49.74 (m, 2nF, -(CF
2
O)n-)
【0077】
(合成例2)メチルエーテル1のリン酸エステル化による、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル2の合成
スターラーを入れた30mlナスフラスコにメチルエーテル1(0.917mmol, 5.50 g)、P2O5(7.33mmol, 1.04 g)、HFE-7300(22.0 g)を秤量した。反応液を70℃で5時間撹拌した。反応液に純水を10 g入れ反応を停止した。下層が目的物であるので、上層の溶媒を除去した。純水を用いての洗浄工程を3回繰り返した。IPAを用いての洗浄工程を3回繰り返した。生成物をナスフラスコに入れ、減圧化乾燥することで溶媒を除去し、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル2を収率96%、5.05 g合成した。得られた直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル2の1H-NMR及び19F-NMRは、以下の通りである。
直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル2
CH3OCH2CF2O-(CF2CF2O)m-(CF2O)n-CF2CH2OPO(OH)2(平均重量分子量6000)
1H-NMR (CDCl3):δ3.46 (s, 3H, CH
3
OCH2CF2ORf),3.67 (dd, J=9.19,16.39,2H, CH3OCH
2
CF2ORf), 4.31 (m,2H, RfOCF2CH
2
OP(O)(OH)2);
19F-NMR (CDCl3, C6F6;δ-163):δ -88.29 to -86.63 (m, 4nF, -(CF
2
CF
2
O)n-), -81.47 (m, 2F, CH3OCH2CF
2
-ORf), -78.51 (m, 2F, RfO-CF
2
CH2OP(O(OH)2), -53.08 to -49.74 (m, 2nF, -(CF
2
O)n-)
【0078】
(合成例3)分岐鎖パーフルオロポリエーテルモノオール(原料体1)のリン酸エステル化による、分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル3の合成
スターラーを入れた30mlナスフラスコに分岐鎖パーフルオロポリエーテルモノオール(原料体1)(1.0mmol, 3.00g)、P2O5(10.0mmol, 1.42 g)、HFE-7300(10.0 g)を秤量した。反応液を70℃で5時間撹拌した。反応液に純水を10 g入れ反応を停止した。下層が目的物であるので、上層の溶媒を除去した。純水を用いての洗浄工程を3回繰り返した。IPAを用いての洗浄工程を3回繰り返した。生成物をナスフラスコに入れ、減圧化乾燥することで溶媒を除去し、分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル3を収率95%、2.85 g合成した。得られた分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル3の1H-NMR及び19F-NMRは、以下の通りである。
分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル3
CF3CF2CF2O-[CF(CF3)CF2O]n-CF(CF3)CH2OPO(OH)2(平均重量分子量3000)
1H-NMR (CDCl3):δ4.57 (m,2H, RfOCF(CF3)CH
2
OP(O)(OH)2);
19F-NMR (CDCl3, C6F6;δ-163):δ-145.78 (m, 1nF, -(CF(CF3)CF2O)n-), -137.27 (m, 1F, RfOCF(CF3)CH2OP(O)(OH)2), -131.42 (s, 2F, CF3CF
2
CF2ORf), -84.57 (m, 3F, CF
3
CF2CF2ORf), -83.55 to -80.23 (m, 2F, CF3CF2CF
2
ORf), -83.55 to -80.23 (m, 3nF, -(CF(CF
3
)CF2O)n-), -83.55 to -80.23 (m, 2nF, -(CF(CF3)CF
2
O)n-), -83.55 to -80.23 (m, 3F, RfOCF(CF
3
)CH2OP(O)(OH)2)
【0079】
(実施例1)
合成例2で製造した直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル2を0.50 g、希釈溶媒としてガルデンSV-135を99.5 g秤量し、試験溶液1とした。
【0080】
(実施例2)
合成例2で製造した直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル2を0.25 g、合成例3で製造した分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル3を0.25 g、希釈溶媒としてガルデンSV-135を99.5 g秤量し、試験溶液2とした。
【0081】
(比較例1)
合成例3で製造した分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル3を0.50 g、希釈溶媒としてガルデンSV-135を99.5 g秤量し、試験溶液3とした。
【0082】
(テープ剥離試験)
実施例1で調製した試験溶液1を冷間圧延鋼板SPCC-SB(大きさ110×30×8 mm)に刷毛で塗工し、110℃で加熱乾燥し試験基材とした。試験基材に日東電工31bテープを貼り、2 kg荷重のローラーで2往復した。テープの端を折り、クリップで挟み、垂直に引っ張りテープを剥離した。この際の剥離力を測定した。同じ場所で繰り返しテープ剥離試験を行い、持続性を確認した。また、同様の操作を試験溶液2、3で行った。評価結果を、表1、
図1に示す。
【0083】
実施例1と比較例1から、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステルの方が分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステルを用いた場よりも初期剥離性、及び連続剥離性に優れることが明らかである。また、実施例2では直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステルと分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステルを併用することで、初期の剥離力がより低くなっている。分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステル単独では初期の剥離力も高いが、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステルと併用することで、より低い剥離力となる。これは、直鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステルが主に連続離型性に寄与しているが、撥液性は分岐鎖パーフルオロポリエーテルリン酸エステルの方が優れるため、両者を併用することで、初期の剥離力がより低くなっているものと考えられる(表2)。
【0084】
なお、実施例1,2においては、15回以上の剥離試験においても良好な剥離力を示しており、実際の樹脂成型用金型での使用において、作業開始時の塗布のみで1日の離型作業を連続して行うことができるものと期待される。
【0085】
評価基準
◎:1回目が0.5N以下で8回目が1.0N未満
〇:8回目が1.0N未満
×:8回目が1.0N以上
【0086】
【0087】