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特開2023-51046フィルターの目詰まりを推定する方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051046
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】フィルターの目詰まりを推定する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   B01D 46/42 20060101AFI20230404BHJP
   F24F 11/39 20180101ALI20230404BHJP
   F24F 11/49 20180101ALI20230404BHJP
   F24F 11/89 20180101ALI20230404BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20230404BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20230404BHJP
【FI】
B01D46/42 A
F24F11/39
F24F11/49
F24F11/89
G01H17/00 Z
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161484
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000163660
【氏名又は名称】ケンブリッジフィルターコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003579
【氏名又は名称】弁理士法人山崎国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【弁理士】
【氏名又は名称】朴 志恩
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100071010
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 行造
(72)【発明者】
【氏名】木崎原 稔郎
(72)【発明者】
【氏名】當麻 晃夫
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
3L260
4D058
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA22
2G024CA13
2G024FA01
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064DD02
3L260AB07
3L260BA09
3L260BA38
3L260BA62
3L260HA01
3L260HA02
4D058PA04
4D058QA01
4D058QA13
4D058QA21
(57)【要約】
【課題】
諸条件により大きく変化するダクト内での音圧を測定して、フィルターの目詰まりを推定する方法およびシステムを提供すること。
【解決手段】
所定の周波数の音圧を発生する音圧発生工程S10と、所定の時刻においてフィルターで反射された音圧を測定する音圧測定工程S20と、測定されたデータから所定周波数帯域の音圧データを抽出する音圧データ抽出工程S30と、音圧データと測定した時刻とを記憶するデータ記憶工程S40と、音圧発生工程からデータ記憶工程を所定の時間に亘って繰り返させる繰り返し工程S50と、記憶された音圧データと時刻とを用いて、線形回帰法により、時刻と音圧の関係を求める線形回帰工程S100と、線形回帰工程S100で求められた時刻と音圧の関係から、時刻とフィルターの目詰まりの関係を求める目詰まり推定工程S110とを備えるフィルターの目詰まり推定方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダクトを通じて気体を送風するブロワと、前記ダクトに配置され、気体中の浮遊物を捕捉するフィルターとを備える空調設備において:
前記ダクト内において所定の周波数の音圧を発生する音圧発生工程と;
前記ダクト内で所定の時刻において前記フィルターで反射された音圧を測定する音圧測定工程と;
前記測定されたデータから所定周波数帯域の音圧データを抽出する音圧データ抽出工程と;
前記音圧データと測定した時刻とを記憶するデータ記憶工程と;
前記音圧発生工程、前記音圧測定工程、前記音圧データ抽出工程および前記データ記憶工程を所定の時間に亘って繰り返させる繰り返し工程と;
前記繰り返し工程後に、記憶された音圧データと時刻とを用いて、線形回帰法により、時刻と音圧の関係を求める線形回帰工程と;
前記線形回帰工程で求められた時刻と音圧の関係から、任意時刻における時刻とフィルターの目詰まりとしての圧損の関係を求める目詰まり推定工程とを備える;
フィルターの目詰まり推定方法。
【請求項2】
前記発生する音圧の前記所定の周波数は、6kHz以上14kHz以下である;
請求項1に記載のフィルターの目詰まり推定方法。
【請求項3】
ダクトを通じて気体を送風するブロワと、前記ダクトに配置され、気体中の浮遊物を捕捉するフィルターとを備える空調設備において:
前記ダクト内に設置され、所定の周波数の音圧を発生するスピーカと;
前記ダクト内の前記フィルターに対して前記スピーカと同じ側に設置された音圧測定器と;
前記音圧測定器で測定されたデータから所定周波数帯域の音圧データを抽出するデータ抽出手段と;
所定の時間に亘って、前記データ抽出手段で抽出された音圧データを測定時刻と共に記憶するデータ記憶手段と;
前記データ記憶手段に記憶された音圧データと測定時刻を用いて、線形回帰法により、時刻と音圧の関係を求め、求められた時刻と音圧の関係から、任意時刻における時刻とフィルターの目詰まりとしての圧損の関係を求める目詰まり推定手段とを備える;
空調設備のフィルターの目詰まり推定システム。
【請求項4】
前記スピーカで発生する音圧の前記所定の周波数は、6kHz以上14kHz以下である;
請求項3に記載の空調設備のフィルターの目詰まり推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調設備のフィルターの目詰まりを推定するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
空調設備の空気清浄機器ループは、主として、空気を取り入れ搬送するブロアと、該空気中の塵を除去するフィルターとで構成される。空調設備では、塵によりフィルターが目詰まりし、圧力損失が大きくなると、所定の空気量が供給されなくなる。そこで、フィルターを定期的に洗浄あるいは交換する必要がある。圧力損失は、フィルターの上流側と下流側との圧力差を測定する差圧計を設けることにより測定される。しかし、フィルターに加わる圧力は、静圧と動圧を合計したものである。静圧は通常の圧力計で測定され、動圧は流速から算出される。したがって、フィルターの上流側と下流側の圧力差を測定するには、上流側と下流側のそれぞれに、圧力計と流速計を設置し、両側の圧力を算出後に、その差を求める必要がある。このように構成された圧力損失検出ユニットは、装置が増え、高価でメンテナンスも複雑になるために、大型の空調設備で採用されることが主である。そこで、より簡便に、かつ、直接的にフィルターの目詰まりを測定する技術への要求が存在する。
【0003】
そこで、発明者らは、空気が搬送されるダクト内に所定の周波数の音を生成するスピーカと、フィルターを通過またはフィルターで反射した音圧を測定する音圧測定器を設置し、測定した音圧に基づきフィルターの目詰まりを推定する装置を提案した(特許文献1参照)。フィルターの目詰まりが増えると、フィルターを透過する音圧が減少し、またはフィルターで反射する音圧が増大し、音圧を測定することでフィルターの目詰まりを推定できることが確認された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO 2019/009379号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、発明者らの観測によれば、ダクト内で測定される音圧は、空調設備の諸条件により大きく変化することが分かった。例えば、ダクト形状、スピーカの位置、音圧測定器の位置、空調設備の運転条件により変化する運転音、外部からの騒音等が、測定される音圧に大きく影響する。したがって、ダクト毎にフィルタの目詰まりと音圧の関係が異なり、測定した音圧に基づきフィルターの目詰まりを推定するには、さらなる工夫が必要であることが分かった。
【0006】
そこで、本発明は、諸条件により大きく変化するダクト内での音圧を測定して、フィルターの目詰まりを推定する方法およびシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るフィルターの目詰まり推定方法は、例えば図6および図2に示すように、ダクト10を通じて気体を送風するブロワ20と、ダクト10に配置され、気体中の浮遊物を捕捉するフィルター30とを備える空調設備1において、ダクト10内において所定の周波数の音圧を発生する音圧発生工程S10と、ダクト10内で所定の時刻において前記フィルター30で反射された音圧を測定する音圧測定工程S20と、測定されたデータから所定周波数帯域の音圧データを抽出する音圧データ抽出工程S30と、音圧データと測定した時刻とを記憶するデータ記憶工程S40と、音圧発生工程S10、音圧測定工程S20、音圧データ抽出工程S30およびデータ記憶工程S40を所定の時間に亘って繰り返させる繰り返し工程S50と、繰り返し工程S50後に、記憶された音圧データと時刻とを用いて、線形回帰法により、時刻と音圧の関係を求める線形回帰工程S100と、線形回帰工程S100で求められた時刻と音圧の関係から、任意時刻における時刻とフィルターの目詰まりとしての圧損の関係を求める目詰まり推定工程S110とを備える。
【0008】
このように構成すると、所定の時間に亘って蓄積した音圧データと時刻とを用いて、線形回帰法により時刻と音圧の関係を求め、さらに時刻とフィルターの目詰まりの関係を求めるので、諸条件により大きく変化するダクト内での音圧を測定することによって、フィルターの目詰まりを推定することができる。
【0009】
本発明の第2の態様に係るフィルターの目詰まり推定方法では、発生する音圧の所定の周波数は、6kHz以上14kHz以下である。このように構成すると、6kHz以上14kHz以下の音圧データを用いてフィルターの目詰まりを推定するので、空調設備で発生する運転音や外部からの騒音などのノイズを除去または軽減することができる。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第3の態様に係る空調設備のフィルターの目詰まり推定システム100は、例えば図6に示すように、ダクト10を通じて気体を送風するブロワ20と、ダクト10に配置され、気体中の浮遊物を捕捉するフィルター30とを備える空調設備1において、ダクト10内に設置され、所定の周波数の音圧を発生するスピーカ42と、ダクト10内のフィルター30に対してスピーカ42と同じ側に設置された音圧測定器40と、音圧測定器40で測定されたデータから所定周波数帯域の音圧データを抽出するデータ抽出手段50と、所定の時間に亘って、データ抽出手段50で抽出された音圧データを測定時刻と共に記憶するデータ記憶手段60と、データ記憶手段60に記憶された音圧データと測定時刻を用いて、線形回帰法により、時刻と音圧の関係を求め、求められた時刻と音圧の関係から、任意時刻における時刻とフィルターの目詰まりとしての圧損の関係を求める目詰まり推定手段80とを備える。
【0011】
このように構成すると、ダクト内に設置されたスピーカと、ダクト内に設置された音圧測定器と、音圧測定器で測定されたデータから所定周波数帯域の音圧データを抽出するデータ抽出手段と、所定の時間に亘って、データ抽出手段で抽出された音圧データを測定時刻と共に記憶するデータ記憶手段と、データ記憶手段に記憶された音圧データと測定時刻を用いて、線形回帰法により、時刻と音圧の関係を求め、求められた時刻と音圧の関係から、時刻とフィルターの目詰まりの関係を求める目詰まり推定手段とを備えるので、諸条件により大きく変化するダクト内での音圧を測定することによって、フィルターの目詰まりを推定することができる空調設備のフィルターの目詰まり推定システムを提供することができる。
【0012】
本発明の第4の態様に係る空調設備のフィルターの目詰まり推定システム100では、スピーカで発生する音圧の所定の周波数は、6kHz以上14kHz以下である。このように構成すると、6kHz以上14kHz以下の音圧データを用いてフィルターの目詰まりを推定するので、空調設備で発生する運転音や外部からの騒音などのノイズを除去または軽減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所定の時間に亘って蓄積した音圧データと時刻とを用いて、線形回帰法により時刻と音圧の関係を求め、さらに時刻とフィルターの目詰まりの関係を求めるので、諸条件により大きく変化するダクト内での音圧を測定することによって、フィルターの目詰まりを推定することができる。また、諸条件により大きく変化するダクト内での音圧を測定することによって、フィルターの目詰まりを推定することができる空調設備のフィルターの目詰まり推定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例としての空調設備のフィルターの目詰まり推定システムを説明する模式図である。
図2】本発明の実施例としての空調設備のフィルターの目詰まり測定のフローチャートである。
図3】空調設備のフィルターの上流側にスピーカを下流側にマイクを設置して、時間経過による音圧の変化を測定した例を示すグラフである。
図4】時間と透過した音圧の変化の概念を示すグラフである。
図5】フィルターの圧力損失と音圧透過量の変化の概念を示すグラフである。
図6】本発明の実施例としての、図1とは別の空調設備のフィルターの目詰まり推定システムを説明する模式図である。
図7】時間と反射した音圧の変化の概念を示すグラフである。
図8】空調設備のフィルターの下流側にスピーカとマイクを設置して、フィルターの圧力損失と反射した音圧の変化を測定した例を示すグラフである。
図9】フィルターの圧力損失と音圧反射量の変化の概念を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、互いに同一または相当する装置には同一符号を付し、重複した説明は省略する。先ず図1を参照して、空調設備1のフィルターの目詰まり推定システム100の構成を説明する。
【0016】
空調設備1は、ダクト10内にブロワ20が設置される。ブロワ20により空調設備1には、一定流量あるいは可変流量の気体としての空気が流れる。ブロワ20は、ファン22とモータ24を有する。モータ24の出力軸とファンの回転軸とを直接接続してもよいし、その間に歯車、ベルト等を有して、回転数を減速してもよい。または、モータ24が減速機付きモータであってもよい。また、インバータ26を有して、モータ24の回転速度を変更してもよい。
【0017】
空調設備1は、ダクト10の断面を覆ってフィルター30が設置される。ダクト10により送風され、空調設備1から排出されようとする空気中の浮遊物は、フィルター30により捕捉され、空調設備1からは清浄な空気として排出される。フィルター30は、用途により、粗塵用フィルタ、MEPA(Medium Efficiency Particulate Air)フィルター、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルター、ULPA(Ultra Low Penetration Air)フィルター等でよく、その種類は特に限定されない。また、用途によっては、例えばプレ・フィルターを有するなど、複数のフィルターであってもよく、プレフィルターを対象としてもよい。なお、図1では、フィルター30の設置される位置のダクト10の径が、ブロワ20の設置される位置のダクト10の径より大きく示され、フィルター30の下流側(図の左側)では、ダクト10の径が細く示されているが、ダクト10の径は全体が同径であっても、他の大小関係であってもよい。
【0018】
ダクト10のフィルター30の上流側に音圧を発生するスピーカ42が設置される。スピーカ42は、周波数を変えられる発信機(不図示)と組み合わせて、所定の周波数の音圧を発生できるようにしてもよい。スピーカ42および発信機は、特にその仕様を限定されず、市販のものでよい。なお、スピーカ42は、発信機からではなく制御装置70から所定の周波数の信号を受信して、所定の音圧を発生してもよい。スピーカ42で発生する所定の音圧の周波数は、例えば、6kHz、8kHz、10kHz、11kHz等、6kHz以上14kHz以下の周波数であることが好ましい。空調設備1の運転により発生する騒音および外部からの騒音などは、6kHz未満であることが一般的であるので、それより高い周波数とするとノイズの影響を少なくできる。なお、一般的なスピーカで発生可能な周波数は14kHz以下であり、上限を14kHzとしてもよい。スピーカ42から発生する音圧レベルは、ノイズのレベルより、例えば20dB以上高くすると、ノイズの影響を減少して音圧を測定できるので好ましい。
【0019】
ダクト10のフィルター30の下流側に音圧測定器としてのマイク40が設置される。マイク40は、フィルター30を透過した音圧を測定し、測定したデータを制御装置70に送信する。マイク40は、音圧を測定できれば、特にその仕様を限定されず、市販のマイクロフォンでよい。データの通信は、有線で行っても、無線で行っても、あるいは、汎用回線を経由して行ってもよい。
【0020】
マイク40で測定した音圧のデータを受信する制御装置70は、空調設備の運転を制御するための制御装置であってもよいし、別に設置された制御装置であってもよい。制御装置70の設置される場所は、特に限定はされず、空調設備1の傍でも、離れていてもよい。
【0021】
制御装置70は、測定された音圧のデータから、所定周波数帯域の音圧データを抽出するデータ抽出手段としてのバンドパスフィルター50を有する。なお、本書で、バンドパスフィルター50あるいはデータ抽出手段を有するという場合、制御装置70とは物理的に別のバンドパスフィルター50を有しても、制御装置70がバンドパスフィルター50の機能を有することで所定周波数帯域の音圧データを抽出してもよい。また、物理的に別のバンドパスフィルター50が制御装置70とは異なる場所に置かれてもよい。
【0022】
制御装置70では、抽出された音圧データと測定した時刻とをデータ記憶手段としてのメモリ60に記憶する。なお、メモリ60は、制御装置70の一部であっても、制御装置70とは別の記憶装置であってもよい。
【0023】
フィルターの目詰まり推定システム100は、目詰まり推定手段80を備える。目詰まり推定手段80は、メモリ60に所定の期間に亘って蓄積された音圧データと測定した時刻とから、線形回帰法により時刻と音圧の関係を求める。そして、求められた時刻と音圧の関係から時刻とフィルターの目詰まりを推定する。なお、この推定については、別に説明する。目詰まり推定手段80は、その計算量が膨大になることから、制御装置70とは別の装置とされるのが好ましい。例えば、クラウドコンピューティングや、サーバ、パーソナルコンピュータ(PC)を、目詰まり推定手段80として用いる。これらの場合、目詰まり推定手段80は、音圧データと測定した時刻とを記憶するメモリ60を有してもよく、さらに、制御装置70を兼ねてもよい。
【0024】
このようにスピーカ42、マイク40、バンドパスフィルター50、メモリ60、および、目詰まり推定手段80を備えて構成されたフィルターの目詰まり推定システム100の作用を、図2のフローチャートをも参照して説明する。制御装置70あるいは他のタイマなどからの信号に基づき、所定の時刻毎にスピーカ42から、所定周波数の音圧を発生する(ステップS10)。なお、スピーカ42からは、常時音圧が発生されてもよい。スピーカ42から発生する周波数を発信機により変えられるように構成すると、空調設備1の設置場所、フィルター30の特性等の影響を考慮した上で、音圧測定に適した周波数の音圧を発生できるので好ましい。なお、音圧測定に適した周波数は、空調設備1を設置後に試験して決めてもよい。
【0025】
制御装置70あるいは他のタイマなどからの信号に基づき、所定の時刻毎にマイク40で音圧を測定する(ステップS20)。具体的には、スピーカ42から音圧を発生するタイミングに合わせて音圧を測定する。所定の時刻毎は、例えば、30分毎、1時間毎、数時間毎でよい。マイク40で測定したデータは、制御装置70に送信される。
【0026】
マイク40で測定したデータを受信すると、制御装置70は、バンドパスフィルター50にデータを通し、所定周波数帯域以外のデータを除去する。所定周波数帯域とは、スピーカ42で発生する所定の周波数の周辺である。例えば、スピーカ42で発生する周波数が8kHzとすると、7.5kHz~8.5Hz、7kHz~9kHz等とする。所定周波数帯域は、スピーカ42で発生する所定の周波数の、例えば±10%以内としてもよい。この除去により、スピーカ42から発生した以外の音圧、すなわちノイズを低減または除去し、所定周波数帯域の音圧データを抽出する(ステップS30)。
【0027】
抽出された音圧データを測定時刻と共に、メモリ60に記憶する(ステップS40)。なお測定時刻は、空調設備1でフィルター30を使用し始めた時刻からの経過時間(運転時間)でよい。
【0028】
制御装置70は、音圧の発生(ステップS10)から音圧データと測定時刻の記憶(ステップS40)までの工程を所定時間経過するまで繰り返させる(ステップS50)。すなわち、フィルター30を使用し始めてから所定時間経過するまでの音圧データと測定時刻とが、メモリ60に記憶される。ここで所定時間とは、記憶した音圧データと測定時刻とから、時刻と音圧との関係を信頼性高く求められるだけのデータが集まるまでの時間をいう。この時間は、フィルター30を使用する時間によっても変わるが、例えば、1年程度の使用を予定しているフィルター30では、1カ月、3カ月、6カ月などの時間となる。
【0029】
所定時間が経過したら、目詰まり推定手段80は、メモリ60に記憶された音圧データと測定時刻とを用いて、線形回帰法により、時刻と音圧の関係を求める(ステップS100)。
【0030】
フィルター30の使用期間においてフィルター30が捕捉する浮遊物の量、すなわち堆積した塵の量は、時間とともに、実質的に比例して、増加する。フィルター30を透過する音圧は、堆積した塵の量が増加すれば、それだけ減少する。測定した音圧データと運転時間との関係は、例えば図3の実測値により示されるように、諸条件の変化のため、ばらつきが大きい。このような多数のデータに基づき推論を行う手法として回帰法が知られている。回帰法には、1次式回帰、多項式回帰等の方法がある。発明者らの実測によると、運転時間tとフィルター透過音圧Sと関係は、図3の直線グラフで示すように、1次式回帰で最も良く近似された。なお、測定した音圧はフィルター30を透過した音圧である。すなわち、運転時間tと透過音圧Sとの関係は、図4に示すような比例関係となり、透過音圧Sは、式(1)で表される。
S = A・t+B ・・・(1)
ここで、Aは運転時間に対する透過音圧の減少率であり、Bは運転開始時点での透過音圧である。
【0031】
時刻と透過音圧の関係が求められると、時刻とフィルター30の目詰まりの関係を求める(ステップS110)。ここで、フィルター30の目詰まりは、フィルター30の圧力損失で表す。
【0032】
フィルター30の目詰まり、すなわち圧力損失Pと、フィルター30を透過する透過音圧Sとは、図5に示すような反比例の関係であることが知られており、フィルター30の圧損が増加すると透過音圧量Sが減少する。透過音圧Sと圧力損失Pとの関係は、式(2)で表される。
S = a/P+b (2)
ここで、aはフィルター30および空調設備1の諸条件により定まる定数であり、bはノイズ等による音圧である。なお、ステップS30でノイズ等の音圧を完全に除去できるとすると、式(3)に示すように、bは省略することができる。
S = a/P (3)
【0033】
時刻0(ゼロ)、すなわち、運転開始時点では、圧力損失P0がフィルター30の定格初期圧損値を示す。一方、運転開始時点における透過音圧S0は、式(1)より求められ、すなわちBである。
【0034】
そこで、フィルター30の目詰まり(圧力損失)Pがある値に達する時刻を推定する(ステップ110)。例えば、フィルター30の定格最終圧損PEの時刻を推定する場合について説明する。定格最終圧損PEとは、フィルター毎に健全な使用をメーカが保証する最大圧損である。透過音圧と圧損とは反比例するので、定格最終圧損PEのときの透過音圧SEが式(4)で求まる。
SE = S0*P0/PE (4)
時刻と透過音圧の関係は式(1)で与えられるので、定格最終圧損PEに達する時刻(運転時間)は、式(5)で得られる。
t = (SE-B)/A = (SE-S0)/A (5)
なお、Bは運転開始時点での透過音圧であり、初期音圧S0である。
【0035】
続いて、図6を参照して、目詰まり推定システム100とは別の、空調設備1のフィルターの目詰まり推定システム200の構成を説明する。フィルターの目詰まり推定システム200では、スピーカ42とマイク40とがフィルター30の上流側に設置される点で、目詰まり推定システム100と異なる。すなわち、マイク40では、スピーカ42から発生した音圧がフィルター30に衝突し、その一部が反射するので、その反射した音圧を測定する。フィルター30で反射する音圧は、フィルター30に堆積した塵の量が増加すれば、それだけ増加する。そこで、フィルターの目詰まり推定システム200においても、図2のフローチャートを用いて説明したのと同様の方法で目詰まりを推定することができる。
【0036】
ただし、フィルターの目詰まり推定システム200においては、運転時間tと反射した音圧SRとは、例えば図7に示すように直線のグラフで表され、1次式回帰で近似される。すなわち、反射音圧SRは、(6)式で表される。
SR = α・t+β ・・・(6)
ここで、αは運転時間に対する反射音圧の増加率であり、βは運転開始時点での反射音圧である。
【0037】
時刻と反射音圧の関係が求められると、時刻とフィルター30の目詰まりの関係を求める(図2のステップS110)。ここで、フィルター30の目詰まりは、フィルター30の圧力損失で表す。
【0038】
フィルター30の目詰まり、すなわち圧力損失Pと、フィルター30により反射される反射音圧SRとは、発明者らが実測した結果を図8に示すように、比例関係にあることが確認された。すなわち、概念的には図9に示す関係となる。そこで、反射音圧SRと圧力損失Pとの関係は、式(7)で表される。
SR = c*P+d (7)
ここで、cはフィルター30および空調設備1の諸条件により定まる定数であり、dはノイズ等による音圧である。なお、図2のステップS30でノイズ等の音圧を完全に除去できるとすると、式(8)に示すように、dは省略することができる。
SR = c*P (8)
【0039】
時刻0(ゼロ)、すなわち、運転開始時点では、圧力損失P0がフィルター30の定格初期圧損値を示す。一方、運転開始時点における反射音圧SR0は、式(6)より求められ、すなわちβである。
【0040】
そこで、フィルター30の目詰まり(圧力損失)Pがある値に達する時刻を推定する(ステップ110)。例えば、フィルター30の定格最終圧損PEの時刻を推定する場合について説明する。定格最終圧損PEとは、フィルター毎に健全な使用をメーカが保証する最大圧損である。反射音圧と圧損とは比例するので、定格最終圧損PEのときの反射音圧SREが式(9)で求まる。
SRE = SR0/P0*PE (9)
時刻と反射音圧の関係は式(6)で与えられるので、定格最終圧損PEに達する時刻(運転時間)は、式(10)で得られる。
t = (SRE-β)/α = (SRE-SR0)/α (10)
なお、βは運転開始時点での反射音圧であり、初期反射音圧SR0である。
【0041】
このように、本発明によるフィルターの目詰まりを推定する方法あるいはシステムを用いれば、スピーカ42とマイク40とがフィルター30の反対側にあっても、同じ側にあっても、諸条件で使用されるフィルターの音圧を所定の時間に亘って測定することにより、フィルターの交換あるいは洗浄時期を適切に知ることができる。なお、運転時間と音圧データとの関係を一次式(線形)回帰法を用いて求めたが、多項式回帰等、他の回帰法を用いてもよい。フィルターの濾材、浮遊物の種類あるいは特殊な環境においては、多項式回帰法の方がより正確に近似できる場合もあり得る。ただし、運転時間と音圧データとの関係としては、運転開始時点と、フィルターの交換あるいは洗浄時期とが求められればよく、その間の変化は重要ではないことが通常であり、係数も少なく扱いやすい線形回帰法で済む場合が多い。
【0042】
なお、例えば、フィルター30の圧損が、初期圧損P0と最終圧損PEとの間の所望の圧損Pになる時刻は、上述の時刻の推定で、PEの代わりに所望の圧損Pを用いることにより、推定される。
【0043】
なお、時刻と音圧の関係を求める(ステップS100)を行う所定時間を1つに定めず、任意の時間毎に行ってもよい。その場合には、所定時間が短いと、求められる時刻と音圧の関係あるは時刻とフィルター30の目詰まりの関係の正確性が劣る場合がある。
【0044】
また、例えば、黄砂の飛来や台風など、空調設備1で吸引する外気の状態に大きな変化が生じた場合には、その後に時刻と音圧の関係あるは時刻とフィルター30の目詰まりの関係を再度求めることにより、より正確な関係が求められる。このように適宜フィルター30の目詰まりを推定することで、予めフィルターの交換あるいは洗浄時期を予測しつつ、その時期が近づくにつれさらに精度高く、効率よく、フィルターの交換あるいは洗浄をおこなうことができる。
【0045】
これまでの説明では、フィルター30の上流側にスピーカ42、下流側にマイク40を設置するもの、あるいは、フィルター30の下流側ににスピーカ42とマイク40を設置するものとしたが、上流側にマイク40、下流側にスピーカ42を設置してもよく、また、フィルター30の上流側にスピーカ42とマイク40を設置してもよい。また、図1および図6では、送風タイプのブロワを用いているが、吸引タイプのブロワを用い、フィルターがブロワの上流に設置されていてもよい。
【0046】
なお、図6に示すようにスピーカ42とマイク40をフィルター30の同じ側に設置する場合には、スピーカ42とマイク40とを共通の取付治具に設置することもできる。スピーカ42とマイク40とを共通の取付治具に設置すると、(例えば図10に示すように?)取付治具、スピーカ42およびマイク40を1つのカセットとして組み立てられ、フィルター30が設置された現場での作業が容易になる。
【0047】
なお、これまで説明した方法では、時刻と音圧との関係を信頼性高く求められるだけのデータが集まるまでの時間は、例えば、1年程度の使用を予定しているフィルター30では、1カ月、3カ月、6カ月などの時間となる。これは、測定音圧のばらつきが大きいためである。
【0048】
この測定音圧のばらつきの原因は、フィルター表面の複雑な形状であると考えられる。フィルターは、表面積を増やし、通過する空気の圧力損失を少なくするために、波状に折り畳まれた形状になっているのが一般的である。したがって、音圧がフィルターに衝突する角度も、場所によって異なり、奥行きにも差があるので、衝突時の音圧の波高が同じではなくなる。さらに、通風時のフィルターは、通風の影響で細かく振動しており、フィルターの波状の位置が変化する。これらのことが、測定音圧のばらつきの原因と考えられる。
【0049】
これらの原因を前提とすると、測定音圧のばらつきの中心値を得るために、例えば下記の3方法が考えられる。
(1)特定の測定周波数と、それを中心に、前後にわずかに周波数の違う複数の周波数での測定を多数回、短時間で行う。
(2)フィルター面と音圧の衝突条件をずらせることにより、透過音圧、反射音圧の値を故意にばらつかせる。
(3)ばらついた多くの音圧測定値の標本平均値を、その測定周波数の透過音圧値及び反射音圧値とする。
【0050】
このような測定方法を採用することにより、特定の空調設備の条件におけるフィルターの透過音圧または反射音圧を短時間で測定することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 空調設備
10 ダクト
20 ブロワ
22 ファン
24 モータ
26 インバータ
30 フィルター
40 マイク(音圧測定器)
42 スピーカ
50 バンドパスフィルター(データ抽出手段)
60 メモリ(データ記憶手段)
70 制御装置
80 目詰まり推定手段
100、200 フィルターの目詰まり推定システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9