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特開2023-51083凝固時間が延長する原因を解析するための方法、解析システム、解析装置、及びコンピュータプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051083
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】凝固時間が延長する原因を解析するための方法、解析システム、解析装置、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/86 20060101AFI20230404BHJP
   G01N 33/49 20060101ALI20230404BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
G01N33/86
G01N33/49 Y
G01N33/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161543
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健史
(72)【発明者】
【氏名】松田 将門
(72)【発明者】
【氏名】森山 雅人
(72)【発明者】
【氏名】篠原 翔
(72)【発明者】
【氏名】北野 圭介
(72)【発明者】
【氏名】末武 司
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 豊
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA10
2G045CA25
2G045JA01
2G045JA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被検者の血液検体と正常血液検体とを混合した検体を用いずに、被検者の血液検体の凝固時間が延長する原因を解析することを可能にする手段を提供することを課題とする。
【解決手段】被検者の血液検体と活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)測定試薬とを混合してから第1の待機時間が経過した第1の試料にカルシウム液を添加して、第1の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第1のパラメータを取得し、被検者の血液検体とAPTT測定試薬とを混合してから、第1の待機時間より長い第2の待機時間が経過した第2の試料にカルシウム液を添加して、第2の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第2のパラメータを取得し、第1の凝固時間及び/又は第1のパラメータと、第2の凝固時間及び/又は第2のパラメータとに基づいて、凝固時間が延長する原因に関する情報を取得することにより、上記の課題を解決する。
【選択図】図17A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液検体の凝固時間が延長する原因の解析方法であって、
被検者の血液検体と活性化部分トロンボプラスチン時間測定試薬とを混合してから第1の待機時間が経過した第1の試料にカルシウム液を添加する工程と、
前記カルシウム液が添加された前記第1の試料について、第1の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第1のパラメータを取得する工程と、
前記被検者の血液検体と前記測定試薬とを混合してから、前記第1の待機時間より長い第2の待機時間が経過した第2の試料に前記カルシウム液を添加する工程と、
前記カルシウム液が添加された前記第2の試料について、第2の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第2のパラメータを取得する工程と、
前記第1の凝固時間及び/又は前記第1のパラメータと、前記第2の凝固時間及び/又は前記第2のパラメータと、に基づいて、凝固時間が延長する原因に関する情報を取得する工程と、
を含む前記解析方法。
【請求項2】
前記情報を取得する工程において、前記第1の凝固時間及び/又は前記第1のパラメータと、前記第2の凝固時間及び/又は前記第2のパラメータと、に基づく指標値を取得し、前記指標値と、所定の閾値との比較結果に基づいて前記情報を取得する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記情報が、前記血液検体がループスアンチコアグラント又はヘパリンを含む疑いに関する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記情報が、前記血液検体がループスアンチコアグラントを含む疑いに関する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記情報が、前記血液検体がヘパリンを含む疑いに関する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記指標値が、前記第1の凝固時間と前記第2の凝固時間の差に関する値を含む請求項2~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記指標値が、前記第1のパラメータと前記第2のパラメータの差に関する値を含む請求項2~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記指標値が、前記第1の凝固時間と前記第2の凝固時間の比に関する値を含む請求項2~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記指標値が、前記第1のパラメータと前記第2のパラメータの比に関する値を含む請求項2~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記指標値が、前記第1の凝固時間と前記第2の凝固時間の比に関する値と、前記第1のパラメータと前記第2のパラメータの比に関する値とを含む請求項2~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記情報として、前記第1の凝固時間及び/又は前記第1のパラメータと、前記第2の凝固時間及び/又は前記第2のパラメータと、に基づく指標値を取得する請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の待機時間及び前記第2の待機時間のそれぞれが、10秒以上且つ120秒より短い範囲である請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の待機時間が、10秒以上且つ20秒以下であり、
前記第2の待機時間が、20秒より長く且つ100秒以下であって、前記第1の待機時間より少なくとも5秒長い請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の待機時間及び前記第2の待機時間のそれぞれが、140秒より長く且つ600秒以下の範囲である請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の待機時間が、150秒より長く且つ400秒以下であり、
前記第2の待機時間が、400秒より長く且つ600秒以下であって、前記第1の待機時間より少なくとも30秒長い請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記被検者の血液検体と前記測定試薬とを混合してから、前記第2の待機時間より長い第3の待機時間が経過した第3の試料に前記カルシウム液を添加する工程と、
前記カルシウム液が添加された前記第3の試料について、第3の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第3のパラメータを取得する工程と、
前記被検者の血液検体と前記測定試薬とを混合してから、前記第3の待機時間より長い第4の待機時間が経過した第4の試料に前記カルシウム液を添加する工程と、
前記カルシウム液が添加された前記第4の試料について、第4の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第4のパラメータを取得する工程と、
をさらに含み、
前記情報を取得する工程において、前記第1の凝固時間及び/又は前記第1のパラメータと、前記第2の凝固時間及び/又は前記第2のパラメータと、前記第3の凝固時間及び/又は前記第3のパラメータと、前記第4の凝固時間及び/又は前記第4のパラメータと、に基づいて、凝固時間が延長する原因に関する情報を取得する請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記指標値が、前記第3の凝固時間と前記第4の凝固時間の比に関する値を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記指標値が、前記第3のパラメータと前記第4のパラメータの比に関する値を含む、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の待機時間及び前記第2の待機時間のそれぞれが、10秒以上且つ120秒より短い範囲であり、前記第3の待機時間及び前記第4の待機時間のそれぞれが、140秒より長く且つ600秒以下の範囲である請求項16~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の待機時間が、10秒以上且つ20秒以下であり、
前記第2の待機時間が、20秒より長く且つ100秒以下であって、前記第1の待機時間より少なくとも5秒長く、
前記第3の待機時間が、150秒より長く且つ400秒以下であり、
前記第4の待機時間が、400秒より長く且つ600秒以下であって、前記第3の待機時間より少なくとも30秒長い請求項19に記載の方法。
【請求項21】
試料調製部と、
光照射部と、
検出部と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
被検者の血液検体と活性化部分トロンボプラスチン時間測定試薬とを混合してから第1の待機時間が経過した第1の試料にカルシウム液を添加し、前記被検者の血液検体と前記測定試薬とを混合してから、前記第1の待機時間より長い第2の待機時間が経過した第2の試料にカルシウム液を添加するように前記試料調製部を制御し、
前記カルシウム液が添加された前記第1の試料及び前記第2の試料に光を照射するように前記光照射部を制御し、
前記第1の試料及び前記第2の試料を介した前記光を検出した前記検出部からの出力を受信し、
前記検出部からの出力に基づき、前記カルシウム液が添加された第1の試料の第1の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第1のパラメータと、前記カルシウム液が添加された第2の試料の第2の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第2のパラメータとを取得し、前記第1の凝固時間及び/又は前記第1のパラメータと、前記第2の凝固時間及び/又は前記第2のパラメータと、に基づいて、凝固時間が延長する原因に関する情報を出力する、
解析システム。
【請求項22】
血液検体の凝固時間が延長する原因の解析装置であって、
前記解析装置は、制御装置を備え、
前記制御装置は、カルシウム液が添加された第1の試料の第1の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第1のパラメータを取得し、前記カルシウム液が添加された第2の試料の第2の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第2のパラメータを取得し、取得した前記第1の凝固時間及び/又は前記第1のパラメータと、前記第2の凝固時間及び/又は前記第2のパラメータと、に基づいて、凝固時間が延長する原因に関する情報を出力するように構成され、
前記第1の試料への前記カルシウム液の添加が、被検者の血液検体と活性化部分トロンボプラスチン時間測定試薬とを混合してから第1の待機時間後に行われ、
前記第2の試料への前記カルシウム液の添加が、前記被検者の血液検体と前記測定試薬とを混合してから、前記第1の待機時間より長い第2の待機時間後に、行われる、
前記解析装置。
【請求項23】
カルシウム液が添加された第1の試料の第1の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第1のパラメータを取得するステップと、
前記カルシウム液が添加された第2の試料の第2の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第2のパラメータを取得するステップと、
前記第1の凝固時間及び/又は前記第1のパラメータと、前記第2の凝固時間及び/又は前記第2のパラメータと、に基づいて、凝固時間が延長する原因に関する情報を出力するステップと、
をコンピュータに実行させ、
前記第1の試料への前記カルシウム液の添加が、被検者の血液検体と活性化部分トロンボプラスチン時間測定試薬とを混合してから第1の待機時間後に行われ、
前記第2の試料への前記カルシウム液の添加が、前記被検者の血液検体と前記測定試薬とを混合してから、前記第1の待機時間より長い第2の待機時間後に、行われる、
血液検体の凝固時間が延長する原因を解析するためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検体の凝固時間が延長する原因の解析方法に関する。本発明は、血液検体の凝固時間が延長する原因の解析システムに関する。本発明は、血液検体の凝固時間が延長する原因の解析装置に関する。本発明は、血液検体の凝固時間が延長する原因を解析するためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
血液の凝固検査で凝固時間の延長が認められた場合、クロスミキシングテストにより、その原因を解析することが知られている。クロスミキシングテストでは、被験者の血漿(被検血漿)と、健常者の血漿(正常血漿)とを混合した血漿(混合血漿)を、被検血漿と正常血漿との混合比率を変えて複数準備し、該複数の混合血漿の凝固時間をそれぞれ測定し、凝固時間を縦軸とし、混合比率を横軸とするグラフから、凝固時間が延長する原因を解析する。また、クロスミキシングテストによって得られたグラフに基づいて凝固時間の延長の原因を定量的に解析する方法として、特許文献1の方法が知られている。特許文献1には、事前にインキュベートすることなく血液凝固測定装置により測定した被検血漿、正常血漿、及び混合血漿の凝固時間から取得した第1定量化指標と、所定の条件(37℃、2時間)でインキュベートした後に血液凝固測定装置により測定した被検血漿、正常血漿、及び混合血漿の凝固時間から取得した第2定量化指標との演算結果を用いて、凝固時間が延長する原因を解析する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/136558号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クロスミキシングテスト及び上記特許文献1の方法では、被検血漿と正常血漿とを混合した混合血漿を用いる必要がある。しかし、混合血漿を準備するためには、正常血漿を準備し、準備した正常血漿と被検血漿とを混合する必要があり、煩雑な作業である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、血液検体の凝固時間が延長する原因の解析方法であって、被検者の血液検体と活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)測定試薬とを混合してから第1の待機時間が経過した第1の試料にカルシウム液を添加する工程と、カルシウム液が添加された第1の試料について、第1の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第1のパラメータを取得する工程と、被検者の血液検体とAPTT測定試薬とを混合してから、第1の待機時間より長い第2の待機時間が経過した第2の試料に前記カルシウム液を添加する工程と、カルシウム液が添加された第2の試料について、第2の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第2のパラメータを取得する工程と、第1の凝固時間及び/又は第1のパラメータと、第2の凝固時間及び/又は第2のパラメータと、に基づいて、凝固時間が延長する原因に関する情報を取得する工程と、を含む、上記の解析方法を提供する。
【0006】
本発明は、試料調製部と、光照射部と、検出部と、制御装置と、を備え、制御装置は、被検者の血液検体とAPTT測定試薬とを混合してから第1の待機時間が経過した第1の試料にカルシウム液を添加し、被検者の血液検体とAPTT測定試薬とを混合してから、第1の待機時間より長い第2の待機時間が経過した第2の試料にカルシウム液を添加するように試料調製部を制御し、カルシウム液が添加された第1の試料及び第2の試料に光を照射するように光照射部を制御し、第1の試料及び第2の試料を介した光を検出した検出部からの出力を受信し、検出部からの出力に基づき、カルシウム液が添加された第1の試料の第1の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第1のパラメータと、カルシウム液が添加された第2の試料の第2の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第2のパラメータとを取得し、第1の凝固時間及び/又は第1のパラメータと、第2の凝固時間及び/又は第2のパラメータと、に基づいて、凝固時間が延長する原因に関する情報を出力する、解析システムを提供する。
【0007】
本発明は、血液検体の凝固時間が延長する原因の解析装置であって、解析装置は、制御装置を備え、制御装置は、カルシウム液が添加された第1の試料の第1の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第1のパラメータを取得し、カルシウム液が添加された第2の試料の第2の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第2のパラメータを取得し、取得した第1の凝固時間及び/又は第1のパラメータと、第2の凝固時間及び/又は第2のパラメータと、に基づいて、凝固時間が延長する原因に関する情報を出力するように構成され、第1の試料へのカルシウム液の添加が、被検者の血液検体とAPTT測定試薬とを混合してから第1の待機時間後に行われ、第2の試料へのカルシウム液の添加が、被検者の血液検体とAPTT測定試薬とを混合してから、第1の待機時間より長い第2の待機時間後に、行われる、上記の解析装置を提供する。
【0008】
本発明は、血液検体の凝固時間が延長する原因を解析するためのコンピュータプログラムであって、カルシウム液が添加された第1の試料の第1の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第1のパラメータを取得するステップと、カルシウム液が添加された第2の試料の第2の凝固時間及び/又は凝固波形の微分に関する第2のパラメータを取得するステップと、第1の凝固時間及び/又は第1のパラメータと、第2の凝固時間及び/又は第2のパラメータと、に基づいて、凝固時間が延長する原因に関する情報を出力するステップと、をコンピュータに実行させ、第1の試料へのカルシウム液の添加が、被検者の血液検体とAPTT測定試薬とを混合してから第1の待機時間後に行われ、第2の試料へのカルシウム液の添加が、被検者の血液検体とAPTT測定試薬とを混合してから、第1の待機時間より長い第2の待機時間後に、行われる、コンピュータプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被検者の血液検体と正常血液検体とを混合した検体を用いずに、被検者の血液検体の凝固時間が延長する原因を解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】解析システム1000の外観を示す図である。
図2】解析システム1000のハードウエア構成を示す図である。
図3】記憶装置13が記憶している情報を示す図である。
図4】光照射部20の構成を示す図である。
図5A】キュベット80がない状態の検出部22の構成を示す図である。
図5B】キュベット80がある状態の検出部22の構成を示す図である。
図6】試料調製部23を上側から見たときの平面図である。
図7】制御装置10及び制御装置24が実行する処理を示すフローチャートである。
図8】制御装置24による測定処理を示すフローチャートである。
図9】制御装置10による解析処理を示すフローチャートである。
図10A】測定データの一例を示す図である。
図10B】凝固波形の一例を示す図である。
図10C】正規化した凝固波形の一例を示す図である。
図11A】凝固波形の一次微分曲線の一例を示す図である。
図11B】凝固波形の二次微分曲線の一例を示す図である。
図12A】制御装置10による比較処理を示すフローチャートである。
図12B】制御装置10による比較処理を示すフローチャートである。
図12C】制御装置10による比較処理を示すフローチャートである。
図12D】制御装置10による比較処理を示すフローチャートである。
図12E】制御装置10による比較処理を示すフローチャートである。
図13A】制御装置24による測定処理を示すフローチャートである。
図13B】制御装置10による解析処理を示すフローチャートである。
図14】制御装置10による比較処理を示すフローチャートである。
図15】通常のインキュベート時間(130秒)で測定した各血液検体のAPTTを示すボックスプロットである。
図16】正常血漿、LAを含む血液検体、凝固因子が欠損している血液検体、ヘパリンを含む血液検体、ワーファリンを含む血液検体、及びDOACを含む血液検体について、各待機時間におけるAPTTを示すグラフである。
図17A】各血液検体について算出した凝固時間の差の値を示すボックスプロットである。
図17B】各血液検体について算出した凝固時間の比の値を示すボックスプロットである。
図18A】各血液検体について算出した、凝固波形の微分に関するパラメータの差の値を示すボックスプロットである。
図18B】各血液検体について算出した、凝固波形の微分に関するパラメータの比の値を示すボックスプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.解析システム1000
図1を参照して、解析システム1000は、血液検体の凝固時間が延長する原因(以下、「凝固時間の延長原因」とも呼ぶ)を解析する解析装置100と、凝固反応を開始した血液検体に光を照射し、光学情報を取得する検出部を備える測定装置200とを備える。解析装置100と、測定装置200とは、通信ケーブル25により接続される。
【0012】
解析システム1000が解析の対象とする血液検体としては、例えば全血及び血漿が挙げられる。好ましい血液検体は血漿である。採血時に、ヘパリン、ワーファリン及び直接抗凝固薬(DOAC)以外の抗凝固剤が、血液検体に添加されてもよい。そのような抗凝固剤として、クエン酸三ナトリウムなどのクエン酸塩を用いることができる。
【0013】
被検者は特に限定されないが、例えば、凝固検査で凝固時間の延長が認められた被検者が挙げられる。凝固検査において延長が認められた凝固時間の種類は、特に限定されないが、例えば、APTT、プロトロンビン時間、トロンビン時間などが挙げられる。それらの中でもAPTTが好ましい。凝固時間の延長原因は特に限定されないが、例えば、ループスアンチコアグラント(LA)の存在、凝固因子の欠損、ヘパリンの混入又は投与、ワーファリンの投与、DOACの投与などが挙げられる。
【0014】
DOACは特に限定されないが、例えば、第Xa因子阻害薬及びトロンビン阻害薬が挙げられる。第Xa因子阻害薬は、第Xa因子と直接結合して、プロトロンビンからトロンビンへの変換を阻害する。第Xa因子阻害薬としては、例えば、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、ベトリキサバン、オタミキサバン、ラザキサバン、ダレキサバン、レタキサバン、エリバキサバン、アンチスタシンなどが挙げられる。トロンビン阻害薬は、トロンビンと直接結合して、トロンビンが媒介するフィブリノゲン活性化を阻害する。トロンビン阻害薬としては、例えば、ダビガトラン、ビバリルジン、ヒルジン、レピルジン、デシルジン、アルガトロバン、メラガトラン、キシメラガトランなどが挙げられる。
【0015】
1.1 解析装置100
図2を参照して、解析装置100は、測定装置200と通信可能に接続されている。また、解析装置100は、メディアドライブ97と接続されている。また、解析装置100は、ネットワーク98を介して電子カルテシステム99と接続されている。ネットワーク98は、例えば、ローカルエリアネットワーク(LAN)である。ネットワーク98は、インターネットであってもよい。
【0016】
解析装置100は、制御装置10、入力装置16、及び出力装置17を備える。制御装置10は、データ処理を行うCPU(Central Processing Unit)11と、データ処理の作業領域に使用する記憶装置12と、記憶装置12に転送される情報を保存する記憶装置13と、各装置の間でデータを伝送するバス14と、外部機器とのデータの入出力を行うインタフェース(I/F)15とを備えている。入力装置16、出力装置17、メディアドライブ97、ネットワーク98及び測定装置200は、インタフェース15に接続されている。
【0017】
記憶装置12は、DRAM及びSRAMである。記憶装置13は、ソリッドステートドライブである。記憶装置13は、ハードディスクドライブであってもよい。インタフェース15は、イーサネットである。インタフェース15は、IEEE1394又はUSB等であってもよい。入力装置16は、キーボード及びマウスである。出力装置17は、液晶ディスプレイである。出力装置17は、有機ELディスプレイであってもよい。出力装置17には、凝固時間の延長原因に関する情報が出力される。さらに、出力装置17には、被検者の血液検体の凝固時間、及び凝固波形の微分に関するパラメータが出力されてもよい。
【0018】
図3を参照して、記憶装置13は、凝固時間の延長原因を解析する解析プログラム132と、解析に使用する数式を格納する関数データベースDB1と、閾値を格納する閾値データベースDB2とを記憶している。
【0019】
1.2 測定装置の構成
図2を参照して、測定装置200は、光照射部20と、検出部22と、試料調製部23と、制御装置24とを備える。
【0020】
制御装置24は、光照射部20、検出部22、及び試料調製部23を制御するとともに、解析装置100の制御装置10とデータ通信を行う。制御装置24は、制御装置10と同様に、CPU、DRAM、SRAM、ソリッドステートドライブ、及びイーサネットを備える。ソリッドステートドライブには、測定装置200が血液凝固測定を行うための測定プログラムと、後述する待機時間が記憶されている
【0021】
図4を参照して、光照射部20は、5つの光源321、322、323、324及び325と、5つの光ファイバ部330a、330b、330c、330d及び330eと、1つの保持部材340とを含む。光ファイバ部330a~330eはそれぞれ、5つの光源321~325に対応して設けられている。保持部材340は、光源321~325と、光ファイバ部330a~330eの入射端331とを保持する。光源321~325、光ファイバ部330a~330e及び保持部材340は、金属製のハウジング310内に収容されている。光源321~325は、いずれもLEDにより構成される。第1光源321は660 nmの光を発生し、第2光源322は405 nmの光を発生し、第3光源323は800 nmの光を発生し、第4光源324は340 nmの光を発生し、第5光源325は575 nmの光を発生する。制御装置24は光源321~325の発光及び消灯を制御する。
【0022】
光ファイバ部330a~330eはそれぞれ、1本のコアを有する光ファイバ素線を束ねたケーブルとして構成されている。光ファイバ部330a~330eは、中間部333において1つに束ねられている。1つに束ねられた光ファイバ部330a~330eは、2つの束に分けられ、それぞれの束の出射端332が、ハウジング310に設けられた取出口311によって保持されている。取出口311には、光ファイバ21の入射端352も保持されている。光ファイバ21は、光照射部20と検出部22とを接続する。光照射部20からの光は、光ファイバ21を介して検出部22に供給される。光ファイバ部330a~330eの出射端332と光ファイバ21の入射端352との間には、均一化部材350が設けられている。均一化部材350は、出射端332から出射した光の強度分布を均一化する。均一化部材350は、入射面351から入射した光を内部で多重反射させる部材であり、多角柱状のロッドホモジナイザーである。
【0023】
図5A及び図5Bを参照して、検出部22は、光照射部20に接続された各光ファイバ21に設けられているが、光ファイバ21と検出部22の接続の構成、及び、検出部22のハードウエア構成は、全ての検出部22について同一である。よって、ここでは1つの検出部22について説明する。図5Aを参照して、検出部22には、光ファイバ21の他端353が挿入される穴22bが形成されている。ここで、光ファイバ21の入射端352は、光照射部20の取出口311に保持されている(図4参照)。検出部22には、キュベット80を保持するための保持部22aと、穴22bと、連通孔22cとが形成されている。連通孔22cは、穴22bを保持部22aに連通させる。
【0024】
穴22bの径は、連通孔22cの径よりも大きい。穴22bの端部には、光ファイバ21からの光を集光するレンズ22dが配置されている。さらに、保持部22aの内壁面には、連通孔22cに対向する位置に孔22fが形成されている。この孔22fの奥に、受光部22gが配置されている。受光部22gは、フォトダイオードであり、受光光量に応じた電気信号を出力する。レンズ22dを透過した光は、連通孔22c、保持部22a及び孔22fを介して、受光部22gの受光面に入射する。光ファイバ21は、端部353が穴22bに挿入された状態で、板ばね22eによって固定されている。
【0025】
図5Bを参照して、保持部22aにキュベット80が保持されると、レンズ22dによって集光された光は、キュベット80及びキュベット80に収容された試料を透過して、受光部22gに入射する。試料において凝固反応が進むと、試料の濁度が上昇する。これに伴い、試料を透過する光の光量(透過光量)が減少し、受光部22gから出力される電気信号のレベルが低下する。受光部22gから出力される電気信号は、A/D変換器22hによりデジタル信号に変換され、制御装置24に送信される。受光部22gから出力され、A/D変換器22hにより変換された信号は、透過光量を反映した光学情報である。
【0026】
上記の例では、検出部22の受光部22gは透過光を検出しているが、検出部22を、キュベット80に収容された試料により散乱した光(散乱光)を受光してもよい。この場合、制御装置10は、散乱光強度の変化に基づいて凝固反応を解析する。散乱光を検出する検出部22は、保持部22aの内側面において、連通孔22cと同じ高さの位置に孔が設けられ、この孔の奥に光検出器が配置された構成をしている。保持部22aにキュベット80が保持され、光が照射されると、キュベット80内の試料によって散乱された光が、孔を介して光検出器に照射される。この光検出器からの検出信号は、試料による散乱光の強度を示す。
【0027】
図6を参照して、試料調製部23について説明する。試薬テーブル411及び412とキュベットテーブル413は、それぞれ、円環形状を有し、回転可能に構成されている。試薬テーブル411及び412は試薬収納部に相当し、ここには試薬容器81a、81b等が載せ置かれる。試薬容器81a、81b等には、収容する試薬の種類と、試薬に付与されたシリアルナンバーからなる試薬IDとを含むバーコードが印刷されたバーコードラベルが貼付されている。試薬テーブル411及び412に載せ置かれた試薬容器81a、81bのバーコードは、バーコードリーダ414により読み取られる。バーコードから読み取られた情報(試薬の種類、試薬ID)は、制御装置10に入力され、記憶装置13(図2参照)に記憶される。試薬テーブル411及び/又は412には、APTT測定試薬が収容された試薬容器81a及びカルシウム液が収容された試薬容器81bが載せ置かれる。
【0028】
キュベットテーブル413には、キュベット80a、80b等を支持可能な複数の孔からなる支持部413aが形成されている。ユーザによってキュベット供給部415に投入された新しいキュベット80a、80b等は、キュベット供給部415により順次移送され、キュベット移送部416によりキュベットテーブル413の支持部413aに設置される。なお、キュベット80a、80b等は、互いに同一の構造を有する。
【0029】
検体分注アーム417と試薬分注アーム418には、それぞれ、上下移動及び回転移動できるようステッピングモータが接続されている。検体分注アーム417の先端には、検体容器の蓋を穿刺できるよう先端が鋭利に形成されたピペット417aが設置されている。試薬分注アーム418の先端にはピペット418aが設置されている。ピペット418aの先端は、ピペット417aと異なり平坦に形成されている。
【0030】
加温部424は、複数の加温孔424aを備え、加温孔424aにセットされたキュベット80a、80b等に収容された試料を加温するように構成されている。キュベット移送部423は、キュベット80a、80b等を保持するキャッチャ423aを備え、キュベットテーブル413のキュベット80a、80b等を、加温部424の加温孔424a及び検出部22の支持部22aに移送するように構成されている。
【0031】
測定装置200として、米国特許第10,048,249号明細書に記載の装置を使用できる。米国特許第10,048,249号明細書は参照により本明細書に組み込まれる。
【0032】
1.3 測定処理及び解析処理
測定装置200による測定処理は、制御装置24の制御の下で行われ、解析装置100による解析処理は、制御装置10の制御の下で行われる。なお、本発明はこの例に限定されない。例えば、測定処理及び解析処理を、制御装置10の制御の下で行ってもよいし、測定処理及び解析処理を、制御装置24の制御の下で行ってもよい。
【0033】
図7を参照して、ステップS11において、制御装置10は、入力装置16からユーザにより入力された測定開始指示を受け付ける。ステップS12において、制御装置10は、測定装置200の制御装置24に測定開始を指示する指示データを送信する。制御装置24は、ステップS13において指示データを受信すると、ステップS14において、測定プログラムに基づく測定処理を実行する。ステップS15において、制御装置24は、測定処理によって得られた測定データを制御装置10へ送信して処理を終了する。制御装置10は、ステップS16において測定データを受信し、記憶装置13に記憶する。制御装置10は、ステップS17において測定データの解析処理を実行する。ステップS18において、制御装置10は、解析結果を出力装置17に出力する。また、制御装置10は、ステップS18において、解析結果を記憶装置13に記憶する。
【0034】
1.4 測定プログラムに基づく測定処理(ステップS14)
ステップS14の測定処理では、同じAPTT測定試薬を用いて、1つの血液検体について、2つの試料を調製し、それぞれの試料について凝固時間を測定する(すなわち、凝固時間を2回測定する)。それぞれの測定では、血液検体とAPTT測定試薬とを混合してから、カルシウム液を添加するまでの待機時間が異なる。具体的には、被検者の血液検体とAPTT測定試薬とを混合してから第1の待機時間が経過した第1の試料にカルシウム液を添加して、第1の凝固時間を測定する。また、血液検体とAPTT測定試薬とを混合してから第2の待機時間が経過した第2の試料にカルシウム液を添加して、第2の凝固時間を測定する。ここで、第2の待機時間は、第1の待機時間より長い時間である。第1及び第2の待機時間については、後述する。第1及び第2の待機時間では、それぞれ、第1及び第2の試料のインキュベーションが行われる。第1及び第2の試料のインキュベーションは、例えば、30℃以上42℃以下の範囲から決定される一定の温度で行われる。好ましくは、第1及び第2の試料のインキュベーションは37℃で行われる。
【0035】
APTT測定試薬とは、活性化剤及びリン脂質を含む試薬をいう。活性化剤とは、内因系凝固経路における接触因子を活性化する物質をいう。活性化剤としては、例えば、エラグ酸化合物、シリカ、カオリン、セライトなどが挙げられる。エラグ酸化合物は、エラグ酸、エラグ酸塩、及びエラグ酸の金属錯体のいずれであってもよい。活性化剤は1種でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、活性化剤としてエラグ酸化合物を用いる。エラグ酸化合物は、亜鉛イオン、マンガンイオン、アルミニウムイオンなどの金属イオンを含むエラグ酸の金属錯体であることが特に好ましい。リン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)及びホスファチジルセリン(PS)が挙げられる。APTT測定試薬は、PE、PC及びPSから選択される1種、好ましくは2種、より好ましくは全種のリン脂質を含む。リン脂質は、天然由来リン脂質であってもよいし、合成リン脂質であってもよい。
【0036】
APTT測定試薬として、レボヘム(登録商標)APTT SLA(シスメックス株式会社)、トロンボチェック(登録商標)APTT SLA(シスメックス株式会社)、コアグピア(登録商標)APTT-N(積水メディカル株式会社)、データファイ・APTT(Siemens Healthcare Diagnostics Products GmbH社)などの市販の試薬を用いてもよい。
【0037】
カルシウム液は、血液検体とAPTT測定試薬との混合物にカルシウムイオンを供給することにより、血液凝固を開始する試薬である。カルシウム液は、カルシウムイオン含有水溶液であり得る。好ましいカルシウム液は、塩化カルシウムなどのカルシウム塩の水溶液である。カルシウム液中のカルシウムイオン濃度は、例えば10 mM以上30 mM以下、好ましくは20 mM又は25 mMである。塩化カルシウムなどの水に容易に溶けるカルシウム塩を用いる場合、カルシウム液中のカルシウムイオン濃度は、該カルシウム塩の濃度で表すことができる。
【0038】
図7に示すステップS11が開始すると、図8を参照して、ステップS101において、制御装置24は、第1及び第2の待機時間を読み出す。本実施形態において、第1及び第2の待機時間は、予め制御装置24のソリッドステートドライブに記憶されており、第1の待機時間は10秒であり、第2の待機時間は30秒である。なお、待機時間は、入力装置16を介してユーザからの入力を受け付けてもよいし、ネットワーク98を介して、例えば医療施設の電子カルテシステム99から取得してもよい。
【0039】
第1及び第2の待機時間は、例えばAPTT測定試薬の種類によって変更されてもよい。例えば、第1及び第2の待機時間のそれぞれは、10秒以上且つ120秒より短い範囲から決定されてもよい。第1の待機時間は、例えば、10秒以上且つ20秒以下である。第2の待機時間は、例えば、20秒より長く且つ100秒以下であって、第1の待機時間より少なくとも5秒長い。より具体的には、第1の待機時間は、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20秒であり得る。また、第2の待機時間は、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90又は100秒のうち、第1の待機時間より5、10、15、20、25、30、40又は50秒以上長い時間であり得る。
【0040】
あるいは、第1及び第2の待機時間のそれぞれは、140秒より長く且つ600秒以下の範囲から決定されてもよい。第1の待機時間は、例えば、150秒より長く且つ400秒以下である。第2の待機時間は、例えば、400秒より長く且つ600秒以下であって、第1の待機時間より少なくとも30秒長い。より具体的には、第1の待機時間は、140、150、200、250、260、270、280、290、300、305、310、315、320、330、340、350又は400秒であり得る。また、第2の待機時間は、400、450、500、510、520、530、540、545、550、555、560、570、580、590又は600秒のうち、第1の待機時間より50、100、150、200、210、220、230、240又は250秒以上長い時間であり得る。
【0041】
図6及び図8を参照して、ステップS102において、制御装置24は、第1の試料を調製し、調製した第1の試料にカルシウム液を添加するように、試料調製部23を制御する。この制御により、検体分注アーム417のピペット417aが、検体容器中の被検者の血液検体(血漿)を吸引し、これを、キュベットテーブル413上の空のキュベット80aに分注する。次いで、キュベットテーブル413が回転し、キュベット移送部423が、被検者の血液検体が入っているキュベット80aを加温部424に移送して、キュベット80a内の血液検体を所定温度(37℃)に加温する。そして、キュベット移送部423は、キュベット80aを試薬分注アーム418のピペット418aの可動範囲に移送し、ピペット418aは、試薬容器81aから吸引したAPTT測定試薬をキュベット80aに添加する。これにより、第1の試料が調製される。キュベット移送部423は、キュベット80aを加温部424に戻す。キュベット80aにAPTT測定試薬を添加してから第1の待機時間が経過する直前に、キュベット移送部423は、APTT測定試薬が添加されたキュベット80aをピペット418aの可動範囲に移送する。そして、APTT測定試薬を添加してから第1の待機時間後に、ピペット418aが、試薬容器81bから吸引したカルシウム液をキュベット80aに添加する。カルシウム液の添加後すぐに、キュベット移送部423は、カルシウム液が添加されたキュベット80aを、検出部22の支持部22aに移送する。
【0042】
図4図5B図6及び図8を参照して、ステップS103において、制御装置24は、第1の試料の測定データ(第1の測定データ)を取得するように、測定装置200を制御する。この制御により、光照射部20は、支持部22aに移送されたキュベット80aに光を照射する。なお、この例では、第1光源321のみが光を照射する。検出部22は、受光した光の強度に応じたデジタルデータを、制御装置24に送信する。具体的には、受光部22gは、キュベット80a及びキュベット80a内の試料を介して受光した光の強度(透過光強度)に応じたアナログ信号を出力し、当該信号は、A/D変換器22hによりデジタル変換され、制御装置24に送信される。制御装置24は、キュベット80aへの光照射を開始した時点から、所定の測定時間(180秒)に達するまで継続して、デジタルデータを受信する。なお、カルシウム液をキュベット80aに添加してから光照射を開始するまでの時間は、第1の待機時間及び第2の待機時間と比較して短い時間(例えば、1秒未満)であるため、カルシウム液をキュベット80aに添加した時刻と光照射を開始した時刻は、実質的に同じ時刻であるとみなすことができる。制御装置24は、継続的に受信したデジタルデータのセットを、キュベット80aへの光照射を開始した時点からの経過時間と対応付けて、第1の試料の測定データ(第1の測定データ)として記憶する。制御装置24がデジタルデータを受信する時間間隔は、例えば、0.1秒から0.5秒である。図10Aを参照して、測定データは、上段が透過光強度を示し、下段が各透過光強度を取得したときの時間(キュベット80への光照射を開始した時点からの経過時間)を示す二次元配列データのセットである。
【0043】
図6及び図8を参照して、ステップS104において、制御装置24は、第2の試料を調製し、調製した第2の試料にカルシウム液を添加するように、試料調製部23を制御する。この制御により、検体分注アーム417のピペット417aが、検体容器中の被検者の血液検体(血漿)を吸引し、これを、キュベットテーブル413上の空のキュベット80bに分注する。次いで、キュベットテーブル413が回転し、キュベット移送部423が、被検者の血液検体が入っているキュベット80bを加温部424に移送して、キュベット80b内の血液検体を所定温度(37℃)に加温する。そして、キュベット移送部423は、キュベット80bを試薬分注アーム418のピペット418aの可動範囲に移送し、ピペット418aは、試薬容器81aから吸引したAPTT測定試薬をキュベット80bに添加する。これにより、第2の試料が調製される。キュベット移送部423は、キュベット80bを加温部424に戻す。キュベット80bにAPTT測定試薬を添加してから第2の待機時間が経過する直前に、キュベット移送部423は、APTT測定試薬が添加されたキュベット80bをピペット418aの可動範囲に移送する。そして、APTT測定試薬を添加してから第2の待機時間後に、ピペット418aが、試薬容器81bから吸引したカルシウム液をキュベット80bに添加する。カルシウム液の添加後すぐに、キュベット移送部423は、カルシウム液が添加されたキュベット80bを、検出部22の支持部22aに移送する。なお、キュベット80bにカルシウム液を添加してから、検出部22の支持部22aへのキュベット80bの移送が完了するまでの時間は、第1の試料と第2の試料とで同じである。
【0044】
図4図5B図6及び図8を参照して、ステップS105において、制御装置24は、第2の試料の測定データ(第2の測定データ)を取得するように、測定装置200を制御する。この制御により、光照射部20は、支持部22aに移送されたキュベット80bに光を照射する。なお、この例では、第1光源321のみが光を照射する。検出部22は、受光した光の強度に応じたデジタルデータを、制御装置24に送信する。制御装置24は、カルシウム液をキュベット80bに添加した時点から、所定の測定時間(180秒)に達するまで継続して、デジタルデータを受信する。制御装置24は、継続的に受信したデジタルデータのセットを、キュベット80bへの光照射を開始した時点からの経過時間と対応付けて、第2の試料の測定データ(第2の測定データ)として記憶する。第2の測定データのデータ構造は、第1の測定データと同じである。制御装置24は、ステップS105の処理を終えると、処理をステップS15に進める。前述のとおり、ステップS15において、制御装置24は、測定処理によって得られた測定データを制御装置10へ送信し、ステップS16において、制御装置10は、測定データを受信し、記憶装置13に記憶する。
【0045】
1.5 解析プログラムに基づく解析処理(ステップS17)
図7に示すステップS17が開始すると、図9を参照して、ステップS201において、制御装置10は、記憶装置13に記憶した測定データ(第1の測定データ及び第2の測定データ)を読み出す。制御装置10は、読み出した第1の測定データを、縦軸(Y軸)が透過光強度を示し、横軸(X軸)が透過光強度をモニタリングした測定時間(秒:sec)を示す二次元グラフ上にプロットし、図10Bに示されるような第1の凝固波形を取得する。さらに、制御装置10は、取得した第1の凝固波形を正規化する。図10Cを参照して、正規化された第1の凝固波形は、縦軸が0%(L1:ベースライン)から100%(L2)の間で表されるように、第1の測定データに含まれる各透過光強度が相対値化されている。制御装置10は、第2の測定データについても同様に、第2の凝固波形を取得し、取得した第2の凝固波形を正規化する。
【0046】
ステップS202において、制御装置10は、正規化された第1の凝固波形を微分して、図11Aに示されるような、凝固波形の一次微分曲線を取得する。さらに、制御装置10は、該一次微分曲線を微分して、図11Bに示されるような、凝固波形の二次微分曲線を取得する。制御装置10は、第2の測定データについても同様に、凝固波形の一次微分曲線及び凝固波形の二次微分曲線を取得する。なお、ステップS201では、凝固波形の正規化は省略できる。その場合、制御装置10は、正規化されていない凝固波形(図10B参照)を微分することにより、一次微分曲線を取得する。図11Aでは、凝固速度(dT/dt)が正の値となるように一次微分曲線が表示されているが、凝固速度が負の値となるように表示してもよい。二次微分曲線も同様である。すなわち、図11A及び図11Bの曲線について、縦軸の正負が反転した曲線を取得してもよい。
【0047】
ステップS203において、制御装置10は、第1の試料について、第1の凝固時間と、第1の凝固波形の微分に関する第1のパラメータ(以下、「第1のパラメータ」と呼ぶ)と、を取得し、第2の試料について、第2の凝固時間と、第2の凝固波形の微分に関する第2のパラメータ(以下、「第2のパラメータ」と呼ぶ)とを取得する。第1の凝固時間及び第2の凝固時間は、例えば、血液検体とAPTT測定試薬とを混合した試料にカルシウム液を添加してから、所定の凝固状態に到達するまでの時間である。第1及び第2のパラメータは、凝固波形の一次微分曲線又は二次微分曲線から得られるパラメータである。一次微分曲線から得られるパラメータは、凝固速度に関する値であり、二次微分曲線から得られるパラメータは、凝固加速度又は凝固減速度に関する値である。
【0048】
図10Cを参照して、第1の凝固時間tcの取得について説明する。ステップS201で取得した第1の凝固波形において、時間tIは、試料にカルシウム液を添加した時点であり、時間tIでは、フィブリンの析出が起こらない。そのため、時間tIにおける透過光強度は高値を示す。その後、凝固反応が進行してフィブリンが析出し始めると、析出したフィブリンが光を遮り、透過光強度が減少し始める。この時点が、時間tIIであり、凝固反応開始時間となる。制御装置10は、凝固波形において、透過光強度が減少し始めた時間を演算によって取得し、時間tIIとする。制御装置10は、時間tIIのときの透過光強度の変化量を0%とする。
【0049】
その後、フィブリンの析出が進行するにつれて、透過光強度はさらに減少する。試料中のフィブリノゲンの大半がフィブリンに変化すると、反応は収束し、凝固波形はプラトーになる。制御装置10は、凝固波形がプラトーになり始めた時間を演算によって取得し、時間tIIIとする。時間tIIIは、凝固反応終了時間である。制御装置10は、時間tIIIのときの透過光強度の変化量を100%とする。そして、制御装置10は、透過光強度の変化量が50%のときの時間(ラインL3と凝固波形との交点における時間)を時間tcとし、これを第1の凝固時間として取得する。凝固時間は、透過光強度の変化量が50%のときの時間に限られず、任意の変化量、例えば30%、40%、60%又は70%などのときの時間を凝固時間として取得してよい。また、凝固時間(時間tc)は、例えば、凝固反応開始時間である時間tIIからカウントした一定の時間であってもよい。凝固波形の正規化を省略する場合、制御装置10は、正規化していない凝固波形から第1の凝固時間tcを取得する。制御装置10は、第2の凝固時間についても、第1の凝固時間tcと同じ方法で第2の凝固波形に基づき取得する。
【0050】
ステップS203において、制御装置10は、ステップS202で取得した第1の凝固波形の一次微分曲線及び/又は二次微分曲線に基づいて、第1のパラメータを演算により取得する。第1のパラメータとしては、例えば、|min 1|、|min 2|、|max 2|、最大速度到達時間(tmin1)、最大加速度到達時間(tmin2)などが挙げられるが、これらに限定されない。図11(A)に示すように、|min 1|とは、一次微分曲線における凝固速度のピーク値(min1)の絶対値であり、最大凝固速度を表す。tmin1とは、一次微分曲線において、凝固反応開始時間(時間tII)から凝固速度が最大となるまでの時間である。図11(B)に示すように、|min 2|とは、二次微分曲線における凝固加速度のピーク値の絶対値であり、最大凝固加速度を表す。|max 2|とは、二次微分曲線における凝固減速度のピーク値(min2)の絶対値であり、最大凝固減速度を表す。tmin2とは、二次微分曲線において、凝固反応開始時間(時間tII)から凝固加速度が最大となるまでの時間である。制御装置10は、第2のパラメータについても、第1のパラメータと同じ方法で第2の凝固波形の一次微分曲線及び/又は二次微分曲線に基づき取得する。なお、本実施形態において、ステップS202における一次微分曲線及び二次微分曲線の取得、及び、ステップS203における第1及び第2のパラメータの取得は、省略してもよい。
【0051】
S204において、制御装置10は、ステップS203で取得した凝固時間及び/又はパラメータに基づく指標値を少なくとも1つ取得する。この指標値は、凝固時間の延長原因に応じて変化する値である。例えば、指標値は、被検者の血液検体がLA又はヘパリンを含む疑いがあることを示唆し得る。あるいは、指標値は、被検者の血液検体がヘパリンを含む疑いがあることを示唆し得る。あるいは、指標値は、被検者の血液検体がLA及びヘパリン以外の延長原因を有する疑いがあることを示唆し得る。
【0052】
制御装置10は、ステップS203で取得した凝固時間及び/又はパラメータの値を用いて、指標値を演算により取得する。指標値を算出するための数式は、関数データベースDB1(図3)に格納されている。指標値の一例として、指標値1は、例えば、以下の数式1で算出される値である。数式中、「-」は減算を示す。
【0053】
(指標値1)=(第1の凝固時間)-(第2の凝固時間) ・・・(数式1)
【0054】
ステップS205において、制御装置10は、ステップS204で取得した指標値と、所定の閾値と比較し、凝固反応の延長原因を判定する。所定の閾値は、血液検体の凝固時間の延長原因を判定するための基準値である。所定の閾値は、記憶装置13の閾値データベースDB2(図3)に格納されている。凝固反応の延長原因の判定結果は、ステップS18(図7)において、出力装置17により出力される。
【0055】
所定の閾値は、数式に対応して、あらかじめ設定されている。例えば、第1の指標値が、第1の凝固時間から第2の凝固時間を引いた値(数式1の算出値)であるとき、この値と第1の閾値とを比較する。
【0056】
図12Aを参照して、ステップS205の比較処理について説明する。ステップS301において、第1の指標値と第1の閾値とを比較し、第1の指標値が第1の閾値以上である場合(「NO」の場合)、制御装置10は、ステップS302に進み、血液検体はLA又はヘパリンを含む疑いがあると判定する。ステップS301において、第1の指標値が第1の閾値より低い場合(「YES」の場合)、制御装置10は、ステップS303に進み、血液検体はLA及びヘパリン以外の延長原因を有する疑いがあると判定する。例えば、第1の凝固時間が、待機時間が10秒である試料の凝固時間であり、第2の凝固時間が、待機時間が30秒である試料の凝固時間である場合、第1の閾値は10秒であってもよい。なお、第1の指標値は、数式1に代えて、以下の数式2により算出してもよい。
【0057】
(指標値1’)=(第2の凝固時間)-(第1の凝固時間) ・・・(数式2)
【0058】
1.6 比較処理の変形例(ステップS205)
以下、ステップS205の比較処理の変形例について説明する。指標値の一例として、指標値2は、例えば、以下の数式3で算出される値であり得る。数式中、「-」は減算を示す。本実施形態において、第1のパラメータ及び第2のパラメータは、|min 1|である。
【0059】
(指標値2)=(第1のパラメータの値)-(第2のパラメータの値) ・・・(数式3)
【0060】
所定の閾値は、数式に対応して、あらかじめ設定されている。例えば、第2の指標値が、第1のパラメータの値から第2のパラメータの値を引いた値(数式3の算出値)であるとき、この値と第2の閾値とを比較する。
【0061】
図12Bを参照して、ステップS401において、第2の指標値と第2の閾値とを比較し、第2の指標値が第2の閾値以上である場合(「NO」の場合)、制御装置10は、ステップS402に進み、血液検体はLA又はヘパリンを含む疑いがあると判定する。ステップS401において、第2の指標値が第2の閾値より低い場合(「YES」の場合)、制御装置10は、ステップS403に進み、血液検体はLA及びヘパリン以外の延長原因を有する疑いがあると判定する。なお、第2の指標値は、数式3に代えて、以下の数式4により算出してもよい。
【0062】
(指標値2’)=(第2のパラメータの値)-(第1のパラメータの値) ・・・(数式4)
【0063】
指標値は、数式1~4として例示された数式で算出された値に限定されない。指標値は、例えば、以下の数式で算出される値であり得る。数式中、「/」は除算を示す。
【0064】
(指標値3)=(第1の凝固時間)/(第2の凝固時間) ・・・(数式5)
(指標値3’)=(第2の凝固時間)/(第1の凝固時間) ・・・(数式6)
(指標値4)=(第1のパラメータの値)/(第2のパラメータの値) ・・・(数式7)
(指標値4’)=(第2のパラメータの値)/(第1のパラメータの値) ・・・(数式8)
【0065】
上記の数式で算出される指標値の更なる変形例としては、例えば、上記の数式1~8の算出値に定数を乗じた値、上記の数式の算出値に定数を足した値、上記の数式の算出値に定数を引いた値、上記の数式の算出値の逆数、及びこれらの計算を組み合わせて得られる値などであってもよい。定数は特に限定されず、例えば、任意の自然数であり得る。あるいは、定数として、通常のAPTT測定(例えば待機時間が130秒)で取得した被検者の血液検体の凝固時間の値を用いてもよい。
【0066】
各指標値に対応する所定の閾値は特に限定されない。例えば、LA陽性検体、ヘパリン含有検体、凝固因子欠損検体、ワーファリン含有検体、DOAC含有検体などの凝固時間の延長原因が既知の検体について、第1及び第2の凝固時間と、第1及び第2のパラメータを取得し、指標値のデータを蓄積することにより、所定の閾値を経験的に設定できる。あるいは、LA陽性検体群と、ヘパリン含有検体群と、LA及びヘパリン以外の延長原因を有する検体群のそれぞれについて、指標値を取得し、これらの群を明確に区別可能な値を所定の閾値として設定してもよい。閾値の設定方法は特に限定されないが、例えば、ROC解析により設定してもよい。ROC解析による閾値設定では、縦軸を感度、横軸を1-特異度としたグラフに、閾値候補を変化させてROC曲線を描き、感度が1、1-特異度が0となる点に最も近いROC曲線上の点に対応する閾値候補を、所定の閾値として設定してもよい。
【0067】
第1及び第2の待機時間は、10秒及び30秒である必要はなく、前述のとおり、様々な時間であり得る。以下、一例として、第1及び第2の待機時間がいずれも140秒より長く且つ600秒以下(例えば、第1の待機時間が310秒、第2の待機時間が550秒)である場合について説明する。
【0068】
図12Cは、第1及び第2の待機時間がいずれも140秒より長く且つ600秒以下(例えば、第1の待機時間が310秒、第2の待機時間が550秒)であり、且つ、第3の指標値が、第2の凝固時間に対する第1の凝固時間の比の値(数式5の算出値)であるときの比較処理を示す。ステップS501において、第3の指標値と第3の閾値とを比較し、第3の指標値が第3の閾値より低い場合(「YES」の場合)、制御装置10は、ステップS502に進み、血液検体はヘパリンを含む疑いがあると判定する。ステップS501において、第3の指標値が第3の閾値以上である場合(「NO」の場合)、制御装置10は、ステップS503に進み、血液検体はヘパリン以外の延長原因を有する疑いがあると判定する。
【0069】
図12Dは、第1及び第2の待機時間がいずれも140秒より長く且つ600秒以下(例えば、第1の待機時間が310秒、第2の待機時間が550秒)であり、且つ、第4の指標値が、第2のパラメータの値に対する第1のパラメータの値の比の値(数式7の算出値)であるときの比較処理を示す。ステップS601において、第4の指標値と第4の閾値とを比較し、第4の指標値が第4の閾値より低い場合(「YES」の場合)、制御装置10は、ステップS602に進み、血液検体はLA又はヘパリンを含む疑いがあると判定する。ステップS601において、第4の指標値が第4の閾値以上である場合(「NO」の場合)、制御装置10は、ステップS603に進み、血液検体はLA及びヘパリン以外の延長原因を有する疑いがあると判定する。
【0070】
2つの指標値を取得している場合の比較処理について説明する。図12Eは、第1及び第2の待機時間がいずれも140秒より長く且つ600秒以下(例えば、第1の待機時間が310秒、第2の待機時間が550秒)であり、第3の指標値が、第2の凝固時間に対する第1の凝固時間の比の値(数式5の算出値)であり、且つ、第4の指標値が、第2のパラメータの値に対する第1のパラメータの値の比の値(数式7の算出値)であるときの比較処理を示す。ステップS701において、第3の指標値と第3の閾値とを比較し、第3の指標値が第3の閾値より低い場合(「NO」の場合)、制御装置10は、ステップS702に進み、血液検体はヘパリンを含む疑いがあると判定する。ステップS701において、第3の指標値が第3の閾値以上である場合(「YES」の場合)、制御装置10は、ステップS703に進む。ステップS703において、第4の指標値と第4の閾値とを比較し、第4の指標値が第4の閾値より低い場合(「NO」の場合)、制御装置10は、ステップS704に進み、血液検体はLAを含む疑いがあると判定する。ステップS703において、第4の指標値が第4の閾値以上である場合(「YES」の場合)、制御装置10は、ステップS705に進み、血液検体はLA及びヘパリン以外の延長原因を有する疑いがあると判定する。
【0071】
制御装置10は、ステップS205の処理を完了すると、ステップS18(図7)に戻り、比較処理の結果を、凝固時間の延長原因に関する情報として出力装置17に出力するとともに、記憶装置13に記憶する。出力装置17に出力される比較処理の結果は、ステップS301の比較結果が「YES」、ステップS401の比較結果が「YES」、ステップS601の比較結果が「NO」、及びステップS703の比較結果が「YES」の場合は、例えば、「LA及びヘパリン混入以外の延長原因を有する疑い」であってもよい。出力装置17に出力される比較処理の結果は、ステップS501の比較結果が「NO」の場合は、例えば、「ヘパリン混入以外の延長原因を有する疑い」であってもよい。出力装置17に出力される比較処理の結果は、ステップS301の比較結果が「NO」、ステップS401の比較結果が「NO」、及び、ステップS601の比較結果が「YES」の場合は、例えば、「LA又はヘパリン混入の疑い」であってもよい。出力装置17に出力される比較処理の結果は、ステップS501の比較結果が「YES」の場合、及びステップS701の比較結果が「NO」の場合は、例えば、「ヘパリン混入の疑い」であってもよい。出力装置17に出力される比較処理の結果は、ステップS703の比較結果が「NO」の場合は、例えば、「LAの疑い」であってもよい。出力装置17に出力される比較処理の結果は、例えば「LAの疑い」、「ヘパリン混入の疑い」などのような文字で表示されてもよいし、フラグなどの記号や図形標識で表示されてもよい。
【0072】
図7及び図9を参照して、制御装置10は、ステップS205を行わず、ステップS18において、ステップS204で取得した指標値を、凝固時間の延長原因に関する情報として出力装置17に出力してもよい。あるいは、制御装置10は、ステップS205を行った場合でも、ステップS18において、ステップS204で取得した指標値を、凝固時間の延長原因に関する情報として出力装置17に出力してもよい。あるいは、制御装置10は、ステップS18において、ステップS204で取得した指標値と、ステップS205の比較処理の結果と、を凝固時間の延長原因に関する情報として出力してもよい。
【0073】
1.7 測定処理及び解析処理の変形例
測定処理において、同じAPTT測定試薬を用いて、1つの血液検体について、4つの試料を調製し、それぞれの試料について凝固時間を測定する(すなわち、凝固時間を4回測定する)。具体的には、第1及び第2の凝固時間の測定に加えて、第3の凝固時間及び第4の凝固時間を測定する。この場合、被検者の血液検体とAPTT測定試薬とを混合してから第3の待機時間が経過した第3の試料にカルシウム液を添加して、第3の凝固時間を測定する。また、血液検体とAPTT測定試薬とを混合してから第4の待機時間が経過した第4の試料にカルシウム液を添加して、第4の凝固時間を測定する。ここで、第3の待機時間は、第2の待機時間より長い時間であり、第4の待機時間は、第3の待機時間より長い時間である。第3及び第4の試料のインキュベーション温度は、第1及び第2の試料のインキュベーション温度と同様である。
【0074】
上記の変形例では、第1及び第2の待機時間は、少なくとも一方が、通常のAPTT測定での待機時間よりも短く、第3及び第4の待機時間は、通常のAPTT測定での待機時間よりも長い。具体的には、第1及び第2の待機時間のそれぞれが、10秒以上且つ120秒より短い範囲から決定され、第3及び第4の待機時間のそれぞれが、140秒より長く且つ600秒以下の範囲から決定される。第1の待機時間は、例えば、10秒以上且つ20秒以下である。第2の待機時間は、例えば、20秒より長く且つ100秒以下であって、第1の待機時間より少なくとも5秒長い。第3の待機時間は、例えば、150秒より長く且つ400秒以下である。第4の待機時間は、例えば、400秒より長く且つ600秒以下であって、第3の待機時間より少なくとも30秒長い。各待機時間のより詳細な例示は、第1及び第2の待機時間について上述したことと同様である。
【0075】
図13Aを参照して、上記の変形例における測定処理について説明する。ステップS111において、制御装置24は、第1から第4の待機時間を読み出す。ステップS112からステップS115において、制御装置24は、ステップS102からステップS105と同様の処理を実行する。ステップS116において、制御装置24は、ステップS102と同様の処理により、血液検体にAPTT測定試薬を添加して第3の試料を調製する。また、ステップS116において、制御装置24は、APTT測定試薬を添加してから第3の待機時間後に、第3の試料にカルシウム液を添加するよう、試料調製部23を制御する。ステップS117において、制御装置24は、ステップS116においてカルシウム液が添加された第3の試料から、ステップS103と同様の処理により、第3の試料の測定データ(第3の測定データ)を取得する。ステップS118において、制御装置24は、ステップS102と同様の処理により、血液検体にAPTT測定試薬を添加して第4の試料を調製する。また、ステップS118において、制御装置24は、APTT測定試薬を添加してから第4の待機時間後に、第4の試料にカルシウム液を添加するよう、試料調製部23を制御する。ステップS119において、制御装置24は、ステップS118においてカルシウム液が添加された第4の試料から、ステップS103と同様の処理により、第4の試料の測定データ(第4の測定データ)を取得する。
【0076】
図13Bを参照して、上記の変形例における解析処理について説明する。ステップS211において、制御装置10は、第1、第2、第3及び第4の試料のそれぞれについて、ステップS201と同様の処理により、凝固波形を取得し、正規化する。ステップS212において、制御装置10は、各凝固波形を微分して一次微分曲線を取得し、該一次微分曲線を微分して二次微分曲線を取得する。なお、ステップS211における凝固波形の正規化は省略してもよい。その場合、制御装置10は、正規化されていない凝固波形から、一次微分曲線及び二次微分曲線を取得する。ステップS213において、制御装置10は、ステップS203と同様の処理により、第1の試料について、第1の凝固時間と、第1のパラメータとを取得し、第2の試料について、第2の凝固時間と、第2のパラメータとを取得し、第3の試料について、第3の凝固時間と、第3の凝固波形の微分に関する第3のパラメータ(以下、「第3のパラメータ」と呼ぶ)とを取得し、第4の試料について、第4の凝固時間と、第4の凝固波形の微分に関する第4のパラメータ(以下、「第4のパラメータ」と呼ぶ)と、を取得する。第3の凝固時間及び第3のパラメータは、第3の試料の第3の測定データに基づいて取得された凝固時間及び凝固波形の微分に関するパラメータである。第4の凝固時間及び第4のパラメータは、第4の試料の第4の測定データに基づいて取得された凝固時間及び凝固波形の微分に関するパラメータである。
【0077】
ステップS214において、制御装置10は、ステップS213で取得した凝固時間及び/又はパラメータに基づく第1の指標値及び第5の指標値を演算により取得する。第1の指標値は、例えば、上記の数式1~8のいずれかで算出される値であり得る。第5の指標値は、例えば、以下の数式9~16のいずれかで算出される値であり得る。数式中、「-」は減算を示し、「/」は除算を示す。
【0078】
(指標値5)=(第3の凝固時間)-(第4の凝固時間) ・・・(数式9)
(指標値5’)=(第4の凝固時間)-(第3の凝固時間) ・・・(数式10)
(指標値6)=(第3の凝固時間)/(第4の凝固時間) ・・・(数式11)
(指標値6’)=(第4の凝固時間)/(第3の凝固時間) ・・・(数式12)
(指標値7)=(第3のパラメータの値)-(第4のパラメータの値) ・・・(数式13)
(指標値7’)=(第4のパラメータの値)-(第3のパラメータの値) ・・・(数式14)
(指標値8)=(第3のパラメータの値)/(第4のパラメータの値) ・・・(数式15)
(指標値8’)=(第4のパラメータの値)/(第3のパラメータの値) ・・・(数式16)
【0079】
第1及び第5の指標値は、数式1~16として例示された数式で算出された値に限定されない。指標値の変形例については、上述のとおりである。好ましい実施形態では、第1の指標値は、数式1又は3で算出される値であり、第5の指標値は、数式11又は15で算出される値である。
【0080】
ステップS215において、制御装置10は、第1及び第2の指標値と、各指標値に対応する所定の閾値とを比較する。図14を参照して、ステップS215の比較処理について説明する。図14は、第1の指標値が、第1の凝固時間から第2の凝固時間を引いた値(数式1の算出値)であり、第5の指標値が、第4の凝固時間に対する第3の凝固時間の比の値(数式11の算出値)であるときの比較処理を示す。
【0081】
ステップS801において、第1の指標値と第1の閾値とを比較し、第1の指標値が第1の閾値より低い場合(「NO」の場合)、制御装置10は、ステップS802に進み、血液検体はLA及びヘパリン以外の延長原因を有する疑いがあると判定する。ステップS801において、第1の指標値が第1の閾値以上である場合(「YES」の場合)、制御装置10は、ステップS803に進む。ステップS803において、第5の指標値と第5の閾値とを比較し、第5の指標値が第5の閾値以上である場合(「NO」の場合)、制御装置10は、ステップS804に進み、血液検体はLAを含む疑いがあると判定する。ステップS803において、第5の指標値が第5の閾値より低い場合(「YES」の場合)、制御装置10は、ステップS805に進み、血液検体はヘパリンを含む疑いがあると判定する。例えば、第4の凝固時間が、待機時間が330秒である試料の凝固時間であり、第4の凝固時間が、待機時間が550秒である試料の凝固時間である場合、第5の閾値は1であってもよい。
【0082】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0083】
実施例1
種々の原因によりAPTTが延長する血液検体について、APTT測定試薬と混合した後のインキュベーションの時間を、通常のAPTT測定で行われるインキュベーションの時間から変更した場合、測定されるAPTTがどのように変化するかを検討した。また、取得したAPTTに基づいて、APTTが延長する原因を判別することが可能であるかを検討した。
【0084】
(1) 試薬及び血液検体
APTT測定試薬として、レボヘム(登録商標)APTT SLA(シスメックス株式会社)を用いた。当該試薬は、エラグ酸及び合成リン脂質を含む。カルシウム溶液として、25 mM塩化カルシウム液(シスメックス株式会社)を用いた。血液検体として、健常者から得た正常血漿(33例)、LA陽性患者から得たLA含有血漿(12例)、第VIII因子又は第IX因子の欠損患者から得た凝固因子欠損血漿(16例)、ヘパリン投与患者から得たヘパリン含有血漿(11例)、ワーファリン投与患者から得たワーファリン含有血漿(6例)及び直接抗凝固薬(DOAC)投与患者から得たDOAC含有血漿(17例)を用いた。
【0085】
(2) 通常の凝固時間測定
各血液検体(50μl)を37℃で1分間加温した。その後、各血液検体にAPTT測定試薬(50μl)を添加して、37℃で130秒間インキュベーションした。そして、血液検体とAPTT測定試薬との混合物にカルシウム液(50μl)を添加し、各血液検体について、波長660 nmにおける透過光強度の測定データを取得し、取得した測定データから凝固時間を取得した。従って、APTT測定試薬を添加してからカルシウム液を添加するまでの待機時間は、130秒であった。これらの操作は全て、全自動凝固時間測定装置CS-5100(シスメックス株式会社)により行った。図15に、各血液検体のAPTTをボックスプロットで示した。図15から分かるように、正常血漿以外の血液検体は、凝固時間が延長していた。しかし、APTTだけでは、正常血漿以外の血液検体について、凝固時間が延長する原因を鑑別することは困難であった。
【0086】
(3) 待機時間を変更した凝固時間測定
各血液検体(50μl)を37℃で1分間加温した。その後、各血液検体にAPTT測定試薬(50μl)を添加して、37℃で10秒間、30秒間、70秒間、310秒間又は550秒間インキュベーションした。そして、上記(2)と同様にして各血液検体について、凝固時間を取得した。従って、APTT測定試薬を添加してからカルシウム液を添加するまでの待機時間は、10秒、30秒、70秒、310秒又は550秒であった。これらの操作は全てCS-5100により行った。図16は、正常血漿、LAを含む血液検体、凝固因子が欠損している血液検体、ヘパリンを含む血液検体、ワーファリンを含む血液検体、及びDOACを含む血液検体について、各待機時間におけるAPTTを示すグラフである。図16に示すように、全ての血液検体において、待機時間が130秒より短くなるとAPTTが長くなる傾向があるが、正常血漿、ワーファリンを含む血液検体、及びDOACを含む血液検体よりも、LAを含む血液検体、凝固因子が欠損している血液検体、及びヘパリンを含む血液検体の方が、APTTが長くなる傾向が強かった。一方、待機時間が130秒より長くなると、正常血漿、LAを含む血液検体、凝固因子が欠損している血液検体、DOACを含む血液検体、及びワーファリンを含む血液検体については、APTTが短くなる傾向があるが、ヘパリンを含む血液検体については、APTTが長くなる傾向があった。
【0087】
(4) 凝固時間に基づく指標値の取得
待機時間の変更によるAPTTの変化を定量的に評価するため、各血液検体について、異なる2つの待機時間のAPTTに基づく指標値を取得した。具体的には、待機時間が10秒間のときのAPTT(第1のAPTT)と、待機時間が30秒間のときのAPTT(第2のAPTT)との差の値([第1のAPTT]-[第2のAPTT])を算出した。また、待機時間が550秒間のときのAPTT(第4のAPTT)に対する、待機時間が310秒間のときのAPTT(第3のAPTT)の比の値([第3のAPTT]/[第4のAPTT])を算出した。図17A及びBに、各血液検体について算出した値をボックスプロットで示した。
【0088】
図17Aに示されるように、第1のAPTTと第2のAPTTとの差は、LA含有血漿及びヘパリン含有血漿において高い値を示した。このことから、第1のAPTTと第2のAPTTとの差の値に基づいて、血液検体がLA及びヘパリンのいずれかを含む疑いがあるか、又はそれら以外(凝固因子欠損、ワーファリン及びDOAC)を含む疑いがあるかを判別できることが示された。また、図17Bに示されるように、第4のAPTTに対する第3のAPTTの比は、ヘパリン含有血漿において低い値を示した。このことから、第4のAPTTに対する第3のAPTTの比の値に基づいて、血液検体がヘパリンを含む疑いがあるか、又はヘパリン以外(LA、凝固因子欠損、ワーファリン又はDOAC)を含む疑いがあるかを判別できることが示された。さらに、第1のAPTTと第2のAPTTとの差の値と、第4のAPTTに対する第3のAPTTの比の値とを用いることで、血液検体がLAを含む疑いがあるか、又はヘパリンを含む疑いがあるか、又はそれら以外を含む疑いがあるかを判別できることが示された。
【0089】
実施例2
待機時間を変更した凝固時間測定により取得した凝固波形の微分に関するパラメータに基づいても、APTTが延長する原因を判別することが可能であるかを検討した。
【0090】
(1) 凝固波形の微分に関するパラメータに基づく指標値の取得
実施例1で取得した各血液検体についての時系列データセットから、凝固波形及びこれを微分した一次微分曲線を取得した。一次微分曲線から、凝固波形の微分に関するパラメータとして最大凝固速度(|min 1|)を取得した。実施例1と同様に、待機時間が10秒間のときの|min 1|(第1の|min 1|)と、待機時間が30秒間のときの|min 1|(第2の|min 1|)との差の値([第1の|min 1|]-[第2の|min 1|])を算出した。また、待機時間が550秒間のときの|min 1|(第4の|min 1|)に対する、待機時間が310秒間のときの|min 1|(第3の|min 1|)の比の値([第3の|min 1|]/[第4の|min 1|)を算出した。図18A及びBに、各血液検体について算出した値をボックスプロットで示した。
【0091】
図18Aに示されるように、第1の|min 1|と第2の|min 1|との差は、LA含有血漿及びヘパリン含有血漿において高い値を示した。また、図18Bに示されるように、第4の|min 1|に対する第3の|min 1|の比は、LA含有血漿及びヘパリン含有血漿において低い値を示した。これらのことから、第1の|min 1|と第2の|min 1|との差の値、又は第4の|min 1|に対する第3の|min 1|の比の値に基づいて、血液検体がLA及びヘパリンのいずれかを含む疑いがあるか、又はそれら以外(凝固因子欠損、ワーファリン及びDOAC)を含む疑いがあるかを判別できることが示された。
【符号の説明】
【0092】
1000 解析システム
100 解析装置
200 測定装置
10 制御装置
25 通信ケーブル
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18A
図18B