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特開2023-51162インキ層の除去方法、ラベルのリサイクル方法およびプラスチック製品の製造方法
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  • 特開-インキ層の除去方法、ラベルのリサイクル方法およびプラスチック製品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051162
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】インキ層の除去方法、ラベルのリサイクル方法およびプラスチック製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161663
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000238005
【氏名又は名称】株式会社フジシールインターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】藤井 利彦
(72)【発明者】
【氏名】小田切 俊
(72)【発明者】
【氏名】西川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 彰
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA08
4F401AA09
4F401AA10
4F401AA11
4F401AA13
4F401AA22
4F401AB07
4F401AC13
4F401AD02
4F401BA01
4F401BA06
4F401CA02
4F401CA14
4F401CA22
4F401CA32
4F401CA48
4F401CA49
4F401CB14
4F401EA07
4F401EA08
4F401EA59
4F401EA62
4F401EA79
4F401FA01Z
(57)【要約】
【課題】ラベルからインキ層を効率的に除去する。
【解決手段】本発明の一態様に係るインキ層の除去方法は、インキ除去溶液(80)にインキ層を有するラベル片(71)を接触させる溶液処理工程(S71)を含み、溶液処理工程(S71)前にラベル(11)を予備加熱せずに、ラベル片(71)をインキ除去溶液(80)に接触させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ層を有するラベルから該インキ層を除去するインキ層の除去方法であって、
水性インキ層を溶解または膨潤させる成分と、油性インキ層を溶解または膨潤させる成分とを含むインキ除去溶液に、前記インキ層を有するラベルを接触させる溶液処理工程を含み、
前記溶液処理工程前に前記インキ層を有するラベルを予備加熱せずに、該ラベルを前記インキ除去溶液に接触させる、インキ層の除去方法。
【請求項2】
前記インキ除去溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、界面活性剤、グリコールエーテルおよび高沸点溶剤を含む、請求項1に記載のインキ層の除去方法。
【請求項3】
前記インキ除去溶液の温度は、15℃以上65℃未満である、請求項1または2に記載のインキ層の除去方法。
【請求項4】
前記インキ除去溶液は、前記水性インキ層を溶解または膨潤させる成分を含む水性インキ除去剤と、前記油性インキ層を溶解または膨潤させる成分を含む油性インキ除去剤とを混合した混合剤である、請求項1から3のいずれか1項に記載のインキ層の除去方法。
【請求項5】
前記溶液処理工程の後、前記インキ層を有するラベルを水に接触させる水処理工程をさらに含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のインキ層の除去方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のインキ層の除去方法によって、水性インキ層を有するラベルおよび油性インキ層を有するラベルを含むラベル群からインキ層を除去する工程と、
前記インキ層が除去された前記ラベルを用いて、樹脂フラフまたは樹脂ペレットを製造する工程と、
を含む、ラベルのリサイクル方法。
【請求項7】
請求項6に記載のラベルのリサイクル方法によって製造した前記樹脂フラフまたは前記樹脂ペレットを用いて、プラスチック製品を製造する工程を含む、プラスチック製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラベルからインキ層を除去するインキ層の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばポリエチレンテレフタレート製ボトル等のプラスチック製品が広く利用されている。省資源および環境保護の観点等から、PETボトル等のプラスチック製品を再利用することが求められている。
【0003】
プラスチック製品の中でも特にPETボトルの再利用は既に普及している。一方、商品情報等の表示のための印刷が施されたプラスチック製のラベルがPETボトルの胴部に装着されることがあるが、このラベルの再利用はPETボトルに比べて普及が遅れている。
【0004】
ラベルの再利用を阻害する要因の1つが、ラベルからインキ層を効率的に除去することができない点にある。ラベルからインキ層を効率的に除去することができない場合には、ラベルから利用価値のあるペレットを作製することができないためである。
【0005】
例えば特許文献1には、シュリンクラベル(熱収縮性ラベル)を非水浸漬条件下で予備加熱した後、比較的低温のアルカリ水に接触させて、アルカリ水脱離性インキ層を脱離除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-350411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法によってインキ層を脱離除去することは可能である。しかしながら、特許文献1に記載の方法は、インキ層の脱離前に、シュリンクラベルを100℃程度の温度で予備加熱して収縮させる必要性があり、さらなる効率的なインキ層の除去方法が要望されていた。
【0008】
本発明の一態様は、ラベルからインキ層を効率的に除去することが可能なインキ層の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の態様1に係るインキ層の除去方法は、インキ層を有するラベルから該インキ層を除去するインキ層の除去方法であって、水性インキ層を溶解または膨潤させる成分と、油性インキ層を溶解または膨潤させる成分とを含むインキ除去溶液に、前記インキ層を有するラベルを接触させる溶液処理工程を含み、前記溶液処理工程前に前記インキ層を有するラベルを予備加熱せずに、該ラベルを前記インキ除去溶液に接触させる。
【0010】
前記方法では、水性インキ層を溶解または膨潤させる成分と油性インキ層を溶解または膨潤させる成分との両成分をインキ除去溶液が含む。このため、溶液処理工程にて、水性インキ層および油性インキ層を同時に溶解または膨潤させて、ラベルからインキ層を脱離除去することが可能となる。
【0011】
また、前記方法では、溶液処理工程前にインキ層を有するラベルを予備加熱せずに、溶液処理工程にてインキ除去溶液に接触させることで、インキ層を溶解または膨潤させる。このため、従来、インキ層の脱離前に行っていた予備加熱工程を省略することができ、工程数および予備加熱に要する消費エネルギーを低減することができる。
【0012】
従って、前記方法によれば、ラベルから水性インキ層および油性インキ層を効率的に除去することができる。
【0013】
また、本発明の態様2に係るインキ層の除去方法では、前記態様1において、前記インキ除去溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、界面活性剤、グリコールエーテルおよび高沸点溶剤を含んでいてもよい。
【0014】
前記方法によれば、これらの成分を含むインキ除去溶液をラベルに接触させることにより、水性インキ層および油性インキ層を常温(室温)で溶解または膨潤させることができる。
【0015】
また、本発明の態様3に係るインキ層の除去方法では、前記態様1または2において、前記インキ除去溶液の温度は、15℃以上65℃未満であってもよい。
【0016】
前記方法によれば、ラベルがシュリンクラベルである場合であっても、溶液処理工程にてシュリンクラベルを熱収縮させずに、シュリンクラベルからインキ層を安全かつ効率的に除去することができる。また、従来のアルカリ処理に比べて低温で処理することができため、消費エネルギーを低減することができ、エネルギーコスト的にも優れる。
【0017】
また、本発明の態様4に係るインキ層の除去方法では、前記態様1から3のいずれかにおいて、前記インキ除去溶液は、前記水性インキ層を溶解または膨潤させる成分を含む水性インキ除去剤と、前記油性インキ層を溶解または膨潤させる成分を含む油性インキ除去剤とを混合した混合剤であってもよい。
【0018】
前記方法によれば、水性インキ層を溶解または膨潤させる成分と油性インキ層を溶解または膨潤させる成分との両成分を含むインキ除去溶液を容易に製造することができる。
【0019】
また、本発明の態様5に係るインキ層の除去方法では、前記態様1から4のいずれかにおいて、前記溶液処理工程の後、前記インキ層を有するラベルを水に接触させる水処理工程をさらに含んでいてもよい。
【0020】
前記方法では、溶液処理工程にてインキ層の密着性を低下させた後、インキ層を有するラベルを水に接触させることにより、インキ層を脱離除去することができる。従って、前記方法によれば、インキ除去溶液の特性の変化が少ないため、インキ除去溶液を効率的に再利用することができる。
【0021】
前記課題を解決するために、本発明の態様6に係るラベルのリサイクル方法は、前記態様1から5のいずれかのインキ層の除去方法によって、水性インキ層を有するラベルおよび油性インキ層を有するラベルを含むラベル群からインキ層を除去する工程と、前記インキ層が除去された前記ラベルを用いて、樹脂フラフまたは樹脂ペレットを製造する工程と、を含む。
【0022】
前記方法によれば、予備加熱せずに水性インキ層および油性インキ層を効率的に除去したラベルを用いて、樹脂フラフまたは樹脂ペレットを製造することができる。
【0023】
前記課題を解決するために、本発明の態様7に係るプラスチック製品の製造方法は、前記態様6のラベルのリサイクル方法によって製造した前記樹脂フラフまたは前記樹脂ペレットを用いて、プラスチック製品を製造する工程を含む。
【0024】
前記方法によれば、予備加熱せずに水性インキ層および油性インキ層を効率的に除去したラベルから製造した樹脂フラフまたは樹脂ペレットを用いて、プラスチック製品を製造することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一態様によれば、ラベルからインキ層を効率的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態に係るインキ層の除去方法のフローの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について、図1に基づいて説明する。ただし、以下の説明は本発明に係るインキ層の除去方法の一例であり、本発明の技術的範囲は図示例に限定されるものではない。
【0028】
図1は、本実施形態に係るインキ層の除去方法のフローの一例を示す模式図である。図1に示すように、インキ層の除去方法は、ボトル回収工程S1、圧縮工程S2、集積工程S3、分離工程S4、ソーティング工程S5、破砕工程S6、脱離工程S7および分離/回収工程S8を含む。以下、図1を参照して、インキ層の除去方法の各工程について説明する。
【0029】
<ボトル回収工程>
まず、図1のS1に示すように、使用済みのPETボトル(物品)10が回収ボックス12に回収される。PETボトル10の胴部には、インキ層を有するラベル11が装着されている。インキ層は、商品表示等のデザインが印刷される印刷層である。
【0030】
ラベル11が装着される物品は、PETボトル10に限定されない。物品は、ラベル11が装着されて使用されるものであればよく、PETボトル10以外の容器または容器以外の各種成形品等であってもよい。同様に、ラベル11の種類は特に限定されず、シュリンクラベル、巻付けラベル(ロールラベル)およびストレッチラベル等の各種ラベルであってもよい。
【0031】
ラベル11は、例えばフィルム(基材)の少なくとも片面に水性インキ層または油性インキ層を有する。ラベル11に使用されるフィルムは、ラベル11の種類に応じて適宜選択される。
【0032】
例えばラベル11がシュリンクラベルである場合、熱収縮性のシュリンクフィルムが基材として用いられる。シュリンクフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等からなるポリエステルフィルム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体等からなるスチレン系フィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂からなるオレフィン系フィルム、塩化ビニル樹脂からなる塩化ビニル系フィルム等が挙げられる。これらは発泡フィルムであってもよい。
【0033】
シュリンクフィルムの少なくとも一方向(主収縮方向)の熱収縮率は、各種容器等への収縮密着性の点から、30%以上であることが好ましく、さらに好ましくは50%以上である。シュリンクフィルムの厚さは、ラベル11の取扱性等を考慮して適宜選択することができるが、例えば10μm以上100μm以下程度、好ましくは15μm以上60μm以下程度とすることができる。なお、これらのシュリンクフィルムの数値は、PETボトル10等の容器への装着前のシュリンクラベルの作製に用いられるシュリンクフィルムの数値である。
【0034】
ラベル11に使用されるフィルムは単層であってもよく、2層以上の積層体であってもよい。2層以上の積層体を構成する場合、各層は同種の層であっても異種の層であってもよい。また、フィルムの色は特に限定されず、例えば乳白色または透明であってもよい。
【0035】
フィルムには、インキ層との密着性を高めるため、必要に応じてコロナ放電処理等の表面処理を施したり、またはアンカーコート層を設けてもよい。アンカーコート層は従来公知のアンカーコート剤等により形成することができる。
【0036】
インキ層は、後述する脱離工程S7で使用されるインキ除去溶液80に溶解または膨潤するインキで形成される。インキ層を形成するインキは、水性インキまたは油性インキのいずれであってもよい。
【0037】
インキ層を形成する水性インキおよび油性インキとしては、ラベル印刷等に用いられる従来公知のインキを使用することができる。油性インキとしては、例えば、顔料、染料等の着色剤、バインダー樹脂および有機溶剤に、添加物を配合したものを使用してもよい。また、水性インキとして、着色剤に、水溶性または水分散性のバインダー樹脂、添加物等を配合したものを使用してもよい。添加物としては、滑剤、ブロッキング防止剤、沈降防止剤等が挙げられる。
【0038】
フィルムの表面上へのインキ層の形成方法としては、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、またはインクジェット印刷等によって、フィルム上にインキ層を形成する方法を用いることができる。インキ層は、単層であってもよく、多層であってもよい。インキ層の厚さは用途等により適宜選択することができ、例えば0.1μm以上100μm以下程度とすることができる。
【0039】
<圧縮工程>
次に、図1のS2に示すように、回収されたPETボトル10をラベル11が装着された状態で圧縮することによって、ラベル付きベール20とする。
【0040】
<集積工程>
次に、図1のS3に示すように、ラベル付きベール20を、リサイクル工場30へ送り集積する。
【0041】
<分離工程>
次に、図1のS4に示すように、リサイクル工場30において、ラベル付きベール20のPETボトル10からラベル11を取り外して、PETボトル10とラベル11とに分離する。PETボトル10から分離されるラベル11には、シュリンクラベル、巻付けラベルおよびストレッチラベル等の各種ラベルが含まれていてもよい。
【0042】
図示の例では、PETボトル10から分離されたラベル11として、シュリンクラベル11aおよび巻付けラベル11bを示している。ラベル11が分離されたPETボトル10は、例えば、既存のリサイクル工程で再利用される。特に、後述する脱離工程S7によれば、水性インキ層および油性インキ層のいずれのインキ層も脱離させることができる。このため、この分離工程S4にてPETボトル10から分離されて続く工程へ送られるラベル11は、水性インキからなるインキ層を有するラベルと、油性インキからなる油性インキ層からなるラベルとを分ける必要性がない。
【0043】
<ソーティング工程>
次に、図1のS5に示すように、ラベル11をソーティングする。ソーティング工程S5では、例えばラベル11に使用されるフィルムの種類または材料ごとに、ラベル11をソーティングする。図示の例では、ラベル11に使用されるフィルムの種類ごと、つまりシュリンクラベル11aと巻付けラベル11bとに分別して各々を回収する状態を示している。
【0044】
ソーティング工程S5にて分別したラベル11には、続く破砕工程S6、脱離工程S7および分離/回収工程S8が別々に施される。これにより、インキ層が除去された後のフィルム片91を分離/回収工程S8にて捕集する際、同じ種類または材料のフィルム片91だけが捕集される。従って、ソーティング工程S5を実施することにより、種類または材料ごとのフィルム片91の回収が容易になる。
【0045】
なお、ソーティング工程S5は必須ではなく、省略することも可能である。また、例えば、分離/回収工程S8にてフィルム片91を捕集した後、種類または材料ごとにフィルム片91をソーティングしてもよい。
【0046】
<破砕工程>
次に、図1のS6に示すように、ラベル11を破砕機70により破砕してラベル片71を作製する。破砕工程S6では、続く脱離工程S7にてラベル11からインキ層を除去することに先立って、ラベル11を破砕して、より小さなラベル片71とする。このように、ラベル11をより小さなラベル片71した状態で脱離工程S7を実施することによって、脱離工程S7にてラベル片71からインキ層を効率的に除去することができる。
【0047】
ラベル11を破砕する方法は、特に限定されない。ラベル11は、後述する脱離工程S7にて、ラベル片71からインキ層を効率的に除去することができる程度の大きさ(例えば数cm角)に破砕される。
【0048】
なお、破砕工程S6は必須ではなく、省略することも可能である。この場合、ラベル11の状態で脱離工程S7が実施される。
【0049】
<脱離工程>
次に、図1のS7に示すように、ラベル片71からインキ層を脱離させて除去する。脱離工程S7は、溶液処理工程S71と、水処理工程S72とを含む。
【0050】
(溶液処理工程)
溶液処理工程S71は、ラベル片71をインキ除去溶液80に接触させる工程である。この溶液処理工程S71では、例えば、溶液槽82中のインキ除去溶液80にラベル片71を投入して10分程度静かに浸漬させる。この時のインキ除去溶液80の温度は、常温(15℃以上25℃以下程度)または室温(1℃以上30度以下)とすることができる。これにより、インキ除去溶液80中において、ラベル片71からのインキ層の完全な脱離を抑えつつ、インキ層の密着性を低下させることができる。なお、インキ除去溶液80の温度は、溶液処理工程S71時のラベル片71の表面温度であることを意味する。また、静かに浸漬されるとは、インキ除去溶液80が攪拌されない、またはインキ層の完全な脱離が起こらないように、極めて緩やかに浸漬される状態を意味する。
【0051】
なお、溶液槽82中のインキ除去溶液80の温度は常温(室温)であってもよいが、ラベル片71からインキ層を効率的に除去する観点からは、インキ除去溶液80の温度が常温よりも高くてもよい。ただし、ラベル片71としてシュリンクラベル片を含む場合、インキ除去溶液80の温度が65℃以上になるとシュリンクフィルムが熱収縮し、ラベル片71がカールする。カールしたラベル片71からインキ層を脱離させることは難しく、インキ層の除去効率の著しい低下を招く。このため、インキ除去溶液80は、意図しないラベル片71の収縮を避ける観点から、シュリンクフィルムの熱収縮が起きない温度範囲、例えば15℃以上65℃未満であることが好ましい。これにより、溶液処理工程S71シュリンクラベルを熱収縮させずに、ラベル片71からインキ層を安全かつ効率的に除去することができる。
【0052】
このように、インキ除去溶液80は、シュリンクフィルムの熱収縮が起きない温度範囲でインキ層を溶解または膨潤させる。このため、従来、インキ層の脱離前に行っていた予備加熱工程を省略することができ、工程数および予備加熱に要する消費エネルギーを低減することができる。
【0053】
インキ除去溶液80は、pHが11以上14以下程度のアルカリ性であり、水性インキ層および油性インキ層を常温(室温)で溶解または膨潤させる成分を含む。つまり、インキ除去溶液80は、水性インキ層を溶解または膨潤させる成分と油性インキ層を溶解または膨潤させる成分との両成分を含む。このため、水性インキ層および油性インキ層を同時に溶解または膨潤させて、ラベル片71からインキ層を脱離除去することができる。
【0054】
インキ除去溶液80は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、界面活性剤、グリコール系溶剤(例えば、グリコールエーテル等)および高沸点溶剤(例えば、高分子アルコール等)等を含んでいてもよい。これらの成分を含むインキ除去溶液をラベルに接触させることにより、水性インキ層および油性インキ層を常温で溶解または膨潤させることができる。
【0055】
また、インキ除去溶液80は、水性インキ層を溶解または膨潤させる成分を含む水性インキ除去剤と、油性インキ層を溶解または膨潤させる成分を含む油性インキ除去剤とを混合することでした混合剤であってもよい。これにより、水性インキ層を溶解または膨潤させる成分と油性インキ層を溶解または膨潤させる成分との両成分を含むインキ除去溶液80を容易に製造することができる。
【0056】
水性インキ除去剤は、水性インキ層を常温で溶解または膨潤させるものであれば特に限定されない。水性インキ除去剤は、例えば、水性インキの除去用途で市販されている水性インキ用の除去剤であってもよく、または、水性インキの除去以外の用途で市販されている薬剤(除去剤、洗浄剤等)であってもよい。
【0057】
このような水性インキ除去剤として、例えば製品名「換気扇レンジクリーナーPRO」(株式会社リンレイ製)等を好適に用いることができる。下記表1は、インキ除去溶液80の製造に好適に使用できる水性インキ除去剤(製品名「換気扇レンジクリーナーPRO」)の組成・成分の一例を示す表である。
【0058】
【表1】
表1に示すように、水性インキ除去剤は、例えば、水、グリコール系溶剤(グリコールエーテル)、両性イオン系界面活性剤(アルキルベタイン)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび金属封鎖剤等を含むことができる。
【0059】
油性インキ除去剤は、油性インキ層を常温で溶解または膨潤させるものであれば特に限定されない。油性インキ除去剤は、例えば、油性インキの除去用途で市販されている油性インキ用の除去剤であってもよく、または、油性インキの除去以外の用途で市販されている薬剤(除去剤、洗浄剤等)であってもよい。
【0060】
このような油性インキ除去溶液とて、例えば、インフィニティ株式会社製の製品名「PAINTSOLV-W(ペイントソルブ-W)」等を好適に用いることができる。下記の表2は、インキ除去溶液80の製造に好適に使用できる油性インキ除去剤(製品名「PAINTSOLV-W」)の組成・成分の一例を示す表である。
【0061】
【表2】
表2に示すように、油性インキ除去剤は、例えば、高沸点溶剤(高分子アルコール系溶剤)、非イオン系界面活性剤(ラウリルグルコシド)等を含むことができる。
【0062】
表1に示す成分を含む水性インキ除去剤と、表2に示す成分を含む油性インキ除去剤とを、例えば1:9の割合で混合することにより、水性インキ層および油性インキ層を常温で溶解または膨潤させるインキ除去溶液80を好適に製造することができる。
【0063】
(水処理工程)
水処理工程S72は、溶液処理工程S71の後、インク層を有するラベル片71を水84に接触させる工程である。水処理工程S72にて、溶液槽82から取り出したラベル片71を水槽86中の水84に浸漬させながら攪拌する。図示の例では、水槽86の底部に回転可能に設けられたスクリュー88によって、ラベル片71を浸漬させた水84を攪拌する状態を示している。ラベル片71を浸漬させた水84を攪拌することにより、水84中において、ラベル片71からインキ層が脱離する。例えば、ラベル片71が油性インキ層を有する場合、ラベル片71がフィルム片91とインキ塗膜93とに分離される。また、ラベル片71が水性インキ層を有する場合にも、ラベル片71がフィルム片91とインキ塗膜93とに分離される。なお、ラベル片71が水性インキ層を有する場合には、インキ層が水84に溶解して分散することもある。
【0064】
水槽86中の水84の温度は特に制限されないが、意図しないラベル片71の収縮を避ける観点から、室温程度(27℃前後)であることが好ましい。
【0065】
このように、脱離工程S7では、まず、溶液処理工程S71にて、インキ除去溶液80中にラベル片71を静かに浸漬する。これにより、インキ除去溶液80中において、ラベル片71からのインキ層の完全な分離を抑制しつつ、両者の密着性を低下させる。この時、インキ除去溶液80が常温で水性インキ層および油性インキ層を溶解または膨潤させるため、ラベル11が従来、インキ層の脱離前に行っていた予備加熱工程を省略することができる。そして、続く水処理工程S72にて、ラベル片71を水84中へ浸漬して攪拌することにより、ラベル片71からインキ層を脱離することができる。
【0066】
なお、ラベル片71を浸漬した後のインキ除去溶液80は廃液として廃棄処理されてもよく、インキ除去溶液80として再利用されてもよい。本実施形態のように脱離工程S7が水処理工程S72を含む場合、インキ除去溶液80の特性の変化が少ない。このため、より効率的にインキ除去溶液80を再利用することができる。なお、インキ除去溶液80の特性の変化としては、例えばインキ層の多量の混入等が挙げられる。
【0067】
また、水処理工程S72は必須ではなく、省略することも可能である。この場合、溶液処理工程S71にて、ラベル片71を溶液槽82中のインキ除去溶液80に浸漬させながら攪拌すればよい。これにより、ラベル片71からインキ層を脱離除去することができる。
【0068】
<分離/回収工程>
次に、図1のS8に示すように、水槽86中のフィルム片91とインキ塗膜93とを分離して回収する。例えば、相対的に大きな開口を有する第1の網90で、ラベル片71からインキ層が脱離した後のフィルム片91を捕集し、相対的に小さな開口を有する第2の網92でフィルム片91よりも小さいインキ塗膜93を捕集する。インキ塗膜93は、脱離工程S7にて、ラベル片71から除去された油性インキ層が細かく分断した膜である。
【0069】
その後、第1の網90で捕集されたフィルム片91は、例えば樹脂フラフまたはフィルム片91をリペレット化した樹脂ペレット(樹脂リペレット)等のプラスチック製品の製造用のプラスチック原料として、例えばラベルの製造に再利用することができる。また、新しいラベルの原料にフィルム片91を混ぜ込むことによって、ラベルとして再利用することもできる。一方、第2の網92で捕集されたインキ塗膜93は、例えばサーマルリサイクル工程で再利用することができる。
【0070】
なお、脱離工程S7にてラベル片71から脱離させた水性インキは、水84に溶解して分散する。このため、水性インキまたは水性インキおよび油性インキを回収する場合、分離/回収工程S8にて、沈殿、遠心分離、溶剤揮発、抽出、ろ過、凝集分離、その他の回収方法を採用することができる。
【0071】
<まとめ>
以上のように、本実施形態に係るインキ層の除去方法は、インキ層を有するラベル11から該インキ層を除去するインキ層の除去方法であって、水性インキ層を溶解または膨潤させる成分と油性インキ層を溶解または膨潤させる成分とを含むインキ除去溶液80に、インキ層を有するラベル11を接触させる溶液処理工程S71を含み、溶液処理工程S71前にインキ層を有するラベル11を予備加熱せずに、該ラベル11をインキ除去溶液80に接触させる。
【0072】
本実施形態に係るインキ層の除去方法では、水性インキ層を溶解または膨潤させる成分と油性インキ層を溶解または膨潤させる成分との両成分をインキ除去溶液80が含む。このため、溶液処理工程S71にて、水性インキ層および油性インキ層を同時に溶解または膨潤させて、ラベル11からインキ層を脱離除去することが可能となる。
【0073】
また、本実施形態に係るインキ層の除去方法では、溶液処理工程S71前にインキ層を有するラベル11を予備加熱せずに、溶液処理工程S71にてインキ除去溶液80に接触させることで、インキ層を溶解または膨潤させる。このため、従来、インキ層の脱離前に行っていた予備加熱工程を省略することができ、工程数および予備加熱に要する消費エネルギーを低減することができる。
【0074】
さらに、本実施形態に係るインキ層の除去方法は、シュリンクラベル以外の巻付けラベルおよびストレッチラベル等の各種ラベルにも適用可能であり、各種ラベルから水性インキ層および油性インキ層を除去することができる。このため、例えば、水性インキ層を有するラベルと油性インキ層を有するラベルとを分けて処理する必要性がなく、これらのラベルが混在したラベル群からインキ層を除去することができる。
【0075】
従って、本実施形態によれば、ラベル11から水性インキ層および油性インキ層を効率的に除去することができるインキ層の除去方法を実現することができる。
【0076】
なお、本実施形態に係るインキ層の除去方法によれば、予備加熱工程を省略することが可能であり、予備加熱に要する消費エネルギーを低減することができる。また、従来、主にサーマルリサイクルに供されていたラベルの効率的なリサイクルが可能となる。これにより、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献することができる。
【実施例0077】
本発明の一実施例について以下に説明する。本実施例では、本発明に係るインキ層の除去方法によるインキ層の除去率について検証を行った。
【0078】
まず、厚さ50μmのPET系シュリンクフィルム(三菱ケミカル株式会社製ヒシペット(登録商標)LX-18S)の原反を用いて、厚さ50μm×高さ(幅)15cm×長さ(円周)24cmのシュリンクフィルムを準備した。このシュリンクフィルムに、水性インキを用いて第1インキ層、第2インキ層および第3インキ層をこの順で積層し、水性インキ層を有する筒状のシュリンクラベル(ラベル11)を作製した。また、同じシュリンクフィルムに、油性インキを用いて第1インキ層、第2インキ層および第3インキ層をこの順で積層し、油性インキ層を有する筒状のシュリンクラベル(ラベル11)を作製した。
【0079】
次に、水性インキ層を有するシュリンクラベルおよび油性インキ層を有するシュリンクラベルを外径54mmの筒状のPETボトルに個別に被覆させた状態で熱収縮させて、シュリンクラベル付きPETボトルを作製した。この時のシュリンクラベルの収縮率は30%程度であり、装着後のシュリンクラベルの面積は、装着前のシュリンクラベルの面積の70%程度であった。そして、シュリンクラベルをPETボトルから剥がし、PETボトルとシュリンクラベルとに分離した(分離工程S4)。
【0080】
次に、PETボトルから剥がしたシュリンクラベルを破砕して、長さ40mm×幅40mmの略正方形状のシュリンクラベル片(ラベル片71)を作製した(破砕工程S6)。
【0081】
次に、溶液槽82中のインキ除去溶液80にシュリンクラベル片を投入して室温(27℃)で10分程度静かに浸漬した(溶液処理工程S71)。溶液槽82には、500mlのビーカーを用いた。インキ除去溶液80は、水性インキ除去剤(製品名「換気扇レンジクリーナーPRO」)30mlと、油性インキ除去剤(製品名「PAINTSOLV-W」)270mlとを溶液槽82に入れ、混合することで作製した。
【0082】
次に、溶液槽82から取り出したシュリンクラベル片を水槽86中の300mlの水84に浸漬させながら、マグネットスターラーを用いて200rpmで5分間撹拌した(水処理工程S72)。水槽86には、500mlのビーカーを用いた。
【0083】
次に、相対的に大きな開口を有する第1の網90を用いて水槽86からシュリンクラベル片を捕集し、各シュリンクラベル片に残存するインキ層を確認した。その結果、各シュリンクラベル片において水性インキ層および油性インキ層の双方とも70%以上100%以下の範囲で除去されていた。
【0084】
本実施例により、本発明に係るインキ層の除去方法によれば、予備加熱を行わずに、シュリンクラベルの水性インキ層および油性インキ層を効率的に除去できることが確認された。
【0085】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0086】
11,11a、11b:ラベル、
80:インキ除去溶液
84:水
S71:溶液処理工程
S72:水処理工程
図1