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特開2023-51161インキの回収方法、基材の回収方法、基材のリサイクル方法、及び再生基材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051161
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】インキの回収方法、基材の回収方法、基材のリサイクル方法、及び再生基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161662
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000238005
【氏名又は名称】株式会社フジシールインターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 彰
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA08
4F401AA09
4F401AA10
4F401AA11
4F401AA13
4F401AA17
4F401AA22
4F401AA24
4F401AB07
4F401AD02
4F401AD07
4F401BA06
4F401BA13
4F401CA02
4F401CA14
4F401CA32
4F401CA48
4F401CA49
4F401CB14
4F401EA04
4F401EA05
4F401EA07
4F401EA08
4F401EA45
4F401EA79
4F401FA06Z
4F401FA07Z
(57)【要約】
【課題】変質が抑制された状態でラベルからインキを回収するインキの回収方法、基材からインキを除去して基材を回収する基材の回収方法、基材のリサイクル方法、及び再生基材の製造方法を提供する。
【解決手段】基材と、インキを含むインキ層とを有するラベルであって、アルカリ溶液により前記基材と前記インキとを分離可能なラベル(11)を取得する工程(S1~S5)と、ラベル(11)を、0.05重量%以上0.5重量%以下の第1濃度を有するアルカリ溶液により処理する第1アルカリ処理工程(S7)と、第1アルカリ処理工程(S7)により分離した前記インキを回収する工程(S8)と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、インキを含むインキ層とを有するラベルであって、アルカリ溶液により前記基材と前記インキとを分離可能なラベルを取得する工程と、
前記ラベルを、0.05重量%以上0.5重量%以下の第1濃度を有するアルカリ溶液により処理する第1アルカリ処理工程と、
前記第1アルカリ処理工程により分離した前記インキを回収する工程と、
を含むインキの回収方法。
【請求項2】
前記第1濃度は、0.1重量%以上0.5重量%以下である、請求項1に記載のインキの回収方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインキの回収方法における前記第1アルカリ処理工程により得られた前記基材を、前記第1濃度より高い第2濃度を有するアルカリ溶液により処理する第2アルカリ処理工程と、
前記第2アルカリ処理工程を経た前記基材を回収する回収工程と、
を含む、基材の回収方法。
【請求項4】
前記第2濃度は、1重量%以上6重量%以下である、請求項3に記載の基材の回収方法。
【請求項5】
前記第2アルカリ処理工程は、前記基材を、前記第2濃度を有するアルカリ溶液に30秒以上20分以下浸漬して行う、請求項3又は4に記載の基材の回収方法。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか1項の基材の回収方法における前記回収工程より得られた基材を、ペレット又はフラフにする工程を含む、基材のリサイクル方法。
【請求項7】
請求項6に記載の基材のリサイクル方法における前記工程により得られた前記ペレット又はフラフを用いて再生基材を製造する、再生基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック製品のラベルからインキを回収するインキの回収方法、基材の回収方法、基材のリサイクル方法、及び再生基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)製のボトル等のプラスチック製品が飲料の容器等として広く使用されている。省資源及び環境保護の観点等から、PETボトル等のプラスチック製品を再利用することが求められている。
【0003】
プラスチック製品の中でも特にPETボトルの樹脂としての再利用、すなわちマテリアルリサイクルは既に普及している。一方、商品情報等の表示のための印刷がプラスチック製の基材に施されてなるラベルがPETボトルの胴部に装着されることがあるが、ラベルのマテリアルリサイクルは普及が遅れているのが現状である。
【0004】
ラベルをマテリアルリサイクルとして再利用するには、基材をラベルから効率的に分離することが好ましい。例えば、特許文献1には、表示印刷インキ層がアルカリ水溶液に可溶のコート層(下地層)を介して基材フィルム上に形成されたラベルが開示され、下地層をアルカリ水溶液に溶解させることによって、ラベルから基材を分離している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-84670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法によって回収されたラベルは、破砕され、基材からインキ層が分離された後、乾燥され、再利用される。基材のみならず、インキも再利用することが求められている。
【0007】
本発明は、アルカリ溶液によるインキの変質を低減しつつラベルからインキを回収するインキの回収方法、ラベルを構成する基材からインキを除去して基材を回収する基材の回収方法、及び基材のリサイクル方法、及び再生基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るインキの回収方法は、基材と、インキを含むインキ層とを有するラベルであって、アルカリ溶液により前記基材と前記インキとを分離可能なラベルを取得する工程と、前記ラベルを、0.05重量%以上0.5重量%以下の第1濃度を有するアルカリ溶液により処理する第1アルカリ処理工程と、前記第1アルカリ処理工程により分離した前記インキを回収する工程と、を含む。
【0009】
本発明の一態様に係る基材の回収方法は、上述のインキの回収方法における前記第1アルカリ処理工程により得られた前記基材を、前記第1濃度より高い第2濃度を有するアルカリ溶液により処理する第2アルカリ処理工程と、前記第2アルカリ処理工程を経た前記基材を回収する回収工程と、を含む。
【0010】
本発明の一態様に係る基材のリサイクル方法は、上述の基材の回収方法における前記回収工程より得られた基材を、ペレット又はフラフにする工程を含む。
【0011】
本発明の一態様に係る生基材の製造方法は、基材のリサイクル方法における前記工程により得られた前記ペレット又はフラフを用いて再生基材を製造する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、アルカリ溶液による変質が低減されたインキを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態1に係るラベルの模式的な断面図である。
図2】実施形態1に係るインキ及び基材の回収方法のフローの一例を示す模式図である。
図3】変形例に係るラベルの模式的な断面図である。
図4】実験例に係るラベルの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の一例である実施形態のインキ及びラベルの回収方法について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、以下の説明は本発明に係るインキ及び基材の回収方法の一例であり、本発明の技術的範囲は図示例に限定されるものではない。
【0015】
〔本発明の技術的思想〕
上述したように、ラベルの基材に加えてインキを再利用することが求められている。しかし、本発明者は、ラベルをアルカリ溶液により処理した場合、インキに含まれる顔料全体、又は顔料の表面が変質することがあり、インキの再利用に支障が生じるという知見を得た。本発明者は、0.5重量%以下の第1濃度のアルカリ溶液によりラベルを処理することにより、顔料の変質が低減された状態で、ラベルから大半のインキを回収できることを見出した。そして、第1濃度のアルカリ溶液の処理によりインキの大半が除去された基材に対し、第1濃度より高い第2濃度のアルカリ溶液により処理することにより、少し残存していたインキを基材から脱離させることができ、良好な品質を有する基材を回収できることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
即ち、本発明の一態様に係るインキの回収方法は、基材と、インキを含むインキ層とを有するラベルであって、アルカリ溶液により前記基材と前記インキとを分離可能なラベルを取得する工程と、前記ラベルを、0.05重量%以上0.5重量%以下の第1濃度を有するアルカリ溶液により処理する第1アルカリ処理工程と、前記第1アルカリ処理工程により分離した前記インキを回収する工程と、を含むものである。
【0017】
本発明の一態様に係る基材の回収方法は、上述のインキの回収方法における前記第1アルカリ処理工程により得られた前記基材を、前記第1濃度より高い第2濃度を有するアルカリ溶液により処理する第2アルカリ処理工程と、前記第2アルカリ処理工程を経た前記基材を回収する工程と、を含むものである。
【0018】
〔実施形態1〕
以下、実施形態1に基づいて具体的に説明する。
[ラベル]
図1に、実施形態1のラベル11の模式的な断面図を示す。図1に示すように、ラベル11は、基材101と、基材101に対して積層されたアルカリ可溶性の下地層102と、下地層102に対して積層されたインキ層103とを備えている。ラベル11は、熱収縮性を有するラベル(シュリンクラベル)であってもよく、熱収縮性を有しないラベルであってもよい。また、ラベル11は、自己伸縮性を有するストレッチラベルであってもよく、自己伸縮性を有しないラベルであってもよい。パウチであってもよい。
【0019】
<基材>
基材101は、下地層102及びインキ層103を支持することが可能な樹脂を含む基体である。基材101に含まれる樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂(PET、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸等)、ポリスチレン系樹脂(ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体等)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アラミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、又はアクリル系樹脂等を用いることができる。基材101は、これらの樹脂の1種類を含んでいてもよく、2種類以上を含んでいてもよい。
【0020】
基材101に含まれる樹脂としては、ポリエステル系樹脂を用いることが好ましく、中でもPETを用いることが好ましい。PETは、ジカルボン酸成分の主成分としてテレフタル酸を含み、ジオール成分の主成分としてエチレングリコールを含むポリエステル樹脂である。また、PETは、他の成分として、例えば、イソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、又はナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸を含んでいてもよく、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール、又は1,4-シクロヘキサンジメタノール等のジオール成分を含んでいてもよい。
【0021】
基材101は、例えば、熱収縮性を有するフィルム(シュリンクフィルム)であってもよい。基材101がシュリンクフィルムである場合には、ラベル11の加工性(容器への追従性)及び装飾性を向上させることができる。基材101は、また、例えば、自己伸縮性を有するストレッチフィルムであってもよい。
【0022】
基材101は、1層からなる単層フィルムであってもよく、2層以上からなる多層フィルムであってもよい。また、基材101の厚さは、例えば5μm以上100μm以下とすることができるが、特に限定されない。基材101の厚さは、10μm以上60μm以下であることがより好ましい。
【0023】
<下地層>
下地層102は、基材101とインキ層103との間に位置し、アルカリ可溶性を有する樹脂を含む層である。下地層102に含まれる樹脂としては、例えばアクリル酸共重合樹脂が挙げられる。アクリル酸共重合樹脂とは、主たる繰り返し単位として、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を含むとともに、アクリル酸及び/又はメタクリル酸と共重合可能な共重合モノマーを含む樹脂である。アクリル酸共重合樹脂として、メタクリル酸-メチルメタクリル酸共重合体であることが好ましい。アクリル酸共重合樹脂は、樹脂におけるアクリル酸及び/又はメタクリル酸、ならびに共重合モノマーの合計割合が、60モル%以上であることが好ましい。下地層102は、上述の樹脂以外に、セルロース誘導体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、酢酸エチル,酢酸nプロピル等の酢酸と低級アルコールのエステル等を含んでもよい。
【0024】
下地層102の厚さは、例えば、0.1μm以上5μm以下とすることができ、0.3μm以上3μm以下とすることが好ましいが、特に限定されない。
【0025】
<インキ層>
インキ層103は、下地層102の基材101とは反対側に位置し、インキを含む層である。インキ層103に含まれるインキは、例えば、顔料、樹脂、及び添加剤を含んでいてもよい。インキ層103は、デザイン印刷層であることが好ましい。デザイン印刷層は、顔料を含み、視認可能な絵柄又は文字等を表示する層である。油性のインキとしては、例えば、顔料、染料等の着色剤、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等のバインダー樹脂及び有機溶剤に、添加剤を配合したものが挙げられる。水性のインキとしては、着色剤に、水溶性又は水分散性のバインダー樹脂、添加剤等を配合したものが挙げられる。添加剤としては、滑剤、ブロッキング防止剤、沈降防止剤等が挙げられる。インキ層103は、下地層102の全面に設けられていてもよく、下地層102の一部に設けられていてもよい。また、インキ層103は、単層であってもよく、多層であってもよい。インキ層103の厚さは、例えば0.1μm以上30μm以下程度とすることができるが、特に限定されない。
【0026】
[ラベルの製造方法]
実施形態のラベル11は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、基材101を準備する。基材101は、例えば、インフレーション法、押出法又はカレンダー法等の方法によってフィルムを成形することにより、必要に応じて、当該フィルムに対してさらに延伸処理を施すことにより準備することができる。
【0027】
次に、基材101の一方の表面に下地層102を形成する。下地層102は、例えば、下地層102に含まれる樹脂を含む組成物を基材101の一方の表面に塗布した後に乾燥固化することにより形成することができる。
【0028】
次に、下地層102の表面にインキ層103を形成する。インキ層103は、例えば、インキ層103を形成するための上述のインキを下地層102の表面に塗布した後に乾燥固化することにより形成することができる。インキ層103は、印刷、印字、練り込み等によって形成してもよい。印刷方法としては、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等、公知の方法が挙げられる。複数の印刷方法を組み合わせてもよい。
【0029】
[ラベルの装着方法]
ラベル11は、容器(例えば、PETボトル)に装着されるものであり、例えば、印刷面(すなわち、インキ層103が位置する側)が容器と対向するように、容器に巻き付けられる。巻き付け方法としては、種々の方法を採用できる。例えば、ラベル11が巻き付けラベルである場合、ラベル11の一端を容器に貼り付けた状態で一周させ、他端を一端の表面に貼り付ければよい。ラベル11がシュリンクラベルである場合、ラベル11を予め筒状に形成し、容器に被せてラベル11を収縮させればよい。
【0030】
[インキ及び基材の回収方法]
図2は、実施形態1に係るインキ及び基材の回収方法のフローの一例を示す模式図である。図2に示すように、インキ及び基材の回収方法は、PETボトルの回収工程S1、圧縮工程S2、集積工程S3、ラベル群の回収工程S4、分別工程S5、破砕工程S6、第1アルカリ処理工程S7、分別工程(インキを回収する工程)S8、第2アルカリ処理工程S9、及び分別回収工程(基材を回収する回収工程)S10を含む。S1~S8の工程が、インキの回収方法における各工程に相当する。以下、図2を参照して、インキ及び基材の回収方法の各工程について説明する。
【0031】
<ボトル回収工程>
図2のS1に示すように、使用済みのPETボトル(物品)10が回収ボックス12に回収される。PETボトル10の胴部には、アルカリ可溶性の下地層102、及びインキ層103を有するラベル11、又はラベル40が装着されている。ラベル40は、下地層がアルカリ可溶性でなく、又は、下地層を有さず、基材の表面にインキ層が直接形成されている場合の当該インキ層がアルカリ可溶性でなく、基材を分離できないラベルである。
【0032】
ラベル11又はラベル40が装着される物品としては、PETボトル10以外の容器又は容器以外の各種成形品等であってもよい。同様に、ラベル11又はラベル40の種類は特に限定されず、シュリンクラベル、巻付けラベル(ロールラベル)、ストレッチラベル、及びパウチ等であってもよい。
【0033】
<圧縮工程>
図2のS2に示すように、回収されたPETボトル10をラベル11又はラベル40が装着された状態で圧縮して、ラベル付きベール20とする。
【0034】
<集積工程>
図2のS3に示すように、ラベル付きベール20を集積し、リサイクル工場30へ送る。
【0035】
<ラベル群の回収工程>
図2のS4に示すように、実施形態1のラベル11と、ラベル40とを含むラベル群50を回収する。リサイクル工場30において、ラベル付きベール20のPETボトル10からラベル11又はラベル40を取り外して、PETボトル10と、ラベル11及びラベル40を含むラベル群50とに分離し、ラベル群50を回収する。PETボトル10は、例えば、既存のリサイクル工程で再利用される。
【0036】
<分別工程>
次に、図2のS5に示すように、回収したラベル群50から、ラベル11を分別する。分別の方法としては、例えばラベル11に、再利用可能であることの記載又はマークを付しておき、これを読み取る方法が挙げられる。分別されたラベル11は、下記の破砕工程S6を行うために、破砕機70へ搬送される。分別されたラベル40は、例えばサーマルリサイクル工場へ搬送され、サーマルリサイクルに用いられる。
【0037】
<破砕工程>
図2のS6に示すように、ラベル11を破砕機70により破砕してラベル片71を作製する。破砕工程S6では、続く第1アルカリ処理工程S7にてラベル11からインキ層103を除去することに先立って、ラベル11を破砕して、より小さなラベル片71とする。このように、ラベル11をより小さなラベル片71した状態で第1アルカリ処理工程S7を実施することによって、第1アルカリ処理工程S7にてラベル片71からインキ層103を効率的に除去することができる。
【0038】
ラベル11を破砕する方法は、特に限定されない。ラベル11は、後述する第1アルカリ処理工程S7にて、ラベル片71からインキ層103を効率的に除去することができる程度の大きさ(例えば数cm角)に破砕される。
【0039】
なお、破砕工程S6は必須ではなく、省略することも可能である。この場合、ラベル11の状態で第1アルカリ処理工程S7が実施される。また、ラベル11がシュリンクラベルである場合、破砕工程S6の前に予備加熱を行ってラベル片71がカールする量を制御し、下記の第1アルカリ処理工程S7にて、ラベル片71の表面から良好にインキ層103が脱離するようにしてもよい。
【0040】
<第1アルカリ処理工程>
図2のS7に示すように、ラベル片71に対して第1アルカリ処理を行うことにより、下地層102を溶解させる。具体的には、第1アルカリ処理において、熱アルカリ槽82に、アルカリ溶液として第1濃度を有するアルカリ水溶液(第1アルカリ溶液)80を投入して50℃~95℃の所定の温度に維持する。その後、ラベル片71を第1アルカリ溶液80に浸漬する。この際、緩く攪拌してもよい。第1アルカリ溶液80の濃度(第1濃度)は、0.05重量%以上0.5重量%以下である。これにより、インキの顔料全体又は顔料の表面が変質することを低減しつつ、ラベル片71から大半のインキ層103を脱離させ、回収することができる。第1濃度が0.05重量%未満である場合、物理的作用(例えば、ブラシでラベル片71を擦る、ラベル片71同士を接触させる)を施しても、インキが基材101から脱離し難い。一方、第1濃度が0.05重量%以上である場合、少なくとも物理的作用を施すことによりインキ層103を脱離できる。第1濃度は0.1重量%以上0.5重量%以下であることがさらに好ましい。この場合、必要に応じて物理的作用を施すことにより、略100%インキ層103を脱離できる。第1濃度は0.17重量%以上0.5重量%以下であることが特に好ましい。この場合、物理的作用を施さなくても略100%のインキ層103を基材101から脱離できる。
【0041】
第1アルカリ溶液80の組成としては、ラベル片71を浸漬させることにより、ラベル片71からインキ層103を除去することが可能であれば特に限定されない。第1アルカリ溶液80としては、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)又は水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ金属水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム(NaCO)等のアルカリ金属炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)等のアルカリ金属炭酸水素塩の水溶液、又はアンモニア水等を用いることができる。第1アルカリ溶液80には、さらに基材101からのインキの脱離性の向上を目的として、界面活性剤を加えてもよい。第1アルカリ溶液80の組成に応じて、第1アルカリ溶液80の濃度を決定してもよい。
【0042】
ラベル片71の第1アルカリ溶液80に対する浸漬時間は第1濃度にもよるが、15分以下であることが好ましい。この場合、インキの顔料を変質がより低威した状態で、インキ層103をラベル片71から脱離させることができる。第1濃度が低いほど、浸漬時間を長くすることが好ましい。インキの顔料の変質をより低減するという観点からは浸漬時間は短い方が好ましく、後述する実験例からも推察されるように浸漬時間は14分以下がより好ましく、12分以下がさらに好ましい。
【0043】
第1アルカリ溶液80はアルカリ水溶液に限定されず、溶媒として水以外の溶媒を含んでもよい。例えば、第1アルカリ溶液80は、溶媒として、水に加えて、グリコール系溶剤または高沸点溶剤(例えば、高分子アルコール系溶剤)を含んでいてもよい。第1アルカリ処理工程S7では、ラベル片71を第1アルカリ溶液80に浸漬することに代えて、ラベル片71に第1アルカリ溶液80を噴霧してもよい。
【0044】
<分別工程>
ラベル片71に対して第1アルカリ処理工程が施され、ラベル片71の基材101からインキ層103の大半が除去されることによって生じた基材片を基材片72と称する。図2のS8に示すように、熱アルカリ槽82中の基材片72と、インキ層103が脱離して生じた脱離片93とを分けて回収する。例えば、相対的に大きな開口を有する第1篩90で、ラベル片71からインキ層103が脱離した後の基材片72を捕集し、相対的に小さな開口を有する第2篩92で基材片72よりも小さいインキ層103の脱離片93を捕集する。第2篩92で捕集された脱離片93は、インキとして再利用する。上述したように、インキの顔料の変質は低減されている。インキ層103が水性のインキを含み、水性のインキが第1アルカリ溶液80に溶ける場合には、分別工程S8において、水性のインキが、篩分けに代えて、溶剤揮発、抽出等により凝集され、遠心分離、ろ過等により分離され、回収される。
【0045】
基材101に対し流水を当てる、指、ブラシ等により擦る、流水を当てながら擦る等の物理的な作用を必要とせず、インキ層103が自然に基材101から剥離する場合、物理的処理を行わずに篩分けによりインキ層103の脱離片93を捕集することができる。第1濃度が低い場合等、インキ層103の剥離に物理的な作用を要するときには、第1アルカリ処理工程S7の後に、流水を当てる、指やブラシで擦る、流水を当てながら擦る等の物理的処理を行ってインキ層103を剥離させた後、篩分けを行う。
【0046】
基材片72は、下記の第2アルカリ処理工程S9を行うために、熱アルカリ槽86へ搬送される。基材片72及び脱離片93が捕集された後の第1アルカリ溶液80は廃液として廃棄処理されてもよく、別の第1アルカリ処理工程S7において用いられる第1アルカリ溶液80として再利用されてもよい。また、濃度を調整して第2アルカリ処理用の下記の第2アルカリ溶液84として用いてもよい。
【0047】
<第2アルカリ処理工程>
図2のS9に示すように、第2アルカリ処理工程において、熱アルカリ槽86に、アルカリ溶液として第1濃度より高い第2濃度を有するアルカリ水溶液(第2アルカリ溶液)84を投入して50℃~95℃の所定の温度に維持する。その後、分別工程で回収された基材片72を第2アルカリ溶液84に浸漬し、攪拌する。これにより、基材片72に少し残存していたインキ層103が脱離され、インキ層103がほぼ残存していない基材片91を得ることができる。第2アルカリ溶液84の濃度(第2濃度)は、1重量%以上6重量%以下であることが好ましい。この場合、基材片72から効率良くインキ層103を脱離できることが実験により確認されている。そして、第2濃度が6重量%超過である場合は、安全面、処理面、コスト面の観点から好ましくない。第2濃度は、2重量%以下であることがより好ましく、1.5重量%以下であることがさらに好ましい。濃度が異なること以外は、第2アルカリ溶液84は第1アルカリ溶液80と同様の組成を有していてもよい。第2アルカリ溶液84はアルカリ水溶液に限定されず、第1アルカリ溶液80と同様に、溶媒として水以外の溶媒を含んでいてもよい。
【0048】
基材片72の第2アルカリ溶液84に対する浸漬時間は第2濃度にもよるが、30秒以上20分以下であることが好ましい。この場合、インキ層103を基材片72から脱離させることができる。第2濃度が低いほど、浸漬時間を長くすることが好ましい。第1アルカリ処理工程S7を経ているので、第2濃度(従来のアルカリ処理の濃度に相当する)の第2アルカリ溶液84に浸漬する時間を減らして、基材片72へのダメージを低減することができる。効率の観点や、基材片72へのダメージの低減という観点からは浸漬時間は短い方が好ましい。後述する実験例からも推察されるように、浸漬時間は、10分以下がより好ましく、5分以下がさらに好ましく、4分以下が特に好ましい。
【0049】
<分別回収工程>
図2のS10に示すように、熱アルカリ槽86中の基材片91と脱離片93とを分けて回収する。例えば第1篩90で、基材片72からインキ層103が脱離した後の基材片91を捕集し、第1篩90より小さな開口を有する第2篩92で基材片91よりも小さいインキ層103の脱離片93を捕集する。第2篩92で捕集された脱離片93は、インキとしての再利用も考えられるが、変性の可能性を踏まえれば、分別回収工程S10においては、インキを再利用せず、サーマルリサイクルに用いることが好ましい。
【0050】
インキ層103が水性のインキを含み、水性のインキが第2アルカリ溶液84に溶ける場合には、分別回収工程S10において、水性のインキが、篩分けに代えて、溶剤揮発、抽出等により凝集され、遠心分離、ろ過等により分離され、回収される。
【0051】
基材片91及び脱離片93が捕集された後の第2アルカリ溶液84は、別の第2アルカリ処理工程において用いられる第2アルカリ溶液84として再利用することができる。第1アルカリ処理の第1アルカリ溶液80に対して大半のインキが脱離しているので、第2アルカリ溶液84の汚染量は少なく、繰り返しの使用が可能である。濃度を変えて第1アルカリ処理用の第1アルカリ溶液80として用いてもよい。従来の高濃度のアルカリ水溶液で一度にアルカリ処理を行う場合のように、インキを含む高アルカリ濃度の汚染水が多量に発生することが抑制される。
【0052】
[基材のリサイクル方法]
実施形態1に係る基材のリサイクル方法は、上述の基材の回収方法における分別回収工程S10により得られた基材片91を、ペレット又はフラフにする工程を含む。
【0053】
[再生基材の製造方法]
実施形態1に係る再生基材の製造方法は、上述の基材のリサイクル方法における前記工程により得られたペレット又はフラフを用いて再生基材を製造するものである。なお、新しいラベル基材の原料に基材片91を混ぜ込むことによって、再生ラベルとして製造することもできる。
【0054】
[変形例]
図3は、変形例に係るラベル13の模式的な断面図である。ラベル13は、基材101と、基材101の一面に形成されたアルカリ可溶性のインキ層103とを備える。インキ層103は、例えばスチレン-アクリル酸共重合体及び/又はスチレン-マレイン酸共重合体等のビヒクル樹脂を含み、実施形態1と同様にして形成される。変形例のラベル13は、上述の第1アルカリ処理工程S7において、インキ層103が基材101から分離して第1アルカリ溶液80に溶解する。第1アルカリ溶液80に溶解したインキは、分別工程S8において、篩分けに代えて、溶剤揮発、抽出等により凝集され、遠心分離、ろ過等により分離され、回収される。上述の第2アルカリ処理工程S9において、インキ層103が基材101から分離して第2アルカリ溶液84に溶解する。第2アルカリ溶液84に溶解したインキは、分別回収工程S10において、篩分けに代えて、溶剤揮発、抽出等により凝集され、遠心分離、ろ過等により分離され、回収される。
【0055】
[まとめ]
以上のように、実施形態1のインキの回収方法によれば、第1濃度の第1アルカリ溶液80を用いた処理により、顔料に影響を及ぼさずに基材101から大半のインキ層103を脱離させてインキを回収することができる。回収したインキは、アルカリによる影響が少ないので、その後の再利用がし易い。第1アルカリ処理工程S7が、ラベル11を、第1アルカリ溶液80に浸漬して行う場合、インキの顔料の変質がより低威した状態で、インキをラベル片71から脱離させることができる。浸漬時間は脱離効率の観点から、15分以下が好ましく、12分以下がより好ましい。第1濃度が0.1重量%以上0.5重量%以下である場合、必要に応じて物理的作用を施すことにより、略100%インキ層103を脱離できる。
【0056】
実施形態1の基材の回収方法によれば、第2濃度の第2アルカリ溶液84を用いた処理により、基材片72に少し残存しているインキを脱離させることができ、再利用する基材片91の品質が向上する。第2濃度が1重量%以上6重量%以下である場合、基材片72から効率良くインキを脱離させることができる。第2アルカリ処理工程S9が、基材片72を30秒以上20分以下浸漬して行う場合、インキ層103を基材片72から良好に脱離させることができる。第1アルカリ処理工程S7を経ているので、第2アルカリ処理工程S9の処理時間を短くでき、基材片72へのダメージが少なく、高濃度の第2アルカリ溶液84が汚染され難いためにこの溶液を繰り返し利用することが可能である。第2アルカリ処理工程S9における浸漬時間は10分以下が好ましく、5分以下がより好ましい。
【0057】
実施形態1の基材のリサイクル方法によれば、インキが残存していない基材片91を用いて、品質が良好なペレット又はフラフを得ることができる。
【0058】
実施形態1の再生基材の製造方法によれば、インキが残存していない基材片91を用いて得られたペレット又はフラフを使用して、品質が良好な再生基材を製造することができる。
【0059】
実施形態1に係るインキ及び基材の回収方法、基材のリサイクル方法、並びに再生基材の製造方法によれば、ラベル11の基材及びインキを良好な品質を有する状態で再利用することができ、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献することができる。
【0060】
〔実験例〕
以下、アルカリ溶液の濃度を変えて、下記のラベル14の基材101からのインキの脱離の度合を調べた実験例の結果について説明する。
【0061】
<ラベル>
実験例に用いるラベル14は、以下のようにして作製した。図4は、実験例に係るラベル14の模式的な断面図である。基材101として、厚さ20μmのPETフィルムを準備した。グラビア校正機を用いて、基材101の一方の表面に下地層102の形成用の組成物を塗布し、乾燥固化させることによって、下地層102を形成した。当該組成物は、ベース樹脂としてのアクリル酸共重合体系樹脂、セルロース誘導体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含む。次に、グラビア校正機を用いて、下地層102上にインキとしてエトナ紅色を含むインキ樹脂組成物を塗布し、固化させることによってカラー層103a(インキ層)を形成した。グラビア校正機を用いて、カラー層103aの表面に白インキ(NTハイラミック(NF)701白)を含むインキ樹脂組成物を塗布し、固化させることによって白インキ層103bを形成した。グラビア校正機を用いて、白インキ層103bの表面にメジウムを塗布し、固化させることによってオーバーコート層104を形成した。これらの工程により、実験例のラベル14(100mm×200mm)が完成した。このラベル14を40mm×40mmに破砕することにより、ラベル片が作製された。
【0062】
<インキの脱離の実験>
容量500mlのビーカーに、アルカリ溶液として、NaOH水溶液を下記表1の各実験例の濃度に調整したものを300ml投入し、これらのNaOH水溶液にラベル片を浸漬してホットスターラーで軽く撹拌した。ビーカー内でインキが自然に剥離し、基材101が透明になった時間を測定した。インキが剥離しない場合、20分が経過するまで撹拌を続けた後、流水中で塗膜層(カラー層103a、白インキ層103b、及びオーバーコート層104)を指でかるく擦って塗膜層が剥離するか否かを確認した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1より、アルカリ溶液の濃度が0.05重量%以上である場合、少なくとも物理的作用を施すことによりインキを脱離できるので、実験例1~4のアルカリ溶液(濃度0.05重量%~0.5重量%)は第1アルカリ溶液80として使用できる。また、第1アルカリ溶液の濃度が0.1重量%より大きく0.5重量%以下である場合、物理的作用を施さなくても、12分から15分程度で大半のインキを脱離させて回収できることが分かる。このことから、第1アルカリ溶液80の濃度は0.1重量%より大きく0.5重量%以下であることがより好ましい。また、アルカリ溶液の濃度が0.5重量%以下であれば、インキの顔料が変質する可能性は低く、変質するとしても、その程度は軽微なものである。
【0065】
実験例5及び6のアルカリ溶液は、その濃度が1重量%、1.5重量%と高濃度であり、インキは短時間で基材101から脱離できるので、第2アルカリ溶液84として使用できる。
【0066】
以上のように、アルカリ溶液の濃度が0.05重量%以上0.5重量%以下である場合、インキの少なくとも一部をラベルから分離して再利用できることが確認された。
【符号の説明】
【0067】
10 PETボトル
11、13、14 ラベル
101 基材
102 下地層
103 インキ層
40 ラベル
50 ラベル群
図1
図2
図3
図4