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  • 特開-塗工紙 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051032
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】塗工紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/52 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
D21H19/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161462
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古川 朋史
(72)【発明者】
【氏名】岸川 凛太郎
(72)【発明者】
【氏名】浦崎 淳
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AC06
4L055AG08
4L055AG27
4L055AG45
4L055AG63
4L055AG75
4L055AG89
4L055AG94
4L055AH02
4L055AH37
4L055BA39
4L055BE08
4L055EA05
4L055EA16
4L055FA14
4L055FA16
4L055FA30
4L055GA05
4L055GA15
(57)【要約】
【課題】顔料を含有する塗工層を有する塗工紙であって、しなやかな手触り感を有し、軽量化でき、合成樹脂から成る有機顔料の使用量を削減し、及び高い透気抵抗度である塗工紙を提供する。
【解決手段】課題は、紙基材と、前記紙基材の少なくとも片面に対して1層又は2層以上の塗工層とを有し、前記塗工層の少なくとも一層が有機顔料及びバインダーを含有し、前記有機顔料が棒状セルロース粒子を少なくとも含む塗工紙によって解決できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、前記紙基材の少なくとも片面に対して1層又は2層以上の塗工層とを有し、前記塗工層の少なくとも一層が有機顔料及びバインダーを含有し、前記有機顔料が棒状セルロース粒子を少なくとも含む塗工紙。
【請求項2】
前記棒状セルロース粒子が、電子顕微鏡拡大画像に認められる100個以上の棒状セルロース粒子を含むセルロース粒子の投影像において測定されるセルロース粒子の90個数%以上が短辺長さ1μm以上30μm以下かつ長辺長さ5μm以上500μm以下の範囲に属する請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
前記棒状セルロース粒子が、カナダ標準濾水度が400ml以上600ml以下である晒クラフトパルプのセルラーゼ酵素加水分解物である請求項1又は2に記載の塗工紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用又は包装用に使用できる、紙基材に対して塗工層を有する塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶セルロース又はセルロース粒子を含有する塗工層を設けた記録媒体、印刷用塗工紙及びインクジェット記録シートが公知である(例えば、特許文献1~3参照)。特許文献1に記載された記録媒体では、結晶セルロースの平均粒子径が5μm以上30μm以下であって、印字した場合に発色性、インク吸収性及び耐折割れ性に優れる。特許文献2に記載された印刷用塗工紙では、セルロース粒子の体積平均粒子径が5μm以上30μm以下であって、不透明度及び基紙由来のボコツキが存在しない印刷面感に優れかつ製造時に塗工機に汚れを発生させることが無く、並びにオフセット輪転印刷の乾燥工程におけるヒジワ発生抑制効果に優れる。特許文献3に記載されたインクジェット記録シートでは、粒子直径20μm以下のセルロース粒子が好ましく、インク吸収性が大きくかつ発色性に優れる。
また、結晶性セルロースであるセルロース繊維及び無機層状化合物を含むガスバリア層形成用組成物が公知である(例えば、特許文献4参照)。特許文献4に記載されたガスバリア層形成用組成物では、数平均繊維幅(短軸方向の長さ)が3nm以上50nm以下であるセルロース繊維が好ましく、湿度依存性及び湿度による劣化がほとんどなく及び高湿度下におけるガスバリア性に優れかつ環境負荷が少ない。
特許文献3では、球状又は不定形のセルロース粒子を実施例に記載する。一方、特許文献1、2及び4は、結晶セルロース又はセルロース粒子の形状、例えば、棒状セルロース粒子及び棒状セルロース粒子の技術的意義について何ら開示しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-060115号公報
【特許文献2】特開2012-052273号公報
【特許文献3】特開2002-011941号公報
【特許文献4】特開2011-057912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、塗工紙分野において塗工層に含まれる顔料は、印刷適性、白色度、不透明度及び平滑度を向上する目的で使用される。一方、顔料を含有する塗工層を有する塗工紙は、紙の感触が硬くなって、しなやかな手触り感を損ねる。塗工紙分野で従来公知の顔料には無機顔料と有機顔料とが存在する。従来の有機顔料は、合成樹脂から成る球状粒子が一般的である。これは、乳化重合等の合成樹脂を製造する方法が球状粒子を形成し易いためと考えられる。
また、塗工紙は、低密度化及び軽量化を紙に求める傾向と同様に、低密度化及び軽量化する傾向にある。しかしながら、塗工紙では、顔料を含有する塗工層が高密度になるために、低密度化及び軽量化を困難にする。無機顔料に比べて有機顔料は比重が低いものの、球状の有機顔料では低密度化及び軽量化を阻害する。さらに昨今のマイクロプラスチックの環境問題から、合成樹脂から成る有機顔料の使用を今後削減する必要がある。
また、紙の加工及び紙の搬送において、特に包装用紙では、空気の透気性を抑えた透気抵抗度が重要になる。塗工層中の有機顔料は、無機顔料に比べて不透明度等の紙の光学的な品質を高める傾向を有するものの、隣接する粒子間に空隙を形成し易く透気抵抗に劣る傾向がある。
【0005】
以上から、本発明の目的は、下記の項目を達成した塗工紙を提供することである。
(1)顔料を含有する塗工層を有する塗工紙であって、しなやかな手触り感を有する。
(2)軽量化する。
(3)合成樹脂から成る有機顔料の使用量を減らす。
(4)高い透気抵抗度である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、下記の塗工紙によって達成できる。
[1]紙基材と、前記紙基材の少なくとも片面に対して1層又は2層以上の塗工層とを有し、前記塗工層の少なくとも一層が有機顔料及びバインダーを含有し、前記有機顔料が棒状セルロース粒子を少なくとも含む塗工紙。
【0007】
[2]上記棒状セルロース粒子が、電子顕微鏡拡大画像に認められる100個以上の棒状セルロース粒子を含むセルロース粒子の投影像において測定されるセルロース粒子の90個数%以上が短辺長さ1μm以上30μm以下かつ長辺長さ5μm以上500μm以下の範囲に属する上記[1]に記載の塗工紙。棒状セルロース粒子は、「短辺長さ<長辺長さ」である。
【0008】
[3]上記棒状セルロース粒子が、カナダ標準濾水度が400ml以上600ml以下である晒クラフトパルプのセルラーゼ酵素加水分解物である上記[1]又は[2]に記載の塗工紙。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗工紙は、上記(1)~(4)の項目を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る棒状セルロースの一例を観察した電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の塗工紙は、紙基材の少なくとも片面に対して1層又は2層以上の塗工層を有し、前記塗工層の少なくとも一層が有機顔料及びバインダーを含有する。
塗工層が1層の場合、塗工紙は、当該塗工層が有機顔料及びバインダーを含有する。前記塗工層が2層の場合、塗工紙は、下側塗工層及び/又は上側塗工層が有機顔料及びバインダーを含有する。前記塗工層が3層以上の場合、塗工紙は、紙基材を基準として最下塗工層及び最上塗工層並びに前記最下塗工層と前記最上塗工層との間に位置する中間塗工層のいずれか一層又は二層以上が有機顔料及びバインダーを含有する。いくつかの実施態様において、前記塗工層が2層以上の場合で有機顔料を含有する塗工層の層数は、有機顔料を含有しない塗工層の層数と比べて同じ又は多い。また、いくつかの実施態様において、有機顔料を含有する塗工層の総塗工量(乾燥固形分)は、有機顔料を含有しない塗工層の総塗工量(乾燥固形分)に比べて同じ又は多い。これらの理由は、しなやかな手触り感及び軽量化が良化するからである。また、いくつかの実施態様において、紙基材の片面に対して前記塗工層は1層又は2層である。少なくとも一つの実施態様において、紙基材の片面に対して前記塗工層は1層である。これらの理由は、製造コストが有利になるからである。
有機顔料及びバインダーを含有する塗工層以外の塗工層は、塗工紙分野で従来公知の塗工層であって、例えば、無機顔料及びバインダーを含有する層、天然由来の樹脂又は合成樹脂を含有する層である。
【0013】
塗工紙は、紙基材の片面又は両面に対して有機顔料及びバインダーを含有する塗工層を1層又は2層以上有する。紙基材の片面に対してのみ有機顔料及びバインダーを含有する塗工層を有する場合、有機顔料及びバインダーを含有する塗工層に対する紙基材の裏面に対して塗工紙分野で従来公知のバックコート層又は塗工層を有することができる。従来公知のバックコート層及び塗工層は、例えば、無機顔料及びバインダーを含有する層、天然由来の樹脂及び/又は合成樹脂を含有する層である。
【0014】
有機顔料及びバインダーを含有する少なくとも一層の塗工層において、有機顔料は、棒状セルロース粒子を少なくとも含む。前記有機顔料は、棒状セルロース粒子以外に、塗工紙分野で従来公知の有機顔料を含有することができる。従来公知の有機顔料の例としては、合成樹脂から成る中空プラスチック粒子及び中実プラスチック粒子、棒状セルロース粒子以外の天然由来の樹脂粒子等を挙げることができる。いくつかの実施態様において、有機顔料として棒状セルロース粒子及びバインダーを含有する一塗工層では、棒状セルロース粒子の含有量が当該塗工層中の有機顔料及び後記の無機顔料を含めた総顔料に対して50質量%超である。少なくとも一つの実施態様において、有機顔料として棒状セルロース粒子及びバインダーを含有する一塗工層では、棒状セルロース粒子の含有量が当該塗工層中の有機顔料及び後記の無機顔料を含めた総顔料に対して90質量%以上である。これらの理由は、しなやかな手触り感及び透気抵抗度が良化するからである。
【0015】
いくつかの実施態様において、棒状セルロース粒子は、木材等の植物由来のセルロースを、「酵素加水分解を用いたセルロースナノファイバーの生産法」(林徳子著、日本ゴム協会誌、第85巻第12号(2012年)、32-37頁)及び「バイオ燃料を木材からナノテクで生産する-セルロースの構造特性を利用した酵素糖化前処理技術-」(遠藤貴士著、Synthesiology Vol.2No.4、2009年、310-320頁)に記載されるような、酵素加水分解によるセルロースの微細化物である。セルロースの微細化には、物理的に粉砕する方法、酸加水分解による方法及び酵素加水分解による方法が公知である。セルロースの酵素加水分解物は、酵素加水分解によって非晶質域が分解され高結晶性のセルロース粒子を得易い。セルロース粒子の結晶化度は、例えば、69%以上である。
木材を原料とする酵素加水分解では、木材が組織中にヘミセルロース及びリグニンを含有するために、爆破処理、粉砕処理又は煮処理等の前処理が必要である。前記前処理の目的は、酵素加水分解が進行するように、木材組織の破壊、木材繊維の離解、木材繊維の表面積増大及びセルロース結晶の破壊並びにリグニン等の酵素加水分解の反応阻害物の除去である。これは、離解、漂白(リグニン除去)及び叩解(フィブリル化)を行う製紙分野のパルプ化に類似する。そして、前記前処理によるフィブリル化程度及び酵素加水分解の反応進行度によって、セルロース粒子の形状及び大きさがおおよそ決まる。
【0016】
少なくとも一つの実施態様において、棒状セルロース粒子は、カナダ標準濾水度400ml以上600ml以下に叩解した漂白済みである晒クラフトパルプを酵素にセルラーゼを用いた酵素加水分解物である。この理由は、カナダ標準濾水度400ml以上600ml以下に叩解した漂白済みである晒クラフトパルプを原料にすると、酵素加水分解物として棒状セルロース粒子を良好に得ることができるからである。ここで、カナダ標準濾水度は、ISO5267-2:2001「Pulps-Determination of drainability-Part2:Canadian Standard freeness method」に準拠して測定した値である。
すなわち、本明細書では、棒状セルロースの製造方法に関する実施態様として、カナダ標準濾水度400ml以上600ml以下に叩解した晒クラフトパルプを、セルラーゼを用いた酵素加水分解法によって糖化率を制御して、短辺長さが1μm以上30μm以下かつ長辺長さが5μm以上500μm以下である棒状セルロース粒子の良好な製造方法を開示する。
【0017】
いくつかの実施態様において、パルプの酵素加水分解の反応進行度は、パルプの糖化率として60%以上95%以下である。この理由は、棒状セルロース粒子を良好に得ることができるからである。ここで、糖化率は下記式で表される。
糖化率(質量%)=
([酵素加水分解によって生成した糖量(g)]÷
[パルプ中のホロセルロース量(g)])×100
少なくとも一つの実施態様において、酵素加水分解の反応は、パルプに対するセルラーゼの添加量をパルプ1gあたり10FPU以上80FPU以下、温度を20℃以上60℃以下の範囲、pHを3.0以上6.0以下の範囲、反応時間を5時間以上24時間以下の範囲という条件である。この理由は、パルプの糖化率が60%以上95%以下となって、棒状セルロース粒子を良好に得ることができるからである。
ここで、FPUは、国際純正応用化学連合IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)が定めた方法により測定される濾紙分解活性であり、セルラーゼ活性の効力単位を示す。
【0018】
酵素加水分解に用いるセルラーゼとは、セルロースのグリコシド結合を加水分解する酵素の総称である。セルラーゼは、デュポン社、エイチビィアイ社、Meiji Seika ファルマ社、Genencor社及びNovozymes社等から市販される。
【0019】
上記晒クラフトパルプの樹種は、特に限定されない。
いくつかの実施態様において、樹種は、ユーカリ属、アカシア属及びコナラ属の植物から成る群から選ばれる一種又は二種以上である。この理由は、これらの樹種が製紙分野で使用する晒クラフトパルプの製造に利用でき、なおかつ樹種のリグニン含有量が比較的に少なく酵素加水分解に優位な晒クラフトパルプを得ることができ、並びに上記短辺長さ及び長辺長さの範囲に該当する棒状セルロース粒子が得易いからである。
【0020】
いくつかの実施態様において、棒状セルロース粒子は、電子顕微鏡拡大画像に認められる100個以上の棒状セルロース粒子を含む観察されたセルロース粒子の投影像において測定されるセルロース粒子の90個数%以上が短辺長さ1μm以上30μm以下かつ長辺長さ5μm以上500μm以下の範囲に属する大きさを有する。ここで、棒状セルロース粒子は、「短辺長さ<長辺長さ」である。この理由は、しなやかな手触り感及び透気抵抗度が良化するからである。電子顕微鏡拡大画像による観察は、塗工層塗工液に配合するセルロース粒子に対して行う。個数%は、前記観察から、短辺長さ1μm以上30μm以下かつ長辺長さ5μm以上500μm以下の範囲に属するセルロース粒子を測定して算出される。
【0021】
少なくとも一つの実施態様において、棒状セルロース粒子は、カナダ標準濾水度400ml以上600ml以下に叩解した漂白済みである晒クラフトパルプを酵素にセルラーゼを用いた酵素加水分解物であってかつ電子顕微鏡拡大画像に認められる100個以上の棒状セルロース粒子を含む観察されたセルロース粒子の投影像において測定されるセルロース粒子の90個数%以上が短辺長さ1μm以上30μm以下かつ長辺長さ5μm以上500μm以下の範囲に属する大きさを有する。
【0022】
塗工紙は、有機顔料である棒状セルロース粒子を塗工層の顔料として使用することによって軽量化及び合成樹脂から成る有機顔料の代替に棒状セルロース粒子を用いることによって合成樹脂から成る有機顔料の使用量削減、を達成することができる。
しなやかな手触り感と透気抵抗度を高めることとは、概して相反する。この理由は、塗工層で透気抵抗度を高めると、塗工層が密となって感触が硬くなるからである。有機顔料として棒状セルロース粒子とバインダーとを含有する塗工層であると、塗工紙は、しなやかな手触り感と高い透気抵抗度とを得ることができる。この理由は不明である。発明者らは、棒状セルロース粒子は、棒状であることで、粒子間の相互作用部位が増えて透気抵抗度が高くなるけれども網のようにフレキシブルさが存在する、と推察する。
【0023】
バインダーは、塗工紙分野で従来公知のバインダーであって、特に限定されない。バインダーの例としては、スチレンブタジエン共重合体及びアクリロニトリルブタジエン共重合体等の共役ジエン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル重合体及び(メタ)アクリル酸エステルブタジエン共重合体等のアクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体及び塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アルキド系樹脂、ポリエステル系樹脂、並びにこれらの官能基含有単量体による官能基変性樹脂、さらに、メラミン樹脂及び尿素樹脂等の熱硬化合成樹脂、天然ゴム、澱粉、各種加工澱粉及び各種変性澱粉、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂、カゼイン、ゼラチン及び大豆蛋白等の天然高分子樹脂若しくはその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール及びその各種変性体、ポリプロピレングリコール、並びにポリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0024】
いくつかの実施態様において、有機顔料及びバインダーを含有する一塗工層では、バインダーの含有量が当該塗工層中の棒状セルロース粒子を含む総顔料に対して5質量%以上30質量%以下である。この理由は、しなやかな手触り感及び透気抵抗度が良化するからである。
【0025】
有機顔料及びバインダーを含有する塗工層は、有機顔料とバインダー以外に塗工紙分野で従来公知の無機顔料を含有することができる。無機顔料の例としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、焼成クレー、クレー、酸化亜鉛、二酸化チタン、タルク、サチンホワイト、リトポン、コロイダルシリカ、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、活性白土、及び珪藻土等を挙げることができる。
【0026】
塗工層は、塗工紙分野で従来公知の各種添加剤を必要に応じて含有することができる。添加剤の例としては、印刷適性向上剤、定着剤、界面活性剤、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、ヒートシール剤及びバリア剤等を挙げることができる。
【0027】
紙基材は、木材パルプ及び/又は非木材パルプから成るスラリーに対して、填料、サイズ剤、バインダー、定着剤、歩留り剤及び紙力剤等の各種添加剤を必要に応じて添加した紙料を、酸性、中性又はアルカリ性の条件で従来公知の抄紙方法によって抄造した原紙、前記原紙をサイズプレス液でサイズプレス処理した上質紙、前記原紙を表面処理液で表面処理した上質紙、又は前記原紙若しくは前記上質紙に対してカレンダー処理を施した上質紙である。さらに、紙基材には、従来公知のクラフト紙、晒クラフト紙及びラミネート紙等も含まれる。
【0028】
上記紙料には、その他の添加剤として、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤及び乾燥紙力増強剤等から選ばれる一種又は二種以上を適宜添加することができる。
【0029】
カレンダー処理とは、ロール間に紙を通すことによって平滑性や厚みを平均化する処理である。カレンダー処理の装置は、例えば、マシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー及びマルチニップカレンダー等を挙げることができる。
【0030】
木材パルプは、製紙分野で従来公知のものである。木材パルプは、例えば、LBKP(Leaf Bleached Kraft Pulp)及びNBKP(Needle Bleached Kraft Pulp)等の化学パルプ、GP(Groundwood Pulp)、PGW(Pressure GroundWood pulp)、RMP(Refiner Mechanical Pulp)、TMP(ThermoMechanical Pulp)、CTMP(ChemiThermoMechanical Pulp)、CMP(ChemiMechanical Pulp)及びCGP(ChemiGroundwood Pulp)等の機械パルプ、並びにDIP(DeInked Pulp)等の古紙パルプを挙げることができる。
非木材パルプは、製紙分野で従来公知の非木材繊維からなるパルプである。非木材繊維の原料は、例えば、コウゾ、ミツマタ及びガンピ等の木本靭皮、亜麻、大麻及びケナフ等の草本靭皮、マニラ麻、アバカ及びサイザル麻等の葉繊維、イネわら、ムギわら、サトウキビバカス、タケ及びエスパルト等の禾本科植物、並びにワタ及びリンター等の種毛を挙げることができる。
【0031】
填料は、製紙分野で従来公知の無機顔料である。無機顔料の例としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、焼成クレー、クレー、酸化亜鉛、二酸化チタン、タルク、サチンホワイト、リトポン、コロイダルシリカ、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、活性白土、及び珪藻土等を挙げることができる。
【0032】
サイズ剤は、製紙分野で従来公知のサイズ剤である。紙料に添加する内添サイズ剤は、例えば、酸性紙であればロジン系サイズ剤、中性紙であればアルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマー、中性ロジン系サイズ剤及びカチオン性スチレン-アクリル系サイズ剤等を挙げることができる。また、サイズプレス液に用いる表面サイズ剤は、製紙分野で従来公知のものである。表面サイズ剤は、例えば、澱粉系サイズ剤、セルロース系サイズ剤、ポリビニルアルコール系サイズ剤、スチレン-アクリル系サイズ剤、オレフィン系サイズ剤、スチレン-マレイン酸系サイズ剤、及びアクリルアミド系サイズ剤等を挙げることができる。
サイズプレスは、製紙分野で従来公知のサイズプレス装置で実施することができる。サイズプレス装置は、例えば、インクラインドサイズプレス、ホリゾンタルサイズプレス、フィルムトランスファー方式としてロッドメタリングサイズプレス、ロールメタリングサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレスを、ロッドメタリングサイズプレスとしてシムサイザー、オプティサイザー、スピードサイザーを、ロールメタリングサイズプレスとしてゲートロールコーター、ビルブレードコーター、ツインブレードコーター、ベルバパコーター、タブサイズプレス、及びカレンダーサイズプレス等を挙げることができる。
【0033】
有機顔料及びバインダーを含有する塗工層は、紙基材又は塗工層に対して有機顔料及びバインダーを含有する塗工層塗工液を塗工及び乾燥することによって得ることができる。紙基材に対して塗工層を設ける方法は特に限定されない。設ける方法は、例えば、塗工紙分野で従来公知の塗工装置及び乾燥装置を用いて塗工層塗工液を塗工及び乾燥する方法を挙げることができる。塗工装置の例としては、コンマコーター(登録商標)、フィルムプレスコーター、エアナイフコーター、ロッドブレードコーター、バーコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、Eバーコーター及びフィルムトランスファーコーター等を挙げることができる。また、塗工では、実験的手法である手塗用ワイヤーバーを用いた塗工を挙げることができる。乾燥装置の例としては、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアループドライヤー、サインカーブエアフロートドライヤー等の熱風乾燥機、赤外線加熱ドライヤー、及びマイクロ波を利用した乾燥機等の各種乾燥装置を挙げることができる。
【0034】
塗工層の塗工量は特に限定されない。いくつかの実施態様において、紙基材の片面に対して塗工層の塗工量は、乾燥固形分量で3g/m以上30g/m以下である。少なくとも一つの実施態様において、紙基材の片面に対して塗工層の塗工量は、乾燥固形分量で3g/m以上10g/m以下である。塗工層の塗工量は、塗工層が2層以上の場合、これらの合計である。これらの理由は、しなやかな手触り感及び透気抵抗度が良化するからである。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す質量%及び質量部は、乾燥固形分あるいは実質成分の値を示す。塗工量は、乾燥固形分の値である。
【0036】
<酵素加水分解>
セルラーゼ酵素加水分解の原料にパルプを用いた。水に対してパルプ濃度10質量%のスラリーを準備し、pH5、温度50℃の条件でセルラーゼ酵素を添加してパルプの酵素加水分解を行った。パルプの種類、酵素添加量及び処理時間を表1に記載する。所定の糖化率となった段階で反応物を遠心分離して沈殿物を水洗及び精製してセルロース粒子を得た。
【0037】
<酸加水分解>
酸加水分解の原料にパルプを用いた。1.5N硫酸に対してパルプを濃度3質量%になるように添加した。添加後、温度100℃の条件で撹拌し酸加水分解を行った。パルプの種類を表1に記載する。途中で一部採取して粒子サイズを点検し反応停止を決定した。反応後、大量の水で希釈して未溶解物をろ過、アンモニア水で中和してから未溶解物を水洗及び精製してセルロース粒子を得た。
【0038】
<セルロース粒子>
電子顕微鏡観察には、得たセルロース粒子を水中に20ppmとなるように添加及び撹拌して得た分散液を用いた。電子顕微鏡観察は、前記分散液を電子顕微鏡観察用の金属製試料台に25μL滴下して自然乾燥させた試料を用いた。観察倍率は、セルロース粒子の大きさによって適宜調整した。電子顕微鏡の観察視野において認められる100個以上で適当な数のセルロース粒子について、短辺長さ及び長辺長さを各々計測した。セルロース粒子に対して、短辺長さ1μm以上30μm以下かつ長辺長さ5μm以上500μm以下の範囲に属する棒状セルロース粒子の個数%を算出した。個数%を表1に記載する。
【0039】
<紙基材>
紙基材には、坪量100g/mの晒クラフト紙を用いた。前記晒クラフト紙は、ISO5636-6:2015「Paper and board - Determination of air permeance (medium range) - Part6:Oken method」に準じて求められる透気抵抗度が23秒であった。
【0040】
<塗工層塗工液及び塗工紙>
塗工層には、水に対して下記成分を含有する塗工層塗工液を調製した。塗工紙は、乾燥塗工量が7g/mとなるように手塗用ワイヤーバーを用いて紙基材の片面に対して塗工し、熱風乾燥機を用いて100℃、5分間乾燥して得た。
有機顔料 種類及び質量部は表1に記載
無機顔料(カオリン) 種類及び質量部は表1に記載
バインダー(スチレンブタジエン共重合樹脂) 20質量部
【0041】
比較例2では、塗工層の顔料に有機顔料としてローペイク(登録商標)SN-1055(ローム・アンド・ハース社製)を用いた。また、比較例4では、塗工層の顔料に有機顔料として不定形セルロース粒子(JRS社製、VIVAPUR(登録商標)101)を用いた。
表1において、パルプ種のBKPは晒クラフトパルプを指し、UKPは未晒クラフトパルプを指す。濾水度は、上記カナダ標準濾水度である。
【0042】
<透気抵抗度>
JIS P8117:2009に準じて、塗工層を設けた側の面を測定面として王研式透気度試験機を用いて塗工紙の透気抵抗度を測定した。比較例1は、塗工層を有しないものとし、紙基材の晒クラフト紙に対して透気抵抗度を測定した。
【0043】
<しなやかな手触り感>
塗工紙をA4サイズに裁断した。しなやかな手触り感は、A4サイズの長辺の縦方向と紙基材の抄紙方向(縦目方向)が揃うように丁合い加工したA4サイズ50枚のサンプル冊子について、ページめくり操作時の手触り感を下記の基準で男女各10人のモニターに判定してもらい、最も多く選ばれた判定結果を評価として採用した。なお、最も多く選ばれた判定結果が複数ある場合は最も低い判定結果を評価として採用した。本発明において、塗工紙は、評価A、B又はCであればしなやかな手触り感を有するものとする。
A:下記Bよりはしなやかな手触りに感じ、
下記Dよりしなやかな手触りを明確に感じる。
B:下記Cよりはしなやかな手触りに感じ、
下記Dよりしなやかな手触りを概ね感じる。
C:下記Dより若干しなやかな手触りに感じる。
D:従来の塗工紙でよくある手触りに感じる。
E:硬さを感じる。
【0044】
評価結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
本発明の塗工紙は、塗工層が含有する無機顔料の一部又は全てに代えて有機顔料を用いることによって軽量化することができる。また、本発明の塗工紙は、塗工層が含有する有機顔料の一部又は全てに代えてセルロース粒子を用いることによって、合成樹脂から成る有機顔料の使用を削減することができる。
さらに、表1から、本発明に該当する実施例1~17の塗工紙は、しなやかな手触り感を有しかつ高い透気抵抗度であると分かる。一方、本発明の構成を満足しない比較例1~4は、しなやかな手触り感及び高い透気抵抗度の少なくとも一方を満足することができないと分かる。
また、主に、実施例1~3と実施例4との対比から、棒状セルロース粒子において、短辺長さ1μm以上30μm以下かつ長辺長さ5μm以上500μm以下の範囲に属する棒状セルロース粒子が90個数%以上であると、塗工紙は、しなやかな手触り感及び透気抵抗度が良化すると分かる。
また、実施例1、2、11~14、16及び17の間の対比から、カナダ標準濾水度が400ml以上600ml以下である晒クラフトパルプのセルラーゼ酵素加水分解物である棒状セルロース粒子であれば、短辺長さ1μm以上30μm以下かつ長辺長さ5μm以上500μm以下の範囲に属する棒状セルロース粒子が得られ易く、結果的に透気抵抗度が良化すると分かる。
【0047】
前述した本発明の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0048】
<1>紙基材と、前記紙基材の少なくとも片面に対して1層又は2層以上の塗工層とを有し、前記塗工層の少なくとも一層が有機顔料及びバインダーを含有し、前記有機顔料が棒状セルロース粒子を少なくとも含む塗工紙。
【0049】
<2>上記棒状セルロース粒子が、電子顕微鏡拡大画像に認められる100個以上の棒状セルロース粒子を含むセルロース粒子の投影像において測定されるセルロース粒子の90個数%以上が短辺長さ1μm以上30μm以下かつ長辺長さ5μm以上500μm以下の範囲に属する上記<1>に記載の塗工紙。
【0050】
<3>上記棒状セルロース粒子が、カナダ標準濾水度が400ml以上600ml以下である晒クラフトパルプのセルラーゼ酵素加水分解物である上記<1>又は<2>に記載の塗工紙。
【0051】
<4>上記晒クラフトパルプの樹種が、ユーカリ属、アカシア属及びコナラ属の植物から成る群から選ばれる一種又は二種以上である上記<3>に記載の塗工紙。
【0052】
<5>カナダ標準濾水度400ml以上600ml以下に叩解した晒クラフトパルプを、セルラーゼを用いた酵素加水分解法によって糖化率を制御して短辺長さが1μm以上30μm以下かつ長辺長さが5μm以上500μm以下である棒状セルロース粒子の製造方法。
【0053】
<6>上記晒クラフトパルプの樹種が、ユーカリ属、アカシア属及びコナラ属の植物から成る群から選ばれる一種又は二種以上である上記<5>に記載の棒状セルロース粒子の製造方法。
【0054】
<7>上記<5>又は<6>によって製造された棒状セルロース粒子及びバインダーを含有する塗工層塗工液を紙基材に塗工する塗工紙の製造方法。
【0055】
<8>紙基材と、前記紙基材の少なくとも片面に対して1層又は2層以上の塗工層とを有し、前記塗工層の少なくとも一層が有機顔料及びバインダーを含有し、前記有機顔料が上記<5>の製造方法による棒状セルロース粒子を少なくとも含む塗工紙。
図1