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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051069
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】水系防食塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20230404BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20230404BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20230404BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230404BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230404BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230404BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230404BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20230404BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20230404BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/08
C09D4/02
C09D7/63
C09D7/61
C09D5/02
B05D7/24 303E
B05D7/24 302U
B05D7/24 303A
B05D7/24 302Z
B05D7/24 302P
B05D7/24 301U
B05D3/00 F
B05D7/00 K
B05D7/14 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161524
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々岡 博昭
(72)【発明者】
【氏名】片岡 義朗
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA02
4D075AE03
4D075BB02X
4D075BB03X
4D075BB04X
4D075BB16X
4D075BB60Z
4D075BB65X
4D075CA33
4D075CA38
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB01
4D075DB02
4D075EA06
4D075EA27
4D075EA41
4D075EB22
4D075EB24
4D075EB33
4D075EB51
4D075EB56
4D075EC01
4D075EC02
4D075EC07
4D075EC11
4D075EC13
4D075EC15
4D075EC31
4D075EC33
4D075EC35
4J038DB061
4J038FA111
4J038HA336
4J038JB01
4J038KA03
4J038KA05
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA03
4J038PB06
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】防食性に優れ、FR抑制性および初期耐水性が両立した防食塗膜を形成できる水系防食塗料組成物を提供すること。
【解決手段】エポキシ樹脂(A)と、アミン化合物(B)と、フラッシュラスト抑制剤(C)と、多官能(メタ)アクリレート(D)とを含有する、水系防食塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)と、アミン化合物(B)と、フラッシュラスト抑制剤(C)と、多官能(メタ)アクリレート(D)とを含有する、水系防食塗料組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂(A)および多官能(メタ)アクリレート(D)を含有する第1剤と、
前記アミン化合物(B)およびフラッシュラスト抑制剤(C)を含有する第2剤と
を含む、請求項1に記載の水系防食塗料組成物。
【請求項3】
前記多官能(メタ)アクリレート(D)が、3官能以上の(メタ)アクリレート化合物である、請求項1または2に記載の水系防食塗料組成物。
【請求項4】
下記式(1)で表される官能基比が0.010~0.30である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水系防食塗料組成物。
官能基比=(前記多官能(メタ)アクリレート(D)の固形分の配合量/前記多官能(メタ)アクリレート(D)の固形分の官能基当量)/(前記アミン化合物(B)の固形分の配合量/前記アミン化合物(B)の固形分の活性水素当量) ・・・(1)
【請求項5】
乾燥膜厚が80μm以上の防食塗膜形成用である、請求項1~4のいずれか1項に記載の水系防食塗料組成物。
【請求項6】
溶接部を有する基材用である、請求項1~5のいずれか1項に記載の水系防食塗料組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の水系防食塗料組成物より形成された防食塗膜。
【請求項8】
請求項7に記載の防食塗膜と基材とを含む防食塗膜付き基材。
【請求項9】
前記基材が溶接部を有する基材である、請求項8に記載の防食塗膜付き基材。
【請求項10】
下記工程[1]および[2]を含む、防食塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に、請求項1~6のいずれか1項に記載の水系防食塗料組成物を塗装する工程
[2]塗装された水系防食塗料組成物を乾燥させて防食塗膜を形成する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系防食塗料組成物、防食塗膜、防食塗膜付き基材および防食塗膜付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼構造物などの基材の長期保護を目的として、該基材には、エポキシ樹脂系防食塗料組成物などの防食塗料組成物が塗装されている。
近年、自然環境、塗装作業環境等への配慮を目的とする有機溶剤排出規制の強化に伴い、防食塗料組成物としては、溶剤系の防食塗料組成物の低VOC(揮発性有機化合物)化が進んでいる。この低VOC化の方法の一つとして、塗料の水系化が挙げられる。
【0003】
水系の防食塗料組成物は、塗料中に水を含むことから、塗料を塗装してから塗料が乾燥して成膜するまでの間に、フラッシュラスト(以下「FR」ともいう。)と呼ばれる錆が発生する現象が起こりやすい。
このようなFRの発生を抑制するために、水系の防食塗料組成物には、FR抑制剤が配合されることが多く、例えば、特許文献1に記載の水系塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-122114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水系の防食塗料組成物にFR抑制剤を配合すると、FRの発生を抑制することはできるが、一方で、低温硬化性の低下に起因した初期耐水性(完全硬化前耐水性)が低下することがあることが分かった。具体的には、冬期に屋外でFR抑制剤を含む水系防食塗料組成物を基材に塗装した後、降雨などにより塗装後の基材に水が接触すると、防食塗膜にフクレやクラックが生じることが分かった。
つまり、従来の水系防食塗料組成物は、FRの発生の抑制と初期耐水性とを同時に達成できず、これらの両立の点で改良の余地があった。
【0006】
また、FRの発生をより抑制するために、形成する防食塗膜の膜厚を厚く(例:80μm以上)するほど、初期耐水性は不良傾向となることが分かった。
さらに、溶接部を有する基材には、特にFRが発生しやすいことが分かった。
【0007】
本発明は以上のことに鑑みてなされたものであり、防食性に優れ、FR抑制性および初期耐水性が両立した防食塗膜を形成できる水系防食塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が、前記課題を解決する方法について鋭意検討を重ねた結果、以下の構成例によれば前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成例は以下の通りである。
【0009】
<1> エポキシ樹脂(A)と、アミン化合物(B)と、フラッシュラスト抑制剤(C)と、多官能(メタ)アクリレート(D)とを含有する、水系防食塗料組成物。
【0010】
<2> 前記エポキシ樹脂(A)および多官能(メタ)アクリレート(D)を含有する第1剤と、
前記アミン化合物(B)およびフラッシュラスト抑制剤(C)を含有する第2剤と
を含む、<1>に記載の水系防食塗料組成物。
【0011】
<3> 前記多官能(メタ)アクリレート(D)が、3官能以上の(メタ)アクリレート化合物である、<1>または<2>に記載の水系防食塗料組成物。
【0012】
<4> 下記式(1)で表される官能基比が0.010~0.30である、<1>~<3>のいずれかに記載の水系防食塗料組成物。
官能基比=(前記多官能(メタ)アクリレート(D)の固形分の配合量/前記多官能(メタ)アクリレート(D)の固形分の官能基当量)/(前記アミン化合物(B)の固形分の配合量/前記アミン化合物(B)の固形分の活性水素当量) ・・・(1)
【0013】
<5> 乾燥膜厚が80μm以上の防食塗膜形成用である、<1>~<4>のいずれかに記載の水系防食塗料組成物。
【0014】
<6> 溶接部を有する基材用である、<1>~<5>のいずれかに記載の水系防食塗料組成物。
【0015】
<7> <1>~<6>のいずれかに記載の水系防食塗料組成物より形成された防食塗膜。
【0016】
<8> <7>に記載の防食塗膜と基材とを含む防食塗膜付き基材。
<9> 前記基材が溶接部を有する基材である、<8>に記載の防食塗膜付き基材。
【0017】
<10> 下記工程[1]および[2]を含む、防食塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に、<1>~<6>のいずれかに記載の水系防食塗料組成物を塗装する工程
[2]塗装された水系防食塗料組成物を乾燥させて防食塗膜を形成する工程
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、防食性に優れ、FR抑制性および初期耐水性が両立した防食塗膜を形成できる。さらに本発明によれば、膜厚の厚い防食塗膜を形成した場合であっても、また、溶接部を有する基材に防食塗膜を形成した場合であっても、防食性に優れ、FR抑制性および初期耐水性が両立した防食塗膜を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
≪水系防食塗料組成物≫
本発明に係る水系防食塗料組成物(以下「本組成物」ともいう。)は、エポキシ樹脂(A)[以下単に「成分(A)」ともいう。他の成分についても同様。]と、アミン化合物(B)と、フラッシュラスト抑制剤(C)と、多官能(メタ)アクリレート(D)とを含有する。
【0020】
前記水系防食塗料組成物とは、組成物中の分散媒および溶媒の合計量100質量%に対し、水の含有量が50質量%以上である組成物のことをいい、該水の含有量は、好ましくは70~100質量%、より好ましくは75~100質量%である。
また、本組成物中の水の含有量は、特に制限されないが、好ましくは10~50質量%、より好ましくは25~45質量%である。
【0021】
本組成物によれば、防食性に優れ、FR抑制性および初期耐水性が両立した防食塗膜を容易に形成することができるため、本組成物は、このような防食性が求められる基材に対し、好適に用いられるが、本組成物の効果がより発揮される等の点からは、乾燥膜厚が80μm以上の防食塗膜を形成することが求められる用途(乾燥膜厚が80μm以上の防食塗膜形成用)や、溶接部を有する基材等のFRが発生しやすい基材を防食する用途により好適に用いられる。
【0022】
本組成物は、一成分型の組成物であってもよいが、貯蔵安定性および貯蔵の容易性を考慮すると、第1剤および第2剤を含む多成分型の組成物であることが好ましい。このような多成分型の組成物としては、前記成分(A)および成分(D)を含有する第1剤と、前記成分(B)および成分(C)を含有する第2剤とを含む二成分型の組成物が好ましい。また、本組成物は、前記第1剤および第2剤以外の第3剤等を含む三成分以上型の組成物であってもよい。
これら第1剤、第2剤や第3剤等は、通常、それぞれ別個の容器にて保存、貯蔵、運搬等され、使用直前に混合して用いられる。
前記多成分型の組成物は、前記第1剤と第2剤と必要により第3剤等とを混合して得られた組成物である。このような多成分型の組成物における、前記第1剤、第2剤および第3剤等は、本組成物を調製するためのキットの構成要素であるともいえ、換言すれば、このような多成分型の本組成物は、第1剤と第2剤と必要により第3剤等とを含む水系防食塗料組成物用キットであるといえる。
【0023】
<第1剤>
前記第1剤は、より初期耐水性に優れる防食塗膜を容易に形成できる等の点から、成分(A)および成分(D)を含有することが好ましく、これらを含有する液体であることがより好ましい。
これらの成分を含有する第1剤は主剤であるともいえる。
【0024】
〈エポキシ樹脂(A)〉
前記成分(A)としては特に制限されないが、水性エポキシ樹脂であることが好ましく、1分子中に2個以上のエポキシ基を有していることが好ましい。
成分(A)の分子量、エポキシ当量等の樹脂物性値は特に制限されない。
本組成物に用いる成分(A)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0025】
成分(A)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等)、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族変性エポキシ樹脂が挙げられる。
【0026】
本組成物(特に第1剤)を調製する際の成分(A)の原料としては、エマルションやディスパージョンを用いてもよく、エマルションやディスパージョン等を用いる場合には、該原料100質量%中のエポキシ樹脂の含有量は、調製容易性、保存安定性等により優れる組成物を得ることができる等の点から、好ましくは40~90質量%である。
前記原料の残分には、水が含まれていればよく、必要により、界面活性剤等の従来公知の成分が含まれていてもよい。
【0027】
前記成分(A)の原料としては、市販品を用いてもよく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエマルションである、ユカレジン RE-1050(吉村油化学(株)製)、ECOBOND SEW-47S(SNC Chemicals社製)、アデカレジン EM-101-50((株)アデカ製)、自己乳化型ビスフェノールA型エポキシ樹脂である、アデカレジン EM-0425C((株)アデカ製)が挙げられる。
【0028】
成分(A)の固形分の含有量は、防食性、耐水性および基材に対する付着性によりバランスよく優れる防食塗膜を容易に形成できる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは20~50質量%、より好ましくは25~45質量%である。
【0029】
本組成物の不揮発分は、本組成物を十分に反応硬化(加熱)した後の塗膜(加熱残分)の質量百分率、または、該塗膜(加熱残分)自体を意味する。前記不揮発分は、JIS K 5601-1-2を基に、本組成物(例えば、第1剤と第2剤とを混合した直後の組成物)1±0.2gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って均一に広げ、23℃で24時間乾燥させた後、加熱温度125℃で1時間(常圧下)加熱した時の、加熱残分および該針金の質量を測定することで算出することができる。なお、この不揮発分は、本組成物に用いる原料成分の固形分(分散媒および溶媒以外の成分)の総量と同等の値である。
【0030】
なお、本発明では、第1剤、第2剤、成分(A)~(D)および下記その他の成分中の分散媒および溶媒(揮発成分)以外の成分を「固形分」という。
【0031】
〈多官能(メタ)アクリレート化合物(D)〉
前記成分(D)としては特に制限されず、例えば、2官能(メタ)アクリレート化合物、3官能以上の(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。これらの中でも、架橋点が多く、架橋密度が上がり、初期耐水性が向上する等の点から、3官能以上の(メタ)アクリレート化合物を用いることが好ましい。
本組成物に用いる成分(D)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0032】
2官能(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(例:ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、その他のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート)、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(例:トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、その他のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-((メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-((メタ)アクリロイルオキシ・ジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-((メタ)アクリロイルオキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパンが挙げられる。
これらの中でも、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0033】
3官能以上の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート;これら(メタ)アクリレート化合物のポリアルキレンオキサイド(-(R-O)n-[Rはアルキレン基であり、nは繰り返し単位数であり、2以上の数値である]変性体(例:ポリエチレンオキサイド(以下「PEO」ともいう。)変性体、ポリプロピレンオキサイド変性体、ポリブチレンオキサイド変性体))が挙げられる。
これらの中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0034】
前記の通り、成分(D)としては、ポリアルキレンオキサイド(以下「PAO」ともいう。)構造を有する(メタ)アクリレートを用いることもできるが、本組成物に含まれる成分(D)由来のポリアルキレンオキサイド構造の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは2.5質量%以下であり、その下限は特に制限されず0質量%である。
本組成物に含まれる成分(D)由来のPAO構造の含有量が前記範囲にあると、塗膜の耐水性を低下させることなく、防食性に優れ、FR抑制性および初期耐水性が両立した防食塗膜を形成できる。
なお、前記本組成物に含まれる成分(D)由来のPAO構造の含有量は、本組成物を調製する際の原料として用いる成分(D)中に含まれるPAO構造の含有量と、本組成物に配合する成分(D)の配合割合とから算出する。
【0035】
成分(D)の固形分の含有量は、FR抑制性および初期耐水性によりバランスよく優れる防食塗膜を容易に形成できる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.005~5.0質量%、より好ましくは0.01~4.5質量%、さらに好ましくは0.05~3.5質量%である。
【0036】
また、FR抑制性および初期耐水性によりバランスよく優れる防食塗膜を容易に形成できる等の点から、下記式(1)で表される官能基比は、好ましくは0.010~0.30、より好ましくは0.015~0.25、さらに好ましくは0.020~0.22である。
官能基比=(成分(D)の固形分の配合量/成分(D)の固形分の官能基当量)/(成分(B)の固形分の配合量/(成分(B)の固形分の活性水素当量) ・・・(1)
【0037】
前記成分(D)の官能基当量は、(メタ)アクリル当量や二重結合当量ともいい、成分(D)1molの質量からその中に含まれる官能基((メタ)アクリロイル基)のmol数を除して得られた1mol官能基あたりの質量(g)を意味する。
【0038】
前記各成分の「官能基当量」とは、これらの成分1molの質量からその中に含まれる官能基のmol数を除して得られた1mol官能基あたりの質量(g)を意味する。
【0039】
〈その他の成分〉
第1剤は、成分(A)および成分(D)以外に、所望により、本発明の効果を損なわない範囲で、顔料(成分(C)を除く)、顔料分散剤、消泡剤、タレ止め剤(沈降防止剤、揺変剤、レオロジーコントロール剤)、造膜助剤、付着強化剤(例:シランカップリング剤)、可塑剤、水、有機溶剤等のその他の成分を含んでいてもよい。
これらその他の成分は、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0040】
[顔料]
本組成物および第1剤は、顔料を含有していてもよく、顔料を含有していることが好ましい。
該顔料としては、例えば、体質顔料、着色顔料、防錆顔料が挙げられ、有機系、無機系のいずれであってもよい。
【0041】
前記体質顔料としては、例えば、タルク、マイカ、(沈降性)硫酸バリウム、(カリ)長石、カオリン、アルミナホワイト、ベントナイト、ウォラストナイト、クレー、ガラスフレーク、アルミフレーク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、ドロマイト、シリカが挙げられる。特に、タルク、マイカ、シリカ、(沈降性)硫酸バリウム、(カリ)長石が好ましい。
【0042】
本組成物が体質顔料を含有する場合、該体質顔料の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは1~50質量%、より好ましくは5~40質量%である。
【0043】
前記着色顔料としては、例えば、カーボンブラック、二酸化チタン(チタン白)、酸化鉄(弁柄)、黄色酸化鉄、鱗片状酸化鉄、群青等の無機顔料、シアニンブルー、シアニングリーン等の有機顔料が挙げられる。特に、チタン白、カーボンブラック、弁柄が好ましい。
【0044】
本組成物が着色顔料を含有する場合、該着色顔料の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.1~40質量%である。
【0045】
前記防錆顔料としては、例えば、リン酸亜鉛系化合物、リン酸カルシウム系化合物、リン酸アルミニウム系化合物、リン酸マグネシウム系化合物、亜リン酸亜鉛系化合物、亜リン酸カルシウム系化合物、亜リン酸アルミニウム系化合物、亜リン酸ストロンチウム系化合物、トリポリリン酸アルミニウム系化合物、モリブデン酸塩系化合物、シアナミド亜鉛系化合物、ホウ酸塩化合物、ニトロ化合物、複合酸化物が挙げられる。
【0046】
本組成物が防錆顔料を含有する場合、該防錆顔料の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは1~20質量%、より好ましくは3~15質量%である。
【0047】
本組成物が顔料を含有する場合、本組成物中の顔料体積濃度(PVC)は、塗装作業性に優れる本組成物を容易に得ることができ、応力緩和による基材との付着性および防食性に優れる防食塗膜を容易に形成することができる等の点から、好ましくは1~40%、より好ましくは10~35%、さらに好ましくは20~35%である。
【0048】
前記PVCは、本組成物の不揮発分の体積に対する、顔料の合計の体積濃度のことをいう。PVCは、具体的には下記式(2)より求めることができる。
PVC[%]=本組成物中の全ての顔料の体積合計×100/本組成物の不揮発分の体積 ・・・(2)
【0049】
前記本組成物の不揮発分の体積は、本組成物の不揮発分の質量および真密度から算出することができる。前記不揮発分の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。
前記顔料の体積は、用いた顔料の質量および真密度から算出することができる。前記顔料の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。例えば、本組成物の不揮発分より顔料と他の成分とを分離し、分離された顔料の質量および真密度を測定することで算出することができる。
【0050】
[顔料分散剤]
前記顔料分散剤としては、公知の有機系または無機系の各種顔料分散剤が挙げられ、例えば、脂肪族アミンまたは有機酸類(例:「Disperbyk-2055」(ビックケミー・ジャパン(株)製)、「Disperbyk-101」(ビックケミー・ジャパン(株)製)、「BYK-190」(ビックケミー・ジャパン(株)製)、「ANTI-TERRA-250」(ビックケミー・ジャパン(株)製))が挙げられる。
【0051】
本組成物が顔料分散剤を含有する場合、該顔料分散剤の固形分の含有量は、塗料粘度低減効果、色分かれ防止効果等に優れる組成物を容易に得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~6質量%である。
【0052】
[消泡剤]
本組成物は、該組成物の製造時や塗装時に泡の発生を抑えることができ、または、本組成物中に発生した泡を破泡することができ、所望の物性の防食塗膜を容易に形成することができる等の点から、消泡剤を含有することが好ましい。
前記消泡剤としては市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、「BYK-392」、「BYK-066N」、「BYK-1790」(いずれもビックケミー・ジャパン(株)製)、「TEGO Airex 902W」(EVONIK Industries社製)、「SURFYNOL SE-F」(EVONIK Industries社製)、「Spectrasyn 40」(Exxonmobil Chemical Company製)が挙げられる。
【0053】
本組成物が消泡剤を含有する場合、該消泡剤の固形分の含有量は、泡の発生を十分に抑えることができ、所望の物性の防食塗膜を容易に形成できる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.05~5.0質量%、より好ましくは0.1~2.0質量%である。
【0054】
[タレ止め剤]
前記タレ止め剤は特に制限されないが、本組成物中の顔料等の沈降を抑制し、その貯蔵安定性を向上させることができる材料、または、塗装時や塗装後の本組成物のタレ止め性を向上させることができる材料であることが好ましい。
前記タレ止め剤としては、Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩などの有機粘土系ワックス、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス、水添ヒマシ油ワックスおよびアマイドワックスの混合物、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックス、鉱物粘土系粘性調整剤、ウレタン会合系粘性調整剤、アクリル酸系粘性調整剤、セルロース系粘性調整剤等、従来公知のタレ止め剤を使用できるが、中でも、アマイドワックス、および鉱物粘土系粘性調整剤が好ましい。
【0055】
このようなタレ止め剤としては市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、楠本化成(株)製の「Disparlon HQ-800」ビックケミー・ジャパン(株)製の「RHEOBYK 420」、共栄社化学(株)製の「チクドールW-502」,Elementis Specialties, Inc.製の「BENTONE LT」、「BENTONE DE」、日本アエロジル(株)製の「Aerosil R972」が挙げられる。
【0056】
本組成物がタレ止め剤を含有する場合、該タレ止め剤の固形分の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.1~10質量%である。
【0057】
[造膜助剤]
本組成物は、水を含有することに起因し、冬季に組成物が凍結することがあるため、また、低温下における成膜性や得られる塗膜の仕上がり外観を向上させる等の点から、造膜助剤を含むことが好ましい。
【0058】
前記造膜助剤としては、常圧下での沸点が180℃以上の有機化合物等の、水系塗料組成物に通常使用されるものを用いることができ、例えば、炭素数5~15の直鎖状または分岐状の脂肪族アルコール類;ベンジルアルコール等の芳香環を有するアルコール類;(ポリ)エチレングリコールまたは(ポリ)プロピレングリコール等のモノエーテル類;(ポリ)エチレングリコールエーテルエステル類;(ポリ)プロピレングリコールエーテルエステル類;が挙げられる。
【0059】
本組成物が造膜助剤を含有する場合、その含有量は、低温下における成膜性や外観に優れる防食塗膜を容易に形成できる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは2~15質量%である。
【0060】
[水]
本組成物(特に第1剤)を調製する際に用いる成分(A)等の原料には水が含まれている場合があるが、本組成物や第1剤の調製をより容易にし、該組成物や第1剤の貯蔵安定性を向上させる等の点から、本組成物や第1剤にはさらに水を配合することが好ましい。
該配合する水としては特に制限されず、水道水等を用いてもよいが、イオン交換水、脱イオン水等を用いることが好ましい。
【0061】
第1剤中の水の含有量(第1剤を調製する際に用いる成分(A)等の原料に含まれ得る水を含む)は、特に制限されないが、好ましくは0~65質量%、より好ましくは20~55質量%である。
また、第1剤中の水の含有量は、所望の本組成物を容易に得ることができる等の点から、第1剤中の分散媒および溶媒の合計量100質量%に対し、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70~100質量%、特に好ましくは80~100質量%である。
【0062】
[有機溶剤]
前記有機溶剤としては、常圧下での沸点が180℃未満の有機溶剤であれば特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン系溶剤、ブチルセロソルブ等のエーテル系溶剤、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、イソプロパノール、イソブチルアルコール、n-ブタノール、メトキシプロパノール等のアルコール系溶剤、n-ヘキサン、n-オクタン、2,2,2-トリメチルペンタン、イソオクタン、n-ノナン等の脂肪族炭化水素系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤が挙げられる。
本組成物は、有機溶剤を含んでいてもよいが、有機溶剤を含まないことが好ましい。
【0063】
<第2剤>
前記第2剤は、よりFR抑制性に優れる防食塗膜を容易に形成できる等の点から、成分(B)および成分(C)を含有することが好ましく、これらを含有する液体であることがより好ましい。
これらの成分を含有する第2剤は硬化剤であるともいえる。
【0064】
〈アミン化合物(B)〉
前記成分(B)としては特に制限されず、エポキシ化合物等の硬化剤として使用されてきた従来公知のアミン化合物を用いることができる。
本組成物に用いる成分(B)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0065】
成分(B)としては、三級アミン(3級アミノ基のみを有するアミン化合物)および後述のフラッシュラスト抑制剤(C)以外のアミン化合物であれば特に制限されないが、1分子中に2個以上のアミノ基を含有するアミン化合物が好ましく、脂肪族系、脂環族系、芳香族系などのアミン化合物が好ましい。
【0066】
前記脂肪族系アミン化合物としては、例えば、アルキレンポリアミン、ポリアルキレンポリアミン、アルキルアミノアルキルアミンが挙げられる。
【0067】
前記アルキレンポリアミンとしては、例えば、式:「H2N-R1-NH2」(R1は、炭素数1~12の二価の炭化水素基である。)で表される化合物が挙げられ、具体例としては、メチレンジアミン、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、トリメチルヘキサメチレンジアミンが挙げられる。
【0068】
前記ポリアルキレンポリアミンとしては、例えば、式:「H2N-(Cm2mNH)nH」(mは1~10の整数である。nは2~10の整数であり、好ましくは2~6の整数である。)で表される化合物が挙げられ、具体例としては、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ノナエチレンデカミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレン-ビス(トリメチレン)ヘキサミンが挙げられる。
【0069】
前記アルキルアミノアルキルアミンとしては、例えば、式:「R2 2N-(CH2p-NH2」(R2は独立して、水素原子または炭素数1~8のアルキル基であり(但し、少なくとも1つのR2は炭素数1~8のアルキル基である。)、pは1~6の整数である。)で表される化合物が挙げられ、具体例としては、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジブチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノブチルアミンが挙げられる。
【0070】
これら以外の脂肪族系アミン化合物としては、例えば、テトラ(アミノメチル)メタン、テトラキス(2-アミノエチルアミノメチル)メタン、1,3-ビス(2'-アミノエチルアミノ)プロパン、トリス(2-アミノエチル)アミン、ビス(シアノエチル)ジエチレントリアミン、ポリオキシアルキレンポリアミン(特に、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル)、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン(IPDA)、メンセンジアミン(MDA)、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン(MXDA)、p-キシリレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン、ビス(アミノエチル)ナフタレン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1-(2'-アミノエチルピペラジン)、1-[2'-(2''-アミノエチルアミノ)エチル]ピペラジンが挙げられる。
【0071】
前記脂環族系アミン化合物の具体例としては、シクロヘキサンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン(特に、4,4'-メチレンビスシクロヘキシルアミン)、4,4'-イソプロピリデンビスシクロヘキシルアミン、ノルボルナンジアミン、2,4-ジ(4-アミノシクロヘキシルメチル)アニリンが挙げられる。
【0072】
前記芳香族系アミン化合物としては、例えば、ベンゼン環やナフタレン環等の芳香環に結合した2個以上の1級アミノ基を有する芳香族ポリアミン化合物が挙げられる。
この芳香族系アミン化合物の具体例としては、フェニレンジアミン、ナフタレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルフェニルメタン、2,4'-ジアミノビフェニル、2,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシ-4,4'-ジアミノビフェニル、ジエチルメチルベンゼンジアミンが挙げられる。
【0073】
成分(B)としては、さらに、前述したアミン化合物の変性物、例えば、ポリアミドアミン等の脂肪酸変性物、エポキシ化合物とのアミンアダクト、マンニッヒ変性物(例:フェノール由来骨格を有するマンニッヒ変性アミン(フェナルカミン、フェナルカマイド等))、マイケル付加物、ケチミン、アルジミンが挙げられる。これらの中では、ポリアミドアミン、エポキシ化合物とのアミンアダクト、および、フェノール由来骨格を有するマンニッヒ変性アミンが好ましい。
【0074】
本組成物(特に第2剤)を調製する際の成分(B)の原料としては、水希釈性アミン化合物を用いてもよく、非水性アミン化合物を用いてもよいが、防食性および乾燥性に優れる防食塗膜を容易に形成することができる等の点から、水希釈性アミン化合物を用いることが好ましい。
【0075】
水希釈性アミン化合物に相当するアミン化合物の原料の具体例としては、水溶性アミン化合物、アミン化合物の水溶液、アミン化合物の水分散体(例:アミンエマルション)、自己乳化型アミン化合物が挙げられる。これらの中でも、取り扱いが容易であり、本組成物(特に第2剤)の調製が容易となる等の点から、水溶性アミン化合物を用いることが好ましい。
【0076】
前記水溶性アミン化合物としては、前述のアミン化合物または前述のアミン化合物を公知の方法で親水性とした化合物が挙げられる。該親水化の方法としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基、水酸基など水溶性を促進する基の導入や、ポリアルキレングリコールのグリシジルエーテルをアダクト変性する等の親水性基の導入が挙げられる。
なお、水溶性アミン化合物とは、25℃で、水30質量%とアミン化合物70質量%とを混合し、十分撹拌した状態において、外観が透明である化合物のことをいう。
【0077】
このような水溶性アミン化合物としては市販品を用いることができ、該市販品としては、例えば、「ダイトクラール I-6020」(大都産業(株)製)、「Cardolite NX8101」(Cardolite Corporation製)、「KCA-7700」(KUMHO P&B Chemicals社製)、「BECKOPOX EH 613w/80WA」(ALLNEX社製)、「Sunmide WH-900」(Evonik Industries社製)が挙げられる。
【0078】
前記アミンエマルションの具体例としては、前記アミン化合物と、ポリアルキレングリコールのグリシジルエーテルや、ポリオキシアルキレンアミンおよびエポキシ化合物等とを反応させるなどして得られる親水性を有するアミン、脂肪酸と前記アミン化合物とを用いて得られたアミド構造を有するアミン、または、前記アミン化合物を、酸で中和することや乳化剤と混合することにより乳化する能力を付与したアミンを、(強制的に)水に分散させたものが挙げられる。
【0079】
前記アミンエマルションとしては、例えば、アミン化合物が水等の水性媒体中で分散してなる乳濁液が挙げられる。
前記乳濁液とは、透明なガラス容器に入れた乳濁液に対し、容器の前面から15cmの距離にあり、かつ、容器に対して正対の位置からレーザーポインター(型式:TLP-3200、アイガーツール社製)を照射した場合に、レーザー光を透過しない状態をいう。
このようなアミンエマルションとしては市販品を用いることができ、該市販品としては、例えば、「フジキュアー FXS-918-FA」((株)T&K TOKA製)、「EPILINK 701」(Evonik Industries社製)、「ユカレジン HD-03」(吉村油化学(株)製)が挙げられる。
【0080】
前記自己乳化型アミン化合物とは、酸や乳化剤と混合することなく、後述する水性媒体と混合することにより乳化する能力を有するアミン化合物である。具体例としては、前記アミン化合物と、ポリアルキレングリコールのグリシジルエーテルや、ポリオキシアルキレンアミンおよびエポキシ化合物等とを反応させるなどして得られる親水性を有するアミン、脂肪酸と前記アミン化合物とを用いて得られたアミド構造を有するアミンが挙げられる。
【0081】
前記水性媒体としては、水を含んでいれば特に制限されないが、水性媒体中の水の含有量は、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%である。
【0082】
前記水性媒体には、水以外の常圧下での沸点が180℃未満の媒体が含まれていてもよく、このような媒体としては、例えば、アセトン、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテルが挙げられる。これらは、1種または2種以上を用いることができる。
【0083】
成分(B)は、基材への付着性に優れ、耐水性が早期に発現する塗膜を容易に得ることができる等の点から水溶性アミン化合物、特に水溶性ポリアミンが好ましい。さらに、本組成物(特に第2剤)を調製する際の成分(B)の原料としては、耐フラッシュラスト性に優れる組成物を容易に得ることができる等の点から、乳化剤を含まない水溶性ポリアミンがより好ましい。
【0084】
硬化性および防食性等に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、前記アミン化合物の固形分あたりの活性水素当量は、好ましくは30~500、より好ましくは40~300である。
【0085】
成分(B)の固形分の含有量は、防食性および乾燥性に優れる防食塗膜を容易に形成できる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは1~20質量%、より好ましくは2~10質量%である。
【0086】
また、防食性、塗膜強度および乾燥性に優れる防食塗膜を容易に形成することができる等の点から、成分(B)は、下記式(3)で算出される反応比が、好ましくは0.3~1.5、より好ましくは0.4~1.2となるような量で用いることが望ましい。
【0087】
反応比={(成分(B)の固形分の配合量/成分(B)の固形分の活性水素当量)+(成分(A)に対して反応性を有する成分の固形分の配合量/成分(A)に対して反応性を有する成分の固形分の官能基当量)}/{(成分(A)の固形分の配合量/成分(A)の固形分のエポキシ当量)+(成分(B)に対して反応性を有する成分の固形分の配合量/成分(B)に対して反応性を有する成分の固形分の官能基当量)} ・・・(3)
【0088】
ここで、前記式(3)における「成分(A)に対して反応性を有する成分」としては、例えば、シランカップリング剤が挙げられ、「成分(B)に対して反応性を有する成分」としては、例えば、成分(D)やシランカップリング剤が挙げられる。
シランカップリング剤としては、反応性基としてアミノ基やエポキシ基を有するシランカップリング剤を使用することができるため、該反応性基の種類によって、該シランカップリング剤が成分(A)に対して反応性を有するのか、成分(B)に対して反応性を有するのかを判断し、反応比を算出する必要がある。
【0089】
〈フラッシュラスト抑制剤(C)〉
前記成分(C)としては特に制限されないが、本組成物を活性な鋼材表面等に塗装する際に、塗装直後から乾燥過程において、該鋼材表面等から鉄イオンが溶出することなどに起因する発錆、および、その錆などが塗膜表面に浮き出てくるフラッシュラストを抑制できる材料であることが好ましい。
【0090】
成分(C)としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸アンモニウムなどの亜硝酸塩;安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸アンモニウムなどの安息香酸塩;フィチン酸ナトリウム、フィチン酸カリウムなどのフィチン酸塩;セバシン酸、ドデカン酸などの有機カルボン酸塩;アルキルリン酸、ポリリン酸などのリン酸誘導体;タンニン酸塩;スルホン酸金属塩;N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、プロピレンジアミン四酢酸(PDTA)、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DTPMP)、これらのアルカリ金属塩などのアミン系キレート剤;4-メチル-γ-オキソ-ベンゼンブタン酸とN-エチルモルホリンの付加反応物;モノアルキルアミンやポリアミン、第四級アンモニウムイオンなどをトリポリリン酸二水素アルミニウムなどの層状リン酸塩にインターカレートしてなる層間化合物;ヒドラジド化合物、セミカルバジド化合物、ヒドラゾン化合物などのヒドラジン誘導体;ベンゾトリアゾール、その誘導体、さらにその塩などのアゾール系化合物が挙げられる。
【0091】
成分(C)としては市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、「キレスライト W-410」、「キレスライト W-16B」(以上、キレスト(株)製/脂肪酸塩系)、「SN 1305」(Sae kyung Industry社製、亜硝酸塩系)、「SN 8828C」(サンノプコ(株)製、有機カルボン酸塩系)、「SF Inhibitor 6843」(BERND SCHWEGMAN社製、安息香酸塩系)、「ASCOTORAN L」(ASCOTEC社製、アゾール系)、「HALOX FLASH-X 150」(ICL Advanced Additives-Hammond社製/亜硝酸塩、安息香酸塩系)が挙げられる。
【0092】
成分(C)の固形分の含有量は、FR抑制性および初期耐水性が両立した防食塗膜を容易に形成できる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.1~5.0質量%、より好ましくは0.2~3.5質量%である。
【0093】
〈その他の成分〉
第2剤は、成分(B)および成分(C)以外に、所望により、本発明の効果を損なわない範囲で、顔料、顔料分散剤、消泡剤、タレ止め剤(沈降防止剤、揺変剤、レオロジーコントロール剤)、造膜助剤、付着強化剤(例:シランカップリング剤)、可塑剤、硬化促進剤、硬化触媒、水、有機溶剤等のその他の成分を含んでいてもよい。
これらその他の成分は、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記その他の成分は、従来公知の成分を用いることができ、顔料、顔料分散剤、消泡剤、タレ止め剤、造膜助剤、有機溶剤としては、前記第1剤の欄に記載の成分と同様の成分等が挙げられる。
【0094】
[水]
本組成物(特に第2剤)を調製する際に用いる成分(B)等の原料には水が含まれている場合があるが、本組成物や第2剤の調製をより容易にし、該組成物や第2剤の貯蔵安定性を向上させる等の点から、本組成物や第2剤にはさらに水を配合することが好ましい。
該配合する水としては特に制限されず、水道水等を用いてもよいが、イオン交換水、脱イオン水等を用いることが好ましい。
【0095】
第2剤中の水の含有量(第2剤を調製する際に用いる成分(B)等の原料に含まれ得る水を含む)は、特に制限されないが、好ましくは5~70質量%、より好ましくは10~60質量%である。
また、第2剤中の水の含有量は、所望の本組成物を容易に得ることができる等の点から、第2剤中の分散媒および溶媒の合計量100質量%に対し、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70~100質量%、特に好ましくは80~100質量%である。
【0096】
<第3剤>
前記第3剤は、成分(A)~成分(D)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、顔料(例:亜鉛粉末、亜鉛合金粉末)、顔料分散剤、消泡剤、タレ止め剤(沈降防止剤、揺変剤、レオロジーコントロール剤)、造膜助剤、付着強化剤(例:シランカップリング剤)、可塑剤、硬化促進剤、硬化触媒、水、有機溶剤等のその他の成分を含んでいてもよい。
これらその他の成分は、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記その他の成分は、従来公知の成分を用いることができ、顔料、顔料分散剤、消泡剤、タレ止め剤、造膜助剤、有機溶剤としては、前記第1剤の欄に記載の成分と同様の成分等が挙げられる。
【0097】
本組成物をジンクプライマーとして用いる場合、第3剤として、亜鉛粉末および/または亜鉛合金粉末を含むことが好ましい。
【0098】
本組成物が亜鉛粉末および/または亜鉛合金粉末を含有する場合、該亜鉛粉末および亜鉛合金粉末の合計の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは60~85質量%、より好ましくは70~80質量%である。
【0099】
<本組成物の調製方法>
本組成物、第1剤および第2剤は、これらに配合する各成分を混合(混練)することで、調製することができ、この混合(混練)の際には、各成分を一度に添加・混合してもよく、複数回に分けて添加・混合してもよい。
多成分型の本組成物は、第1剤、第2剤および必要に応じて用いられる第3剤等を混合(混練)することで、調製することができる。
前記混合(混練)の際には、従来公知の混合機、分散機、攪拌機等の装置を使用でき、該装置としては、例えば、ディスパー、混合・分散ミル、モルタルミキサー、ロール、ペイントシェーカー、ホモジナイザーが挙げられる。なお、前記混合(混練)の際には、季節、環境等に応じて加温、冷却等しながら行ってもよい。
【0100】
≪防食塗膜、防食塗膜付き基材≫
本発明に係る防食塗膜(以下「本塗膜」ともいう。)は、前記本組成物を用いて形成され、本発明に係る防食塗膜付き基材(以下「本塗膜付き基材」ともいう。)は、本塗膜と基材とを有する積層体である。
【0101】
前記基材の材質としては特に制限されず、例えば、鉄鋼(鉄、鋼、合金鉄、炭素鋼、マイルドスチール、合金鋼等)、非鉄金属(亜鉛、アルミニウム、銅、真鍮、亜鉛メッキ、亜鉛溶射等)、ステンレス(SUS304、SUS410等)が挙げられる。
また、前記基材として、例えば、マイルドスチール(SS400等)を用いる場合、必要により、グリットブラスト等で基材表面を研磨するなど、素地調整(例:算術平均粗さ(Ra)が30~75μm程度になるよう調整)しておくことが望ましい。
前記基材としては、さらに、基材に付着した錆、汚れ、塗料(旧塗膜)等を落とす洗浄処理やブラスト処理等の前処理を行った基材であってもよい。
【0102】
前記基材としては特に制限されず、防食性が求められる基材に対し、制限なく使用することができるが、本組成物を用いる効果がより発揮される等の点から、好ましくは、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、タンク、コンテナなどの(鉄鋼)構造物等が挙げられる。
また、前記基材としては、本発明の効果がより発揮される等の点から、溶接部を有する基材であることも好ましい。このような溶接部を有する基材には、FRが発生しやすいが、本組成物を用いることで、このようなFRが発生しやすい基材に対しても、十分にFRを抑制することができる。
【0103】
本塗膜の乾燥膜厚は特に限定されないが、十分な防食性を有する塗膜が得られる等の点から、通常は10~400μm、好ましくは15~300μmである。
また、本発明の効果がより発揮される等の点から、本塗膜の乾燥膜厚の下限は、好ましくは80μm以上、より好ましくは100μm以上である。本塗膜は、このような厚い膜厚とした場合に、本組成物の塗装から該組成物が完全に硬化する前に水に接した場合であっても、フクレやクラックが生じ難く、防食性、FR抑制性および初期耐水性にバランスよく優れる防食塗膜を形成できる。
【0104】
本塗膜付き基材は、本塗膜と基材とを含む積層体であって、基材への密着性や防食性の向上を目的とした下塗り塗膜(プライマー塗膜)、防食性の向上を目的とした中塗り塗膜、耐候性や美観等に優れる上塗り塗膜を形成してもよい。
具体的には、本組成物をジンクプライマーとして用いる場合には、本塗膜上に、中塗り塗膜や上塗り塗膜を形成してもよく、本組成物を中塗り塗料として用いる場合には、本塗膜と基材との間に下塗り塗膜を形成してもよく、本塗膜上に上塗り塗膜を形成してもよく、本組成物を上塗り塗料(内面上塗り塗料)として用いる場合には、本塗膜と基材との間に下塗り塗膜や中塗り塗膜を形成してもよい。
前記下塗り塗膜としては、エポキシ樹脂系等の各種プライマー組成物より形成される塗膜等が挙げられる。前記中塗り塗膜としては、(メタ)アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系等の各種中塗り塗料組成物より形成される塗膜等が挙げられる。また、前記上塗り塗膜としては、(メタ)アクリル樹脂系、(メタ)アクリルシリコン樹脂系、ウレタン樹脂系、シリコーン樹脂系、フッ素樹脂系等の各種上塗り塗料組成物より形成される塗膜等が挙げられる。また、本組成物の組成等を変え、本組成物で下塗り塗膜、中塗り塗膜および上塗り塗膜を形成してもよい。
【0105】
≪防食塗膜付き基材の製造方法≫
本発明に係る防食塗膜付き基材の製造方法は、下記工程[1]および[2]を含む。
工程[1]:本組成物を基材に塗装する工程
工程[2]:基材上に塗装された本組成物を乾燥させて防食塗膜を形成する工程
【0106】
<工程[1]>
前記工程[1]における塗装方法としては特に制限されず、例えば、エアレススプレー塗装、エアスプレー塗装等のスプレー塗装、はけ塗り、ローラー塗りなどの従来公知の方法が挙げられる。これらの中でも、前記構造物などの大面積の基材を容易に塗装できる等の点から、スプレー塗装が好ましい。
このような塗装の際には、得られる塗膜の乾燥膜厚が前記範囲となるように塗装することが好ましい。
【0107】
前記スプレー塗装の条件は、形成したい乾燥膜厚に応じて適宜調整すればよいが、例えば、エアレススプレー塗装の場合、1次(空気)圧:0.3~0.6MPa程度、2次(塗料)圧:10~15MPa程度、ガン移動速度50~120cm/秒程度が好ましい。
【0108】
前記塗装は、工程[2]において形成される本塗膜の乾燥膜厚が前記範囲となるように塗装することが好ましい。この場合、1回の塗装で所望膜厚の本塗膜を形成(1回塗り)してもよく、2回以上の塗装(2回以上塗り)で所望膜厚の本塗膜を形成してもよい。
なお、2回塗りとは、工程[1]および[2]を行った後、工程[2]で得られた本塗膜上に工程[1]を行うことをいう。
【0109】
本組成物を基材上に塗装するに際し、基材上の錆、油脂、水分、塵埃、塩分等を除去するため、また、得られる塗膜の基材との付着性を向上させるために、必要により前記基材表面を処理(例えば、ブラスト処理(ISO8501-1 Sa2 1/2)、脱脂による油分、粉塵を除去する処理)等を行うことが好ましい。また、前記基材には、1次防錆を目的として、ショッププライマー等を塗装してもよい。
【0110】
<工程[2]>
前記工程[2]における乾燥条件としては特に制限されず、塗膜の形成方法、基材の種類、用途、塗装環境等に応じて適宜設定すればよいが、乾燥温度は、常温乾燥の場合、通常5~35℃であり、熱風乾燥機等で強制乾燥する場合、通常30℃以上100℃未満、より好ましくは40~80℃である。本組成物によれば、このような常温乾燥でも組成物を乾燥・硬化させることができる。
乾燥時間は、塗膜の乾燥方法によって異なり、常温乾燥の場合、例えば1日~7日程度であり、強制乾燥する場合、例えば5分~60分程度である。
【実施例0111】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらによって制限されない。
【0112】
[実施例1]
<第1剤>
脱イオン水12.5質量部と、たれ止め剤(注5)0.4質量部と、顔料分散剤1(注1)1.1質量部と、顔料分散剤2(注2)1.0質量部と、消泡剤1(注3)0.3質量部と、消泡剤2(注4)0.4質量部と、チタン白(注6)18.6質量部と、カリ長石(注7)0.4質量部と、タルク(注8)8.5質量部と、防錆顔料(注9)6.5質量部と、を、ハイスピードディスパーサーを用いて、室温(23℃)で撹拌しながら順に容器に入れ、粒度が50μm以下になるまで撹拌することで、顔料分散液を調製した。
次いで、調製した顔料分散液に、造膜助剤(注10)1.3質量部と、エポキシ樹脂(注11)47.0質量部と、フラッシュラスト制御剤1(注19)0.5質量部と、多官能アクリレート(注12)1.5質量部とを順に入れ、その後ハイスピードディスパーサーを用いて15分間撹拌することで、第1剤を調製した。
【0113】
<第2剤>
脱イオン水1.82質量部と、アミン化合物1(注16)5.2質量部と、フラッシュラスト抑制剤1(注19)0.31質量部と、フラッシュラスト抑制剤2(注20)0.47質量部とを順に入れ、その後ハイスピードディスパーサーを用いて15分間撹拌することで、第2剤を調製した。
【0114】
調製した第1剤と第2剤とを、塗装前に表1に記載した混合比(質量比)で混合することで水系防食塗料組成物を調製した。
【0115】
[実施例2~15および比較例1~15]
表1または2に記載の各成分を、表1または2に記載の量(質量部)で用いた以外は実施例1と同様にして、水系防食塗料組成物を調製した。
表1および2に記載の各成分の説明を表3に示す。
【0116】
なお、表1および2中の「反応比」は、前記式(3)により算出された値であり、表1および2中の「官能基比」は、前記式(1)により算出された値である。
また、表1および2中の「(メタ)アクリレート由来のPAO鎖量」は、水系防食塗料組成物の不揮発分100質量%に対する、成分(D)[または(メタ)アクリレート化合物]由来のPAO構造の含有量である。
【0117】
<耐フラッシュラスト性>
寸法が150mm×70mm×4.5mm(厚)のSS400のサンドブラスト鋼板(算術平均粗さ(Ra):30~75μm)を用意した。この鋼板の全面に、ショッププライマー(中国塗料(株)製、「セラボンド2000 ブルー」)を乾燥塗膜厚が15μmとなるように塗装し、常温で24時間乾燥させた。
乾燥後の鋼板の主面の一方の中央付近に、寸法が約100mm×約10mm×約5mm(厚)の溶接ビードを溶接により接合した。
作製した溶接ビード付き鋼板を、中国塗料(株)の大竹研究所に設けた暴露試験場に、ビードが接合された面(以下「暴露面」ともいう。)を上面にして0°(該面が重力に対し略直角となるよう)に設置し、3日間、常時、水道水を溶接ビード付き鋼板にかけた(散水暴露処理)。
その後、乾燥させた溶接ビード付き鋼板の暴露面の全面を、ワイヤーブラシを用いて研磨し、ISO8501-1 St-3のグレードに達するまで処理し、錆発生部以外の部分は、埃、ゴミ、その他の塵埃を簡単なディスクサンダー処理にて除去した。
【0118】
このように処理をした溶接ビード付き鋼板の暴露面の全面に、前述のようにして調製した水系防食塗料組成物を、エアスプレーを用いて、乾燥膜厚が100μmになるように塗装することで、水系防食塗料組成物塗布基材(以下「試験片1」ともいう。)を作製した。
【0119】
密閉容器に、高い湿度を維持するために、水を入れた容器を入れ、密閉容器を密閉した後、温度40±3℃の条件下で24時間静置した。
この密閉容器内に、作製した試験片1を、水系防食塗料組成物を塗装してから2分以内に、該試験片1の水系防食塗料組成物が水および密閉容器に触れないように設置し、再び密閉容器を密閉した。その後40±3℃の条件下で24時間静置した後、以下の評価基準に従って耐フラッシュラスト性を評価した。結果を表1および2に示す。
【0120】
(評価基準)
○:水系防食塗料組成物塗布下の基材表面に錆が見られない
△:水系防食塗料組成物塗布下の基材表面の一部に錆が見られる
×:水系防食塗料組成物塗布下の基材表面の全面に錆が見られる
【0121】
<初期耐水性>
寸法が150mm×70mm×2.3mm(厚)のSS400のサンドブラスト鋼板(算術平均粗さ(Ra):30~75μm)を用意した。この鋼板表面に、前述のようにして調製した水系防食塗料組成物を、エアスプレーを用いて、乾燥膜厚が100μmになるように塗装することで、水系防食塗料組成物塗布基材(以下「試験片2」ともいう。)を作製した。
【0122】
塗装直後の試験片2を、温度5±3℃の条件下で24時間乾燥することで防食塗膜を形成した後、温度5±3℃の水に24時間または72時間浸漬した後、目視により、浸漬後の試験片2の外観を以下のフクレおよびクラックの評価基準に基づいて評価した。結果を表1および2に示す。
【0123】
(フクレの評価基準)
◎:試験片2上の防食塗膜にフクレが見られない
○:試験片2上の防食塗膜の全面積の3%未満の部分にフクレが見られる
△:試験片2上の防食塗膜の全面積の3%以上~50%未満の部分にフクレが見られる
×:試験板2上の防食塗膜の全面積の50%以上の部分にフクレが見られる
××:試験板2上の防食塗膜が基材から剥離した
【0124】
(クラックの評価基準)
◎:試験片2上の防食塗膜にクラック(ワレ)が見られない
○:試験片2上の防食塗膜の全面積の10%未満の部分にクラック(ワレ)が見られる
△:試験片2上の防食塗膜の全面積の10%以上~50%未満の部分にクラック(ワレ)が見られる
×:試験板2上の防食塗膜の全面積の50%以上の部分にクラック(ワレ)が見られる
××:試験板2上の防食塗膜が基材から剥離した
【0125】
<耐塩水噴霧性>
寸法が150mm×70mm×2.3mm(厚)のSS400のサンドブラスト鋼板(算術平均粗さ(Ra):30~75μm)を用意した。この鋼板表面に、前述のようにして調製した水系防食塗料組成物を、エアスプレーを用いて、乾燥膜厚が100μmになるように塗装し、23℃×7日乾燥することで、防食塗膜付き基材(以下「試験片3」ともいう。)を作製した。
【0126】
JIS K 5600-7-1:1999に基づいて、塩水濃度5質量%、温度35℃、相対湿度98%の塩水噴霧条件の塩水噴霧試験機中に、作製した試験片3を400時間保持することで、塩水噴霧試験を実施し、以下の評価基準に従って、耐塩水噴霧性(防食性)を評価した。結果を表1および2に示す。
なお、耐塩水噴霧性(防食性)は下記評価が○であれば問題ないといえる。
【0127】
(評価基準)
○:試験片3上の防食塗膜の全面積の3%未満の部分にフクレが発生している、および/または、防食塗膜下の基材表面の錆の発生面積割合が、防食塗膜下の基材の面積100%に対し、0.03%未満である
△:試験片3上の防食塗膜の全面積の3%以上~50%未満の部分にフクレが発生している、および/または、防食塗膜下の基材表面の錆の発生面積割合が、防食塗膜下の基材の面積100%に対し、0.03%以上0.3%未満である
×:試験片3上の防食塗膜の全面積の50%以上の部分にフクレが発生している、および/または、防食塗膜下の基材表面の錆の発生面積割合が、防食塗膜下の基材の面積100%に対し、0.3%以上である
【0128】
【表1】
【0129】
【表2】
【0130】
【表3】